(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
H05B 3/20 20060101AFI20220323BHJP
H05B 3/10 20060101ALI20220323BHJP
A47C 7/62 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
H05B3/20 350
H05B3/10 A
A47C7/62 Z
(21)【出願番号】P 2017214552
(22)【出願日】2017-11-07
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】隈部 明信
(72)【発明者】
【氏名】水野 健一
(72)【発明者】
【氏名】小原 健司
【審査官】吉澤 伸幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/049827(WO,A1)
【文献】特開平10-097889(JP,A)
【文献】特開2015-228355(JP,A)
【文献】特開平02-227983(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0103773(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/20
H05B 3/10
A47C 7/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート本体の表皮より内側に配設された布状の基材と、
前記基材の一方の面に配置され、通電時に発熱する線状の第1ヒータと、
前記基材のうち前記第1ヒータと同一面において、当該第1ヒータに対して並列に配置された第2ヒータであって、通電時に発熱する線状の第2ヒータと、
前記第1ヒータの一端と前記第2ヒータの一端とを電気的に接続することにより、当該第1ヒータと当該第2ヒータとを電気的に直列接続する接続部とを備え、
前記接続部は、前記シート本体のうちシート天板部以外の部位に配置され、
前記シート本体は、シートバックとシートクッションとを備え、前記シート天板部以外の部位とは、前記シートバックの上端面
、前記シートバックと前記シートクッションとの合わせ部
、前記シートクッションの側端面、前記シートバックの側端面、前記シートクッション用のクッションパッドに設けられた凹部又は溝部、及び、前記シートバック用のバックパッドに設けられた凹部又は溝部、の少なくとも1つであるシート。
【請求項2】
前記接続部は、前記シート天板部の端部より外側に配置されている請求項1に記載のシート。
【請求項3】
1本の導電線が前記接続部にて屈曲して前記第1ヒータ及び前記第2ヒータが構成されている請求項1又は2に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通電時に発熱する電気ヒータを備えるシートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の発明は、基材の表面に第1ヒータ線が配設され、かつ、基材の裏面のうち第1ヒータ線と対向する位置に第2ヒータ線が配設されている。そして、当該発明では、第1ヒータ線に流れる電流の向きが第2ヒータ線に流れる電流の向きと逆向きとなっている。これにより、当該発明は、通電時に発生する磁界の影響を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明では、基材の表面に第1ヒータ線が配設され、かつ、基材の裏面に第2ヒータ線が配設された構成であるので、例えば、基材の裏面に配設された第2ヒータ線の熱がシート表皮に届くまで時間を要する。このため、シート本体(特に、表皮)を速やかに昇温させることが難しい。
【0005】
本願は、上記点に鑑み、シート本体(特に、表皮)を速やかに昇温させることが可能なシートの一例を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例によるシートは、基材(11)の一方の面に配置され、通電時に発熱する線状の第1ヒータ(12)と、基材(11)のうち第1ヒータ(12)と同一面において、当該第1ヒータ(12)に対して並列に配置された第2ヒータ(13)であって、通電時に発熱する線状の第2ヒータ(13)と、第1ヒータ(12)の一端(12A)と第2ヒータ(13)の一端(13A)とを電気的に接続することにより、当該第1ヒータ(12)と当該第2ヒータ(13)とを電気的に直列接続する接続部(14)とを備える。
【0007】
これにより、当該シートでは、第1ヒータ(12)と第2ヒータ(13)とは、基材(11)に対して同一面に配置された構成となる。したがって、例えば、基材(11)のうち表皮側の面に第1ヒータ(12)及び第2ヒータ(13)が配置された構成であれば、特許文献1に記載の発明に比べて、シート本体(特に、表皮)を速やかに昇温させることが可能となり得る。
