(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】金属粒子を含むカーボンナノチューブ混合物から金属粒子を除去する除去方法、除去装置、および、それらによって得られるカーボンナノチューブと中空炭素粒子との複合体
(51)【国際特許分類】
C01B 32/17 20170101AFI20220323BHJP
【FI】
C01B32/17
(21)【出願番号】P 2018501799
(86)(22)【出願日】2017-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2017007150
(87)【国際公開番号】W WO2017146218
(87)【国際公開日】2017-08-31
【審査請求日】2020-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2016035775
(32)【優先日】2016-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【氏名又は名称】高橋 知之
(74)【代理人】
【識別番号】100121153
【氏名又は名称】守屋 嘉高
(74)【代理人】
【識別番号】100178445
【氏名又は名称】田中 淳二
(74)【代理人】
【識別番号】100188994
【氏名又は名称】加藤 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194892
【氏名又は名称】齋藤 麻美
(72)【発明者】
【氏名】野田 優
(72)【発明者】
【氏名】浜田 航綺
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-306636(JP,A)
【文献】特開2001-190128(JP,A)
【文献】国際公開第2008/126534(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/111499(WO,A1)
【文献】特開2007-254271(JP,A)
【文献】特開2005-306681(JP,A)
【文献】特開2012-082105(JP,A)
【文献】特開2003-063814(JP,A)
【文献】特開2013-040061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ(CNT)と炭素殻に覆われた金属粒子とを含む混合物を、加熱して
臭素ガスと接触させ、前記金属粒子を除去する、CNTと炭素殻に覆われた金属粒子とを含む混合物から金属粒子を除去する除去方法であって、
供給される前記臭素ガスの分圧が0.05 Torr以上であり、
前記混合物を600℃以上に加熱し、
前記混合物を前記
臭素ガスと接触させる前に前記混合物を酸化する工程を経ずに、
前記金属粒子を除去する除去方法。
【請求項2】
前記混合物を、前記
臭素ガスと接触させる前および接触させた後の少なくとも一方に、水素ガスに接触させる請求項1に記載の除去方法。
【請求項3】
湿式工程を含まないことを特徴とする請求項1または2に記載の除去方法。
【請求項4】
前記混合物を縦型反応器内に保持し、前記
臭素ガスを前記縦型反応器内で上方より下方に向かって流れるように前記縦型反応器内に供給することにより、前記混合物に前記
臭素ガスを接触させることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の除去方法。
【請求項5】
前記混合物を前記縦型反応器に上方から充填する充填工程と、
前記
臭素ガスおよび水素ガスの少なくとも一方を上方から供給して下方から排出することで前記金属粒子を除去して、カーボンナノチューブと、前記金属粒子が除去されて中空状で閉じた形状を有する中空炭素粒子とを含む複合体を得る金属粒子除去工程と、
を含むことを特徴とする請求項4に記載の除去方法。
【請求項6】
さらに、
前記縦型反応器の下方から上方にキャリアガスを流して前記複合体を前記縦型反応器から取り出し回収する工程、
を含むことを特徴とする請求項5に記載の除去方法。
【請求項7】
前記金属粒子が除去されたカーボンナノチューブと中空炭素粒子との複合体を製造する製造方法であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の除去方法。
【請求項8】
反応器と、
前記反応器および前記反応器内へ供給するガスの少なくともいずれかを加熱する加熱機構と、
カーボンナノチューブ(CNT)と炭素殻に覆われた金属粒子とを含む混合物を前記反応器へ供給する混合物供給機構と、
不活性ガスおよび
臭素ガスを前記反応器へ供給するガス供給機構と、
を備えるCNTと炭素殻に覆われた金属粒子とを含む混合物から金属粒子を除去する除去装置であって、
前記除去装置は、前記反応器が垂直方向に設置され、前記ガス供給機構は前記不活性ガスおよび前記
臭素ガスを前記反応器内で上方より下方に向かって流れるように前記反応器内に供給する除去装置であって、
カーボンナノチューブと、前記金属粒子が除去されて中空状で閉じた形状を有する中空炭素粒子とを含む複合体を、前記反応器から回収するために同伴させるキャリアガスを前記反応器へ供給する、キャリアガス供給機構をさらに備え、前記キャリアガス供給機構は前記キャリアガスを前記反応器内で下方より上方に向かって流れるように前記反応器内に供給
し、
前記ガス供給機構は、前記臭素ガスを0.05 Torr以上の分圧で供給し、
前記加熱機構は、前記混合物を600℃以上に加熱することを特徴とする除去装置。
【請求項9】
前記金属粒子が除去されたカーボンナノチューブと中空炭素粒子とを含む複合体を製造する製造装置であることを特徴とする請求項8に記載の除去装置。
【請求項10】
かさ密度が0.001~0.2g/cm3であり、ハロゲン含有率が0.01~3質量%であり、金属含有率が10質量%以下であること特徴とする
、炭素殻を残したまま金属粒子が除去されたカーボンナノチューブと
、炭素殻を残したまま金属粒子が除去されて中空状で閉じた形状を有する中空炭素粒子との複合体。
【請求項11】
カーボンナノチューブ(CNT)と炭素殻に覆われた金属粒子とを含む混合物を、加熱してハロゲン元素含有ガスと接触させ、前記金属粒子を除去する、CNTと炭素殻に覆われた金属粒子とを含む混合物から金属粒子を除去する除去方法であって、
供給される前記ハロゲン元素含有ガスの分圧が0.05 Torr以上であり、
前記混合物を600℃以上に加熱し、
前記混合物を前記ハロゲン元素含有ガスと接触させる前に前記混合物を酸化する工程を経ずに、
前記混合物を、前記ハロゲン元素含有ガスと接触させた後に、水素ガスに接触させて、
前記金属粒子を除去する除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属粒子を含むカーボンナノチューブ混合物から金属粒子を除去する除去方法、除去装置、および、それらによって得られるカーボンナノチューブと中空炭素粒子との複合体に関し、特に炭素殻内の金属粒子をエッチングガスにより除去する除去方法および除去装置と、該除去方法または除去装置を使用して形成された中空炭素粒子を含む複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、特異な1次元ナノ構造と、優れた熱的、電気的、機械的性質により、電池の電極やキャパシタ、トランジスタ、および、ポリマーなどとの混合による高強度材料など、各種応用が期待されている。固体炭素を昇華した後、冷却して合成する物理蒸着(PVD)法と、炭化水素等を熱分解して合成する化学気相成長(CVD)法が知られるが、何れの方法でも金属ナノ粒子を触媒または鋳型に用いる。通常、生成したカーボンナノチューブには触媒金属が数~数十 wt%含まれる。触媒金属が含まれたままであると、ナノ材料としての物性の低下や重量の増加などが起こるため、精製処理等による除去が重要となる。
【0003】
触媒金属は炭素殻に覆われるため、炭素殻を酸化してその全部または一部を除去する工程と金属の酸溶解工程とを繰り返す精製法が一般的である。例えば、ウェットエッチングにより触媒金属を除去する例として、カーボンナノチューブに対し、過酸化水素、フッ酸およびオゾン等の酸化剤を用いて酸化処理を施して炭素殻を酸化除去した後、塩酸や硫酸等の酸を用いて湿式工程により触媒金属を溶解除去することや(例えば、特許文献1および2参照)、酸素を含む雰囲気中で100~1000℃の温度で加熱して、カーボンナノチューブ表面に細孔(欠陥を)を作製して開孔し、炭素殻を酸化除去した後に、硫酸や硝酸等の酸を用いて湿式工程により触媒金属を除去することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
