(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症の予測
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6827 20180101AFI20220323BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20220323BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220323BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220323BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z ZNA
C12Q1/6886 Z
G01N33/50 P
G01N33/50 K
G01N33/68
C12N15/11 Z
(21)【出願番号】P 2018515408
(86)(22)【出願日】2017-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2017013525
(87)【国際公開番号】W WO2017191720
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2016093483
(32)【優先日】2016-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載アドレス:http://www.gastrojournal.org/article/S0016-5085(17)30130-0/pdf 掲載日:平成29年2月4日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、[肝炎等克服実用化研究事業]「C型肝炎の新規診断法や新規治療法を開発するためのゲノムワイド関連解析の手法を用いた宿主因子の解析に関する研究」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 靖人
(72)【発明者】
【氏名】松浦 健太郎
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-193786(JP,A)
【文献】国際公開第2013/030786(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/108527(WO,A1)
【文献】NCBI, dbSNP Short Genetic Variations,ss 276972898,Submitted Date Dec 16, 2010,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/snp_ss.cgi?subsnp_id=276972898,[retrieved on 2017.06.05]
【文献】NCBI, Probe, rs17042700, 2004,[retrieved on 2017.06.05],https://www.ncbi.nlm.nih.gov/probe/?term=rs17042700
【文献】島上哲朗 他,C型肝炎・肝硬変患者,キャリアのフォローアップ戦略とエビデンス,日本臨床, 2015, vol.73, p.788-792
【文献】URABE Y. et al.,J Hepatol, 2013, Vol.58, p.875-882
【文献】TANAKA Y. et al.,Hum Mol Genet, 2011, Vol.20, No.17, p.3507-3516
【文献】MATSUURA K. et al.,Genome-Wide Association ,Gastroenterology, Epub 2017 Feb 3, Vol.152, No.6, p.1383-1394
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者から採取された核酸検体について、米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のSNPデータベースにおける登録番号rs17047200で特定される一塩基多型を検出し、以下の(a)~(c)のいずれかの基準に従いリスクを判定することを特徴とする、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスクを判定するための方法:
(a)塩基がTのアリルが検出されればリスクが高い;
(b)AA型のリスク <AT型のリスク,TT型のリスク;
(c)AA型のリスク < AT型のリスク < TT型のリスク。
【請求項2】
米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のSNPデータベースにおける登録番号rs17047200で特定される一塩基多型を検出するための核酸であって、前記多型部位を含む一定領域に相補的な配列を含み、前記領域に対して特異的にハイブリダイズする核酸を含む、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスク検査用試薬。
【請求項3】
請求項
2に記載の試薬を含む、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスク検査用キット。
【請求項4】
米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のSNPデータベースにおける登録番号rs17047200で特定される一塩基多型の、以下の(a)~(c)のいずれかの基準に従いC型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症を予測するためのバイオマーカーとしての利用:
(a)塩基がTのアリルが検出されればリスクが高い;
(b)AA型のリスク <AT型のリスク,TT型のリスク;
(c)AA型のリスク < AT型のリスク < TT型のリスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型肝炎ウイルス(HCV: hepatitis C virus)排除後の肝細胞癌(HCC: hepatocellular carcinoma)発症の予測に関する。詳しくは、HCV排除後のHCC発症の予測マーカー及びその用途(リスク検査法など)に関する。本出願は、2016年5月6日に出願された日本国特許出願第2016-093483号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(HCV)慢性感染により、肝線維化が進展し、20~30年の経過を経て、肝硬変、肝細胞癌に至る。世界レベルでは、肝硬変、肝細胞癌の30%弱はHCV感染が原因であり、2010年の死亡数は約50万人と報告されている(非特許文献1)。米国においてもHCV関連肝硬変、肝細胞癌は2020年まで、死亡数は2022年まで増加するものと推測されている(非特許文献2)。近年、HCV感染症に対する治療法の劇的な進歩により、従来使用されてきたインターフェロンを用いない直接作用型抗ウイルス薬の組み合わせにより、著効率は90%を超え、難治であった肝硬変患者においても同等の治療効果が得られるようになった(非特許文献3)。しかしながら、治療によってHCVを排除できても、発癌リスクは完全には消失せず、HCV排除後5年までの累積発癌率は2.3~8.8%と報告されている(非特許文献4)。したがって、抗ウイルス薬により高い著効率が得られるようになった今後は、HCV排除後の発癌予防、サーベイランスが非常に重要な課題となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Lozano R, Naghavi M, Foreman K, et al. Global and regional mortality from 235 causes of death for 20 age groups in 1990 and 2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010. Lancet 2012;380:2095-128.
【文献】Davis GL, Alter MJ, El-Serag H, et al. Aging of hepatitis C virus (HCV)-infected persons in the United States: a multiple cohort model of HCV prevalence and disease progression. Gastroenterology 2010;138:513-21, 521 e1-6.
【文献】Reddy KR, Bourliere M, Sulkowski M, et al. Ledipasvir and sofosbuvir in patients with genotype 1 hepatitis C virus infection and compensated cirrhosis: An integrated safety and efficacy analysis. Hepatology 2015;62:79-86.
【文献】Hiramatsu N, Oze T, Takehara T. Suppression of hepatocellular carcinoma development in hepatitis C patients given interferon-based antiviral therapy. Hepatol Res 2014;45:152-61.
【文献】Makiyama A, Itoh Y, Kasahara A, et al. Characteristics of patients with chronic hepatitis C who develop hepatocellular carcinoma after a sustained response to interferon therapy. Cancer 2004;101:1616-22.
【文献】Chang KC, Hung CH, Lu SN, et al. A novel predictive score for hepatocellular carcinoma development in patients with chronic hepatitis C after sustained response to pegylated interferon and ribavirin combination therapy. J Antimicrob Chemother 2012;67:2766-72.
【文献】Sato A, Sata M, Ikeda K, et al. Clinical characteristics of patients who developed hepatocellular carcinoma after hepatitis C virus eradication with interferon therapy: current status in Japan. Intern Med 2013;52:2701-6.
【文献】Arase Y, Kobayashi M, Suzuki F, et al. Effect of type 2 diabetes on risk for malignancies includes hepatocellular carcinoma in chronic hepatitis C. Hepatology 2013;57:964-73.
【文献】Matsuura K, Watanabe T, Tanaka Y. Role of IL28B for chronic hepatitis C treatment toward personalized medicine. J Gastroenterol Hepatol 2014;29:241-9.
【文献】Matsuura K, Tanaka Y. Host genetic variants influencing the clinical course of hepatitis C virus infection. J Med Virol 2016;88:185-95.
【文献】Prokunina-Olsson L, Muchmore B, Tang W, et al. A variant upstream of IFNL3 (IL28B) creating a new interferon gene IFNL4 is associated with impaired clearance of hepatitis C virus. Nat Genet 2013;45:164-71.
【文献】Rauch A, Kutalik Z, Descombes P, et al. Genetic variation in IL28B is associated with chronic hepatitis C and treatment failure: a genome-wide association study. Gastroenterology 2010;138:1338-45, 1345 e1-7.
【文献】Thomas DL, Thio CL, Martin MP, et al. Genetic variation in IL28B and spontaneous clearance of hepatitis C virus. Nature 2009;461:798-801.
【文献】Fellay J, Thompson AJ, Ge D, et al. ITPA gene variants protect against anaemia in patients treated for chronic hepatitis C. Nature 2010;464:405-8.
【文献】Tanaka Y, Kurosaki M, Nishida N, et al. Genome-wide association study identified ITPA/DDRGK1 variants reflecting thrombocytopenia in pegylated interferon and ribavirin therapy for chronic hepatitis C. Hum Mol Genet 2011;20:3507-16.
【文献】Iio E, Matsuura K, Nishida N, et al. Genome-wide association study identifies a PSMD3 variant associated with neutropenia in interferon-based therapy for chronic hepatitis C. Hum Genet 2015;134:279-89.
【文献】Patin E, Kutalik Z, Guergnon J, et al. Genome-wide association study identifies variants associated with progression of liver fibrosis from HCV infection. Gastroenterology 2012;143:1244-52 e1-12.
【文献】Urabe Y, Ochi H, Kato N, et al. A genome-wide association study of HCV-induced liver cirrhosis in the Japanese population identifies novel susceptibility loci at the MHC region. J Hepatol 2013;58:875-82.
