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特許7043930無焼成セラミックス摩擦材、ブレーキパッド及び無焼成セラミックス摩擦材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】無焼成セラミックス摩擦材、ブレーキパッド及び無焼成セラミックス摩擦材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20220323BHJP
   F16D 69/00 20060101ALI20220323BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C09K3/14 520C
C09K3/14 520L
F16D69/00 R
F16D69/02 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018065959
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019172929
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木橋 将
(72)【発明者】
【氏名】西澤 幸男
(72)【発明者】
【氏名】青木 勇祐
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-203102(JP,A)
【文献】特開2009-203101(JP,A)
【文献】特開2008-239433(JP,A)
【文献】特開平08-209116(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101509531(CN,A)
【文献】山川智弘 他,メカノケミカル処理したセラミック粉体を利用した無焼成セラミックスの作製,日本セラミックス協会秋季シンポジウム講演予稿集,社団法人 日本セラミックス協会,2007年09月12日,Vol.20th,p.17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/14
F16D69
C04B35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸及びケイ酸塩の少なくともいずれか一方により構成されたセラミック粒子であり、かつ、空気動力学径2.5μm以下の粒子を50%以下の捕集効率で分級して残ったセラミックス粒子を接着剤層を介して互いに接着させて固化したマトリックスと、
摩擦材組成物と、
を備えた無焼成セラミックス摩擦材。
【請求項2】
前記セラミックス粒子は、空気動力学径7.0μm以下の粒子を50%の捕集効率で捕集されたセラミックス粒子である、
請求項1記載の無焼成セラミックス摩擦材。
【請求項3】
前記接着層は、金属カチオンを含むことを特徴とする
請求項1又は請求項2記載の無焼成セラミックス摩擦材。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の無焼成セラミックス摩擦材により構成されたライニングを備えたブレーキパッド。
【請求項5】
ケイ酸及びケイ酸塩の少なくともいずれか一方により構成されたセラミックス粒子を、空気動力学径2.5μm以下の粒子を50%以下の捕集効率で分級して取り除く分級過程と、
前記分級により残った前記セラミックス粒子の少なくとも表面をメカノケミカル処理により活性化する摩砕過程と、
前記表面が活性化された前記セラミックス粒子に摩擦材組成物を混合する混合過程と、
前記セラミックス粒子及び前記摩擦材組成物の混合物にアルカリ溶液を加えて混練してセラミックゲルを生成する混練過程と、
前記セラミックゲルから脱泡しつつ成形を行いセラミックス仮成形体を得る脱泡過程と、
前記セラミックス仮成形体を200℃以下の所定温度で固化及び乾燥を行って無焼成セラミックス摩擦材とする固化・乾燥過程と、
を備えた無焼成セラミックス摩擦材の製造方法。
【請求項6】
前記固化・乾燥過程は、前記セラミックス仮成形体を恒温炉で第1の温度で第1の所定時間乾燥し、さらに前記第1の温度より高い第2の温度で前記第1の所定時間より長い第2の所定時間乾燥を行う、
請求項5記載の無焼成セラミックス摩擦材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無焼成セラミックス摩擦材、ブレーキパッド及び無焼成セラミックス摩擦材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスクロータと接触するライニングと、ライニングが固定された裏板と、を備えたブレーキパッドが知られている(例えば、特許文献1,2)。
この種のブレーキパッドとしては、摩擦材にセラミックスを用いたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-311272号公報
【文献】特開2008-281060号公報
