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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】潤滑油添加剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 129/68 20060101AFI20220323BHJP
   C10M 133/16 20060101ALI20220323BHJP
   C10M 159/20 20060101ALI20220323BHJP
   C10M 135/10 20060101ALI20220323BHJP
   C10M 129/04 20060101ALI20220323BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20220323BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20220323BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220323BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20220323BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20220323BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20220323BHJP
【FI】
C10M129/68
C10M133/16
C10M159/20
C10M135/10
C10M129/04
C10N10:02
C10N10:04
C10N30:06
C10N30:10
C10N30:04
C10N40:25
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2017218030
(22)【出願日】2017-11-13
(65)【公開番号】P2018080334
(43)【公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-09
(31)【優先権主張番号】16198670.8
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ジョン ダウディング
(72)【発明者】
【氏名】エリン ジョアンナ イース
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-129302(JP,A)
【文献】特開2007-262262(JP,A)
【文献】特開2014-037355(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0221260(US,A1)
【文献】特開2000-204388(JP,A)
【文献】特開2005-105278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
属含有清浄剤であって、基性金属含有物質がジェミニ型界面活性剤システムによってオイル中に分散液又は溶液として維持されたオイル中の濃縮物の形態にあり、
該ジェミニ型界面活性剤システムは、1以上の二重結合及び8から30、例えば12から30の炭素原子を有する不飽和二重結合カルボン酸を含み又は該カルボン酸に由来し得若しくは由来し、
該カルボン酸の1以上の二重結合は、該1つ又は複数の二重結合を挟んで若しくはその上に1つ又は複数の極性基を有するように官能化されており、
該カルボン酸の1つ又複数のカルボン酸基は、4から20の炭素原子を有する少なくとも1つのアルキル基を有するアミド又はエステル基となるよう官能化された、
前記金属含有清浄剤。
【請求項2】
前記不飽和カルボン酸が、オレイン酸のように1つの二重結合を有する、請求項1に記載の清浄剤。
【請求項3】
前記1つ又は複数の極性基がスルホン酸基又はヒドロキシル基である、請求項1又は2に記載の清浄剤。
【請求項4】
硫黄を含まない又は実質的に含まない、請求項1から3のいずれか1項に記載の清浄剤。
【請求項5】
金属が第1族又は第2族の金属である、請求項1から4のいずれか1項に記載の清浄剤。
【請求項6】
金属がカルシウムである、請求項5に記載の清浄剤。
【請求項7】
界面活性剤システムが、各アルキル基が炭素原子を4から20有する、4,4’-(1-(ジアルキルアミノ)-1-オキソオクタデカン-9,10-ジイル)ビス(オキシ)-(4-オキソブタノアート))アニオンを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の清浄剤。
【請求項8】
過塩基性清浄剤の形態である、請求項1からのいずれか1項に記載の清浄剤。
【請求項9】
中性清浄剤の形態である、請求項1からのいずれか1項に記載の清浄剤。
【請求項10】
請求項8に記載の過塩基性清浄剤を少量含み、潤滑性粘度のオイルを過半量含む、クランクケース潤滑油組成物。
【請求項11】
前記清浄剤とは異なる、1以上の無灰分散剤、金属清浄剤、防食剤、抗酸化剤、流動点降下剤、耐摩耗剤、摩擦改善剤、抗乳化剤、消泡剤及び粘度調整剤から選択される、1以上の他の添加剤を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
自動車クランクケース潤滑油組成物が改善された摩擦低減性能を達成することを可能ならしめる方法であって、少量の請求項1から9のいずれか1項に記載の清浄剤を該組成物に提供することを含む、方法。
【請求項13】
内燃機関エンジンのクランクケース表面を、その動作中に潤滑する方法であって、
(i)過半量の潤滑性粘度のオイル中に、請求項1から9のいずれか1項に記載の1以上の清浄剤を少量提供して潤滑剤をつくること;
(ii)内燃機関エンジンのクランクケースに潤滑剤を提供すること;
(iii)炭化水素燃料をエンジンの燃焼室に提供すること;及び
(iv)燃焼室で燃料を燃焼させること
を含む、方法。
【請求項14】
組成物の摩擦低減並びに/又は熱及び酸化安定特性を改善するための、クランクケース潤滑油組成物中における請求項1から9のいずれか1項に記載の金属清浄剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、火花点火式又は圧縮点火式の内燃機関エンジンのクランクケースを潤滑するための潤滑油組成物(潤滑剤)に用いる金属清浄用添加剤に関連する。より特定的には、天然物(natural products)に由来するジェミニ型界面活性剤を含有する清浄剤に関連する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
