(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置
(51)【国際特許分類】
H01L 51/50 20060101AFI20220323BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20220323BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
H05B33/14 B
H01L27/32
C09K11/06 620
C09K11/06 690
(21)【出願番号】P 2019517637
(86)(22)【出願日】2018-05-08
(86)【国際出願番号】 JP2018017782
(87)【国際公開番号】W WO2018207776
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2017092683
(32)【優先日】2017-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、センター・オブ・イノベーション事業「共進化社会システム創成拠点」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆嗣
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-510804(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104830320(CN,A)
【文献】国際公開第2017/043175(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/008721(WO,A1)
【文献】特開2018-92993(JP,A)
【文献】特開2018-93175(JP,A)
【文献】Siyi Wang, et al.,N,N-Diarylanilinosquaraines and Their Application to Organic Photovoltaics,Chemistry of Materials,2011年10月18日,Vol.23,pp.4789-4798,doi.org/10.1021/cm2020803
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
H01L 27/32
C09K 11/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、陰極、及び前記陽極と前記陰極との間に配置され、且つ少なくとも発光層を含む有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層は、以下の式(i)及び式(ii)を満たす第1有機化合物、第2有機化合物及び第3有機化合物を含み、
式(i):ES1(A)>ES1(B)>ES1(C)
[式(i)において、
ES1(A)は、前記第1有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、
ES1(B)は、前記第2有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、
ES1(C)は、前記第3有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表す]
式(ii):ET1(A)>ET1(B)
[式(ii)において、
ET1(A)は、前記第1有機化合物の77Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、
ET1(B)は、前記第2有機化合物の77Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表す]
前記第2有機化合物は、最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔE
STが0.3eV以下である遅延蛍光体であり、
前記第3有機化合物は、蛍光スペクトルにおける極大発光波長が700nm~1000nmの範囲にある、下記一般式(1)で表される発光体である、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】
[一般式(1)において、
A
1及びA
2は、それぞれ下記式(a)で表される基を表し、
R
1~R
8は、それぞれ水素原子又は置換基を表す]
【化2】
[式(a)において、
R
9及びR
18は、それぞれ置換基を表し、
R
10~R
17は、それぞれ水素原子又は置換基を表し、
R
9~R
18のうち隣り合う置換基は、互いに結合して環を形成してもよく、
♯は、前記一般式(1)への結合手を表す]
【請求項2】
前記式(a)のR
9及びR
18は、それぞれアルキル基である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記第2有機化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化3】
[一般式(2)において、
R
19~R
23の少なくとも一つは、シアノ基を表し、
R
19~R
23の少なくとも他の一つは、下記式(b)で表される基を表し、
残りのR
19~R
23は、それぞれ水素原子又は置換基を表す]
【化4】
[式(b)において、
R
24~R
31は、それぞれ水素原子又は置換基を表す。
但し、下記<A>と<B>の少なくとも一方を満たす。
<A> R
28及びR
29は、互いに結合して単結合を形成する
<B> R
30及びR
31は、互いに結合して置換又は無置換のベンゼン環を形成する]
【請求項4】
前記発光層は、2種類以上の前記第3有機化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記発光層は、前記第1有機化合物、前記第2有機化合物及び前記第3有機化合物以外の、1種又は2種以上の他の有機化合物をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する、表示装置。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置に関し、特に、発光効率に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子、当該有機エレクトロルミネッセンス素子が具備された表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」という)は、発光材料を含有する有機機能層を、陰極と陽極とで挟んだ構成を有し、電界を印加することにより、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子を発光層内で再結合させることで励起子を生成させ、この励起子が失活する際の光の放出を利用した発光素子である。
【0003】
有機EL素子の発光方式としては、三重項励起状態から基底状態に戻る際に光を発する「リン光発光」と、一重項励起状態から基底状態に戻る際に光を発する「蛍光発光」の二通りがある。
有機EL素子に電界をかけると、陽極と陰極からそれぞれ正孔と電子が注入され、発光層において再結合し励起子を生じる。このとき一重項励起子と三重項励起子とが25%:75%の割合で生成するため、三重項励起子を利用するリン光発光の方が、蛍光発光に比べ、理論的に高い内部量子効率が得られることが知られている。
【0004】
有機EL素子の実用化に向けた開発としては、低消費電力で効率よく高輝度に発光する技術開発が望まれており、励起三重項からのリン光発光を用いる有機EL素子の報告(M.A.Baldoet al.,Nature,395巻,151154頁(1998年))がされて以来、室温でリン光を示す材料の研究が活発になってきている。例えば、A.Tsuboyama,et al.,J.Am. Chem. Soc., 125巻,42 12971頁(2003年)では、イリジウム錯体からのリン光発光を利用した有機EL素子が報告されており、その発光色はイリジウム錯体の配位子の構造によって、青、緑、赤等の可視光領域に発光を持たせることができる。
【0005】
近年、発光素子が組み込まれたアプリケーションとしては、青、緑、赤等の可視光領域の発光を利用したアプリケーションばかりではなく、近赤外光を利用したアプリケーションも注目されている。近赤外発光する素子は、無機LEDでは既に実用化されており、例えば赤外線カメラの光源として異物検査システム等に組み込まれている。
【0006】
有機EL素子は、フレキシブル性、大面積発光や省スペース等、無機LEDにはない特徴を有するため、新たなアプリケーションへの利用が注目されている。しかしながら、近赤外発光する有機EL素子は、発光効率が低いため、開発段階に留まっている。
【0007】
従来知られている近赤外領域に発光する有機EL素子としては、例えば非特許文献1では、下記構造で表される蛍光発光材料を含む有機EL素子が開示されている。この有機EL素子は、700nmに極大発光波長を有し、1.5%の外部量子収率を有することが開示されている。
【化1】
【0008】
有機EL素子の発光効率を高める手段としては、例えば特許文献1では、ホスト材料と、発光性ドーパントと、アシストドーパント(遅延蛍光体)とを発光層の材料に用いた有機EL素子が開示されている。この有機EL素子において、アシストドーパントは、発光層での励起エネルギー移動を補完するものであり、アシストドーパントからの発光性ドーパントへのエネルギー移動により、有機EL素子の発光効率が高められることが記載されている。アシストドーパント(遅延蛍光体)としては、発光中のジュール熱や有機EL素子が置かれる環境温度によってエネルギー準位の低い三重項励起状態から一重項励起状態に逆項間交差を生じてほぼ100%に近い蛍光発光を可能とする熱励起型遅延蛍光材料(TADF)が開示されている。そのような遅延蛍光体としては、上記以外のものも知られている(例えば特許文献2、非特許文献2、非特許文献3参照)。また、発光性ドーパントとしては、下記のスクアリリウム誘導体が開示されている。
【化2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5669163号公報
【文献】特開2013-116975号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】M.Yuguang,et al.,Angew. Chem. Int. Ed.,2014,53,2119-2123
【文献】H.Uoyama,et al.,Nature,2012,492,234-238
【文献】H.Nakanоtani,et al.,Nature Communicaion,2014,5,4016-4022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、非特許文献1には、近赤外領域に発光を持つ有機EL素子が開示されているが、前述の構造を有する蛍光発光材料は、蛍光発光材料であるため励起子生成効率が低く、その構造上、蛍光量子収率も高くないことから、外部量子収率を十分に高めることができなかった。
【0012】
また、特許文献1には、有機EL素子の発光効率を高める手段が記載されているが、当該特許文献に記載されている発光性ドーパントは、緑、赤、青、黄色の化合物に限られている。例えば、前述のスクアリリウム誘導体は赤色の発光性ドーパントであり、極大発光波長が670nmであり、可視光領域にある。即ち、特許文献1に記載されている発光ドーパントは、近赤外領域に極大発光波長を有する化合物(極大発光波長が700~1000nmの化合物)ではなかった。
【0013】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、近赤外領域に発光ピークを有し、且つ高い発光効率を有する有機EL素子、表示装置及び照明装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
鋭意検討の結果、本発明者らは、特定の条件を満たす複数の有機化合物を用いることで、発光効率が高く、且つ近赤外領域に発光ピークを有する有機EL素子を提供できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0015】
[1] 陽極、陰極、及び前記陽極と前記陰極との間に配置され、且つ少なくとも発光層を含む有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光層は、以下の式(i)及び式(ii)を満たす第1有機化合物、第2有機化合物及び第3有機化合物を含み、
式(i):ES1(A)>ES1(B)>ES1(C)
[式(i)において、
ES1(A)は、前記第1有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、
ES1(B)は、前記第2有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、
ES1(C)は、前記第3有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表す]
式(ii):ET1(A)>ET1(B)
[式(ii)において、
ET1(A)は、前記第1有機化合物の77Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、
ET1(B)は、前記第2有機化合物の77Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表す]
前記第2有機化合物は、最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔE
STが0.3eV以下である遅延蛍光体であり、
前記第3有機化合物は、蛍光スペクトルにおける極大発光波長が700nm~1000nmの範囲にある、下記一般式(1)で表される発光体である、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化3】
