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特許7043794ヒートシンク付パワーモジュール用基板およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】ヒートシンク付パワーモジュール用基板およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220323BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20220323BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20220323BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20220323BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20220323BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 C
H01L23/12 J
H01L25/04 C
H05K7/20 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017213917
(22)【出願日】2017-11-06
(65)【公開番号】P2019087607
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 和彦
(72)【発明者】
【氏名】増山 弘太郎
(72)【発明者】
【氏名】沼 達也
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅之
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-335652(JP,A)
【文献】特開2017-084921(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029511(WO,A1)
【文献】特開2013-125779(JP,A)
【文献】特開2015-115521(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034306(WO,A1)
【文献】特開2013-182901(JP,A)
【文献】特開平9-162336(JP,A)
【文献】特開2008-198706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 23/13
H01L 23/12
H01L 25/07
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、該絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁基板の他方の面に形成された金属層とを備えたパワーモジュール用基板と、前記パワーモジュール用基板の前記金属層の前記絶縁基板とは反対側の面に接合層を介して接合された天板部を有するヒートシンクとを備えてなるヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、
前記金属層が、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板、あるいは銅又は銅合金からなる銅板で構成され、前記絶縁基板側とは反対側の面に銀めっき層又は金めっき層が形成されていて、
前記ヒートシンクが、アルミニウム又はアルミニウム合金あるいは銅又は銅合金から構成され、前記天板部の表面は、銀めっき層又は金めっき層が設けられていて、
前記接合層は、銀粒子の焼結体であって、相対密度が60%以上90%以下の範囲内にある多孔質体であり、厚さが10μm以上500μm以下の範囲内にあることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記金属層が、前記アルミニウム板で構成され、前記アルミニウム板の前記絶縁基板とは反対側の面に銀めっき層又は金めっき層が形成されていることを特徴とする請求項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項3】
請求項1に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、
絶縁基板と、該絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁基板の他方の面に形成された金属層とを備えたパワーモジュール用基板の前記金属層の前記絶縁基板とは反対側の面および前記ヒートシンクの前記天板部のうちの少なくとも一方の表面に、平均粒径が0.1μm以上1μm以下の範囲内にある銀粒子を70質量%以上95質量%以下の範囲内の量にて含むペースト状接合材組成物の層を形成するペースト状接合材組成物層形成工程と、
前記パワーモジュール用基板の前記金属層と前記ヒートシンクの前記天板部とを、前記ペースト状接合材組成物の層を介して積層する積層工程と、
積層された前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを、積層方向に1MPa以下の圧力下で、150℃以上300℃以下の温度にて加熱する加熱工程と、
を備えることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバータ等に用いられるパワー半導体素子は、作動時の発熱量が大きい。このため、パワー半導体素子を実装する基板としては、高耐熱性のセラミックスからなる絶縁基板と、この絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、絶縁基板の他方の面に形成された金属層とを備えたパワーモジュール用基板が用いられる。このパワーモジュール用基板では、回路層にパワー半導体素子を実装し、金属層に熱伝導材を介してヒートシンクを接触させて、パワー半導体素子にて発生した熱をヒートシンクにて放熱させることが行なわれている。熱伝導材としては、熱伝導性が高いグリースが広く利用されている。このグリースを介して、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを接触させた場合、パワー半導体素子のON/OFFなどによって引き起される冷熱サイクルによって、パワーモジュール用基板に反りが発生すると、パワーモジュール用基板とグリースとの間に隙間が生じ、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの間の熱伝導性が低下するおそれがあった。