金属含有又は灰形成清浄剤は、火花点火式又は圧縮点火式の内燃機関エンジンのクランクケースを潤滑する潤滑油組成物(潤滑剤)の添加剤として広く使われている。そのような添加剤は、デポジットを低減又は除去し、酸中和剤又は錆防止剤として機能することが可能であり、それにより摩耗や腐食を低減し、エンジン寿命を延ばす。それらは一般に、極性の頭部と長い疎水性の尾部を含み、極性の頭部は酸性有機化合物の金属塩を含む。
従来、酸性化合物は、例えば、スルホン酸、フェノール、サリチル酸のような原油由来のものである。
本発明は、酸性化合物が天然物(例えば、生体適合的で比較的コストの低いオレイン酸)に由来し、原油に由来しない清浄剤に関するものである。
界面活性剤は、界面において活性な薬剤である。それらは、両親媒性(amphilic)であり、互いに溶解しない2以上の基を含有することを意味している。構造的には、それらは疎水性の尾部と親水性の頭部を有している。
ジェミニ型界面活性剤(「ジェミニ型」とは1991年にビス界面活性剤に与えられた名称である)はしばしば二量体界面活性剤と呼ばれる。それらは、一般に1つの親水性頭部基と1つの疎水性基を分子中に有する従来の界面活性剤とは対照的に、1を超える(通常2)の親水性頭部基と1を超える(通常2)の疎水性基を分子中に有する。
該構造は、対称的であっても対称的でなくてもよい。
ジェミニ型界面活性剤の略図の例は以下のとおりである。

尾部 - 頭部 - スペーサー - 頭部 - 尾部
(疎水性) (親水性; (親水性; (疎水性)
極性又はイオン性) 極性又はイオン性)

本発明は、ジェミニ型界面活性剤システム、すなわち、単量体界面活性剤が親水性頭部基のレベルでスペーサーにより連結された二量体、の使用に関連する。当該技術分野は、ジェミニ型界面活性剤に関する多くの参照文献を含有している。例えば、J. Oleo. Sci. 60, (8) 411-417 (2011), “Oleic Acid-Based Gemini Surfactants with Carboxylic Acid Headgroups” by Kenichi Sakai他を参照されたい。この参照文献は、水性システムにおけるそれらの使用についてのみ記載しており、それらは化粧品、パーソナルケア、薬等の分野に適用できるかもしれないと結論付けている。潤滑油組成物のような非水系への適用については、何ら言及がない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の概要)
最初の態様において、本発明は、例えば過塩基性清浄剤のような、潤滑剤添加物としての使用に適した金属含有清浄剤であって、該金属含有清浄剤は、塩基性金属含有物質がジェミニ型界面活性剤システムによって、オイル中に分散液又は溶液として維持されたオイル中の濃縮物の形態にあり、該ジェミニ型界面活性剤システムは、8から30、例えば12から30の炭素原子を有する不飽和二重結合(double bond-unsaturated)カルボン酸を含み又は該カルボン酸に由来し得若しくは由来し、該カルボン酸の1以上の二重結合は、該1つ又は複数の二重結合を挟んで若しくはその上に1つ又は複数の極性基を有するよう官能化されており、該カルボン酸の1つ又は複数のカルボン酸基は、4から20の炭素原子を有する少なくとも1つのアルキル基を有するアミド又はエステル基となるよう官能化された、前記金属含有清浄剤を含む。
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様の過塩基性清浄剤を少量(minor amount)と潤滑性粘度のオイルを過半量(major amount)含む、クランクケース潤滑油組成物を含む。
第3の態様において、本発明は、自動車クランクケース潤滑油組成物が改善された摩擦低減性能を達成することを可能ならしめる方法であって、少量の本発明の第1の態様の添加物を該組成物に提供することを含む方法を含む。
第4の態様において、本発明は、以下を含む、動作中の内燃機関エンジンのクランクケース表面を潤滑する方法を含む。
(i)過半量の潤滑性粘度のオイル中に、本発明の第1の態様の1以上の清浄剤添加物を少量提供して潤滑剤をつくること;
(ii)内燃機関のクランクケースに潤滑剤を提供すること;
(iii)炭化水素燃料をエンジンの燃焼室に提供すること;及び
(iv)燃焼室で燃料を燃焼させること。
第5の態様において、本発明は、摩擦低減及び/又は熱及び酸化安定性にかかる組成物の特性を改善するための、クランクケース潤滑油組成物中における、本発明の第1態様の金属含有清浄剤の使用を含む。
【発明を実施するための形態】
【0004】
(発明の詳細な説明)
(定義)
本明細書において、以下の用語及び表現は、使用される場合には、以下に与えられる意味を有する:
「活性成分(active ingredients)」又は「(a.i.)」は、希釈剤又は溶媒ではない添加剤物質をいう。
「含む(comprising)」又は任意の同語源の用語は、述べられた特徴、工程、又は整数若しくは成分の存在を特定するが、1以上のその他の特徴、工程、整数、成分又はその群の存在又は付加を排除するものではない。「からなる(consists of)」、「から本質的になる(consists essentially of)」又は同語源の表現は、「含む」又は任意の同語源の用語に含めることができる。「から本質的になる」との表現は、該表現の適用を受けた組成物の特徴に実質的に影響を及ぼすことのない物質を含めることを許容する。「からなる」及び同語源の表現は、述べられた特徴、工程、整数、成分又はその群のみが該表現が参照するものに存在することを意味する。
「ヒドロカルビル」とは、水素及び炭素原子を含む化合物の化学基を意味し、該基は、炭素原子を介して直接該化合物の残部に結合している。該基は、1以上の、炭素及び水素以外の原子(「ヘテロ原子」)を含むことができるが、それらが、該基の本質的なヒドロカルビルの性質に影響を与えないことを条件とする。当業者は、適切な基を認識しているであろう(例えば、ハロ、とりわけクロロ及びフルオロ、アミノ、アルコキシル、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、スルホキシ等)。該基は、不飽和であってよく、及び/又は重合体であってよい。好ましくは、該ヒドロカルビル基は、水素及び炭素原子から本質的になる。より好ましくは、該ヒドロカルビル基は、水素及び炭素原子からなる。好ましくは、該ヒドロカルビル基は、アルキル基のような脂肪族ヒドロカルビル基である。
