IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

特許7044068転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法
<>
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図1
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図2
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図3
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図4
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図5
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図6
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図7
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図8
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図9
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図10
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図11
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図12
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図13
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図14
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図15
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図16
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図17
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図18
  • 特許-転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/17 20060101AFI20220323BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20220323BHJP
   B42D 25/24 20140101ALI20220323BHJP
   B42D 25/324 20140101ALI20220323BHJP
【FI】
B44C1/17 E
B44C1/17 H
B44C1/17 G
B32B7/06
B42D25/24
B42D25/324
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018545054
(86)(22)【出願日】2017-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2017037031
(87)【国際公開番号】W WO2018070484
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2016201014
(32)【優先日】2016-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】南川 直樹
【審査官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-104043(JP,A)
【文献】特開2005-070064(JP,A)
【文献】特開2000-234041(JP,A)
【文献】特開2004-098455(JP,A)
【文献】特開2008-162260(JP,A)
【文献】国際公開第2006/095902(WO,A1)
【文献】特開2001-293982(JP,A)
【文献】特開昭61-176969(JP,A)
【文献】国際公開第2008/075533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 1/165 - 1/175
B32B 27/00
B42D 25/40 - 25/45
G02B 5/18
G03H 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状の支持体と、
一対の対向面を有し、接着層を有する層状の転写体と、を備え、
前記一対の対向面のうち第1の面は、前記支持体から剥離可能に前記支持体に接しており、前記一対の対向面のうち第2の面を含むように前記接着層が設けられており、
前記接着層はコンポジットであり、第1樹脂からなる複数の樹脂粒と、第2樹脂からなり、前記樹脂粒の間の隙間を埋める層状母材と、を含み、前記第2樹脂の融点は前記第1樹脂の融点よりも低く、
前記第1樹脂は、変性ポリオレフィン、結晶性ポリエステル、および、エチレン‐酢酸ビニル共重合体の少なくとも1つであり、
前記第2樹脂は、アクリル樹脂、非結晶性ポリエステル、および、酢酸ビニル‐塩化ビニル共重合体の少なくとも1つである
転写箔。
【請求項2】
前記第1樹脂は、変性ポリオレフィンまたは結晶性ポリエステルであり、
前記第2樹脂は、アクリル樹脂である
請求項に記載の転写箔。
【請求項3】
前記第1樹脂は、結晶性ポリエステルであり、
前記第2樹脂は、アクリル樹脂である
請求項に記載の転写箔。
【請求項4】
前記第1樹脂は、結晶性の樹脂であり、
前記第2樹脂は、非結晶性の樹脂である
請求項1からのいずれか一項に記載の転写箔。
【請求項5】
前記転写体は、凹凸を有したレリーフ面を含むとともに、紫外線硬化性樹脂と有機ケイ素化合物とから構成されるレリーフ層を含む
請求項1からのいずれか一項に記載の転写箔。
【請求項6】
前記転写体は、反射層を備え、
前記反射層は、前記レリーフ面の少なくとも一部を覆うとともに、アルミニウムまたは硫化亜鉛から構成され、
前記有機ケイ素化合物が、アミノ基を含む
請求項に記載の転写箔。
【請求項7】
前記転写体は、反射層を備え、
前記反射層は、前記レリーフ面の少なくとも一部を覆うとともに、アルミニウムまたは二酸化チタンから構成され、
前記有機ケイ素化合物は、アクリル基またはメタクリル基を含む
請求項に記載の転写箔。
【請求項8】
前記レリーフ層の融点が、180℃以上である
請求項からのいずれか一項に記載の転写箔。
【請求項9】
第1ラミネート材と、
第2ラミネート材と、
請求項1からのいずれか一項に記載の転写体と、を備え、
前記転写体は、前記第1ラミネート材と前記第2ラミネート材との間に位置する
セキュリティ積層体。
【請求項10】
フィルム状の支持体と転写体とを備える転写箔を形成することであって、前記支持体は支持面を有し、前記転写体は接着層を含み、前記接着層は前記支持面に形成されることと、
前記転写体を第1ラミネート材に転写することと、
前記第1ラミネート材と第2ラミネート材とによって前記転写体を挟んだ状態で、前記第1ラミネート材と前記第2ラミネート材とを接着することと、を含み、
前記接着層はコンポジットであり、第1樹脂からなる複数の樹脂粒と、第2樹脂からなり、前記樹脂粒の間の隙間を埋める層状母材とを含み、前記第2樹脂の融点は前記第1樹脂の融点よりも低く、
前記第1樹脂は、変性ポリオレフィン、結晶性ポリエステル、および、エチレン‐酢酸ビニル共重合体の少なくとも1つであり、
前記第2樹脂は、アクリル樹脂、非結晶性ポリエステル、および、酢酸ビニル‐塩化ビニル共重合体の少なくとも1つである
セキュリティ積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、転写箔、転写箔の一部を含むセキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法に関し、セキュリティ積層体からなる認証証明に関する。
【背景技術】
【0002】
カードやパスポートなどの認証証明としては、回折などの光学的な効果を発現するレリーフ層が、認証証明の外形を形成する2つのラミネート材によって挟まれた構成が知られている。
【0003】
こうした認証証明を製造するときには、まず、レリーフ層を含む転写箔を準備し、レリーフ層を一方のラミネート材に接着させる。次いで、一方のラミネート材の上に他方のラミネート材を重ねた後、2つのラミネート材とレリーフ層とを加熱しながら加圧することによって、2つのラミネート材を互いに融着させる。これにより、積層体を一体化したセキュリティ積層体を認証証明として用いることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
2つのラミネート材を互いに融着させるときには、レリーフ層をラミネート材に転写するときと比べて、より高い温度に積層体を加熱したり、より高い圧力を積層体に印加したりする状態を、より長時間にわたって維持する必要がある。そのため、セキュリティ積層体の内部に位置するレリーフ層には、セキュリティ積層体の表面に位置するレリーフ層に比べて、レリーフ層の光学的な効果に影響する程度にレリーフ層が損傷したり変形したりすることを防ぐ上で、高い融点および高い剛性を有することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4925543号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、レリーフ層の転写において、レリーフ層の輪郭の形状における精度を高める上では、レリーフ層は、より低い融点や、より低い剛性を有することが好ましい。そのため、上述した高い融点および高い剛性を有するレリーフ層では、レリーフ層の転写において、転写領域の輪郭からはみ出す部分や欠けた部分が生じることによって、レリーフ層の輪郭の形状における精度が低下する場合がある。
【0007】
なお、レリーフ層が上述のような高い融点および高い剛性を有することは、セキュリティ積層体の有する2つのラミネート材が接着剤によって接着される構成、および、セキュリティ積層体の表面にレリーフ層が位置する構成において、同様に求められることである。あるいは、転写箔が接着層と、レリーフ層以外の層とのみを含む構成であっても、同様に求められることである。
【0008】
本開示は、熱および圧力に対する耐性を低下させることなく、転写によって被転写体に形成された層の輪郭の形状における精度を高めることを可能とした転写箔、セキュリティ積層体、および、そうしたセキュリティ積層体の製造方法を提供し、セキュリティ積層体からなる認証媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための転写箔は、フィルム状の支持体と、一対の対向面を有し、接着層を有する層状の転写体と、を備える。前記一対の対向面のうち第1の面は、前記支持体から剥離可能に前記支持体に接しており、前記一対の対向面のうち第2の面を含むように前記接着層が設けられている。前記接着層はコンポジットであり、第1樹脂からなる複数の樹脂粒と、第2樹脂からなり、前記樹脂粒の間の隙間を埋める層状母材と、を含む。前記第2樹脂の融点は前記第1樹脂の融点よりも低い。
【0010】
上記課題を解決するためのセキュリティ積層体は、第1ラミネート材と、第2ラミネート材と、上記転写体と、を備え、前記転写体は、前記第1ラミネート材と前記第2ラミネート材との間に位置する。
【0011】
上記課題を解決するためのセキュリティ積層体の製造方法は、フィルム状の支持体と転写体とを備える転写箔を形成することであって、前記支持体は支持面を有し、前記転写体は接写句層を含み、前記接着層は前記支持面に形成されることと、前記転写体を第1ラミネート材に転写することと、前記第1ラミネート材と第2ラミネート材とによって前記転写体を挟んだ状態で、前記第1ラミネート材と前記第2ラミネート材とを接着することと、を含む。前記接着層はコンポジットであり、第1樹脂からなる複数の樹脂粒と、第2樹脂からなり、前記樹脂粒の間の隙間を埋める層状母材とを含み、前記第2樹脂の融点は前記第1樹脂の融点よりも低い。
【0012】
