IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社山辰組の特許一覧

特許7044367サイフォン送水装置及びサイフォン送水方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】サイフォン送水装置及びサイフォン送水方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/18 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
E02B7/18
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2018140610
(22)【出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2019049182
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2017144972
(32)【優先日】2017-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017176071
(32)【優先日】2017-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391028155
【氏名又は名称】株式会社山辰組
(74)【代理人】
【識別番号】100129676
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼荒 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 基
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 和三
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 健
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 剛
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-236876(JP,A)
【文献】特開2017-137752(JP,A)
【文献】特許第5785634(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイフォン作用を利用したサイフォン送水装置であり、障害物を乗り越えて設置され、高水域である湛水部から前記障害物の天端である揚程管頂部を経て前記湛水部の水面より低い位置に常時開口された吐出口が配設されている断面形状保持可能な材質の送水ホースと、
前記湛水部内に配置され、前記送水ホースに連結されて水を送水する送水機器と、
を備えてなる送水装置において、
揚程管頂部と湛水部との水面の差である揚程が概ね7m以下において、サイフォン作用を起動するため前記送水機器を起動して前記送水ホース内へ送水し、前記送水ホース内がほぼ満水の送水状態になったら前記送水機器を停止することで、前記送水ホース内の流れをサイフォンによる送水作業で稼働させることを特徴とするサイフォン送水装置。
【請求項2】
サイフォン作用を利用したサイフォン送水装置であり、障害物を乗り越えて設置され、高水域である湛水部から前記障害物の天端である揚程管頂部を経て前記湛水部の水面より低い位置に常時開口された吐出口が配設されている断面形状保持可能な材質の送水ホースと、
前記湛水部内に配置され、前記送水ホースに連結されて水を送水する送水機器と、
を備えてなるサイフォン送水装置において、
揚程管頂部と湛水部との水面の差である揚程が概ね7mを超えている場合にはサイフォン送水作業における揚程管頂部の負圧による気化現象に伴い生ずる空洞部を発生させないため又は消滅させるための送水機器送水作業を加えることが可能であり、サイフォンと前記送水機器の相乗効果により、サイフォンの理論上の限界揚程高と送水量、及び前記送水機器の限界揚程高と排水量を超えて送水することを特徴とするサイフォン送水装置。
【請求項3】
サイフォン作用を利用したサイフォン送水装置であり、障害物を乗り越えて設置され、高水域である湛水部から前記障害物の天端である揚程管頂部を経て前記湛水部の水面より低い位置に常時開口された吐出口が配設されている断面形状保持可能な材質の送水ホースと、
前記湛水部内に配置され、前記送水ホースに連結されて水を送水する送水機器と、
を備えてなるサイフォン送水装置において、
揚程管頂部と湛水部との水面の差である揚程が概ね7m以下の場合はサイフォン作用を起動するため前記送水機器を起動して前記送水ホース内へ送水し、前記送水ホース内がほぼ満水の送水状態になったら前記送水機器を停止することで、前記送水ホース内の流れをサイフォンによる送水作業で稼働させることが可能となり、揚程が概ね7mを超えている場合にはサイフォン送水作業における揚程管頂部の負圧による気化現象に伴い生ずる空洞部を発生させないため又は消滅させるための送水機器送水作業を加えることが可能であり、サイフォンと前記送水機器の相乗効果により、サイフォンの理論上の限界揚程高と送水量、及び前記送水機器の限界揚程高と排水量を超えて送水が可能となるため、揚程7mを境として前記送水機器の電源のONとOFFにより送水方法を切替え又は併用して送水作業を行うことを特徴とするサイフォン送水装置。
【請求項4】
サイフォン作用を利用したサイフォン送水装置であり、障害物を乗り越えて設置され、高水域である湛水部から前記障害物の天端である揚程管頂部を経て前記湛水部の水面より低い位置に常時開口された吐出口が配設されている断面形状保持可能な材質の送水ホースと、
前記湛水部内に配置され、前記送水ホースに連結されて水を送水する送水機器と、
を備え、
前記送水ホースには、前記湛水部からサイフォン作用により水を吸水する前記送水ホースと連結された第1開口部と、前記湛水部に配置された前記送水機器に連結された前記送水ホースと連結された第2開口部と、前記第1開口部と前記第2開口部とから入ってきた水を下流部へ送水する前記送水ホースと連結された第3開口部と、を有している注水合流部材を備えていることを特徴とするサイフォン送水装置。
【請求項5】
前記送水ホースに備えられた前記注水合流部材は上流側の前記湛水部の水位より低い位置に備えられていることを特徴とする請求項4に記載のサイフォン送水装置。
【請求項6】
前記注水合流部材において、前記第1開口部からの水の流れと、前記第2開口部からの水の流れとの合流部に、流れの方向を切替えるための切替弁を有していることを特徴とする請求項4又は5に記載のサイフォン送水装置。
【請求項7】
前記注水合流部材は、切替弁が水流により押されて移動し流れの方向を切替える作業において、前記第1開口部又は前記第2開口部が全開しないように前記切替弁の移動範囲を限定するため前記切替弁を制止する切替弁移動制止部材が設けられていることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項8】
前記注水合流部材には、前記第1開口部からの水の流れと、前記第2開口部からの水の流れの方向を切替えるため、前記第1開口部及び前記第2開口部に開口部用逆止弁を備えていることを特徴とする請求項4から7のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項9】
前記注水合流部材には、前記第1開口部、前記第2開口部、前記第3開口部のいずれか1ヶ所以上に水の流れの方向を切替えるための開口部用開閉部材を備えていることを特徴とする請求項4から8のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項10】
前記注水合流部材の配置位置が湛水部の水位より低い個所に備えられた場合は第3開口部に連結される送水ホースは柔軟なホースであることを特徴とする請求項4から9のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項11】
前記送水ホースは、少なくともその一部が1又は2部材以上の柔軟な送水ホースで作製され、前記送水機器と前記注水合流部材の間に連結して備えられていることを特徴とする請求項4から10のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項12】
前記注水合流部材は、前記送水機器の送水口に直接連結され構成されていることを特徴とする請求項4から11のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項13】
前記注水合流部材のサイフォン吸水側となる前記第1開口部には前記送水ホースが連結されていないことを特徴とする請求項4から12のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項14】
前記サイフォン送水装置は、揚程管頂部より下流側において上流部の前記湛水部の水位以下の位置で前記送水ホース内の流れる水を滞留させるための気化量調節用バルブ又は気化調整開閉装置を連結したことを特徴とする請求項4から13に記載のサイフォン送水装置。
【請求項15】
前記気化調整開閉装置は、流水用孔と流水用孔の開閉部としてのゲート部と、ゲート部及びゲート部のスライド用空間を含めて上下左右の周囲を囲む囲み込み部、流水用孔を備えゲート部を上下流側から挟み込み、前記流水用孔の周囲に孔を備えてフランジが形成された一対の挟持板と、前記ゲート部を前記挟み込み部と前記挟持板内で上下させる上下移動用ボルトと、を備えていることを特徴とする請求項14に記載のサイフォン送水装置。
【請求項16】
前記送水ホースの吸水口に吸水部材を連結し、前記吸水部材には少なくとも1つ以上の給水部材開閉弁と、前記給水部材開閉弁に連結されたフロートとを備えていることを特徴とする請求項4から15のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項17】
前記給水部材開閉弁は、開く時には前記給水部材開閉弁の前記吸水部材への取付部を軸として前記吸水部材の内側に回動することを特徴とする請求項16に記載のサイフォン送水装置。
【請求項18】
前記吸水部材の容器内に、送水装置の吸水孔及び送水ホースの吸水口の少なくともいずれか若しくは両方が配置されていることを特徴とする請求項16又は17に記載のサイフォン送水装置。
【請求項19】
前記送水機器は、サイフォン作用を働かせる前記送水ホースの吸水口が配置される湛水部とは異なる吸水部に配置されていることを特徴とする請求項4から18のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項20】
前記送水機器と前記送水ホースとの連結は、一方は各種フランジのボルト用孔に合う複数の切欠部を設けたフランジを備え、他方は既定のボルト用孔を備えた連結部材を使用することを特徴とする請求項4から19のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項21】
前記送水ホース内に送出されて、前記送水ホース内の残留空気を押し出すために少なくとも1つ以上の空気押出部材又は空気押出部材を送出する空気押出部材送出部を備えていることを特徴とする請求項4から20のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項22】
前記空気押出部材は、前記送水ホース内に挿入、又は送出される以前は前記送水ホース内断面より大きく、空気押出部材送出部、前記注水合流部材又は前記送水ホース内のいずれかに挿入、又は送出された時点で前記送水ホースの内断面と同一又は内断面より若干小さい断面形状を有することを特徴とする請求項21に記載のサイフォン送水装置。
【請求項23】
前記送水ホース、前記空気押出部材送出部又は前記注水合流部材には、前記空気押出部材を保持するための保持部材を備えていることを特徴とする請求項21又は22に記載のサイフォン送水装置。
【請求項24】
前記送水ホースは、少なくともその一部が1又は2部材以上の柔軟な送水ホースで作製され、かつ前記送水機器と前記注水合流部材の間に連結して備えられていることを特徴とする請求項20から23のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項25】
前記空気押出部材を使用するサイフォン送水装置において、前記送水機器の送水口の口径は、下流部へ送水する送水ホース、又は送水ホースとサイフォン吸水側の送水ホースの口径以下であることを特徴とする請求項21に記載のサイフォン送水装置。
【請求項26】
前記第1開口部には、湛水部に配置されるサイフォン吸水するための第1送水ホースを備え、
前記第1送水ホースの先端には排砂用吸水部材が備えられており、
前記排砂用吸水部材は水と土砂を併せて吸水するための主吸水部と、水だけを吸水する補助吸水部とからなり、
主吸水部の吸水口が砂内に埋もれて土砂を大量に吸水した場合に流動性をなくした土砂が前記第1送水ホース内に詰まることでサイフォン機能を停止させることを防止するため、前記主吸水部から吸い込む土砂に、補助吸水部から吸水した水を加えて混合し、吸水した土砂の割合を少なくして流動性を高めることで、前記送水ホース内が土砂で詰まることを防止することを可能としたことを特徴とする請求項4から25のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置。