【0003】
このため、パワーモジュール用基板の金属層とヒートシンクとを、はんだ材を用いて直接接合することが検討されている。特許文献1には、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを、Sn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系等の各種はんだ材を用いて接合したヒートシンク付パワーモジュール用基板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-222788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パワーモジュール用基板とヒートシンクをはんだ材を用いて接合した従来のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、長期間にわたって冷熱サイクルが負荷されると、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの間の線膨張係数の差によって生じる内部応力により、はんだ材が破損して、パワーモジュール用基板とはんだ材との間の熱伝導性が部分的に低下することがあった。この部分的な熱伝導性の低下が生じると、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの間の熱抵抗が増加し、パワーモジュール用基板内に熱が蓄積され易くなり、また半導体素子の温度が増大して、パワーモジュール用基板へ損傷を与え、絶縁基板の割れを発生させる可能性があった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、冷熱サイクルの負荷による熱抵抗の増加や絶縁基板の割れの発生を長期間にわたって抑制できるヒートシンク付パワーモジュール用基板およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、絶縁基板と、該絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁基板の他方の面に形成された金属層とを備えたパワーモジュール用基板と、前記パワーモジュール用基板の前記金属層の前記絶縁基板とは反対側の面に接合層を介して接合された天板部を有するヒートシンクとを備えてなるヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、前記金属層は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板、あるいは銅又は銅合金からなる銅板で構成され、前記絶縁基板側とは反対側の面に銀めっき層又は金めっき層が形成されていて、前記ヒートシンクは、アルミニウム又はアルミニウム合金あるいは銅又は銅合金から構成され、前記天板部の表面は、銀めっき層又は金めっき層が設けられていて、前記接合層は、銀粒子の焼結体であって、相対密度が60%以上90%以下の範囲内にある多孔質体であり、厚さが10μm以上500μm以下の範囲内にあることを特徴としている。
【0008】
このような構成とされた本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板によれば、接合層は、銀粒子の焼結体で構成されているので、融点が高く、溶融しにくい。また、接合層を構成する銀粒子の焼結体は、相対密度が60%以上90%以下の範囲内にある多孔質体で、かつ厚さが10μm以上500μm以下の範囲内とされているので、冷熱サイクル負荷時に、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの間の線膨張係数の差によって生じる内部応力が緩和され、接合層が破損しにくくなる。よって、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、冷熱サイクルの負荷による熱抵抗の増加や絶縁基板の割れの発生を長期間にわたって抑制することができる。
【0009】
また、金属層が、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板、あるいは銅又は銅合金からなる銅板で構成されているので、熱導電性が高く、回路層に実装された半導体素子にて発生した熱を効率よくヒートシンクに伝達させることができる。
【0010】
また、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板において、前記金属層が、前記アルミニウム板で構成されている場合は、前記アルミニウム板の前記絶縁基板とは反対側の面に銀めっき層又は金めっき層が形成されていることが好ましい。
この場合、アルミニウム板(金属層)の絶縁基板とは反対側の面には銀めっき層又は金めっき層が形成されているので、金属層と接合層(銀粒子の焼結体)との接合力が高くなる。
【0011】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、上述のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、絶縁基板と、該絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁基板の他方の面に形成された金属層とを備えたパワーモジュール用基板の前記金属層の前記絶縁基板とは反対側の面および前記ヒートシンクの前記天板部のうちの少なくとも一方の表面に、平均粒径が0.1μm以上1μm以下の範囲内にある銀粒子を70質量%以上95質量%以下の範囲内の量にて含むペースト状接合材組成物の層を形成するペースト状接合材組成物層形成工程と、前記パワーモジュール用基板の前記金属層と前記ヒートシンクの前記天板部とを、前記ペースト状接合材組成物の層を介して積層する積層工程と、積層された前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを、積層方向に1MPa以下の圧力下で、150℃以上300℃以下の温度にて加熱する加熱工程と、を備えることを特徴としている。