【文献】特開2008-239433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のブレーキパッドでは、ディスクロータとライニングとの摩擦によって摩耗粉が生じるが、当該摩耗粉の粒子サイズが小さいと大気中に飛散してしまう虞が生じる。
そこで、本発明は、ディスクロータとライニングとの摩擦によって生じる摩耗粉の大気中への飛散を抑制することができる無焼成セラミックス摩擦材、ブレーキパッド及び無焼成セラミックス摩擦材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の無焼成セラミックス摩擦材は、ケイ酸及びケイ酸塩の少なくともいずれか一方により構成されたセラミック粒子であり、かつ、空気動力学径2.5μm以下の粒子を50%以下の捕集効率で分級して残ったセラミックス粒子を接着剤層を介して互いに接着させて固化したマトリックスと、摩擦材組成物と、を備える。
この構成によれば、無焼成セラミックス摩擦材を用いてブレーキパッドを形成するに際し、十分な強度を有し、所望の摩擦特性を得ることができるとともに、摩耗粉の大気中への飛散を抑制することができる。
【0006】
上記構成において、セラミックス粒子は、空気動力学径7.0μm以下の粒子を50%の捕集効率で捕集されたセラミックス粒子であるようにしてもよい。
この構成によれば、捕集されたシリカ粉末中には、いわゆるPM2.5に相当する粒子径の粒子は実効的に含まれていない状態となり、より確実に、摩耗粉の大気中への飛散を抑制することができる。
【0007】
上記構成において、接着層は、金属カチオンを含むようにしてもよい。
この構成によれば、ケイ酸及びケイ酸塩の少なくともいずれか一方により構成されたセラミックス粒子を互いに確実に接着でき、十分な強度を有し、所望の摩擦特性を含む所望の性能を有するライニング(あるいはブレーキパッド)を形成することができる。
【0008】
実施形態のブレーキパッドは、上述したいずれかの無焼成セラミックス摩擦材により構成されたライニングを備えている。
この構成によれば、十分な強度を有し、所望の摩擦特性を有するとともに、摩耗粉の大気中への飛散を抑制することができるライニングを備えたブレーキパッドを容易に得ることができる。
【0009】
また、実施形態の無焼成セラミックス摩擦材の製造方法は、ケイ酸及びケイ酸塩の少なくともいずれか一方により構成されたセラミックス粒子を、空気動力学径2.5μm以下の粒子を50%以下の捕集効率で分級して取り除く分級過程と、分級により残ったセラミックス粒子の少なくとも表面をメカノケミカル処理により活性化する摩砕過程と、表面が活性化された前記セラミックス粒子に摩擦材組成物を混合する混合過程と、セラミックス粒子及び摩擦材組成物の混合物にアルカリ溶液を加えて混練してセラミックゲルを生成する混練過程と、前記セラミックゲルから脱泡しつつ成形を行いセラミックス仮成形体を得る脱泡過程と、前記セラミックス仮成形体を200℃以下の所定温度で固化及び乾燥を行って無焼成セラミックス摩擦材とする固化・乾燥過程と、を備える。
【0010】
この構成によれば、製造時のエネルギー消費を抑制しつつブレーキパッドを形成するに際し、十分な強度を有し、所望の摩擦特性を得ることができるとともに、摩耗粉の大気中への飛散を抑制することができる無焼成セラミックス摩擦材を得ることができる。
【0011】
上記構成において、固化・乾燥過程は、セラミックス仮成形体を恒温炉で第1の温度で第1の所定時間乾燥し、さらに前記第1の温度より高い第2の温度で第1の所定時間より長い第2の所定時間乾燥を行うようにしてもよい。
この構成によれば、十分な強度を有し、所望の摩擦特性を得ることができる無焼成セラミックス摩擦材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態のディスクパッドが適用されるディスクブレーキの模式斜視図である。
図2図2は、図1のA-A線断面図である。
図3図3は、実施形態のブレーキパッドの外観斜視図である。
図4図4は、実施形態のライニングの製造工程の説明図である。
図5図5は、シリカ粉末の捕集効率の説明図である。
図6図6は、セラミックス粉体の処理状態の説明図である。
図7図7は、実施形態の無焼成セラミックス固化体の概要構成説明図である。
図8図8は、実施形態の効果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に図面を参照して本発明の例示的な実施形態について詳細に説明する。
以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用及び結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0014】
図1は、実施形態のディスクパッドが適用されるディスクブレーキの模式斜視図である。
図2は、図1のA-A線断面図である。
実施形態のディスクブレーキ1は、車軸ハブ(不図示の回転体)に組み付けられて車輪(不図示)と一体に回転するディスクロータ2と、ディスクロータ2の周縁部を跨いで配置されるキャリパ3と、を備えている。
【0015】
以下の説明においては、ディスクロータ2の軸方向をロータ軸方向、ディスクロータ2の径方向をロータ径方向、ディスクロータ2の周方向をロータ周方向と称するものとする。ロータ周方向は、ロータ径方向と交差する。