【請求項27】
前記補助吸水部には、給水部を遠隔部に配置するための補助吸水部延長部材を有することを特徴とする請求項26に記載のサイフォン装置。
【請求項28】
請求項9に記載のサイフォン送水装置を使用したサイフォン送水方法において、
前記注水合流部材は、前記第3開口部に備え又は連結した第3開口部用開閉部材を閉じた状態で、前記送水機器を使用して前記第2開口部から送水した水を前記第1開口部を通して前記湛水部に繋がる前記第1開口部に連結された第1送水ホース内へ送水した水で充填した後に、前記第1開口部に備えた第1開口部用開閉部材を閉じると同時に前記第3開口部に備えた前記第3開口部用開閉部材を開いて、前記送水機器の送水方向を前記第3開口部に連結された吐出口の方向の第3開口部に連結された第3送水ホースに切替えて、前記第3開口部から下流の第3送水ホース内が満水状態で流れるようになったら送水機器を停止すると同時に前記第1開口部用開閉部材を開くことでサイフォン起動時の送水ホース全延長における呼び水となる満水状態の前記送水ホースの割合を増やすことを特徴とする送水方法。
【請求項29】
請求項9に記載のサイフォン送水装置を使用したサイフォン送水方法において、
前記注水合流部材は、揚程管頂部より下流側に配置され前記注水合流部材の前記第3開口部に備え又は連結した第3開口部用開閉部材を閉じ、前記送水機器を使用して前記第2開口部から送水した水を前記第1開口部へ方向を変えて第1開口部から前記湛水部へ繋がる第1送水ホース側へ送水し、前記第1送水ホース内を水で充填した後、前記第3開口部に備えた前記第3開口部用開閉部材を開くことで、前記注水合流部材の配置位置が湛水部の水位より高い個所に配置されており、前記第2開口部の前記送水機器からの流れは、前記第1開口部からのサイフォンによる湛水部からの流れが合流して前記第3開口部を通して下流側の吐出口へと送水することで送水量を増大することを特徴とする送水方法。
【請求項30】
請求項4に記載のサイフォン送水装置を使用したサイフォン送方法において、
前記注水合流部材は、前記揚程管頂部より下流側の配置位置が湛水部の水位より低い位置に配置され、前記第3開口部に接続され、前記第3開口部から下流部の第3送水ホース内が満水状態で流れるようになったらサイフォン作用が起動するとともに、前記第2開口部からの前記送水機器による送水を持続することで送水量が増大する送水方法と、前記第2開口部からの前記送水機器による送水を停止し、前記第1開口部を通るサイフォンの流れだけの送水方法とに切替えることができることを特徴とする送水方法。
【請求項31】
請求項10又は請求項11に記載のサイフォン送水装置を使用したサイフォン送水方法において、
前記注水合流部材の配置位置が前記湛水部の水位より低い個所に備えられた場合は、前記第3開口部に連結される硬質な送水ホースに替えて前記柔軟な送水ホースとし、前記湛水部から前記第1開口部までの前記送水ホース内をサイフォン作用により流れる水が前記第3開口部を通って前記柔軟な送水ホース内へ流れることを特徴とする送水方法。
【請求項32】
請求項4から27のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置を使用したサイフォン送水方法において、
前記送水装置の前記送水ホースに備えられた前記注水合流部材を使用し起動したサイフォン作用の稼働時においても前記送水機器を併用して稼働することで送水量を増大することを特徴とする送水方法。
【請求項33】
請求項1から27のいずれか1項に記載のサイフォン送水装置を使用したサイフォン送水方法において、豪雨などによりため池など湛水池の水が増水して堤体が決壊するのを防止するための工法に使用するものであり、台風などの接近が予想される場合に、前記サイフォン送水装置を使用して湛水池の水位を下げることで、豪雨の際に湛水池が受け入れる水量を増やして堤体の決壊を防ぐことを特徴としたため池等の湛水池の防災と維持管理を目的としたサイフォン送水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高水域にある水又は、水及び土砂を低地域に送水するサイフォン送水装置に関する。特に、限界揚程を高めて送水量を増量できるサイフォン送水装置及びサイフォン送水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、池、沼、河、プール等の湛水部から水を送水する方法としては、水中ポンプ等の送水機器を使用して送水する方法がある。この送水機器による排水方法の場合、電気で送水機器を稼働させるため、排水ホースの吐出口の位置が湛水部の水位より高くても排水が可能であった。従って、排水計画を行う時、ポンプ機能が堤防天端までの揚程を乗越えることができるか否かが唯一の検討事項となっていた。
【0003】
実際に多くの水中ポンプメーカーが送水機器の技術開発の主たる目的とする機能は「揚程に対する排水量を、いかに低コストで増量するか。」ということを主眼に開発を進めてきた。つまり、メーカーの考えとしては、水を汲み上げた後はその水を利用する人の使用方法により、そのまま自然流下で水路を流して田畑へ供給するなり、プールに水を溜めるなりしてもらえばよく、水中ポンプは汲み上げることで役割を果たしているのである。建設工事においても排水計画を行う時は、湛水部の水位を基準に仮締切堤防の天端の高さまでの揚程を検討し、この高さを越えられる排水能力のある水中ポンプを選定すればよい。従って、本発明のように湛水部の水位より吐出口の高さは低く設置しなければならないという配管の条件は、余分な資材を使用しなければならないため、排水計画を立案する際の検討事項からは除外されていた。
【0004】
一方で、過去に地震や豪雨に起因する土砂災害で発生した天然ダムの排水作業に使用される水中ポンプの稼働には燃料代、ヘリコプター等による燃料の運搬費用など莫大な費用がかかっていた。これを受けて災害時にも有効に利用可能な種々のサイフォン送水装置が提案されてきた。しかし、提案されたサイフォン送水装置の起動方法は、いずれもサイフォン用排水ホースの上下流部の開閉弁を閉じて、管頂部に設けられた注水口開閉弁を開き、水中ポンプ等を稼動してサイフォン排水ホース内が満水状態になるまで注水を続け、満水になったら送水機器を停止し、注水口開閉弁を閉じて、上流側吸水口と下流側吐出口の開閉弁を開く。湛水部の水位と吐出口側の水頭差により、上流側の湛水部の水はサイフォン排水ホース内に吸い込まれて流下し、吐出口側に排水するという方法である。この従来型のサイフォン送水装置における電動型送水機器の役割は、排水ホース内が満水になるまで注水することのみであった。その後、サイフォン作用が起動すると送水機器の役割はなくなる装置であった。
【0005】
しかし、サイフォンによる排水作業は7m程度の揚程が限界である。揚程が7m程度を越えると最頂部ホース内に負圧による気化現象が発生し始める。さらに揚程が大きくなると送水ホース内が空洞化して流れが分断され、送水が停止し、排水作業ができなくなるという課題があった。実際の現場では、様々な状況により揚程が7m以上においても排水作業が必要な場合が発生する。従って、揚程が7m以上においては、送水機器で排水作業を行う以外に選択肢がなかったのである。しかし、水中ポンプの燃料消費量を「1」とすると、サイフォンは起動時とメンテナンスを含めてもわずか「0.0007」という低い燃料消費の比率で排水作業が可能で揚程7mまではサイフォン排水作業を実施するメリットは大きい。サイフォン排水装置は、電気を使用しなくても水中ポンプの87%近い排水量を確保できる。
【0006】
そこで、本発明者は、サイフォン作用による排水作業と送水機器による排水作業の両方のメリットを具備することにより、同一の排水装置でサイフォンの排水機能と送水機器の排水機能を組み合わせたり、切替えたりすることができて、しかも7m以上の高揚程で排水量も増大したサイフォン排水装置の技術を確立し、開発することに成功した。また揚程に拘らずサイフォン作用と送水機器を併用する相乗効果により排水量を増大することにも成功した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5785634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、サイフォン排水機能と送水機器排水機能との両方の機能を併せもつことで、これまでのそれぞれの揚程を大きく越えて排水作業が実施でき、各揚程でのそれぞれの排水量も大きく増量できるサイフォン送水装置を提供する。また、水中ポンプの規格を上げることなく効率よく送水ホース内の空気を除去することができ、送水効率を向上させることができるサイフォン送水装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。本発明にかかるサイフォン送水装置及びサイフォン送水方法は、サイフォン作用を利用したサイフォン送水装置であり、湛水部から揚程管頂部を経て前記湛水部の水面より低い位置に常時開口された吐出口が配設されている断面形状保持可能な材質の送水ホースと、
前記湛水部内に配置され、前記送水ホースに連結されて水を送水する送水機器と、
を備えてなる送水装置において、
揚程が概ね7m以下において、サイフォン作用を起動するため前記送水機器を起動して前記送水ホース内へ送水し、前記送水ホース内がほぼ満水の送水状態になったら前記送水機器を停止することで、前記送水ホース内の流れをサイフォンによる送水作業で稼働させることを特徴とする。
【0010】
揚程が概ね7m以下の場合はサイフォン作用を起動するため送水機器を起動して前記送水ホース内へ「呼び水」を送水し、前記送水ホース内断面がほぼ満水での送水状態になったら送水機器を停止することで、大気圧と前記送水ホースの管頂部から下流側の呼び水が流下しようとする位置エネルギーによって湛水部の水を引き込んでサイフォン送水作業を稼働させることが可能となる。また、本発明によれば、サイフォン起動後にも送水機器の送水を併せて行うことで双方の送水能力の相乗効果により、それぞれ単独の機能を上回る送水機能を発揮するものとなる。なお、多条配管のサイフォンを起動させる場合は、この送水機器と送水ホースの接続部の止水性を確保してから送水機器を取り外して、その送水機器で2本目以降のサイフォン送水装置の注水合流部の注水に使用することも可能になる。勿論、送水ホースの配管毎に送水機器を備えたままでも構わない。
【0011】
また、本発明にかかるサイフォン装置及びサイフォン送水方法は、湛水部から揚程管頂部を経て前記湛水部の水面より低い位置に常時開口された吐出口が配設されている断面形状保持可能な材質の送水ホースと、
前記湛水部内に配置され、前記送水ホースに連結されて水を送水する送水機器と、
を備えてなるサイフォン送水装置において、
揚程が概ね7m以上の場合にはサイフォン送水作業における管頂部の負圧による気化現象に伴い生ずる空洞部を発生させないため又は消滅させるための送水機器送水作業を加えることが可能であり、サイフォンと前記送水機器の相乗効果により、サイフォンの理論上の限界揚程高と送水量、及び前記送水機器の限界揚程高と排水量を超えて送水することを特徴とするものであってもよい。
【0012】
サイフォン機能の限界揚程は約7mとされているが、この数値は揚程が約7mを越えると、送水ホース管頂部の内部に負圧による気化現象により気泡が発生し始める。しかし、揚程が大きくなるにつれ気泡の発生は激しくなり、送水ホース内がやがて空洞化して流れが分断される現象が現れて送水作業が停止する。これは、管頂部を境に上流側と下流側にある送水ホース内の水が重力により下がろうとするため管頂部にマイナスのエネルギーが働き、負圧による気化現象を起こしているからである。しかし、この停止した流れの空洞部に送水機器の送水機能により補助的に水を注水することで、空洞部が水で満たされる。これにより、上流側の湛水池から下流側の吐出口までの排水ホース内が水でつながり、管頂部の下流側の吐出口までの間の水が流下しようとするため、この位置エネルギーに引かれて湛水部の水が吸水口に吸い込まれて送水ホース内を流れてサイフォンが作用することとなる。つまり、揚程が7m以上となると管頂部に空洞ができ、見た目にはサイフォン作用が停止しているように見える。しかしながら、サイフォン作用のエネルギーは管頂部の上流側にも下流側にも働き続けているため、管頂部の空洞部が送水機器の補助送水により満たされるとサイフォン作用が働き、サイフォン送水作業が再稼働する。このように、送水機器の補助送水により、サイフォン機能の揚程と送水量のみが向上したのではなく、送水機器の揚程と送水量も向上し、それぞれのエネルギーによる相乗効果が働いて双方の機能が大きく向上したサイフォン送水装置を提供することができる。
【0013】
さらに、本発明にかかるサイフォン装置及びサイフォン送水方法は、サイフォン作用を利用したサイフォン送水装置であり、湛水部から揚程管頂部を経て前記湛水部の水面より低い位置に常時開口された吐出口が配設されている断面形状保持可能な材質の送水ホースと、
前記湛水部内に配置され、前記送水ホースに連結されて水を送水する送水機器と、
を備えてなるサイフォン送水装置において、