【0012】
このような構成とされた本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法によれば、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを、平均粒径が0.1μm以上1μm以下の範囲内にある銀粒子を70質量%以上95質量%以下の範囲内の量にて含むペースト状接合材組成物の層を介して積層した積層体を、積層方向に1MPa以下の圧力下で、150℃以上300℃以下の温度にて加熱するので、銀粒子を過剰に緻密化させずに、かつ確実に焼結させることができる。これにより、パワーモジュール用基板の金属層とヒートシンクとの間に、銀粒子の焼結体であって相対密度が60%以上90%以下の範囲内にある多孔質体である接合層を生成させることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冷熱サイクルの負荷による熱抵抗の増加や絶縁基板の割れの発生を長期間にわたって抑制できるヒートシンク付パワーモジュール用基板およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
図2】本発明の一実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。
図3】本発明例9で製造したヒートシンク付パワーモジュール用基板の接合層の断面SEM写真である。
図4】本発明例17で製造したヒートシンク付パワーモジュール用基板の接合層の断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1は、発明の一実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
図1において、パワーモジュール1は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板10と、ヒートシンク付パワーモジュール用基板10の一方側(図1において上側)の面にはんだ層2を介して接合された半導体素子3とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材(いわゆる無鉛はんだ材)とされている。
【0016】
ヒートシンク付パワーモジュール用基板10は、パワーモジュール用基板20と接合層30を介して接合されているヒートシンク40と、を備えている。
【0017】
パワーモジュール用基板20は、絶縁基板21と、絶縁基板21の一方の面に形成された回路層22と、絶縁基板21の他方の面に形成された金属層23とを有する。
【0018】
絶縁基板21は、回路層22と金属層23との間の電気的接続を防止するものであって、例えばAlN(窒化アルミニウム)、Si(窒化珪素)、Al(アルミナ)等の絶縁性の高いセラミックスで構成されている。また、絶縁基板21の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.635mmに設定されている。
【0019】
回路層22は、絶縁基板21の一方の面(図1において上面)に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板、あるいは銅又は銅合金からなる銅板が接合されることにより構成されている。アルミニウム板としては、純度99質量%以上のアルミニウム(A1050、A1080等)および純度99.99質量%以上の高純度アルミニウム(4N-Al)を用いることができる。銅板としては、無酸素銅および純度99.9999質量%以上の高純度銅(6N-Cu)を用いることができる。回路層22の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。また、この回路層22には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面22Aとされている。なお、本実施形態では、回路層22の搭載面22Aとはんだ層2との間に、ニッケルめっき層(図示なし)が設けられていてもよい。
【0020】
金属層23は、絶縁基板21の他方の面(図1において下面)に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板、あるいは銅又は銅合金からなる銅板が接合されることにより構成されている。アルミニウム板としては、純度99質量%以上のアルミニウム(A1050、A1080等)および純度99.99質量%以上の高純度アルミニウム(4N-Al)を用いることができる。銅板としては、無酸素銅および純度99.9999質量%以上の高純度銅(6N-Cu)を用いることができる。金属層23の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。
【0021】
本実施形態では、金属層23の絶縁基板21側とは反対側の面が、接合層30を介してヒートシンク40が接合される接合面23Aとされている。なお、金属層23がアルミニウム板で構成されている場合は、接合面23Aに銀めっき層又は金めっき層(図示なし)が設けられていることが好ましい。銀めっき層又は金めっき層を設けることによって、金属層23と接合層30との間の接合力が強くなり、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の信頼性をさらに向上させることができる。銀めっき層及び金めっき層の暑さは0.05μm以上1μm以下の範囲内にあることが好ましい。なお、金属層23が銅板で構成されている場合でも、接合面23Aに銀めっき層又は金めっき層を設けてもよい。
【0022】
ヒートシンク40は、前述のパワーモジュール用基板20を冷却するためのものである。ヒートシンク40は、その一方の面(図1において上面)が、パワーモジュール用基板20の金属層23と接合層30を介して接合される天板部41とされている。ヒートシンク40の内部には、冷却媒体が流通する流路42が備えられている。なお、流路42を設ける代わりに、ヒートシンク40の天板部41以外の面をフィン構造としてもよい。
【0023】
