(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
D06M 11/71 20060101AFI20220323BHJP
D06M 13/432 20060101ALI20220323BHJP
D21H 11/20 20060101ALI20220323BHJP
D04H 1/06 20120101ALI20220323BHJP
D04H 1/425 20120101ALI20220323BHJP
【FI】
D06M11/71
D06M13/432
D21H11/20
D04H1/06
D04H1/425
(21)【出願番号】P 2018542942
(86)(22)【出願日】2017-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2017035524
(87)【国際公開番号】W WO2018062501
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2016193392
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】轟 雄右
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕一
(72)【発明者】
【氏名】本間 郁絵
(72)【発明者】
【氏名】趙 孟晨
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/185505(WO,A1)
【文献】斎藤 直人,木から作る高吸水性材料,林産試だより,1992年12月,[オンライン], [検索日 2017.11.29], インターネット: <URL:http://www.fpri.hro.or.jp/rsdayo/26153043001
【文献】斎藤 直人et al.,リグノセルロースのヒドロゲル化(第2報)-リン酸基の構造-,J. Hokkaido For. Prod. Res. Inst.,日本,1992年,Vol.6, No.5,pp.1-3,[オンライン], [検索日 2017.11.29], インターネット: <URL:http://www.fpri.hro.or.jp/rsjoho/26960015001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M11/71
D06M13/432
D04H1/00-18/04
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有するセルロース繊維を含む組成物であって、
前記セルロース繊維に含まれる強酸性基量が1.60mmol/g以上であり、
前記セルロース繊維の少なくとも一部において、前記リン酸基又はリン酸基由来の置換基が架橋しており、
強酸性基量と弱酸性基量の差分を2で除した値が0.20mmol/g以上であり、
前記組成物はシート状であり、
前記組成物の密度が0.05g/cm
3
以上1.2g/cm
3
以下であり、
前記組成物の全質量に対する水分含有量が50質量%以下であり、
前記組成物の全質量に対するセルロース繊維の含有量が50質量%以上であり、
前記組成物を幅5mm、長さ50mmの短冊状サンプルとし、前記短冊状サンプルの長手方向端辺から5mmまでの端部領域をイオン交換水(電気伝導度2μS/cm以下)に浸し、長手方向端辺から長手方向に45mmの距離地点までイオン交換水が到達するまでに要した時間を測定した際、下記式(2)で算出される吸水速度(mm/sec)が、2.5mm/sec以上100mm/sec以下である、組成物;
吸水速度(mm/sec)=40(mm)/t(sec) 式(2)
式(2)において、tは、短冊状サンプルの長手方向端辺から長手方向に45mmの距離地点までイオン交換水が到達するまでに要した時間(sec)を表す。
【請求項2】
不織布である請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
前記セルロース繊維の、下記式で算出される保水度(%)が150%以上である請求項1
又は2に記載の組成物;
保水度(%)=(遠心分離処理後のセルロース繊維の重量-セルロース繊維の絶乾重量)/セルロース繊維の絶乾重量×100
上記式において、保水度は、SCAN-C 62:00 に準じて測定されるが、遠心分離処理の条件は、20℃、遠心分離時の重量加速度3950gで15分間とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物に関する。具体的には、本発明は、リン酸基を有するセルロース繊維を含むセルロース繊維含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース繊維は、衣料や吸収性物品、紙製品等に幅広く利用されている。セルロース繊維としては、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロースに加えて、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。
【0003】
例えば、セルロース繊維が吸収性物品に用いられる場合は、セルロース繊維は不織布等の形態で吸収性物品の各種部材を構成する。そしてこのような場合、不織布には高い吸水性が求められる。従来、セルロース繊維を含む不織布の吸水性を高めるために、セルロース繊維にSAP等の高吸水性樹脂を担持させることが行われている。また、セルロース繊維の架橋改質を行うことで不織布の吸水性を高めることも検討されている。
【0004】
特許文献1には、架橋改質されたセルロース繊維を含有する布帛が開示されている。ここでは、架橋改質に用いる架橋剤としてホルムアルデヒドや含窒素環状化合物などが用いられている。また、特許文献2には、カルボキシル基を有し、かつ架橋結合された水膨潤性のセルロース誘導体を強酸の水溶液に浸漬し、次いで該セルロース誘導体を、水と相溶性を有する有機溶媒中でアルカリを加えて、酸型のカルボキシル基を塩型に戻した後、乾燥させることで、塩水吸収速度に優れた吸水性セルロース材料を製造する方法が開示されている。ここでもセルロース繊維を架橋させることでセルロース材料の吸水量を高めることが検討されている。
【0005】
特許文献3には、酸基含有不飽和単量体を必須成分とする単量体水溶液を重合させて得られる重合体とセルロースとを含み、表面架橋された吸水性樹脂が開示されている。ここでは、セルロースとしてリン酸化架橋したセルロースが記載されており、架橋剤としてジメチロールエチレン尿素やジメチロールジヒドロキシエチレン尿素といったN-メチロール化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-129575号公報
【文献】特開平08-243388号公報
【文献】特開2011-213759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、セルロース繊維を架橋した場合、セルロース繊維含有シートは嵩高くなる傾向が見られる。しかし、このような嵩高いセルロース繊維含有シートにおいては、セルロース繊維の保水性が低下する傾向が見られる。このため、嵩高いセルロース繊維含有シートであっても、保水性が十分に高いセルロース繊維含有シートの開発が望まれている。また、セルロース繊維含有シートにおいては、その吸水速度を高めることも検討されている。
