(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】ナノコイル材料形成方法
(51)【国際特許分類】
D06M 10/02 20060101AFI20220323BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20220323BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20220323BHJP
D01F 9/08 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
D06M10/02 C
D06M11/83
H01F41/04 Z
D01F9/08 D
(21)【出願番号】P 2018034681
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岡 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】趙 旭
(72)【発明者】
【氏名】神原 信幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 清嘉
(72)【発明者】
【氏名】阿部 俊夫
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/129589(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0074289(KR,A)
【文献】趙旭、秋田大学,プラズマ処理を利用した金属ナノコイル網の創製,日本機械学会東北支部第53期秋季講演会講演論文集,日本,日本機械学会,2017年09月30日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F9/08-9/32
D06M10/02
11/83
H01B5/00-5/16
13/00-13/34
H01F5/00-5/06
41/00-41/04
41/08
41/10
B22F1/00-8/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバ状で樹脂のコア部材を形成するコア部材形成ステップと、
前記コア部材形成ステップで形成した前記コア部材の表面に金属薄膜を形成する金属薄膜形成ステップと、
前記金属薄膜形成ステップで前記金属薄膜が形成された前記コア部材に、前記金属薄膜のイオン価数が0となるときに最も化学的に安定化する雰囲気下でプラズマ処理を施すことで、前記コア部材を分解して、前記金属薄膜を形成していた金属材料を含むナノコイル材料を形成するプラズマ処理ステップと、
を含み、
前記プラズマ処理ステップでは、プラズマエネルギー密度が0.08W/cm
3以上1.5W/cm
3以下であることを特徴とするナノコイル材料形成方法。
【請求項2】
前記金属薄膜形成ステップでは、銀または銅の前記金属薄膜を形成し、
前記プラズマ処理ステップでは、空気ガス雰囲気下で前記プラズマ処理を施す、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノコイル材料形成方法。
【請求項3】
前記金属薄膜形成ステップでは、ニッケルの前記金属薄膜を形成し、
前記プラズマ処理ステップでは、アルゴンガス雰囲気下で前記プラズマ処理を施す、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノコイル材料形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノコイル材料形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノワイヤ、ナノチューブ、ナノコイルなど、2次元のサイズが1~数100nm程度というナノオーダーであるナノ構造体は、様々な用途への応用が期待されている。例えば金属製のナノコイルは、電場、磁場、及び電磁波に対して反応して発熱する発熱体として有望な材料である。このような金属製のナノコイルは、高分子のナノファイバからなるコア部材に張力が付加された状態で、このコア部材の表面に金属薄膜を形成して、付加した張力を緩和して、加熱してコア部材を気化させるとともに金属薄膜をコイル状に収縮させることで形成する方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、コア部材を気化させるとともに金属薄膜をコイル状に収縮させるために、250℃で10分間の加熱処理を行う。