IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7044373ヌクレアーゼ非依存的な標的化遺伝子編集プラットフォームおよびその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】ヌクレアーゼ非依存的な標的化遺伝子編集プラットフォームおよびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20220323BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220323BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220323BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220323BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220323BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N1/15 ZNA
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/11 Z
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2018502145
(86)(22)【出願日】2016-07-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-02
(86)【国際出願番号】 US2016042413
(87)【国際公開番号】W WO2017011721
(87)【国際公開日】2017-01-19
【審査請求日】2019-06-17
(31)【優先権主張番号】62/192,876
(32)【優先日】2015-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513068388
【氏名又は名称】ラトガース,ザ ステート ユニバーシティ オブ ニュージャージー
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジン,シェンカン
(72)【発明者】
【氏名】コランテス,ジュアン-カルロス
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/089406(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/133554(WO,A1)
【文献】ZALATAN, J.G., et al.,"Engineering complex synthetic transcriptional programs with CRISPR RNA scaffolds.",CELL,2015年01月15日,Vol.160, No.1-2,pp.339-350,doi: 10.1016/j.cell.2014.11.052
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列標的化タンパク質またはこれをコードするポリヌクレオチドと、
(ii)(a)標的核酸の配列に相補的なガイドRNA配列を含む核酸標的化モチーフ、(b)前記配列標的化タンパク質に結合可能なCRISPRモチーフ、および(c)リクルーティングRNAモチーフを含むRNAスキャホールドまたはこれをコードするDNAポリヌクレオチドと、
(iii)(a)前記リクルーティングRNAモチーフに結合可能なRNA結合ドメイン、(b)リンカー、および(c)DNA/RNA修飾の酵素活性を有するエフェクタードメインを含む非ヌクレアーゼエフェクター融合タンパク質またはこれをコードするポリヌクレオチドと、
を含む、システム。
【請求項2】
前記配列標的化タンパク質がCRISPRタンパク質である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記配列標的化タンパク質がヌクレアーゼ活性を有していない、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記配列標的化タンパク質が、化膿連鎖球菌、B群溶血性連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、サーモフィルス菌、サーモフィルス菌、髄膜炎菌およびトレポネーマ・デンティコラからなる群から選択される種のdCas9またはnCas9の配列を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記リクルーティングRNAモチーフおよび前記RNA結合ドメインが、以下のものからなる群から選択される対である、請求項1~4のいずれか1項に記載のシステム:
テロメラーゼKu結合モチーフおよびKuタンパク質またはそのRNA結合部位;
テロメラーゼSm7結合モチーフおよびSm7タンパク質またはそのRNA結合部位;
MS2ファージオペレーターステムループおよびMS2コートタンパク質(MCP)またはそのRNA結合部位;
PP7ファージオペレーターステムループおよびPP7コートタンパク質(PCP)またはそのRNA結合部位;
SfMuファージComステムループおよびComRNA結合タンパク質またはそのRNA結合部位;並びに、
非天然のRNAアプタマーおよび対応するアプタマーリガンドまたはそのRNA結合部位。
【請求項6】
前記リンカーの長さが0~100アミノ酸残基である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記酵素活性が、脱アミノ化活性、メチルトランスフェラーゼ活性、デメチラーゼ活性、DNA修復活性、DNA損傷活性、ジスムターゼ活性、アルキル化活性、脱プリン化活性、酸化活性、ピリミジンダイマー形成活性、インテグラーゼ活性、トランスポザーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性、リガーゼ活性、ヘリカーゼ活性、フォトリアーゼ活性またはグリコシラーゼ活性である、請求項1~6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記酵素活性が、脱アミノ化活性、メチルトランスフェラーゼ活性またはデメチラーゼ活性である、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記酵素活性が、シトシン脱アミノ化活性またはアデノシン脱アミノ化活性である、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記RNA結合ドメインが、Cas9およびそのRNA結合ドメインのいずれでもない、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のシステムの構成要素(i)~(iii)をコードする、単離された核酸。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸を含む発現ベクターまたは宿主細胞。
【請求項13】
前記標的核酸または前記標的核酸を含む細胞を、請求項1~10のいずれか1項に記載のシステムの構成要素(i)~(iii)にインビトロで接触させることを含み、
前記細胞はヒト細胞または非ヒト細胞であり、前記ヒト細胞は、体細胞、胚性幹細胞、ES様幹細胞、胎児の幹細胞、成人の幹細胞、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞、多分化能幹細胞、寡能性幹細胞または単分化能性幹細胞である、部位特異的な標的DNAの修飾方法。
【請求項14】
細胞中の標的DNAの部位特異的な修飾のための医薬の製造における、請求項1~10のいずれか1項に記載のシステムの使用であって、前記細胞はヒト細胞または非ヒト細胞であり、前記ヒト細胞は、体細胞、胚性幹細胞、ES様幹細胞、胎児の幹細胞、成人の幹細胞、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞、多分化能幹細胞、寡能性幹細胞または単分化能性幹細胞である、使用
【請求項15】
前記標的核酸が染色体外のDNAである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記標的核酸が染色体外のDNAである、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記標的核酸が染色体上のゲノムDNAである、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記標的核酸が染色体上のゲノムDNAである、請求項14に記載の使用。
【請求項19】
前記細胞が、古細菌の細胞、細菌の細胞、真核細胞、真核の単細胞生物、体細胞、生殖細胞、幹細胞、植物の細胞、藻の細胞、動物の細胞、無脊椎動物の細胞、脊椎動物の細胞、魚の細胞、カエルの細胞、トリの細胞、哺乳動物の細胞、ブタの細胞、ウシの細胞、ヤギの細胞、ヒツジの細胞、齧歯動物の細胞、ラットの細胞、マウスの細胞、非ヒト霊長類の細胞およびヒトの細胞からなる群から選択される、請求項13、15および17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞が、古細菌の細胞、細菌の細胞、真核細胞、真核の単細胞生物、体細胞、生殖細胞、幹細胞、植物の細胞、藻の細胞、動物の細胞、無脊椎動物の細胞、脊椎動物の細胞、魚の細胞、カエルの細胞、トリの細胞、哺乳動物の細胞、ブタの細胞、ウシの細胞、ヤギの細胞、ヒツジの細胞、齧歯動物の細胞、ラットの細胞、マウスの細胞、非ヒト霊長類の細胞およびヒトの細胞からなる群から選択される、請求項14、16および18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
前記細胞が、ヒトまたは非ヒトに由来するものである、請求項13、15、17および19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞が、ヒトまたは非ヒトの被験体中のものであるか、これ由来のものである、請求項14、16、18および20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
前記ヒトまたは非ヒトの被験体が遺伝子の遺伝子変異を有している、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記ヒトまたは非ヒトの被験体が遺伝子の遺伝子変異を有している、請求項22に記載の使用。
【請求項25】
前記被験体が、前記遺伝子変異に起因する障害または前記障害を有するリスクを抱えている、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記被験体が、前記遺伝子変異に起因する障害または前記障害を有するリスクを抱えている、請求項24に記載の使用。
【請求項27】
前記部位特異的な修飾が、前記遺伝子変異を修正するか、または前記遺伝子の発現を不活性化する、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記部位特異的な修飾が、前記遺伝子変異を修正するか、または前記遺伝子の発現を不活性化する、請求項26に記載の使用。
【請求項29】
前記被験体が、病原体を有しているか、または前記病原体に曝露されるリスクを抱えている、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記被験体が、病原体を有しているか、または前記病原体に曝露されるリスクを抱えている、請求項22に記載の使用。
【請求項31】
前記部位特異的な修飾が、前記病原体の遺伝子を不活性化する、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記部位特異的な修飾が、前記病原体の遺伝子を不活性化する、請求項30に記載の使用。
【請求項33】
請求項1~10のいずれか1項に記載のシステムを含む、キット。
【請求項34】
再構成および/または希釈のための試薬、並びに核酸またはポリペプチドを宿主細胞中に導入するための試薬からなる群から選択される1つ以上の構成要素をさらに含む、請求項33に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2015年7月15日に出願された米国仮出願第62/192,876号の優先権を主張するものである。当該出願の内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
政府の利益
本明細書に開示された発明の少なくとも一部は、国務省フルブライト留学生プログラムからの政府支援(グラントNo.15130816)を受けてなされたものである。したがって、米国政府は本発明についてある種の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、標的化された遺伝子編集のためのシステムおよびその関連した用途に関する。
【背景技術】
【0004】
標的化された遺伝子の編集は、真核細胞、胚および動物を遺伝的に操作する強力なツールである。これによれば、標的化されたゲノムの位置および/または特定の染色体の配列を削除し、不活性化し、または修飾することができる。現状のいくつかの方法は、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)のような人工的なヌクレアーゼ酵素の使用に依拠している。これらのキメラヌクレアーゼは、プログラム可能な、非特異的DNA切断ドメインに連結した配列特異的DNA結合モジュールを有している。それぞれの新たなゲノム標的が生じると、新規な配列特異的DNA結合モジュールを有する新たなZFNまたはTALENを設計する必要があることから、カスタム設計によるこれらのヌクレアーゼの調製は高価かつ時間のかかるものとなりがちである。また、ZFNおよびTALENの特異性はオフターゲットの切断を媒介しうるものである。近年開発されたゲノム修飾技術は、細菌の、RNAガイド化DNAエンドヌクレアーゼである、規則間隔短鎖反復回文配列クラスター(CRISPR;clusters of regularly interspaced short palindromic repeats)関連タンパク質9(Cas9)を利用してDNA標的部位における特異的な二本鎖切断(DSB)を誘導している。このRNA-Cas9複合体はその同族DNAを認識し、これと塩基対合することでDSBを形成して標的を切断する。
【0005】
しかしながら、未解決の主要な問題の1つは、体細胞における遺伝子変異をいかにして収集するかということである。今のところ、現状の技術における共通のエフェクターはヌクレアーゼであり、これはDNAのDSBをもたらし、これがさらに相同組み換えや非相同末端結合といった細胞の経路の不活性化を引き起こす。このプロセスは多くの主要な欠点を抱えている。第1に、末端結合による末端生成物の予期せぬ性質により、DSBが確率論的で予期できないようなインフレーム変異およびフレームシフト変異の双方を引き起こし、このことが直接的な臨床適用の用途を制限している。第2に、DSBは染色体転座のような非局所的な変異原性イベント(これはこの手法の望ましくない結果である)を生じる可能性を秘めている。インビボではこれらの変化は潜在的に有害なものでありうる。第3に、修復または修正には通常、DSB媒介性の相同組み換えが必要とされるが、ほとんどの体組織/体細胞(そこでの治療が最も問題となる)においてその活性は低いか、または存在しない。
【0006】
このように、ヌクレアーゼを利用した現状の技術では遺伝子編集への適用の可能性が限られており、二本鎖切断を引き起こすヌクレアーゼ活性に依拠しない標的化遺伝子修飾の技術が求められている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、標的化された遺伝子編集システムおよびその関連した用途を提供することにより、上記の要求に対処するものである。
【0008】
具体的に、本発明の一形態によれば、
(i)配列標的化タンパク質またはこれをコードするポリヌクレオチドと、
(ii)RNAスキャホールドまたはこれをコードするDNAポリヌクレオチドと、
(iii)非ヌクレアーゼエフェクター融合タンパク質またはこれをコードするポリヌクレオチドと、
を含むシステムが提供される。上記RNAスキャホールドは、(a)標的核酸の配列に相補的なガイドRNA配列を含む核酸標的化モチーフ、(b)前記配列標的化タンパク質に結合可能なCRISPRモチーフ、および(c)リクルーティングRNAモチーフを含む。上記非ヌクレアーゼエフェクター融合タンパク質は、(a)前記リクルーティングRNAモチーフに結合可能なRNA結合ドメイン、(b)リンカー、および(c)エフェクタードメインを含む。また、上記非ヌクレアーゼエフェクター融合タンパク質は酵素活性を有する。
【0009】
上記システムについて、上記配列標的化タンパク質はCRISPRタンパク質でありうる。好ましくは、上記配列標的化タンパク質はヌクレアーゼ活性を有していないものである。上記配列標的化タンパク質の例としては、化膿連鎖球菌、B群溶血性連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、サーモフィルス菌、サーモフィルス菌、髄膜炎菌およびトレポネーマ・デンティコラからなる群から選択される種のdCas9が挙げられる。
【0010】
上記RNAスキャホールドにおいて、上記リクルーティングRNAモチーフおよび上記RNA結合ドメインは、以下のものからなる群から選択される対でありうる:
(1)テロメラーゼKu結合モチーフおよびKuタンパク質またはそのRNA結合部位;
(2)テロメラーゼSm7結合モチーフおよびSm7タンパク質またはそのRNA結合部位;
(3)MS2ファージオペレーターステムループおよびMS2コートタンパク質(MCP)またはそのRNA結合部位;
(4)PP7ファージオペレーターステムループおよびPP7コートタンパク質(PCP)またはそのRNA結合部位;
(5)SfMuファージComステムループおよびComRNA結合タンパク質またはそのRNA結合部位;並びに、
(6)非天然のRNAアプタマーおよび対応するアプタマーリガンドまたはそのRNA結合部位。
【0011】
