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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】抗がん剤の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20220323BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01N33/15 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018513204
(86)(22)【出願日】2017-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2017015804
(87)【国際公開番号】W WO2017183673
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2016083948
(32)【優先日】2016-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016083950
(32)【優先日】2016-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016083951
(32)【優先日】2016-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】北野 史朗
(72)【発明者】
【氏名】塚本 圭
(72)【発明者】
【氏名】入江 新司
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/061372(WO,A1)
【文献】特開2014-000038(JP,A)
【文献】国際公開第2010/101225(WO,A1)
【文献】特開2012-205516(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0255528(US,A1)
【文献】Yong XIAO et al.,Fibroblasts weaken the anti-tumor effect of gefenitib on co-cultured non-small cell lung cancer cells,Chinese Medical Journal,2014年,Vol.127, No.11,pp.2091-2096
【文献】Kimberly A HARTWELL et al.,Niche-based screening identifies small-molecule inhibitors of leukemia stem cells,Nat. Chem. Biol.,2013年,Vol.9, No.12,pp.840-848,doi: 10.1038/nchembio.1367
【文献】山添 泰宗,Fabrication of novel culture system composed of cancer cells and cancer stromal cells for in vitro evaluation of anticancer drugs,科学研究費助成事業 研究成果報告書,2014年,pp.1-5
【文献】KATT, M.E. et al.,In Vitro Tumor Models: Advantages, Disadvantages, Variables, and Selecting the Right Platform,Frontiers in Bioengineering and Biotechnology,2016年02月,Vol.4, Article 12,pp.1-14
【文献】NISHIGUCHI A. et al.,Macromolecular Bioscience, 2015, Vol.15, pp.312-317
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カチオン性緩衝液中で、細胞と細胞外マトリックス成分と強電解質高分子とを混合して混合物を得る工程と
(b)前記工程(a)により得られた混合物を、細胞培養容器中に播種する工程と、
(c)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器中の細胞混合物から液体成分を除去し、当該細胞培養容器中に細胞が多層に積層された細胞構造体を得る工程と、
により、がん細胞及び間質を構成する細胞を含む細胞構造体を製造した後、
前記細胞構造体を、1種又は2種以上の抗がん剤の存在下で培養する培養工程と、
前記培養工程後の前記細胞構造体中のがん細胞の生細胞数を指標として、前記抗がん剤の抗がん効果を評価する評価工程と、
を有する、抗がん剤の評価方法。
【請求項2】
前記がん細胞が、前記細胞構造体内部に散在している、請求項1記載の抗がん剤の評価方法。
【請求項3】
前記細胞構造体が、がん細胞のみを含む細胞層を含む、請求項1記載の抗がん剤の評価方法。
【請求項4】
前記細胞構造体が、がん細胞を含む層と間質を構成する細胞を含む層とが半透膜により仕切られている請求項1に記載の抗がん剤の評価方法。
【請求項5】
前記半透膜のポアサイズが0.4μm~8μmである、請求項4記載の抗がん剤の評価方法。
【請求項6】
前記細胞構造体が、前記間質を構成する細胞として、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗がん剤の評価方法。
【請求項7】
前記細胞構造体が、前記間質を構成する細胞として、さらに、繊維芽細胞、神経細胞、樹状細胞、マクロファージ、及び肥満細胞からなる群より選択される1種以上を含む、請求項6に記載の抗がん剤の評価方法。
【請求項8】
前記細胞構造体が、前記間質を構成する細胞として、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞からなる群より選択される1種以上と、繊維芽細胞とを含み、
前記細胞構造体中の血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の総細胞数が、繊維芽細胞の細胞数の0.1%以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗がん剤の評価方法。
【請求項9】
前記細胞構造体の厚さが5μm以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗がん剤の評価方法。
【請求項10】
前記細胞構造体が、脈管網構造を備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗がん剤の評価方法。
【請求項11】
前記培養工程において、前記細胞構造体を、細胞障害性を有する抗がん剤及び脈管新生阻害剤の存在下で培養し、
前記脈管新生阻害剤と前記抗がん剤とを併用した場合の抗がん効果を評価する、請求項10に記載の抗がん剤の評価方法。
【請求項12】
前記がん細胞が、がん患者から採取されたがん細胞である、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗がん剤の評価方法。
【請求項13】
前記培養工程における培養時間が、24~96時間である、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗がん剤の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がん剤の抗がん効果を、動物モデルを用いることなく、in vitroの系でより信頼性の高い評価を行う方法に関し、また、本発明は、脈管新生阻害剤と抗がん剤とを併用した場合に、抗がん剤を単独使用した場合に比べて高い抗がん効果が得られるかどうかを、動物モデルを用いることなく、in vitroの系で精度よく評価する方法に関する。
本願は、2016年4月19日に日本に出願された特願2016-083948、2016年4月19日に日本に出願された特願2016-083950号、及び2016年4月19日に日本に出願された特願2016-083951号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤の開発又はがん治療における適切な抗がん剤の選択のために、in vitroのアッセイ系により、がん細胞に対する抗がん剤の作用を評価することが行われている。また、国内製薬企業における薬剤承認率は0.1%ときわめて低く、その成功率を上げるために、薬剤候補物質が所望の薬効を有することが確からしいかを早期判断する必要があり、信頼性の高い薬効評価方法が求められている。特に、従来の動物モデルの限界も製薬企業から新薬がなかなか出てこない一つの理由とされており、製薬企業は、動物モデルに代わるより生体内の環境を再現した薬剤評価モデルを求めている。
【0003】
しかし、従来のin vitroの系で行う抗がん剤の評価方法では、生体内に投与した時には優れた抗がん作用を発揮できる薬剤について低い評価しか得られない場合があるなど、得られる評価が必ずしも実際の臨床効果に結び付かないと言う不具合が起きていた。このため、従来のin vitroの評価方法では、がん治療において適切な抗がん剤を選択することができず、がん治療の成績向上が果せないことがあった。
【0004】
抗がん剤の薬効評価として、臨床的には、遺伝子検査による薬剤奏功性予測も行われている。例えば、大腸がんにおけるKRAS遺伝子変異は、セツキシマブの治療効果予測因子である。また、肺がんにおけるEGFR遺伝子変異は、ゲフィチニブの治療効果予測因子である。しかしながら、多くの分子標的薬剤は、普遍的な遺伝子変異にしか対応していない。さらに、まだ同定されていない体細胞変異も数多く存在する。このため、遺伝子検査による薬剤奏功性予測では、充分な薬効評価ができない場合がある。さらに、抗がん剤の研究開発においても、多数の薬剤の中から、従来の評価方法で薬剤の有効性を決定した場合でも、得られた有効性評価が実際の臨床における成績とは一致しないことが多く、研究開発に大きな障害となっていた。
【0005】
ところで、in vitroの系で行う抗がん剤の評価方法としては、例えば、特許文献1に、コラーゲンゲルの滴塊内でがん細胞と免疫細胞を共存させて、培養し、薬剤の抗がん評価を行う方法が開示されている。当該方法では、特許文献2に記載されている、がん細胞周辺の間質を積極的に除去し、がん細胞のみの細胞塊として癌細胞を増殖させる方法を利用している。
【0006】
しかし、最近、大腸がん患者のデータを解析して、転帰不良の患者において高発現する遺伝子の多くが、間質細胞で発現している可能性が明らかにされている。また、ヒトのがん細胞を移植したマウスから得たデータを用いて、この可能性を検証し、転帰不良の患者において高発現する遺伝子が、ヒトのがん組織ではなくその周囲のマウスの組織に由来することも見いだされている(非特許文献1)。特に悪性度が高いがんでは、異常に活性化した特殊な線維芽細胞が多く出現することが報告され、「がん関連線維芽細胞(Cancer Associated Fibroblast:CAF)」と呼ばれている。これらのCAFは、血管新生やがん細胞の増殖・浸潤などを促進することも既に報告されている(非特許文献2)。したがって、がん微小環境(生体内におけるがん細胞とその周辺環境)において、間質ががん細胞に与える影響は非常に大きく、がん細胞と間質とを共存させることにより、より生体内に近い環境を構築できると考えられる。
【0007】
近年、がん治療薬として、これまで用いられていた一般的な細胞障害性を有する抗がん剤に加え、よりがん細胞及びその周辺組織(固形腫瘍)に特異的に治療効果を発揮することができる分子標的薬が注目を浴びている。その中でも、2004年に米国で承認されたAvastin(登録商標)(Genentech社製、別名ベバシズマブ)等の血管新生阻害剤は、従来の直接的に殺細胞効果を発揮する抗がん剤とは異なり、固形腫瘍周辺の血管新生能を阻害することによって、がん自身に栄養を供給する術を断ち、がん増殖速度を低下させることで間接的に抗腫瘍効果を発揮する薬剤である。
【0008】
血管新生阻害剤は、血管形成に必須となる因子やその受容体等の血管形成に必須となるタンパク質シグナルパスウェイを阻害することによって血管新生を抑制、阻害する薬剤である。治療法としては、血管新生阻害剤は単独使用だけではなく、細胞障害性を有する従来の抗がん剤と併用して用いられる場合が多い。血管新生阻害剤と抗がん剤との併用治療は、一般的な細胞障害性を有する抗がん剤の単独使用による治療に比べてより奏功性の高い結果が得られている。日本国内においても、治癒切除不能な進行性及び再発性の結腸・直腸癌患者に対して、血管新生阻害剤と様々な薬剤との併用治療法が承認されている。
【0009】
抗がん治療においては、単独投与時よりも高い治療効果が得られることを期待して、作用機序の異なる薬剤同士を併用投与する治療法が一般的に行われている。併用投与を行う場合には、実際に併用投与した場合に、単独使用時よりもどの程度高い治療効果が得られるのかどうかがきちんと評価されていることが好ましい。しかし、血管新生阻害剤の併用治療における薬効を評価する手法としては、現段階では、マウス等の動物モデルやヒト等のin vivoでの評価法が一般的であり、in vitroで評価した例の報告はない(例えば、特許文献3、非特許文献3、及び非特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】日本国特開2008-11797号公報
【文献】日本国特許第3594978号公報
【文献】日本国特表2014-501918号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Isella, et al., Nature Genetics, 2015, vol.47, p.312-319.
【文献】Shimoda, et al., Seminars in Cell & Developmental Biology, 2010, vol.21(1), p.19-25.
【文献】Hung,Molecular Cancer Therapeutics,2007,vol.6(8),p.2149-2157.
【文献】Hurwitz,The New England Journal of Medicine,2004,vol.350,p.2335-2342.
【文献】Nishiguchi et al., Macromol Bioscience,2015,vol.15(3),p.312-317.
【文献】Tol, et al., The new England journal of medicine, 2009, vol.360(6), p.563-572.
