(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、その製造方法、前記活物質を含有する正極、前記正極を備えた非水電解質二次電池、及び前記非水電解質二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20220323BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220323BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20220323BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220323BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20220323BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/131
H01M10/052
H01M10/058
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2018117726
(22)【出願日】2018-06-21
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】大谷 眞也
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-50079(JP,A)
【文献】国際公開第2003/044881(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/190419(WO,A1)
【文献】特許第4877660(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/131
H01M 10/052
H01M 10/058
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、
α-NaFeO
2型結晶構造を有し、
遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであり、
遷移金属(Me)としてNi、Co及びMn、又はNi及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/MeがMn/Me≧0.45であり、
前記正極活物質は、4.35V(vs.Li/Li
+)から3.0V(vs.Li/Li
+)までの放電容量(a)と3.0V(vs.Li/Li
+)から2.0V(vs.Li/Li
+)までの放電容量(b)の比a/bが17≦a/b≦25である、
非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
α-NaFeO
2型結晶構造を有し、
遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであり、
遷移金属(Me)としてNi、Co及びMn、又はNi及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/MeがMn/Me≧0.45であるリチウム遷移金属複合酸化物を、pKa
1が3.1以上の酸で処理して、4.35V(vs.Li/Li
+)から3.0V(vs.Li/Li
+)までの放電容量(a)と3.0V(vs.Li/Li
+)から2.0V(vs.Li/Li
+)までの放電容量(b)の比a/bが17≦a/b≦25である正極活物質を製造する、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
請求項3に記載の非水電解質二次電池用正極を備え、前記正極が含有する正極活物質は、CuKα線を用いたエックス線回折図において、20~22°の範囲に回折ピークが観察される、非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項3に記載の非水電解質二次電池用正極を備え、前記正極は正極電位が5.0V(vs.Li/Li
+)に至る充電を行ったとき、4.5~5.0V(vs.Li/Li
+)の正極電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域が観察される、非水電解質二次電池。
【請求項6】
4.5V(vs.Li/Li
+)未満の電位で使用される、請求項4又は5に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
請求項4~6のいずれかに記載の非水電解質二次電池の製造方法であって、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li
+)未満とする、非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質、その製造方法、前記活物質を含有する正極、及び前記正極を備えた非水電解質二次電池、及び前記非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリット自動車等の車載用途では、高エネルギー密度、高出力性能なリチウムイオン電池に代表される非水電解質二次電池が強く求められている。
従来、非水電解質二次電池用正極活物質として、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が検討され、LiCoO2を用いた非水電解質二次電池が広く実用化されている。LiCoO2の放電容量は120~130mAh/g程度である。前記リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属(Me)として、地球資源として豊富なMnを用い、前記リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属に対するLiのモル比Li/Meがほぼ1であり、遷移金属中のMnのモル比Mn/Meが0.5以下であるいわゆる「LiMeO2型」活物質を用いた非水電解質二次電池も実用化されている。例えば、LiNi1/2Mn1/2O2やLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2を含有する正極活物質の放電容量は150~180mAh/gである。
【0003】
一方、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の中でも、遷移金属(Me)中のMnのモル比が大きく、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1を超えるいわゆる「リチウム過剰型」活物質が知られている。この活物質は、電池を組立てて、最初に行う充電過程において、4.5~5.0V(vs.Li/Li+)の電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域が観察されるという特徴があり、上記平坦な領域に至る初期充電を行うことにより、以降の充電電位をそれほど貴としなくても、「LiMeO2型」活物質に比べて高い放電容量を有することから、注目されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、「α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の固溶体を含むリチウム二次電池用活物質であって、前記固溶体が含有するLi,Co,Ni及びMnの組成比が、Li1+(1/3)xCo1-x-yNi(1/2)yMn(2/3)x+(1/2)y(x+y≦1、0≦y、1-x-y=z)を満たし、・・・で表され、かつ、X線回折測定による(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が、充放電前においてI(003)/I(104)≧1.56であり、放電末においてI(003)/I(104)>1であり、4.3V(vs.Li/Li+)を超え4.8V以下(vs.Li/Li+)の正極電位範囲に充電電気量に対して出現する電位変化が比較的平坦な領域に少なくとも至る初期充電を行う工程を経た場合に、4.3V(vs.Li/Li+)以下の電位領域において放電可能な電気量が177mAh/g以上となることを特徴とするリチウム二次電池用活物質。」(請求項3)が記載されている。
【0005】
そして、段落[0062]には、「本発明に係るリチウム二次電池用活物質を用い、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li+)以下となるような充電方法を採用しても、充分な放電容量を取り出すことのできるリチウム二次電池を製造するためには、次に述べる、本発明に係るリチウム二次電池用活物質に特徴的な挙動を考慮した充電工程を該リチウム二次電池の製造工程中に設けることが重要である。即ち、本発明に係るリチウム二次電池用活物質を正極に用いて定電流充電を続けると、正極電位4.3V~4.8Vの範囲に、電位変化が比較的平坦な領域が比較的長い期間に亘って観察される。・・・ここで採用した充電条件は、電流0.1ItA、電圧(正極電位)4.5V(vs.Li/Li+)の定電流定電圧充電であるが、充電電圧をさらに高く設定しても、この比較的長い期間に亘る電位平坦領域は、xの値が1/3以下の材料を用いた場合にはほとんど観察されない。逆に、xの値が2/3を超える材料では、電位変化が比較的平坦な領域が観察される場合であっても短いものとなる。また、従来のLi[Co1-2xNixMnx]O2(0≦x≦1/2)系材料でもこの挙動は観察されない。この挙動は、本発明に係るリチウム二次電池用活物質に特徴的なものである。」と記載されている。
【0006】
一方、「リチウム過剰型」活物質を用いた電池を、4.5V(vs.Li/Li+)以上の初期充電過程を経て使用する場合、「LiMeO2型」活物質を用いた電池と比較して、初回クーロン効率が低く、高率放電性能が劣ることが知られている。
そこで、「リチウム過剰型」活物質を用いた電池の初回クーロン効率、高率放電性能を向上させる技術として、正極活物質の酸処理が知られている。(特許文献2~6)
【0007】