溶液を使用せずにドライ処理により金属を除去する例としては、カーボンナノチューブを真空中または大気圧下で高温加熱することにより、炭素殻で覆われたり、基板から浮いてカーボンナノチューブ内に入りカーボンナノチューブに含まれる触媒金属を、蒸発させて除去することが提案されている(例えば、非特許文献1および特許文献4~7参照)。
【0005】
別な例としては、カーボンナノチューブの成長に使用され、カーボンナノチューブの先端に含まれる触媒金属を、プラズマ処理することにより除去することも提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【0006】
エッチングガスとして塩素ガスを使用したドライエッチングにより金属を除去する例として、鉄やコバルト、ニッケル等の金属に炭素が固溶した固溶体層を基板の表面上に形成する工程において、これらを固溶温度に加熱した状態で、固溶体層に含まれる金属を塩素等のエッチングガスにより除去し、基板上にグラフェンを製造する製造方法が提案されている。(例えば、特許文献9参照)。
【0007】
特にカーボンナノチューブに対する塩素ガスによるドライエッチングの例としては、酸化処理によって触媒粒子を覆う炭素殻が除去され、Fe含有率が0.003wt%、Ni含有率が0.015wt%と微量であることから酸処理によって触媒粒子を除去されたカーボンナノチューブに対し、塩素ガスおよび窒素ガスを1000sccmずつ流通させることが提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
別な例では、Cl2分圧が47.6μTorrと非常に小さい分圧で塩素ガスを流通させることが提案されている(例えば、非特許文献3参照)。この著者らは、触媒金属をより効率よく除去する目的で、カーボンナノチューブを空気中で電子レンジにより加熱することで、炭素殻を破壊することを試みている(例えば、非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】M. Yudasaka et al, Carbon 41, 2003, 1273-1280
【文献】Elaine Lay Khim Chng et al, Phys. Chem. Chem. Phys., 2013, 15, 5615-5619
【文献】Enrico Andreoli et al, J. Mater. Chem. B, 2014, 2, 4740-4747
【文献】Virginia Gomez et al, RSC Adv., 2016, 6, 11895-11902
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-188379号公報
【文献】特開2006-188380号公報
【文献】特開2012-164492号公報
【文献】特開2013-71863号公報
【文献】特開2012-82105号公報
【文献】特開2005-306681号公報
【文献】特開2005-220500号公報
【文献】特開2003-63814号公報
【文献】国際公開第WO2012/118023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の特許文献1~3のウェットエッチングによる方法では、煩雑なプロセスでコスト増となり、また酸化処理によりカーボンナノチューブが損傷し、さらに酸処理後の乾燥時に、溶液の表面張力によりカーボンナノチューブの凝集体が緻密化して、再分散が困難になるなど、多くの課題がある。
【0012】
非特許文献1および特許文献4~7の真空中または大気圧下での高温加熱による方法では、超高温に暴露してカーボンナノチューブの成長端を一度開かせているために、これが元に戻らずに結晶性が低下してしまう可能性があり、また複数の細いカーボンナノチューブが凝集して太くなったり、黒鉛化したりする問題がある。加えて、高温加熱にコストもかかる。
【0013】
特許文献8のプラズマ処理による方法では、カーボンナノチューブの先端部が鋭い鋭角状に改質されてしまう。また、カーボンナノチューブに欠陥が入る問題や、プラズマを多量のカーボンナノチューブ全体に均一に照射することが難しいという問題もある。
【0014】
特許文献9の方法では、カーボンナノチューブの成長時に炭素殻に覆われた触媒金属を除去することには全く考えが及んでいない。
【0015】
非特許文献2の方法では、酸化処理による炭素殻の酸化除去工程により、炭素殻は全て除去されるか、または一部が除去されて破壊される。
【0016】
非特許文献3の方法では、塩素ガス分圧が非常に低く、黒鉛容器内にカーボンナノチューブを設置した上で円管内に入れていることもあり、塩素ガスがカーボンナノチューブ凝集体に効果的に届いていないことなどから、触媒金属を有効に除去できていない。
【0017】
非特許文献4は、非特許文献3と同一グループの後の研究で、炭素殻を破壊することで触媒金属の除去の効率化を図っている。しかしながら、非特許文献4の方法では、炭素殻が破壊されることで触媒金属が大気に触れて酸化してしまうので、塩素ガスを流通させることによる触媒金属の除去は困難となる。実際に、電子レンジの加熱により、カーボンナノチューブを含む炭素が燃えて減少するため、処理前の原材料よりも触媒金属の濃度が高くなり、さらに塩素ガスを流通させても、処理前の原材料よりも触媒金属の濃度が高い結果となっている。
【0018】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、炭素殻内に金属粒子を含む混合物から炭素殻を破壊せずに金属粒子をエッチングガスにより除去する除去方法、除去装置、および、それらにより金属粒子を除去することによって得られるカーボンナノチューブと中空炭素粒子とを含む複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明はかかる課題を解決するため、カーボンナノチューブ(CNT)と炭素殻に覆われた金属粒子とを含む混合物から金属粒子を除去する除去方法が、CNTと炭素殻に覆われた金属粒子とを含む混合物を、加熱してハロゲン元素含有ガスと接触させ、前記金属粒子を除去する構成を含むものとする。
【0020】
本発明に係る除去方法は、前記混合物を前記ハロゲン元素含有ガスと接触させる前に前記混合物を酸化する工程を経ずに、前記金属粒子を除去することができる。
【0021】
本発明に係る除去方法は、前記混合物を、前記ハロゲン元素含有ガスと接触させる前および接触させた後の少なくとも一方に、水素ガスに接触させてもよい。
【0022】
本発明に係る除去方法は、湿式工程を含まない構成としてもよい。
【0023】
本発明に係る除去方法は、前記混合物を縦型反応器内に保持し、前記ハロゲン元素含有ガスを前記縦型反応器内で上方より下方に向かって流れるように前記縦型反応器内に供給することにより、前記混合物に前記ハロゲン元素含有ガスを接触させる場合がある。
【0024】
本発明に係る除去方法は、前記混合物を前記縦型反応器に上方から充填する充填工程と、前記ハロゲン元素含有ガスおよび水素ガスの少なくとも一方を上方から供給して下方から排出することで前記金属粒子を除去して、カーボンナノチューブと、前記金属粒子が除去されて中空状で閉じた形状を有する中空炭素粒子とを含む複合体を得る金属粒子除去工程と、を含む場合がある。
【0025】
本発明に係る除去方法は、さらに、前記縦型反応器の下方から上方にキャリアガスを流して前記複合体を前記縦型反応器から取り出し回収する工程、を含む場合がある。
【0026】
本発明に係る除去方法は、前記金属粒子が除去されたカーボンナノチューブと中空炭素粒子との複合体を製造する製造方法とする場合がある。
【0027】
本発明に係る除去方法は、前記縦型反応器を加熱状態に保ったまま、前記充填工程、前記金属粒子除去工程、および前記取り出し工程を複数回繰り返してもよい。
【0028】
本発明に係る除去方法では、前記ハロゲン元素含有ガスが塩素ガスまたは臭素ガスであり、前記塩素ガスまたは前記臭素ガスを0.1 Torr以上の、好ましくは1 Torr以上の、より好ましくは10 Torr以上の分圧で供給してもよい。
【0029】
本発明に係る除去方法では、前記混合物を600~1400℃、好ましくは700~1300℃、より好ましくは800~1200℃に加熱して前記ハロゲン元素含有ガスと接触させる場合がある。
【0030】
本発明に係る除去方法は、前記金属粒子が、Fe、Ni、Co、Y、Mo、Laまたはこれらの合金からなるものとしてもよい。
【0031】
