(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】シート状物
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
D06N3/00
(21)【出願番号】P 2017567502
(86)(22)【出願日】2017-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2017046354
(87)【国際公開番号】W WO2018135243
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2017009507
(32)【優先日】2017-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古井 孝宜
(72)【発明者】
【氏名】宿利 隆司
(72)【発明者】
【氏名】小出 現
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-065980(JP,A)
【文献】国際公開第2005/095706(WO,A1)
【文献】特開2014-001475(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098271(WO,A1)
【文献】特開2000-303368(JP,A)
【文献】特開2012-214944(JP,A)
【文献】特開2004-044068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維直径が0.3~7μmの極細繊維からなる不織布と弾性体樹脂からなるシート状物であって、前記シート状物の表面には立毛を有し、
前記弾性体樹脂が、ポリウレタン樹脂であり、該ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が、3万~15万であって、さらに、前記弾性体樹脂が多孔構造を有しており、前記多孔構造の全孔に占める孔径0.1~20μmの微細孔の割合が60%以上であることを特徴とするシート状物。
【請求項2】
弾性体樹脂が、不織布の内部空間に存在していることを特徴とする請求項1記載のシート状物。
【請求項3】
弾性体樹脂が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載のシート状物。
【請求項4】
弾性体樹脂中の多孔構造における孔の単位断面積あたりの個数が50個以上/1600μm
2であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか記載のシート状物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物、特に立毛調皮革様のシート状物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維からなる不織布等の基材にポリウレタン樹脂を含浸させたシート状物の表面を、サンドペーパーなどを用いて繊維を立毛させることによって、スエードやヌバックライクの立毛調皮革様シート状物を得ることは広く知られている。目的とする立毛調皮革様シート状物の特性は、繊維からなる基材とポリウレタン樹脂の組み合わせにより、任意に幅広く設計することができる。
【0003】
例えば、特定の構造を有するポリカーボネートポリオールと芳香族ポリイソシアネートを反応して得られるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を用いることにより、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の柔軟性を改善し、サンドペーパーなどによる研削性の向上と、それによって発現する好ましい極細繊維の立毛長、および立毛による優美な外観やしなやかな表面タッチと柔軟な風合いを有する人工皮革を得られることが提案されている(特許文献1参照。)。
【0004】
立毛調皮革様シート状物は、天然皮革に酷似した外観や表面を有し、かつ天然皮革にはない均一性や染色堅牢性などの長所が認められ、衣料用途に加えて、近年、ソファーなどの家具の表皮や自動車用のシート表皮など、長期にわたって使用される用途に広がりを見せている。中でも衣料用途においては、優れた柔軟性と耐折れシワ性を両立させる人工皮革が求められている。
【0005】
前記の提案では、従来課題とされていたポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の硬さに対して、ポリウレタン樹脂を構成するポリカーボネートポリオールを特定の構造のものとすることにより、柔軟な人工皮革を得られることが提案されている。しかしながら、衣料用途のように柔軟な風合いが求められる用途においては、柔軟性はなお十分なものではなかった。
【0006】
また、植物由来のポリカーボネートポリオールを用いたポリウレタン樹脂を有することにより、優れた低温屈曲性と環境負荷低減に寄与する合成皮革を得られることが提案されている(特許文献2参照。)。しかしながら、この提案では、様々な分子量を有する無孔質のポリウレタン樹脂層と繊維布帛からなる合成皮革に関しては詳細に検討されている一方で、柔軟な風合いや耐折れシワ性を有する立毛調の人工皮革に関しては何ら検討されていなかった。
