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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】圧電フィルタ装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/54 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
H03H9/54 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017243682
(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公開番号】P2019110490
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000149734
【氏名又は名称】株式会社大真空
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】幸田 直樹
【審査官】橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-069749(JP,A)
【文献】特開平06-029774(JP,A)
【文献】特開平09-046170(JP,A)
【文献】特開昭61-123212(JP,A)
【文献】特開2005-143059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の一方の主面に入力電極と出力電極とが形成され、他方の主面に共通電極が形成された圧電フィルタ素子の二つを、縦続接続した圧電フィルタを備え、
前記二つの圧電フィルタ素子の中心周波数が互いにずれており、
前記圧電フィルタの入力側及び出力側のインピーダンスが互いに異なり、
前記圧電フィルタに対する信号の入出力方向を切換えて、信号の通過帯域幅の広狭を切換える圧電フィルタ装置であって、
当該圧電フィルタ装置の入力端子を、前記圧電フィルタの前記入力側、又は、前記出力側に切換接続すると共に、当該圧電フィルタ装置の出力端子を、前記圧電フィルタの前記出力側、又は、前記入力側に切換接続することによって、前記信号の前記入出力方向を切換える切換え手段を備える、
ことを特徴とする圧電フィルタ装置。
【請求項2】
前記圧電基板が二枚であって、前記二つの各圧電フィルタ素子の前記入力電極、前記出力電極及び前記共通電極が、各圧電基板にそれぞれ形成されている、
請求項1に記載の圧電フィルタ装置。
【請求項3】
当該圧電フィルタ装置の前記入力端子と前記切換え手段との間、及び、当該圧電フィルタ装置の前記出力端子と前記切換え手段との間には、前記入力側のインピーダンスと前記出力側のインピーダンスとを互いに異ならせるインピーダンス回路がそれぞれ設けられる、
請求項1または2に記載の圧電フィルタ装置。
【請求項4】
前記圧電基板が、水晶基板である、
請求項1ないし3のいずれかに記載の圧電フィルタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、業務用無線機や携帯電話機等の通信機器等に用いる圧電フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電フィルタ、例えば、ATカット水晶板等の圧電基板を用いた圧電フィルタは、一般に圧電基板の一方の面に入力電極と出力電極を形成すると共に、他方の面に前記入出力電極に対応した共通電極(アース電極)を形成した構成を有している。このような構成は、圧電基板を挟んで2つの電極対を有しているため2ポール型の圧電フィルタと称されるが、圧電フィルタの特性を向上させるために、このような2ポール型の圧電フィルタを縦続接続した4ポール型の圧電フィルタがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、かかる圧電フィルタが使用される通信機器、例えば、業務用無線機では、周波数帯の有効活用、通信の秘匿性向上(プライバシー保護)等を目的として、従来のアナログ方式からデジタル方式への移行が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3507206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の業務用無線機には、アナログ方式及びデジタル方式の両方式で通信できるものがある。しかし、かかる両方式で通信できる業務用無線機は、信号の通過帯域幅の広いアナログ方式用の圧電フィルタと、信号の通過帯域幅の狭いデジタル方式用の圧電フィルタとを備え、両圧電フィルタを切換えるようにしている。したがって、信号の通過帯域幅の広いアナログ方式用の圧電フィルタと、信号の通過帯域幅の狭いデジタル方式用の圧電フィルタとの二つの圧電フィルタを備えており、その分、コストが高くつく共にスペースが必要となる。