特許文献2には、「一般式:Li1+uNixCoyMnzAtO2+α(0.1≦u<0.3、0.03≦x≦0.25、0.03≦y≦0.25、0.4≦z<0.6、x+y+z+u+t=1、0≦α<0.3、0≦t<0.1、Aは2価から6価までの価数のいずれかをとる金属元素のうち少なくとも1種)で表され、一次粒子が凝集した二次粒子で構成されたリチウム過剰金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、少なくともニッケル、コバルト、マンガンを含む水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、及び炭酸塩の少なくとも1種からなる一次粒子が凝集した二次粒子とリチウム化合物を混合してリチウム混合物を得る混合工程と、前記リチウム混合物を、酸化性雰囲気中にて800~1050℃の温度で焼成して焼成物を得る焼成工程と、酸洗前後での焼成物のリチウム含有量の差を酸洗前の焼成物のリチウム含有量で除したリチウム除去率が10~30%、且つ酸洗終了時の酸洗スラリーの25℃基準におけるpHが1~4となるように制御して酸洗を前記焼成物に施した後、水洗する酸洗工程と、前記酸洗工程を経た焼成物を、酸化性雰囲気中にて200~600℃の温度で熱処理する熱処理工程を含むことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」(請求項5)が記載されている。
そして、「この酸洗に用いる酸は、解離定数の高い強酸性を示す酸が好ましく、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸のいずれかとすることがより好ましく、塩酸、硫酸のいずれかとすることがさらに好ましい。」(段落[0073])、「そこで、強酸を用いない場合、結晶構造からリチウムを引き抜くことが難しく、また一次粒子の表面に微細な凹凸を形成するだけの溶解を引き起こせないため、界面抵抗を下げることが出来ないことがある。」(段落[0074])と記載され、上記正極活物質の評価は、負極にLi金属を用いたコイン型電池を作製し、初期充放電を0.05C、4.8V充電及び2.5V放電で行い、充電容量に対する放電容量の比を初期充放電効率としたこと、電圧範囲2.0~4.55Vにおいて、0.1Cで充放電した際の放電容量を分母に、充電0.1C、放電2Cで充放電を行ったときの放電容量を分子としたときの割合(%)を負荷効率としたことが記載されている(段落[0096]~[0101]、[0103])。
【0008】
特許文献3には、「α-NaFeO2構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、前記遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、前記遷移金属中のMnのモル比Mn/MeがMn/Me≧0.5であり、CuKα線源を用いたエックス線回折パターンにおける2θ=44±1°の回折ピークの半値幅が0.265°以上で、且つ、P元素を含有することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。」(請求項1)、「前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リン酸処理後の熱処理によりPを含有させたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。」(請求項3)が記載されている。
そして、上記のリン酸処理後に熱処理をされた各実施例に係る活物質を用いたリチウム二次電池を作製し、電流0.1C、電圧4.6Vの定電流定電圧充電、電流0.05C、終止電圧2.0Vの定電流放電を2サイクル行った後、電流0.2C、電圧4.3Vの定電流定電圧充電と、電流0.5C、終止電圧2.0Vの定電流放電の充放電試験を30サイクル行い、30サイクル目の放電容量を30サイクル目0.5C放電容量として記録したことが記載されている(段落[0075]~[0085]、[0123]~[0130])。
【0009】
特許文献4には、「リチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO2構造を有し、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、前記遷移金属に対するリチウム(Li)のモル比Li/Meが1.2より大きく且つ1.6より小さく、窒素ガス吸着法を用いた吸着等温線からBJH法で求めた微分細孔容積の最大値を示す細孔径が60nmまでの範囲内の細孔領域にて0.055cc/g以上0.08cc/g以下の細孔容積を有し、1000℃において空間群R3-mに帰属される単一相を示す、リチウム二次電池用正極活物質。」(請求項1)、「遷移金属元素としてCo,Ni及びMnを含む前駆体を作製する前駆体作製工程、前記前駆体とLi塩を混合して800℃以上の温度で熱処理して酸化物を作製する焼成工程、及び、前記酸化物を酸処理する酸処理工程を経て、前記リチウム遷移金属複合酸化物を作製する、請求項1~6のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。」(請求項9)、「前記酸処理工程は、硫酸を用いる、請求項9~12のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。」(請求項13)が記載されている。
また、上記の実施例として、リチウム遷移金属複合酸化物を硫酸処理した後、乾燥して得た活物質を正極に用い、負極に金属リチウムを用いたリチウム二次電池を作製し、初期充放電工程として、電流0.1C、電圧4.6Vの定電流定電圧充電、及び電流0.1C、終止電圧2.0Vの定電流放電を2サイクル行い、次に、電流0.1C、電圧4.3Vの定電流定電圧充電、及び電流1C、終止電圧2.0Vの定電流放電を行い、この放電電気量を1C容量として記録したことが記載されている(段落[0076]~[0087]、[0108]~[0115])。
【0010】
特許文献5には、「α-NaFeO2構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、Liと遷移金属(Me)のモル比(Li/Me)が1<Li/Meであり、Mnと遷移金属(Me)のモル比(Mn/Me)が0.5<Mn/Meであり、Ceを含有することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。」(請求項1)が記載され、実施例1~5として、「出発物質のリチウム遷移金属複合酸化物Li1.18Co0.10Ni0.17Mn0.55O2」を、pH1.6の硫酸セリウム溶液に投入し、400℃で熱処理することにより、Ceを含むリチウム遷移金属複合酸化物を作製したことが記載されている(段落[0079]~[0082])。そして、これらのリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質とし、負極を金属リチウムとした電池を作製し、0.1C、4.6V-2.0Vの初期充放電工程に供し、放電容量を充電電気量で割った値(%)を初期効率とし、0.2C、4.45Vの定電流定電圧充電、及び0.5C、2.0Vの定電流放電を30サイクル行い、1サイクル目の放電容量に対する30サイクル目の放電容量の比(%)を放電容量維持率として電池の評価を行った結果が表1に示されている(段落[0090]~[0097])。
【0011】
特許文献6には、「過リチウム化された金属酸化物を酸処理する段階と、酸処理された前記過リチウム化された金属酸化物を金属陽イオンでドーピング処理する段階と、を含み、前記過リチウム化された金属酸化物は、下記の化学式4で表示される化合物を含む複合正極活物質の製造方法:[化4] xLi2MO3-(1-x)LiM’O2 前記式で、Mは、平均酸化数+4を持つ、4周期及び5周期遷移金属から選択される少なくとも一つの金属であり、M’は、平均酸化数+3を持つ、4周期及び5周期遷移金属から選択される少なくとも一つの金属であり、0<x<1である。」(請求項13)が記載されている。そして、その実施例として、0.55Li2MnO3-0.45LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2組成の物質をHNO3水溶液に添加した後、80℃で乾燥する酸処理を行い、酸処理された前記物質をAl等の硝酸塩水溶液500mLに投入し、300℃で5時間熱処理を行い、金属陽イオンでドーピングされた活物質を得たこと(段落[0137]~[0147])、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2活物質の場合、該酸処理条件で充放電曲線の変化がなく、酸溶液との反応によってLiイオンが脱離されていないが、Li2MnO3は、酸処理時に酸溶液のH+とLi+イオンの置換によって放電曲線が大きく変化したこと(段落[0159])、負極をリチウムメタルとして、初期充放電を0.1C、4.7-2.5Vの定電流充放電で行い初期効率を評価し、0.5C、4.6V定電圧定電流充電、放電電流をそれぞれ0.2,0.33,1,2,及び3C、2.5Vの定電流放電を行ってレート特性を評価したこと(段落[0165]~[0166])が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第4877660号公報
【文献】特開2015-122235号公報
【文献】特開2016-15298号公報
【文献】国際公開2015/083330
【文献】特開2016-126935号公報
【文献】特開2014-170739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献2~6に記載されるように、「リチウム過剰型」活物質を正極に用い、正極電位が4.5V(Li/Li+)以上の初期充放電(以下、「過充電化成」ともいう。)を経て使用されることを前提とする非水電解質二次電池において、「リチウム過剰型」活物質を塩酸、リン酸、硫酸、又は硝酸等で酸処理すると、初回クーロン効率や高率放電性能が向上することが知られているが、強酸で処理した場合の効果が示されているだけであり、また、過充電化成をしない場合の効果については不明である。
【0014】
ところで、非水電解質二次電池には、誤って満充電状態(SOC100%)を超えてさらに充電がされた場合に安全性が確保されることが規格(例えば自動車用電池に対して「GB/T(中国勧奨国家標準)」)によって定められている。安全性が向上したことを評価する方法としては、充電制御回路が壊れた場合を想定し、満充電状態を超えてさらに電流を強制的に印加したときに、電池電圧の急上昇が観察されたSOCを記録する方法がある。より高いSOCに至るまで、電池電圧の急上昇が観察されない場合、安全性が向上したと評価される。
ここで、SOCとはState Of Chargeの略で、電池の充電状態をそのときの残存容量と満充電時の容量との比率で表したものであり、満充電状態を「SOC100%」と表記する。また、本明細書中の「初回」充放電とは、非水電解質を注液後に行われる、1回目の充電及び放電をさす。「初期」充放電とは、非水電解質を注液後、電池の出荷前製造工程にて行われる1回または複数回の充電及び放電をさす。
