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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】車両用蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20220323BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220323BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20220323BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220323BHJP
   H02H 7/18 20060101ALI20220323BHJP
   H02H 5/10 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
B60L3/00 S
H01M10/052
H01M50/409
H02J7/00 P
H02J7/00 S
H02H7/18
H02H5/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018081166
(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公開番号】P2019193363
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】花岡 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】大路 潔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 敏貴
(72)【発明者】
【氏名】増田 渉
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-518702(JP,A)
【文献】特開2008-103207(JP,A)
【文献】特開2012-065503(JP,A)
【文献】特開平08-111214(JP,A)
【文献】特開2015-216729(JP,A)
【文献】特開2006-027024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60W 10/00-20/50
H01M 10/052
H01M 50/409
H02J 7/00
H02H 7/18
H02H 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両駆動用の電力を供給するために複数の蓄電モジュールを直列に接続して構成された主回路部と、複数の前記蓄電モジュールから個別に出力させた電力を放電するための放電回路部を備えた車両用蓄電装置において、
車両の衝突を予測する衝突予測手段と、前記蓄電モジュールを個別に昇温させるためのヒータを備え、
前記蓄電モジュールは複数の蓄電池を備え、
前記蓄電池は、正極板と負極板の間に荷電体を通過させるシート状のセパレータを挟持して構成され、
前記衝突予測手段が車両の衝突を予測した場合に、前記蓄電モジュールの電力を前記放電回路部に出力させると共に前記ヒータを作動させることにより、荷電体を通過させないように前記セパレータを変性させることを特徴とする車両用蓄電装置。
【請求項2】
前記衝突予測手段が車両の衝突を予測した場合に複数の前記蓄電モジュールのうちの破損が予測される蓄電モジュールを選択し、前記選択した蓄電モジュールの電力を前記放電回路部に出力させると共に前記ヒータを作動させることを特徴とする請求項1に記載の車両用蓄電装置。
【請求項3】
前記選択した蓄電モジュールをバイパスして前記主回路部に接続するためのバイパス路をさらに備え、
前記主回路部及び前記バイパス路は、前記選択した蓄電モジュールをバイパスすると共に、前記選択した蓄電モジュール以外の蓄電モジュールを直列に接続して前記車両駆動用の電力を供給することを特徴とする請求項2に記載の車両用蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用蓄電装置に関し、特に電気自動車を駆動するための電力を供給する車両用蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、走行中には二酸化炭素等を排出しない電気自動車(Electric Vehicle:EV)についての関心が高まっている。EVは、電力を蓄える蓄電装置を備え、この蓄電装置から供給される車両駆動用の電力で電動モータを回転駆動することにより駆動輪を駆動して走行する。また、この蓄電装置の電力により制動装置や操舵装置、前照灯やエアコン等の電装品を作動させる。