上記非ヌクレアーゼエフェクター融合タンパク質において、上記リンカーの配列の長さは0~100(例えば、1~100、5~80、10~50および20~30)のアミノ酸長でありうる。上記酵素活性は、脱アミノ化活性、メチルトランスフェラーゼ活性、デメチラーゼ活性、DNA修復活性、DNA損傷活性、ジスムターゼ活性、アルキル化活性、脱プリン化活性、酸化活性、ピリミジンダイマー形成活性、インテグラーゼ活性、トランスポザーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性、リガーゼ活性、ヘリカーゼ活性、フォトリアーゼ活性またはグリコシラーゼ活性でありうる。ある実施形態では、上記酵素活性は脱アミノ化活性(例えば、シトシン脱アミノ化活性もしくはアデノシン脱アミノ化活性)、メチルトランスフェラーゼ活性またはデメチラーゼ活性である。上記RNA結合ドメインは、Cas9、その機能的等価物およびそのRNA結合ドメインのいずれでもない。
【0012】
上述したシステムの構成要素(i)~(iii)の1つ以上をコードする単離された核酸、当該核酸を含む発現ベクター、または当該核酸を含む宿主細胞もまた、提供される。
【0013】
第2の形態として、本発明によれば、部位特異的な標的DNAの修飾方法が提供される。この方法は、上記標的核酸を、上記システムの構成要素(i)~(iii)に接触させることを含む。当該標的核酸は、細胞中に存在するものでありうる。当該標的核酸は、RNAであってもよいし、染色体外のDNAであってもよいし、染色体上のゲノムDNAであってもよい。当該細胞は、古細菌の細胞、細菌の細胞、真核細胞、真核の単細胞生物、体細胞、生殖細胞、幹細胞、植物の細胞、藻の細胞、動物の細胞、無脊椎動物の細胞、脊椎動物の細胞、魚の細胞、カエルの細胞、トリの細胞、哺乳動物の細胞、ブタの細胞、ウシの細胞、ヤギの細胞、ヒツジの細胞、齧歯動物の細胞、ラットの細胞、マウスの細胞、非ヒト霊長類の細胞およびヒトの細胞からなる群から選択されうる。
【0014】
上記細胞は、ヒトまたは非ヒトの被験体中のものであるか、これ由来のものでありうる。当該ヒトまたは非ヒトの被験体は、遺伝子の遺伝子変異を有している。ある実施形態では、上記被験体は当該遺伝子変異に起因する障害または当該障害を有するリスクを抱えているものである。この場合、上記部位特異的な修飾は、上記遺伝子変異を修正するか、または上記遺伝子の発現を不活性化する。他の実施形態では、上記被験体は病原体を有しているか、または当該病原体に曝露されるリスクを抱えているものであり、上記部位特異的な修飾は、上記病原体の遺伝子を不活性化する。
【0015】
本発明はさらに、上述したシステムまたはその1つ以上の構成要素を含むキットをも提供する。当該システムは、再構成および/または希釈のための試薬、並びに核酸またはポリペプチドを宿主細胞中に導入するための試薬からなる群から選択される1つ以上の構成要素をさらに含んでもよい。
【0016】
以下、本発明の1つ以上の実施形態の詳細について記載する。当該記載および特許請求の範囲の記載から、本発明の他の特徴、目的および利点については明らかとなるものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1A図1B図1C図1Dおよび図1Eは、インビボでの標的化された遺伝子編集のための例示的なヌクレアーゼ非依存的なCasRcureまたはCRCプラットフォームの一連の概略図である。図1A:当該プラットフォームの構成要素を示し、左から右へ、(1)配列標的化成分であるdCas9、(2)(配列標的化のための)ガイドRNAモチーフを含むRNAスキャホールド、(dCas9への結合のための)CRISPRモチーフ、および(エフェクター-RNA結合タンパク質融合物をリクルートするための)リクルーティングRNAモチーフ、並びに、(3)エフェクター-RNA結合ドメイン融合タンパク質である。このシステムは、DNA分子またはRNA分子(右)の特定のヌクレオチドを標的化するようにプログラムされうる。
図1B図1B:上記エフェクタータンパク質がモノマーとして機能する場合、当該システムは、標的部位の上流(左)または下流(右)のいずれかにおける単一の部位を標的とすることができる。
図1C図1C:エフェクタータンパク質が適切な触媒作用のために二量化を必要とする場合には、標的部位の上流および下流の配列を同時に標的とするように当該システムを多重化させることができ、これによってエフェクタータンパク質の二量化を可能とする(右)。あるいは、単一部位へとエフェクタータンパク質を動員するだけで、隣接するエフェクタータンパク質に対するその親和性を上昇させて二量化を促進させるには十分かもしれない(右)。
図1D図1D:標的部位に動員され配置された四量体エフェクター酵素の例であり、これは二重の標的化(左)または単一の標的化(右)により達成されうる。
図1E図1E:RNAである標的を編集するのに(例えば、レトロウイルスの不活性化に)用いられうるシステムである。
図2A図2A図2B図2C図2D図2E図2Fおよび図2Gは、AIDの標的化された動員によってヌクレオチド変換の部位特異的な変換が可能であることを示す。図2A:大腸菌rpoB遺伝子のRRDRクラスターI(配列番号:23および配列番号:24)に沿った標的領域の概要である。図2Aには、(上段)DNA配列(配列番号:23)にPAM(四角囲み)および変異可能な位置(矢印)を示したもの、(中段)これらの実験に用いられるgRNA(すべてのgRNAはテンプレート鎖(TS、-)を標的化するようにプログラムされていた)の結合部位、(下段)タンパク質配列(配列番号:25)にリファンピシン耐性に関与する決定的なアミノ酸(矢印)を示したもの、が記載されている。
図2B図2B:大腸菌MG1655細胞を所定のgRNAで処理し、120μMのリファンピシンを含有するプレート上で選択した。
図2C図2C図2Bの上段パネルから算出された変異頻度である。
図2D図2D:rpoB_TS-4 gRNAを用いたAIDCRC処理(上段、配列番号:26)および未処理の細胞(中段、配列番号:27)からの代表的な配列決定の結果である。C1592>T変異により、タンパク質配列におけるS531Fの変化が生じており(下段、配列番号:28および配列番号:29)、この変異はRifを誘導することが知られている(Petersen-Mahrt, et al., Nature 418, 99-104 (2002), Xu, M., et al., Journal of Bacteriology 187, 2783-2792, doi:10.1128/JB.187.8.2783-2792.2005 (2005), and Zenkin, N., et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy 49, 1587-1590, doi:10.1128/AAC.49.4.1587-1590.2005 (2005))。ここで、修飾されたヌクレオチドおよびアミノ酸残基を、CおよびS(野生型)並びにTおよびF(変異体)と示す。
図2E図2E:rpoB_3、rpoB_TS-4およびスクランブルのそれぞれのgRNA(配列番号:30~配列番号:41)を用いたAIDCRC処理による変異の分布である。
図2F図2F:これらのデータから、CRCは、選択的に5’末端により近い側で、対を形成していない鎖(プロトスペーサー)上に位置する標的シトシン残基を能動的に脱アミノ化することが示唆される。
図3A図3Aおよび図3Bは、CRCシステムのモジュラリティを示す:標的化モジュールのエンジニアリングにより変異の頻度が増加する。図3A:標的化モジュールをdCas9からnCas9D10Aに改変することで、rpoB_TS-4 gRNAを用いて標的化したときのリファンピシンプレート上での生存画分の観点でのシステムの効率は、対コントロール比で18倍(AIDCRC)から43倍(AIDCRCD10A)に増加した。
図3B図3B:標的としてrpoB_TS-4(配列番号:30~配列番号:32)を用いたAIDCRCD10A処理の変異の分布である。C1592は100%のクローンで改変され、そのうち75%がCからTへ変異し、25%がCからAへ変異した。
図4A図4Aおよび図4Bは、CRCシステムのモジュラリティを示す:エフェクターモジュールのエンジニアリングにより変異の頻度が増加する。図4A:APOBEC3G(APO3GCRCD10A)およびAPOBEC1(APO3GCRCD10A)について、プロトタイプシステムであるAIDCRCと共存させてエフェクターとして試験した。APOBEC1を用いて処理すると、rpoB_TS-4 gRNAを用いて標的化したときの変異の頻度はAIDCRCD10Aに対して増加した。APO3GCRCD10Aの活性はAIDCRCよりも低かった。
図4B図4B:標的としてrpoB_TS-4(配列番号:30~配列番号:32)を用いたApo1CRCD10A処理の変異の分布(%)である。C1592>Tの変換は100%のクローンで観察された。また、分析したクローンのうち25%は二重変異を有しており、C1590>Tに変異していた(アミノ酸の変化はなし)。
図5A図5Aおよび図5Bは、CRCシステムのモジュラリティを示す:RNA動員スキャホールドの数を増やすと変異の頻度が増加する。図5A:同じ位置を標的化したまま動員スキャホールドの数を増やすと、変異の効率は対応するスクランブルgRNAコントロールに対して50倍(rpoB_TS-4 1×MS2)から140倍(rpoB_TS-4 2×MS2)に増加した。
図5B図5B:標的としてrpoB_TS-4_2×MS2(配列番号:30~配列番号:32)を用いたAIDCRCD10A処理の変異の分布(%)である。C1592は100%のクローンで改変され、そのうち62.5%がCからTへ変異し、37.5%がCからAへ変異した。
図6A図6A図6B図6Cおよび図6Dは、CRCシステムにより哺乳動物の細胞の染色体外DNAにおける標的ヌクレオチドを修飾してタンパク質の機能を回復させることができることを示す。図6A:これらの実験で用いられるコンストラクトの概要図である。(上段)システムの2つのタンパク質構成要素の化学量論的な濃度を保証するため、タンパク質をコードする遺伝子を、ヒトユビキチンCプロモーター(UbC)の制御下、多シストロン性コンストラクトとしてクローニングした。(下段)5’-Gまたは5’-Aを有する標的を発現させるため、それぞれU6プロモーターまたはH1プロモーターの制御下でキメラgRNA_MS2コンストラクトをクローニングした。
図6B図6BnfEGFPY66C欠損フルオロフォアの周辺の標的領域の概要図である。図6Bには、(上段)これらの実験に用いられるgRNA(すべてのgRNAは非テンプレート鎖(NT、+)を標的化するようにプログラムされていた)の結合部位、(中段)DNA配列(配列番号:42および配列番号:43)にPAM(四角囲み)および変異可能な位置(矢印)を示したもの、(下段)タンパク質配列(配列番号:44)にEGFPフルオロフォアを無効化する変異アミノ酸(矢印)を示したもの、が記載されている。
図6C図6C:293T細胞におけるnfEGFPY66Cの標的化である。nfEGFPY66CNT-1およびnfEGFPY66CNT-2(より低い効率であった)を用いた処理ではEGFPシグナルが誘導されたが、スクランブルgRNAを用いた場合にはシグナルは検出されなかった。また、CRCプラットフォームを、動員のためにはシチジンデアミナーゼタンパク質のCas9タンパク質への直接的な融合を必要とし、効率の改善のためにウラシルDNAグリコシラーゼ阻害剤(UGI)の共発現を必要とする別の遺伝子編集システム(BE3)と比較した。BF、明野。
図6D図6D:標的化gRNAとしてnfEGFPY66CNT-1を用いたAIDCRCD10AシステムおよびBE3システムからのGFP陽性細胞の定量(%)である。
図7A図7Aおよび図7Bは、CRCシステムによる処理によって哺乳動物の細胞における内在性の遺伝子での部位特異的なヌクレオチド変換が引き起こされうることを示す。図7A:チャイニーズハムスターのHPRT遺伝子のエクソン3上の標的領域の概要図である。図7Aには、(上段)DNA配列(配列番号:45および配列番号:46)にPAM(四角囲み)および変異可能な位置(矢印)を示したもの、(中段)これらの実験に用いられるgRNA(当該gRNAはテンプレート鎖(TS、-)を標的化するようにプログラムされていた)の結合部位、(下段)タンパク質配列(配列番号:47)にHPRTタンパク質の不安定化に関与する決定的なアミノ酸(矢印)を示したもの、が記載されている。
図7B図7BAIDCRCD10AまたはBE3を用いたHPRTの標的化後の、あるいは処理していない6-TG耐性V79-4細胞の定量である。未処理の細胞と比較すると、AIDCRCD10A処理における生存画分は未処理の細胞よりも140倍増加したが、BE3処理では40倍しか増加しなかった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
現状の遺伝子特異的な編集技術は、そのほとんどがヌクレアーゼ誘導性のDNAのDSBと、これによるDSB誘導性の相同組み換えに基づくものである。ほとんどの体細胞において相同組み換えの活性は低いかまたは存在しないことから、ほとんどの疾患において、体組織での病理学的な遺伝子変異の治療的な修正のためのこれらの技術の用途は制限されている。
【0019】
本明細書に記載されているように、本発明の少なくとも一部は、DNA配列に標的化された遺伝子またはRNA転写物の編集を可能とするプラットフォームまたはシステムに基づくものである。このシステムはヌクレアーゼ活性に基づくものではなく、DSBを生成するものでもなく、DSB媒介性の相同組み換えに依拠するものでもない。さらに、当該プラットフォームのRNAスキャホールドの設計はモジュラー式であり、これによって任意の所望のDNA配列またはRNA配列を極めてフレキシブルで簡便な方式により標的化することが可能となる。本質的に、このアプローチによれば、幹細胞などの体細胞における実質的にいかなるDNA配列またはRNA配列に対しても、DNAまたはRNAの編集酵素を導くことが可能である。標的のDNA配列またはRNA配列を正確に編集することを通じて、当該酵素は、遺伝子疾患においては変異した遺伝子を修正し、ウイルス感染細胞においてはウイルスゲノムを不活性化し、神経変性疾患においては疾患の原因タンパク質の発現を防止し、がんにおいてはがん原性タンパク質をサイレンシングすることができる。また、このアプローチは生体外で幹細胞または前駆細胞のゲノムを編集することによる細胞ベースの治療にも用いられうる。治療用途のほかにも、上記システムは、強力な研究ツールとして任意の有機体のゲノムの標的化された修飾に広く適用可能である。
【0020】
遺伝子編集プラットフォーム
本発明の一形態によれば、遺伝子編集プラットフォームが提供され、これによって現状のヌクレアーゼおよびDSB依存的なゲノム工学技術および遺伝子編集技術における上述したような制限が克服される。当該プラットフォームはCasRcureシステムまたはCRCシステムと称されるが、3つの機能的な構成要素を備えている:(1)配列の標的化のために設計された、ヌクレアーゼを含まないCRISPR/Casベースのモジュール;(2)当該プラットフォームを標的配列へと導くとともに修正モジュールを動員するmためのRNAスキャホールドベースのモジュール;および(3)シトシンデアミナーゼ類(例えば、活性化誘導シトシンデアミナーゼ(AID)等)などの、エフェクター修正モジュールとしての非ヌクレアーゼDNA/RNA修飾酵素、である。CasRcureシステムによれば、これらが一体となって、特定のDNA/RNA配列へのアンカリング、フレキシブルかつモジュラー式のエフェクターDNA/RNA修飾酵素の特定配列への動員、および遺伝子情報(特に、点変異)を修正するための体細胞において活性な細胞経路の誘導、が可能となる。
【0021】
図1に、例示的なCasRcureシステムの概要図を示す。より具体的に、当該システムは、図1Aに示される3つの構造的および機能的な構成要素を備えている:(1)配列標的化モジュール(例えば、dCas9タンパク質);(2)配列の認識およびエフェクターの動員のためのRNAスキャホールド(ガイドRNAモチーフ、CRISPR RNAモチーフおよびリクルーティングRNAモチーフを含むRNA分子);並びに(3)エフェクター(リクルーティングRNAモチーフに結合する小タンパク質に融合した、AIDなどの非ヌクレアーゼDNA修飾酵素)、である。これらの3つの構成要素は、単一の発現ベクター中に、または2つもしくは3つの異なる発現ベクター中に構築されうる。これらの3つの特定の構成要素の全体性および組み合わせにより、技術的なプラットフォームが構成される。
【0022】
本明細書に開示されているように、動員メカニズムには多くの明確な違いが存在する:RNAスキャホールド媒介性の動員システム(CRC)に対し、Cas9のエフェクタータンパク質への直接的な融合(BE3)。後述する実施例に示されている結果から、RNAスキャホールド媒介性の動員は、直接的な融合と比較して、染色体外の標的(図6Cおよび図6D)並びに内在性の遺伝子(図7B)の双方においてより効率的であることがわかる。また、上記CRCシステムはDNA修復酵素であるUNGの阻害に依拠していないのに対し、BE3は強力なUNG阻害剤ペプチド(UGI)を用いるものである。広範囲のまたは局所的なDNA修復の阻害は、望ましくない、制御不能な、潜在的に有害な結果をもたらす可能性がある。そして、CRCシステムのモジュラー式の設計によれば、フレキシブルなシステムの構築が可能となる。モジュールは互換性を有しており、異なるモジュールの多数の組み合わせも容易に達成可能である。これに対して、直接的な融合の場合、新たなモジュールを構築するには常に新たな融合プロセスを必要とする。さらに、RNAスキャホールド媒介性の動員によれば、エフェクタータンパク質のオリゴマー化を促進しやすいのに対し、直接的な融合では立体障害のためにオリゴマーの形成は不可能である。
【0023】
a.配列標的化モジュール