「油溶性」又は「油分散性」又は同語源の用語は、本明細書で用いられる場合、化合物や添加剤があらゆる比率でオイル中に溶解、可溶化、混和又は懸濁可能であることを必ずしも示さない。しかし、これらは、例えば、オイルが用いられる環境において所望の効果を発揮する程度に充分な量でオイル中に溶解するか又は安定に分散することを意味する。さらに、もし望むのであれば、他の添加剤を更に追加することが、ある特定の添加剤をより高いレベルで添加することを許容することがある。
【0005】
添加剤に関連する「無灰」は、添加剤が金属を含まないことを意味し;
添加剤に関連する「灰含有」は、添加剤が金属を含むことを意味し;
「過半量(major amount)」は、組成物の50質量%を超えることを意味し;
「少量(minor amount)」は、添加剤の活性成分として計算して、組成物の50質量%以下を意味し;
添加剤に関連する「有効量」は、所望の技術的効果を与えるのに有効であり、また与える、組成物中のそのような添加剤の量(例えば、添加剤濃度)を意味し;
「ppm」は、組成物の全質量を基準とする、質量基準での百万分率を意味し;
組成物又は添加剤成分の「金属含有率」、例えば、モリブデン含有率又は添加剤濃縮物の全金属含有率(すなわち、個々の金属含有率の合計)は、ASTM D5185で測定され;
添加剤成分又は組成物に関連する「TBN」とは、全塩基価(mg KOH/g)を意味し、ASTM D2896により測定され;
「KV100」は、ASTM D445によって測定された場合の、100℃における動粘度を意味し;
HTHSは、CEC-L-36-A-90によって測定された場合の150℃における高温高せん断を意味する。
「リン含有率」は、ASTM D5185によって測定され;
「硫黄含有率」は、ASTM D2622によって測定され;
「硫酸灰分含有率」は、ASTM D874によって測定される。
また、最適、慣習的であると同様に本質的な、使用される様々な成分は、処方、保存又は使用の条件下で反応する可能性があり、本発明が任意のこのような反応の結果として得ることのできる又は該反応の結果得られる生成物も提供するものであることは理解されよう。
更に、本明細書において示された任意の上限及び下限の質、範囲又は比率の限界は、独立に組み合わせることができるものと理解される。
【0006】
(清浄剤)
本発明の清浄剤及びそれらの調製方法は、本明細書の実施例の部分に詳細に記載される。
それらが由来し得る又は由来する不飽和二重結合カルボン酸は、1以上の二重結合を有してよい。1つの二重結合を有する該酸の好ましい例はオレイン酸であり、1より多くの二重結合を有する酸の例は、リノレイン酸とリノレイン酸である。
極性基の例は、スルホン酸基とヒドロキシル基である。
好ましくは、本発明の清浄剤は、硫黄を含まない又は実質的に含まない。それらは中性又は過塩基性であってよい。金属は、ナトリウムのような第1族の金属又はカルシウムのような第2族の金属であってよい。
清浄剤の界面活性剤システムは好ましくは、各アルキル基が炭素原子を4から20有する、4,4’-(1-(ジアルキルアミノ)-1-オキソオクタデセン-9,10-ジイル)ビス(オキシ)-(4-オキソブタノアート))アニオンを含む。
【0007】
(潤滑組成物)
本発明の潤滑組成物は、過半量の潤滑性粘度のオイルと、少量の清浄物質を含有する性能向上添加剤を含む、自動車のモーターオイルとして使用することに適した潤滑剤であってよい。潤滑組成物は、最終的な潤滑油となるよう潤滑性粘度のオイルとブレンドするために、添加剤濃縮物の形態であってもよい。
潤滑性粘度のオイル(しばしば、「ベースストック」又は「基油」と参照される)は、潤滑油の主要な液体成分であり、これに添加剤とその他のオイルが、例えば、最終的な潤滑油(又は潤滑組成物)を生成するために、ブレンドされる。基油は、潤滑油組成物をそこから作るのと同様、添加剤濃縮物を作るために有用であり、天然(植物、動物又は鉱物)油、合成潤滑油及びそれらの混合物から選択され得る。
本発明のベースストックと基油の定義は、米国石油協会(API)の刊行物である「エンジンオイルのライセンスと認証システム(Engine Oil Licensing and Certification System)」、産業サービス部門(Industry Services Department)、第14版、1996年12月、補遺1、1998年12月において見出される定義と同一であり、同刊行物によると、ベースストックは以下のように分類される:
a)グループIベースストックは、90%未満の飽和物及び/又は0.03%を超える硫黄を含み、また以下の表E-1に規定されたテスト法を用いて、80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
b)グループIIベースストックは、90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、また以下の表E-1に規定されたテスト法を用いて、80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
c)グループIIIベースストックは、90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、また以下の表E-1に規定されたテスト法を用いて、120以上の粘度指数を有する。
d)グループIVベースストックは、ポリα-オレフィン(PAO)である。
e)グループVベースストックは、グループI、II、III又はIVに含まれない全ての他のベースストックを含む。
典型的には、ベースストックは、温度100℃で、好ましくは3mm2/sから12mm2/s、より好ましくは4mm2/sから10mm2/s、最も好ましくは4.5mm2/sから8mm2/sの粘度を有する。
【0008】
【0009】
潤滑油組成物に含めることのできる、潤滑性粘度を持つその他のオイルを、以下の通り詳述する。
天然オイルは、動物及び植物油(例えば、ヒマシ油及びラード油)、液状石油油分及びパラフィン系、ナフテン系及び混合パラフィン-ナフテン系の水素化精製、溶媒-処理鉱油系潤滑油を含む。石炭又はシェール由来の潤滑性粘度を持つオイルも有用な基油である。
合成潤滑油は炭化水素油、例えば重合及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン 、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン);アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベ ンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェノール(例えば、ビフェニル、テルフェニル、アルキル化ポリフェノール);及びアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド及びこれらの 誘導体、類似体及び同族体を含む。