[一般式(1)において、
A
1及びA
2は、それぞれ下記式(a)で表される基を表し、
R
1~R
8は、それぞれ水素原子又は置換基を表す]
【化4】
[式(a)において、
R
9及びR
18は、それぞれ置換基を表し、
R
10~R
17は、それぞれ水素原子又は置換基を表し、
R
9~R
18のうち隣り合う置換基は、互いに結合して環を形成してもよく、
♯は、一般式(1)への結合手を表す]
[2] 前記式(a)のR
9及びR
18は、それぞれアルキル基である、[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[3] 前記第2有機化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である、[1]又は[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化5】
[一般式(2)において、
R
19~R
23の少なくとも一つは、シアノ基を表し、
R
19~R
23の少なくとも他の一つは、下記式(b)で表される基を表し、
残りのR
19~R
23は、それぞれ水素原子又は置換基を表す]
【化6】
[式(b)において、
R
24~R
31は、それぞれ水素原子又は置換基を表す。
但し、下記<A>と<B>の少なくとも一方を満たす。
<A> R
28及びR
29は、互いに結合して単結合を形成する
<B> R
30及びR
31は、互いに結合して置換又は無置換のベンゼン環を形成する]
[4] 前記発光層は、2種類以上の前記第3有機化合物を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[5] 前記発光層は、前記第1有機化合物、前記第2有機化合物及び前記第3有機化合物以外の、1種又は2種以上の他の有機化合物をさらに含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[6] [1]~[5]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する、表示装置。
[7] [1]~[5]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する、照明装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記手段により、発光効率が高く、且つ近赤外領域に発光ピークを有する新たな有機EL素子を提供することができる。また、当該有機EL素子が具備された表示装置及び照明装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。
【
図2】
図2は、アクティブマトリクス方式による表示装置の模式図である。
【
図4】
図4は、パッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。
【
図7-1】
図7A~Cは、有機EL素子2-1~2-3の発光スペクトルの測定結果を示す図である。
【
図7-2】
図7Dは、有機EL素子2-4の発光スペクトルの測定結果を示す図である。
【
図8-1】
図8A~Cは、有機EL素子2-5~2-7の発光スペクトルの測定結果を示す図である。
【
図8-2】
図8DおよびEは、有機EL素子2-8および2-9の発光スペクトルの測定結果を示す図である。
【
図9-1】
図9A~Cは、有機EL素子2-1~2-3の各電流密度毎の外部量子効率の測定結果を示す図である。
【
図9-2】
図9Dは、有機EL素子2-4の各電流密度毎の外部量子効率の測定結果を示す図である。
【
図10-1】
図10A~Cは、有機EL素子2-5~2-7の各電流密度毎の外部量子効率の測定結果を示す図である。
【
図10-2】
図10DおよびEは、有機EL素子2-8および2-9の各電流密度毎の外部量子効率の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の一部または全部は同位体であってもよい。例えば、本発明に用いられる化合物の分子内の水素原子の全てが1Hであってもよいし、一部又は全部が2H(デューテリウムD)であってもよい。
【0019】
本発明者らは、特定の構造・条件を満たす複数の有機化合物を用いることで、発光効率が高く、且つ近赤外領域に発光ピークを有する有機EL素子を提供できることを見出した。本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0020】
本発明の有機EL素子においては、前述の式(i)及び(ii)を満たす第1有機化合物、第2有機化合物、及び第3有機化合物を含む。第1有機化合物は、ホスト化合物として機能し、分子内でホールと電子との再結合により生じた励起エネルギーを第3有機化合物に移動させうる。第2有機化合物は、遅延蛍光体であるため、分子内でホールと電子との再結合により生じた励起エネルギーを高い効率で第3有機化合物に移動させることができる。第3有機化合物は、第1有機化合物や第2有機化合物からエネルギーを受け取って一重項励起状態に遷移しうるので、励起子生成効率を高めることができる。
さらに、第3有機化合物は、窒素原子と結合するベンゼン環のオルト位に置換基を有する特定のスクアリリウム構造を有するので、励起状態での構造緩和による非輻射失活過程を抑制することができる。それにより、第3有機化合物は、近赤外領域に極大発光波長を有しつつ、高い蛍光量子収率を示す。それにより、励起一重項状態から基底状態に戻るときに、高い効率で近赤外領域に極大発光波長を有する蛍光を放射することができる。
【0021】
このように、本発明の有機EL素子は、特定の条件を満たす、少なくとも3種類の有機化合物を組み合わせることで、近赤外領域に極大発光波長を有し、且つ高い発光効率を有しうる。
【0022】
先ず初めに、本発明の技術思想と関連する、有機ELの発光方式及び発光材料について述べる。
【0023】
[有機ELの発光方式]
有機ELの発光方式としては三重項励起状態から基底状態に戻る際に光を発する「リン光発光」と、一重項励起状態から基底状態に戻る際に光を発する「蛍光発光」の二通りがある。
有機ELのような電界で励起する場合には、三重項励起子が75%の確率で、一重項励起子が25%の確率で生成するため、リン光発光の方が蛍光発光に比べ発光効率を高くすることが可能で、低消費電力化を実現するには優れた方式である。
一方、蛍光発光においても、75%の確率で生成してしまう、通常では、励起子のエネルギーが、無輻射失活により、熱にしかならない三重項励起子を、高密度で存在させることによって、二つの三重項励起子から一つの一重項励起子を発生させて発光効率を向上させるTTA(Triplet-Triplet Annihilation、また、Triplet-Triplet Fusion:「TTF」と略記する。)機構を利用した方式が見つかっている。
【0024】
さらに、近年では、安達らの発見により一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギーギャップを小さくすることで、発光中のジュール熱及び/又は発光素子が置かれる環境温度によりエネルギー準位の低い三重項励起状態から一重項励起状態に逆項間交差がおこり、結果としてほぼ100%に近い蛍光発光を可能とする現象(熱励起型遅延蛍光又は熱励起型遅延蛍光ともいう:「TADF」)とそれを可能にする蛍光物質が見いだされている(例えば、特許文献2、非特許文献2、非特許文献3等参照)。
【0025】
<リン光発光性化合物>
前述のとおり、リン光発光は発光効率的には蛍光発光よりも理論的には3倍有利であるが、三重項励起状態から一重項基底状態へのエネルギー失活(=リン光発光)は禁制遷移であり、また同様に一重項励起状態から三重項励起状態への項間交差も禁制遷移であるため、通常その速度定数は小さい。すなわち、遷移が起こりにくいため、励起子寿命はミリ秒から秒オーダーと長くなり、所望の発光を得ることが困難である。
ただし、イリジウムや白金などの重金属を用いた錯体が発光する場合には、中心金属の重原子効果によって、前記の禁制遷移の速度定数が3桁以上増大し、配位子の選択によっては、100%のリン光量子収率を得ることも可能となる。
【0026】
<蛍光発光性化合物>
一般的な蛍光発光性化合物は、リン光発光性化合物のような重金属錯体である必要性は特になく、炭素、酸素、窒素及び水素などの一般的な元素の組み合わせから構成される、いわゆる有機化合物が適用でき、さらに、リンや硫黄、ケイ素などその他の非金属元素を用いることも可能で、また、アルミニウムや亜鉛などの典型金属の錯体も活用できるなど、その多様性はほぼ無限と言える。
ただし、従来の蛍光化合物では前記のように励起子の25%しか発光に適用できないために、リン光発光のような高効率発光は望めない。
【0027】
<遅延蛍光化合物>
(励起三重項-三重項消滅(TTA)遅延蛍光化合物)
蛍光発光性化合物の問題点を解決すべく登場したのが遅延蛍光を利用した発光方式である。三重項励起子同士の衝突を起源とするTTA方式は、下記のような一般式で記述できる。すなわち、従来、励起子のエネルギーが、無輻射失活により、熱にしか変換されなかった三重項励起子の一部が、発光に寄与しうる一重項励起子に逆項間交差できるメリットがあり、実際の有機EL素子においても従来の蛍光発光素子の約2倍の外部取り出し量子効率を得ることができている。
一般式: T* + T* → S* + S
(式中、T*は三重項励起子、S*は一重項励起子、Sは基底状態分子を表す。)
しかしながら、上式からもわかるように、二つの三重項励起子から発光に利用できる一重項励起子は一つしか生成しないため、この方式で100%の内部量子効率を得ることは原理上できない。
【0028】
(熱活性型遅延蛍光(TADF)化合物)
もう一つの高効率蛍光発光であるTADF方式は、TTAの問題点を解決できる方式である。
蛍光発光性化合物は前記のごとく無限に分子設計できる利点を持っている。すなわち、分子設計された化合物の中で、特異的に三重項励起状態と一重項励起状態のエネルギー準位差が極めて近接する化合物が存在する。
このような化合物は、分子内に重原子を持っていないにもかかわらず、ΔESTが小さいために通常では起こりえない三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差が起こる。さらに、一重項励起状態から基底状態への失活(=蛍光発光)の速度定数が極めて大きいことから、三重項励起子はそれ自体が基底状態に熱的に失活(無輻射失活)するよりも、一重項励起状態経由で蛍光を発しながら基底状態に戻る方が速度論的に有利である。そのため、TADFでは理論的には100%の蛍光発光が可能となる。
【0029】
次に、本発明の有機EL素子について詳細に説明する。
【0030】
[有機EL素子]
本発明の有機EL素子は、陽極と、陰極と、それらの間に配置され、且つ少なくとも発光層を含む有機層とを有する。
【0031】
有機層は、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層以外に1層以上の他の層をさらに有するものであってもよい。他の層の例には、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、及び励起子阻止層等が含まれる。正孔輸送層は、正孔注入機能を有する正孔注入輸送層であってもよく、電子輸送層は、電子注入機能を有する電子注入輸送層であってもよい。
【0032】
(発光層)
発光層は、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子とが再結合することにより励起子が生成した後、発光する層である。
【0033】
発光層は、以下の式(i)及び式(ii)を満たす第1有機化合物と第2有機化合物と第3有機化合物とを少なくとも含む。第2有機化合物は遅延蛍光体であり、第3有機化合物は発光体である。
式(i) ES1(A)>ES1(B)>ES1(C)
式(ii) ET1(A)>ET1(B)
【0034】
式(i)において、ES1(A)は、第1有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、ES1(B)は、第2有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表し、ES1(C)は、第3有機化合物の最低励起一重項エネルギー準位を表す。
式(ii)において、ET1(A)は、第1有機化合物の77Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、ET1(B)は、第2有機化合物の77Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表す。第2有機化合物の77Kにおける最低励起三重項エネルギー準位ET1(B)と、第3有機化合物の77Kにおける最低励起三重項エネルギー準位ET1(C)の関係は特に制限されないが、例えばET1(B)>ET1(C)となるように選択してもよい。
【0035】
本発明における「遅延蛍光体」は、励起三重項状態に遷移した後、励起一重項状態に逆項間交差することができ、励起一重項状態から基底状態に戻るときに蛍光を放射する有機化合物のことをいう。尚、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差により生じる光の寿命は、通常の蛍光(即時蛍光)やリン光よりも長くなるため、これらよりも遅延した蛍光として観察される。このような蛍光を「遅延蛍光」と称する。
【0036】
遅延蛍光体であるかどうかは、例えば蛍光減衰測定を行ったときに、放射される蛍光の減衰速度の異なる成分が2種類以上あることによって確認することができる。減衰が遅い成分は、一般的には減衰時間がサブマイクロ秒以上であることが多い。
【0037】
