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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】圧延材
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/08 20060101AFI20220323BHJP
   C25D 3/46 20060101ALI20220323BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20220323BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220323BHJP
【FI】
C22F1/08 B
C25D3/46
C25D7/00 H
C22F1/00 606
C22F1/00 613
C22F1/00 622
C22F1/00 630A
C22F1/00 630D
C22F1/00 661A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018153413
(22)【出願日】2018-08-17
(65)【公開番号】P2020026566
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591286661
【氏名又は名称】信越理研シルコート工場株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(72)【発明者】
【氏名】永安 裕之
(72)【発明者】
【氏名】木内 寛
(72)【発明者】
【氏名】都丸 幸一
(72)【発明者】
【氏名】田島 創
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 歩
(72)【発明者】
【氏名】荻野 直彦
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-076127(JP,A)
【文献】特開2016-145413(JP,A)
【文献】特開昭49-033833(JP,A)
【文献】特公昭49-020127(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/08
C22C 9/00 - 9/10
C25D 3/46
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金板の少なくとも片方の表面に銀の平滑層を設けた銅合金複合箔の圧延材であり、X線回折法による前記銀の平滑層表面の(220)結晶配向の強度と(111)結晶配向の強度との合計を100としたとき、(200)結晶配向の強度が34以上100以下であり且つ(111)結晶配向の強度を100としたとき、(220)結晶配向の強度が21.3以上10以下である銅合金複合箔の圧延材
【請求項2】
銅合金板の少なくとも片方の表面にめっきにより銀の層を施す銀めっき工程と、
該銀めっき工程により作成した銅合金複合箔を圧延する圧延工程とを含む銅合金複合箔の圧延材の製造方法であって、
前記圧延工程後の銅合金複合箔の圧延材平滑層表面の銀がX線回折法において (220)結晶配向の強度と(111)結晶配向の強度との合計を100としたとき、(200)結晶配向の強度が34以上100以下であり、且つ(111)結晶配向の強度を100としたとき、(220)結晶配向の強度が21.3以上110以下となるように圧延して成る銅合金複合箔の圧延材製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度、導電性、表面形状に優れた銅合金複合箔の圧延材、並びに該銅合金複合箔の圧延材の製造方法に関するものであり、例えば、スイッチやコネクタのような入り-切り操作における耐摩耗性に優れた特性を求められる用途に適した銅合金複合箔の圧延材を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、輸送機器は、電子制御化が急速に進んでおり、従来の動力電流を直接遮断する直切方式の接点から、電気信号を切断する信号切方式の接点の搭載が増加している。また、ハイブリッド車や電気自動車に搭載される大電流、高電圧機器を接続する大電流、高電圧向けコネクタに銀めっき材が使用されている。このように、車載スイッチやコネクタには母材に銅及び銅合金材を使用した銀めっき接点が使用されている。
【0003】
これらスイッチ及びコネクタ端子に使用される銀めっきに求められる特性は、スイッチの繰り返し入り-切り操作による耐久性、摺動による膜の摩耗が少なく、削れにくいことである。