【文献】Ciardiello, et al., Clinical Cancer Research,2000, vol.6, p.3739-3747.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
薬剤の薬効評価をin vitroの評価系で行う場合、得られる評価の信頼性が問題となる。すなわち、当該評価系での評価が、実際に当該薬剤を生体に投与した場合に得られる薬効を反映していることが重要であり、当該評価系での評価と生体に投与して得られる効果とが一致する確率が高い評価系が、信頼性の高い評価系である。
【0013】
特許文献1に記載の方法は、実際に生体内に投与される薬剤濃度に近い状況で評価が行えることを特徴としている。しかしながら、培養方法から考えて間質とがん細胞との相互作用を観察することはできない。また、間質を存在させられないため、実際のがん微小環境を再現しているとは言い難く、得られる評価の信頼性が低い場合がある。
【0014】
本発明は、in vitroの系で行う抗がん剤の評価方法であって、動物モデルを用いることなく、より信頼性の高い評価を行うことができる評価方法を提供することを目的とする。
【0015】
また、薬剤開発段階や臨床現場において、血管新生阻害剤の併用治療における薬効を評価する場合には、in vivoの評価法ではなく、より簡便に実施できるin vitroの評価法が好ましい。
本発明は、血管新生阻害剤と抗がん剤との併用治療における薬効を、in vitroの系を用いて精度良く評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、種々、細胞培養方法に関して検討を重ねたところ、抗がん作用の評価試験の場において、生体内環境を再現しておくと、当該評価対象が生体内において実際に作用する状態が再現でき、実際に当該薬剤を生体に投与した場合に得られる薬効が反映された評価が得られることに気付いた。具体的には、がん細胞を、生体内の環境でがん細胞と共存する間質、例えば内皮細胞や繊維芽細胞などと共存させて組織化した構造体に薬剤を投与することによって、より信頼性の高い評価が得られることに気付き、本発明を完成させた。
【0017】
また、本発明者らは、抗がん作用の評価試験の場において、生体内環境に近しい条件でがん細胞に抗がん剤を作用させることによっても、具体的には、がん細胞を、生体内の環境でがん細胞と共存する間質、例えば内皮細胞や繊維芽細胞などと共存させて組織化した構造体と半透膜で分離した状態として薬剤を投与することによっても、より信頼性の高い評価が得られることに気付き、本発明を完成させた。
【0018】
本発明の第一態様に係る抗がん剤の評価方法は、がん細胞及び間質を構成する細胞を含む細胞構造体を、1種又は2種以上の抗がん剤の存在下で培養する培養工程と、前記培養工程後の前記細胞構造体中のがん細胞の生細胞数を指標として、前記抗がん剤の抗がん効果を評価する評価工程と、を有する。
上記第一態様において、前記がん細胞が、前記細胞構造体内部に散在していてもよい。
上記第一態様において、前記細胞構造体が、がん細胞のみを含む細胞層を含んでいてもよい。
上記第一態様において、前記細胞構造体が、がん細胞を含む層と間質を構成する細胞を含む層とが半透膜により仕切られていてもよい。
上記第一態様において、前記半透膜のポアサイズが0.4μm~8μmであってもよい。
上記第一態様において、前記細胞構造体が、前記間質を構成する細胞として、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞からなる群より選択される1種以上を含んでいてもよい。
上記第一態様において、前記細胞構造体が、前記間質を構成する細胞として、さらに、繊維芽細胞、神経細胞、樹状細胞、マクロファージ、及び肥満細胞からなる群より選択される1種以上を含んでいてもよい。
上記第一態様において、前記細胞構造体が、前記間質を構成する細胞として、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞からなる群より選択される1種以上と、繊維芽細胞とを含み、前記細胞構造体中の血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の総細胞数が、繊維芽細胞の細胞数の0.1%以上であってもよい。
上記第一態様において、前記細胞構造体の厚さが5μm以上であってもよい。
上記第一態様において、前記細胞構造体が、脈管網構造を備えていてもよい。
上記第一態様において、前記培養工程において、前記細胞構造体を、細胞障害性を有する抗がん剤及び脈管新生阻害剤の存在下で培養し、前記脈管新生阻害剤と前記抗がん剤とを併用した場合の抗がん効果を評価してもよい。
上記第一態様において、前記がん細胞が、がん患者から採取されたがん細胞であってもよい。
上記第一態様において、前記培養工程における培養時間が、24~96時間であってもよい。
本発明の第二態様に係る抗がん剤評価用キットは、上記第一態様に係る抗がん剤の評価方法を行うためのキットであって、少なくも間質を構成する細胞を含む細胞構造体と、前記細胞構造体を収容する細胞培養容器とを備える。
上記第二態様において、前記細胞構造体が、天面に半透膜を備えていてもよい。
上記第二態様において、前記細胞構造体が、脈管網構造を備えていてもよい。
上記第二態様において、前記細胞構造体の厚さが5μm以上であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記第一態様に係る抗がん剤の評価方法は、抗がん剤の薬効を、生体内の状態により近い間質を含む細胞構造体に含まれるがん細胞、又は前記間質を含む細胞構造体から半透膜によって分離された状態のがん細胞に対する影響を指標として評価する。そのため、in vitroの評価系であるにもかかわらず、信頼性の高い評価を得ることができる。
また、本発明の上記第二態様に係る抗がん剤評価用キットを用いることにより、前記評価方法をより簡便に実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第一実施形態に係る抗がん剤の評価方法について説明する。
本発明の第一実施形態に係る抗がん剤の評価方法(以下、「本実施形態に係る評価方法」ということがある。)は、がん細胞、及び間質を構成する細胞(間質細胞)を含む細胞構造体を、1種又は2種以上の抗がん剤の存在下で培養する培養工程と、前記培養工程後の前記細胞構造体中のがん細胞の生細胞数を指標として、前記抗がん剤の抗がん効果を評価する評価工程と、を有する。本実施形態に係る評価方法は、間質を構成する細胞から形成される三次元構造内にがん細胞を含む細胞構造体を用いて抗がん効果を評価する。間質は生体内のがん微小環境において重要な構成である。つまり、間質を構成する細胞が形成する三次元構造を有する細胞構造体内に、がん細胞を含ませることによって、生体内のがん細胞の環境を再現し、生体内における抗がん作用を適切に評価できるようになる。このため、当該細胞構造体を用いることによって、in vitroの評価系であっても、ヒトの臨床結果をより反映した抗がん剤の評価が可能となり、信頼性の高い評価が得られる。
【0021】
<細胞構造体>
本発明及び本願明細書において、「細胞構造体」とは、複数の細胞層が積層された3次元構造体である。本実施形態において用いられる細胞構造体(以下、「本実施形態に係る細胞構造体」ということがある。)は、がん細胞及び間質細胞によって構築されている。本実施形態に係る細胞構造体としては、がん細胞が構造体全体に散在している細胞構造体であってもよく、がん細胞が特定の層にのみ存在している細胞構造体であってもよい。
【0022】
本実施形態に係る評価方法では、三次元構造を構築している間質細胞から分泌される成分が接触可能なように、間質細胞層とがん細胞層とが半透膜で仕切られた細胞構造体を用いて抗がん効果を評価することもできる。すなわち、本実施形態に係る細胞構造体は、がん細胞を含む層と間質細胞を含む層とが半透膜により仕切られている細胞構造体であってもよい。当該細胞構造体において、がん細胞を含む層は、単層であってもよく、多層であってもよい。同様に、間質細胞を含む層は、単層であってもよく、多層であってもよい。また、間質細胞を含む細胞層は、1種又は2種以上の間質細胞のみから形成される層であってもよく、間質細胞以外の細胞を含んでいてもよい。同様に、がん細胞を含む細胞層は、がん細胞のみから形成される層であってもよく、がん細胞以外の細胞を含んでいてもよい。
【0023】
間質細胞を、生体内の間質組織のような三次元構造に形成させ、この間質細胞から分泌された成分が半透膜を介してがん細胞へ接触可能にした細胞構造体を用いることによって、生体内の間質組織の影響下にあるがん細胞と同じ環境を再現し、生体内における抗がん作用を適切に評価できるようになる。このため、当該細胞構造体を用いることによって、in vitroの評価系であっても、ヒトの臨床結果をより反映した抗がん剤の評価が可能となり、信頼性の高い評価が得られる。
【0024】
がん患者からがん細胞を採取する場合、がん細胞と共に大量の繊維芽細胞も採取されるが、このがん細胞と繊維芽細胞とを分離することは困難である。例えば、がん患者から採取したがん組織から線維芽細胞を除く方法としては、がん組織の細胞を全て無血清培地で培養することにより線維芽細胞が死滅させた後、線維芽細胞塊とがん細胞とを半透膜で分離する方法がある。しかし、一度半透膜を透過させることによって、がん細胞からcell-cellコンタクトが失われ、正常な薬剤評価ができない懸念がある。
【0025】
そこで、多くの場合において、がん患者から採取されたがん細胞を含む細胞群は、細胞種を問わず同様に標識された後、細胞構造体の構築に用いられる。しかし、がん細胞を繊維芽細胞と区別して標識することも困難であるため、がん患者から採取された細胞群に繊維芽細胞が大量に含まれていた場合には、薬効評価を誤ってしまうおそれがある。特に、本実施形態において用いられる細胞構造体は、大量の間質細胞を含むため、その中で、正確に薬剤標的であるがん細胞に対する薬剤効果を評価する必要がある。本実施形態に係る評価方法においては、間質細胞を含む層を構成する間質細胞と、がん患者に由来する間質細胞とが混在しないよう半透膜によって分離しておくことにより、がん細胞と共に多量の間質細胞が細胞構造体に含まれている場合であっても、がん患者由来の間質細胞の影響を抑え、より信頼性の高い評価を得ることができる。
【0026】
間質細胞としては、例えば、内皮細胞、繊維芽細胞、神経細胞、樹状細胞、マクロファージ、肥満細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、組織幹細胞、平滑筋細胞等が挙げられる本実施形態に係る細胞構造体に含まれる間質細胞は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。本実施形態に係る細胞構造体に含まれる間質細胞の細胞種としては、特に限定されるものではなく、含有させるがん細胞の由来や種類や、評価に使用される抗がん剤の種類、目的の抗がん活性が奏される生体内の環境等を考慮して、適宜選択することができる。
【0027】
血管網構造やリンパ管網構造は、がん細胞の増殖や活性に重要である。このため、本実施形態に係る細胞構造体は、脈管網構造を備えるものが好ましい。すなわち、本実施形態に係る細胞構造体としては、脈管を形成していない細胞の積層体の内部に、リンパ管及び血管等の少なくとも一方の脈管網構造が三次元的に構築され、より生体内に近い組織を構築しているものが好ましい。脈管網構造は、細胞構造体の内部にのみ形成されていてもよく、少なくともその一部が細胞構造体の表面又は底面に露出されるように形成されていてもよい。なお、本発明及び本願明細書において、「脈管網構造」とは、生体組織における血管網やリンパ管網のような、網状の構造を指す。
【0028】
脈管網構造は、間質細胞として脈管を構成する内皮細胞を含むことにより形成させることができる。本実施形態に係る細胞構造体に含まれる内皮細胞としては、血管内皮細胞であってもよく、リンパ管内皮細胞であってもよい。また、血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞との両方を含んでいてもよい。
【0029】
本実施形態に係る細胞構造体が脈管網構造を備える場合、当該細胞構造体中の内皮細胞以外の細胞としては、内皮細胞が脈管網を形成することを阻害しないものであれば特に限定されるものではない。しかしながら、内皮細胞が本来の機能及び形状を保持する脈管網を形成しやすいことから、生体内において脈管の周辺組織を構成する細胞であることが好ましい。さらに、生体内のがん微小環境とより近似させられることから、内皮細胞以外の細胞として少なくとも繊維芽細胞を含む細胞構造体がより好ましく、血管内皮細胞と繊維芽細胞とを含む細胞構造体、リンパ管内皮細胞と繊維芽細胞とを含む細胞構造体、又は血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞と繊維芽細胞とを含む細胞構造体がさらに好ましい。なお、細胞構造体に含まれる内皮細胞以外の細胞としては、内皮細胞と同種の生物種由来の細胞であってもよく、異種の生物種由来の細胞であってもよい。また、細胞構造体に含まれる内皮細胞以外の細胞は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0030】
本実施形態に係る細胞構造体中の内皮細胞の数は、脈管網構造が形成されるのに充分な数であれば特に限定されるものではなく、細胞構造体の大きさや、内皮細胞や内皮細胞以外の細胞の細胞種等を考慮して適宜決定することができる。例えば、本実施形態に係る細胞構造体を構成する全細胞に対する内皮細胞の存在比(細胞数比)を0.1%以上に設定することによって、脈管網構造が形成された細胞構造体を調製できる。内皮細胞以外の細胞として繊維芽細胞を用いる場合、本実施形態に係る細胞構造体における内皮細胞数は、繊維芽細胞数の0.1%以上であることが好ましく、0.1~10.0%であることがより好ましく、0.1~5.0%であることがさらに好ましい。内皮細胞として血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞との両方を含む場合、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の総細胞数が、繊維芽細胞数の0.1%以上であることが好ましく、0.1~10.0%であることがより好ましく、0.1~5.0%であることがさらに好ましい。
【0031】
本実施形態に係る細胞構造体に含まれるがん細胞としては、株化された培養細胞であってもよく、がん患者から採取されたがん細胞であってもよい。がん患者から採取されたがん細胞は、予め培養して増殖させたものであってもよい。具体的には、がん患者から採取された初代がん細胞、人工培養がん細胞、iPSがん幹細胞、がん幹細胞、がん治療の研究や抗がん剤の開発に利用するために予め準備されている株化がん細胞等が挙げられる。また、ヒト由来のがん細胞であってもよく、ヒト以外の動物由来のがん細胞であってもよい。なお、本実施形態に係る細胞構造体ががん患者から採取されたがん細胞を含む場合、がん患者から採取されたがん細胞以外の細胞も、がん細胞と共に含んでいてもよい。がん細胞以外の細胞としては、例えば、術後摘出した固形組織内に含まれる1種類又は2種類以上の細胞が挙げられる。
【0032】
がん細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。がん細胞の由来となるがんとしては、例えば、乳がん(例えば、浸潤性乳管がん、非浸潤性乳管がん、炎症性乳がん等)、前立腺がん(例えば、ホルモン依存性前立腺がん、ホルモン非依存性前立腺がん等)、膵がん(例えば、膵管がん等)、胃がん(例えば、乳頭腺がん、粘液性腺がん、腺扁平上皮がん等)、肺がん(例えば、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、悪性中皮腫等)、結腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸がん(例えば、家族性大腸がん、遺伝性非ポリポーシス大腸がん、消化管間質腫瘍等)、小腸がん(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道がん、十二指腸がん、舌がん、咽頭がん(例えば、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん等)、頭頚部がん、唾液腺がん、脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、肝臓がん(例えば、原発性肝がん、肝外胆管がん等)、腎臓がん(例えば、腎細胞がん、腎盂と尿管の移行上皮がん等)、胆嚢がん、胆管がん、膵臓がん、肝がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、卵巣がん(例、上皮性卵巣がん、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱がん、尿道がん、皮膚がん(例えば、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞がん等)、血管腫、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、メラノーマ(悪性黒色腫)、甲状腺がん(例えば、甲状腺髄様がん等)、副甲状腺がん、鼻腔がん、副鼻腔がん、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング腫瘍、子宮肉腫、軟部組織肉腫等)、転移性髄芽腫、血管線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形がん(例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍等)、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、慢性骨髄増殖性疾患、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病等)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0033】