【0008】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、セルロース繊維含有組成物から嵩高いシートを形成した場合であっても保水性が十分に高く、優れた吸水速度を発揮し得るセルロース繊維含有組成物を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、架橋構造を有するリン酸化セルロース繊維を含む組成物において、リン酸化セルロース繊維の架橋構造量を所定量以上とすることにより、該組成物から嵩高いシートを形成した場合であっても十分に高い保水性と、優れた吸水速度が発揮されることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
[1] リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有するセルロース繊維を含む組成物であって、セルロース繊維の少なくとも一部において、リン酸基又はリン酸基由来の置換基が架橋しており、強酸性基量と弱酸性基量の差分を2で除した値が0.20mmol/g以上であり、組成物の全質量に対する水分含有量が50質量%以下である組成物。
[2] 不織布である[1]に記載の組成物。
[3] 組成物を幅5mm、長さ50mmの短冊状サンプルとし、短冊状サンプルの長手方向端辺から5mmまでの端部領域をイオン交換水(電気伝導度2μS/cm以下)に浸し、長手方向端辺から長手方向に45mmの距離地点までイオン交換水が到達するまでに要した時間を測定した際、下記式(2)で算出される吸水速度(mm/sec)が、2.5mm/sec以上100mm/sec以下である[1]又は[2]に記載の組成物;
吸水速度(mm/sec)=40(mm)/t(sec) 式(2)
式(2)において、tは、短冊状サンプルの長手方向端辺から長手方向に45mmの距離地点までイオン交換水が到達するまでに要した時間(sec)を表す。
[4] セルロース繊維に含まれる強酸性基量が1.60mmol/g以上である[1]~[3]のいずれかに記載の組成物;
[5] セルロース繊維の、下記式で算出される保水度(%)が150%以上である[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
保水度(%)=(遠心分離処理後のセルロース繊維の重量-セルロース繊維の絶乾重量)/セルロース繊維の絶乾重量×100
上記式において、保水度は、SCAN-C 62:00 に準じて測定されるが、遠心分離処理の条件は、20℃、遠心分離時の重量加速度3950gで15分間とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、嵩高いシートを形成した場合であっても保水性が十分に高く、優れた吸水速度を発揮し得るセルロース繊維含有組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、繊維原料に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(組成物)
本発明は、リン酸基又はリン酸基由来の置換基(以下、単にリン酸基ともいう)を有するセルロース繊維を含む組成物に関する。ここで、セルロース繊維の少なくとも一部において、リン酸基又はリン酸基由来の置換基が架橋している。そして、下記式(1)で表される強酸性基量と弱酸性基量の差分を2で除した値(X)は0.20mmol/g以上である。
値(X)=(セルロース繊維に含まれる強酸性基量-セルロース繊維に含まれる弱酸性基量)/2 式(1)
また、本発明の組成物の全質量に対する水分含有量は50質量%以下である。なお、本明細書においては、セルロース繊維を含む組成物を、セルロース繊維含有組成物と言うことができる。
【0015】
本発明のセルロース繊維含有組成物は、上記構成を有するものであるため、嵩高いセルロース繊維含有シートを形成し得るが、その場合もセルロース繊維の保水性を十分に高く保つことができる。また、本発明のセルロース繊維含有組成物をシート状にした際には、優れた吸水速度を発揮し得る。本発明は、リン酸化セルロース繊維の架橋構造や架橋構造量を適切に制御することで、新たな物性を発揮し得るセルロース繊維含有組成物を得ることに成功したものである。
【0016】
本発明のセルロース繊維含有組成物の全質量に対する水分含有量は50質量%以下である。これは、本発明のセルロース繊維含有組成物が、スラリー状ではなく、固形状であることが好ましいことを意味している。本発明のセルロース繊維含有組成物は、例えば、ゲル状やシート状、粉粒状であることが好ましく、シート状であることがより好ましい。中でも、本発明のセルロース繊維含有組成物は不織布であることが好ましい。なお、本明細書においては、セルロース繊維含有組成物がシート状である場合、セルロース繊維含有組成物をセルロース繊維含有シートと呼ぶこともでき、セルロース繊維含有シートはセルロース繊維含有組成物の一実施形態である。
【0017】
本発明のセルロース繊維含有組成物の全質量に対する水分含有量は50質量%以下であればよく、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。なお、本発明において、セルロース繊維含有組成物の水分含有量は0質量%であってもよい。
ここで、水分含有量は、23℃、相対湿度50%の条件で平衡状態まで調湿させたセルロース繊維含有組成物の重量を測定したのち、105℃で一晩乾燥させた後のセルロース繊維含有組成物の重量を測定し、以下の式を用いて算出することができる。
水分含有量(%)=(105℃における乾燥前の重量-105℃における乾燥後の重量)/105℃における乾燥前の重量×100
【0018】
本発明のセルロース繊維含有組成物がシート状である場合、セルロース繊維含有シートの密度は、1.2g/cm3以下であることが好ましく、1.0g/cm3以下であることがより好ましく、0.8g/cm3以下であることがさらに好ましい。また、セルロース繊維含有シートの密度は、0.05g/cm3以上であることが好ましい。本発明のセルロース繊維含有組成物が不織布である場合も、不織布の密度は上記範囲内であることが好ましい。本発明のセルロース繊維含有組成物がシート状である場合、セルロース繊維含有シートの密度は上記範囲内であることが好ましく、密度を上記範囲に調整することにより嵩高いシートとすることができる。
【0019】
本発明のセルロース繊維含有組成物がシート状である場合、セルロース繊維含有シートの坪量は、30g/m2以上であることが好ましく、50g/m2以上であることがより好ましく、100g/m2以上であることがさらに好ましい。また、セルロース繊維含有シートの坪量は1000g/m2以下であることが好ましい。セルロース繊維含有シートの坪量を上記範囲内とすることにより、吸水性をより効果的に発揮することができる。
【0020】