【0008】
第1ヒータ(12)と第2ヒータ(13)とが電気的に直列接続され、かつ、第2ヒータ(13)が第1ヒータ(12)に対して並列に配置されているので、第1ヒータ(12)に流れる電流の向きは、第2ヒータ(13)に流れる電流の向きと逆向きとなる。
【0009】
したがって、第1ヒータ(12)により誘起される磁界の少なくとも一部が、第2ヒータ(13)により誘起される磁界により打ち消されるので、当該シートでは、通電時に発生する磁界の影響を低減することが可能となる。
【0010】
ところで、接続部(14)においては、当該接続部(14)で誘起される磁界を打ち消す磁界が発生しない。このため、当該シートに係る接続部(14)は、シート本体のうちシート天板部(4)以外の部位(A1~A7、7A)に配置されている。したがって、当該シートでは、シート天板部(4)における磁界の影響を低減することが可能となる。
【0011】
なお、「シート天板部(4)以外の部位」とは、シートに着席した者が、通常の着席状態において直接的に接触する可能が低い部位をいう。例えば、シートバック及びシートクッションシートバックの側端面、並びにシートクッションシートバックとシートクッションとの合わせ部等が「シート天板部(4)以外の部位」に相当する。
【0012】
なお、接続部(14)は、シート天板部(4)の端部(4A、4B)より外側(A1~A7)に配置されていることが望ましい。これにより、シートの組み立て作業時において、作業者は、容易に接続部(14)をシート天板部(4)以外の部位に配置することができる。
【0013】
第1ヒータ(12)及び第2ヒータ(13)は、1本の導電線が接続部(14)にて折り曲げられて構成されていることが望ましい。これにより、第1ヒータ(12)、第2ヒータ(13)及び接続部(14)が簡素な構造となり得る。
【0014】
因みに、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的構成等との対応関係を示す一例であり、本発明は上記括弧内の符号に示された具体的構成等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る乗物用シートを示す図である。
【
図2】第1実施形態に係るシート天板部(斜線部)の位置を示す図である。
【
図3】Aは
図2のA-A断面図である。Bは
図2のC-C断面図である。
【
図4】第1実施形態に係るヒータマットを示す図である。
【
図5】第1実施形態に係るシート天板部以外の部位を示す図である。
【
図6】Aは、
図2のA-A断面に相当する位置の断面図である。Bは、
図2のB-B断面に相当する位置の断面図である。
【
図7】Aは、
図2のC-C断面に相当する位置の断面図である。Bは、
図2のD-D断面に相当する位置の断面図である。
【
図8】第3実施形態に係るヒータマットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に説明する「発明の実施形態」は、本願発明の技術的範囲に属する実施形態の一例を示すものである。つまり、特許請求の範囲に記載された発明特定事項等は、下記の実施形態に示された具体的構成や構造等に限定されるものではない。
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
少なくとも符号を付して説明した部材又は部位は、「1つの」等の断りをした場合を除き、少なくとも1つ設けられている。つまり、「1つの」等の断りがない場合には、当該部材は2以上設けられていてもよい。
【0018】
本実施形態は、車両等の乗物に搭載されるシート(以下、乗物用シートという。)に本願に係るシートが適用された例である。各図に付された方向を示す矢印等は、各図相互の関係を理解し易くするために記載したものである。
【0019】
したがって、本願に係る発明は、各図に付された方向に限定されるものではない。各図に示された方向は、本実施形態に係る乗物用シートを車両に組み付けた状態における方向を意味する。
【0020】
(第1実施形態)
1.乗物用シートの概要
乗物用シート1のシート本体2は、
図1に示されるように、シートクッション3及びシートバック5等を少なくとも備える。シートクッション3は着席者の臀部を支持するための部位である。シートバック5は着席者の背部を支持するための部位である。
【0021】
シート本体2のいずれかの部位(本実施形態では、シートクッション3及びシートバック5)には、ヒータマット10が埋設されている。ヒータマット10は、シート本体2のシート天板部4を加熱するための部材である。
【0022】
シート天板部4は、シート本体2のうち、通常の着席状態において着席者が直接的に接触する可能が高い部位をいう。具体的には、