本実施形態に係る細胞構造体を構成する間質細胞やがん細胞等の細胞の種類は特に限定されるものではなく、動物から採取された細胞であってもよく、動物から採取された細胞を培養した細胞であってもよく、動物から採取された細胞に各種処理を施した細胞であってもよく、培養細胞株であってもよい。動物から採取された細胞の場合、採取部位は特に限定されず、骨、筋肉、内臓、神経、脳、皮膚、血液などに由来する体細胞であってもよく、生殖細胞であってもよく、胚性幹細胞(ES細胞)であってもよい。また、本実施形態に係る細胞構造体を構成する細胞が由来する生物種は特に限定されるものではなく、例えば、ヒトや、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の動物に由来する細胞を用いることができる。動物から採取された細胞を培養した細胞としては、初代培養細胞であってもよく、継代培養細胞であってもよい。また、各種処理を施した細胞としては、誘導多能性幹細胞細胞(iPS細胞)や、分化誘導後の細胞が挙げられる。また、本実施形態に係る細胞構造体は、同種の生物種由来の細胞のみから構成されていてもよく、複数種類の生物種由来の細胞により構成されていてもよい。
【0034】
本実施形態に係る細胞構造体中のがん細胞の数は、特に限定されるものではないが、がん細胞と間質細胞とが共存している細胞構造体の場合には、より生体内のがん微小環境とより近似させられることから、細胞構造体中のがん細胞数に対する内皮細胞数の比率([内皮細胞数]/[がん細胞数])が0超1.5以下であることが好ましい。また、内皮細胞と繊維芽細胞とがん細胞とを含む細胞構造体を用いる場合には、細胞構造体中のがん細胞数に対する線維芽細胞数の比率([線維芽細胞数]/[がん細胞数])が0.6~100であることが好ましく、50~100であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態に係る細胞構造体の大きさや形状は、特に限定されるものではない。より生体内の組織に形成された脈管と近い状態の脈管網構造が形成可能であり、より精度の高い評価が可能であることから、当該細胞構造体の厚さは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましく、100μm以上がよりさらに好ましい。当該細胞構造体の厚さとしては、500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。本実施形態に係る細胞構造体の細胞層の数としては、2~60層程度が好ましく、5~60層程度がより好ましく、10~60層程度がさらに好ましい。
【0036】
本実施形態に係る細胞構造体が、間質細胞層とがん細胞層とが半透膜で仕切られた細胞構造体の場合には、当該細胞構造体のうち間質細胞を含む層の厚さは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましく、100μm以上がよりさらに好ましい。また、当該細胞構造体のうち間質細胞を含む層の厚さとしては、500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。この場合も、細胞構造体の細胞層の数としては、2~60層程度が好ましく、5~60層程度がより好ましく、10~60層程度がさらに好ましい。
【0037】
なお、本発明及び本願明細書において、細胞構造体を構成する細胞層数は、三次元構造を構成する細胞の総数を、1層当たりの細胞数(1層を構成するために必要な細胞数)で除することにより測定される。1層当たりの細胞数は、細胞構造体を構成させる際に使用する細胞容器に、予め細胞をコンフルエントになるように平面的に培養して調べることができる。具体的には、ある細胞容器に形成された細胞構造体の細胞層数は、当該細胞構造体を構成する全細胞数を計測し、当該細胞容器の1層当たりの細胞数で除することにより算出できる。
【0038】
間質細胞を含む層とがん細胞を含む層とを仕切る半透膜は、水分、タンパク質、核酸、脂質、糖質等の比較的分子量の小さい成分は自由に透過することができるが、細胞は自由に移動できない膜であればよい。このような膜であれば、間質細胞から分泌される成分は自由に透過可能であるが、間質細胞を含む細胞層とがん細胞を含む細胞層とが、一部は接触しているものの分離した状態で維持された細胞構造体を形成することができる。この場合、細胞構造体に含まれる半透膜としては、例えば、ポアサイズが0.4μm~8μmのものを用いることができる。
【0039】
細胞構造体に含まれる半透膜の素材としては、がん細胞や間質細胞の増殖や活性を阻害しないものであれば特に限定されるものではない。当該半透膜としては、例えば、再生セルロース(セロファン)、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル系ポリマーアロイ、ポリスルホン等から形成される多孔質膜が挙げられる。
【0040】
一般的に、本実施形態に係る細胞構造体は、細胞培養容器中に構築される。当該細胞培養容器としては、細胞構造体の構築が可能であり、かつ構築された細胞構造体の培養が可能な容器であれば特に限定されるものではない。当該細胞培養容器としては、具体的には、ディッシュ、セルカルチャーインサート(例えば、Transwell(登録商標)インサート、Netwell(登録商標)インサート、Falcon(登録商標)セルカルチャーインサート、Millicell(登録商標)セルカルチャーインサート等)、チューブ、フラスコ、ボトル、プレート等が挙げられる。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、当該細胞構造体を用いた評価をより適正に行うことができるため、ディッシュ又は各種セルカルチャーインサートが好ましい。
【0041】
本実施形態に係る細胞構造体は、がん細胞及び間質細胞を含む多層の細胞層から形成される構造体であればよく、その構築方法は特に限定されるものではない。例えば、一層ずつ構築して順次積層させて構築する方法であってもよく、2層以上の細胞層を一度に構築する方法であってもよく、両構築方法を適宜組み合わせて多層の細胞層を構築する方法であってもよい。また、本実施形態に係る細胞構造体は、各細胞層を構成する細胞種が層ごとに異なる多層構造体であってもよく、各細胞層を構成する細胞種が、構造体の全層で共通するものであってもよい。例えば、細胞種毎に層を形成し、この細胞層を順次積層させることによって構築する方法であってもよく、複数種類の細胞を混合した細胞混合液を予め調製し、この細胞混合液から多層構造の細胞構造体を一度に構築する方法であってもよい。
【0042】
一層ずつ構築して順次積層させて構築する方法としては、例えば、日本国特許第4919464号公報に記載されている方法、すなわち、細胞層を形成する工程と、形成された細胞層をECM(細胞外マトリックス)の成分を含有する溶液に接触させる工程と、を交互に繰り返すことにより、連続的に細胞層を積層する方法が挙げられる。例えば、当該方法を行うに際し、予め、細胞構造体を構成する全ての細胞を混合した細胞混合物を調製しておき、この細胞混合物によって各細胞層を形成することによって、構造体全体に脈管網構造が形成されており、かつがん細胞が構造体全体に散在している細胞構造体が構築できる。また、各細胞層を、細胞種ごとに形成することによって、内皮細胞から形成された層にのみ脈管網構造が形成されており、がん細胞が特定の層にのみ存在している細胞構造体が構築できる。
【0043】
また、例えば、上記方法を行うに際し、予め、間質細胞を含む層を構成する全ての細胞を混合した細胞混合物と、がん細胞を含む層を構成する全ての細胞を混合した細胞混合物とを、それぞれ別個に調製しておき、まず、間質細胞を含む細胞混合物を順次積層することによって単層又は多層から構成される細胞層を構成した後、当該細胞層の上に半透膜を載せ、この半透膜の上にがん細胞を含む細胞混合物を積層して細胞層を構成することもできる。これにより、間質細胞を含む細胞層全体に脈管網構造が形成されており、かつがん細胞を含む細胞層全体にがん細胞が散在している細胞構造体が構築できる。また、間質細胞を含む細胞層を、細胞種ごとに形成することによって、内皮細胞からなる層にのみ脈管網構造が形成されており、がん細胞が半透膜で間質細胞とは仕切られた層にのみ存在している細胞構造体が構築できる。
【0044】
2層以上の細胞層を一度に構築する方法としては、例えば、日本国特許第5850419号公報に記載されている方法、すなわち、予め細胞の表面全体をインテグリンが結合するアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)配列を含む高分子と、前記RGD配列を含む高分子に対する相互作用をする高分子と、によって被覆しておき、この接着膜で被覆された被覆細胞を細胞培養容器に収容した後、遠心処理等によって被覆細胞同士を集積させることにより、多層の細胞層を有する細胞構造体を構築する方法が挙げられる。
【0045】
例えば、当該方法を行うに際し、予め、細胞構造体を構成する全ての細胞を混合した細胞混合物を調製しておき、この細胞混合物に接着性成分を添加することによって調製された被覆細胞を用いることができる。これにより、1度の遠心処理によって、構造体全体にがん細胞が散在する細胞構造体が構築できる。同様に、予め、細胞構造体を構成する全ての細胞を混合した細胞混合物を調製しておき、この細胞混合物に接着性成分を添加することによって調製された被覆細胞を用いることにより、1度の遠心処理によって、構造体全体に脈管網構造が形成されている細胞構造体が構築できる。また、例えば、内皮細胞を被覆した被覆細胞と、繊維芽細胞を被覆した被覆細胞と、がん患者から採取された細胞群を被覆した被覆細胞とを、それぞれ別個に調製し、繊維芽細胞の被覆細胞から構成される多層を形成させた後、その上に内皮細胞の被覆細胞から形成される1層を積層させ、さらにその上に繊維芽細胞の被覆細胞から形成される多層を積層させ、さらにその上にがん細胞を含む細胞の被覆細胞から形成される1層を積層させることもできる。これにより、厚みのある繊維芽細胞層に挟まれた脈管網構造を備え、かつ天面にがん患者から採取されたがん細胞を含む層を備える細胞構造体が構築できる。
【0046】
また、例えば、内皮細胞を被覆した被覆細胞と、繊維芽細胞を被覆した被覆細胞と、がん患者から採取された細胞群を被覆した被覆細胞とを、それぞれ別個に調製し、繊維芽細胞の被覆細胞から多層を形成させた後、その上に内皮細胞の被覆細胞から形成される1層を積層させ、さらにその上に繊維芽細胞の被覆細胞から形成される多層を積層させ、さらにその上に半透膜を置き、この半透膜の上にがん細胞を含む細胞の被覆細胞から形成される1層を積層させることもできる。これにより、厚みのある繊維芽細胞層に挟まれた脈管網構造を備え、かつ繊維芽細胞層と半透膜で仕切られた状態でがん患者から採取されたがん細胞を含む層を備える細胞構造体が構築できる。
【0047】
本実施形態に係る細胞構造体は、下記(a)~(c)の工程を有する方法により構築することもできる。
(a)カチオン性緩衝液中で、細胞と細胞外マトリックス成分とを混合して混合物を得る工程と、
(b)前記工程(a)により得られた混合物を、細胞培養容器中に播種する工程と、
(c)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器中の細胞混合物から液体成分を除去し、当該細胞培養容器中に細胞が多層に積層された細胞構造体を得る工程。
【0048】
本発明においては、工程(a)において、細胞を、カチオン性物質を含む緩衝液および細胞外マトリックス成分と混合し、この細胞混合物から細胞集合体を形成することにより、内部に大きな空隙が少ない立体的細胞組織を得ることができる。また、得られた立体的細胞組織は、比較的安定であるため、少なくとも数日間の培養が可能であり、かつ培地交換時にも組織が崩壊し難い。
また、本発明においては、工程(b)において、細胞培養容器内に播種した細胞混合物を当該細胞培養容器内に沈降させることを含み得る。細胞混合物の沈降は、遠心分離等によって積極的に細胞を沈降させてもよいし、自然沈降させてもよい。
【0049】
工程(a)において、細胞をさらに強電解質高分子と混合することが好ましい。細胞をカチオン性物質、強電解質高分子および細胞外マトリックス成分と混合することにより、工程(b)において遠心分離等の細胞を積極的に集合させる処理を要することなく、自然沈降させた場合であっても、空隙が少なく厚みのある立体的細胞組織が得られる。
【0050】
前記カチオン性緩衝液としては、例えば、トリス-塩酸緩衝液、トリス-マレイン酸緩衝液、ビス-トリス-緩衝液、又はHEPES等が挙げられる。当該カチオン性緩衝液中のカチオン性物質(例えば、トリス-塩酸緩衝液におけるトリス)の濃度及びpHは、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、カチオン性緩衝液中のカチオン性物質の濃度は、10~100mMとすることができ、40~70mMであることが好ましく、50mMであることがより好ましい。また、当該カチオン性緩衝液のpHは、6.0~8.0とすることができ、6.8~7.8であることが好ましく、7.2~7.6であることがより好ましい。
【0051】
前記強電解質高分子としては、例えば、ヘパリン、コンドロイチン硫酸(例えば、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸)、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸等のグリコサミノグリカン;デキストラン硫酸、ラムナン硫酸、フコイダン、カラギナン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ポリアクリル酸、又はこれらの誘導体等が挙げられる。工程(a)において調製される混合物には、強電解質高分子を1種類のみ混合させてもよく、2種類以上を組み合わせて混合させてもよい。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、グリコサミノグリカンを用いることが好ましく、ヘパリン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、またはデルマタン硫酸を用いることがより好ましい。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、ヘパリンを用いることがさらに好ましい。前記カチオン性緩衝液に混合する強電解質高分子の量は、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、カチオン性緩衝液中の強電解質高分子の濃度は、0mg/mL超1.0mg/mL未満とすることができ、0.025~0.1mg/mLであることが好ましく、0.05~0.1mg/mLであることがより好ましい。細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、上述の高分子電解質の誘導体を用いてもよい。また、本実施形態の一態様としては、前記強電解質を混合せずに前記混合物を調整し、細胞構造体の構築の行うこともできる。
【0052】
前記細胞外マトリックス成分としては、例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン、プロテオグリカン、又はこれらの改変体若しくはバリアント等が挙げられる。プロテオグリカンには、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン等が挙げられる。本実施形態で用いられる細胞外マトリックス成分はコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンであり、中でもコラーゲンであることが好ましい。細胞の生育および細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、上述の細胞外マトリックス成分の改変体およびバリアントを用いてもよい。工程(a)において調製される混合物には、細胞外マトリックス成分を1種類のみ混合させてもよく、2種類以上を組み合わせて混合させてもよい。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンを用いることが好ましく、中でもコラーゲンを用いることが好ましい。前記カチオン性緩衝液に混合する細胞外マトリックス成分の量は、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、カチオン性緩衝液中の細胞外マトリックス成分の濃度は、0mg/mL超1.0mg/mL未満とすることができ、0.025~0.1mg/mLであることが好ましく、0.05~0.1mg/mLであることがより好ましい。
【0053】
前記カチオン性緩衝液に混合する強電解質高分子と細胞外マトリックス成分との配合比は、1:2~2:1である。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、強電解質高分子と細胞外マトリックス成分との配合比が、1:1.5~1.5:1であることが好ましく、1:1であることがより好ましい。
【0054】
工程(a)~(c)を繰り返す、具体的には、工程(c)で得られた細胞構造体の上に、工程(b)として、工程(a)で調製した混合物を播種した後、工程(c)を行うことを繰り返すことにより、充分な厚みの細胞構造体を構築することができる。工程(c)で得られた細胞構造体の上に新たに播種する混合物の細胞組成は、既に構築されている細胞構造体を構成する細胞組成と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0055】