本発明のセルロース繊維含有組成物がシート状である場合、セルロース繊維含有シートの厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましい。また、セルロース繊維含有シートの厚みは、50mm以下であることが好ましく、40mm以下であることがより好ましく、30mm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明のセルロース繊維含有組成物がシート状である場合、下記式(2)で算出される吸水速度(mm/sec)は、2.5mm/sec以上100mm/sec以下であることが好ましい。吸水速度(mm/sec)は、3.0mm/sec以上であることがより好ましく、3.5mm/sec以上であることがさらに好ましい。
【0022】
ここで、下記式(2)で算出される吸水速度(mm/sec)は、以下の手順で測定される吸水速度である。まず、シート状のセルロース繊維含有組成物を幅5mm、長さ50mmの短冊状サンプルとし、この短冊状サンプルの長手方向端辺から5mmまでの端部領域をイオン交換水(電気伝導度2μS/cm以下)に浸す。その後、長手方向端辺から長手方向に45mmmの距離地点までイオン交換水が到達するまでに要した時間を測定する。そして、得られた時間から下記式(2)を用いて吸水速度(mm/sec)を算出する。
吸水速度(mm/sec)=40(mm)/t(sec) 式(2)
式(2)において、tは、短冊状サンプルの長手方向端辺から長手方向に45mmの距離地点までイオン交換水が到達するまでに要した時間(sec)を表す。
【0023】
(セルロース繊維)
本発明のセルロース繊維含有組成物は、リン酸基を有するセルロース繊維を主成分として含む。ここで、リン酸基を有するセルロース繊維が主成分として含まれる状態とは、セルロース繊維含有組成物の全質量に対して、リン酸基を有するセルロース繊維の含有量が50質量%以上であることをいう。リン酸基を有するセルロース繊維の含有量は、セルロース繊維含有組成物の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0024】
セルロース繊維を得るためのセルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。
【0025】
本発明において、リン酸基を有するセルロース繊維の繊維幅は特に限定されない。例えば、リン酸基を有するセルロース繊維の繊維幅は1000nmよりも大きいものであってもよく、1000nm以下であってもよい。また、繊維幅が1000nmよりも大きいセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下のセルロース繊維が混在していてもよい。なお、セルロース繊維の繊維幅が1000nm以下である場合、このようなセルロース繊維を微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
【0026】
また、本発明のセルロース繊維含有組成物には、リン酸基を有するセルロース繊維以外に、リン酸基を有さないセルロース繊維が含まれていてもよい。この場合は、リン酸基を有さないセルロース繊維の含有量は、繊維原料の全質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
ここで、セルロース繊維の繊維幅は、電子顕微鏡観察によって以下の方法で測定することができる。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下のセルロース繊維水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。この際、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0028】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0029】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。
【0030】
セルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、0.1mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であることがより好ましい。また、5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。セルロース繊維の平均繊維長を上記範囲内とすることにより、セルロース繊維含有組成物をシート状にした際にシートの強度を高めることができる。ここで、セルロース繊維の平均繊維長は、例えば、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS-200形)を用い、長さ加重平均繊維長を測定することにより求めることができる。また、繊維の長さに応じて走査型顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)等を用いて測定することもできる。
【0031】
セルロース繊維が微細繊維状セルロースである場合、微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0032】
本明細書においては、セルロース繊維はリン酸基(リン酸基又はリン酸基に由来する置換基)を有する。本発明においては、このようなセルロース繊維をリン酸化セルロース繊維と呼ぶこともある。
【0033】
リン酸化セルロース繊維におけるリン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-PO3H2で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であることが好ましい。
【0034】
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
【化1】
【0035】
式(1)中、a、b及びnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αn及びα’のうちの少なくとも1つはO-であり、残りはR,ORのいずれかである。各αn及びα’の全てがO-であっても構わない。nが2以上であり、α’がR又はORである場合には、各αnのうちの少なくとも1つがO-で残りがR又はORである。nが2以上であり、α’がO-である場合には、各αnは全てRであってもよいし、全てORであってもよいし、少なくとも1つがO-で残りがR又はORであってもよい。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基である。
【0036】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0037】