【0003】
EVに搭載される蓄電装置は、最大限に蓄えられた電力で走行可能な距離(航続距離)が長くなるように大容量のものになっている。蓄電装置の充電は、主に駐車時に商用電源等からの電力供給により行われ、走行時には回生ブレーキによりEVの運動エネルギを電気エネルギに変換して充電される。
【0004】
ところで、EVの衝突によりその車両の蓄電装置が破損すると、蓄電装置を構成する蓄電池の内部で電極板がショートして短絡電流により発熱し、可燃性の電解液が発火する場合がある。この危険の回避のため、特許文献1のように、衝突を検知したときに蓄電装置を構成する蓄電池のうちの一部の蓄電池の電力を放電部で安全に放電させて、短絡電流が流れないようにして発火を防ぐ技術が知られている。
【0005】
また、特許文献2のように、衝突を検知したときに蓄電装置を放電させると共に、蓄電装置が放電による発熱のために発火しないように空冷ファンにより構成された冷却装置を作動させて蓄電装置を冷却する技術が知られている。一方、特許文献3のように、蓄電池が何らかの異常によって高温になった場合に、蓄電池のセパレータがイオンを通過させないように微細孔を閉塞するシャットダウン機能を有するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2015-518702号公報
【文献】WO2016157405A1
【文献】特開2006-27024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、EVに搭載される蓄電装置は大容量であり、一部の蓄電池の放電であってもある程度時間を要するので、特許文献1,2のように衝突してから放電を開始しても間に合わずに発火する虞がある。特許文献3のように蓄電池のセパレータのシャットダウン機能を衝突により異常が発生した蓄電池の発熱によって機能させても、同様に発火する虞がある。また、衝突による蓄電装置内の断線等によって安全に放電できない虞もある。
【0008】
本発明の目的は、車両の衝突を予測した場合に、衝突前に車両に搭載された蓄電装置を安全な状態にすることができる車両用蓄電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、車両駆動用の電力を供給するために複数の蓄電モジュールを直列に接続して構成された主回路部と、複数の前記蓄電モジュールから個別に出力させた電力を放電するための放電回路部を備えた車両用蓄電装置において、車両の衝突を予測する衝突予測手段と、前記蓄電モジュールを個別に昇温させるためのヒータを備え、前記蓄電モジュールは複数の蓄電池を備え、前記蓄電池は、正極板と負極板の間に荷電体を通過させるシート状のセパレータを挟持して構成され、前記衝突予測手段が車両の衝突を予測した場合に、前記蓄電モジュールの電力を前記放電回路部に出力させると共に前記ヒータを作動させることにより、荷電体を通過させないように前記セパレータを変性させることを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、車両の衝突を予測した場合に、蓄電モジュールの電力を放電回路部に出力させると共にヒータを作動させ、蓄電モジュールを構成する蓄電池の放電に伴う自己発熱とヒータによる昇温によって、蓄電池のセパレータが荷電体を通過させないように変性させる。従って、衝突によって車両用蓄電装置に異常が発生したときには、既に蓄電池は放電して蓄えられた電力が少なくなっており、且つセパレータの変性により蓄電池の機能が失われた状態になっているので、衝突前に車両用蓄電装置をショートや漏電等の危険性を抑えた安全な状態にすることができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記衝突予測手段が車両の衝突を予測した場合に複数の前記蓄電モジュールのうちの破損が予測される蓄電モジュールを選択し、前記選択した蓄電モジュールの電力を前記放電回路部に出力させると共に前記ヒータを作動させることを特徴としている。
