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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20220323BHJP
   A01B 69/02 20060101ALI20220323BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
A01B69/00 303K
A01B69/02 A
A01B69/00 303F
B62D6/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018190875
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2020058269
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2020-09-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小佐野 光
(72)【発明者】
【氏名】堀田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-117558(JP,A)
【文献】特開2018-117560(JP,A)
【文献】特開2005-199770(JP,A)
【文献】特開2016-093127(JP,A)
【文献】特開2018-117559(JP,A)
【文献】特開2017-113023(JP,A)
【文献】特開2007-244288(JP,A)
【文献】特開2012-065575(JP,A)
【文献】特開2006-296314(JP,A)
【文献】特開平11-018525(JP,A)
【文献】特開平03-072806(JP,A)
【文献】米国特許第05887663(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
A01B 69/02
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体と、
前記走行車体の後方に取り付けられた植付部と、
前記植付部によって次工程で植え付けを行うための走行目印を圃場に付ける線引きマーカと、
前記走行車体の舵角を調整する舵角調整部と、
前記舵角調整部を制御し、前記線引きマーカが出ていた方向へ前記走行車体を自動的に旋回させる自動旋回制御を実行する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記圃場の深さに基づき、前記自動旋回制御における旋回角、および前記自動旋回制御における走行距離を調整し、
前記自動旋回制御を行っている場合には、作業者による前記走行車体の増速を受け付けず、かつ前記走行車体の減速を受け付け
前記自動旋回制御中、ハンドルが操作された場合、前記自動旋回制御を解除し、
前記自動旋回制御中、停車ペダルが踏まれた場合、前記走行車体を停車させると同時に、前記自動旋回制御を解除し、
前記自動旋回制御によって前記走行車体が旋回した後、前記走行車体が一定の距離、前進するまで前記走行車体の増速を受け付けない、
ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
走行車体と、
前記走行車体の後方に取り付けられた植付部と、
前記植付部によって次工程で植え付けを行うための走行目印を圃場に付ける線引きマーカと、
前記走行車体の舵角を調整する舵角調整部と、
前記舵角調整部を制御し、前記線引きマーカが出ていた方向へ前記走行車体を自動的に旋回させる自動旋回制御を実行する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記圃場の硬さに基づき、前記自動旋回制御における旋回角、および前記自動旋回制御における走行距離を調整し、
前記自動旋回制御を行っている場合には、作業車による前記走行車体の増速を受け付けず、かつ前記走行車体の減速を受け付け
前記自動旋回制御中、ハンドルが操作された場合、前記自動旋回制御を解除し、
前記自動旋回制御中、停車ペダルが踏まれた場合、前記走行車体を停車させると同時に、前記自動旋回制御を解除し、
前記自動旋回制御によって前記走行車体が旋回した後、前記走行車体が一定の距離、前進するまで前記走行車体の増速を受け付けない、
ことを特徴とする作業車両。
【請求項3】
前記制御部は、