合成潤滑油の別の適切な分類は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノレイン酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と、様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステルを含む。これらエステルの具体的な例としては、ジブチルアジペート、ジ(2-エチルヘキシル)セバケート、ジ-n -ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノレイン酸ダイマーの2-エチルヘキシルジエステル、及び1モルのセバシン酸と、2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸との反応により形成される複合エステルが挙げられる。
合成オイルとして有用なエステルとしてはまた、C5からC12モノカルボン酸とポリオールから製造されるエステル、及び、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールのようなポリオールエーテルが挙げられる。
【0010】
未精製、精製及び再精製オイルは、本発明の組成物において使用し得る。未精製オイルは、天然又は合成源から、更なる精製処理なしに直接得られるものである。例えば、 レトルト操作によって直接得たシェールオイル、蒸留により直接得た石油油分又はエステル化プロセスから直接得たエステルオイルであって、更なる処理なしに使用されるものが未精製オイルであろう。精製オイルは、1以上の特性を改善するため、更に1以上の精製工程において処理したことを除き、該未精製オイルに類似する。多くのこのような精製技術、例えば蒸留、溶媒抽出、酸又は塩基抽出、濾過及びパーコレーションは、当業者には公知である。再精製オイルは、精製オイルを得るために利用されたものと類似の諸プロセスを、既に用に供された精製オイルに対して適用することによって得られる。このような再精製オイルは、再生油又は再処理オイルとしても知られており、またしばしば使用済み添加剤及びオイル分解生成物を処理するための技術によって追加的に処理される。
基油のその他の例は、ガス・トゥー・リキッド(GTL)基油であり、即ちこの基油は、フィッシャー-トロプシュ(Fischer-Tropsch)触媒を使用して、H2及びCOを含有する合成ガスから製造される、フィッシャー-トロプシュ合成された炭化水素由来のオイルであってよい。これら炭化水素は、基油として有用なものとするために、典型的には更なる処理を要する。例えば、これらは、当分野において公知の方法によって、水素異性化;水素化分解かつ水素異性化;脱蝋;又は水素異性化かつ脱蝋処理することができる。
潤滑性粘度のオイルは、グループI、グループIV又はグループVのベースストック又は上記ベースストックをブレンドした基油も含んでよい。
【0011】
(共添加剤)
潤滑油組成物の本発明の全ての態様は更に、1以上のリンを含む化合物;酸化防止剤又は抗酸化剤;分散剤:その他の金属清浄剤;及びその他の共添加剤を、それらが本発明の添加剤と異なる限りにおいて、含んでもよい。これらについては下記に詳述されるであろう。
適切なリン含有化合物は、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩が挙げられ、これらはしばしば耐摩耗剤及び抗酸化剤として用いられる。金属は、好ましくは亜鉛であるがアルカリ金属又はアルカリ土類金属であっても良く、あるいはアルミ、鉛、錫、モリブデン、マンガン、ニッケル又は銅であって良い。亜鉛塩は、潤滑油中に、潤滑油組成物の総質量に基づいて0.1質量%から10質量%、好ましくは0.2質量%から2質量%の量で、最も一般的に用いられている。それらは、通常、1以上のアルコール又はフェノールとP25の反応により、最初にジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を形成し、次いで形成されたDDPAを亜鉛化合物と中和することによる公知技術によって調製され得る。例えば、ジチオリン酸は第1級及び第2級アルコールの混合物を反応させることによって作られ得る。あるいは、一つのヒドロカルビル基が全て第2級の特性を有し、他のヒドロカルビル基が全て第1級の特性を有する、多様なジチオリン酸を調製することができる。亜鉛塩を作るため、任意の塩基性あるいは中性亜鉛化合物を用いることができるが、酸化物、水酸化物及び炭酸塩が最も一般的に用いられる。商業的な添加剤は、過剰な塩基性亜鉛化合物を中和反応で用いるため、しばしば亜鉛を過剰に含有する。
好ましい、ジヒドロカルビルジチオホスフェート亜鉛はジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であり、下記式で表され得る。
【0012】
【化1】
【0013】
式中、R及びR’は、同一又は異なるヒドロカルビル基であってよく、炭素原子を1から18、好ましくは2から12含有し、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルカリール及び環式脂肪族基のような基を含む。特に好ましいR及びR’基は、炭素数2から8のアルキル基である。このように、該基は、例えば、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、アミル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、n-オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2-エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニルであり得る。油溶性を得るために、ジチオリン酸中の(すなわち、R及びR’中の) 炭素原子数の合計は、一般的に5以上であろう。ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)は、したがって、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含んでもよい。本発明の潤滑油組成物は、適切に、約0.08質量%(800ppm)以下のリン含有量を有し得る。好ましくは、本発明の実施において、ZDDPは許容される最大量に近い又は等しい量、好ましくは、許容されるリンの量の最大の100ppm以内のリン含有量を提供する量、用いられる。このように、本発明の実施において有用な潤滑油組成物は、好ましくは、ZDDP又はその他の亜鉛-リン化合物を、潤滑油組成物の総質量に基づいて、0.01質量%から0.08質量%、例えば0.04質量%から0.08質量%、好ましくは0.05質量%から0.08質量%のリンを導入する量で含む。