特許文献1に記載された「4.3V(vs.Li/Li+)を超え4.8V以下(vs.Li/Li+)の正極電位範囲に充電電気量に対して出現する電位変化が比較的平坦な領域」は「リチウム過剰型」活物質に特徴的に観察される。上記の電位変化が比較的平坦な領域が観察される充電を一度でも行うと、次に4.8Vに至る充電を行っても、上記平坦な領域は観察されることがない。したがって、正極に「リチウム過剰型」活物質を含み、上記の電位変化が比較的平坦な領域が観察される初期充放電を行わず、通常使用の満充電(SOC100%)を上記の電位変化が平坦な領域が観察されない正極電位とする非水電解質二次電池を提案した。この電池は、SOC100%を超えて、さらに充電された場合、上記電位変化が比較的平坦な領域が初めて観察され、より高いSOCに至るまで電池電圧の急上昇が観察されない。
【0015】
しかし、「リチウム過剰型」活物質を、初期充放電を含めて4.5V(vs.Li/Li+)以上の充電電位を経ることなく使用する場合の初回クーロン効率、及び高率放電性能について、今まで検討されたことはなく、酸処理との関係性も不明であった。
そこで、本発明は、4.5V(vs.Li/Li+)未満の電位で使用したとき、優れた初回クーロン効率、及び高率放電性能を示す非水電解質二次電池用正極活物質、その製造方法、前記正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極、前記正極を備えた非水電解質二次電池、及び前記非水電解質二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一側面は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO2型結晶構造を有し、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであり、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMn、又はNi及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/MeがMn/Me≧0.45であり、前記正極活物質は、4.35V(vs.Li/Li+)から3.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(a)と3.0V(vs.Li/Li+)から2.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(b)の比a/bが17≦a/b≦25である、非水電解質二次電池用正極活物質である。
【0017】
本発明の他の一側面は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、α-NaFeO2型結晶構造を有し、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであり、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMn、又はNi及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/MeがMn/Me≧0.45であるリチウム遷移金属複合酸化物を、pKa1が3.1以上の酸で処理して、4.35V(vs.Li/Li+)から3.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(a)と3.0V(vs.Li/Li+)から2.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(b)の比a/bが17≦a/b≦25である正極活物質を製造する、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0018】
本発明のさらに他の一側面は、前記非水電解質二次電池用正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極である。
【0019】
本発明のさらに他の一側面は、前記の非水電解質二次電池用正極を備え、前記正極が含有する正極活物質は、CuKα線を用いたエックス線回折図において、20~22°の範囲に回折ピークが観察される、非水電解質二次電池である。又は、前記の非水電解質二次電池用正極を備え、前記正極は正極電位が5.0V(vs.Li/Li+)に至る充電を行ったとき、4.5~5.0V(vs.Li/Li+)の正極電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域が観察される、非水電解質二次電池である。
【0020】
本発明の他の一側面は、前記の非水電解質二次電池の製造方法であって、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li+)未満とする、前記の非水電解質二次電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、4.5V(vs.Li/Li+)未満の電位で使用したとき、優れた初回クーロン効率、及び高率放電性能を示す非水電解質二次電池用正極活物質、その製造方法、前記正極活物質を含有する正極、前記正極を備えた非水電解質二次電池、及び前記非水電解質二次電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】非水電解質二次電池に用いたリチウム過剰型正極活物質のエックス線回折測定において「20~22°の範囲に回折ピークが観察される」ことを説明する図
【
図2】非水電解質二次電池に用いたリチウム過剰型正極活物質のエックス線回折測定において「20~22°の範囲に回折ピークが観察され」ないことを説明する図
【
図3】リチウム過剰型正極活物質の充電電気量に対する電位変化を示す図
【
図4】「充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域」を説明する図
【
図5】本実施形態に係る非水電解液二次電池の外観斜視図
【
図6】本実施形態に係る非水電解液二次電池を複数個備えた蓄電装置の概略図
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その本質又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施形態又は実施例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0024】
本発明の一実施形態は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO2型結晶構造を有し、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであり、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMn、又はNi及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/MeがMn/Me≧0.45であり、前記正極活物質は、4.35V(vs.Li/Li+)から3.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(a)と3.0V(vs.Li/Li+)から2.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(b)の比a/bが17≦a/b≦25である、非水電解質二次電池用正極活物質である。
【0025】
本発明の他の一実施形態は、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、α-NaFeO2型結晶構造を有し、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであり、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMn、又はNi及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/MeがMn/Me≧0.45であるリチウム遷移金属複合酸化物を、pKa1が3.1以上の酸で処理して、4.35V(vs.Li/Li+)から3.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(a)と3.0V(vs.Li/Li+)から2.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(b)の比a/bが17≦a/b≦25である正極活物質を製造する、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0026】
本発明のさらに他の一実施形態は、前記非水電解質二次電池用正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極である。
【0027】
本発明のさらに他の一実施形態は、前記の非水電解質二次電池用正極を備え、前記正極が含有する正極活物質は、CuKα線を用いたエックス線回折図において、20~22°の範囲に回折ピークが観察される、非水電解質二次電池である。
【0028】
本発明のさらに他の一実施形態は、前記の非水電解質二次電池用正極を備え、前記正極は正極電位が5.0V(vs.Li/Li+)に至る充電を行ったとき、4.5~5.0V(vs.Li/Li+)の正極電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域が観察される、非水電解質二次電池である。
上記の非水電解質二次電は、4.5V(vs.Li/Li+)未満の電位で使用されることが好ましい。
【0029】
本発明のさらに他の一実施形態は、前記の非水電解質二次電池の製造方法であって、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li+)未満とする、前記の非水電解質二次電池の製造方法である。
【0030】
上記した本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池用正極活物質(以下、「本実施形態に係る正極活物質」という。)、本発明の他の一実施形態に係る非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、「本実施形態に係る正極活物質の製造方法」という。)、本発明のさらに他の一実施形態に係る非水電解質二次電池用正極(以下、「本実施形態に係る非水電解質二次電池用正極」という。)、本発明のさらに他の一実施形態に係る非水電解質二次電池(以下、「本実施形態に係る非水電解質二次電池」という。)、本発明のさらに他の一実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法(以下、「本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法」という。)について、以下、詳細に説明する。
