(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】情報生成装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
G08G1/00 J
(21)【出願番号】P 2017206008
(22)【出願日】2017-10-25
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【氏名又は名称】安田 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】山内 淑久
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 陽介
(72)【発明者】
【氏名】織田 穣
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 広樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 丈晴
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-186727(JP,A)
【文献】特開2012-128734(JP,A)
【文献】特開2010-211613(JP,A)
【文献】特開2004-295354(JP,A)
【文献】特開2008-234414(JP,A)
【文献】特開2016-181239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象地点を含む道路上の領域における道路交通状況を再現するためのシミュレーションモデルであるテストケースを生成する情報生成装置であって、
路側に設けられた感知器によって検出された前記領域に存在する移動体に関する情報である複数の移動体情報を記憶する第1記憶部と、
前記複数の移動体情報に基づいて、前記領域に存在する移動体が事故の発生につながる挙動を示すインシデントが発生したか否かを判定する判定部と、
前記複数の移動体情報から、前記インシデントの発生時点を含む所定の時間帯である対象期間の移動体情報を対象情報として抽出する抽出部と、
前記対象情報に基づいて、前記インシデントの発生時の前記テストケースを生成する生成部と、を備え
、
前記複数の移動体情報のそれぞれは、前記移動体の種別を示す種別情報と、前記移動体の位置を示す位置情報と、を含む、情報生成装置。
【請求項2】
複数の気象情報を記憶する第2記憶部をさらに備え、
前記複数の気象情報のそれぞれは、前記領域における気象に関する情報であり、
前記抽出部は、前記複数の気象情報から、前記対象期間の気象情報を前記対象情報としてさらに抽出する、請求項1に記載の情報生成装置。
【請求項3】
前記感知器は、レーザレーダである、請求項1
又は請求項2に記載の情報生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動運転技術の開発が進められている。自動運転技術の開発には、様々な道路交通状況に関するユースケースをモデル化したテストケースが必要である。従来、交通事故総合分析センター(ITARDA;Institute for Traffic Accident Research and Data Analysis)等による事故の調査結果を元に、事故に至るまでの関係者(車両、及び歩行者等)の挙動を仮定して、テストケースが生成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のテストケースの生成では、事故の調査結果から車両等の挙動が仮定されているので、実環境を十分に再現することはできない。また、事故に至らなかった事例は記録には残らないので、このような事例のテストケースを作成することができない。また、特許文献1に記載されているように、道路に設置された感知器の検知信号に基づいて、交通事故及び崖崩れ等の突発事象が発生したか否かを判定することは行われているものの、突発事象を再現するテストケースの生成は行われていない。
【0005】