揚程が概ね7m以下の場合はサイフォン作用を起動するため前記送水機器を起動して前記送水ホース内へ送水し、前記送水ホース内がほぼ満水の送水状態になったら前記送水機器を停止することで、前記送水ホース内の流れをサイフォンによる送水作業で稼働させることが可能となり、
揚程が概ね7m以上の場合にはサイフォン送水作業における管頂部の負圧による気化現象に伴い生ずる空洞部を発生させないため又は消滅させるための送水機器送水作業を加えることが可能であり、サイフォンと前記送水機器の相乗効果により、サイフォンの理論上の限界揚程高と送水量、及び前記送水機器の限界揚程高と排水量を超えて送水が可能となるため、
揚程7m以上と7m以下を境として前記送水機器の電源のONとOFFにより送水方法を切替え又は併用して送水作業を行うことを特徴とする。
【0014】
このように、本発明にかかるサイフォン送水方法は、揚程が概ね7m以下の場合はサイフォン送水作業を稼働させることが可能となる。こうすることで、電気や燃料を使用しない排水装置として大きな効果を有する。一方で、災害など緊急時等において電気代や燃費等を考慮せず排水量の増大を優先しなければならない場合などは、揚程7m以下の場合であってもサイフォン作用起動後も送水機器を併用して送水作業を行うことで、それぞれ単独の送水作業能力を超えた送水機能を発揮する送水装置とすることができる。
【0015】
他方、揚程が概ね7m以上の場合にも同じ送水装置を使用してサイフォン送水機能発揮中に送水機器による送水を加えることで、サイフォンと送水機器の相乗効果により、サイフォンの理論上の限界揚程高と送水量、及び送水機器の限界揚程高と排水量など、それぞれ単独の送水能力を大きく越えた送水が可能となる。従って、本発明によるサイフォン送水装置によれば、送水機器とサイフォン作用の相乗効果による送水作業を揚程7m以上と7m以下を境として送水機器の電源のONとOFFにより送水方法を状況に応じて切替え又は併用して送水作業を行うことができる。
【0016】
このように、湛水部の水面の上昇や下降の変化に応じて、揚程7m以下であればサイフォン機能だけを活かして排水作業を続けることができるため、燃料の消費や運搬補給の費用が削減できる。これにより、温室効果ガスの排出も削減できることとなる。ただし、大量の排水を優先しなければならない場合などは、状況に応じてサイフォンと送水機器を併用して送水することで相乗効果による大量排水が可能となる。水位が変動し揚程7m以上となった場合でも同じ排水装置をそのまま使用して送水機器機能を併用できる構造としたため、送水機器機能を起動することでサイフォンの機能と併用で連続使用することができる。
【0017】
このように、本発明は、サイフォン機能と送水機器機能とが相乗効果機能で組み合わさったサイフォン送水装置である。かかる装置を使用することによって、同じ能力の送水機器を使用しても、サイフォン排水作用の相乗効果が加わるため限界揚程が高くなり、排水量が増量される。従って、サイフォンの限界揚程7m以上であっても送水することが可能となる。
【0018】
また、本発明にかかるサイフォン送水装置は、湛水部から揚程管頂部を経て前記湛水部の水面より低い位置に常時開口された吐出口が配設されている断面形状保持可能な材質の送水ホースと、
前記湛水部内に配置され、前記送水ホースに連結されて水を送水する送水機器と、
を備え、
前記送水ホースには、前記湛水部からサイフォン作用により水を吸水する前記送水ホースと連結された第1開口部と、前記湛水部に配置された前記送水機器に連結された前記送水ホースと連結された第2開口部と、前記第1開口部と前記第2開口部とから入ってきた水を下流部へ送水する前記送水ホースと連結された第3開口部と、を有している注水合流部材を備えていることを特徴とする。
【0019】
サイフォン送水装置の送水ホースの上流部で注水合流部材を用いて、送水ホースの側面からサイフォンの吸水側の送水ホースを合流させることで、送水機器を停止した場合にサイフォン吸水側の送水ホースから吸水し、注水合流部材を通して下流の送水ホースへ送水し、下流部の吐出口から吐き出す送水作業に切替えることができる。これにより、サイフォン送水に切替えた場合には主としてサイフォン吸水ホース側からの送水となる。このため、注水合流部材を使用しない場合の送水機器の内部にあるスクリューなど複雑な構造の中を通って送水しなくても良いため、送水量を増やすことができる。
【0020】
また、特に揚程7m以上の場合はサイフォン作用と併せて送水機器により送水ホースの管頂部に気化現象を伴う空洞を発生させないために補助送水する作業を行う。この場合に、水頭差が大きいとサイフォンにより吸水され送水機器の中を通過する流量が増大する状況となる。大量の水がサイフォン作用により送水機器内を通過すると、スクリューを回転させるための電流が余ってしまう現象が発生し過電流の現象により送水機器が損傷するなどの原因となる。しかし、本発明の構造は送水機器側とサイフォン吸水側とのそれぞれの通水部を備えている。そのため、サイフォン吸水による流量が増大してもサイフォンの流れは送水機器内を通過することなくサイフォン吸水ホース内を通って送水ホースへと流れることとなる。これにより、送水機器側からの送水量は送水機器の能力による送水の範囲内となり過電流の発生を防ぐことができるという効果がある。
【0021】
また、本発明にかかるサイフォン送水装置において、送水装置の送水ホースに備えられた注水合流部材は上流側の湛水部の水位より低い位置に備えられているものであってもよい。特に揚程管頂部を経た下流側で上流側の湛水池の水位より低い位置で注水合流部材を備えることで第1開口部にサイフォンによる吸水作用が確実に働くため第3開口部から下流方向へ送水する水が確実に流れる。これに送水機器の送水作業を併用することで一層増大した量の送水作業を行うことができることとなる。
【0022】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記注水合流部材において前記第1開口部からの水の流れと、前記第2開口部からの水の流れとの合流部に、流れの方向を切替えるため、それぞれの水流の水圧により押されて相手方の通水部を塞ぐ切替弁を備えていることを特徴とするものであってもよい。かかる構成を採用することによって、第1開口部からの水の流れと、第2開口部からの水の流れを水流によって切替えることが可能になる。
【0023】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記注水合流部材は、切替弁が水流により押されて移動し流れの方向を切替える作業において、前記第1開口部又は前記第2開口部が全開しないように前記切替弁の移動範囲を限定するため前記切替弁を制止する切替弁移動制止部材が設けられていることを特徴とするものであってもよい。
【0024】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前述した切替弁とともに、又は切替弁に代えて、前記第1開口部からのサイフォンによる水の流れと、前記第2開口部からの送水機器からの水の流れの方向を切替えるため、前記第1開口部及び前記第2開口部に開口部用逆止弁を備えているものであってもよい。つまり、送水機器による送水の場合はその水圧により第2開口部に設けた開口部用逆止弁が開き、第1開口部に設けた開口部用逆止弁は閉じている。そして、送水機器を停止すると第2開口部に設けた開口部用逆止弁への水圧が消滅し逆止弁は閉じて、これに合わせて第1開口部からサイフォンにより吸水する作用により第1開口部に設けた開口部用逆止弁が水圧により開いてサイフォン送水作業を続けることとなる。つまり、前述の切替弁の効果と同様の効果を有するものとなる。
【0025】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記注水合流部材には、前記第1開口部、前記第2開口部、前記第3開口部のいずれか1ヶ所以上に水の流れの方向を切替えるための開口部用開閉部材を備えていることを特徴とするものであってもよい。この構造とすることで揚程管頂部の下流側で注水合流部材を備えた場合でも、第3開口部の開閉装置を閉じることで第2開口部から注水された水を第1開口部を通してサイフォン吸水側の送水ホースに送水してサイフォン送水ホース内を満水状態にすることができる。この状態で第1開口部の開閉装置を閉じ、同時に第3開口部の開閉装置を開いて送水機器により送水ホース内へ送水を行う。送水ホース内が満水状態で流れるようになったら送水機器を停止して第1開口部の開閉装置を開くことでサイフォン吸水側のサイフォン送水ホース内の水が上流側の湛水池の水を吸い込む呼び水として作用することとなる。この作業は特に第3開口部と連結した送水ホースの延長が、第1開口部に連結されたサイフォン吸水ホースの全長の2倍以上の長さがない場合に効果を発揮する。
【0026】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記注水合流部材の配置位置が湛水部の水位より低い個所に備えられた場合は第3開口部に連結される送水ホースは柔軟なホースであることを特徴とするものであってもよい。注水合流部材の配置位置が湛水部の水位より低い個所に備えられた場合は第3開口部に連結される送水ホースは柔軟なホースであっても、湛水池から第1開口部までのサイフォン作用により流れる水が柔軟なホース内を流れることとなり排水作業が持続することとなる。また、第1開口部に連結されたサイフォン吸水用の送水ホース内にサイフォン作用を起動させた後も、送水機器により引き続いて送水作業を併用する場合、第3開口部に連結された柔軟な送水ホース内は送水機器の送水機能により満タン状態で水が流れる。この際、第1開口部に連結されたサイフォン吸水ホース内の水は第2開口部の水流により第3開口部に吸い込まれるため送水量が増大することとなる。
【0027】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記送水ホースは、少なくともその一部が1又は2部材以上の柔軟な送水ホースで作製され、前記送水機器と前記注水合流部材の間に連結して備えられていることを特徴とするものであってもよい。前記送水機器からの注水が停止した後は前記柔軟な送水ホースが大気圧に押されて収縮し通水部を閉鎖し、前記空気押出部材は、前記柔軟な送水ホース内に保持されており、前記送水機器からの水圧により下流へ押し出された後、前記送水機器からの注水が停止した後は前記送水ホースが大気圧に押されて収縮し通水部を閉鎖することができる。
【0028】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記注水合流部材は、前記送水機器の送水口に直接連結されて設けられたものであってもよい。送水機器の送水口に注水合流部材を直接取り付けることで、送水機器を湛水部の水中に浸漬した時点でサイフォン側の送水ホース部も水中に浸漬されるため、サイフォン吸水部ホース内に空気が残留することがなくなる。そのため、送水機器での送水ホース内への呼び水の送水を停止すると、送水ホースの管頂部から下流側の呼び水が流下するエネルギーでサイフォン吸水側の送水ホース内の空気を引っ張るという過程が省略でき、送水機器を停止した時点でそのままサイフォン吸水ホース内が満水状態となっているため、そのままサイフォン作用が起動することとなる。
【0029】
さらに、本発明にかかるサイフォン装置において、前記注水合流部材のサイフォン吸水側に前記送水ホースが連結されていないことを特徴とするものであってもよい。前述と同様に注水合流部材の第1開口部に吸水用の送水ホースが連結されていないため、送水機器を湛水部の水中に浸漬した際に注水合流部材も同様に水中に浸漬される。そのため、送水機器を停止すると、注水合流部材の第1開口部からサイフォン作用により直接に湛水部の水を吸い始めて送水ホースへ流す作用が始まってサイフォン作用が起動することができ、サイフォン吸水ホース内の空気を下流部へ吐出する工程が省略できることとなる。
【0030】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記サイフォン送水装置は、管頂部より下流側において上流部の前記湛水部の水位以下の位置で前記送水ホース内の流れる水を滞留させるための気化量調節用バルブ又は気化調整開閉装置を連結したことを特徴とするものであってもよい。サイフォン作用が起動すると、送水ホース内に発生する負圧に加えて外圧となる大気圧が起因となり送水ホースが潰れたり、亀裂等が発生したりするのを防ぐために、サイフォン排水装置の管頂部より下流側で湛水部の水位より低い位置で送水ホースに連結して気化量調節用バルブを配置するものである。このように、サイフォン作用が起動した後に送水ホース内に発生する負圧に伴う気化現象の発生量を調節することで送水ホースの潰れや亀裂などの損傷を防ぐことができる。管頂部の下流側の排水用の送水ホースの敷設勾配が急な場合の流れは特に斜流となって送水ホースの内断面の底の部分しか水が流れない。つまり、送水ホース内は水ではなく負圧で気化した気体が殆どなって流れることとなる。これに加え送水ホースは外圧である大気圧により潰されて通水断面が閉塞され、それに伴い生じた亀裂箇所から送水ホース内へ空気が吸入されてサイフォン現象が停止することとなる。サイフォン送水装置の気化量調節用バルブの遮閉面積を送水ホース内断面の上部分を占める気化した気体の断面積より徐々に大きくすることで送水ホースの底部を流れる水の一部を一時的に滞留させることができる。これにより気化量調節用バルブから上流側の管頂部までの間で徐々に滞留量を増やして管頂部まで送水ホース内が満水状態で流れるようにする。これにより斜流の発生を防ぐと供に気化現象も殆どなくすことができる。送水ホース内で気化した気体をなくして全断面を水の流れにすることで大気圧の外圧の影響を減少して送水ホースの損傷を防ぐことができる。気化量調節用バルブの目的は一般的に言われる流量調節のための開閉装置ではなく、急勾配の送水ホースに発生する斜流現象は流速が著しく速いため送水ホースの通水断面の上から3分の2以上閉塞しても送水ホース内断面の上部と中部を占める気体部分を閉めることとなり流量にあまり影響しない。気化量調節用バルブの調整弁を下げて送水ホース底部の水の流れの上部の一部に調節弁を到達させて流れる水の一部を気化量調節用バルブの上流部に滞留させ徐々に管頂部まで満水状態を到達させるだけなので、排水ホースの排出口から放水される流量は、緩勾配の送水ホース内断面を満水で流している状態と殆ど変わらない大容量の流量であることが大きな特徴である。