【文献】Kumar V, Kato N, Urabe Y, et al. Genome-wide association study identifies a susceptibility locus for HCV-induced hepatocellular carcinoma. Nat Genet 2011;43:455-8.
【文献】Miki D, Ochi H, Hayes CN, et al. Variation in the DEPDC5 locus is associated with progression to hepatocellular carcinoma in chronic hepatitis C virus carriers. Nat Genet 2011;43:797-800.
【文献】Nishida N, Tanabe T, Takasu M, et al. Further development of multiplex single nucleotide polymorphism typing method, the DigiTag2 assay. Anal Biochem 2007;364:78-85.
【文献】Berry R, Jowitt TA, Garrigue-Antar L, et al. Structural and functional evidence for a substrate exclusion mechanism in mammalian tolloid like-1 (TLL-1) proteinase. FEBS Lett 2010;584:657-61.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
治療によるC型肝炎ウイルス(HCV)排除後の肝細胞癌(HCC)発症の予測に関して、高齢、男性、肝線維化進展、飲酒、糖尿病合併、血液検査所見として血小板、アルブミン低値、α-フェトプロテイン高値などがリスク(危険)因子として報告されている(非特許文献5~8)。しかしながら、これら既報のリスク因子を用いても、HCV排除後のHCC発症予測能は十分と言えず、新たなHCV排除後の発癌予測マーカーの開発が望まれている。一方で、治療法の進歩により、ほとんどのHCV感染患者におけるウイルス排除が可能となった現在、HCV排除後の最も重要な問題が発癌サーベイランスであり、この問題を解決できる新規な予測マーカーの提供が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これまでに、HCV排除後のHCC発症に関わる宿主遺伝子全体に亘る網羅的な検討は無い。上記課題を解決すべく検討を進める中、本発明者らは宿主側の遺伝要因に着目し、HCV排除後のHCC発症に関わるリスク因子を見出すことを目指した。具体的には、抗HCV治療によりHCVを排除した日本人患者457人の一塩基多型(SNP: single nucleotide polymorphism)タイピングを行い(1例はタイピング不良のため以降の解析からは除外した)、発癌群と非発癌群に分類してゲノムワイド関連解析(GWAS: genome-wide association study)を行った。選抜された複数の候補SNPsについて、独立した発癌群と非発癌群を用い再現性を検証した結果、染色体4番目に位置するTLL1内(tolloid-like protein 1)のイントロンに存在するSNP(rs17047200)のマイナーアリルが発癌に関連することを同定した。GWASと再現性試験(validation study)を合わせて検討した結果は(オッズ比(odds ratio)= 2.37、P = 2.66×10-8)であり、ゲノムワイド関連解析の有意水準(P値が5×10-8未満)を満たした。また、対象患者におけるrs17047200マイナー遺伝子型(リスクアリルを持つ)患者の累積発癌率はメジャー遺伝子型(リスクアリルを持たない)患者に比べ有意に高い傾向を認めた(ログランク検定(log-rank test): P <0.001)。さらに、従来報告されてきた他のリスク因子を含めて多変量解析したところ、rs17047200遺伝子多型は独立したHCV排除後のHCC発症リスク因子であることを同定した(ハザード比(hazard ratio)= 1.78、P = 0.008)。また、肝線維化進展がHCV排除後のHCC発症に関わる主なリスク因子であることが報告されていることに注目し、線維化進展例と非進展例に分けて、更なる解析を行った結果として、両者においてrs17047200遺伝子型を含んだ異なる発癌予測モデルの構築に成功した。
【0006】
以上の通り、本発明者らは独自の検討によって、HCV排除後のHCC発症の予測に極めて有用なSNPの同定に成功した。当該SNPをHCV排除後のHCC予測マーカーとして用いれば、HCC発症可能性の高い患者、即ち、高リスク群を絞り込むことができる。同定に成功したSNPが独立した予測マーカーである点は特筆すべきであり、従来報告されているリスク因子と組み合わせることにより、HCV排除後のHCC発症リスク(危険度)をより明確に判断することが可能となる。実際、上記の通り、同定に成功したSNPと従来報告されているリスク因子を組み合わせた、有用性の高い発癌予測モデルの構築にも成功した。
以上の成果及び考察に基づき以下の発明が提供される。
(1)被検者から採取された核酸検体について、米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のSNPデータベースにおける登録番号rs17047200で特定される一塩基多型を検出し、以下の(a)~(c)のいずれかの基準に従いリスクを判定することを特徴とする、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスクを判定するための方法:
(a)塩基がTのアリルが検出されればリスクが高い;
(b)AA型のリスク <AT型のリスク,TT型のリスク;
(c)AA型のリスク < AT型のリスク < TT型のリスク。
(2)前記一塩基多型と、高齢、男性、血小板低値、肝線維化進展、ALT高値、α-フェトプロテイン高値、γ-GTP高値、アルブミン低値、及び糖尿病の合併からなる群より選択される一以上のリスク因子とを併用し、肝細胞癌発症のリスクを判定することを特徴とする、(1)に記載のリスクを判定するための方法。
(3)以下のステップ(i)及び(ii)からなる判定手順を含む、(2)に記載のリスクを判定するための方法、
(i)被検者を肝線維化ステージで分類するステップ、
(ii)前記一塩基多型と、高齢、男性、血小板低値、ALT高値、α-フェトプロテイン高値、γ-GTP高値、アルブミン低値、及び糖尿病の合併からなる群より選択される一以上のリスク因子とを併用して被検者を更に分類し、被検者のリスクを判定するステップ。
(4)ステップ(i)において、肝線維化ステージが0~2の第1区分と、肝線維化ステージが3~4の第2区分を設定し、
被検者が第1区分に分類された場合には、前記一塩基多型と、リスク因子としての高齢を併用して被検者を更に分類し、被検者のリスクを判定し、
被検者が第2区分に分類された場合には、前記一塩基多型と、リスク因子としてのアルブミン低値及びα-フェトプロテイン高値を併用して被検者を更に分類し、被検者のリスクを判定する、(3)に記載のリスクを判定するための方法。
(5)米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のSNPデータベースにおける登録番号rs17047200で特定される一塩基多型を検出するための核酸であって、前記多型部位を含む一定領域に相補的な配列を含み、前記領域に対して特異的にハイブリダイズする核酸を含む、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスク検査用試薬。
(6)(5)に記載の試薬を含む、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスク検査用キット。
(7)米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のSNPデータベースにおける登録番号rs17047200で特定される一塩基多型の、以下の(a)~(c)のいずれかの基準に従いC型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症を予測するためのバイオマーカーとしての利用:
(a)塩基がTのアリルが検出されればリスクが高い;
(b)AA型のリスク <AT型のリスク,TT型のリスク;
(c)AA型のリスク < AT型のリスク < TT型のリスク。
その他、本発明は、以下のような形態として実現することも可能である。
[1]被検者から採取された核酸検体について、米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のSNPデータベースにおける登録番号rs17047200で特定される一塩基多型を検出することを特徴とする、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスク検査法。
[2]以下の(a)~(c)のいずれかの基準に従いリスクを判定することを特徴とする、[1]に記載のリスク検査法:
(a)塩基がTのアリルが検出されればリスクが高い;
(b)AA型のリスク <AT型のリスク,TT型のリスク;
(c)AA型のリスク < AT型のリスク < TT型のリスク。
[3]前記一塩基多型と、高齢、男性、血小板低値、肝線維化進展、ALT高値、α-フェトプロテイン高値、γ-GTP高値、アルブミン低値、及び糖尿病の合併からなる群より選択される一以上のリスク因子とを併用し、肝細胞癌発症のリスクを判定することを特徴とする、[1]又は[2]に記載のリスク検査法。
[4]以下のステップ(i)及び(ii)からなる判定手順を含む、[3]に記載のリスク検査法、
(i)被検者を肝線維化ステージで分類するステップ、
(ii)前記一塩基多型と、高齢、男性、血小板低値、ALT高値、α-フェトプロテイン高値、γ-GTP高値、アルブミン低値、及び糖尿病の合併からなる群より選択される一以上のリスク因子とを併用して被検者を更に分類し、被検者のリスクを判定するステップ。
[5]ステップ(i)において、肝線維化ステージが0~2の第1区分と、肝線維化ステージが3~4の第2区分を設定し、
被検者が第1区分に分類された場合には、前記一塩基多型と、リスク因子としての高齢を併用して被検者を更に分類し、被検者のリスクを判定し、
被検者が第2区分に分類された場合には、前記一塩基多型と、リスク因子としてのアルブミン低値及びα-フェトプロテイン高値を併用して被検者を更に分類し、被検者のリスクを判定する、[4]に記載のリスク検査法。
[6]以下のステップ(I)を含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載のリスク検査法、
(I)判定結果に基づき、被検者の治療方針を決定又は変更するステップ。
[7]米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のSNPデータベースにおける登録番号rs17047200で特定される一塩基多型を検出するための核酸であって、前記多型部位を含む一定領域に相補的な配列を含み、前記領域に対して特異的にハイブリダイズする核酸を含む、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスク検査用試薬。
[8][7]に記載の試薬を含む、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスク検査用キット。
[9]米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のSNPデータベースにおける登録番号rs17047200で特定される一塩基多型からなる、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症予測マーカー。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】研究デザイン。HCC, hepatocellular carcinoma(肝細胞癌); EOT, end of treatment(治療終了); CTRL, control(コントロール); SNP, single nucleotide polymorphism(一塩基多型); QC, quality control(クオリティコントロール).
