IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-試薬容器用蓋材および試薬容器 図1
  • 特許-試薬容器用蓋材および試薬容器 図2
  • 特許-試薬容器用蓋材および試薬容器 図3
  • 特許-試薬容器用蓋材および試薬容器 図4
  • 特許-試薬容器用蓋材および試薬容器 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】試薬容器用蓋材および試薬容器
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/02 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
G01N35/02 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018060500
(22)【出願日】2018-03-27
(65)【公開番号】P2019174190
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】筒井 芳朋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利幸
(72)【発明者】
【氏名】明石 秀一
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/005240(WO,A1)
【文献】特開2007-290730(JP,A)
【文献】特開2016-205850(JP,A)
【文献】特開2016-173259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ10μm以上20μm以下の基材層と、
前記基材層の厚さ方向の一方に配置された厚さ5μm以上10μm以下の金属層と、
前記金属層において前記基材層と反対側に設けられ、厚さが前記基材層の厚さの2倍以上3倍以下である熱融着層と、
を備える、
試薬容器用蓋材。
【請求項2】
前記熱融着層の厚さが20μm以上35μm以下である、
請求項1に記載の試薬容器用蓋材。
【請求項3】
前記熱融着層の厚さが、前記基材層の厚さと前記金属層の厚さとの和の厚さの1倍以上2倍以下である、
請求項1または2に記載の試薬容器用蓋材。
【請求項4】
試薬が収容された複数の試薬収容部を有する容器本体と、
前記熱融着層が前記容器本体と熱融着されることにより前記複数の試薬収容部を封止する請求項1から3のいずれか一項に記載の試薬容器用蓋材と、
を備える、
試薬容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試薬容器用蓋材、およびこの試薬容器用蓋材を用いた試薬容器に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子検査を行う装置として、例えば特許文献1には、患者から採取した全血試料をカートリッジに供給し、カートリッジを用いて核酸の精製と核酸の分析とを行う核酸分析装置が記載されている。特許文献1に記載の核酸分析装置によれば、ユーザの手作業に依存する部分を低減したことによって、核酸分析におけるユーザの負担を軽減することができる。さらには、ユーザの技量差によって核酸の回収率がばらつくことなく核酸分析の再現性を高めることができる。
【0003】
特許文献2には、上述の核酸分析装置に適用可能な試薬用容器が記載されている。この試薬用容器は、試薬が収容された複数の試薬収容部を有する。各試薬収容部の開口部は、アルミニウム層およびシール層を有する被覆フィルムによって使用時まで封止され、使用時には、ピペットチップ等によって突き破られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2005/118772号
【文献】特許第4765595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の被覆フィルムは、アルミニウム層およびシール層の厚さを薄くすることにより、ピペットチップ等による突き破りを好適に行える利点を有する。
しかし、この被覆フィルムは、突き破りのしやすさを重視しているため、シール強度が必ずしも十分でない場合があり、改善の余地がある。また詳細は後述するが、発明者はさらに他の改善点も見出した。
【0006】