前記自動旋回制御を実行する場合に、前記走行車体の後輪の車軸から前記植付部の後端位置までの長さと同じ距離後進させた後に旋回を開始させる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記制御部は、
前記旋回を開始してから所定距離走行した後に、前記走行車体を直進させる
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の作業車両。
【請求項5】
前記自動旋回制御を開始させる自動旋回開始スイッチ
を備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
作業装置による作業開始位置と作業終了位置との位置情報を取得し、取得した位置情報から基準線を作成する作業車両が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような作業車両は、作成した基準線に沿って自動直進させる自動直進装置を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-21890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
位置情報を取得し、取得した位置情報に基づいて作業車両を自動旋回させることが考えられる。
【0005】
しかしながら、上記作業車両は、位置情報を取得できない場合には、作業車両を自動旋回させることができない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、自動旋回性を向上させる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、実施形態の一態様に係る作業車両(1)は、走行車体(2)と、走行車体(2)の後方に取り付けられた植付部(4)と、植付部(4)によって次工程で植え付けを行うための走行目印を圃場に付ける線引きマーカ(65)と、走行車体(2)の舵角を調整する舵角調整部(95)と、舵角調整部(95)を制御し、線引きマーカ(65)が出ていた方向へ走行車体(2)を自動的に旋回させる自動旋回制御を実行する制御部(100)とを備え、制御部(100)は、圃場の深さに基づき、自動旋回制御における旋回角、および自動旋回制御における走行距離を調整し、自動旋回制御を行っている場合には、作業車による走行車体(2)の増速を受け付けず、かつ走行車体(2)の減速を受け付け、自動旋回制御中、ハンドル(35)が操作された場合、自動旋回制御を解除し、自動旋回制御中、停車ペダルが踏まれた場合、走行車体(2)を停車させると同時に、自動旋回制御を解除し、自動旋回制御によって走行車体(2)が旋回した後、走行車体(2)が一定の距離、前進するまで走行車体(2)の増速を受け付けない
【発明の効果】
【0008】
実施形態の一態様によれば、作業車両の自動旋回性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、苗移植機の側面図である。
図2図2は、走行車体の平面図である。
図3図3は、苗移植機のコントローラを中心としたブロック図である。
図4図4は、自動旋回制御を説明するフローチャートである。
図5図5は、変形例に係る苗移植機の側面図である。
図6図6は、変形例に係る苗移植機の平面図である。
図7図7は、変形例に係る苗移植機の側面図である。
図8図8は、変形例に係る苗移植機の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態に係る作業車両について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実施形態中、前後、左右の方向を規定するに際し、操縦座席41からみて走行車体2の走行方向を基準とする。また、実施形態によってこの発明が限定されるものではなく、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。さらに、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0011】
実施形態では、作業車両を、作業装置として苗植付部4を備える乗用型の苗移植機1として説明する。図1は、苗移植機1の側面図である。図2は、走行車体2の平面図である。実施形態に係る苗移植機1は、8条植えの構成であるが、本構成と異なる植付条数の苗移植機1としても構わない。また、苗移植機1の全体を指す場合に機体と記す場合がある。