【0004】
従来から銅合金複合箔として銀めっきを施した銅合金複合箔が製品化されているが、表面に凹凸があるため局所的な電気伝導度がばらついたり、耐摩耗性が低いなどが課題となっていた(例えば特許文献1や非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-155899号公報
【文献】「銀めっき膜の結晶配向制御に関する研究」2016年3月 宮澤寛
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記近年の要望に鑑み、課題を解決すべく鋭意研究を行った結果なされたものであり、耐摩耗性に優れた高耐摩耗性と高導電性を併せ持つ銅合金複合箔の圧延材並びに圧延材の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の基本的な考え方は、次のとおりである。即ち、銅合金複合箔の表面に導電性と耐摩耗性を併せ持つ銀の平滑層を圧延により施すことにより、耐摩耗性に優れた銅合金複合箔の圧延材を製造する方法及びこの方法を用いて作製した銅合金複合箔の圧延材を提供することである。
【0008】
本発明は、銅合金板の少なくとも片方の表面に銀の平滑層を設けた銅合金複合箔の圧延材であり、X線回折法による前記銀の平滑層表面の(220)結晶配向の強度と(111)結晶配向の強度との合計を100としたとき、(200)結晶配向の強度が34以上100以下であり且つ(111)結晶配向の強度を100としたとき、(220)結晶配向の強度が21.3以上10以下である銅合金複合箔の圧延材である。ここで結晶配向の強度とは、X線の回折強度ということもある。
【0009】
この発明の作用は、硬度が比較的低い(200)結晶配向の銀と硬度が比較的高い(111)結晶配向及び(220)結晶配向の銀の平滑層と、を設けることにより、柔軟性と硬度を兼ね備えた耐摩耗性の高い銅合金複合箔の圧延材である。また、比較的硬度が高い(111)結晶配向に対し、より硬度が高い(220)結晶配向の割合を増やすことにより耐摩耗性を高めることである。
【0010】
この第二の発明は銅合金板の少なくとも片方の表面にめっきにより銀の層を施す銀めっき工程と、
この銀めっき工程により作成した銅合金複合箔を圧延する圧延工程とを含む銅合金複合箔の圧延材の製造方法であって、
前記圧延工程後の銅合金複合箔の圧延材平滑層表面の銀がX線回折法において (220)結晶配向の強度と(111)結晶配向の強度との合計を100としたとき、(200)結晶配向の強度が34以上100以下であり、且つ(111)結晶配向の強度を100としたとき、(220)結晶配向の強度が21.3以上110以下となるように圧延して成る銅合金複合箔の圧延材の製造方法である
【0011】
この発明の作用は、銅合金板とめっきの圧延率の割合を略1に制御した圧延工程により、銀めっきを施す際に発現しやすい結晶の配向である(111)結晶配向を圧延し再結晶化することにより、X線回折法による銀の(200)結晶配向の強度を選択的に高めて(111)結晶配向と(220)結晶配向の強度の合計を100としたとき、(200)結晶配向の強度を34以上100以下の範囲内で圧延前に比べ高くし、且つ比較的硬度が高い(111)結晶配向に対しより硬度が高い(220)結晶配向の割合を増やすことにより耐摩耗性に優れた銅合金複合箔の圧延材を製造することである。ここで銅合金板の圧延率に対する銀めっきの圧延率は、(銀めっきの圧延率)/(銅合金板の圧延率)から算出できる。また、ここで圧延率の割合の略1とは、0.98以上1.04以下の割合を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐摩耗性に優れた高耐摩耗性と高導電性とを併せ持つ銅合金複合箔の圧延材であり、この銅合金複合箔の圧延材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】X線回折装置により測定した本発明の銅合金複合箔の圧延材のX線回折結果である。
図2】X線回折装置により測定した従来の銅合金複合箔のX線回折結果である。
図3】本発明により作製した銅合金複合箔の圧延材の摺動による耐摩耗性試験の結果(摺動距離に対する動摩擦係数)の図である。
図4】従来の銅合金複合箔の摺動による耐摩耗性試験の結果(摺動距離に対する動摩擦係数)の図である。