上記事情を踏まえ、本発明は、突き破りのしやすさと容器に対するシール強度とを高いレベルで両立した試薬容器用蓋材を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、試薬収容部が蓋材により確実に封止され、ピペットチップ等を用いた蓋材の突き破りも容易に行える試薬容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様は、厚さ10μm以上20μm以下の基材層と、基材層の厚さ方向の一方に配置された厚さ5μm以上10μm以下の金属層と、金属層において基材層と反対側に設けられ、厚さが基材層の厚さの2倍以上3倍以下である熱融着層とを備える試薬容器用蓋材である。
【0008】
熱融着層の厚さは、20μm以上35μm以下であってもよい。
熱融着層の厚さが、基材層の厚さと金属層の厚さとの和の厚さの1倍以上2倍以下であってもよい。
【0009】
本発明の第二の態様は、試薬が収容された複数の試薬収容部を有する容器本体と、熱融着層が容器本体と熱融着されることにより複数の試薬収容部を封止する本発明の試薬容器用蓋材とを備える試薬容器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の試薬容器用蓋材は、突き破りのしやすさと容器に対するシール強度とを高いレベルで両立している。
本発明の試薬容器は、試薬収容部が蓋材により確実に封止されており、ピペットチップ等を用いた蓋材の突き破りも容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る試薬容器を示す図である。
図2】同試薬容器における蓋材の一部を模式的に示す平面図である。
図3】同蓋材を模式的に示す断面図である。
図4】同蓋材の他の構成例を模式的に示す断面図である。
図5】各実験例の蓋材における突き破り時の最大力量値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
図1は、本実施形態の試薬容器1を示す斜視図である。図1に示すように、試薬容器1は、開口を有する箱状に形成された容器本体100と、容器本体100に取り付けられた蓋材10とを備えている。
【0013】
容器本体100は、樹脂等で形成されている。容器本体100は、生体試料などの被検体が投入されるサンプルウェル110と、被検体から核酸を抽出するための試薬などが収容されている試薬ウェル部120と、被検体から核酸を抽出する工程で分離された不要な溶液を廃棄する廃液ウェル130と、被検体から抽出された核酸を回収する回収ウェル140とが一体に形成された構造を備える。容器本体100には、核酸を吸着させる担体を含有する抽出フィルターカートリッジ150も取り付けられている。
廃液ウェル130、回収ウェル140、および抽出フィルターカートリッジ150は、いずれも試薬容器1に必須の構成ではなく、設けられなくてもよい。
【0014】
試薬ウェル部120は、複数の試薬収容部121、122、123、124、125、126、オイルウェル127、オイル除去部128とを有する。各試薬収容部の一部あるいは全部に同一の試薬が収容されてもよいし、異なる試薬が収容されてもよい。各試薬収容部に収容される試薬の種類や組成等は、試薬容器1の用途や使用方法等に応じて適宜選択できる。
【0015】
蓋材10は、本実施形態における試薬容器用蓋材である。蓋材10は、容器本体100に熱融着されることにより、試薬ウェル部120の試薬収容部、オイルウェル、およびオイル除去部の各部の開口を封止している。
図2に、蓋材10の部分拡大平面図を示す。蓋材10は、容器本体100のうち、試薬ウェル部120における各ウェル開口周囲のリング状の部分R1のみにおいて熱融着されている。
【0016】
図3は、蓋材10を模式的に示す断面図である。蓋材10は、基材層11と、金属層12と、熱融着層13とを備えている。
基材層11は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、延伸ポリプロピレン、等の樹脂で形成され、その厚さは、例えば10μm以上20μm以下である。
金属層12は、例えばアルミニウム等の金属で形成され、基材層11において、厚さ方向における一方の側に設けられている。金属層12の厚さは、例えば5μm以上10μm以下である。
熱融着層13は、加熱することにより溶融する樹脂で形成され、金属層12において、基材層11と反対側に設けられている。熱融着層13の厚さは、例えば10μm以上35μm以下である。熱融着層13の材質は、容器本体100の材質に応じて適宜決定されるが、例えば低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、無延伸ポリプロピレン(CPP)等を用いることができる。
【0017】