また、前記Rにおける誘導体としては、前記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。 また、前記Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数が20を超えると、Rを含むリンオキソ酸基の分子が大きくなりすぎて、繊維原料に浸透しにくくなり、微細セルロース繊維の収率が低下するおそれがある。
【0038】
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0039】
セルロース繊維が有するリン酸基の含有量は、セルロース繊維1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが一層好ましく、1.20mmol/g以上であることがより一層好ましく、1.30mmol/g以上であることが特に好ましく、1.60mmol/g以上であることが最も好ましい。また、リン酸基の含有量は、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.5mmol/g以下であることがより好ましく、3.0mmol/g以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、セルロース繊維が有するリン酸基の含有量は、後述するようにセルロース繊維が有するリン酸基の強酸性基量と等しい。
【0040】
セルロース繊維が有するリン酸基の含有量は、中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定の際には、リン酸基を完全に酸型に変換させた後、機械処理工程(微細化工程)により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーに、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0041】
リン酸基の酸型への変換は、得られたリン酸化セルロース繊維を、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、十分な量の1N塩酸水溶液を少しずつ添加することで行う。リン酸基の酸型への変換では、上記のセルロース繊維含有スラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水で希釈し、1N塩酸水溶液を添加する操作を繰り返すことにより、セルロース繊維に含まれるリン酸基を完全に酸型へ変化させることが好ましい。そして、リン酸基の酸型への変換工程の後には、得られたセルロース繊維含有スラリーを攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流すことが好ましい。
【0042】
機械処理工程(微細化工程)では、得られた脱水シートにイオン交換水を注ぎ、セルロース繊維濃度が0.3質量%のセルロース繊維含有スラリーを得て、このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス‐2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間処理する。このようにして、微細繊維状セルロース含有スラリーを得る。
【0043】
アルカリを用いた滴定では、微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、分散液が示すpHの値の変化を計測する。この中和滴定では、アルカリ(水酸化ナトリウム水溶液)を加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ得られる(増分が最大となる点と、2番目に大きくなる点)。このうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点(以下、第1終点と呼ぶ)までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中の強酸性基量と等しく、次に得られる増分の極大点(以下、第2終点と呼ぶ)までに必要としたアルカリ量が滴定に使用した分散液中の弱酸性基量と等しくなる。第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除して、第1解離アルカリ量(mmol/g)とし、この量をセルロース繊維が有するリン酸基の含有量とする。
【0044】
図1は、中和滴定において、アルカリ(水酸化ナトリウム水溶液)を加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線を例示したものである。第1終点までの領域を第1領域、第2終点までの領域を第2領域という。なお、第2領域の後には第3領域がある。すなわち、3つの領域が現れる。
図1において、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。
【0045】
架橋構造は、セルロース繊維に導入されたリン酸基同士が脱水縮合することによって形成されると考えられる。すなわち、架橋構造は、ピロリン酸の2つのP原子に1つずつ、セルロースのグルコースユニットが、O原子を介して結合した構造となる。したがって、架橋構造が形成されると、見かけ上、弱酸性基が失われ、第1終点までに必要としたアルカリ量と比較して第2終点までに必要としたアルカリ量が少なくなる。ここで、セルロース繊維に導入されたリン酸基同士が全く縮合していない場合、セルロース繊維に導入されている強酸性基量と、弱酸性基量は等しい。このため、架橋構造が形成されることで失われた弱酸性基の量を2で除した値は架橋構造量(架橋点数)を表すことになる。すなわち、架橋構造量(架橋点数)は、第1終点までに要したアルカリ量(第1解離アルカリ量)と第2終点までに要したアルカリ量(第2解離アルカリ量)の差分を2で除した値に等しい。架橋構造量(架橋点数)は下記式(1)で表される。
架橋構造量(架橋点数)=(セルロース繊維に含まれる強酸性基量-セルロース繊維に含まれる弱酸性基量)/2 式(1)
【0046】
本発明においては、上記式(1)で算出されるセルロース繊維の架橋構造量(架橋点数)は0.20mmol/g以上であればよく、0.22mmol/g以上であることが好ましく、0.25mmol/g以上であることがより好ましい。なお、架橋構造量(架橋点数)の上限値は、セルロース繊維に含まれる強酸性基量を2で除した値となるため、例えば1.82mmol/g以下となる。
【0047】
セルロース繊維の保水度は、150%以上であることが好ましく、170%以上であることがより好ましく、200%以上であることがさらに好ましい。なお、セルロース繊維の保水度の上限値に特に制限はないが、例えば1000%とすることができる。ここで、セルロース繊維の保水度は、SCAN-C 62:00 に準じて測定した値であり、以下の式によって算出される値である。セルロース繊維の保水度測定の際には、セルロース繊維を、20℃、4400rpm(遠心分離時の重量加速度:3950g)の条件で15分間、遠心分離処理を行う。遠心分離処理に供試するセルロース繊維量は測定1回につき絶乾重量で0.5g(仕込み坪量1700±100g/m2)とする。遠心分離機としては、例えば、コクサン社製のH-3Rを使用できる。なお、保水度の数値が大きいほど、セルロース繊維と水の親和性が高いことを意味する。