【0007】
また、ポリウレタン樹脂に特定の凝固調整剤を添加して微細孔を有する多孔質層を形成し、それを研削によって毛羽立てることにより、色調が変化しない優美な外観を有するスエード調皮革様シートを得られる方法が提案されている(特許文献3参照。)。しかしながら、この提案では、様々な分子量を有する無孔質のポリウレタン樹脂層、および表面層と繊維基体層に近い部分とで孔径を調整することにより、良好な風合いを達成しているが、柔軟性と耐折れシワ性を両立させる点については何ら検討されておらず、また多孔質ポリウレタン樹脂層を有することから柔軟性が損なわれていた。
【0008】
また別に、水分散型ポリウレタン樹脂の内部に直径10~200μmの孔を含ませることにより、ポリウレタン樹脂が良好な研削性を有するものとなり、サンドペーパーなどで研削することにより立毛を有する優美な外観のシート状物を得られる方法が提案されている(特許文献4参照。)。しかしながら、この提案では、ポリウレタン樹脂層内部の孔が20μmを超える粗大な孔である場合、孔同士の間にあるポリウレタン樹脂層の孔膜が厚くなり、ポリウレタン樹脂の研削性を高める効果と柔軟性を高める効果が十分に発揮されず、衣料用途など複雑な形状に沿って柔軟に変形することを要求される用途において十分な柔軟性とすることは困難であった。また、微細で均一な孔を得ることは困難であった。
【0009】
さらに、特定の孔径を有する多孔質の高分子弾性体と多孔中空繊維不織布からなる、軽量でしなやかな風合いを有する皮革様基材が得られることが提案されている(特許文献5参照。)。しかしながら、この提案では、多孔構造を有することにより柔軟な風合いとなり、均一であるが折れシワが残ることから、柔軟性と耐折れシワ性を両立することは困難であった。
【0010】
以上のように、従来の技術では、柔軟性と耐折れシワ性の双方に優れた立毛調皮革様シート状物を、安定的に得ることは極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】WO2005/095706号
【文献】特開2014-1475号公報
【文献】特開2000-303368号公報
【文献】特開2011-214210号公報
【文献】特開2012-214944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の背景に鑑み、柔軟性に優れた風合いと、さらには柔軟でありながらも高い耐折れシワ性を兼ね備えた立毛調皮革様のシート状物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記課題を解決せんとするものであって、本発明のシート状物は、平均単繊維直径が0.3~7μmの極細繊維からなる不織布と弾性体樹脂からなるシート状物であって、前記のシート状物の表面には立毛を有し、前記の弾性体樹脂が多孔構造を有しており、前記の多孔構造の全孔に占める孔径0.1~20μmの微細孔の割合が60%以上のシート状物である。
【0014】
本発明のシート状物の好ましい態様によれば、前記の弾性体樹脂は、不織布の内部空間に存在していることである。
【0015】
本発明のシート状物の好ましい態様によれば、前記の弾性体樹脂は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂である。
【0016】
本発明のシート状物の好ましい態様によれば、前記のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、3万~15万である。
【0017】
本発明のシート状物の好ましい態様によれば、前記の弾性体樹脂中の多孔構造における孔の単位断面積あたりの個数は、50個以上/1600μm2である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、柔軟性に富む高い風合いと耐折れシワ性を両立する立毛調皮革様シート状物が得られる。具体的には、本発明により、立毛による優美な外観を有し、さらに柔軟性と耐折れシワ性にも優れた立毛調皮革様シート状物が得られる。ここで、柔軟性に富む高い風合いとは、衣料用途であれば、シート状物を複雑な立体形状に仕上げることができ、さらに身体の動きに追従して変形して良好な着心地を提供できることを指し、家具や自動車内装材等の用途においては、複雑な立体形状に沿ったシート状物の成形や加工を可能とし、人が座るなどの変形に対しても柔軟に追従して良好な使用感を提供できることを指す。また、耐折れシワ性とは、折れシワ回復性に優れることであり、前記した使用時の変形等で荷重のかかるシワが発生した場合においても、荷重から開放された後、シワが跡を残すことなく回復することを指す。耐折れシワ性を発現させるにはシート状物に適度な弾性を付与する必要があり、柔軟性と相反する性質であることから、柔軟性および耐折れシワ性を両立させるのは困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のシート状物は、平均単繊維直径が0.3~7μmの極細繊維からなる不織布と弾性体樹脂からなるシート状物であって、前記のシート状物の表面には立毛を有し、前記の弾性体樹脂が多孔構造を有しており、前記の多孔構造の全孔に占める孔径0.1~20μmの微細孔の割合が60%以上のシート状物である。
【0020】
本発明のシート状物は、上記のように、極細繊維からなる不織布と弾性体樹脂からなるものである。