【
図2】患者背景。カテゴリーデータは数値、ノンカデゴリーデータは中央値(first-third quartiles)で示した。GWAS, genome-wide association study(ゲノムワイド関連解析); CTRL, control(コントロール); ALT, alanine aminotransaminase; γ-GTP, γ-glutamyl transpeptidase; APRI, aspartate aminotransferase (AST)-to-platelet ratio index; FIB-4, fibrosis-4; HCV, hepatitis C virus(C型肝炎ウイルス); N.A., not available; PEG-IFN, pegylated interferon(ペグインターフェロン); IFN mono, interferon monotherapy(インターフェロン単独療法); RBV, ribavirin(リバビリン); PI, protease inhibitor(プロテアーゼ阻害剤); HCC, hepatocellular carcinoma(肝細胞癌)
【
図3】DigiTag2アッセイにおいて設計した、rs17047200タイピング用のプライマー及びプローブ。クエリープローブの配列中のt(小文字)はミスマッチの塩基。
【
図4】TaqManアッセイにおいて設計したrs17047200タイピング用のプライマー及びプローブ。VIC(登録商標)及びFAM
TMはそれぞれのプローブに標識された蛍光色素。
【
図5】日本人患者456人(Case, n=123; Control, n=333)を対象としたゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果(マンハッタンプロット)。一つの点は、一つのSNPのアリル頻度の2群間比較(chi-square test)によるP値を示す。70 SNPsにおいてP<10
-4を満たし、上位SNPsは2つのクラスターを形成した(C6orf118, NTRK3)。 HCC, hepatocellular carcinoma(肝細胞癌); SNP, single nucleotide polymorphism(一塩基多型); OR, odds ratio(オッズ比), Chr, chromosome(染色体)。
【
図6】4番染色体のTLL1に位置するtag SNPと連鎖不平衡(r
2)。HapMapの日本人データより作成した。
【
図7】HCV排除後の肝細胞癌発症に関連するTLL1 SNP。GWAS、再現性検証解析のケース群、コントロール群におけるrs17047200 11(TT), 12 (TA), 22 (AA) の数を示している。OR、P値はTアリル、Aアリルの頻度比較(chi-square test)により算出した。GWASと再現性検証解析(a)のアリル分布を組み合わせた(b)。SNP, single nucleotide polymorphism(一塩基多型); HCC, hepatocellular carcinoma(肝細胞癌); HCV, hepatitis C virus(C型肝炎ウイルス); GWAS, genome-wide association study(ゲノムワイド関連解析); Chr, chromosome(染色体); CTRL, control(コントロール); CI, confidence interval(信頼区間)
【
図8】rs17047200遺伝子型別のHCV排除後累積肝細胞癌発症率(カプランマイヤー法)。GWAS、再現性検証解析において、ともにAA群に比べAT/TT群で有意に発癌率が高い結果が得られた。P値はログランクテストで算出した。GWAS, genome-wide association study(ゲノムワイド関連解析)
【
図9】HCV排除後の肝細胞癌発症に関連する因子の多変量解析。単変量解析の結果と交絡因子を考慮し、性別、年齢、γ-GTP値、アルブミン値、治療前AFP値、肝線維化進展度、rs17047200遺伝子型、糖尿病の有無、HBc抗体の有無、治療後ALT値、治療後AFP値を共変数として多変量解析を行った。HCC, hepatocellular carcinoma(肝細胞癌); HCV, hepatitis C virus(C型肝炎ウイルス); HR, hazard ratio(ハザード比); CI, confidence interval(信頼区間); γ-GTP, γ-glutamyl transpeptidase; Pre, pre-treatment(治療前); ALT, alanine aminotransaminase; AFP, α-fetoprotein; Post, post-treatment (24 weeks after the end of treatment)(治療後24週)
【
図10】肝線維化非進展例(F0 (n=12); F1 (n=136); F2 (n=93))におけるHCV排除後の肝細胞癌発症に関連する因子の多変量解析。血小板数≧130 × 10
9 /L及びアルブミンレベル≧4.0 g/dLの患者のみを対象とした。単変量解析の結果と交絡因子を考慮し、性別、年齢、治療前AFP値、rs17047200遺伝子型、HBc抗体の有無を共変数として多変量解析を行った。HCC, hepatocellular carcinoma(肝細胞癌); HCV, hepatitis C virus(C型肝炎ウイルス); HR, hazard ratio(ハザード比); CI, confidence interval(信頼区間); γ-GTP, γ-glutamyl transpeptidase; Pre, pre-treatment(治療前); ALT, alanine aminotransaminase; AFP, α-fetoprotein; Post, post-treatment (24 weeks after the end of treatment)(治療後24週)
【
図11】肝線維化進展度別の累積肝細胞癌発症率(カプランマイヤー法)。A)肝線維化非進展例における発癌危険因子は、高齢、rs17047200 AT/TTであり、これらの組み合わせにより、発癌リスクを3群に分けられた。B)肝線維化進展例における発癌危険因子はα-フェトプロテイン高値(治療終了後24週時)、アルブミン低値、rs17047200 AT/TTであり、これらの組み合わせ(危険因子の合計数)により、HCV排除後発癌リスクを2群に分けられた。P値はログランクテストで算出した。Post, post-treatment (24 weeks after the end of treatment)(治療終了後24週); AFP, α-fetoprotein; HCC, hepatocellular carcinoma(肝細胞癌)
【
図12】肝線維化進展例(F3 (n=144); F4 (n=82))におけるHCV排除後の肝細胞癌発症に関連する因子の多変量解析。単変量解析の結果と交絡因子を考慮し、年齢、血小板値、γ-GTP値、アルブミン値、rs17047200遺伝子型、糖尿病の有無、治療後AFP値を共変数として多変量解析を行った。HCC, hepatocellular carcinoma(肝細胞癌); HCV, hepatitis C virus(C型肝炎ウイルス); HR, hazard ratio(ハザード比); CI, confidence interval(信頼区間); γ-GTP, γ-glutamyl transpeptidase; Pre, pre-treatment(治療前); ALT, alanine aminotransaminase; AFP, α-fetoprotein; Post, post-treatment (24 weeks after the end of treatment)(治療後24週)
【
図13】rs17047200の遺伝子型及びアリル頻度の人種間での比較。HapMapデータはウェブサイト(http://hapmap.ncbi.nlm.nih.gov/index.html.en)から入手した。JPT, Japanese in Tokyo, Japan(東京在住の日本人); CHB, Han Chinese in Beijing(北京在住の中国人), China; CHD, Chinese in Metropolitan Denver, Colorado(コロラド州デンバー在住の中国人); CEU, Utah residents with Northern and Western European ancestry(北及び西ヨーロッパ人が先祖のユタ州住民); TSI, Toscans in Italy(イタリアのトスカーナ人); GIH, Gujarati Indians in Houston, Texas(テキサス州ヒューストン在住のグジャラートインド人); MEX, Mexican ancestry in Los Angeles(ロサンゼルスのメキシコ系住民); ASW, African ancestry in Southwest USA(米国南西部のアフリカ系住民); LWK, Luhya in Webuye, Kenya(ケニアのルイヤ族); MKK, Maasai in Kinyawa, Kenya(ケニアのマサイ族); YRI, Yoruba in Ibadan, Nigeria(ナイジェリアのヨルバ族)
【