【0016】
キャリパ3は、車体に設けられた支持部材に固定されたマウンティング11と、ロータ軸方向に移動可能にマウンティング11に支持されたキャリパボディ12と、ロータ軸方向に移動可能にマウンティング11に支持された一対のブレーキパッド20,30と、を備えている。
【0017】
キャリパボディ12は、一対のスライドピン14によってマウンティング11に対してロータ軸方向に移動可能に取付けられている。キャリパボディ12は、車体側からディスクロータ2をロータ軸方向に跨いで延出している。キャリパボディ12は、ロータ軸方向の一方側の端部(図2の左側、基端部)に、ピストン15(押圧部材)が挿入されるシリンダ部12aを有している。キャリパボディ12は、ロータ軸方向の他方側の端部(図2の右側、先端部)に、一対の爪12b(押圧部材)を有している。爪12bは、ディスクロータ2のロータ軸方向の他方側に位置され、ロータ軸方向でディスクロータ2に間隔を空けて位置されている。
【0018】
図2に示されるように、ピストン15は、ディスクロータ2のロータ軸方向の一方側に位置され、ロータ軸方向でディスクロータ2に間隔を空けて位置されている。ピストン15は、キャリパ3に含まれる。ピストン15は、液圧によってディスクロータ2に向けて進出して、ディスクロータ2との間に介在したブレーキパッド20をディスクロータ2に向けて押す。詳細には、ピストン15は、ブレーキパッド20側の端部に含まれた押圧部15a(押圧面)を有し、押圧部15aによって、ブレーキパッド20をディスクロータ2に向けて押す。
【0019】
これに伴い、押圧部15aの押す力である押圧力の反力によってキャリパボディ12が移動して、キャリパボディ12の爪12bが、ディスクロータ2と爪12bとの間に介在したブレーキパッド30をディスクロータ2に向けて押す。
【0020】
より詳細には、爪12bは、ブレーキパッド30側の端部に含まれた押圧部12c(押圧面)を有し、押圧部12cによってブレーキパッド30をディスクロータ2に向けて押す。すなわち、一対のブレーキパッド20,30は、それぞれピストン15の押圧部15a又は爪12bの押圧部12cによってディスクロータ2に押し付けられる。
また、ブレーキパッド20,30の裏板とキャリパボディ12との間には、シム40が介在している。
【0021】
次にブレーキパッドの構成について説明する。
この場合において、ブレーキパッド20及びブレーキパッド30は、同様の構成であるので、以下においては、ブレーキパッド20を例として説明する。
【0022】
図3は、実施形態のブレーキパッドの外観斜視図である。
ブレーキパッド20は、第一面F1を有した裏板21と、第一面F1と接し、厚さ方向の中央に対して第一面F1と反対側に位置され第一面F1と略平行な第二面F2を有したライニング22と、を備えている。
【0023】
ライニング22の原料としては、ケイ酸及びケイ酸塩の少なくともいずれか一方により構成されたセラミックス粒子及び摩擦材原料が含まれる。
例えば、ライニング22の原料となるケイ酸及びケイ酸塩の少なくともいずれか一方により構成されたセラミックス粒子としては、少なくとも表面がケイ酸及び/又はケイ酸塩からなることが要件とされる。このようなセラミックス粒子の材料としては、例えば、ベントナイト、カオリナイト、メタカオリン、モンモリロナイト等の粘土鉱物、石英、ムライト等のSiO-Al系無機質粉体等を用いることができる。
その他、フライアッシュ、キラ、ガラス、ペーパースラッジ、アルミドロス等の廃棄物をセラミックスとして用いることができる。
【0024】
また、表面のみがケイ酸及び/又はケイ酸塩からなるセラミックスとしては、例えば窒化ケイ素、炭化ケイ素、アルミノ珪酸塩(ゼオライト)、サイアロン(SiAlON)、シリコンオキシナイトライド(SiON)、シリコンオキシカーバイド(SiOC)等が挙げられる。
【0025】
また、摩擦材としては、従来の摩擦材組成物をそのまま用いることができる。すなわち、摩擦材組成物として、繊維基材、有機充填材及び無機充填材を含む摩擦材組成物を用いることができる。
【0026】
ここで、基材繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維、ロックウール、アラミド繊維、アクリル繊維等を用いることができる。
【0027】
有機充填材としては、カシューダスト、ゴムダスト等の有機粉末を用いることができる。
【0028】
無機充填材としては、アルミナやジルコニア等の無機粉末粒子、黒鉛、硫化アンチモン、硫化錫等の潤滑剤、銅、アルミニウム、亜鉛等の金属粉末粒子を用いることができる。
【0029】
次にライニングの製造工程について説明する。
図4は、実施形態のライニングの製造工程の説明図である。
ライニング22の製造工程としては、大別すると、分級工程(ステップS10)、摩砕工程(ステップS11)、混合工程(ステップS12)、混練工程(ステップS13)、脱泡工程(ステップS14)及び固化・乾燥工程(ステップS15)がある。
【0030】
以下、順番に説明する。
<分級工程>