【0031】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記気化調整用開閉装置はゲート部と、ゲート部及びゲート部のスライド用空間を含めて上下左右を囲む囲み込み部、ゲート部を上下流側から挟み込む挟持板には、流水用孔と流水用孔の周囲に複数の孔を備えてフランジが形成された一対の挟持板と、ゲート部を囲み込み部と挟持板内で上下させる上下移動用ボルトと、を備えていることを特徴とするものであってもよい。かかる構造としたことによって、気化調整開閉装置と送水ホースとを連結する際に気化調整開閉装置に設けたフランジの孔と、送水ホース側の端部に備えたフランジ部材に備えた孔とを合せてボルトナットで堅固に固定することができる。挟持板のフランジ部はゲートの上下流側を挟む挟持板の端部を延伸して孔を設け、上流部と下流部で配管に接続するためのフランジ部を兼ねる構造としたことにより、従来は別に備えていた配管接続用のフランジ部を省略することができ、全体として扁平型となったことで軽量化を達成することができる。
【0032】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記送水ホースの吸水口に吸水部材を連結し、前記吸水部材には少なくとも1つ以上の給水部材開閉弁と、前記給水部材開閉弁に連結されたフロートとを備えていることを特徴とするものであってもよい。これは吸水口にフロート付開閉弁を設け湛水部の水位が一定以下に下がらないように自動的に排水量を制限して水位調節が可能なフロート付開閉弁を設けたものである。即ち、水位が下がるとフロートが下降し連動する開閉弁が閉じて吸水口を塞ぐ。また水位が上がるとフロートが上昇し開閉弁を開口するため吸水口が開くような構成を採用することができる。水位の低下と同時に開閉弁が閉まり、再び水位が上昇するとフロートが上昇し開閉弁を開くことができる。
【0033】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記給水部材開閉弁は、開く時には前記給水部材開閉弁の前記吸水部材への取付部を軸として前記吸水部材の内側に回動することを特徴とするものであってもよい。これにより、湛水部の水位が上昇して開閉弁を開く必要がある場合には、開閉弁は吸水部材の内側へ流れに沿って開く構造となっているため、サイフォンの吸い込もうとする負の水圧と、湛水部の水深の水圧とが重なって開閉弁を開く作用が働くこととなる。そのため、開閉弁を開くためのフロートを小さくすることができる。
【0034】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記吸水部材の容器内に、送水装置の吸水孔及び送水ホースの吸水口の少なくともいずれか若しくは両方が配置されていることを特徴とするものであってもよい。
【0035】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記送水機器は、サイフォン作用を働かせる前記送水ホースの吸水口が配置される湛水部とは異なる吸水部に配置されていることを特徴とするものであってもよい。
【0036】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記送水機器と前記送水ホースとの連結は、一方は各種フランジのボルト用孔に合う複数の切欠部を設けたフランジを備え、他方は既定のボルト用孔を備えた連結部材を使用することを特徴とするものであってもよい。
【0037】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記送水ホース内に送出されて、前記送水ホース内の残留空気を押し出すために少なくとも1つ以上の空気押出部材又は空気押出部材を送出する空気押出部材送出部を備えていることを特徴とするものであってもよい。前記送水ホース内に挿入されて、前記送水ホース内の残留空気を押し出すための少なくとも1つ以上の空気押出部材を備えるか、空気押出部材送出部を備えることで送水能力を高めることができる。つまり、起伏の大きな地盤に送水ホースを敷設するに際しては、配管勾配を一定にすることが不可能で、地形の起伏形状に応じて配管するため、配管の高い位置に空気が残留する現象が発生する。この場合空気は水圧により圧縮されて送水ホースの通水断面を狭くするため送水量が減少する原因となっていた。この残留空気を下流側の吐出口から排出するため、空気押出部材を送水ホース内の水の水圧で下流側へ押し流すことで、空気押出部材が通過した上流側の送水ホース内は満水状態となり、下流側は残留空気を受け止めて溜めながら下流方向へ押して行き、最終的に吐出口から空気を排出して、送水ホースの内断面を満水又は満水に近い断面で水が流れるようにすることで、送水量を増大させることができる。
【0038】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記空気押出部材は、前記送水ホース内に挿入、又は送出される以前は前記送水ホース内断面より大きく、空気押出部材送出部、前記注水合流部材又は前記送水ホース内のいずれかに挿入、又は送出された時点で前記送水ホースの内断面と同一又は内断面より若干小さい断面形状を有することを特徴とするものであってもよい。
【0039】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記送水ホースには前記空気押出部材送出部又は前記注水合流部材には、前記空気押出部材を保持するための保持部材を備えていることを特徴とするものであっても良い。かかる構成を採用することによって、任意の時点で空気押出部材を送出することができる。
【0040】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、前記送水ホースは、少なくともその一部が1又は2部材以上の柔軟な送水ホースで作製され、かつ前記送水機器と前記注水合流部材の間に連結して備えられていることを特徴とするものであってもよい。かかる構成を採用することにより、前記送水機器からの注水が停止した後は前記送水ホースが大気圧に押されて収縮し通水部を閉鎖し、前記空気押出部材は、前記柔軟な送水ホース内に保持されており、送水機器からの水圧により下流へ押し出され、前記送水機器からの注水が停止した後は前記送水ホースが大気圧に押されて収縮し通水部を閉鎖することを特徴とするものであってもよい。この現象により通常は送水機器を停止すると送水ホース内の水が送水機器側へ逆流してくるため緊急停止ができなかった課題と、逆流した水が送水機器に衝撃を与えるため送水機器の故障に繋がるウォーターハンマー現象を解決することができる。
【0041】
さらに、本発明にかかるサイフォン送水装置において、空気押出部材を送出する場合、送水機器の送水口の口径は下流部へ送水する送水ホース、又は送水ホースとサイフォン吸水側の送水ホースの口径以下であってもよい。空気押出部材を使用して送水作業を起動する場合、送水機器の口径が送水ホースの口径より小さくても、送水機器の機能が必要な揚程まで汲み上げる能力があれば、空気押出部材の後ろ側に溜まって流れる水によって生じる水圧が徐々に増大するため、空気押出部材をゆっくりではあるが確実に下流側の吐出口の方向へ押し流すことができる。これにより、空気押出部材の下流側の送水ホース内に残留している空気は、空気押出部材の移動とともに順次吐出口方向に押されて移動し、やがて吐出口から吐き出されることで送水ホース内は満水状態に近づき流下することとなる。揚程が7m以下の場合はこの時点で送水機器を停止すると送水機器の口径より大きな送水ホースのサイフォン吸水ホース側からの吸水が始まり、送水ホースの下流側の吐き出し口へ排水しサイフォン作用が起動することとなる。また、揚程が7m以下の場合はサイフォンを稼働し続けることで、湛水部の水位が低下し、揚程が7m以上になった場合は送水機器を併用することで送水作業は持続することとなる。
【0042】
また、本実施形態にかかるサイフォン装置において、前記第1開口部には、湛水部に配置されるサイフォン吸水するための第1送水ホースを備え、
前記第1送水ホースの先端には排砂用吸水部材が備えられており、
前記排砂用吸水部材は水と土砂を併せて吸水するための主吸水部と、水だけを吸水する補助吸水部とからなり、
主吸水部の吸水口が砂内に埋もれて土砂を大量に吸水した場合に流動性をなくした土砂が前記第1送水ホース内に詰まることでサイフォン機能を停止させることを防止するため、前記主吸水部から吸い込む土砂に、補助吸水部から吸水した水を加えて混合し、吸水した土砂の割合を少なくして流動性を高めることで、前記送水ホース内が土砂で詰まることを防止することを可能としたことを特徴とするものであってもよい。
【0043】
さらに、本実施形態にかかるサイフォン装置において、前記補助吸水部には、給水部を遠隔部に配置するための補助吸水部延長部材を有することを特徴とするものであってもよい。
【0044】
さらに、本発明は、上述した送出装置を使用した送水方法を提供する。
【0045】
さらに、本発明は、上述したサイフォン装置を使用したサイフォン送水方法において、豪雨などによりため池など湛水池の水が増水することにより堤体が決壊するのを防止するための工法に使用するものであり、台風などの接近が予想される場合に、前記サイフォン送水装置を使用して湛水池の水位を下げることで、豪雨の際に湛水池が受け入れる水量を増やして堤体の決壊を防ぐことを特徴としたため池等の湛水池のサイフォン送水方法を提供する。
【0046】
かかるサイフォン装置の送水方法は、サイフォン送水装置を湛水池の維持管理方法として使用するという特徴を有する。ため池の従来の管理方法を例に挙げて説明すると、ため池の構造は堤体により湛水部に流入する水を堰き止めて湛水池を形成し、溜まった水の管理方法として、縦樋と底樋が設けられ、併せて堤体の一部に堤体天端より低い位置に高水吐きと高水吐き水路が設けられている。縦樋には任意の高さに水を溜めたり抜いたりするために段階的に水抜き用の孔が設けられ、この孔の開閉用に開閉弁または栓が備えられている(以下開閉弁と称する)。
【0047】
ため池の管理人は湛水池の水位を段階的な高さ単位でしか選べないが、任意の高さに調節するため、この開閉弁を操作することとなっているが、水位が上下するタイミングで、その都度段階的に設けられた開閉弁を水位が任意の高さになるまで順次操作し続けなければならないので、常時数人が湛水池に張り付かなければならなかった。農業用水が乏しい地域では、常時水をため池に出来るだけ蓄えて満水状態にするという習慣がある。このため降雨による増水で水位が高水吐きに達すると、その部分から余分な水だけを排水し水位を一定に保とうとするものであった。
【0048】
湛水池へ流入する大量の水を高水吐きの断面の大きさの範囲で排水することで湛水池の水位が一定に保てるうちは良いが、予想もつかない豪雨が発生した場合は、流入する一旦水(一時的に大量に流入する水)を受け留めることができないため高水吐きからも溢れ出ることとなる。この水が堤体を洗掘するため、ため池の決壊につながることとなる。
【0049】
縦樋の開閉弁を開こうとしても手の届かない水中にあったり、老朽化や故障などの原因で開く事が出来ず、水中ポンプによる排水作業も試みられたが、稼働のための燃費や電気代が膨大となることが課題であった。
【0050】
そこで、この膨大な燃費や電気代の消費の課題を解決するため、サイフォン式の排水装置も考案されたが、従来のサイフォン排水装置は排水管が堤体を跨いで設置され、その構成は排水管の上流端の吸水口と下流端の吐出し口と排水管の管頂部に注水口が設けられたもので、起動時の操作手順としては、1.サイフォン排水装置の吸水口と吐出口に設けた開閉弁を閉じた後、2.排水管の管頂部に設けた注水口から水中ポンプ等を使用して排水管内を満水状態として、3.満水状態となったら注水口の開口部を閉じ、4.その後吸水口と吐出口の開閉弁を開く作業を行なうとサイフォン作用が起動する装置であった。ところが、この吸水口や吐出し口に設けた開閉弁を操作するには、その位置まで人が寄り付かなければならないため、特に吸水口は水中に設置してあるため人が寄り付くことが危険であり困難であった。また、管頂部の注水口へ水中ポンプから延長する送水ホース等を設置する作業も多人数を要することとなった。
【0051】