【0031】
<リチウム遷移金属複合酸化物の組成>
本実施形態に係る正極活物質に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物(以下、「本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物」という。)は、一般式Li1+αMe1-αO2(0<α、MeはNi及びMn、又はNi、Mn及びCoを含む遷移金属元素)で表される、いわゆる「リチウム過剰型」活物質である。典型的には、Li1+α(NixCoyMnz)1-αO2(x+y+z=1)と表すことができる。SOC100%を超えて、さらに充電された時により高いSOCに至るまで電池電圧の急上昇が観察されないものとするために遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Me、すなわち(1+α)/(1-α)は1.05以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましい。放電容量の低下を抑制するためには、Li/Meは1.4以下であることが好ましく、1.35以下であることがより好ましい。
遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Me、すなわちzは、層状構造の安定化の観点から、0.45以上である。また、充放電容量の観点から、Mn/Meは0.65以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましい。
遷移金属元素Meに対するNiのモル比Ni/Me、すなわちxは、非水電解質二次電池の充放電サイクル性能を向上させるために、0.2以上とすることが好ましく、0.5以下とすることが好ましい。
遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Me、すなわちyは、活物質粒子の導電性を高めるために0.03以上であることが好ましい。材料コストを削減するためには、0.40以下であることが好ましく、0.30以下とすることがより好ましい。
なお、本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、本発明の効果を損なわない範囲で、Na,K等のアルカリ金属、Mg,Ca等のアルカリ土類金属、Fe等の3d遷移金属に代表される遷移金属など少量の他の金属を含有することを排除するものではない。
【0032】
<リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造>
本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO
2型結晶構造を有している。上記リチウム遷移金属複合酸化物は、合成後(活物質としての充放電前)、空間群P3
112に帰属されると共に、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=20~22°の範囲に超格子ピーク(Li[Li
1/3Mn
2/3]O
2型の単斜晶に見られるピーク)が確認される。このピークは、4.5V(vs.Li/Li
+)以上の電位で充電を行わない限り、消失しない(
図1参照)。ところが、一度でも4.5V(vs.Li/Li
+)以上の電位で充電を行うと、結晶中のLiの脱離に伴って結晶の対称性が変化することにより、この超格子ピークが消失して、上記リチウム遷移金属複合酸化物は空間群R3-mに帰属されるようになる(
図2参照)。ここで、P3
112は、R3-mにおける3a、3b、6cサイトの原子位置を細分化した結晶構造モデルであり、R3-mにおける原子配置に秩序性が認められるときに該P3
112モデルが採用される。なお、「R3-m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「-」を施して表記する。
【0033】
<回折ピークの確認方法>
本実施形態に係る正極活物質が、CuKα線を用いたエックス線回折図において、20~22°の範囲に回折ピークが観察されることの確認は、以下のとおりの手順及び条件により、行う。また、「観察される」とは、回折角17~19°の範囲内の強度の最大値と最小値との差分(I18)に対する回折角20~22°の範囲内の強度の最大値と最小値との差分(I21)の比、すなわち「I21/I18」の値が0.001~0.1の範囲であることをさす。
測定に供する試料は、正極作製前の活物質粉末(充放電前粉末)であれば、そのまま測定に供する。電池を解体して取り出した電極から試料を採取する場合には、電池を解体する前に、当該電池の公称容量(Ah)の10分の1となる電流値(A)で、指定される電圧の下限となる電池電圧に至るまで定電流放電を行い、放電末状態とする。解体した結果、金属リチウム電極を負極に用いた電池であれば、以下に述べる追加作業は行わず、正極板から採取された正極合剤を測定対象とする。金属リチウム電極を負極に用いた電池でない場合は、正極電位を正確に制御するため、電池を解体して電極を取り出した後に、金属リチウム電極を対極とした電池を組立て、正極合剤1gあたり10mAの電流値で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li+)となるまで定電流放電を行い、放電末状態に調整した後、再解体する。取り出した正極板は、ジメチルカーボネートを用いて電極に付着した電解液を十分に洗浄し室温にて一昼夜の乾燥後、アルミニウム箔集電体上の合剤を採取する。採取した合剤をめのう乳鉢で軽くほぐし、エックス線回折測定用試料ホルダーに配置して測定に供する。上記の電池の解体から再解体までの作業、及び正極の洗浄、乾燥作業は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。
【0034】
<エックス線回折測定>
本明細書において、エックス線回折測定は、次の条件にて行う。線源はCuKα、加速電圧は30kV、加速電流は15mAとする。サンプリング幅は0.01deg、スキャンスピードは1.0deg/min、発散スリット幅は0.625deg、受光スリットは開放、散乱スリットは8.0mmとする。
【0035】
図1は、本実施形態に係る正極活物質(リチウム過剰型正極活物質)を用いた非水電解質二次電池に対して、正極合剤1gあたり10mAの電流値で、充電上限電位を4.35V(vs.Li/Li
+)、放電下限電位を2.0V(vs.Li/Li
+)として初回の充放電を行った後の放電末状態における本実施形態に係る非水電解質二次電池の正極に含有される活物質粉末について、上記の手順で測定したエックス線回折図である。
図1では、20~22°の範囲に回折ピークが観察される。
図2は、上記と同じ正極活物質を用いた非水電解質二次電池に対して、正極合剤1gあたり10mAの電流値で、充電上限電位を4.6V(vs.Li/Li
+)、放電下限電位を2.0V(vs.Li/Li
+)として充放電を行った後の放電末状態における非水電解質二次電池の正極に含有される活物質粉末について、上記の手順で測定したエックス線回折図である。
図2では、20~22°の範囲に回折ピークが観察されない。すなわち、4.6V(Li/Li
+)で充電を行った電池では、リチウム過剰型正極活物質の20~22°の範囲の回折ピークが消失することがわかる。
上記と同じ正極活物質を用いた非水電解質二次電池に対して、正極合剤1gあたり10mAの電流値で、充電上限電位を4.6V(vs.Li/Li
+)、放電下限電位を2.0V(vs.Li/Li
+)として、初回の充放電を行った後、さらに充電上限電位4.35V(vs.Li/Li
+)、放電下限電位を2.0V(vs.Li/Li
+)として充放電を行った放電末状態における非水電解質二次電池の正極に含有される活物質粉末について、上記の手順で測定したところ、
図2と同様のエックス線回折図が得られた。すなわち、一度でも4.5V以上の電位まで充電を行うと、20~22°の範囲のピークは消失し、20~22°の範囲の回折ピークが再び現れることはない。
【0036】
<正極活物質の放電容量比>
本実施形態に係る正極活物質は、さらに、4.35V(vs.Li/Li+)から3.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(a)と3.0V(vs.Li/Li+)から2.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(b)の比a/bが17≦a/b≦25である。
【0037】
放電容量比a/bは、以下のようにして求める。
評価対象が活物質である場合は、N-メチルピロリドンを分散媒とし、活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を90:5:5の割合の塗布用ペーストを作製し、該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布して、正極板を作製し、金属リチウムを対極として、評価用の非水電解質二次電池を組み立てる。正極合剤1gあたり15mAの電流値で、充電上限電位を4.35V(vs.Li/Li+)、充電終止条件は電流値が1/5に減衰した時点とする定電流定電圧充電を行う。10分間の休止を設けた後、同じ電流値で放電下限電位を2.0V(vs.Li/Li+)とする、定電流放電を行い、放電開始から3.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(a)と3.0V(vs.Li/Li+)から2.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(b)の比a/bを求める。
評価対象が二次電池である場合は、当該電池の公称容量(Ah)の10分の1となる電流値(A)で、指定される電圧の下限となる電池電圧に至るまで定電流放電を行い、放電末状態とする。露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で電池を解体し、正極板を取得したのち、金属リチウムを対極とした評価用の非水電解質二次電池を組み立てる。作製した電池は、正極合剤1gあたり15mAの電流値で、2.0V(vs.Li/Li+)まで定電流放電する。その後、同じ電流値で充電上限電位を4.35V(vs.Li/Li+)、充電終止条件は電流値が1/5に減衰した時点とする定電流定電圧充電を行う。10分間の休止を設けた後、同じ電流で2.0V(vs.Li/Li+)まで定電流放電し、同様にa/bを評価する。