金属の種類によっては、この特許文献1の方法で行う加熱処理によって金属薄膜が高温となる。高温となった金属薄膜は、陽イオン化、及び、金属の急激な膨張及び収縮による構造の変化等の大きな熱ダメージを受けてしまう。このため、金属薄膜がコイル化しない可能性があるという問題があった。特許文献1の方法では、例えば、極めて貴な金属であるパラジウムや白金等以外の金属を用いた場合に、金属薄膜を好適にコイル化できない可能性があるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、より多くの種類の金属においても、金属薄膜をコイル化することを可能にするナノコイル材料形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、ナノコイル材料形成方法は、ナノファイバ状で樹脂のコア部材を形成するコア部材形成ステップと、前記コア部材形成ステップで形成した前記コア部材の表面に金属薄膜を形成する金属薄膜形成ステップと、前記金属薄膜形成ステップで前記金属薄膜が形成された前記コア部材に、前記金属薄膜のイオン価数が0となるときに最も化学的に安定化する雰囲気下でプラズマ処理を施すことで、前記コア部材を分解して、前記金属薄膜を形成していた金属材料を含むナノコイル材料を形成するプラズマ処理ステップと、を含み、前記プラズマ処理ステップでは、プラズマエネルギー密度が0.08W/cm3以上1.5W/cm3以下であることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、プラズマ処理ステップを実行することにより、コア部材をイオンガス化反応させることでより低温環境下で確実に分解し、かつ、金属薄膜が陽イオン化することをより確実に防止するとともに、プラズマ処理により金属薄膜により適切なダメージを与えることによりコイル化を促すことができる。このため、より多くの種類の金属においても、金属薄膜をコイル化することを可能にする。
【0008】
この構成において、前記金属薄膜形成ステップでは、銀または銅の前記金属薄膜を形成し、前記プラズマ処理ステップでは、空気ガス雰囲気下で前記プラズマ処理を施すことが好ましい。この構成によれば、ナノコイルを形成する金属として銀または銅を選択した場合に、金属薄膜が陽イオン化することをより確実に防止することができる。
【0009】
もしくは、この構成において、前記金属薄膜形成ステップでは、ニッケルの前記金属薄膜を形成し、前記プラズマ処理ステップでは、アルゴンガス雰囲気下で前記プラズマ処理を施すことが好ましい。この構成によれば、ナノコイルを形成する金属としてニッケルを選択した場合に、金属薄膜が陽イオン化することをより確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より多くの種類の金属においても、金属薄膜をコイル化することを可能にするナノコイル材料形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るナノコイル材料形成方法のフローチャートである。
【
図2】
図2は、
図1のコア部材形成ステップを実行するコア部材形成装置の一例の概略図である。
【
図3】
図3は、
図2のコア部材形成装置に用いられる基板の一例の概略図である。
【
図4】
図4は、
図2のコア部材形成装置に用いられる基板の別の例の概略図である。
【
図5】
図5は、
図1のプラズマ処理ステップを実行するプラズマ処理装置の一例の概略図である。
【
図6】
図6は、本発明の比較例1に係るナノコイル材料形成方法で形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真である。
【
図7】
図7は、本発明の比較例2に係るナノコイル材料形成方法で形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真である。
【
図8】
図8は、本発明の比較例3に係るナノコイル材料形成方法で形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真である。
【
図9】
図9は、本発明の実施例1に係るナノコイル材料形成方法で形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真である。
【
図10】