例えば、まず、工程(a)において細胞としては繊維芽細胞のみを含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器に10層の繊維芽細胞層から形成される細胞構造体を得る。次いで、工程(a)として細胞として血管内皮細胞のみを含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器内の繊維芽細胞層の上に1層の血管内皮細胞層を積層させる。さらに、工程(a)として細胞として繊維芽細胞のみを含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器内の血管内皮細胞層の上に、10層の繊維芽細胞層を積層させる。さらに、工程(a)として、がん患者から採取されたがん細胞を含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器内の繊維芽細胞層の上に1層のがん細胞層を積層させる。これにより、繊維芽細胞層10層-血管内皮細胞層1層-繊維芽細胞層10層-がん細胞層1層と細胞種毎に順番に層状に積層された細胞構造体が構築できる。工程(b)において播種される細胞数を調節することにより、工程(c)において積層される細胞層の厚み及び数を調整できる。工程(b)において播種される細胞数が多いほど、工程(c)において積層される細胞層の数が多くなる。また、工程(a)において、繊維芽細胞層20層分の繊維芽細胞と血管内皮細胞層1層分の血管内皮細胞を全て混合した混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行い、形成された多層の構造体の上に、同様にして調製したがん患者から採取されたがん細胞を含む混合物を積層することによって、21層分の厚みを有し、血管網構造が構造体内部に散在している構造体の上にがん細胞層が積層された細胞構造体が構築できる。さらに、工程(a)において、繊維芽細胞層20層分の繊維芽細胞と血管内皮細胞層1層分の血管内皮細胞とがん細胞層1層分のがん患者由来の細胞とを全て混合した混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行うことにより、22層分の厚みを有し、がん細胞と血管網構造との両方が構造体内部にそれぞれ独立して散在している細胞構造体が構築できる。
【0056】
間質細胞層とがん細胞層とが半透膜で仕切られた細胞構造体を構築する場合には、例えば、まず、工程(a)において細胞としては繊維芽細胞のみを含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器に10層の繊維芽細胞層から構成される細胞構造体を得る。次いで、工程(a)として細胞として血管内皮細胞のみを含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器内の繊維芽細胞層の上に1層の血管内皮細胞層を積層させる。さらに、工程(a)として細胞として繊維芽細胞のみを含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器内の血管内皮細胞層の上に、10層の繊維芽細胞層を積層させた後、半透膜を載せる。さらに、工程(a)として、がん患者から採取されたがん細胞を含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器内の半透膜の上に1層のがん細胞層を積層させる。これにより、繊維芽細胞層10層-血管内皮細胞層1層-繊維芽細胞層10層-半透膜-がん細胞層1層 と細胞種毎に順番に層状に積層された細胞構造体が構築できる。工程(b)において播種される細胞数を調節することにより、工程(c)において積層される細胞層の厚み及び数を調整できる。工程(b)において播種される細胞数が多いほど、工程(c)において積層される細胞層の数が多くなる。また、工程(a)において、繊維芽細胞層20層分の繊維芽細胞及び血管内皮細胞層1層分の血管内皮細胞を全て混合した混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行い、形成された多層の構造体の上に半透膜を置き、この半透膜の上に、同様にして調製したがん患者から採取されたがん細胞を含む混合物を積層することによって、21層分の厚みを有し、血管網構造が構造体内部に散在している構造体の上に半透膜を挟んでがん細胞層が積層された細胞構造体が構築できる。
【0057】
工程(a)~(c)を繰り返す場合に、工程(c)の後、工程(b)を行う前に、得られた細胞構造体を培養してもよい。培養に用いる培養培地の組成、培養温度、培養時間、培養時の大気組成等の培養条件は、当該細胞構造体を構成する細胞の培養に適した条件で行う。培養培地としては、例えば、D-MEM、E-MEM、MEMα、RPMI-1640、Ham’s F-12等が挙げられる。
【0058】
工程(a)の後に、(a’-1)得られた混合物から液体部分を除去し、細胞集合体を得る工程、および(a’-2)細胞集合体を溶液に懸濁する工程を行い、工程(b)へ進んでも良い。
また、工程(a)の後に、前記工程(b)に代えて、下記工程(b’-1)及び(b’-2)を行ってもよい。本発明及び本願明細書において、「細胞粘稠体」とは、非特許文献5に記載されるようなゲル様の細胞集合体を指す。
(b’-1)工程(a)で得られた混合物を細胞培養容器内に播種した後、混合物から液体成分を除去し細胞粘稠体を得る工程と、
(b’-2)細胞培養容器内に細胞粘稠体を溶媒に懸濁する工程。上述の工程(a)~(c)を実施することで所望の組織体を得ることができるが、工程(a)の後に(a’-1)および(a’-2)を実施し、工程(b)を実施することで、より均質な組織体を得ることができる。
【0059】
細胞懸濁液を調製するための溶媒としては、細胞に対する毒性がなく、増殖性や機能を損なわないものであれば特に限定されるものではなく、水、緩衝液、細胞の培養培地等を用いることができる。当該緩衝液としては、例えば、リン酸生理食塩水(PBS)、HEPES、Hanks緩衝液等が挙げられる。培養培地としては、D-MEM、E-MEM、MEMα、RPMI-1640、Ham’s F-12等が挙げられる。
【0060】
前記工程(c)に代えて、下記工程(c’)を行ってもよい。
(c’)播種した混合物から液体成分を除去し、基材上に細胞の層を形成する工程。
【0061】
工程(c)及び(c’)における液体成分の除去処理の方法は、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されず、液体成分及び固体成分の懸濁物から液体成分を除去する方法として当業者に公知の手法により適宜行うことができる。当該手法としては、例えば、遠心分離処理、磁性分離処理、またはろ過処理等が挙げられる。
例えば、細胞培養容器としてセルカルチャーインサートを用いた場合には、混合物を播種したセルカルチャーインサートを、10℃、400×gで1分間の遠心分離処理に供することによって、液体成分を除去することができる。
【0062】
<抗がん剤>
本実施形態に係る評価方法に用いられる抗がん剤には、がん治療に用いられる薬剤であればよく、細胞障害性を有する薬剤のようにがん細胞に直接的に作用する薬剤のみならず、細胞障害性を有さないが、がん細胞の増殖等を抑制する薬剤も含まれる。細胞障害性を有さない抗がん剤としては、がん細胞を直接的に攻撃することはせず、生体内の免疫細胞やその他の薬剤との協働的な作用によって、がん細胞の増殖を抑制したり、がん細胞の活動を鈍らせたり、がん細胞を死滅させたりする機能を発揮する薬剤や、がん細胞以外の細胞や組織を障害することによってがん細胞の増殖を抑制する薬剤が挙げられる。本実施形態において用いられる抗がん剤は、抗がん作用を有することが既知である薬剤であってもよく、新規な抗がん剤の候補化合物であってもよい。
【0063】
細胞障害性を有する抗がん剤としては、特に限定されないが、例えば、分子標的薬や、アルキル化剤、5-FU系抗がん剤に代表される代謝拮抗剤、植物アルカロイド、抗がん性抗生物質、プラチナ誘導体、ホルモン剤、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管阻害剤、生物学的応答調節剤に分類される化合物等が挙げられる。
【0064】
細胞障害性を有さない抗がん剤としては、特に限定されないが、例えば、脈管新生阻害剤や、抗がん剤のプロドラッグ、抗がん剤若しくはそのプロドラッグの代謝に関連する細胞内代謝酵素活性を調整する薬剤(以下、明細書中では、「細胞内酵素調整剤」という。)、免疫療法剤等が挙げられる。その他にも、抗がん剤の機能を高めたり、生体内の免疫機能を向上させたりすることによって最終的に抗がん作用に関与する薬剤も挙げられる。
【0065】
脈管新生阻害剤は、脈管新生阻害活性を有することが期待される化合物であればよく、既知の脈管新生阻害剤であってもよく、新規な脈管新生阻害剤の候補化合物であってもよい。既知の脈管新生阻害剤としては、Avastin、EYLEA、Suchibaga、CYRAMZA(登録商標)(Eli Lilly社製、別名ラムシルマブ)、BMS-275291(Bristol-Myers社製)、Celecoxib(Pharmacia/Pfizer社製)、EMD121974(Merck社製)、Endostatin(EntreMed社製)、Erbitaux(ImCloneSystems社製)、Interferon-α(Roche社製)、LY317615(Eli Lilly社製)、Neovastat(Aeterna Laboratories社製)、PTK787(Abbott社製)、SU6688(Sugen社製)、Thalidomide(Celgene社製)、VEGF-Trap(Regeneron社製)、Iressa(登録商標)(Astrazeneca社製、別名ゲフィチニブ)、Caplerusa(登録商標)(Astrazeneca社製、別名パンデタニブ)、Recentin(登録商標)(Astrazeneca社製、別名セディラニブ)VGX―100(Circadian Technologies社製)、VD1andcVE199、VGX-300(Circadian Technologies社製)、sVEGFR2、hF4-3C5、Nexavar(登録商標)(Bayer Yakuhin社製、別名ソラフェニブ)、Vortrient(登録商標)(GlaxoSmithKline社製、別名パゾパニブ)、Sutent(登録商標)(Pfizer社製、別名スニチニブ)、Inlyta(登録商標)(Pfizer社製、別名アキシチニブ)、CEP-11981(Teva Pharmaceutical Industries社製)、AMG-386(Takeda Yakuhin社製、別名トレバナニブ)、anti-NRP2B(Genentech社製)、Ofev(登録商標)(boehringer-ingelheim社製、別名ニンタテニブ)、AMG706(Takeda Yakuhin社製、別名モテサニブ)等が挙げられる。
【0066】
抗がん剤のプロドラッグは、肝臓などの臓器やがん細胞の細胞内酵素によって、抗がん作用を有する活性体に変換される薬剤である。サイトカインネットワークがこの酵素活性を上昇させることにより、活性体量が増し、抗腫瘍効果の増強をもたらすことから、抗がん作用に関与する薬剤として挙げられる。
【0067】
細胞内酵素調整剤としては、例えば、単剤では直接的な抗腫瘍効果をもたないが、5-FU系抗がん剤の分解酵素(Dihydropyrimidine dehydrogenase:DPD)を阻害することにより抗がん作用に関与するギメラシルなどが挙げられる。
【0068】
免疫療法剤としては、クレスチン、レンチナン、OK-432などの生体応答調節剤療法に用いられる薬剤(以下、「BRM製剤」と略記する。)、インターロイキン類やインターフェロン類などのサイトカイン系製剤などが挙げられる。
【0069】
本実施形態に係る評価方法においては、1種類の抗がん剤を用いてもよく、2種類以上の抗がん剤を組み合わせて用いてもよい。また、抗がん剤を抗がん剤以外の薬剤と組み合わせて用いてもよい。例えば、単独で投与された場合でも抗がん効果を奏する抗がん剤であっても、実際の臨床現場では他の薬剤と併用投与される場合には、本実施形態に係る評価方法は、当該抗がん剤と当該他の薬剤とを併用して行ってもよい。
【0070】
また、本実施形態に係る評価方法においては、細胞構造体として、脈管網構造が形成された多層の細胞から構成され、かつその構成細胞の一部ががん細胞である細胞構造体を用い、抗がん剤として、細胞障害性を有する抗がん剤と脈管新生阻害剤とを用いることにより、細胞障害性を有する抗がん剤と脈管新生阻害剤との併用効果を評価することもできる。
当該方法により、生体内の状態により近い三次元構造内に脈管網構造を含む細胞構造体を用いるため、動物モデルを用いることなく、脈管新生阻害剤と抗がん剤とを併用使用することにより得られる薬効を精度良く評価することができる。
細胞障害性を有する抗がん剤としては、細胞障害性を有することが期待される化合物であればよく、既知の抗がん剤であってもよく、新規な抗がん剤の候補化合物であってもよい。
【0071】
具体的には、がん細胞を含み、脈管網構造を備える細胞構造体を、脈管新生阻害剤及び細胞障害性を有する抗がん剤の存在下で培養する培養工程と、前記培養工程後の前記細胞構造体中のがん細胞の生細胞数を指標として、前記脈管新生阻害剤と前記抗がん剤とを併用した場合の抗がん効果を評価する評価工程と、を有する。
当該細胞構造体は、脈管網構造を備えており、脈管を構成する内皮細胞と、脈管を構成していない細胞(内皮細胞以外の細胞)と、により構成される。
当該細胞構造体に含まれる内皮細胞以外の細胞の細胞種としては、内皮細胞が脈管網を形成することを阻害しないものであれば特に限定されるものではなく、含有させるがん細胞の由来や種類、評価に使用される脈管新生阻害剤や抗がん剤の種類、目的の抗がん活性が奏される生体内の環境等を考慮して、適宜選択することができる。
【0072】
<培養工程>
本実施形態に係る評価方法では、まず、培養工程として、がん細胞及び間質細胞を含む細胞構造体を、抗がん剤の存在下で培養する。具体的には、1種又は2種以上の抗がん剤を混合した培養培地中で、細胞構造体を培養する。細胞障害性を有する抗がん剤と脈管新生阻害剤との併用効果を評価する場合には、培養工程として、脈管網構造を備える細胞構造体を、脈管新生阻害剤及び抗がん剤の存在下で培養する。具体的には、脈管新生阻害剤と抗がん剤とを混合した培養培地中で、細胞構造体を培養する。
【0073】
培養培地に混合する抗がん剤の量は、細胞構造体を構成する細胞の種類や数、含まれているがん細胞の種類や量、培養培地の種類、培養温度、培養時間等の培養条件を考慮して実験的に決定することができる。培養時間は、特に限定されるものではなく、例えば、24~96時間とすることができ、48~96時間であることが好ましく、48~72時間であることがより好ましい。また、培養環境を著しく変化させない限度において、必要に応じて還流等の流体力学的な付加を加えてもよい。
【0074】
<評価工程>
前記培養工程後の細胞構造体中のがん細胞の生細胞数を指標として、抗がん剤の抗がん効果を評価する。具体的には、抗がん剤非存在下で培養した場合と比較して、がん細胞の生細胞数が多い場合に、当該抗がん剤は、当該細胞構造体に含まれるがん細胞に対して抗がん効果を有すると評価する。一方で、抗がん剤非存在下で培養した場合と比較して、がん細胞の生細胞数が同程度又は有意に多い場合には、当該抗がん剤は、当該細胞構造体に含まれるがん細胞に対して抗がん作用はないと評価する。
【0075】
細胞障害性を有する抗がん剤と脈管新生阻害剤との併用効果を評価する場合には、培養工程後の細胞構造体中のがん細胞の生細胞数を指標として、脈管新生阻害剤と抗がん剤とを併用した場合の抗がん効果を評価する。具体的には、抗がん剤のみの存在下で培養した場合と比較して、がん細胞の生細胞数が多い場合に、当該抗がん剤は当該脈管新生阻害剤と併用することにより、当該抗がん剤を単独使用した場合よりも高い抗がん効果が得られること、つまり、併用効果が得られると評価する。一方で、抗がん剤のみの存在下で培養した場合と比較して、がん細胞の生細胞数が同程度である場合に、当該抗がん剤は当該脈管新生阻害剤と併用しても当該抗がん剤を単独使用した場合よりも高い抗がん効果は得られないこと、つまり併用効果は得られないと評価する。さらに、抗がん剤のみの存在下で培養した場合と比較して、がん細胞の生細胞数が有意に多い場合には、当該抗がん剤は当該脈管新生阻害剤と併用することによってかえって抗がん効果が減弱してしまうと評価する。
【0076】
がん細胞の生細胞数は、がん細胞の生細胞又はその存在量に相関のあるシグナルを用いて評価することができる。評価時点のがん細胞の生細胞数を測定できればよく、必ずしも生きている状態で測定する必要はない。例えば、がん細胞をその他の細胞と区別するように標識し、当該標識からのシグナルを指標として調べることができる。例えば、がん細胞を蛍光標識した後、細胞の生死判定を行うことにより、細胞構造体中の生きているがん細胞を直接計数することができる。この際、画像解析技術を利用することもできる。細胞の生死判定はトリパンブルー染色やPI(Propidium Iodide)染色等の公知の細胞の生死判定方法により行うことができる。なお、がん細胞の蛍光標識は、例えば、がん細胞の細胞表面に特異的に発現している物質に対する抗体を一次抗体とし、当該一次抗体と特異的に結合する蛍光標識二次抗体を用いる免疫染色法等の公知の手法で行うことができる。細胞の生死判定及び生細胞数の測定は、細胞構造体の状態で行ってもよく、細胞構造体を単細胞レベルに破壊した状態で行ってもよい。例えば、がん細胞と死細胞を標識した後の細胞構造体の立体構造を破壊した後、標識を指標としたFACS(fluorescence activated cell sorting)等により、評価時点において生きていたがん細胞のみを直接計数することもできる。
【0077】
細胞構造体中のがん細胞を生きている状態で標識し、当該標識からのシグナルを経時的に検出することによって、当該細胞構造体中のがん細胞の生細胞数を経時的に測定することもできる。細胞構造体を構築した後に当該細胞構造体中のがん細胞を標識してもよく、細胞構造体を構築する前に予めがん細胞を標識しておいてもよい。例えば、がん患者由来のがん細胞を含む細胞群を含む細胞構造体を用いる場合、細胞構造体を構築する前に、予めがん細胞を標識しておくこともできる。また、がん細胞と共にがん患者由来のその他の細胞も同様に標識されていてもよい。その他、蛍光色素を恒常的に発現させているがん細胞を用いた場合には、細胞構造体を溶解させて得られたライセートの蛍光強度をマイクロプレートリーダー等で測定することによっても、がん細胞の生細胞数を評価することができる。
