(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】グラビア印刷機
(51)【国際特許分類】
B41F 9/00 20060101AFI20220323BHJP
B41F 31/30 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
B41F9/00 B
B41F31/30
(21)【出願番号】P 2017201558
(22)【出願日】2017-10-18
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 亮
(72)【発明者】
【氏名】大宮 利信
(72)【発明者】
【氏名】石橋 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 誠
(72)【発明者】
【氏名】鷹野 彰浩
(72)【発明者】
【氏名】篠原 博人
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-094548(JP,A)
【文献】特開平05-154998(JP,A)
【文献】特開平06-015207(JP,A)
【文献】特表2013-512803(JP,A)
【文献】米国特許第06247406(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 9/00
B41F 31/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動されることによって、搬送されているウエブにインキを転写する版胴と、
前記版胴に接して回転することによって、当該版胴にインキを供給するファニッシャーロールと、
回転する前記版胴及び前記ファニッシャーロールを支持する支持フレームと、
を備えたグラビア印刷機であって、
前記ファニッシャーロールは、前記支持フレームに脱着可能に支持されており、
前記ファニッシャーロールの載置が可能なロール置き台が、前記支持フレームに隣接して設置されてい
て、
前記ロール置き台は、
前記ファニッシャーロールよりも長く略水平方向に延びる基部と、
前記基部に設けられて前記ファニッシャーロールを支持する一対の支持部と、
を有し、
前記一対の支持部が、前記支持フレームの側に位置する第1支持部と、当該第1支持部に対して前記支持フレームの反対側に位置する第2支持部とで構成されていて、
前記第2支持部が、前記基部に対してスライド可能に設けられているグラビア印刷機。
【請求項2】
請求項1に記載のグラビア印刷機において、
前記一対の支持部の各々が、前記ファニッシャーロールの各端部から突出する軸を受け止めることにより、前記ファニッシャーロールが、非接触の状態で前記ロール置き台に載置されるグラビア印刷機。
【請求項3】
請求項2に記載のグラビア印刷機において、
前記ファニッシャーロールは、前記版胴に接する使用位置と、前記版胴から離れて位置する待機位置と、に変位可能な状態で前記支持フレームに支持されており、
前記ロール置き台が、前記待機位置に位置する前記ファニッシャーロールの端部の近傍から延出するように配置されているグラビア印刷機。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のグラビア印刷機において、
前記第1支持部に、一方の前記軸を上方から受け止めて支持する第1軸受部が設けられるとともに、前記第2支持部に、他方の前記軸を上方から受け止めて支持する第2軸受部が設けられており、
前記第1軸受部よりも前記第2軸受部の方が高く位置するように構成されているグラビア印刷機。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1つに記載のグラビア印刷機において、
前記ファニッシャーロールが、その中心側に設けられた本体部と、この本体部の周囲に設けられた弾性を有する中間部と、この中間部の周囲に設けられて前記版胴に接する表面部とを有しており、
前記本体部が炭素繊維強化樹脂で構成されるとともに、前記表面部がフッ素樹脂で構成されているグラビア印刷機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、グラビア印刷機に関し、その中でも特に、ファニッシャーロールの交換を容易にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術に関連する文献としては、例えば次の特許文献1及び特許文献2がある。
【0003】
特許文献1には、グラビア印刷機の版胴等を交換する際に、版胴やインキパン、ファニッシャーロール等を運搬することができるカセット台車が開示されている。そのグラビア印刷機の周辺にはレールが敷設されていて、そのレール上をカセット台車が走行するように構成されている。