【0021】
本発明で用いられる不織布を構成する極細繊維の素材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステルや、6-ナイロンおよび66-ナイロンなどのポリアミドなどの、溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂を用いることができる。なかでも、強度、寸法安定性および耐光性の観点から、ポリエステルが好ましく用いられる。また、不織布には、異なる他の素材の極細繊維を混合させることができる。
【0022】
不織布を構成する単繊維の断面形状としては、丸断面でよいが、楕円、扁平および三角などの多角形や、扇形および十字型などの異形断面形状のものを採用することができる。
【0023】
不織布を構成する極細繊維の平均単繊維直径は、シート状物の柔軟性や立毛品位の観点から7μm以下であることが重要である。平均単繊維直径は、より好ましくは6μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である。一方、染色後の発色性やバフィングによる立毛処理時の束状繊維の分散性、およびさばけ易さの観点からは、平均単繊維直径は、0.3μm以上であることが重要である。平均単繊維直径は、より好ましくは0.7μm以上であり、さらに好ましくは1μm以上である。
【0024】
ここでいう平均単繊維直径は、得られたシート状物を厚み方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、任意の50本の極細繊維の繊維径を3ヶ所で測定して、合計150本の繊維径の平均値を算出して求められるものである。
【0025】
本発明で用いられる極細繊維を得る手段としては、極細繊維発生型繊維を用いることが好ましい態様である。極細繊維発生型繊維は、溶剤に対する溶解性が異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、海成分だけを溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とすることを可能にする海島型複合繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面放射状あるいは層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊することを可能にする剥離型複合繊維や多層型複合繊維などを採用することができる。
【0026】
不織布は、極細繊維の単繊維それぞれが絡合してなる不織布や、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布を用いることができるが、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布が、シート状物の強度や風合いの観点から好ましく用いられる。さらに、柔軟性や風合いの観点から特に好ましくは、繊維束の内部の極細繊維間に適度な空隙を有する不織布が用いられる。このように、極細繊維の繊維束が絡合されてなる不織布は、極細繊維発生型繊維をあらかじめ絡合した後に極細繊維を発生させることによって得ることができる。また、繊維束の内部の極細繊維間に適度な空隙を有するものは、海成分を除去することによって島成分の間、すなわち繊維束の内部の極細繊維間に適度な空隙を与えることができる海島型複合繊維を用いることによって得ることができる。
【0027】
不織布としては、短繊維不織布および長繊維不織布のいずれも用いることができるが、風合いや品位の観点から短繊維不織布が好ましく用いられる。
【0028】
短繊維不織布における短繊維の繊維長は、25~90mmであることが好ましい。繊維長を25mm以上とすることにより、絡合により耐摩耗性に優れたシート状物を得ることができる。また、繊維長を90mm以下とすることにより、より風合いや品位に優れたシート状物を得ることができる。繊維長は、より好ましくは35~80mmであり、特に好ましくは40~70mmである。
【0029】
極細繊維あるいはその繊維束が不織布を構成する場合、その内部に強度を向上させるなどの目的で、織物や編物を挿入することができる。用いられる織物や編物を構成する繊維の平均単繊維直径は、0.3~10μm程度であることが好ましい。
【0030】
本発明で用いられる弾性体樹脂は、多孔構造を有しており、多孔構造の全孔に占める孔径0.1~20μmの微細孔の割合は、60%以上である。この微細孔の割合は、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。また、多孔構造は、連通孔と独立気泡も採用することができる。このように、弾性体樹脂中に微細孔を一定の割合以上有することにより、弾性樹脂の柔軟性を高めることができ、シート状物を柔軟性に富んだ風合いを有するものとすることができる。弾性体樹脂をこのような微細孔を有する多孔構造とするには、弾性体樹脂を不織布に固定する方法として、後述する湿式凝固を用いることが好ましい。
【0031】
さらに弾性体樹脂を微細孔を有する多孔構造とすることにより、シート状物に折り曲げ変形を加えた際に、変形の力を弾性樹脂の一部ではなく、全体で分散して受けることができるため、弾性樹脂の座屈を伴う折れシワの発生が抑えられ、優れた耐折れシワ性を有するシート状物とすることができる。
