(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】糖尿病予防・治療用医薬組成物、血糖値改善用食品組成物、及び、糖尿病の予防・治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/20 20060101AFI20220323BHJP
A61K 31/23 20060101ALI20220323BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220323BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220323BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20220323BHJP
【FI】
A61K31/20
A61K31/23
A61P3/10
A61P43/00 111
A23L33/115
(21)【出願番号】P 2017090872
(22)【出願日】2017-04-28
【審査請求日】2020-03-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】坂根 郁夫
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-500650(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0260003(US,A1)
【文献】特開平03-007539(JP,A)
【文献】特表2003-517051(JP,A)
【文献】特表2014-504858(JP,A)
【文献】特表2013-500010(JP,A)
【文献】特表2007-532096(JP,A)
【文献】Lipids,2014年,49,pp.633-640
【文献】Lipids,2016年,51,pp.897-903
【文献】YAKUGAKU ZASSHI,2016年,136(3),pp.461-465
【文献】Cell,2008年,132,pp.375-386
【文献】Diabetes, Metabolic Syndrome and Obesity: Targets and Therapy,2012年,5,pp.11-19
【文献】Journal of Biological Chemistry,2014年,289(38),pp.26607-26617
【文献】Physiological Reports2015,2015年,3(4),e12372(pp.1-10)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリスチン酸を有効成分として含有し、in vivoにおいて
内服によりグルコース負荷後の血糖値の上昇抑制または低下、空腹時インスリン耐性の低下、体重減少の少なくともいずれかの効果がある2型糖尿病予防・治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記ミリスチン酸以外の脂肪酸を実質的に含有していない請求項1に記載の2型糖尿病予防・治療用医薬組成物。
【請求項3】
実質的に前記ミリスチン酸のみからなる請求項1に記載の2型糖尿病予防・治療用医薬組成物。
【請求項4】
ミリスチン酸とグリセロールとのエステルを有効成分として含有し、in vivoにおいて
内服によりグルコース負荷後の血糖値の上昇抑制または低下、空腹時インスリン耐性の低下、体重減少の少なくともいずれかの効果がある2型糖尿病予防・治療用医薬組成物。
【請求項5】
前記ミリスチン酸以外の脂肪酸を実質的に含有していない請求項4に記載の2型糖尿病予防・治療用医薬組成物。
【請求項6】
実質的に前記エステルのみからなる請求項4に記載の2型糖尿病予防・治療用医薬組成物。
【請求項7】
ミリスチン酸を有効成分として含み、in vivoにおいてグルコース負荷後の血糖値の上昇抑制または低下、空腹時インスリン耐性の低下、体重減少の少なくともいずれかの効果がある2型糖尿病における血糖値改善用食品組成物。
【請求項8】
前記ミリスチン酸以外の脂肪酸を実質的に含有していない請求項7に記載の血糖値改善用食品組成物。
【請求項9】
実質的に前記ミリスチン酸のみからなる請求項7に記載の血糖値改善用食品組成物。
【請求項10】
ミリスチン酸とグリセロールとのエステルを有効成分として含み、in vivoにおいてグルコース負荷後の血糖値の上昇抑制または低下、空腹時インスリン耐性の低下、体重減少の少なくともいずれかの効果がある2型糖尿病における血糖値改善用食品組成物。
【請求項11】
前記ミリスチン酸以外の脂肪酸を実質的に含有していない請求項10に記載の血糖値改善用食品組成物。
【請求項12】
実質的に前記エステルのみからなる請求項10に記載の血糖値改善用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病予防・治療用医薬組成物、糖尿病の予防・治療方法、及び、血糖値改善用食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、血糖値やヘモグロビンA1cの値が所定の基準より高い状態にある疾患であり、高い血糖値そのものによる症状の他、これに起因する様々な疾患を引き起こす。
【0003】
特に近年、糖尿病に罹患する者の割合は増加傾向にあり、糖尿病の予防(リスク低減)・治療は極めて重要である。