上記構成によれば、転写体の一部である転写領域が被転写体に転写されるときには、接着層が加熱されることによって、樹脂粒よりも層状母材が先に溶融することで、層状母材の粘度が樹脂粒の粘度よりも低くなる。そして、接着層が加圧されることによって、層状母材を構成する第2樹脂が転写領域の内部から外部に押し出される。これにより、転写領域の内部に位置する複数の樹脂粒が互いに接触することで、複数の樹脂粒が接着する一方で、転写領域の境界では、転写領域から押し出された第2樹脂のために、複数の樹脂粒が互いに接触することが抑えられ、各樹脂粒は個別の樹脂粒として存在しやすくなる。そして、接着層のうち、各別に存在する複数の樹脂粒を含む部分では、互いに接着した複数の樹脂粒を含む部分よりも凝集破壊が起こりやすくなる。
【0013】
結果として、凝集破壊の起こりやすさの差異のために、転写領域の境界を基点とする接着層の破壊、ひいては、転写体が含む層の融点や剛性に関わらず、転写体全体の破壊が起こりやすくなり、転写によって被転写体に形成された層の輪郭の形状における精度が高められる。
【0014】
上記転写箔において、前記第1樹脂は、変性ポリオレフィン、結晶性ポリエステル、および、エチレン‐酢酸ビニル共重合体の少なくとも1つであり、前記第2樹脂は、アクリル樹脂、非結晶性ポリエステル、および、酢酸ビニル‐塩化ビニル共重合体の少なくとも1つであることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、被転写体がセキュリティ積層体の備えるラミネート材である場合に、ラミネート材に対して接着性を有した接着層を形成することができる。
【0016】
上記転写箔において、第1樹脂は、変性ポリオレフィンまたは結晶性ポリエステルであり、前記第2樹脂は、アクリル樹脂であることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、変性ポリオレフィンおよび結晶性ポリエステルの各々は、特定の溶媒の溶液において高い溶解度を有する一方で、それ以外の溶媒の溶液において低い溶解度を有する。そのため、第1樹脂として変性ポリオレフィンまたは結晶性ポリエステルを用いることによって、樹脂粒が形成されやすくなる。加えて、変性ポリオレフィンおよび結晶性ポリエステルの各々は、アクリル樹脂に対する相溶性が低いため、複数の樹脂粒と層状母材とを備える接着層が形成されやすい。
【0018】
上記転写箔において、前記第1樹脂は、結晶性ポリエステルであり、前記第2樹脂は、アクリル樹脂であることが好ましい。
【0019】
本願発明者は、第1樹脂が結晶性ポリエステルであり、かつ、第2樹脂がアクリル樹脂であるとき、被転写体に転写された転写体において、輪郭における形状の精度が大幅に高められることを見出した。この点で、上記構成によれば、被転写体に転写された転写体の輪郭における形状の精度を大幅に高めることができる。
【0020】
上記転写箔において、第1樹脂は、結晶性の樹脂であり、前記第2樹脂は、非結晶性の樹脂であることが好ましい。
【0021】
上記転写箔において、前記転写体は、凹凸を有したレリーフ面を含むとともに、紫外線硬化性樹脂と有機ケイ素化合物とから構成されるレリーフ層を含んでもよい。
【0022】
上記構成によれば、レリーフ層内において有機ケイ素化合物がシロキサン結合を形成するため、レリーフ層の熱収縮が抑えられ、レリーフ層にひびが生じることが抑えられる。
【0023】
上記転写箔において、前記転写体は、反射層を備え、前記反射層は、前記レリーフ面の少なくとも一部を覆うとともに、アルミニウムまたは硫化亜鉛から構成され、前記有機ケイ素化合物が、アミノ基を含んでもよい。
【0024】
上記転写箔において、前記転写体は、反射層を備え、前記反射層は、前記レリーフ面の少なくとも一部を覆うとともに、アルミニウムまたは二酸化チタンから構成され、前記有機ケイ素化合物は、アクリル基またはメタクリル基を含んでもよい。
【0025】
上記各構成によれば、レリーフ層と反射層との密着性が高められるため、転写体が転写されるときに、レリーフ層から反射層が剥がれることが抑えられる。
【0026】
上記転写箔において、前記レリーフ層の融点が、180℃以上であることが好ましい。
上記構成によれば、セキュリティ認証積層体を製造するときに、転写体が含むレリーフ層が加熱されたり加圧されたりしても、レリーフ層が損傷したり変形したりすることが抑えられる。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、熱および圧力に対する耐性を低下させることなく、転写によって被転写体に形成された層の輪郭の形状における精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】転写箔を具体化した第1実施形態における転写箔の構造を示す断面図。
図2図1の領域Aを拡大して示す部分拡大断面図。
図3】転写箔における接着層の一部構造を拡大して示す部分拡大平面図。
図4】第1樹脂の一例および第2樹脂の一例における温度と粘度との関係を示すグラフ。
図5】転写箔の製造方法において、支持体に剥離層を形成する工程を示す工程図。
図6】転写箔の製造方法において、剥離層に接着層を形成する工程を示す工程図。
図7】被転写体に転写箔を接触させた状態で、転写箔に熱と圧力とを加える工程を示す工程図。
図8】被転写体に転写体を転写する工程を示す工程図。
図9】転写箔に熱と圧力とを加えたときの接着層の構造を示す平面図。
図10】転写体が被転写体に転写されたときの接着層の構造を示す斜視図。
図11】接着層の一部構造を拡大して示す部分拡大平面図。
図12】転写箔を具体化した第2実施形態における転写箔の構造を示す断面図。
図13】認証証明の構造を示す平面図。
図14図13のI-I線に沿う構造を示す断面図。
図15】セキュリティ積層体の製造方法を具体化した第2実施形態における前駆層を形成する工程を示す工程図。
図16】レリーフ層を形成する工程を示す工程図。
図17】反射層を形成する工程を示す工程図。
図18】被転写体に転写体を転写する工程を示す工程図。
図19】被転写体、上側ラミネート材、第1下側ラミネート材、および、第2下側ラミネート材を一体化する工程を示す工程図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1実施形態]
図1から図11を参照して、転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法を具体化した第1実施形態を説明する。以下では、転写箔の構成、転写箔が有する各層の形成材料、セキュリティ積層体の製造方法、および、転写箔の作用を順番に説明する。なお、図2図3図9から図11では、接着層が含む樹脂粒と層状母材とを区別しやすくする便宜上、樹脂粒にドットを付している。
【0030】
[転写箔の構成]
図1から図3を参照して、転写箔の構成を説明する。なお、図2には、図1における領域Aを拡大した断面構造が示されている。
【0031】
図1が示すように、転写箔10は、フィルム状の支持体11と層状の転写体12とを備えている。支持体11は、支持面11Sを有する。転写体12は、支持面11Sからの剥離が可能な状態で支持面11Sに位置するとともに、接着層21を含んでいる。接着層21は、転写体12が有する面のうち、支持面11Sに接する面とは反対側の接着面21Sを含んでいる。
【0032】
支持体11は、1つの支持層から構成され、転写体12は、接着層21と剥離層22とから構成されている。転写体12において、剥離層22は支持面11Sに接する剥離面22Sを含み、接着層21は被転写体に接着する接着面21Sを含んでいる。転写箔10において、各層間の密着性は、支持体11と剥離層22との間において界面破壊が生じるように構成されている。
【0033】
言い換えれば、転写箔10は、フィルム状の支持体11と、一対の対向面を有し、接着層21を有する層状の転写体12とを備えている。一対の対向面のうち第1の面は、支持体11から剥離可能に支持体11に接している。一対の面のうち第2の面を含むように接着層21が設けられている。転写箔10において、剥離面22Sが第1の面の一例であり、接着面21Sが第2の面の一例である。
【0034】
支持体11は、支持層のみを含む構成に限らず、支持層と剥離層22との間に位置する中間層を有してもよい。中間層は、支持体11からの転写体12の剥離のされやすさを調節する層であってもよい。転写体12は、剥離層22と接着層21との間に位置する中間層を有してもよい。中間層は、色を有した層であってよい。この場合には、転写体12を被転写体に転写することによって、中間層の色によって情報を示す転写体12を被転写体に形成することができる。中間層の厚さは、0.5μm以上5μm以下とすることができる。
【0035】
図2が示すように、接着層21は、複数の樹脂粒21aと、樹脂粒21aの間の隙間を埋める層状母材21bとを備えている。接着層21はコンポジットである。樹脂粒21aは、第1樹脂からなり、層状母材21bは、第1樹脂よりも低い融点を有した第2樹脂からなる。第1樹脂は、結晶性の樹脂であることが好ましい。結晶性の樹脂には、結晶化度が5%以上の樹脂が挙げられる。第2樹脂は、非結晶性の樹脂であることが好ましい。非結晶性の樹脂には、結晶化度が5%未満の樹脂が挙げられる。
【0036】
接着層21の接着面21Sにおいて、複数の樹脂粒21aの一部が、層状母材21bから露出している。言い換えれば、接着層21の接着面21Sは凹凸面であり、接着面21Sは、一部の樹脂粒21aにおける外表面と、層状母材21bの外表面とから構成されている。なお、複数の樹脂粒21aの全てが層状母材21bの内部に位置してもよく、言い換えれば、接着層21の接着面21Sの全体が、層状母材21bによって構成されてもよい。
【0037】
一部の樹脂粒21aが層状母材21bから露出している構成では、全ての樹脂粒21aが層状母材21bの内部に位置する構成と比べて、接着層21の転写において、一部の樹脂粒21aが被転写体に直に接するため、接着層21のうちで被転写体に転写される部分の接着性が高まりやすい。
【0038】
図3が示すように、複数の樹脂粒21aは、接着層21のなかでランダムに位置している。言い換えれば、複数の樹脂粒21aは、接着層21のなかに規則的でない状態で位置している。複数の樹脂粒21aの間に形成される隙間は、層状母材21bによって埋められている。
【0039】
複数の樹脂粒21aには、厚さ方向に沿う断面形状が円形状である、言い換えれば球状の樹脂粒21aが含まれてもよい。これに限らず、複数の樹脂粒21aには、厚さ方向に沿う断面形状が楕円形状である、言い換えれば楕円体状の樹脂粒21aや、厚さ方向に沿う断面形状がひし形状や部分的に楕円である樹脂粒21aなどが含まれてもよい。すなわち、各樹脂粒21aは一部または全体が粒状であり、複数の樹脂粒21aにおける形状には、互いに異なる複数種類の形状が含まれてよい。
【0040】
複数の樹脂粒21aが球状を有するときには、樹脂粒21aの平均直径は、1μm以上100μm以下であることが好ましい。なお、複数の樹脂粒21aが球状以外の上述した形状を有するときには、樹脂粒21aのうち、樹脂粒21aを平面視で観察する面に投影したときの形状における最大幅の平均値が、1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0041】
[各層の形成材料]
図4を参照して、転写箔10が有する各層の形成材料を説明する。
[接着層]
上述したように、接着層21は、第1樹脂からなる複数の樹脂粒21aと、第2樹脂からなる層状母材21bとを備えている。第1樹脂は、変性ポリオレフィン、結晶性ポリエステル、および、エチレン‐酢酸ビニル共重合体の少なくとも1つであることが好ましい。第2樹脂は、アクリル樹脂、非結晶性ポリエステル、および、酢酸ビニル‐塩化ビニル共重合体の少なくとも1つであることが好ましい。
【0042】
第1樹脂は、変性ポリオレフィンまたは結晶性ポリエステルであり、第2樹脂は、アクリル樹脂であることが好ましい。
【0043】
変性ポリオレフィンおよび結晶性ポリエステルの各々は、特定の溶媒の溶液において高い溶解度を有する一方で、それ以外の溶媒の溶液において低い溶解度を有する。そのため、第1樹脂として変性ポリオレフィンまたは結晶性ポリエステルを用いることによって、樹脂粒21aが形成されやすくなる。加えて、変性ポリオレフィンおよび結晶性ポリエステルの各々は、アクリル樹脂に対する相溶性が低いため、複数の樹脂粒21aと層状母材21bとを備える接着層21が形成されやすい。
【0044】
また、第1樹脂が結晶性ポリエステルであり、第2樹脂がアクリル樹脂であるとき、接着層21において、第1樹脂の質量(M1)と第2樹脂の質量(M2)との比(M1:M2)は、3:7から7:3の範囲に含まれることが好ましい。すなわち、M1/M2が3/7から7/3の範囲に含まれることが好ましい。
【0045】
接着層21は、接着層21と剥離層22とから構成される転写体12を被転写体に取り付けるための層である。接着層21の厚さは、0.5μm以上、20μm以下が好ましい。
【0046】