【0032】
また、弾性体樹脂の多孔構造の全孔のうち、60%以上の孔の孔径は、0.1μm以上であることが重要である。好ましくは0.5μm以上であり、より好ましくは1μm以上である。前記の孔径を0.1μm以上とすることにより、弾性樹脂の柔軟性を高めるとともに、変形に対するクッション性を高めることができる。一方で、弾性体樹脂の多孔構造の全孔のうち、60%以上の孔の孔径は、20μm以下であることも重要である。好ましくは15μm以下であり、より好ましくは10μm以下である。前記の孔径を20μm以下とすることにより、多孔構造の孔密度を高めることができ、柔軟性と適度な強度を両立することができ、また弾性体樹脂全体で変形の力を受けることができるため、柔軟性と耐折れシワ性に優れたシート状物とすることができる。
【0033】
さらに、弾性体樹脂の多孔構造中の孔の単位面積あたりの数は、50個/1600μm2以上であり、好ましくは70個/1600μm2以上であり、より好ましくは100個/1600μm2以上である。一方、多孔構造中の孔の単位面積あたりの数は、好ましくは1000個/1600μm2以下であり、より好ましくは800個/1600μm2以下である。
【0034】
前記の単位面積あたりの孔数を50個/1600μm2以上とすることにより、多孔構造を柔軟な風合いにするとともに、複数の孔によってシートの折り曲げ変形の力で受けることができ、優れた耐折れシワ性を付与することができる。単位面積あたりの孔数が少なすぎると、特定の孔に変形の力が集中して座屈し、折れシワ回復性に劣るものとなる。また、単位面積あたりの孔数が多すぎると、孔の変形余地が小さくなりすぎ、変形の力を分散できなくなり、折れシワ回復性に劣るものとなる。
【0035】
本発明で用いられる弾性体樹脂は、シート状物中で極細繊維同士を把持しており、シート状物の少なくとも片面に立毛を有する観点から、不織布の内部空間に存在していることが好ましい態様である。
【0036】
本発明で用いられる弾性体樹脂としては、シート状物中で均一な微細孔を有するものとする点において、ポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。また、ポリウレタン樹脂としては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートとの反応により得られるポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。
【0037】
ポリマージオールとしては、例えば、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系、シリコーン系およびフッ素系のポリマージオールを採用することができ、これらを組み合わせた共重合体を用いることもできる。
【0038】
ポリウレタン樹脂に適度な剛性を付与することができ、微細孔を有する多孔構造を形成することにより、優れた柔軟性を発揮することができ、さらにポリウレタン樹脂が座屈することなく、高い耐折れシワ性を発揮することができることから、ポリカーボネート系のポリマージオールが好ましく用いられる。
【0039】
ポリカーボネート系ジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルのエステル交換反応、あるいはホスゲンまたはクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって製造することができる。
【0040】
アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオールなどの分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、および、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。それぞれ単独のアルキレングリコールから得られるポリカーボネート系ジオールでも、2種類以上のアルキレングリコールから得られる共重合ポリカーボネート系ジオールのいずれも用いることができる。
【0041】
ポリエステル系ジオールとしては、各種の低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルジオールを挙げることができる。
【0042】
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、およびシクロヘキサン-1,4-ジメタノールから選ばれる一種または二種以上を使用することができる。また、低分子量ポリオールとして、ビスフェノールAに、各種アルキレンオキサイドを付加させた付加物も使用可能である。
【0043】
また、多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。
【0044】
ポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、およびそれらを組み合わせた共重合ジオールを挙げることができる。
【0045】
ポリマージオールの数平均分子量は、500~5000であることが好ましい態様である。数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、風合いが硬くなることを防ぐことができる。また、数平均分子量を5000以下、より好ましくは4000以下とすることにより、ポリウレタン樹脂としての強度を維持することができる。