【0014】
酸化防止剤又は抗酸化剤は使用中の鉱油の劣化傾向を低減する。酸化的劣化は、潤滑剤中のスラッジ、金属表面上のワニス様のデポジット、及び粘度の増大が証拠となり得る。そのような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、好ましくはC5からC12のアルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、カルシウムノニルフェノールスルフィド、油溶性フェネート及び硫化フェネート、リン硫化(phosphosulfurized)又は硫化(sulfurized)炭化水素又はエステル、亜リン酸エステル、金属チオカルバミン酸塩、米国特許第4,867,890号に記載の油溶性銅化合物及びモリブデン含有化合物が挙げられる。
芳香族アミンであって、その窒素原子に直接結合した少なくとも2つの芳香族基を有するものは、酸化防止性を得るためにしばしば使用される化合物のもう一つのグループを構成する。一つのアミン窒素原子に直接結合した少なくとも2つの芳香族基を有する典型的な油溶性芳香族アミンは、炭素原子を6から16含む。アミンは2より多い芳香族基を含んでよい。全部で少なくとも3つの芳香族基を有し、そのうち2つの芳香族基は、共有結合、あるいは原子又は基(例えば、酸素原子、硫黄原子、又-CO-、-SO2-又はアルキレン基)により結合されており、かつ、2つが1つのアミンの窒素原子に直接結合している化合物もまた、直接窒素原子と結合した少なくとも2つの芳香族基を有する芳香族アミンと考えられる。芳香環は典型的には1以上の、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アシル、アシルアミノ、ヒドロキシ及びニトロ基から選択される置換基で置換される。そのような、1つのアミン窒素原子に直接結合した少なくとも2つの芳香族基を有する任意の油溶性アミンの量は、好ましくは0.4質量%を超えるべきではない。
【0015】
分散剤は、固体及び液体の汚染物を懸濁液に保持することによりそれらを不動態化し、スラッジのデポジットを低減すると同時にエンジンのデポジットを低減することを主要な機能とする添加剤である。例えば、分散剤は、潤滑剤使用中の酸化の結果である油溶性物質を懸濁状態に維持し、それによりスラッジの、凝結(flocculation)及びエンジンの金属部分への沈殿又は堆積を防止する。
本発明の分散剤は、好ましくは、上記のとおり「無灰」であり、金属を含有するため灰を形成する材料と対照的に、燃焼において実質的に灰を形成しない非金属性有機材料である。それらは、極性の頭部を有する長い炭化水素鎖を含み、その極性は、例えば、酸素、リン、又は窒素原子を含むことに由来する。炭化水素は、油溶性を授ける親油性基であり、例えば40から500の炭素原子を有する。このように、無灰の分散剤は、油溶性重合体のバックボーンを含み得る。
好ましいオレフィンポリマーの分類は、ポリブテン、特にC4精製ストリームの重合化によって調製され得るポリイソブテン(PIB)又はポリ-n-ブテンから構成される。
分散剤は、例えば、長鎖炭化水素置換カルボン酸誘導体、例えば高分子量ヒドロカルビル置換されたコハク酸誘導体が挙げられる。特記すべき分散剤のグループは、例えば、上記酸(又は誘導体)を窒素含有化合物、有利には、ポリエチレンポリアミンのようなポリアルキレンポリアミンと反応させることで作られる、炭化水素-置換されたスクシンイミドにより構成される。特に好ましくは、ポリアルキレンポリアミンとアルケニルコハク酸無水物の反応生成物、例えばUS-A-3,202,678; -3,154,560; -3,172,892; -3,024,195; -3,024,237, -3,219,666;及び-3,216,936に記載のものであり、その特性を改善するために、例えば、ホウ酸化(US-A-3,087,936及び-3,254,025に記載のとおり)、フッ化又はオキシル化のような後処理を行い得る。例えば、ホウ酸化は、アシル窒素含有分散剤を、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸及びホウ酸エステルから選択されるホウ素化合物と処理することによって成し遂げられ得る。
好ましくは、分散剤は、存在する場合は、数平均分子量が1000から3000、好ましくは1500から2500の範囲内であって、適度な官能性のポリイソブテン由来のスクシンイミド分散剤である。スクシンイミドは、好ましくは、反応性の高いポリイソブテン由来である。
別の用いられ得る分散剤のタイプの例は、EP-A-2 090 642に記載されたような連結された芳香族化合物である。
【0016】
清浄剤は、例えばエンジン内の高温ワニス及びラッカーデポジットのような、ピストンデポジットの形成を低減する添加剤である。それは通常、酸を中和する特性を有し、微粉化個体を懸濁状態に維持することができる。多くの清浄剤が、酸性有機化合物の金属塩である金属「石鹸」をベースとしている。
清浄剤は、一般に、極性の頭部と長い疎水性の尾部を含み、極性の頭部は酸性有機化合物の金属塩を含む。該塩は、それらが通常、正塩又は中性塩として記載される場合の実質的に化学量論的な量の金属を含有することが可能であり、典型的には、100%活性量(active mass)(ASTM D2896で測定された場合)における全塩基価又はTBNとして0から80を有するであろう。過剰量の金属化合物、例えば酸化物又は水酸化物と、二酸化炭素のような酸性ガスとの反応により、大量の金属塩基を含むことができる。
結果として得られる過塩基性清浄剤は、中和された清浄剤を、金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外側層として含む。そのような過塩基性清浄剤は、100%活性量で、TBN150以上を有し得て、典型的には200から500又はそれ以上である。
適切には、用いられ得る清浄剤には、油溶性の中性及び過塩基性スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレート及びナフテネート及びその他の油溶性金属カルボキシレート、特にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム及びマグネシウムのものを含む。最も一般的に用いられる金属は、潤滑組成物に用いられる清浄剤中に両方とも存在するカルシウム及びマグネシウム並びにカルシウム及び/又はマグネシウムとナトリウムの混合物である。清浄剤は様々な組み合わせで用いられ得る。
【0017】