本願のサイフォン排水装置は吸水口、吐出口に開閉弁を備えないため、これら人による操作は必要としないのである。また排水管内への注水は管頂部を含み上流側の任意の位置で注水合流部材を設置して実施するため、水中ポンプの電源を入れるだけの操作で排水管内が満水状態で流れるようになり、続いて水中ポンプの電源を切る操作でサイフォン作用を簡単に起動することが可能となった。多人数を必要とせず1人の作業員のスイッチON、OFFだけでサイフォン作用を起動して湛水池の水位を下げることが可能となった。
【0052】
また、サイフォン作用は湛水池の水位以下の高さであれば任意の位置に吐出し口を設定することで、排水作業により湛水池の水位をその吐出し口の高さまで下げる調節も可能となった。このサイフォン作用の特徴により湛水池の任意の高さの水位より下がらず一定に保つことができるが、その状態でサイフォン排水管内は満水状態であるため、湛水池が水の流入により水位が上昇した場合は再びサイフォン作用が起動して排水を始め、水位を任意の高さまで下げる作業を行ない再び一定の高さに保つことを可能にした特徴を備えた。これにより、豪雨が予想される場合は予め水位を任意の高さまで下げることにより、受け入れ量が増大するため、安心して台風を迎えることができることとなった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1図1は、第1実施形態にかかるサイフォン送水装置100の構成の概略を示す側面図である。
図2図2A図2Bは、第1実施形態にかかるサイフォン送水装置100の機能を説明するための説明図である。
図3図3は、第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100の構成の概略を示す側面図である。
図4図4は、第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100の注水合流部材30の形態を示す模式図である。
図5図5は、第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100の注水合流部材30に切替弁移動制止部材35bを取り付けた形態を示す模式図である。
図6図6は、第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100の注水合流部材30に開口部用逆止弁35aを取り付けた形態を示す模式図である。
図7図7は、第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100において、柔軟な送水ホース25を表す図である。
図8図8は、第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100において、柔軟な送水ホース25を使用した場合の閉塞状態を表す図である。
図9図9は、第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100における注水合流部材30の配置方法の別実施形態を示す図である。
図10図10は、第3実施形態にかかるサイフォン送水装置100の起動方法を示す模式図及び気化量調節用バルブの配置図である。
図11図11は、第3実施形態にかかるサイフォン送水装置100において、気化調整開閉装置41を使用した状態を示す模式図である。
図12図12は、気化調整開閉装置41を示す図である。
図13図13は、送水ホース10に空気が残留する状態を示す模式図である。
図14図14は、第4実施形態にかかるサイフォン送水装置100に空気押出部材50を送出する状態を示した模式図である。
図15図15は、空気押出部材送出部60の構成を示す模式図である。
図16図16は、吸水口の別実施形態を示す模式図である。
図17図17は、吸水部材115の固定状態を示す模式図である。
図18図18は、本実施形態にかかるサイフォン送水装置100の吸水部材の別実施形態を示す模式図である。
図19図19は、本実施形態にかかるサイフォン送水装置100のさらなる別実施形態を示す模式図である。
図20図20は、本実施形態にかかるサイフォン送水装置100のさらなる別実施形態を示す模式図である。
図21図21は、連結部材111の別実施形態を示す模式図である。
図22図22は、サイフォン排砂装置の排砂用吸水部材130を表す図である。
図23図23は、サイフォン排砂装置の排砂用吸水部材130の別実施形態を表す図である。
図24図24は、本実施例の排水量について理論値と実測値の比較をした表である。
図25図25は、図24をグラフ化したものである。
図26図26は、サイフォン限界揚程高と頂部圧力と排水量の測定実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
上記、本発明のサイフォン送水装置100及びこのサイフォン送水装置100を使用した送水方法の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではない。なお、揚程7m以下及び揚程7mを超えた場合のみのサイフォン送水装置100は、第1実施形態において揚程7mを超えた場合及び揚程7m以下とを切替え可能なサイフォン装置の揚程7m以下又は揚程7mを超えた場合のいずれかの場合と同様の機能であるので、第1実施形態の説明によって、それぞれのサイフォン送水装置100の説明に代える。
【0055】
(第1実施形態)
第1実施形態にかかるサイフォン送水装置100が図1に示されている。図1は、第1実施形態にかかるサイフォン送水装置100の構成の概略を示す図である。第1実施形態にかかるサイフォン送水装置100は、主として、送水ホース10と、送水ホース10の管頂部10bに発生する負圧による気化現象を防止するための水を供給する送水機器20と、を備えている。送水ホース10は、容易に断面形状が変形することがない硬質のホースが使用される。硬質な素材を使用したホースの例としては、一般的に言われるサクションホース、硬質ポリエチレンや塩化ビニール等のホースが挙げられる。
【0056】
第1実施形態にかかるサイフォン送水装置100は、上流域又は高水域であるプール、池、沼、河等の湛水部90に送水機器20が配置されており、送水ホース10の吐出口10aは、サイフォン作用を発揮することができるように、湛水部90の水位90aより低い位置に設置されている。送水ホース10は、吐出口10aに開閉装置が設けられておらず常に開口状態にある。
【0057】
次に、本発明にかかるサイフォン送水装置100の機能について説明する。図2Aに示すように、送水機器20が湛水部90側に配置され、送水ホース10は、障害物1を乗越えて設置され、吐出口10aは、送水機器20の送水機器吸水口20aの位置よりやや高い水位90aの水位以下の位置に障害物1を挟んで湛水部90の反対側に配置されている。湛水部90の水位は90b、90c、90dの間を変動する。水位90dは障害物1となる湛水部90の壁の天端で最高水位を表す。送水機器20を稼動して送水ホース10内へ注水して送水ホース10内が満水状態で吐出口10aから水が流れ始めたら送水機器20の電源を停止して送水機器20による送水を停止する。この作業により送水機器20の送水機器吸水口20aから湛水部90の水が送水機器20内へ吸い込まれ、送水ホース10内を通って吐出口10aに移動する。いわゆるサイフォンによる送水作業が起動することとなる。しかし、従来からサイフォン作用には揚程7mが限界とされてきたため、その範囲内で使用され送水計画が立案されてきた経緯がある。図2Bに示すように、水位90cから水位90dまでの間は水位差が約7mであるため、この水位の間でなければサイフォン作用は働かないとされてきたのである。なぜ7mが揚程の限界とされてきたかというと、サイフォン送水作業により湛水部90の水位が低下し続けると、徐々に揚程が大きくなり7mに近づくこととなる。7mを越え、例えば水位90dとなると管頂部10b付近の送水ホース10内に負圧現象に伴う気化現象が発生し、管頂部10b内が空洞化して水が送水ホース10内で分断され流れなくなる現象が起こる。このため、揚程約7mがサイフォンによる送水作業における限界値とされてきたのである。
【0058】
これに対して、本発明者はサイフォン送水装置100における揚程の限界高さの課題を大きく向上させることに成功した。それは前述したように管頂部10b内に負圧による気化現象が発生し空洞化して水が分断され、見た目には送水が停止していても、図2Bで示すように、サイフォン送水作用を起こそうとするエネルギー、つまり空洞部10cの負圧エネルギーと、送水ホース10内の空洞部10cの下流側の水の重力により吐出口10aへ流下しようとする水の位置エネルギー、及び大気圧により、湛水部90の水を送水機器20の送水機器吸水口20aから送水ホース10内へ吸い込もうとするエネルギーとして送水ホース10内に蓄えられている。この状態では、管頂部10bで負圧により分断された水が流下しようとするエネルギーと負圧により空洞化して水の流下を止めているエネルギーのバランスが均衡を保っているところへ、送水機器20の送水エネルギーにより水を押し上げてやることで、均衡を保つバランスが崩れて空洞部10cが消滅し送水ホース10内が水で繋がることで、仮に湛水部90の水位が低下してサイフォンの限界揚程7mを越え、例えば揚程が20m以上と高くなってもサイフォン作用も送水機器20の送水作業も働き続けることを実験により確認した。つまり、図1に示すように、サイフォン送水機能と送水機器20の送水機能とを組み合わせることによって、サイフォンのみ又は送水機器のみの限界揚程や排水量などの数値を大きく越えることを見出した。例えば、送水機器20としてKRS2-8S(株式会社鶴見製作所製)を使用した場合、メーカー公表値の排水量は、限界となる揚程18mで0m/min。揚程16mで1.2m/minであるが、実験により現地で送水機器のみを使用した実際の排水量を計測した結果は、このメーカー公表値とは大きく下回り揚程16mで0.44m/minの排水量でしかなかった(図24中のエ)。当然この排水量では送水ホース10内を満水状態にして流すことはできないためサイフォンを起動することは不可能であった。この同じ配管状況で後述する空気押出部材を使用してサイフォン作用を起動させ、送水機器20による送水と併せることで送水能力は、3.9m/minの送水を計測したことを確認し、揚程20mとなっても排水量が2.5m/minと、送水機器20だけ、或いはサイフォンだけの単独技術だけでは到底成し得ない送水機能を発揮するのを確認した(図24図26参照)。すなわち、送水機器20とサイフォン作用を併せた送水によりサイフォン機能のみが向上したのではなく、送水機器20の機能もサイフォンの送水機能により向上しているのである。なぜなら、送水機器メーカーの公表している排水量は揚程16mで1.2m/minであるため、揚程16mの実験で確認した排水量3.9m/minから送水機器20の公表排水量1.2m/minを除くと残りの2.7m/minはサイフォンによる送水量と考えられるからである。また、送水作業中には送水機器20にかかる電流を計測し続けた。この結果、送水ホース10を使用してサイフォンによる送水現象が合わさっても送水機器20に過電流の現象が発生することはなかった。つまり送水機器20は安定した機能の範囲で稼働し続けることができていることも確認できた。これらの作業により、送水機器20の送水によりサイフォン機能を持続させるためのサイフォン送水との相乗効果が表れる補助送水エネルギーとして送水機器20による送水を併用して、送水ホース管頂部10bに空洞部10cが発生するのを防ぐことでサイフォン作用が続くことを見出した。
【0059】
送水機器20はメーカー公表限界揚程高より大きくなると送水不能となり、サイフォンの場合も限界揚程7mを超えるとやがて停止する。しかし本技術のようにサイフォンに送水機器20を加えて併用すると、送水機器20によりサイフォン作用の管頂部10bに発生する空洞部に水が充填されるため、送水ホース10内が水で繋がることとなる。この作用によりサイフォン作用に気化現象による空洞部が発生しなくなるためサイフォン作用が持続することとなる。今回開発したサイフォン送水装置100により排水計画を立てる場合は、排水作業開始時点の水位の高さにより起動方法を2種類に分ける。つまり、1.湛水部90の水位が低く天然ダム等の天端を超えるのに送水機器メーカー公表の限界揚程に近く送水機器20の送水量ではサイフォン作用を起動させるには少なすぎる場合は、空気押出部材50を送水ホース10内へ送出することで、前述したように送水ホース10内の流量を満水にするとともにサイフォン作用と送水機器20による送水を併用して排水作業を行うことでサイフォンや送水機器20の機能以上の排水作業が可能となる。また、2.湛水部90の水位が高く揚程が7m以下の場合は送水機器20を起動し送水ホース10内へ空気押出部材50を送出し、送水ホース10が満水状態で流下し始めたら送水機器20を停止してサイフォン作業だけに切替え排水作業を稼働することで燃費や維持管理のコストが大幅に削減できる。1,2いずれの場合も、送水機器20による送水とサイフォン送水を送水機器20の電源だけで切替えたり併用させたりすることが可能となる後述する注水合流部材30を使用するとよい。また、送水ホース10内で通水断面を狭めている残留空気を吐出口10aに押し出す空気押出部材50を使用し、サイフォン作用と従来の送水機器20の機能を併用することで、従来の排水限界揚程と排水量が大きく向上するサイフォン送水装置100を提供できる。
【0060】