【0012】
図1及び図2に示すように、実施形態に係る苗移植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク機構3を介して、圃場に苗を植え付ける苗植付部4(植付部)を昇降可能に設けている。そして、走行車体2の後部上側には施肥装置5の本体部分を配置している。なお、作業車両が苗移植機1ではない場合、種子を供給する播種装置などを作業装置として備えるものがある。
【0013】
走行車体2は、駆動輪である左右の前輪10および後輪11を備える四輪駆動車両である。走行車体2の車体骨格を構成するメインフレーム15の前側には、苗植付部4等に駆動力を伝達するミッションケース13と、エンジン30から供給される駆動力、すなわちエンジン30で発生した回転をミッションケース13に出力する油圧式の無段変速装置14とが設けられる。この無段変速装置14はいわゆるHST(Hydro Static Transmission)と呼ばれる静油圧式の無段変速機である。
【0014】
ミッションケース13の左右側方に前輪ファイナルケース10aが設けられる。そして、かかる左右の前輪ファイナルケース10aの操向方向を変更可能な前輪支持部からそれぞれ外向きに突出する左右の前車軸10bに前輪10が取り付けられる。また、メインフレーム15の後部側に、機体横方向に設けられた後部フレーム22(図2参照)の左右両側には後輪ギアケース11aが取付けられ、後輪ギアケース11aからそれぞれ外向きに突出する左右の後車軸11bに後輪11(車輪)が各々取り付けられる。
【0015】
また、後部フレーム22の上部には、昇降リンク機構3を支持する左右のリンク支持フレーム23が上方に向けて突設される。そして、左右のリンク支持フレーム23の下部側で、且つ左右間には、左右一対のロワリンクアーム24が設けられ、かかる左右のロワリンクアーム24の左右間に、油圧により作動する昇降シリンダ25(昇降装置)が設けられる。そして、この昇降シリンダ25の上方にアッパリンクアーム26を設けることによって、平行リンク機構である昇降リンク機構3が構成される。なお、それぞれ一端が走行車体2側に連結された左右のロワリンクアーム24と昇降シリンダ25とアッパリンクアーム26の他端側は、苗植付部4の前部に装着される。
【0016】
また、図示するように、メインフレーム15の上にはエンジン30が搭載される。かかるエンジン30の回転動力が、ベルト伝動装置21および無段変速装置(HST)14を介してミッションケース13に伝達される。ミッションケース13に伝達された回転動力は、ミッションケース13内のトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。また、エンジン30の回転動力は、油圧ポンプ(不図示)に伝達される。油圧ポンプで発生した油圧は、無段変速装置14や、ハンドル35のパワーステアリング機構88(図3参照)や、昇降シリンダ25などに供給される。
【0017】
ミッションケース13に伝達された回転動力から分離して取り出される外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース27に伝達される。そして、かかる植付クラッチケース27から植付伝動軸67によって苗植付部4へ伝達される。
【0018】
一方、ミッションケース13の後部には左右のドライブシャフト42が設けられている。エンジン30からの回転動力は、ミッションケース13およびドライブシャフト42を介して左右の後輪ギアケース11aに伝動される。
【0019】
なお、左右のドライブシャフト42よりも伝動方向上手側には、左右のドライブシャフト42への伝動を入切するサイドクラッチ44(図3参照)が配置される。図1に示すように、操縦座席41の前側下部で且つ左右一側には、左右のサイドクラッチ44を入切操作するサイドクラッチペダル43aが設けられる。
【0020】
左右のサイドクラッチペダル43aのうち、旋回内側のサイドクラッチペダル43aを踏み込んでサイドクラッチ44を切状態にしてからハンドル35を操作して旋回走行すると、旋回内側の後輪11の駆動回転を完全に遮断することができる。したがって、ハンドル35単独の操作による旋回走行よりも旋回半径を小さくすることができ、圃場に適した作業条の作業開始位置を適切に選択可能となって作業精度が向上する。
【0021】