【0046】
ポリウレタン樹脂の合成に用いられる有機ジイソシアネートとしては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、パラキシレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート、および1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートを挙げることができる。中でも、得られるポリウレタン樹脂の強度と耐熱性など耐久性の観点から、芳香族ジイソシアネート、特に4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0047】
ポリウレタン樹脂の合成に用いられる鎖伸長剤としては、有機ジオール、有機ジアミン、およびヒドラジン誘導体などを用いることができる。
【0048】
有機ジオールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどの脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、および水添キシリレングリコールなどの脂環式ジオール、キシレングリコールなどの芳香族ジオールを挙げることができる。
【0049】
有機ジアミンの例としては、エチレンジアミン、イソホロンジアミン、キシレンジアミン、フェニルジアミン、および4,4’-ジアミノジフェニルメタンなどを挙げることができる。
【0050】
ヒドラジン誘導体の例としては、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド、およびイソフタル酸ヒドラジドなどを挙げることができる。
【0051】
ポリウレタン樹脂には、耐水性、耐摩耗性および耐加水分解性等を向上する目的で、架橋剤を併用することができる。架橋剤は、ポリウレタンに対し、第3成分として添加する外部架橋剤でもよく、またポリウレタン分子構造内に予め架橋構造となる反応点を導入する内部架橋剤を用いることもできる。
【0052】
ポリウレタン樹脂の合成には、触媒として、例えば、トリエチルアミン、テトラメチルブタンジアミンなどのアミン類、酢酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、およびオクチル酸スズなどの金属化合物などを用いることができる。
【0053】
本発明で用いられるポリウレタン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、30,000~150,000であることが好ましく、より好ましくは50,000~130,000である。重量平均分子量(Mw)を、30,000以上とすることにより、得られるシート状物の強度を保持し、また立毛のモモケや毛玉の発生を防ぐことができる。また、重量平均分子量(Mw)を、150,000以下とすることにより、シート状物中のポリウレタン樹脂を均一な微細孔を有するものとすることができる。ポリウレタン樹脂の重量平均分子量(Mw)をこのような範囲にすることにより、後述する湿式凝固によってポリウレタン樹脂を不織布に固定した後に、非溶解性の溶剤、たとえば水を含むシート状物を加熱によって乾燥するという通常用いられる製造工程において、加熱によるポリウレタン樹脂の一時的な軟化と湿式凝固後にポリウレタン樹脂に含まれる溶解性の溶剤および非溶解性の溶剤の蒸発を起点として、均一で微細な多孔構造を得ることができるようになる。
【0054】
また、弾性体樹脂には、性能や風合いを損なわない範囲で、ポリエステル系、ポリアミド系およびポリオレフィン系などのエラストマー樹脂、アクリル樹脂、およびエチレン-酢酸ビニル樹脂などを含有させることができる。また、各種の添加剤、例えば、カーボンブラックなどの顔料、リン系、ハロゲン系および無機系などの難燃剤、フェノール系、イオウ系およびリン系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系やベンゾエート系などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤、および染料などを含有させることができる。
【0055】
本発明のシート状物は、シート状物に占める弾性体樹脂の比率が10~50質量%であることが好ましく、より好ましくは15~35質量%である。弾性体樹脂の比率を10質量%以上とすることにより、シート状物の強度を得て、かつ繊維の脱落を防ぐことができる。また、弾性体樹脂の比率を50質量%以下とすることにより、風合いが硬くなることを防ぐことができ、目的とする良好な立毛品位を得ることができる。
【0056】
また、弾性体樹脂を不織布に固定する方法としては、弾性体樹脂の溶液を不織布に含浸させ、湿式凝固または乾燥凝固する方法があるが、本発明のように均一で微細な多孔構造を得る観点から、湿式凝固が好ましく用いられる。弾性体樹脂として、ポリウレタン樹脂を付与させる際に用いられる溶媒としては、N,N’-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等を用いることができる。具体的には、溶媒に溶解した弾性体樹脂溶液に、不織布を浸漬する等により、弾性体樹脂を不織布に付与し、非溶解性の溶剤に浸漬することにより凝固させることができる。また、溶解性の溶剤と非溶解性の溶剤の混合物に浸漬して凝固させることもできる。