蛍光減衰測定は、以下のように行うことができる。即ち、測定対象化合物の溶液若しくは薄膜、又は測定対象化合物と第二成分との共蒸着膜に、窒素雰囲気下で励起光を照射し、ある発光波長の光子数を計測する。このとき、放射される蛍光の減衰速度の異なる成分が2種類以上ある場合に、測定対象化合物が遅延蛍光性を示すと判断することができる。
【0038】
このような発光層は、式(i)及び(ii)のエネルギー準位の関係を満たす第1有機化合物、第2有機化合物及び第3有機化合物を含み、第2有機化合物が遅延蛍光体であり、且つ第3有機化合物が一般式(1)で表される特定の化合物であることにより、該発光層に注入されたホールと電子との再結合によって生じた励起エネルギーが効率よく蛍光に変換され、高い発光効率を得ることができる。これは以下の理由によるものと考えられる。
【0039】
即ち、このような発光層では、ホール及び電子の再結合によって励起エネルギーが発生すると、発光層に含まれる各有機化合物が基底状態から励起一重項状態及び励起三重項状態に遷移する。励起一重項状態の有機化合物(一重項励起子)と励起三重項状態の有機化合物(三重項励起子)との形成確率は、統計的に一重項励起子が25%、三重項励起子が75%である。そして、励起子のうち励起一重項状態の第1有機化合物及び第2有機化合物のエネルギーが第3有機化合物に移動し、基底状態の第3有機化合物が励起一重項状態に遷移する。励起一重項状態になった第3有機化合物は、その後基底状態に戻るときに蛍光を放射する。
【0040】
このとき、本発明の有機EL素子では、第2有機化合物が遅延蛍光体であるため、励起三重項状態の第2有機化合物が励起一重項状態に逆項間交差し、この逆項間交差による一重項励起エネルギーも第3有機化合物に移動する。このため、存在比率の大きい励起三重項状態の第2有機化合物のエネルギーも間接的に発光に寄与し、発光層が第2有機化合物を含まない構成に比べて励起子生成効率を高めることができ、有機EL素子の発光効率を飛躍的に向上させることができる。
【0041】
また、第3有機化合物が、窒素原子と結合するベンゼン環のオルト位に置換基を有する、特定のスクアリリウム構造を有するので、励起状態での構造緩和による非輻射失活過程を抑制することができる。それにより、第3有機化合物は近赤外領域に極大発光波長を有しつつ、高い蛍光量子収率を有する。
【0042】
尚、本発明の有機EL素子において、発光は主として第3有機化合物から生じるが、発光の一部は、第1有機化合物及び第2有機化合物から生じてもかまわない。また、その場合の発光は、蛍光発光及び遅延蛍光発光の両方を含む。但し、本発明の有機EL素子に含まれる複数の有機化合物から発光する場合であって、そのうちの最も短波長の発光が遅延蛍光体からの発光を含む場合は、当該遅延発光体からの発光強度は、全発光強度の20%以上とはならないものとする。当該遅延発光体からの発光強度が20%以上である場合、発光層でのエネルギー移動効率が悪く、発明の効果が十分には得られにくいためである。当該遅延発光体からの発光強度を全発光強度の20%未満とするためには、例えば第2有機化合物の発光スペクトルと第3有機化合物の吸収スペクトルの重なりが一定以上となるように、第2有機化合物と第3有機化合物とを選択すればよい。
【0043】
発光層の層厚の総和は、特に制限はないが、形成する膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、且つ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2nm~5μmの範囲に調整されることが好ましく、より好ましくは2~500nmの範囲に調整され、更に好ましくは5~200nmの範囲に調整される。
【0044】
本発明に用いられる発光層は、一層でもよいし、複数の層から構成されてもよい。
【0045】
発光層が複数ある場合、各発光層の層厚としては、2nm~1μmの範囲に調整されることが好ましく、より好ましくは2~200nmの範囲に調整され、更に好ましくは3~150nmの範囲に調整される。
【0046】
以下、第1有機化合物、第2有機化合物及び第3有機化合物について、具体的に説明する。
【0047】
《第1有機化合物》
第1有機化合物は、第2有機化合物及び第3有機化合物よりも高い最低励起一重項エネルギーを有し、第2有機化合物よりも高い最低励起三重項エネルギーを有する有機化合物であり、キャリアの輸送を担うホスト材料としての機能や第3有機化合物のエネルギーを該化合物中に閉じ込める機能を有する。これにより、第3有機化合物は、分子内でホールと電子とが再結合することによって生じたエネルギー、及び、第1有機化合物及び第2有機化合物から受け取ったエネルギーを効率よく発光に変換することができ、発光効率が高い有機EL素子を実現することができる。
【0048】
第1有機化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、且つ発光の長波長化を防ぎ、且つ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。第1有機化合物のガラス転移温度は、好ましくはTgが90℃以上であり、より好ましくは120℃以上である。ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121-2012に準拠した方法により求められる値である。
【0049】
第1有機化合物は、発光層内においてキャリアの輸送及び励起子の生成を担う。そのため、カチオンラジカル状態、アニオンラジカル状態、及び励起状態の全ての活性種の状態において安定に存在でき、分解や付加反応等の化学変化を起こさないこと、さらに、層中において通電経時でホスト分子がオングストロームレベルで移動しないことが好ましい。
【0050】
また、第2有機化合物が遅延蛍光体(TADF化合物)であり、三重項励起状態の存在時間が長いことから、前述したように、第1有機化合物自体のT1エネルギー準位が高いことも必要となる。
【0051】
このような要件を満たすためには、第1有機化合物自体の電子又は正孔のホッピング移動性が高いこと、且つ三重項励起状態となったときの構造変化が小さいこと等が必要である。このような要件を満たす第1有機化合物としては、アルミニウム錯体、ベリリウム錯体、若しくは亜鉛錯体等の金属錯体や;オキサジアゾール、ベンゾイミダゾール、フェナントロリン等の複素環化合物に由来する骨格;カルバゾール、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、スピロ-ビフルオレン等の縮合芳香族化合物に由来する骨格;又はトリアリールアミン、縮合多環芳香族アミン等の芳香族アミン化合物に由来する骨格を有する化合物が挙げられる。これらの骨格は、1種類のみ含まれてもよいし、2種類以上が含まれてもよい。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0052】
《第2有機化合物》
第2有機化合物は、第1有機化合物よりも低く、第3有機化合物よりも高い最低励起一重項エネルギーを有し、第1有機化合物よりも低い最低励起三重項エネルギーを有する遅延蛍光体である。また、第2有機化合物は、最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔESTが0.3eV以下である遅延蛍光体である。
【0053】
また、第2有機化合物は、最低励起一重項状態でのエネルギー準位ES1(A)と77Kの最低励起三重項状態でのエネルギー準位ET1(A)の差ΔESTが0.3eV以下であることが好ましく、0.2eV以下であることがより好ましく、0.1eV以下であることがさらに好ましく、0.08eV以下であることがさらにより好ましい。エネルギー差ΔESTが前記範囲の遅延蛍光体は、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差が比較的容易に起こり、その励起三重項エネルギーを効率よく発光に寄与させることができる。
【0054】
遅延蛍光体のΔESTは、上記最低励起一重項エネルギー準位ES1(A)と、77Kにおける最低励起三重項エネルギー準位ET1(A)を、下記式に当てはめて求めることができる。
ΔEST=|ES1(A)-ET1(A)|
【0055】
第2有機化合物として用いる遅延蛍光体は、前述の式(i)及び(ii)を満たし、且つΔESTが0.3eV以下を満たす遅延蛍光体であれば特に制限されないが、ドナー部位とアクセプター部位を有する化合物であることが好ましい。アクセプター部位となる骨格の例には、1又は2以上のシアノ基で置換されたベンゼン骨格、アントラセン-9、10-ジオン骨格、ジベンゾ[a,j]フェナジン骨格、2,3-ジシアノピラジン骨格、2,3-ジシアノピラジノフェナンスレン骨格、トリアジン骨格等が挙げられる。ドナー部位となる骨格の例には、置換されていてもよいカルバゾリル基、置換されていてもよいジアリールアミノ基、置換されていてもよいフェノキサジニル基、置換されていてもよいフェノチアジニル基、置換されていてもよいアクリジノニル基、或いはこれらの基で置換されたアリール基等が含まれる。
【0056】
遅延蛍光体の具体的な例としては、例えば、特許第5669163号の一般式(1)(段落0021)、一般式(9)(段落0044)、一般式(101)(段落0055、後述する一般式(2)と同じ)、一般式(131)(段落0064)、一般式(141)(段落0066)、一般式(151)(段落0078)、一般式(161)(段落0084)、一般式(191)(段落0103)、一般式(201)(段落0109)、一般式(211)(段落0135)、一般式(221)(段落0139)、一般式(231)(段落0141)、一般式(241)(段落0146)、一般式(251)(段落0151)、一般式(271)(段落0154)、一般式(281)(段落0180)、一般式(291)(段落0194)、一般式(301)(段落0196)、一般式(311)(段落0206)、J.Am.Chem.Soc.2014,136,18070-18081.、Adv.Mater.2013,25,3319-3323.、Angew.Chem.lnt.Ed.2016,55,5739-5744.、Angew.Chem.lnt.Ed.2015,54,13068-13072.に記載の遅延蛍光体を好ましく用いることができる。中でも、特許第5669163号の一般式(101)(段落0055、後述する一般式(2)と同じ)、一般式(212)(段落0135)、一般式(131)(段落0064)、Angew.Chem.lnt.Ed.2016,55,5739-5744.に記載の化合物T-2、J.Am.Chem.Soc.2014,136,18070-18081.に記載の化合物T-3、Angew.Chem.lnt.Ed.2015,54,13068-13072.に記載の化合物TPA-DCPPを挙げることができる。
【化11】
【0057】
中でも、第2有機化合物として用いられる遅延発光体は、下記一般式(2)で表される化合物であることがより好ましい。
【化12】
【0058】
一般式(2)において、R
19~R
23の少なくとも一つは、シアノ基を表す。R
19~R
23の少なくとも他の一つは、下記式(b)で表される基を表す。残りのR
19~R
23は、それぞれ水素原子又は置換基を表す。
【化13】
【0059】
式(b)において、R24~R31は、それぞれ水素原子又は置換基を表す。但し、下記<A>と<B>の少なくとも一方を満たす。
<A> R28及びR29は、互いに結合して単結合を形成する
<B> R30及びR31は、互いに結合して置換又は無置換のベンゼン環を形成する
【0060】
式(b)で表される基は、下記一般式(b-1)~(b-4)のいずれかで表される基であることが好ましい。
【化14】
【0061】
式(b-1)において、R41~R48は、それぞれ水素原子又は置換基を表す。
【0062】
【0063】
式(b-2)において、R51~R56は、それぞれ水素原子又は置換基を表す。
【0064】
【0065】
式(b-3)において、R61~R72は、それぞれ水素原子又は置換基を表す。
【0066】
【0067】
式(b-4)において、R81~R90は、それぞれ水素原子又は置換基を表す。
【0068】
一般式(2)のR19~R23、式(b)のR24~R31、式(b-1)のR41~R48、式(b-2)のR51~R56、式(b-3)のR61~R72、及び式(b-4)のR81~R90で表される置換基の例には、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1~20の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、炭素原子数6~40の置換若しくは無置換のアリール基、炭素原子数3~40の置換若しくは無置換のヘテロアリール基、炭素原子数1~20のジアルキル置換アミノ基等が含まれる。中でも、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、炭素原子数1~10の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素原子数1~10の置換若しくは無置換のアルコキシ基、炭素原子数6~15の置換若しくは無置換のアリール基、炭素原子数3~12の置換若しくは無置換のヘテロアリール基が好ましい。
【0069】
一般式(2)で表される化合物の例には、以下のものが含まれる。尚、これら以外にも、特許第5669163号の一般式(101)で表される化合物として例示された化合物を用いることができる。
【表1】
【0070】
《第3有機化合物》
第3有機化合物は、第1有機化合物及び第2有機化合物よりも低い最低励起一重項エネルギーを有する発光体である。第3有機化合物は、励起一重項状態の第1有機化合物及び第2有機化合物と、励起三重項状態から逆項間交差して励起一重項状態になった第2有機化合物からエネルギーを受け取って一重項励起状態に遷移し、その後基底状態に戻るときに蛍光を放射する。第3有機化合物は、式(i)の関係を満たすものであれば2種以上を用いてもよい。例えば、発光色が異なる2種以上の第3有機化合物を併用することにより、所望の色を発光させることが可能になる。
【0071】