保水度(%)=(遠心分離処理後のセルロース繊維の重量-セルロース繊維の絶乾重量)/セルロース繊維の絶乾重量×100
【0048】
セルロース繊維は、対イオンを有していてもよい。対イオンは、無機イオンであっても有機イオンであってもよい。無機イオンとしては、アルカリ金属イオンに代表される1価の金属イオン、アルカリ土類金属イオンに代表される2価の金属イオン、その他、非金属の陽イオンであるアンモニウムイオン、アルミニウムイオン、スズイオン、鉛イオンなどの卑金属イオン、その他、銀イオン、銅イオン、鉄イオンなどの遷移金属イオンが挙げられる。有機イオンとしては、有機アンモニウムイオンや、有機ホスホニウムイオンが挙げられる。保水度を高めたい場合は、1価の陽イオンを対イオンとすることが好ましく、汎用性の観点から、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオンを対イオンとすることがより好ましく、ナトリウムイオン、アンモニウムイオンを対イオンとすることがさらに好ましい。一方、消臭、抗菌等の機能を付与したい場合は、銅イオン、銀イオン、有機アンモニウムイオンなど機能性の陽イオンを対イオンとすることが好ましい。
【0049】
(任意成分)
本発明のセルロース繊維含有組成物には、セルロース繊維以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、たとえば、消泡剤、潤滑剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、填料、安定剤、アルコール等の水と混和可能な有機溶媒、防腐剤、有機微粒子、無機微粒子、樹脂(ペレット状、繊維状)等を挙げることができる。
【0050】
(組成物の製造方法)
組成物の製造方法(セルロース繊維含有組成物の製造方法)は、リン酸基又はリン酸基由来の置換基をセルロース繊維に導入し、下記式(1)で表される強酸性基量と弱酸性基
量の差分を2で除した値(X)が0.20mmol/g以上となるようにリン酸基又はリン酸基由来の置換基を架橋させる工程を含む。なお、このようにして得られる組成物の水分含有量は50質量%以下である。
値(X)=(セルロース繊維に含まれる強酸性基量-セルロース繊維に含まれる弱酸性基量)/2 式(1)
【0051】
<リン酸基導入工程>
リン酸基又はリン酸基由来の置換基をセルロース繊維に導入する工程は、リン酸基導入工程と呼ぶことができる。なお、リン酸基又はリン酸基由来の置換基の少なくとも一部を架橋させる工程もリン酸基導入工程に含まれる。すなわち、リン酸基導入工程には、セルロース繊維をリン酸化する工程と、リン酸基又はリン酸基由来の置換基の少なくとも一部を架橋させる工程が含まれている。
【0052】
リン酸基導入工程では、セルロース繊維に対し、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化剤」又は「化合物A」ともいう)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化剤は、乾燥状態または湿潤状態のセルロース繊維に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、セルロース繊維のスラリーにリン酸化剤の粉末や水溶液を添加してもよい。すなわち、リン酸基導入工程は、少なくとも、セルロース繊維とリン酸化剤を混合する工程を含む。
【0053】
リン酸基導入工程は、セルロース繊維にリン酸化剤を反応させることにより行うことができるが、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。
【0054】
化合物Aを化合物Bの共存下でセルロース繊維に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態のセルロース繊維に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、セルロース繊維含有スラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態のセルロース繊維に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態のセルロース繊維に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。セルロース繊維の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0055】
リン酸化剤(化合物A)は、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。中でも、リン酸、リン酸のナトリウム塩、又はリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩は好ましく用いられる。
【0056】
反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率がより高くなることからリン酸化剤(化合物A)は水溶液として用いることが好ましい。リン酸化剤(化合物A)の水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、セルロース繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。リン酸化剤(化合物A)の水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0057】
セルロース繊維に対するリン酸化剤(化合物A)の添加量は特に限定されないが、リン酸化剤(化合物A)の添加量をリン原子量に換算した場合、セルロース繊維(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。セルロース繊維に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、リン酸化セルロース繊維の収率をより向上させることができる。セルロース繊維に対するリン原子の添加量を100質量%以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。一方、セルロース繊維に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0058】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、1-エチル尿素などが挙げられる。
【0059】
化合物Bは化合物Aと同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。セルロース繊維(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
【0060】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0061】