上記構成によれば、破損が予測される蓄電モジュールの蓄電池のみ放電及び変性させることができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記選択した蓄電モジュールをバイパスして前記主回路部に接続するためのバイパス路をさらに備え、前記主回路部及び前記バイパス路は、前記選択した蓄電モジュールをバイパスすると共に、前記選択した蓄電モジュール以外の蓄電モジュールを直列に接続して前記車両駆動用の電力を供給することを特徴としている。
上記構成によれば、選択した蓄電モジュールを主回路部から切り離して、他の蓄電モジュールから車両駆動用の電力を供給可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車両用蓄電装置によれば、車両の衝突を予測した場合に、衝突前に車両に搭載された蓄電装置を安全な状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態によるEV車両の構成を説明するブロック図である。
図2】本発明の実施形態による蓄電装置の要部分解斜視図である。
図3】本発明の実施形態による電力供給の1例を示す回路図である。
図4】本発明の実施形態による蓄電部の要部分解斜視図である。
図5】本発明の実施形態による蓄電池の要部分解斜視図である。
図6】本発明の実施形態による蓄電池の巻回体の要部分解斜視図である。
図7】本発明の実施形態による放電の1例を示す回路図である。
図8】本発明の実施形態による安全制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態による車両用蓄電装置について説明する。最初に、図1に基づいてEVの全体構成について説明する。
EVは、車両駆動用の電動モータ2、制動装置3、車速センサ4、車載カメラ5、ミリ波レーダ6等を含む各種センサ、これらに供給する直流電力の電圧を調整するDCDCコンバータ7等を車両側負荷1として備え、車両側負荷1に供給する車両駆動用の電力を蓄える蓄電装置10と、車両側負荷1及び蓄電装置10を制御する制御部(ECU8)により車両用蓄電装置が構成されている。
【0016】
ECU8は、CPUと各種プログラムを記憶するメモリと入出力装置等を備えたコンピュータにより構成されている。このECU8は、各種センサから周期的に出力される信号を処理して、電動モータ2、制動装置3、蓄電装置10等に対して適切に作動させるための制御信号を出力する。ECU8は、蓄電装置10の充電状態(State Of Charge:SOC)を管理し、運転者に現在のSOCや走行可能距離等を報知する。
【0017】
車速センサ4は検知した自車両の走行速度データをECU8に出力する。車載カメラ5は、自車両の周囲を撮像した画像データをECU8に出力する。この画像データに基づいてECU8が例えば車両、歩行者、その他物体等の対象物を特定する。
【0018】
ミリ波レーダ6は、自車両の周囲に電波を発して対象物で反射された反射波を受信することにより、自車両から対象物までの距離と、自車両と対象物の相対速度を検知してECU8に出力する。尚、ミリ波レーダ6に代えてレーザ光や超音波を利用するレーダによって、又はこれらを併用して対象物までの距離及び相対速度を検知するように構成してもよく、車車間通信等によって対象物である他車両までの距離及び相対速度を検知するように構成してもよい。
【0019】
次に、蓄電装置10について説明する。
蓄電装置10は、図2に示すようにEV車両のフロアパネルの下方空間に配設するための耐振性(剛性)と耐水性(防水性)を確保できるように、支持部材11とカバー部材12により密閉状に収容されている。そして蓄電装置10から発生する熱を、熱伝導等を利用して支持部材11に伝熱させ、走行風等を利用して支持部材11から車両外部に放熱する。尚、図中の矢印Uは上方を示し、矢印Fは車両前方を示し、矢印Lは車両左方を示す。
【0020】
図2図3に示すように、蓄電装置10は、複数の蓄電モジュールM1~Mnを複数のバスバー13によって直列に接続してEVの車両駆動用の電力を供給するように構成された主回路部20と、複数の蓄電モジュールM1~Mnから個別に電力を出力させるための放電回路部30を備えている。尚、EVに搭載される蓄電モジュールの数は、そのEVの仕様等に応じて適宜設定される。
【0021】
複数の蓄電モジュールM1~Mnは同じ構成であり、以下では蓄電モジュールM1について説明して他の蓄電モジュールM2~Mnの説明を省略する。