このように、旋回時に旋回内側の後輪11への伝動を停止させ、旋回半径を小さくすることができ、旋回前の作業位置と旋回後の作業位置が離れることを防止できるので、旋回後の作業開始位置を調節し直す操作が不要になり、作業能率や作業精度が向上する。なお、実施形態では、後述する旋回制御では、ハンドル35の操作により走行車体2を旋回操作させると、旋回内側に位置するサイドクラッチ44が切状態になり、旋回内側の後輪11への伝動を停止させることができるようになっている。
【0022】
走行車体2の前側上部には、各部の操作を行う操縦パネル38を上部に備えるボンネット39が設けられる。操縦パネル38には、後述する自動旋回制御を行うか否かを切り替える自動旋回スイッチ48や、モニタ86(図3参照)などが設けられる。
【0023】
また、ボンネット39には、機体を操舵するハンドル35、無段変速装置14や苗植付部4を操作する変速操作レバー36、走行車体2の走行伝動を切り替える副変速切替装置(図示省略)を操作する副変速操作レバー37などが設けられる。実施形態では、変速操作レバー36が、昇降シリンダ25を作動する昇降操作部材と、苗植付部4を作業状態と非作業状態とに切り替える作業入切部材とを備える操作具として機能する。
【0024】
また、ボンネット39の前側には、開閉可能なフロントカバー40を設けるとともに、フロントカバー40の内部に、燃料タンクやバッテリ、ハンドル35の操舵に左右の前輪10及び左右の前輪ファイナルケース10aの下部側を回動させる連動機構(不図示)が設けられる。
【0025】
ボンネット39よりも機体後側で、且つエンジン30の上方位置には、エンジン30の上部及び側部を覆うエンジンカバー30aが設けられており、エンジンカバー30aの上部に作業者が着座する操縦座席41が設けられる。
【0026】
さらに、操縦座席41の後側であって、メインフレーム15の後端側には施肥装置5が搭載される。施肥装置5の駆動力は、左右の後輪ギアケース11aの左右一側から施肥装置5に臨むように設けられる施肥伝動機構(不図示)によって伝達される。
【0027】
ところで、エンジンカバー30aおよびボンネット39の下部における左右両側は、略水平なフロアステップ33が形成されている。フロアステップ33は、図2に示すように、一部格子状になっており、フロアステップ33を歩く作業者の靴についた泥が圃場に落下する構成となっている。また、実施形態に係る苗移植機1は、図2に示すように、フロアステップ33の左右両側に、左右の延長ステップ34を各々配置している。
【0028】
また、フロアステップ33の後方にはリヤステップ330(図2参照)が連接されるとともに、延長ステップ34の後方には延長リヤステップ340が延設されている。かかるリヤステップ330や延長ステップ34の表面は、作業する際に足が滑りにくくなるように、例えば、複数の突起パターンが形成された滑り止め加工を施すことが好ましい。
【0029】
また、図示するように、走行車体2の前側で且つ左右両側には、苗枠支柱51に複数の予備苗載せ台52を上下方向に間隔を空けて配置する予備苗枠50を各々設け、苗植付部4に補充する苗や肥料袋等の作業資材を載置可能としている。
【0030】
また、昇降リンク機構3の後端部には、圃場に植え付ける苗を積載する苗タンク53を、左右方向に摺動させる摺動機構(不図示)とともに装着している。かかる苗タンク53は、上下方向に長い苗仕切フェンス54を左右方向に所定間隔を空けて各々配置し、苗タンク53の下方には、積載された苗を掻き取って圃場に植え付ける苗植付装置55が配置されている。
【0031】
苗植付装置55は、苗仕切フェンス54により区切った植付作業条数と同数、すなわち、8条同時に植え付けるものであり、植付伝動ケース56を苗タンク53の下方に間隔を空けて4つ配置し、植付伝動ケース56の左右両側に回転しながら植込杆58によって苗を取って圃場に植え付ける植付ロータリ57を各々装着している。
【0032】
また、施肥装置5は、肥料を貯留する施肥ホッパ70を苗植付部4の作業条数と同数(実施形態では8条分)に仕切っている。なお、8条分の施肥ホッパ70は左右方向に長く、肥料の投入や着脱の利便性が低下するので、内部を4条に仕切ったものを左右に2つ並べる構成としてもよい。
【0033】
施肥ホッパ70の下部には、肥料を設定量ずつ供給する繰出装置71が1条毎に設けられ、かかる繰出装置71の下方に肥料を移動させる搬送風が通過する通風ダクト72が機体左右方向に設けられる。そして、各繰出装置71の下方位置に苗植付部4の苗植付位置の近傍に肥料を案内する施肥ホース73が設けられる。また、通風ダクト72の機体一側端部には、ブロア用電動モータ76によって作動して搬送風を発生するブロア74が設けられる。