以上のように作製されたサイフォン送水装置100は、以下のようにして起動される。第1実施形態にかかるサイフォン送水装置100は、送水ホース10内の空気を一気に押し出す程の送水量を備えている送水機器20が使用される。好ましくは、送水機器20の送水口径は、送水ホース10の口径より大きな口径であるとよい。そして、送水機器20によって、送水ホース10に勢いよく注水され、低地域側に流下する。この状態をしばらく続けると吐出口10aから水が排出されながら送水ホース10内の残留空気を吐出口10aから吐出することで、水が流れた状態のままの送水ホース10内の満水状態が維持される。最初、吐出口10aを噴出してくる水は空気と混じって白い水が吐出されてくるが、送水ホース10内の空気が吐出され満水状態になると透明な水に変化してくる。すると、送水ホース10内に自動的に水が流入するサイフォン作用が起動し始めることとなる。そして、送水ホース10内の空気等が完全に吐出口10aから排出された時点で高水位域の湛水部90の水と低地域に敷設された送水ホース10の吐出口10aとの間の送水ホース10内が満水状態で繋がり完全にサイフォン作用の稼働状態が維持されることになる。
【0061】
以上のように構成されたサイフォン送水装置100によれば、揚程が7m以下の場合には、一旦準備が整いサイフォン作用により水を高水位の湛水部90から低地域に排水できるようになれば、その後は電力を必要とすることなく、サイフォン作用により湛水部90の水を吐出口10aに送り続けることができる。揚程が7mを越えるような場合でも送水機器20と併用することで送水を維持することができる。
【0062】
以上のサイフォン送水装置100によれば、送水機器20による送水機能と、サイフォンによる送水機能との両方の機能を有するものとすることができる。このようなサイフォン送水装置100を使用することによって、同じ機能の送水機器20を使用しても、サイフォン排水作業とエネルギーが併せられるため相乗効果により排水量が増量され、揚程も限界揚程を大きく越えて送水作業を行うことができる。すなわち、サイフォン機能と送水機器20の送水機能の両方を向上させることができる。
【0063】
(第2実施形態)
第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100が図3に示されている。図3は、第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100の構成の概略を示す側面図である。第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100は、主として、送水ホース10と、送水ホース10の途中に設けられた注水合流部材30と、を備えている。送水ホース10は、先端が開口されていてサイフォンの機能によって水を吸引する第1送水ホース11、送水機器20と連結された第2送水ホース12及び吐出口10aを有する第3送水ホース13を備えている。第1送水ホース11及び先端に送水機器20と連結した第2送水ホース12は湛水部90内に配置され、第3送水ホース13の送水ホース10の吐出口10aは、湛水部90の水面よりも低い位置で障害物1となる堤防の外側に配置されている。
【0064】
注水合流部材30は、図4に示すように、第1送水ホース11、第2送水ホース12及び第3送水ホース13とそれぞれ連結される第1開口部31、第2開口部32及び第3開口部33とを備えている。注水合流部材30は、第1開口部31と第2開口部32の水路が鋭角となるような略Y字状に形成されている。注水合流部材30のそれぞれの開口部(31~33)の端部は連結機能、例えばフランジ等を備えており、送水ホース10と容易かつ堅固に連結することができる。
【0065】
第1開口部31と第2開口部32との合流点の内側には切替弁35を備えている。この合流点に備えた切替弁35の構造により第1開口部31側からの水の流れを第2開口部32側へ流れ込むことを防止したり、第2開口部32側からの流れを第1開口部31側へ流れ込むことを防止する効果がある。特に第3開口部33に連結された下流側への送水ホース10の延長が長い場合や、送水ホース10が屈曲して流れに抵抗が生じた場合などは、その抵抗により流れが停滞する現象が発生するとともに別のルートに水が流れようとするためこれを防止し下流側の吐出口10aに水を流すことができる。また、サイフォンと送水機器20の両方の機能を併用して送水する場合、切替弁35は合流箇所において双方の中間でそれぞれの流量に応じた割合の開口面積を保持されることになる。
【0066】
切替弁35には、図5に示すように、内部に備えた流れの方向を切替えるための切替弁35が流れにより押されて移動することで、どちらか一方の流路が全開しないように切替弁の移動範囲の途中で切替弁35の移動を制止するための切替弁移動制止部材35bが設けられていてもよい。切替弁移動制止部材35bは、切替弁35と当接するように、注水合流部材30内にボルトが突き出して形成されており、複数箇所設けて置くことによって、ボルトの突き出し具合を調整することによって、切替弁35の移動制止位置を調整することができる。
【0067】
第1開口部31又は第2開口部32からの水の流入の切替え方法については、上述した切替弁35の他に、以下の方法も考えられる。
【0068】
(1)例えば、図6に示すように、第1開口部31と第2開口部32の端部に別途開閉機能を有する開口部用逆止弁35aを設けても良い。開口部用逆止弁35aを開閉することによって第2開口部32からの水の流れを第1開口部31の方向に流れるのを防止して第3開口部33の方向に流し、送水ホース10内が満水状態で流れるようになったら送水機器20を停止すると第1開口部31からのサイフォンの流れに変更することができる。
【0069】
(2)また、図7Aに示すように、送水機器20と第2開口部32との間にサニーホースなどの柔軟な送水ホース25を1本以上配置してもよい。これにより、1本の場合は送水機器20により送水ホース10内へ注水が完了して送水機器20を停止した場合、柔軟な送水ホース25が大気圧と送水ホース25内の水の移動により押し締められて水を通さないため、送水機器20に繋がる第2送水ホース12側内も、下流側の吐出口10a側に繋がる送水ホース10側へも水が流れない状態となる。しかし、送水ホース10内の水が吐出口方向へ移動しようとするエネルギーは存在するため、これに引かれて遮断されていない状態である通水可能な第1送水ホース11側でサイフォン吸水作用が働くこととなる。また、柔軟な送水ホース25を2本以上連続して配置した場合は、図7Bに示すように、送水機器20により送水ホース10内へ注水が完了して送水機器20を停止した場合に、連結した2本以上の柔軟な送水ホース25の相互の連結部を切り離しても、連結を切り離した柔軟な送水ホース25の相方が大気圧と送水ホース25内の水の移動により押し締められて空気を通さないため、一方は送水機器20に繋がる第2送水ホース12側内へ、他方は下流側吐出口側に繋がる送水ホース10内へ空気が入らない状態で切り離すことができる。このように柔軟な送水ホース25を配置することによって、図8に示すように、送水機器20の送水を止めると柔軟な送水ホース25の内部の負の水圧と外部の気圧との圧力差により、柔軟な送水ホース25の断面が萎んで閉塞状態とすることができる。これにより、第2開口部32側から第1開口部31側への流れに変更することができる。
【0070】
また、注水合流部材30の配置のバリエーションとして、図9Aに示すように、注水合流部材30を送水機器20に直接連結して設けてもよい。送水機器20に注水合流部材30を直接取り付けることで、送水機器20を湛水部90の水中に浸漬した時点でサイフォン側の第1送水ホース11も水中に浸漬されるため、サイフォン側の第1送水ホース11内に空気が残留する可能性を低減することができる。そのため、送水機器20での第3送水ホース13内への呼び水の送水を停止すると、呼び水が流下するエネルギーでサイフォン側の第1送水ホース11内の空気を引っ張るという過程が省略できる。
【0071】
さらに、図9Bに示すように、注水合流部材30のサイフォン吸水側となる第1開口部31に第1送水ホース11が連結されていないものであってもよい。前述と同様に注水合流部材30の第1開口部31にサイフォン側の第1送水ホース11が連結されていないため、送水機器20を湛水部90の水中に浸漬した際に注水合流部材30も同様に水中に浸漬されるため、送水機器20を停止すると直接、湛水部90の水を注水合流部材30の第1開口部31からサイフォン作用により吸い始めてサイフォン作用が始まることとなり、サイフォン側の第1送水ホース11内の空気を下流部へ吐出する工程が省略できることとなる。なお、送水機器20側の第2送水ホース12とサイフォン側の吸水口11aを合流させる注水合流部材30は、サイフォン側の吸水口11aが送水機器側の第2送水ホース12の下方に位置するよう配置することで、サイフォン送水作業中においてサイフォン側の送水口内を流れてきた土砂等が送水機器側の第2送水ホース12へ流入することを防止する効果がある。
【0072】
以上のように構成されたサイフォン送水装置100について、図3を参照して設置方法及び使用方法について説明する。まず、送水ホース10の全延長のいずれかの位置に注水合流部材30を設置した状態で、それぞれ第1送水ホース11の吸水口11aを湛水部90に配置し、第2送水ホース12の先端に接続された送水機器20も同様に湛水部90内に配置される。第3送水ホース13は、吐出口10aが湛水部90の水面より低い位置に配置される。
【0073】
次に第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100の起動方法について説明する。第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100は、送水ホース10内の空気を一気に押し出す程の送水量を備えている送水機器20が使用される。好ましくは、送水機器20の送水口径は、送水ホース10の口径より大きな口径であるとよい。そして、送水機器20によって、注水合流部材30の第2開口部32へ水を注水する。すると、水は注水合流部材30を経由して第3送水ホース13に勢いよく注水され、低地域側に流下する。この状態をしばらく続けると、吐出口10aから水と共に送水ホース10内の残留空気が排出されながら送水ホース10内は水が流れた状態のままの満水状態が維持される。最初、吐出口10aを噴出してくる水は空気と混じって白い水が吐出されてくるが、送水ホース10内が満水状態になると透明な水に変化してくる。この状態が確認できたら、送水機器20を停止し第3送水ホース13への水の注水を停止する。水の注水が止まっても下流側となる低地域の常時開口している吐出口10aからは引き続き水が地球の引力に引かれるため、送水ホース10内の満水状態の水が位置エネルギーにより吐出口10aへ流れ出る作用が働く。この下流側へ流れようとする作用により、第1送水ホース11内の空気が下流側へと引き込まれる現象とともに高水位域の湛水部90に配置された吸水口11aから水が第1送水ホース11内へ吸い込まれ、送水ホース10内に流れて送水ホース10内の空気等が完全に吐出口10aから排出された時点で高水位域の湛水部90の水と低地域に敷設された送水ホース10の吐出口10aとの間の送水ホース10内が満水状態で繋がり完全にサイフォン作用の稼働状態が維持されることになる。なお、送水ホース10の口径より大きな口径の送水機器20を使用した場合、図17に示すように、その流れを複数に分岐して複数の送水ホース10に連結されたそれぞれの注水合流部材30の送水機器20からの第2送水ホース12が連結される第2開口部32に連結して送水し、複数のサイフォン送水装置100を同時に起動又は稼働させることを可能とすることができる。
【0074】
以上のように構成されたサイフォン送水装置100によれば、揚程差7m以内であれば、一旦準備が整いサイフォン作用により水を高水位の湛水部90から低地域に排水できるようになれば、その後は電力を必要とすることなく、サイフォン作用によって、湛水部90の水を低地域に流し続けることができる。また、揚程7m以上となった場合でもサイフォン排水作業に使用していた送水装置をそのまま使用して送水機器20との併用による稼働に切替えることができる。
【0075】
この第2実施形態にかかるサイフォン送水装置100によれば、第1実施形態と異なり、第1実施形態では解決できなかった送水機器20の稼働に欠かせない燃料消費の課題、送水機器20の小さな送水機器吸水口20aに詰まるゴミ撤去のメンテナンスの課題が解決される。すなわち、サイフォンの吸水口11aは送水機器20の送水機器吸水口20aとは違い口径が大きく開閉弁など障害物もないため、送水機器20の小さな送水機器吸水口20aに詰まるようなゴミは、そのままに送水ホース10内に吸い込まれ下流側の吐出口10aに吐出されるためゴミ詰まり防止となり撤去作業も不要となる。第1送水ホース11の吸水口11aが備えられたため、送水機器20内を通過経路とするサイフォンの流れが大幅に減少した。これによりサイフォンの流れが送水機器のモーターの回転を後押しすることで送水に働くモーターの負荷が減少して生ずる過電流の発生を、いっそう防止することができることとなる。
【0076】
(第3実施形態)