ヒートシンク40は、アルミニウム又はアルミニウム合金あるいは銅又は銅合金から構成されている。本実施形態では、ヒートシンク40は、アルミニウム合金から構成されている。アルミニウム合金としては、A3003合金、A1100合金、A3003合金、A5052合金、A7N01合金、A6063合金を用いることができる。ヒートシンク40の天板部41の表面は、銀めっき層又は金めっき層(図示なし)が設けられていてもよい。銀めっき層又は金めっき層を設けることによって、ヒートシンク40と接合層30との間の接合力が強くなり、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の信頼性をさらに向上させることができる。
【0024】
接合層30は、銀粒子の焼結体で構成されている。微細な銀粒子は比較的低温で焼結するが、その銀粒子の焼結体は熱的な安定性が向上し、通常のパワー半導体素子で発生する熱では溶融しない。また、接合層30を構成する銀粒子の焼結体は、多数の気孔を有する多孔質体であり、相対密度が60%以上90%以下の範囲内、好ましくは62%以上88%以下の範囲内にある。この接合層30内の気孔によって、接合層30は、バルクの銀に比べて弾性率が低くなり、冷熱サイクル負荷時に、パワーモジュール用基板20とヒートシンク40との間の線膨張係数の差によって生じる内部応力が緩和される。このため、接合層30は、冷熱サイクル負荷時に破損しにくくなる。相対密度が60%未満であると、焼結体である接合層30の機械強度が低下し、冷熱サイクル負荷時に、接合層30に破損が生じるおそれがある。一方、相対密度が90%を超えると、接合層30の弾性率がバルクの銀と同程度になり、冷熱サイクル負荷時の接合層30による内部応力の緩和機能が低下するおそれがある。なお、接合層30の相対密度は、銀の真密度に対する接合層30の密度(実測値)の百分率である。
【0025】
接合層30は、厚さが10μm以上500μm以下の範囲内とされている。接合層30の厚さが10μm未満であると、冷熱サイクル負荷時の接合層30内の内部応力の緩和能力が低下し、接合層30に破損が生じるおそれがある。一方、接合層30の厚さが500μmを超えると、接合層30の機械強度が低下して、冷熱サイクル負荷時に接合層30に破損が生じるおそれがある。
【0026】
次に、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について、図2を参照して説明する。
図2は、本発明の一実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。本発実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、ペースト状接合材組成物層形成工程S01と、積層工程S02と、加熱工程S03と、を備える。
【0027】
(ペースト状接合材組成物層形成工程S01)
ペースト状接合材組成物層形成工程S01では、パワーモジュール用基板の金属層の絶縁基板とは反対側の面およびヒートシンクのうちの少なくとも一方の表面に、ペースト状接合材組成物の層を形成する。ペースト状接合材組成物の層を形成する方法としては、塗布法、浸漬法などの方法を用いることができる。後述の加熱工程S03において、ペースト状接合材組成物層が加熱されることによって接合層30が生成する。
【0028】
ペースト状接合材組成物は、溶媒と銀粒子とを含む。
ペースト状接合材組成物の溶媒は、後述の加熱工程S03において、蒸発除去できるものであれば特に制限はない。溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、アセテート系溶媒、炭化水素系溶媒、アミン系溶媒を用いることができる。アルコール系溶媒の例としては、α-テルピネオール、イソプロピルアルコールが挙げられる。グリコール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールが挙げられる。アセテート系溶媒の例としては、酢酸ブチルトールカルビテートが挙げられる。炭化水素系溶媒の例としては、デカン、ドデカン、テトラデカンが挙げられる。アミン系溶媒の例としては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミンが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0029】
銀粒子としては、平均粒径が0.1μm以上1μm以下の範囲内にあるものを用いる。銀粒子の平均粒径が0.1μm未満であると、ペースト状接合材組成物層の厚さを厚くするのが難しく、また、後述の加熱工程S03において、銀粒子の焼結が進み易くなり、生成する接合層30の相対密度が高くなりすぎるおそれがある。一方、銀粒子の平均粒径が1μmを超えると、後述の加熱工程S03において、銀粒子の焼結が進みにくくなり、生成する接合層30の相対密度が低くなりすぎるおそれがある。
【0030】
銀粒子は、酸化および凝集を防止するための保護材で被覆されていてもよい。保護材としては、炭素数が2以上8以下の有機物を用いることができる。有機物はカルボン酸であることが好ましい。カルボン酸の例としては、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸が挙げられる。保護材の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。
【0031】
ペースト状接合材組成物の銀粒子の含有量は、70質量%以上95質量%以下の範囲内の量である。70質量%未満であると、ペースト状接合材組成物の粘度が低くなりすぎて、ペースト状接合材組成物層の厚さを厚くするのが難しく、また、後述の加熱工程S03において、銀粒子の焼結が進みにくくなり、生成する接合層30の相対密度が低くなりすぎるおそれがある。一方、銀粒子の含有量が95質量%を超えると、ペースト状接合材組成物の粘度が高くなりすぎて、ペースト状接合材組成物層を形成しにくくなるおそれがある。
【0032】
ペースト状接合材組成物層の厚さは、ペースト状接合材組成物の銀粒子の平均粒径や含有量によって異なるため、一律に定めることはできないが、後述の加熱工程S03での加熱により生成する接合層の厚さが10μm以上500μm以下の範囲内となる厚さであればよい。
【0033】
(積層工程S02)
積層工程S02では、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを、ペースト状接合材組成物層形成工程S01で形成したペースト状接合材組成物層を介して積層する。積層されたパワーモジュール用基板とヒートシンクとの間に介在するペースト状接合材組成物層の厚さは均一であることが好ましい。
