(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】碾茶炉とその温度制御方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/06 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
A23F3/06 J
A23F3/06 W
(21)【出願番号】P 2017082436
(22)【出願日】2017-04-19
【審査請求日】2020-04-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145116
【氏名又は名称】株式会社寺田製作所
(72)【発明者】
【氏名】小塚 篤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康哲
【審査官】茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-223441(JP,A)
【文献】実開昭55-128594(JP,U)
【文献】特開2012-034590(JP,A)
【文献】特開平09-178347(JP,A)
【文献】特開2009-100666(JP,A)
【文献】実開平04-080382(JP,U)
【文献】特開2016-010376(JP,A)
【文献】農業機械学会誌,日本,2004年,Vol. 66, No. 6,pp. 103-112
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00-5/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥室内に備えた煙道に燃焼空気を通し、輻射熱により前記乾燥室内の茶葉を乾燥する碾茶炉において、前記乾燥室内に温度検出手段を設け、該温度検出手段の測定値が設定値になるように前記燃焼空気の熱源の出力を変更する制御手段を設ける
とともに、前記熱源の出力を変更した後、静観時間を設け、該静観時間中の乾燥室内の温度の変化を計測し、前記静観時間後、その温度の変化と測定値によって前記熱源の出力を変更する機能を有することを特徴とする碾茶炉。
【請求項2】
乾燥室内に備えた煙道に燃焼空気を通し、輻射熱により前記乾燥室内の茶葉を乾燥する碾茶炉において、前記乾燥室内の温度を測定し、測定値が設定値になるように前記燃焼空気の熱源の出力を変更する
とともに、前記熱源の出力を変更した後、静観時間を設け、該静観時間内の乾燥室内の温度の変化を計測し、前記静観時間後、その温度の変化と温度によって前記熱源の出力を変更することを特徴とする碾茶炉の温度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抹茶の原料となる碾茶を製造する碾茶炉の乾燥室内の温度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
碾茶とは、被覆した茶葉を蒸した後、揉まずに乾燥したものであり、抹茶の原料となる。形状は葉が展開して透き通るように薄く、色沢は鮮緑色、香味は独特の炉の香りがある。
【0003】
従来の碾茶の製造は、蒸熱71→散茶冷却72→乾燥73→分離→仕上げ乾燥となっている。乾燥に碾茶炉を使用することも特徴であり、独特の香りはこの碾茶炉によって得られる。乾燥をおこなう碾茶炉は、長さ約10~15メートル、幅約2メートル、高さ約2~4メートルの大型である(
図6参照)。更に、燃焼部74を地下に備えているため、長さ約10~15メートル、幅約2メートル、深さ約1メートル程度のピット75(くぼみ)を設けている。
【0004】
上記の碾茶炉は、200度を超える高温となるため、耐熱性と保温性のあるレンガによって側壁を構成している。そのため、碾茶炉の製造は、碾茶炉を設置する製茶工場にレンガやレンガ以外の部品を持ってきて、製茶工場で側壁のレンガの積み上げやレンガ以外の部品の組立てをしている。
【0005】
上記の碾茶炉は、地下のピット75部分に燃焼部74を備えており、燃焼部74の燃焼空気が煙道77を通り、碾茶炉内を通過するようになっている。煙道77により、碾茶炉内はあたためられる。