図10は、本発明の実施例2に係るナノコイル材料形成方法で形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真である。
【
図11】
図11は、本発明の実施例3に係るナノコイル材料形成方法で形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0013】
[実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係るナノコイル材料形成方法のフローチャートである。本発明の実施形態に係るナノコイル材料形成方法は、
図1に示すように、コア部材形成ステップS11と、金属薄膜形成ステップS12と、プラズマ処理ステップS13と、を含む。
【0014】
図2は、
図1のコア部材形成ステップS11を実行するコア部材形成装置の一例であるコア部材形成装置10の概略図である。
図3は、
図2のコア部材形成装置10に用いられる基板の一例である基板20の概略図である。コア部材形成装置10は、エレクトロスピニング法によりナノスケールのファイバ状のコア部材を形成することで、コア部材形成ステップS11を実行する装置である。
【0015】
ここで、ナノスケールとは、2次元のサイズが1~数100nm程度というナノオーダーであることを言う。ファイバ状とは、1方向の次元に延びた形状であり、1方向の次元の長さが残りの2方向の次元の長さよりも著しく大きいサイズを有している繊維状のことをいう。ナノスケールのファイバ状のことを、ナノファイバ状またはナノファイバと呼ぶこともある。
【0016】
コア部材形成装置10は、
図2に示すように、シリンジ11と、高電圧電源13と、基板20と、を備える。シリンジ11は図示しないスタンドによって、基板20の上方に基板20から所定距離だけ離された位置に固定されている。シリンジ11の先端には金属製のノズル12が取り付けられる。シリンジ11内に、コア部材形成ステップS11でナノスケールのファイバ状のコア部材に形成される樹脂の前駆材料である所定の高分子溶液が充填される。
【0017】
シリンジ11内に充填される高分子溶液の溶質は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリウレタン(PU)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリ乳酸(PLA)、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ナイロン6等が好適に使用される。この高分子溶液の溶質は、1種類でも良く、複数種類の高分子を混合したものを用いても良い。
【0018】
シリンジ11内に充填される高分子溶液の溶媒は、上記高分子が溶解可能であれば特に限定されず、例えば、溶媒として水、トリクロロ酢酸、ジメチルホルミアミド、クロロホルム、メタノール、ギ酸等が好適に使用される。高分子溶液中の高分子濃度は、粘度、高分子の溶解性、形成されるコア部材のサイズ等を考慮して適切に設定される。
【0019】
基板20は、
図3に示すように、支持板21と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の板であるPTFE板22と、金属製の可動板支持部材23と、2つの金属製の可動板24と、を備える。PTFE板22及び可動板支持部材23は、支持板21上に配置されている。2つの可動板24は、PTFE板22及び可動板支持部材23上に、互いに離されて配置されている。
【0020】
2つの可動板24の間の距離は、形成されるコア部材の大きさ、すなわちコア部材が延びる方向の長さに応じて設定される。可動板24の厚さは、2つの可動板24の間の距離に応じて、コア部材に付加されている張力を緩和し撓ませた際に支持板21と接触しない厚さに設定される。ただし、可動板24は、厚くなりすぎると不安定になる場合があるため、不安定にならない程度の厚さに設定される。
【0021】
高電圧電源13は、正極側がシリンジ11のノズル12に接続され、負極側が支持板21に接続されている。支持板21は接地されている。
【0022】
図4は、
図2のコア部材形成装置10に用いられる基板の別の例である基板30の概略図である。基板30は、
図2のコア部材形成装置10において基板20に代えて用いることができる。
【0023】
基板30は、