本発明は、カーボンナノチューブ(CNT)と炭素殻に覆われた金属粒子とを含む混合物から金属粒子を除去する除去装置であって、反応器と、前記反応器および前記反応器内へ供給するガスの少なくともいずれかを加熱する加熱機構と、CNTと炭素殻に覆われた金属粒子とを含む混合物を前記反応器へ供給する混合物供給機構と、不活性ガスおよびハロゲン元素含有ガスを前記反応器へ供給するガス供給機構と、を備える除去装置を提供する。
【0032】
本発明に係る除去装置では、前記反応器が垂直方向に設置され、前記ガス供給機構は前記不活性ガスおよび前記ハロゲン元素含有ガスを前記反応器内で上方より下方に向かって流れるように前記反応器内に供給してもよい。
【0033】
本発明に係る除去装置は、前記反応器が垂直方向に設置され、カーボンナノチューブと、前記金属粒子が除去されて中空状で閉じた形状を有する中空炭素粒子とを含む複合体を、前記反応器から回収するために同伴させるキャリアガスを前記反応器へ供給する、キャリアガス供給機構をさらに備え、前記キャリアガス供給機構は前記キャリアガスを前記反応器内で下方より上方に向かって流れるように前記反応器内に供給してもよい。
【0034】
本発明に係る除去装置は、前記金属粒子が除去されたカーボンナノチューブと中空炭素粒子とを含む複合体を製造する製造装置である場合がある。
【0035】
本発明に係る除去装置では、前記反応器が、前記混合物の保持機構をさらに有し、前記保持機構が複数の孔を有する分散板または断面積が次第に縮小するテーパ部からなるものとする場合がある。
【0036】
本発明に係る除去装置は、前記反応器からカーボンナノチューブと中空炭素粒子との複合体を回収する複合体回収機構をさらに備える場合がある。
【0037】
また、本発明は、金属粒子が除去されたカーボンナノチューブと中空炭素粒子との複合体は、かさ密度が0.001~0.2g/cm3であり、ハロゲン含有率が0.01~3質量%であり、金属含有率が10質量%以下である複合体を提供する。
【発明の効果】
【0038】
本発明は、カーボンナノチューブと、炭素殻に覆われた金属粒子とを含む混合物に対して、炭素殻を残したまま金属粒子を除去することで中空炭素粒子を増加させ、カーボンナノチューブだけの表面積に比べ、中空炭素粒子の炭素殻の表面積を加えることで全体の表面積が増加するので、炭素殻の表面も有効利用することができる。さらに、エッチング処理条件を適正化することにより、炭素殻に覆われた触媒金属の除去率を高めた精製処理が可能であり、結晶性に優れた良質な、カーボンナノチューブおよび中空炭素粒子を含む複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明に係る、カーボンナノチューブおよび中空炭素粒子を含む複合体の概略を示す模式図である。
【
図2】カーボンナノチューブと炭素殻に覆われた金属粒子とを含む混合物の概略を示す模式図である。
【
図3】本発明に係る、炭素殻を残したまま金属粒子を除去してカーボンナノチューブおよび中空炭素粒子を含む複合体の製造工程を示す流れ図である。
【
図4】同上、炭素殻を残したまま金属粒子を除去してカーボンナノチューブおよび中空炭素粒子を含む複合体を製造するための製造装置の構成を示す概略図である。
【
図5】同上、炭素殻を残したまま金属粒子を除去してカーボンナノチューブおよび中空炭素粒子を含む複合体を製造するための簡易的な製造装置を示す概略図である。
【
図6】同上、石英ガラス管内に配置したカーボンナノチューブ凝集体を示す写真図である。
【
図7】同上、触媒金属をエッチング中の様子を示す写真図である。
【
図8】同上、エッチング後に得られた、石英ガラス管内のカーボンナノチューブおよび中空炭素粒子を含む複合体を示す写真図である。
【
図9】同上、炭素殻を残したまま金属粒子を除去してカーボンナノチューブおよび中空炭素粒子を含む複合体を製造するための製造装置の一例を示す概略図である。
【
図10】同上、保持機構の一例としてテーパ部を用いた場合の一例を示す概略図である。
【
図11】同上、炭素殻を残したまま金属粒子を除去してカーボンナノチューブおよび中空炭素粒子を含む複合体を製造する工程の一部を示す概略図である。
【
図12】同上、炭素殻を残したまま金属粒子を除去してカーボンナノチューブおよび中空炭素粒子を含む複合体を製造する工程の一部を示す概略図である。
【
図13】同上、炭素殻を残したまま金属粒子を除去してカーボンナノチューブおよび中空炭素粒子を含む複合体を製造する工程の一部を示す概略図である。
【
図14】実施例1に係る、比較例としての未処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図15】同上、比較例としての未処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図16】同上、実施例としての900℃処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図17】同上、実施例としての900℃処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図18】同上、実施例としての900℃処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図19】同上、実施例としての1000℃処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図20】同上、実施例としての1000℃処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図21】同上、実施例としての1000℃処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図22】実施例2に係る、比較例としての未処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図23】同上、比較例としての未処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図24】同上、実施例としての1000℃処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図25】同上、実施例としての1000℃処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図26】同上、実施例としての1000℃処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図27】実施例3に係る、比較例としての未処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図28】同上、比較例としての未処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図29】同上、実施例としての1000℃処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図30】同上、実施例としての1000℃処理の場合のTEM観察像の図である。
【
図31】実施例4に係る、炭素殻を残したまま金属粒子を除去してカーボンナノチューブおよび中空炭素粒子を含む複合体を製造するための縦型反応器を示す概略図である。
【
図32】同上、昇温から降温までのガスの流量ならびに全圧、および処理時間の標準条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、金属粒子を含むカーボンナノチューブ混合物から金属粒子を除去する本発明に係る除去方法、除去装置、および、それらによって得られるカーボンナノチューブと中空炭素粒子との複合体の実施形態について、図面に基づいて説明する。尚、本実施形態では、カーボンナノチューブと中空炭素粒子との複合体の製造方法および製造装置を中心に説明するが、本実施形態の製造方法は、炭素殻に覆われた金属粒子を除去する除去方法として応用することができる。また、同様に、本実施形態の製造装置は炭素殻に覆われた金属粒子を除去する除去装置として使用することができる。そして、これら除去方法および除去装置によっても、カーボンナノチューブと中空炭素粒子との複合体を得ることができる。
【0041】
図1は、カーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1の概略を示す模式図である。複合体1は、
図2に示す、金属触媒を用いて調製された、カーボンナノチューブ2と、炭素殻6に覆われた金属粒子5とを含む混合物10より得られる。中空炭素粒子3は、炭素殻6に内包された触媒金属の金属粒子5をエッチングガス20により除去して精製することにより形成されたものであり、触媒金属の金属粒子5が完全またはほぼ完全に除去された中空状で、閉じた形状を有する。7は、触媒金属の金属粒子5が炭素殻6に覆われた状態で残存する炭素殻-金属複合粒子であり、本発明の除去方法または同様の製造方法により金属粒子5を除去する処理をした後に、金属粒子5が除去されずに残留する場合があるものである。