セラミックス粒子としてのシリカ(SiO)粉末を、空気動力学径2.5μm以下の粒子を50%以下の捕集効率で分級する分級装置で分級する(ステップS10)。
【0031】
図5は、シリカ粉末の捕集効率の説明図である。
これにより、分級装置で捕集されたシリカ粉末(主として空気動力学径2.5μm以上の粒子)を原料セラミックス粒子とする。この結果、図5に示すように、原料セラミックス粒子としては、いわゆるPM2.5に相当する粒子径の粒子はほぼ含まれていない状態となっている。
【0032】
さらに、シリカ粉末を空気動力学径7.0μm以下の粒子を50%の捕集効率で分級する分級装置で分級すれば、捕集されたシリカ粉末中には、いわゆるPM2.5に相当する粒子径の粒子は実効的に含まれていない状態となる。
【0033】
<摩砕工程>
次にシリカ粉末を摩砕して、メカノケミカル処理により表面が活性化したシリカ粉末を得る(ステップS11)。
この場合において、セラミックス粒子としてのシリカ粉末に接触可能な部位(例えば、粉砕ボール、乳棒、摩耗板、ロッド等の粉砕部材並びに粉砕用ドラム、乳鉢等の粉砕容器)に金属カチオンを形成可能な金属原子を含む材料が用いられた装置を用いて処理を行うので、よりセラミックス粒子の表面の活性化を図ることができる。
【0034】
図6は、セラミックス粉体の処理状態の説明図である。
図6(a)は、摩砕工程前の原料のセラミックス粉体51の説明図である。
摩砕工程前の原料のセラミックス粉体(シリカ粉末)51は、図6(a)に示すように、全体的に結晶性を有する均質な粉末となっており、かつ、いわゆるPM2.5に相当する粒子径の粒子はほぼ含まれていない。
【0035】
摩砕工程では、具体的には、セラミックス粉体51を遊星ボールミルで15分間摩砕することによって、図6(b)に示すように、表面がメカノケミカル的に非晶質化された非晶質活性層52aを有する活性化セラミックス粉体52となる。
【0036】
すなわち、活性化セラミックス粉体52の非晶質活性層52aではセラミックス粉体51としてのシリカの網目構造が非晶質化した状態(アモルファス状態)とされており、アルカリによって侵食され易い状態となっている。
さらに、活性化セラミックス粉体52の非晶質活性層52aには、摩砕工程において摩砕を行うためのボールや容器の材料から金属カチオン(例えば、Fe、Si、Al等)が混入した状態となっている。
【0037】
この場合において、理想的には、粒度分布の経時変化がなくなるまで摩砕するのがアルカリ水溶液による溶解も進みやすくなり、得られるセラミックス固化体は緻密で機械的な強度の高いものとなると考えられる。しかしながら、15分程度遊星ボールミルで摩砕することにより、実効的には十分な状態となると考えられる。
【0038】
以上の説明においては、摩砕工程において、遊星ボールミルを用いていたが、メカノケミカル作用を行うためには、衝撃、摩擦、圧縮、剪断等の各種の力を複合的に作用させることが効果的であり、具体的には、上述した遊星ボールミルの他、ボールミル、振動ミル、媒体攪拌型ミル等の混合装置ボール媒体ミル、ローラーミル、乳鉢等の粉砕機などが挙げられる。また、衝撃、摩擦、圧縮、剪断等の各種の力を全て複合的に作用させる必要はなく、例えば、被粉砕物に対し、主として衝撃、摩砕等の力を作用させることができるジェット粉砕機等も用いることができる。さらに、メカノケミカル作用を行うための装置は、これらに限定されるものではない。
【0039】
<混合工程>
次に摩砕工程で表面活性化がなされたシリカ粉末に他の原料として研削材を含む所定の摩擦材組成物を加え(ステップS12)、混合処理を行う(ステップS13)。
【0040】
混合処理は、具体的には、例えば、回転ボールミルにより900分間混合を行う。
【0041】
<アルカリ処理工程>
アルカリ処理工程では、活性化セラミックス粉体52をアルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物を含むアルカリ水溶液を添加し(ステップS14)、混練することとなる(ステップS15)。
【0042】
アルカリ水溶液と活性化セラミックス粉体52との混合及び混練を行うための装置としては、例えば、双腕ニーダー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー、バンバリーミキサー、コンティニュアスミキサー、あるいは連続混練機等の公知の装置が挙げられる。
【0043】
さらに混合及び混練段階で不要な気泡を取り除くために真空土練機を用いるようにすることも可能である。固化前に不要な気泡を取り除くことにより、得られるセラミックス固化体の密度及び強度を向上することがより容易となる。
【0044】
このアルカリ処理工程により、非晶質活性層52aは溶解し、脱水縮合され、ゲル状あるいは粘性の高いスラリー状となり、研削材粒子が均一に混じった状態となっている。
【0045】
この場合において、非晶質活性層52aに含まれる鉄イオンFe2+、Fe3+、シリカイオンSi4+、アルミニウムイオンAl3+等の金属カチオンは、負に帯電しやすい非晶質活性層52aに含まれるヒドロキシル基(OH基)及びシラノール基(Si-OH基)とイオン結合を形成しやすい状態となっていると考えられる。
【0046】
<脱泡工程>