第3有機化合物の発光色は、近赤外色である。具体的には、第3有機化合物の蛍光スペクトルにおける極大発光波長は、700~1000nmの範囲にある。
【0072】
第3有機化合物の発光色は、以下の方法で確認することができる。
第3有機化合物を1質量%、CBPを99質量%の薄膜をSi基板上に塗布または蒸着により作製する。この試料の蛍光スペクトルを、蛍光分光光度計(堀場製作所社製:FluoroMax-4)を用いて、常温(300K)にて測定する。
そして、極大発光波長(発光強度が最大となる波長;「発光ピーク波長」ともいう)が700nm~1000nmの範囲内にあるとき、近赤外色と判断する。
【0073】
極大発光波長を700~1000nmとするためには、第3有機化合物は、下記一般式(1)の構造を有することが好ましい。
【0074】
即ち、第3有機化合物は、蛍光スペクトルにおける極大発光波長が700~1000nmの範囲にある、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化18】
【0075】
一般式(1)において、R1~R8は、それぞれ水素原子又は置換基を表す。R1~R8で表される置換基の数は、特に制限されない。置換基が2つ以上ある場合、それらの置換基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0076】
置換基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、芳香族炭化水素基(芳香族炭化水素環基、芳香族炭素環基、アリール基等ともいい、例えば、フェニル基、p-クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等)、芳香族複素環基(例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基(例えば、1,2,4-トリアゾール-1-イル基、1,2,3-トリアゾール-1-イル基等)、ピラゾロトリアゾリル基、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チエニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等)、複素環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2-ピリジルアミノスルホニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2-エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2-エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2-エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2-ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基ナフチルウレイド基、2-ピリジルアミノウレイド基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2-エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2-ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2-エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基又はヘテロアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2-ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジタートブチル基、シクロヘキシルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2-エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2-ピリジルアミノ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、フッ化炭化水素基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等)、ホスホノ基等が挙げられる。好ましくは、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子が挙げられる。また、これらの置換基は、上記の置換基によってさらに置換されていてもよい。
【0077】
中でも、R1及びR5は、それぞれ水素原子であることが好ましく;R4及びR8は、それぞれ水素原子又は置換基であることが好ましく;R2、R3、R6及びR7は、水素原子であることが好ましい。
【0078】
一般式(1)において、A
1及びA
2は、それぞれ式(a)で表される基である。
【化19】
【0079】
式(a)において、R9及びR18は、それぞれ置換基を表す。このように、式(a)において、窒素原子と結合するアリール基のオルト位(R9及びR18)に置換基を導入することで、励起状態での構造緩和による非輻射失活過程が抑制されることから、近赤外領域に極大発光波長を有し、且つ蛍光量子効率が高い有機EL素子を得ることができる。R10~R17は、それぞれ水素原子又は置換基を表す。♯は、一般式(1)への結合手を表す。
【0080】
R9~R18で表される置換基の数は、特に制限されない。置換基が2つ以上ある場合、それらの置換基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。置換基が2つ以上ある場合、隣り合う置換基は、互いに結合して環を形成してもよい。形成される環は、芳香族環であってもよいし、脂肪族環であってもよく、好ましくは芳香族環である。R9~R18で表される置換基としては、上記R1~R8で表される置換基と同様のものを挙げることができ、好ましい範囲を参照することができる。
【0081】
中でも、R9及びR18は、アルキル基であることが好ましい。アルキル基の炭素原子数は、1~20であることが好ましく、1~10であることがより好ましく、1~5であることがさらに好ましい。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
【0082】
以下に本発明で好ましく用いられる一般式(1)で表される第3有機化合物を例に挙げるが、本発明はこれに限定されない。
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【0083】
《第1有機化合物、第2有機化合物、第3有機化合物の含有量》
発光層に含まれる各有機化合物の含有量は、特に限定されないが、第2有機化合物の含有量は第1有機化合物の含有量よりも少ないことが好ましい。これにより、より高い発光効率を得ることができる。具体的には、第1有機化合物の含有量W1と第2有機化合物の含有量W2と第3有機化合物の含有量W3の合計重量を100質量%としたとき、第1有機化合物の含有量W1は15質量%以上、94.9質量%以下であることが好ましく、第2有機化合物の含有量W2は5.0質量%以上、50質量%以下であることが好ましく、第3有機化合物の含有量W3は0.1質量%以上、5.0質量%以下であることが好ましい。
【0084】
《この他の有機化合物》
発光層は、第1有機化合物、第2有機化合物及び第3有機化合物のみから構成されていてもよいし、第1有機化合物、第2有機化合物及び第3有機化合物以外の有機化合物をさらに含んでいてもよい。第1有機化合物、第2有機化合物及び第3有機化合物以外の有機化合物としては、例えば正孔輸送能を有する有機化合物、電子輸送能を有する有機化合物等を挙げることができる。正孔輸送能を有する有機化合物、電子輸送能を有する有機化合物としては、下記の正孔輸送材料、電子輸送材料をそれぞれ用いることができる。
【0085】
<有機EL素子の層構成>
本発明の有機EL素子における代表的な素子構成としては、以下の構成を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(3)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/(電子阻止層/)発光層/(正孔阻止層/)電子輸送層/電子注入層/陰極
上記の中で(7)の構成が好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
本発明に用いられる発光層は、単層又は複数層で構成されており、発光層が複数の場合は各発光層の間に非発光性の中間層を設けてもよい。
【0086】
必要に応じて、発光層と陰極との間に正孔阻止層(正孔障壁層ともいう)や電子注入層(陰極バッファー層ともいう)を設けてもよく、また、発光層と陽極との間に電子阻止層(電子障壁層ともいう)や正孔注入層(陽極バッファー層ともいう)を設けてもよい。
本発明に用いられる電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する層であり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
本発明に用いられる正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する層であり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
上記の代表的な素子構成において、陽極と陰極を除いた層を「有機層」ともいう。
【0087】
(タンデム構造)
また、本発明の有機EL素子は、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数積層した、いわゆるタンデム構造の素子であってもよい。
タンデム構造の代表的な素子構成としては、例えば以下の構成を挙げることができる。
陽極/第1発光ユニット/中間層/第2発光ユニット/中間層/第3発光ユニット/陰極
ここで、上記第1発光ユニット、第2発光ユニット及び第3発光ユニットは全て同じであっても、異なっていてもよい。また二つの発光ユニットが同じであり、残る一つが異なっていてもよい。
複数の発光ユニットは直接積層されていても、中間層を介して積層されていてもよく、中間層は、一般的に中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層とも呼ばれ、陽極側の隣接層に電子を、陰極側の隣接層に正孔を供給する機能を持った層であれば、公知の材料構成を用いることができる。
【0088】
中間層に用いられる材料としては、例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、ZnO2、TiN、ZrN、HfN、TiOx、VOx、CuI、InN、GaN、CuAlO2、CuGaO2、SrCu2O2、LaB6、RuO2、Al等の導電性無機化合物層や、Au/Bi2O3等の2層膜や、SnO2/Ag/SnO2、ZnO/Ag/ZnO、Bi2O3/Au/Bi2O3、TiO2/TiN/TiO2、TiO2/ZrN/TiO2等の多層膜、またC60等のフラーレン類、オリゴチオフェン等の導電性有機物層、金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類、無金属ポルフィリン類等の導電性有機化合物層等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
発光ユニット内の好ましい構成としては、例えば、上記の代表的な素子構成で挙げた(1)~(7)の構成から、陽極と陰極を除いたもの等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0089】
タンデム型有機EL素子の具体例としては、例えば、米国特許第6337492号、米国特許第7420203号、米国特許第7473923号、米国特許第6872472号、米国特許第6107734号、米国特許第6337492号、国際公開第2005/009087号、特開2006-228712号公報、特開2006-24791号公報、特開2006-49393号公報、特開2006-49394号公報、特開2006-49396号公報、特開2011-96679号公報、特開2005-340187号公報、特許第4711424号、特許第3496681号、特許第3884564号、特許第4213169号、特開2010-192719号公報、特開2009-076929号公報、特開2008-078414号公報、特開2007-059848号公報、特開2003-272860号公報、特開2003-045676号公報、国際公開第2005/094130号等に記載の素子構成や構成材料等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0090】
以下、本発明の有機EL素子を構成する、発光層以外の各層について説明する。
【0091】
(陽極)
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上、好ましくは4.5eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムスズ酸化物(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。
陽極の膜厚は材料にもよるが、通常10nm~1μm、好ましくは10~200nmの範囲内で選ばれる。
【0092】
(陰極)
陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
【0093】
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させることで作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。
なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陰極に上記金属を1~20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げる導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0094】
(電子輸送層)
本発明において電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する材料からなり、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。
本発明に係る電子輸送層の総層厚については特に制限はないが、通常は2nm~5μmの範囲であり、より好ましくは2~500nmであり、さらに好ましくは5~200nmである。
また、有機EL素子においては発光層で生じた光を電極から取り出す際、発光層から直接取り出される光と、光を取り出す電極と対極に位置する電極によって反射されてから取り出される光とが干渉を起こすことが知られている。光が陰極で反射される場合は、電子輸送層の総層厚を数nm~数μmの間で適宜調整することにより、この干渉効果を効率的に利用することが可能である。
一方で、電子輸送層の層厚を厚くすると電圧が上昇しやすくなるため、特に層厚が厚い場合においては、電子輸送層の電子移動度は10-5cm2/Vs以上であることが好ましい。
電子輸送層に用いられる材料(以下、電子輸送材料という)としては、電子の注入性又は輸送性、正孔の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0095】
例えば、含窒素芳香族複素環誘導体(カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体(カルバゾール環を構成する炭素原子の一つ以上が窒素原子に置換されたもの)、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリダジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、アザトリフェニレン誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体等)、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、シロール誘導体、芳香族炭化水素環誘導体(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、トリフェニレン誘導体等)等が挙げられる。
【0096】
また、配位子にキノリノール骨格やジベンゾキノリノール骨格を有する金属錯体、例えば、トリス(8-キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7-ジクロロ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7-ジブロモ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、ビス(8-キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型-Si、n型-SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
また、これらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0097】
本発明に係る電子輸送層においては、電子輸送層にドープ材をゲスト材料としてドープして、n性の高い(電子リッチ)電子輸送層を形成してもよい。ドープ材としては、金属錯体やハロゲン化金属など金属化合物等のn型ドーパントが挙げられる。このような構成の電子輸送層の具体例としては、例えば、特開平4-297076号公報、同10-270172号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等の文献に記載されたものが挙げられる。
【0098】
本発明の有機EL素子に用いられる、公知の好ましい電子輸送材料の具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
米国特許第6528187号、米国特許第7230107号、米国特許出願公開第2005/0025993号明細書、米国特許出願公開第2004/0036077号明細書、米国特許出願公開第2009/0115316号明細書、米国特許出願公開第2009/0101870号明細書、米国特許出願公開第2009/0179554号明細書、国際公開第2003/060956号、国際公開第2008/132085号、Appl.Phys.Lett.75,4(1999)、Appl.Phys.Lett.79,449(2001)、Appl.Phys.Lett.81,162(2002)、Appl.Phys.Lett.81,162(2002)、Appl.Phys.Lett.79,156(2001)、米国特許第7964293号、米国特許出願公開第2009/030202号明細書、国際公開第2004/080975号、国際公開第2004/063159号、国際公開第2005/085387号、国際公開第2006/067931号、国際公開第2007/086552号、国際公開第2008/114690号、国際公開第2009/069442号、国際公開第2009/066779号、国際公開第2009/054253号、国際公開第2011/086935号、国際公開第2010/150593号、国際公開第2010/047707号、欧州特許第2311826号明細書、特開2010-251675号公報、特開2009-209133号公報、特開2009-124114号公報、特開2008-277810号公報、特開2006-156445号公報、特開2005-340122号公報、特開2003-45662号公報、特開2003-31367号公報、特開2003-282270号公報、国際公開第2012/115034号等である。
【0099】
本発明におけるより好ましい公知の電子輸送材料としては、少なくとも一つの窒素原子を含む芳香族複素環化合物や、リン原子を含む化合物が挙げられ、例えばピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、トリアジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、アザジベンゾフラン誘導体、アザジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、アリールホスフィンオキサイド誘導体などが挙げられる。
電子輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0100】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する層であり、好ましくは電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が小さい材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述する電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係る正孔阻止層として用いることができる。
本発明の有機EL素子に設ける正孔阻止層は、発光層の陰極側に隣接して設けられることが好ましい。
本発明に係る正孔阻止層の層厚としては、好ましくは3~100nmの範囲であり、更に好ましくは5~30nmの範囲である。
正孔阻止層に用いられる材料としては、前述の電子輸送層に用いられる材料が好ましく用いられ、また、前述のホスト化合物として用いられる材料も正孔阻止層に好ましく用いられる。
【0101】
(電子注入層)
本発明に係る電子注入層(「陰極バッファー層」ともいう)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陰極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されている。
本発明において電子注入層は必要に応じて設け、上記のごとく陰極と発光層との間、又は陰極と電子輸送層との間に存在させてもよい。
電子注入層はごく薄い膜であることが好ましく、素材にもよるがその層厚は0.1~5nmの範囲が好ましい。また構成材料が断続的に存在する不均一な層(膜)であってもよい。
【0102】
電子注入層は、特開平6-325871号公報、同9-17574号公報、同10-74586号公報等にもその詳細が記載されており、電子注入層に好ましく用いられる材料の具体例としては、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等に代表されるアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等に代表されるアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウムに代表される金属酸化物、8-ヒドロキシキノリネートリチウム(Liq)等に代表される金属錯体等が挙げられる。また、前述の電子輸送材料を用いることも可能である。
また、上記の電子注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。
【0103】
(正孔輸送層)
本発明において正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する材料からなり、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有していればよい。
本発明に係る正孔輸送層の総層厚については特に制限はないが、通常は5nm~5μmの範囲であり、より好ましくは2~500nmであり、さらに好ましくは5~200nmである。
正孔輸送層に用いられる材料(以下、正孔輸送材料という)としては、正孔の注入性又は輸送性、電子の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
例えば、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、イソインドール誘導体、アントラセンやナフタレン等のアセン系誘導体、フルオレン誘導体、フルオレノン誘導体、及びポリビニルカルバゾール、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー、ポリシラン、導電性ポリマー又はオリゴマー(例えばPEDOT/PSS、アニリン系共重合体、ポリアニリン、ポリチオフェン等)等が挙げられる。
【0104】
トリアリールアミン誘導体としては、α-NPD(4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル)に代表されるベンジジン型や、MTDATAに代表されるスターバースト型、トリアリールアミン連結コア部にフルオレンやアントラセンを有する化合物等が挙げられる。
また、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体も同様に正孔輸送材料として用いることができる。
さらに不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4-297076号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報の各公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0105】
また、特開平11-251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料やp型-Si、p型-SiC等の無機化合物を用いることもできる。さらにIr(ppy)3に代表されるような中心金属にIrやPtを有するオルトメタル化有機金属錯体も好ましく用いられる。
正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、アザトリフェニレン誘導体、有機金属錯体、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー等が好ましく用いられる。
【0106】
本発明の有機EL素子に用いられる、公知の好ましい正孔輸送材料の具体例としては、上記で挙げた文献の他、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
例えば、Appl.Phys.Lett.69,2160(1996)、J.Lumin.72-74,985(1997)、Appl.Phys.Lett.78,673(2001)、Appl.Phys.Lett.90,183503(2007)、Appl.Phys.Lett.90,183503(2007)、Appl.Phys.Lett.51,913(1987)、Synth.Met.87,171(1997)、Synth.Met.91,209(1997)、Synth.Met.111,421(2000)、SID Symposium Digest,37,923(2006)、J.Mater.Chem.3,319(1993)、Adv.Mater.6,677(1994)、Chem.Mater.15,3148(2003)、米国特許出願公開第2003/0162053号明細書、米国特許出願公開第2002/0158242号明細書、米国特許出願公開第2006/0240279号明細書、米国特許出願公開第2008/0220265号明細書、米国特許第5061569号、国際公開第2007/002683号、国際公開第2009/018009号、欧州特許第650955号明細書、米国特許出願公開第2008/0124572号明細書、米国特許出願公開第2007/0278938号明細書、米国特許出願公開第2008/0106190号明細書、米国特許出願公開第2008/0018221号明細書、国際公開第2012/115034号、特表2003-519432号公報、特開2006-135145号公報、米国特許出願番号13/585981号等である。
