(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】濃縮装置
(51)【国際特許分類】
B01D 3/20 20060101AFI20220323BHJP
B01D 5/00 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
B01D3/20
B01D5/00 Z
(21)【出願番号】P 2020202499
(22)【出願日】2020-12-07
【審査請求日】2021-10-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390036663
【氏名又は名称】木村化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092071
【氏名又は名称】西澤 均
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【氏名又は名称】野末 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】立野 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】池田 博史
(72)【発明者】
【氏名】笹辺 慶
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-226480(JP,A)
【文献】特開2020-121239(JP,A)
【文献】特開2020-099856(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108726606(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110193211(CN,A)
【文献】中国実用新案第208603748(CN,U)
【文献】特開昭59-026184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01B 1/00-1/08
B01D 1/00-8/00
C02F 1/02-1/18
C07B 31/00-61/00,63/00-63/04
C07C 1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食性成分、可燃性成分、および汚染成分からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分と、溶剤とを含有する被処理液から前記溶剤の一部または全部を分離して、前記被処理液中の前記成分の濃度を高めるための濃縮装置であって、
前記被処理液を第1の熱媒により間接的に加熱し、前記被処理液
から、前記成分を一部に含む
前記溶剤蒸気である低沸点成分蒸気を発生させる加熱部と、
前記低沸点成分蒸気から前記成分を分離
して、前記成分を目標濃度で含有する塔底液と、実質的に前記成分を含まず、前記溶剤を主成分とする留出液とに分ける機能を果たす単一の蒸留塔と、
前記蒸留塔の塔頂から取り出される塔頂ベーパを、第2の熱媒により間接的に冷却して凝縮させる凝縮部と、
前記加熱部において前記被処理液の加熱に使用され、温度が低下した前記第1の熱媒の昇温と、前記凝縮部において前記塔頂ベーパの冷却に使用され、温度が上昇した前記第2の熱媒の冷却と、を行うヒートポンプと、
前記凝縮部を経て真空吸引することにより、系内の真空度を調整することができるように構成された真空発生手段と、
前記加熱部の前記第1の熱媒の流路に配設され、前記第1の熱媒と間接的に熱交換して、余剰の熱エネルギーを系外に排出する熱交換器、および前記凝縮部の前記第2の熱媒の流路に配設され、前記第2の熱媒と間接的に熱交換して、余剰の熱エネルギーを系外に排出する熱交換器のいずれか一方の熱交換器とを備え、
系内の真空度を調整して、前記蒸留塔の塔底における前記被処理液の温度および前記塔頂ベーパの温度を制御することにより、前記ヒートポンプで昇温されて前記加熱部に供給される前記第1の熱媒の温度が、前記ヒートポンプで冷却され、前記凝縮部に供給される前記第2の熱媒の温度より、15℃以上40℃
未満の範囲で高い温度となるように構成されていること
を特徴とする濃縮装置。
【請求項2】
前記凝縮部で前記塔頂ベーパの冷却に使用されて温度が上昇した前記第2の熱媒が、前記ヒートポンプで熱回収された後、5℃以上83℃未満の温度で前記凝縮部に循環供給され、