第3実施形態にかかるサイフォン送水装置100が図10に示されている。この第3実施形態は送水機器20の送水機器吸水口20aがサイフォン吸水側の湛水部90ではなく、他の吸水場90Bに配置してあることを特徴とし、使用する送水機器20の高揚程機能が湛水部90まで届かない場合と届く場合がある。以下これらに分けて説明する。なお、第3実施形態においては、注水合流部材の第1開口部31及び第3開口部33にそれぞれ第1開口部用開閉部材31a及び第3開口部用開閉部材33aが設けられている。
【0077】
先ず送水機器20の揚程機能が湛水部90まで届かない場合について説明する。図10Bのように第2開口部32から注水された水を第1開口部31を通してサイフォン吸水側の第1送水ホース11に送水して送水機器20の機能によりサイフォン側に第1送水ホース11内を満水状態にする。しかし送水機器20の能力により、湛水部90には到達できない。この状態で第1開口部用開閉部材31aを閉じて第1送水ホース11内の水を溜めて、同時に第3開口部用開閉部材33aを開いて図10Cに示すように、送水機器20により第1開口部用開閉部材31以下の送水ホース10内へ送水を行う。送水ホース10内が満水状態で流れるようになったら送水機器20を停止すると同時に第1開口部用開閉部材31aを開くことで図10Dに示すように、サイフォン吸水側の送水ホース11内の水が上流側の湛水部90の水を吸い込む呼び水として作用することとなる。この作業は特に第3開口部33と連結した第3送水ホース13の延長が、第1開口部31に連結された第1送水ホース11の延長の2倍以上の長さがない場合に効果を発揮する。つまり、第3送水ホース13内に水を満水にした状態が第1送水ホース11内に延長されることとなるため、第3送水ホース13の延長が、サイフォン吸水ホース11の延長の2倍以上ない場合に送水ホース10の延長を伸ばしたのと同じ効果が得られる。
【0078】
次に送水機器20の揚程機能が湛水部90に到達する場合を説明する。注水合流部材30が図10Bのように送水機器20から第3開口部33の第3開口部用開閉部材33aを閉めた状態の注水合流部材30を迂回してサイフォン用の第1送水ホース11を通して湛水部90へ送水を行う。この場合、第1開口部31の第1開口部用開閉部材31aは備えていないか開いた状態である。送水がサイフォン用の第1送水ホース11内を満水状態として湛水部90まで到達したら、第3開口部用開閉部材33aを開いて送水機器20からの送水方向を第3送水ホース13へ変更するが、この場合サイフォン用の第1送水ホース11内は満水状態であるためサイフォン作用が働きサイフォン用の第1送水ホース11内を流れる湛水部90の水は注水合流部材30により送水機器20からの水と合流して第3送水ホース13に流れ、第3送水ホース13が満水状態で流れるようになったら送水機器20を停止することで、湛水部90の水がサイフォン用の第1送水ホース11と第3送水ホース13を通してサイフォン送水作業が稼働することとなる。この構造により揚程管頂部の下流側に注水合流部材30を配置した場合でもサイフォン作用を起動することができる。また、燃料費より送水量を優先する場合は図10Eのように送水機器20と併用のサイフォン排水作業を行うことができる。また、注水合流部材30の配置位置が湛水部90の水位より低い個所に備えられた場合は第3開口部33に連結される第3送水ホース13に替えて柔軟なホースであっても良い。湛水部90から第1開口部31までの第1送水ホース11内をサイフォン作用により流れる水が第3開口部33を通って柔軟なホース25内へ流れることとなり排水作業が持続することとなる。また、注水合流部材30の配置位置が湛水部90の水位より高い個所に備えられた場合は、図10Eに示すように、サイフォン起動後も続いて送水機器20を稼働することで、サイフォンと送水機器20の相乗効果が発揮されて排水量が大きくなるという特徴を発揮する。
【0079】
(第4実施形態)
この第4実施形態は、送水ホース10内の残留空気を排出して、できる限り送水ホース10内を満水にするための技術であり、前述した第1実施形態、第2実施形態又は第3実施形態と組み合わせて使用する技術である。
【0080】
この第4実施形態は、サイフォン作用により送水ホース10、11内の負圧現象に加えて外圧となる大気圧とにより送水ホース10及び11の潰れや亀裂等の損傷が発生することを防ぐための手段である。図10図10A及び図10Dの実施形態を例として説明する。サイフォン作用が起動した後に第1送水ホース11、第3送水ホース13内に発生する負圧に加えて外圧となる大気圧が起因する第1送水ホース11及び第3送水ホース13の潰れや亀裂現象等の損傷を防ぐため、サイフォン送水装置100の管頂部10bより下流側で湛水部90の水位より低い位置で第1送水ホース11及び第3送水ホース13に連結して気化量調節用バルブ40を連結する。第1送水ホース11及び第3送水ホース13内に発生する負圧に伴う気化現象の発生量を調節することで第1送水ホース11及び第3送水ホース13の潰れや亀裂などの損傷を防ぐことができる。管頂部10bの下流側の送水ホースの設置角度が急な場合の流れは特に斜流となって第1送水ホース11及び第3送水ホース13の内断面の底の部分しか水が流れない。水以外の箇所は負圧により水が気化した気体である。つまり、これに外圧である大気圧が加わるため潰れて通水断面が閉塞されたり、亀裂が生じて第1送水ホース11及び第3送水ホース13内へ空気が吸入されてサイフォン現象が停止することとなる。サイフォン送水装置100の気化量調節用バルブ40の遮閉面積を第1送水ホース11及び第3送水ホース13の断面の上部分を占める気化した気体の断面層より徐々に大きくすることで送水ホース10の底部を流れる水の一部を一時的に気化量調節用バルブ40の上流部に滞留させることができる。これにより気化量調節用バルブ40から上流側の管頂部10bまでの間で徐々に滞留量を増やして管頂部10bまで第1送水ホース11及び第3送水ホース13内が満水状態で流れるようにする。これにより斜流の発生を防ぐとともに気化現象も殆どなくすことができる。第1送水ホース11及び第3送水ホース13内で気化した気体をなくして全断面を水の流れにすることで大気圧の外圧の影響を減少させて第1送水ホース11及び第3送水ホース13の損傷を防ぐことができる。気化量調節用バルブ40の目的は一般的に言われる流量調節のための開閉装置ではなく、急勾配の第1送水ホース11及び第3送水ホース13に発生する斜流現象は底部を流れるが流速が著しく速いため、気化量調節用バルブ40により送水ホース10の通水断面の上から3分の2以上閉塞しても気体部分の層を閉塞するだけなので全体の流量にあまり影響しない。気化量調節用バルブ40の調節弁を下げて送水ホース10の底部を流れの上部の一部に調節弁を到達させて流れる水の一部を滞留させるだけなので、排水ホースの吐出し口から放水される流量は、緩勾配の送水ホース10の内断面を満水で流している状態と殆ど変わらない大容量の流量であることが大きな特徴である。
【0081】
つまり、急勾配に敷設された送水ホース10には斜流が生じる。サイフォン送水装置100の気化量調節用バルブ40の内断面を第1送水ホース11及び第3送水ホース13の内断面の上部から気体部分をより狭くすることで流れる水の一部を気化量調節用バルブ40から上流側の揚程管頂部10bまでの間で徐々に一時滞留させ、その滞留量を徐々に増やすと、やがて揚程管頂部10bまで到達し第1送水ホース11及び第3送水ホース13内が満水状態で流れるようになる。これにより斜流と気化現象を殆どなくすことができる。第1送水ホース11及び第3送水ホース13内の全断面を満水の流れにすることで大気圧の影響を防止することができることとなる。これにより負圧と大気圧の影響による送水ホース10の損傷を防止することができる。気化量調節用バルブ40は一般的に言われる流量調節のための開閉装置ではなく、斜流においてその通水断面を3分の2以上閉塞しても第3送水ホース13の吐出口10aから放水される流量は、気化量調節用バルブ40の内断面を全開している状態と殆ど変わらない流量となるのが特徴である。
【0082】
また、前述した気化量調整用バルブに代えて、気化調整開閉装置41を採用してもよい。気化調整開閉装置41を使用したサイフォン送水装置100が図11Bに示されている。図11Aは、気化調整開閉装置41を有していないサイフォン装置であり、比較のための図である。気化調整開閉装置41は、排水機能を有する第3送水ホース13内の負圧による気化現象を防ぎ第3送水ホース13の損傷を防ぐためのものであり、気化調整開閉装置41がない場合には、図11Aに示すように、第3送水ホース13の管頂部10bより下流側の第3送水ホース13において、上流側の湛水部90の水位より低い位置に備えられており、特に第3送水ホース13の配管勾配が急で、湛水部90の水位と吐出口10aとの水頭差が大きな場合第3送水ホース13内は斜流となり、つまり第3送水ホース13の断面の底部にだけ集中して高速度で流下することとなる。この場合、第3送水ホース13内に発生する負圧現象と流れの振動が第3送水ホース13の負圧現象が起きている箇所に伝わり、第3送水ホース13が小刻みに振動を始めることとなる。この振動が長時間に亘ると第3送水ホース13が凹んだり損傷して空気が侵入することになるため、サイフォン作用を持続することに大きく影響することとなる。これに対し、サイフォン送水装置100の気化調整開閉装置41の内断面を第1送水ホース11及び第3送水ホース13内断面の上部から気体部分をより狭くすることで、図11Bに示すように、流れる水の一部を気化調整開閉装置41から上流側の揚程管頂部10bまでの間で徐々に一時滞留させ、その滞留量を徐々に増やすと、やがて揚程管頂部10bまで到達し第1送水ホース11及び第3送水ホース13内が満水状態で流れるようになる。これにより斜流と気化現象を殆どなくすことができる。第1送水ホース11及び第3送水ホース13内の全断面を満水の流れにすることで大気圧の影響を防止することができることとなる。これにより負圧と大気圧の影響による送水ホース10の損傷を防止することができる。
【0083】
特に本発明にかかる気化調整開閉装置41としては、以下のような形態の物としても良い。すなわち、図12に示すように、ゲート部41aと、ゲート部41a及びゲート部41aのスライド用空間4iを含めて上下左右を囲み込む囲み込み部41j、ゲート部41aを上下流側から挟み込む挟持板には、流水用孔41bと流水用孔41bの周囲に複数の孔41gを備えてフランジ41cが形成された一対の挟持板41dと、ゲート部41aを挟持板41d内で上下させる上下移動用ボルト41eと、を備えている。かかる構造としたことによって、送水ホースと連結する際に気化調整開閉装置41に設けたフランジ41cの孔41gと、送水ホース側の端部に備えたフランジ部材41fに備えた孔41g′とを合せてボルトナット41hで堅固に固定することができる。スピンドル式開閉装置は、ネジ部を回転させてその下端部に設けたゲート(制水板)を上下に移動させて開閉装置の通水部を開放及び閉塞して流量調節を行う開閉装置であり、該開閉装置の構造は、ゲートの上下流側、上下面、左右側面を囲うカバー部材に加えて、上流部と下流部で連結する送水ホース等の配管のフランジ部に接続するためのフランジ部を別に備えていた。このため、開閉装置全体が分厚い構造で重量が重く、人力での運搬や作業内容が制限された。しかしながら、本発明にかかる気化調整開閉装置41を採用することによって、従来は別に備えていた配管接続用のフランジ部材を省略することができ、全体として扁平型となったことで使用時にはコンパクトに設置でき、運搬時や収納時には狭い場所でも多くの個数を配置することが可能となった。また、これにより軽量化を達成したため人力での運搬や設置作業の範囲が広がった。
【0084】
(第5実施形態)
この第5実施形態は、送水ホース10内の残留空気を排出して、できる限り送水ホース10内を満水にするための技術であり、前述した第1実施形態、第2実施形態又は第3実施形態と組み合わせて使用する技術である。
【0085】
この第5実施形態は、送水ホース10内に空気押出部材50を使用して空気を吐出口10aから排出するための手段である。送水ホース10を配設する場合、送水ホース10の勾配を一定に敷設可能なことは少なく、図13に示すように、地形の起伏に応じて敷設するため、送水ホース10の高い位置に空気が溜まる傾向がある。この場合、残留空気Hは圧縮されて送水ホース10の通水断面を侵すため送水量が減少することとなる。本技術は、この残留空気Hを送水ホース10に挿入後に送水ホース10の内断面と同じか又はやや小さい断面を有する空気押出部材50を水の流れによって生じる水圧により下流側へ押し流し、空気押出部材50が送水ホース10の内断面いっぱいの満水又は満水に近い状態で下流側へ押し流されていくことで、送水ホース10内の残留空気を吐出口10aから押し出し、水を送水ホース10の内断面にできるだけ近い満水断面となるように満たして流すことにより、送水量を増大させることを可能とした手段である。空気押出部材を使用するサイフォン送水装置において、記送水機器の送水口の口径は、下流部へ送水する送水ホース、又は送水ホースとサイフォン吸水側の送水ホースの口径以下のものを使用することができる。
【0086】
空気押出部材50は、図14に示すように送水ホース10内を流れることによって、送水ホース10内に残留している残留空気Hを吐出口10aから押し出すためのものである。
【0087】