本開示は、実環境を再現した道路交通状況のテストケースを提供可能な情報生成装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る情報生成装置は、対象地点を含む道路上の領域における道路交通状況を再現するためのシミュレーションモデルであるテストケースを生成する装置である。この情報生成装置は、路側に設けられた感知器によって検出された領域に存在する移動体に関する情報である複数の移動体情報を記憶する第1記憶部と、複数の移動体情報に基づいて、領域に存在する移動体が事故の発生につながる挙動を示すインシデントが発生したか否かを判定する判定部と、複数の移動体情報から、インシデントの発生時点を含む所定の時間帯である対象期間の移動体情報を対象情報として抽出する抽出部と、対象情報に基づいて、インシデントの発生時のテストケースを生成する生成部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、実環境を再現した道路交通状況のテストケースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る情報生成装置を含む情報生成システムの機能ブロック図である。
【
図2】
図2は、対象地点を含む領域の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、情報生成装置のハードウェア構成図である。
【
図4】
図4は、情報生成装置が行う情報生成方法の一連の処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、情報生成装置によって生成されたテストケースの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]実施形態の概要
本開示の一側面に係る情報生成装置は、対象地点を含む道路上の領域における道路交通状況を再現するためのシミュレーションモデルであるテストケースを生成する装置である。この情報生成装置は、路側に設けられた感知器によって検出された領域に存在する移動体に関する情報である複数の移動体情報を記憶する第1記憶部と、複数の移動体情報に基づいて、領域に存在する移動体が事故の発生につながる挙動を示すインシデントが発生したか否かを判定する判定部と、複数の移動体情報から、インシデントの発生時点を含む所定の時間帯である対象期間の移動体情報を対象情報として抽出する抽出部と、対象情報に基づいて、インシデントの発生時のテストケースを生成する生成部と、を備える。
【0010】
この情報生成装置では、路側に設けられた感知器によって検出された移動体に関する移動体情報に基づいて、道路上の移動体が事故の発生につながる挙動を示すインシデントが発生したか否かが判定され、インシデント発生時の道路交通状況を再現するためのテストケースが生成される。テストケースは、インシデントの発生時点を含む所定の対象期間の移動体情報に基づいて生成されるので、インシデント発生時における実際の道路交通状況の再現性を高めることができる。その結果、実環境を再現した道路交通状況のテストケースを提供することが可能となる。
【0011】
複数の移動体情報のそれぞれは、移動体の種別を示す種別情報と、移動体の位置を示す位置情報と、を含んでもよい。移動体の種別に応じて、インシデントが発生したか否かを判定するための判定基準が異なる場合がある。このため、移動体の種別と位置とを用いることで、インシデントが発生したか否かの判定精度を向上させることができる。
【0012】
情報生成装置は、複数の気象情報を記憶する第2記憶部をさらに備えてもよい。複数の気象情報のそれぞれは、領域における気象に関する情報であり、抽出部は、複数の気象情報から、対象期間の気象情報を対象情報としてさらに抽出してもよい。この場合、インシデント発生時における気象の影響を考慮したテストケースを生成することができるので、実際の道路交通状況の再現性をさらに高めることが可能となる。
【0013】
感知器は、レーザレーダであってもよい。レーザレーダの検出精度は、カメラ及びミリ波レーダ等の検出精度よりも高いので、インシデント発生時における実際の道路交通状況の再現性をさらに高めることが可能となる。
【0014】
[2]実施形態の例示
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、一実施形態に係る情報生成装置を含む情報生成システムの機能ブロック図である。
図2は、対象地点を含む領域の一例を示す図である。
図1に示される情報生成システム1は、テストケースを生成するシステムである。テストケースは、対象となる道路上の領域A(