【0006】
このため、単一の圧電フィルタによって、アナログ方式及びデジタル方式に対応できるようにすることが望まれる。
【0007】
本発明は、上記のような点に鑑みて為されたものであって、単一の圧電フィルタを用いて信号の通過帯域幅の広狭に対応できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、上記目的を達成するために、次のように構成している。
【0009】
すなわち、本発明の圧電フィルタ装置は、圧電基板の一方の主面に入力電極と出力電極とが形成され、他方の主面に共通電極が形成された圧電フィルタ素子の二つを、縦続接続した圧電フィルタを備え、前記二つの圧電フィルタ素子の中心周波数が互いにずれており、前記圧電フィルタの入力側及び出力側のインピーダンスが互いに異なり、前記圧電フィルタに対する信号の入出力方向を切換えて、信号の通過帯域幅の広狭を切換える圧電フィルタ装置であって、
当該圧電フィルタ装置の入力端子を、前記圧電フィルタの前記入力側、又は、前記出力側に切換接続すると共に、当該圧電フィルタ装置の出力端子を、前記圧電フィルタの前記出力側、又は、前記入力側に切換接続することによって、前記信号の前記入出力方向を切換える切換え手段を備える
【0010】
本発明によれば、二つの圧電フィルタ素子の中心周波数を互いにずらすと共に、二つの圧電フィルタ素子が縦続接続されてなる圧電フィルタの入力側と出力側のインピーダンスを異ならせているので、圧電フィルタに対する信号の入出力方向を切換えることによって、二つの圧電フィルタ素子のフィルタ特性を、前記中心周波数のずれが大きくなる、又は、小さくなるようにシフトさせることができ、これによって、両圧電フィルタ素子のフィルタ特性が合成されて、信号の通過帯域幅を狭くする、又は、広くすることができる。また、一つの圧電フィルタとこれらに接続される一つの回路のみで構成できるので、省スペース化に有利な構成とできる。
また、切換え手段を制御することによって、圧電フィルタに対する信号の入出力方向を容易に切換えることができる。
【0011】
前記圧電基板を二枚とし、前記二つの各圧電フィルタ素子の前記入力電極、前記出力電極及び前記共通電極が、各一枚の圧電基板にそれぞれ形成されるのが好ましい。
【0012】
この構成によれば、個別の各圧電基板に、入力電極、出力電極及び共通電極が形成されて圧電フィルタ素子がそれぞれ構成されるので、互いに音響的に分離されることになり、共通の圧電基板に、二つの圧電フィルタ素子の入力電極、出力電極及び共通電極を形成する構成に比べて、スプリアスを抑制してフィルタ特性を向上させることができる。
【0015】
当該圧電フィルタ装置の前記入力端子と前記切換え手段との間、及び、当該圧電フィルタ装置の前記出力端子と前記切換え手段との間には、前記入力側のインピーダンスと前記出力側のインピーダンスとを互いに異ならせるインピーダンス回路がそれぞれ設けられるのが好ましい。
【0016】
この構成によれば、インピーダンス回路によって、圧電フィルタの入力側と出力側のインピーダンスを、それぞれ設定することができる。
【0017】
前記圧電基板が、水晶基板であるのが好ましい。
【0018】
この構成によれば、周波数温度特性が良好となる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように本発明によれば、圧電フィルタに対する信号の入出力方向を切換えることによって、二つの圧電フィルタ素子のフィルタ特性を、その中心周波数のずれが大きくなる、又は、小さくなるようにシフトされることができ、これによって、両圧電フィルタ素子のフィルタ特性が合成されて、信号の通過帯域幅を狭くする、又は、広くすることができる。
【0020】