【0078】
また、がん細胞層と間質細胞層とが半透膜で仕切られている細胞構造体の場合には、間質細胞からがん細胞を容易に分離して回収できる。この回収したがん細胞中の生細胞数を、MTT法等の当該技術分野で公知の生細胞数測定方法により測定することができる。
【0079】
本実施形態に係る評価方法によれば、実際の生体内におけるがん細胞の周辺組織の構造に近い間質を備え、間質が分泌する成分が癌細胞に影響を与えられる細胞構造体を用いており、さらに、間質に加えて実際の生体内における脈管構造に近い脈管網構造を備える細胞構造体を用いることもできる。このように、本実施形態に係る評価方法では、よりin vivoに近い環境をin vitroで再現した状態で評価を行うため、薬効について信頼性の高い評価を得ることができる。本実施形態に係る評価方法により抗がん効果があると評価された抗がん剤は、実際にがん患者に投与した場合でも、充分な抗がん効果が得られることが期待できる。同様に、本実施形態に係る評価方法により併用効果があると評価された脈管新生阻害剤と細胞障害性を有する抗がん剤の組み合わせは、実際にがん患者に投与した場合でも、抗がん剤単独投与の場合よりも高い抗がん効果が得られることが期待できる。このため、本実施形態に係る評価方法は、創薬現場における抗がん剤候補化合物のスクリーニングやドラッグリポジショニングスクリーニング、臨床現場における抗がん剤治療法(単剤・併用)の選別・決定(抗がん剤感受性試験)等において、これまでにないin vitro薬剤評価ツールとして利用することができる。特に、がん患者から採取されたがん細胞を含む細胞構造体を用いて本実施形態に係る評価方法を行い、これにより抗がん効果があると評価された抗がん剤は、実際に当該がん患者に投与された場合に適切な抗がん効果を奏することが期待できる。
【0080】
本発明の第二実施形態に係る抗がん剤評価用キット(以下、「本実施形態に係るキット」ということがある)は、少なくとも間質を含む細胞を含む細胞構造体と、当該細胞構造体を収容する細胞培養容器とを有する。上記第一実施形態に係る評価方法に用いられる試薬等をキット化した抗がん剤評価用キットを用いることにより、上記第一実施形態に係る評価方法をより簡便に実施することができる。例えば、本実施形態に係るキットに含まれる細胞構造体は、がん細胞を含まない、脈管網構造を備える細胞構造体であってもよい。当該キットに含ませる細胞構造体の厚みは、5μm以上であるものが好ましい。
【0081】
本実施形態に係るキットに含ませる細胞構造体としては、がん細胞を含む細胞構造体であってもよいが、がん細胞を含まず、間質を構成する細胞を含む細胞構造体をキットに備え、実際に評価方法を行う直前に、当該細胞構造体の表面にがん細胞層を形成させてもよい。また、当該キットには、細胞構造体に代えて、細胞構造体を構成する細胞のうち、がん細胞以外の細胞を備えることもできる。
【0082】
本実施形態に係るキットに含ませる細胞構造体は、少なくも間質を含み、天面に半透膜を備えていてもよい。当該キットに含ませる細胞構造体としては、半透膜の上にがん細胞層が積層されたものであってもよいが、がん細胞を含まず、間質細胞を含む細胞層に半透膜が載せられている細胞構造体をキットに備え、実際に評価方法を行う直前に、当該細胞構造体の半透膜の上にがん細胞層を形成させてもよい。
【0083】
当該キットは、さらに、当該評価方法において用いられるその他の物質を備えることもできる。当該その他の物質としては、例えば、抗がん剤、細胞構造体の培養培地、がん細胞を標識するための標識物質、細胞の生死判定用試薬、細胞構造体を構築する際に使用する物質(例えば、カチオン性緩衝液、強電解質高分子、細胞外マトリックス成分等)、などが挙げられる。
また、抗がん剤として、細胞障害性を有する抗がん剤と血管新生阻害剤とを組み合わせることにより、細胞障害性を有する抗がん剤と脈管新生阻害剤との併用効果の評価をより簡便に実施することができる。
【実施例
【0084】
以下、実施例を示し、本発明に係る実施例を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0085】
[実施例1]脈管構造を有する細胞構造体の作製
繊維芽細胞と血管内皮細胞から形成され、血管網構造を備える細胞構造体を作製し、血管網構造を観察した。
血管網構造を含む細胞構造体としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Lonza社製、CC-2509、Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Lonza社製、CC-2517A、Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)の2種の2種類の細胞から形成された細胞構造体を用いた。また、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)を用い、培養培地としては、10容量%ウシ血清(System Biosciences社製、EXO-FBS-50A-1)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)を用いた。評価対象となる血管新生阻害剤はベバシズマブ(R&D Systems社製、製品番号:MAB293)を用いた。
【0086】
<細胞構造体の構築>
まず、2×10個のNHDFとNHDF細胞数の0.05、0.1、0.25、0.5.1.0、1.5、5.0%のHUVECを、ヘパリンとコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(NHDF数に対するHUVEC 数の割合:5%)(工程(a))。この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-1)(a’-2))。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて96時間培養した(工程(c))。
【0087】
<血管を構成する細胞の蛍光標識及び評価>
培養後の細胞構造体に対して、anti-CD31抗体(DAKO社製、製品番号:JC70A M082329)と二次抗体(Invitrogen社製、製品番号:A-11001)を用いた蛍光免疫染色を行い、当該構造体中の血管を緑色蛍光標識した。この蛍光標識された細胞構造体を直接観察して血管網形成有無を確認した。
【表1】
【0088】
表1よりNHDF数の0.05%のHUVECを含有する場合を除いた全ての条件で血管網構造の形成を確認できた。
【0089】
[実施例2]
繊維芽細胞と血管内皮細胞とがん細胞とから形成され、血管網構造を備える細胞構造体を用い、抗がん剤ドキソルビシンの抗がん効果を評価した。
がん細胞と血管網構造とを含む細胞構造体としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)(Lonza社製、製品番号:CC-2509)及び、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)(Lonza社製、製品番号:CC-2517A)の2種類の細胞から形成された多層構造体の天面に、ヒト結腸直腸腺がん細胞株であるHT29(ATCC番号:HTB-38TM)から形成されたがん細胞層を積層した細胞構造体を用いた。また、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)を用い、培養培地としては、10容量%ウシ血清(Corning社製、製品番号:#35-010-CV)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)を用いた。評価対象となる抗がん剤はドキソルビシン(和光純薬社製、製品番号:046-21523)を用いた。
【0090】
<細胞構造体の構築>
まず、NHDFのみ、又はNHDF及びHUVECを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(工程(a))。この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-1)(a’-2))。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理し、液体成分を除去した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0091】
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した2×10個のがん細胞を播種した後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理し、液体成分を除去した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて96時間培養した。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH67GL)しておいたものを用いた。
【0092】
<ドキソルビシン存在下での培養>
得られた細胞構造体を、ドキソルビシンの最終濃度が10μMである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、ドキソルビシンを添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0093】
また、比較のために、前記細胞構造体に代えて、がん細胞を一般的な培養容器に単層になるよう培養した構造(2D法)を構築し、この2D培養物も同様にして、ドキソルビシン存在下で培養した。なお、がん細胞と血管内皮細胞とを共存させても、得られた2D培養物には脈管網は形成されなかった。
【0094】
<細胞構造体の分散>
次に、当該トランズウェルセルカルチャーインサートにトリス緩衝溶液(50mM,pH7.4)を適量添加し、その後、液体成分を除去した。この一連の工程を繰り返し3回実施した。次いで、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに0.25%トリプシン‐EDTA溶液(Invitrogen社製、)を300μL添加し、COインキュベータ(37℃,5%CO)で15分間インキュベートした。その後、溶液全量を回収し、あらかじめ0.25%トリプシン‐EDTA溶液(Invitrogen社製、)が300μL添加された回収用1.5mLチューブに移した。次いで、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに0.25%トリプシン‐EDTA溶液(Invitrogen社製、)を100μL添加し、回収用1.5mLチューブと共にCOインキュベータ(37℃,5%CO)で5分間インキュベートした。その後、溶液全量を回収し、回収用1.5mLチューブに移し、更に0.25%トリプシン‐EDTA溶液(Invitrogen社製、)を300μL添加し、COインキュベータ(37℃,5%CO)で5分間インキュベートし、細胞構造体分散液を得た。
【0095】
<生細胞数解析及び評価>
得られた細胞構造体の分散液をトリパンブルー溶液に浸漬させてトリパンブルー染色した後、蛍光を発しておりかつトリパンブルー染色されていない細胞を、生きているがん細胞として計数した。細胞の計数は、セルカウンター「CountessII」(ライフテクノロジーズ社製)の蛍光モードを使用して行った。
また、2D培養物に対しても同様にトリパンブルー染色した後、生きているがん細胞として計数した。各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。
【0096】
各培養物について、下記式に基づいてCNT(残存生細胞率)(%)を算出し、これを評価値とした。
CNT(%)=[がん細胞の生細胞数]/[薬剤非存在下での培養におけるがん細胞の生細胞数]×100
【0097】
各培養物の算出したCNTの結果を、構成されている細胞の数と共に表2に示す。表中、「2D」の欄は2D培養物の結果を、「3D」の欄は構築した細胞構造体(本実施例に係る細胞構造体)の結果を、それぞれ示す。
【0098】
【表2】
【0099】
構築した細胞構造体のうち、NHDF及びHT29のみから形成されたもの(NHDF(20層)-HT29(1層))では、血管網構造は形成されなかったが、HUVECを含むものでは、血管網構造は形成されていた。これらの細胞構造体は、血管網の形成の有無にかかわらず、CNTは同程度であり、ドキソルビシン等の細胞障害性の抗がん剤の抗がん効果の評価において、血管網の形成の有無は影響しないことが判明した。
【0100】
一方で、2D培養物は、本実施例に係る細胞構造体よりも、CNTが顕著に小さく、ドキソルビシン感受性が高かった。特に、CNTは、がん細胞のみの2D培養物や、がん細胞及び線維芽細胞のみの2D培養物よりも、本実施例に係る細胞構造体のほうが約5倍以上であり、本実施例に係る細胞構造体は、2D培養物よりも約5倍以上薬剤が奏功しづらい環境を構築していることが示唆された。興味深いことに、2D培養物においては、線維芽細胞と共培養させた場合は、血管内皮細胞を共培養させた場合と比較して約2倍程度抗がん剤が効きやすいことが分かった。一般的に、2D培養法による抗がん剤評価が好まれない理由として、薬剤が効きすぎる点が最も大きいが、本実施例に係る細胞構造体を用いる本実施例に係る評価方法では、薬剤による過剰な影響が抑えられており、より信頼性の高い安定した評価が可能であることがわかった。
【0101】
[実施例3]
血管網構造が層状に形成されている細胞構造体と、同じく血管網構造が構造体全体に散在している細胞構造体とを用い、抗がん剤ドキソルビシンの抗がん効果を評価した。
細胞培養容器、培養培地、及びドキソルビシンは実施例2で使用した物と同じものを用いた。
【0102】
<血管網構造が構造体全体に散在している細胞構造体の構築>
2×10個のNHDF及び3×10個のHUVECを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液に懸濁させたこと以外は実施例2と同様にして、細胞構造体を構築した。得られた細胞構造体は、血管網構造が構造体全体に散在している層にがん細胞層が積層された細胞構造体(NHDF(20層分)及びHUVEC(1層分)の混合層(21層)-HT29(1層))が得られた。
【0103】
<血管網構造が層状に形成されている細胞構造体の構築>
まず、1×10個のNHDFを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(工程(a))。これらの細胞懸濁液を、それぞれ、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-1)(a’-2))。また、3×10個のHUVECを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(工程(a))。これらの細胞懸濁液を、それぞれ、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-1)(a’-2))。
【0104】
次いで、トランズウェルセルカルチャーインサートに、NHDF(1×10個)を播種し、室温、400×gで1分間遠心処理して液体成分を除去し、次にHUVEC(3×10個)を播種し、室温、400×gで1分間遠心処理液して液体成分を除去し、最後にNHDF(1×10個)を播種し(工程(b))、室温、400×gで1分間遠心処理して液体成分を除去した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0105】
その後、実施例2と同様にして、形成された構造体に2×10個のHT29細胞を積層して培養した。培養終了後、血管網構造が層状に形成された構造体にがん細胞層が積層された細胞構造体(NHDF(10層)-HUVEC(1層)-NHDF(10層)-HT29(1層))が得られた。
【0106】
<ドキソルビシン存在下での培養>
得られた細胞構造体を、ドキソルビシンの最終濃度が10μMである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、ドキソルビシンを添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0107】
<細胞構造体の分散、生細胞数解析及び評価>
実施例2と同様にして、細胞構造体を分散し、得られた分散液をトリパンブルー染色した後、生きているがん細胞を計数し、CNT(%)を算出した。各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。結果を表3に示す。
【0108】
【表3】
【0109】
いずれの細胞構造体を用いた場合でも、CNTは同程度であり、血管網構造が層状か構造体内に散在しているかは、ドキソルビシンに対する薬剤効果に対して特に影響していなかった。
【0110】
[実施例4]
繊維芽細胞(NHDF)と血管内皮細胞(HUVEC)とがん細胞(HT29)とから形成され、血管網構造を備える細胞構造体を用い、抗がん剤のうち、血管新生阻害剤ベバシズマブと細胞障害性を有する分子標的薬セツキシマブとの併用効果を評価した。
細胞培養容器及び培養培地は実施例2で使用した物と同じものを用いた。評価対象となる抗がん剤は、ベバシズマブ(R&D Systems社製、製品番号:MAB293)とセツキシマブ(メルクセローノ社製、型番なし)とを用いた。
【0111】
<細胞構造体の構築>
細胞構造体は、実施例3における「血管網構造が構造体全体に散在している細胞構造体」と同様にして構築した。
【0112】
<ベバシズマブ及び/又はセツキシマブ存在下での培養>