【0034】
(加熱工程S03)
加熱工程S03では、積層工程S02で積層されたパワーモジュール用基板とヒートシンクとの積層体を加熱する。
積層体の加熱温度は、150℃以上300℃以下、好ましくは170℃以上270℃以下の温度である。加熱温度が150℃未満であると、ペースト状接合材組成物層の銀粒子が焼結しにくくなり、接合層を形成できなくなるおそれがある。一方、加熱温度が300℃を超えると、ペースト状接合材組成物層の銀粒子の焼結が過剰に進行して、生成する接合層の相対密度が高くなりすぎるおそれがある。
【0035】
積層体の加熱は、積層方向に1MPa以下の圧力下で行なう。積層体を積層方向に加圧しなくてもよい。積層方向に1MPaを超える圧力で加圧した状態で積層体を加熱すると、銀粒子の焼結が過剰に進行して、生成する接合層の相対密度が高くなりすぎるおそれがある。
【0036】
このようして積層体が加熱されることによって、ペースト状接合材組成物層内の銀粒子が焼結して、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造される。
【0037】
以上のような構成とされた本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板10によれば、パワーモジュール用基板20の金属層23は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板で構成されているので、回路層22に実装された半導体素子3にて発生した熱を効率よくヒートシンク40に伝達させることができる。また、接合層30は、銀粒子の焼結体で構成されているので、融点が高く、溶融しにくい。さらに、接合層30を構成する銀粒子の焼結体は、相対密度が60%以上90%以下の範囲内にある多孔質体で、かつ厚さが10μm以上500μm以下の範囲内とされているので、冷熱サイクル負荷時のパワーモジュール用基板20とヒートシンク40との間の線膨張係数の差によって生じる内部応力が緩和され、接合層30が破損しにくくなる。よって、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板10は、冷熱サイクルの負荷による熱抵抗の増加や絶縁基板21の割れの発生を長期間にわたって抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板10の製造方法によれば、パワーモジュール用基板20とヒートシンク40とを、平均粒径が0.1μm以上1μm以下の範囲内にある銀粒子を70質量%以上95質量%以下の範囲内の量にて含むペースト状接合材組成物の層を介して積層した積層体を、積層方向に1MPa以下の圧力下で、150℃以上300℃以下の温度にて加熱するので、銀粒子を過剰に緻密化させずに、かつ確実に焼結させることができる。これにより、パワーモジュール用基板20の金属層23とヒートシンク40との間に、銀粒子の焼結体であって相対密度が60%以上90%以下の範囲内にある多孔質体である接合層30を生成させることが可能となる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板10では、回路層22に半導体素子3が実装されているが、これに限定されることはなく、例えば、LEDなどの半導体素子以外の電子部品が実装されていてもよい。
【実施例
【0040】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0041】
[本発明例1]
(1)パワーモジュール用基板の作製
絶縁基板に回路層と金属層とを接合して、パワーモジュール用基板を作製した。絶縁基板の材質は窒化アルミニウム(AlN)とした。回路層の材質は無酸素銅とした。金属層の材質はA1050とした。絶縁基板のサイズは40mm×40mm、回路層のサイズは37mm×37mm、金属層のサイズは37mm×37mmとした。
【0042】
絶縁基板と回路層は、Ag-27.4質量%Cu-2.0質量%Tiからなる活性ろう材を用いて、10-3Paの真空中にて、850℃で10分間加熱することによって接合した。
【0043】
絶縁基板と金属層は、Al―7.5質量%Siからなるろう材箔(厚さ100μm)を用いて、積層方向に12kgf/cmで加圧した状態で、10-3Paの真空中にて、650℃で30分間加熱することによって接合した。
【0044】
(2)ペースト状接合材組成物の調製
エチレングリコール(EG)と平均粒径0.5μmの銀粉とを用意した。EGを15質量部、銀粉を85質量部の割合で、混練機を用いて混練してペースト状接合材組成物を調製した。混練機による混練は、2000rpmの回転速度で5分間、3回行なった。
【0045】
(3)ヒートシンク付パワーモジュール用基板
ヒートシンクとして、50mm×60mm×5mmtのA3003合金製で、内部に冷却媒体の流路を有するアルミニウム板を準備した。
【0046】
先ず、上記(1)で作製したパワーモジュール用基板の金属層の接合面と、準備したヒートシンクの天板部にそれぞれ銀めっきを施して、厚さが0.1~0.5μmとなるように銀めっき層を形成した。次に、ヒートシンクの銀めっき層の表面に、(2)で調製したペースト状接合材組成物を塗布して、ペースト状接合材組成物層を形成した。ペースト状接合材組成物層の厚さは、加熱により生成する接合層の厚さが100μmとなる厚さとした。次いで、ヒートシンクのペースト状接合材組成物層の上に、パワーモジュール用基板の金属層の銀めっき層を搭載して、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを積層した。そして、パワーモジュール用基板とヒートシンクの積層体を加熱器に投入し、大気雰囲気中にて、加熱温度が250℃で、積層方向への加圧を行なわない接合条件にて60分間加熱して、ヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造した。
【0047】
[本発明例2~9および比較例1~11]