上記システムの配列標的化のための構成要素は、細菌の種に由来するCRISPR/Casシステムに基づくものである。本来の機能的な細菌のCRISPR-Casシステムは3つの構成要素を必要とする:ヌクレアーゼ活性を提供するCasタンパク質と、CRISPR RNA(crRNA)およびトランス活性化RNA(tracrRNA)と称される2つの短い非コードRNA種であり、この2つのRNA種はいわゆるガイドRNA(gRNA)を形成する。タイプIIのCRISPRは最もよく特徴付けられているシステムの1つであり、4つの連続したステップにより標的化されたDNAの二本鎖切断を引き起こす。第1に、2つの非コードRNA(pre-crRNAおよびtracrRNA)がCRISPR遺伝子座から転写される。第2に、tracrRNAがpre-crRNA分子の繰り返し領域にハイブリダイズし、独自のスペーサー配列を有する成熟crRNA分子へのpre-crRNA分子の成熟を媒介する。第3に、成熟crRNA:trancrRNA複合体(すなわち、いわゆるgRNA)がCasヌクレアーゼ(Cas9など)に対し、crRNA上の上記スペーサー配列と標的DNA(これは3ヌクレオチド(nt)のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を有する)上のプロトスペーサー配列の相補鎖との間のワトソン-クリック塩基対を介したDNAの標的化を指示する。PAM配列はCas9の標的化に必須である。最後に、Casのヌクレアーゼが標的DNAの切断を媒介することにより、標的部位内において二本鎖切断を引き起こす。その本来の文脈において、CRISPR/Casシステムは、度重なるウイルス感染から細菌を保護する適応免疫機構として機能し、PAM配列は自己/非自己の認識シグナルとして作用し、Cas9タンパク質はヌクレアーゼ活性を有している。CRISPR/Casシステムは、インビトロおよびインビボの双方において、遺伝子編集のための非常に大きな可能性を有することが判明している。
【0024】
本明細書に開示された発明においても、配列の認識機構は同様にして達成可能である。すなわち、変異体Casタンパク質(例えば、そのヌクレアーゼ触媒ドメインに変異を有することでヌクレアーゼ活性を持たないdCas9タンパク質、または触媒ドメインの1つに部分的に変異を有することでDSBを生成するためのヌクレアーゼ活性を持たないnCas9など)は、短い(典型的には20ヌクレオチド長の)スペーサー配列を含みCasタンパク質をその標的であるDNA配列またはRNA配列へと導く非コードRNAスキャホールド分子を特異的に認識する。後者は3’PAMの横に位置している。
【0025】
種々のCasタンパク質が本発明において用いられうる。Casタンパク質、CRISPR関連タンパク質またはCRISPRタンパク質との語は互換的に使用可能であり、RNAによりガイドされるDNA結合を伴うCRISPR-CasのタイプIシステム、タイプIIシステムまたはタイプIIIシステムの、またはこれ由来のタンパク質を意味する。適切なCRISPR/Casタンパク質の非制限的な例としては、Cas3、Cas4、Cas5、Cas5e(またはCasD)、Cas6、Cas6e、Cas6f、Cas7、Cas8a1、Cas8a2、Cas8b、Cas8c、Cas9、Cas10、Cas10d、CasF、CasG、CasH、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1(またはCasA)、Cse2(またはCasB)、Cse3(またはCasE)、Cse4(またはCasC)、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csz1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4およびCu1966が挙げられる。例えば、WO2014/144761、WO2014/144592、WO2013/176772、US2014/0273226およびUS2014/0273233が参照され、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0026】
一実施形態において、Casタンパク質はタイプIICRISPR-Casシステム由来のものである。例示的な実施形態において、Casタンパク質はCas9タンパク質であるか、またはこれ由来のものである。当該Cas9タンパク質は、化膿連鎖球菌、サーモフィルス菌、ストレプトコッカス・エスピー、ノカルジオプシス・ダソンヴィレイ、ストレプトマイセス・プリスチネスピラリス、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス、ストレプトスポランジウム・ロセウム、ストレプトスポランジウム・ロセウム、アリシクロバチルス・アシドカルダリウス、バチルス・シュードミコイデス、バチルス・セレニティレドセンス、エクシグオバクテリウム ・シビリクム、ラクトバチルス・デルブリッキィ、ラクトバチルス・サリバリウス、ミクロシラ・マリナ、バークホルデリア・バクテリウム、ポラロモナス・ナフタレニボランス、ポラロモナス・エスピー、クロコスファエラ・ワトソニー、シアノセイス・エスピー、ミクロシスティス アエルギノーサ、シネチョコッカス・エスピー、アセトハロビウム・アラビティカム、アモニフェクス・デジェンシー、カルディセルロシルプター・ベスシー、カンジダトゥス・デスルホルディス、ボツリヌス菌、クロストリジウム・ディフィシル、フィネゴルディア・マグナ、ナトロアナエロビウス・サーモフィルス、ペロトマキュラム・サーモプロピオニカム、アシディチオバチルス・カルダス、アシディチオバチルス・フェロオキシダンス、アロクロマティウム・ビノサム、マリノバクター・エスピー、ニトロソコッカス・ハロフィルス、ニトロソコッカス・ワトソニー、シュードアルテロモナス・ハロプランクティス、クテドノバクター・ラセミファー、メタノハロビウム・エベスチガータム、アナベナ・バリアビリス、ノデュラリア・スピミゲナ、ノストック・エスピー、アルスロスピラ・マキシマ、アルスロスピラ・プラテンシス、アルスロスピラ・エスピー、リングビア・エスピー、ミクロコレウス・クソノプラステス、オスキアトリア・エスピー、ペトロトガ・モビリス、サーモシフォ・アフリカヌスまたはアカリオクロリス・マリナ由来のものでありうる。一般に、Casタンパク質は少なくとも1つのRNA結合ドメインを含む。当該RNA結合ドメインはガイドRNAと相互作用する。Casタンパク質は野生型のCasタンパク質であってもよいし、ヌクレアーゼ活性を有しない修飾型であってもよい。Casタンパク質は、核酸に対する結合親和性および/もしくは特異性を増大させ、酵素活性を変化させ、並びに/または当該タンパク質の他の特性を変化させることを目的として修飾されうる。例えば、当該タンパク質のヌクレアーゼ(すなわち、DNアーゼ、RNアーゼ)ドメインは、修飾され、除去され、または不活性化されうる。あるいは、当該タンパク質は、その機能に必須ではないドメインを除去する目的で短鎖化されうる。当該タンパク質はまた、エフェクタードメインの活性を最適化する目的で、単鎖化または修飾されうる。
【0027】
ある実施形態において、Casタンパク質は野生型Casタンパク質(Cas9など)の変異体またはその断片でありうる。他の実施形態において、Casタンパク質は変異型Casタンパク質に由来するものであってもよい。例えば、Cas9タンパク質のアミノ酸配列は、当該タンパク質の1つ以上の特性(例えば、ヌクレアーゼ活性、親和性、安定性など)を変化させる目的で改変されうる。あるいは、Cas9タンパク質のRNA標的化に関与しないドメインが当該タンパク質から除去されてもよく、これによって修飾型Cas9タンパク質は野生型Cas9タンパク質よりも短くなる。ある実施形態において、本発明のシステムは、細菌中でコードされる、または哺乳動物の細胞での発現のためにコドンが最適化された、化膿連鎖球菌由来のCas9タンパク質を利用する。
【0028】
変異型Casタンパク質とは、野生型タンパク質のポリペプチド誘導体(例えば、1つ以上の点変異、挿入、欠失、切断を含むタンパク質、融合タンパク質またはこれらの組み合わせ)を意味する。この変異体は、RNAガイド化DNA結合活性もしくはRNAガイド化ヌクレアーゼ活性の少なくとも一方、またはこれらの双方を有している。一般に、修飾型は、後述する配列番号:1のような野生型タンパク質に対して、少なくとも50%(例えば、50%~100%(両端含む)の間の任意の数(例えば、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%および99%))の同一性を有する。
【0029】
Casタンパク質(本発明において記載されている他のタンパク質構成成分)は、組み換えポリペプチドとして得られうる。組み換えポリペプチドを調製するには、これをコードする核酸が、融合相手をコードする他の核酸(例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、6×-HisエピトープタグまたはM13遺伝子3タンパク質)と連結されうる。得られた融合核酸は、適当な宿主細胞中で融合タンパク質を発現し、これは本技術分野において公知の手法により単離されうる。上記融合相手を除去して本発明の組み換えタンパク質を得る目的で、単離された融合タンパク質は、例えば酵素消化によってさらに処理されうる。あるいは、上記タンパク質は化学的に合成されてもよいし(例えば、Creighton, ”Proteins: Structures and Molecular Principles,” W.H. Freeman & Co., NY, 1983を参照)、本明細書に記載の組み換えDNA技術によって製造されてもよい。さらなる指針として、当業者はFrederick M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, 2003;およびSambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual,” Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY, 2001を参照しうる。
【0030】
本明細書に記載されているCasタンパク質は、精製または単離された形態で提供されてもよいし、組成物の一部であってもよい。好ましくは、組成物中の場合、当該タンパク質はまずある程度(より好ましくは高い純度レベル(例えば、約80%、90%、95%もしくは99%またはそれ以上)へと)精製される。本発明に係る組成物は、所望の任意のタイプの組成物でありうるが、典型的にはRNAによりガイドされる標的化のための組成物としての使用に(またはこれに含まれるのに)適した水性組成物である。本技術分野の当業者は、このようなヌクレアーゼ反応のための組成物に含まれうる種々の成分を熟知している。
【0031】
本明細書に開示されているように、ヌクレアーゼ活性のないCas9(例えば化膿連鎖球菌由来のdCas9、D10A・H840A変異体タンパク質、図1A)、またはヌクレアーゼ活性のないニッカーゼCas9(例えば化膿連鎖球菌由来のnCas9、D10A変異体タンパク質、図1Aおよび図2F)が用いられうる。dCas9またはnCas9は、種々の他の細菌種由来のものであってもよい。dCas9の非制限的な例とそれに対応するPAM要求性の一覧を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
b.配列認識のためのRNAスキャホールドおよびエフェクターの動員
本明細書に記載のプラットフォームの第2の構成要素はRNAスキャホールドであり、これは3つのサブ構成要素:プログラム可能なガイドRNAモチーフ、CRISPR RNAモチーフ、およびリクルーティングRNAモチーフ、を備えている。このスキャホールドは、単一のRNA分子であってもよいし、複数のRNA分子の複合体であってもよい。本明細書に開示されているように、プログラム可能なガイドRNA、CRISPR RNAおよびCasタンパク質は、一緒になって配列の標的化および認識のためのCRISPR/Casベースのモジュールを形成する。一方、RNA-タンパク質結合対を介したリクルーティングRNAモチーフはタンパク質エフェクターを動員し、このタンパク質エフェクターが遺伝子の修正を行う。このように、当該第2の構成要素は、修正モジュールと配列認識モジュールとを連結するものである。
【0034】
プログラム可能なガイドRNA
重要なサブ構成要素の1つは、プログラム可能なガイドRNAである。その単純さと効率性から、CRISPR-Casシステムは種々の有機体の細胞において遺伝子編集を行うのに用いられてきた。このシステムの特異性は標的DNAとカスタム設計されたガイドRNAとの間での塩基対形成によって決定される。ガイドRNAの塩基対形成の特性を設計・調整することにより、標的配列中にPAM配列が存在する限り、所望の任意の配列を標的化することが可能である。
【0035】
本明細書に記載のRNAスキャホールドのサブ構成要素のうち、ガイド配列が標的化の特異性を担っている。このガイド配列は、予め選択された所望の標的部位に対して相補的でこれに対してハイブリダイゼーション可能な領域を含んでいる。種々の実施形態において、このガイド配列は約10から約25超のヌクレオチドを含みうる。例えば、ガイド配列とこれに対応する標的部位の配列との間の塩基対形成の領域のヌクレオチド長は、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、または25超でありうる。例示的な実施形態において、ガイド配列は約17~20ヌクレオチド長(例えば、20ヌクレオチド長)である。
【0036】
適切な標的核酸を選択する1つの要件は、当該核酸が3’PAM部位/配列を有することである。各標的配列およびこれに対応するPAM部位/配列は、本明細書ではCas標的化部位と称される。最もよく特徴付けられているシステムの1つであるタイプII CRISPRシステムは、標的を切断するのにCas9タンパク質および標的配列に相補的なガイドRNAのみを必要とする。化膿連鎖球菌のタイプII CRISPRシステムはN12-20NGGを有する標的部位を利用しているが、NGGとは化膿連鎖球菌由来のPAM部位を意味し、N12-20とはPAM部位の5’側に位置する12~20ヌクレオチドを意味する。他の細菌種に由来する他のPAM部位の配列としては、NGGNG、NNNNGATT、NNAGAA、NNAGAAWおよびNAAAACが挙げられる。例えば、US20140273233、WO2013176772、Cong et al.,(2012),Science 339(6121):819-823、Jinek et al.,(2012),Science 337(6096):816-821、Mali et al,(2013),Science 339(6121):823-826、Gasiunas et al.,(2012),Proc Natl Acad Sci USA.109(39):E2579-E2586、Cho et al.,(2013)Nature Biotechnology 31,230-232、Hou et al.,Proc Natl Acad Sci USA.2013 Sep 24;110(39):15644-9、Mojica et al.,Microbiology.2009 Mar;155(Pt3):733-40およびwww.addgene.org/CRISPR/を参照のこと。これらの文献の内容はその全体が参照により本明細書に引用されている。
【0037】
標的核酸の鎖は、宿主細胞のゲノムDNA上の二本鎖のいずれかでありうる。このようなゲノムdsDNAの例としては、必ずしもこれらに限定されないが、宿主細胞の染色体、ミトコンドリアDNAおよび安定的に保持されたプラスミドが挙げられる。しかしながら、本発明に係る方法は、宿主細胞のdsDNAの性質にかかわらずCas標的化部位が存在する限り、宿主細胞中に存在する他のdsDNA(例えば、不安定なプラスミドDNA、ウイルスDNA、ファージミドDNA)に対しても実施可能であることに留意すべきである。本発明に係る方法は、RNAに対しても実施可能である。
【0038】
CRISPRモチーフ
上述したガイド配列に加えて、本発明のRNAスキャホールドはさらに他の活性または不活性なサブ構成要素を含む。一例において、当該スキャホールドは、tracrRNA活性を有するCRISPRモチーフを備えている。例えば、当該スキャホールドは、天然のcrRNA:tracrRNA二本鎖を模したものとして、上述したプログラム可能なガイドRNAがtracrRNAに融合されてなるハイブリッドRNA分子でありうる。例示的なハイブリッドcrRNA:tracRNAであるsgRNA配列は以下のとおりである:5’-(20ntガイド)-GUUUAAGAGCUAUGCUGGAAACAGCAUAGCAAGUUUAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCUUUUUUU-3’(配列番号:4;Chen et al.Cell.2013 Dec 19;155(7):1479-91)。種々のtracrRNA配列が本技術分野において公知であり、一例として、以下のtracrRNAおよびその活性部分が挙げられる。本明細書で用いられる場合、tracrRNAの活性部分はCas9またはdCas9などのCasタンパク質と複合体を形成する能力を保持している。例えば、WO2014144592を参照のこと。crRNA-tracrRNAハイブリッドRNAを作製する方法は本技術分野において公知である。例えば、WO2014099750、US20140179006およびUS20140273226を参照のこと。これらの文献の内容は、その全体が参照により本明細書に引用されている。
【0039】
【化1】
【0040】
ある実施形態においては、tracrRNA活性とガイド配列とは2つの異なるRNA分子であり、これらがともにガイドRNAおよび関連するスキャホールドを形成する。この場合、tracrRNA活性を有する分子はガイド配列を有する分子と(通常は塩基対形成によって)相互作用することができなくてはならない。
【0041】
リクルーティングRNAモチーフ
RNAスキャホールドの第3のサブ構成要素は、リクルーティングRNAモチーフであり、これは修正モジュールと配列認識モジュールとを連結する。この連結は本明細書に記載のプラットフォームにとって重要なものである。
【0042】
エフェクター/DNA編集酵素を標的配列に動員する1つの方法は、エフェクタータンパク質をdCas9に直接融合することである。配列認識に必要なタンパク質(例えば、dCas9)へのエフェクター酵素(「修正モジュール」)の直接的な融合は、配列特異的な転写の活性化または抑制によって可能であるが、タンパク質-タンパク質の融合の設計によって空間的な障害が発生する可能性があり、活性を発揮するためには多量化複合体を形成する必要がある酵素にとってこのことは理想的であるとは言えない。実際に、ほとんどのヌクレオチド編集酵素(例えば、AIDまたはAPOBEC3Gなど)は、DNA編集の触媒活性を発揮するのに二量体、三量体またはより高次のオリゴマーの形成を必要とする。所定のコンホメーションでDNAに対してアンカリングするdCas9への直接的な融合は、正しい位置での多量体の機能的な酵素複合体の形成にとって障害となりうる。
【0043】