蓄電モジュールM1は、電力を蓄える蓄電部21と、蓄電部21をバイパスするためのバイパス路22と、第1切替えスイッチ23と、第2切替えスイッチ24と、冷却ユニット25及び冷却スイッチ25aと、ヒータ26及びヒータスイッチ26aと、第1放電切替えスイッチ27と、第2放電切替えスイッチ28を備えている。
【0022】
第1切替えスイッチ23は、蓄電部21の負極側に配設され、主回路部20との接続を蓄電部21又はバイパス路22に切替える。第1切替えスイッチ23をバイパス路22に切替えることにより、蓄電モジュールM1をバイパスして他の蓄電モジュールから車両駆動用の電力を供給するように主回路部20に接続される。第2切替えスイッチ24は、蓄電部21を主回路部20から切り離すために蓄電部21の正極側に配設されている。第1放電切替えスイッチ27は蓄電部21の負極側に、第2放電切替えスイッチ28は蓄電部21の正極側に配設され、蓄電モジュールM1を放電回路部30に接続又は接続解除に切替える。
【0023】
蓄電部21は、例えば図4に示すように、規格電圧を有して上面に正極端子と負極端子が配設された直方体形状の複数(例えば12個)の蓄電池21aを、セパレータ21bを間に挟んで直方体形状となるように水平方向に1列に整列させている。そして、複数のバスバー21cにより例えば2つの蓄電池21aを並列接続したものを6つ直列接続し、その両端部に蓄電部21の正極端子21dと負極端子21eを備えて蓄電部21が構成されている。バイパス路22は、この正極端子21dと負極端子21eに夫々第1切替えスイッチ23、第2切替えスイッチ24を介して配設されている。
【0024】
蓄電部21は、所定箇所の温度を検知するための温度センサハーネス21iとバイパス路22も含めて、1対のエンドプレート21fと、この1対のエンドプレート21fを連結する1対のアルミ合金製のバインドバー21gと、蓄電部21の上側を覆う合成樹脂製のアッパプレート21hによって囲まれて一体化されている。アッパプレート21hは、例えば図示外の複数のクランプ部材によって、1対のエンドプレート21fと1対のバインドバー21gの上端に載置された状態で固定される。尚、バイパス路22は、アッパプレート21hの上側に配設してもよい。
【0025】
アッパプレート21hは、正極端子21dと負極端子21eに対応する位置に、正極端子21dと負極端子21eが露出し且つ温度センサハーネス21iを挿通する切欠部を備えている。1対のバインドバー21gの一方には、シート状のヒータ26を備えたヒータユニット21jが密着状に装着され、蓄電部21が低温のときに、ヒータ26の通電によるジュール熱によって所定の使用温度域に蓄電部21を温める。ヒータ26の作動と停止の切替えは、蓄電部21との接続と接続解除とを切替えるヒータスイッチ26aにより行われる(図3参照)。
【0026】
一体化された蓄電部21は、例えば締結部材によって支持部材11に締結固定されている。蓄電部21は、その全ての蓄電池21aの下面部に密着する冷却ユニット25を間に介して、熱伝導性が優れた金属製(例えばアルミ合金製)の板状の支持部材11に密着する。
【0027】
蓄電池21aは、例えば二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池であり、正極板と負極板の間に荷電体を通過させるシート状のセパレータを挟持して構成されている。例えば図5図6に示すように、直方体形状のケース33に正極板34aと負極板34bとセパレータ(第1セパレータ34c,第2セパレータ34d)が偏平状に巻回されて外周を絶縁部材34eで覆われた巻回体34が電解液(図示略)と共に収容され、蓋部材35によって密閉されている。
【0028】
第1セパレータ34cと第2セパレータ34dは、例えばポリエチレン等の熱可塑性樹脂により形成されて、正極板34aと負極板34bの短絡を防ぐための絶縁性を有している。また、第1セパレータ34cと第2セパレータ34dは、正極板34aと負極板34bの間で電解液中のリチウムイオン等の荷電体が通過可能な複数の微細孔を有した多孔性のシート状部材である。第1セパレータ34cと第2セパレータ34dは、蓄電池21aが所定の温度(例えば80℃)以上になると、熱によって微細孔が閉塞し、荷電体が通過できないように変性するシャットダウン機能を備えている。このシャットダウン機能によって、蓄電池21aの充放電する機能が失われる。また、微細孔を起点とした衝突の衝撃によるセパレータの破れ等に対して強化され、正極板34aと負極板34bの短絡を抑制する。