【0004】
特許文献2には、有機溶剤を含む塗料に対して耐性を確保するために、鉄製のロールの周囲にゴム弾性体層を設け、その表面にフロロカーボン樹脂層を設けたファニッシャーロールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-290496号公報
【文献】特開平5ー128510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グラビア印刷機において、インキの色や種類を切り替える時には、インキの交換とともに、版胴やファニッシャーロールを交換したり洗浄したりする作業が行われる。これら作業に要する時間が長くなれば、それだけ印刷が行える時間が短縮される。従って、生産性を向上するためには、これら作業の負担を軽減し、作業内容を簡略化するなどして、作業時間を短縮させる必要がある。
【0007】
その点、特許文献1のグラビア印刷機では、カセット台車の設置によって版胴等の交換が容易になるので、これら作業に要する時間が短縮できる。しかし、特許文献1の方法では、グラビア印刷機の周囲にレールを敷設したりカセット台車を複数設置したりする必要がある。そのため、特許文献1の方法は、グラビア印刷機にとって補助的な機能であるにもかかわらず、規模の大きな設備が必要で、安価に実施にできないという問題がある。また、グラビア印刷機の周囲に広いスペースを確保しなければならない点でも不利がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで開示する技術は、回転駆動されることによって、搬送されているウエブにインキを転写する版胴と、前記版胴に接して回転することによって、当該版胴にインキを供給するファニッシャーロールと、回転する前記版胴及び前記ファニッシャーロールを支持する支持フレームと、を備えたグラビア印刷機に関するものである。
【0009】
前記ファニッシャーロールは、前記支持フレームに脱着可能に支持されており、前記ファニッシャーロールの載置が可能なロール置き台が、前記支持フレームに隣接して設置されていることを特徴とする。
【0010】
すなわち、このグラビア印刷機によれば、版胴へのインキの供給は、ファニッシャーロールによって行われるため、インキを切り替える時には、ファニッシャーロールに付着したインキを問題無いレベルまで完全に除去するか、新しいファニッシャーロールに交換する必要がある。ファニッシャーロールに付着したインキを完全に除去するのは難しく、その除去には時間を要するため、ファニッシャーロールを交換する方が、インキを完全に除去する必要がないので、作業時間を短縮するには有利である。
【0011】
それに対し、このグラビア印刷機のファニッシャーロールは、支持フレームに脱着可能に支持されているので、ファニッシャーロールを交換できる。そして、ファニッシャーロールの載置が可能なロール置き台が、支持フレームに隣接して設置されているので、支持フレームから取り外したファニッシャーロールは、遠方へ搬出しなくても、直ちにロール置き台に載置できる。
【0012】
なお、ロール置き台は複数設置するとよい。そうすれば、ロール置き台の1つに未使用のファニッシャーロールが載置できる。そして、そうしておけば、遠方から搬入しなくても、使用済みのファニッシャーロールを取り外した後、直ちに新しいファニッシャーロールを支持フレームに取り付けることができる。
【0013】
従って、簡単な構成でありながら、ファニッシャーロールの交換作業の負担が大幅に軽減でき、ファニッシャーロールの交換が迅速に行えるようになり、生産性の向上が図れる。
【0014】
前記ロール置き台は、前記ファニッシャーロールよりも長く略水平方向に延びる基部と、前記基部に設けられた一対の支持部と、を有し、前記一対の支持部の各々が、前記ファニッシャーロールの各端部から突出する軸を受け止めることにより、前記ファニッシャーロールが、非接触の状態で前記ロール置き台に載置される、ように構成するのが好ましい。
【0015】
そうすれば、長尺で扱い難いファニッシャーロールでも、支持し易い略水平な姿勢の状態のままでロール置き台に載置できるので、交換作業が容易に行える。そして、ファニッシャーロールが、非接触の状態でロール置き台に載置されるので、ファニッシャーロールが変形したり破損したりするのを防止できる。
【0016】
その場合、前記一対の支持部が、前記支持フレームの側に位置する第1支持部と、当該第1支持部に対して前記支持フレームの反対側に位置する第2支持部とで構成されていて、前記第2支持部が、前記基部に対してスライド可能に設けられているようにするのが好ましい。
【0017】