図2参照)における道路交通状況を再現するためのシミュレーションモデルである。領域Aは、再現対象となる道路上の領域であって、対象地点を含む所定の範囲である。対象地点としては、例えば、交差点、T字路、及び合流地点等の事故が発生しやすい地点が挙げられる。テストケースは、HILS(Hardware In the Loop Simulator)等のシミュレータに用いられる。情報生成システム1は、感知器2と、気象計3と、テストケースDB4と、情報生成装置10と、を備える。
【0016】
感知器2は、領域Aに存在する移動体をリアルタイムに感知(検出)する装置である。感知器2は、レーザレーダ(ライダー)である。感知器2として、ミリ波レーダ及びカメラ等が用いられてもよく、複数種類の感知器の組み合わせが用いられてもよい。感知器2は、領域Aに含まれる移動体の位置、及び当該移動体の種別を検出する。検出対象の移動体としては、車両、歩行者、及び二輪車等が挙げられる。移動体の位置及び種別の検出方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。感知器2は、移動体に関する移動体情報を生成し、移動体情報を情報生成装置10に送信する。感知器2は、例えば、柱状構造体6に設けられた無線機(不図示)を介して、移動体情報を情報生成装置10に送信する。
【0017】
移動体情報は、感知器2によって検出された領域Aに存在する移動体に関する情報である。移動体情報は、計測した時刻を示す時刻情報と、場所を一意に識別可能な場所ID(Identifier)と、移動体を一意に識別可能な移動体IDと、移動体の種別を示す種別情報と、移動体の位置を示す位置情報と、を含む。移動体情報は、移動体の大きさを示すサイズ情報、移動体の速度を示す速度情報、移動体の加速度を示す加速度情報、移動体の進行方向を示す進行方向情報をさらに含んでいてもよい。移動体の種別としては、車両、歩行者、及び二輪車等が挙げられる。移動体の位置は、例えば、交差点の中央を原点としたXY座標で表されてもよい。移動体の大きさは、例えば、長さ、幅、及び高さで表される。感知器2は、所定の時間間隔で移動体情報を生成する。
【0018】
図2に示されるように、感知器2は、対象地点である交差点P付近の路側に設けられる。具体的には、感知器2は、路側に設けられた柱状構造体6に設置されている。柱状構造体6は、例えば、路側に立設された支柱61と、支柱61の上端から道路を横断する方向に延びるアーム62と、を備えている。領域Aは、交差点Pと、感知器2が設けられている位置から交差点Pを挟んで延びる道路R1と、感知器2から見て右折方向の横断歩道Cと、を含む。交差点Pから4方向に延びる道路R1~R4の移動体の移動体情報を取得するために、各道路の路側に感知器2が設けられてもよい。
【0019】
なお、
図2に示されるように、対象地点が交差点である場合、感知器2は、右折車両、右折車両の対向車両、及び右折先の歩行者(自転車)を移動体として検出するが、これに限られない。感知器2は、左折車両、左折先の歩行者(自転車)、及び直進車両等の領域A内のすべての移動体を検出する。感知器2の感知領域は、領域Aを含んでいればよく、領域Aよりも広くてもよい。
【0020】
気象計3は、領域Aにおける気象をリアルタイムに観測するための装置である。気象計3は、対象地点付近の路側に設けられる。気象計3は、例えば、感知器2とともに柱状構造体6に設置される。気象計3は、例えば、気温、湿度、気圧、雨量、風速、風向、及び日射量を計測する。気象計3は、気象情報を生成し、気象情報を情報生成装置10に送信する。気象計3は、例えば、柱状構造体6に設けられた無線機(不図示)を介して、気象情報を情報生成装置10に送信する。気象情報は、領域Aにおける気象に関する情報である。気象情報は、計測した時刻を示す時刻情報と、場所を一意に識別可能な場所IDと、計測値と、を含む。気象計3は、所定の時間間隔で気象情報を生成する。
【0021】
テストケースDB4は、情報生成装置10によって生成されたテストケースを格納する。テストケースDB4に格納されているテストケースは、例えば、アクセス権限を有するユーザによって利用可能である。テストケースは、先進運転支援システム及び自動走行システムの開発に用いられ得る。
【0022】
情報生成装置10は、テストケースを生成する装置である。情報生成装置10は、移動体情報及び気象情報に基づいて、テストケースを生成する。情報生成装置10は、生成したテストケースをテストケースDB4に送信する。情報生成装置10は、例えば、コンピュータ等の情報処理装置によって構成される。