図2の二点鎖線の斜線で示されるように、シートクッション3の上面、及びシートバック5のシート前面等がシート天板部4に相当する。
【0023】
シートバック5に埋設されたヒータマット10は、
図3Aに示されるように、シートカバー又は表皮(以下、表皮6という。)より内側に配設されている。同様に、シートクッション3に埋設されたヒータマット10は、
図3Bに示されるように、表皮6より内側に配設されている。
【0024】
ヒータマット10より内側には、シートパッド7及びシートフレーム(図示せず。)が設けられている。シートパッド7は、ウレタン等の発泡弾性体で構成された緩衝材である。シートフレームは、シート本体2の骨格を構成する部材である。
【0025】
なお、シートパッド7は、シートクッション3用のクッションパッド及びシートバック5用のバックパッドの総称である。シートフレームは、シートクッション3用のクッションフレーム及びシートバック5用のバックフレームの総称である。
【0026】
2.ヒータマットの構成
シートバック5に埋設されたヒータマット10の基本構造とシートクッション3に埋設されたヒータマット10の基本構造は同一である。以下の説明は、シートクッション3に埋設されたヒータマット10の説明である。
【0027】
ヒータマット10は、
図4に示されるように、基材11、第1ヒータ12及び第2ヒータ13等を少なくとも有して構成されている。基材11は、表皮6より内側に配設される不織布等の布状の部材である。
【0028】
第1ヒータ12及び第2ヒータ13は、基材11の表裏両面のちいずれか一方の面(本実施形態では、表面)に配置され、通電時に発熱する線状の発熱部である。第2ヒータ13は、第1ヒータ12と同一の面において、当該第1ヒータ12に対して並列に配置されている。
【0029】
上記「表面」とは、基材11のうち表皮6側の面をいう。つまり、第1ヒータ12及び第2ヒータ13は、基材11の表面において互いに並列に配置されている。なお、本実施形態に係る第1ヒータ12及び第2ヒータ13は、導線に構成された発熱線である。当該発熱線は、基材11に縫い付けられて基材11に固定されている。
【0030】
接続部14は、第1ヒータ12の一端12Aと第2ヒータ13の一端13Aとを電気的に接続する。これにより、第1ヒータ12と第2ヒータ13とは電気的に直列接続され構成となる。
【0031】
なお、本実施形態に係る第1ヒータ12及び第2ヒータ13は、1本の導電線が接続部14に相当する部位にて折り曲げられて構成されている。つまり、当該1本の導電線は、接続部14にて略U字状に屈曲している。
【0032】
そして、接続部14の一方側が第1ヒータ12として機能し、接続部14の他方側が第2ヒータ13として機能する。本実施形態に係るヒータマット10では、突出部11Aに接続部14が設けられている。突出部11Aは、基材11の外縁から突出した部位である。
【0033】
接続部14は、シート本体2のうちシート天板部4以外の部位に配置される。本実施形態に係る接続部14は、シート天板部4の端部4A、4B(
図2参照)より外側に配置されている。
【0034】
シート天板部4の端部4Aとは、
図2の太い実線に示されるように、例えば、シートクッション3においては、当該シートクッション3の上面の端部である。シート天板部4の端部4Bとは、例えば、シートバック5においては、当該シートバック5の前面の端部である。
【0035】
「シート天板部4以外の部位」とは、乗物用シート1に着席した者が、通常の着席状態において直接的に接触する可能が低い部位をいう。具体的には、
図5のA1~A7で示される領域等が「シート天板部4以外の部位」に相当する。
【0036】
すなわち、領域A1はシートバック5の上端面、つまりヘッドレスト9と対向する端面である。領域A2はシートバック5の裏面である。領域A3はシートバック5とシートクッション3との合わせ部である。
【0037】
領域A4はシートクッション3の後端面である。領域A5はシートクッション3の前端面である。領域A6はシートクッション3の側端面である。領域A7はシートバック5側端面である。なお、
図4に示されるヒータマット10の接続部14は、領域A3に配置されている。
【0038】
3.本実施形態に係る乗物用シート(特に、ヒータマット)の特徴
乗物用シート1では、第1ヒータ12と第2ヒータ13とは、基材11の表面に配置された構成となる。したがって、特許文献1に記載の発明に比べて、シート本体2(特に、表皮6)を速やかに昇温させることが可能となり得る。
【0039】
第1ヒータ12と第2ヒータ13とが電気的に直列接続され、かつ、第2ヒータ13が第1ヒータ12に対して並列に配置されているので、第1ヒータ12に流れる電流の向きは、第2ヒータ13に流れる電流の向きと逆向きとなる。
【0040】