そうすれば、ファニッシャーロールの一方の軸を第2支持部に支持させてしまえば、オペレータは、ファニッシャーロールの全重量を支持する必要が無くなり、扱い易くなる。そして、ファニッシャーロールを押し込めば、第2支持部がスライドし、ロール置き台の上にファニッシャーロールが移動していく。このとき、オペレータは、ほとんど移動する必要がないので、安全かつ効率的に作業でき、短時間でロール置き台にファニッシャーロールを載置できる。
【0018】
更にその場合、前記ファニッシャーロールは、前記版胴に接する使用位置と、前記版胴から離れて位置する待機位置と、に変位可能な状態で前記支持フレームに支持されており、前記ロール置き台が、前記待機位置に位置する前記ファニッシャーロールの端部の近傍から延出するように配置されている、のが好ましい。
【0019】
ファニッシャーロールは待機位置に位置する時に支持フレームから取り外されるので、その待機位置に位置するファニッシャーロールと直列に並ぶようにロール置き台を配置することで、ファニッシャーロールを、横方向にその長さ程度の距離を移動させるだけで、ファニッシャーロールの交換が行える。従って、効率的かつ短時間でファニッシャーロールの交換が行える。
【0020】
前記第1支持部に、一方の前記軸を上方から受け止めて支持する第1軸受部が設けられるとともに、前記第2支持部に、他方の前記軸を上方から受け止めて支持する第2軸受部が設けられており、前記第1軸受部よりも前記第2軸受部の方が高く位置するように構成するのが好ましい。
【0021】
第2支持部は、支持フレームの近くに位置する第1支持部の側に寄せている方が、楽に軸を第2支持部に支持させることができる。しかし、その場合、第2軸受部に軸を受け止めさせる際、第1支持部が邪魔になる。それに対し、第1軸受部よりも第2軸受部の方が高く位置するようにすれば、第2支持部が第1支持部の近くに位置していても、第1支持部に接触しないようにファニッシャーロールを高く持ち上げることなく、軸を第2軸受部に容易に支持させることができる。
【0022】
前記ファニッシャーロールが、その中心側に設けられた本体部と、この本体部の周囲に設けられた弾性を有する中間部と、この中間部の周囲に設けられて前記版胴に接する表面部とを有しており、前記本体部が炭素繊維強化樹脂で構成されるとともに、前記表面部がフッ素樹脂で構成されているようにするのが好ましい。
【0023】
そうすれば、炭素繊維強化樹脂製の本体部により、ファニッシャーロールそれ自体の剛性を確保しながら軽量化できるので、ファニッシャーロールの取り扱いが楽になる。そして、フッ素樹脂製の表面部により、インキの除去が容易になる。従って、ファニッシャーロールの交換作業の負担が大幅に軽減でき、ファニッシャーロールの交換が迅速に行える。
【発明の効果】
【0024】
開示するグラビア印刷機によれば、実現容易な簡単な構成でありながら、ファニッシャーロールの交換作業の負担が大幅に軽減でき、ファニッシャーロールの交換が迅速に行えるようになるので、生産性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本実施形態で開示するグラビア印刷機の構成を示す概略図(左側方から見た断面図)である。切替時等、印刷していない状態を示している。
【
図2】本実施形態で開示するグラビア印刷機の構成を示す概略図(前方から見た図)である。切替時等、印刷していない状態を示している。
【
図3】本実施形態で開示するグラビア印刷機の構成を示す概略図(左側方から見た断面図)である。印刷時の状態を示している。
【
図5】
図2における矢印Xの方向から見たロール置き台を示す概略図である。
【
図6】ロール置き台の構造を示す概略斜視図である。
【
図7】ファニッシャーロールの交換作業の流れを説明する図である。(a)~(c)は、取り外したファニッシャーロールをロール置き台に置く過程を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0027】
<グラビア印刷機の構成>
図1及び
図2に、本実施形態で開示するグラビア印刷機1の構成を概略的に示す。
図1及び
図2は、印刷の間に行われる切替時におけるグラビア印刷機1の状態を示している。印刷時におけるグラビア印刷機1の状態は、
図3に示す。
【0028】
このグラビア印刷機1は、搬送されるウエブW(印刷対象)にインク(単色)を連続して印刷する装置である。複数のグラビア印刷機1を、ウエブWの搬送方向に沿って一列に配置してグラビア印刷システムを構成し、搬送されるウエブWに対し、これらグラビア印刷機1の各々で連続して色別に印刷を行えば、多色刷りも可能である。グラビア印刷機1に用いるインキや版胴40を交換することで、多種多様な印刷が行える。
【0029】