【0023】
図3は、情報生成装置のハードウェア構成図である。
図3に示されるように、情報生成装置10は、物理的には、1又は複数のプロセッサ101、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の主記憶装置102、ハードディスク装置等の補助記憶装置103、キーボード等の入力装置104、ディスプレイ等の出力装置105、並びに、データ送受信デバイスである通信装置106等のハードウェアを備えるコンピュータとして構成され得る。情報生成装置10の
図1に示される各機能は、主記憶装置102等のハードウェアに1又は複数の所定のコンピュータプログラムを読み込ませることにより、1又は複数のプロセッサ101の制御のもとで各ハードウェアを動作させるとともに、主記憶装置102及び補助記憶装置103におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0024】
情報生成装置10は、機能的には、移動体情報記憶部11(第1記憶部)と、気象情報記憶部12(第2記憶部)と、取得部13と、判定部14と、抽出部15と、解析DB16と、生成部17と、を備える。
【0025】
移動体情報記憶部11は、複数の移動体情報を格納する部分である。移動体情報記憶部11は、感知器2から移動体情報を受信するごとに、受信した移動体情報を追加する。気象情報記憶部12は、複数の気象情報を格納する部分である。気象情報記憶部12は、気象計3から気象情報を受信するごとに、受信した気象情報を追加する。
【0026】
取得部13は、移動体情報記憶部11に格納されている移動体情報を取得する部分である。取得部13は、例えば、指定された期間の移動体情報を取得する。取得部13は、取得した移動体情報を判定部14に出力する。
【0027】
判定部14は、取得部13によって取得された複数の移動体情報に基づいて、インシデントが発生したか否かを判定する部分である。インシデントは、領域Aに存在する移動体が事故の発生につながる挙動(事故を誘発する挙動)を示す事象である。事故の発生につながる挙動とは、事故に関連付けられた危険な挙動であり、一定以上の可能性で事故を発生させる挙動である。移動体が車両である場合には、事故の発生につながる挙動としては、例えば、急な加減速、速度超過、急な車線変更、及び他の車両との異常接近が挙げられる。移動体が歩行者である場合には、事故の発生につながる挙動としては、例えば、急な道路侵入、及び急停止が挙げられる。
【0028】
判定部14は、移動体の加減速と加減速の閾値(加減速閾値)とを比較することにより、急な加減速の有無を判定する。具体的には、判定部14は、移動体の加速度の絶対値(つまり、加速度又は減速度)が加減速閾値を超える場合に、移動体が急な加減速を行った(つまり、インシデントが発生した)と判定し、移動体の加速度の絶対値が加減速閾値以下である場合に、急な加減速を行っていない(つまり、インシデントが発生していない)と判定する。
【0029】
判定部14は、移動体の速度と速度の閾値(速度閾値)とを比較することにより、速度超過の有無を判定する。具体的には、判定部14は、移動体の速度が速度閾値を超える場合に、移動体が速度超過を行った(つまり、インシデントが発生した)と判定し、移動体の速度が速度閾値以下である場合に、移動体が速度超過を行っていない(つまり、インシデントが発生していない)と判定する。
【0030】
判定部14は、移動体間の距離と車間距離の閾値(距離閾値)とを比較することにより、異常接近の有無を判定する。具体的には、判定部14は、移動体間の距離が距離閾値未満である場合に、2つの移動体が異常接近した(つまり、インシデントが発生した)と判定し、移動体間の距離が距離閾値以上である場合に、2つの移動体が異常接近していない(つまり、インシデントが発生していない)と判定する。
【0031】
判定部14は、移動体の加速度及び位置に基づいて、道路内で急に停止したか否かを判定する。判定部14は、移動体の位置の変化に基づいて、急な車線変更の有無、及び急な侵入を判定する。判定部14は、領域Aに存在する各移動体が現在の状態(相対速度)を維持したと仮定した場合に、移動体同士が衝突する(又は衝突しそうな程度に近づく)までの時間である衝突余裕時間(TTC:Time To Collision)を計算し、衝突余裕時間とTTC閾値とを比較することによって、インシデントが発生したか否かを判定してもよい。
【0032】