【0042】
本明細書において、カーボンナノチューブ2と炭素殻6に覆われた金属粒子5とを含む混合物10とは、本発明に係る除去方法または除去装置で処理する前のカーボンナノチューブの混合体をいい、
図2に示すように、処理前の該カーボンナノチューブ混合体に含まれるカーボンナノチューブ2と、炭素殻6に覆われた金属粒子5からなる炭素殻-金属複合粒子7とを含んで構成されるものである。
【0043】
本明細書において、カーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1とは、上記の混合物10を本発明に係る除去方法または除去装置で処理した後のカーボンナノチューブ2と中空炭素粒子3との複合体1の混合体をいい、
図1に示されるように、末端8の金属粒子5が除去されたカーボンナノチューブ2に、金属粒子5が除去されて中空状で閉じた形状を有する単層または複層の炭素殻6からなる中空炭素粒子3や、単層または複層からなる炭素殻6内の金属粒子5が除去されずに残存している炭素殻-金属複合粒子7が付着した複合体が含まれ、さらに末端8の炭素殻6内に金属粒子5が除去されずに残存したカーボンナノチューブ2に中空炭素粒子3が付着した複合体が含まれる。
【0044】
すなわち、本発明に係る除去方法または除去装置によって金属粒子5を除去する前の混合物10には、カーボンナノチューブ2の末端8および炭素殻6に内包される金属粒子5がより高い割合で含まれるのに対し、本発明に係る除去方法または除去装置によって金属粒子5を除去することにより、
図1の複合体1のように、末端8および炭素殻6に内包される金属粒子5が減少し、末端8が中空状のカーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3の少なくとも一方を含むCNTと中空炭素粒子との複合体の割合が増加したものである。
【0045】
図2に例示する混合物10では、末端8の炭素殻6内に金属粒子5が内包されたカーボンナノチューブ2と、炭素殻6に覆われた金属粒子5からなる炭素殻-金属複合粒子7とのみが図示されているが、実際の混合物10では、これらの炭素殻6に金属粒子5が内包されていないものが一部存在する場合がある。また、
図1に例示する複合体1において、
図2に図示するような、末端8の炭素殻6内に金属粒子5が内包されたカーボンナノチューブ2に炭素殻-金属複合粒子7が付着したものが一部存在する場合がある。
【0046】
図1では、中空炭素粒子3の中には、炭素殻6が第一層炭素殻6aおよび第二層炭素殻6bを有する多層炭素殻構造となっているものもある。中空炭素粒子3は、単層でもよいが、複層の炭素殻を有することが好ましく、特に2~20層の炭素殻を有することが好ましい。複合体1は、外径が0.6~30nmのカーボンナノチューブ2を含むことが好ましい。
【0047】
中空炭素粒子3は、カーボンナノチューブ2と、炭素殻6に覆われた金属粒子5とを含む混合物10に対して、炭素殻6を残したまま金属粒子5を除くように精製することで、カーボンナノチューブ2の表面積に加え、炭素殻6の表面も有効利用でき、表面積を利用する応用デバイスではその性能を向上させる効果を有する。表面積を利用する応用には、電気二重層キャパシタや、各種のガス・イオン吸着材、ガス・バイオセンサー材料などがあり、例えば電気二重層キャパシタの場合、その容量を増やすことができる。中空炭素粒子3および炭素殻-金属複合粒子7のいずれも、曲率半径が小さい。曲率を利用するフィールドエミッション応用では、カーボンナノチューブ側壁が平滑であるのに対し、炭素殻で凹凸をつけることができるので、例えば電界電子放出能を向上することができる。中空炭素粒子3の炭素殻-金属複合粒子7に対する個数の比率は処理温度で制御することができる。低温では一部の炭素殻-金属複合粒子7から、高温ではより多くの炭素殻-金属複合粒子7から、触媒金属の金属粒子5を除去することができる。すなわち、高温にするほど、中空炭素粒子3の占める比率が大きくなる。中空炭素粒子3数と炭素殻-金属複合粒子7数の合計に対する中空炭素粒子3数の好ましい比率は50%~100%であり、90%~100%であるとより好ましい。混合物10をハロゲン元素含有ガス20と接触させる際の処理温度は、600~1400℃、好ましくは700~1300℃、より好ましくは800~1200℃である。
【0048】
中空炭素粒子3および炭素殻-金属複合粒子7の炭素殻外径は2~40nmであることが好ましい。炭素殻外径が1nm程度であると、中空炭素粒子3および炭素殻-金属複合粒子7はほぼ球形である。炭素殻外径が2nm以上であることで、中空炭素粒子3および炭素殻-金属複合粒子7は多面体形状を有し、電界電子放出の際に電界集中できる。
【0049】
中空炭素粒子3および炭素殻-金属複合粒子7の合計の個数は、カーボンナノチューブ2の本数の0.1倍以上であることが好ましく、1倍以上であることがより好ましい。それにより、上記の各種効果を大きくすることができる。
【0050】
金属粒子5は、カーボンナノチューブ2の生成の際に使用される触媒金属の粒子であり、その金属は、例えばFe、Ni、Co、Y、Mo、Laまたはこれらの合金である。
【0051】
本実施形態の複合体1は、例えば、かさ密度0.001~0.2g/cm3であり、ハロゲン含有率が0.01~3質量%であり、金属含有率が10質量%以下である。
【0052】
金属粒子を除去してカーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1を形成する際に用いるカーボンナノチューブ2と炭素殻-金属複合粒子7の混合物10は、触媒金属の金属粒子5を1 wt%以上含むと複合体1中の中空炭素粒子3の割合を増やすことができるところから好ましく、触媒金属の金属粒子5を10 wt%以上含むと複合体1中の中空炭素粒子3の割合を更に増やすことができるところから更に好ましい。また、カーボンナノチューブ2を1 wt%以上含むと複合体1中のカーボンナノチューブ2の割合を増やすことができるところから好ましく、またカーボンナノチューブ2を10 wt%以上含むと複合体1中のカーボンナノチューブ2の割合を更に増やすことができるところから更に好ましい。これらの複合体1中の中空炭素粒子3の割合およびカーボンナノチューブ2の割合は、複合体1の用途に応じて適宜設定することができる。
【0053】
金属粒子を除去して中空炭素粒子3を形成する際に使用するエッチングガス20は、ハロゲン元素含有ガスが好ましく、ハロゲンガスがより好ましく、特に塩素ガスおよび臭素ガスが好ましい。ハロゲン元素含有ガスとしては、ハロゲンガス、ハロゲン化水素、ハロゲン化炭化水素などがあり、ハロゲンガスとしてはフッ素ガス、塩素ガス、臭素ガス、ヨウ素ガスがある。塩素ガスまたは臭素ガスを使用する場合、複合体1は0.0001~1 wt%の塩素または臭素を含有することが好ましい。塩素または臭素の含有率が、該範囲内であればドープによる導電性向上を始めとした各種効果が期待でき、1 wt%を超えると周辺への腐食作用を及ぼす虞がある。ハロゲン元素含有ガスが塩素ガスまたは臭素ガスの場合、塩素ガスまたは臭素ガスを0.1 Torr以上の、好ましくは1 Torr以上の、より好ましくは10 Torr以上の分圧で供給することができる。
【0054】
本実施形態に係る除去方法により混合物10から金属粒子5を除去し、カーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1を製造する製造方法について説明する。
【0055】
図3は、炭素殻6を残したまま金属粒子5を除去してカーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1を製造する製造工程を示す流れ図である。まず、ステップS1では、カーボンナノチューブ2と、炭素殻6に覆われた触媒金属の金属粒子5とを含む混合物10を用意する。次に、ステップS2で、混合物10に対し、加熱状態でエッチングガス20を接触させる。炭素原子、触媒金属の金属粒子5を構成する金属原子、および/またはハロゲン原子は、高温では相互に拡散するため、炭素殻6を壊すことなく、金属粒子5から金属を除去できる。金属はハロゲン化すると蒸気圧が高まるため、蒸気としてガス中に除去できる。この工程は、混合物10を加熱してハロゲン元素含有ガス20と接触させる金属粒子除去工程である。そして、ステップS3でカーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1を回収する。