以上のアルカリ処理工程においては、大気中で混練がなされるため、活性化セラミックス粉体52を含むゲル状あるいは粘性の高いスラリー状の物質(以下、活性化セラミックスゲルという。)は、多くの気泡を含んでいる。
【0047】
そこで、脱泡工程においては、アルカリ処理がなされた活性化セラミックス粉体52を含む活性化セラミックスゲルを成形型に入れ、プレス装置により加圧し、加振装置により加振し、減圧装置により減圧した状態で脱泡処理を行う(ステップS16)。
この結果、最終的に形成されるセラミックス固化体の密度及びマトリックスの強度が向上して、より確実に研削材粒子が保持された状態とすることができる。
【0048】
<固化・乾燥工程>
脱泡後の活性化セラミックスゲル中においては、Fe2+、Fe3+、シリカイオンSi4+、アルミニウムイオンAl3+等の金属カチオンは、負極性となりやすいヒドロキシル基(OH基)あるいはシラノール基(Si-OH基)に引き寄せられ、活性化セラミックス粉体52の表面に吸着された状態となる。この吸着状態は、Fe2+、Fe3+、シリカイオンSi4+、アルミニウムイオンAl3+等の一つの金属カチオンにより複数の活性化セラミックス粉体52の表面で発生することとなり、ひいては、活性化セラミックス粉体52同士の結合力を大きくすることとなる。
【0049】
さらに、Fe2+、Fe3+、シリカイオンSi4+、アルミニウムイオンAl3+等の金属カチオンとヒドロキシル基(OH基)あるいはシラノール基(Si-OH基)の結合により脱水縮合するに際しては、連鎖重合により活性化セラミックス粉体52によりマトリックス(母材)が形成され、この強度の高まったマトリックス中に、混合工程において混合した研削材が保持された状態となる。
【0050】
そして、この状態の活性化セラミックスゲルを恒温炉において、第1の温度で第1の所定時間乾燥する第1固化・乾燥工程及び第1の温度より高い第2の温度で第2の所定時間乾燥する第2固化・乾燥工程を経ることで、アルカリ処理工程で溶解した非晶質活性層52aが再析出することにより、図6(c)に示すように、析出層54aが生成される。
【0051】
この析出層54aの形成時においては、Fe2+、Fe3+、シリカイオンSi4+、アルミニウムイオンAl3+等の金属カチオンがより流動的に活性化セラミックス粉体52表面のヒドロキシル基(OH基)あるいはシラノール基(Si-OH基)とより強固に結合され、活性化セラミックス粉体52同士の接着剤としての役割を果たす接着剤層54bが形成されて、セラミック固化体の強度が向上することとなる。
【0052】
具体的には、恒温炉で第1の温度=60℃で第1の所定時間=300分乾燥する第1固化・乾燥工程と、第2の温度=80℃で第2の所定時間=900分乾燥する第2固化・乾燥工程を経ることで、歪みを増加させることなく、活性化セラミックス粉体52の周囲のゲルを少量とすることができ、より強度の高いマトリックスを形成することが可能となっている。
【0053】
この場合において、第1固化・乾燥工程における第1の温度及び第2固化・乾燥工程における第2の温度は、原料となるセラミックスの種類やアルカリ水溶液の種類や濃度によって適宜選択すればよいが、第1の温度としては、室温~60℃の範囲が好ましい。また第2の温度は、室温~200℃の範囲が好ましい。さらに第2の温度は、第1の温度より高く、第2の所定時間は、第1の所定時間より長い方がより密度の高いマトリックスを得るために好ましい。
【0054】
図7は、実施形態の無焼成セラミックス固化体の概要構成説明図である。
図7においては、理解の容易の為、無焼成セラミックス固化体に研削材のみが含まれた状態を示している。
【0055】
ライニング22は、無焼成セラミックス固化体を構成しているマトリックス54MTXを備えている。
このマトリックス54MTXは、上述した析出層54a及び接着剤層54bを有するセラミックス粒子54X同士が接着剤層54bを介して互いに接着されて構成されている。
【0056】
そして、マトリックス54MTX内に研削材60が強固に保持された構成を採っている。
以上の処理の結果得られたこのような構成を有する無焼成セラミックス固化体のマトリックス(母材)54MTXは十分な強度(せん断強度として17Mpa以上)を有し、確実に研削材60を保持することが可能となっており、ブレーキパッドとして十分な摩擦係数(例えば、上述の例では、平均摩擦係数Ave.μ=0.45)を得ることができる。
【0057】
以上の説明においては、摩砕工程において混入する金属カチオンとして、Fe2+、Fe3+、シリカイオンSi4+、アルミニウムイオンAl3+等の場合について説明したが、これに限らず他の金属カチオンを用いてマトリックスを構成しているシリカ粒子同士の結合を強固にすることも可能である。
【0058】
以上の説明のように、本実施形態によれば、無焼成セラミックスを用いて研削材を保持可能なライニングとして構成することで、省エネルギーでライニング、ひいては、ブレーキパッドを製造できるとともに、ブレーキパッドのライニングとして十分な性能を発揮させることが可能となる。
【0059】
図8は、実施形態の効果の説明図である。