これに対し、本明細書に記載のプラットフォームは、RNAスキャホールドが媒介するエフェクタータンパク質の動員に基づくものである。より具体的に、当該プラットフォームは、種々のRNAモチーフ/RNA結合タンパク質の結合対の利点を活用するものである。この目的に向けて、RNAスキャホールドはRNA結合タンパク質(例えば、MS2コートタンパク質、MCP)に特異的に結合するRNAモチーフ(例えば、MS2オペレーターモチーフ)がgRNA-CRISPRスキャホールドに連結されるように設計される(図1A)。
【0044】
その結果、本明細書に記載の当該プラットフォームのこのRNAスキャホールド構成要素は、設計されたRNA分子であり、特異的なDNA/RNAの配列認識のためのgRNAモチーフ(すなわち、dCas9結合のためのCRISPR RNAモチーフ)のみならず、エフェクターの動員のためのリクルーティングRNAモチーフをも備えている(図1A)。このようにして、動員されたエフェクタータンパク質融合物は、そのリクルーティングRNAモチーフへの結合能を通じて標的部位へと動員されうる。RNAスキャホールドが媒介する動員のフレキシビリティにより、機能的な単量体、並びに二量体、三量体またはオリゴマーが標的DNA配列または標的RNA配列の近傍で比較的容易に形成されやすい。立体配置の例を図1B図1Eに示す。これらのRNAリクルーティングモチーフ/結合タンパク質の対は、天然源(例えば、RNAファージまたは酵母テロメラーゼ)に由来するものであってもよいし、人工的に設計されたもの(例えば、RNAアプタマーおよびこれに対応する結合タンパク質リガンド)であってもよい。CasRcureシステムにおいて用いられうるリクルーティングRNAモチーフ/RNA結合タンパク質の対の例の非制限的な一覧を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
上述した結合対のための配列を以下に示す。
【0047】
【化2-1】
【0048】
【化2-2】
【0049】
RNAスキャホールドは、単一のRNA分子であってもよいし、複数のRNA分子の複合体であってもよい。例えば、ガイドRNA、CRISPRモチーフおよびリクルーティングRNAモチーフが、1つの長い単一のRNA分子の3つのセグメントであってもよい。あるいは、これらの1つ、2つまたは3つが別々の分子に存在していてもよい。後者の場合、当該3つの構成要素は、共有結合または、例えばワトソン-クリック塩基対結合などの非共有結合を介して互いに連結されてスキャホールドを形成しうる。
【0050】
一例において、RNAスキャホールドは2つの異なるRNA分子を含みうる。第1のRNA分子は、プログラム可能なガイドRNAと、自身と相補的な領域とともにステム二本鎖構造を形成しうる領域とを含みうる。そして第2のRNA分子は、CRISPRモチーフおよびリクルーティングRNAモチーフに加えて、上述した相補的な領域を含みうる。このステム二本鎖構造を介することで、第1および第2のRNA分子は本発明のRNAスキャホールドを形成する。一実施形態において、第1および第2のRNA分子はそれぞれ他の配列との間で塩基対を形成する(約6~約20ヌクレオチドの)配列を含む。同様にして、CRISPRモチーフおよびリクルーティングRNAモチーフもまた、異なるRNA分子に存在していてもよいし、他のステム二本鎖構造を用いて一体化されてもよい。
【0051】
本発明のRNAおよび関連するスキャホールドは、細胞ベースの発現、インビトロでの転写、および化学合成などの本技術分野において公知の種々の方法により作製されうる。TC-RNA化学を利用することで相対的に長い(200マーまたはそれ以上の)RNAを化学的に合成することが可能であり、基本的な4つのリボヌクレオチド(A、C、GおよびU)により作製されるRNAよりも優れた特別な機能を備えたRNAを作製することができる。
【0052】
Casタンパク質-ガイドRNAスキャホールド複合体は、本技術分野において公知の宿主細胞系またはインビトロでの翻訳-転写系を利用した組み換え技術を用いて作製されうる。これらのシステムおよび技術の詳細については、例えば、WO2014144761、WO2014144592、WO2013176772、US20140273226およびUS20140273233が参照され、その内容は全体が参照により本明細書に引用されている。この複合体は、少なくともある程度、当該複合体が作製された細胞を構成する細胞物質またはインビトロでの翻訳-転写系から、単離または精製されてもよい。
【0053】
RNAスキャホールドは、1つまたはそれ以上の修飾を含みうる。このような修飾としては、少なくとも1つの非天然のヌクレオチドもしくは修飾ヌクレオチド、またはそれらの類似体を含めることが挙げられる。修飾ヌクレオチドは、リボース部分、リン酸部分および/または塩基部分において修飾されうる。修飾ヌクレオチドは、2’-O-メチル類似体、2’-デオキシ類似体または2’-フルオロ類似体を含みうる。核酸の骨格が修飾されてもよく、例えばホスホロチオエート骨格が用いられてもよい。ロックト核酸(LNA)または架橋核酸(BNA)を使用することも可能である。修飾塩基のさらなる例としては、以下に制限されないが、2-アミノプリン、5-ブロモウリジン、シュードウリジン、イノシン、7-メチルグアノシンが挙げられる。これらの修飾は、CRISPRシステムの任意の構成要素に適用されうる。好ましい実施形態において、これらの修飾はRNA構成要素(例えば、ガイドRNA配列)に対してなされる。
【0054】
c.エフェクター:非ヌクレアーゼDNA修飾酵素
本発明に記載のプラットフォームの第3の構成要素は、非ヌクレアーゼエフェクターである。このエフェクターはヌクレアーゼではなく、いかなるヌクレアーゼ活性をも有していないが、DNA修飾酵素の他の類型の活性を有していてもよい。酵素活性の例としては、以下に制限されないが、脱アミノ化活性、メチルトランスフェラーゼ活性、デメチラーゼ活性、DNA修復活性、DNA損傷活性、ジスムターゼ活性、アルキル化活性、脱プリン化活性、酸化活性、ピリミジンダイマー形成活性、インテグラーゼ活性、トランスポザーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性、リガーゼ活性、ヘリカーゼ活性、フォトリアーゼ活性またはグリコシラーゼ活性が挙げられる。ある実施形態では、エフェクターが、シトシンデアミナーゼ(例えば、AID、APOBEC3G)、アデノシンデアミナーゼ(例えば、ADA)、DNAメチルトランスフェラーゼ、およびDNAデメチラーゼの活性を有する。
【0055】
好ましい実施形態において、この第3の構成要素はRNA結合ドメインおよびエフェクタードメインを有する共役体または融合タンパク質である。これらの2つのドメインは、リンカーを介して結合されうる。
【0056】
RNA結合ドメイン
本発明では種々のRNA結合ドメインが用いられうるが、Casタンパク質(Cas9など)またはその変異体(dCas9など)のRNA結合ドメインを用いてはならない。上述したように、所定のコンホメーションでDNAに対してアンカリングするdCas9への直接的な融合は、正しい位置での多量体の機能的な酵素複合体の形成にとって障害となりうる。その代わりに、本発明では種々の他のRNAモチーフ-RNA結合タンパク質の結合対を利用するのである。その例としては、表2に記載のものが挙げられる。
【0057】
このように、RNA結合ドメインがリクルーティングRNAモチーフに結合する能力を介してエフェクタータンパク質が標的部位へと動員されうる。RNAスキャホールド媒介性の動員のフレキシビリティにより、機能的な単量体、並びに二量体、四量体またはオリゴマーが標的DNA配列または標的RNA配列の近傍で比較的容易に形成されうる。
【0058】
エフェクタードメイン
エフェクター構成要素は、活性を有する部分(すなわち、エフェクタードメイン)を含むものである。ある実施形態では、エフェクタードメインは非ヌクレアーゼタンパク質(例えば、デアミナーゼ)の天然の活性部分を含む。また別の実施形態では、エフェクタードメインは非ヌクレアーゼタンパク質の天然の活性部分の修飾アミノ酸配列(例えば、置換、欠失、挿入)を含む。エフェクタードメインは酵素活性を有する。この活性の例としては、脱アミノ化活性、メチルトランスフェラーゼ活性、デメチラーゼ活性、DNA修復活性、DNA損傷活性、ジスムターゼ活性、アルキル化活性、脱プリン化活性、酸化活性、ピリミジンダイマー形成活性、インテグラーゼ活性、トランスポザーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性、リガーゼ活性、ヘリカーゼ活性、フォトリアーゼ活性、グリコシラーゼ活性、DNAメチル化、ヒストンアセチル化活性またはヒストンメチル化活性が挙げられる。
【0059】
リンカー
上述した2つのドメイン並びに本明細書に記載の他のドメインは、これらに限定されないが、化学修飾、ペプチドリンカー、化学リンカー、共有結合もしくは非共有結合、またはタンパク質融合、あるいは当業者に公知の任意の手段などのリンカーによって連結されうる。この連結は非可逆的でも可逆的であってもよい。例えば、米国特許第4625014号、第5057301号および第5514363号、米国特許出願公開第20150182596号および第20100063258号、並びにWO2012142515を参照のこと(これらの内容はその全体が参照により本明細書に引用される)。ある実施形態では、共役体中の各リンカーおよび各タンパク質ドメインの所望の特性を利用するため、いくつかのリンカーが含まれうる。例えば、柔軟なリンカーと共役体の溶解性を高めるリンカーが単独でまたは他のリンカーとともに用いられる。ペプチドリンカーは、当該リンカーをコードするDNAを発現させることにより、共役体中の1つ以上のタンパク質ドメインに連結されうる。リンカーは、酸により開裂するものであってもよいし、光により開裂するものであってもよいし、熱に対して感受性のものであってもよい。共役の方法は当業者によく知られており、本発明での使用に包含される。
【0060】
ある実施形態において、RNA結合ドメインおよびエフェクタードメインは、ペプチドリンカーによって連結されうる。ペプチドリンカーは、これら2つのドメインとリンカーとをインフレームでコードする核酸を発現させることによって連結されうる。場合により、リンカーペプチドはこれらのドメインのアミノ末端およびカルボキシ末端の一方または双方で連結されうる。いくつかの例では、リンカーは免疫グロブリンのヒンジ領域のリンカーであり、この技術は米国特許第6,165,476号、第5,856,456号、米国特許出願公開第20150182596号および第2010/0063258号、並びに国際出願WO2012/142515号に開示されており、これらの内容はその全体が参照により本明細書に引用される。
【0061】
他のドメイン
エフェクター融合タンパク質は他のドメインを含みうる。ある実施形態において、エフェクター融合タンパク質は少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)を含みうる。一般に、NLSは一続きの塩基性アミノ酸を含む。各局在化シグナルは本技術分野において公知である(例えば、Lange et al.,J.Biol.Chem.,2007,282:5101-5105を参照)。NLSは、融合タンパク質のN末端またはC末端に位置してもよいし、内部の領域に位置していてもよい。
【0062】
ある実施形態において、融合タンパク質は、当該タンパク質の標的細胞中への送達を促進するために少なくとも1つの細胞透過ドメインを含みうる。一実施形態において、細胞透過ドメインは細胞透過ペプチド配列でありうる。種々の細胞透過ペプチド配列が本技術分野において公知であり、その例としては、HIV-1 TATタンパク質、ヒトHBVのTLM、Pep-1、VP22のものや、ポリアルギニンペプチド配列が挙げられる。
【0063】
さらに他の実施形態において、融合タンパク質は少なくとも1つのマーカードメインを含みうる。マーカードメインの非限定的な例としては、蛍光タンパク質、精製タグおよびエピトープタグが挙げられる。ある実施形態では、マーカードメインは蛍光タンパク質でありうる。他の実施形態では、マーカードメインは精製タグおよび/またはエピトープタグでありうる(例えば、米国特許出願第20140273233号を参照)。
【0064】
一実施形態では、当該システムがどのように作動するかを説明するための例としてAIDを用いた。AIDは、DNAまたはRNAとの関連でシトシンの脱アミノ化反応を触媒するシチジンデアミナーゼである。標的部位まで運ばれると、AIDはC塩基をU塩基に変換する。分裂細胞において、これはCからTへの点変異を引き起こしうる。あるいは、CからUへの変換は細胞のDNA修復経路(主に切除による修復経路)を誘導し、これによってU-G塩基対のミスマッチを除去し、T-A、A-T、C-GまたはG-C対で置換しうる。その結果、標的であるC-G部位において点変異が生じうる。切除による修復経路はすべてではないもののほとんどの体細胞に存在することから、標的部位へのAIDの動員によりC-G塩基対が他の対へと修正されうる。この場合、C-G塩基対が体細胞において潜在的に疾患の原因となっている遺伝子変異である場合には、上述のアプローチは変異を修正することによって疾患を治療するために用いられうる。
【0065】
同様にして、潜在的に疾患の原因となっている遺伝子変異が特定部位のA-T塩基対である場合には、同様のアプローチを採用して当該特定部位にアデノシンデアミナーゼを動員し、これによってA-T塩基対を他の対へと修正することができる。他のエフェクター酵素は、塩基対形成における他のタイプの変換を生じることが予想される。DNA/RNA修飾酵素の非制限的な例の一覧を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
上述した特定の3つの構成要素は技術的なプラットフォームを構成する。各構成要素については、表1~3に記載の一覧からそれぞれ選択することができ、これによって特定の治療/有用性の目標が達成される。
【0068】
一例として、(i)配列標的化タンパク質としての化膿連鎖球菌由来のdCas9、(ii)ガイドRNA配列、CRISPR RNAモチーフおよびMS2オペレーターモチーフを含むRNAスキャホールド、並びに(iii)MS2オペレーター結合タンパク質MCPに融合したヒトAIDを含むエフェクター融合物を用いて、CasRcureシステムを構築した。各構成要素の配列を以下に示す。
【0069】
【化3】
【0070】
上述したCasタンパク質と同様、非ヌクレアーゼエフェクターもまた、組み換えポリペプチドとして得られうる。組み換えポリペプチドの作製技術は本技術分野において公知である。例えば、Creighton,“Proteins:Structures and Molecular Principles”,W.H. Freeman & Co.,NY,1983;Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,2003;およびSambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY,2001を参照のこと。
【0071】
本明細書に記載のプラットフォーム/システムの上述した3つの構成要素は、1~3個の発現ベクターを用いて発現させることができる。当該システムは、実質的にいかなるDNA配列またはRNA配列をも標的化するようにプログラムされうる。
【0072】
発現系
上述したプラットフォームを用いるには、タンパク質およびRNAの1つ以上の構成要素を、これらをコードする核酸から発現させることが好ましい。これは種々の方法で実施されうる。例えば、RNAスキャホールドまたはタンパク質をコードする核酸を1つ以上の中間体ベクターにクローニングし、これを原核細胞または真核細胞に導入して複製および/または転写させることが可能である。RNAスキャホールドまたはタンパク質を製造するための、RNAスキャホールドまたはタンパク質をコードする核酸の貯蔵または操作の点で、中間体ベクターは、典型的には原核生物のベクター(例えば、プラスミド、シャトルベクター、昆虫ベクター)である。当該核酸はまた、植物細胞、動物細胞(好ましくは、哺乳動物細胞またはヒト細胞)、真菌細胞、細菌細胞または原生動物細胞への投与のために1つ以上の発現ベクターにクローニングされてもよい。よって、本発明は、上述したRNAスキャホールドまたはタンパク質の任意のものをコードする核酸を提供する。好ましくは、当該核酸は単離および/または精製されている。
【0073】
本発明はまた、上述したRNAスキャホールドまたはタンパク質の1つ以上をコードする配列を有する組み換え構築物またはベクターをも提供する。当該構築物の例としては、ベクター(プラスミドまたはウイルスベクターなど)に本発明の核酸配列がフォワード方向またはリバース方向で挿入されたものが挙げられる。好ましい実施形態において、当該構築物は、当該配列に作動的に連結されたプロモーターなどの制御配列を含む。適切なベクターおよびプロモーターは当業者にとって数多く知られており、市販もされている。原核宿主および真核宿主での使用に適切なクローニングベクターおよび発現ベクターは、Sambrook et al.(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press)にも記載されている。
【0074】
ベクターとは、自身が連結された他の核酸を輸送することができる核酸分子を意味する。ベクターは、自己を複製し、または宿主DNAへ取り込まれる能力を有している。ベクターの例としては、プラスミド、コスミドまたはウイルスベクターが挙げられる。本発明のベクターは、宿主細胞中での核酸の発現に適した形態で当該核酸を含む。好ましくは、ベクターは発現されるべき核酸配列に作動的に連結された1つ以上の制御配列を含む。「制御配列」としては、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)が挙げられる。制御配列としては、ヌクレオチド配列の構成的な発現を指示するものだけでなく、誘導性の制御配列であってもよい。発現ベクターの設計は、形質転換され、形質導入され、または感染させられる宿主細胞、所望のRNAまたはタンパク質の発現レベルなどの選択といった因子に依存しうる。
【0075】
発現ベクターの例としては、染色体DNA配列、非染色体DNA配列、合成DNA配列、細菌プラスミド、ファージDNA、バキュロウイルス、酵母プラスミド、プラスミドとファージDNAとの組み合わせ由来のベクター、ワクシニア、アデノウイルス、家禽ジフテリアウイルスおよび仮性狂犬病ウイルス等のウイルスDNAが挙げられる。しかしながら、宿主中で複製可能であって生存可能である限り、他の任意のベクターが用いられてもよい。適当な核酸配列は、種々の方法によってベクター中に挿入されうる。一般に、上述したRNAまたはタンパク質の1つをコードする核酸配列が、本技術分野において公知の手法により適当な制限エンドヌクレアーゼ部位に挿入されうる。かような手法および関連するサブクローニングの手法は当業者の知見の範囲内のものである。