したがって、単一の圧電フィルタによって、信号の通過帯域幅を、広狭に切換えることができ、例えば、業務用無線機において、当該圧電フィルタ装置を、アナログ方式及びデジタル方式の両方式に兼用することができる。これによって、信号の通過帯域幅の異なるアナログ方式用の圧電フィルタとデジタル方式用の圧電フィルタとの二つの圧電フィルタを必要とする従来例の業務用無線機に比べて、コストを低減できると共に、省スペースを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は本発明の一実施形態の圧電フィルタ装置の概略構成図である。
図2図2図1の圧電フィルタの縦断面図である。
図3図3図2の圧電フィルタの蓋体を外した状態の平面図である。
図4図4図2の圧電フィルタの構成を示す模式図である。
図5図5は圧電フィルタに対する信号の入出力方向を切換えた状態の図1に対応する概略構成図である。
図6図6は圧電フィルタに対する信号の入出力方向を切換えてデジタル方式又アナログ方式にしたときのフィルタ特性を示す図であり、(a)がデジタル方式のときのフィルタ特性を、(b)がアナログ方式のときのフィルタ特性を示している。
図7図7は圧電フィルタに対する信号の入出力方向がデジタル方式のときのフィルタ特性を説明するための図である。
図8図8は圧電フィルタに対する信号の入出力方向がアナログ方式のときのフィルタ特性を説明するための図である。
図9図9は圧電フィルタに対する信号の入出力方向を切換えてデジタル方式又アナログ方式にしたときの広域におけるフィルタ特性を示す図であり、(a)がデジタル方式のときのフィルタ特性を、(b)がアナログ方式のときのフィルタ特性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る圧電フィルタ装置1の概略構成図である。
【0024】
この実施形態の圧電フィルタ装置1は、圧電フィルタ2と、この圧電フィルタ2に対する信号の入出力方向を切換える切換え手段としての第1,2切換えスイッチ3,4と、圧電フィルタ2の入力側及び出力側のインピーダンスを異ならせるための第1,第2インピーダンス回路5,6とを備えている。
【0025】
本発明では、圧電フィルタ2に対する信号の入出力方向を切換えるのであるが、先ず、信号の入出力方向を切換えていない状態、すなわち、従来と同じ信号の入出力方向を前提として、圧電フィルタ2の構成について説明する。なお、図1は、信号の入出力方向を切換えていない状態、すなわち、従来と同じ信号の入出力方向の状態を示している。
【0026】
この実施形態の圧電フィルタ2は、後述のように2ポール型の二つの圧電フィルタ素子を縦続接続した4ポール型の圧電フィルタである。
【0027】
図2は、図1の圧電フィルタ2の縦断面図であり、図3は、図2の圧電フィルタ2の蓋体10を外した状態の平面図であり、図4は、図2の圧電フィルタ2の構成を示す模式図である。
【0028】
この実施形態の圧電フィルタ2は、セラミック製のベース7と、このベース7内に格納される二つの第1,第2圧電フィルタ素子8,9と、ベース7を気密封止する蓋体10とを備えている。蓋体10は、例えばコバールなどの金属板からなる。
【0029】
この実施形態のベース7は、アルミナ等を母材とするセラミック多層基板からなる。この実施形態では、ベース7は、平面視略矩形の平板状の下層7aと、当該下層7a上部に形成した段部を構成する中層7bと、当該中層7b上の外周部に形成した枠部を構成する上層7cとの3層構成である。ベース7では、これら3層7a~7cによって、第1,第2圧電フィルタ素子8,9を収納保持する段部を有する収納凹部13が構成される。
【0030】
第1,第2圧電フィルタ素子8,9は、例えばATカットの水晶基板からなる第1,第2圧電基板11,12をそれぞれ備えている。
【0031】
ベース7の中層7bの上面、すなわち、ベース7の収納凹部13の段部には、第1圧電基板11を電気機械的に保持搭載するための第1入力パッド14と、第1出力パッド15と、第1アースパッド16とが形成されている。同様に、第2圧電基板12を電気機械的に保持搭載するための第2入力パッド17と、第2出力パッド18と、第2アースパッド19とが形成されている。
【0032】
第1圧電フィルタ素子8の第1圧電基板11の一方の主面である裏面(下面)には、それぞれ矩形の入力電極111と出力電極112が間隔を空けて並列して形成されている。これら各電極111,112は、第1圧電基板11の対向する角部に引き出され、上記第1入力パッド14及び第1出力パッド15に、導電性接着剤20によって、それぞれ電気的に接続されている。