【0004】
ところで糖尿病のリスク低下に関する報告として、例えば、下記非特許文献1では、高脂肪乳製品をよく飲み食べる者が、これを全く食べない者に比べ、2型糖尿病の発症リスクが低下していることについて記載がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ericson,U.et al.,Am.J.Clin.Nutr.,101,1065-1080(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献に記載の報告は、特定の食品がある程度の効果を示すという程度に過ぎず、その理由については解明されておらず、医薬組成物や食品組成物としての応用までの提言ではない。
【0007】
そこで、本発明は、効果のある糖尿病予防・治療用医薬組成物、血糖値改善用食品組成物、及び、糖尿病の予防・治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、DGKδがインスリン抵抗性を制御する中心的酵素の一つであることを考慮し、様々な物質について確認を行ったところ、ミリスチン酸が有意にDGKδタンパク質発現亢進に寄与することを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一観点に係る糖尿病予防・治療用医薬組成物は、ミリスチン酸及びミリスチン酸誘導体の少なくともいずれかを有効成分として含有するものである。
【0010】
また本発明の他の一観点に係る血糖値改善用食品組成物は、ミリスチン酸及びミリスチン酸誘導体の少なくともいずれかを有効成分として含むものである。
【0011】
また本発明の他の一観点に係る糖尿病の予防・治療方法は、ミリスチン酸及びミリスチン酸誘導体の少なくともいずれかを有効成分として投与するものである。
【発明の効果】
【0012】
以上本発明によって、効果のある糖尿病予防・治療用医薬組成物、血糖値改善用食品組成物、及び、糖尿病の予防・治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例に係るマウスの空腹時血糖測定の結果を示す図である。
【
図2】実施例に係るマウスの糖負荷試験の結果を示す図である。
【
図3】実施例に係るマウスの糖負荷試験の結果を示す図である。
【
図4】実施例に係るマウスの糖負荷試験の結果を示す図である。
【
図5】実施例に係るマウスの糖尿病累積発生率の結果を示す図である。
【
図6】実施例に係るマウスの空腹時インスリン耐性の結果を示す図である。
【
図7】実施例に係るマウスの体重変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例における具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0015】
(実施形態1:医薬組成物)
本実施形態に係る医薬組成物(以下「本医薬組成物」)は、糖尿病予防・治療用医薬組成物であって、ミリスチン酸及びミリスチン酸誘導体の少なくともいずれかを有効成分として含有するものである。
【0016】
本実施形態において「ミリスチン酸」とは、下記式のようにCH
3(CH
2)
12COOHで表される飽和脂肪酸である。本医薬組成物はこのミリスチン酸を有効成分としており、これによって糖尿病に対する大幅な予防・治療効果を発揮することができる。ミリスチン酸による糖尿病に対する大幅な予防・治療効果のより具体的な内容は、2型糖尿病における血糖値の改善効果であり、更に具体的に説明すると空腹時の血糖値、グルコース負荷時(食後)の血糖値の上昇抑制又は低下である。
【化1】
【0017】
この医薬組成物の効果発揮の機序については後述の実験例から明らかとなるが、ミリスチン酸が体内に取り込まれることでDGKδ蛋白質の発現が亢進され、グルコースの取り込み能が向上するためと考えられ、この結果、インスリンへの感受性を高め、血糖値上昇を抑えることが可能となる。
【0018】
また本医薬組成物は、ミリスチン酸そのものを有効成分として含んでいてもよいがこれとともに、又はこれに代えて、ミリスチン酸誘導体を有効成分として含んでいてもよい。ここで「ミリスチン酸誘導体」とは、本医薬組成物の効果と同等の効果を得る範囲で、薬学的に許容できる範囲においてミリスチン酸の構造の一部を改変させた化合物をいい、限定されるわけではないが、ミリスチン酸と塩基との反応により得られる塩(ミリスチン酸塩)、ミリスチン酸とグリセロール等を含むアルコールにより得られるエステル(ミリスチン酸エステル)、ミリスチン酸とアミンにより得られるアミド(ミリスチン酸アミド)等を例示することができる。
【0019】
また本医薬組成物は、本医薬組成物の効果を発揮することができる限りにおいて限定されず、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ剤等の内服薬の形態であってもよく、湿布剤、軟膏剤等の外用薬、更には液剤等の注射薬のいずれの形態であってもよい。
【0020】
また本医薬組成物は、上記の形態をとる組成物の製造を容易にする、品質の安定化を図る、又は効果を高める等の観点から、医薬組成物の形態に応じて、賦形剤、安定化剤、保存剤、緩衝材、懸濁化剤、乳化剤、着色剤、着香材、粘度調整剤等の上記有効成分以外の成分、いわゆる医薬品添加物を含むことができる。もちろん、本医薬組成物の品質や効果等を変化させない範囲で水や生理食塩水等の溶媒を含ませることも可能である。