【0029】
正極板34aは蓄電池21aの正極端子36に接続され、負極板34bは蓄電池21aの負極端子37に接続され、正極端子36と負極端子37を介して蓄電池21aの充放電が行われる。充放電時には蓄電池21aが発熱するため、所定の温度(例えば60℃)以下で充放電できるように蓄電部21の冷却ユニット25によって冷却する。
【0030】
冷却ユニット25は、例えば、吸熱部と放熱部を備えたペルチェ素子冷却ユニットであり、吸熱部を密着させた蓄電部21の電力により作動して吸熱部に伝わる蓄電部21の熱を放熱部に移動させ、放熱部が密着する支持部材11に伝熱させる。図3に示すように、冷却ユニット25の作動と停止の切替えは、蓄電部21との接続と接続解除とを切替える冷却スイッチ25aにより行われる。尚、冷却ファン等を備えた公知の冷却装置を冷却ユニット25として使用することもできる。
【0031】
図2図3に示すように、放電回路部30は、放電回路部30に出力された電力を消費して熱として散逸させるための放電用抵抗31を有する。蓄電装置10に搭載される第1切替えスイッチ23等のスイッチは、瞬間的に流れる例えば100A以上の大電流を許容可能なメカニカルリレーや半導体素子で構成され、蓄電部21の正極端子21d又は負極端子21eの近傍に配設されている。尚、放電用抵抗31は、空冷のためにカバー部材12に覆われていなくてもよい。
【0032】
ECU8は、機能的に、車載カメラ5の画像データやミリ波レーダ6の測定データ等、各種センサの検知データに基づいて自車両と他の車両や物体等の対象物との衝突を予測する衝突予測手段を備えている。このECU8と蓄電装置10とで車両用蓄電装置を構成し、衝突の予測に基づく車両用蓄電装置の安全制御を行う。
【0033】
図3は、信号待ち等の停車時を含む走行中の蓄電装置10による電力供給の状態の1例を示している。この走行中に自車両の周囲の画像データ、対象物との距離及び相対速度等の測定データ、自車両の走行速度データ、進行方向のデータに基づいて、ECU8が衝突する虞のある対象物を特定し、近い将来(例えば10秒後)に衝突するか否か判定する。そして衝突すると判定した場合には、ECU8が同様のデータに基づいてその対象物の形状、大きさ、対象物との相対速度を特定して、自車両における衝突部位を予測すると共に衝突による蓄電モジュールの破損を予測する。
【0034】
衝突が予測され且つ衝突により例えば蓄電モジュールM1,M2の破損が予測されると、図7に示すように、破損が予測された蓄電モジュールM1,M2を選択して電力を放電回路部30に供給させる。また、選択した蓄電モジュールM1,M2のヒータスイッチ26aを接続して、ヒータ26をその蓄電モジュールM1,M2自体の電力により作動させる。尚、選択する蓄電モジュールは1つだけ又は3つ以上の場合もある。
【0035】
選択した蓄電モジュールM1,M2を構成する複数の蓄電池21aは、放電に伴う自己発熱により温度が上昇すると共にヒータ26によって昇温され、蓄電池21aのセパレータのシャットダウン機能が作動する所定の温度に到達する。選択した蓄電モジュールM1,M2は、この蓄電池21aのシャットダウン機能により安全に機能を停止して昇温が停止する。尚、冷却ユニット25がペルチェ素子冷却ユニットである場合には、冷却時と極性(電流の向き)を反対にして作動させるように構成して、支持部材11の熱を蓄電モジュールに移動させて昇温を補助し、電力消費と昇温を促進してより早く安全な状態にすることもできる。また、所定の温度到達前に選択した蓄電モジュールの電力がなくなる場合もあるが、電力が蓄えられていないのでこれも安全な状態である。
【0036】
こうして衝突を予測した場合に、放電用抵抗31とヒータ26によって選択した蓄電モジュールM1,M2に蓄えられた電力を減少させると共に、その選択した蓄電モジュールM1,M2を所定の温度に昇温させて、夫々の蓄電部21を構成する複数の蓄電池21aの機能を失わせて安全な状態にする。一方、選択されていない蓄電モジュールM3~Mnは、蓄電モジュールM1,M2の夫々のバイパス路22を介して主回路部20に直列に接続され、車両駆動用の電力を供給する。
【0037】
上記の車両用蓄電装置の安全制御について、図8のフローチャートに基づいて説明する。図中のSi(i=1,2,・・・)はステップを表す。
S1において、車載カメラ5の画像データ、ミリ波レーダ6の測定データ、自車両の走行速度等の衝突予測用データを取得する。
【0038】