前記第2の熱媒から回収した熱が、前記ヒートポンプで、前記加熱部で前記被処理液の加熱に使用されて温度が低下した前記第1の熱媒を、20℃以上98℃未満の温度にまで昇温するのに利用され、かつ、
前記蒸留塔の塔底液の温度が、12℃以上95℃未満となるように構成されていること
を特徴とする請求項1に記載の濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃縮装置の省エネルギーシステムに関し、詳しくは、ヒートポンプを用いた濃縮装置の省エネルギーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
濃縮装置における省エネルギー化の必要性は近年、増大しており、種々の提案が行われている。
【0003】
濃縮装置の省エネルギー化の方法の1つとして、蒸気圧縮機により温度レベルが上げられた自己蒸発蒸気を利用して、自己の加熱源として使用する方法がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の蒸気圧縮機を使用した方法では、加熱により発生した蒸発ベーパに、腐食性成分、可燃性成分、汚染成分などが含まれている場合、蒸気圧縮機の運転に支障をきたすという問題点がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、ヒートポンプを用いた濃縮装置であって、被処理液の種類や装置構成に制約を受けることが少なく、かつ、効率よく濃縮装置全体の熱バランスをとることが可能で、省エネルギー性に優れた濃縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の濃縮装置は、
腐食性成分、可燃性成分、および汚染成分からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分と、溶剤とを含有する被処理液から前記溶剤の一部または全部を分離して、前記被処理液中の前記成分の濃度を高めるための濃縮装置であって、
前記被処理液を第1の熱媒により間接的に加熱し、前記被処理液から、前記成分を一部に含む前記溶剤蒸気である低沸点成分蒸気を発生させる加熱部と、
前記低沸点成分蒸気から前記成分を分離して、前記成分を目標濃度で含有する塔底液と、実質的に前記成分を含まず、前記溶剤を主成分とする留出液とに分ける機能を果たす単一の蒸留塔と、
前記蒸留塔の塔頂から取り出される塔頂ベーパを、第2の熱媒により間接的に冷却して凝縮させる凝縮部と、
前記加熱部において前記被処理液の加熱に使用され、温度が低下した前記第1の熱媒の昇温と、前記凝縮部において前記塔頂ベーパの冷却に使用され、温度が上昇した前記第2の熱媒の冷却と、を行うヒートポンプと、
前記凝縮部を経て真空吸引することにより、系内の真空度を調整することができるように構成された真空発生手段と、
前記加熱部の前記第1の熱媒の流路に配設され、前記第1の熱媒と間接的に熱交換して、余剰の熱エネルギーを系外に排出する熱交換器、および前記凝縮部の前記第2の熱媒の流路に配設され、前記第2の熱媒と間接的に熱交換して、余剰の熱エネルギーを系外に排出する熱交換器のいずれか一方の熱交換器とを備え、
系内の真空度を調整して、前記蒸留塔の塔底における前記被処理液の温度および前記塔頂ベーパの温度を制御することにより、前記ヒートポンプで昇温されて前記加熱部に供給される前記第1の熱媒の温度が、前記ヒートポンプで冷却され、前記凝縮部に供給される前記第2の熱媒の温度より、15℃以上40℃未満の範囲で高い温度となるように構成されていること
を特徴としている。
【0008】
本発明の濃縮装置では、前記凝縮部で前記塔頂ベーパの冷却に使用されて温度が上昇した前記第2の熱媒が、前記ヒートポンプで熱回収された後、5℃以上83℃未満の温度で前記凝縮部に循環供給され、
前記第2の熱媒から回収した熱が、前記ヒートポンプで、前記加熱部で前記被処理液の加熱に使用されて温度が低下した前記第1の熱媒を、20℃以上98℃未満の温度にまで昇温するのに利用され、かつ、
前記蒸留塔の塔底液の温度が、12℃以上95℃未満となるように構成されていること