【0056】
図4は、上記ステップS1~S3を実施して、本実施形態に係る除去方法により混合物10から金属粒子5を除去する除去装置として機能し、カーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1を製造する製造装置の構成の一例を示す概略図である。例えば反応管からなる反応器21には、カーボンナノチューブ2と、炭素殻6に覆われた触媒金属の金属粒子5とを含む混合物10が、混合物供給機構23から供給される。反応器21は、例えば加熱炉からなる加熱機構22により加熱され、ハロゲン元素含有ガス等のエッチングガス20または必要に応じて不活性ガスや水素ガスが、ガス供給機構24から供給される。加熱機構22は、上記加熱炉のように反応器21を外部から加熱するものの他、反応器21内を流れるガスを加熱するものであってもよい。供給されたエッチングガス20が反応器21内で混合物10に接触することで、炭素殻6を残したまま金属粒子5が除去される。こうして製造されたカーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1が複合体回収機構25により回収される。
【0057】
図5は、本実施形態に係る除去方法により混合物10から金属粒子5を除去する除去装置として機能し、カーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1を製造する装置の一例として、簡易的な製造装置4を示す概略図である。
【0058】
カーボンナノチューブ2と、炭素殻6に覆われた触媒金属の金属粒子5とを含む混合物たるカーボンナノチューブ凝集体10を、反応器21を構成する石英ガラス管11内に固定された基台12上に配置する。基台12は石英ガラス管11の長手方向に延びており、カーボンナノチューブ凝集体10は該長手方向の略中央部に配置される。
【0059】
カーボンナノチューブ凝集体10は、炭素殻6で覆われた触媒金属の金属粒子5の金属ナノ粒子を1 wt%以上含むことが好ましい。本実施形態では、炭素殻6を除去するための酸化処理等を一切行う必要がない。
【0060】
基台12の下方には、石英ガラス管11の一端に流入口15を有するエッチングガス供給管14が、基台12の先端部付近まで延設される。流入口15から流通されるエッチングガス20は、エッチングガス供給管14内を通り、流出口16から石英ガラス管11内に供給される。エッチングガス20はその後カーボンナノチューブ凝集体10に接触し、生成されたガスと共に、石英ガラス管11の排気口17から排気される。エッチングガス20は0.1 Torr以上の分圧で流通させることが好ましい。
【0061】
石英ガラス管11の外周には、石英ガラス管11内を加熱する加熱機構22としてヒーター13が設けられる。触媒金属の金属粒子5を効率よく除去するためには、600℃以上に加熱することが好ましい。
【0062】
カーボンナノチューブ凝集体10を加熱状態にて塩素ガス20と接触させると、炭素原子、触媒金属の金属粒子5を構成する金属原子、および/またはハロゲン原子は、高温では相互に拡散するため、炭素殻6を通して触媒金属の金属粒子5を除去することができる。具体的には、エッチングガス20が塩素ガスで、触媒金属の金属粒子5がFeである場合、下記式(1)の反応でFeを除去することができる。
【0063】
【0064】
図6は石英ガラス管11内に配置したカーボンナノチューブ凝集体10を示す写真図であり、
図7は触媒金属の金属粒子5をエッチング中の様子を示す写真図であり、
図8はエッチング後に得られた、石英ガラス管11内のカーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1を示す写真図である。
【0065】
尚、製造装置4は、混合物たるカーボンナノチューブ凝集体10をエッチングガス20に接触させることができれば、
図5の構成に限定されるものではない。
【0066】
以下、好適な別の実施形態として、本実施形態に係る除去方法により混合物10から金属粒子5を除去する除去装置として機能し、カーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1を製造するための製造装置の一例について説明する。
【0067】
図9は、該製造装置4’の概略図である。21は例えば石英ガラス製の反応器であり、反応器21の外周に加熱炉からなる加熱機構22が設けられて縦型反応器19が構成される。加熱機構22は、前述の通り、上記加熱炉のように反応器21を外部から加熱するものの他、反応器21内を流れるガスを加熱するものであってもよい。反応器21の上方にはバルブ30を介して、混合物供給機構23と、不活性ガス、水素ガス、または、ハロゲン元素含有ガス等のエッチングガス20を供給するガス供給機構24とが接続される。混合物供給機構23と、ガス供給機構24との切り替えは、バルブ31によって行われる。反応器21は、混合物10の保持機構40をさらに有し、該保持機構40が複数の孔29を有する分散板28または断面積が次第に縮小するテーパ部41からなる。
図9では、反応器21内において、加熱炉22の下端位置付近に、複数の孔29を有する分散板28が設けられる。
図10では、分散板28と同様の位置に、断面積が次第に縮小するテーパ部41が設けられる。分散板28を設けた場合、混合物供給機構23から供給された混合物10は分散板28上に堆積され、混合物10とガス供給機構24から供給されたエッチングガス20との反応により生成されたガスは分散板28の孔29を通過して排気機構26により排気される。また、複合体1を回収する際にキャリアガスを供給する場合には、キャリアガスは分散板28の孔29を通過する。排気機構26とキャリアガス供給機構27との切り替えはバルブ32により行われる。反応器21には、加熱炉22とバルブ30との間の側面に、バルブ33を介して反応器21から複合体1を回収する複合体回収機構25が接続される。複合体回収機構25としては、例えばサイクロンやバグフィルタ、重力分離装置、スクラバー等により複合体1を回収する機構が用いられる。
【0068】
以下、本実施形態の製造装置4’を用いて混合物10から金属粒子5を除去し、カーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1を製造する工程について説明する。
【0069】
図11に示すように、石英ガラス製の分散板付縦型反応器19に、カーボンナノチューブ2と炭素殻6に覆われた金属粒子5とを含む混合物10を、空気、N
2、Ar、H
2などのキャリアガスで同伴させて充填する。次に、ガス供給機構24によりN
2、Arなどの不活性ガスを上方から下方へ流し、縦型反応器19内のガスを置換した後に、600℃以上の所定の温度に昇温する。なお、ガスの置換後に不活性ガスにH
2を追加して流通させても、不活性ガスをH
2に切り替えて流通させても良い。混合物10およびガスを供給する導入口のバルブ30は開状態、複合体1の複合体回収機構25側のバルブ33は閉状態である。
【0070】
次に、
図12に示すように、ガス供給機構24から供給するガスを、ハロゲン元素含有ガスを含むエッチングガス20に切り替えて、該ガス20を上方から下方に流通させる。エッチングガス20は混合物10に接触されて、所定時間エッチング処理を行うことで、触媒金属の金属粒子5を除去する。エッチング処理後、不活性ガスを上方から供給して縦型反応器19内のガスを置換する。
【0071】
その後、
図13に示すように、混合物10およびガスを供給する導入口のバルブ30を閉じ、複合体1の複合体回収機構25側のバルブ33を開け、縦型反応器19の下方のキャリアガス供給機構27からキャリアガスを流通させ、処理を終えた複合体1をガス流に同伴させて縦型反応器19から取り出す。複合体1はサイクロンやバグフィルタ、重力分離装置、スクラバー等でガスから分離および回収する。このように、本実施形態の製造装置4’によれば、バッチ処理をすることができる。尚、エッチング処理後に水素を含むガスを流通させても良い。
【0072】
また、同じ装置4’を用いて、半連続処理も可能である。縦型反応器19を600℃以上の所定の温度に保ったまま、上方から混合物10を不活性ガスに同伴して縦型反応器19内に充填し、エッチングガス20を含むガスを上方から供給して触媒金属の金属粒子5を除去し、不活性ガスを上方から供給して縦型反応器19内のガスを置換する。その後、混合物10およびガスを供給する導入口のバルブ30を閉じ、複合体1の複合体回収機構25側のバルブ33を開け、キャリアガスを縦型反応器19の下部のキャリアガス供給機構27から供給し、複合体1を気流に乗せて回収する。エッチング処理前後に水素を含むガスを流通させても良い。このように半連続操作をすると、縦型反応器19の昇温および冷却が不要となりることにより、生産性を向上することができる。