図4に示すように、L字型の支持板31と、PTFE板32と、2つの金属製の可動板34と、可撓部材35と、を備える。PTFE板32は、支持板31上において、2つの可動板34の間に配置されている。2つの可動板34は、PTFE板32を挟むように互いに離されて、支持板31上に配置されている。可撓部材35は、2つの可動板34の間に固定して設けられている。可撓部材35は、融点が300℃以上であり、かつ、可撓性を有する部材であれば特に限定されず、例えば、銅線が好適に使用される。
【0024】
2つの可動板34の間の距離は、PTFE板32の幅によって決定され、前述の可動板24と同様に、形成されるコア部材の大きさ、すなわちコア部材が延びる方向の長さに応じて設定される。可動板34の厚さは、前述の可動板24と同様に、2つの可動板34の間の距離に応じて、コア部材に付加されている張力を緩和し撓ませた際に支持板31と接触しない厚さに設定される。ただし、可動板34は、前述の可動板24と同様に、厚くなりすぎると不安定になる場合があるため、不安定にならない程度の厚さに設定される。
【0025】
基板30の可動板34は、基板20の可動板24よりも、安定性が確保できる厚さの範囲が広いので、間隔を大きくしても、コア部材を撓ませた時にコア部材が支持板31に接触することを防止できる。このため、基板30は、基板20における2つの可動板24の間の面積と比較して2つの可動板34の間の面積を大きく設定することができるので、コア部材形成装置10においてコア部材を形成する面積が大きく設定される場合に好適に用いられる。
【0026】
コア部材形成装置10において、基板20に代えて基板30が用いられる場合、高電圧電源13は、負極側が支持板21に代えて支持板31に接続される。
【0027】
コア部材形成ステップS11は、ナノファイバ状で樹脂のコア部材を形成するステップである。本実施形態では、コア部材形成ステップS11では、コア部材形成装置10を用いてエレクトロスピニング法により実行されるが、本発明はこれに限定されることなく、メルトブロー法、延伸法などにより実行されてもよい。
【0028】
コア部材形成ステップS11では、シリンジ11内に高分子溶液を充填した後、高電圧電源13により、ノズル12と支持板21,31との間に所定の電圧を印加する。ここで、所定の電圧は、5kV以上80kV以下であることが好ましい。コア部材形成ステップS11では、これにより、シリンジ11内に充填された高分子溶液が一定の速度でノズル12の先端から基板20,30に向かって押し出され、ノズル12と接地された支持板21,31との間に発生する静電引力によって、基板20,30のPTFE板22,32及び可動板24,34上に向けて噴霧される。そして、コア部材形成ステップS11では、噴霧された高分子溶液の溶媒が徐々に揮発することに伴い、高分子溶液の溶質の濃度が徐々に上昇し、基板20,30に到達する際にはナノファイバ状に形成される。コア部材形成ステップS11では、ナノファイバ状のコア部材は、PTFE板22,32を跨いで2つの可動板24,34の間に形成される。エレクトロスピニング法により実行されるコア部材形成ステップS11では、ナノファイバ状のコア部材は、断面の直径が30nm以上1000nm以下の繊維状に形成される。
【0029】
コア部材形成ステップS11では、さらに、ナノファイバ状に形成されたコア部材を載置した基板20,30を真空デシケータ内に収納し、ナノファイバ状のコア部材を減圧乾燥してもよい。コア部材形成ステップS11では、この場合、室温でナノファイバ状のコア部材を減圧乾燥することが好ましいが、これに限定されることなく、例えば、室温と比較して高温で、具体的には、30℃以上であり、かつ、コア部材を構成する高分子の融点温度以下または熱分解温度以下の温度で減圧乾燥してもよい。また、コア部材形成ステップS11では、この場合、10Pa以上100Pa以下で減圧乾燥されることが好ましい。コア部材形成ステップS11では、この場合、コア部材を減圧乾燥することで、可動板24,34の間で適切な張力を付加することができる。なお、コア部材形成ステップS11では、必ずしもナノファイバ状のコア部材を減圧乾燥する必要はなく、減圧乾燥することなく次の金属薄膜形成ステップS12へ処理を進めても構わない。
【0030】
コア部材形成ステップS11では、上記した処理が実行されることにより、ナノファイバ状に形成され、シリンジ11内に充填された高分子溶液の成分等に基づく樹脂のコア部材が得られる。
【0031】