が好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の濃縮装置は上述のように構成されており、系内の真空度を調整して、単一の蒸留塔の塔底における被処理液の温度および塔頂ベーパの温度を制御することにより、ヒートポンプで昇温されて加熱部に供給される第1の熱媒の温度が、ヒートポンプで冷却され、凝縮部に供給される第2の熱媒の温度より、15℃以上40℃未満の範囲で高い温度となるように構成されているので、ヒートポンプを効率よく稼働させることが可能になり、良好な省エネルギー効果を実現することが可能な濃縮装置を提供することができる。
【0010】
すなわち、ヒートポンプで昇温されて加熱部に供給される第1の熱媒の温度が、ヒートポンプで冷却され、凝縮部に供給される第2の熱媒の温度より大幅に高い温度になるとヒートポンプの稼働効率が低下するが、ヒートポンプで昇温されて加熱部に供給される第1の熱媒の温度が、ヒートポンプで冷却され、凝縮部に供給される第2の熱媒の温度より15℃以上40℃未満の範囲で高い温度となるように構成することで、ヒートポンプを効率よく稼働させ、装置全体としての省エネルギー効率を高めることが可能になる。
【0011】
また、本発明の濃縮装置においては、単一の蒸留塔の塔頂ベーパを凝縮部において、第2の熱媒により間接的に冷却し、昇温した第2の熱媒をヒートポンプに供給して熱回収を行うとともに、加熱部において用いられ、温度が低下した第1の熱媒をヒートポンプに供給して温度レベルを上げた後、加熱部に供給して、第1の熱媒に間接的に被処理液を加熱するようにしているので、加熱部および凝縮部で腐食性成分、可燃性成分、汚染成分などを含んだ被処理液とヒートポンプとは隔離されており、被処理液をヒートポンプに直接受け入れることなく、熱エネルギーの有効利用を行うことが可能になる。
【0012】
つまり、駆動部を有するヒートポンプに腐食性成分、可燃性成分、汚染成分などを含んだ被処理液が直接に接触することを回避する(ヒートポンプを被処理液から隔離した状態で使用する)ことが可能になるため、ヒートポンプの運転に支障をきたすおそれがなく、信頼性の高い濃縮装置を提供することができる。
【0013】
また、本発明の濃縮装置は、通常の運転では電力以外のユーティリティー(蒸気、冷却塔など)を必要としないので、本発明の濃縮装置が用いられる工場などで定期的な点検や、修理などが行われる期間においても、運転を行うことができる。
【0014】
また、加熱部の第1の熱媒の流路に配設され、第1の熱媒と間接的に熱交換して、余剰の熱エネルギーを系外に排出する熱交換器、および凝縮部の第2の熱媒の流路に配設され、第2の熱媒と間接的に熱交換して、余剰の熱エネルギーを系外に排出する熱交換器のいずれか一方の熱交換器を備えるようにしているので、装置全体の熱量バランスを調整することが可能になる。すなわち、定常状態では、ヒートポンプに入力される電力に由来する熱エネルギーが過剰になるが、上記熱交換器を備えた構成とすることで、余剰の熱エネルギーを系外に排出することが可能になり、安定した運転を長期間にわたって継続して行うことが可能になる。
【0015】
また、本発明の濃縮装置では、凝縮部で塔頂ベーパの冷却に使用されて温度が上昇した第2の熱媒が、ヒートポンプで熱回収され、冷却された後、5℃以上83℃未満の温度で凝縮部に循環供給され、第2の熱媒から回収した熱が、ヒートポンプで、加熱部で被処理液の加熱に使用されて温度が低下した第1の熱媒を、20℃以上98℃未満の温度にまで昇温するのに利用され、かつ、蒸留塔の塔底液(すなわち、加熱部で加熱され、蒸留塔に供給される被処理液の温度)が、12℃以上95℃未満となるように構成されている場合、より確実に、ヒートポンプで昇温されて加熱部に供給される第1の熱媒の温度が、ヒートポンプで冷却され、凝縮部に供給される第2の熱媒の温度より15℃以上40℃未満の範囲で高い温度とすることが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0016】
本発明は、加熱部に供給される第1の熱媒の温度が、凝縮部に供給される第2の熱媒の温度より15℃以上40℃未満の範囲で高い温度となるようにすることで、確実に省エネルギー効果を得ることが可能な濃縮装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の濃縮装置の構成を示すフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態では、腐食性成分であるリン酸を0.5wt%の割合で含有しているリン酸水溶液(被処理液)を蒸留して水を分離し、濃縮液としてリン酸濃縮液を回収するための濃縮装置を例にとって説明する。