転写箔10が、各種のカードおよびパスポート、査証など冊子のページの認証証明の製造に用いられるときには、被転写体には、ポリ塩化ビニル(PVC)、非晶質コポリエステル、および、ポリカーボネートから形成された被転写体が選択されることが好ましい。これらの被転写体は、積層体にすることができる。また、転写箔10は、紙幣、タグ、ラベル、シールなどの製造にも用いることができる。このとき、被転写体には、紙やプラスチックフィルムが用いられる。プラスチックフィルムには、熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)や、ポリオレフィンを用いることができる。ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレンが挙げられる。また、これらの樹脂を延伸したフィルムを被転写体とすることもできる。
【0047】
転写箔10の転写体12を被転写体に転写する工程では、転写体12を転写するときに被転写体に掛かる熱によって、被転写体が変形することを抑えるために、転写箔10は120℃以下で転写されることが好ましい。また、室温にて転写箔10が保管されている間において、意図しない転写箔10の貼り付きを抑えるために、接着層21は、80℃以上の転写温度で接着性を発現することが好ましい。そのため、第1樹脂の融点は、80℃以上120℃以下であることが好ましい。
【0048】
上述したように、被転写体の形成材料が、PVC、非晶質コポリエステル、および、ポリカーボネートであるとき、第1樹脂は、変性ポリオレフィン、結晶性ポリエステル、および、エチレン‐酢酸ビニル共重合体のいずれかであることが好ましい。これらの樹脂は、他の樹脂と比べて、被転写体の形成材料である上述した樹脂に対する高い接着性を有する点で好ましい。
【0049】
第2樹脂は、アクリル樹脂、非結晶性ポリエステル、および、酢酸ビニル‐塩化ビニル共重合体のいずれかであることが好ましい。これらの第2樹脂は、上述した被転写体の形成材料に対して、上述した第1樹脂よりも低い接着性を有する点で好ましい。なお、アクリル樹脂、酢酸ビニル‐塩化ビニル共重合体は、一般的に非結晶性である。アクリル樹脂としてはポリメチルメタクリレート樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、および、エポキシ変性アクリル樹脂が挙げられる。非結晶性ポリエステルとしては、テレフタル酸やイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸などをエチレングリコールやジエチレングリコールなどのジオール成分と共重合させ、結晶性が低くなるよう調整された樹脂が挙げられる。酢酸ビニル‐塩化ビニル共重合体には、硬質塩化ビニル、軟質塩化ビニルを用いたものが挙げられる。第2樹脂の融点は、例えば、40℃以上70℃以下である。
【0050】
第1樹脂と第2樹脂とは、被転写体に対する接着力に差を有することが好ましい。被転写体に対する第1樹脂の接着力は、被転写体に対する第2樹脂の接着力の1.5倍から2倍であることが好ましい。
【0051】
上述したように、樹脂粒21aの平均直径、あるいは、樹脂粒21aの最大幅の平均値は、1μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。樹脂粒21aの平均直径、あるいは、樹脂粒21aの最大幅の平均値が1μm以上であることによって、転写によって形成された層の輪郭の形状における精度が高まりやすくなる。また、樹脂粒21aの平均直径、あるいは、樹脂粒21aの最大幅の平均値が100μm以下であることによって、樹脂粒21aが大きいことに起因して、被転写体に対する樹脂粒21aの接着力が低くなること、および、転写によって形成された層の輪郭の形状における精度が低くなることが抑えられる。
【0052】
上述したように、接着層21において、第1樹脂の質量(M1)と第2樹脂の質量(M2)との比(M1:M2)は、3:7から7:3の範囲に含まれることが好ましく、5:5から7:3の範囲に含まれることがより好ましい。すなわち、M1/M2が5/5から7/3の範囲に含まれることがより好ましい。第1樹脂の質量と第2樹脂の質量との比が、5:5から7:3の範囲に含まれることによって、第2樹脂の質量に対して第1樹脂の質量がより小さい構成と比べて、接着層21において粒状の第1樹脂の割合が大きくなるために、接着層21の内部における凝集破壊が起こりやすくなる。結果として、転写によって形成される層の輪郭の形状における精度が高まりやすくなる。
【0053】
第1樹脂の融点と第2樹脂の融点との差Δは、50℃以上100℃以下であることが好ましい。第1樹脂の融点と第2樹脂の融点との差Δが50℃以上であることによって、粒子状の第1樹脂と、粒子間を埋める層状の第2樹脂とによる効果が得られやすい。また、第1樹脂の融点と第2樹脂の融点との差Δが100℃以下であることによって、第1樹脂が溶融しやすくなるので、被転写体に対する接着力が低くなることが抑えられる。
【0054】
第1樹脂が結晶性ポリエステルであり、かつ、第2樹脂がアクリル樹脂であることが好ましい。より具体的には、第1樹脂には、東洋紡(株)製のVYLON GM-920(VYLONは登録商標)を用いることが可能であり、VYLON GM-920の融点は、107℃である。第2樹脂には、三菱レイヨン(株)製のダイヤナール BR-102(ダイヤナールは登録商標)を用いることが可能であり、ダイヤナール BR-102のガラス転移温度は、20℃である。第1樹脂の質量と第2樹脂の質量との比は、例えば、6:4であることが好ましい。
【0055】
分子鎖が規則正しく配列された結晶状態を一定の割合で有するポリエステルを、結晶性ポリエステルという。結晶性ポリエステルの結晶状態の割合は多くても30%から45%であり、5%以上が好ましい。結晶状態となりやすいポリエステル樹脂は、ナイロン(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレン(PE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、および、ポリプロピレン(PP)などの構造を持つものである。結晶性ポリエステルにおいて、すべての部分が結晶構造ではなく、ある一定の割合で非結晶分が混在するため、光の屈折率の違いにより、僅かに濁った外観となりやすい。なお、結晶性ポリエステルには、上述したように、例えば東洋紡(株)製のVYLON GM-920が挙げられる。
【0056】
結晶性の測定には、精密には、X線回折による測定方法が挙げられる。実用的には、示差走査熱量計(DSC)による測定で、結晶状態の存在や結晶化度を求めることができる。示差走査熱量計(DSC)は、基準物質と試料とに一定の熱を与えながら、基準物質の温度と試料の温度とを測定かつ比較して、試料の熱物性を温度差として捉え、試料の状態変化による吸熱反応や発熱反応を測定する装置である。示差走査熱量計(DSC)を用いて結晶の融解に伴う吸熱ピークを測定することによって、試料における結晶状態の存在を確認することができる。また、吸熱ピークの面積から、融解熱を求めることができ、さらに、融解熱から結晶化度を導き出すことが可能である。第1樹脂および第2樹脂や、その他第一の実施形態、後述する第二の実施形態の層、ラミネート材で用いられる樹脂、材料の融点は、示差走査熱量計(DSC)により測定できる。
【0057】
図4は、第1樹脂と第2樹脂とにおいて、温度と粘度との関係を示している。なお、第1樹脂は変性ポリオレフィンの一例であり、第2樹脂はアクリル樹脂の一例である。
【0058】
第1樹脂の融点は第2樹脂の融点よりも高いため、第2樹脂は第1樹脂よりも低い温度で溶融することによって、固体の状態から液体の状態に変わる。これにより、第2樹脂の粘度は、第1樹脂の粘度と比べて、より低い温度にて固体での粘度から液体での粘度に向けて急激に低くなる。
【0059】
図4が示すように、第1樹脂の一例と第2樹脂の一例との間では、30℃から130℃までにわたって、第2樹脂の粘度は第1樹脂の粘度よりも低い。特に、40℃以上80℃以下の範囲において、第2樹脂の粘度と第1樹脂の粘度との差が顕著である。例えば、80℃において、第2樹脂の粘度は100dPa・sである一方で、第1樹脂の粘度は1400dPa・sであり、第1樹脂の粘度は、第2樹脂の粘度の14倍である。
【0060】
樹脂粒21aと層状母材21bとから構成される接着層21は、第1樹脂と第2樹脂との相溶性を用いて形成することができる。すなわち、互いに非相溶な樹脂である第1樹脂と第2樹脂とを混合することによって、樹脂粒21aと層状母材21bとから構成される接着層21を形成することができる。
【0061】
ここで、第1の樹脂と第2の樹脂とが相溶性を有するとは、第1樹脂が溶解した溶液と、第2樹脂が溶解した溶液とを混合した溶液において、混合後の溶液における透明性が、各樹脂の溶液における透明性と同じであることを意味している。また、相溶性を有するとは、第1樹脂が分散した分散液と、第2樹脂が分散した分散液とを混合した分散液において、混合後の分散液における透明性が、各樹脂の分散液における透明性と同じであることを意味している。
【0062】
または、相溶性を有するとは、上述した2つの溶液を混合した溶液において、溶媒を乾燥させることによって得られた固形物の透明性が、各溶液の透明性と同じであることを意味している。また、相溶性を有するとは、上述した2つの分散液を混合した分散液において、分散媒を乾燥させることによって得られた固形物の透明性が、各分散液の透明性と同じであることを意味している。
【0063】
2つの溶液を混合した溶液、および、2つの分散液を混合した分散液の各々が、相溶性および非相溶性のいずれであるかを判定するためには、目視による濁度法を用いることが、簡便であり、かつ、信頼性が高い点で好ましい。混合前の各溶液あるいは各分散液が透明であることを目視で判定した後、混合後の溶液あるいは分散液が混合前と同じに透明性であるか否かを目視によって判定することによって、2つの樹脂が相溶性を有するか否かを判定することができる。また、測定による評価として、混合前後の樹脂の透過率を測定し、比較することもできる。相溶性の状態を観察するには、顕微鏡を用いることができる。
【0064】
あるいは、混合後の溶液あるいは分散液を乾燥させることによって樹脂層を形成した後、樹脂層が混合前の溶液あるいは分散液と同じ透明性であるか否かを目視によって判定することによって、2つの樹脂が相溶性を有するか否かを判定することができる。いずれの場合にも、混合後の溶液あるいは分散液、または、樹脂層が、混合前の溶液あるいは分散液と同じに透明性であるとき、2つの樹脂が相溶性を有すると判定することができる。
【0065】
目視では、可視光の波長の大きさ、すなわち約500nm程度を最小の単位として見なしている。そのため、混合後の溶液、混合後の分散液、あるいは、これらの固形物が透明であるときには、可視光の波長の大きさ以上のスケールにおいて、混合後の溶液、混合後の分散液、および、これらの固形物の濃度および組成が均一である、言い換えれば相溶性を有することを表している。一方で、混合後の溶液、混合後の分散液、および、これらの固形物が不透明であるときには、混合後の溶液、混合後の分散液、および、これらの固形物の濃度および組成が不均一である、言い換えれば非相溶性であることを表している。
【0066】
なお、2つの樹脂の相溶性は、各樹脂における平均分子量、結晶性、極性、および、溶解度パラメーターを参照して調整することができる。
【0067】
一般に、平均分子量の大きい樹脂の溶解速度は低く、平均分子量の小さい樹脂の溶解速度は高い。例えば、鎖状のポリマー樹脂では、分子鎖が長い、言い換えれば平均分子量が大きいほど、ポリマー分子間での引力が大きい。そのため、ポリマー分子の平均分子量が大きいほど、溶媒の分子を用いて分子鎖の絡まりを解きほぐすことによってポリマー分子を溶媒に分散させることが難しい。
【0068】
また、ポリマー分子間の引力は、2つのポリマー分子が互いに接する面が大きいほど大きくなる。すなわち、ポリマー分子の配向性が高い、言い換えればポリマー分子の結晶性が高いほど、ポリマー分子間の引力は大きくなる。それゆえに、鎖状のポリマー樹脂では、平均分子量、言い換えれば重合度が大きいほど、また、鎖状のポリマー樹脂に含まれる結晶性を有する部分の割合が大きいほど、ポリマー樹脂が溶媒に溶けにくくなる。第1樹脂が、非結晶性の樹脂であれば、溶媒に溶けにくく、他方で第2樹脂は、非結晶性の樹脂であれば、溶媒に溶けやすくなる。その結果、非結晶性の第1樹脂は、粒状となりやすく、他方で第2樹脂は、非結晶性の樹脂は、層状母材となりやすい。
【0069】
また、2つの樹脂における相溶性を決める一因として、溶媒の分子と樹脂との親和性を挙げることができる。例えば、極性を有するポリマー樹脂は、極性を有する溶媒に溶けやすく、非極性の溶媒に溶けにくい傾向である一方で、非極性のポリマー樹脂は、非極性の溶媒に溶けやすく、極性を有する溶媒に溶けにくい傾向である。こうした親和性の強弱を判断するための因子として、溶解度パラメーター(SP値)δが知られている。溶解度パラメーターδは、以下の式(1)で表され、ポリマー樹脂における溶解度パラメーターδの値と、溶媒の分子における溶解度パラメーターδの値との差が小さいほど、原則的に溶媒に対するポリマー樹脂の溶解性は高くなる。なお、式(1)において、ΔEは蒸発エネルギーであり、Vはモル体積である。