【0006】
本出願人は、レンガ製の碾茶炉の問題を解決するべく、特許文献1のような機械装置の碾茶炉を出願している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
碾茶炉以外の一般的な製茶機械(粗揉機、中揉機、乾燥機など)では、熱風で直接、茶葉を乾燥しており、その熱風の温度を制御している。熱風の温度を上げるためには熱源の出力(例えば、バーナの燃焼)を強くし、熱風の温度を下げるためには熱源の出力(例えば、バーナの燃焼)を弱くする。これらは、いわゆるON/OFF制御やPID制御によって対応することができた。
【0009】
碾茶炉では、他の製茶機械と異なり、熱風で直接、茶葉を乾燥するのではなく、煙道の中に燃焼空気を通し、煙道から放出された輻射熱により、茶葉を乾燥する。茶葉の乾燥に影響するのは碾茶炉内の温度であるが、碾茶炉内の温度を測定して熱源の出力(例えば、バーナの燃焼量)を制御する場合、途中に介する燃焼空気や煙道、外気温度、碾茶炉の広さなどの影響を受け、熱源の出力を制御した後の碾茶炉内の温度の変化に時間がかかった。熱風で直接、茶葉を乾燥するときと同様に制御をすると、制御の遅れが生じ、うまく温度を制御することができず、碾茶炉内の温度を安定させるのが難しかった。
【0010】
本発明では、碾茶炉内を所望の温度に安定させる制御方法および所望の温度に安定する碾茶炉を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1手段の碾茶炉は、乾燥室内に備えた煙道に燃焼空気を通し、輻射熱により前記乾燥室内の茶葉を乾燥する碾茶炉において、前記乾燥室内に温度検出手段を設け、該温度検出手段の測定値が設定値になるように前記燃焼空気の熱源の出力を変更する制御手段を設けるとともに、前記熱源の出力を変更した後、静観時間を設け、該静観時間中の乾燥室内の温度の変化を計測し、前記静観時間後、その温度の変化と測定値によって前記熱源の出力を変更する機能を有する。
本発明の第2手段の碾茶炉の温度制御方法は、乾燥室内に備えた煙道に燃焼空気を通し、輻射熱により前記乾燥室内の茶葉を乾燥する碾茶炉において、前記乾燥室内の温度を測定し、測定値が設定値になるように前記燃焼空気の熱源の出力を変更するとともに、前記熱源の出力を変更した後、静観時間を設け、該静観時間内の乾燥室内の温度の変化を計測し、前記静観時間後、その温度の変化と温度によって前記熱源の出力を変更する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、碾茶炉の乾燥室内の温度を常に一定に保つことができ、製品となる碾茶の出来具合が安定する。燃焼空気の熱源の極端な出力変化がなくなるので、無駄な燃料を消費しなくなり、省エネルギーにつながる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は碾茶炉の茶葉の流れを示した説明図である。
【
図3】
図3は碾茶炉の燃焼空気の流れを示した説明図である。
【
図4】
図4は碾茶炉の制御画面を示した説明図である。
【
図5】
図5は碾茶炉のフローチャートを示した説明図である。
【
図6】
図6は碾茶炉の制御ルールを示した説明図である。
【
図7】
図7は碾茶炉の制御ルールを示した説明図である。
【
図8】
図8は碾茶炉の制御ルールを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の碾茶炉は下部の輻射熱乾燥部1と、上部の熱風乾燥部3とに分かれている。輻射熱乾燥部1は、更に第1乾燥室11と第2乾燥室21とに分かれており、第1乾燥室11は上段、第2乾燥室21は下段となっている。本実施例では、各乾燥室11、21を仕切板2により分けている。仕切板2は設置しなくてもよいが、各乾燥室11、21の温度を調整するためには、設置する方がよい。乾燥室の数はこの限りではない。
【0015】
第1乾燥室11への茶葉Tの供給のため、散茶給葉部4を設ける。散茶給葉部4は、茶葉Tを受け入れるホッパー42と、ホッパー42内の茶葉を風送するための送風ファン41と、茶葉の散茶室43を備えている。散茶室43は、送風ファン41からの送風が抜けるように、通気性の良い側壁(本実施例では金網44)となっている。