複数の樹脂材料を用いて試薬容器用蓋材を形成する場合、伸びやすい樹脂材料の量が多くなるほど蓋材は突き破りにくくなる。これは、ピペットチップの先端等を試薬容器用蓋材に押し当てた際に樹脂材料が伸びて切れにくいためである。この観点からは、PETのような比較的伸びにくい樹脂材料を多く用いて試薬容器用蓋材を形成することが好ましい。
一方、容器本体に対するシール強度を高めるには、熱融着層の樹脂量を増やすことが有効であるため、熱融着層を厚く形成することが好ましい。しかし、熱融着層に用いられる樹脂は伸びやすいものが多く、高いシール強度と突き破りやすさとが両立された試薬容器用蓋材を作ることは困難であった。
【0018】
発明者らは、高いシール強度と突き破りやすさとを両立するための検討を進める中で、相対的に伸びやすい樹脂で形成された熱融着層の厚さが、相対的に伸びにくい基材層の厚さに対して所定範囲であると、熱融着層がある程度の厚さを有していても突き破りやすさが損なわれにくいことを見出した。本発明の試薬容器用蓋材10においては、この知見に基づいて各層の厚さが規定されている。
【0019】
具体的には、熱融着層13の厚さを基材層11の厚さの2倍以上3倍以下に設定することで、熱融着層が数十μm程度と特許文献2に記載の被覆フィルムよりかなり厚い場合であっても、突き破りやすさが保たれた試薬容器用蓋材を構成することができる。
また、発明者らの検討では、熱融着層13の厚さを、基材層11の厚さと金属層12の厚さとの和の1倍以上2倍以下に設定すると、より好ましいことも見出された。
【0020】
発明者らの検討では、さらに、以下の点が新たな知見として見出された。
本実施形態のように、蓋材10が、ウェル周囲のリング状部位のみで熱融着されて容器本体に取り付けられている場合、熱融着面をリング状にすることにより、接触面全体を熱融着する場合よりもウェルを確実に封止することができるという利点がある。その反面、熱融着面積が小さいため、わずかでも剥離が生じると、比較的容易に封止状態が解除されてしまう。
熱融着層13の厚さが基材層11の厚さの3倍を上回っても、シール強度の上昇は、熱融着面積が小さいことにより限定的である。その一方、ピペットチップ等が押し当てられた際に、開口を覆う蓋材が伸びつつウェルの内部に向かって牽引され、リング状部位に作用する力量が大きく増加する。その結果、リング状部位に剥離を生じる現象が観察された。すなわち、熱融着層13の厚さが基材層11の厚さの2倍以上3倍以下であると、リング状部位のように比較的小さな熱融着面積であっても、容器本体とシール強度を十分に確保しつつ、突き破り時には過剰に伸びないことにより、リング状部位における剥離を好適に抑制することができる。
【0021】
熱融着された部位は、容器本体に取り付けられた蓋材にテンションを付与する機能を持つため、容器本体と蓋材との熱融着面積が小さい場合、蓋材のテンションを担う領域も小さくなる。
さらに、試薬容器1の使用時は、通常試薬ウェル部120のウェルが複数突き破られる。ウェルを封止する蓋材が突き破られると、そのウェルの部位ではテンションが消失するため、リング状部位の融着が保持されていても、蓋材10全体のテンションは若干低下する。したがって、突き破られるウェルが増えるたびに蓋材10全体のテンションが低下し、ピペットチップ等が押し当てられた際に、蓋材に力量がかかり始めるまでに必要なストロークが少しずつ増加する。これが一定量蓄積され、さらに蓋材の伸びが加わると、分析装置の限界ストロークまでピペットチップ等が移動されても、蓋材が破れない事態が起こる可能性がある。本実施形態の蓋材は、熱融着層13の厚さを基材層11の厚さの2倍以上3倍以下とすることで、このような事態の発生も好適に抑制することができる。
【0022】
基材層11および金属層12は、突き破られた際に裂けやすく、裂け目が延びる方向は通常不規則である。発生した複数の裂け目が合流等すると、蓋材の一部が小片として切り離されて、ウェル内に落下する可能性がある。
裂け目の進行方向は制御しにくいため、小片生成のリスクを低減することは容易でない。しかし、発明者らの検討で、熱融着層13の厚さを、基材層11の厚さと金属層12の厚さとの和の1倍以上、すなわち、基材層11および金属層12の合計と同等以上にすることで、小片生成のきっかけとなる複数の裂け目の合流を抑えられることが分かった。これは、熱融着層の伸びにより、裂け目の延びが適度に抑えられることによるものと考えられる。
【0023】
本願では各層の厚みを組合せの指標としたが、これに代わる指標としては、次のものが考えられる。
樹脂については、例えば、伸び(率)、ガラス転移点(ガラス転移温度)、引張強度、破裂度が挙げられる。
金属については、例えば、伸び(率)、引張強度、破裂度が挙げられる。
【0024】