図14】TLL1/BMP1と関連するタンパクネットワーク解析。TLL1/BMP1は線維化において重要な役割を果たすextracellular matrix (ECM: 細胞外基質)、TGF-βシグナルに深く関連する。受容体を矢じり形、転写因子をひし形、その他を円形でそれぞれ示した。
【
図15】ヒト肝星細胞株、肝線維化モデルラットにおけるTLL1/BMP1(Tll1/Bmp1) 発現解析。A: ヒト肝星細胞株(HHSteC)をヒト組換えTGF-β1(5 ng/ml)で処理した。独立した3回の実験を行った。平均±標準誤差でデータを示した(n=3)。TGF-β1による肝星細胞活性化に従い、TLL1 mRNAレベルは亢進した。B: ハイデンハインのアザン染色による肝線維化ステージ(METAVIR fibrosis stage)。コリン添加メチオニン減量(CSAA)飼料を与えたラットの肝臓(F0)とは対照的に、コリン欠乏メチオニン減量(CDAA)飼料を与えたラットの肝臓は、肝脂肪化、線維化が顕著に認められた(F2/F3-4)。C: 肝線維化モデルラットの肝臓内のTll1 mRNAレベルは、肝線維化進展に伴って亢進した。平均±標準誤差でデータを示した(n=5)。*P<0.05, **P<0.01, ***P<0.001
【
図16】正常肝、C型肝炎患者の肝臓内におけるTLL1発現解析。NL(正常肝: 転移性肝腫瘍の非腫瘍部)、C型肝炎患者のTLL1 mRNAレベルは、肝線維化進展に伴って増加した。
【
図17】TLL1 mRNAスプライスバリアントの発現検討。A: スプライスバリアントの模式図とリアルタイムPCR用のプライマー及びプローブのデザイン。アイソフォーム1は全長TLL1であり、アイソフォーム2は過去に報告のあるショートスプライスバリアント(GeneBank Accession: BC016922.2)である。B: HCV排除後、肝癌を発症した患者の非腫瘍部(NT)、腫瘍部(T)において、リアルタイムPCRにより得たエクソン5~6とエクソン20~21の発現値の割合を算出することにより、相対的なショートバリアント(short variants)の発現をrs17047200遺伝子型別に比較した。C)過去に報告のあるアイソフォーム2に特異的なプライマー/プローブを設計して、その発現レベルをrs17047200遺伝子型別に比較した。いずれの検討においても、rs17047200 AT/TTにおいて、ショートバリアントの発現が高い傾向を認めた。
【
図18】肝発癌におけるTLL1の影響の仮説。rs17047200 AT/TTの患者では、TLL1ショートバリアントが高発現であり、これによる高プロテアーゼ活性によって、肝線維化進展を介した発癌機構が促進される可能性が示唆された。
【
図19】TLL1遺伝子多型の臨床応用。 TLL1遺伝子型の分布は国際HapMapプロジェクトのデータに基づく。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.リスク検査法
本発明の第1の局面はC型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスク検査法に関する。本発明において「肝細胞癌発症のリスク」とは、肝細胞癌を将来発症するおそれ(可能性)の程度をいう。また、本発明において「C型肝炎ウイルス排除後」とは、事前の治療によって、C型肝炎ウイルスに関してウイルス学的著効(Sustained virological response, SVR)になっていることを意味する。従って、本発明のリスク検査法は、C型肝炎に対する治療を受けた患者が被検者となる。SVRは、治療終了後、24週で血中HCV RNAが検出感度以下であると定義される。事前の治療の種類は特に限定されず、例えば、インターフェロン(IFN)療法(IFNαやPEG化IFNα、IFNβの使用)、抗ウイルス薬による治療、インターフェロン及び抗ウイルス薬の併用療法などが該当する。抗ウイルス薬としてはプリンヌクレオシドアナログ(例えばリバビリン)、NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤(例えば、テラブレビル、アスナプレビル)、NS5A阻害剤(ダスラタスビル、レジパスビル)、NS5Bポリメラーゼ阻害剤(ソホスブビル)などが用いられている。
【0009】
本発明のリスク検査法ではrs17047200で特定される一塩基多型(SNP)を検出し、検出結果に基づきリスクを判定・評価する。即ち、本発明はrs17047200を発症予測マーカーとしてリスク判定に用いる。rs17047200は染色体4番目に位置するTLL1内のイントロンに存在するSNPである。TLL1はBMP1/TLD様プロテイナーゼファミリーに属する。rs番号は、米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のSNPデータベースでの登録番号である。rs17047200多型位置を含むゲノム領域の配列を配列番号1(rs17047200多型位置の塩基はW(A又はT)で表される)に示す。
【0010】
本発明において用語「一塩基多型を検出する」は、用語「一塩基多型を解析する」と置換可能である。一塩基多型(SNP)の検出によって多型位置の状態(即ち、塩基の種類)が明らかとなる。
【0011】
rs17047200多型に代えて、或いはrs17047200多型に組み合わせて、rs17047200多型と強い連鎖不平衡にあるSNPを検出対象にしてもよい。特定のSNPと強い連鎖不平衡(R2値>0.8)のSNPは類似した挙動を示し、rs17047200多型と同様に発症予測マーカーとして有用と考えられるからである。強い連鎖不平衡状態にあるSNPは、例えば、HaploviewやARLEQUINなどの解析用ソフトウエアによって同定することができる。
【0012】
本発明のリスク検査法の実施にあたっては、まず、被検者から採取された核酸検体を用意する。本発明では、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスク判定を必要とする者(被検者)に由来する核酸検体を使用する。核酸検体は、被検者の血液、唾液、リンパ液、尿、汗、皮膚細胞、粘膜細胞、毛髪等から公知の抽出方法、精製方法を用いて調製することができる。検出対象の多型部位を含むものであれば任意の長さのゲノムDNAを核酸検体として用いることができる。
【0013】
本発明の適用範囲は日本人に限られない。即ち、日本人以外のモンゴロイドやその他の人種(コーカソイド等)に対しても本発明を適用可能である。但し、遺伝的に近い集団(例えば日本人集団に対して中国人集団や韓国人集団は近い)では多型の種類・頻度が同様の傾向を示すことが多いという事実と、rs17047200多型の遺伝子型及びアリル頻度を人種間で比較した結果(後述の実施例及び
図13)を考慮すると、本発明における被検者は好ましくはモンゴロイド(日本人、中国人、韓国人など)又はコーカソイドであり、更に好ましくはモンゴロイドであり、より一層好ましくは日本人である。
【0014】
多型の検出法(解析法)は特に限定されるものではなく例えばアリル特異的プライマー(及びプローブ)を用い、PCR法による増幅、及び増幅産物の多型を蛍光又は発光によって検出する方法や、PCR(polymerase chain reaction)法を利用したPCR-RFLP(restriction fragment length polymorphism:制限酵素断片長多型)法、PCR-SSCP(single strand conformation polymorphism:単鎖高次構造多型)法(Orita,M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 86, 2766-2770(1989)等)、PCR-SSO(specific sequence oligonucleotide:特異的配列オリゴヌクレオチド)法、PCR-SSO法とドットハイブリダイゼーション法を組み合わせたASO(allele specific oligonucleotide:アリル特異的オリゴヌクレオチド)ハイブリダイゼーション法(Saiki, Nature, 324, 163-166(1986)等)、TaqMan(登録商標、Roche Molecular Systems社)-PCR法(Livak, KJ, Genet Anal,14,143(1999),Morris, T. et al., J. Clin. Microbiol.,34,2933(1996))、Invader(登録商標、Third Wave Technologies社)法(Lyamichev V et al., Nat Biotechnol,17,292(1999))、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を利用した方法(Heller, Academic Press Inc, pp. 245-256(1985)、Cardullo et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8790-8794(1988)、国際公開第99/28500号パンフレット、特開2004-121232号公報など)、ASP-PCR(Allele Specific Primer-PCR)法(国際公開第01/042498号公報など)、プライマー伸長法を用いたMALDI-TOF/MS(matrix)法(Haff LA, Smirnov IP, Genome Res 7,378(1997))、RCA(rolling cycle amplification)法(Lizardi PM et al., Nat Genet 19,225(1998))、DNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法(Wang DG et al., Science 280,1077(1998)等)、プライマー伸長法、サザンブロットハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法(Southern,E., J. Mol. Biol. 98, 503-517(1975))、DigiTag2法(Nishida N, Tanabe T, Takasu M, et al. Further development of multiplex single nucleotide polymorphism typing method, the DigiTag2 assay. Anal Biochem 2007;364:78-85.を参照)など、公知の方法を採用できる。さらに、検出対象の多型部位を直接シークエンスすることにしてもよい。尚、これらの方法を任意に組み合わせて多型を検出してもよい。また、PCR法又はPCR法を応用した方法などの核酸増幅法により核酸試料を予め増幅(核酸試料の一部領域の増幅を含む)した後、上記いずれかの検出方法を適用することもできる。