グラビア印刷機1は、上下方向に延びるように床面Fに設置され、例えば1m以上2m以下の、一定の間隔を隔てて左右方向に対向する一対の支持フレーム2,2を有している。これら支持フレーム2,2の間に、グラビア印刷機1を構成するインキパン4、ドライヤー10、ガイドロール20,21、圧胴30、版胴40、ファニッシャーロール50などの関連装置が、上下方向の所定位置に配置されている。
【0030】
図1における支持フレーム2の右側には、版胴40の交換や洗浄、インキの投入等、オペレータOPが作業を行う作業スペースSが存在している。便宜上、この作業スペースSが存在する側を「前」とする。
図2においては、紙面の手前側が「前」である。前後左右等の方向を各図において矢印で示す。
【0031】
一対の支持フレーム2,2の右側には、駆動機器や制御機器を収容した箱状の機械カバー5が設置されている。また、これら機械カバー5の前側には、ファニッシャーロール50の交換に用いるロール置き台7が設置されている。ロール置き台7については別途後述する。
【0032】
インキパン4は、左右方向に長い、上面視矩形の底の浅いトレイ状容器である。インキパン4の上面は開放されている。印刷時には、所定の液位を保つように制御された状態で、インキパン4にインキが溜められる。
【0033】
インキパン4は、支持フレーム2,2の間の床面Fに設置された支持台3の上に、取り外し可能な状態で略水平に載置されている。詳細は省略するが、支持台3は、インキパン4を載置した状態で昇降するように構成されている。具体的には、
図1に示すように、インキパン4が版胴40から下方に離れて位置する待機位置と、
図3に示すように、インキパン4が版胴40の下部に近接する使用位置とに変位する。
【0034】
(ファニッシャーロール)
ファニッシャーロール50は、円柱状の細長い部材である。ファニッシャーロール50は、
図4に示すように、その中心側に設けられている円筒状の本体部50aと、この本体部50aの周囲に設けられている弾性を有する中間部50bと、この中間部50bの周囲に設けられている表面部50cとを有している。
【0035】
通常、高い剛性が求められる本体部50aはアルミ材などで構成されているが、このグラビア印刷機では、扱い易くするために、本体部50aは炭素繊維強化樹脂によって構成されている。それにより、ファニッシャーロール50は、高い剛性を確保しながら軽量化が図られている。中間部50bは、ゴム製の円筒状の部材からなり、本体部50aに圧入して接着することで、その周囲に固着されている。
【0036】
表面部50cは、付着したインキが容易に除去できるように、フッ素樹脂で構成されている。厚みの薄いフッ素樹脂製のチューブ状部材に中間部50bを圧入することで、中間部50bの周囲に表面部50cが設けられている。それにより、中間部50bが絶えず弾性変形しても、表面部50cが部分的に剥離したり減少したりするのを防止でき、長期にわたって安定した品質を維持できる。表面部50cだけを取り換えることも可能である。
【0037】
本体部50aの両端部の各々には、FR支持軸51が側方に突出するように設けられている。FR支持軸51の中心はファニッシャーロール50の中心と一致している。これらFR支持軸51,51が、軸支部52aを介して一対の揺動アーム52,52に支持されている。それにより、ファニッシャーロール50は、左右方向へ水平に延びる回転軸J1を中心に回転自在となっている。
【0038】
FR支持軸51は、軸支部52aから上方に取り外すことができ、また、軸支部52aに上方から取り付けることができるようになっている。すなわち、ファニッシャーロール50は、支持フレーム2,2に脱着可能に支持されている。
【0039】
各揺動アーム52は、詳細は省略するが、左右の支持フレーム2,2の各々に、回動可能に支持されている。これら揺動アーム52,52が作業スペースSの有る前側に向かって回動することにより、ファニッシャーロール50は、
図1に示すように、版胴40から下方に離れて位置する待機位置と、
図3に示すように、ファニッシャーロール50が版胴40に圧接する使用位置とに変位する。
【0040】
待機位置に位置するファニッシャーロール50は、床面から50cm以上100cm以下の高さで作業スペースSに臨むように設計されている。そうすることで、オペレータOPは、比較的楽な姿勢でファニッシャーロール50の脱着ができ、作業負担が軽減されるようになっている。
【0041】
左右の揺動アーム52,52の間の距離よりもインキパン4の左右方向の長さは短く形成されており、インキパン4は、これら揺動アーム52,52の間を昇降する。ファニッシャーロール50の左右方向の長さは、インキパン4の左右方向の長さよりも短く、ファニッシャーロール50はインキパン4に収容可能となっている。
【0042】
それにより、印刷時には、ファニッシャーロール50は、インキパン4に収容され、ファニッシャーロール50の下部が、インキパン4に溜まるインキに浸漬された状態となるように構成されている。