【0033】
第1圧電基板11の他方の主面である表面(上面)には、前記入力電極111及び出力電極112に対応した矩形のアース電極である共通電極113が形成されている。この共通電極113は、第1圧電基板11の他の角部に引き出され、上記第1アースパッド16に、導電性接着剤20によって電気的に接続されている。
【0034】
第2圧電フィルタ素子9の第2圧電基板12においても第1圧電基板11と同様に裏面には、それぞれ矩形の入力電極121及び出力電極122が形成されている。これら各電極121,122は、第2圧電基板12の対向する角部に引き出され、上記第2入力パッド17及び第2出力パッド18に、導電性接着剤20によって電気的に接続されている。第2圧電基板12の表面には、前記入力電極121及び前記出力電極122に対応した矩形のアース電極である共通電極123が形成されている。この共通電極123は、第2圧電基板12の他の角部に引き出され、上記第2アースパッド19に、導電性接着剤20によって電気的に接続されている。
【0035】
ベース7の底面には、図1及び図4に示される表面実装用の6つの第1~第6外部接続端子21~26が形成されている。これらの外部接続端子21~26は、ベース7内部に形成された図示しない配線(配線パターンやビア等)を介して、第1入力パッド14、第1出力パッド15、第1アースパッド16、第2入力パッド17、第2出力パッド18、第2アースパッド19と電気的に接続されている。したがって、これら外部接続端子21~26は、各パッド14~19及び導電性接着剤20を介して、第1,第2圧電基板11,12の各電極111~113,121~123にそれぞれ電気的に接続されている。
【0036】
具体的には、図4に示すように、第1圧電基板11の入力電極111と第1外部接続端子21、第1圧電基板11の共通電極113と第2外部接続端子22、第1圧電基板11の出力電極112と第3外部接続端子23とがそれぞれ接続されている。
【0037】
また、第2圧電基板12の出力電極122と第4外部接続端子24、第2圧電基板12の共通電極123と第5外部接続端子25、第2圧電基板12の入力電極121と第6外部接続端子26とがそれぞれ接続されている。
【0038】
なお、図1及び図4では、各外部接続端子21~26の各端子番号(ピン番号)♯1~♯6を併せて示しており、1番端子♯1である第1外部接続端子21が従来の入力端子、4番端子♯4である第4外部接続端子24が従来の出力端子にそれぞれ相当する。
【0039】
第1圧電基板11の共通電極113に接続された第2外部接続端子22及び第2圧電基板12の共通電極123に接続された第5外部接続端子25は、図1に示すように、GND端子としてそれぞれ接地される。
【0040】
第1圧電フィルタ素子8の出力電極112に接続された第3外部接続端子23と、第2圧電フィルタ素子9の入力電極121に接続された第6外部接続端子26とが、カップリングコンデンサC3に共通に接続される。
【0041】
このように第1圧電フィルタ素子8の出力電極112と、第2圧電フィルタ素子9の入力電極121とが互いに接続され、2ポール型の二つの第1,第2圧電フィルタ素子8,9が縦続接続された4ポール型の圧電フィルタ2が構成される。
【0042】
以上が、信号の入出力方向を切換えていない状態、すなわち、従来と同じ信号の入出力方向を前提とした圧電フィルタ2の構成である。
【0043】
この実施形態では、図3の破線で示すように、第1圧電フィルタ素子8の矩形の入出力電極111,112のアスペクト比と、第2圧電フィルタ素子9の矩形の入出力電極121,122のアスペクト比とを異ならせて、入出力電極111,112は長方形に近い形状、入出力電極121,122は正方形に近い形状とし、スプリアスを抑制している。なお、両圧電フィルタ素子8,9の電極形状は、同じにしてもよい。
【0044】
この実施形態の圧電フィルタ装置1は、アナログ方式からデジタル方式への移行が進められている業務用無線機、例えば、アウトドア用のトランシーバに用いられる。
【0045】
この実施形態の圧電フィルタ装置1では、単一の圧電フィルタ2によって、アナログ方式及びデジタル方式に対応できるように、次のように構成している。
【0046】