したがって、第1ヒータ12により誘起される磁界の少なくとも一部が、第2ヒータ13により誘起される磁界により打ち消されるので、本実施形態に係る乗物用シート1においても、特許文献1に記載の発明と同様な原理により、通電時に発生する磁界の影響を低減することが可能となる。
【0041】
ところで、接続部14においては、当該接続部14で誘起される磁界を打ち消す磁界が発生しない。このため、本実施形態に係る接続部14は、シート本体2のうちシート天板部4以外の部位に配置されている。したがって、本実施形態に係る乗物用シート1では、シート天板部4における磁界の影響が低減され得る。
【0042】
具体的には、本実施形態に係る接続部14は、シート天板部4の端部4A、4Bより外側に配置されている。これにより、シートの組み立て作業時において、作業者は、容易に接続部14をシート天板部4以外の部位に配置することができる。
【0043】
第1ヒータ12及び第2ヒータ13は、1本の導電線が接続部14にて折り曲げられた構成である。これにより、第1ヒータ12、第2ヒータ13及び接続部14が簡素な構造となり得る。
【0044】
(第2実施形態)
上述の実施形態では、「シート天板部4以外の部位」として、シート天板部4の端部4A、4Bより外側の部位が採用されていた。これに対して、本実施形態では、
図6A~
図7Bに示されるように、「シート天板部4以外の部位」として、シートパッド7に設けられた凹部又は溝部7Aが採用されたものである。
【0045】
つまり、本実施形態に係る接続部14は、シートパッド7内に埋め込まれた埋設状態となっている。したがって、本実施形態に係る乗物用シート1においても、シート天板部4における磁界の影響が低減され得る。
【0046】
本実施形態では、溝部7Aとして、表皮6を固定する(ホグリング)ための吊り溝が利用されている。なお、
図6A~
図7Bでは、複数の接続部14が記載されている。これは、接続部14が配置される得る部位を示すためである。上述の実施形態と同一の構成要件等は、上述の実施形態と同一の符号を付したので、重複する説明は省略する。
【0047】
(第3実施形態)
1本の第1ヒータ12及び1本の第2ヒータ13を1組のヒータとしたとき、上述の実施形態では、1組のヒータによりヒータマット10が構成されていた。これに対して、本実施形態に係るヒータマット10は、
図8に示されるように、複数組のヒータを有する。
【0048】
なお、1組のヒータを構成する1本の第1ヒータ12と1本の第2ヒータ13とは、接続部14を介して電気的に直列に接続されている。つまり、本実施形態に係るヒータマット10は、複数本の導電線が接続部14に相当する部位にて折り曲げられて基材11に配置されたものである。
【0049】
(その他の実施形態)
上述の実施形態に係る接続部14は、基材11の外縁から突出した突出部11Aに設けられていた。しかし、本願明細書に開示された発明はこれに限定されるものではない。すなわち、接続部14は、基材11のうち突出部11A以外の部位、又は基材11以外の部位に設けられていてもよい。
【0050】
上述の実施形態に係る第1ヒータ12及び第2ヒータ13は、1本の導電線が接続部14に相当する部位にて折り曲げられて構成されていた。しかし、本願明細書に開示された発明はこれに限定されるものではない。すなわち、例えば、第1ヒータ12用の導電線と第2ヒータ13用の導電線とが、接続部14を構成する他の導電材料で電気的に接続された構成であってもよい。
【0051】
上述の実施形態に係る接続部14は単純な導電線であった。しかし、本願明細書に開示された発明はこれに限定されるものではない。すなわち、例えば、接続部14を構成する導電線が永久磁石で覆われた構成であってもよい。
【0052】
上述の実施形態に係る第1ヒータ12及び第2ヒータ13は、導電線が基材11に縫い付けられた構成であった。しかし、本願明細書に開示された発明はこれに限定されるものではない。すなわち、例えば、第1ヒータ12及び第2ヒータ13は、導電材料が基材11に線状に塗布されて構成されたものであってもよい。
【0053】
上述の実施形態では、車両に本願に係る乗物用シートを適用した。しかし、本願明細書に開示された発明の適用はこれに限定されるものではなく、鉄道車両、船舶及び航空機等の乗物に用いられるシート、並びに劇場や家庭用等に用いられる据え置き型シートにも適用できる。
【0054】
さらに、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。したがって、上述した複数の実施形態のうち少なくとも2つの実施形態を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1… 乗物用シート 2… シート本体 3… シートクッション
4… シート天板部 5… シートバック 6… 表皮
7… シートパッド 7A… 溝部 9… ヘッドレスト
10… ヒータマット 11… 基材 12… 第1ヒータ
13… 第2ヒータ 14… 接続部