【0034】
また、図1および図2に示すように、苗植付部4の下方には、圃場面に接地して滑走するセンターフロート62Cと左右2つずつのサイドフロート62L、62Rが軸周に回動自在に設けられている。なお、センターフロート62Cおよび左右のサイドフロート62L、62Rを総称してフロート62と記す場合がある。
【0035】
また、苗植付部4の下方において、フロート62よりも機体前側には、圃場面の凹凸を整地する整地ロータ63(図1)が設けられる。この整地ロータ63の駆動力は、左右他側の後輪ギアケース11aからロータ伝動シャフト63aを介して得ることができる。
【0036】
さらに、図1に示すように、苗植付部4の左右両側には、左右いずれか一方が圃場面に接地して、次の作業条(次工程)での走行の目安とする溝を形成する線引きマーカ65が各々設けられる。左右の線引きマーカ65は、左右一側が接地すると左右他側は上方に離間し、旋回時に苗植付部4を上昇させたときには左右両方とも上方に離間するとともに、旋回後に苗植付部4が下降すると、左右一側が上方に離間して左右他側が接地する。
【0037】
また、図1図2に示すように、走行車体2の左右中央部で且つボンネット39の前方には、上下方向に長いセンターマスコット66が設けられる。センターマスコット66を左右の線引きマーカ65が圃場に形成した溝に合わせることにより、直前の作業条の作業位置に合わせた走行が可能になり、作業精度の向上や、非作業位置の発生の防止が図られる。
【0038】
なお、圃場の土質によっては、左右の線引きマーカ65により形成したガイド線がすぐに埋もれてしまい、直進の目安が消えてしまうことがある。このとき、左右の線引きマーカ65よりも機体前側に設ける左右のサイドマーカ19を用いるとよい。すなわち、左右のサイドマーカ19を機体外側方向に移動させ、植え付けられた苗の上方に該サイドマーカ19を位置させることで、前の作業条の苗の植え付けに合わせた植付作業が可能になる。
【0039】
次に、苗移植機1の制御系について図3を参照し説明する。図3は、苗移植機1のコントローラ100を中心としたブロック図である。実施形態に係る苗移植機1は、電子制御によって各部を制御することが可能になっており、各部を制御するコントローラ100(制御部)を備える。
【0040】
コントローラ100は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部や、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶部、さらには入出力部が設けられ、これらは互いに接続されて互いに信号の受け渡しが可能である。記憶部には、苗移植機1を制御するコンピュータプログラムなどが格納される。コントローラ100は、記憶部に格納されたコンピュータプログラムなどを読み出すことで、各機能を発揮させる。
【0041】
例えば、コントローラ100には、アクチュエータ類として、スロットルモータ80、油圧制御弁81、82、植付クラッチ作動ソレノイド83、サイドクラッチ作動ソレノイド84、HSTモータ85、線引きマーカ昇降モータ87、ステアリングモータ95(操舵角調整部)などが接続される。
【0042】
スロットルモータ80は、エンジン30の吸気量を調節するスロットル(不図示)を作動させることにより、エンジン30の出力軸の回転数を増減させる。
【0043】
油圧制御弁81は、昇降シリンダ25の伸縮動作を制御する。油圧制御弁82は、パワーステアリング機構88を制御する。植付クラッチ作動ソレノイド83は、植付クラッチ27aを作動させる。サイドクラッチ作動ソレノイド84は、後輪11への動力伝達状態を切り替えるサイドクラッチ44を作動させる。なお、サイドクラッチ44は、左右の後輪11毎に設けられており、サイドクラッチ作動ソレノイド84は、各サイドクラッチ44に対応して2つ設けられる。HSTモータ85は、無段変速装置14の斜板の傾斜角を変更する。ステアリングモータ95は、自動旋回制御が行われる場合にハンドル35を回動させ、操舵角(走行車体2の舵角)を調整する。線引きマーカ昇降モータ87は、線引きマーカ65を昇降させる。なお、ハンドル35の回動や、線引きマーカ65の昇降は、油圧によって動作してもよい。
【0044】