リン酸基導入工程は、加熱をする工程(以下、加熱処理工程ともいう)を有することが好ましい。加熱処理工程を設けることで、セルロース繊維にリン酸基を効率的に導入し、さらにリン酸基又はリン酸基由来の置換基の少なくとも一部を架橋させることができる。すなわち、本発明の組成物の製造方法は、セルロース繊維とリン酸化剤と混合する工程と、セルロース繊維とリン酸化剤の混合物を加熱する工程を含むことが好ましい。
【0062】
加熱処理工程における加熱処理温度は、セルロース繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。また、加熱処理温度は、強酸性基量と弱酸性基量の差分を2で除した値が0.20mmol/g以上となるようにリン酸基又はリン酸基由来の置換基を架橋させる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0063】
加熱処理の際、化合物Aを添加したセルロース繊維含有スラリーに水が含まれている間において、セルロース繊維を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aがセルロース繊維表面に移動する。そのため、セルロース繊維中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、セルロース繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥によるセルロース繊維中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状のセルロース繊維を用いるか、ニーダー等でセルロース繊維と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0064】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、セルロース繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することができる。
【0065】
加熱処理の時間(加熱時間)は、加熱温度にも影響されるが、リン酸化剤とセルロース繊維が混合され、熱源に晒されてから1秒以上300分以下であることが好ましく、5秒以上270分以下であることがより好ましく、10秒以上15000秒以下であることがさらに好ましい。例えば、加熱温度が100℃以上250℃以下である場合、加熱時間は10秒以上であることが好ましく、20秒以上であることがより好ましく、30秒以上であることがさらに好ましい。加熱処理温度が100℃以上250℃以下である場合は、加熱時間の上限を15000秒以下とすることが好ましい。本発明においては、加熱処理温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0066】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。
【0067】
<離解・洗浄工程>
リン酸基導入工程の後には、離解工程が設けられることが好ましく、離解工程の後にさらに洗浄工程が設けられることが好ましい。離解工程は、JIS P 8220に準拠して行う。すなわち、離解工程は、リン酸基導入工程で得られたリン酸化セルロース繊維を均一なパルプ懸濁液とするための工程である。この工程では、リン酸化セルロース繊維は、一般的な製紙用パルプと同等程度の大きさ(例えば、幅20μm以上30μm以下、長さ平均繊維長0.1mm以上3.0mm以下)であることが好ましい。なお、離解工程を行わずとも、リン酸化セルロース繊維が十分に分散した懸濁液が得られる場合は、離解工程は省いても良い。
【0068】
洗浄工程では、リン酸化剤等の余剰の薬液を洗い流す。洗浄工程では、離解処理を施したリン酸化セルロース繊維を濾過脱水し、イオン交換水を注ぎ攪拌して均一に分散させるという操作を繰り返すことが好ましい。
【0069】
<アルカリ処理工程>
リン酸基導入工程及び離解工程の後には、アルカリ処理工程を設けることが好ましい。アルカリ処理工程を設けることにより、リン酸化セルロース繊維の対イオンを種々変更することができる。例えば、アルカリとして、水酸化ナトリウムを選択すれば、リン酸化セルロース繊維の対イオンをナトリウムイオンとすることができる。なお、本発明のセルロース繊維含有組成物の製造方法においては、アルカリ処理工程を設けなくてもよく、この場合は、リン酸化セルロース繊維のリン酸基の一方の対イオンがアンモニウムイオンであり、他方の対イオンが水素イオンとなる。
【0070】
アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸化セルロース繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、水系溶媒であってもよい。また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0071】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸化セルロース繊維の絶乾質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0072】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸化セルロース繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、アルカリ処理済みリン酸化セルロース繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0073】
<その他の対イオン変更処理>
上述したアルカリ処理工程の代わりに、無機アルカリの塩や有機アルカリの塩とリン酸化セルロース繊維と接触させることでも、対イオンを変更することができる。例えば、無機アルカリの塩として塩化ナトリウムを選択すれば、リン酸化セルロース繊維の対イオンをナトリウムとすることができる。また、有機アルカリの塩として塩化アルキルアンモニウムを選択すれば、リン酸化セルロース繊維の対イオンをアルキルアンモニウムとすることができる。
【0074】
<解繊処理>
本発明で使用されるセルロース繊維が、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースである場合、アルカリ処理工程の後には、解繊処理工程を設けてもよい。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0075】
<シート形成工程>
本発明のセルロース繊維含有組成物の製造方法は、上述したリン酸化セルロース繊維を用いてシートを形成する工程をさらに含むことが好ましい。この場合、セルロース繊維含有組成物はシート状であり、不織布であることが好ましい。リン酸化セルロース繊維を用いてシートを形成する工程においては、シートの性質や形状などに応じて形成方法を適宜選択し得る。本実施形態においては、たとえば湿式抄紙法、乾式抄紙法などの方法を採用することが可能である。
【0076】
セルロース繊維を用いてシートを形成する工程は、湿式抄紙法によりシートを形成する工程であってもよい。以下では、湿式抄紙法によりシートを形成する場合の一例を説明する。