先ず、圧電フィルタ2を構成する第1圧電フィルタ素子8と第2圧電フィルタ素子9それぞれの中心周波数は互いにずれている。この実施形態では、第1圧電フィルタ素子8の中心周波数を、第2圧電フィルタ素子9の中心周波数よりも高くしている。
【0047】
上記のようにアウトドア用のトランシーバに用いられる本実施形態の圧電フィルタ装置1の公称周波数は、例えば、50.85MHzである。
【0048】
これに対して、第1圧電フィルタ素子8の中心周波数は、前記公称周波数よりも数kHz、例えば、1kHz高い方にずれている。また、第2圧電フィルタ素子9の中心周波数は、前記公称周波数よりも数kHz、例えば、1kHz低い方にずれている。したがって、この実施形態では、第1圧電フィルタ素子8の中心周波数と第2圧電フィルタ素子9の中心周波数とは、互いに2kHzずれている。
【0049】
かかる圧電フィルタ素子8,9の中心周波数の調整は、例えば、各圧電フィルタ素子8,9の各電極111~113,121~123に対するパーシャル蒸着等によって行われる。
【0050】
圧電フィルタ装置1は、アナログ方式とデジタル方式とで、圧電フィルタ2に対する信号の入出力方向を切換える。このため、図1に示すように、上記第1,第2切換えスイッチ3,4を備えている。
【0051】
更に、圧電フィルタ装置1では、圧電フィルタ2の入力側のインピーダンスと出力側のインピーダンスとを異ならせている。このため、圧電フィルタ装置1は、上記第1,第2インピーダンス回路5,6を備えている。
【0052】
第1インピーダンス回路5は、当該圧電フィルタ装置1の入力端子27と第1切換えスイッチ3との間に設けられ、第1抵抗R1及び第1コンデンサC1を備えている。また、第2インピーダンス回路6は、当該圧電フィルタ装置1の出力端子28と第2切換えスイッチ4との間に設けられ、第2抵抗R2及び第2コンデンサC2を備えている。
【0053】
この実施形態では、入力側である第1インピーダンス回路5のインピーダンスは、例えば、360Ω//9pFであり、出力側である第2インピーダンス回路6のインピーダンスは、例えば、160Ω//5pFである。
【0054】
第1切換えスイッチ3は、圧電フィルタ2の1番端子(♯1)である第1外部接続端子21に接続された可動接点3aと、第1,第2固定接点3b,3cとを備えている。第1固定接点3bは、第1インピーダンス回路5に接続されると共に、第2切換えスイッチ4の第2固定接点4cに接続されている。第2固定接点3cは、第2切換えスイッチ4の第1固定接点4bに接続されている。
【0055】
第2切換えスイッチ4は、圧電フィルタ2の4番端子(♯4)である第4外部接続端子24に接続された可動接点4aと、第1,第2固定接点4b,4cとを備えている。第1固定接点4bは、第2インピーダンス回路6に接続されると共に、上記のように第1切換えスイッチ3の第2固定接点3cに接続されている。
【0056】
この実施形態では、デジタル方式のときには、第1,第2切換えスイッチ3,4の可動接点3a,4aを、図1に示すように、第1固定接点3b,4b側に接続する。これによって、入力端子27からの信号を、第1インピーダンス回路5を介して圧電フィルタ2の1番端子(♯1)である第1外部接続端子21に入力し、第1圧電フィルタ素子8及び第2圧電フィルタ素子9を介して、圧電フィルタ2の4番端子(♯4)である第4外部接続端子24から出力し、第2インピーダンス回路6を介して出力端子28から出力する。
【0057】
また、アナログ方式のときには、図5に示されるように、第1,第2切換えスイッチ3,4の可動接点3a,4aを、第2固定接点3c,4c側に切換え接続する。これによって、入力端子27からの信号を、第1インピーダンス回路5、第1切換えスイッチ3及び第2切換えスイッチ4を介して圧電フィルタ2の4番端子(♯4)である第4外部接続端子24に入力し、第2圧電フィルタ素子9及び第1圧電フィルタ素子8を介して、圧電フィルタ2の1番端子(♯1)である第1外部接続端子21から出力し、第2インピーダンス回路6を介して出力端子28から出力する。
【0058】
このように第1,第2切換えスイッチ3,4を切換えて、圧電フィルタ2に対する信号の入出力方向を切換えることによって、中心周波数が互いにずれている縦続接続された第1,第2圧電フィルタ素子8,9に対する信号の入出力方向を切換え、デジタル方式のときには、信号の通過帯域幅を狭く、アナログ方式のときには、信号の通過帯域幅を広くしている。