追加的な添加剤を、要求される特定の性能を満たすため、本発明の組成物に組み込んでもよい。本発明の潤滑油組成物に含まれ得るそのような添加剤の例としては、金属錆防止剤、粘度指数向上剤、防食剤、酸化防止剤、その他の摩擦改善剤、消泡剤、耐摩耗剤及び流動点降下剤が挙げられる。いくつかについては下記で詳細に述べる。
最終的なオイルのその他の成分と適合する摩擦改善剤及び燃費節約剤もまた含まれ得る。そのような材料の例には、高級脂肪酸のグリセリルモノエステル、例えば、モノ-オレイン酸グリセリル;長鎖ポリカルボン酸とジオールのエステル、例えば、二量化した不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル;及びアルコキシル化されたアルキル置換モノアミン、ジアミン及びアルキルエーテルアミン、例えば、エトキシル化獣脂アミン及びエトキシル化獣脂エーテルアミンが挙げられる。
【0018】
その他の公知の摩擦改善剤には、油溶性有機モリブデン化合物が含まれる。そのような有機モリブデン摩擦改善剤はまた、抗酸化性及び耐摩耗性にかかる評価も潤滑油組成物に提供する。そのような油溶性有機モリブデン化合物の例としては、ジチオカルバメート、ジチオホスフェート、ジチオホスフィネート、キサンテート、チオキサンテート、スルフィドなど及びその混合物が挙げられる。特に好ましいのは、モリブデンジチオカルバメート、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート及びアルキルチオキサンテートである。
加えて、モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であってよい。これらの化合物は、ASTM試験D-664又はD-2896滴定手続きで測定されるように塩基性窒素化合物と反応し、典型的には6価である。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム及びその他のモリブデン酸アルカリ金属及びその他のモリブデン酸塩、例えば、モリブデン酸水素ナトリウム(hydrogen sodium molybdate)、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6、三酸化モリブデン又は類似の酸性モリブデン酸化合物が挙げられる。
【0019】
モリブデン化合物のうち本発明の組成物に有用なのは、以下の式で表される有機モリブデン化合物である。
Mo(R”OCS2)4 及び
Mo(R”SCS2)4
式中、R” はアルキル、アリール、アラルキル及びアルコキシアルキルから成る群より選択される有機基であり、一般に1から30の炭素原子、好ましくは2から12の炭素原子からなり、最も好ましくは炭素原子が2から12のアルキルである。とりわけ好ましいのは、モリブデンのジアルキルジチオカルバメートである。
本発明の潤滑組成物に有用な別の有機モリブデン化合物のグループは、三核モリブデン化合物であり、特に、式Mo3SkLnQzで表されるものとその混合物であって、該式中、Lは、油中で化合物に溶解性あるいは分散性を与える十分な数の炭素原子の有機基を有する独立に選択された配意子であり、nは1から4であり、kは4から7の間で変化し、Qは、例えば、水、アミン、アルコール、ホスフィン及びエーテルのような中性の電子供与性化合物の群から選択され、zは0から5の範囲内であり、非化学量論的な値を含む。全ての有機基配位子中に、少なくとも炭素原子が21、例えば少なくとも25、少なくとも30又は少なくとも35の炭素原子が存在すべきである。
本発明の全ての態様において有用な潤滑油組成物は好ましくは少なくとも10ppm、少なくとも30ppm、少なくとも40ppm、更に好ましくは少なくとも50ppmのモリブデンを含有する。適切には、本発明の全ての態様において有用な潤滑油組成物は、1000ppm以下、750ppm以下、又は500ppm以下のモリブデンを含有する。本発明の全ての態様において有用な潤滑油組成物は、好ましくは、10ppmから1000ppm、例えば30ppmから750ppm又は40ppmから500ppmのモリブデン(モリブデン原子で測定して)を含む。
【0020】
ベースストックの粘度指数は、粘度調整剤(VM)又は粘度指数改善剤(VII)として機能する特定の重合性材料を組み込むことにより増加又は改善される。一般に、粘度調整剤として有用な重合性材料は、数平均分子量(Mn)が5,000から250,000、好ましくは15,000から200,000、更に好ましくは20,000から150,000を有するものである。これらの粘度調整剤は、例えば無水マレイン酸のようなグラフト化剤とともにグラフト化され、グラフト化した材料は、例えば、アミン、アミド、窒素含有ヘテロ環状化合物又はアルコールと反応して、多機能粘度調整剤(分散剤-粘度調整剤)を形成することができる。
ジオレフィンと調製したポリマーは、エチレン系不飽和を含有するであろうし、そのようなポリマーは好ましくは水素化される。ポリマーが水素化される時、水素化は任意の既知の技術を用いて成し遂げることができる。例えば、水素化は、エチレン性及び芳香族性不飽和の両方を、例えば、米国特許第3,113,986号及び同第3,700,633号において教示される方法を用いて、転換(飽和)させることによって成し遂げられ、又は、選択的にエチレン性不飽和の著しい割合を転換させる一方、芳香族性不飽和をほとんど転換させることなく、例えば米国特許第3,634,595号;同第3,670,054号;同第3,700,633号及びRe 27,145において教示される方法を用いて、水素化を成し遂げることができる。これらのいずれの方法を用いても、エチレン性不飽和のみを含有し、芳香族性不飽和を有しないポリマーを水素化することができる。
【0021】
流動点降下剤(PPD)は、別途ルーブオイル流動性向上剤(LOFIs)として知られているが、潤滑油(lube)が流れる最低温度を低くする。VMに比較して、LOFIsは一般的に低い数平均分子量を有する。VMのように、LOFIsは、例えば無水マレイン酸のようなグラフト化剤とともにグラフト化され、グラフト化した材料は、例えば、アミン、アミド、窒素含有ヘテロ環状化合物又はアルコールと反応して、多機能添加剤を形成することができる。
本発明においては、ブレンド品の粘度の安定性を維持する添加剤を含むことが必要であるかもしれない。例えば、極性基含有添加剤は、適切な低粘度をブレンド前の段階で成し遂げるが、長期にわたって貯蔵した場合、いくつかの組成物において粘度が増加することが観察されている。この粘度増加を制御するため効果的な添加剤としては、モノ又はジカルボン酸、又は無水物との反応によって官能化された長鎖炭化水素が挙げられ、これは本明細書において前述のとおり開示された無灰分散剤の調製に用いられる。