【0016】
第1乾燥室11には通気性を有する無端輸送体を上下に2段設けてあり、茶葉Tは散茶給葉部4によりこれら2段の無端輸送体に分けて搬送される(本実施例では2段であるが、1段でも3段以上でもよい)。本実施例では、無端輸送体としてネットコンベヤ12、13を用いる。2段に分けて茶葉Tを搬送すると、ネットコンベヤ12、13の全長は、それぞれ通常の半分でよく、本実施例では約6m、第1乾燥室の全長は約5m、幅は約2mとなる。ネットコンベヤ12、13の終端下部には、ネットコンベヤ12、13に接するように回転ブラシ12A、13Aを設ける。第1乾燥室11には、熱源であるバーナを備えた燃焼部16を設け、煙道14内を燃焼空気で満たす。燃焼部16に用いるバーナは重油バーナよりガスバーナの方が、燃焼調整や排気調整が容易である。本実施例ではガスバーナ61を幅方向に並列2基設けているが、ガスバーナの数はこの限りではない。
【0017】
煙道14は、燃焼部16から水平に4~6本設ける。第1乾燥室11が均等に十分あたためられれば、煙道14の本数はこの限りではない。燃焼部16による燃焼空気は煙道14を通り、機外に配設した煙道51を通って、第2乾燥室21の煙道24へ導かれる。第1乾燥室11内には、温度検出手段である温度計18、19を設ける。第1乾燥室11のネットコンベヤ12、13の終端の茶葉Tは、第2乾燥室21のネットコンベヤ22上へ自然落下する。
【0018】
第2乾燥室21は、通気性を有する無端輸送体を1段、煙道24を水平方向に6本設けてあり、ここでも、本実施例では無端輸送体としてネットコンベヤ22を用いる。ネットコンベヤ22は、第1乾燥室11のネットコンベヤ12、13に対し、逆行する。ネットコンベヤ22の終端下部に接するように回転ブラシ22Aを設ける。機外に配設された煙道51には、燃焼空気の流量を調節するため、調節ダンパー54、ダンパーレバー55を配置する。燃焼空気の流量を調節することにより、各乾燥室11、21の温度が調整される。第2乾燥室21内には、温度検出手段である温度計23を設ける。第2乾燥室21のネットコンベヤ22の終端には、取出用のトラフコンベヤ25を設け、トラフコンベヤ25の終端にホッパー26を設け、ホッパー26内の茶葉Tを熱風乾燥部3の上部のシュート29へ送るための送風ファン27および風送管28を設ける。
【0019】
第1乾燥室11のネットコンベヤ12、13から第2乾燥室21のネットコンベヤ22へ茶葉Tが落下する部分は仕切板2がなく、第1乾燥室11と第2乾燥室21はつながっており、風洞17を形成し、茶葉Tから蒸散する湿気を帯びた空気は上昇し、上部の排気口15により排出される。(
図3破線参照)
【0020】
熱風乾燥部3は、シュート29から出た茶葉Tを薄く広げるためのかきならし具35を備え、熱風乾燥室31内に通気性を有する無端輸送体32A、32B、33A、33Bを4段設けている。無端輸送体の数はこの限りではない。第2乾燥室21を通過した燃焼空気を機外の煙道52より熱風乾燥部3との間の排煙調整室36へ導き、排煙調整室36内の燃焼空気を機外の煙道53、供給ファン37により熱風乾燥室31へ導入している。熱風乾燥室31の上方には、乾燥に使用した熱風を排気するための排気ファン38を設ける。供給ファン37と排気ファン38は、それぞれインバータ(図示しない)にて出力調整する。これにより機内の温度を調節することができる。温度計30(温度検出手段)は排煙調整室36を通り、供給ファン37にて熱風乾燥室31へ供給する熱風の温度を計測し、温度計40(温度検出手段)は熱風乾燥室31内の温度を計測する。無端輸送体33Bの終端には、茶葉Tを取り出すためのスクリューコンベヤ39を設ける。
【0021】
次に、この碾茶炉を起動し、茶葉Tを投入した動きを説明する。殺青処理した茶葉Tを散茶給葉部4のホッパー42へ搬送する。ホッパー42に入った茶葉Tは、送風ファン41の送風により、散茶室43へ飛ばされ、落下するときに、上段のネットコンベヤ12または下段のネットコンベヤ13へのる。ネットコンベヤ12、13上では、輻射熱により茶葉Tが乾燥される。
【0022】