図6は、この実施形態の圧電フィルタ装置1において、信号の入出力方向を切換えたときのフィルタ特性を示す図であり、同図(a)がデジタル方式のときのフィルタ特性を示し、同図(b)がアナログ方式のときのフィルタ特性を示している。図6において縦軸は信号の減衰量(dB)、横軸は信号の周波数(kHz)を示す。縦軸は、Scale 1dB、すなわち、1dB/divであり、横軸は、Center 50.85MHz、Span 50kHz、すなわち、中心周波数50.85MHzを中心とした±25kHzの範囲であって、スケール5kHz/divである。
【0059】
この実施形態では、デジタル方式のときの信号の通過帯域幅は、10kHz/3dBであるのに対して、アナログ方式のときの信号の通過帯域幅は、12.5kHz/3dBと広くすることができる。
【0060】
次に、圧電フィルタ2に対する信号の入出力方向を切換えることによって、信号の通過帯域幅が変化することについて説明する。
【0061】
図7は圧電フィルタ2に対する信号の入出力方向がデジタル方式のとき、すなわち、信号を、圧電フィルタ2の第1番端子♯1である第1外部接続端子21から入力し、第4番端子♯4である第4外部接続端子24から出力したときのフィルタ特性を説明するための図である。
【0062】
図8は圧電フィルタ2に対する信号の入出力方向がアナログ方式のとき、すなわち、信号を、圧電フィルタ2の第4番端子♯4である第4外部接続端子24から入力し、第1番端子♯1である第1外部接続端子21から出力したときのフィルタ特性を説明するための図である。
【0063】
図7及び図8において、(a)は圧電フィルタ2の入力側及び出力側のインピーダンスが同じ場合の第1圧電フィルタ素子8のフィルタ特性P1及び第2圧電フィルタ素子9のフィルタ特性P2を示している。この図7(a),図8(a)に示されるように、第1圧電フィルタ素子8の中心周波数と第2圧電フィルタ素子9の中心周波数とは、周波数S、この例では、上記のように2kHzずれている。
【0064】
この実施形態では、上記のように圧電フィルタ2の入力側のインピーダンスが、出力側のインピーダンスよりも大きい。
【0065】
このように入力側のインピーダンスが、出力側のインピーダンスよりも大きい場合には、入力側となる圧電フィルタ素子のフィルタ特性が、周波数が高い側(プラス側)へシフトし、出力側となる圧電フィルタ素子のフィルタ特性が、周波数が低い側(マイナス側)へシフトする。
【0066】
したがって、デジタル方式では、図7(b)に示すように、入力側となる第1圧電フィルタ素子8のフィルタ特性P1が、周波数が高い側にシフトし、出力側となる第2圧電フィルタ素子9のフィルタ特性P2が、周波数の低い側にシフトし、第1,第2圧電フィルタ素子8,9の中心周波数のずれが大きくなる。
【0067】
その結果、第1,第2圧電フィルタ素子8,9のフィルタ特性を合成すると、図7(c)に示すように、信号の通過帯域幅は狭くなり、デジタル方式に対応したものとなる。
【0068】
これに対して、信号の入出力方向を逆にしたアナログ方式では、図8(b)に示すように、入力側となる第2圧電フィルタ素子9のフィルタ特性P2が、周波数が高い側にシフトし、出力側となる第1圧電フィルタ素子8のフィルタ特性P1が、周波数が低い側にシフトし、第1,第2圧電フィルタ素子8,9の中心周波数のずれが小さくなる。
【0069】
その結果、第1,第2圧電フィルタ素子8,9のフィルタ特性を合成すると、図8(c)に示すように、信号の通過帯域幅は広くなり、アナログ方式に対応したものとなる。
【0070】
第1,第2圧電フィルタ素子8,9のフィルタ特性P1,P2のシフト量は、圧電フィルタ2の入力側のインピーダンスと出力側のインピーダンスとの差によって、調整することができる。圧電フィルタ2の入力側のインピーダンスと出力側のインピーダンスとの差を大きくすることによって、シフト量を大きくすることができる。
【0071】
この実施形態では、圧電フィルタ2の入力側のインピーダンスが、出力側のインピーダンスよりも大きいので、入力側となる圧電フィルタ素子のフィルタ特性が、周波数が高い側へシフトし、出力側となる圧電フィルタ素子のフィルタ特性が、周波数が低い側へシフトした。
【0072】
これに対して、圧電フィルタ2の入力側のインピーダンスが、出力側のインピーダンスより小さいときには、上記とは逆に、入力側となる圧電フィルタ素子のフィルタ特性が、周波数が低い側へシフトし、出力側となる圧電フィルタ素子のフィルタ特性が、周波数が高い側へシフトする。