後述の実験例によると、この放電容量比a/bが17≦a/b≦25である場合、初回クーロン効率及び高率放電性能に優れた正極活物質、この正極活物質を含有する本実施形態に係る非水電解質二次電池用正極、及びこの正極を備えた本実施形態に係る非水電解質二次電池が得られることがわかった。
【0038】
<非水電解質二次電池の4.5V(vs.Li/Li
+)を超え充電された時の挙動>
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、上記の正極活物質を含有する正極を備え、この正極活物質は、CuKα線を用いたエックス線回折図において、20~22°の範囲のピークが観察されるから、本実施形態に係る非水電解質二次電池は、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li
+)未満とする、本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法により製造されている。また、本実施形態に係る非水電解質二次電池は、通常使用時において、4.5V(vs.Li/Li
+)以上の充電過程を経ていない。したがって、4.5V(vs.Li/Li
+)を超え、5.0V(vs.Li/Li
+)に至る充電がされると、前記正極には、「4.5~5.0V(vs.Li/Li
+)の正極電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域」(以下「電位変化が平坦な領域」ともいう。)が観察される(
図3の実線参照)。この平坦な領域の存在により、本実施形態に係る非水電解質二次電池には、より高いSOCに至るまで電池電圧の急上昇が観察されない。
【0039】
図3の実線は、リチウム過剰型活物質を含有する正極を備えた非水電解質二次電池に対して、初回に4.6V(vs.Li/Li
+)に至る充電を行った場合の充電カーブの一例を示している。ここでは、充電開始から4.35V(vs.Li/Li
+)到達までの容量を基準(SOC100%)として容量をSOCに換算した。SOCが200%付近で正極電位が急激に上昇するまで、比較的平坦な充電カーブを有する。一方、
図3の破線は、上述の4.6V(vs.Li/Li
+)に至る充電を行った非水電解質二次電池を2.0V(vs.Li/Li
+)まで放電した後、再度上限電位を4.6V(vs.Li/Li
+)とし、充電を行った場合の充電カーブである。図からわかるように、一度でも4.5V(vs.Li/Li
+)以上の充電履歴を経た正極では、電位変化が平坦な領域は現れない。
【0040】
<電位変化が平坦な領域の確認方法>
ここで、電位変化が平坦な領域が観察されることの確認は、以下の手順による。解体して取り出した正極を作用極、リチウム金属を対極とした試験電池を作製し、前記試験電池を正極合剤1gあたり10mAの電流値で2.0V(vs.Li/Li
+)まで放電したのち、30分の休止を行う。その後正極合剤1gあたり10mAの電流値で5.0V(vs.Li/Li
+)まで定電流充電を行う。ここで、充電開始から4.45V(vs.Li/Li
+)到達時の容量X(mAh)に対する、各電位における容量Y(mAh)との比をZ(=Y/X*100(%))とする。横軸に電位、縦軸に分母を電位変化の差分、分子を容量比変化の差分としたdZ/dVをとり、dZ/dVカーブを得る。
図4の実線は、リチウム過剰型活物質を正極活物質として用いた正極とリチウム金属を用いた負極とを備えた非水電解質二次電池を組み立て、初回の充電を4.5V(vs.Li/Li
+)未満とした本実施形態に係る非水電解質二次電池について、4.6V(vs.Li/Li
+)に至る充電を行ったときのdZ/dVカーブの一例である。dZ/dVカーブは計算式からも分かるように、容量比変化に対し、電位変化が小さいときはdZ/dVの値が大きくなり、容量比変化に対し、電位変化が大きいときはdZ/dVの値が小さくなる。リチウム過剰型活物質の4.5V(vs.Li/Li
+)を超えた電位領域での充電過程では、電位変化が平坦な領域が見え始めたところで、dZ/dVの値は大きくなる。その後、電位変化が平坦な領域が終了し、電位が再び上昇した場合は、dZ/dVの値は小さくなる。すなわち、dZ/dVカーブにおいて、ピークが観察される。ここで、4.5V(vs.Li/Li
+)から5.0V(vs.Li/Li
+)の範囲におけるdZ/dVの最大値が150以上を示す場合、電位変化が平坦な領域が観察されると判断する。一方、破線は、上記した非水電解質二次電池と同様の構成の電池で、初回に上限4.6V(vs.Li/Li
+)、下限2.0V(vs.Li/Li
+)とした充放電を行い、10分の休止を挟んだのち、2回目の充電を上限4.6V(vs.Li/Li
+)として充電を行ったときのdZ/dVカーブである。破線では、実線のようなピークは観察されない。すなわち、リチウム過剰型活物質を含有する正極を備えた非水電解質二次電池を一度でも4.5V(vs.Li/Li
+)の電位変化が平坦な領域が終了するまで充電を行うと、以降の4.5V(vs.Li/Li
+)以上の電位での充電工程では、dZ/dVカーブにおいてピークが観察されない。なお、本明細書において、通常使用時とは、当該非水電解質二次電池について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該非水電解質二次電池を使用する場合であり、当該非水電解質二次電池のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質二次電池を使用する場合をいう。
【0041】
<リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体の製造方法>
本実施形態に係る正極活物質の製造方法は、基本的に、活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物を構成する金属元素(Li,Ni,Co,Mn)を、目的とする組成どおりに含有する原料を調製し、これを焼成することによって得ることができる。
目的とする組成のリチウム遷移金属複合酸化物を作製するにあたり、Li,Ni,Co,Mnのそれぞれの化合物の粉末を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめNi,Co,Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはNi,Coに対して均一に固溶しにくいため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。これまで文献などにおいては、固相法によってNiやCoの一部にMnを固溶(LiNi1-xMnxO2など)しようという試みが多数なされているが、「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である。そこで、後述する実施例においては、「共沈法」を採用した。
【0042】
本実施形態に係る正極活物質の製造方法において、リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体の製造は、Ni、Co及びMnを含有する原料水溶液を滴下し、溶液中でNi、Co及びMnを含有する化合物を共沈させて前駆体を作製することが好ましい。
共沈前駆体を作製するにあたって、Ni,Co,MnのうちMnは酸化されやすく、Ni,Co,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Ni,Co,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。したがって、本発明においては、共沈前駆体に分布して存在するMnの酸化を抑制するために、溶存酸素を除去することが好ましい。溶存酸素を除去する方法としては、酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO2)等を用いることができる。
【0043】
溶液中でNi、Co及びMnを含有する化合物を共沈させて前駆体を作製する工程におけるpHは限定されるものではないが、前記共沈前駆体を共沈水酸化物前駆体として作製しようとする場合には、10.5~14とすることができる。タップ密度を大きくするためには、pHを制御することが好ましい。pHを11.5以下とすることにより、タップ密度を1.00g/cm3以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを11.0以下とすることにより、粒子成長を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
また、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製しようとする場合には、pHを7.5~11とすることができる。pHを9.4以下とすることにより、タップ密度を1.25g/cc以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを8.0以下とすることにより、粒子成長を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
【0044】
前記共沈前駆体の原料は、Ni源としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co源としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を、Mn源としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を一例として挙げることができる。
【0045】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する共沈前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。好ましい滴下速度については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、30mL/min以下が好ましい。放電容量を向上させるためには、滴下速度は10mL/min以下がより好ましく、5mL/min以下が最も好ましい。
【0046】
また、反応槽内にNH3等の錯化剤が存在し、かつ一定の対流条件を適用した場合、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続けることにより、粒子の自転及び攪拌槽内における公転が促進され、この過程で、粒子同士が衝突しつつ、粒子が段階的に同心円球状に成長する。即ち、共沈前駆体は、反応槽内に原料水溶液が滴下された際の金属錯体形成反応、及び、前記金属錯体が反応槽内の滞留中に生じる沈殿形成反応という2段階での反応を経て形成される。したがって、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続ける時間を適切に選択することにより、目的とする粒子径を備えた共沈前駆体を得ることができる。