パワーモジュール用基板の回路層および金属層の材質とめっき層の種類、ペースト状接合材組成物の接合材の種類、溶媒と接合材の配合量、ヒートシンクのめっき層の種類を、下記の表1に示すように変更し、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを接合する際の接合条件、接合層の厚さを下記の表2に示すように変更したこと以外は、本発明例1と同様にしてヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造した。なお、比較例11のペースト状接合材組成物の接合材として用いたSACはんだは、Sn-Ag-Cu系はんだ材である。
【0048】
[評価]
本発明例1~9および比較例1~11で製造したヒートシンク付パワーモジュール用基板について、接合層の厚さと相対密度を下記の方法により測定した、また、ヒートシンク付パワーモジュール用基板に対して、下記の方法により冷熱サイクル試験を行ない、冷熱サイクル後の基板の割れと冷熱サイクル前後の熱抵抗変化率を測定した。その結果を表2に示す。
【0049】
(接合層の厚さ)
マイクロメーター(精密測長器)を用いて、パワーモジュール用基板とヒートシンクの厚さを予め測長し、接合後のヒートシンク付パワーモジュール用基板全体の厚さを測長した。ヒートシンク付パワーモジュール用基板全体の厚さから予め測長したパワーモジュール用基板とヒートシンクの厚さを差し引いた値を、接合層の厚さとした。
【0050】
(接合層の相対密度)
ヒートシンク付パワーモジュール用基板から接合層を採取した。採取した接合層のサイズを計測し、計測したサイズと上記の方法により測定した接合層の厚さから採取した接合層の体積を求めた。次いで、その採取した接合層を、硝酸を用いて溶解した。得られた溶解液の体積と銀濃度から、採取した接合層に含まれる銀の質量を求めた。
そして、採取した接合層の体積と銀の質量を用いて、接合層の相対密度を下記の式より算出した。
接合層の相対密度(%)={(銀の質量/接合層の体積)/銀の真密度}×100
【0051】
(冷熱サイクル試験)
冷熱サイクル試験は、下記の条件で行った。3000サイクル後の絶縁基板の割れの有無を評価した。その結果を表2に示す。
評価装置:エスペック株式会社製TSB-51
液相:フロリナート
温度条件:-40℃×5分 ←→ 125℃×5分
【0052】
(熱抵抗の測定)
ヒートシンク付パワーモジュール用基板の回路層にヒータチップを取り付け、ヒートシンクの流路に冷却媒体[エチレングリコール:水=9:1(質量比)]を流通させた。次いで、ヒータチップを100Wの電力で加熱した。熱電対を用いてヒータチップの温度と、ヒートシンクを流通する冷却媒体の温度を測定した。そして、ヒータチップの温度と冷却媒体の温度差を電力で割った値を熱抵抗とした。冷熱サイクル試験の前後で、熱抵抗の変化率が5%以下であるものを「○」とし、5%を超えたものを「×」と判定した。その判定結果を表2に示す。なお、測定条件を以下に示す。
温度差:80℃
温度範囲:55℃~135℃(IGBT素子内の温度センスダイオードで測定)
通電時間:6秒
冷却時間:4秒
【0053】
(接合層の構造)
ヒートシンク付パワーモジュール用基板を、積層方向に沿って切断し、接合層の切断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察した。
図3に、本発明例9で製造したヒートシンク付パワーモジュール用基板の接合層の断面のSEM写真を示す。図3のSEM写真から、接合層は、銀粒子の焼結体であって、多数の気孔を有する多孔質体であることが確認された。なお、本発明例1~8で製造したヒートシンク付パワーモジュール用基板の接合層についても同様に、銀粒子の焼結体であって、多数の気孔を有する多孔質体であることが確認された。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
銀粒子の平均粒径が本発明の範囲よりも小さいペースト状接合材組成物を用いて製造した比較例1のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、接合層の相対密度が本発明の範囲よりも高くなった。これは、銀粒子が微細であるため、銀粒子の焼結が進行し易くなっためであると推察される。一方、銀粒子の平均粒径が本発明の範囲よりも大きいペースト状接合材組成物を用いて製造した比較例2のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、接合層の相対密度が本発明の範囲より低くなった。これは、銀粒子間の隙間が大きくなったためであると推察される。
【0057】
銀粒子の含有量が本発明の範囲よりも少ないペースト状接合材組成物を用いて製造した比較例3のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、接合層の相対密度が本発明の範囲より低くなった。これは、相対的に溶媒の量が多くなったため、銀粒子間に隙間が形成され易くなったためであると推察される。一方、銀粒子の含有量が本発明の範囲よりも多いペースト状接合材組成物を用いた比較例4では、ペースト状接合材組成物層を、ヒートシンクの天板部に形成することができなかった。これは、ペースト状接合材組成物の粘度が高くなりすぎたためであると推察される。
【0058】
積層体の加熱温度が本発明の範囲よりも低い比較例5では、接合層を形成することができなかった。これは、銀粒子が焼結しなかったためである。一方、積層体の加熱温度が本発明の範囲よりも高い接合条件で製造した比較例6のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、接合層の相対密度が本発明の範囲より高くなった。これは、銀粒子の焼結が過剰に進行したためであると推察される。さらに、積層方向に本発明の範囲よりも大きい圧力を付与する接合条件で製造した比較例7のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、接合層の相対密度が本発明の範囲より高くなった。これは、銀粒子同士が強く密着した状態で焼結が進行したためであると推察される。
【0059】
これに対して、ペースト状接合材組成物の銀粒子の平均粒径と含有量が本発明の範囲とされ、積層体の加熱温度と積層方向に付与する圧力が本発明の範囲とされた本発明例1~9においては、得られたヒートシンク付パワーモジュール用基板は、接合層の相対密度が本発明の範囲にあった。
【0060】