【0043】
版胴40は、円柱状の長い部材である。版胴40の外周面には、その長手方向の両端部の一部を除き、印刷面を構成する凹版41が形成されている。版胴40の外径は、例えば120mm以上300mm以下の範囲の大きさであり、また、凹版41の横幅は、例えば800mm以上1400mm以下の範囲の大きさである。版胴40の外径及び横幅は、それぞれ印刷するウエブWに応じて適宜選択される。版胴40の両端部の中心には、それぞれGR支持軸42が突出している。
【0044】
これらGR支持軸42,42が、左右の支持フレーム2に設けられたGR軸支部に、着脱可能な状態で支持されている。詳細は省略するが、一方のGR軸支部は、サーボモータで制御される回転駆動部に連結されている(駆動側GR軸支部43)。回転駆動部は、機械カバー5の内部に収容されている。他方のGR軸支部は、制御によって駆動側GR軸支部43に向かって進退するように構成されている(非駆動側GR軸支部44)。
【0045】
非駆動側GR軸支部44が進出することにより、版胴40は、左右方向へ水平に延びる回転軸J2を中心に回転可能な状態で支持される。そして、回転駆動部が駆動制御されることにより、版胴40は、所定方向に所定速度で回転駆動される。
【0046】
圧胴30もまた、円柱状の長い部材である。ファニッシャーロール50と同様に、圧胴30の外周部分も、ゴム等の弾性を有する素材で構成されている。ファニッシャーロール50及び圧胴30の各々は、版胴40以上の長さを有している。圧胴30の両端部の中心には、それぞれPR支持軸31が突出している。これらPR支持軸31,31は、軸支部32に支持されている。それにより、圧胴30は、左右方向へ水平に延びる回転軸J3を中心に回転自在となっている。
【0047】
詳細は省略するが、各軸支部32は一対の昇降アームの各々に設けられている。各昇降アームは、左右の支持フレーム2,2の各々に、上下方向にスライド可能に支持されている。これら昇降アームがスライドすることにより、圧胴30は、
図1に示すように、版胴40の上方に離れて位置する待機位置と、
図3に示すように、圧胴30が版胴40に圧接する使用位置とに変位する。
【0048】
印刷時には、インキパン4、ファニッシャーロール50、及び圧胴30は、使用位置に変位するように制御される。そうすることにより、インキに浸漬されていないファニッシャーロール50の上部の外周面が、版胴40の前側の斜め下側で版胴40の外周面に圧接するように構成されている。(このファニッシャーロール50と版胴40との圧接部位を第1圧接部位45ともいう)
【0049】
更に、ウエブWが巻き掛けられている圧胴30の下端部が版胴40の上端部に圧接し、圧胴30の外周面と版胴40の外周面とでウエブWを挟持するように構成されている(この圧胴30と版胴40との圧接部位を第2圧接部位46ともいう)。
【0050】
その状態で、ファニッシャーロール50が回転駆動され、また、ウエブWの搬送に連動して版胴40が回転駆動(
図3において時計回り)されることにより、その回転に連動して圧胴30が回転する。
【0051】
版胴40の後側には、ドクター支持装置60が配置されている。ドクター支持装置60は、左右の支持フレーム2,2に支持されており、ドクターブレード61が固定できるように構成されている。ドクターブレード61は、版胴40の凹版41よりも左右方向に長く、厚みの薄い高剛性な帯板状の部材である。
【0052】
印刷時には、ドクター支持装置60に装着されたドクターブレード61の先端が、第2圧接部位46の近傍で、第1圧接部位45から第2圧接部位46に向かう版胴40の外周面に圧接するように位置決めされる。
【0053】
その結果、印刷時に版胴40が回転駆動されると、第1圧接部位45で、回転するファニッシャーロール50に付着したインキが、版胴40の外周面(凹版41)に付着する。版胴40に付着した余分なインキ、具体的には凹版41からはみ出たインキは、ドクターブレード61によって掻き落とされる。それにより、第2圧接部位46に至る前に、凹版41のインキが適量に調整され、そのインキがウエブWに転写されることにより、印刷が行われる。
【0054】
圧胴30の上方には、グラビア印刷機1で印刷を行うウエブWを支持しながら圧胴30に向けて下方に案内する複数の上流側ガイドロール20と、圧胴30から送り出される印刷されたウエブWを支持しながら上方に案内する複数の下流側ガイドロール21とが、所定位置に配置されている。
【0055】
上流側ガイドロール20の各々は、支持フレーム2の後側の側部に沿った上下方向の所定位置に配置されている。上流側ガイドロール20の各々は、左右方向に延びる水平な中心軸回りに回転自在な状態で、左右の支持フレーム2,2に支持されている。これら上流側ガイドロール20に支持されることにより、グラビア印刷機1の上部後方に搬入されるウエブWが、支持フレーム2の後側の側部に沿って下方に案内され、印刷面を下側に向けた状態で、圧胴30の下側に、回転軸J3が延びる方向から見て略V状に巻き掛けられるようになっている。