【0077】
まず、湿式抄紙工程では、上述した工程で得られたリン酸化セルロース繊維にイオン交換水を添加して、セルロース繊維含有スラリーを得る。
次いで、セルロース繊維含有スラリーは、湿式抄紙工程に供される。湿式抄紙工程で用いられる抄紙機としては、例えば、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、傾斜ワイヤー型抄紙機、単網抄紙機、ヤンキー抄紙機等を挙げることができる。また、手抄き装置を用いて抄紙を行ってもよい。
【0078】
湿式抄紙工程で得られたシートは、脱水乾燥工程に供されることが好ましい。脱水工程では、シートを加圧することで脱水を行ってもよい。この際の圧力は、1MPa以上であることが好ましく、5MPa以上であることがより好ましく、10MPa以上であることがさらに好ましい。また、圧力は100MPa以下であることが好ましい。本発明のセルロース繊維含有組成物は耐圧縮性に優れているため、脱水工程において上記条件で加圧をした場合であっても嵩高いシートが得られやすい。
【0079】
なお、シート形成工程において、乾式抄紙法を用いる場合は、空気中でリン酸化セルロース繊維を均一に混合し、リン酸化セルロース繊維を含む気流を、下側にサクションボックスを備えたメッシュ状無端ベルト上に吐出してシートを形成する。すなわち、乾式抄紙法は、リン酸化セルロース繊維を空気中で混合し、堆積させる工程を含む方法である。乾式抄紙法においては、必要に応じて上記の操作を複数回繰り返してもよい。
【0080】
シートの脱水乾燥工程における乾燥方法は特に限定されないが、熱風、蒸気、赤外線、マイクロ波等を適宜利用できる。また、熱の伝達媒体として、金属板、金属ロールをシートに直接接触させる等の手法を適宜とることができる。
【0081】
脱水乾燥工程後のシートに対して、さらに加圧操作を行っても良い。この際の圧力は、1MPa以上であることが好ましく、5MPa以上であることがより好ましく、10MPa以上であることがさらに好ましい。また、圧力は100MPa以下であることが好ましい。この操作により、シートの厚さ、密度を適宜調整することができる。また、本発明のセルロース繊維含有組成物は耐圧縮性に優れているため、上記条件で加圧をした場合であっても嵩高いシートが得られやすい。
【0082】
(用途)
本発明のセルロース繊維含有組成物の用途は特に限定されない。セルロース繊維含有組成物は、シート状であることが好ましく、不織布であることがより好ましい。セルロース繊維含有組成物は、例えば、フラッフパルプや不織布の状態で、汗、尿、経血、有害薬品等の吸収性物品の構成部材として利用されたり、衛生用紙、フィルター素材、緩衝材等に利用される。
【実施例】
【0083】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0084】
(実施例1)
<リン酸化反応工程>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分96質量%、坪量213g/m2シート状)を原料として使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、イオン交換水150質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で350秒間乾燥・加熱処理し、パルプ中のセルロースにリン酸基及びリン酸架橋構造を導入し、リン酸化セルロース繊維Aを得た。
【0085】
<離解・洗浄工程>
得られたリン酸化セルロース繊維Aに、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水を注ぎ、2L容量の卓上型ディスインテグレーターで20分間離解処理した。得られたパルプスラリーを濾過脱水して脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させる操作を繰り返すことにより、余剰の薬液を十分に洗い流し、リン酸化セルロース繊維Bを得た。
【0086】
<アルカリ処理工程>
得られたリン酸化セルロース繊維Bを、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加して、pHが12±0.2のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流して、リン酸化セルロースを含むリン酸化セルロース繊維Cを得た。そして、後述する方法により、リン酸化セルロース繊維Cの保水度を測定した。また、後述する方法により、リン酸化セルロース繊維Cのリン酸基導入量と架橋構造の含有量を測定した。
【0087】
<シート化・プレス工程>
得られたセルロース繊維Cに、セルロース繊維濃度が0.3質量%となるようにイオン交換水を注いだ後、脱水濾過することで面積0.0043m2、坪量200g/m2のセルロース繊維含有シートを得た。このセルロース繊維含有シートを23℃、相対湿度50%の調湿室で、重量が一定となるまで乾燥させた。次いで、圧力11.57MPaで60秒間プレスすることで、セルロース繊維含有シートA(セルロース繊維含有組成物)を得た。プレス後の厚さを測定することで、セルロース繊維含有シートAの密度を算出した。シートの密度の計算はJIS P 8118:1998に準拠して行った。また、紙厚計としては、ハイブリッジ紙厚計(高橋製作所(株)製 No.735)を用いた。また、後述する方法により、セルロース繊維含有シートAの水分含有量(含水率)及び吸水速度を測定した。
【0088】
(実施例2)
上述の<アルカリ処理工程>を行わない以外は、実施例1と同様にして、リン酸化セルロース繊維及びセルロース繊維含有シートを得た。得られたリン酸化セルロース繊維とセルロース繊維含有シートについては、実施例1と同様の測定を行った。
【0089】
(実施例3)
上述の<リン酸化反応工程>において乾燥・加熱処理時間を300秒間とし、さらに、上述の<離解・洗浄工程>において、ディスインテグレーターでの離解処理時間を15分間とした以外は、実施例1と同様にして、リン酸化セルロース繊維及びセルロース繊維含有シートを得た。得られたリン酸化セルロース繊維とセルロース繊維含有シートについては、実施例1と同様の測定を行った。
【0090】
(実施例4)
上述の<アルカリ処理工程>を行わない以外は、実施例3と同様にして、リン酸化セルロース繊維及びセルロース繊維含有シートを得た。得られたリン酸化セルロース繊維とセルロース繊維含有シートについては、実施例1と同様の測定を行った。
【0091】
(比較例1)
<離解工程>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分96質量%、坪量213g/m2シート状)を原料として使用した。セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水を注ぎ、2L容量の卓上型ディスインテグレーターで5分間離解処理した。得られたパルプスラリーを濾過脱水してセルロース繊維A'を得た。後述する方法により、セルロース繊維A'の保水度を測定した。
【0092】
<シート化・プレス工程>