【0021】
(治療方法)
また本医薬組成物は、予防・治療方法に用いることができる。具体的な予防・治療方法は、患者や将来患者となるリスクの高い者に対する投与することが挙げられる。
【0022】
投与方法は、本医薬組成物の形態によって適宜調整可能であり限定されるわけではないが、経口投与、注射、舌下投与等を例示することができる。
【0023】
また本医薬組成物において、有効成分の投与量は、投与対象者の症状及び体重等によって適宜調整可能であるが、体重1kgあたり、1日に0.1g以上であることが好ましく、より好ましくは0.1g以上100g以下であり、より好ましくは0.15g以上50g以下である。この範囲とすることで、本医薬組成物の効果を発揮することが可能となる。
【0024】
以上、本医薬組成物は、具体的に効果のある糖尿病予防・治療用医薬組成物となる。
【0025】
(実施形態2:食品組成物)
ミリスチン酸及びミリスチン酸誘導体は、上記医薬組成物としての応用の他、食品組成物としての応用も考えられる。すなわち、本実施形態に係る食品組成物(以下「本食品組成物」という。)は、ミリスチン酸及びミリスチン酸誘導体の少なくともいずれかを有効成分として含むものであって、血糖値を改善することのできる血糖値改善用食品組成物である。
【0026】
本食品組成物における「ミリスチン酸」及び「ミリスチン酸誘導体」等の定義及びその用量については、上記実施形態1に記載と同様である。
【0027】
また本食品組成物は、様々な食品組成物としての形態が可能であり、限定されるわけではないが、一般の食品に上記の有効成分を添加又は特別に濃縮して通常のものより多く含有させ、糖尿病に対する効果、より具体的には血糖値改善効果を高めた食品等を例示することができる。なおここで、「食品」とは、茶、コーヒー、乳酸菌飲料、牛乳等の飲料、肉類、魚介類、卵類、穀物、豆類、イモ類、野菜類、海藻類、果物類等の天然の食材を用いた生鮮食品、ヨーグルト、納豆等の発酵食品、天然食材を加工した加工食品、サラダ油やオリーブオイル、大豆油、コーン油等の食用油を含む油脂類、しょう油、みそ等の調味料等を例示することができ、およそ人が摂取することができるものである限りにおいて限定されない。またこの食品には、上記有効成分を、上記食品の粉末や濃縮液及び上記賦形剤等の少なくともいずれかと混合した、いわゆるサプリメントとしての形態ももちろん含まれる。
【0028】
以上、本食品組成物は、具体的に、血糖値を改善することのできる血糖値改善用食品となる。
【実施例】
【0029】
ここで、上記実施形態に記述した有効成分の効果について実際に確認を行っている。この結果について以下具体的に説明する。
【0030】
まず、雄のNSYマウス(RBRC02946,理研バイオリソースセンター)に、300mg/kgのミリスチン酸、又は、300mg/kgのパルミチン酸を2日おきに経口投与したマウス、又は上記いずれも与えないマウス(コントロール)に対し、空腹時血糖値を測定した。この結果を
図1に示す。この結果によると、24、28、32週齢における空腹時血糖の値が、明確にコントロール及びパルミチン酸のマウスに比べ減少していることを確認した。
【0031】
また、上記と同様、雄のNSYマウスに対し、300mg/kgのミリスチン酸、又は、300mg/kgのパルミチン酸を2日おきに経口投与したマウス、又は上記いずれも与えないマウス(コントロール)に対し、糖負荷試験を行った。この結果を
図2乃至4に示す。
図2は18週齢、
図3は24週齢、
図4は30週齢のマウスの結果についてそれぞれ示している。この結果によると、少なくとも24、30週齢のマウスにおいて、糖負荷に対して大幅な改善を見ることができた。
【0032】
また、上記と同様、雄のNSYマウスに対し、300mg/kgのミリスチン酸、又は、300mg/kgのパルミチン酸を2日おきに経口投与したマウス、又は上記いずれも与えないマウス(コントロール)に対し、糖尿病の累積発生率について確認を行った。この結果について
図5に示す。本図によっても、明確にコントロール及びパルミチン酸のマウスに比べ糖尿病発生率が減少していることを確認した。
【0033】
また、上記と同様、雄のNSYマウスに対し、300mg/kgのミリスチン酸、又は、300mg/kgのパルミチン酸を2日おきに経口投与したマウス、又は上記いずれも与えないマウス(コントロール)に対し、空腹時インスリン耐性について確認を行った。この結果について
図6に示す。本図は26週齢におけるインスリン耐性の結果である。この結果によると、ミリスチン酸の投与によってコントロール及びパルミチン酸を投与したマウスよりも空腹時インスリン耐性が改善されたことを確認した。
【0034】
また、上記と同様、雄のNSYマウスに対し、300mg/kgのミリスチン酸、又は、300mg/kgのパルミチン酸を2日おきに経口投与したマウス、又は上記いずれも与えないマウス(コントロール)に対し、その体重について確認を行った。この結果について
図7に示す。本図によると、全体的に、特に24週以降における体重の減少について顕著な現象を見ることができた。
【0035】
以上、本実施例によって、ミリスチン酸による糖尿病予防・治療用医薬組成物としての効果、血糖値改善のための食品組成物としての効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、糖尿病予防・治療用医薬組成物、血糖値改善用食品組成物、及び、糖尿病の予防・治療方法として産業上の利用可能性がある。