第1乾燥室11のネットコンベヤ12、13上で乾燥された茶葉Tは、第2乾燥室21のネットコンベヤ22上へ落下する。落下時に、茶葉Tの上下や隣の茶葉Tとの位置やネットコンベヤへの接触などが変化する。
【0023】
第2乾燥室21のネットコンベヤ22上でも、第1乾燥室11と同様に、輻射熱により乾燥される。ネットコンベヤ22上で乾燥された茶葉Tは、トラフコンベヤ25上へ取り出され、ホッパー26へ回収される。ホッパー26内の茶葉Tへ送風ファン27により送風し、風送管28内を通過して、シュート29により給葉部34へ茶葉Tを投入する。
【0024】
給葉部34内の茶葉Tをかきならし具35により薄く平らにして、無端輸送体32A上へのせる。供給ファン37により排煙調整室36内の熱風を煙道53にて熱風乾燥室31内へ取り込み、熱風により乾燥する。このときの熱風乾燥室31の温度は約80度であり、この温度は、供給ファン37の回転数により変更することができる。茶葉Tから蒸散する湿気を帯びた空気は上昇し、上部の排気ファン38により排気される。熱風乾燥室31内で乾燥した茶葉をスクリューコンベヤ39へ排出し、スクリューコンベヤ39により、次の機械(または搬送装置)へ搬送する。
【0025】
以上のような流れで、ネットコンベヤ12、13上を約1分から約2分30秒、ネットコンベヤ22上を約2分30秒から約5分、無端輸送体32A、32B、33A、33Bは約10分から約40分程度で茶葉Tを良好に乾燥することができる。
【0026】
碾茶炉の制御装置の表示画面を
図4に示す。時間や温度を設定し、現在の温度を表示する。
【0027】
次に碾茶炉内の温度を制御する方法について
図5のフローチャートを参照して説明する。まず、電源を入れ、バーナ出力を100%で運転する。温度計18があらかじめ定めた温度Aの設定値(本実施例では
図4に示すように150度)になったら、バーナ出力を80%に落とす。その後、初期静観時間を本実施例では10分間として静観する。この初期静観時間中にも1分毎に温度計18の温度Aと温度計19の温度Bを測定し、温度変化を監視する。初期静観時間の10分経過後、温度計18と温度計19のそれぞれの温度変化に応じて、バーナ出力を変更する。その後も静観時間(本実施例では5分間)を設け、その静観時間中も1分毎に温度計18の温度Aと温度計19の温度Bを計測し続け、静観時間中の温度変化を監視し、静観時間終了後、温度の変化量と測定温度と測定温度との差によりバーナ出力を変更する。これを続けることにより、温度A、B共に、設定値に近づく。
【0028】
制御条件(バーナ出力の変更条件)を
図6、7、8に示す。
図4の表示画面を切り替えることで、きめ細かい制御条件についても任意に変更できる。条件を細かくすることで、作業者の設定とほぼ同様の設定を自動ですることができる。例えば、温度計18の温度Aが上昇中で、温度計19の温度Bも上昇中で、温度Bが設定より1度以上高ければ、温度に応じてバーナ出力を下げる。例えば、温度計18の温度A、温度計19の温度Bが共に上昇中で、温度計19の温度Bが設定と同じまたは低ければ、そのままの出力とし、変更しない。
【0029】
本実施例では、温度計18、19の計測により制御したが、温度計の数や位置、制御の仕方はこの限りではない。
【符号の説明】
【0030】
1 輻射熱乾燥部
2 仕切板
3 熱風乾燥部
4 散茶給葉部
11 第1乾燥部
12 無端輸送体
12A 回転ブラシ
13 無端輸送体
13A 回転ブラシ
14 煙道
15 排気口
16 燃焼部
17 風洞
18 温度計
19 温度計
21 第2乾燥部
22 無端輸送体
22A 回転ブラシ
23 温度計
24 煙道
25 トラフコンベヤ
26 ホッパー
27 送風ファン
28 風送管
29 シュート
30 温度計
31 熱風乾燥室
32A 無端輸送体
32B 無端輸送体
33A 無端輸送体
33B 無端輸送体
34 給葉部
35 かきならし具
36 排煙調整室
37 供給ファン
38 排気ファン
39 スクリューコンベヤ
40 温度計
41 送風ファン
42 ホッパー
43 散茶室
44 金網
51 煙道
52 煙道
53 煙道
54 調節ダンパー
55 ダンパーレバー
56 調節ダンパー
57 ダンパーレバー
71 蒸熱
72 散茶冷却
73 乾燥
74 燃焼部
75 ピット
76 吹上
77 煙道
T 茶葉