得られたセルロース繊維A'に、セルロース繊維濃度が0.3質量%となるようにイオン交換水を注いだ後、脱水濾過することで面積0.0043m2、坪量200g/m2のセルロース繊維含有シートを得た。このセルロース繊維含有シートを23℃、相対湿度50%の調湿室で、重量が一定となるまで乾燥させた。次いで、圧力11.57MPaで60秒間プレスすることで、セルロース繊維含有シートA'を得た。プレス後の厚さを測定することで、セルロース繊維含有シートA'の密度を算出した。また、後述する方法により、セルロース繊維含有シートA'の水分含有量(含水率)および吸水速度を測定した。
【0093】
(比較例2)
上述の<リン酸化反応工程>において、乾燥・加熱処理時間を200秒間とし、さらに、上述の<離解・洗浄工程>において、ディスインテグレーターでの処理行わない以外は、実施例1と同様にして、リン酸化セルロース繊維及びセルロース繊維含有シートを得た。得られたリン酸化セルロース繊維とセルロース繊維含有シートについては、実施例1と同様の測定を行った。なお、比較例2ではイオン交換水を加え、軽微な手攪拌をするだけで、リン酸化セルロース繊維が水へ均一に分散したため、離解機は使用しなかった。
【0094】
(比較例3)
上述の<アルカリ処理工程>を行わない以外は、比較例2と同様にして、リン酸化セルロース繊維及びセルロース繊維含有シートを得た。得られたリン酸化セルロース繊維とセルロース繊維含有シートについては、実施例1と同様の測定を行った。
なお、比較例3ではイオン交換水を加え、軽微な手攪拌をするだけで、リン酸化セルロース繊維が水へ均一に分散したため、離解機は使用しなかった。
【0095】
(分析及び評価)
<保水度の測定>
SCAN-C 62:00 に準じてセルロース繊維の保水度を測定した。セルロース繊維の保水度測定の際には、セルロース繊維を、20℃、4400rpm(遠心分離時の重量加速度:3950g)の条件で15分間遠心分離処理を行った。遠心分離処理に供試したセルロース繊維量は測定1回につき絶乾重量で0.5g(仕込み坪量1700±100g/m2)であった。遠心分離機としては、コクサン社製のH-3Rを使用した。保水度は以下の式によって算出した。
保水度(%)=(遠心分離処理後のセルロース繊維の重量-セルロース繊維の絶乾重量)/セルロース繊維の絶乾重量×100
なお、保水度の数値が大きいほど、セルロース繊維と水の親和性が高いことを意味する。
【0096】
<リン酸基導入量の測定>
リン酸基の導入量は、中和滴定法により測定した。具体的には、セルロース繊維に含まれるリン酸基を完全に酸型に変換させた後、機械処理工程(微細化工程)により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリー(分散液)が示すpHの変化を求めることにより、導入量を測定した。
リン酸基の酸型への変換では、得られたリン酸化セルロース繊維を、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、十分な量の1N塩酸水溶液を少しずつ添加した。次いで、このセルロース繊維含有スラリーを15分間撹拌したのち脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水で希釈し、1N塩酸水溶液を添加する操作を繰り返すことにより、セルロース繊維に含まれるリン酸基を完全に酸型へ変化させた。さらに、このセルロース繊維含有スラリーを攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流した。
機械処理工程では、得られた脱水シートにイオン交換水を注ぎ、セルロース繊維濃度が0.3質量%のセルロース繊維含有スラリーを得た。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス‐2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間処理した。アルカリを用いた滴定では、微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、分散液が示すpHの値の変化を計測した。
【0097】
この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点を二つ与える(増分が最大となる点と、2番目に大きくなる点)。このうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点(以下、第1終点と呼ぶ)、までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中の強酸性基量と等しく、次に得られる増分の極大点(以下、第2終点と呼ぶ)までに必要としたアルカリ量が滴定に使用した分散液中の弱酸性基量と等しくなる。
第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象分散液中の固形分(g)で除して、第1解離アルカリ量(mmol/g)とし、この量をリン酸基の導入量とした。
【0098】
<架橋点数の測定>
架橋構造は、セルロース繊維に導入されたリン酸基同士が脱水縮合することによって形成されると考えられる。すなわち、架橋構造は、ピロリン酸の2つのP原子に1つずつ、セルロースのグルコースユニットが、O原子を介して結合した構造となる。したがって、架橋リン酸基が形成されると、見かけ上弱酸性基が失われ、第1終点までに必要としたアルカリ量と比較して第2終点までに必要としたアルカリ量が少なくなる。すなわち、架橋点数は、第1終点までに要したアルカリ量(第1解離アルカリ量)と第2終点までに要したアルカリ量(第2解離アルカリ量)の差分を2で除した値に等しい。
【0099】
<水分含有量の測定>
水分含有量は、23℃、相対湿度50%の調湿室で平衡状態まで乾燥させたセルロース繊維含有シートの重量を測定したのち、105℃で一晩乾燥させた後のセルロース繊維含有シートの重量を測定し、以下の式を用いて算出した。
水分含有量(%)=(105℃における乾燥前のシート重量-105℃における乾燥後のシート重量)/105℃における乾燥前のシート重量×100
【0100】
<吸水速度の測定>
吸水速度は、セルロース繊維含有シートを、幅5mm、長さ50mmの短冊状サンプルに切り出し、この短冊状サンプルの長手方向端辺から5mmまでの端部領域をイオン交換水(電気伝導度2μS/cm以下)に浸した。その後、長手方向端辺から長手方向に45mmの距離地点までイオン交換水が到達するまでに要した時間を測定し、下記式(2)を用いて吸水速度(mm/sec)を算出した。
吸水速度(mm/sec)=40(mm)/t(sec) 式(2)
式(2)において、tは、短冊状サンプルの長手方向端辺から長手方向に45mmの距離地点までイオン交換水が到達するまでに要した時間(sec)を表す。
【0101】
【0102】
実施例で得られたセルロース繊維については保水度が高く、セルロース繊維含有シートは優れた吸水速度を発揮した。実施例で得られたセルロース繊維含有シートは、嵩高いシート(密度が小さなシート)でありながらも、優れた保水性と高い吸水速度が両立されていた。