【0073】
以上のような混合物10から金属粒子5を除去する除去装置として機能する製造装置4’によれば、混合物10を縦型反応器19内に保持し、ハロゲン元素含有ガス20を縦型反応器19内で上方より下方に向かって流れるように縦型反応器19内に供給することにより、混合物10にハロゲン元素含有ガス20を接触させることができる。
【0074】
該製造装置4’を使用して、本実施形態に係る除去方法により混合物10から金属粒子5を除去し、複合体1を製造する製造方法によれば、混合物10を縦型反応器19に上方から充填する充填工程と、ハロゲン元素含有ガス20および水素ガスの少なくとも一方を上方から供給して下方から排出することで金属粒子5を除去して、カーボンナノチューブ2と、金属粒子5が除去されて中空状で閉じた形状を有する中空炭素粒子3とを含む複合体1を得る金属粒子除去工程とを含むことで、金属粒子5が除去されたカーボンナノチューブ2と中空炭素粒子3の複合体1を製造することができる。
【0075】
該製造方法はさらに、縦型反応器19の下方から上方にキャリアガスを流して複合体10を縦型反応器19から取り出し回収する工程を含むことができる。
【0076】
縦型反応器19を加熱状態に保ったまま、上記の充填工程、金属粒子除去工程、および取り出し工程を複数回繰り返すこともできる。
【0077】
本実施形態に係る除去装置として機能する、複合体1の製造装置の構成をまとめると、該製造装置は、反応器21と、反応器21および反応器21内へ供給するガスの少なくともいずれかを加熱する加熱機構13,22と、カーボンナノチューブ2と炭素殻6に覆われた金属粒子5とを含む混合物10を反応器21へ供給する混合物供給機構と、不活性ガスおよびハロゲン元素含有ガス20を反応器21へ供給するガス供給機構24とを備える。
【0078】
反応器21は垂直方向に設置される縦型反応器19とすることができ、ガス供給機構24は不活性ガスおよびハロゲン元素含有ガス20を反応器21内で上方より下方に向かって流れるように反応器21内に供給することができる。
【0079】
反応器21が垂直方向に設置される縦型反応器19では、カーボンナノチューブ2と、金属粒子5が除去されて中空状で閉じた形状を有する中空炭素粒子3とを含む複合体1を反応器21から回収するために同伴させるキャリアガスを反応器21へ供給するキャリアガス供給機構27をさらに備えることができ、キャリアガス供給機構27はキャリアガスを反応器21内で下方より上方に向かって流れるように反応器21内に供給する。
【0080】
エッチングガス20が塩素ガスまたは臭素ガスである場合、カーボンナノチューブ凝集体10を塩素ガスまたは臭素ガス20と接触させた後に、加熱状態で水素ガスに接触させると、複合体1内に残存する塩素または臭素を除去することができる。
【0081】
カーボンナノチューブ凝集体10を、塩素ガスまたは臭素ガス20と接触させる前および接触させた後の少なくとも一方に、水素ガスに接触させると、炭素殻6に覆われないで混入している金属酸化物が還元され、続く塩素ガスまたは臭素ガス20との接触工程S2で還元された金属を効果的に除去することができる。
【0082】
カーボンナノチューブ凝集体10が粉末状、綿状ないし不織布状の集合形態を有していると、例えばフィルター上にカーボンナノチューブ2を捕集したナノチューブペーパーのまま処理することができるので好ましい。
【0083】
このように本発明は、従来、混合物10を酸化する工程を経るなどして炭素殻6を除去した上で触媒金属の金属粒子5を除去していたのに対し、混合物10をハロゲン元素含有ガス20と接触させる前に混合物10の炭素殻6を酸化する工程を経ずに、炭素殻6を残したまま触媒金属の金属粒子5を除去するので、カーボンナノチューブ2への損傷を減らすことができる。また、炭素殻6を残すことができるため、触媒金属の金属粒子5が酸化されず、エッチングガス20により触媒金属の金属粒子5を除去することができる。エッチングガス20による気相法を使用するので、簡便な方法で除去処理を行うことができる。さらに、カーボンナノチューブ2を液体で濡らす湿式工程を有さないので、カーボンナノチューブ2が緻密化しない。カーボンナノチューブ2を液体で濡らした後に乾燥すると、表面張力によりカーボンナノチューブ2が0.2 g/cm3超に緻密化し、分散が難しくなり、用途に制限を生じる。湿式工程を用いず、気相法で除去処理を行うことで、カーボンナノチューブ2を0.2 g/cm3以下の低密度の分散容易な状態に保つことができる。
【実施例】
【0084】
実施例1~3は、混合物10から金属粒子5を除去する本発明の除去装置として機能する製造装置4で、カーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1を製造したものである。製造条件および評価条件と評価結果について説明する。
【0085】
(実施例1)火炎合成法により合成した単層カーボンナノチューブ
火炎合成法により合成した直径0.8~2 nm程度、平均直径約1 nmの単層カーボンナノチューブを含む混合物10としてのカーボンナノチューブ凝集体を試料に用いた。カーボンナノチューブ凝集体10を石英ガラス管11内に設置し、石英ガラス(図示せず)で固定した。25 vol% H2/Ar を流通させながら800~1000℃まで昇温後、1 vol% Cl2/Ar を全圧760 Torr で60分間流通させた後、Arガスを流通させながら急冷した。カーボンナノチューブ凝集体10を塩素処理して製造したカーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1は、走査型電子顕微鏡(SEM)-エネルギー分散X線分光(EDS)により組成を、レーザー顕微ラマン分光(Raman)により結晶性を、透過電子顕微鏡(TEM)で構造をそれぞれ分析した。
【0086】
レーザー顕微ラマン分光において、1590cm-1付近に現れるピークは、G-bandと呼ばれ、六員環構造を有する炭素原子の面内方向の伸縮振動に由来するものである。また、1350cm-1付近に現れるピークは、D-bandと呼ばれ、六員環構造に欠陥があると現れやすくなる。相対的なカーボンナノチューブ2の結晶性は、D-bandに対するG-bandのピーク強度比IG/ID(G/D比)によって評価することができる。G/D比が高いほど結晶性の高いカーボンナノチューブ2であるといえる。
【0087】
表1に塩素ガスによる金属粒子に対する除去処理時の温度を変化させた場合の触媒金属の金属粒子5たるFeの除去率およびIG/IDを検討した結果を示す。Cl2分圧は7.6 Torr、全圧760 Torr、Cl2 1 vol%、Ar 99 vol%、処理時間は60分間とした。
【0088】
【0089】
未処理ではFe/C比が0.412 wt/wtのところ、処理温度を上昇させるほどFeが除去され、1000℃での処理ではFe/C比が0.031 wt/wtまで減少した。処理前後で炭素量が一定とすると、92.4%のFeが除去されたと算出できる。(なお、炭素量が減少した場合には、それ以上のFeが除去されたことになる)。このように、本発明の製造方法は、高除去率のカーボンナノチューブの精製方法ともいえる。カーボンナノチューブ2のラマンスペクトルでは、IG/IDが未処理の29.4から900℃で95.3まで上昇した。
【0090】
図14および
図15に未処理の場合のTEM 観察像を示す。塩素処理前は炭素殻6に覆われたFe粒子5が多く存在し、中空炭素粒子3は見当たらない。
【0091】
図16~
図18に900℃で処理した場合のTEM観察像を示す。未処理の場合に比べ、Fe粒子5がかなり減少し、中空炭素粒子3が多く観察される。
図18では、3層や6層の多層炭素殻構造を有する中空炭素粒子3が観察された。
【0092】
図19~
図21に1000℃で処理した場合のTEM観察像を示す。炭素殻-Fe複合粒子7よりも中空炭素粒子3の数の方が多いことが分かる。
図20および
図21では、炭素殻6内にFeと空隙が共存する粒子も観察された。
【0093】
図16~
図21の透過型電子顕微鏡像の中ではカーボンナノチューブ2と中空炭素粒子3は同程度の数が観察される。カーボンナノチューブ2は数μm以上と実際には長いので、視野を数μmに広げると、カーボンナノチューブ2の本数は視野の拡大率の1乗で増えるのに対し、中空炭素粒子3は視野の拡大率の2乗で増える。そのため、複合体1の中にはカーボンナノチューブ2よりも同程度以上の中空炭素粒子3が含まれていることがわかる。
【0094】