【0047】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで電池の低SOC領域における出力性能が充分でないものとなる虞を低減させるため、30時間以下が好ましく、25時間以下がより好ましく、20時間以下が最も好ましい。
【0048】
<リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法>
本実施形態に係る正極活物質の製法方法においては、リチウム遷移金属複合酸化物は、前記共沈前駆体とLi化合物とを混合し、焼成して合成されることが好ましい。
Li化合物として通常使用されている水酸化リチウム、炭酸リチウムと共に、焼結助剤としてLiF、Li2SO4、又はLi3PO4を使用してもよい。これらの焼結助剤の添加比率は、Li化合物の総量に対して1~10mol%とすることが好ましい。なお、Li化合物の総量は、焼成中にLi化合物の一部が消失することを見込んで、1~5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0049】
焼成温度は、活物質の可逆容量に影響を与える。
焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性が低下する傾向がある。本発明の一態様においては、焼成温度は900℃以上とすることが好ましい。900℃以上とすることにより、焼結度が高い活物質粒子を得ることができ、充放電サイクル性能を向上させることができる。
【0050】
一方、焼成温度が高すぎると層状α-NaFeO2型結晶構造から岩塩型立方晶構造へと構造変化がおこり、充放電反応中における活物質中のリチウムイオン移動に不利な状態となり、放電性能が低下する。本発明において、焼成温度は1000℃以下とすることが好ましい。1000℃以下とすることにより、充放電サイクル性能を向上させることができる。
したがって、本実施形態に係る正極活物質の製造方法においては、充放電サイクル性能を向上させるために、焼成温度を900~1000℃とすることが好ましい。
【0051】
<正極活物質の酸処理>
本実施形態に係る正極活物質の製造方法において、上記の放電容量比a/bを17≦a/b≦25とする正極活物質は、上記の製造方法によって合成されたリチウム遷移金属複合酸化物を、pKa1が3.1以上の酸で処理することにより製造することができる。pKa1が3.1以上の酸としては、ホウ酸(pKa1=9.14)、クエン酸(pKa1=3.1)、酒石酸(pKa1=3.2)、リンゴ酸(pKa1=3.4)、酢酸(pKa1=4.74)等が挙げられる。pKa1が3.1以上の酸を適切な濃度で用いてリチウム過剰型活物質を表面処理することにより、過充電化成しない条件下で、未処理の活物質と同等又はより向上した放電容量を有しつつ、初回クーロン効率及び高率放電性能が向上させることができる。
【0052】
本実施形態に係る活物質の製造方法における酸処理の詳細な作用機構は不明であるが、上記の酸は、pKa1が3.1以上であるから、活物質中のリチウムイオンが水素イオンと置換する可能性は低く、活物質のリチウムと遷移金属のモル比Li/Meが、大きく変動するとは考えにくい。したがって、pKa1が小さい塩酸、リン酸、又は硫酸等の強酸で酸処理し、リチウムイオンが水素イオンに置き換わった(Liが除去された)ことで、処理前後での活物質の上記モル比Li/Meが減少した特許文献2の表1、特許文献3の表1に記載された実施例や、特許文献6の段落[0159]の記載事項とは異なるメカニズムが働いていると推察される。
後述の実験例によると、本実施形態による酸処理を施した活物質は、未処理の活物質と比較して、4.35V(vs.Li/Li+)から3.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(a)と3.0V(vs.Li/Li+)から2.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(b)の比a/bが減少しており(放電容量bが相対的に増加)、また、比表面積が適度に増加していた。放電容量bは、スピネル構造に特徴的に現れることが知られているから、この酸処理は、リチウム過剰型活物質表面に適度なスピネルライクの結晶構造をもたらすことにより、初回充放電時の不可逆容量を低減させて初回クーロン効率を向上させると推察される。
また、BET比表面積の増加は、粒子表面に適度な凹凸をもたらし、電解質の浸透とリチウムイオンの拡散を促進し、初回クーロン効率の向上とともに、高率放電性能を向上させたものと推察される。BET比表面積は、6m2/g以下であることが好ましい。
【0053】
具体的な酸処理の手順は以下のとおりである。
リチウム遷移金属複合酸化物5.0gを所定の水素イオン濃度である、所定の酸水溶液200mLに加え、水溶液の温度を50℃に保ち、撹拌子を用いて400rpmで2時間撹拌する。撹拌後、吸引装置を用い、リチウム遷移金属複合酸化物を濾過し、さらにイオン交換水で洗浄をおこなった後、80℃で一晩常圧乾燥する。
【0054】
<負極材料>
本実施形態に係る非水電解質二次電池用正極と組み合わせる負極の材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを放出あるいは吸蔵することのできる形態のものを適宜選択できる。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]O4に代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料、リチウム金属、リチウム合金(リチウム-シリコン,リチウム-アルミニウム,リチウム-鉛,リチウム-スズ,リチウム-アルミニウム-スズ,リチウム-ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム-チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト,ハードカーボン,低温焼成炭素,非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0055】
<正極・負極>
正極活物質、及び負極材料は、平均粒子サイズが100μm以下の粉体であることが好ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質電池の高出力特性を向上する目的で15μm以下であることが好ましく、充放電サイクル性能を維持するためには10μm以上であることが好ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0056】
前記正極及び負極には、その主要構成成分である正極活物質及び負極材料以外に、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0057】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種又はそれらの混合物として含ませることができる。
【0058】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点からアセチレンブラックが好ましい。導電剤の添加量は、正極又は負極の総重量に対して0.1重量%~50重量%が好ましく、特に0.5重量%~30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1~0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると、必要炭素量を削減できるため好ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0059】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR),フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種又は2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極又は負極の総重量に対して1~50重量%が好ましく、特に2~30重量%が好ましい。
【0060】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば限定されない。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極又は負極の総重量に対して30重量%以下が好ましい。
【0061】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、及びその他の材料を混練し合剤とし、N-メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布し、又は圧着して50℃~250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0062】
集電体としては、Al箔、Cu箔等の集電箔を用いることができる。正極の集電箔としてはAl箔が好ましく、負極の集電箔としてはCu箔が好ましい。集電箔の厚みは10~30μmが好ましい。また、合剤層の厚みはプレス後において、40~150μm(集電箔厚みを除く)が好ましい。
【0063】
<非水電解質>
本実施形態に係る非水電解質二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフラン又はその誘導体;1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソラン又はその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトン又はその誘導体等の単独又はそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO4,LiBF4,LiAsF6,LiPF6,LiSCN,LiBr,LiI,Li2SO4,Li2B10Cl10,NaClO4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3,LiN(CF3SO2)2,LiN(C2F5SO2)2,LiN(CF3SO2)(C4F9SO2),LiC(CF3SO2)3,LiC(C2F5SO2)3,(CH3)4NBF4,(CH3)4NBr,(C2H5)4NClO4,(C2H5)4NI,(C3H7)4NBr,(n-C4H9)4NClO4,(n-C4H9)4NI,(C2H5)4N-maleate,(C2H5)4N-benzoate,(C2H5)4N-phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0065】