判定部14は、いずれかのインシデントが発生したと判定すると、インシデントの発生時刻を抽出部15に出力する。
【0033】
抽出部15は、移動体情報記憶部11に格納されている複数の移動体情報から、対象期間の移動体情報を対象情報として抽出する部分である。対象期間は、インシデントの発生時点(発生時刻)を含む所定の時間帯である。対象期間は、例えば、インシデントの発生時刻の前後数十秒程度である。対象期間は、対象地点に信号機が設けられている場合、信号機の数サイクル分の期間であってもよい。信号機の1サイクルは、信号機が進行許可(青)になってから次の進行許可になるまでの期間である。抽出部15は、気象情報記憶部12に格納されている複数の気象情報から、対象期間の気象情報を対象情報としてさらに抽出する。抽出部15は、対象情報を解析DB16に出力する。対象情報は、例えば、CSV(Comma Separated Value)形式のデータである。
【0034】
解析DB16は、抽出部15によって抽出された対象情報を格納する。
【0035】
生成部17は、解析DB16に格納されている対象情報に基づいて、インシデント発生時のテストケースを生成する部分である。テストケースは、環境モデルと、気象モデルと、交通流モデルと、を含む。
【0036】
環境モデルは、領域A及び領域Aの周辺環境を再現するためのシミュレーションモデルである。環境モデルは、道路環境モデルと、周辺環境モデルと、を含む。道路環境モデルは、車線、車線幅、勾配、中央分離帯、歩道、信号機、及び交通看板等の道路環境を再現するためのシミュレーションモデルである。周辺環境モデルは、建物、及び街路樹等の周辺環境を再現するためのシミュレーションモデルである。環境モデルは、対象情報に含まれる移動体情報に基づいて生成されてもよく、現地調査又は地図情報に基づいて予め設定されてもよい。環境モデルは、2次元又は3次元で領域A及び領域Aの周辺環境を再現する。
【0037】
気象モデルは、インシデント発生時の領域Aにおける気象を再現するためのシミュレーションモデルである。生成部17は、対象情報に含まれる気象情報に基づいて、気象モデルを生成する。気象モデルによって、気温、湿度、気圧、雨量、風速、風向、及び日射量等の車載センサ又は車両の挙動に影響を与える要素が再現可能となる。例えば、路面の滑り具合(路面の濡れ状況)、運転者の視界、昼夜、天候、及び車体が受ける風圧等が再現され得る。路面の滑り具合は、路面の種別及び気象情報から摩擦係数が計算されることで、生成され得る。
【0038】
交通流モデルは、インシデント発生時の領域Aにおける交通流を再現するためのシミュレーションモデルである。生成部17は、対象情報に含まれる移動体情報に基づいて、交通流モデルを生成する。例えば、各移動体の大きさ、位置、速度、加速度、及び進行方向等が再現され得る。生成部17は、生成したテストケースをテストケースDB4に送信する。
【0039】
なお、生成部17は、対象情報からインシデントに直接関係の無いデータを除いて、テストケースを生成してもよい。テストケースは、領域Aにおける道路交通情報を可視化するための可視化情報であってもよく、例えば、HILS等のシミュレーションツールで利用可能な3次元動画モデルであってもよい。テストケースの形式は、テストケースDB4のユーザの要望に応じて、適宜変更され得る。例えば、テストケースは、対象情報そのものであってもよい。
【0040】
次に、情報生成装置10が行う情報生成方法について説明する。
図4は、情報生成装置が行う情報生成方法の一連の処理を示すフローチャートである。
図4に示される一連の処理は、例えば、一定の時間ごとに実施される。
図4に示される一連の処理は、情報生成装置10のユーザによって、テストケースの生成指示が行われたタイミングで実施されてもよい。
【0041】
まず、ユーザによってインシデント条件が指定され、判定部14が、指定されたインシデント条件を設定する(ステップS11)。インシデント条件は、インシデントが発生したか否かを判定するための条件である。インシデント条件は、移動体の種別ごとに指定(設定)される。指定可能なインシデント条件のうち少なくとも1つが指定される。インシデント条件としては、例えば、加減速閾値、速度閾値、距離閾値、及びTTC閾値が挙げられる。
【0042】
続いて、取得部13は、移動体情報記憶部11から移動体情報を取得する(ステップS12)。そして、取得部13は、取得した移動体情報を判定部14に出力する。
【0043】