【0019】
なお、本実施形態にかかる濃縮装置100は、ヒートポンプを用いて省エネルギー性の向上を実現するとともに、スタートアップ時を除いて電力以外のユーティリティーを必要とすることなく運転を行うことができるように構成された濃縮装置である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態にかかる濃縮装置100は、上述のリン酸0.5wt%を含有するリン酸水溶液(被処理液)を第1の熱媒(加熱部用循環温水)により間接的に加熱
して、リン酸を一部に含む
水である低沸点成分蒸気を発生させる加熱部1を備えている。
【0021】
加熱部1としては、液膜降下式の間接型熱交換器が用いられている。ただし、加熱部1は、液膜降下式のものに限られるものではなく、他の形式のものを用いることも可能である。
【0022】
加熱部1でリン酸0.5wt%を含有する被処理液(供給液)が加熱されることにより、溶剤(本実施形態では水)を主要部とし、飛沫(ミスト)として同伴するリン酸を一部に含む低沸点成分蒸気が発生する。
【0023】
また、濃縮装置100は、加熱部1で発生させた低沸点成分蒸気を蒸留して、実質的に不揮発性で、条件によっては腐食性を有する成分であるリン酸リッチの濃縮液(塔底液)(リン酸濃度:20wt%)と、ごく少量のリン酸(2ppm)を含む水蒸気(塔頂ベーパ)に分離する単一の(一塔式の)蒸留塔11を備えている。
【0024】
なお、本実施形態では、蒸留塔11として、棚段塔(より詳しくは泡鍾塔)が用いられている。
【0025】
ただし、蒸留塔11は、泡鍾塔に限られるものではなく、他の形式の棚段塔でもよく、また、棚段塔のほかにも、例えば、充填塔などを用いることも可能である。
【0026】
なお、この蒸留塔11では、上述のように、実質的に不揮発性の成分であるリン酸を被処理液よりも高い割合で含む濃縮液(塔底液)と、ごく少量のリン酸を含む水蒸気(塔頂ベーパ)に分離されるが、蒸留塔11における分離操作は、飛沫(ミスト)として同伴するリン酸を水蒸気から分離する分離操作であり、本来の蒸留操作である、「各成分が有する蒸気圧の差を利用した分離操作」ではないが、本発明では、各成分が有する蒸気圧の差を利用した分離操作(本来の蒸留操作)に限らず、この実施形態において説明しているような分離操作も蒸留ととらえ、そのような蒸留操作を行う塔を「蒸留塔」としている。
【0027】
さらに、濃縮装置100は、蒸留塔11の塔頂ベーパ、すなわち、水蒸気を主要部とし、飛沫として同伴するリン酸をわずかに含む低沸点成分蒸気を、第2の熱媒(凝縮部用循環冷却水)により間接的に冷却して凝縮させる一つの凝縮部21を備えている。
【0028】
凝縮部21としては、多管式熱交換器(シェルアンドチューブ式)の間接熱交換器が用いられている。凝縮部21を構成する間接熱交換器は、多管式熱交換器に限られるものではなく、公知の種々の間接熱交換器を用いることが可能である。
【0029】
そして、本実施形態にかかる濃縮装置100は、加熱部1において被処理液の加熱に使用され、温度が低下した第1の熱媒(加熱部用循環温水)の昇温と、凝縮部21において塔頂ベーパの冷却に使用され、温度が上昇した第2の熱媒(凝縮部用循環冷却水)の冷却とを行うヒートポンプHPを備えている。
【0030】
本実施形態では、ヒートポンプHPとしては、加熱部1において被処理液の加熱に使用され、温度が73℃に低下した第1の熱媒(加熱部用循環温水)を、温度78℃にまで昇温させることができるとともに、凝縮部21において塔頂ベーパの冷却に使用され、温度が62℃に上昇した第2の熱媒(凝縮部用循環冷却水)を、温度57℃まで冷却することが可能なヒートポンプが用いられている。
【0031】
なお、本実施形態では、ヒートポンプHPとして、株式会社神戸製鋼所製のHEMシリーズを用いている。
【0032】
さらに、濃縮装置100は、上述の凝縮部21を経て装置内を真空吸引することにより、系内の真空度を調整することができるように構成された真空発生手段31を備えている。
【0033】
本実施形態では、真空発生手段31として、真空ポンプを用いている。なお、本実施形態の濃縮装置100では、系内の真空度(圧力)を25kPaとして操作を行うように構成されており、この条件では、特に高い真空度を必要としないことから、真空発生手段31として、汎用の種々の真空ポンプを用いることができる。