無焼成セラミックス固化体のマトリックス(母材)54MTXは、上述したように、析出層54a及び接着剤層54bを有するセラミックス粒子54X同士が接着剤層54bを介して互いに接着されて構成されている。
【0060】
この状態において、ディスクブレーキ1の制動時には、マトリックス54MTXに剪断力が働くこととなるが、この場合に最も応力が係るのは、接着剤層54bである。
したがって、例えば、破線Xに沿って剪断力が働いた場合には、図8の左下部に示すように、1個のセラミックス粒子54Xがマトリックス54MTXから分離することとなる。
【0061】
同様に、破線Yに沿って剪断力が働いた場合には、図8の左下部に示すように、3個のセラミックス粒子54Xがマトリックス54MTXから分離することとなる。
【0062】
すなわち、マトリックス54MTXに剪断力が働いた場合には、通常1個以上のセラミックス粒子54X単位で分離することとなるので、実施形態のように、セラミックス粒子54Xの大きさがPM2.5の粒子以上の大きさとなっていることで、PM2.5として空気中に飛散される確率を抑制することができる。
【0063】
[2]実施形態の変形例
以上の説明においては、分級工程において、セラミックス粒子としてのシリカ(SiO)粉末を、空気動力学径2.5μm以下の粒子を50%以下の捕集効率で分級する分級装置で分級し、分級装置で捕集されたシリカ粉末(主として空気動力学径2.5μm以上の粒子)を原料セラミックス粒子とし、混合工程において、まず摩砕工程で表面活性化がなされたシリカ粉末に表面活性アルミナを加えていたが、さらにより確実に摩耗粉の大気中への飛散を抑制するために熱可塑性樹脂を加えるように構成することも可能である。
【0064】
ここで、添加される熱可塑性樹脂は、ブレーキパッド20が実際に使用されるブレーキ装置において想定される使用態様、より詳細には、ブレーキパッド20が主として使用されると想定されるブレーキの温度帯域に応じて材料が選定される。
【0065】
さらに添加する熱可塑性樹脂としては、熱変形温度と、融点と、の差が100℃以上、より好ましくは、150度以上である熱可塑性樹脂、かつ、アルカリ処理におけるアルカリ(例えば、強アルカリである水酸化カリウム溶液)に対する耐性がある熱可塑性樹脂である必要がある。
さらに好ましくは、熱可塑性樹脂65の熱変形温度は、50度以上であり、融点は、400度以下とされる。
【0066】
このような条件としているのは、熱変形温度から融点に到るまでの温度帯域においては、熱可塑性樹脂は、軟化した状態となり消しゴムあるいは粘土に似たような特性を示すので、摩耗粉を取り込んで大気中に飛散しない程度の大きさのペースト状、粒状、針状の混練体あるいはこれらの混練体が互いに付着した混練体群を効率的に形成するため、及び、アルカリ処理において変性せずに特性を維持させるためである。
【0067】
ここで加えた熱可塑性樹脂による混練体の形成についてより詳細に説明する。
まず、ディスクロータ2にブレーキパッド20のライニング22が押し付けられると、ディスクロータ2とライニング22が相対的に摺動し、摩擦によりライニング22のベース材の摩耗粉が生成するとともに、摩擦熱によりライニングやディスクロータの温度が上昇する。これにより、ライニング22のマトリックスに保持されている熱可塑正樹脂が熱変形温度に到る。
【0068】
熱変形温度に到り軟化状態となった熱可塑性樹脂は、摩耗粉により剪断力を受け、熱可塑性樹脂の一部である軟化体が分離する。
【0069】
これとともに、軟化状態にある熱可塑性樹脂である軟化体は、バインダとして機能し、ディスクロータ2とライニング22との間の隙間で転動されるにしたがって摩耗粉と混練されて、ペースト状、粒状あるいは針状(葉巻状)の混練体を形成する。
さらに軟化状態にある混練体は、ブレーキ温度が下がると、互いに付着状態となり、より大きなサイズの混練体群を形成して、より一層の飛散抑制が可能となる。
【0070】
このときのブレーキ温度は、当該ブレーキ装置において想定した通りの使用状態であるならば、ライニング22に含まれている熱可塑性樹脂の熱変形温度と融点との間の温度にほぼ相当するようにされており、確実に混練体を形成して摩耗粉を取り込んだ状態を維持でき、摩耗粉が単体の微粒子として大気中へ飛散するのを抑制することが可能となる。
【0071】
これらの条件を満たし、かつ、ブレーキパッド20として要求される摩擦係数を必要とされる所定値以上に維持することが可能な熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ナイロン(登録商標)として知られるポリアミド(PA)6及びポリアミド66、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、非変性ポリプロピレン(PP)、ポリベンズイミダゾール(PBI)等が挙げられる。
【0072】
ここで、これらの熱可塑性樹脂の熱的性質について詳細に説明する。
ポリエーテルエーテルケトンは、熱変形温度155℃、融点340℃であるので、その差は、185℃である。また熱分解温度は、450℃以上である。
ポリアミド6は、熱変形温度68℃、融点225℃であるので、その差は、157℃である。また熱分解温度は、320℃以上である。
【0073】