金属薄膜形成ステップS12は、コア部材形成ステップS11で形成したコア部材の表面に金属薄膜を形成するステップである。金属薄膜形成ステップS12では、スパッタリング法、蒸着法、CVD法などの薄膜形成方法を用いて、コア部材の表面に金属薄膜を形成する。金属薄膜形成ステップS12では、金属薄膜を形成する金属材料として、比較的貴な金属である銀(Ag),銅(Cu)や、ニッケル(Ni)等が好適に使用される。金属薄膜形成ステップS12では、金属薄膜は、膜厚が5nm以上50nm以下に形成される。また、金属薄膜形成ステップS12では、金属薄膜は、コア部材の周方向に対して不均一に形成される。なお、金属薄膜形成ステップS12では、コア部材の表面に金属薄膜を形成する前に、コア部材形成ステップS11でコア部材が形成された基板20,30のPTFE板22、32を除去しても構わない。
【0032】
金属薄膜形成ステップS12では、さらに、2つの可動板24,34を互いに近づける方向に向かって移動させることにより、コア部材及び金属薄膜の張力を緩和させて、撓ませる。なお、2つの可動板24,34を互いに近づけた際の2つの可動板24,34の間の距離は、コア部材及び金属薄膜を撓ませた際に、コア部材及び金属薄膜と支持板21,31とが接触しないように、かつ、後述するプラズマ処理ステップS13における金属薄膜の収縮率等を考慮して、設定される。
【0033】
図5は、
図1のプラズマ処理ステップS13を実行するプラズマ処理装置の一例であるプラズマ処理装置40の概略図である。プラズマ処理装置40は、
図5に示すように、チャンバ41と、カソード42と、基板載置部43と、を備える。チャンバ41は、例えば円筒状の容器であり、図示しないガス供給部及び図示しない真空ポンプにより、内部の雰囲気を制御することができる。具体的には、チャンバ41は、プラズマを発生させることが十分に可能な程度の圧力を有する所定の雰囲気に制御することができる。所定の雰囲気は、例えば、空気ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気、アルゴン(Ar)ガス雰囲気が好適に用いられる。
【0034】
カソード42は、例えば円板状の金属板であり、チャンバ41の一方の面に内設して、内側に向けて設けられている。カソード42は、図示しない交流電源により、所定の雰囲気下でプラズマを発生させることができる。基板載置部43は、カソード42に対向して、チャンバ41の他方の面を介して固定して設けられている。基板載置部43は、コア部材形成ステップS11及び金属薄膜形成ステップS12でコア部材及び金属薄膜が形成された基板20,30を、カソード42に対向した位置に載置することができる。
【0035】
プラズマ処理装置40は、ガス供給部、真空ポンプ、及び交流電源を制御することで、プラズマ出力エネルギーを制御することができる。プラズマ処理装置40は、例えば、プラズマ出力エネルギーを約60W以上約1kW以下に制御することができる。
【0036】
また、プラズマ処理装置40は、チャンバ41の内部にほぼ均一のプラズマエネルギー密度のプラズマを発生させることができるので、プラズマエネルギー密度を制御することができる。プラズマ処理装置40は、例えば、チャンバ41が直径約11cm、高さ約7.5cmの円筒状の容器である場合、チャンバ41の体積が約713cm3であるので、プラズマ出力エネルギーを約60W以上約1kW以下に制御することにより、プラズマエネルギー密度を約0.08W/cm3以上約1.5W/cm3以下に制御することができる。
【0037】
プラズマ処理ステップS13は、金属薄膜形成ステップS12で金属薄膜が形成されたコア部材に、金属薄膜のイオン価数が0となるときに最も化学的に安定化する雰囲気下でプラズマ処理を施すことで、コア部材を分解して、金属薄膜を形成していた金属材料を含むナノコイル材料を形成するステップである。プラズマ処理ステップS13では、まず、コア部材形成ステップS11及び金属薄膜形成ステップS12でコア部材及び金属薄膜が形成された基板20,30を、チャンバ41内の基板載置部43に載置することで、カソード42に対向した位置に載置する。
【0038】
プラズマ処理ステップS13では、次に、チャンバ41内に、プラズマ処理を施す条件下で金属薄膜のイオン価数が0となるときに最も化学的に安定化する雰囲気を形成する。プラズマ処理ステップS13では、詳細には、プラズマ処理を施す条件下で、酸化物等のイオン結合化合物を形成する化学反応を引き起こす可能性のあるガスの分圧が、当該化学反応が所定の速度以上で進行しない程度となる雰囲気を形成する。例えば、このような雰囲気は、金属薄膜を形成する金属材料として比較的貴な金属である銀や銅が用いられている場合、プラズマを発生させることが十分に可能な程度の圧力を有する空気ガス雰囲気が好ましく、酸素等の陰イオン化傾向のあるガスの分圧がさらに少ない方が好ましい。また、例えば、このような雰囲気は、金属薄膜を形成する金属材料としてニッケルが用いられている場合、プラズマを発生させることが十分に可能な程度の圧力を有するアルゴンガス雰囲気が好ましく、酸素等の陰イオン化傾向のあるガスの分圧がさらに少ない方が好ましい。プラズマ処理ステップS13では、このように金属薄膜を形成する金属材料に応じて適切な雰囲気を形成することで、金属薄膜が陽イオン化することをより確実に防止することができる。