さらに、LiPF6又はLiBF4と、LiN(C2F5SO2)2のようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より好ましい。
【0066】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0067】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/L~5mol/Lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/L~2.5mol/Lである。
【0068】
<セパレータ>
本実施形態に係る非水電解質二次電池に用いるセパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独使用あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0069】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0070】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0071】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため好ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0072】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0073】
その他の電池の構成要素としては、端子、絶縁板、電池ケース等があるが、これらの部品は従来用いられてきたものをそのまま用いて差し支えない。
【0074】
<非水電解質二次電池>
本実施形態に係る非水電解質二次電池の外観の一例を
図5に示す。
図5は、矩形状の非水電解質二次電池の容器内部を透視した斜視図である。電極群2が収納された電池容器3内に非水電解液を注入することにより非水電解質二次電池1が組み立てられる。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
本実施形態に係る非水電解質二次電池の形状については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が挙げられる。
【0075】
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、4.5~5.0V(vs.Li/Li+)の正極電位範囲内に上記電位変化が比較的平坦な領域が観察される充電過程が終了するまでの充電過程を一度も経ないで製造、及び使用される。
本実施形態に係る非水電解質二次電池が、上記電位変化が比較的平坦な領域が観察される充電過程が終了するまでの充電がされた履歴を有しないことは、当該電池の正極活物質が、上記CuKα線を用いたエックス線回折図において、20~22°の範囲に回折ピークが観察されること、又は、当該電池の正極が、正極電位が5.0V(vs.Li/Li+)に至る充電を行ったとき、4.5~5.0V(vs.Li/Li+)の正極電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域が観察されることにより確認することができる。これらの確認方法の詳細は、上記したとおりである。
【0076】
本実施形態の非水電解質二次電池は、電池を複数個集合した蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一例を
図6に示す。
図6において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
<リチウム遷移金属複合酸化物の作製>
硫酸ニッケル6水和物284g、硫酸コバルト7水和物303g、硫酸マンガン5水和物443gを秤量し、これらの全量をイオン交換水4Lに溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が27:27:46となる1.0Mの硫酸塩水溶液を作製した。
次に、5Lの反応槽にイオン交換水2Lを注ぎ、Arガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中に含まれる酸素を除去した。反応槽の温度は50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を1500rpmの回転速度で攪拌しながら、反応層内に対流が十分おこるように設定した。前記硫酸塩水溶液を3mL/minの速度で反応槽に滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、4.0Mの水酸化ナトリウム、0.5Mのアンモニア水、及び0.2Mのヒドラジンからなる混合アルカリ溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に9.8(±0.1)を保つように制御すると共に、反応液の一部をオーバーフローにより排出することにより、反応液の総量が常に2Lを超えないように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに3時間継続した。攪拌の停止後、室温で12時間以上静置した。
次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した水酸化物前駆体粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、80℃にて20時間乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、水酸化物前駆体を作製した。
【0078】
前記水酸化物前駆体1.852gに、水酸化リチウム1水和物0.971gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Ni,Co,Mn)のモル比が130:100となるように混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が2gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、常温から900℃まで10時間かけて昇温し、900℃で5時間焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製乳鉢で軽くほぐした。
このようにして、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.13Ni0.235Co0.235Mn0.40O2を作製した。
【0079】
<活物質の酸処理>
上記のリチウム遷移金属複合酸化物5.0gを水素イオン濃度0.05Mのクエン酸水溶液200mLに添加し、水溶液の温度を50℃に保ち、撹拌子を用いて400rpmで2時間撹拌した。撹拌後、吸引装置をもちい、正極活物質を濾過し、さらにイオン交換水で洗浄をおこなった後、80℃で晩常圧乾燥して、酸処理された実施例1に係る活物質を作製した。BET比表面積は5.8m2/gであった。
【0080】
(実施例2、3)
活物質の酸処理を、クエン酸に代えて水素イオン濃度0.05Mのホウ酸水溶液、又は0.025Mの酒石酸水溶液を用いて行った以外は実施例1と同様にして実施例2、3とした。BET比表面積はそれぞれ4.6m2/g、5.5m2/gであった。
【0081】
(比較例1)
活物質に酸処理を施さない以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る活物質を作製した。BET比表面積は2.3m2/gであった。
【0082】
(比較例2~5)
活物質の酸処理を、それぞれ水素イオン濃度0.05M、0.03M、及び0.01Mの硫酸水溶液を用いて行った以外は、実施例1と同様にして比較例2~4に係る活物質を作製し、酸処理時間を10分とした以外は比較例4と同様にして、比較例5に係る活物質を作製した。比較例2のBET比表面積は7.4m2/gであった。
【0083】
(比較例6~8)
活物質の酸処理を、それぞれ水素イオン濃度0.1M、及び0.01Mのリン酸水溶液を用いて行った以外は、実施例1と同様にして比較例6,7に係る活物質を作製し、酸処理時間を10分とした以外は比較例7と同様にして、比較例8に係る活物質を作製した。比較例6のBET比表面積は5.7m2/gであった。
【0084】
(比較例9、10)
活物質の酸処理を、それぞれ水素イオン濃度0.1M、及び0.05Mの酒石酸水溶液を用いて行った以外は、実施例1と同様にして比較例9、10に係る活物質を作製した。BET比表面積はそれぞれ7.1m2/g、6.5m2/gであった。
【0085】
(実施例4、5及び比較例11)
Ni:Co:Mnのモル比が40:5:55となる水酸化物前駆体を作製し、Li:(Ni,Co,Mn)のモル比が120:100となるように混合粉体を調製した以外は、それぞれ実施例1、2及び比較例1と同様にして実施例4、5及び比較例11に係る活物質を作製した。
【0086】
(実施例6及び比較例12)
Li:(Ni,Co,Mn)のモル比が130:100となるように混合粉体を調製した以外は、それぞれ実施例4及び比較例11と同様にして実施例6及び比較例12に係る活物質を作製した。
【0087】
(比較例13~15)
Ni:Co:Mnのモル比が35:25:40となる水酸化物前駆体を作製し、Li:(Ni,Co,Mn)のモル比が120:100となるように混合粉体を調製した以外は、それぞれ実施例1、2及び比較例1と同様にして比較例13~15に係る活物質を作製した。
【0088】
(比較例16、17)
実施例4に係る水酸化物前駆体と、水酸化リチウム1水和物とを、Li:(Ni,Co,Mn)のモル比が100:100となるように混合粉体を調製した以外は、それぞれ実施例4及び比較例11と同様にして比較例16、17に係る活物質を作製した。
【0089】
(比較例18~20)
Ni:Co:Mnのモル比が33:33:33となる水酸化物前駆体を作製し、前記水酸化物前駆体と、水酸化リチウム1水和物とを、Li:(Ni,Co,Mn)のモル比が100:100となるように混合粉体を調製した以外は、それぞれ実施例1、2及び比較例1と同様にして比較例18~20に係る活物質を作製した。
【0090】
<結晶構造の確認>
上記の実施例及び比較例に係る活物質について、エックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)を用いて粉末エックス線回折測定を行った。すべての実施例及び比較例に係る活物質は、α-NaFeO2型結晶構造を有していた。また、比較例16~20を除いたすべての実施例及び比較例に係る活物質(「リチウム過剰型」活物質)は、20~22°の範囲に回折ピークが観察されることを確認した。