【0070】
【数1】
【0071】
以下に、樹脂における溶解度パラメーターδの値と、溶媒における溶解度パラメーターδの値を列記する。なお、樹脂あるいは溶媒の名称に続いて鞨鼓内に記載される値が、各樹脂あるいは各溶媒における溶解度パラメーターδの値である。
【0072】
樹脂では、例えば、ポリ酢酸ビニル(9.1)、アクリル樹脂(9.2)、ポリ塩化ビニル(9.3)、ニトロセルロース(10.1)、酢酸セルロース(11)、セルロースジアセテート(11.4)、および、ポリスチレン(8.6~9.7)の各々における溶解度パラメーターδが知られている。
【0073】
溶媒では、例えば、シクロヘキサン(8.2)、酢酸ブチル(8.5)、トルエン(8.9)、酢酸エチル(9.1)、メチルエチルケトン(9.3)、テトラヒドロフラン(9.5)、アセトン(10)、エチルアルコール(12.7)、および、水(23.4)の各々における溶解度パラメーターδが知られている。
【0074】
例えば、1つの溶媒に対して1つの樹脂の溶解速度を高めたい場合には、その溶媒が有する溶解度パラメーターδとの差が小さい溶解度パラメーターδを有する樹脂を選択すればよい。一方で、1つの溶媒に対して1つの樹脂の溶解速度を低めたい場合には、その溶媒が有する溶解度パラメーターδとの差が大きい溶解度パラメーターδを有する樹脂を選択すればよい。
【0075】
このように、第1樹脂および第2樹脂として、互いに非相溶な樹脂を用いることによって、第1樹脂から形成される複数の樹脂粒21aと、第2樹脂から形成され、かつ、複数の樹脂粒21aの間の隙間を埋める層状母材21bとから構成される接着層21を形成することができる。なお、複数の樹脂粒21aと層状母材21bとを有する接着層21を形成することが可能であれば、接着層21の形成方法には他の方法を用いることができる。
【0076】
なお、第1樹脂および第2樹脂の各々は、蛍光性を有してもよい。蛍光性は、蛍光材を添加するか、分子中に蛍光性の分子構造を有することで実現できる。蛍光材には、蛍光顔料、蛍光染料がある。これにより、接着層21に励起光を当てることで、転写状態を容易に検査できる。
【0077】
[支持体]
支持体11は、被転写体に転写される前の転写体12を支持する。支持体11、言い換えれば支持層には、プラスチックフィルムを用いることができる。プラスチックフィルムの形成材料には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、および、ポリプロピレン(PP)などを用いることができる。支持体11、言い換えれば支持層は、典型的には、モノリシックな層である。なお、フィルムの形成材料は、転写体12を形成するときに支持体11に掛かる熱や圧力などによって変形したり変質したりしにくい材料であることが好ましい。支持体11には、プラスチックフィルムの他に、紙、合成紙、プラスチック複層紙、および、樹脂含浸紙などを用いることができる。
【0078】
支持体11の厚さは4μm以上であることが好ましく、12μm以上50μm以下であることがより好ましい。支持体11の厚さが4μm以上であれば、支持体11の物理的な強度が十分であるために支持体11が取り扱いにくくなることが抑えられる。
【0079】
[剥離層]
剥離層22は、支持体11からの剥離が可能な状態で転写体12を支持体11の支持面11Sに位置させるための層である。剥離層22は、支持体11から剥離され、かつ、転写体12が被転写体に転写された後、外的な要因によって接着層21が損傷することを抑える。
【0080】
剥離層22の形成材料には、樹脂と滑剤とを用いることができる。このうち、樹脂には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、および、電子線硬化性樹脂などを用いることができる。具体的には、剥離層22を形成するための樹脂には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、および、ポリアミド樹脂などを用いることができる。滑剤には、ポリエチレンパウダー、パラフィンワックス、シリコーン、および、カルナウバロウなどのワックスを用いることができる。剥離層22の厚さは、0.5μm以上5μm以下であることが好ましい。剥離層の融点は、典型的には、120℃以上、150℃以下である。
【0081】
剥離層22の形成材料には、着色材が含まれてもよい。着色材は、顔料および染料などである。顔料は、蛍光や燐光を発する顔料であってもよい。また、顔料には、無機顔料、有機顔料が用いられる。剥離層22がこうした着色材を含むことによって、剥離層22が色を有し、その色によって情報を示す転写体12を被転写体に形成することができる。剥離層22は全体で着色材を含んでいてもよいし、一部に着色材を含んでいる着色領域を有してもよい。着色領域は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。着色領域はその輪郭の形状で、情報を示すこともできる。また、それぞれの色が異なる2つ以上の着色領域を剥離層22に設けてもよい。
【0082】
[被転写体]
転写箔10の転写体が転写される被転写体には、紙やプラスチックフィルムを用いることができる。プラスチックフィルムの形成材料には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、非晶性コポリエステル(PET‐G)、および、ポリカーボネート(PC)などを用いることができる。被転写体の厚さは、50μm以上500μm以下であることが好ましく、75μm以上400μm以下であることがより好ましい。
【0083】
[セキュリティ積層体の製造方法]
図5から図8を参照して、セキュリティ積層体の製造方法を説明する。
セキュリティ積層体の製造方法は、フィルム状の支持体11の支持面11Sに接着層21を含む転写体12を形成することによって転写箔10を形成することと、転写箔10の転写体12を第1ラミネート材に転写することと、を含む。
【0084】
転写箔10を形成することは、支持面11Sに接する面とは反対側の接着面21Sを接着層21が含み、かつ、第1樹脂を含む複数の樹脂粒21aと、第1樹脂よりも低い融点を有した第2樹脂を含むとともに、樹脂粒21aの間の隙間を埋める層状の層状母材21bとを接着層21が含むように接着層21を形成することを含む。
【0085】
言い換えれば、セキュリティ積層体の製造方法は、層状の支持体11と転写体12とを備える転写箔10を形成することであって、支持体11は支持面11Sを有し、転写体12は接着層21を含み、接着層21は支持面11Sに形成されることを含む。また、セキュリティ積層体の製造方法は、転写体12を第1ラミネート材に転写することと、第1ラミネート材と第2ラミネート材によって転写体12を挟んだ状態で、第1ラミネート材と第2ラミネート材とを接着することと、を含んでもよい。接着層21は、第1樹脂からなる複数の樹脂粒と、第2樹脂からなり、樹脂粒21aの間の隙間を埋める層状母材21bと、を含み、第2樹脂の融点は第1樹脂の融点よりも低い。接着層21は、コンポジットである。
【0086】
より詳しくは、図5が示すように、セキュリティ積層体の製造方法では、まず、支持体11を準備し、支持体11の支持面11Sに剥離層22を形成する。剥離層22の形成には、印刷やコーティングを用いる。印刷として、グラビア印刷を用いることができる、コーティングとして、グラビアコーティングおよびマイクログラビアコート、ダイコーティングなどを用いることができる。また、同様に中間層も形成できる。
【0087】
図6が示すように、剥離層22のうち、支持体11の支持面11Sに接する剥離面22Sとは反対側の面に、接着面21Sを有する接着層21を形成する。接着層21の形成には、印刷やコーティングを用いる。印刷として、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、および、オフセット印刷などを用いることができる。コーティングとして、グラビアコーティングおよびマイクログラビアコーティング、リップコーティングなどを用いることができる。これにより、支持体11と転写体12とを有する転写箔10を得ることができる。
【0088】
図7が示すように、第1ラミネート材の一例である被転写体31を準備する。被転写体31は、転写箔10の転写体12が転写される被転写面31Sを有している。被転写体31の被転写面31Sに接着層21の接着面21Sを接触させた状態で、転写箔10の支持体11から転写体12に向けて熱と圧力とを加える。支持体11のうち、支持面11Sとは反対側の面にホットスタンプHを接触させ、ホットスタンプHによって、熱と、支持体11から転写体12に向かう方向の力とを転写箔10に加える。
【0089】
このとき、被転写体31の被転写面31Sと対向する平面視において、転写箔10のなかでホットスタンプHと重なる部分に熱と圧力とが加えられる。転写箔10のなかで熱と圧力とが加えられる部分が転写対象10Tであり、接着層21のなかで転写対象10Tに含まれる部分が、転写領域21Tである。
【0090】
図8が示すように、被転写体31に対する転写箔10の相対位置を変えることによって、支持体11のなかで転写対象10Tに含まれる部分と、剥離層22のなかで転写対象10Tに含まれる部分との間で、界面破壊が生じる。これにより、転写体12のうち、転写対象10Tに含まれる部分が被転写体31に転写される。これにより、セキュリティ積層体30を得ることができる。
【0091】
なお、セキュリティ積層体30では、転写体12が、画像や文字を示す形状を有することによって、セキュリティ積層体30の所有者を認証するための情報を含んでもよい。あるいは、セキュリティ積層体30では、被転写体31が、セキュリティ積層体30の所有者を認証するための情報を含んでもよい。
【0092】
[転写箔の作用]
図9から図11を参照して、転写箔10の作用を説明する。以下では、転写箔10の作用として、転写箔10における転写対象10Tを被転写体31に転写するときの接着層21の作用を説明する。なお、図9および図10では、説明の便宜上、接着層21のみを示している。また、図11には、図9における領域Bを拡大した平面構造が示されている。
【0093】
図9が示すように、転写箔10の転写対象10Tに熱および圧力が加えられるとき、接着層21の転写領域21Tに熱および圧力が加えられる。このとき、例えば、接着層21が80℃程度まで加熱される。上述したように、第2樹脂の融点は第1樹脂の融点よりも低いため、第1樹脂の粘度よりも先に、第2樹脂の粘度が、加熱前の粘度から大幅に低下する。また、第1樹脂が結晶性であり、第2樹脂が非結晶性であることは、溶融に第1樹脂が第2樹脂よりも多くの熱を必要とする。この結晶性の違いは、補助的に、第1樹脂の粘度よりも先に第2樹脂の粘度を低下させる作用がある。
【0094】
また、転写領域21Tには、熱と同時に圧力が加えられているため、粘度の低下した第2樹脂が転写領域21Tの内部から外部に押し出される一方で、第1樹脂で形成された樹脂粒21aは、転写領域21Tの内部に留まる。これにより、転写領域21Tの縁の外側における第2樹脂の比率が、転写領域21Tの内部における第2樹脂の比率よりも大きくなる。
【0095】
転写領域21Tの内部では、第2樹脂が転写領域21Tの外部に押し出されたことによって、複数の樹脂粒21aが互いに接触し、また、複数の樹脂粒21aに熱および圧力が加えられることによって、複数の樹脂粒21aが互いに接着する。これにより、転写領域21Tの内部に位置する複数の樹脂粒21aが膜状塊21cを形成し、転写領域21Tにおいて膜状塊21cが被転写体31に対する接着力を発現する。
【0096】
これに対して、転写領域21Tの縁の外側には、転写領域21Tから押し出された低粘度の第2樹脂が位置する。そのため、転写領域21Tの縁の外側では、複数の樹脂粒21aが互いに接しにくくなる。それゆえに、転写領域21Tの近傍に位置する複数の樹脂粒21aは、転写領域21Tに掛かる熱や圧力のために互いに接着することが抑えられる。つまり、各樹脂粒21aは、他の樹脂粒21aから離れた状態であって、粒状に保たれる。
【0097】
これにより、接着層21のうち、転写領域21Tの内部における破断強度と、転写領域21Tの縁の外側における破断強度とが大きく異なる。言い換えれば、転写領域21Tの内部では凝集破壊が起こりにくくなる一方で、転写領域21Tの外部では凝集破壊が起こりやすくなる。
【0098】
図10が示すように、被転写体31に対する接着層21の相対位置が変わると、転写領域21Tとその外部とにおける凝集破壊の起こりやすさの差異のために、転写領域21Tの境界を基点とする接着層21の破壊、ひいては、転写体12全体の破壊が起こりやすくなる。
【0099】