【0039】
プラズマ処理ステップS13では、上記した雰囲気を形成した後、チャンバ41内に所定のプラズマエネルギー密度のプラズマを発生させる。所定のプラズマエネルギー密度は、0.08W/cm3以上1.5W/cm3以下であることが好ましい。プラズマ処理ステップS13では、このように、チャンバ41内にプラズマを発生させることにより、コア部材を構成する樹脂がイオンガス化反応を起こして分解され、チャンバ41外に除去される。また、プラズマ処理ステップS13では、プラズマを発生させることで処理をするため、コア部材を構成する樹脂を分解するために温度を250℃と高くまで上げる必要がないので、金属薄膜を形成する金属材料に加熱による過大なダメージを与えてしまう可能性を大幅に低減できる。このため、プラズマ処理ステップS13では、このようにチャンバ41内にプラズマを発生させることにより、金属薄膜を形成する金属材料に適切なダメージを与えることによりコイル化を促すことができる。
【0040】
プラズマ処理ステップS13では、上記した処理が実行されることにより、金属薄膜を形成していた金属材料を含む材料がコイル化されたナノコイル材料が得られる。
【0041】
実施形態に係るナノコイル材料形成方法は、以上のような構成を有するので、プラズマ処理ステップS13を実行することにより、コア部材をイオンガス化反応させることでより低温環境下で確実に分解し、かつ、金属薄膜が陽イオン化することをより確実に防止するとともに、プラズマ処理により金属薄膜により適切なダメージを与えることによりコイル化を促すことができる。なお、実施形態に係るナノコイル材料形成方法は、プラズマ処理ステップS13で採用する雰囲気の制限が、従来技術の250℃で10分間の加熱処理で採用する雰囲気の制限よりもはるかに緩い。このため、実施形態に係るナノコイル材料形成方法は、従来技術ではコイル化することが困難だった極めて貴な金属であるパラジウムや白金等以外のより多くの種類の金属においても、金属薄膜をコイル化することを可能にする。
【0042】
また、実施形態に係るナノコイル材料形成方法は、金属薄膜形成ステップS12で銀または銅の金属薄膜を形成する場合、プラズマ処理ステップS13において空気ガス雰囲気下でプラズマ処理を施している。このため、実施形態に係るナノコイル材料形成方法は、ナノコイルを形成する金属として銀または銅を選択した場合に、金属薄膜が陽イオン化することをより確実に防止することができる。
【0043】
もしくは、実施形態に係るナノコイル材料形成方法は、金属薄膜形成ステップS12でニッケルの金属薄膜を形成する場合、プラズマ処理ステップS13においてアルゴンガス雰囲気下でプラズマ処理を施している。このため、実施形態に係るナノコイル材料形成方法は、ナノコイルを形成する金属としてニッケルを選択した場合に、金属薄膜が陽イオン化することをより確実に防止することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0045】
図6は、本発明の比較例1に係るナノコイル材料形成方法で形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真である。
図7は、本発明の比較例2に係るナノコイル材料形成方法で形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真である。
図8は、本発明の比較例3に係るナノコイル材料形成方法で形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真である。
図9は、本発明の実施例1に係るナノコイル材料形成方法で形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真である。
図10は、本発明の実施例2に係るナノコイル材料形成方法で形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真である。