【0057】
本発明のシート状物は、立毛処理を行う前に、シート状物の厚み方向に半裁ないしは数枚に分割されて得ることもできる。
【0058】
また、立毛処理の前に耐電防止剤を付与することは、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなる傾向にあるため、好ましく用いることができる。
【0059】
本発明のシート状物は、最終的には、その少なくとも片面に極細繊維を立毛させた立毛調皮革様シート状物として好適に用いることができ、その立毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて研削する方法などにより施すことができる。良好な表面の繊維立毛を得るために、立毛処理の前にシリコーンエマルジョンなどの滑剤を付与することは好ましい態様である。
【0060】
本発明のシート状物は、最終的にはその少なくとも片面に極細繊維を立毛させた立毛調皮革様シート状物として好適に用いることができる。
【0061】
本発明のシート状物は、家具、椅子、壁装、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井、および内装などの表皮材として、さらには衣料における非常に優美な外観を有する表皮材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を用いて本発明のシート状物について、さらに具体的に説明する。
【0063】
[評価方法]
(1)平均単繊維直径:
シート状物の繊維を含む不織布の厚さ方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡(SEM キーエンス社製VE-7800型)を用いて3000倍で観察し、30μm×30μmの視野内で無作為に抽出した50本の単繊維直径をμm単位で、小数第1位まで測定した。ただし、これを3ヶ所で行い、合計150本の単繊維の直径を測定し、平均値を小数第1位までで算出した。繊維径が50μmを超える繊維が混在している場合には、当該繊維は極細繊維に該当しないものとして平均繊維径の測定対象から除外するものとする。また、極細繊維が異形断面の場合、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を算出することによって単繊維の直径を求めた。これを母集団とした平均値を算出し、平均単繊維直径とした。
【0064】
(2)弾性体樹脂の多孔構造の孔径および多孔構造の全孔に占める孔径0.1~20μmの微細孔の割合:
シート状物の弾性体樹脂を含む不織布の厚さ方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡(SEM キーエンス社製VE-7800型)を用いて2000倍で観察し、40μm×40μmの視野内で無作為に抽出した50個の弾性体樹脂中の孔の孔径(直径)をμm単位で、小数第1位まで測定した。ただし、これを3ヶ所で行い、合計150個の孔の孔径を測定し、150個の孔に占める孔径0.1~20μmの孔数の割合を算出し、多孔構造に占める0.1~20μmの微細孔の割合とした。また、弾性樹脂内の孔が異形孔の場合、まず孔の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を算出することによって孔の孔径(直径)を求めた。
【0065】
(3)弾性体樹脂の多孔構造中の孔の単位面積あたりの数:
シート状物の弾性体樹脂を含む不織布の厚さ方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡(SEM キーエンス社製VE-7800型)を用いて2000倍で観察し、40μm×40μmの視野内で弾性体樹脂中の孔の数を測定した。ただし、これを3ヶ所で行い、孔の数の算術平均値を多孔構造中の孔の単位面積あたりの数とした。また、多孔構造を含む弾性体樹脂が40μm×40μmの視野よりも小さい場合、視野内にある孔の数を弾性体樹脂の有効面積で除したものを1600μm2あたりの孔の数に換算して多孔構造中の孔の単位面積あたりの数とした。孔の孔径が40μm×40μmの視野よりも大きい場合、多孔構造中の孔の単位面積あたりの数は1とした。
【0066】
(4)ポリウレタン樹脂の重量平均分子量:
得られたシート状物から、N,N’-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記載することがある。)を用いてポリウレタン樹脂を抽出し、ポリウレタン樹脂濃度を1質量%となるように調整し、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)により、次の条件で測定してポリウレタン樹脂の重量平均分子量を求めた
・機器 :GPC測定機 HLC-8020(東ソー株式会社製)
・カラム:TSK gel GMH-XL(東ソー株式会社製)
・溶媒 :N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す。)
・標準試料:ポリスチレン(TSK standard polystyrene; 東ソー株式会社製)
・温度:40℃
・流量:1.0ml/分。