正孔輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0107】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔輸送層の機能を有する層であり、好ましくは正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述する正孔輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係る電子阻止層として用いることができる。
本発明の有機EL素子に設ける電子阻止層は、発光層の陽極側に隣接して設けられることが好ましい。
本発明に係る電子阻止層の層厚としては、好ましくは3~100nmの範囲内であり、更に好ましくは5~30nmの範囲内である。
電子阻止層に用いられる材料としては、前述の正孔輸送層に用いられる材料が好ましく用いられ、また、前述のホスト化合物も電子阻止層に好ましく用いられる。
【0108】
(正孔注入層)
本発明に係る正孔注入層(「陽極バッファー層」ともいう)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陽極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されている。
本発明において正孔注入層は必要に応じて設け、上記のごとく陽極と発光層又は陽極と正孔輸送層との間に存在させてもよい。
正孔注入層は、特開平9-45479号公報、同9-260062号公報、同8-288069号公報等にもその詳細が記載されており、正孔注入層に用いられる材料としては、例えば前述の正孔輸送層に用いられる材料等が挙げられる。
中でも銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン誘導体、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体、酸化バナジウムに代表される金属酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体、トリアリールアミン誘導体等が好ましい。
前述の正孔注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0109】
(添加物)
前述した本発明における有機層は、更に他の添加物が含まれていてもよい。
添加物としては、例えば臭素、ヨウ素及び塩素等のハロゲン元素やハロゲン化化合物、Pd、Ca、Na等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属の化合物や錯体、塩等が挙げられる。
添加物の含有量は、任意に決定することができるが、含有される層の全質量%に対して1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。
ただし、電子や正孔の輸送性を向上させる目的や、励起子のエネルギー移動を有利にするための目的などによってはこの範囲内ではない。
【0110】
<有機層の形成方法>
有機層(正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層、中間層等)の形成方法について説明する。
有機層の形成方法は、特に制限はなく、従来公知の例えば真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいう)等による形成方法を用いることができる。
湿式法としては、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア-ブロジェット法)等があるが、均質な薄膜が得られやすく、かつ高生産性の点から、ダイコート法、ロールコート法、インクジェット法、スプレーコート法などのロール・ツー・ロール方式適性の高い方法が好ましい。
【0111】
本発明に用いられる有機EL材料を溶解又は分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。
また、分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
更に層ごとに異なる成膜法を適用してもよい。成膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50~450℃、真空度10-6~10-2Pa、蒸着速度0.01~50nm/秒、基板温度-50~300℃、層(膜)厚0.1nm~5μm、好ましくは5~200nmの範囲内で適宜選ぶことが望ましい。
本発明に係る有機層の形成は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際は作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0112】
<支持基板>
本発明の有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基板、基材等ともいう。)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0113】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)あるいはアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
【0114】
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜又はその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/m2・24h以下のバリア性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10-3ml/m2・24h・atm以下、水蒸気透過度が、1×10-5g/m2・24h以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0115】
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
バリア膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004-68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0116】
不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
本発明の有機EL素子の発光の室温(25℃)における外部取り出し量子効率は、1%以上であることが好ましく、5%以上であるとより好ましい。
ここで、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を、蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。
【0117】
<封止>
本発明の有機EL素子の封止に用いられる封止手段としては、例えば、封止部材と、電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されていればよく、凹板状でも、平板状でもよい。また、透明性、電気絶縁性は特に限定されない。
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる1種以上の金属又は合金からなるものが挙げられる。
【0118】
本発明においては、有機EL素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。さらには、ポリマーフィルムはJIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10-3ml/m2・24h以下、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度90±2%)が、1×10-3g/m2・24h以下のものであることが好ましい。
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
【0119】
接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2-シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0120】
また、有機層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に該電極と有機層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。
さらに該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0121】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0122】
<保護膜、保護板>
有機層を挟み支持基板と対向する側の前記封止膜あるいは前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために、保護膜あるいは保護板を設けてもよい。特に、封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0123】
<光取り出し向上技術>
有機EL素子は、空気よりも屈折率の高い(屈折率1.6~2.1程度の範囲内)層の内部で発光し、発光層で発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出せないことが一般的に言われている。これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極ないし発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極ないし発光層を導波し、結果として、光が素子側面方向に逃げるためである。
【0124】
この光の取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(例えば、米国特許第4774435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(例えば、特開昭63-314795号公報)、素子の側面等に反射面を形成する方法(例えば、特開平1-220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(例えば、特開昭62-172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(例えば、特開2001-202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11-283751号公報)などが挙げられる。
【0125】
本発明においては、これらの方法を本発明の有機EL素子と組み合わせて用いることができるが、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法、あるいは基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法を好適に用いることができる。
本発明は、これらの手段を組み合わせることにより、更に高輝度あるいは耐久性に優れた素子を得ることができる。
【0126】
透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚さで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど、外部への取り出し効率が高くなる。 低屈折率層としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマーなどが挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5~1.7程度の範囲内であるので、低屈折率層は、屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましい。またさらに1.35以下であることが好ましい。
また、低屈折率媒質の厚さは、媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは、低屈折率媒質の厚さが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む膜厚になると、低屈折率層の効果が薄れるからである。
【0127】
全反射を起こす界面又は、いずれかの媒質中に回折格子を導入する方法は、光取り出し効率の向上効果が高いという特徴がある。この方法は、回折格子が1次の回折や、2次の回折といった、いわゆるブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光のうち、層間での全反射等により外に出ることができない光を、いずれかの層間若しくは、媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。
【0128】
導入する回折格子は、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは、発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な一次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がさほど上がらない。
しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