また、接合層の相対密度が本発明の範囲よりも大きい比較例1、6、7は、熱抵抗変化率が大きく、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じた。これは、接合層の弾性率がバルクの銀と同程度になり、接合層による内部応力の緩和機能が低下し、冷熱サイクル負荷時に接合層が破損したためであると推察される。一方、接合層の相対密度が本発明の範囲よりも低い比較例2、3もまた熱抵抗変化率が大きく、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じた。これは、接合層の機械強度が低下し、冷熱サイクル負荷時において、接合層に破損が生じたためであると推察される。
【0061】
また、接合層の厚さが本発明の範囲よりも薄い比較例8は熱抵抗変化率が大きく、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じた。これは、接合層による内部応力の緩和機能が低下し、冷熱サイクル負荷時に接合層が破損したためであると推察される。一方、接合層の厚さが本発明の範囲よりも厚い比較例9もまた熱抵抗変化率が大きく、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じた。これは、接合層の機械強度が低下して、冷熱サイクル負荷時に接合層が破損したためであると推察される。
【0062】
また、銀粒子の代わりに銅粒子を用いた比較例10では、350℃の加熱温度では接合層を形成することはできなかった。一方、銀粒子の代わりにSACはんだ粒子を用いた比較例11では、接合層は形成できたが、製造されたヒートシンク付パワーモジュール用基板は、熱抵抗変化率が大きく、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じた。これは、接合層(SACはんだ)は耐熱性が低く、高温時に機械的強度が低下した結果、冷熱サイクル負荷時にパワーモジュール用基板とヒートシンクとの間の線膨張係数の差によって生じる内部応力により、接合層が破損したためであると推察される。
【0063】
これに対して、接合層の相対密度と厚さが本発明の範囲とされた本発明例1~9においては、熱抵抗変化率が小さく、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じなかった。
以上のことから、本発明例によれば、冷熱サイクルの負荷による熱抵抗の増加や絶縁基板の割れの発生を長期間にわたって抑制できるヒートシンク付パワーモジュール用基板およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することが可能であることが確認された。
【0064】
[本発明例10]
(1)パワーモジュール用基板の作製
絶縁基板に回路層と金属層とを接合して、パワーモジュール用基板を作製した。絶縁基の材質は窒化ケイ素(Si)とした。回路層の材質は無酸素銅とした。金属層の材質は純度99.9999質量%以上の高純度銅(6N-Cu)とした。絶縁基板のサイズは40mm×40mm、回路層のサイズは37mm×37mm、金属層のサイズは37mm×37mmとした。
【0065】
回路層と絶縁基材との間および絶縁基材と金属層との間のそれぞれに、Ag-27.4質量%Cu-2.0質量%Tiからなる活性ろう材を配設した。次いで、回路層、絶縁基材、金属層をこの順で積層し、得られた積層体を積層方向に49kPa(0.5kgf/cm)の圧力で加圧した状態で、10-3Paの真空中にて、850℃で10分間加熱して接合して、パワーモジュール用基板を作製した。
【0066】
(2)ペースト状接合材組成物の調製
本発明例1と同様にして、エチレングリコール(EG)15質量部と、平均粒径0.5μmの銀粉85質量部とを含むペースト状接合材組成物を調製した。
【0067】
(3)ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造
ヒートシンクとして、50mm×60mm×5mmtのA3003合金製で、内部に冷却媒体が流路を有するアルミニウム板を準備した。
【0068】
先ず、上記(1)で作製したパワーモジュール用基板の金属層の接合面と、準備したヒートシンクの天板部にそれぞれ銀めっきを施して、厚さが0.1~0.5μmとなるように銀めっき層を形成した。次に、ヒートシンクの銀めっき層の表面に、(2)で調製したペースト状接合材組成物を塗布して、ペースト状接合材組成物層を形成した。ペースト状接合材組成物層の厚さは、加熱により生成する接合層の厚さが50μmとなる厚さとした。次いで、ヒートシンクのペースト状接合材組成物層の上に、パワーモジュール用基板の金属層の銀めっき層を搭載して、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを積層した。そして、パワーモジュール用基板とヒートシンクの積層体を加熱器に投入し、大気雰囲気中にて、加熱温度が200℃で、積層方向への加圧を行なわない接合条件にて60分間加熱して、ヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造した。
【0069】
[本発明例11~18および比較例12~21]
パワーモジュール用基板の回路層の材質、ペースト状接合材組成物の接合材の種類、溶媒と接合材の配合量、ヒートシンクのめっき層の種類を、下記の表3に示すように変更し、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを接合する際の接合条件、接合層の厚さを下記の表4に示すように変更したこと以外は、本発明例10と同様にしてヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造した。なお、本発明例11では、金属層にめっき層を形成しなかった。本発明例11は、本発明の発明例ではない。
【0070】
[評価]
本発明例10~18および比較例12~24で製造したヒートシンク付パワーモジュール用基板について、接合層の厚さと相対密度、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の冷熱サイクル試験後の熱抵抗変化率と基板割れを、本発明例1と同様にして測定した。その結果を表4に示す。
【0071】
また、本発明例10~18で製造したヒートシンク付パワーモジュール用基板については接合層の構造を、本発明例1と同様にして観察した。