空気押出部材50は、挿入前においては、送水ホース10の内断面より大きく、挿入することによって内断面と同一又は内断面より若干小さくなるものを使用するとよい。例えば、空気押出部材50は、例えばスポンジ等のような柔軟な材質により構成されていて、挿入又は送出前は送水ホース10の内断面より大きく、挿入時又は送出時には送水ホース10の内断面と同じになるものや、硬質の芯材の周囲に水に溶解可能な柔軟な素材(例えばトイレットペーパ)を被覆しておいて、送水ホース10内で流れつつ周囲が除去されるような形態等が挙げられる。このような空気押出部材50が送水ホース10内を水の流れにより生じる水圧によって下流側の空気を押し集めつつ前進して、最終的には空気といっしょに吐出口10aから排出される。なお、挿入又は送出後に送水ホース10の内断面と同じか若干小さくなるものであれば、挿入又は送出前の形状は特にこだわらない。
【0088】
空気押出部材50の形態は、送水ホース10内の空気を押し出しつつ、送水ホース10内を進行することが可能な形態であれば、特にその材質や形態は限定されるものではない。
【0089】
空気押出部材50を送水ホース10内に送出するための空気押出部材送出部60について説明する。空気押出部材送出部60は、大きく分けて、送水ホース10自体の本流の流れの中に設けられる場合(図15A)と、送水ホース10の本流の流れの中ではなく送水ホース10の側面に別途送水ホース10内に空気押出部材50を送り出すことができる空気押出部材送出装置85を設ける場合(図15B)と、がある。送水ホース10自体に設けられる場合は、柔軟なホース25内に空気押出部材50を設置し、保持部材70で固定しておき、随時、保持部材70を外すことによって空気押出部材50を放出できる。送水ホース10の側面に設ける場合は、空気押出部材50を投入する時以外は、挟持部材88で閉じてあり、投入時に挟持部材88を外して使用する。
【0090】
また、上述した第1実施形態~第5実施形態にかかるサイフォン送水装置100において、図16に示すように、湛水部90の水位に応じて、自動的に排水量の調節が可能となるように、任意の水位に応じて水面に位置するようセットすることができるフロート110と、フロート110と連結している棒状の連結部材111と、連結部材111のフロート110と反対側に設けられる吸水部材115とを備えている。吸水部材115は、全体が容器状に形成されており、容器内と容器外との水に流出入が可能な吸水部材用吸水口115dを開閉可能な開閉弁115aを備えている。この開閉弁115aが連結部材111に連結されており、水位が上昇した場合にフロート110の位置が上昇し、開閉弁115aが吸水部材115の吸水部材用吸水口115dの内側へ開くように形成されている。このように、湛水部90の水位が上昇して開閉弁115aを開く必要がある場合には、吸水部材115の吸水部材用吸水口115dの内側へ流れ込む流れに沿って開く構造となっているため、サイフォンが吸い込もうとする水圧と、湛水部90に設けた吸水部材115に対する水深による水圧とが重なって開閉弁115aを開く作用が働くこととなる。そのため、開閉弁115aを開くためのフロートを小さくすることができる。また、棒状の連結部材111にはフロート110を取り付ける位置を変えて、それ以上水位が下がらないように設定する水深を決める働きと、設定した水位で開閉弁115aを閉じるときに必要なフロート110の重さをモーメントで計算して取り付け位置の調整、を行うことができるフロート取付け距離調節用孔111aが備えられている。また、開閉弁115aと連結部材111を固定する連結部115bには開閉弁115aと連結部材111との角度を調節してフロート110の重さにより開閉弁115aを閉じるための水位を設定し調節するための固定角度調節用孔111bが設けてある。また、この際に、図17Aに示すように、容器状の吸水部材115内に送水機器20の送水機器吸水口20aを設けても良く、送水機器20全体を吸水部材115内へ入れるように覆って配置しても良い。さらに、図17Bのように送水機器20とは別にサイフォン用の第1送水ホース11の吸水口11aを容器状の吸水部材115内に設けても良い。大きな開口部を形成する吸水口11aを吸水部材115内に配置することによって、吸水部材用吸水口115dから流入したゴミ等は大きな開口部を形成する第1送水ホース11の吸水口11aから吸引されるため、小さな開口部で形成される送水機器の送水機器吸水口20aを詰まらせる可能性を低減することができる。この場合も送水機器20全体を吸水部材115内へ入れるように覆って配置しても良い。なお、これらの場合、送水機器側の第2送水ホース12とサイフォン側の第1送水ホース11を合流させる注水合流部材30は、サイフォン側の第1送水ホース11が送水機器側送水ホース20bの下方に位置するよう配置することで、サイフォン送水作業中においてサイフォン側の送水ホース11内を流れてきた土砂等が送水機器側送水ホース20cへ流入することを防止する効果がある。
【0091】
なお、図18に示すように、フロート110と、フロート110と連結している棒状の連結部材111と、連結部材111のフロート110と反対側に設けられる吸水部材115とからなるすべての部材を防塵籠120内に固定配置して、籠の形状と重量で吸水部材を安定させてもよい。なお、この際に、連結部材111に、ウエイト116を設けても良い。開閉弁115aは、水位が低下した際に、フロート110の位置もそれに伴って低下するため、開閉弁115aが吸水部材115の内側で開閉弁の取付け部を支点を軸として上向きに回動し、上側にある開口部にしっかり密着することで止水性が確保される。従って、ウエイト116が備えられていることで、支点を軸としてウエイト116の重さにより開閉弁が上向きに回動しようとする力が高まるため吸水部材用吸水口115dの外周枠部分との密着度が高まる効果がある。勿論この吸水部材用吸水口115dの内側の外周枠部分にゴム、シリコンなどの弾力性のある素材を外周に連続して備えることで一段と水密性及び止水性の効果を高めることができる。
【0092】
本実施形態にかかるサイフォン送水装置100において、図19に示すように、送水機器20の規格である送水口径が例えば災害対策ポンプ車20Bのように、送水ホース10の口径より大きな口径である場合において、送水機器20からの送水を複数に分岐して複数の送水ホース10に連結された注水合流部材30に連結して送水し、複数のサイフォン送水装置100を同時に起動又は稼働させることを可能とした分岐送水部材37を使用してもよい。また、図20に示すように、複数の送水ホース10にそれぞれ送水してもよい。
【0093】
また、本実施形態にかかるサイフォン送水装置100における、送水機器20と送水ホース10との連結方法について、送水機器メーカー毎、及び想定する水圧の違いにより、ボルト用孔の位置の中心線A又はBの違いや、その数がそれぞれ異なるため、送水ホース10と連結する場合に送水ホース側のフランジのボルト用孔の数や位置が合わないため送水機器と送水ホースが連結できない状況が発生していた。災害対応など緊急時にも送水機器を選んで連結できない事態を避ける必要がある。そこで、各種メーカーや機種においても連結ができるよう孔状ではなく深い溝状に形成されたボルト用切込部118を設けたフランジを備えた連結部材111を図21に示す。これによれば、送水機器のメーカー毎に異なるボルト固定用の孔の間隔や、対角線上にある孔との中心間の距離(中心線)や孔の数の違いを検討することなく、送水機器20と送水ホース10とを連結することが可能となる。ボルト用切込部118が孔状ではなく深い溝状に形成されているためボルト用切込部118の範囲内であれば、相手側のフランジに設けられた孔の位置と数をボルト・ナット等緊結部材を用いて連結する。これによりそれぞれ対角線上に有る深い溝状に形成されたボルト用切込部118の範囲内で固定される。また、各種メーカーのボルト用孔の対角線上にある中心線Aと中心線Bの大きさの差異はボルト用孔の直径よりも小さいため対角線上で緊結部材を用いて固定すれば、連結部材が抜けることはなくなるという特徴を持つものである。
【0094】
さらに、本実施形態にかかるサイフォン送水装置100において、排砂用吸水部材130を設けても良い。排砂用吸水部材130は、図22に示すように、第1送水ホース11の先端に設けられるものである。排砂用吸水部材130は、水と土砂130cを併せて吸水するための主吸水部130aと、水だけを吸水する補助吸水部130bとからなる。排砂用吸水部材130は、筒状に形成されており、主吸水部130aは、その先端に設けられており、湛水部90の底面の土砂130cも同時に吸い込む口径を有している。補助吸水部130bは、主吸水部130aよりも小さい口径で、尚且つ主吸水部130aから一定の間隔を空けて設けられているため、主吸水部130aが湛水部の底面に近くなって土砂を多く吸い込む状況になっても主吸水部130aから一定の間隔を空けて補助吸水部130bが設けられているため、常に水を吸い続けて主吸水部から吸い込む土砂に混ぜて土砂の流動性を確保できるよう形成されており、補助吸水部130bは排砂用吸水部材130の主吸水部130aの近傍に主吸水部130aの水流と合流する方向で主吸水部130aの流れを補助するように結合されている。このような構成を採用することによって、補助吸水部130bの効果は、主吸水部130aが砂内に埋もれて土砂を大量に吸水する状況の場合に流動性が減少する土砂が送水ホース内に詰まることでサイフォン機能を停止させることを防止でき、主吸水部130aから吸い込む土砂130cに、補助吸水部130bから吸水した水を加えて混合し、吸水した土砂130cの割合を少なくして流動性を高めることで、送水ホース内が土砂130cで詰まることを防止することができる。
【0095】
さらに、図23に示すように、補助吸水部130bの給水部を水面近くに配置可能なように、補助吸水部延長部材130dを設けても良い。排砂用吸水部材130を使用して排砂すると設置個所がすり鉢形状のクレーターが順番に広くなり深くなる。排砂用吸水部材130はクレーターが広くなり深くなると同時にその時点の底部で吸水を続けることとなる。この排砂用吸水部材130が底部にある状態で、洪水などによって上流から流出してきた土砂がクレーター内に流入すると排砂用吸水部材130が補助吸水部130bと共に土砂140aに埋まるためサイフォン作用が停止する可能性がある。そうなると、サイフォンを再稼働する場合には排砂用吸水部材130を掘り出さなければならないこととなる。この掘り出す作業を省略する方法として、補助吸水部130bに補助吸水部延長部材130dを繋いで補助吸水部延長部材130dの先端の延長補助吸水部130eを土砂140aに埋まらない位置で補助吸水作業を続けることができる位置に配置する。これにより、土砂に埋まるクレーターの底部にある主たる排砂用吸水部材130の先端の主吸水部130aへは、土砂に埋まらない位置の延長補助吸水部130eから吸水した水が供給されるため、排砂用吸水部材130が土砂に埋まった場合でも、土砂は延長補助吸水部130eから吸水した主吸水部130a付近の土砂を巻き込んで排砂ホースを流下する流れにより排砂されることとなる。この作用により埋まった土砂が徐々に排砂されて元のクレーター状態が復活することとなるため、引き続きクレーターが広く深くなりながらサイフォン排砂作用を続けることができることとなる。
【0096】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得る。
【産業上の利用可能性】
【0097】
上述した実施の形態で示すように、河川、湖沼、土砂ダムや氷河湖等の貯留部の水を安全に安価に効率よく排水する装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
10…送水ホース、10a…吐出口、10b…管頂部、10c…空洞部、11…第1送水ホース、11a…吸水口、12…第2送水ホース、13…第3送水ホース、16m…揚程、18m…揚程、20…送水機器、20B…災害対策ポンプ車、20a…送水機器吸水口、20b…送水機器側送水ホース、20c…送水機器側送水ホース、20m…揚程、25…送水ホース、30…注水合流部材、31…第1開口部、31a…第1開口部用開閉部材、32…第2開口部、33…第3開口部、33a…第3開口部用開閉部材、35…切替弁、35a…開口部用逆止弁、35b…切替弁移動制止部材、37…分岐送水部材、40…気化量調節用バルブ、41…気化調整開閉装置、41a…ゲート部、41c…フランジ、41d…挟持板、41e…上下移動用ボルト、41f…ホース側フランジ部材、41g′…ホース側フランジ部材に備えた孔、41h…ボルトナット、41i…ゲート部のスライド用空間、41j…上下左右の囲み込み部、50…空気押出部材、60…空気押出部材送出部、70…保持部材、85…空気押出部材送出装置、88…挟持部材、90…湛水部、90B…吸水場、90a…水位、90c…水位、90d…水位、100…サイフォン送水装置、110…フロート、111…連結部材、111a…距離調節用孔、111b…固定角度調節用孔、115…吸水部材、115a…開閉弁、115b…連結部、115d…吸水部材用吸水口、116…ウエイト、118…ボルト用切込部、130…排砂用吸水部材、130a…主吸水部、130b…補助吸水部、130c…土砂、130d…補助吸水部延長部材、130e…延長補助吸水部、140a…土砂。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26