図5】本発明を説明するために実施した、実施例と比較例の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の銅合金複合箔の圧延材についてより詳細に説明する。本発明の銅合金複合箔の圧延材は、銅合金板の少なくとも片方の表面に銀めっきを施す。この銀めっきの方法としては、特に限定されないが、アルカリ性シアン化銀めっき浴、アルカリ性非シアン浴を利用できる。また、密着不良の改善のため、銀ストライクめっきを施すこともできる。さらに、より密着性が良くなるニッケル浴によりニッケルめっきを銀めっきの前に施すこともできる。銀めっきの結晶配向は、X線回折装置により測定できる。この銀めっきの結晶配向は、(111)結晶配向と(220)結晶配向の強度の合計を100としたとき(200)結晶配向の強度が50以下であると好ましい。また、(111)結晶配向の強度を100としたとき(220)結晶配向の強度が20以下である銅合金複合箔であると好ましい。また、この銀めっきの結晶配向は、(111)結晶配向と(220)結晶配向の強度の合計を100としたとき(200)結晶配向の強度が10以上50以下であるとより好ましく、20以上50未満であると更に好ましい。この銀めっきの結晶配向は、(111)結晶配向と(220)結晶配向の強度の合計を100としたとき(200)結晶配向の強度が50より高くても利用できるが、この後の圧延工程により、この(200)結晶配向の強度が66よりも高くなる場合がある。
また、この銀めっきの結晶配向は、(111)結晶配向の強度を100としたとき(220)結晶配向の強度が20以下であると好ましく、3以上18以下であるとより好ましく、5以上16以下であると更に好ましい。(111)結晶配向の強度を100としたとき(220)結晶配向の強度が20より高いと圧延工程において適切な結晶が生じない場合がある。
【0015】
この銀めっきを施した銅合金複合箔に圧延処理することにより、耐摩耗性に優れた銅合金複合箔の圧延材を効果的に得ることができる。この圧延した銅合金複合箔の圧延材の銀の結晶の配向は、X線回折装置により測定できる。この銅合金複合箔の圧延材の銀の結晶は、(111)結晶配向と(220)結晶配向の強度の合計を100としたとき(200)結晶配向の強度が34以上100以下であると好ましく、(111)結晶配向と(220)結晶配向の強度の合計を100としたとき(200)結晶配向の強度が38以上80以下であるとより好ましく、(111)結晶配向と(220)結晶配向の強度の合計を100としたとき(200)結晶配向の強度が40以上70以下であると更に好ましい。(200)結晶配向の強度が(111)結晶配向と(220)結晶配向の強度の合計を100としたとき34より低いと銀の耐摩耗性が劣る場合が有り、100より高いとやはり銀の摩耗量が増える場合がある。この銅合金複合箔の圧延材の銀の(111)結晶配向と(220)結晶配向と、の割合については、(111)結晶配向100に対し(220)結晶配向が21.3以上120以下であることが好ましく、(111)結晶配向の強度100に対し(220)結晶配向の強度が21.3以上100以下であることがより好ましく、最も好ましくは、(111)結晶配向の強度100に対し(220)結晶配向の強度が21.3以上80以下であることが好ましい。非特許文献1によると、銀の(111)結晶配向の硬度はビッカース硬度で約131、(220)結晶配向の硬度はビッカース硬度で約135、(200)結晶配向の硬度はビッカース硬度で約82であるため、ここで示した結晶配向の割合により、表面硬度を任意に設定することができる。
【0016】
(111)結晶配向、(200)結晶配向及び(220)結晶配向の有無や割合は、それぞれX線回折装置によるこの銅合金複合箔のX線回折測定により得ることができる。(111)結晶配向は、回折角2θで37°(°は、度と記すこともある)~39°付近に得られ、(200)結晶配向は43°~46°付近に得られ、(220)結晶配向は63°~66°付近に認めることができる。それぞれの結晶配向のX線回折強度は、得られたX線回折のピーク強度やそれぞれの回折角領域のX線回折ピーク付近の強度の積分値より求めることができる。
【0017】
この発明の銅合金複合箔の圧延材において、耐摩耗性が高くなる理由については現時点では定かではないが、非特許文献1によると111結晶配向の銀めっきの表面硬さがビッカース硬度で約131、200結晶配向の銀めっきの表面硬さがビッカース硬度で約82、220結晶配向の銀めっきの表面硬さがビッカース硬度で約135であることから、比較的硬い111結晶配向と比較的柔らかい200結晶配向の割合及びこの3種の結晶配向において最も硬い220結晶配向の割合が高くなることが耐摩耗性の向上に寄与していると考えている。
【0018】