潤滑組成物が1以上の上述の添加剤を含有する場合、それぞれの添加剤は、典型的には基油に、添加剤が所望の機能を提供できるだけの量、ブレンドされる。クランクケース潤滑剤として用いられる場合、そのような添加剤の代表的な有効量は、以下に列挙するとおりである。列挙した全ての値は(清浄剤は、オイル中にコロイド状分散剤の形態で用いられるため、清浄剤の値を除いて)、有効成分(A.I.)の質量%で述べられている。
【0022】
【表1】
【0023】
好ましくは、完全に調製された潤滑油組成物(潤滑性粘度のオイル及び全ての添加剤)のノアック揮発度(Noack volatility)は、質量%で、18質量%以下、例えば14質量%以下、好ましくは10質量%以下である。本発明の実施において有用な潤滑油組成物は、全体の硫酸灰分含有率として、0.5質量%から2.0質量%、例えば0.7質量%から1.4質量%、好ましくは0.6質量%から1.2質量%を有してよい。
添加剤を含む1以上の添加剤濃縮物(濃縮物はしばしば添加剤パッケージとして参照される)を調製することは、潤滑油組成物を形成するためいくつかの添加剤を同時にオイルに添加することができるので、必須ではないが、望ましいであろう。
【実施例
【0024】
本発明は、ここにおいて、以下の非限定的な例の中で特定的に記載されるであろう。
(調査した構造)
3つの異なるジェミニ型界面活性剤と3つの塩を生成した:
【0025】
【化2】
ジェミニ型#1:N,N-ジヘキシル-9,10-ジヒドロキシオクタデカンアミド
【0026】
【化3】
ジェミニ型#2:4,4'-((1-(ジヘキシルアミノ)-1-オキソオクタデカン-9,10-ジイル)ビス(オキシ))ビス(4-オキソブタン酸)
【0027】
【化4】
ジェミニ型#3:4,4'-((1-(ジデシルアミノ)-1-オキソオクタデカン-9,10-ジイル)ビス(オキシ))ビス(4-オキソブタン酸)
【0028】
3つのジェミニ型界面活性剤を、金属塩を形成するためさらに反応させた。
【0029】
【化5】
ジェミニ型#1ナトリウム塩:18-(ジヘキシルアミノ)-10-ヒドロキシ-18-オキソオクタデカン-9-スルホン酸ナトリウム
【0030】
【化6】
ジェミニ型#2ナトリウム塩:4,4'-((1-(ジヘキシルアミノ)-1-オキソオクタデカン-9,10-ジイル)ビス(オキシ))ビス(4-オキソブタン酸)ナトリウム
【0031】
【化7】
ジェミニ型#3ナトリウム塩: 4,4'-((1-(ジデシルアミノ)-1-オキソオクタデカン-9,10-ジイル)ビス(オキシ))ビス(4-オキソブタン酸)ナトリウム
【0032】
(界面活性剤の合成)
ジェミニ型界面活性剤は、オレオイルクロリドから、ジアルキルアミン(ジヘキシルアミン又はジデシルアミンのいずれか)とともに反応させてアミドを形成させることにより、合成した。全ての化学物質は、シグマアルドリッチ又はフィッシャーより購入し、更に精製することなく使用した。
N, N-ジデシルオレアミドの形成:
ジデシルアミン(22.66g, 76mmol)とトリエチルアミン(7.74g, 76mmol)をヘプタン(800ml)中、窒素パージされオーブン乾燥した反応容器に加えた。オレオイルクロリド(19.88g, 66mmol)をヘプタン(20ml)で希釈し、この混合物に2時間かけて添加した。反応容器を冷まし、温度を26℃未満に維持した。結果として得られた混合物を室温で90分間撹拌した。トリエチルアンモニウムクロリドを減圧濾過で除去した。黄色い濾過物を5%(w/w)塩酸溶液及び塩水(3×200ml)で抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で、収率90%以上となるよう濾過及び濃縮した。
N,N-ジデシル-8-(3-オクチルオキシラン-2-イル)オクタンアミドの形成:
N, N-ジデシルオレアミド(5.9g, 10.53mmol)と3-クロロ過安息香酸(2.9g, 16.9mmol)をジクロロメタン(50ml)中、室温で4時間撹拌した。その後有機層を重炭酸溶液(3x15ml)、水(3x15ml)及び塩水溶液(40ml)で抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥し、N,N-ジデシル-8-(3-オクチルオキシラン-2-イル)オクタンアミドが黄色のオイル(4.63g, 8mmol, 76%)として得られるよう減圧下で濃縮した。
N,N-ジデシル-9,10-ジヒドロキシオクタデカンアミドの形成:
N,N-ジデシル-8-(3-オクチルオキシラン-2-イル)オクタンアミド(3.47g, 6mmol)とp-トルエンスルホン酸一水和物(0.065g, 0.34mmol)を、THF:水(50ml, 比率9:1)中で4時間、還流をさせながら加熱した。さらにp-トルエンスルホン酸(0.065g, 0.34mmol)を加え、混合物を再度、還流させながら7時間加熱した。反応物を炭酸ナトリウム溶液(10質量%水溶液、30ml)に加え、THFを減圧下で除去した。次いで水層をジクロロメタン(4x50ml)で抽出した。有機層を回収し、水で抽出し(4x40ml)、硫酸マグネシウムで乾燥して、N,N-ジデシル-9,10-ジヒドロキシオクタデカンアミドが黄色のオイル(1.9g, 3.2mmol, 53%)として得られるよう減圧下で濃縮した。
いくつかのケースでは、この生成物は更に無水コハク酸と反応させ、ビスオキソ酸を形成させた。
4,4'-((1-(ジデシルアミノ)-1-オキソオクタデカン-9,10-ジイル)ビス(オキシ))ビス(4-オキソブタン酸)の形成:
N,N-ジデシル-9,10-ジヒドロキシオクタデカンアミド(1.9g, 3mmol)、無水コハク酸(0.8g, 8mmol)、トリエチルアミン(0.8g, 8mmol)及び4-ジメチルアミノピリジン(0.003g, 0.032mmol)をトルエン(100ml)中で、温度80℃で24時間撹拌した。結果として得られた混合物を70℃まで冷まし、塩酸(2M, 40ml)を加えて3時間撹拌した。有機層を蒸留水(2×20ml)で抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥し、4,4'-((1-(ジデシルアミノ)-1-オキソオクタデカン-9,10-ジイル)ビス(オキシ))ビス(4-オキソブタン酸)が黄色のオイル(1.9g, 2.4mmol, 75%)として得られるよう減圧下で濃縮した。
【0033】
カルボキシル型ジェミニ型界面活性剤を得るため開発した合成経路を、以下の反応スキームで示す。
【0034】
【化8】
【0035】
(金属塩の形成)
18-(ジヘキシルアミノ)-10-ヒドロキシ-18-オキソオクタデカン-9-スルホン酸ナトリウム