それゆえに、図11が示すように、転写領域21Tとその外部との間では、樹脂粒21aの内部ではなく、樹脂粒21aの縁、あるいは、樹脂粒21aから離れた部分、すなわち第2樹脂が充填された部分において、凝集破壊が生じる。なお、樹脂粒21aから離れた部分とは、樹脂粒21aに接していない部分である。これにより、接着層21のうちで膜状塊21cが、被転写体31に転写される。結果として、転写体12が含む層の融点や剛性に関わらず、転写によって被転写体31に形成された層の輪郭の形状における精度が高められる。
【0100】
接着層が第1樹脂あるいは第2樹脂から形成された層状である構成では、接着層における転写領域と、転写領域以外の部分との間において、破断強度に差が生じにくい。そのため、被転写体に転写された層では、ばりやかけが生じる。なお、ばりは、転写領域の輪郭から外側にはみ出た余分な部分であり、かけは、転写領域の輪郭よりも内側に窪んだ部分である。言い換えれば、被転写体に転写された層の輪郭における形状の精度が低くなる。
【0101】
これに対して、複数の樹脂粒21aと層状母材21bとから構成される接着層21では、上述した理由から、ばりやかけが生じる頻度を低くし、かつ、仮にばりやかけが生じたとしてもこれらの大きさをより小さくすることができる。言い換えれば、被転写体に転写された層の輪郭における形状の精度を高めることができる。
【0102】
[実施例]
[実施例1]
25μmの厚さを有するPETフィルム(東レ(株)製、ルミラー25T60)(ルミラーは登録商標)を支持体として準備し、グラビアを用いて、以下に示す組成の剥離層用インキを1μmの厚さで支持体の支持面に塗布した。
【0103】
剥離層用インキに含まれる溶媒を揮発させることによって除去した後、グラビアを用いて、以下に示す組成の接着層用インキを4μmの厚さで剥離層に塗布した。接着層用インキにおいて、樹脂粒を形成する第1樹脂を結晶性ポリエステルとし、層状母材を形成する第2樹脂をアクリル樹脂とした。接着層用インキにおいて、すなわち接着層において、第1樹脂の質量と第2樹脂の質量との比を1:9とした。また、樹脂粒における最大幅の平均値が10μmであった。
【0104】
なお、第1樹脂から構成される複数の樹脂粒が分散した分散液と、第2樹脂が溶解した溶液とを混合することによって、接着層用インキを得た。
【0105】
接着層用インキに含まれる溶媒を揮発させることによって除去した。これにより、実施例1の転写箔を得た。
【0106】
[剥離層用インキ]
高分子メタクリル(PMMA)樹脂
(三菱レイヨン(株)製、ダイヤナールBR100) 10部
メチルエチルケトン(東洋インキ(株)製、VC102) 90部
【0107】
[接着層用インキ]
[樹脂粒]
結晶性ポリエステル(東洋紡(株)製、VYLON GM-920)
メチルエチルケトン(東洋インキ(株)製、VC102)
[層状母材]
アクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製、ダイヤナール BR-102)
トルエン(東洋インキ(株)製、PD102)
【0108】
[実施例2]
接着層における第1樹脂の質量と第2樹脂の質量との比を3:7に変更した以外は、実施例1と同じ方法を用いて実施例2の転写箔を得た。
【0109】
[実施例3]
接着層における第1樹脂の質量と第2樹脂の質量との比を5:5に変更した以外は、実施例1と同じ方法を用いて実施例3の転写箔を得た。
【0110】
[実施例4]
接着層における第1樹脂の質量と第2樹脂の質量との比を7:3に変更した以外は、実施例1と同じ方法を用いて実施例4の転写箔を得た。
【0111】
[実施例5]
接着層における第1樹脂の質量と第2樹脂の質量との比を9:1に変更した以外は、実施例1と同じ方法を用いて実施例5の転写箔を得た。
【0112】
[比較例1]
樹脂として結晶性ポリエステル(実施例1と同じ)のみを用いて層状である接着層を形成した以外は、実施例1と同じ方法を用いて比較例1の転写箔を得た。
【0113】
[比較例2]
樹脂としてアクリル樹脂(実施例1と同じ)のみを用いて層状である接着層を形成した以外は、実施例1と同じ方法を用いて比較例2の転写箔を得た。
【0114】
[比較例3]
樹脂としてウレタン樹脂(東ソー(株)製、ニッポラン5196)(ニッポランは登録商標)のみを用いて層状である接着層を形成した以外は、実施例1と同じ方法を用いて比較例3の転写箔を得た。なお、接着層用インキとして以下の組成の接着層用インキを用いた。
【0115】
[接着層用インキ]
ウレタン樹脂(東ソー(株)製、ニッポラン5196) 20部
メチルエチルケトン(東洋インキ(株)製、VC102) 50部
トルエン(東洋インキ(株)製、PD102) 50部
【0116】
【表1】
【0117】
[評価]
100μmの厚さを有する被転写体(SABIC社製、LEXAN SD8B94)(LEXANは登録商標)を準備し、ホットスタンプ転写機を用いて各転写箔の転写体を転写した。このとき、転写温度を120℃に設定し、圧力を200Kg/cmに設定し、転写時間を1秒間に設定した。
【0118】
表1が示すように、各転写箔を用いて被転写体に形成された層の輪郭における形状を目視で確認したところ、比較例1から比較例3の各々の転写箔を用いた場合には、複数のばりと複数のかけとが認められた。すなわち、転写によって形成された層の輪郭における形状の精度が低い(×)ことが認められた。
【0119】
これに対して、実施例1および実施例5の各々の転写箔を用いて形成された層の輪郭における形状を目視で観察したところ、複数のばりと複数のかけとが認められたものの、比較例1から比較例3で認められたばりおよびかけよりも大きさが小さく、かつ、ばりおよびかけの数が少ないことが認められた。すなわち、実施例1および実施例5の各々の転写箔によれば、転写によって形成された層の輪郭における形状の精度が高められる(△)ことが認められた。
【0120】
また、実施例2から実施例4の各々の転写箔を用いて形成された層の輪郭における形状を目視で観察したところ、ばりおよびかけがほぼ形成されないことが認められた。すなわち、実施例2から実施例4の各々の転写箔によれば、転写によって形成された層の輪郭における形状の精度がさらに高められる(○)ことが認められた。
【0121】
以上説明したように、転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法の第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)凝集破壊の起こりやすさの差異のために、転写領域21Tの境界を基点とする接着層21の破壊が起こりやすくなり、ひいては、転写体12が含む層の融点や剛性に関わらず、転写体12全体の破壊が起こりやすくなる。そのため、被転写体31に転写によって形成された層の輪郭の形状における精度が高められる。
【0122】
(2)被転写体31がセキュリティ積層体に備えられるラミネート材である場合に、ラミネート材に対して接着性を有した接着層21を形成することができる。
【0123】
(3)第1樹脂が結晶性ポリエステルであり、かつ、第2樹脂がアクリル樹脂であるとき、接着層21における第1樹脂の質量と第2樹脂の質量との比が、3:7から7:3の範囲に含まれることによって、被転写体31に転写された転写体12の輪郭における形状の精度を大幅に高めることができる。
【0124】
[第2実施形態]
図12から図19を参照して、転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法の第2実施形態を説明する。第2実施形態では、第1実施形態と比べて、転写箔がレリーフ層と反射層とを有する点が異なっている。そのため、以下では、こうした相違点を詳しく説明し、第2実施形態において第1実施形態と共通する構成には同じ符号を付すことによって、その詳しい説明を省略する。なお、以下では、転写箔の構成、セキュリティ積層体の構成、セキュリティ積層体を構成する各層の形成材料、セキュリティ積層体からなる認証証明の製造方法、および、試験例を順番に説明する。
【0125】
[転写箔の構成]
図12を参照して転写箔の構成を説明する。
転写箔40は、支持体11と転写体41とを備えている。転写体41は、第1実施形態の転写箔10と同様、接着層21と剥離層22とを備え、さらに、レリーフ層51と反射層52とを備えている。転写体41において、剥離層22、レリーフ層51、反射層52、および、接着層21がこの順に積み重なっている。
【0126】
レリーフ層51は、凹凸を有したレリーフ面51Sを含むとともに、紫外線硬化性樹脂と有機ケイ素化合物とから構成されている。レリーフ層51において、紫外線硬化性樹脂の質量(M3)と有機ケイ素化合物の質量(M4)との比(M3:M4)が、3:7から9:1の範囲に含まれることが好ましい。すなわち、M3/M4が3/7から9/1の範囲に含まれることが好ましい。
【0127】
反射層52は、レリーフ面51Sの全体を覆っているが、レリーフ面51Sの少なくとも一部を覆っていればよい。反射層52の形成材料は、アルミニウム、硫化亜鉛、および、二酸化チタンのいずれかであることが好ましい。反射層52の形成材料がアルミニウムまたは硫化亜鉛であるとき、有機ケイ素化合物は、アミノ基を含むことが好ましい。反射層52の形成材料がアルミニウムまたは二酸化チタンであるとき、有機ケイ素化合物は、アクリル基またはメタクリル基を含むことが好ましい。このとき、レリーフ層51において、紫外線硬化性樹脂の質量(M3)と有機ケイ素化合物の質量(M4)との比(M3:M4)が、3:7から7:3の範囲に含まれることが好ましい。すなわち、M3/M4が3/7から7/3の範囲に含まれることが好ましい。レリーフ層51の融点は、180℃以上であることが好ましい。
【0128】
なお、転写箔40において、反射層52が割愛されてもよい。こうした構成であっても、レリーフ層51と接着層21とが互いに異なる屈折率を有していればよく、2つの層間における屈折率の差によって、レリーフ層51のレリーフ面51Sにおいて光の反射を生じさせることができる。
【0129】
[認証証明の構成]
図13および図14を参照して、認証証明の構成を説明する。なお、図14では、認証証明を構成する各層を図示する便宜上、各層の幅に対して厚さが誇張されている。
【0130】
認証証明60は、セキュリティ積層体からなる。また、認証証明60は、図13が示すように、典型的にはカードである。他の形としては、セキュリティ積層体からなる冊子のページである。カードの認証証明60としては、IDカード、クレジットカード、ライセンスカード、ポイントカードなどがある。冊子としては、パスポート、査証などがある。冊子の認証情報が記録されたページとして、認証証明60は使用できる。認証証明60は複数の情報を含んでいる。認証証明60が含む情報には、認証証明60の名称60A、画像60B、および、文字列60Cが含まれている。また、認証証明60は、上述した転写箔40の転写体41を含んでいる。
【0131】
画像60Bは、認証証明60の所有者の顔画像である。文字列60Cは、認証証明60の所有者の個人情報であって、例えば、国籍、氏名、生年月日、および、個人番号を含んでいる。文字列60Cは、個人情報における種類60C1と、認証証明60の所有者に固有の固有情報60C2とを含んでいる。なお、認証証明60が含む画像60Bは、所有者の顔画像以外の画像であってもよいし、文字列60Cは、上述した個人情報とは異なる情報であってもよい。
【0132】
図14が示すように、認証証明60は、第1ラミネート材の一例である被転写体61と、第2ラミネート材の一例である上側ラミネート材62とを備えている。また、認証証明60は、被転写体61と上側ラミネート材62との間に位置する転写体41とを備えている。
【0133】
認証証明60は、第1下側ラミネート材63および第2下側ラミネート材64を備えている。認証証明60において、第1下側ラミネート材63、第2下側ラミネート材64、被転写体61、および、上側ラミネート材62がこの順に積み重なっている。第1下側ラミネート材63、被転写体61、および、上側ラミネート材62は、例えば透明であり、第2下側ラミネート材64は、例えば白色である。
【0134】
被転写体61の被転写面61Sには、転写体41が位置し、転写体41の全体が上側ラミネート材62に覆われている。被転写体61は、レーザー光線の照射によって変色する特性を有し、レーザー光線の照射によって変色した部分である被照射領域61aを内部に含んでいる。第2下側ラミネート材64のうち、被転写体61と接する面は被印刷面64Sであり、被印刷面64Sには、印刷法を用いて形成された印刷65を有している。
【0135】
認証証明60が含む情報のうち、例えば、認証証明60の名称60A、および、文字列60Cにおける個人情報における種類60C1は、印刷65に含まれる情報である。一方で、認証証明60が含む情報のうち、例えば、画像60B、および、文字列60Cにおける固有情報60C2は、被照射領域61aに含まれる情報である。