図4に、本発明例17で製造したヒートシンク付パワーモジュール用基板の接合層の断面のSEM写真を示す。図4のSEM写真から、接合層は、銀粒子の焼結体であって、多数の気孔を有する多孔質体であることが確認された。なお、本発明例10~16、18で製造したヒートシンク付パワーモジュール用基板の接合層についても同様に、銀粒子の焼結体であって、多数の気孔を有する多孔質体であることが確認された。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
銀粒子の平均粒径が本発明の範囲よりも小さいペースト状接合材組成物を用いて製造した比較例12のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、接合層の相対密度が本発明の範囲より高くなった。これは、銀粒子が微細であるため、銀粒子の焼結が進行し易くなっためであると推察される。一方、銀粒子の平均粒径が本発明の範囲よりも大きいペースト状接合材組成物を用いて製造した比較例13のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、接合層の相対密度が本発明の範囲より低くなった。これは、銀粒子間の隙間が大きくなったためであると推察される。
【0075】
銀粒子の含有量が本発明の範囲よりも少ないペースト状接合材組成物を用いて製造した比較例14のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、接合層の相対密度が本発明の範囲より低くなった。これは、相対的に溶媒の量が多くなったため、銀粒子間に隙間が形成され易くなったためであると推察される。
【0076】
積層体の加熱温度が本発明の範囲よりも高い接合条件で製造した比較例15のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、接合層の相対密度が本発明の範囲より高くなった。これは、銀粒子の焼結が過剰に進行したためであると推察される。さらに、積層方向に本発明の範囲よりも大きい圧力を付与する接合条件で製造した比較例16のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、接合層の相対密度が本発明の範囲より高くなった。これは、銀粒子同士が強く密着した状態で焼結が進行したためであると推察される。
【0077】
これに対して、ペースト状接合材組成物の銀粒子の平均粒径と含有量が本発明の範囲とされ、積層体の加熱温度と積層方向に付与する圧力が本発明の範囲とされた本発明例10~18においては、得られたヒートシンク付パワーモジュール用基板は、接合層の相対密度が本発明の範囲にあった。
【0078】
また、接合層の相対密度が本発明の範囲よりも大きい比較例12、15、16は、熱抵抗変化率が大きく、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じた。これは、接合層の弾性率がバルクの銀と同程度になり、接合層による内部応力の緩和機能が低下し、冷熱サイクル負荷時に接合層が破損したためであると推察される。一方、接合層の相対密度が本発明の範囲よりも低い比較例13、14もまた熱抵抗変化率が大きく、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じた。これは、接合層の機械強度が低下し、冷熱サイクル負荷時において、接合層に破損が生じたためであると推察される。
【0079】
また、接合層の厚さが本発明の範囲よりも薄い比較例17は熱抵抗変化率が大きく、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じた。これは、接合層による内部応力の緩和機能が低下し、冷熱サイクル負荷時に接合層が破損したためであると推察される。一方、接合層の厚さが本発明の範囲よりも厚い比較例18もまた熱抵抗変化率が大きく、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じた。これは、接合層の機械強度が低下して、冷熱サイクル負荷時に接合層が破損したためであると推察される。
【0080】
銀粒子の代わりにSACはんだ粒子を用いた比較例19では、製造されたヒートシンク付パワーモジュール用基板は、熱抵抗変化率が大きく、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じた。これは、接合層(SACはんだ)は耐熱性が低く、高温時に機械的強度が低下した結果、冷熱サイクル負荷時にパワーモジュール用基板とヒートシンクとの間の線膨張係数の差によって生じる内部応力により、接合層が破損したためであると推察される。
【0081】
また、加熱温度を140℃とした比較例20では、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れは生じなかったが、熱抵抗変化率が大きくなった。これは、接合層の相対密度が58%とやや低く、接合層の機械的強度がやや低いため、冷熱サイクル負荷時に、接合層に部分的な割れが発生し、接合層全体としては破損しながったが、接合層の熱抵抗が上昇したと推察される。一方、加熱温度を320℃とした比較例21では、熱抵抗変化率は小さくなったが、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じた。これは、接合層の相対密度が92%とやや高く、接合層による内部応力の緩和機能がやや低下したため、接合層に割れや破損は生じなかったが、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの間の線膨張係数の差によって生じる内部応力を緩和する作用が低下し、基板が割れたと推察される。
【0082】
これに対して、接合層の相対密度と厚さが本発明の範囲とされた本発明例10~18においては、熱抵抗変化率が小さく、冷熱サイクル後の絶縁基板に割れが生じなかった。
以上のことから、本発明例によれば、冷熱サイクルの負荷による熱抵抗の増加や絶縁基板の割れの発生を長期間にわたって抑制できるヒートシンク付パワーモジュール用基板およびヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0083】
1 パワーモジュール
2 はんだ層
3 半導体素子
10 ヒートシンク付パワーモジュール用基板
20 パワーモジュール用基板
21 絶縁基板
22 回路層
22A 搭載面
23 金属層
23A 接合面
30 接合層
40 ヒートシンク
41 天板部
42 流路
図1
図2
図3
図4