【0015】
多数の核酸検体を検出する場合にはアリル特異的PCR法、アリル特異的ハイブリダイゼーション法、TaqMan-PCR法、Invader法、FRETを利用した方法、ASP-PCR法、プライマー伸長法を用いたMALDI-TOF/MS(matrix)法、RCA(rolling cycle amplification)法、又はDNAチップ若しくはマイクロアレイを用いた方法、DigiTag2法等、多数の検体を比較的短時間で検出可能な検出法を用いることが特に好ましい。
【0016】
以上の方法では、各方法に応じたプローブやプライマー等の核酸(本発明において「多型検出用核酸」ともいう)が使用される。プローブとして利用される多型検出用核酸の例としては、検出対象の多型位置を含む染色体領域(部分染色体領域)に特異的にハイブリダイズする核酸を挙げることができる。ここでの「部分染色体領域」の長さは、例えば16~500塩基長、好ましくは18~200塩基長である。また、当該核酸は好ましくは部分染色体領域に相補的な配列を有するが、特異的なハイブリダイゼーションに支障のない限り、多少のミスマッチがあってもよい。ミスマッチの程度としては、1~数個、好ましくは1~5個、更に好ましくは1~3個である。ここでの「特異的なハイブリダイゼーション」とは、核酸プローブによる検出の際に通常採用されるハイブリダイゼーション条件(好ましくはストリンジェントな条件)の下、標的の核酸(部分染色体領域)に対してハイブリダイズする一方で、他の核酸との間にクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。尚、当業者であれば例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)を参考にしてハイブリダイゼーション条件を容易に設定可能である。
【0017】
プライマーとして利用される多型検出用核酸の例としては、検出対象の多型位置を含む一定領域(染色体の一部の領域)に相補的な配列を有し、当該多型部分を含むDNAフラグメントを特異的に増幅できるように設計された核酸を挙げることができる。プライマーとして利用される多型検出用核酸の他の例として、検出対象の多型部位がリスクアリルのものである場合にのみ当該多型部位を含むDNAフラグメントを特異的に増幅するように設計された核酸セットを挙げることができる。より具体的には、検出対象の多型部位を含むDNAフラグメントを特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、多型部位がリスクアリルのものであるアンチセンス鎖の当該多型部位を含む一定領域(染色体の一部の領域)に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、センス鎖の一部領域(多型部位の近傍領域)に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーとからなる核酸セットを例示することができる。ここで、増幅されるDNAフラグメントの長さはその検出に適した範囲で適宜設定され例えば15~1000塩基長、好ましくは20~500塩基長、更に好ましくは30~200塩基長である。尚、プローブの場合と同様、プライマーとして利用される多型検出用核酸についても、増幅対象(鋳型)に特異的にハイブリダイズし、目的のDNAフラグメントを増幅することができる限り、鋳型となる配列に対して多少のミスマッチがあってもよい。ミスマッチの程度としては、1~数個、好ましくは1~3個、更に好ましくは1~2個である。
【0018】
多型検出用核酸(プローブ、プライマー)には、検出法に応じて適宜DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA:Peptide nucleic acid:)等が用いられる。多型検出用核酸の塩基長はその機能が発揮される長さであればよく、プローブとして用いられる場合の塩基長の例としては15~150塩基長、好ましくは16~100塩基長である。他方、プライマーとして用いられる場合の塩基長の例としては10~70塩基長、好ましくは15~60塩基長、更に好ましくは20~50塩基長である。
【0019】
多型検出用核酸(プローブ、プライマー)はホスホジエステル法など公知の方法によって合成することができる。尚、多型検出用核酸の設計、合成等に関しては成書(例えばMolecular Cloning,Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New YorkやCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987))を参考にすることができる。
【0020】
本発明における多型検出用核酸を予め標識物質で標識しておくことができる。このような標識化核酸を用いることにより例えば、増幅産物の標識量を指標として多型を検出することができる。また、多型を構成する各遺伝子型の遺伝子における部分DNA領域をそれぞれ特異的に増幅するように設計された2種類のプライマーを互いに異なる標識物質で標識しておけば、増幅産物から検出される標識物質及び標識量によって核酸試料の遺伝子型を判別できる。このような標識化プライマーを用いた検出方法の具体例としては、多型を構成する各遺伝子型のセンス鎖にそれぞれ特異的にハイブリダイズする2種類の核酸プライマー(アリル特異的センスプライマー)をフルオレセインイソチオシアネートとテキサスレッドでそれぞれ標識し、これら標識化プライマーとアンチセンス鎖に特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーとを用いて多型部位を含む部分DNA領域を増幅し、得られた増幅産物における各蛍光物質の標識量を測定して多型を検出する方法を挙げることができる。尚、ここでのアンチセンスプライマーを例えばビオチンで標識しておけば、ビオチンとアビジンとの特異的な結合を利用して増幅産物の分離を行うことができる。
【0021】
多型検出用核酸の標識に用いられる標識物質としては7-AAD、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)350、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)555、Alexa Fluor(登録商標)568、Alexa Fluor(登録商標)594、Alexa Fluor(登録商標)633、Alexa Fluor(登録商標)647、CyTM 2、DsRED、EGFP、EYFP、FITC、PerCPTM、R-Phycoerythrin、Propidium Iodide、AMCA、DAPI、ECFP、MethylCoumarin、Allophycocyanin(APC)、CyTM 3、CyTM 5、Rhodamine-123、Tetramethylrhodamine、テキサスレッド(Texas Red(登録商標))、PE、PE-CyTM5、PE-CyTM5.5、PE-CyTM7、APC-CyTM7、オレゴングリーン(Oregon Green)、FAMTM、VIC(登録商標)、ABY(登録商標)、カルボキシフルオレセイン、カルボキシフルオレセインジアセテート、量子ドットなどの蛍光色素、32P、131I、125Iなどの放射性同位元素、ビオチンを例示でき、標識方法としてはアルカリフォスファターゼ及びT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いた5'末端標識法、T4 DNAポリメラーゼやKlenow断片を用いた3'末端標識法、ニックトランスレーション法、ランダムプライマー法(Molecular Cloning,Third Edition,Chapter 9,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)などを例示できる。
【0022】
以上の多型検出用核酸を不溶性支持体に固定化した状態で用いることもできる。固定化に使用する不溶性支持体をチップ状、ビーズ状などに加工しておけば、これら固定化核酸を用いて多型の検出をより簡便に行うことができる。