図11は、本発明の実施例3に係るナノコイル材料形成方法で形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真である。
【0046】
(比較例1)
比較例1として、上記した実施形態において、コア部材形成ステップS11で基板20を用い、金属薄膜形成ステップS12で金属薄膜を形成する金属材料としてニッケルを使用し、プラズマ処理ステップS13で、プラズマ処理装置40において、チャンバ41として直径約11cm、高さ約7.5cm、体積約713cm
3の円筒状の容器を用い、プラズマ出力エネルギーを1Wとして、ナノコイル材料を形成した。比較例1では、プラズマ処理ステップS13を実行した際のプラズマエネルギー密度は約0.001W/cm
3であった。この比較例1のナノコイル材料形成方法により形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真を、
図6に示す。
【0047】
(比較例2)
比較例2は、比較例1において、プラズマ処理ステップS13でプラズマ出力エネルギーを10Wに変更したものである。比較例2では、プラズマ処理ステップS13を実行した際のプラズマエネルギー密度は約0.014W/cm
3であった。この比較例2のナノコイル材料形成方法により形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真を、
図7に示す。
【0048】
(比較例3)
比較例3は、比較例1において、プラズマ処理ステップS13でプラズマ出力エネルギーを55Wに変更したものである。比較例3では、プラズマ処理ステップS13を実行した際のプラズマエネルギー密度は約0.077W/cm
3であった。この比較例3のナノコイル材料形成方法により形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真を、
図8に示す。
【0049】
(実施例1)
実施例1として、上記した実施形態において、コア部材形成ステップS11で基板20を用い、金属薄膜形成ステップS12で金属薄膜を形成する金属材料としてニッケルを使用し、プラズマ処理ステップS13で、プラズマ処理装置40において、チャンバ41として直径約11cm、高さ約7.5cm、体積約713cm
3の円筒状の容器を用い、プラズマ出力エネルギーを65Wとして、ナノコイル材料を形成した。実施例1では、プラズマ処理ステップS13を実行した際のプラズマエネルギー密度は約0.091W/cm
3であった。この実施例1のナノコイル材料形成方法により形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真を、
図9に示す。
【0050】
(実施例2)
実施例2は、実施例1において、プラズマ処理ステップS13でプラズマ出力エネルギーを70Wに変更したものである。実施例2では、プラズマ処理ステップS13を実行した際のプラズマエネルギー密度は約0.098W/cm
3であった。この実施例2のナノコイル材料形成方法により形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真を、
図10に示す。
【0051】
(実施例3)
実施例3は、実施例1において、プラズマ処理ステップS13でプラズマ出力エネルギーを100Wに変更したものである。実施例3では、プラズマ処理ステップS13を実行した際のプラズマエネルギー密度は約0.140W/cm
3であった。この実施例3のナノコイル材料形成方法により形成されたナノコイル材料の電子顕微鏡の写真を、
図11に示す。
【0052】
図6から
図11に示すナノコイル材料の電子顕微鏡の写真を比較すると、
図6から
図8では、ナノコイル材料が十分にコイル化されておらず、
図9から
図11では、ナノコイル材料が十分にコイル化されていることがわかる。このことから、上記した実施形態において、コア部材形成ステップS11で基板20を用い、金属薄膜形成ステップS12で金属薄膜を形成する金属材料としてニッケルを使用し、プラズマ処理ステップS13で、プラズマ処理装置40において、チャンバ41として直径約11cm、高さ約7.5cm、体積約713cm
3の円筒状の容器を用いた場合において、プラズマ出力エネルギーが55W以下ではナノコイル材料が十分にコイル化されず、プラズマ出力エネルギーが65W以上ではナノコイル材料が十分にコイル化されたことが分かった。すなわち、この場合において、プラズマ処理ステップS13を実行した際のプラズマエネルギー密度が約0.077W/cm