【0056】
下流側ガイドロール21の各々は、支持フレーム2の前側の側部に沿った上下方向の所定位置に配置されている。下流側ガイドロール21の一部は、グラビア印刷機1の上部に設置されたドライヤー10の内部に配置されている。
【0057】
ドライヤー10は、印刷されたウエブWのインキを、ウエブWを搬送しながら乾燥させる装置であり、略密閉された矩形箱型のドライヤーカバー11を有している。ドライヤーカバー11は、支持フレーム2の上部の前側の側部に沿って延びるように、左右の支持フレーム2,2の間に配置されている。ドライヤーカバー11の前側部分は、支持フレーム2よりも前方に突出している。
【0058】
ドライヤーカバー11の下端部には、ウエブWを受け入れる細長い導入口14が開口しており、ドライヤーカバー11の上端部には、ウエブWを送り出す細長い導出口15が開口している。ドライヤーカバー11の内部に、これら導入口14と導出口15との間を、上下方向に一列に並ぶような状態で、複数の下流側ガイドロール21が配置されている。
【0059】
下流側ガイドロール21の各々は、左右方向に延びる水平な中心軸回りに回転自在な状態で、左右の支持フレーム2,2及びドライヤーカバー11の左右の側壁に支持されている。これら下流側ガイドロール21に支持されることにより、印刷されたウエブWは、その印刷面を前側に向けた状態でドライヤー10の内部を通り、支持フレーム2の前側の側部に沿って上方に案内されるようになっている。
【0060】
詳細は省略するが、ドライヤー10は、ドライヤーカバー11の内部に乾燥した温風を循環供給するブロワや熱交換器等からなる関連装置も有しており、これら関連装置もドライヤーカバー11の周囲に付設されている。
【0061】
ドライヤー10は、版胴40やファニッシャーロール50の取り換え作業等が安全かつ容易にできるように、これらの上方に離れて配置されている。具体的には、ドライヤーカバー11の下端部11a(詳しくは、作業スペースSに臨む前側の下端部11a)が、作業スペースSの床面Fよりも1.7m以上2.2m以下の高さに位置するように配置されている。
【0062】
一般的な日本人の成人男性の平均身長は、約1.7mであることから、ドライヤーカバー11の下端部11aの高さを1.7m以上とすることで、ドライヤー10が作業を行うオペレータOPの邪魔になり難く、オペレータOPが安全に作業を行えるように設計されている。一方、ドライヤーカバー11の下端部11aの高さが2.2mを超えると、グラビア印刷機1の全高が大きくなり過ぎるため、グラビア印刷機1を設置できる施設が限られるなどの制約を受ける不利がある。
【0063】
ドライヤー10から出たウエブWを支持案内するために、グラビア印刷機1の上部に配置されている複数の下流側ガイドロール21には、冷却可能なクーリングロール21aが含まれている。印刷時には、クーリングロール21aの内部に、図外の冷媒循環供給装置から冷却された冷媒が循環供給され、クーリングロール21aが冷却されるように構成されている。ドライヤー10で加熱されたウエブWは、このクーリングロール21aの外周面に接することによって冷却される。
【0064】
これら下流側ガイドロール21によって支持案内されることにより、グラビア印刷機1で印刷されたウエブWは、温風による乾燥、及び冷却が行われた後、グラビア印刷機1の上部からその前方へと搬出されていく。
【0065】
(ロール置き台)
インキの色や種類を切り替える時には、インキの交換とともに、版胴40やファニッシャーロール50を交換したり洗浄したりする作業が行われる。これら作業に要する時間が長くなれば、それだけ印刷が行える時間が短縮される。従って、生産性を向上するためには、これら作業の負担を軽減し、作業内容を簡略化するなどして、作業時間を短縮させる必要がある。
【0066】
そこで、このグラビア印刷機1では、ファニッシャーロール50の交換作業の負担が大幅に軽減でき、オペレータOPが1名であっても、ファニッシャーロール50の交換が迅速に行えるように、ファニッシャーロール50の載置が可能なロール置き台7が2つ、右側の支持フレーム2に隣接して設置されている。
【0067】
これらロール置き台7,7は、いずれも同一の構造物であり、上下方向に並ぶように配置されている。その一方は、印刷に用いられていた交換対象のファニッシャーロール50(既使用FR50Aともいう)を載置するために用いられる搬出用ロール置き台7となっており(図例では上側)、他方は、新たに印刷に用いられる交換用のファニッシャーロール50(未使用FR50Bともいう)を載置するために用いられる搬入用ロール置き台7となっている(図例では下側)。