銅合金板に銀めっきを施した後の銅合金複合箔の圧延工程について説明する。銅合金複合箔に直接接する第一の圧延ロール、第一の圧延ロールに回転と圧延のための応力を伝える中間ロール、中間ロールに回転と圧延のための応力を与えるバックロールなどの各ロールを用いることが好ましい。これらロール形状は、圧延前の0.3mm厚の銅合金複合箔の厚みを75%程度の厚みまで圧延する場合には、第一の圧延ロールの直径として40mmから50mm、中間ロールの直径として90~120mm、バックロールとして250mm~350mm程度であると好ましく圧延でき、銅合金複合箔の圧延材の銀の結晶配向が好ましい割合となる。第一の圧延ロールの硬さについては、ロックウェル硬度(HRCと記す場合もある。)で55から70で好ましく圧延することができる。圧延の方向を制御するため、延ばしたい方向に引張応力を加えながら圧延することもできる。
【0019】
銀めっきの前にニッケルめっきを施す場合は、ニッケルめっきのバラツキにより圧延後銅合金複合箔の圧延材の銀めっきの結晶配向の割合が制御できなくなる。ニッケルめっきを銀めっきの前に施す場合には、ニッケルめっきが厚くなる場所を切断し、その後圧延することで、銀めっきの結晶配向を好ましく整えることができる。銅合金複合箔の両端に電極を配置するとこの銅合金複合箔の両端の一部を切断し圧延工程により連続的に圧延できるため、好ましい。めっき層を除いた銅合金の圧延率に対しめっき層の圧延率が98%以上1.04%以下のほぼ1となると銀めっきの結晶配向の割合が好ましくなる
【0020】
なお、本発明は、上記構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更することができる。
【実施例
【0021】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0022】
「実施例1~3」及び「比較例1~3」
<実験装置>
X線回折装置 株式会社島津製作所製 XRD-6000
摺動式摩耗試験装置 新東科学株式会社 HHS-2000 圧子:鋼球
走査型電子顕微鏡 日本電子株式会社 JSM-IT500HR
エネルギー分散型分析装置 Thermo Fisher Scientific 株式会社 NORAN System7
【0023】
(実施例1)
本発明の結晶配向となるように調整した銅合金複合箔の圧延材を作製した。こ銅合金複合箔の圧延材の銀めっき面をX線回折装置により測定した。測定結果の一部を図1に示す。このときの結晶配向は、(111)結晶配向の強度と(220)結晶配向の強度の合計100に対し、(200)結晶配向の強度が42.6だった。また、(111)結晶配向の強度100に対する(220)結晶配向の強度は、52.5だった。この試料に対し、摺動式摩耗試験装置により1N(ニュートンと示すこともある)の荷重をかけて摩耗試験を行った結果を図3に示す。摩耗試験の結果、摺動距離に対する摩擦係数にバラツキの少ない良好な結果が得られた。また、1000回の往復摩耗試験後の試験部及び未実施部の成分分析を行った結果、1000回の往復摩耗試験を行った試験部の銀の含有率は96.70%であり、同一表面の試験を行っていない未実施部の銀の含有率は97.63%だった。これらから算出したこの試験による銀の含有量の低下率は0.95%であり、良好な結果だった。スイッチの荷重を0.1N、接触面積を10倍とした場合、往復摺動回数1000回×試験荷重10倍×接触面積10倍÷銀の低下率(%)としたときに算出されるこの銅合金複合箔の圧延材の耐久性は、10.5万回と算出され、基準値である5万回を上回った。
【0024】
(実施例2)
本発明の結晶配向となるように調整した銅合金複合箔の圧延材を作製した。この銅合金複合箔の銀めっき面の結晶配向は、(111)結晶配向の強度と(220)結晶配向の強度の合計100に対し、(200)結晶配向の強度が100だった。また、(111)結晶配向の強度100に対する(220)結晶配向の強度は、25だった。この試料に対し、摺動式摩耗試験装置により1N(ニュートンと示すこともある)の荷重をかけて摩耗試験を行った結果、摺動距離に対する摩擦係数にバラツキの少ない良好な結果が得られた。また、1000回の往復摩耗試験後の試験部及び未実施部の成分分析を行った結果、1000回の往復摩耗試験を行った試験部の銀の含有率は96.0%であり、同一表面の摩耗試験を行っていない箇所の銀の含有率は97.53%だった。これらから算出したこの試験による銀の含有量の低下率は1.57%であり、良好な結果だった。スイッチの荷重を0.1N、接触面積を10倍とした場合、往復摺動回数1000回×試験荷重10倍×接触面積10倍÷銀の低下率(%)としたとき算出されるこの銅合金複合箔の耐久性は、6.3万回と算出され、基準値である5万回を上回った。