回折格子を導入する位置としては、いずれかの層間、若しくは媒質中(透明基板内や透明電極内)でもよいが、光が発生する場所である有機発光層の近傍が望ましい。このとき、回折格子の周期は、媒質中の光の波長の約1/2~3倍程度の範囲内が好ましい。回折格子の配列は、正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状など、二次元的に配列が繰り返されることが好ましい。
【0129】
<集光シート>
本発明の有機EL素子は、支持基板(基板)の光取出し側に、例えばマイクロレンズアレイ上の構造を設ける加工や、いわゆる集光シートと組み合わせることにより、特定方向、例えば素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を二次元に配列する。一辺は10~100μmの範囲内が好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付く、大きすぎると厚さが厚くなり好ましくない。
集光シートとしては、例えば液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとして例えば、住友スリーエム社製輝度上昇フィルム(BEF)などを用いることができる。プリズムシートの形状としては、例えば、基材に頂角90度、ピッチ50μmの△状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状、ピッチをランダムに変化させた形状、その他の形状であってもよい。
また、有機EL素子からの光放射角を制御するために光拡散板・フィルムを、集光シートと併用してもよい。例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)などを用いることができる。
【0130】
[用途]
本発明の有機EL素子は、電子機器、例えば、表示装置、ディスプレイ、各種発光装置として用いることができる。
発光装置として、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明、車外照明、赤外カメラ用光源)、時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではないが、特に光通信処理機の光源、光センサーの光源等、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
本発明の有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。
【0131】
<表示装置>
本発明の有機EL素子を具備する表示装置は単色でも多色でもよいが、ここでは多色表示装置について説明する。
【0132】
多色表示装置の場合は発光層形成時のみシャドーマスクを設け、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法又は印刷法等で膜を形成できる。
発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、スピンコート法及び印刷法である。
【0133】
表示装置に具備される有機EL素子の構成は、必要に応じて上記の有機EL素子の構成例の中から選択される。
【0134】
また、有機EL素子の製造方法は、上記の本発明の有機EL素子の製造の一態様に示したとおりである。
【0135】
このようにして得られた多色表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を-の極性として電圧2~40V程度を印加すると発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。更に交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が-の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0136】
多色表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ又は各種発光光源として用いることができる。表示デバイス又はディスプレイにおいて、青、赤及び緑発光の3種の有機EL素子を用いることによりフルカラーの表示が可能となる。
【0137】
表示デバイス又はディスプレイとしては、テレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示及び自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
【0138】
発光装置としては、家庭用照明、車外照明、赤外カメラ用光源、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサー、生体センサーの光源等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0139】
以下、本発明の有機EL素子を有する表示装置の一例を図面に基づいて説明する。
図1は有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う、例えば、携帯電話等のディスプレイの模式図である。
【0140】
ディスプレイ1は複数の画素を有する表示部A、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部B、表示部Aと制御部Bとを電気的に接続する配線部C等を有する。
制御部Bは表示部Aと配線部Cを介して電気的に接続され、複数の画素それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線ごとの画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
【0141】
図2はアクティブマトリクス方式による表示装置の模式図である。
表示部Aは基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部C(
図1参照)と複数の画素3等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。
図2においては、画素3の発光した光が白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。
【0142】
配線部の走査線5及び複数のデータ線6はそれぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示していない)。
画素3は走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。
発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を適宜同一基板上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0143】
次に、画素の発光プロセスを説明する。
図3は画素の回路を示した概略図である。
画素は、有機EL素子10、スイッチングトランジスタ11、駆動トランジスタ12、コンデンサー13等を備えている。複数の画素に有機EL素子10として、赤色、緑色及び青色発光の有機EL素子を用い、これらを同一基板上に並置することでフルカラー表示を行うことができる。
【0144】
図3において、制御部B(
図1参照)からデータ線6を介してスイッチングトランジスタ11のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線5を介してスイッチングトランジスタ11のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサー13と駆動トランジスタ12のゲートに伝達される。
【0145】
画像データ信号の伝達により、コンデンサー13が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスタ12の駆動がオンする。駆動トランジスタ12は、ドレインが電源ライン7に接続され、ソースが有機EL素子10の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン7から有機EL素子10に電流が供給される。
【0146】
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線5に移ると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフする。しかし、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフしてもコンデンサー13は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスタ12の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子10の発光が継続する。順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ12が駆動して有機EL素子10が発光する。
すなわち、有機EL素子10の発光は、複数の画素それぞれの有機EL素子10に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ11と駆動トランジスタ12を設けて、複数の画素3それぞれの有機EL素子10の発光を行っている。このような発光方法をアクティブマトリクス方式と呼んでいる。
【0147】
ここで、有機EL素子10の発光は複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。また、コンデンサー13の電位の保持は次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
本発明においては、上述したアクティブマトリクス方式に限らず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子を発光させるパッシブマトリクス方式の発光駆動でもよい。
【0148】
図4は、パッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。
図4において、複数の走査線5と複数の画像データ線6が画素3を挟んで対向して格子状に設けられている。 順次走査により走査線5の走査信号が印加されたとき、印加された走査線5に接続している画素3が画像データ信号に応じて発光する。
パッシブマトリクス方式では画素3にアクティブ素子が無く、製造コストの低減が計れる。
本発明の有機EL素子を用いることにより、近赤外領域に発光ピークを有し、発光効率が高い表示装置を得ることができる。
【0149】
<照明装置>
本発明の有機EL素子は、照明装置に用いることもできる。
本発明の有機EL素子は、共振器構造を持たせた有機EL素子として用いてもよい。このような共振器構造を有した有機EL素子の使用目的としては、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザー発振をさせることにより上記用途に使用してもよい。
また、本発明の有機EL素子は、照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。
動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は、パッシブマトリクス方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
【0150】
また、本発明の有機EL素子の形成方法は、発光層、正孔輸送層あるいは電子輸送層等の形成時のみマスクを設け、マスクにより塗り分ける等単純に配置するだけでよい。他層は共通であるのでマスク等のパターニングは不要であり、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法及び印刷法等で、例えば、電極膜を形成でき、生産性も向上する。
【0151】
(本発明の照明装置の一態様)
本発明の有機EL素子を具備した、本発明の照明装置の一態様について説明する。
本発明の有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚さ300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを陰極上に重ねて透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて、封止し、
図5及び
図6に示すような照明装置を形成することができる。
図5は、照明装置の概略図を示し、本発明の有機EL素子(照明装置内の有機EL素子101)はガラスカバー102で覆われている(なお、ガラスカバーでの封止作業は、照明装置内の有機EL素子101を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った。)。
図6は、照明装置の断面図を示し、105は陰極、106は有機層、107は透明電極付きガラス基板を示す。なお、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
本発明の有機EL素子を用いることにより、近赤外領域に発光ピークを有し、発光効率が高い照明装置を得ることができる。
【実施例】
【0152】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光特性の評価は、ハイパフォーマンス紫外可視近赤外分光光度計(パーキンエルマー社製:Lambda950)、蛍光分光光度計(堀場製作所社製:FluoroMax-4)、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製:C11347)、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、外部量子効率測定装置(浜松ホトニクス社製:C9920-12)、半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、分光放射計(トプコン社製:SR-3)およびストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)を用いて行った。