【0068】
これらロール置き台7,7の各々は、待機位置に位置するファニッシャーロール50の、右側に位置する端部の近傍から右側に延出するように配置されている。
【0069】
具体的には、各ロール置き台7は、右側の支持フレーム2から右側に向かって略水平に延びるように配置されている。また、各ロール置き台7は、待機位置に位置するファニッシャーロール50と同等かそれより過度に高くならない位置に配置されている。
【0070】
図5や
図6に示すように、各ロール置き台7は、ファニッシャーロール50よりも長い基部70と、この基部70に設けられた一対の支持部71,72と、を有している。各ロール置き台7の基部70は、略水平な状態で左右方向に延びるように、右側の支持フレーム2や機械カバー5の前面に固定されている。
【0071】
基部70は、その前面に長手方向に延びるガイドレール70aを有している。ガイレールには、スライドブロック70bが2つ組み付けられている。これらスライドブロック70b,70bは、ガイドレール70aに沿って円滑にスライドするように構成されている。
【0072】
一対の支持部71,72は、支持フレーム2がある右側に位置する第1支持部71と、第1支持部71に対して支持フレーム2の反対側、つまり左側に位置する第2支持部72とで構成されている。これら第1支持部71及び第2支持部71の各々は、スライドブロック70bの各々に取り付けられている。
【0073】
それにより、第1支持部71及び第2支持部72は、基部70に沿って左右方向にスライド自在となっている。第1支持部71には、スライドを止めるストッパー73が付設されており、第1支持部71は、基部70の所望する位置に固定できるようになっている。通常、第1支持部71は、支持フレーム2の近傍に位置するように、ストッパー73で基部70に固定されている。
【0074】
第1支持部71及び第2支持部72の各々は、支持片80と軸受片81とで構成されている。支持片80は、略L状に折り曲げた板状部材からなり、その下端部がスライドブロック70bに固定されて上方に延びる縦板部80aと、縦板部80aの上端から前方に張り出す横板部80bとを有している。
【0075】
軸受片81は、板状部材からなり、その板面を左右方向に向けた状態で横板部80bの上面に立設されている。軸受片81の上端部には、FR支持軸51を上方から受け止めて支持できるように、縁に沿って略V形状に切り欠いた軸受部82が形成されている。第1支持部71の縦板部80aは、第2支持部72の縦板部80aよりも上下寸法が短く形成されており、第2支持部72の軸受部82(第2軸受部82s)は、第1支持部71の軸受部82(第1軸受部82f)よりも高く位置するように構成されている。
【0076】
第2支持部72の軸受片81の右側には、隙間を隔てて対向する板部材(規制片83)が立設されている。規制片83は、その上部に第2軸受部82sの切り欠き部分と対向する軸止部83aを有している。
【0077】
第1軸受部82f及び第2軸受部82sの各々が、ファニッシャーロール50の各端部から突出するFR支持軸51,51を受け止めて支持することにより、ファニッシャーロール50は、傾斜するとともに、非接触の状態(ファニッシャーロール50の外周面が空中に位置して他の部材等に接触しない状態)でロール置き台7に載置される。
【0078】
(ファニッシャーロールの交換)
このグラビア印刷機1で行われるファニッシャーロール50の交換作業の一例について、具体的に説明する。
【0079】
ファニッシャーロール50の交換は、
図1や
図2に示すような、インキパン4や圧胴30、ファニッシャーロール50が待機位置にある状態で行われる。その交換作業に先だって、搬入用ロール置き台7には未使用FR50Bが載置されている。また、搬出用ロール置き台7の第1支持部71は、支持フレーム2の近傍の所定位置に固定され、搬出用ロール置き台7の第2支持部72は、第1支持部71の近傍に配置されている。
【0080】
作業スペースSに立ち入ったオペレータOPは、まず、待機位置に位置している既使用FR50Aを回動しながら、その表面に付着したインキを、溶剤で洗い流したり拭き取ったりして除去する。このとき、既使用FR50Aは交換するので、完全にインキを除去する必要はなく、また、ファニッシャーロール50の表面部50cは、フッ素樹脂で構成されているので、インキが固着していても容易に除去することができ、短時間で処理できる。
【0081】
次に、オペレータOPは、左右の軸支部52a,52aの各々からFR支持軸51,51を取り外し、既使用FR50Aを持ち上げて支持フレーム2,2から抜き取る。このとき、オペレータOPは、比較的楽な姿勢で既使用FR50Aを持ち上げることができ、しかも、本体部50aが炭素繊維強化樹脂で構成されていて、ファニッシャーロール50自体が軽量化されているので、オペレータOPの作業負担が大幅に軽減され、安全かつ迅速に既使用FR50Aを取り扱うことができる。