【0136】
[各層の形成材料]
認証証明60が有する各層のうち、第1実施形態と共通する接着層21、および、剥離層22、中間層、支持体以外の層について、その形成材料を説明する。また、以下のラミネート材は、第1実施形態でも共通して用いることができる。
【0137】
[レリーフ層]
レリーフ層51は、光学的な効果を有するレリーフ構造を含むレリーフ面51Sを有する層である。
【0138】
レリーフ層の形成材料には、紫外線硬化性樹脂を用いることができる。紫外線光化性樹脂には、エチレン性不飽和結合またはエチレン性不飽和基を有するモノマー、オリゴマー、および、ポリマーなどを挙げることができる。
【0139】
モノマーには、1,6‐ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、および、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどを挙げることができる。オリゴマーには、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、および、ポリエステルアクリレートなどを挙げることができる。ポリマーには、ウレタン変性アクリル樹脂、および、エポキシ変性アクリル樹脂などを挙げることができる。
【0140】
レリーフ層の形成材料には、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることも可能である。熱可塑性樹脂には、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、および、ビニル系樹脂などを挙げることができる。熱硬化性樹脂には、ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ樹脂、および、フェノール系樹脂などが挙げることができる。
【0141】
レリーフ層51の形成材料は、上述した樹脂のうちで紫外線硬化性樹脂を含むことが好ましい。レリーフ層51の形成材料は、モノマー、多官能モノマー、および、多官能オリゴマーから構成される群から選択された少なくとも1つの紫外線硬化性樹脂を含むことが好ましい。また、レリーフ層51の形成材料は、有機ケイ素化合物を含むことが好ましい。有機ケイ素化合物は、1つの分子内に有機物に反応性を有して、有機物と結合する官能基、および、無機物と反応性を有して、無機物と結合する官能基とを有していることが好ましい。レリーフ層51の形成材料において、紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比は、3:7から9:1の範囲に含まれることが好ましい。
【0142】
一般に、紫外線硬化性樹脂の用途に応じた樹脂を選択することによって、紫外線硬化樹脂を用いて形成した層には、比較的容易に高い耐熱性を与えることができる。一方で、こうした紫外線硬化性樹脂によれば、紫外線硬化性樹脂を用いて形成した層には、高い耐熱性を与えることが可能であると同時に、高い剛性や高い強靭性が与えられることが多い。そのため、紫外線硬化性樹脂を用いて形成した層を、転写体の一部として接着層とともに被転写体に転写するときには、上述したばりやかけが生じやすくなり、転写によって形成された層のうち、紫外線硬化性樹脂を含む層の輪郭の形状における精度が低くなりやすい。
【0143】
紫外線硬化性樹脂が硬化するときには、一般に、紫外線硬化性樹脂の体積が少なからず収縮する。こうした収縮は、レリーフ層51のなかで紫外線の照射後において未硬化である部分が、被転写体61、上側ラミネート材62、第1下側ラミネート材63、および、第2下側ラミネート材64を一体化する工程において与えられる熱および圧力によって硬化することでも生じる。レリーフ層51における体積の収縮は、レリーフ層51の破壊を引き起こしやすい。
【0144】
有機ケイ素化合物のなかで、有機物と反応して有機物と結合する官能基と、無機物と反応して無機物と結合する官能基とを1つの分子内に有する有機ケイ素化合物は、シランカップリング剤と呼ばれている。
【0145】
シランカップリング剤は、1つの分子中にケイ素、有機物に反応性を有する官能基、および、無機物に反応性を有する官能基を含んでいる。有機物に反応性を有する官能基は、例えば、アミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基、および、メルカプト基などである。無機物に反応性を有する官能基は、加水分解性の原子団であって、例えば、酸素と炭化水素とを含んでいる。シランカップリング剤の1つの分子において、こうした2つの官能基が、それぞれケイ素に結合している。
【0146】
有機ケイ素化合物は、加水分解後のシラノール脱水縮合反応によって互いに結合し、シロキサン結合を形成する。プラスチックを構成するポリマーの主骨格である炭素‐炭素結合と比べて、シロキサン結合は、結合エネルギーが高く安定である。また、シロキサン結合では、炭素‐炭素結合と比べて、結合距離が長く、かつ、電子密度が低いこと、および、シロキサン結合の回転エネルギーがほぼゼロであることから、シロキサン結合における回転が容易であり、シロキサン結合の柔軟性は非常に高い。
【0147】
それゆえに、紫外線硬化性樹脂にシロキサン結合を組み込むことによって、すなわち、紫外線硬化性樹脂と有機ケイ素化合物とを混合することによって、紫外線硬化性樹脂の高い耐熱性を保持したままで、紫外線硬化性樹脂における剛性や強靭性の低減と、紫外線硬化性樹脂の硬化による収縮の低減とが可能になる。
【0148】
上述したように、レリーフ層51において、紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比は、3:7から9:1の範囲に含まれることが好ましい。紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との和が10割であるとするとき、有機ケイ素化合物の質量が1割以上であることによって、レリーフ層51の収縮によるひび割れを抑えることができる。有機ケイ素化合物の質量が7割以下であることによって、レリーフ層51における紫外線硬化性樹脂の割合が減ることによって剛性や強靱性が低下し、これにより、レリーフ層51にひび割れが生じることが抑えられる。
【0149】
上述した高い耐熱性を有する紫外線硬化性樹脂は、硬化後の状態において、反射層52の形成材料との密着性が低い傾向であることが多い。これに対して、反射層52の形成材料との密着性が高い傾向である紫外線硬化性樹脂は、耐熱性が低いために、被転写体61、上側ラミネート材62、第1下側ラミネート材63、および、第2下側ラミネート材64を一体化する工程において与えられる熱および圧力に対して十分な耐性を有することが難しい。
【0150】
上述した有機ケイ素化合物は、有機ケイ素化合物が含む官能基によって、紫外線硬化性樹脂と反射層52の形成材料との密着性を高めることができる。反射層52の形成材料がアルミニウムまたは硫化亜鉛であるとき、有機ケイ素化合物がアミノ基を含むことによって、レリーフ層51と反射層52との密着性を高めることができる。また、反射層52の形成材料がアルミニウムまたは二酸化チタンであるとき、有機ケイ素化合物がアクリル基またはメタクリル基を含むことによって、レリーフ層51と反射層52との密着性を高めることができる。
【0151】
このとき、レリーフ層51において、紫外線硬化性樹脂の質量(M3)と有樹ケイ素化合物の質量(M4)との比(M3:M4)は、3:7から7:3の範囲に含まれることが好ましい。すなわち、M3/M4が3/7から7/3の範囲に含まれることが好ましい。紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との和が10割であるとするとき、有機ケイ素化合物の質量が3割以上であることによって、反射層52とレリーフ層51との密着性を高めることができる。これにより、レリーフ層51の破壊を抑えることと、レリーフ層51と反射層52との密着性を高めることとを両立させることができる。
【0152】
レリーフ層51の融点は180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。また、レリーフ層51が融点を有しなくてもよい。融点が180℃以上であることによって、被転写体61、上側ラミネート材62、第1下側ラミネート材63、および、第2下側ラミネート材64を一体化する工程において与えられる熱および圧力に対して十分な耐性を有することができる。また、融点が200℃以上であることによって、被転写体61、上側ラミネート材62、第1下側ラミネート材63、および、第2下側ラミネート材64を一体化する工程において、レリーフ面51Sの損傷や変形がより確実に抑えられる。
【0153】
レリーフ面51Sは微細な凹凸を含み、凹凸は、光を回折させる性質、光の反射を抑制する性質、等方的なあるいは異方的な拡散光を射出する性質、光を収束させるあるいは発散させるレンズとしての性質、および、所定の偏光のみを選択的に反射する性質などのいずれかを有する形状を有するように構成されていればよい。レリーフ面51Sは、これらの性質のうち、互いに異なる性質を有する形状を有した凹凸を2つ以上含んでもよい。レリーフ層51の厚さは、1μm以上25μm以下とすることができる。
【0154】
レリーフ面51Sの凹凸に、例えば0.5μm以上2μm以下のピッチ、0.05μm以上0.5μm以下の深さで、回折格子構造の領域を設けることで、凹凸は光を回折させる性質を備える。凹凸に、例えば0.1μm以上0.5μm以下のピッチ、0.25μm以上、0.75μm以下の深さで、モスアイ構造や深い格子構造により凹凸は光の反射を抑制する性質を備える。凹凸に、例えば0.5μm以上3μm以下の平均ピッチ、0.05μm以上0.5μm以下の深さで、非周期的な線状またはドット状の繰り返し構造の領域を設けることで、凹凸は等方的なあるいは異方的な拡散光を射出する性質を備える。
【0155】
高さあるいは深さ(b)が、0.1μm以上10μm以下であり、高さまたは深さ(b)とピッチ(a)との比、すなわちアスペクト比(b/a)が、0.3以上3.0以下の同心円状のレンズ構造や、複数の直線状のプリズム構造を設けることで、凹凸は、光を収束させるあるいは発散させるレンズとしての性質を備える。凹凸に、0.1μm以上0.4μm以下のピッチ、0.25μm以上0.75μm以下の深さで、深い格子構造を設けることにより、凹凸は、所定の偏光のみを選択的に反射する性質を備える。
【0156】
レリーフ層51は、上記の構造の1つを備えてもよいし、1種類の構造を複数の領域として備えてもよいし、複数の種類の構造を複数の領域として備えてもよい。
【0157】
第2樹脂は、融点が低く、加熱により容易に流動性が高まるため、レリーフ面51Sの凹凸に沿って、接着層が密着しやすい。また、レリーフ面51Sは、凹凸がない領域を有してもよい。凹凸がない領域は、接着層を剥がす外力が生じた際に応力が集中しづらく、剥がれにくい性質がある。そのため、レリーフ面51Sの凹凸がない領域には、転写領域の剥離を防止するアンカー効果を期待できる。
【0158】
レリーフ面51Sによる光学的な効果は、目視によって認識することが可能であってもよいし、機器によって検知することが可能であってもよい。レリーフ面51Sによれば、レリーフ層51を含む認証証明60の偽造や改竄を抑えたり、意匠性を高めたりすることができる。
【0159】
[反射層]
反射層52は、レリーフ面51Sに形成されたレリーフ構造による光学的な効果を容易に視認できる程度に大きくするための層である。反射層52の形成材料は、上述したように、アルミニウム、硫化亜鉛、および、二酸化チタンのいずれかであることが好ましい。このうち、アルミニウムは、安価であり、高光沢の不透明な膜を得ることができ、かつ、取り扱いが容易である点で好ましい。硫化亜鉛および二酸化チタンは、可視光における屈折率が高く、そのため可視光での反射率を高くしやく、かつ、加工が容易である点で好ましい。反射層は、単層または多層である。反射層は、一般的に一回または多数回の蒸着、CVD、スパッタにより形成される。反射層52の厚さは、10nm以上500nm以下とすることができる。
【0160】
上述したように、反射層52は、レリーフ面51Sの全体に位置してもよいが、レリーフ面51Sの一部に位置してもよい。反射層52がレリーフ面51Sの一部にのみ位置する構成では、レリーフ面51Sと対向する平面視において、反射層52は、特定の文字や絵柄を示す形状を有することが好ましい。これにより、反射層52がレリーフ面51Sの全体に位置する構成と比べて、転写箔40の意匠性が高まり、また、反射層52を形成するための加工が複雑になるため、反射層52を含む認証証明60の偽造が抑えられる。
【0161】
[被転写体]