【0076】
ベクターは、発現を増幅するための適当な配列を含みうる。また、発現ベクターは、好ましくは1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子を含有することで、真核細胞の培養でのジヒドロ葉酸レダクターゼ耐性またはネオマイシン耐性、あるいは大腸菌でのアンピシリン耐性といった、形質転換された宿主細胞を選択するための表現型形質を提供することができる。
【0077】
RNAを発現するベクターは、RNA Pol IIIプロモーター(例えば、HIプロモーター、U6プロモーターまたは7SKプロモーター)を含むことでRNAの発現を促進することができる。これらのヒトプロモーターによれば、哺乳動物細胞におけるRNAの発現およびその後のプラスミドのトランスフェクションが可能となる。あるいは、インビトロでの転写のためにT7プロモーターが用いられてもよく、RNAはインビトロで転写されて精製されてもよい。
【0078】
上述した適当な核酸配列を含有するベクターおよび適当なプロモーター配列または制御配列は、適当な宿主を形質転換し、これにトランスフェクションされ、または感染して、当該宿主に上述したRNAまたはタンパク質を発現させることができる。適当な発現宿主の例としては、細菌細胞(例えば、大腸菌、放線菌、ネズミチフス菌)、真菌細胞(酵母)、昆虫細胞(例えば、ショウジョウバエ、ヨトウガ(Sf9))、動物細胞(例えば、CHO、COSおよびHEK293)、アデノウイルス、および植物細胞が挙げられる。適当な宿主の選択は、当業者の知見の範囲内のものである。ある実施形態において、本発明は、RNA、ポリペプチドまたはタンパク質の1つをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換し、これにトランスフェクションし、これに感染させることによる上述したRNAまたはタンパク質の製造方法を提供する。宿主細胞は次いで、適当な条件下で培養され、これによってRNAまたはタンパク質の発現が可能となる。
【0079】
外来のヌクレオチド配列を宿主細胞へ導入するための本技術分野において公知の任意の手法が用いられうる。例としては、リン酸カルシウムによるトランスフェクション、ポリブレン、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リポソーム、マイクロインジェクション、ネイキッドDNA、プラスミドベクター、ウイルスベクター(エピソーマルおよび組み込み型の双方)、並びに、クローニングされたゲノムDNA、cDNA、合成DNAまたは他の外来遺伝子材料を宿主細胞に導入するための他の任意の周知の方法が挙げられる。
【0080】
方法
本発明の他の形態は、細胞、胚、ヒトまたは非ヒト動物における標的DNA配列(例えば、染色体の配列)または標的RNA配列の修飾方法に関するものである。当該方法は、上述した(i)配列標的化タンパク質またはこれをコードするポリヌクレオチド、(ii)RNAスキャホールドまたはこれをコードするDNAポリヌクレオチド、および(iii)非ヌクレアーゼエフェクター融合タンパク質またはこれをコードするポリヌクレオチドを細胞または胚に導入することを含む。RNAスキャホールドは、配列標的化タンパク質および融合タンパク質を標的部位における標的ポリヌクレオチドへとガイドし、融合タンパク質のエフェクタードメインがその配列を修飾する。本明細書に記載のように、cas9タンパク質などの配列標的化タンパク質は、エンドヌクレアーゼ活性を失うように修飾されている。
【0081】
ある実施形態において、エフェクタータンパク質は単量体として機能する。この場合、本発明のシステムは、図1Bに示すように、標的部位の上流(左)または下流(右)のいずれかの単一の部位に標的化される。他の実施形態では、適切な触媒作用のためにエフェクタータンパク質は二量化を必要とする。この目的に向けて、当該システムは多量化されて標的部位の上流および下流の標的配列を同時に標的化され、これによってエフェクタータンパク質の二量化を可能とすることができる(図1C、左)。あるいは、単一部位へエフェクタータンパク質が動員されるだけでも、隣接するエフェクタータンパク質に対するその親和性を増大させて二量化を促進するのに十分であることもある(図1C、右)。さらに他のある実施形態では、図1Dに示すように、三量体のエフェクター酵素が標的部位に動員されて配置されうる。これは、二重の標的化(図1D、左)または単一の標的化(図1D、右)によって達成されうる。本発明に開示されているシステムは、RNAの標的を編集するのに用いられてもよい(例えば、レトロウイルスの不活性化)。図1Eを参照のこと。この場合、エフェクタータンパク質が機能性オリゴマーの集合体を必要とするのであれば、図1Cおよび図1Dの右パネルのように、RNA分子への単一の標的化によってオリゴマー化が促進されうる。
【0082】
標的ポリヌクレオチドについて、PAM配列がその直後(下流または3’)に存在すること以外は配列の制限はない。PAM配列の例としては、これらに限定されないが、NGG、NGGNGおよびNNAGAAW(ここで、Nは任意のヌクレオチドと定義され、WはAまたはTと定義される)が挙げられる。PAM配列の他の例は上述したとおりであり、当業者であれば所定のCRISPRタンパク質とともに用いるための他のPAM配列を同定することができるであろう。標的部位は、遺伝子のコード領域中、遺伝子のイントロン中、遺伝子間の制御領域中などに存在しうる。当該遺伝子は、タンパク質をコードする遺伝子であってもよいし、RNAをコードする遺伝子であってもよい。
【0083】
標的ポリヌクレオチドは、細胞にとって内因性または外因性の任意のポリヌクレオチドでありうる。例えば、標的ポリヌクレオチドは、真核細胞の核内に存在するポリヌクレオチドでありうる。また、標的ポリヌクレオチドは、遺伝子産物(例えば、タンパク質)をコードする配列であってもよいし、非コード配列(例えば、制御ポリヌクレオチド)であってもよい。
【0084】
本発明に係るシステムのタンパク質構成要素は、単離されたタンパク質として細胞または胚の内部へ導入されうる。一実施形態において、各タンパク質は少なくとも1つの細胞透過ドメインを含むことができ、これによってタンパク質の細胞への取り込みが促進される。他の実施形態において、タンパク質またはタンパク質類をコードするmRNA分子またはDNA分子が細胞または胚の内部へ導入されてもよい。タンパク質をコードするDNA配列は一般に、所望の細胞または胚の内部で機能するプロモーター配列に作動的に連結されている。DNA配列は線状であってもよいし、DNA配列はベクターの一部であってもよい。さらに他の実施形態において、タンパク質は、当該タンパク質および上述したRNAスキャホールドを含むRNA-タンパク質複合体として細胞または胚の内部へ導入されてもよい。
【0085】
別の実施形態において、当該タンパク質をコードするDNAは、RNAスキャホールドの構成要素をコードする配列または配列群を含みうる。タンパク質およびRNAスキャホールドをコードするDNA配列は一般に、細胞または胚の内部において、当該タンパク質およびRNAスキャホールドのそれぞれの発現を可能とする適当なプロモーター制御配列に作動的に連結されている。当該タンパク質およびRNAスキャホールドをコードするDNA配列は、追加の発現をコントロールする配列、制御配列、および/またはプロセシング配列をさらに含みうる。当該タンパク質およびガイドRNAをコードするDNA配列は、線状であってもよいし、ベクターの一部であってもよい。
【0086】
RNAをコードするDNA分子を介して当該RNAを細胞中へ導入する実施形態では、RNAをコードする配列は真核細胞におけるガイドRNAの発現のためのプロモーター制御配列に作動的に連結されていてもよい。例えば、RNAをコードする配列は、RNAポリメラーゼIII(Pol III)によって認識されるプロモーター配列に作動的に連結されていてもよい。適切なPol IIIプロモーターの例としては、これらに限定されないが、哺乳動物のU6またはH1プロモーターが挙げられる。例示的な実施形態において、RNAをコードする配列は、マウスまたはヒトのU6プロモーターに連結される。他の例示的な実施形態において、RNAをコードする配列は、マウスまたはヒトのH1プロモーターに連結される。
【0087】
タンパク質および/またはRNAをコードするDNA分子は、線状または環状でありうる。ある実施形態では、DNA配列はベクターの一部であってもよい。適切なベクターとしては、プラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/ミニ染色体、トランスポゾン、およびウイルスベクターが挙げられる。例示的な実施形態において、タンパク質および/またはRNAをコードするDNAは、プラスミドベクター中に存在する。適切なプラスミドベクターの非制限テイナ例としては、pUC、pBR322、pET、pBluescriptおよびこれらの変異体が挙げられる。ベクターは、追加の発現制御配列(例えば、エンハンサー配列、Kozak配列、ポリアデニル化配列、転写終止配列など)、選択可能なマーカー配列(例えば、抗生物質耐性遺伝子)、複製の起点などを含みうる。
【0088】
本発明に係る本システムのタンパク質構成要素(またはこれをコードする核酸)およびRNA構成要素(またはこれをコードするDNA)は、種々の手段によって細胞または胚中に導入されうる。典型的に、胚は所望の種の単細胞段階の受精胚である。ある実施形態において、細胞または胚はトランスフェクションされている。トランスフェクションの適切な方法としては、リン酸カルシウム媒介性のトランスフェクション、ヌクレオフェクション(またはエレクトロポレーション)、カチオン性ポリマートランスフェクション(例えば、DEAE-デキストランまたはポリエチレンイミン)、ウイルストランスダクション、ビロソームトランスフェクション、ビリオントランスフェクション、リポソームトランスフェクション、、カチオン性リポソームトランスフェクション、イムノリポソームトランスフェクション、非リポソーム性脂質トランスフェクション、デンドリマートランスフェクション、熱ショックトランスフェクション、マグネトフェクション、リポフェクション、遺伝子銃による送達、インパレフェクション、ソノポレーション、光学トランスフェクション、および専売薬剤で促進される核酸の取り込みが挙げられる。トランスフェクションの方法は、本技術分野において周知である(例えば、“Current Protocols in Molecular Biology” Ausubel et al.,John Wiley&Sons,New York,2003または“Molecular Cloning: A Laboratory Manual” Sambrook&Russell,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,3rd edition, 2001を参照)。他の実施形態において、分子はマイクロインジェクションによって細胞または胚中に導入される。例えば、分子は単細胞の胚の前核中にインジェクションされうる。
【0089】
本発明に係る本システムのタンパク質構成要素(またはこれをコードする核酸)およびRNA構成要素(またはこれをコードするDNA)は、細胞または胚中に同時または逐次的に導入されうる。RNA(または当該RNAをコードするDNA)に対するタンパク質(またはこれをコードする核酸)の比率は通常、これらがRNA-タンパク質複合体を形成できるようにほぼ化学量論的なものである。同様に、2つの異なるタンパク質(またはこれをコードする核酸)の比率もまた、ほぼ化学量論的なものである。一実施形態において、タンパク質構成要素およびRNA構成要素(またはこれをコードするDNA配列)は、同一の核酸またはベクター内で一緒に送達される。
【0090】
この方法は、ガイドRNAがエフェクタータンパク質を標的配列の標的部位へとガイドし、エフェクタードメインが標的配列を修飾することができるように、細胞または胚を適切な条件下で維持することをさらに含む。
【0091】
一般に、細胞は細胞の増殖および/または維持のために適切な条件下で維持されうる。適切な細胞培養条件は本技術分野において周知であり、例えば、“Current Protocols in Molecular Biology” Ausubel et al., John Wiley&Sons,New York,2003または“Molecular Cloning:A Laboratory Manual” Sambrook&Russell,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,3rd edition,2001)、Santiago et al.(2008) PNAS 105:5809-5814;Moehle et al.(2007)PNAS 104:3055-3060;Urnov et al.(2005) Nature 435:646-651;およびLombardo et al.(2007) Nat. Biotechnology 25:1298-1306に記載されている。当業者であれば、細胞培養の方法が本技術分野において公知であって細胞のタイプによって変動しうるものであることを理解している。すべての場合において、特定の細胞のタイプに最適な技術を決定するのに通常の最適化がなされうる。
【0092】
胚はインビトロで培養されうる(例えば、細胞培養)。典型的には、胚は適切な温度で、かつ適切な(必要に応じてタンパク質およびRNAスキャホールドの発現を可能とするのに必要なO/CO比の)培地中で培養される。適切な培地の非制限的な例としては、M2、M16、KSOM、BMOCおよびHTF培地が挙げられる。当業者であれば、培養条件が胚の種によって変動しうるものであることを理解している。すべての場合において、特定の胚の種に最適な技術を決定するのに通常の最適化がなされうる。場合によっては、インビトロで培養された胚から細胞株が得られてもよい(例えば、胚性幹細胞株)。
【0093】
あるいは、胚は雌の宿主の子宮中に移されることにより、インビボで培養されてもよい。一般的に言えば、雌の宿主は上記胚と同一または類似の種から選ばれる。好ましくは、当該雌の宿主は偽妊娠のものである。偽妊娠の雌の宿主を作製する手法は本技術分野において公知である。さらに、胚を雌の宿主中に移す手法も公知である。胚をインビボで培養することで当該胚を発育させ、当該胚に由来する動物を出産させることが可能である。このような動物は、体のすべての細胞において修飾された染色体配列を含んでいる。
【0094】
種々の真核細胞が、この方法において適切に用いられる。例えば、当該細胞はヒトの細胞、ヒトではない哺乳動物の細胞、哺乳動物ではない脊椎動物の細胞、無脊椎動物の細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞、または単細胞の真核有機体でありうる。種々の胚もまた、この方法において適切に用いられる。例えば、当該胚は、1細胞、2細胞または4細胞の、ヒトのまたは非ヒト哺乳動物の胚でありうる。単細胞の胚を含む例示的な哺乳動物の胚としては、これらに限定されないが、マウス、ラット、ハムスター、齧歯動物、ウサギ、ネコ科動物、イヌ科動物、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマおよび霊長類の胚が挙げられる。さらに他の実施形態において、当該細胞は幹細胞である。適切な幹細胞としては、これらに限定されないが、胚性幹細胞、ES様幹細胞、胎児の幹細胞、成人の幹細胞、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞、多分化能幹細胞、寡能性幹細胞、単分化能幹細胞などが挙げられる。例示的な実施形態においては、当該細胞が哺乳動物の細胞であるか、または当該胚が哺乳動物の胚である。
【0095】
有用性および用途
本明細書に開示のシステムおよび方法は、非常に多くのタイプの細胞における標的ポリヌクレオチドを修飾し、編集する(例えば、不活性化および活性化する)といった広範な有用性を有するものである。このように、本システムおよび方法は、例えば研究および治療において広範な用途のスペクトルを有している。
【0096】
ヒトにおける重篤な疾患の多くは、1つの共通の原因、遺伝子の変化または変異、を有している。患者において疾患を引き起こす変異は、自身の親からの継承により獲得されるか、または環境要因によって引き起こされる。これらの疾患としては、これに限定されないが、以下のようなカテゴリーが挙げられる。第一に、いくつかの遺伝子障害は生殖系列細胞の変異によって引き起こされる。その一例は嚢胞性線維症であり、これは親から受け継がれるCFTR遺伝子における変異によって引き起こされる。第二に、慢性のウイルス感染性疾患などのいくつかの疾患は、外因性の環境要因によって引き起こされ、遺伝子の変化を生じる。その一例はAIDSであり、これはヒトHIVウイルスのゲノムが感染したT細胞のゲノム中に挿入されることによって引き起こされる。第三に、いくつかの神経変性疾患が遺伝子の変化に関係している。その一例はハンチントン病であり、これは罹患した患者のハンチンチン遺伝子においてCAGの3つのヌクレオチドが伸長することによって引き起こされる。最後に、がんはがん細胞中に蓄積した種々の体細胞の変異によって引き起こされる。したがって、疾患の原因となる遺伝子変異を修正するか、またはその配列を機能的に修正すれば、これらの疾患を治療するための魅力的な治療機会が提供される。
【0097】
体細胞の遺伝子編集は、多くのヒト疾患に対する魅力的な治療戦略である。治療的な遺伝子編集を成功裡に達成するには、(i)いかにして配列特異的な認識を達成するか(「配列認識モジュール」);(ii)いかにして根本的な変異を修正するか(「修正モジュール」);および(iii)いかにして「修正モジュール」を「配列認識モジュール」と一緒になるように連結して配列特異的な修正を達成するか、の3つの重要な因子を考慮する必要がある。これらの個々の課題を達成する方法は数多く存在する。しかしながら、現状のプラットフォームまたは技術はいずれも、最適かつ実用的な体細胞の遺伝子編集を達成することはできていない。より詳細に、現状の遺伝子特異的な編集技術は、そのほとんどがヌクレアーゼ誘導性のDNA DSBとそれによって誘導される相同組み換えを利用したものであるが、ほとんどの体細胞においてその活性は低いかまたは存在しない。よって、ほとんどの疾患で、体細胞組織における病理学的な遺伝子変異の治療的な修正に対するこれらの技術の用途は限定されている。