【0082】
次に、オペレータOPは、
図7の(a)に示すように、持ち上げた既使用FR50Aの右側に位置するFR支持軸51を、搬出用ロール置き台7の第2軸受部82sの上に置く。このとき、第2軸受部82sは第1軸受部82fよりも高く位置しているので、既使用FR50Aが第1支持部71に接触しないように高く持ち上げることなく、FR支持軸51を第2軸受部82sの上に容易に置くことができる。従って、第1支持部71が手前にあっても、支障無く既使用FR50Aを扱える。
【0083】
FR支持軸51を第2軸受部82sの上に置いてしまえば、オペレータOPは、既使用FR50Aの全重量を支持する必要が無くなるので、よりいっそう扱い易くなる。そうして、オペレータOPは、
図7の(b)に示すように、既使用FR50Aを右側に押し込んでいく。そうすることで、FR支持軸51の端部が規制片83の軸止部83aに突き当たり、第2支持部72は右側に向かってスライドする。そうして、既使用FR50Aは、搬出用ロール置き台7の上に移動していく。このとき、オペレータOPは、ほとんど移動する必要がなく、手を動かすだけでよいので、安全かつ効率的に作業でき、短時間で処理できる。
【0084】
そして、
図7の(c)に示すように、既使用FR50Aの左側のFR支持軸51が第1軸受部82fの上方に達したときに、オペレータOPは、そのFR支持軸51を第1軸受部82fの上に置く。そうすることで、既使用FR50Aは、搬出用ロール置き台7に載置される。
【0085】
オペレータOPは、この既使用FR50Aを取り外す作業に引き続き、未使用FR50Bを支持フレーム2,2に取り付ける作業を行う。その取り付け作業は、既使用FR50Aの取り外し作業と逆に行えばよい。
【0086】
具体的には、オペレータOPは、搬入用ロール置き台7に載置されている未使用FR50Bの左側のFR支持軸51を第1軸受部82fから持ち上げて、未使用FR50Bを左側に引き込んでいく。そうすれば、第2支持部72は左側に向かってスライドするので、未使用FR50Bを搬入用ロール置き台7から作業スペースSに簡単に引き出すことができる。
【0087】
第2支持部72が第1支持部71の近くまでスライドすれば、未使用FR50Bのほぼ全体が作業スペースSに位置するので、オペレータOPは楽な姿勢で、バランスよく未使用FR50Bを搬入用ロール置き台7から取り上げて支持できる。そうして、オペレータOPは、未使用FR50Bを左右の軸支部52a,52aにFR支持軸51の各々を取り付ければよい。
【0088】
このように、このグラビア印刷機1によれば、オペレータOPは、作業スペースSからほとんど移動することなく、ファニッシャーロール50を交換することができる。ファニッシャーロール50自体が軽量になっているうえに、長尺なファニッシャーロール50であっても、楽な姿勢で効率的に扱えるように工夫されているので、ファニッシャーロール50の交換作業の負担が大幅に軽減でき、ファニッシャーロール50の交換が迅速に行える。
【0089】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0090】
例えば、基部70は、支持フレーム2の側に向かって僅かに下るように傾斜した状態で配置し、第2支持部72が、その自重によって自然に第1支持部71の側にスライドするようにしてもよい。具体的には、
図8に示すように、水平面SMに対し、基部70が僅かに傾斜角θで傾斜するように配置する。そうすれば、ファニッシャーロール50を載置していない場合、第2支持部72は、常に支持フレーム2の近傍に位置するので、ロール置き台7の取り扱いが容易になる。ファニッシャーロール50を置くときに第1支持部71が邪魔になり難い利点もある。
【0091】
ロール置き台7は、2つに限らない。1つ又は3つ以上設置してもよい。尤も、新旧2つのファニッシャーロール50が置けることから、2つが好ましい。作業効率からは実施形態が好ましいが、ロール置き台7の一対の支持部71,72は、基部70の所定位置に固定されていてもよい。また、ロール置き台7は、左右方向に限らず、仕様によっては前後方向や斜め方向に延びるように配置してもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 グラビア印刷機
2 支持フレーム
4 インキパン
5 機械カバー
7 ロール置き台
10 ドライヤー
30 圧胴
40 版胴
50 ファニッシャーロール
51 FR支持軸
52 揺動アーム
61 ドクターブレード
70 基部
71 第1支持部
72 第2支持部
J1、J2、J3 回転軸
F 床面
OP オペレータ
S 作業スペース
W ウエブ