【0023】
以下、プライマー及びプローブの具体例(例1、例2)を示す。例1は、DigiTag2法に適するように設計されたものである。他方、例2はTaqMan(登録商標)アッセイに適するように設計されたものである。
<例1>
フォワードプライマー:5’-AACTCCATTCCAAGCATTTACCAGAAAATAAAATTCTGTA-3’(配列番号2)
リバースプライマー:5’-ACCTCATATAATTTAGAATTATAGTTCATCACTCATTAACCCTA-3’(配列番号3)
メジャーアリル(A)用のクエリープローブ(query probe):5’-ACCACCGCTTGAATACAAAACATCTTCAGAAATAGATGTCAATGtACA-3’(配列番号4)
マイナーアリル(T)用のクエリープローブ(query probe):5’- CCGTGTCCACTCTAGAAAAACCTTCAGAAATAGATGTCAATGtACT-3’(配列番号5)
コモンプローブ(common probe):5’-GTGAAATGGACATAAGTGGGCAAAAAAAAAAAAGAGTTCATGGACGTAATGTAAGTGAGCA-3’(配列番号6)
【0024】
<例2>
フォワードプライマー:5’-GCTCGTATGTCATTTCAACTCTTTTT-3’(配列番号7)
リバースプライマー:5’-CCTGACCTTGCCTTCAGAAATAG-3’(配列番号8)
メジャーアリル(A)用のプローブ:5’-CCATTTCACAGTTCATT-3’(配列番号9)
マイナーアリル(T)用のプローブ:5’-TCCATTTCACTGTTCAT-3’(配列番号10)
【0025】
本発明では多型の検出結果、即ち検出されたアリルの種類又はアリルの組合せ(遺伝子型)を基にリスクを判定する。ここでの判定は、その判定基準から明らかな通り、医師や検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。
【0026】
後述の実施例に示す通り、rs17047200多型では、T(チミン)がリスクアリルであることが判明した。そこで、例えば以下の基準に従ってリスクを判定・評価する。
(a)塩基がTのアリルが検出されればリスクが高い
【0027】
本発明の好ましい一態様では、多型の検出結果より、遺伝子型(アリルの組合せ)を決定する。具体的には、AA型(多型位置の塩基がAのアリルのホモ接合型)、AT型(多型位置の塩基がAのアリルと多型位置の塩基がTのアリルのヘテロ接合体)及びTT型(多型位置の塩基がTのアリルのホモ接合型)のいずれであるかを決定する。遺伝子型を用いれば、より確度の高い判定・評価が可能になる。遺伝子型を用いリスク判定・評価においては、例えば、以下の基準(b)又は(c)を採用することができる。
(b)AA型のリスク <AT型のリスク,TT型のリスク
(c)AA型のリスク < AT型のリスク < TT型のリスク
【0028】
本発明の一態様では、rs17047200多型の検出結果と、既存のリスク因子を併用し、肝細胞癌発症のリスクを判定する。既存のリスク因子の併用により、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスクの予測能が向上する。既存のリスク因子としては、高齢、男性、血小板低値、肝線維化進展、ALT高値、α-フェトプロテイン高値、γ-GTP高値、アルブミン低値、糖尿病の合併を挙げることができる。これらの中の一つ又は二以上のリスク因子が採用される。好ましくは、二以上のリスク因子を採用し、予測能の更なる向上を図る。
【0029】
高齢は、通常、60歳以上が高リスク(即ちリスク因子)となる。従って、60歳以上であることをリスク因子として採用することができる。血小板低値は、通常、基準値範囲(15~35万個/L)よりも低い値であり、具体的には15万個/L未満の値が高リスク(即ちリスク因子)となる。肝線維化進展は肝線維化ステージ(Fステージ)によって表される。FステージはF0(正常)、F1(軽度線維化)、F2(中等度線維化)、F3(高度線維化)、F4(肝硬変)の5段階に分類される。通常、F3又はF4をリスク因子とする。ALT高値は、通常、基準値範囲(男性10~42U/L、女性7~23U/L)よりも高い値であり、具体的には男性は42U/L、女性は23U/Lを超える値が高リスク(即ちリスク因子)となる。α-フェトプロテイン高値は、通常、基準値範囲(10.0ng/mL以下)よりも高い値であり、具体的には10.0ng/mLを超える値が高リスク(即ちリスク因子)となる。γ-GTP高値は、通常、基準値範囲(男性13~64U/L、女性9~32U/L)よりも高い値であり、具体的には男性は64U/L、女性は32U/Lを超える値が高リスク(即ちリスク因子)となる。アルブミン低値は、通常、基準値範囲(4.1~5.1g/dL)よりも低い値であり、具体的には4.1g/dL未満の値が高リスク(即ちリスク因子)となる。尚、各リスク因子に関する数値は、血液検査での値、即ち、血中濃度又は血中濃度に基づき算出される単位である。
【0030】
各リスク因子に関して、比較的緩やかな条件(高齢については例えば57歳以上、血小板低値については例えば20万個/L未満の値、肝線維化進展については例えばF2~F4、ALT高値ついては例えば男性は35U/L、女性は18U/Lを超える値、α-フェトプロテイン高値については例えば7ng/mLを超える値、γ-GTP高値ついては例えば男性は40U/L、女性は25U/Lを超える値、アルブミン低値ついては例えば4.3g/dL未満の値)をリスク因子とし、特に高いリスクの患者のみならず、比較的高いリスクの患者も特定できるようにしてもよい。
【0031】
一方、比較的厳しい条件(高齢については例えば65歳以上、血小板低値については例えば12万個/L未満の値、肝線維化進展については例えばF4、ALT高値ついては例えば男性は50U/L、女性は30U/Lを超える値、α-フェトプロテイン高値については例えば20ng/mLを超える値、γGTP高値ついては例えば男性は80U/L、女性は50U/Lを超える値、アルブミン低値ついては例えば3.0g/dL未満の値)をリスク因子とし、特に高いリスクの患者の絞り混みを可能にすることもできる。
【0032】
リスク因子を保有すること(即ち、リスク因子が当て嵌まる場合)はリスクが高いことを表す。従って、通常、保有するリスク因子が多いことはその分、リスクが高いことを表す。リスク因子の保有数に応じてリスクを判定する場合に設定されるリスク区分の具体例(rs17047200多型と3個のリスク因子を用いた場合の一例)を以下に示す。
リスク1:rs17047200多型がAA型、リスク因子を保有しない
リスク2:rs17047200多型がAT型、リスク因子の保有数が一つ
リスク3:rs17047200多型がAT型又はTT型、リスク因子の保有数が2
リスク4:rs17047200多型がAT型又はTT型、リスク因子の保有数が3
(但し、リスクの程度は、リスク1<リスク2<リスク3<リスク4)
【0033】
リスク因子間で、リスク判定における重要度ないし寄与度に差をも設けても良い。具体的には例えば、上掲のリスク因子の中で、肝線維化進展、高齢、男性及びrs17047200多型がAT型又はTT型は特に重要であり、これらのリスク因子を保有する場合は、その他のリスク因子を保有する場合よりもリスクが高いと判定する。
【0034】
好ましい一態様では、肝線維化進展に基づき一段階目の分類をした後、rs17047200多型と別のリスク因子(一つ又は二以上)を併用して二段階目の分類をし、被検者のリスクを判定する。即ち、この態様では、以下のステップ(i)及び(ii)からなる判定手順によって被検者のリスクを評価する。
(i)被検者を肝線維化ステージで分類するステップ
(ii)前記一塩基多型と、高齢、男性、血小板低値、ALT高値、α-フェトプロテイン高値、γ-GTP高値、アルブミン低値、及び糖尿病の合併からなる群より選択される一以上のリスク因子とを併用して被検者を更に分類し、被検者のリスクを判定するステップ
【0035】
ステップ(i)では肝線維化ステージに基づき被検者を分類する。即ち、線維化ステージが関連付けられた複数の区分を設定し、被検者を該当する区分に分類する。具体例を示すと、肝線維化ステージが0~2の第1区分と、肝線維化ステージが3~4の第2区分を設定し、被検者を該当する区分に分類する。このような分類の後、rs17047200多型と上掲のリスク因子を併用し、被検者を更に分類する。例えば、被検者が第1区分に分類された場合には、rs17047200多型と、リスク因子としての高齢を併用して被検者を更に分類し、被検者のリスクを判定する。一方で、被検者が第2区分に分類された場合には、rs17047200多型と、リスク因子としてのアルブミン低値及びα-フェトプロテイン高値を併用して被検者を更に分類し、被検者のリスクを判定する。
【0036】
判定結果は、被検者の肝細胞癌発症のリスクを表すものであり、肝細胞癌の予防、早期発見に役立つ。リスクが高いとの情報に基づいて予防的措置や生活習慣の改善等を図れば、肝細胞癌の発生可能性(罹患可能性)を低下させることができる。判定結果は、今後の治療方針を検討する上でも有用な情報を提供する。そこで本発明の一態様では、判定結果に基づき、被検者の治療方針を決定又は変更する(ステップ(I))。治療方針は、判定結果であるリスクに応じて設計ないし選択される。典型的には、高リスク群に分類された被検者には、発症の兆候が認められた際に早期かつ積極的な治療介入が望まれることから、高頻度且つ定期的な検診が推奨される。また、将来の発癌の可能性を見越した治療法の選択が望まれる。一方、低リスク群に分類された場合には、例えば、定期的な検診の頻度を減らすことが可能となり、患者の負担軽減、医療費削減につながる。尚、治療開始後、或いは治療方針決定後に本発明を実施した場合には、判定結果を治療方針の変更(見直し)に利用することができる。