得られた細胞構造体を、トランズウェルセルカルチャーインサートの1ウェル当たりのベバシズマブ添加量が0又は2μgであり、セツキシマブの最終濃度が0又は1mg/mLである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、ベバシズマブ及びセツキシマブのいずれも添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0113】
また、比較のために、前記細胞構造体に代えて、がん細胞を一般的な培養容器に単層になるよう培養した構造体(2D法)と、2×10個のNHDFと3×10個のHUVECと2×10個のHT29との混合物をスフェロイド培養して得られたスフェロイド(スフェロイド法)とを構築し、これらについても同様にして、ベバシズマブ及びセツキシマブ存在下で培養した。
【0114】
<細胞構造体の分散、生細胞数解析及び評価>
実施例2と同様にして、細胞構造体を分散し、得られた分散液をトリパンブルー染色した後、生きているがん細胞を計数し、CNT(%)を算出した。各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。結果を表4に示す。
表中、「2D」の欄は2D培養物の結果を、「Spheroid」の欄はスフェロイドの結果を、「3D」の欄は構築した細胞構造体の結果を、それぞれ示す。
【0115】
【表4】
【0116】
この結果、2D培養物及びスフェロイドでは、ベバシズマブを単独投与したものではCNTがほぼ100%であり、抗がん効果はなかったが、セツキシマブを単独投与したものとセツキシマブ及びベバシズマブを併用投与したものとではCNTが60%程度と小さく、抗がん効果が観察された。一方で、本実施例に係る細胞構造体では、セツキシマブを単独投与したものではCNTが小さく、抗がん効果が観察されたが、ベバシズマブを単独投与したものとセツキシマブ及びベバシズマブを併用投与したものとではCNTがほぼ100%であり、抗がん効果はなかった。
【0117】
非特許文献6には、ベバシズマブ(アバスチン)及びセツキシマブ(アービタックス)とを化学療法と併用した場合と、ベバシズマブのみ併用した化学療法とを比較したランダム化臨床試験の結果、セツキシマブの追加によって患者の無再発生存期間と全生存期間中央値とが実際の臨床試験では短縮することが報告されている。しかしながら、非特許文献7では、PDX(Patient Derived Xenograft)動物モデルにおいて、ベバシズマブとセツキシマブとの併用効果は、単剤療法よりも効果があることが報告されている。つまり、この併用例は、動物モデルを用いた薬効評価ではヒトの臨床試験結果を予測できなかった例である。しかし、表3に示すように、本実施例に係る細胞構造体を用いた場合には、セツキシマブ単剤投与では奏功するが、ベバシズマブ併用ではまったく奏功しないという結果であり、非特許文献6に記載のヒト臨床試験の結果と同じであった。すなわち、三次元構造の間質組織を備える細胞構造体を用いる本発明に係る評価方法によって、動物モデルよりも、よりヒト臨床結果を予測できる可能性が示唆された。
【0118】
[実施例5]
繊維芽細胞(NHDF)と血管内皮細胞(HUVEC)とがん細胞(HT29又はHCT116)とから形成され、血管網構造を備える細胞構造体を用い、血管新生阻害剤ベバシズマブ及び抗がん剤5-FUの併用効果を評価した。
がん細胞及び血管網構造を含む細胞構造体としては、NHDF及びHUVECの2種類の細胞から形成された多層構造体の天面に、HT29又はHCT116(ATCC番号:CCL-247)から形成されたがん細胞層を積層した細胞構造体を用いた。細胞培養容器及び培養培地は、実施例2で使用した物と同じものを用いた。
評価対象となる血管新生阻害剤はベバシズマブ(R&D Systems社製、製品番号:MAB293)を用い、一般的な細胞障害性抗がん剤は5-FU(和光純薬社製、製品番号:064-01403)を用いた。
【0119】
<細胞構造体の構築>
まず、2×10個のNHDF及び3×10個のHUVECを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(NHDF数に対するHUVEC数の割合:1.5%)(工程(a))。この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-1)(a’-2))。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理し、液体成分を除去した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0120】
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した2×10個のがん細胞を播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理し、液体成分を除去した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて96時間培養した(工程(c))。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体(NHDF(20層分)とHUVEC(1層分)との混合層(21層)-がん細胞(1層))が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH67GL)しておいたものを用いた。
【0121】
<ベバシズマブ及び5-FU存在下での培養>
得られた細胞構造体を、トランズウェルセルカルチャーインサートの1ウェル当たりのベバシズマブ添加量が0又は2μgであり、5-FUの最終濃度が100μM又は1mMである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、ベバシズマブ及び5-FUのいずれも添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0122】
また、比較のために、前記細胞構造体に代えて、がん細胞を一般的な培養容器に単層になるよう培養した構造(2D法)と、2×10個のNHDFと3×10個のHUVECと2×10個のがん細胞との混合物をスフェロイド培養して得られたスフェロイド(スフェロイド法)とを構築し、これらについても同様にして、ベバシズマブ及び5-FU存在下で培養した。なお、2D法により得られた2D培養物では、血管網構造は確認されなかった。
【0123】
<細胞構造体の分散、生細胞数解析及び評価>
実施例2と同様にして、細胞構造体を分散し、得られた分散液をトリパンブルー染色した後、生きているがん細胞を計数し、CNT(%)を算出した。
また、2D培養物及びスフェロイドに対しても同様にトリパンブルー染色した後、生きているがん細胞として計数した。各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。
【0124】
【表5】
【0125】
【表6】
【0126】
がん細胞としてHT29細胞を用いた場合の算出したCNTの結果を表5に、HCT116細胞を用いた場合の算出したCNTの結果を表6に、それぞれ示す。表中、「2D」の欄は2D培養物の結果を、「Spheroid」の欄はスフェロイドの結果を、「3D」の欄は構築した細胞構造体の結果を、それぞれ示す。
【0127】
2種のがん細胞共に、2D培養物及びスフェロイドでは、5-FU単剤条件(5-FU単剤存在下での培養条件)とベバシズマブ併用条件(5-FU及びベバシズマブの両存在下での培養条件)とで、CNTはほぼ同程度の値であり、薬剤感受性(抗がん効果)に有意差は認められなかった。これに対して、本実施例に係る細胞構造体を用いた場合(本実施例に係る評価方法)では、いずれのがん細胞においても、5-FUの濃度にかかわらず、5-FU単剤条件よりもベバシズマブ併用条件のほうがCNTは顕著に小さく、ベバシズマブ併用により薬剤感受性が有意に高くなり、併用効果が確認された。
【0128】
[実施例6]
繊維芽細胞と血管内皮細胞とがん細胞とから形成され、血管網構造を備える細胞構造体を用い、血管新生阻害剤ベバシズマブ及び抗がん剤オキサリプラチンの併用効果を評価した。
がん細胞及び血管網構造を含む細胞構造体としては、実施例5で構築した細胞構造体を用い、細胞培養容器、培養培地、及びベバシズマブも実施例5で使用した物と同じものを用いた。
【0129】
<ベバシズマブ及びオキサリプラチン存在下での培養>
得られた細胞構造体を、トランズウェルセルカルチャーインサートの1ウェル当たりのベバシズマブ添加量が0又は2μgであり、オキサリプラチン(ファイザー社製)の最終濃度が10又は100μg/mLである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、ベバシズマブ及びオキサリプラチンのいずれも添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0130】
<細胞構造体の分散、生細胞数解析及び評価>
実施例2と同様にして、細胞構造体を分散し、得られた分散液をトリパンブルー染色した後、生きているがん細胞を計数し、CNT(%)を算出した。
また、比較のために、実施例5と同様にして、2D培養物及びスフェロイドについても同様にして、ベバシズマブ及びオキサリプラチン存在下で培養し、CNT(%)を算出した。
【0131】
【表7】
【0132】
【表8】
【0133】
がん細胞としてHT29細胞を用いた場合の算出したCNTの結果を表7に、HCT116細胞を用いた場合の算出したCNTの結果を表8に、それぞれ示す。
【0134】
2種のがん細胞共に、2D培養物及びスフェロイドでは、オキサリプラチン単剤条件(オキサリプラチン単剤存在下での培養条件)とベバシズマブ併用条件(オキサリプラチン及びベバシズマブの両存在下での培養条件)とで、CNTはほぼ同程度の値であり、薬剤感受性に有意差は認められなかった。これに対して、本実施例に係る細胞構造体を用いた場合では、いずれのがん細胞においても、オキサリプラチンの濃度にかかわらず、オキサリプラチン単剤条件よりもベバシズマブ併用条件のほうがCNTは顕著に小さく、ベバシズマブ併用により薬剤感受性が有意に高くなり、併用効果が確認された。
【0135】
[実施例7]
血管網構造の形成条件を振って構築した細胞構造体を用い、血管新生阻害剤ベバシズマブと抗がん剤オキサリプラチンとの併用効果を評価した。
細胞培養容器、培養培地、及びベバシズマブは実施例5で使用した物と同じものを、オキサリプラチンは実施例6で使用した物と同じものを、それぞれ用いた。また、がん細胞としては、HT29細胞を用いた。
【0136】
<細胞構造体の構築>
NHDF数に対するHUVEC数の割合(HUVEC含有率)を、0.05、0.25、0.5、又は1.5%とふった以外は実施例5と同様にして、細胞構造体を構築した。
この結果、HUVEC含有率を0.25、0.5、又は1.5%として構築した細胞構造体では血管網構造が形成されていたのに対して、HUVEC含有率を0.05%として構築した細胞構造体では血管網構造が形成されていなかった。
【0137】
<ベバシズマブ及びオキサリプラチン存在下での培養>
得られた細胞構造体を、トランズウェルセルカルチャーインサートの1ウェル当たりのベバシズマブ添加量が0又は2μgであり、オキサリプラチンの最終濃度が100μg/mLである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、ベバシズマブ及びオキサリプラチンのいずれも添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0138】
<細胞構造体の分散、生細胞数解析及び評価>
実施例2と同様にして、細胞構造体を分散し、得られた分散液をトリパンブルー染色した後、生きているがん細胞を計数し、CNT(%)を算出した。各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。
【0139】
【表9】
【0140】
算出したCNTの結果を、使用した細胞構造体の血管網形成の有無と共に表9に示す。
表中、「単剤」はオキサリプラチン単剤存在下で培養した場合の結果を、「併用」はオキサリプラチン及びベバシズマブの両存在下で培養した場合の結果を、それぞれ示す。また、「血管網形成有無」の欄中、「×」は血管網構造が形成されなかったことを、「○」は血管網構造が形成されたことを、それぞれ示す。
【0141】
この結果、血管網形成がみられなかったHUVEC含有率が0.05%であった細胞構造体を除き、血管網形成がみられた全ての細胞構造体において、オキサリプラチン単剤条件よりもベバシズマブ併用条件のほうがCNTは顕著に小さく、ベバシズマブ併用により薬剤感受性が有意に高くなり、併用効果が確認された。また、この併用効果は、HUVEC含有率が高い細胞構造体ほど高く、細胞構造体中における内皮細胞数に比例して、脈管新生阻害剤と抗がん剤との併用効果が上昇することが確認された。
【0142】
[実施例8]
血管網構造の形成条件を振って構築した細胞構造体を用い、血管新生阻害剤ベバシズマブと抗がん剤オキサリプラチンの併用効果を評価した。
細胞培養容器、培養培地、及びベバシズマブは実施例5で使用した物と同じものを、オキサリプラチンは実施例6で使用した物と同じものを、それぞれ用いた。また、がん細胞としては、HT29細胞を用いた。
【0143】
<細胞構造体の構築>
NHDF及びHUVECから形成された構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、HT29細胞を播種し、遠心処理し、液体成分を除去した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて培養する培養時間を24、48、72、又は96時間とふったこと以外は実施例5と同様にして、細胞構造体を構築した。この結果、全ての培養時間において、血管網構造を備える細胞構造体が構築された。
【0144】
<ベバシズマブ及びオキサリプラチン存在下での培養>
得られた細胞構造体を、トランズウェルセルカルチャーインサートの1ウェル当たりのベバシズマブ添加量が0又は2μgであり、オキサリプラチンの最終濃度が100μg/mLである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、ベバシズマブ及びオキサリプラチンのいずれも添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0145】
<細胞構造体の分散、生細胞数解析及び評価>
実施例2と同様にして、細胞構造体を分散し、得られた分散液をトリパンブルー染色した後、生きているがん細胞を計数し、CNT(%)を算出した。各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。
【0146】
【表10】
【0147】
算出したCNTの結果を、使用した細胞構造体の血管網形成の有無と共に表10に示す。
表中、「単剤」及び「併用」、並びに「血管網形成有無」の欄の「×」及び「○」は、表9と同様である。
【0148】
この結果、全ての細胞構造体において、オキサリプラチン単剤条件よりもベバシズマブ併用条件のほうがCNTは顕著に小さく、ベバシズマブ併用により薬剤感受性が有意に高くなり、併用効果が確認された。また、この併用効果は、細胞構造体構築時のがん細胞層積層後の培養時間が72時間までは、当該培養時間が長くなるほど併用効果が高くなることが確認できた。
【0149】
[実施例9]
がん細胞を含む細胞層と、繊維芽細胞と血管内皮細胞から形成され、血管網構造を備える細胞層とを含む細胞構造体を用い、抗がん剤ドキソルビシンの抗がん効果を評価した。
がん細胞を含む細胞層と血管網構造を含む細胞層とを備える細胞構造体としては、NHDF及びHUVECの2種類の細胞が多層を構成する細胞層と、HT29から形成されたがん細胞層とを備える細胞構造体を用いた。また、細胞培養容器、培養培地、評価対象となる抗がん剤ドキソルビシンは、実施例2で使用した物と同じものを用いた。
【0150】
<細胞懸濁液の調製>
まず、2×10個のNHDF及び3×10個のHUVECを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(工程(a))。この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁し、間質細胞懸濁液を調製した(工程(a’-1)(a’-2))。
【0151】
一方で、2×10個のHT29を、適量の培養培地で懸濁し、がん細胞懸濁液を調製した(工程(a))。HT29は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH67GL)しておいたものを用いた。
【0152】
<細胞構造体1の構築>
間質細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理し、液体成分を除去した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
次いで、間質細胞を含む構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、がん細胞懸濁液を播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理し、液体成分を除去した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて96時間培養した(工程(c))。培養終了後、血管網構造を備えた間質細胞層にがん細胞層が積層された細胞構造体1(NHDF(20層分)及びHUVEC(1層分)の混合層(21層)-HT29(1層))が得られた。
【0153】
<細胞構造体2の構築>
間質細胞を含む構造体の上に、ポアサイズ0.4μmの半透膜を載せた後、この半透膜の上にがん細胞懸濁液を播種してがん細胞層を形成させたこと以外は、細胞構造体1と同様にして、細胞構造体2を得た。つまり、血管網構造を備えた間質細胞層の上にポアサイズ0.4μmの半透膜を介してがん細胞層が積層された細胞構造体2(NHDF(20層分)及びHUVEC(1層分)の混合層(21層)-半透膜-HT29(1層))が得られた。細胞構造体2では、がん細胞層を構成する細胞と間質細胞層を構成する細胞とは、完全に分離していた。