また、コントローラ100には、センサ類としては、回転数センサ90、操舵角センサ91などが接続される。回転数センサ90は、後輪11へ回転動力を伝達するドライブシャフト42の回転数を検知する。操舵角センサ91は、ハンドル35の操作量、すなわち操舵角を検知する。なお、操舵角は、ハンドル35の操作量がゼロの場合、すなわち走行車体2の直進走行時を基準として、左右方向各々で検知される。
【0045】
また、コントローラ100には、操作信号として、変速操作レバー36、副変速操作レバー37、自動旋回スイッチ48などから信号が入力される。
【0046】
コントローラ100は、変速操作レバー36が中立位置にあり、自動旋回スイッチ48がONにされた場合に、自動旋回制御を実行する。
【0047】
例えば、苗移植機1が畦の直前まで前進し、変速操作レバー36が中立位置に操作され、自動旋回スイッチ48がONにされると、コントローラ100は、線引きマーカ65が出ている方向へ旋回するように自動旋回制御を行う。
【0048】
ここで、自動旋回制御について図4に示すフローチャートを参照し説明する。図4は、自動旋回制御を説明するフローチャートである。
【0049】
コントローラ100は、変速操作レバー36が中立位置に操作され、かつ自動旋回スイッチ48がONにされると(S10:Yes)、苗植付部4を上昇させ(S11)、線引きマーカ65を上昇(収容)させる(S12)。具体的には、コントローラ100は、次工程で圃場に苗を植え付ける側の線引きマーカ65であり、圃場に接地している線引きマーカ65を上昇させる。
【0050】
なお、苗植付部4の上昇と、線引きマーカ65の上昇とは、同時であってもよく、線引きマーカ65の上昇が、苗植付部4の上昇よりも先に行われてもよい。
【0051】
コントローラ100は、変速操作レバー36が中立位置に操作されていない場合や、自動旋回スイッチ48がOFFの場合(S10:No)には、今回の処理を終了する。
【0052】
コントローラ100は、走行車体2を後進させ(S13)、走行車体2が所定後進距離、後進したか否かを判定する(S14)。所定後進距離は、苗植付部4を降下させた状態における後輪11と苗植付部4との長さ、具体的には、後輪11の車軸から苗植付部4の後位置までの長さである。コントローラ100は、後輪11の回転数、すなわちドライブシャフト42の回転数が、所定後進距離に対応する第1所定回転数になると、走行車体2が、所定後進距離、後進したと判定する。
【0053】
コントローラ100は、走行車体2が所定後進距離、後進するまで(S14:No)、走行車体2を後進させる(S13)。
【0054】
コントローラ100は、走行車体2が所定後進距離、後進した場合には(S14:Yes)、走行車体2を旋回させる(S15)。具体的には、コントローラ100は、ステアリングモータ95によってハンドル35の操作量を調整しつつ、走行車体2を前進させ、自動旋回を行う。コントローラ100は、線引きマーカ65が出ていた方向へ旋回するようにハンドル35の操作量を調整し、走行車体2を前進させる。
【0055】
コントローラ100は、走行車体2の旋回が終了したか否かを判定する(S16)。具体的には、コントローラ100は、旋回を開始してから、走行車体2が所定前進距離、前進したか否かを判定する。所定前進距離は、予め設定された距離である。コントローラ100は、後輪11の回転数、すなわちドライブシャフト42の回転数が、所定前進距離に対応する第2所定回転数になると、走行車体2が、所定前進距離、前進したと判定する。
【0056】
コントローラ100は、走行車体2が所定前進距離、前進するまで(S16:No)、走行車体2の旋回を行う(S15)。
【0057】
コントローラ100は、旋回が終了すると(S16:Yes)、苗植付部4を降下させ(S17)、線引きマーカ65を降下させる(S18)。具体的には、コントローラ100は、次工程で圃場に苗を植え付ける側の線引きマーカ65を降下させ、圃場に接地させる。なお、旋回が終了した時点では、ハンドル35の操作量がゼロになっている。また、苗植付部4の降下と、線引きマーカ65の降下とは、同時であってもよく、線引きマーカ65の降下が、苗植付部4の降下よりも先に行われてもよい。そして、コントローラ100は、走行車体2を前進させる(S19)。
【0058】
なお、コントローラ100は、苗植付部4を上昇させると、植付クラッチ27aを切状態にし、苗植付部4による苗の植え付けを中止する。また、コントローラ100は、旋回内側の後輪11への動力伝達状態を切り替えるサイドクラッチ44を切状態にし、旋回内側の後輪11への動力伝達を中止する。