表2に混合物たるカーボンナノチューブ凝集体10を、塩素ガス20と接触させた後に、加熱状態で水素ガスに接触させて塩素を塩化水素として、塩素を除去した場合の塩素の除去率を示す。触媒金属の金属粒子5のFeを除去するための塩素処理の条件は、処理温度が1000 ℃、Cl2分圧が7.6 Torr、処理時間が60分間とした。塩素処理後に、1000 ℃の加熱状態にて、25 vol% H2/Arを全圧760 Torrで10分間流通させた後、急冷した。
【0095】
【0096】
水素処理前ではCl/C比が0.161 wt/wtのところ、水素処理後ではCl/C比が0.0068 wt/wtまで減少した。水素処理前後で炭素量が一定とすると、95.8%のClが除去されたと算出できる。
【0097】
(実施例2)アーク放電法により合成した単層カーボンナノチューブ
実施形態に係る混合物10として、アーク放電法により合成した直径1~2 nmの単層カーボンナノチューブを試料に用いた。製造条件は、処理温度を変化させた場合の評価については実施例1と同様であり、Cl2分圧を変化させた場合の評価については、Cl2分圧を0.05 Torr~1.0 Torrまで変化させ、処理時間を変化させた場合の評価については、処理時間を10分間および30分間とした。
【0098】
表3にCl2分圧を変化させたときの触媒金属の金属粒子5たるNiの除去率およびIG/IDの測定結果を示す。処理温度は800℃、処理時間は30分間とした。
【0099】
【0100】
未処理ではNi/C比が0.923 wt/wtのところ、Cl2ガス処理時のCl2分圧を大きくするほどNiが除去され、1.0 TorrではNi/C比が0.213 wt/wtまで減少した。処理前後で炭素量が一定とすると、76.9%のNiが除去されたと算出できる。カーボンナノチューブ2のラマンスペクトルでは、IG/IDは未処理の場合と比較してほぼ変化はなかった。
【0101】
表4に触媒金属の金属粒子5たるNiの除去率およびIG/IDの処理温度を変化させた場合の結果を示す。Cl2分圧は7.6 Torr、処理時間は10分間とした。
【0102】
【0103】
未処理ではNi/C比が0.923 wt/wtのところ、Cl2ガス処理時の温度を上昇させるほどNiが除去され、1000℃処理ではNi/C比が0.191 wt/wtまで減少した。処理前後で炭素量が一定とすると、79.3%のNiが除去されたと算出できる。カーボンナノチューブ2のラマンスペクトルでは、IG/IDが未処理の30.5から1000℃で116まで上昇した。
【0104】
表5に触媒金属の金属粒子5たるNiの除去率およびIG/IDの処理時間を変化させた場合の結果を示す。Cl2分圧は7.6 Torr、処理温度は900℃とした。
【0105】
【0106】
未処理ではNi/C比が0.923 wt/wtのところ、塩素ガスによる処理時間を長くするほどNiが除去され、1000℃処理ではNi/C比が0.171 wt/wtまで減少した。処理の前後で炭素量が一定とすると、81.5%のNiが除去されたと算出できる。カーボンナノチューブ2のラマンスペクトルでは、IG/IDが未処理の30.5から30分間で116まで上昇した。
【0107】
表6に触媒金属の金属粒子5たるNiおよびY、助触媒たるSの除去率の処理温度および処理時間を変化させた場合の結果を示す。Cl2分圧は7.6 Torrとした。
【0108】
【0109】
未処理ではNi/C比が0.923 wt/wt、Y/C比が0.115 wt/wt、S/C比が0.115 wt/wtのところ、塩素ガス処理における処理温度が高いほど、また処理時間が長いほどこれらの比率が減少した。処理の前後で炭素量が一定とすると、1000℃、60分処理では90.6 %のNi、79.8 %のY、95.1 %のSが除去されたと算出できる。触媒金属の金属粒子5だけでなく、助触媒の硫黄まで本発明の方法で除去が可能であった。
【0110】
図22および
図23に未処理の場合のTEM 観察像を示す。塩素ガス処理前は炭素殻6に覆われたNi粒子5が多く存在し、中空炭素粒子3は見当たらない。2~3層の炭素殻6に覆われたNi粒子5が比較的多く観察された。
【0111】
図24~
図26に、1000℃、60分間処理の場合のTEM観察像を示す。炭素殻-Ni複合粒子7よりも中空炭素粒子3の数の方が多いことが分かる。これらの図では1層~11層の多層炭素殻構造の中空炭素粒子3が確認された。
図24からは、長径36nm、短径19nmの大きな中空炭素粒子3が存在することが分かる。
【0112】
(実施例3)CVD法により合成した多層カーボンナノチューブ
実施形態に係る混合物10として、CVD法により合成した直径10~30 nm、平均直径約20 nmの多層カーボンナノチューブを試料に用いた。製造条件は、処理温度を変化させた場合および処理時間を変化させた場合の評価については実施例2と同様であり、Cl2分圧を変化させた場合の評価については、Cl2分圧を0.05 Torr~7.6 Torrまで変化させた。
【0113】
表7に触媒金属の金属粒子5たるFeの除去率およびIG/IDのCl2分圧を変化させた場合の結果を示す。処理温度は800℃、処理時間は30分間とした。
【0114】
【0115】
未処理ではFe/C比が0.0750 wt/wtのところ、Cl2ガス処理におけるCl2分圧を大きくするほどFeが除去され、1.0 Torr以上で効果が大きく、7.6 TorrではFe/C比が0.0302 wt/wtまで減少した。処理の前後で炭素量が一定とすると、59.8%のFeが除去されたと算出できる。カーボンナノチューブ2のラマンスペクトルでは、IG/IDは未処理の場合と比較してほぼ変化はなかった。
【0116】
表8に触媒金属の金属粒子5たるFeの除去率およびIG/IDの処理温度を変化させた場合の結果を示す。Cl2ガス処理におけるCl2分圧は7.6 Torr、処理時間は10分間とした。
【0117】
【0118】
未処理ではFe/C比が0.0750 wt/wtのところ、処理温度を上昇させるほどFeが除去され、1000℃でのCl2ガス処理ではFe/C比が0.0037 wt/wtまで減少した。処理前後で炭素量が一定とすると、95.1%のFeが除去されたと算出できる。カーボンナノチューブ2のラマンスペクトルでは、IG/IDが未処理の場合と比較して若干減少した。
【0119】
表9に触媒金属の金属粒子5たるFeの除去率およびIG/IDの処理時間を変化させた場合の結果を示す。Cl2ガス処理におけるCl2分圧は7.6 Torr、処理温度は900℃とした。
【0120】
【0121】
未処理ではFe/C比が0.0750 wt/wtのところ、処理時間を長くするほどFeが除去され、30分間の処理ではFe/C比が0.0052 wt/wtまで減少した。処理の前後で炭素量が一定とすると、93.1%のFeが除去されたと算出できる。カーボンナノチューブ2のラマンスペクトルでは、IG/IDが未処理の場合と比較して若干減少した。
【0122】
図27および
図28に未処理の場合のTEM 観察像を示す。塩素処理前は炭素殻6に覆われたFe粒子5が多く存在し、中空炭素粒子3は見当たらない。
【0123】
図29および
図30に、1000℃、60分間処理の場合のTEM観察像を示す。
図29では、カーボンナノチューブ2の末端8内の触媒金属の金属粒子5が除去されていることが確認された。このように、本発明の製造方法は、高除去率の除去方法および精製方法としても利用することができる。また、
図29中、年輪状のカーボンナノチューブ2が観察される。これはカーボンナノチューブ2が図面に対して垂直に立っているため、輪切り状に見えるためである。これらのカーボンナノチューブ2は、円筒が立っていて奥行に厚いので、壁が濃く見えている。一方、
図29で観察される中空炭素粒子3は、球状であるため、図面垂直方向の奥行が薄いので、壁の色も薄くなっている。
図30では、20層の炭素殻6を有する中空炭素粒子3が確認された。
【0124】
(実施例4)縦型反応器を用いた臭素ガスおよび塩素ガスによる処理
実施例4は、混合物10から金属粒子5を除去する本発明の除去装置として機能する製造装置4’で、カーボンナノチューブ2および中空炭素粒子3を含む複合体1を製造したものである。実際に使用した縦型反応器19の構成の概略図を
図31に示す。混合物10としてのカーボンナノチューブ凝集体には、TUBALL(登録商標)単層カーボンナノチューブ(OCSiAl社)を使用した。反応器21として石英ガラス管42を使用した。石英ガラス管42は、内径4mmの太径部43を上下に有し、縮径された縮径部44を中心部に有する。石英ガラス管42の上方から導入されたカーボンナノチューブ凝集体10は、縮径部44を通過できないため、上方の太径部43の底に堆積される。石英ガラス管42の内径を細くすることで、ガス流路を狭くし、カーボンナノチューブ凝集体10の全体に対し、エッチングガス20が均一に接触するようにした。