【0154】
<細胞構造体3の構築>
トランズウェルセルカルチャーインサート内に、まず、がん細胞懸濁液を播種してがん細胞層を形成させ、このがん細胞層の上にポアサイズ0.4μmの半透膜を載せた後、この半透膜の上に間質細胞懸濁液を播種して間質細胞層を形成させたこと以外は、細胞構造体1と同様にして、細胞構造体3を得た。つまり、がん細胞層の上にポアサイズ0.4μmの半透膜を介して血管網構造を備えた間質細胞層が積層された細胞構造体3(HT29(1層)-半透膜-NHDF(20層分)及びHUVEC(1層分)の混合層(21層))が得られた。細胞構造体3では、がん細胞層を構成する細胞と間質細胞層を構成する細胞とは、完全に分離していた。
【0155】
<細胞構造体4の構築>
ポアサイズ8μmの半透膜を用いたこと以外は、細胞構造体2と同様にして、細胞構造体4を得た。つまり、血管網構造を備えた間質細胞層の上にポアサイズ8μmの半透膜を介してがん細胞層が積層された細胞構造体4(NHDF(20層分)とHUVEC(1層分)の混合層(21層)-半透膜-HT29(1層))が得られた。細胞構造体4では、がん細胞層を構成する細胞と間質細胞層を構成する細胞とは、半透膜中の貫通部分において互いに伸展して接触していた。
【0156】
<細胞構造体5の構築>
ポアサイズ8μmの半透膜を用いたこと以外は、細胞構造体3と同様にして、細胞構造体5を得た。つまり、がん細胞層の上にポアサイズ8μmの半透膜を介して血管網構造を備えた間質細胞層が積層された細胞構造体5(HT29(1層)-半透膜-NHDF(20層分)とHUVEC(1層分)の混合層(21層))が得られた。細胞構造体5では、がん細胞層を構成する細胞と間質細胞層を構成する細胞は、半透膜中の貫通部分において互いに伸展して接触していた。
【0157】
<ドキソルビシン存在下での培養>
得られた細胞構造体を、ドキソルビシンの最終濃度が10μMである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、ドキソルビシンを添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0158】
<細胞構造体の分散、生細胞数解析及び評価>
実施例2と同様に細胞構造体を分散し、得られた分散液をトリパンブルー溶液に浸漬させてトリパンブルー染色した後、蛍光を発しておりかつトリパンブルー染色されていない細胞を、生きているがん細胞として計数した。細胞の計数は、セルカウンター「CountessII」(ライフテクノロジーズ社製)の蛍光モードを使用して行った。
【0159】
各細胞構造体について、下記式に基づいてCNT(残存生細胞率)(%)を算出し、これを評価値とした。
CNT(%)=[がん細胞の生細胞数]/[薬剤非存在下での培養におけるがん細胞の生細胞数]×100
【0160】
各細胞構造体の算出したCNTの結果を、構成されている細胞の数と共に表11に示す。
各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。
【0161】
【表11】
【0162】
いずれの細胞構造体を用いた場合でも、CNTは30~33%程度であり、ドキソルビシン感受性が高かった。これらの結果から、間質細胞層とがん細胞層とを半透膜で分離した場合でも、分離していない場合と同様に、ドキソルビシンの抗がん効果を評価できることがわかった。また、使用する半透膜のポアサイズも評価に影響せず、がん細胞又はがん組織の表面が間質組織表面の細胞に接していなくても、薬剤評価を行えることが確認された。
【0163】
[実施例10]肺由来の間質細胞で構成された細胞構造体を用いた場合
繊維芽細胞と血管内皮細胞とがん細胞とから形成され、血管網構造を備える細胞構造体を用い、血管新生阻害剤ベバシズマブと抗がん剤5-FUの併用効果を評価した。
がん細胞と血管網構造とを含む細胞構造体としては、ヒト肺線維芽細胞(Normal Human Lung Fibroblasts:NHLF)(Lonza社製、製品番号:CC-2512)、ヒト肺微小血管内皮細胞(Human Dermal Microvascular Endothelial Cell:HMVEC-L)(Lonza社製、製品番号:CC-2527)の2種類の細胞から形成された多層構造体の天面に、ヒト肺腺がん細胞株であるA549(ATCC番号:CCL-185)から形成されたがん細胞層を積層した細胞構造体を用いた。また、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)を用い、培養培地としては、10容量%ウシ血清(Corning社製、製品番号:#35-010-CV)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)を用いた。評価対象となる血管新生阻害剤はベバシズマブ(R&D Systems社製、製品番号:MAB293)を用い、一般的な細胞障害性抗がん剤は5-FU(和光純薬社製、製品番号:064-01403)を用いた。
【0164】
<細胞構造体の構築>
まず、2×10個のNHLF及び1×10個のHMVEC―Lを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(NHLF数に対するHMVEC―L数の割合:5%)(工程(a))。この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-1)(a’-2))。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0165】
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した2×10個のがん細胞を播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体(NHLF(20層分)とHMVEC―L(1層分)の混合層(21層)-がん細胞(1層))が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH26GL)しておいたものを用いた。
【0166】
<ベバシズマブ及び5-FU存在下での培養>
得られた細胞構造体を、トランズウェルセルカルチャーインサートの1ウェル当たりのベバシズマブ添加量が0又は2μgであり、5-FUの最終濃度が100μMである培養培地中で、37℃、5%CO2にて72時間培養した。対照として、ベバシズマブと5-FUのいずれも添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0167】
<固定及びがん細胞の染色>
実施例2と同様に、培養後の細胞構造体を分散し、分散した懸濁液を室温、1120×gで5分間、遠心処理した。その後、Fixation/Permilization solution(BD bioscience社製、554722)400 μLを加えて4℃で30分間固定し、液体成分を除去した。その後、キット付属のPerm/Wash buffer400μLを添加し、室温、1120×gで5分間遠心処理した。その後、5%FBS含有PBSで希釈した一次抗体Monoclonal Mouse Anti-human Cytokeratin7 (DAKO社製、M7018)を添加して4℃で30分間反応させた。その後、液体成分を除去し、キット付属のPerm/Wash bufferで2回洗浄し、5%FBS含有PBSで希釈した二次抗体 Goat anti-Mouse IgG1 Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 546 (ThermoFischer Scientific社製、A-11030)を添加して4℃で30分間反応させた。その後、液体成分を除去し、キット付属のPerm/Wash bufferで2回洗浄し、5%FBS含有PBS350μLで再懸濁した。
【0168】
<生細胞数計測及び評価>
固定及び染色後の懸濁液中で蛍光を発している細胞を、生きていたがん細胞として計数した。細胞の計数は、フローサイトメーター(ソニー社製)を使用して行った。
各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。
【0169】
各培養物について、下記式に基づいてCNT(残存性細胞率)(%)を算出し、これを評価値とした。
CNT(%)=[がん細胞の正細胞数]/[薬剤非存在下での培養におけるがん細胞の正細胞数]×100
【0170】
【表12】
【0171】
算出したCNTの結果を、表12に示す。この結果、2D培養物では、5-FU単剤条件とベバシズマブ併用条件でCNTはほぼ同等であり、ベバシズマブ併用により薬剤感受性に顕著な変化はなく、併用効果は確認されなかった。
【0172】
それに対して、肺由来の線維芽細胞、血管内皮細胞を用いて本実施例に係る細胞構造体を用いた場合では、5-FU単剤条件よりもベバシズマブ併用条件のほうがCNTは顕著に小さく、ベバシズマブ併用により薬剤感受性が有意に高くなり、併用効果が確認された。
【0173】
[実施例11]市販肺がん細胞株を用いた場合の併用効果
繊維芽細胞と血管内皮細胞とがん細胞とから形成され、血管網構造を備える細胞構造体を用い、血管新生阻害剤ベバシズマブと抗がん剤5-FUの併用効果を評価した。
がん細胞及び血管網構造を含む細胞構造体としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)(Lonza社製、製品番号:CC-2509)、及びヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)(Lonza社製、製品番号:CC-2517A)の2種類の細胞から形成された多層構造体の天面に、ヒト肺腺がん細胞株であるA549(ATCC番号:CCL-185)から形成されたがん細胞層を積層した細胞構造体を用いた。また、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)を用い、培養培地としては、10容量%ウシ血清(Corning社製、製品番号:#35-010-CV)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)を用いた。評価対象となる血管新生阻害剤はベバシズマブ(R&D Systems社製、製品番号:MAB293)を用い、一般的な細胞障害性抗がん剤は5-FU(和光純薬社製、製品番号:064-01403)を用いた。
【0174】
<細胞構造体の構築>
まず、2×10個のNHDF及び3×10個のHUVECを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(NHDF数に対するHUVEC数の割合:1.5%)(工程(a))。この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-1)(a’-2))。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した)。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0175】
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した2×10個のがん細胞を播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体(NHDF(20層分)とHUVEC(1層分)の混合層(21層)-がん細胞(1層))が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH26GL)しておいたものを用いた。
【0176】
<ベバシズマブ及び5-FU存在下での培養>
得られた細胞構造体を、トランズウェルセルカルチャーインサートの1ウェル当たりのベバシズマブ添加量が0又は2μgであり、5-FUの最終濃度が100μM又は1mMである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、ベバシズマブと5-FUのいずれも添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0177】
<固定及びがん細胞の染色>
実施例2と同様に、培養後の細胞構造体を分散し、分散した懸濁液を室温、1120×gで5分間、遠心処理した。その後、Fixation/Permilization solution(BD bioscience社製、554722)400 μLを加えて4℃で30分間固定し、液体成分を除去した。その後、キット付属のPerm/Wash buffer400μLを添加し、室温、1120×gで5分間遠心処理した。その後、5%FBS含有PBSで希釈した一次抗体Monoclonal Mouse Anti-human Cytokeratin7 (DAKO社製、M7018)を添加して4℃で30分間反応させた。その後、液体成分を除去し、キット付属のPerm/Wash bufferで2回洗浄し、5 %FBS含有PBSで希釈した二次抗体 Goat anti-Mouse IgG1 Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 546 (ThermoFischer Scientific社製、A-11030)を添加して4℃で30分間反応させた。その後、液体成分を除去し、キット付属のPerm/Wash bufferで2回洗浄し、5%FBS含有PBS350μLで再懸濁した。
【0178】
<生細胞数計測及び評価>
固定及び染色後の懸濁液中で蛍光を発している細胞を、生きていたがん細胞として計数した。細胞の計数は、フローサイトメーター(ソニー社製)を使用して行った。
各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。
【0179】
各培養物について、下記式に基づいてCNT(残存性細胞率)(%)を算出し、これを評価値とした。
CNT(%)=[がん細胞の正細胞数]/[薬剤非存在下での培養におけるがん細胞の正細胞数]×100
【0180】
【表13】
【0181】
算出したCNTの結果を、表13に示す。この結果、A549細胞においても、5-FUの濃度にかかわらず、5-FU単剤条件よりもベバシズマブ併用条件のほうがCNTは小さく、ベバシズマブ併用により薬剤感受性が高くなり、併用効果が確認された。5-FUの濃度が、1mMの場合がより顕著にCNTが小さく、ベバシズマブ併用により薬剤感受性が高くなった。
【0182】
[実施例12]市販肺がん細胞株を用いた場合
繊維芽細胞と血管内皮細胞とがん細胞とから形成され、血管網構造を備える細胞構造体を用い、抗がん剤オキサリプラチンの効果を評価した。
がん細胞と血管網構造とを含む細胞構造体としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)(Lonza社製、製品番号:CC-2509)、及びヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)(Lonza社製、製品番号:CC-2517A)の2種類の細胞から形成された多層構造体の天面に、市販肺がん細胞株NCI-H820(ATCC番号:HTB-181)から形成されたがん細胞層を積層した細胞構造体を用いた。また、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)を用い、培養培地としては、10容量%ウシ血清(Corning社製、製品番号:#35-010-CV)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)を用いた。評価対象となる一般的な細胞障害性抗がん剤はオキサリプラチン(ファイザー社製)を用いた。
【0183】
<細胞構造体の構築>
まず、2×10個のNHDF及び3×10個のHUVECを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.05mg/mL ヘパリン、0.05mg/mL コラーゲン、25mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(NHDF数に対するHUVEC数の割合:1.5%)(工程(a))。この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-1)(a’-2))。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0184】
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した2×10個のがん細胞を播種した後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した(工程(b’-1)及び(b’-2))。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体(NHDF(20層分)とHUVEC(1層分)の混合層(21層)-がん細胞(1層))が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH26GL)しておいたものを用いた。
【0185】
<オキサリプラチン存在下での培養>
得られた細胞構造体を、トランズウェルセルカルチャーインサートの1ウェル当たりのオキサリプラチンの最終濃度が1μg/mL又は10μg/mLである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、オキサリプラチンを添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0186】
<細胞構造体の分散、生細胞数解析及び評価>
実施例2と同様に細胞構造体を分散し、得られた分散液をトリパンブルー溶液に浸漬させてトリパンブルー染色した後、蛍光を発しておりかつトリパンブルー染色されていない細胞を、生きているがん細胞として計数した。細胞の計数は、セルカウンター「CountessII」(ライフテクノロジーズ社製)の蛍光モードを使用して行った。