【0059】
そして、コントローラ100は、苗植付部4を降下させると、植付クラッチ27aを入状態にし、苗植付部4による苗の植え付けを開始(再開)する。また、コントローラ100は、旋回内側の後輪11への動力伝達状態を切り替えるサイドクラッチ44を入状態にし、旋回内側の後輪11への動力伝達を再開する。
【0060】
次に、実施形態の効果について説明する。
【0061】
苗移植機1は、自動旋回制御を実行する場合に、線引きマーカ65が出ていた方向へ走行車体2を旋回させる。
【0062】
これにより、苗移植機1は、例えば、GPS装置が故障した場合や、現在位置を取得できない場合や、GPS装置を搭載しない場合であっても、自動旋回制御を実行することができる。そのため、苗移植機1は、自動旋回性を向上させることができる。
【0063】
また、苗移植機1は、自動旋回制御を実行する場合に、所定後進距離、後進させた後に旋回を開始する。
【0064】
これにより、苗移植機1は、圃場に植え付けた苗を踏むことなく自動旋回することができる。
【0065】
また、苗移植機1は、旋回を開始してから所定前進距離、前進させた後に走行車体2を直進させる。
【0066】
これにより、苗移植機1は、自動旋回が終了した後に走行車体2を自動的に直進させ、操作性を向上させることができる。
【0067】
また、苗移植機1は、自動旋回制御を開始させる自動旋回スイッチ48を備える。これにより、作業者は、自動旋回制御を実行する位置を調整することができる。
【0068】
次に、変形例に係る苗移植機1について説明する。
【0069】
変形例に係る苗移植機1は、旋回を行う前に走行車体2を後進させずに、自動旋回制御を行ってもよい。例えば、変形例に係る苗移植機1は、自動旋回スイッチ48がONになると、苗植付部4を上昇させ、線引きマーカ65を上昇させ、走行車体2の自動旋回を行う。例えば、変形例に係る苗移植機1が6条植えである場合には、変形例に係る苗移植機は、旋回位置においてステアリングモータ95によってハンドル35の旋回角を最大(全切)とすることで、次工程の植え付け開始位置に旋回移動することができる。また、例えば、変形例に係る苗移植機1が5条植え以下である場合には、変形例に係る苗移植機1は、ステアリングモータ95によってハンドル35の旋回角を調整しながら旋回することで、次工程の植え付け開始位置に旋回移動することができる。
【0070】
また、変形例に係る苗移植機1は、走行車体2を畦際で停車させて、苗などを補給した後には、走行車体2を後進させて、上記実施形態と同様に自動旋回を行ってもよい。
【0071】
また、変形例に係る苗移植機1は、自動旋回制御を行う場合に、前輪10、後輪11の少なくとも一方の差動装置をロックする、いわゆるデフロックを行ってもよい。これにより、変形例に係る苗移植機1は、圃場の状態が悪く、スリップし易い場合でも、走行車体2を自動旋回させることができる。
【0072】
また、変形例に係る苗移植機1は、圃場の深さや、硬さに基づき、自動旋回制御における旋回角や、所定後進距離や、所定前進距離を調整してもよい。変形例に係る苗移植機1は、フロート62や、深度センサ(不図示)によって圃場の深さを検出し、検出した圃場の深さに基づいて旋回角や、所定後進距離や、所定前進距離を設定する。例えば、変形例に係る苗移植機1は、圃場が深くなるほど、所定後進距離や、所定前進距離を長くする。また、変形例に係る苗移植機1は、圃場が柔らかくなるほど、所定後進距離や、所定前進距離を長くする。また、変形例に係る苗移植機1は、圃場が深いほど、または圃場が柔らかいほど、旋回角を大きくする。
【0073】
これにより、変形例に係る苗移植機1は、圃場の状態に応じて、例えば、スリップ率に応じて自動旋回制御における旋回角や、所定後進距離や、所定前進距離を調整することができる。そのため、変形例に係る苗移植機1は、圃場の深さや、硬さにかかわらず、自動旋回制御を精度良く行うことができる。
【0074】
また、変形例に係る苗移植機1は、操縦パネル38に、自動旋回制御における旋回角や、所定後進距離や、所定前進距離を設定するダイヤル(不図示)を設けてもよい。これにより、変形例に係る苗移植機1は、作業者が、自動旋回制御における旋回角や、所定後進距離や、所定前進距離を設定することができる。
【0075】
また、変形例に係る苗移植機1は、自動旋回制御における旋回角を、苗植え付け開始位置調整ダイヤル(不図示)に連動して、設定してもよい。これにより、変形例に係る苗移植機1は、苗植え付け開始位置に応じて自動旋回制御における旋回角などを調整することができる。