続いて、判定部14は、取得部13によって取得された移動体情報を用いて、インシデントが発生したか否かを判定する(ステップS13)。判定部14は、例えば、取得部13によって取得された移動体情報から、古い順に一定期間の移動体情報を用いてインシデントが発生したか否かを判定する。判定部14は、設定されたインシデント条件を用いてインシデントが発生したか否かを判定する。
【0044】
ステップS13において、判定部14は、インシデントが発生したと判定した場合(ステップS13:YES)、インシデントが発生した時刻を抽出部15に出力する。そして、抽出部15は、インシデントの発生時刻に基づいて対象情報を抽出する(ステップS14)。具体的には、抽出部15は、移動体情報記憶部11に格納されている複数の移動体情報から、インシデントの発生時刻を含む対象期間の移動体情報を抽出するとともに、気象情報記憶部12に格納されている複数の気象情報から、同対象期間の気象情報を抽出する。そして、抽出部15は、抽出した移動体情報及び気象情報を対象情報として、対象情報を解析DB16に出力し、対象情報を解析DB16に格納する。
【0045】
続いて、生成部17は、解析DB16に格納されている対象情報に基づいて、テストケースを生成する(ステップS15)。具体的には、生成部17は、対象情報に含まれる移動体情報に基づいて、交通流モデルを生成する。また、生成部17は、対象情報に含まれる気象情報に基づいて、気象モデルを生成する。そして、生成部17は、生成した交通流モデル及び気象モデルを、予め準備されている環境モデルと合わせてテストケースとし、テストケースをテストケースDB4に送信する。続いて、判定部14は、すべての移動体情報について、インシデント発生の有無を確認したか否かを判定する(ステップS16)。
【0046】
一方、ステップS13において、判定部14は、インシデントが発生していないと判定した場合(ステップS13:NO)、ステップS14及びステップS15の処理は省略され、ステップS16の処理が行われる。
【0047】
ステップS16において、判定部14が未確認の移動体情報があると判定した場合(ステップS16:NO)には、次の一定期間の移動体情報を用いてステップS13~ステップS16の処理が繰り返される。一方、ステップS16において、判定部14がすべての移動体情報を確認したと判定した場合(ステップS16:YES)には、情報生成方法の一連の処理が終了する。
【0048】
次に、情報生成装置10によって生成されたテストケースの一例を説明する。
図5は、情報生成装置によって生成されたテストケースの一例を示す図である。
図5に示される例では、各移動体の動きがプロットで示されている。対象地点は交差点であり、交差点の中心がXY座標の原点に設定されている。X軸は、感知器2から見て左右方向を示しており、Y軸は、感知器2から見て直進方向を示している。
図5の横軸は、移動体のX軸方向における中点(中心)のX座標であるX中点を示し、単位はメートル(m)である。
図5の縦軸は、移動体のY軸方向における中点(中心)のY座標であるY中点を示し、単位はメートル(m)である。
【0049】
このテストケースの開始時には、車両M1が右折待ちしており、車両M2が車両M1と反対側の右折待ちレーンで右折待ちをしている。そして、車両M3が右折待ちレーンを進み、車両M2の後ろで停止する。その後、車両M4が直進レーンを直進し、その後ろから、車両M5が二車線変更しながら左折する。さらに、車両M6が直進レーンから右折待ちレーンに曲がろうとする。このとき、車両M1は、車両M6が右折待ちレーンに進むと考え、右折を開始するが、車両M6は、直進レーンに戻って直進する。その結果、車両M1と車両M6とが衝突しそうになるインシデントが発生する。また、インシデント発生時に右折先の横断歩道を歩行者Hが横断している。
【0050】
このように、テストケースによれば、インシデント発生前後において、急な進路変更があったか否か、右折先に歩行者が存在したか否か、及び車両の速度といった道路交通状況が再現される。また、インシデント発生前後における天候及び気温等も再現される。
【0051】
以上説明したように、情報生成装置10では、路側に設けられた感知器2によって検出された移動体に関する移動体情報に基づいて、インシデントが発生したか否かが判定され、インシデント発生時の領域Aにおける道路交通状況を再現するためのテストケースが生成される。テストケースは、インシデントの発生時点を含む所定の対象期間の移動体情報に基づいて生成されるので、インシデント発生時における実際の道路交通状況の再現性を高めることができる。その結果、実環境を再現した道路交通状況のテストケースを提供することが可能となる。