【0153】
実施例及び比較例で用いた化合物を以下に示す。
(第1有機化合物)
【化25】
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
実施例及び比較例で用いた第1有機化合物、第2有機化合物及び第3有機化合物の、最低励起一重項エネルギー準位ES1と最低励起三重項エネルギー準位ET1を、以下の手順により求めた。また、最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔESTは、ES1とET1の差から算出した。その結果を表2に示す。
【0159】
(1)最低励起一重項エネルギー準位ES1
測定対象化合物からなる層を、Si基板上に蒸着又は塗布にて形成し、試料とした。この試料の蛍光スペクトルを、蛍光分光光度計(堀場製作所社製:FluoroMax-4)を用いて、常温(300K)で測定した。発光スペクトルの測定には、励起光源に窒素レーザー(Lasertechnik Berlin社製、MNL200)を用い、検出器には、ストリークカメラ(浜松ホトニクス社製、C4334)を用いた。
蛍光スペクトルは、縦軸を発光強度、横軸を波長とした。この発光スペクトルの短波側の立ち下がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求めた。この波長値を、次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とした。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
【0160】
(2)最低励起三重項エネルギー準位ET1
最低励起一重項エネルギーES1の測定で用いた試料と同様の試料を準備した。この試料を77[K]に冷却し、これに励起光(337nm)を照射し、ストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)を用いて、燐光強度を測定した。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求めた。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とした。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は、以下のように引いた。燐光スペクトルの短波長側から長波長側に向けて、スペクトルの極大値のうち最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動させたときの、曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とした。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めないこととした。
【0161】
【0162】
また、第3有機化合物の極大発光波長を、以下の方法で測定した。
【0163】
(3)第3有機化合物の極大発光波長の測定
第3有機化合物を1質量%、CBPを99質量%の薄膜をSi基板上に蒸着により作製した。この試料の蛍光スペクトルを、蛍光分光光度計(堀場製作所社製:FluoroMax-4)を用いて、常温(300K)にて測定した。得られた発光スペクトルにおいて、発光強度が最大となる波長を極大発光波長(発光ピーク波長)として求めた。その結果を、表3に示す。
【0164】
【0165】
表3に示されるように、第3有機化合物D-1、D-2、D-7及びD-35は、いずれも極大発光波長が700nm~1000nmの範囲内にあることがわかる。
【0166】
[実施例1]
<絶対PL量子収率の測定>
第3有機化合物と比較用化合物の、溶液中及び薄膜中での絶対PL量子収率を、それぞれ以下の方法で測定した。
【0167】
(1)溶液中での絶対PL量子収率の評価
第3有機化合物又は比較用化合物を、10-6Mになるようにトルエン中に溶解させた。得られた溶液の絶対PL量子収率を、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製:C11347)を用いて測定した。
【0168】
(2)薄膜中での絶対PL量子収率の評価
CBPと各第3有機化合物又は比較用化合物とを、クロロホルム中にそれぞれの比率が99.5質量%、0.5質量%となるように溶解させた。得られた溶液を、石英基盤上に1500rpm、30秒の条件下スピンコート法により塗布して薄膜を形成した後、50℃にて30分間乾燥させた。得られた薄膜の絶対PL量子収率を、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製:C11347)を用いて測定した。
【0169】
表4に、得られた絶対PL量子収率を示した。
【0170】
【0171】
表4に示されるように、第3有機化合物として用いられるD-1、D-2、D-7及びD-35は、いずれも溶液中及び薄膜中で高いPL量子収率を示した。このことから、本発明において、第3有機化合物として用いられるD-1、D-2、D-7及びD-35は、比較用化合物であるC-1及びC-2と比べて発光性に優れているといえる。
【0172】
[実施例2]
<有機EL素子の測定>
(有機EL素子2-1)
CBP(第1有機化合物)、4CzTPN-Ph(第2有機化合物)、D-1(第3有機化合物)を用いて有機EL素子の作製と評価を行った。
【0173】
CBPの最低励起一重項エネルギー準位ES1は3.26eV、最低励起三重項エネルギー準位ET1は2.55eVであった。4CzTPN-Phの最低励起一重項エネルギー準位ES1は2.29eV、最低励起三重項エネルギー準位ET1は2.21eVであった。D-1の最低励起一重項エネルギー準位ES1は1.84eVであった。また、4CzTPN-Phは遅延蛍光を示す有機化合物であることが非特許文献2に記載されている。4CzTPN-Phの最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔESTは0.08eVであった。
【0174】
有機EL素子2-1は、下記に従って作製した。
膜厚110nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Clevious(登録商標) P Al 4083)を用いて、3000rpm、60秒の条件下スピンコート法により薄膜を形成した後、150℃にて1時間乾燥し、層厚30nmの正孔注入層を設けた。
次に、第1有機化合物としてCBP、第2有機化合物として4CzTPN-Ph、第3有機化合物としてD-1をテトラヒドロフラン(THF)中にそれぞれの比率が84.5質量%、15質量%、0.5質量%となるように溶解させた溶液を用い、窒素雰囲気化で、1500rpm、30秒の条件下スピンコート法により薄膜を形成した後、50℃にて30分間乾燥し、層厚30nmの発光層を形成した。
続いて、真空度1×10-4Paまで減圧した後、TPBi(1,3,5-トリス(N-フェニルベンゾイミダゾール-2-イル)を蒸着速度0.1nm/秒で蒸着し、層厚90nmの電子輸送層を形成した。
さらに、フッ化ナトリウムを膜厚0.8nmで形成した後に、アルミニウム100nmをさらに蒸着して、陰極を形成し、有機EL素子2-1を得た。
【0175】
(有機EL素子2-2)
有機EL素子2-2は、第3有機化合物としてD-1のかわりにD-35を用いた以外は有機EL素子2-1と同様にして作製した。具体的には、発光層を形成する際、84.5質量%のCBP、15質量%の4CzTPN-Ph、0.5質量%のD-35からなる塗布膜を形成した以外は有機EL素子2-1と同様にして有機EL素子2-2を得た。D-35の最低励起一重項エネルギー準位ES1は、1.80eVであった。
【0176】
(有機EL素子2-3)
有機EL素子2-3は、第2有機化合物として4CzTPN-PhのかわりにTPA-DCPPを用いた以外は有機EL素子2-1と同様にして作製した。具体的には、発光層を形成する際、89.5質量%のCBPと、10質量%のTPA-DCPPと、0.5質量%のD-1とからなる塗布膜を形成した以外は有機EL素子2-1と同様にして有機EL素子2-3を得た。
TPA-DCPPの最低励起一重項エネルギー準位ES1は2.38eV、最低励起三重項エネルギー準位ET1は2.25eVであった。また、TPA-DCPPは遅延蛍光を示す有機化合物であることが非特許文献4に記載されている。TPA-DCPPの最低励起一重項状態と77Kの最低励起三重項状態とのエネルギーの差ΔESTは0.13eVであった。
【0177】
(有機EL素子2-4)
有機EL素子2-4は、第3有機化合物としてD-1だけでなくD-35もさらに用いた以外は有機EL素子2-1と同様にして作製した。具体的には、発光層を形成する際、84.5質量%のCBPと、15質量%の4CzTPN-Phと、0.25質量%のD-1と、0.25質量%のD-35とからなる塗布膜を形成した以外は有機EL素子2-1と同様にして有機EL素子2-4を得た。
【0178】
(有機EL素子2-5)
発光層を形成する際、第2有機化合物として4CzTPN-Phを用いず、99.5質量%のCBPと、0.5質量%のD-1とからなる塗布膜を形成した以外は有機EL素子2-1と同様にして有機EL素子2-5を得た。
【0179】
(有機EL素子2-6)
発光層を形成する際、第1有機化合物としてのCBPを用いず、99.5質量%のTPA-DCPPと、0.5質量%のD-1とからなる塗布膜を形成した以外は有機EL素子2-1と同様にして有機EL素子2-6を得た。
【0180】
(有機EL素子2-7)
有機EL素子2-7は、第3有機化合物としてのD-1のかわりにC-1を用いた以外は有機EL素子2-1と同様にして作製した。具体的には、発光層を形成する際、84.5質量%のCBPと、15質量%の4CzTPN-Phと、0.5質量%のC-1とからなる塗布膜を形成した以外は有機EL素子2-1と同様にして有機EL素子2-7を得た。
【0181】
(有機EL素子2-8)
有機EL素子2-8は、第3有機化合物としてのD-1のかわりにC-2を用いた以外は有機EL素子2-1と同様にして作製した。具体的には、発光層を形成する際、84.5質量%のCBPと、15質量%の4CzTPN-Phと、0.5質量%のC-2とからなる塗布膜を形成した以外は有機EL素子2-1と同様にして有機EL素子2-8を得た。
【0182】
(有機EL素子2-9)
有機EL素子2-9は、発光層を形成する際、第3有機化合物を用いず、85質量%のCBPと、15質量%の4CzTPN-Phとからなる塗布膜を形成した以外は有機EL素子2-1と同様にして有機EL素子2-9を得た。
【0183】
得られた有機EL素子2-1~2-9の発光スペクトルと、各電流密度毎の外部量子効率を、以下の方法で測定した。
【0184】
(極大発光波長)
有機EL素子駆動時の各有機EL素子の発光スペクトルは、下記測定を行うことにより評価した。
上記作製した各有機EL素子を、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)を用いて、室温(約25℃)で、1mA/cm2の電流密度で駆動させ、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製:C11347)を用い、500~950nmの検出波長でスペクトルを測定した。得られたスペクトルで、最も強度が大きい波長を極大発光波長とした。
【0185】
(外部量子効率)
有機EL素子駆動時の各有機EL素子の外部量子効率は、下記測定を行うことにより評価した。
上記作製した各有機EL素子を、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)を用いて、室温(約25℃)で、注入電流ステップごとに駆動させ、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製:C11347)を用い、500~950nmの検出波長で、各注入電流ステップごとに外部量子効率を測定した。そして、得られた外部量子効率のうち最大値を「外部量子効率」とした。
【0186】
有機EL素子2-1~2-4の発光スペクトルの測定結果を
図7A~Dに示し;有機EL素子2-5~2-9の発光スペクトルの測定結果を
図8A~Eに示す。有機EL素子2-1~2-4の各電流密度毎の外部量子効率の測定結果を
図9A~Dに示し;有機EL素子2-5~2-9の各電流密度毎の外部量子効率の測定結果を
図10A~Eに示す。そして、これらの特性値を表5にまとめて示す。
【0187】
【0188】
表5に示すように、有機EL素子2-1~2-4(本発明)は、いずれも近赤外領域に発光ピーク(極大発光波長)を有し、且つ有機EL素子2-5~2-9(比較例)よりも高い外部量子収率を示し、高い発光効率を示した。
【0189】
本出願は、2017年5月8日出願の特願2017-092683に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明の上記手段により、例えば、近赤外領域に発光ピークを有し、且つ高い発光効率を有する有機EL素子を提供することができる。また、当該有機EL素子が具備された表示装置及び照明装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0191】
1 ディスプレイ
3 画素
5 走査線
6 データ線
7 電源ライン
10 有機EL素子
11 スイッチングトランジスタ
12 駆動トランジスタ
13 コンデンサー
101 照明装置内の有機EL素子
102 ガラスカバー
105 陰極
106 有機層
107 透明電極付きガラス基板
108 窒素ガス
109 捕水剤
A 表示部
B 制御部
C 配線部