【0034】
本実施形態にかかる濃縮装置100は、上述の真空発生手段31により真空吸引して系内の真空度を制御することにより、蒸留塔11の塔底における被処理液(塔底液)の温度が70℃、蒸留塔11の塔頂から取り出される塔頂ベーパの温度が65℃となり、ヒートポンプHPで昇温されて加熱部1に供給される第1の熱媒(加熱部用循環温水)の温度(本実施形態では78℃)が、ヒートポンプHPで冷却され、凝縮部21に供給される第2の熱媒(凝縮部用循環冷却水)の温度(本実施形態では57℃)より、15℃以上40℃未満の範囲で高い温度となるようにしている。具体的には、本実施形態において、第1の熱媒の温度が、第2の熱媒の温度より21℃度高い温度となる(78℃-57℃=21℃)。
【0035】
さらに、濃縮装置100は、凝縮部21の凝縮液を、蒸留塔11に還流させる還流路51を備えている。
すなわち、凝縮部21の凝縮液を、蒸留塔11に還流させることで、蒸留塔11内で、低沸点成分蒸気に含まれるリン酸を効率よく分離する(塔底液側に移行させる)ことができるように構成されている。
【0036】
また、濃縮装置100は、凝縮部21の凝縮部用循環冷却水(第2の熱媒)の流路52に空冷式の熱交換器41を備えている。
【0037】
本発明の濃縮装置100においては、ヒートポンプHPの圧縮熱が系内に加わるため、系内の熱エネルギーが過剰となる。上記熱交換器41は、この過剰の熱エネルギーを系外に排出して、装置全体の熱量バランスを調整するために設けられている。
【0038】
なお、本実施形態では、凝縮部21の凝縮部用循環冷却水(第2の熱媒)の流路52に熱交換器41を設けるようにしているが、加熱部1の加熱部用循環温水(第1の熱媒)の流路53に熱交換器を備えるようにしてもよい。
【0039】
本実施形態では、熱交換器41として、空冷式の熱交換器を設けるようにしているので、チラー水などのユーティリティーを必要としない点で有利である。ただし、場合によっては、冷却水または、チラー水を利用する方式の熱交換器を用いることも可能である。
【0040】
上述の説明と一部重複するが、以下に本実施形態にかかる濃縮装置100の構成および各部の作用・機能についてさらに詳しく説明する。
【0041】
加熱部1で被処理液が加熱され、発生した水と少量のリン酸を含む低沸点成分蒸気は、上述の蒸留塔11において蒸留され、濃縮液(塔底液)は、加熱部1で再加熱され後、再び蒸留塔11に戻される。
【0042】
加熱部1の熱源には、ヒートポンプHPからの第1の熱媒(加熱部用循環温水)が用いられるのは上述の通りである。
【0043】
蒸留塔11では、水と少量のリン酸を含む低沸点成分蒸気と、凝縮部21で凝縮した凝縮液である還流液とを気液接触させることで、蒸留が行われ、水を主要部とし、微量のリン酸を含む低沸点成分が塔頂ベーパとして、凝縮部21に送られて冷却されることになる。
【0044】
一方、蒸留塔11で蒸留が行われ、低沸点成分が分離されることでリン酸が濃縮された後の塔底液(本実施形態ではリン酸濃度20重量%)は、濃縮液として回収される。
【0045】
凝縮部21では、蒸留塔11の塔頂から取り出される塔頂ベーパが、第2の熱媒(凝縮部用循環冷却水)により冷却され、凝縮する。凝縮部21で凝縮した凝縮液の一部は還流路51を経て、蒸留塔11の塔頂へ還流液として還流される。残りの凝縮液は、留出水として系外へ排出される。
【0046】
さらに、本実施形態にかかる濃縮装置100では、ヒートポンプHPにより、凝縮部21で用いられて昇温した第2の熱媒(凝縮部用循環冷却水)から熱を回収し、電力により温度レベルを15℃以上40℃未満の範囲で上昇させて加熱部1に供給することで熱エネルギーを循環再利用するように構成されている。
なお、本実施形態にかかる濃縮装置100では、ヒートポンプHPを有効な出力範囲で稼働させることができるように構成されている。
【0047】
また、本実施形態にかかる濃縮装置100は、上述したように、プロセス全体の熱量バランスを調整することができるように、凝縮部用循環冷却水の流路52に備えた空冷式の熱交換器41により、第2の熱媒(凝縮部用循環冷却水)の冷却を行うことができるように構成されている。
【0048】
一方、ヒートポンプHPにおいて、電力により温度レベルが78℃に上げられた第1の熱媒(加熱部用循環温水)は、加熱部1に供給され、加熱部1で被処理液の加熱に用いられる。そして、加熱部1で被処理液の加熱に用いられて温度が73℃に低下した第1の熱媒(加熱部用循環温水)は、ヒートポンプHPに戻されて、温度レベルが78℃に上げられた後、再び加熱部1に供給されるように構成されている。