【0037】
2.リスク検査用試薬及びキット
本発明の他の局面は、C型肝炎ウイルス排除後の肝細胞癌発症のリスク検査に用いられる試薬及びキットを提供する。本発明の試薬は、rs17047200多型を検出するための核酸(多型検出用核酸)からなる。
【0038】
本発明の試薬である多型検出用核酸は、それが適用される検出法(上述したアリル特異的核酸等を用いたPCR法を利用する方法、PCR-RFLP法、PCR-SSCP、TaqMan(登録商標)-PCR法、Invader(登録商標)法、DigiTag2法等)に応じて適宜設計される。多型検出用核酸の詳細については既述の通りであるが、キットの成分として利用可能な多型検出用核酸又は多型検出用核酸のセットの具体例を以下に示す。
(1)多型位置の塩基がAである染色体領域(部分染色体領域)に相補的な配列を有する非標識又は標識核酸
(2)多型位置の塩基がTである染色体領域(部分染色体領域)に相補的な配列を有する非標識又は標識核酸
(3)(1)の核酸と(2)の核酸との組合せ
(4)多型位置の塩基がAである場合にのみ、該多型部位を含むDNAフラグメントを特異的に増幅するように設計された核酸セット
(5)多型位置の塩基がTである場合にのみ、該多型部位を含むDNAフラグメントを特異的に増幅するように設計された核酸セット
(6)(4)の核酸セットと(5)の核酸セットとの組合せ
(7)多型位置を含むDNAフラグメントを特異的に増幅するように設計された核酸セットであって、多型位置の塩基がAである、当該多型位置を含む染色体領域(部分染色体領域)に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマー、及び/又は多型位置の塩基がTである、当該多型位置を含む染色体領域(部分染色体領域)に対して特異的にハイブリダイズするセンスプライマーと、当該部分染色体領域の近傍領域に対して特異的にハイブリダイズするアンチセンスプライマーと、からなる核酸セット
【0039】
本発明のキットには、本発明の試薬(多型検出用核酸)が含まれる。多型検出用核酸を使用する際(即ち多型検出の際)に必要な試薬(DNAポリメラーゼ、制限酵素、緩衝液、発色試薬など)や容器、器具等を本発明のキットに含めてもよい。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。
【実施例】
【0040】
近年、大規模な一塩基多型(SNP)解析技術の進歩により、全ゲノム領域を網羅的に解析することが可能となり、ゲノムワイド関連解析法(GWAS)を用いて、ヒトの様々な多因子疾患に関わる遺伝子多型が同定されており、HCV感染症領域においてはインターフェロン治療効果、副作用、自然経過に関連するSNPが同定されている(非特許文献9~16)。さらに、C型慢性肝炎における肝線維化進展、肝細胞癌に関連するSNPも同定されている(非特許文献17~20)。しかしながら、これまでにHCV排除後の肝細胞癌発症を対象としたGWASは報告されていない。そこで、日本人集団におけるインターフェロン治療によるHCV排除後の肝細胞癌発症に関連する宿主因子同定のためGWASを実施した。
【0041】
<方法>
1.患者
2007年から2015年にかけて、インターフェロンを基本とした治療によりHCV排除が得られた943人(GWASのために457人、続く再現性検証解析のために486人)のゲノムDNA検体および臨床情報を本邦43施設より収集した。GWASにおいては、SNPタイピング結果の得られたケース群(G-Case, n=123):治療終了後1年以上経過して肝細胞癌を発症した例、コントロール群[G-CTRL (≧5y), n=333]:治療終了後5年以上経過して肝細胞癌を発症していない例の2群間の関連解析を行った。一方、再現性検証解析においては、ケース群(R-Case, n=130):治療終了後1年以上経過して肝細胞癌を発症した例、コントロール群[R-CTRL (≧3y), n=356]:治療終了後3年以上経過して肝細胞癌を発症していない例、このうち治療終了後5年以上経過して肝細胞癌を発症していない例を[R-CTRL (≧5y), n=210]と層別化し関連解析を行った(
図1、2)。
【0042】
2.SNPタイピング
GWASにおけるSNPタイピングには、Affymetrix Axiom Genome-Wide ASI 1 Array Plate (Affymetrix, Inc. Santa Clara, CA) を用い、SNPコール率(call rate)≧95%、マイナーアリル頻度(MAF)≧5%、ハーディー・ワインバーグ平衡(HWE)P ≧ 0.001を満たした443,299 SNPsを関連解析対象とした。再現性検証解析におけるSNPタイピングは、DigiTag2アッセイ(Nishida N, Tanabe T, Takasu M, et al. Further development of multiplex single nucleotide polymorphism typing method, the DigiTag2 assay. Anal Biochem 2007;364:78-85.)、あるいはTaqMan(登録商標) SNP Genotyping Assays(Applied Biosystems, Carlsbad, CA)を用いた。
【0043】
3.統計解析
GWASおよび再現性検証解析におけるSNPのアリル頻度と発癌との関連解析はchi-square testを用い、ゲノムワイド有意水準はBonferroni補正によりGWAS: P = 1.12 × 10-7 (0.05/443,299)、再現性検証解析:P = 6.49 × 10-4(0.05/77)とし、これらの統合解析における有意水準はP < 5 × 10-8とした。その他の一般解析における2群間比較にはMann-Whitney U-test、累積発癌率はKaplan-Meier法、累積発癌リスクの多変量解析にはstepwise Cox proportional hazard modelを使用し、P < 0.05を有意基準とした。
【0044】
4.rs17047200遺伝子型測定法の確立
再現性検証解析のSNPタイピングに用いたDigiTag2アッセイにおいて設計したプライマー、プローブ配列は
図3のとおりである。DigiTag2法は、解析対象となるSNP毎にSNP特異的なコモンプローブ(common probe)と、アリル特異的なクエリープローブ(query probe)を用いて、一度に複数か所のSNPについて遺伝子型を決定することのできるマルチプレックスSNPタイピング法の一種である(Nishida N, Tanabe T, Takasu M, et al. Further development of multiplex single nucleotide polymorphism typing method, the DigiTag2 assay. Anal Biochem 2007;364:78-85.)。検出用プローブは、SNP位置と隣接して下流に存在する3'側プローブ(コモンプローブ)とSNPを3'末端に含む上流に存在する5'側プローブ'(クエリープローブ)に分かれている。クエリープローブはSNP毎にアリルに対応した2種類を用意する。クエリープローブの3'末端に対応するSNPの遺伝子型に応じて、それと相補的な塩基を持つクエリープローブだけが、3'側に隣接して存在するコモンプローブと結合することができる。尚、検出のために各クエリープローブの5'末端にはアリルに対応して2種類のクエリータグ(query tag)が連結されており、またコモンプローブの3'末端にはSNPごとに異なるコモンタグ(common tag)が連結されている。コモンプローブに連結されたコモンタグと相補的な塩基配列を持つオリゴDNAを固定したDNAチップを用いて検出を行う。検体の遺伝子型に応じて生成されたクエリープローブとコモンプローブの結合産物は、DNAチップ上のコモンタグと相補的な塩基配列を持つオリゴDNAに捕獲される。アリルに対応するクエリータグに対応して2種類の蛍光分子を導入することで、各SNPの遺伝子型が決定される。
【0045】
リアルタイムPCR法によるrs17047200遺伝子型測定のためのプライマー、TaqMan(登録商標)プローブを、Primer Express software v3.0.1(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いてrs17047200の前後の塩基配列から設計した(
図4)。SNPの遺伝子型に応じて、それと相補的な塩基を持つプローブが結合した後、PCR伸長反応に伴い切断されることにより、アリル別に標識した蛍光色素(VIC(登録商標)、FAM
TM)のシグナルが放出され、これを検知することによりSNP遺伝子型を判定する。
【0046】
<結果>
1.HCV排除後の肝細胞癌発症に関連するSNPの同定
GWASにより、G-Case (n=123) vs. G-CTRL (≧5y)(n=333)における443,299 SNPsのアリル頻度比較を行った結果、70 SNPsにおいてP < 10
-4を満たした(