【0091】
<正極の作製>
N-メチルピロリドンを分散媒とし、上記の実施例及び比較例に係る活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比90:5:5の割合で混練分散されている塗布用ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布し、各実施例及び比較例に係る正極を作製した。なお、後述する全ての実施例、及び比較例に係る非水電解質二次電池同士で試験条件が同一になるように、一定面積あたりに塗布されている活物質の質量及び塗布厚みを統一した。
【0092】
<負極の作製>
金属リチウム箔をニッケル集電体に配置して、負極を作製した。該金属リチウムの量は、上記正極板と組み合わせたときに電池の容量が負極によって制限されないように調整した。
【0093】
<非水電解質二次電池の組立>
各実施例及び比較例に係る正極を用いて、以下の手順で非水電解質二次電池を組み立てた。
電解液として、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジメチルカーボネート(DMC)が体積比6:7:7である混合溶媒に濃度が1mol/LとなるようにLiPF6を溶解させた溶液を用いた。セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用いた。各実施例及び比較例に係る正極、及び前記負極を、前記セパレータを介して、正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように前記外装体に収納し、前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止し、前記電解液を注液後、注液孔を封止して、非水電解質二次電池を組み立てた。
【0094】
<初回クーロン効率の確認>
組み立てた非水電解質二次電池を、25℃の下、初回充放電工程に供し、初回クーロン効率の確認を行った。充電は、正極合剤1gあたり15mA(0.1Cに相当)の電流値で、上限電位4.35V(vs.Li/Li+)の定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/5に減衰した時点とした。放電は、同じ電流値で、下限電位2.85V(vs.Li/Li+)の定電流放電とした。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ10分の休止過程を設け、充電容量及び放電容量(0.1C放電容量)を確認し、充電容量に対する放電容量の割合を初回クーロン効率とした。
【0095】
<放電容量比a/bの測定>
次に、放電容量比a/bの測定を行った。充電は、正極合剤1gあたり15mA(0.1Cに相当)の電流値で、上限電位4.35V(vs.Li/Li+)の定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/5に減衰した時点とした。10分間の休止過程を設け、放電は、同じ電流値で2.0V(vs.Li/Li+)の定電流放電とした。ここで、4.35V(vs.Li/Li+)から3.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(a)と3.0V(vs.Li/Li+)から2.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(b)の比a/bを求めた。
なお、本実施例及び比較例においては、上記の放電容量比a/bを評価するにあたり、充放電を0.1Cで行っても、0.02Cで充放電した場合と同様のa/bが得られることを確認した上で、上記測定条件を設定した。
【0096】
<高率放電性能の確認>
さらに、高率放電性能の確認を行った。充電は、正極合剤1gあたり15mAの電流値で、上限電位4.35V(vs.Li/Li+)の定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/5に減衰した時点とした。10分間の休止過程を設け、放電は、正極合剤1gあたり300mA(2Cに相当)の電流にて、終止電圧2.85Vの定電流放電を行った。上記の0.1C放電容量に対するこのときの放電容量(2C放電容量)の割合を高率放電性能(2C/0.1C)とした。
【0097】
<正極活物質の回折ピークの確認>
前述の回折ピークの確認方法に基づき、放電末状態の実施例に係る非水電解質二次電池を解体して、正極合剤を取り出し、CuKα線を用いたエックス線回折測定を行った。全ての実施例において、20~22°の範囲に回折ピークが確認された。
【0098】
以上の測定結果を表1に示す。
【0099】
【0100】
表1からは、実施例1、2と比較例1との対比において、リチウム過剰型活物質をクエン酸(pKa1=3.1)、又はホウ酸(pKa1=9.14)で酸処理した正極活物質を用い、4.5V(vs.Li/Li+)未満の充放電に供した実施例1、2に係る非水電解質二次電池は、酸処理を施さない比較例1に係る電池に比べて、0.1C容量を維持しつつ、初回クーロン効率及び高率放電性能が向上していることがわかる。実施例1、2に係る電池は、4.35V(vs.Li/Li+)から3.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(a)と3.0V(vs.Li/Li+)から2.0V(vs.Li/Li+)までの放電容量(b)の比a/bが17以上25以下の範囲内であったのに対し、比較例1に係る電池は、a/bが25より大きかった。なお、実施例1、2の活物質は、比較例1の活物質より、比表面積が大きかった。
【0101】
比較例2~5では、酸種を硫酸(pKa1=-3)に変更し、種々の水素イオン濃度及び/又は処理時間で酸処理した場合の電池の特性を示しており、0.1C容量はいずれも酸処理を施さない比較例1を下回り、初回クーロン効率と高率放電性能の両方が比較例1を上回ることはなかった。放電容量比a/bは17より小さいか、25より大きかった。
【0102】
比較例6~8では、酸種をリン酸(pKa1=2.12)に変更し、リチウム過剰型活物質を水素イオン濃度及び/又は処理時間を変えて酸処理した正極活物質を用いた場合の電池の特性を示している。やはり、0.1C容量はいずれも酸処理を施さない比較例1を下回り、初回クーロン効率と高率放電性能の両方が比較例1を上回ることはなかった。放電容量比a/bは17より小さいか、25より大きかった。
【0103】
実施例3、及び比較例9、10は、異なる水素イオン濃度の酒石酸(pKa1=3.2)で酸処理した正極活物質を有する電池に係る例である。
実施例3では、酸未処理の比較例1とほぼ同等の0.1C容量を示し、初回クーロン効率及び高率放電性能が向上したのに対して、比較例9、10に係る電池は、初回クーロン効率は実施例3より改善されたが、比較例1が示す0.1C容量を維持することができず、高率放電性能も比較例1からの改善が見られなかった。また、放電容量比a/bは、水素イオン濃度の低い酒石酸で酸処理した正極活物質を有する実施例3の電池では17以上25以下の範囲内であったのに対して、水素イオン濃度の高い酒石酸で酸処理した正極を有する比較例9、10の電池では17より小さかった。なお、実施例3の活物質は、比較例9、10の活物質より、比表面積が小さかった。
以上から、pKa1が3.1以上の酸処理を行う場合でも、酸溶液の水素イオン濃度を適宜選択し、所定の放電容量比a/bを満たす必要があることがわかる。
【0104】
実施例4、5及び比較例11は、実施例1、2及び比較例1に係るリチウム過剰型活物質の組成(Li/Me=1.3、Mn/Me=0.48)を、Mnの組成比がより大きい他の組成(Li/Me=1.2、Mn/Me=0.55)に変更した例に相当し、実施例6、比較例12は、実施例4及び比較例11に係る上記の組成のMn/Meを変更せず、Li比を変更した(Li/Me=1.3、Mn/Me=0.55)例に相当する。
実施例4、5に係る電池の特性は、活物質が同一組成であって、酸処理を施さない比較例11よりも、0.1C放電容量、初回クーロン効率、及び高率放電性能のいずれも上回っており、放電容量比a/bが17以上25以下の範囲内であることがわかる。実施例6に係る電池の特性も、活物質が同一組成であって、酸処理を施さない比較例12よりも、前記の各電池特性が上回っており、放電容量比a/bが17以上25以下の範囲内であることがわかる。したがって、Mn/Meがより大きい組成範囲の活物質においても、a/bの特定が、電池特性の向上に関係していることがわかる。
【0105】
比較例13~15は、実施例1、2及び比較例1に係るリチウム過剰型活物質の組成(Li/Me=1.3、Mn/Me=0.48)を、Mnの組成比がより小さい他の組成(Li/Me=1.2、Mn/Me=0.40)に変更した例に相当する。
酸処理を施した比較例13、14に係る電池の特性は、酸処理を施さない比較例15と比べて、初回クーロン効率に改善が見られるだけで、高率放電性能は改善されていない。
したがって、比較例13に係る活物質のように、放電容量比a/bが17以上25以下を満たしている場合でも、Mn/Meが小さすぎる場合、本発明の効果は奏されないことがわかる。
【0106】
比較例16、17は、リチウムが遷移金属に対して過剰となるようなリチウム過剰型の組成の活物質ではないが、Mnの組成比を大きくした(Li/Me=1、Mn/Me=0.55)例であり、ともに0.1C容量、高率放電性能が低く、放電容量比a/bも本発明の範囲を外れている。
【0107】
比較例18~20は、既に実用化されているLi/Me=1、Ni:Co:Me=33:33:33のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いた例である。ホウ酸処理を施した比較例19は、酸未処理の比較例20より各電池特性が向上しているが、クエン酸処理を施した比較例18は、0.1C放電容量及び高率放電性能が低下しており、各電池特性と放電容量比a/bとの相関は見られない。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係る非水電解質二次電池用活物質は、4.5V(vs.Li/Li+)未満の電位範囲での使用において優れた初回クーロン効率及び高率放電性能を示す。したがって、この非水電解質二次電池は、高い安全性、効率性、及び高出力が要求されるハイブリッド自動車(HEV)用、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)用、電気自動車(EV)用の電池として、有用性が高い。
【符号の説明】
【0109】
1 非水電解質二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置