被転写体61の形成材料には、レーザー光線を吸収するエネルギー吸収体や、感熱性の変色材料、すなわち、熱によって第1の色から第2の色に変わる特性を有した材料が、各種の樹脂に添加された材料を用いることができる。各種の樹脂には、PET、PEN、PP、PVC、PET‐G、および、PCなどを用いることができる。被転写体61には、例えば、SABIC社製のLEXAN SD8B94を用いることができる。
【0162】
被転写体61の厚さは、50μm以上500μm以下であることが好ましく、75μm以上400μm以下であることがより好ましい。
【0163】
[ラミネート材]
上側ラミネート材62、第1下側ラミネート材63、および、第2下側ラミネート材64には、プラスチックフィルムを用いることができる。各ラミネート材の形成材料には、PET、PEN、PP、PVC、PET‐G、および、PCなどを用いることができる。このうち、PVC、PET‐G、および、PCのいずれかから形成されるプラスチックフィルムは、通常、各種カードのラミネート材やパスポートのラミネート材として用いられる。これらのプラスチックフィルムは、熱や圧力によって一体化させる加工が容易である点で好ましい。
【0164】
各ラミネート材の厚さは、50μm以上500μm以下であることが好ましく、75μm以上400μm以下であることがより好ましい。各ラミネート材の厚さが50μm以上であることによって、各ラミネート材の物理的な強度が不十分であることが抑えられ、これにより、各ラミネート材が取り扱いにくくなることが抑えられ、また、印刷65を形成するときに、ラミネート材に皺が生じにくくなる。また、各ラミネート材の厚さが500μm以下であることによって、各ラミネート材の厚さにおけるばらつきや撓みが、認証証明60を製造するための各工程における処理の精度に影響することが抑えられる。また、各ラミネート材の融点は、120℃以上250℃以下が好ましい。上述したラミネート材は、第1実施形態のセキュリティ積層体30にも用いられる。
【0165】
[印刷]
印刷65は、認証証明60に上述した各種の情報を付与する機能を有する。印刷65は、色を有してよく、また、印刷65は、認証証明60に付与したい情報に応じた形状を有していればよい。
【0166】
印刷65は、例えばインキを用いて形成される。印刷65を形成するためのインキには、オフセットインキ、活版インキ、および、グラビアインキなどを印刷方法に応じて用いることができる。また、インキには、樹脂インキ、油性インキ、および、水性インキなどをインキの組成に応じて用いることができる。さらにまた、インキには、酸化重合型インキ、浸透乾燥型インキ、蒸発乾燥型インキ、および、紫外線硬化型インキなどを乾燥方法に応じて用いることができる。印刷65は、網点や万線を用いて情報に応じた形状とすることができる。印刷65は、グラビア印刷、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷などにより形成できる。
【0167】
インキには機能性インキを用いてもよく、機能性インキを用いた印刷65によれば、印刷65に対して光が照明される角度や、印刷65が視認される角度に応じて、印刷65の色が変わる。機能性インキには、光学的変化インキ(Optical Variable Ink)、カラーシフトインキ、および、パールインキなどを用いることができる。
【0168】
印刷65は、トナーを用いた電子写真法によって形成されてもよい。この場合には、例えば、帯電したプラスチック粒子に黒鉛および顔料などの色を有した粒子を付着させたトナーを準備する。プラスチック粒子が有する静電気を用いて、トナーを被印刷体に転写する。転写したトナーを加熱することによって、被印刷体にトナーを定着させる。これにより、印刷65を形成することができる。
【0169】
[認証証明の製造方法]
図15から図19を参照して、認証証明の製造方法を説明する。なお、以下では、図示の便宜上、認証証明60が有する印刷65、および、被転写体61の被照射領域61aを省略している。
【0170】
認証証明60の製造方法は、フィルム状の支持体11の支持面11Sに接着層21を含む転写体41を形成して転写箔40を形成することと、転写箔40の転写体41を第1ラミネート材の一例である被転写体61に転写することとを含む。また、認証証明60の製造方法は、被転写体61に第2ラミネート材の一例である上側ラミネート材62を重ねることによって、被転写体61と上側ラミネート材62とによって転写体41を挟んだ状態で、被転写体61と上側ラミネート材62とを接着することと、を含む。
【0171】
転写箔40を形成することは、接着層21を形成することを含む。接着層21を形成することでは、支持面11Sに接する面とは反対側の接着面21Sを接着層21が含み、かつ、第1樹脂を含む複数の樹脂粒21aと、第1樹脂よりも低い融点を有した第2樹脂を含むとともに、樹脂粒21aの間の隙間を埋める層状を有した層状母材21bとを接着層21が含むように接着層21を形成する。
【0172】
より詳しくは、図15が示すように、第1実施形態と同様の方法で、支持体11の支持面11Sに剥離層22を形成した後、剥離層22の剥離面22Sとは反対側の面に、レリーフ層51の前駆層51Aを形成する。前駆層51Aの形成には、印刷やコーティングを用いる。印刷としては、グラビア印刷を用いることができる。コーティングとしては、グラビアコーティングおよびマイクログラビアコーティングなどを用いることができる。前駆層51Aの厚さは、1μm以上25μm以下とすることができる。
【0173】
図16が示すように、硬化前の前駆層51Aのうち、剥離層22に接する面とは反対側の面にレリーフ面51Sを形成するためのスタンパを押し当てる。そして、前駆層51Aにスタンパを押し当てた状態で、または、前駆層51Aからスタンパを離した後に、前駆層51Aに紫外線を照射する。これにより、レリーフ面51Sを有したレリーフ層51を得ることができる。
【0174】
図17が示すように、レリーフ面51Sの全体に反射層52を形成する。反射層52の形成方法には、真空蒸着法およびスパッタ法などを用いることができる。なお、レリーフ面51Sの一部に位置する反射層52は、以下の方法を用いて形成することができる。レリーフ面51Sのうち、反射層52を位置させない部分に溶解性の樹脂を塗布した後、レリーフ面51Sの全体に反射層を形成する。次いで、溶解性の樹脂と、溶解性の樹脂の上に形成された反射層とを洗浄によって除去することによって、レリーフ面51Sの一部に反射層を形成することができる。
【0175】
あるいは、反射層の形成材料がアルミニウムであるときには、レリーフ面51Sの全体にアルミニウムの薄膜を形成した後、アルミニウムの薄膜のうち、レリーフ面51Sに位置させる部分に、耐酸性の樹脂、あるいは、耐アルカリ性の樹脂を配置する。次いで、アルミニウムの薄膜を酸またはアルカリによってエッチングすることによって、レリーフ面51Sの一部に反射層を位置させることができる。
【0176】
またあるいは、レリーフ面51Sの全体にアルミニウムの薄膜を形成した後、光の露光によって溶解性が変わる樹脂をレリーフ面51Sの全体に塗布する。そして、レリーフ面51Sのうち、反射層を位置させる部分に対してマスクを用いて樹脂を露光する。次いで、反射層をエッチングし、反射層上に残った樹脂を洗浄することによって、レリーフ面51Sの一部に反射層を位置させることができる。
【0177】
図18が示すように、反射層52におけるレリーフ層51に接する面とは反対側の面に接着層21を形成した後、第1実施形態と同様の方法で、被転写体61の被転写面61Sに転写箔40の転写体41を転写する。
【0178】
図19が示すように、上側ラミネート材62、第1下側ラミネート材63、および、第2下側ラミネート材64を準備する。そして、転写体41を含む被転写体61を上側ラミネート材62と第2下側ラミネート材64とによって挟み、かつ、第2下側ラミネート材64に第1下側ラミネート材63が接する状態で、被転写体61、上側ラミネート材62、第1下側ラミネート材63、および、第2下側ラミネート材64をラミネートする。これにより、被転写体61、上側ラミネート材62、第1下側ラミネート材63、および、第2下側ラミネート材64を互いに融着する。すなわち、被転写体61と上側ラミネート材62とによって転写体41を挟んだ状態で、被転写体61と上側ラミネート材62とを融着する。これにより、図14を参照して先に説明した認証証明60を得ることができる。上記により、カードや冊子のページの認証証明60を得ることができる。
【0179】
なお、被転写体61、上側ラミネート材62、第1下側ラミネート材63、および、第2下側ラミネート材64において、被転写体61と上側ラミネート材62との間、被転写体61と第2下側ラミネート材64との間、および、第2下側ラミネート材64と第1下側ラミネート材63との間に接着剤を位置させてもよい。すなわち、接着剤を用いた接着によって、被転写体61、上側ラミネート材62、第1下側ラミネート材63、および、第2下側ラミネート材64を一体化してもよい。
【0180】
また、転写体41を被転写体61に転写し、被転写体61、上側ラミネート材62、第1下側ラミネート材63、および、第2下側ラミネート材64を一体化した後に、被転写体61にレーザー光線を照射して、被照射領域61aを形成できる。さらに、被転写体61、上側ラミネート材62、第1下側ラミネート材63、および、第2下側ラミネート材64を一体化する前に、第2下側ラミネート材64の被印刷面64Sに印刷65を形成できる。
【0181】
[試験例]
[試験例1]
実施例1と同様の方法で剥離層を形成した後、グラビアを用いて、以下に示す組成を有したレリーフ層用インキを1μmの厚さで剥離層に塗布することによって、前駆層を形成した。レリーフ層用インキにおいて、すなわちレリーフ層において、紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比を9:1とした。
【0182】
レリーフ層用インキに含まれる溶媒を揮発させることによって除去した後、レリーフ面を形成するための金属製の円筒版を、前駆層に押し当てることによってロール成形加工を行った。なお、ロール成形加工において、プレス圧力を2Kg/cmに設定し、プレス温度を240℃に設定し、プレススピードを10m/分に設定した。
【0183】
ロール成形加工の後に前駆層に365nmの波長を含む紫外光を照射し、紫外線硬化性樹脂を硬化させることによってレリーフ層を形成した。そして、実施例3と同じ方法を用いてレリーフ層のレリーフ面に接着層を形成することによって、試験例1の転写箔を得た。
【0184】
[レリーフ層用インキ]
エチレン性不飽和基を有する紫外線硬化性樹脂
有機ケイ素化合物(信越化学工業(株)製、KBM-503)
メチルエチルケトン(東洋インキ(株)製、VC102)
【0185】
実施例1と同じ条件で転写箔が備える転写体を被転写体(実施例1と同じ)に転写した。そして、100μmの厚さの上側ラミネート材(SABIC社製、LEXAN SD8B14)、100μmの厚さの第1下側ラミネート材(上側ラミネート材と同じ)、および、400μmの厚さの第2下側ラミネート材(SABIC社製、LEXAN SD8B24)を準備した。
【0186】
第1下側ラミネート材、第2下側ラミネート材、被転写体、および、上側ラミネート材をこの順に積み重ねた状態で熱と圧力とを加えてラミネートすることによって、第1下側ラミネート材、第2下側ラミネート材、被転写体、および、上側ラミネート材を一体化した。これらの層をラミネートするときには、温度を190℃に設定し、圧力を80N/cmに設定し、時間を25分間に設定した。これにより、試験例1のセキュリティ積層体を得た。
【0187】
[試験例2]
レリーフ層における紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比を7:3に変更した以外は、試験例1と同じ方法を用いて試験例2のセキュリティ積層体を得た。
【0188】
[試験例3]
レリーフ層における紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比を5:5に変更した以外は、試験例1と同じ方法を用いて試験例3のセキュリティ積層体を得た。
【0189】
[試験例4]
レリーフ層における紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比を3:7に変更した以外は、試験例1と同じ方法を用いて試験例4のセキュリティ積層体を得た。
【0190】
[試験例5]
レリーフ層の形成材料として有機ケイ素化合物を用いない以外は、試験例1と同じ方法を用いて試験例5のセキュリティ積層体を得た。
【0191】
[試験例6]
レリーフ層の形成材料として紫外線硬化性樹脂を用いない以外は、試験例1と同じ方法を用いて試験例6のセキュリティ積層体を得た。
【0192】
[試験例7]
レリーフ層における紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比を1:9に変更した以外は、試験例1と同じ方法を用いて試験例7のセキュリティ積層体を得た。