【0098】
これに対し、本発明により開示されているシステムおよび方法によれば、ヌクレアーゼ活性に依拠することなく、遺伝子またはRNA転写物をDNA配列特異的に編集することが可能である。当該システムおよび方法はDSBを生成せず、またDSB媒介性の相同組み換えに依拠することもない。さらに、本システムのこのような設計はモジュラー式であることから、所望の任意のDNA配列またはRNA配列を標的化するための極めてフレキシブルで簡便な方法が提供される。すなわち、このアプローチによればDNAまたはRNAを編集する酵素を、事実上、幹細胞などの体細胞中の任意のDNA配列またはRNA配列へとガイドすることができる。標的となるDNA配列またはRNA配列の正確な編集により、当該酵素は遺伝子障害における変異した遺伝子を修正し、感染した細胞においてはウイルスゲノムを不活性化し、神経変性疾患においては疾患の原因となるタンパク質の発現を抑制し、あるいはがんにおいてはがん原性のタンパク質をサイレンシングすることができる。したがって、本発明において開示される当該システムおよび方法は、上述した遺伝子障害、慢性の感染性疾患、神経変性疾患およびがんなどの疾患における根本的な遺伝子の変化を修正するのに用いられうる。
【0099】
遺伝子疾患
6000超の遺伝子疾患が既知の遺伝子変異によって引き起こされていると推定されている。病理学的な組織/器官における疾患の原因となる根本的な変異を修正すれば、当該疾患の緩和または治癒がもたらされうる。例えば、嚢胞性線維症は米国において3000人に1人が罹患している。この疾患はCFTR遺伝子の変異が遺伝することによって引き起こされており、70%の患者が同一の変異(508位のフェニルアラニンの欠損をもたらす3ヌクレオチドの欠損(ΔPhe508と称される))を有している。ΔPhe508はCFTRの誤配置および分解をもたらす。本発明に開示された本システムおよび方法は、罹患した組織(肺)においてVal509残基(GTT)をPhe509(TTT)に変換するのに用いられ、これによってΔPhe508変異を機能的に修正することができる。
【0100】
慢性の感染性疾患
本発明に開示された本システムおよび方法はまた、ヒトの細胞/組織中に導入されたウイルスゲノムにおける任意の遺伝子を特異的に不活性化するのに用いられうる。例えば、本発明に開示された本システムおよび方法によれば、ウイルスにとって必須の遺伝子の翻訳を早期に終止させるためのストップコドンを作製することができ、これによって慢性かつ消耗性の感染性疾患を改善または治癒することができる。例えば、AIDSの現在の治療法はウイルス量を低減させることはできるものの、潜伏しているHIVを陽性T細胞から完全に除去することはできない。本明細書に開示の本システムおよび方法は、1つ以上のストップコドンを導入することにより、ヒトT細胞において、統合されたHIVゲノム中の1つ以上のHIVの必須の遺伝子の発現を永久に不活性化するのに用いられうる。他の例は、B型肝炎ウイルスである。本明細書に開示の本システムおよび方法は、ヒトゲノム中に導入された1つ以上のHBVの必須の遺伝子を特異的に不活性化し、HBVのライフサイクルをサイレンシングするのに用いられうる。
【0101】
神経変性疾患
神経変性疾患の中には、機能獲得型変異によって引き起こされるものがある。例えば、SOD1G93Aは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進展をもたらす。本発明に開示された本システムおよび方法は、ストップコドンを導入するか、またはスプライシング部位を変化させることにより、変異を修正し、または変異型タンパク質の発現を抑制するのに用いられうる。
【0102】
がん
がんの進展には多くの遺伝子(がん抑制遺伝子、がん遺伝子、およびDNA修復遺伝子など)が関与している。これらの遺伝子が変異すると種々のがんを引き起こすことがよくある。本発明に開示された本システムおよび方法を用いることで、これらの変異を特異的に標的化し、修正することが可能である。その結果、触媒部位またはスプライシング部位に点変異が導入されることで、がんの原因となるタンパク質が機能的に無害化され、あるいはその発現が抑制されうる。
【0103】
幹細胞の遺伝的修飾
ある実施形態においては、本発明に開示される本システムおよび方法を用いて、幹細胞または前駆細胞が遺伝的に修飾されうる。適切な細胞としては、例えば、幹細胞(成人の幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞など)および前駆細胞(例えば、心臓前駆細胞、神経前駆細胞など)が挙げられる。適切な細胞としては、例えば、齧歯動物の幹細胞、齧歯動物の前駆細胞、ヒトの幹細胞、ヒトの前駆細胞などの哺乳動物の幹細胞および前駆細胞が挙げられる。適切な宿主細胞としては、単離された宿主細胞などのインビトロの宿主細胞が挙げられる。
【0104】
ある実施形態において、本発明は、エクスビボで組織を標的として正確に遺伝的に修飾するのに用いられ、根本的な遺伝的欠陥を修正することができる。エクスビボでの修正の後、組織は患者に戻されてもよい。また、本技術は遺伝子疾患を修正するための細胞ベースの治療法に広範に用いられうる。
【0105】
動物および植物における遺伝子編集
上述した本システムおよび方法は、1つ以上の所望の遺伝子修飾を有する非ヒトトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物を作製するのに用いられうる。ある実施形態において、非ヒトトランスジェニック動物は当該遺伝子修飾についてホモ接合性である。ある実施形態では、非ヒトトランスジェニック動物は当該遺伝子修飾についてヘテロ接合性である。ある実施形態では、非ヒトトランスジェニック動物は脊椎動物(例えば、魚類(ゼブラフィッシュ、金魚、フグ、洞窟魚など)、両生類(カエル、サンショウウオなど)、鳥類(ニワトリ、七面鳥など)、爬虫類(ヘビ、トカゲなど)、哺乳類(有蹄動物(ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジなど);ウサギ目の動物(ウサギなど);齧歯動物(ラット、マウスなど);非ヒト霊長類など))である。
【0106】
本発明は、上述したようなヒトにおける疾患を治療する方法と同様の方法で動物における疾患を治療するのにも用いられうる。あるいは、本発明は、研究、薬剤の開発および標的の評価のための特定の遺伝子変異を有するノックイン動物疾患モデルを作製するのに用いられうる。上述のシステムおよび方法はまた、家畜および穀物の品質を改良および改善する目的で、種々の有機体のES細胞または胚に点変異を導入するのにも用いられうる。
【0107】
外因性の核酸を植物細胞中に導入する方法は本技術分野において周知である。適切な方法としては、ウイルス感染(二本鎖DNAウイルスなど)、トランスフェクション、接合、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接的なマイクロインジェクション、炭化ケイ素ウィスカー技術、アグロバクテリウム媒介性の形質転換などが挙げられる。これらの方法の選択は通常、形質転換される細胞のタイプや形質転換を行う状況(すなわち、インビトロ、エクスビボ、またはインビボ)に依存する。
【0108】
キット
本発明はさらに、CRISPR:Casによりガイドされる標的への結合または修正の反応を含む上述した方法を実施するための試薬を含有するキットをも提供する。この目的に向けて、本明細書に記載の方法のための1つ以上の反応成分(例えば、RNA、Casタンパク質、融合エフェクタータンパク質および関連する核酸)が使用のためのキットの形態で供給されうる。一実施形態において、当該キットはCRISPRタンパク質またはCasタンパク質をコードする核酸、エフェクタータンパク質、上述したRNAスキャホールドの1つ以上、上述したRNA分子のセットを含む。他の実施形態において、当該キットは1つ以上の他の反応成分を含んでもよい。このようなキットにおいては、1つ以上の反応成分の適量が、1つ以上の容器中で提供され、または基板上に保持される。
【0109】
当該キットの追加の成分の例としては、以下に限定されないが、1つ以上の宿主細胞、外来ヌクレオチド配列を宿主細胞に導入するための1つ以上の試薬、RNAもしくはタンパク質の発現を検出し、または標的核酸の状態を確認するための1つ以上の試薬(例えば、プローブまたはPCRプライマー)、および反応のための(1Xまたは濃縮形態の)緩衝液または培地が挙げられる。当該キットはまた、以下の成分の1つ以上をも含みうる:支持体、終止試薬、修飾試薬または消化試薬、浸透圧調節物質および検出用装置。
【0110】
用いられる反応成分は、種々の形態で提供されうる。例えば、当該成分(例えば、酵素、RNA、プローブおよび/またはプライマー)は、水溶液中に懸濁されるか、またはフリーズドライまたは凍結乾燥された粉末、ペレットまたはビーズでありうる。後者の場合、これらの成分は再構成されると、アッセイに用いるための成分の完全な混合物を生じる。本発明のキットは任意の適切な温度で提供されうる。例えば、液体中のタンパク質成分またはその複合体を含有するキットの貯蔵のため、キットを0℃未満(好ましくは-20℃以下)で、あるいは凍結状態で提供して維持することが好ましい。
【0111】
キットまたはシステムは、本明細書に記載の成分の任意の組み合わせを、少なくとも1回のアッセイに十分な量で含有することができる。ある用途においては、1つ以上の反応成分を予め測定された単回使用量で個々のチューブまたは同様の容器中で、典型的には使い捨てのものとして提供してもよい。このように準備しておくと、標的核酸または当該標的核酸を含有するサンプルもしくは細胞を直接個々のチューブに添加することで、RNAによりガイドされる反応が実施されうる。キット中に供給される成分の量は、任意の適切な量であればよく、当該製品が向けられる対象となる市場に依存しうる。これらの成分が供給される容器は、供給された形態を保持できる従来の任意の容器であればよく、例えば、遠心チューブ、マイクロタイタープレート、アンプル、瓶または内蔵された検査デバイス(流体デバイス、カートリッジ、ラテラルフローもしくは他の類似のデバイス)でありうる。
【0112】
当該キットはまた、容器または容器の組み合わせを保持する包装材料をも含みうる。このようなキットおよびシステムのための典型的な包装材料としては、反応成分または検出プローブを種々の任意の配置で(例えば、バイアル中で、マイクロタイタープレートのウェル中で、マイクロアレイ中で)保持する固体のマトリックス(例えば、ガラス、プラスチック、紙、箔、マイクロパーティクルなど)が挙げられる。当該キットは、上記の成分の使用のために有形の形式で記録された指示書をさらに含んでもよい。
【0113】
定義
核酸またはポリヌクレオチドとは、DNA分子(例えば、以下に限定されないが、cDNAもしくはゲノムDNA)またはRNA分子(例えば、以下に限定されないが、mRNA)を意味し、DNA類似体またはRNA類似体を含む。DNA類似体またはRNA類似体は、ヌクレオチド類似体から合成されうる。DNA分子またはRNA分子は、修飾された塩基、修飾された主鎖、RNA中のデオキシリボヌクレオチドなどの天然には存在しない部分を含んでもよい。核酸分子は、一本鎖または二本鎖でありうる。
【0114】
核酸分子またはポリペプチドについて言及する際の「単離された」との語は、当該核酸分子またはポリペプチドが、自然界においては自身が会合しているかまたは一緒になっていることが観察される少なくとも1つの他の成分を実質的に含有していないことを意味する。
【0115】
本明細書で用いられる場合、「ガイドRNA」との語は一般に、CRISPRタンパク質に結合して当該CRISPRタンパク質を標的DNA内の特定の位置に標的化することができるRNA分子(またはRNA分子の包括的な群)を意味する。ガイドRNAは、DNA標的化ガイドセグメントおよびタンパク質結合セグメントの2つのセグメントを含みうる。DNA標的化セグメントは、標的配列に対して相補的な(または少なくともストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる)ヌクレオチド配列を含む。タンパク質結合セグメントは、Cas9またはCas9関連ポリペプチドなどのCRISPRタンパク質と相互作用する。これらの2つのセグメントは同一のRNA分子中に位置していてもよいし、2つ以上の異なるRNA分子中に存在していてもよい。これらの2つのセグメントが別のRNA分子中に存在する場合、DNA標的化ガイドセグメントを含む分子はCRISPR RNA(crRNA)と称され、タンパク質結合セグメントを含む分子はトランス活性化RNA(tracrRNA)と称されることがある。
【0116】
本明細書で用いられる場合、「標的核酸」または「標的」との語は、標的となる核酸配列を含有する核酸を意味する。標的核酸配列は一本鎖であってもよいし二本鎖であってもよく、二本鎖DNAであることがよくある。「標的核酸配列」、「標的配列」または「標的領域」は、本明細書で用いられる場合、CRISPRシステムを用いて結合させ、またはこれを用いて修飾しようとする特定の配列またはその相補体を意味する。標的配列は、細胞のゲノム内で、インビトロまたはインビボの核酸内に存在するものであってよく、一本鎖核酸または二本鎖核酸のいかなる形態であってもよい。
【0117】
「標的核酸の鎖」とは、本明細書に記載のガイドRNAを用いた塩基対形成に供される標的核酸の鎖を意味する。すなわち、crRNAおよびガイドRNAとハイブリダイズする標的核酸の鎖が「標的核酸の鎖」と称される。標的核酸の他方の鎖はガイド配列に対して相補的ではないが、これは「非相補的な鎖」と称される。二本鎖の標的核酸(例えば、DNA)の場合、それぞれの鎖はcrRNAおよびガイドRNAを設計するための「標的核酸の鎖」となることができ、適当なPAM部位が存在する限り本発明の方法を実施するのに用いられうる。
【0118】
本明細書で用いられる場合、「由来する」との語は、第1の成分(例えば、第1の分子)または当該第1の成分からの情報が、別の第2の成分(例えば、当該第1の分子とは異なる第2の分子)を単離し、抽出し、または作製するのに用いられるプロセスを意味する。例えば、哺乳動物のコドンに最適化されたCas9ポリヌクレオチドは、野生型Cas9タンパク質のアミノ酸配列に由来する。また、Cas9の単一変異ニッカーゼ(nCas9D10AなどのnCas9)およびCas9の二重変異のヌル-ニッカーゼ(dCas9 D10A H840AなどのnCas9)などの哺乳動物のコドンに最適化されたCas9変異ポリヌクレオチドは、哺乳動物のコドンに最適化された野生型のCas9タンパク質をコードするポリヌクレオチドに由来する。
【0119】
本明細書において用いられる場合、「野生型」との語は、当業者によって理解される本技術分野の用語であり、変異体またはバリアントの形態から区別されて天然に存在している有機体、株、遺伝子または特性の典型的な形態を意味する。
【0120】
本明細書において用いられる場合、「バリアント」とは、第2の成分(例えば、第2の分子であり、これは「親の」分子と称される)と関連した第1の成分(例えば、第1の分子)を意味する。バリアント分子は、親の分子に由来するもの、これから単離されるもの、これに基づくもの、またはこれに相同のものでありうる。例えば、Cas9の単一変異ニッカーゼおよびCas9の二重変異のヌル-ニッカーゼなどの哺乳動物のコドンに最適化されたCas9(hspCas9)の変異体の形態は、哺乳動物のコドンに最適化された野生型のCas9(hspCas9)のバリアントである。バリアントとの語は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドのいずれを説明するのにも用いられうる。
【0121】
ポリヌクレオチドに適用される場合、バリアント分子はもとの親の分子との間で完全なヌクレオチド配列の同一性を有していてもよいし、あるいは当該親の分子との間で100%未満のヌクレオチド配列の同一性を有していてもよい。例えば、遺伝子のヌクレオチド配列のバリアントは、もとのヌクレオチド配列と比較して、ヌクレオチド配列において少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%またはそれより高い同一性を有する第2のヌクレオチド配列でありうる。
【0122】
ポリヌクレオチドのバリアントはまた、完全な親のポリヌクレオチドを含み、追加の融合ヌクレオチド配列をさらに含むポリヌクレオチドをも包含する。ポリヌクレオチドのバリアントはまた、親のポリヌクレオチドの部分またはサブ配列であるポリヌクレオチドをも包含する。例えば、本明細書に記載のポリヌクレオチドの独特なサブ配列(例えば、標準的な配列の比較・アラインメント技術により決定されるもの)もまた、本発明に包含される。
【0123】
他の形態において、ポリヌクレオチドのバリアントは、親のヌクレオチド配列に対してマイナーな、取るに足らない、または重要でない改変を含むヌクレオチド配列を包含する。例えば、マイナーな、取るに足らない、または重要でない改変としては、(i)対応するポリペプチドのアミノ酸配列を変化させない、(ii)ポリヌクレオチドのタンパク質をコードするオープンリーディングフレームの外側で生じる、(iii)対応するアミノ酸配列に影響しうる欠失または挿入を生じるがポリペプチドの生物学的活性にはほとんどまたはまったく影響しない、(iv)ヌクレオチドの変化が、アミノ酸の化学的に類似のアミノ酸による置換を生じる、ヌクレオチド配列に対する改変が挙げられる。ポリヌクレオチドがタンパク質をコードしない場合(例えば、tRNAまたはcrRNAまたはtracrRNA)、当該ポリヌクレオチドのバリアントは当該ポリヌクレオチドの機能の喪失を生じないヌクレオチドの変化を含みうる。他の形態において、機能的に同一なヌクレオチド配列を生じる本明細書に開示のヌクレオチド配列の保存的なバリアントは本発明に包含される。当業者であれば、本明細書に開示のヌクレオチド配列の多くのバリアントが本発明に包含されることを理解している。
【0124】
ポリペプチドに適用される場合、バリアントペプチドはもとの親のポリペプチドとの間で完全なアミノ酸配列の同一性を有していてもよいし、あるいは当該親のタンパク質との間で100%未満のアミノ酸の同一性を有していてもよい。例えば、アミノ酸配列のバリアントは、もとのアミノ酸配列と比較して、アミノ酸配列において少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%またはそれより高い同一性を有する第2のヌクレオチド配列でありうる。
【0125】