【0025】
(実施例3)
本発明の結晶配向となるように調整した銅合金複合箔の圧延材を作製した。この銅合金複合箔の圧延材は、銅合金板と銀めっきの間にニッケルめっきを施した。こ銅合金複合箔の圧延材をX線回折装置により測定した。この銅合金複合箔の圧延材の銀めっき面の結晶配向は、(111)結晶配向の強度と(220)結晶配向の強度の合計100に対し、(200)結晶配向の強度が68だった。また、(111)結晶配向の強度100に対する(220)結晶配向の強度は、21.3だった。この試料に対し、摺動式摩耗試験装置により1Nの荷重をかけて摩耗試験を行った結果、摺動距離に対する摩擦係数にバラツキの少ない良好な結果が得られた。また、1000回の往復摩耗試験後の試験部及び未実施部の成分分析を行った結果、1000回の往復摩耗試験を行った試験部の銀の含有率は、97.05%であり、同一表面の摩耗試験を行っていない箇所の銀の含有率は、97.13%だった。これらから算出したこの試験による銀の含有量の低下率は0.08%であり、良好な結果だった。スイッチの荷重を0.1N、接触面積を10倍とした場合、往復摺動回数1000回×試験荷重10倍×接触面積10倍÷銀の低下率(%)としたとき算出されるこの銅合金複合箔の耐久性は、125万回と算出され、基準値である5万回を上回った。
【0026】
(実施例4)
本発明の結晶配向となるように調整した銅合金複合箔の圧延材を作製した。この銅合金複合箔をX線回折装置により測定した。この銅合金複合箔の銀めっき面の結晶配向は、(111)結晶配向の強度と(220)結晶配向の強度の合計100に対し、(200)結晶配向の強度が34だった。また、(111)結晶配向の強度100に対する(220)結晶配向の強度は、110だった。この試料に対し、摺動式摩耗試験装置により1Nの荷重をかけて摩耗試験を行った結果、摺動距離に対する摩擦係数にバラツキの少ない良好な結果が得られた。また、1000回の往復摩耗試験後の試験部及び未実施部の成分分析を行った結果、1000回の往復摩耗試験を行った箇所の銀の含有率は96.10%であり、同一表面の試験を行っていない箇所の銀の含有率は97.42%だった。これらから算出したこの試験による銀の含有量の低下率は1.35%であり、良好な結果だった。スイッチの荷重を0.1N、接触面積を10倍とした場合、往復摺動回数1000回×試験荷重10倍×接触面積10倍÷銀の低下率(%)としたとき算出されるこの銅合金複合箔の耐久性は、7.4万回と算出され、基準値である5万回を上回った。
【0027】
(比較例1)
銅合金複合箔を作製した。この銅合金複合箔に対し、このときの銅合金複合箔の銀めっき面の結晶配向は、(111)結晶配向の強度と(220)結晶配向の強度の合計を100としたとき、(200)結晶配向の強度は21.9だった。また、(111)結晶配向の強度100に対する(220)結晶配向の強度は、6.7だった。この銅合金複合箔のX線回折の結果を図2に示す。この試料に対し、摺動式摩耗試験装置により1N(ニュートンと示すこともある)の荷重をかけて摩耗試験を行った結果を図4に示す。摩耗試験の結果、摺動距離に対する摩擦係数にバラツキが多い結果となった。また、1000回の往復摩耗試験後の試験部及び未実施部の成分分析を行った結果、1000回の往復摩耗試験を行った箇所の銀の含有率は94.7%であり、同一表面の試験を行っていない箇所の銀の含有率は97.32%だった。これらから算出したこの試験による銀の含有量の低下率は2.7%だった。スイッチの荷重を0.1N、接触面積を10倍とした場合、往復摺動回数1000回×試験荷重10倍×接触面積10倍÷銀の低下率(%)とした場合に算出されるこの銅合金複合箔の耐久性は、3.7万回と算出され、基準値である5万回を下回った。
【0028】
(比較例2)
銅合金複合箔を作製した。この銅合金複合箔に対し、X線回折法による銀めっき面の結晶配向の分析を行った。この銀めっき面の結晶配向は、(111)結晶配向の強度と(220)結晶配向の強度の合計を100としたとき、(200)結晶配向の強度は120だった。また、(111)結晶配向の強度100に対する(220)結晶配向の強度は15だった。この試料に対し、摺動式摩耗試験装置により1Nの荷重をかけて摩耗試験を行った結果、摺動距離に対する摩擦係数にバラツキが多い結果となった。また、1000回の往復摩耗試験後の試験部及び未実施部の成分分析を行った結果、1000回の往復摩耗試験を行った箇所の銀の含有率は93.5%であり、同一表面の試験を行っていない箇所の銀の含有率は97.27%だった。これらから算出したこの試験による銀の含有量の低下率は3.88%だった。スイッチの荷重を0.1N、接触面積を10倍とした場合、往復摺動回数1000回×試験荷重10倍×接触面積10倍÷銀の低下率(%)としたとき算出されるこの銅合金複合箔の耐久性は、2.6万回と算出され、基準値である5万回を下回った。