【0125】
本実施例では、まず、約2.5mgのカーボンナノチューブ凝集体10を石英ガラス管42内に充填した。石英ガラス管42内をArガスで置換した後、真空に引いて脱気した。石英ガラス管42内に詰まったカーボンナノチューブ凝集体10を円柱とみなして、カーボンナノチューブ凝集体10の密度を算出した。加熱機構22により石英ガラス管42内を加熱して昇温し、水素ガスを上方から下方に流してH2前処理を行った。その後、石英ガラス管42内をArガスにより置換し、臭素ガスまたは塩素ガスのエッチングガス20を上方から下方に流して金属粒子5に対する除去処理を行った。所定の処理時間経過後、石英ガラス管42内をArガスにより置換し、水素ガスを上方から下方に流してH2後処理を行った。加熱を停止して、Arガスを流通させて石英ガラス管42内を冷却し、室温まで降温した後、処理済の複合体1の高さを測定した。そして、複合体1を取り出して、秤量した。
【0126】
SEM-EDS測定の際には、下地の影響を少なくするため、複合体1を2枚の銅板に挟んで上下方向から圧力を加え、銅板に付着させた後、一方の銅板を取り外し、他方の銅板上に複合体1が付着した状態で測定を行った。300倍の倍率でSEM-EDS分析を行い、C、O、Fe、BrおよびClの4種類の元素組成を評価した。観察箇所は、所定の点で観察した後、1.5~2mm程度離れた箇所でも測定を行い、これを繰り返して15点程度の箇所で測定を行った。混合物10として用いたTUBALL(登録商標)単層カーボンナノチューブは、触媒金属としてのFeが不均一に含まれているが、複数の箇所で測定することにより、観察場所による観察結果の違いの影響を抑えて分析した。
【0127】
図32に、昇温から降温までのガスの流量、全圧、および処理時間の標準条件を示す。処理後の鉄含有率および処理後に残留するハロゲンガス(臭素ガスまたは塩素ガス)のハロゲン含有率について、15点の測定点における平均値および標準偏差を求めた。臭素ガスまたは塩素ガスによる処理時間を変化させて鉄含有率、密度およびハロゲン含有率を評価した。臭素ガスまたは塩素ガスのハロゲンガス分圧を変化させて鉄含有率、密度およびハロゲン含有率を評価した。水素ガスによるH
2後処理時間は、臭素ガスの処理時間を10分間および30分間とした場合に10分間として、それ以外では15分間とした。
【0128】
臭素は常温で液体であるため、次の方法により、10 vol% Br2/Ar を10 sccm、1 Torr で石英ガラス管42内に供給した。まず、Arガス供給ラインにArガス9 sccmを流通させた。次に、石英ガラス管42の下方から真空排気し、0.9 Torrとなるように調整した。その後、Arガスの供給を停止し、Br2ガス供給ラインのバルブを開け、0.1 Torrに合わせた。最後に、Arガス供給ラインからArガス9 sccmを再度流通させ、1 Torrとなるように調整した。
【0129】
表10および表11に、それぞれ臭素ガスおよび塩素ガスによる処理を、処理時間を変化させて行った場合の鉄含有率、密度およびハロゲン含有率の結果を示す。処理温度は1000℃、全圧1 Torr(ハロゲン分圧0.1 Torr)とし、処理時間を10分間、30分間および60分間とした。臭素ガスおよび塩素ガスの両方とも、処理時間を長くするほど鉄含有率の平均値が小さくなった。処理時間30分以上のすべての場合で、Feの含有率は3 wt%未満となり、未処理の16.17 wt%と比較し80%以上の鉄が除去されたことがわかる。塩素ガスおよび臭素ガスの分圧を0.1 Torrととても小さくしても、
図31の処理装置により混合物とエッチングガスの接触を良好にすることで、触媒金属たるFeを効果的に除去できることがわかる。鉄含有率の標準偏差は、臭素ガスの場合、処理時間を長くするほど小さくなった。塩素ガスの場合も、鉄含有率の標準偏差は、未処理の場合に比べ、処理後に著しく小さくなった。ハロゲン含有率については、臭素ガスの場合、処理時間10分間および30分間でも、臭素含有率が比較的大きかった。そこで、H
2後処理時間を10分間から15分間にしたところ、処理時間60分間の場合に臭素含有率の平均値および標準偏差が小さくなった。塩素ガスの場合、ハロゲン含有率の平均値は処理時間30分間の場合に最も小さくなり、標準偏差は処理時間10分間の場合に最も小さくなった。塩素ガスをエッチングガスとして用いた場合はH
2後処理時間を10分間としたすべての場合で、臭素ガスをエッチングガスとして用いた場合はH
2後処理時間を15分間とした場合で、塩素および臭素のいずれも含有率の平均値が1 wt%未満と非常に低い値となった。
【0130】
【0131】
【0132】
表12および表13に、それぞれ臭素ガスおよび塩素ガスによる処理を、ハロゲンガス分圧を変化させて行った場合の鉄含有率、密度およびハロゲン含有率の結果を示す。処理温度は1000℃、処理時間は60分間とし、ハロゲンガス分圧を0.1 Torrおよび0.3 Torrとした。臭素ガスおよび塩素ガスともに、ハロゲンガス分圧が0.3 Torrの場合の方が、鉄含有率の平均値および標準偏差が小さくなった。ハロゲンガス分圧を0.1 Torrとしても、また0.3 Torrに上げても、臭素および塩素のいずれも含有率の平均値が1 wt%未満と非常に低い値となった。
【0133】
【0134】
【0135】
表14および表15に、それぞれ臭素ガスおよび塩素ガスによる処理を、処理温度を変化させて行った場合の鉄含有率、密度およびハロゲン含有率の結果を示す。全圧1 Torr(ハロゲン分圧0.1 Torr)、処理時間60分間とし、処理温度を600℃、700℃および1000℃とした。臭素ガスおよび塩素ガスともに、処理温度が高い方が、鉄含有率の平均値および標準偏差が小さくなった。ハロゲン含有率も、臭素ガスおよび塩素ガスともに、処理温度が高い方が、平均値および標準偏差が小さくなった。処理温度が600℃の場合、臭素ガスの含有率が1.60 wt%と若干大きかったが、その他の処理条件では、臭素ガスおよび塩素ガスのいずれも含有率の平均値が1 wt%未満と非常に低い値となった。
【0136】
【0137】
【0138】
以上の実施例4の結果をまとめる。かさ密度は、処理前には0.046~0.051 g/cm3であったものが、処理後には0.038~0.048 g/cm3となった。臭素ガス処理の場合のかさ密度は、処理前には0.046~0.051 g/cm3であったものが、処理後には0.041~0.045 g/cm3となった。塩素ガス処理の場合のかさ密度は、処理前には0.048~0.051 g/cm3であったものが、処理後には0.038~0.048 g/cm3となった。
【0139】
金属含有率(鉄含有率)は、処理前には平均値が16.17 wt%であったものが、処理後には1.89~7.08 wt%となった。臭素ガス処理の場合の処理後の鉄含有率の平均値は、2.18~7.08 wt%であった。塩素ガス処理の場合の処理後の鉄含有率の平均値は、1.89~5.12 wt%であった。
【0140】
処理後のハロゲ含有率の平均値は、0.27~1.60 wt%となった。臭素ガス処理の場合の処理後のハロゲン含有率(臭素含有率)の平均値は、0.47~1.60 wt%であった。塩素ガス処理の場合の処理後のハロゲン含有率(塩素含有率)の平均値は、0.27~0.60 wt%であった。
【0141】
以上、本発明を実施形態および実施例に基づいて説明したが、本発明は種々の変形実施をすることができる。例えば、混合物10としてのカーボンナノチューブ凝集体は、実施例で示した、火炎合成法、アーク放電法およびCVD法の合成方法等で合成したものに限られない。また、エッチングガス20による処理条件のハロゲンガスの分圧や処理温度、処理時間の範囲は、実施例で示した範囲に限定されるものではない。
【0142】
なお、ここでは密度0.05g/cm3のTuballカーボンナノチューブを用いた例を示したが、他のカーボンナノチューブにも好適に適用できる。具体的には、浮遊触媒CVD法による密度0.001g/cm3前後のカーボンナノチューブや、担持触媒CVD法による密度0.05/cm3前後のカーボンナノチューブにも適用できる。また、適宜、湿式工程を経ずに圧縮してカーボンナノチューブの密度を高めてもよい。
【符号の説明】
【0143】
1 カーボンナノチューブと中空炭素粒子との複合体
2 カーボンナノチューブ(CNT)
3 中空炭素粒子
5 金属粒子
6 炭素殻
10 カーボンナノチューブ凝集体(混合物)
13,22 加熱機構
19 縦型反応器
20 エッチングガス(ハロゲン元素含有ガス、ハロゲンガス、塩素ガス、臭素ガス)
21 反応器
23 混合物供給機構
24 ガス供給機構
25 複合体回収機構
27 キャリアガス供給機構