【0076】
また、変形例に係る苗移植機1は、自動旋回制御を行っている場合には、走行車体2の増速を受け付けないようにしてもよい。なお、変形例に係る苗移植機1は、そのような場合であっても、自動旋回制御を行っている場合の走行車体2の減速は受け付ける。これにより、変形例に係る苗移植機1は、自動旋回制御を行っている場合の危険性を低減することができる。
【0077】
また、変形例に係る苗移植機1は、自動旋回制御によって走行車体2が旋回した後、走行車体2が一定の距離、前進するまで、すなわち、後輪11が一定の回転数、回転するまで、走行車体2の増速を受け付けないようにしてもよい。これにより、変形例に係る苗移植機1は、条合わせの間に走行車体2が増速することを防止し、条間が乱れることを防止することができる。
【0078】
また、変形例に係る苗移植機1は、自動旋回制御中に、走行停止操作が行われた場合には、自動旋回制御を解除する。これにより、変形例に係る苗移植機1は、自動旋回制御を行っている場合の危険性を低減することができる。
【0079】
また、変形例に係る苗移植機1は、自動旋回制御中に、ハンドル35が操作された場合には、自動旋回制御を解除する。これにより、変形例に係る苗移植機1は、自動旋回制御を行っている場合の危険性を低減することができる。
【0080】
また、変形例に係る苗移植機1は、自動旋回制御中に、停車ペダルが踏まれた場合には、走行車体2を停車させると同時に、自動旋回制御を解除する。これにより、変形例に係る苗移植機1は、自動旋回制御を行っている場合の危険性を低減することができる。
【0081】
また、変形例に係る苗移植機1は、図5、6に示すように、走行車体2の両側面に昇降用の手すり60を設けてもよい。図5は、変形例に係る苗移植機1の側面図である。図6は、変形例に係る苗移植機1の平面図である。変形例に係る苗移植機1は、延長ステップ34(図2参照)が設けられていない苗移植機であり、例えば、5~7条植えである。なお、8条植えの苗移植機1に、手すり60が設けられてもよい。
【0082】
手すり60は、側面視においてU字状に形成され、前方側の棒部60aは、上方から下方となるにつれて後方に傾斜するように設けられる。手すり60は、リヤステップ330に取り付けられる。手すり60は、例えば、延長リヤアステップ340(図2参照)を取り付け可能な箇所に取り付けられる。
【0083】
手すり60は、左右方向に一対設けられる。左側に設けられた手すり60は、左右方向において施肥装置5よりも外側に設けられる。また、右側に設けられた手すり60は、左右方向において施肥装置5よりも内側、具体的には、施肥装置5のブロア5aよりも内側に設けられる。
【0084】
これにより、変形例に係る苗移植機1では、作業者は、前方にせり出した手すり60を用いて昇降が容易となる。また、変形例に係る苗移植機1は、苗を補給する際に、作業者がフロアステップ33などから落下することを抑制し、安全性を向上させることができる。また、変形例に係る苗移植機1は、作業者が乗り降りする場合に、作業者の足元のスペースを大きくすることができる。
【0085】
また、手すり60は、図7、8に示すように施肥装置5を有さない苗移植機1設けられてもよい。図7は、変形例に係る苗移植機1の側面図である。図8は、変形例に係る苗移植機1の平面図である。
【0086】
この場合、一対の手すり60は、上方の後端において、接続部61によって接続される。また、接続部61は、上下方向に延びる支持部61aによって指示される。これにより、変形例に係る苗移植機1は、施肥装置5を有さない場合であっても、手すり60の剛性を向上させることができる。なお、施肥装置5の有無にかかわらず、一対の手すり60は、同一形状とすることができ、部品の共通化を図ることができる。
【0087】
なお、上記実施形態と、変形例とを組み合わせて適用してもよい。
【0088】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 苗移植機(作業車両)
2 走行車体
4 苗植付部(植付部)
10 前輪
11 後輪
30 エンジン
36 変速操作レバー
48 自動旋回スイッチ
65 線引きマーカ
90 回転数センサ
91 操舵角センサ
95 ステアリングモータ(舵角調整部)
100 コントローラ(制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8