【0067】
(5)柔軟性:
JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の8.21「剛軟度」の、8.21.1に記載のA法(45°カンチレバー法)に基づき、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×15cmの試験片を5枚作成し、45°の角度の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求めた。柔軟性は、45mm以下を良好とした。
【0068】
(6)耐折れシワ性:
JIS L 1059-1:2009「繊維製品の防しわ性試験方法-第1部:水平折りたたみじわの回復性の測定(モンサント法)」の記載に基づき、10Nの荷重装置を用い、試験片5枚でのシワ回復角を測定して、10「しわ回復角及び防しわ率の計算」に記載の防しわ率の式によって耐折れシワ性を算出し、5枚の平均値を求めた。耐折れシワ性は、90%以上を良好とした。
【0069】
[化学物質の表記]
実施例と比較例で用いた化学物質の略号の意味は、次のとおりである。
・PU :ポリウレタン
・DMF :N,N-ジメチルホルムアミド。
【0070】
(実施例1)
海成分としてポリスチレンを用い、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用いた海島型複合繊維を、延伸し、捲縮加工し、そしてカットして不織布の原綿を得た。続いて得られた原綿を、クロスラッパーを用いて繊維ウェブとし、ニードルパンチ処理により不織布とした。
【0071】
このようにして得られた海島型複合繊維からなる不織布を、ポリビニルアルコール水溶液に含浸した後、乾燥し、その後、トリクロロエチレン中で海成分であるポリスチレンを抽出除去し、乾燥を行って、平均単繊維直径が2.0μmの極細繊維からなる不織布を得た。
【0072】
このようにして得られた極細繊維からなる不織布を、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂のDMF溶液の濃度を11%に調整した樹脂液に浸漬し、絞りロールによってポリウレタン(PU)樹脂溶液の付着量を調節した後、DMF濃度が30%の水溶液中でPU樹脂を凝固し、続いて熱水によってポリビニルアルコールおよびDMFを除去し、乾燥して、PU樹脂含有量が17質量%のシート状物を得た。このようにして得られたシート状物の片面を、180メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いて立毛処理し、次いで分散染料によって染色を施して立毛調皮革様シート状物を得た。
【0073】
得られた皮革様シート状物の内部の厚み方向断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、ポリウレタン樹脂は不織布内部にのみ存在しており、また、ポリウレタン樹脂は微細孔を有する多孔構造となっており、多孔構造の全孔に占める孔径0.1~20μmの微細孔の割合は85%であり、多孔構造中の孔の単位面積あたりの数は247個/1600μmであった。また、立毛調皮革様シート状物から抽出して測定したポリウレタン樹脂の重量平均分子量は11万であった。
【0074】
得られた立毛調皮革様シート状物は、繊維の立毛長と分散性が良好で、優れた柔軟性と耐折れシワ性を有していた。結果を、表1に示す。
【0075】
(実施例2~7、比較例1~5)
極細繊維の平均単繊維直径、ポリウレタン樹脂の種類、およびポリウレタン樹脂の重量平均分子量を、それぞれ表1に示したものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、立毛調皮革様シート状物を作製した。
【0076】
各実施例と比較例における皮革様シート状物の内部の厚み方向断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察したところ、ポリウレタン樹脂は微細孔を有する多孔構造となっており、ポリウレタン樹脂は不織布内部にのみ存在していた。
【0077】
表1に各実施例と比較例の極細繊維の平均単繊維直径、ポリウレタン樹脂の種類、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量、得られたシート状物中のポリウレタンの多孔構造の平均孔径、多孔構造の全孔に占める孔径0.1~20μmの微細孔の割合、柔軟性、および耐折れシワ性を示した。
【0078】
【0079】
実施例1~7のいずれの立毛調皮革様シート状物も、ポリウレタン樹脂は微細孔を有する多孔構造を形成しており、またポリウレタン樹脂の重量平均分子量を調整し、多孔構造中の孔の平均径および多孔構造の全孔に占める0.1~20μmの微細孔の割合、多孔構造中の孔の単位面積あたりの数、を調整することにより、優れた柔軟性および耐折れシワ性を両立している。これに対し、比較例1~5のシート状物は、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量の増大に伴い、ポリウレタン樹脂に多孔構造を形成するが、孔が粗大かつ不均一なものとなり、孔膜が厚くなることによって柔軟性が低下しており、また孔径が不均一であることによって折り曲げ変形をポリウレタン樹脂全体で受けることができず、耐折れシワ性にも劣るものとなった。