図5)。このうち、6番染色体C6orf118下流に存在する上位二つのSNPsはゲノムワイド有意水準を満たした[rs4709076, odds ratio (OR) = 2.66, P = 1.17 × 10
-8; rs4709927, OR = 2.63, P = 1.95 × 10
-8]。さらに、15番染色体NTRK3内に存在するrs922231、rs922232、rs11073757も強い関連を示した。そこで、まずこれらの領域のSNPに関して、GWASとは独立した486例による再現性検証解析を行ったが、再現性は得られなかった。次にGWASにおいてP < 10
-4を満たした70 SNPsと過去の報告でHCV関連肝硬変、肝細胞癌発症との関連が示された9 SNPsについて、再現性検証解析を実施したところ、最終的に4番染色体のTLL1のイントロン領域に位置するrs17047200において(
図6)、有意な再現性が得られた。このSNPについて、GWASと再現性検証解析を統合した結果、ゲノムワイド有意水準を満たした(OR = 2.37, P = 2.66 × 10
-8)(
図7)。Kaplan-Meier法によりrs17047200の遺伝子型別の累積発癌率をみたところ、GWAS、再現性検証解析において、ともにAA群に比べAT/TT群で有意に発癌率が高い結果が得られた(
図8)。
【0047】
2.HCV排除の肝細胞癌発症の危険因子
次に、全症例(n=942)の臨床データを用いて、HCV排除後の肝細胞癌発症リスクに関する多変量解析を行ったところ、従来報告されてきた男性、高齢、血小板低値、肝線維化進展、糖尿病合併、アルブミン低値、α-フェトプロテイン高値に加え、rs17047200 AT/TTが独立した危険因子であることが判明した[hazard ratio (HR) = 1.78, P = 0.008](
図9)。これまでに、肝線維化進展がHCV排除後発癌の主要な危険因子であることが報告されており、肝線維化進展度別にrs17047200遺伝子型の関連を検討した。肝線維化非進展例においては、多変量解析の結果、高齢(HR = 2.90, P = 0.001)、rs17047200 AT/TT (HR = 4.26, P = 0.005)が独立した危険因子であり(
図10)、これらの組み合わせにより、HCV排除後発癌リスクは3群に分けられた(
図11A)。肝線維化進展例においては、多変量解析の結果、α-フェトプロテイン高値(治療終了後)(HR = 1.90, P < 0.001)、アルブミン低値 (HR = 0.43, P = 0.004)、rs17047200 AT/TT (HR = 1.86, P = 0.017)が独立した危険因子であり(
図12)、これらの組み合わせ(危険因子の合計数)により、HCV排除後発癌リスクは2群に分けられた(
図11B)。
【0048】
3.TLL1発現解析
Mammalian Tolloid-like 1 (mTLL1) は、bone morphogenetic protein 1/tolloid (BMP1/TLD)-like proteinase ファミリーの1つであり、TLL1およびBMP1と相互作用するタンパクをin silico解析したところ、細胞外基質産生、TGF-βシグナルに関与していることが判明した(
図14)。これらは様々な臓器における線維化形成に深く関わっていることが知られているため、ヒト肝星細胞株、肝線維化動物モデル、ヒト肝組織検体を用いてTLL1発現解析を行った。ヒト肝星細胞株(HHSteC)の培養上清にTGF-β1を添加すると星細胞活性化の指標であるACTA2と同様に、TLL1 mRNAレベルは亢進した(
図15A)。次に、コリン欠乏メチオニン減量(CDAA: choline-deficient L-amino acid-defined)飼料投与による非アルコール性脂肪性肝炎(NASH: Non-alcoholic steatohepatitis)から肝線維化・発癌をきたすモデルラットを用いて解析したところ、肝線維化が進展するに従いTll1 mRNAレベルは亢進した(
図15C)。同様の傾向は、ヒト正常肝(転移性肝癌の肝非癌部)、C型慢性肝炎患者の肝組織を用いた検討においても認められた(
図16)。すなわち、TLL1は肝星細胞活性化あるいは肝線維化進展に伴って強く誘導され、従来、肝癌は肝線維化の進展した状態(肝硬変)から発症しやすいことが知られていることから、TLL1遺伝子は主に肝線維化進展を介して肝発癌に寄与している可能性が示唆された(
図18)。
【0049】
次に、C型肝炎患者の肝臓内のTLL1 mRNA(エクソン5-6領域)レベルをrs17047200遺伝子型別に検討したが差は認めなかった。rs17047200はTLL1のイントロンに位置しているため、プロモーター領域やエクソン領域にrs17047200と連鎖不平衡にある有意なSNPが存在しTLL1の機能(タンパク発現)に影響している可能性を考え、SNPインピュテーション(imputation)の手法を用いて検討した。しかしながら、これらの領域には有意なSNPは認めず、rs17047200周囲に複数の有意なイントロンSNPを認めるのみであった。この結果から、rs17047200を含むこれらのイントロンSNPがTLL1 mRNA のスプライシングに影響する可能性を考え、ショートバリアント(short variants)の発現検討を行った。SVR後肝癌を発症した患者の非腫瘍部、腫瘍部において、リアルタイムPCRにより得たエクソン5~6とエクソン20~21の発現値の割合を算出することにより相対的なショートバリアントの発現レベルをrs17047200遺伝子型別に比較した。さらに、過去に報告のあるTLL1アイソフォーム2に特異的なプライマー/プローブを設計して、その発現レベルをrs17047200遺伝子型別にリアルタイムPCRを用いて比較した。いずれの検討においても、rs17047200 AT/TTにおいて、ショートバリアントの発現が高い傾向を認めた(
図17)。過去の報告により、TLL1ショートバリアントのプロテアーゼ活性は全長TLL1に比べ高いことが示されており(非特許文献22)、rs17047200 AT/TTの患者では、TLL1ショートバリアントが高発現であり、これによる高プロテアーゼ活性によって、肝線維化進展を介した発癌機構が促進される可能性が示唆された(
図18)。
【0050】
<考察>
インターフェロン治療によりHCVを排除した日本人患者において、その後の肝細胞癌発症に関わるSNP解析を、宿主ゲノム全体に亘って網羅的に実施した結果、強く関連する(ゲノムワイド有意水準を満たす)SNPを発見した。HCV排除後の肝細胞癌発症に関連するSNPの報告はこれまでになく、本研究が世界で始めてとなる。治療法の進歩により、ほとんどのHCV感染患者におけるウイルス排除が可能となった現在、HCV排除後の最も重要な問題が、発癌サーベイランスである。特に、欧米に比べ本邦においては、HCV感染患者は高齢、かつ肝線維化進展例が多いため、HCV排除後の肝細胞癌発症は高率であることが推測され、より精度の高い発癌予測法の確立が望まれている。本研究で同定したSNP: rs17047200の遺伝子型をHCV排除後の肝細胞癌発症予測マーカーとして用いることによって、危険性の高い患者群を絞り込むことが可能となる。さらに、従来報告されている危険因子と組み合わせることにより、より明確に発癌を予測するモデルを構築した(
図11)。これらの成果により、リスクに応じた発癌サーベイランスといった個別化医療を展開することが可能となる(
図19)。今後、実際にrs17047200遺伝子型測定を臨床応用することを想定し、リアルタイムPCR法によるSNPタイピングに必要なプライマー、プローブをrs17047200の前後の塩基配列から設計し、良好な結果を得た。前述した背景から、rs17047200遺伝子型を測定する対象患者は極めて多く、臨床的な意義は大きいと考えられる。また、TLL1を中心としたさらなる研究により、HCV排除後やその他の肝疾患(B型肝炎、NASHなど)を原因とする肝発癌のメカニズムの解明、新規の治療法の開発も期待できる。尚、rs17047200多型の遺伝子型及びアリル頻度の分布は人種間(アフリカ系を除く)で類似している(
図13)。この事実は、rs17047200多型の予測マーカーとしての汎用性が高いことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、HCV排除後のHCC発症リスクを判定することができる。本発明を利用すれば、将来HCCを発症する可能性の高い患者を絞りこみ、選択的かつ集中的なサーベイランスが可能となる。そのため、早期且つ適時の治療介入が可能になり、重症化の回避、治療効果の増大などを望める。本発明は予防医療に利用できるものであり、無駄な医療行為を未然に防止することによる医療経済への貢献も期待される。
【0052】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【配列表フリーテキスト】
【0053】
配列番号2:人工配列の説明:フォワードプライマー
配列番号3:人工配列の説明:リバースプライマー
配列番号4:人工配列の説明:メジャーアリル用のクエリープローブ
配列番号5:人工配列の説明:マイナーアリル用のクエリープローブ
配列番号6:人工配列の説明:コモンプローブ
配列番号7:人工配列の説明:フォワードプライマー
配列番号8:人工配列の説明:リバースプライマー
配列番号9:人工配列の説明:メジャーアリル用のプローブ
配列番号10:人工配列の説明:マイナーアリル用のプローブ
【配列表】