【0029】
(実施例5)
(圧延前の銅合金複合箔として比較例1の銅合金複合箔を圧延して実施例1に用いた銅合金複合箔の圧延材を製造する方法)
銅合金板の表面にめっきにより銀の層を施す銀めっき工程と、この銀めっき工程により作成した銅合金複合箔を圧延する圧延工程とを行い、銅合金複合箔の圧延材を作製した。銀めっき工程によりめっきした銀のX線回折法による(200)結晶配向の強度は、(220)結晶配向の強度と(111)結晶配向の強度の合計を100としたとき21.9であり、(220)結晶配向の強度が(111)結晶配向の強度を100としたとき6.7だった。
((圧延前のさ)-(圧延後のさ))×100/(圧延前のさ)で算出する圧延工程による銅合金複合箔の圧延率は、銅合金板が23.4%だった。また、この圧延工程による銀めっきの圧延率は24.3%であり、この結晶配向の銅合金複合箔をこの圧延工程により圧延する際、銅合金板の圧延率に対する銀めっきの圧延率は1.0だった。
この圧延した銅合金複合箔のX線回折法により得られた (111)結晶配向の強度と(220)結晶配向の強度の合計100に対する(200)結晶配向の強度は42.6だった。また、(111)結晶配向の強度100に対する(220)結晶配向の強度は52.5だった。この銅合金複合箔の圧延材は、実施例1に用いた銅合金複合箔の圧延材であり、実施例1に示したように良好な結果であった。
【0030】
(実施例6)
(圧延前のニッケルめっき有り銅合金複合箔を圧延して実施例3の銅合金複合箔の圧延材を製造する方法)
銅合金板の表面にめっきによりニッケルめっきと銀の層を施す銀めっき工程と、この銀めっき工程により作成した銅合金複合箔を圧延する圧延工程とを行い、銅合金複合箔の圧延材を作製した
銀めっき工程によりめっきした銀のX線回折法による (200)結晶配向の強度は(220)結晶配向の強度と(111)結晶配向の強度の合計を100としたとき48であり、(220)結晶配向の強度は(111)結晶配向の強度を100としたとき14だった。
((圧延前の厚さ)-(圧延後の厚さ))×100/(圧延前の厚さ)で算出する圧延工程による銅合金複合箔の圧延率は、銅合金板が20.2%だった。また、銀めっきの圧延工程による圧延率は19.8%だった。この結晶配向の銅合金複合箔を当該圧延工程により圧延する際、銅合金板の圧延率に対する銀めっきの圧延率は0.98だった。
この圧延した銅合金複合箔のX線回折法により得られた 111結晶配向の強度と、(220結晶配向の強度の合計100に対し、200結晶配向の強度は68だった。また、111結晶配向の強度100に対する220結晶配向の強度は、21.3だった。
この銅合金複合箔の圧延材は、実施例3に用いた銅合金複合箔の圧延材であり、実施例3に示したように良好な結果であった。
【0031】
(比較例3)
(圧延前の銅合金複合箔として比較例1の銅合金複合箔を圧延して比較例2の圧延材を作製する方法。)
銅合金板の表面にめっきにより銀の層を施す銀めっき工程と、この銀めっき工程により作成した銅合金複合箔を圧延する圧延工程とを行った。
銀めっき工程によりめっきした銀のX線回折法による(200)結晶配向の強度が(220)結晶配向の強度と(111)結晶配向の強度の合計を100としたとき21.9であり、(220)結晶配向の強度が(111)結晶配向の強度を100としたとき6.7だった。
((圧延前の厚さ)-(圧延後の厚さ))×100/(圧延前の厚さ)で算出する圧延工程による銅合金複合箔の圧延率は、銅合金板が23.4%だった。また、銀めっきの圧延工程による圧延率は36.2%であり、この結晶配向の銅合金複合箔をこの圧延工程により圧延する際、銅合金板の圧延率に対する銀めっきの圧延率は1.54だった。
この圧延した銅合金複合箔のX線回折法により得られた銀めっきの(111)結晶配向の強度と(220)結晶配向の強度の合計100に対し、(200)結晶配向の強度は120だった。また、(111)結晶配向の強度100に対する(220)結晶配向の強度は、15だった。
この圧延前の銅合金複合箔と圧延した後の銅合金複合箔のそれぞれの試料に対し、摺動式摩耗試験装置により1N(ニュートンと示すこともある)の荷重をかけて摩耗試験を行ったところ、比較例1(圧延前)並びに比較例2(圧延後)に示した結果が得られた。
【0032】
これら実施例及び比較例をまとめた一覧を図5に示す。
図1
図2
図3
図4
図5