【0073】
したがって、この場合には、信号を、圧電フィルタ2の第1番端子♯1である第1外部接続端子21から入力し、第4番端子♯4である第4外部接続端子24から出力したときには、上記図8(c)と同じフィルタ特性、すなわち、アナログ方式に対応した信号の通過帯域幅の広いフィルタ特性となる。また、信号を、圧電フィルタ2の第4番端子♯4である第4外部接続端子24から入力し、第1番端子♯1である第1外部接続端子21から出力したときには、上記図7(c)と同じフィルタ特性、すなわち、デジタル方式に対応した信号の通過帯域幅の狭いフィルタ特性となる。
【0074】
すなわち、上記の実施形態とは、アナログ方式とデジタル方式とが逆になる。
【0075】
図9は、この実施形態の圧電フィルタ装置1において、信号の入出力方向を切換えたときの広域のフィルタ特性を示す図であり、同図(a)がデジタル方式のときのフィルタ特性を示し、同図(b)がアナログ方式のときのフィルタ特性を示している。
【0076】
この図9に示されるように、信号の通過帯域以外では、デジタル方式とアナログ方式のフィルタ特性は全く同じである。
【0077】
以上のように本実施形態によれば、単一の圧電フィルタ2に対する信号の入出力方向を切換えることによって、信号の通過帯域幅を広狭に切換えることができる。したがって、本実施形態の圧電フィルタ装置1を備える業務用無線機では、当該圧電フィルタ装置1を、アナログ方式及びデジタル方式に兼用することができる。
【0078】
これによって、信号の通過帯域幅の異なるアナログ方式用の圧電フィルタとデジタル方式用の圧電フィルタとの二つの圧電フィルタを必要とする従来例の業務用無線機に比べて、圧電フィルタの数を減らすことができ、その分、コストを低減できると共に、省スペースを図ることができる。
【0079】
また、第1,第2圧電フィルタ素子8,9は、個別の圧電基板11,12に、電極111~113,121~123がそれぞれ形成されて構成されているので、互いに音響的に分離され、スプリアスの少ない高品質なものとなる。
【0080】
更に、圧電フィルタ4は、2ポール型の圧電フィルタ素子8,9の中心周波数を互いにずらす以外は、既存の4ポール型の圧電フィルタと同様の基本構成を有するので、既存の4ポール型の圧電フィルタの設計を大きく変更することなく、安価に実施できる。
【0081】
本発明の他の実施形態として、単一の共通の圧電基板に、電極111~113,121~123をそれぞれ形成して各圧電フィルタ素子8,9を構成してもよい。
【0082】
上記実施形態では、第1圧電フィルタ素子8の電極111~113の面積と、第2圧電フィルタ素子9の電極121~123の面積は同じであったが、本発明の他の実施形態として、一方の圧電フィルタ素子の電極の面積を、他方の圧電フィルタ素子の電極の面積に比べて、最大で40%程度小さくしてもよい。
【0083】
例えば、第1圧電フィルタ素子8の電極111~113の面積を、第2圧電フィルタ素子9の電極121~123の面積より小さくすると、リップルが大きくなる特性となり、信号の通過帯域幅を一層狭くすることができる。
【0084】
なお、電極の面積を、前記40%を超えて小さくすると、挿入損失が増大して好ましくない。
【0085】
上記実施形態では、業務用無線機のアナログ方式とデジタル方式とに対応した信号の通過帯域幅の切換えに適用したが、本発明は、かかる用途に限るものではなく、例えば、複数の通信チャンネルにおいて、帯域幅の広いチャンネルと帯域幅の狭いチャンネルとに対応した信号の通過帯域幅の切換えに適用してもよい。
【0086】
上記実施形態では、圧電基板として水晶基板を用いたが、圧電特性を有するセラミック基板や多結晶基板を用いてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 圧電フィルタ装置
2 圧電フィルタ
3 第1切換えスイッチ
4 第2切換えスイッチ
5 第1インピーダンス回路
6 第2インピーダンス回路
7 ベース
8 第1圧電フィルタ素子
9 第2圧電フィルタ素子
11 第1圧電基板
12 第2圧電基板
21 第1外部接続端子
24 第4外部接続端子
27 入力端子
28 出力端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9