ポリアミド66は、熱変形温度75℃、融点265℃であるので、その差は、190℃である。また熱分解温度は、350℃以上である。
ポリフェニレンサルファイドは、熱変形温度135℃、融点290℃であるので、その差は、155℃である。また熱分解温度は、500℃以上である。
【0074】
非変性ポリプロピレンは、熱変形温度60℃、融点168℃であるので、その差は、108℃である。
ポリベンズイミダゾールは、熱変形温度410℃、融点は明確ではなく、熱分解温度は、600℃以上である。
【0075】
次に実際にブレーキパッドを形成する場合に用いられる熱可塑性樹脂の選定について説明する。
上述したブレーキ装置の使用態様とは、具体的には、ブレーキパッド20が実際に使用されるブレーキ装置において主として想定される走行パターンである。
【0076】
したがって、想定される走行パターンで走行したとした場合に、頻度が高く現れる(使用される)ブレーキ温度の温度帯域(以下、ブレーキ温度帯域という)であり、ブレーキパッド20は、当該ブレーキ温度帯域に好適な材料が選択されることとなる。
【0077】
以下、ブレーキ温度帯域と当該ブレーキ温度帯域に好適な熱可塑性樹脂について具体的に説明する。
【0078】
[2.1]市街地走行において走行中のブレーキ使用頻度が比較的高い場合
市街地走行において走行中のブレーキ使用頻度が比較的高い場合は、より詳細には、市街地走行において、例えば、下り坂が多く、ブレーキの使用頻度が比較的高い場合に相当している。
また、摩耗粉の生成量は、ブレーキ温度に比例して増加する。
【0079】
この場合において、ブレーキの使用頻度が正規分布に従っていると仮定すると、平均値に相当する最もブレーキの使用頻度が高い温度から、標準偏差σに関し、±1σの範囲には、全ブレーキ使用回数のうちおよそ68.3%の使用回数が含まれ、±2σの範囲には、全ブレーキ使用回数のうちおよそ95.5%の使用回数が含まれ、±3σの範囲には、全ブレーキ使用回数のうちおよそ99.7%の使用回数が含まれる。
したがって、使用頻度がほぼ0になるブレーキ温度で規定されるブレーキ温度帯域がほぼ±3σの範囲に相当している。
【0080】
ところで、市街地走行において走行中のブレーキ使用頻度が比較的高い場合、正規分布の平均値に相当する最も使用頻度が高い温度=250℃であり、ほぼ±3σの範囲に相当するブレーキ温度帯域は、100℃~400℃の温度帯域である。
【0081】
このことから、標準偏差σに相当する温度は、(400-100)/6=50℃となるので、ほぼ±1σの範囲に相当するブレーキ温度帯域は、200℃~300℃の温度帯域であり、ほぼ±2σの範囲に相当するブレーキ温度帯域は、150℃~350℃の温度帯域である。
【0082】
換言すれば、少なくとも最も使用頻度が高い温度=250℃に対し、±50℃の温度帯域で軟化状態にある、少なくとも、熱変形温度~融点に相当する温度帯域が100℃以上、より好ましくは、熱変形温度~融点に相当する温度帯域が150℃以上、熱可塑性樹脂であれば、ブレーキの使用のうち、68.3%以上の使用について効果を発揮できるものと考えられる。
【0083】
さらに熱可塑性樹脂の選択においては、熱変形温度と融点との平均温度がブレーキ装置の最も使用頻度が高い温度と近いことが望まれる。
【0084】
これらを考慮すると、上述した熱可塑性樹脂のうち、図8に示されるブレーキ温度帯域にもっとも好適なのは、ポリエーテルエーテルケトンであると考えられる。
【0085】
したがって、ポリエーテルエーテルケトンをライニング22に保持させることにより、市街地走行においてブレーキ使用頻度が比較的高い場合の使用頻度が高い温度帯域がポリエーテルエーテルケトンの熱変形温度と融点との間の温度とほぼ一致しており、確実に混練体あるいは混練体群を形成して摩耗粉単独での大気中への飛散を抑制できる。
【0086】
[2.2]市街地走行において走行中のブレーキ使用頻度が比較的低い場合
市街地走行において走行中のブレーキ使用頻度が比較的低い場合は、より詳細には、市街地走行において、例えば、平坦路が多く、ブレーキの使用頻度が比較的低い場合に相当している。
【0087】
市街地走行においてブレーキ使用頻度が比較的低い場合は、ブレーキ温度は、190℃前後で使用される頻度が最も高く、ブレーキ温度帯域=130℃~250℃でブレーキ装置が使用される頻度が高くなっている。
【0088】
したがって、上述した市街地走行において走行中のブレーキ使用頻度が比較的高い場合と同様に、ブレーキの使用頻度が正規分布に従っていると仮定すると、市街地走行においてブレーキ使用頻度が比較的低い場合は、正規分布の平均値に相当する最も使用頻度が高い温度=190℃であり、標準偏差σに相当する温度は、(280-100)/6=30℃となるので、ほぼ±1σの範囲に相当するブレーキ温度帯域は、160℃~220℃の温度帯域であり、ほぼ±2σの範囲に相当するブレーキ温度帯域は、130℃~250℃の温度帯域である。
【0089】
これらを考慮すると、上述した熱可塑性樹脂のうち、図9に示されるブレーキ温度帯域にもっとも好適なのは、ポリアミド6、ポリアミド66及びポリフェニレンサルファイドであると考えられる。ここで、ポリアミド6、ポリアミド66は、いわゆるナイロン6[登録商標]、ナイロン66[登録商標]である。