ポリペプチドのバリアントはまた、完全な親のポリペプチドを含み、追加の融合アミノ酸配列をさらに含むポリペプチドをも包含する。ポリペプチドのバリアントはまた、親のポリペプチドの部分またはサブ配列であるポリペプチドをも包含する。例えば、本明細書に記載のポリペプチドの独特なサブ配列(例えば、標準的な配列の比較・アラインメント技術により決定されるもの)もまた、本発明に包含される。
【0126】
他の形態において、ポリペプチドのバリアントは、親のアミノ酸配列に対してマイナーな、取るに足らない、または重要でない改変を含むポリペプチドを包含する。例えば、マイナーな、取るに足らない、または重要でない改変としては、非機能性ペプチド配列の付加のような、ポリペプチドの生物学的活性に影響をほとんどまたはまったく与えず機能的に同等のポリペプチドをもたらすアミノ酸の改変(置換、欠失および挿入など)が挙げられる。他の形態において、本発明に係るバリアントのポリペプチドは、親の分子(例えば、ヌクレアーゼ活性が修飾され、または失われたCas9ポリペプチドの変異体)の生物学的活性を変化させる。当業者であれば、本明細書に開示のポリペプチドの多くのバリアントが本発明に包含されることを理解している。
【0127】
ある形態において、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドのバリアントは、わずかな百分率(例えば、典型的には約10%未満、約5%未満、4%未満、2%未満または1%未満)のヌクレオチドまたはアミノ酸の位置を変化させ、これを付加し、または欠失させるバリアント分子を含みうる。
【0128】
本明細書において用いられる場合、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列における「保存的置換」との語は、(i)三量体コドンの暗号の縮重によりアミノ酸配列に対応する変化を生じないか、または(ii)もとの親のアミノ酸が化学的に類似の構造を有するアミノ酸で置換される、ヌクレオチド配列の変化を意味する。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換の一覧表は本技術分野において周知であり、そこでは1つのアミノ酸残基が類似の化学的特性(例えば、芳香族の側鎖または正に荷電した側鎖)を有する他のアミノ酸残基で置換されており、よって得られるポリペプチド分子の機能的な特性には実質的な変化は生じない。
【0129】
以下に、類似の化学的特性を有する天然アミノ酸のグルーピングを示すが、ここではある群の内部での置換は「保存的な」アミノ酸置換である。異なる機能的特性を考慮する場合、これらの天然アミノ酸は異なるグルーピングで配置されうるため、以下に示すグルーピングは厳密なものではない。非極性および/または脂肪族の側鎖を有するアミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンおよびプロリンが挙げられる。極性の荷電していない側鎖を有するアミノ酸としては、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギンおよびグルタミンが挙げられる。芳香族の側鎖を有するアミノ酸としては、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンが挙げられる。正に荷電した側鎖を有するアミノ酸としては、リシン、アルギニンおよびヒスチジンが挙げられる。負に荷電した側鎖を有するアミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。
【0130】
「Cas9の変異体」または「Cas9のバリアント」とは、化膿連鎖球菌のCas9タンパク質(すなわち、配列番号:1)のような野生型のCas9タンパク質のタンパク質またはポリペプチド誘導体を意味し、例えば、1つ以上の点変異、挿入、欠失、切断、融合タンパク質またはこれらの組み合わせが挙げられる。これはCas9タンパク質のRNA標的化活性を実質的に保持している。当該タンパク質またはポリペプチドは、配列番号:1の断片を含んでもよいし、これからなっていてもよいし、実質的にこれからなっていてもよい。一般に、この変異体/バリアントは、配列番号:1に対して少なくとも50%(例えば、50%~100%の任意の値)の同一性を有する。この変異体/バリアントは、RNA分子に結合し、当該RNA分子を介して特定のDNA配列に標的化されることができ、ヌクレアーゼ活性をさらに有していてもよい。これらのドメインの例としては、RuvC様モチーフ(配列番号:1の第7~22アミノ酸、第759~766アミノ酸および第982~989アミノ酸)およびHNHモチーフ(第837~863アミノ酸)が挙げられる。Gasiunas et al.,Proc Natl Acad Sci USA.2012 September 25;109(39):E2579-E2586およびWO2013176772を参照のこと。
【0131】
「相補性」とは、伝統的なワトソン-クリック塩基対形成または他の非伝統的な形式で、核酸が他の核酸配列と水素結合を形成する能力を意味する。相補性の百分率は、核酸分子中で第2の核酸配列と水素結合(例えば、ワトソン-クリック塩基対形成)を形成しうる残基の百分率を示す(例えば、10個のうち5、6、7、8、9、および10個は、50%、60%、70%、80%、90%、および100%の相補性である)。「完全に相補的」とは、核酸配列の連続したすべての残基が第2の核酸配列における同数の連続した残基と水素結合するであろうことを意味する。本明細書において用いられる場合、「実質的に相補的」とは、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50またはそれよりも多いヌクレオチドの領域にわたって、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%または100%である相補性の程度を意味するか、または2つの核酸がストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることを意味する。
【0132】
本明細書において用いられる場合、ハイブリダイゼーションのための「ストリンジェントな条件」とは、その条件下で標的配列に対して相補性を有する核酸が当該標的配列と優先的にハイブリダイズし、非標的配列とは実質的にハイブリダイズしない条件を意味する。ストリンジェントな条件は通常、配列依存的であり、種々の要因によって変動する。一般に、配列が長くなるほど、当該配列がその標的配列に特異的にハイブリダイズする温度は高くなる。ストリンジェントな条件の非限定的な例は、Tijssen(1993),Laboratory Techniques In Biochemistry And Molecular Biology-Hybridization With Nucleic Acid Probes Part I,Second Chapter “Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assay”,Elsevier,N.Y.に詳細に記載されている。
【0133】
「ハイブリダイゼーション」または「ハイブリダイズする」とは、特定のハイブリダイゼーション条件下において、完全にまたは部分的に相補的な核酸の鎖が一体化して、これを構成する二本の鎖が水素結合により合わさった二本鎖の構造または領域を形成するプロセスを意味する。水素結合は通常、アデニンとチミンもしくはウラシルとの間(AとTまたはU)、またはシトシンとグアニンとの間(CとG)で形成されるが、他の塩基対がけいせいされてもよい(例えば、e.g.,Adams et al.,The Biochemistry of the Nucleic Acids, 11th ed.,1992)。
【0134】
本明細書において用いられる場合、「発現」とは、それによってポリヌクレオチドがDNAの鋳型から(mRNAまたは他のRNA転写物へと)転写されるプロセス、および/または、転写されたmRNAが引き続きペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質へと翻訳されるプロセスを意味する。転写物およびコードされたポリペプチドは、総称して「遺伝子産物」と称されうる。ポリヌクレオチドがゲノムDNA由来のものである場合、発現には真核細胞中でのmRNAのスプライシングも含まれうる。
【0135】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」との語は、本明細書においては区別せずに用いられ、任意の長さのアミノ酸の重合体を意味する。この重合体は線状であっても分枝状であってもよく、修飾アミノ酸を含んでもよく、間に非アミノ酸を含んでいてもよい。これらの語はまた、修飾されたアミノ酸の重合体、例えば、ジスルフィド結合の形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、ホスホリル化、PEG化、または、ラベル化成分との共役などの他の任意の改変を施されたものをも包含する。本明細書において用いられる場合、「アミノ酸」との語は、グリシンおよびD体またはL体の光学異性体、並びにアミノ酸類似体およびペプチド類似体などの、天然および/または非天然もしくは合成のアミノ酸を含む。
【0136】
「融合ポリペプチド」または「融合タンパク質」との語は、2つ以上のポリペプチド配列を一緒に合わせることによって作製されたタンパク質を意味する。本発明に包含される融合ポリペプチドとしては、第1のポリペプチド(例えば、RNA結合ドメイン)をコードする核酸配列を、第2のポリペプチド(例えば、エフェクタードメイン)をコードする核酸配列と合わせて単一のオープンリーディングフレームを形成したキメラ状の遺伝子構築物の翻訳産物が挙げられる。言い換えれば、「融合ポリペプチド」または「融合タンパク質」は、ペプチド結合によって、またはいくつかのペプチドを介して合わさった2つ以上のタンパク質の組み換えタンパク質である。融合タンパク質はまた、2つのドメインの間にペプチドリンカーを含んでもよい。
【0137】
「リンカー」との語は、2つ以上のものを合わせるのに用いられる任意の手段、もの、または部分を意味する。リンカーは共有結合性のリンカーであってもよいし、非共有結合性のリンカーであってもよい。共有結合性のリンカーの例としては、共有結合または連結すべきタンパク質もしくはドメインの1つ以上に共有結合で連結されたリンカー部分が挙げられる。このリンカーはまた、非共有結合(例えば、白金原子などの金属中心を介した有機金属結合)であってもよい。共有結合で連結するには、炭酸誘導体などのアミド基、エーテル、有機エステルまたは無機エステルなどのエステル、アミノ、ウレタン、ウレアなどの種々の官能性が用いられうる。連結を提供すべく、各ドメインは、酸化、ヒドロキシ化、置換、削減などによって修飾されてカップリングのための部位を提供することができる。共役の方法は当業者に周知であり、本発明での使用に包含される。リンカー部位としては、以下に限定されないが、化学的なリンカー部位または例えばペプチドリンカー部位(リンカー配列)が挙げられる。RNA結合ドメインおよびエフェクタードメインの機能を有意に低下させない修飾が好ましいことは理解されるであろう。
【0138】
本明細書において用いられる場合、「共役体」または「共役」または「連結された」との語は、2つ以上のものがあわさって1つのものを形成していることを意味する。共役体には、ペプチド-小分子共役体と、ペプチド-タンパク質/ペプチド共役体の双方が包含される。
【0139】
「被験者」および「患者」の語は、本明細書では区別せずに用いられ、脊椎動物を意味し、好ましくは哺乳動物を意味し、より好ましくはヒトを意味する。哺乳動物としては、以下に限定されないが、マウス、サル、ヒト、家畜、運動競技用動物およびペットが挙げられる。インビボで得られた、またはインビトロで培養された、生命体の組織、細胞およびこれらの子孫もまた包含されうる。ある実施形態において、被験者は無脊椎動物(例えば、昆虫または線形動物)であってもよいが、他の実施形態では、被験者は植物または真菌であってもよい。
【0140】
本明細書で用いられる場合、「治療」または「治療する」または「緩和する」または「軽減する」は区別せずに用いられる。これらの語は、以下に限定されないが、治療上の便益および/または予防的な便益などの有利な、または所望の結果を得るためのアプローチを意味する。治療上の便益とは、治療に供された1つ以上の疾患、症状または兆候における、治療に関連した改善またはこれに対する効果を意味する。予防的な便益のためには、特定の疾患、症状または兆候が進展するリスクのある被験者に対して、または疾患の病理学的な兆候の1つ以上を申告している被験者に対して、組成物が投与されうるが、これらの疾患、症状または兆候は依然として顕在化していなくてもよい。
【0141】
本明細書において、「接触させる」との語が成分の任意のセットに関連して用いられる場合には、接触させられる成分が同一の混合物中に混合される(例えば、同一の容器または溶液中に添加される)任意のプロセスを含むが、必ずしも当該成分が実際に物理的に接触していなくてもよい。これらの成分は、任意の順序で、任意の組み合わせ(またはサブコンビネーション)で接触してよく、得られた混合物から当該成分の1つ以上が、続いて(場合によっては他の成分の添加の前に)除去される場合も含みうる。例えば、「AをBおよびCと接触させる」とは、以下の場合のいずれかまたはすべてが含まれる:(i)AをCと混合し、次いでこの混合物にBを添加する;(ii)AおよびBを混合して混合物とし、この混合物からBを除去し、次いでこの混合物にCを添加する;(iii)BとCとの混合物にAを添加する。標的の核酸または細胞を1つ以上の反応成分(Casタンパク質またはガイドRNAなど)と接触させることとしては、以下の場合のいずれかまたはすべてが含まれる:(i)標的または細胞を反応混合物の第1の成分と接触させて混合物とし、次いで当該反応混合物の他の成分を、任意の順序または組み合わせでこの混合物に添加する;(ii)標的または細胞との混合の前に、上記反応混合物を完全に形成する。
【0142】
本明細書において用いられる場合、「混合物」との語は、分散していて特定の秩序をもたない、要素の組み合わせを意味する。混合物は異種のものであり、別々の構成要素へと空間的に分離することはできない。要素の混合物の例としては、同一の水溶液中に溶解している多数の異なる要素や、別々の成分が空間的に区別されないようにして、固体状の支持体にランダムにまたは特定の秩序をもたずに付着している多数の異なる要素が挙げられる。言い換えれば、混合物はアドレス可能ではない。
【0143】
本明細書に開示されている、値の範囲について多くのものが記載される。文脈から明らかにそうでないと言えない限り、ある範囲の上限値および下限値の中間のそれぞれの値もまた、下限値の単位の10分の1の値として具体的に開示されているものとする。明記された任意の値または明記された範囲の中間の値と当該明記された範囲内に位置する他の任意の明記された値または中間の値との間のより小さいそれぞれの範囲もまた、本発明の範囲に包含される。これらのより小さい範囲の上限値および下限値は、それぞれ独立して、当該範囲に含まれても含まれなくてもよく、境界値のいずれかまたは双方がより小さい範囲に含まれるか、あるいはいずれもより小さい範囲に含まれないそれぞれの範囲もまた、明記された範囲において具体的に除外された任意の境界値に依存する形で、本発明に包含される。明記された範囲が境界値の1つまたは双方を含む場合、これらの含まれた境界値の一方または双方を除外した範囲もまた、本発明に包含される。「約」との語は一般的に、示された数のプラスまたはマイナス10%を意味する。例えば、「約10%」とは、9%~11%の範囲を示し、「約20」とは18~22を意味しうる「約」の別の意味は、四捨五入などの文脈から明らかであり、よって例えば、「約1」は0.5~1.4をも意味する。
【実施例
【0144】
実施例1 細菌ゲノムの標的シチジンヌクレオチドにおいて部位特異的変異をもたらすCRCシステム
本実施例では、大腸菌MG1655株をモデルとして用いた。細菌のRNAポリメラーゼのサブユニットβ遺伝子(rpoB)における変異は、細胞を抗生物質であるリファンピシンに対して耐性にする(Jin,et al.,Journal of Molecular Biology 202,45-58,(1988)およびGoldstein,et al.,J Antibiot 67,625-630,doi:10.1038/ja.2014.107(2014))。変異については単離して個別に解析することが可能であり、変異の頻度も算出されうる。AIDは、シチジンデアミナーゼのAPOBECファミリーに属するB細胞特異的なタンパク質であり、抗体の多様化および親和性成熟の際の体細胞超変異およびクラススイッチ組み換えに関与している(Odegard,et al.,Nat Rev Immunol 6,573-583(2006),およびNoia,et al.Annual Review of Biochemistry 76,1-22,doi:doi:10.1146/annurev.biochem.76.061705.090740(2007))。よって、これらの実験のセットについては、非ヌクレアーゼエフェクタータンパク質としてAIDを用いて大腸菌MG1655株が標的化される。
【0145】
コンストラクトおよびシステムの構成
誘導性プロモーター
タンパク質をコードするすべてのコンストラクトは、Tet誘導性プロモーターの制御下で設計した。誘導剤としては、30nMの濃度のアンヒドロテトラサイクリン(ATc;シグマ)を用いた。
【0146】
Cas9コンストラクト