S2において、取得した衝突予測用データに基づいて、例えば10秒後に自車両が対象物と衝突するか否か判定する。衝突を予測して判定がYesの場合はS3に進み、衝突が予測されず判定がNoの場合はS1に戻る。
【0039】
S3において、予測した衝突によって車両用蓄電装置の何れかの蓄電モジュールが破損するか否か判定する。判定がYesの場合はS4に進み、判定がNoの場合はS1に戻る。
【0040】
次にS4において、破損が予測された蓄電モジュールとして例えば蓄電モジュールM1,M2を選択し、夫々の第1,第2切替えスイッチ23,24の切替えによって主回路部20から蓄電モジュールM1,M2の蓄電部21を切り離すと共に、この蓄電部21をバイパスするように蓄電モジュールM1,M2のバイパス路22を主回路部20に接続してS5に進む。選択した蓄電モジュールM1,M2以外の蓄電モジュールM3~Mnは、直列に接続した状態を維持して駆動用電力を車両側負荷1に供給する(図7参照)。これにより衝突回避の動作や放電後の走行を可能にする。
【0041】
S5において、選択した蓄電モジュールM1,M2を放電回路部30に接続して電力を出力するように蓄電モジュールM1、M2の夫々の第1,第2放電切替えスイッチ27,28を切替えてS6に進む(図7参照)。
【0042】
S6において、選択した蓄電モジュールM1,M2に蓄えられた電力を減少させるために、放電回路部30に電力を供給すると共にヒータ26を作動させて安全制御を終了する(図7参照)。蓄電モジュールM1,M2から出力される電力は、シャットダウン機能が作動するまで又は蓄電部21の電力がなくなるまで、放電用抵抗31とヒータ26で消費される。
【0043】
次に、本発明の作用、効果について説明する。
EVである自車両は、走行中に対象物との衝突の予測を周期的に行っている。そして自車両の衝突が予測されると、蓄電装置10を構成する蓄電モジュールの電力を放電回路部30に出力させると共にヒータ26を作動させる。そして、蓄電モジュールを構成する蓄電池21aの放電に伴う自己発熱とヒータ26の昇温によって蓄電池21aを所定の温度に昇温させ、蓄電池21aのセパレータが荷電体を通過させないように変性させる。従って、衝突によって蓄電装置10に破損等の異常が発生したときには、既に蓄電池21aは放電して蓄えられた電力が少なくなっており、且つセパレータを変性させて蓄電池21aの充放電の機能が失われた状態なので、衝突前に破損によるショートや漏電等の危険性を抑えた安全な状態にすることができる。
【0044】
また、自車両の衝突が予測されると蓄電装置10を構成する蓄電モジュールの破損を予測し、破損が予測される蓄電モジュールを選択する。そして、選択した蓄電モジュールの電力を放電回路部30に出力させると共にヒータ26を作動させる。従って、破損が予測される蓄電モジュールだけ放電させると共にその蓄電モジュールの複数の蓄電池21aのセパレータを変性させることができるので、当該蓄電モジュールが衝突によって破損した場合でも、その衝突前に安全な状態にすることができる。
【0045】
その上、選択した蓄電モジュールをバイパスすると共に、選択した蓄電モジュール以外の蓄電モジュールを直列に接続して車両駆動用の電力を供給する。従って、選択した蓄電モジュールを主回路部20から切り離して安全制御を行いながら、他の蓄電モジュールから車両駆動用の電力を供給することができる。これにより衝突回避動作を行うことや、衝突が回避されて又は衝突が軽度でその後自車両が自走できる場合にその電力で自走することができる。
【0046】
その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく上記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はその種の変更形態をも包含するものである。
【符号の説明】
【0047】
1 :車両側負荷
4 :車速センサ
5 :車載カメラ
6 :ミリ波レーダ
8 :ECU
10 :蓄電装置
20 :主回路部
21 :蓄電部
21a :蓄電池
22 :バイパス路
23 :第1切替えスイッチ
24 :第2切替えスイッチ
26 :ヒータ
26a :ヒータスイッチ
27 :第1放電切替えスイッチ
28 :第2放電切替えスイッチ
30 :放電回路部
31 :放電用抵抗
34 :巻回体
34c :第1セパレータ
34d :第2セパレータ
M1~Mn :蓄電モジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8