【0090】
[2.3]ハイブリッド自動車(HV)あるいは電気自動車(EV)の場合
ハイブリッド自動車あるいは電気自動車においては、電気モータを利用した回生ブレーキを油圧ブレーキと協調制御しているので、比較的高速で駆動している場合には、回生ブレーキによる制動力が利用され、速度が比較的低くなると油圧ブレーキによる制動力が主として利用され、ブレーキパッドの使用頻度が油圧ブレーキを単独で用いる場合と比較して相対的に低下するため、ブレーキ温度は比較的低い状態となる。
【0091】
ハイブリッド自動車あるいは電気自動車の場合は、ブレーキ温度は、80℃前後で使用される頻度が最も高く、ブレーキ温度帯域=50℃~150℃でブレーキ装置が使用される頻度が高くなっている。
【0092】
したがって、上述した市街地走行において走行中のブレーキ使用頻度が比較的高い場合と同様に、ブレーキの使用頻度が正規分布に従っていると仮定すると、この場合においても図8の場合と同様に、ハイブリッド自動車あるいは電気自動車の場合もブレーキの使用頻度が正規分布に従っていると仮定すると、ハイブリッド自動車あるいは電気自動車の場合、正規分布の平均値に相当する最も使用頻度が高い温度=80℃であり、標準偏差σに相当する温度は、(160-0)/6=27℃となるので、ほぼ±1σの範囲に相当するブレーキ温度帯域は、53℃~107℃の温度帯域であり、ほぼ±2σの範囲に相当するブレーキ温度帯域は、26℃~134℃の温度帯域である。
【0093】
これらを考慮すると上述した熱可塑性樹脂のうち、図10に示されるブレーキ温度帯域にもっとも好適なのは、非変性ポリプロピレンであると考えられる。
【0094】
[2.4]高負荷走行の場合
高負荷走行の場合は、より詳細には、山岳地帯での長い下り坂等でブレーキの使用頻度が高い、又は高速道路での急制動等に起因する高負荷走行の場合に相当している。
【0095】
図11に示すように、高負荷走行の場合は、ブレーキ温度は、500℃前後で使用される頻度が最も高く、ブレーキ温度帯域=400℃~600℃でブレーキ装置が使用される頻度が高くなっている。
【0096】
したがって、上述した市街地走行において走行中のブレーキ使用頻度が比較的高い場合と同様に、高負荷走行の場合もブレーキの使用頻度が正規分布に従っていると仮定すると、正規分布の平均値に相当する最も使用頻度が高い温度=500℃であり、ほぼ±3σの範囲に相当するブレーキ温度帯域は、400℃~600℃の温度帯域である。
【0097】
したがって、上述した熱可塑性樹脂のうち、もっとも好適なのは、ポリベンズイミダゾールであると考えられる。
【0098】
以上の説明のように、ライニングに混ぜ込む熱可塑性樹脂は、熱変形温度と、融点と、の差が少なくとも100度以上とされているので、ブレーキの使用頻度の温度分布が正規分布に従っていると仮定した場合に、最も使用頻度が高い温度を平均値とするほぼ±1σの範囲に相当するブレーキ温度帯域で熱可塑性樹脂は、軟化状態を維持でき、摩擦粉に対し確実に混練体あるいは混練体群を形成することができる。
【0099】
より好ましくは、熱変形温度と、融点と、の差を少なくとも150度以上の熱可塑性樹脂を用いることで、より軟化状態を保つことができる温度帯域を拡げてより一層確実に混練体あるいは混練体群を形成することができる。
【0100】
また、熱可塑性樹脂の熱変形温度は50度以上、融点は400度以下とすることで、混練体の確実な形成を行いつつ、実際の熱可塑性樹脂の選択肢を拡げ、選択を容易とすることが可能となる。
【0101】
以上の説明においては、ディスクブレーキ1としてフローティング型の場合を例として説明したが、押圧部材としてのピストンが対向配置され、対向配置されたピストンが一対のブレーキパッド用パッド組立体をディスクロータに押し付ける構成の所謂オポースド型(対向ピストン型)であっても同様に適用が可能である。
【0102】
以上の説明においては、ディスクブレーキに用いられるブレーキパッドのライニングを無焼成セラミックス摩擦材で構成し、裏板でライニングを支持してブレーキパッドとする構成について説明したが、裏板を設けずにブレーキパッドとして形成するようにすることも可能である。
【0103】
以上の説明においては、ディスクブレーキに用いられるライニングあるいはブレーキパッドについて説明したが、ドラムブレーキのブレーキシューを形成するようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0104】
1…ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパ、11…マウンティング、12…キャリパボディ、12a…シリンダ部、15…ピストン、20…ブレーキパッド、21…裏板、22…ライニング、30…ブレーキパッド、40…シム、51…セラミックス粉体、52…活性化セラミックス粉体、52a…非晶質活性層、54MTX…マトリックス(母材)、54X…セラミックス粒子、54a…析出層、54b…接着剤層、60…研削材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8