【0193】
[試験例8]
熱可塑性樹脂を用いてレリーフ層を形成する以外は、試験例1と同じ方法を用いて試験例8のセキュリティ積層体を得た。なお、試験例8では、レリーフ層用インキとして以下の組成のインキを用いた。
【0194】
[レリーフ層用インキ]
高分子メタクリル(PMMA)樹脂
(三菱レイヨン(株)製、ダイヤナールBR88) 10部
低粘性ニトロセルロース(旭化成工業(株)製、BTH1/2) 5部
シクロヘキサノン(東洋インキ(株)製、S705) 10部
メチルエチルケトン(東洋インキ(株)製、VC102) 80部
【0195】
【表2】
【0196】
[評価]
表2が示すように、試験例1から試験例4の各々のセキュリティ積層体では、レリーフ層にひび割れが生じていないことが認められた。これに対して、試験例5および試験例7の各々のセキュリティ積層体では、レリーフ層にひび割れが生じていることが認められた。
【0197】
これらのうち、試験例5のレリーフ層は、有機ケイ素化合物を含まないために、被転写体、上側ラミネート材、第1下側ラミネート材、および、第2下側ラミネート材を一体化する工程において、レリーフ層が収縮することによって、レリーフ層にひび割れが生じたと考えられる。これに対して、試験例7のレリーフ層では、紫外線硬化性樹脂の質量が小さいために、レリーフ層の剛性および強靱性が低下することによって、レリーフ層にひび割れが生じたと考えられる。
【0198】
なお、試験例8では、レリーフ層の耐熱性が低いために、被転写体、上側ラミネート材、第1下側ラミネート材、および、第2下側ラミネート材を一体化する工程において、レリーフ層が溶融したことが認められた。また、試験例6では、レリーフ層が硬化しないために、転写箔、ひいてはセキュリティ積層体を形成することができないことが認められた。
【0199】
[試験例9]
アクリル基(CH=CH-CO-)を含む有機ケイ素化合物(信越化学工業(株)製、KBM-5103)を用いる以外は、試験例3と同じ方法で剥離層およびレリーフ層を形成した後、真空蒸着法を用いてレリーフ層のレリーフ面に600Åの厚さの反射層を形成した。そして、反射層の上に接着層を形成することによって、試験例9の転写箔を得た。なお、反射層の形成材料をアルミニウム、二酸化チタン、および、硫化亜鉛のいずれかとし、反射層の形成材料が異なる3種の転写箔を得た。
【0200】
[試験例10]
メタクリル基(CH=C(CH)-CO-)を含む有機ケイ素化合物(信越化学工業(株)製、KBM-503)を用いた以外は、試験例9と同じ方法を用いて試験例10の転写箔を得た。
【0201】
[試験例11]
アミノ基(-NH)を含む有機ケイ素化合物(信越化学工業(株)製、KBM-903)を用いた以外は、試験例9と同じ方法を用いて試験例11の転写箔を得た。
【0202】
[試験例12]
官能基が付加されていない有機ケイ素化合物(試験例1と同じ)を用いた以外は、試験例9と同じ方法を用いて試験例12の転写箔を得た。
【0203】
[試験例13]
以下の構造式(1)で示すエポキシ基を含む有機ケイ素化合物(信越化学工業(株)製、KBM-403)を用いた以外は、試験例9と同じ方法を用いて試験例13の転写箔を得た。
【0204】
【化1】
【0205】
[試験例14]
メルカプト基(-SH)を含む有機ケイ素化合物(信越化学工業(株)製、KBM-803)を用いた以外は、試験例9と同じ方法を用いて試験例14の転写箔を得た。
【0206】
[試験例15]
イソシア基(-N=C=O)を含む有機ケイ素化合物(信越化学工業(株)製、KBE-9007)を用いた以外は、試験例9と同じ方法を用いて試験例15の転写箔を得た。
【0207】
[試験例16]
ビニル基(CH=CH-)を含む有機ケイ素化合物(信越化学工業(株)製、KBM-1003)を用いた以外は、試験例9と同じ方法を用いて試験例16の転写箔を得た。
【0208】
[試験例17]
シリル基((CH-Si-)を含む有機ケイ素化合物(EVONIK INDUSTRIES製、DYNASYLAN HMDS)(DYNASYLANは登録商標)を用いた以外は、試験例9と同じ方法を用いて試験例17の転写箔を得た。
【0209】
【表3】
【0210】
[評価]
被転写体(実施例1と同じ)を準備し、実施例1と同じ条件で試験例9から試験例17の各々の転写箔が備える転写体を被転写体に転写した。表3が示すように、試験例12の転写箔では、反射層の形成材料がアルミニウムおよび硫化亜鉛のいずれかであるときには、反射層のほとんどがレリーフ層から剥がれる(×)一方で、反射層の形成材料が二酸化チタンであるときには、反射層の一部がレリーフ層から剥がれる(△)ことが認められた。
【0211】
これに対して、試験例9および試験例10の転写箔の各々では、反射層の形成材料がアルミニウムおよび二酸化チタンのいずれかであるときには、反射層がレリーフ層から剥がれない(○)一方で、反射層の形成材料が硫化亜鉛であるときには、反射層のほとんどがレリーフ層から剥がれる(×)ことが認められた。また、試験例11の転写箔では、反射層の形成材料がアルミニウムおよび硫化亜鉛のいずれかであるときには、反射層がレリーフ層から剥がれない(○)一方で、反射層の形成材料が二酸化チタンであるときには、反射層の一部がレリーフ層から剥がれる(△)ことが認められた。
【0212】
さらには、試験例13から試験例17の転写箔の各々では、反射層の形成材料が、アルミニウム、二酸化チタン、および、硫化亜鉛のいずれであっても、反射層のほとんどがレリーフ層から剥がれる(×)ことが認められた。
【0213】
言い換えれば、試験例13から試験例17の転写箔の各々では、反射層が接着層とともに被転写体に転写される転写の対象である。試験例13から試験例17の転写箔の各々においては、転写によって被転写体に形成された層であって、接着層と反射層とを含む層において、輪郭における形状の精度を高めることができる。そして、反射層に加えてレリーフ層も接着層とともに被転写体に転写される転写の対象に含めたい場合には、試験例9から試験例12において得られた結果から明らかなように、有機ケイ素化合物が含む官能基によって、レリーフ層と接着層との間の密着性を高めることができる。これにより、転写によって被転写体に形成された層であって、接着層、反射層、および、レリーフ層を含む層において、輪郭における形状の精度を高めることができる。
【0214】
[試験例18]
レリーフ層における紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比を7:3に変更し、反射層の形成材料をアルミニウムとする以外は、試験例9と同じ方法を用いて試験例18の転写箔を得た。
【0215】
[試験例19]
レリーフ層における紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比を5:5に変更した以外は、試験例18と同じ方法を用いて試験例19の転写箔を得た。
【0216】
[試験例20]
レリーフ層における紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比を3:7に変更した以外は、試験例18と同じ方法を用いて試験例20の転写箔を得た。
【0217】
[試験例21]
レリーフ層における紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比を1:9に変更した以外は、試験例18と同じ方法を用いて試験例21の転写箔を得た。
【0218】
[試験例22]
レリーフ層の形成材料として有機ケイ素化合物を用いない以外は、試験例18と同じ方法を用いて試験例22の転写箔を得た。
【0219】
[試験例23]
レリーフ層の形成材料として紫外線硬化性樹脂を用いない以外は、試験例18と同じ方法を用いて試験例23の転写箔を得た。
【0220】
[試験例24]
レリーフ層における紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比を9:1に変更した以外は、試験例18と同じ方法を用いて試験例24の転写箔を得た。
【0221】
[試験例25]
レリーフ層の形成材料として熱可塑性樹脂を用いた以外は、試験例18と同じ方法を用いて試験例25の転写箔を得た。
【0222】
【表4】
【0223】
[評価]
被転写体(実施例1と同じ)を準備し、実施例1と同じ条件で試験例18から試験例25の各々の転写体を被転写体に転写した。表4が示すように、試験例18から試験例21、および、試験例25の各々の転写箔では、レリーフ層から反射層が剥離しないことが認められた。これに対して、試験例22および試験例24の各々の転写箔では、レリーフ層から反射層が剥離することが認められた。なお、試験例23では、レリーフ層が硬化しないために、転写箔を形成することができないことが認められた。
【0224】
すなわち、レリーフ層において、紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比が、1:9から7:3の範囲に含まれることによって、レリーフ層と反射層との密着性が高められることが認められた。ただし、表2が示すように、紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比が1:9であるときには、レリーフ層にひび割れが生じることが認められている。そのため、紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比が、3:7から7:3の範囲に含まれることによって、レリーフ層のひび割れを抑えることと、レリーフ層と反射層との密着性を高めることとを両立させることができる。
【0225】
なお、有機ケイ素化合物が含む官能基がアクリル基であり、かつ、反射層の形成材料がアルミニウムである場合に限らず、有機ケイ素化合物が含む官能基と反射層の形成材料とが以下の組み合わせであっても、紫外線硬化性樹脂の質量と有機ケイ素化合物の質量との比において、上述と同様の傾向が認められた。
【0226】
すなわち、有機ケイ素化合物がアクリル基を含み、かつ、反射層の形成材料が二酸化チタンである場合、および、有機ケイ素化合物がメタクリル基を含み、かつ、反射層の形成材料がアルミニウムおよび二酸化チタンのいずれかである場合にも、同様の傾向が認められた。また、有機ケイ素化合物がアミノ基を含み、かつ、反射層の形成材料がアルミニウムおよび硫化亜鉛のいずれかである場合にも、同様の傾向が認められた。
【0227】
以上説明したように、転写箔、セキュリティ積層体、および、セキュリティ積層体の製造方法の第2実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(4)レリーフ層51において、紫外線硬化性樹脂と有機ケイ素化合物とが、適切な範囲に含まれれば、レリーフ層51内において有機ケイ素化合物同士がシロキサン結合を形成し、また、レリーフ層51の熱収縮を抑える程度にシロキサン結合がレリーフ層51に含まれる。そのため、レリーフ層51の熱収縮が抑えられ、レリーフ層51にひびが生じることが抑えられる。
【0228】
(5)有機ケイ素化合物がアミノ基を含み、反射層52の形成材料がアルミニウムおよび硫化亜鉛のいずれかであり、かつ、紫外線硬化性樹脂と有機ケイ素化合物とが、適切な範囲含まれるとき、レリーフ層51と反射層52との密着性が高められる。そのため、転写体41が転写されるときに、レリーフ層51から反射層52が剥がれることが抑えられる。
【0229】
(6)有機ケイ素化合物がアクリル基およびメタクリル基のいずれかを含み、反射層52の形成材料がアルミニウムおよび二酸化チタンのいずれかであり、かつ、紫外線硬化性樹脂と有機ケイ素化合物の質量とが、適切な範囲に含まれるとき、レリーフ層51と反射層52との密着性が高められる。そのため、転写体41が転写されるときに、レリーフ層51から反射層52が剥がれることが抑えられる。
【0230】
(7)レリーフ層51の融点が180℃以上であることによって、認証証明60を製造するときに、転写体41が含むレリーフ層51が加熱されたり加圧されたりしても、レリーフ層51が損傷したり変形したりすることが抑えられる。
【符号の説明】
【0231】
10,40…転写箔、10T…転写対象、11…支持体、11S…支持面、12,41…転写体、21…接着層、21a…樹脂粒、21b…層状母材、21c…膜状塊、21S…接着面、21T…転写領域、22…剥離層、22S…剥離面、30…セキュリティ積層体、31,61…被転写体、31S,61S…被転写面、51…レリーフ層、51A…前駆層、51S…レリーフ面、52…反射層、60…認証証明、60A…名称、60B…画像、60C…文字列、60C1…種類、60C2…固有情報、61a…被照射領域、62…上側ラミネート材、63…第1下側ラミネート材、64…第2下側ラミネート材、64S…被印刷面、65…印刷。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19