【0049】
また、本実施形態の濃縮装置100においては、上述のように、真空発生手段31により凝縮部21を経て系内の気体を排出(真空吸引)して、蒸留塔11の塔底液(濃縮液)の温度が12℃以上95℃未満(本実施形態では70℃)、塔頂ベーパの温度が65℃となるような操作圧(25kPa)とすることで、
・ヒートポンプHPにて温度レベルを上げて加熱部1に供給する第1の熱媒(加熱部用循環温水)(高温水)の温度が20℃以上98℃未満(本実施形態では78℃)となり、
・ヒートポンプHPに送られて熱回収された後、凝縮部21に供給される第2の熱媒(凝縮部用循環冷却水)の温度が5℃以上83℃未満(本実施形態では57℃)となり、
・ヒートポンプHPで昇温されて加熱部1に供給される第1の熱媒(加熱部用循環温水)の温度(本実施形態では78℃)が、ヒートポンプHPで冷却され、凝縮部21に供給される第2の熱媒(凝縮部用循環冷却水)の温度(本実施形態では57℃)より、15℃以上40℃未満の範囲で高い温度(本実施形態では78℃-57℃=21℃)となるように構成されており、
熱エネルギーを効率よく循環再利用することができるように構成されている。
また、本実施形態にかかる濃縮装置100において、ヒートポンプHPは有効な出力範囲で稼働させることができるように構成されている。
【0050】
上述のように構成された本実施形態にかかる濃縮装置100においては、ヒートポンプHPにおいて上昇させるべき温度レベルが15℃以上40℃未満の範囲となるように構成されており、ヒートポンプで上昇させるべき温度レベルの幅が小さいため、ヒートポンプHPにおけるエネルギーの消費量を抑えて、高い成績効率(COP)で熱回収を行うことができる。
【0051】
本実施形態にかかる濃縮装置100においては、蒸留塔11に供給される被処理液(供給液)を、リン酸濃度が0.5wt%で、水を溶剤(溶媒)とするリン酸水溶液とし、蒸留塔11の塔底から排出される塔底液(濃縮液)のリン酸濃度が20wt%、凝縮部21から系外に排出される留出液(蒸留水)中のリン酸濃度が2ppmとなるようにしている。
【0052】
このような状況において、本実施形態の濃縮装置100を適用することにより、効率のよい蒸留を行って省エネルギー化を図りつつ、被処理液(供給液)から水を分離(除去)し、リン酸が濃縮された濃縮液を回収することが可能となる。
【0053】
なお、本実施形態では、上述のように、ヒートポンプHPで昇温され、加熱部1に供給される第1の熱媒の温度が、ヒートポンプHPで冷却され、凝縮部21に供給される第2の熱媒の温度より15℃以上40℃未満の範囲で高い温度となるようにして、効率よくヒートポンプHPを稼働させることができるようにしている。
【0054】
このように、本実施形態にかかる濃縮装置100において、第1の熱媒の温度を第2の熱媒の温度よりも15℃以上40℃未満の範囲で高い温度とした場合にも、本発明のプロセス(濃縮装置)が成立しているのは以下の理由による。
【0055】
すなわち、本実施形態では、濃縮装置100の内部の真空度を制御して、蒸留塔11の塔底液の温度が70℃、塔頂ベーパの温度が65℃となるようにしているので、加熱部1に供給されるべき第1の熱媒の温度を78℃として加熱部1を確実に稼働させ、かつ、凝縮部21に供給されるべき第2の熱媒の温度を57℃として、凝縮部21を確実に稼働させることができるようにした場合にも、「ヒートポンプHPで昇温され、加熱部1に供給される第1の熱媒の温度が、ヒートポンプHPで冷却され、凝縮部21に供給される第2の熱媒の温度よりも15℃以上40℃未満の範囲で高い温度とする」という本発明の要件を満たすことができることによる。
【0056】
なお、従来、ヒートポンプとして、低温側の熱媒(第2の熱媒)の温度が57℃、高温側の熱媒(第1の熱媒)の温度が78℃というような条件で稼働させることができるヒートポンプは広く流通していなかったが、本実施形態で用いている株式会社神戸製鋼所製のヒートポンプHEMシリーズは、上述の条件下で好適に稼働させることが可能なHPである。
【0057】
次に、本実施形態にかかる濃縮装置100を用いてリン酸と水を含む被処理液(供給液)の蒸留を行った場合の運転結果の一例について説明する。
【0058】