本システムの主要な特徴は、DSBの生成を伴わずにヌクレオチドの修飾を正確に導入することにある。この目的に向けて、Cas9のヌクレアーゼ欠損体(すなわち、触媒活性を失ったCas9(Cas9D10A/H840A、dCas9)およびCas9ニッカーゼ(nCas9D10AまたはnCas9H840A)(Jinek,M.et al.,Science 337,816-821,doi:10.1126/science.1225829(2012)))をDNA標的化モジュールとして用いた。Cas9ニッカーゼは、オフセットダブルDNAニッキングによりオフターゲットのDSBを低減する目的で用いられてきた(Ran,F.A. et al.,Cell 154,1380-1389,doi:10.1016/j.cell.2013.08.021(2013)およびShen,B.et al.,Nat Meth 11,399-402,doi:10.1038/nmeth.2857(2014))。また、dCas9は、ヌクレアーゼ活性から独立した種々の活性をもたらすことを目的として作製されてきた。Fujita,T.et al.,Biochemical and biophysical research communications 439,132-136,(2013)、Perez-Pinera,P.et al.Nat Meth 10,973-976,doi:10.1038/nmeth.2600(2013)、Mali,P.et al.Nat Biotechnol 31,833-838,doi:10.1038 et al./nbt.2675(2013)、Zalatan,J.G.et al.,Cell 160,339-350,doi:10.1016/j.cell.2014.11.052(2015)、Qi,L.S. et al.,Cell 152,1173-1183,doi:10.1016/j.cell.2013.02.022(2013)、Larson,M. H.et al.,Nature protocols 8,2180-2196,doi:10.1038/nprot.2013.132(2013)、Hilton,I.B. et al.,Nat Biotech 33,510-517,doi:10.1038/nbt.3199(2015)、Thakore,P.I.et al.,Nat Meth 12,1143-1149,doi:10.1038/nmeth.363(2015)、Chen,B.et al.,Cell 155,1479-1491,doi:10.1016/j.cell.2013.12.001(2013)およびFu,Y.et al.,Nature communications 7,doi:10.1038/ncomms11707(2016)を参照。したがって、これらのバリアントはほとんど安全であると考えられ、本研究により提供されるシステムを開発するのにふさわしい候補である。
【0147】
標的化された動員システム
本システムは、RNAスキャホールド媒介性の動員プラットフォームとして作製された。本研究において用いられたコンストラクトの概要などの概略図を図1Aに示す。Cas9のバリアントについては独立したコンストラクトとして設計したが、gRNAについてはCRISPR RNAスキャホールドの3’末端にファージRNAスキャホールドを合成的に融合したキメラRNA種として作製した。ファージRNAスキャホールドは、非ヌクレアーゼエフェクタータンパク質に連結された特定のRNA結合タンパク質を動員する(図1B)。このRNAスキャホールド動員システムは、ファージMS2およびそれが相互作用する相手方であるMS2コートタンパク質(MCP)に由来するものである。
【0148】
標的化gRNA
標的は、細菌のrpoB遺伝子である。3つのクラスター(合わせてリファンピシン耐性決定領域(RRDR)と称される)における変異により、細胞は抗生物質であるリファンピシンに対する耐性を獲得する(Rif)(Goldstein,et al.,J Antibiot 67,625-630,doi:10.1038/ja.2014.107(2014))。RRDRクラスターI配列における重要なアミノ酸を標的化することを目的として、4つのgRNAのセットを設計した(すなわち、S512、D516、H526およびS531;図2A)。Jin,et al.,Journal of molecular biology 202,45-58,(1988)およびJin,D.J.et al.,Methods in Enzymology Vol.Volume 273 300-319(Academic Press,1996)。
【0149】
実験的アプローチ
化学的にコンピテントとした大腸菌MG1655細胞を、セクション1に記載のコンストラクトをコードするプラスミドの組み合わせからなる全DNA 10~20ngで形質転換した。形質転換の後、細胞を選別し、適切な抗生物質を含有するLuria-Bertani培地中で誘導した。選別/誘導の後、ODを測定し、細胞を順次希釈し、リファンピシン(120μM)を含有するLB寒天プレート上に10~10個の細胞を播種した。平板効率のためにリファンピシンを含まない選択寒天プレート上に200個の細胞を播種した。一晩インキュベーションした後、コロニーを計数し、変異の頻度を記録した。また、コロニーから単離されたrpoB遺伝子をPCRにより増幅し、配列を決定して変異をマッピングした。
【0150】
結果
AIDの標的化された動員はCからTへの部位特異的な変換をもたらす
rpoBのRRDR(クラスターI)領域を標的化する4つのgRNAのセットを用いて、標的部位へとAIDを動員した(図2A)。rpoB_TS-4を用いたCRC標的化および、程度は低いがrpoB_TS-3を用いたCRC標的化により、リファンピシン培地中でのMG1655細胞の生存画分は増加した(図2B図2C)。rpoB_TS-4による処理から得られたクローンの配列解析から、C1592のTへの変異と、これに付随する、Rif細胞をもたらす変異であることが知られているセリン531からフェニルアラニンへのアミノ酸の変換についての高い特異性が確認された(Petersen-Mahrt,et al.,Nature 418,99-104(2002),Xu,M.,et al.,Journal of Bacteriology 187,2783-2792,doi:10.1128/JB.187.8.2783-2792.2005(2005)およびZenkin,N.,et al.,Antimicrobial Agents and Chemotherapy 49,1587-1590,doi:10.1128/AAC.49.4.1587-1590.2005(2005))(図2D)。rpoB_TS-3、rpoB_TS-4およびスクランブルの変異の分布を図2Eにまとめた。rpoB_TS-4処理において観察された変異頻度のかなりの増加と修飾ヌクレオチドの配置、並びにrpoB_TS-3処理における効率の低下から、標的であるシトシンは、プロトスペーサーの5’末端により近い、CRISPR R-ループにより残された対を形成していない鎖上に位置する必要があることが示唆される(すなわち、変異頻度はTS4>TS3であり、これらはいずれも同一のヌクレオチドを標的化し、修飾する;図2A図2Cおよび図2E)。このことは、AIDが一本鎖DNA上のシトシン残基を積極的に脱アミノ化するという見解と整合している(Odegard,et al.,Nat Rev Immunol 6,573-583(2006),Noia,et al.,Annual Review of Biochemistry 76,1-22,doi:doi:10.1146/annurev.biochem.76.061705.090740(2007),Smith,H.C.,et al.,Seminars in Cell & Developmental Biology 23,258-268,doi:10.1016/j.semcdb.2011.10.004(2012)およびRanganathan,V.,et al.,Nature communications 5,doi:10.1038/ncomms5516(2014))。標的化モデルの概略図を図2Fに示す。
【0151】
CRCのモジュラリティ
標的化モジュールをdCas9からnCas9D10Aへ変更するとCからT/Aへの変換の効率が上昇する
標的化モジュールをdCas9からnCas9D10Aへ変更すると、リファンピシンプレート上の生存画分の観点でのシステムの効率がコントロールに対して18倍から43倍へと上昇した。変異の解析により、標的ヌクレオチドに対してAIDCRC処理と同様の特異性が確認された。この場合、C1592は100%のクローンで修飾され、75%がCからTへと変異し、25%がCからAへと変異していた(図3B)。
【0152】
他の非ヌクレアーゼエフェクター(APOBEC3GおよびAPOBEC1)の標的化された動員により、部位特異的なCからT/Aへの変換を導入することができる
エフェクタータンパク質としてのAIDに加えて、APOBECファミリーに由来する他のシチジンデアミナーゼ(すなわち、APOBEC3GおよびAPOBEC1)についても試験を行った(図4A)。APOBEC1は、プロトタイプシステム(AIDCRCD10A)と比較して、標的化された変異の頻度を増加させた。APOBEC3Gの活性は、プロトタイプシステムよりも低かった。rpoB_TS-4を標的化コンストラクトとして用い、Apo1CRCD10Aで処理された細胞の変異の解析では、100%がC1592→Tの変換を示した。また、カ移籍したクローンの25%は二重変異体であり、アミノ酸の変化を生じないC1590→Tの変換をも示した(図4B)。
【0153】
RNA動員スキャホールドの数を増加させるとCからT/Aへの変換の特異性を変えずに変異の頻度が増加する
タンデムの多量体リクルーティングスキャホールドを付加することで、標的領域上に存在するエフェクターを潜在的に増加させることができ、これによってシステムの効率を向上させることができた。この目的に向けて、2つのMS2ループ(2×MS2)を含むようにrpoB_TS-4を改良した。1つのMS2ループ(1×MS2)を有するrpoB_TS-4とrpoB_TS-4 2×MS2との間で、標的化の効率を比較した(図5A)。その結果から、リクルーティングループの数を増加させると、Rifの観点での変異の効率は実際に向上することが示され、これによって存在するエフェクタータンパク質が増加していることが示唆される。rpoB_TS-4 2×MS2を標的化コンストラクトとして用い、AIDCRCD10Aで処理された細胞の変異の解析では、C1592ヌクレオチドが100%のクローンにおいて修飾され、そのうち62.5%がCからTへ変異し、37.5%がCからAへ変異していたことが示された(図5B)。これらの結果から、リクルーティングモジュールの改良はシステムの標的化の特異性に影響しないことが示唆される。
【0154】
まとめると、以上の結果から、CRCシステムのモジュラー設計により作製プロセスが簡便になり、システムのさらなる改善の可能性が高まることがわかる。
【0155】
実施例2 CRCシステムは哺乳動物のシステムにおいて部位特異的なヌクレオチドの変換をもたらした
実験のデザイン:哺乳動物での発現のためのシステムの改良
次いで、哺乳動物での発言のためにシステムの改良を試みた。この目的に向けて、自己切断可能なP2Aペプチドで隔てられたAID_MCP融合物がその後に連結された、哺乳動物のコドンに最適化されたnCas9D10Aを用いて、原核細胞のAIDCRCD10Aシステムを多シストロン性のコンストラクトとして反復した。このコンストラクトをユビキチンCプロモーターの制御下でクローニングした。それぞれ5’-Gまたは5’-Aを有する標的について、U6またはH1プロモーターの制御下で、gRNA_2×MS2カセットをクローニングした(Ranganathan,V.,et al.,Nature communications 5,doi:10.1038/ncomms5516 (2014))。これらの一連の実験で用いられたコンストラクトの概略図を図6Aに示す。
【0156】
染色体外DNAの標的化:EGFP逆変異アッセイ
EGFPを改良して、そのフルオロフォアを破壊する機能喪失型点変異(197A→G、Y66C)を有するようにし、これによってタンパク質を非蛍光性とした(nfEGFPY66C)。次いで、この変異体GFPの発現ベクターを哺乳動物の細胞にトランスフェクションし、システムの基材とする。本実験の目的は、上述した機能喪失型点変異を「修正」することであった。「修正された」遺伝子が転写されて翻訳されると、この修正によってタンパク質の機能は回復し、蛍光顕微鏡下で蛍光性の細胞として可視化することが可能となる。
【0157】
実験的アプローチ
nfEGFPY66CAIDCRCD10AおよびgRNAコンストラクトをコードする標的プラスミドを含むDNAの組み合わせ10μgを用いて、約7×10個の293T細胞をトランスフェクションした。比較のために、これら一連の実験では第3世代の塩基エディターシステム(BE3、Komor,A.C. et al.,Nature advance online publication,doi:10.1038/nature17946)を用いた。BE3は異なる動員メカニズム(Cas9とAPOBEC1との直接的な融合)を用いた少し似たシステムであり、DNA修復に関与する酵素であるウラシルDNAグリコシラーゼを阻害するペプチドを含む。一晩のインキュベーションの後、蛍光顕微鏡下で細胞を解析して、GFPシグナルを観察した。
【0158】
結果
上述したCRCシステムは、タンパク質の機能を保ったまま、染色体外DNAにおける標的ヌクレオチドを修飾することができることがわかった。標的のシトシンは鋳型鎖(TS、-)に位置することから、2つのgRNAについては、標的ヌクレオチド周辺の非鋳型鎖(NT、+)に結合するように設計した(図6B)。標的のシトシンは、それぞれnfEGFPY66C_NT-1プロトスペーサーおよびnfEGFPY66C_NT-2プロトスペーサー内の5位および12位に位置する。nCas9D10A、AID_MCP、gRNA(nfEGFPY66C_NT-1またはnfEGFPY66C_NT-2)、および標的コンストラクト(nfEGFPY66C)をコードするDNAを用いて、293T細胞をトランスフェクションした。nfEGFPY66C_NT-1およびnfEGFPY66C_NT-2で処理したがスクランブルでは処理していない細胞について、EGFPシグナルを検出した(図6C)。標的のシトシンの位置により、nfEGFPY66C_NT-2の場合と比較して、nfEGFPY66C_NT-1で処理された細胞ではEGFPシグナルがより強かった。nfEGFPY66C_NT-1は、標的のCをAIDへよりアクセス可能にしているようである(図6C、中央および右のパネル)。また、CRCプラットフォームを、動員のためのシチジンデアミナーゼタンパク質のCas9タンパク質への直接融合を利用し、効率の改善のためにウラシルDNAグリコシラーゼ(UGI)の阻害剤の共発現を必要とする別の遺伝子編集システム(BE3)と比較した。そうしたところ、予期せぬことに、エフェクターと配列標的化モジュールとがRNAスキャホールドを介して連結しているCRCシステムの方が、局所的なUNGの阻害を必要としなくとも、BE3システムよりもずっと効率的であることが判明した(図6C図6Dおよび図7B)。
【0159】
これらの結果により、細菌の系からの知見が裏付けられ、本システムは、プログラム可能な方法で、ヒトの細胞の染色体外DNAにおける特定のシトシン残基を効率的に脱アミノ化することが示される。AIDCRCD10Aによる処理および標的化gRNAとしてnfEGFPY66C_NT-1を用いたBE3による処理からのGFP陽性細胞の計量により、CRCシステムがBE3よりも優れた変換効率を示すことが示唆される(図6D)。
【0160】
実施例3 CRCシステムは哺乳動物の細胞において内因性の遺伝子の部位特異的なヌクレオチド変換をもたらす
内因性の遺伝子座の標的化:チャイニーズハムスターのHPRT遺伝子
細菌の陰性選択システムから観察された良好な結果に後押しされて、哺乳動物の細胞においても類似のアプローチを採用することとした。ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)は、プリン代謝に関与する酵素であり、そのコーディング配列における変異は代謝拮抗物質である6-チオグアニン(6-TG)に対する耐性を生じることが知られている(O’Neill,J.P.et al.,Nature 269,815-816(1977))。これらの実験は、CRCシステムを用いてHPRT遺伝子を変異させてその機能を阻害し、さらなる解析のために、6-TGを用いて変異細胞を選択することを目的として行った。
【0161】
実験的アプローチ
AIDCRCD10AコンストラクトおよびgRNAであるHPRT_TS-1発現ベクターを含むDNAの組み合わせ10μgを用いて、約7×10個のチャイニーズハムスターV79-4細胞をトランスフェクションした。比較のために、細胞をBE3およびgRNAであるHPRT_TS-1で処理した。既報に記載の哺乳動物における突然変異誘発性のプロトコールに従って、処理した細胞および未処理の細胞を増殖させた(Klein,C.B.,et al.,in Current Protocols in Toxicology(John Wiley&Sons,Inc.,2001))。簡単に言えば、トランスフェクションの後、細胞を7日間維持し、次いで変異の固定および既に存在していたHPRT mRNAおよびタンパク質のターンオーバーのための6-TGによる選択を行った。60μMの6-TGを用いて14日間細胞を選択し、6-TGのコロニーを形成させた。コロニーを計数して変異の頻度を見積もり、個々のコロニーを単離して配列決定の解析のために別々に増殖させた。
【0162】
結果
チャイニーズハムスターのHPRT遺伝子に由来するエクソン3を標的化するように、1つのgRNAを設計した(図7A)。このgRNAは、フェニルアラニンをコードするコドン74を標的化し、この残基における変異はHPRTタンパク質の安定性を低下させることが既に知られていた(Davidson,B.L.,et al.,Gene 63,331-336,doi:http://dx.doi.org/10.1016/0378-1119(88)90536-7(1988))。AIDCRCD10AまたはBE3コンストラクトをコードするDNAを、標的化gRNA発現ベクターと一緒に用いてV79-4細胞をトランスフェクションした。AIDCRCD10Aシステムは、BE3システムよりも高い効率で、細胞を6-TG処理に対して耐性にする変異をもたらした(すなわち、それぞれ未処理の細胞と比較して140倍vs.40倍であった;図7B)。この結果から、CRCシステムは哺乳動物の内因性の遺伝子座における特定のDNA配列を標的化し、修飾することができることが示される。
【0163】
上述した実施例および好ましい実施形態の記載は、特許請求の範囲によって確定される本発明を限定するものとしてというよりも、例示的なものと捉えられるべきである。容易に理解可能であろうが、上述した特徴についての多くの改変および組み合わせが、特許請求の範囲に記載の本発明を逸脱することなく採用可能である。このような改変は本発明の範囲からの逸脱とみなされてはならず、このような改変はすべて、後述する特許請求の範囲に含まれるものとする。本明細書において引用されたすべての文献は、その全体が参照により引用されている。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
【配列表】
0007044373000001.app