【0052】
例えば、歩行者が道路上の横断歩道以外の領域に侵入した場合に、インシデントが発生したと判定され得る。一方、車両が道路上に侵入したとしても、インシデントが発生したとは判定されない。このように、移動体の種別に応じて、インシデントが発生したか否かを判定するための判定基準が異なる場合がある。このため、移動体の種別と位置とを用いることで、インシデントが発生したか否かの判定精度を向上させることができる。
【0053】
対象情報は、対象期間の気象情報を含んでいるので、テストケースは、インシデントの発生時点を含む対象期間の気象情報にさらに基づいて生成される。気温、湿度、気圧、雨量、風速、風向、及び日射量等は、例えば、車載センサの挙動、車両の挙動、及び運転者の視界に影響を与え得る。また、雨量等は、例えば、路面の滑りやすさに影響を与え得る。このため、気象情報を用いてテストケースを生成することで、インシデント発生時における気象の影響を考慮したテストケースを生成することができる。その結果、実際の道路交通状況の再現性をさらに高めることが可能となる。
【0054】
自動運転技術では、例えば、左側走行の場合に、交差点で車両が右折する(右側走行の場合には左折)際の信頼性が求められる。車両の自動走行システム(電子制御装置:ECU)の信頼性を評価するために、あらゆるシーンを想定した交差点の道路交通状況を再現するテストケースが必要となる。特に、事故が発生した時の道路交通状況、及び事故には至らなかったものの事故が起こりかけた時(いわゆるヒヤリハット)の道路交通状況が重要である。情報生成装置10では、事故の発生につながる挙動を道路上の移動体が示した場合に、インシデントが発生したと判定される。このため、事故が発生した時の道路交通状況だけでなく、事故には至らなかったものの事故が起こりかけた時の道路交通状況のテストケースを提供することが可能となる。
【0055】
上記実施形態では、感知器2は、レーザレーダである。レーザレーダの検出精度は、カメラ及びミリ波レーダ等の検出精度よりも高いので、インシデント発生時における実際の道路交通状況の再現性をさらに高めることが可能となる。
【0056】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0057】
例えば、上記実施形態では、情報生成装置10は、1つの装置として構成されているが、2以上の装置で構成されてもよい。
【0058】
感知器2によって検出される移動体情報には、移動体の速度情報及び加速度情報が含まれていなくてもよい。この場合、判定部14は、移動体の位置情報から移動体の速度及び加速度を計算してもよい。
【0059】
取得部13は、指定された期間の移動体情報とともに、同期間の気象情報を取得してもよい。この場合、判定部14は、取得部13によって取得された複数の移動体情報及び複数の気象情報に基づいて、インシデントが発生したか否かを判定してもよい。
【0060】
判定部14は、機械学習を用いて、インシデントが発生したか否かを判定してもよい。判定部14は、移動体の移動体情報のうち、速度情報又は加速度情報のいずれかを用いてインシデントが発生したか否かを判定してもよい。
【0061】
抽出部15は、対象地点に信号機が設けられている場合に、対象期間の信号機情報を対象情報としてさらに抽出してもよい。信号機情報は、信号機の状態(進行許可、停止、及び注意)を示す情報である。この場合、インシデント発生時における信号機の状態を再現したテストケースを生成することができるので、実際の道路交通状況の再現性をさらに高めることが可能となる。
【0062】
抽出部15は、対象期間の気象情報を抽出しなくてもよい。この場合、気象計3及び気象情報記憶部12が省略され得るので、情報生成システム1及び情報生成装置10を小型化することが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1 情報生成システム
2 感知器
3 気象計
4 テストケースDB
6 柱状構造体
10 情報生成装置
11 移動体情報記憶部(第1記憶部)
12 気象情報記憶部(第2記憶部)
13 取得部
14 判定部
15 抽出部
16 解析DB
17 生成部
61 支柱
62 アーム