本実施形態にかかる濃縮装置100を用いて被処理液(供給液)の蒸留を行うに当たっては、被処理液(供給液)として、温度:30℃、リン酸濃度:0.5wt%のリン酸水を2000kg/hrの割合で、加熱部1を経て単一の蒸留塔11に供給した。
【0059】
そして、蒸留塔11の塔底液として、温度70℃、リン酸濃度20wt%の濃縮液を50kg/hrの割合で系外に排出した。
【0060】
上記の条件の場合、加熱部1において、熱エネルギー1650kW相当の熱交換が行われる。すなわち、加熱部1では、蒸留塔11の塔底液と被処理液(供給液)からなる混合液と、ヒートポンプHPにより温度レベルが上昇した第1の熱媒(加熱部用循環温水)との間で、熱エネルギー1650kW相当の熱交換が行われる。
【0061】
また、蒸留塔11においては、塔頂から塔頂ベーパとして温度:65℃、リン酸濃度:2ppmのベーパが取り出される。
【0062】
さらに、凝縮部21においては、塔頂ベーパが冷却され、凝縮することで温度:65℃、リン酸濃度:2ppmの凝縮液が回収される。
【0063】
上記の条件では、凝縮部21において、熱エネルギー1590kW相当の熱交換が、塔頂ベーパと第2の熱媒(凝縮部用循環冷却水)との間で行われる。
【0064】
そして、上記凝縮液の一部は蒸留塔11に還流される一方、留出液(蒸留水)として、リン酸濃度2ppmの凝縮液(蒸留水)が1950kg/hrの割合で回収される。
【0065】
また、ヒートポンプHPの動力が、圧縮熱となり第1の熱媒(加熱部用循環温水)に加わるため、本実施形態では、凝縮部用循環冷却水(第2の熱媒)の流路52に備えた空冷式の熱交換器41により凝縮部用循環冷却水(第2の熱媒)から104kWの熱エネルギーを系外に排出させて、ヒートポンプHPを174kWで稼働させることにより、濃縮装置全体の熱バランスを保ちつつ、濃縮装置100を安定して稼働させることが可能になる。
【0066】
従来の蒸気を加熱源にした濃縮装置を考えると、その場合には、蒸気による加熱量が1650kWとなるため、1次エネルギーは1650kWとなる。一方、本実施形態におけるヒートポンプHPを用いた濃縮装置100の場合では、ヒートポンプHPの電力は174kWとなり、1次エネルギー換算係数を2.57とした場合、1次エネルギーは、ヒートポンプHPの電力と1次エネルギー換算係数の積から447kWとなる。
【0067】
したがって、本実施形態にかかる濃縮装置100を用いることにより、上述の従来の蒸気式の濃縮装置の場合に比べて、1次エネルギー削減率は約72%となり、高い省エネルギー効果を得ることが可能になる。
【0068】
なお、上記実施形態では、リン酸水溶液を被処理液とする濃縮装置を例にとって説明したが、本発明は、フッ酸、塩酸、硫酸などの腐食性物質、ホウ酸や無機塩類、食品などの機器に付着することが問題になるような物質などを含む被処理液を濃縮する場合に、広く適用することが可能である。
【0069】
本発明は、さらにその他の点においても、上記実施形態に限定されるものではなく、加熱部、凝縮部、ヒートポンプ、蒸留塔などの具体的な構成、ヒートポンプの高温側、低温側の温度条件、ヒートポンプおよび凝縮部において用いられる熱媒を構成する物質の種類などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 加熱部
11 蒸留塔
21 凝縮部
31 真空発生手段
41 空冷式の熱交換器
51 還流路
52 凝縮部用循環冷却水の流路
53 加熱部用循環温水の流路
100 濃縮装置
HP ヒートポンプ
【要約】
【課題】被処理液の種類や装置構成に制約を受けることが少なく、かつ、効率よく濃縮装置全体の熱バランスをとることが可能で、省エネルギー性に優れた濃縮装置を提供する。
【解決手段】被処理液を第1の熱媒により加熱して低沸点成分蒸気を発生させる加熱部1と、低沸点成分蒸気から腐食性成分などの所定の成分を分離する蒸留塔11と、蒸留塔の塔頂ベーパを、第2の熱媒により冷却して凝縮させる凝縮部21と、加熱部で使用された第1の熱媒の昇温と、凝縮部で使用された第2の熱媒の冷却を行うヒートポンプHPと、系内の真空度を調整する真空発生手段31とを備え、系内の真空度を調整することで、蒸留塔の塔底液および塔頂ベーパの温度を制御して、ヒートポンプで昇温されて加熱部に供給される第1の熱媒の温度が、ヒートポンプで冷却され、凝縮部に供給される第2の熱媒の温度より、15℃以上40℃以下の範囲で高い温度となるように構成する。
【選択図】
図1