ジエチルエーテル(100mL, 無水物)を窒素下で撹拌し、氷浴を用いて5℃まで冷ました。温度を10℃未満に維持しながら、クロロスルホン酸(3.38mL, 5.92g, 78mmol)を液滴として滴下漏斗を用いて1時間かけて加えた。N,N-ジヘキシル-9,10-ジヒドロキシオクタデカンアミド(5g, 12.26mmol)の混合物をジエチルエーテル(80mL、無水物)中で絶え間なく混合物に加え、氷浴を取り除いて、約3時間かけて温度が室温まで上昇するようにした。この混合物を、滴下漏斗に移して、絶え間なく炭酸ナトリウムの混合物(15g)と脱イオン水(50g)に、激しく撹拌しながら加えた。混合物のpHは、7より上に維持して添加中における中間物の脱水を防止し、リトマス紙でモニターした。添加完了後、混合物を分液漏斗に移し、層を分離した。有機層は、2回分の水(20mL)と塩水(20mL)で洗浄した。有機層は、真空下60℃で濃縮し、トルエンと90℃で共蒸留することにより乾燥し、2-エチルヘキシルオレアミドのナトリウムヒドロキシスルホナート(5.77g, 91%)を黄色の強粘液として得た。
4, 4’-((1-(ジダルキルアミノ)-1-オキソオクタデカン-9, 10-ジイル)ビス(オキシ))ビス(4-オキソブタン酸)ナトリウム
キシレン(100g)中の4,4'-((1-(ジデシルアミノ)-1-オキソオクタデカン-9,10-ジイル)ビス(オキシ))ビス(4-オキソブタン酸)(5.81g, 7.3mmol)を、蒸留水(23g)中の炭酸水素ナトリウム(1.23g, 14.6mmol)に加え、混合物をゆっくり室温で1時間撹拌した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、2dが黄色の固体として得られるよう減圧下で濃縮した。
4, 4’-((1-(ジデシルアミノ)-1-オキソオクタデカン-9, 10-ジイル)ビス(オキシ))ビス(4-オキソブタン酸)ナトリウム(2d):黄色固体(収率76%)。
性能比較のため、直鎖C12尾部に基づくスルホン酸とサリチル酸の中性(ナトリウム又はカリウム)塩についても調査した。
加えて、過塩基性カルシウムフェネートのサンプルについても調査した。
(過塩基性清浄剤の合成)
ジェミニ型#3のサンプルを用いて、過塩基性カルシウム清浄剤(詳細下記)を生成した。
【0036】
【表2】
【0037】
性能比較のため、過塩基性サリチル酸カルシウム(TBN 350mgKOH g-1)と過塩基性スルホン酸カルシウム(TBN 300mgKOH g-1)についても調査した。
【0038】
(例)
比較例1 摩擦特性
摩擦特性は、PCS Instrumentsの高周波往復動リグ(HFRR)を用いて、球(直径6.0 mm)と円盤接点(disk contact)と2.5mlのサンプルを用いて決定した。温度40℃、60℃、80℃、100℃、120℃及び140℃、振幅1000μmで、荷重400gを球にかけて、球を40Hzで5分間往復動させ、ステップランププロフィール(step ramp profile)を行った。安定した温度(1分間)が往復動を開始する前に求められた。測定は5秒ごとに、往復動の間中、行った。サンプルは、一定の界面活性剤濃度(0.195mmol)がオイル(XOMAPE150)中に分散するよう、60℃で1時間、300rpmで撹拌することにより調製した。全てのサンプルは、同じプロフィールについて2回行った。
【0039】
【0040】
平均摩擦係数の時間変化を観察した。300秒ごとの摩擦の低減は、温度間の加熱段階に対応し、点線で強調した。これらのデータ点は、下記の計算には含まなかった。エンジンの動作温度のため、140℃における摩擦特性は最も考慮する関心が高い。TGAの結果(下記参照)より、該温度は、結果が界面活性剤の熱劣化に影響されないことを保証するのに十分低かった。
【0041】
温度140℃で300秒間、2回測定された界面活性剤と基油の平均摩擦係数
【表3】
【0042】
2回行った各サンプルの平均摩擦係数を、標準偏差から導かれる標準誤差とともに、140℃における各ブレンドの測定値から計算した。サリチル酸ナトリウム、ジェミニ型#1ナトリウム塩及びジェミニ型#3ナトリウム塩の各界面活性剤の平均摩擦係数は、基油に比較して、それぞれ10%、23%、及び34%低減した。スルホン酸ナトリウム界面活性剤では3%の摩擦の増加(参照値の基油に比較して)が観察された。ジェミニ型界面活性剤は、界面活性剤の従来化学よりも向上した摩擦特性を示した。ジェミニ型#3ナトリウム塩は最も良い摩擦特性を示した。
過塩基性カルシウム清浄剤サンプルの摩擦特性を以下に示す。各システムについて、サンプルを一定の界面活性剤濃度(0.195mmol)で調査した。
【0043】
温度140℃で300秒間、2回測定された過塩基性清浄剤の平均摩擦係数
【表4】
【0044】
過塩基性清浄剤として存在する場合、ジェミニ型界面活性剤は、従来型界面活性剤よりも改善された性能とともに高摩擦性を提供した。
【0045】
比較例2:熱/酸化安定性
熱重量分析(TGA)を用いてジェミニ型界面活性剤の熱及び酸化安定性を評価した。生成物は薄めずに試験することができ、そのため溶媒やその他の種の存在によって引き起こされる二次的な効果について考慮する必要がなかった。
TGAは、温度の増加とともにサンプルの質量減少を測定した。質量の変化率を計算した。そのような質量減少率の変化の、始まり、ピーク、オフセット(TON、TOX、TOFF)を、熱イベントに参照した。分子量についての知識と熱イベント中の質量減少率から、調査対象化合物の部分損失について推定することができる。TGAは界面活性剤が機能停止すると考えられる温度を決定するために用いられた。酸素雰囲気で実験を行うことにより調査対象化合物の酸化作用を決定することもできた。スルホン酸及びサリチル酸界面活性剤のカルシウム塩及び過塩基性カルシウムフェネートを、活性成分50%を基油に分散させて行った。
【0046】
【表5】
【0047】
熱及び酸化安定性温度並びにTGAの結果から得られた合成及び市販の界面活性剤の対応する灰分値(ash values)の概要。TOX1は第1熱イベントを指す。
熱安定性を最初の熱イベントについて参照し、質量減少変化率の変曲点として引用する(TOX1)。最初の熱イベントは、50-90%の質量減少と関連し、当該点において界面活性剤は機能喪失したと考えられた。これは、ジェミニ型#2(TOX1=17%, 115g mol-1)とジェミニ型#1(TOX1=5%, 29g mol-1)を除く、全ての測定されたサンプルについて該当し、アルキル鎖又は頭部基の一部を失ったことと関連付けることができる。
TGAの結果より、カルボン酸タイプのジェミニ型界面活性剤は、より従来型の界面活性剤に比較して、更に熱的に安定であったと考えられる。
酸素雰囲気で、TOX1の値は、カルボン酸タイプのジェミニ型界面活性剤ナトリウム塩について、スルホネート、サリシレート及びフェネートに比較して改善された酸化安定性を示した。