上述したように、本実施形態の蓋材10は、容器本体100に適用することにより、使用時までは容器本体100から剥離しにくい。したがって、輸送時の落下等に対しても、封止された試薬収容部内の清浄状態や収容された試薬等の品質が好適に保持される。
蓋材10は、ピペットチップ等の先端が一定の圧をもって接触すると容易に突き破られるため、ピペットチップ等が試薬収容部内に迅速にアクセスすることができる。また、突き破り操作が複数回行われた場合でも、ピペットチップ等の先端に過剰な負荷が作用してピペットチップ等の先端が丸まる等の事態が生じにくい。その結果、容器本体100が不図示の核酸分析装置等に取り付けられて、一つのピペットチップ等で蓋材10の複数個所が突き破られるような場合でも、先端が丸まって突き破られにくくなる等の事態が好適に防止される。
【0025】
さらに、熱融着層13が十分な厚さを有することで、高いシール強度が実現されるだけでなく、突き破られた際に基材層11や金属層12の一部がちぎれて小片となりにくい。その結果、ピペットチップ等が試薬収容部内にアクセスした際に、試薬収容部内に蓋材10の小片が落下する等の事態も好適に抑制することができる。
【0026】
加えて、シール強度と突き破りやすさとを両立しつつ、特許文献2に記載の蓋材よりも十分厚い構成とすることができるため、蓋材自体の製造工程や容器本体100との接合工程において、各層の破れ等も格段に発生しにくい。その結果、蓋材10や試薬容器1の製造効率を著しく向上させることができる。
【0027】
本実施形態の蓋材10においては、図4に示す変形例の蓋材10Aのように、各層が接着剤層14を介して接合されてもよい。この構成を採用すると、公知のドライラミネーションによって蓋材10を製造することができる。
基材層11と金属層12とを接合する接着剤層と、金属層と熱融着層とを接合する接着剤層とは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
蓋材10が接着層14を有する場合、上述した基材層11、金属層12、および熱融着層13の厚みの関係において、接着層14の厚さは考慮しなくてよい。
【0028】
本発明について、実験例を用いてさらに説明する。本発明は、実験例の内容により何ら限定されない。
(層厚と突き破りとの関係)
基材等として厚さ12μmのPETフィルムを、金属層として厚さ7μmのアルミ箔を準備した。熱融着層として厚さが異なるCPPフィルム(20μm、30μm、40μm、および50μmの4種類)を準備し、各層を接着剤で貼りあわせて各実験例の蓋材を作製した。
作成した蓋材を、ポリプロピレン製の容器本体(ウェル内径9mm)の上面に熱融着(180℃ 3秒)により固定した。熱融着は、ウェル開口の周囲における幅1mmのリング状領域とした。蓋材を取り付けた容器本体に、金属製のピンを上から突き当て、蓋材が破れるまでにピンに加わる力量の最大値と、蓋材が破れるまでのピンの移動量(ストローク)とを測定した。結果を図5に示す。
【0029】
図5に示すように、熱融着層が厚くなるにつれて、最大力量値が増加することが示された。熱融着層の厚みが基材層の厚みの3倍以上となる40μm以上の実験例では、最大力量値が9Nを超えた。このような場合、蓋材で封止された容器を自動分析装置にセットし、分注チップやペッスルなどの突き破り部材を自動着脱するアームで蓋材の突き破りを行うと、突き破り部材とアームとの嵌合部分に過剰な力量がかかり、その後の自動着脱に支障が生じる可能性が考えられる。
また、図示していないが、ストロークについては30μmまで大きな変化がなく、40μmで増加した。熱融着層の厚みが基材層の厚みの3倍以上となる、蓋材の伸びにより突き破りに必要なストロークが増加する結果、自動分析装置における突き破りが十分に行われなくなる可能性が考えられる。さらに、熱融着がリング状部位のみで行われる場合は、上述したように、リング状部位において剥離が生じる可能性も高くなると考えられた。
【0030】
以上、本発明の各実施形態および実施例について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態等の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
例えば、基材層に所望の情報を表示する印刷層が形成されてもよい。印刷層を設ける場合、基材層としてはPETが特に好適である。
【符号の説明】
【0031】
1 試薬容器
10、10A 試薬容器用蓋材
11 基材層
12 金属層
13 熱融着層
14 接着剤層
100 容器本体
121、122、123、124、125、126 試薬収容部
図1
図2
図3
図4
図5