3以下ではナノコイル材料が十分にコイル化されず、プラズマ処理ステップS13を実行した際のプラズマエネルギー密度が約0.091W/cm
3以上ではナノコイル材料が十分にコイル化されたことがわかった。
【0053】
上記した比較例1から比較例3及び実施例1から実施例3と同様の条件下において、プラズマ処理ステップS13でのプラズマ処理装置40におけるプラズマ出力エネルギーのみを55W以上65W以下の範囲で変量してさらに比較例及び実施例を積み重ねた結果、ナノコイル材料が十分にコイル化されるか否かの閾値が、プラズマ出力エネルギーが57Wにあることが分かった。すなわち、この条件下において、ナノコイル材料が十分にコイル化されるか否かの閾値が、プラズマエネルギー密度が約0.08W/cm3にあることが分かった。
【0054】
また、上記した比較例1から比較例3及び実施例1から実施例3と同様の条件下において、プラズマ処理ステップS13でのプラズマ処理装置40におけるプラズマ出力エネルギーのみを100W以上の高い領域で変量してさらに比較例及び実施例を積み重ねた結果、ナノコイル材料が十分にコイル化されるか否かの閾値が、プラズマ出力エネルギーが1070Wにあることが分かった。すなわち、この条件下において、ナノコイル材料が十分にコイル化されるか否かの閾値が、プラズマエネルギー密度が約1.5W/cm3にあることが分かった。
【0055】
すなわち、上記した比較例1から比較例3及び実施例1から実施例3と同様の条件下において、プラズマ処理ステップS13でのプラズマ処理装置40におけるプラズマ出力エネルギーのみを変量した結果、ナノコイル材料が十分にコイル化される場合の条件が、プラズマ出力エネルギーが57W以上1070W以下にあることが分かった。すなわち、この条件下において、ナノコイル材料が十分にコイル化される場合の条件が、プラズマエネルギー密度が約0.08W/cm3以上約1.5W/cm3以下にあることが分かった。
【0056】
また、上記した比較例1から比較例3及び実施例1から実施例3と同様の条件に対して、コア部材形成ステップS11で用いる基板20を基板30に変更した場合、上記と同様にプラズマ処理ステップS13でのプラズマ処理装置40におけるプラズマ出力エネルギーのみを変量して比較例及び実施例を積み重ねた結果、ナノコイル材料が十分にコイル化される場合の条件が、プラズマ出力エネルギーが57W以上1070W以下にあることが分かった。すなわち、この条件下においても、ナノコイル材料が十分にコイル化される場合の条件が、プラズマエネルギー密度が約0.08W/cm3以上約1.5W/cm3以下にあることが分かった。
【0057】
また、上記した比較例1から比較例3及び実施例1から実施例3と同様の条件に対して、金属薄膜形成ステップS12で金属薄膜を形成する金属材料をニッケルから銀または銅に変更した場合、上記と同様にプラズマ処理ステップS13でのプラズマ処理装置40におけるプラズマ出力エネルギーのみを変量して比較例及び実施例を積み重ねた結果、金属材料として銀を用いた場合でも銅を用いた場合でも、ナノコイル材料が十分にコイル化される場合の条件が、プラズマ出力エネルギーが57W以上1070W以下にあることが分かった。すなわち、これらの条件下においても、ナノコイル材料が十分にコイル化される場合の条件が、プラズマエネルギー密度が約0.08W/cm3以上約1.5W/cm3以下にあることが分かった。
【0058】
また、上記した比較例1から比較例3及び実施例1から実施例3と同様の条件に対して、プラズマ処理ステップS13で用いるチャンバ41の容積並びに形状を種々の形態に変更した場合、上記と同様にプラズマ処理ステップS13でのプラズマ処理装置40におけるプラズマ出力エネルギーのみを変量して比較例及び実施例を積み重ねた結果、ナノコイル材料が十分にコイル化される場合の条件が、チャンバ41の容積並びに形状に依らず、プラズマエネルギー密度が約0.08W/cm3以上約1.5W/cm3以下にあることが分かった。このことから、ナノコイル材料が十分にコイル化されるか否かは、プラズマ出力エネルギーよりもプラズマエネルギー密度に依存していることが分かった。
【符号の説明】
【0059】
10 コア部材形成装置
11 シリンジ
12 ノズル
13 高電圧電源
20,30 基板
21,31 支持板
22,32 PTFE板
23 可動板支持部材
24,34 可動板
35 可撓部材
40 プラズマ処理装置
41 チャンバ
42 カソード
43 基板載置部