各培養条件について、1回ずつ測定した。
【0187】
各培養物について、下記式に基づいてCNT(残存性細胞率)(%)を算出し、これを評価値とした。
CNT(%)=[がん細胞の正細胞数]/[薬剤非存在下での培養におけるがん細胞の正細胞数]×100
【0188】
各培養物の算出したCNTの結果を表14に示す。表中、「2D」の欄は2D培養物の結果を、「3D」の欄は構築した細胞構造体(本実施例に係る細胞構造体)の結果を、それぞれ示す。
【0189】
【表14】
【0190】
この結果、2D培養物と比べ、本実施例に係る細胞構造体を用いた場合では、オキサリプラチン濃度によらず、薬剤感受性が低い、即ち、薬剤耐性が高いことが確認された。
【0191】
[実施例13]市販胃がん細胞株を用いた場合
繊維芽細胞と血管内皮細胞とがん細胞とから形成され、血管網構造を備える細胞構造体を用い、抗がん剤オキサリプラチンの効果を評価した。
がん細胞と血管網構造とを含む細胞構造体としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)(Lonza社製、製品番号:CC-2509)、及びヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)(Lonza社製、製品番号:CC-2517A)の2種類の細胞から形成された多層構造体の天面に、市販胃がん細胞株NCI-N87(ATCC番号:CRL-5822)から形成されたがん細胞層を積層した細胞構造体を用いた。また、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)を用い、培養培地としては、10容量%ウシ血清(Corning社製、製品番号:#35-010-CV)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)を用いた。評価対象となる一般的な細胞障害性抗がん剤はオキサリプラチン(ファイザー社製)を用いた。
【0192】
<細胞構造体の構築>
まず、2×10個のNHDF及び3×10個のHUVECを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.05mg/mL ヘパリン、0.05mg/mL コラーゲン、25mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(NHDF数に対するHUVEC数の割合:1.5%)(工程(a))。この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-1)(a’-2))。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0193】
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した2×10個のがん細胞を播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体(NHDF(20層分)とHUVEC(1層分)の混合層(21層)-がん細胞(1層))が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH26GL)しておいたものを用いた。
【0194】
<オキサリプラチン存在下での培養>
得られた細胞構造体を、トランズウェルセルカルチャーインサートの1ウェル当たりのオキサリプラチンの最終濃度が10μg/mL又は100μg/mLである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、オキサリプラチンを添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0195】
<細胞構造体の分散、生細胞数解析及び評価>
実施例2と同様に細胞構造体を分散し、得られた分散液をトリパンブルー溶液に浸漬させてトリパンブルー染色した後、蛍光を発しておりかつトリパンブルー染色されていない細胞を、生きているがん細胞として計数した。細胞の計数は、セルカウンター「CountessII」(ライフテクノロジーズ社製)の蛍光モードを使用して行った。
各培養条件について、1回ずつ測定した。
【0196】
各培養物について、下記式に基づいてCNT(残存性細胞率)(%)を算出し、これを評価値とした。
CNT(%)=[がん細胞の正細胞数]/[薬剤非存在下での培養におけるがん細胞の正細胞数]×100
【0197】
各培養物の算出したCNTの結果を表15に示す。表中、「2D」の欄は2D培養物の結果を、「3D」の欄は構築した細胞構造体(本実施例に係る細胞構造体)の結果を、それぞれ示す。
【0198】
【表15】
【0199】
この結果、2D培養物と比べ、本実施例に係る細胞構造体を用いた場合では、オキサリプラチン濃度によらず、薬剤感受性が低い、即ち、薬剤耐性が高いことが確認された。
【0200】
[実施例14]市販乳がん細胞株を用いた場合
繊維芽細胞と血管内皮細胞とがん細胞とから形成され、血管網構造を備える細胞構造体を用い、抗がん剤ドキソルビシンの効果を評価した。
がん細胞と血管網構造とを含む細胞構造体としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)(Lonza社製、製品番号:CC-2509)、及びヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)(Lonza社製、製品番号:CC-2517A)の2種類の細胞から形成された多層構造体の天面に、市販乳がん細胞株MCF-7(ATCC番号:HTB-22)から形成されたがん細胞層を積層した細胞構造体を用いた。また、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)を用い、培養培地としては、10容量%ウシ血清(Corning社製、製品番号:#35-010-CV)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)を用いた。評価対象となる一般的な細胞障害性抗がん剤はドキソルビシン(和光純薬社製、製品番号:046-21523)を用いた。
【0201】
<細胞構造体の構築>
まず、2×10個のNHDF及び3×10個のHUVECを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(NHDF数に対するHUVEC数の割合:1.5%)(工程(a))。この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-1)(a’-2))。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0202】
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した2×10個のがん細胞を播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体(NHDF(20層分)とHUVEC(1層分)の混合層(21層)-がん細胞(1層))が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH26GL)しておいたものを用いた。
【0203】
<ドキソルビシン存在下での培養>
得られた細胞構造体を、トランズウェルセルカルチャーインサートの1ウェル当たりのオキサリプラチンの最終濃度が1μM又は10μMである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、ドキソルビシンを添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0204】
<細胞構造体の分散、生細胞数解析及び評価>
実施例2と同様に細胞構造体を分散し、得られた分散液をトリパンブルー溶液に浸漬させてトリパンブルー染色した後、蛍光を発しておりかつトリパンブルー染色されていない細胞を、生きているがん細胞として計数した。細胞の計数は、セルカウンター「CountessII」(ライフテクノロジーズ社製)の蛍光モードを使用して行った。
各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。
【0205】
各培養物について、下記式に基づいてCNT(残存性細胞率)(%)を算出し、これを評価値とした。
CNT(%)=[がん細胞の正細胞数]/[薬剤非存在下での培養におけるがん細胞の正細胞数]×100
【0206】
各培養物の算出したCNTの結果を表16に示す。表中、「2D」の欄は2D培養物の結果を、「3D」の欄は構築した細胞構造体(本実施例に係る細胞構造体)の結果を、それぞれ示す。
【0207】
【表16】
【0208】
この結果、2D培養物と比べ、本実施例に係る細胞構造体を用いた場合では、ドキソルビシン濃度によらず、薬剤感受性が低い、即ち、薬剤耐性が高いことが確認された。
【0209】
[実施例15]臨床乳がん細胞を用いた場合
繊維芽細胞と血管内皮細胞とがん細胞とから形成され、血管網構造を備える細胞構造体を用い、血管新生阻害剤ベバシズマブと抗がん剤5-FUの併用効果を評価した。
がん細胞と血管網構造とを含む細胞構造体としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)(Lonza社製、製品番号:CC-2509)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)(Lonza社製、製品番号:CC-2517A)の2種類の細胞から形成された多層構造体の天面に、患者由来乳がん細胞CLTH/BC(celther社製、型番:CL04002-CLTH)から形成されたがん細胞層を積層した細胞構造体を用いた。また、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)を用い、培養培地としては、10容量%ウシ血清(Corning社製、製品番号:#35-010-CV)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)を用いた。評価対象となる血管新生阻害剤はベバシズマブ(R&D Systems社製、製品番号:MAB293)を用い、一般的な細胞障害性抗がん剤はオキサリプラチン(ファイザー社製)を用いた。
【0210】
<細胞構造体の構築>
まず、2×10個のNHDF及び3×10個のHUVECを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(NHDF数に対するHUVEC数の割合:1.5%)(工程(a))。この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-1)(a’-2))。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0211】
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した1×10個のがん細胞を播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて5時間培養した(工程(c))。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体(NHDF(20層分)とHUVEC(1層分)の混合層(21層)-がん細胞(1層))が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH26GL)しておいたものを用いた。
【0212】
<ベバシズマブ及びオキサリプラチン存在下での培養>
得られた細胞構造体を、トランズウェルセルカルチャーインサートの1ウェル当たりのベバシズマブ添加量が0又は2μgであり、オキサリプラチンの最終濃度が10μg/mLである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、ベバシズマブとオキサリプラチンのいずれも添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0213】
<細胞構造体の分散、生細胞数解析及び評価>
実施例2と同様に細胞構造体を分散し、得られた分散液をトリパンブルー溶液に浸漬させてトリパンブルー染色した後、蛍光を発しておりかつトリパンブルー染色されていない細胞を、生きているがん細胞として計数した。細胞の計数は、セルカウンター「CountessII」(ライフテクノロジーズ社製)の蛍光モードを使用して行った。
各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。
【0214】
各培養物について、下記式に基づいてCNT(残存性細胞率)(%)を算出し、これを評価値とした。
CNT(%)=[がん細胞の正細胞数]/[薬剤非存在下での培養におけるがん細胞の正細胞数]×100
【0215】
【表17】
【0216】
算出したCNTの結果を、表17に示す。この結果、オキサリプラチン単剤条件よりもベバシズマブ併用条件のほうがCNTは顕著に小さく、ベバシズマブ併用により薬剤感受性が有意に高くなり、併用効果が確認された。
【0217】
[実施例16]KRAS遺伝子変異市販がん細胞株を用いた場合
繊維芽細胞と血管内皮細胞とがん細胞とから形成され、血管網構造を備える細胞構造体を用い、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬セツキシマブを評価した。
がん細胞と血管網構造とを含む細胞構造体としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)(Lonza社製、製品番号:CC-2509)、及びヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)(Lonza社製、製品番号:CC-2517A)の2種類の細胞から形成された多層構造体の天面に、KRASコドン13遺伝子変異型細胞株HCT116(ATCC番号:CCL-247)、KRASコドン12遺伝子変異型細胞株A549(ATCC番号:CCL-185)から形成されたがん細胞層を積層した細胞構造体を用いた。また、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)を用い、培養培地としては、10容量%ウシ血清(Corning社製、製品番号:#35-010-CV)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)を用いた。評価対象となるセツキシマブ(メルクセローノ社製、型番なし)を用いた。
【0218】
<細胞構造体の構築>
まず、2×10個のNHDF及び3×10個のHUVECを、ヘパリン及びコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(NHDF数に対するHUVEC数の割合:1.5%)(工程(a))。この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-1)(a’-2))。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0219】
構造体が形成されたトランズウェルセルカルチャーインサート内に、適量の培養培地に懸濁した2×10個のがん細胞を播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。培養終了後、血管網構造を備えた層にがん細胞層が積層された細胞構造体(NHDF(20層分)とHUVEC(1層分)の混合層(21層)-がん細胞(1層))が得られた。がん細胞は、予め、蛍光標識(SIGMA社製、製品番号:PKH26GL)しておいたものを用いた。
【0220】
<セツキシマブ存在下での培養>
得られた細胞構造体を、トランズウェルセルカルチャーインサートの1ウェル当たりのセツキシマブの最終濃度が100μg/mLである培養培地中で、37℃、5%COにて72時間培養した。対照として、セツキシマブを添加しなかったこと以外は同様にして培養した(薬剤非存在下での培養)。
【0221】
また、比較のために、前記細胞構造体に代えて、がん細胞を一般的な培養容器に単層になるよう培養した構造(2D法)についても同様にして、セツキシマブ存在下で培養した。なお、2D法により得られた2D培養物では、血管網構造は確認されなかった。
【0222】
<細胞構造体の分散、生細胞数解析及び評価>
実施例2と同様に細胞構造体を分散し、得られた分散液をトリパンブルー溶液に浸漬させてトリパンブルー染色した後、蛍光を発しておりかつトリパンブルー染色されていない細胞を、生きているがん細胞として計数した。細胞の計数は、セルカウンター「CountessII」(ライフテクノロジーズ社製)の蛍光モードを使用して行った。
各培養条件について、繰り返し3回ずつ測定した。
【0223】
各培養物について、下記式に基づいてCNT(残存性細胞率)(%)を算出し、これを評価値とした。
CNT(%)=[がん細胞の正細胞数]/[薬剤非存在下での培養におけるがん細胞の正細胞数]×100
【0224】
各培養物の算出したCNTの結果を表に示す。表中、「2D」の欄は2D培養物の結果を、「3D」の欄は構築した細胞構造体(本実施例に係る細胞構造体)の結果を、それぞれ示す。
【0225】
【表18】
【0226】
【表19】
【0227】
算出したCNTの結果を、表18及び表19に示す。この結果、いずれのがん細胞株についても2D培養物及び本実施例に係る細胞構造体を用いた場合の両方で、CNTが100%程度となり、薬剤感受性が確認されなかった。尚、KRASコドン13変異型HCT116細胞、KRASコドン12変異型A549細胞は、セツキシマブに対して薬剤耐性を有する細胞である。
【0228】
このことから本発明に係る細胞構造体を用いた場合、使用した2種の細胞株の特性を正しく反映した薬剤感受性が確認できることが示唆された。