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特許7044523モータ制御装置及びこれを備えた電動圧縮機、移動体用の空気調和機、モータ制御方法及びモータ制御プログラム
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  • 特許-モータ制御装置及びこれを備えた電動圧縮機、移動体用の空気調和機、モータ制御方法及びモータ制御プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びこれを備えた電動圧縮機、移動体用の空気調和機、モータ制御方法及びモータ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/20 20160101AFI20220323BHJP
   H02P 23/03 20060101ALI20220323BHJP
   H02P 23/02 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
H02P29/20
H02P23/03
H02P23/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017222638
(22)【出願日】2017-11-20
(65)【公開番号】P2019097244
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】服部 誠
(72)【発明者】
【氏名】鷹繁 貴之
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 恭平
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-168196(JP,A)
【文献】特開2007-282319(JP,A)
【文献】特開2007-259686(JP,A)
【文献】特開2013-238682(JP,A)
【文献】特開平06-225588(JP,A)
【文献】特開2005-073104(JP,A)
【文献】特開平09-238031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
H02P 6/00-6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに対し、高トルク、精密制御が可能な第1制御又は該モータに対し、第1制御よりも高効率な制御が可能な第2制御の実施によって要求回転数に応じて前記モータの回転数を制御する制御部と、
前記モータの回転数実測値が予め規定された回転数閾値を上回った場合に、前記第1制御から前記第2制御に切り替える切替判定部と、を備え、
前記切替判定部は、更に、前記回転数実測値が前記回転数閾値以下の場合であって、かつ、当該回転数実測値が要求回転数と一致したまま予め規定された時間が経過した場合には、前記第1制御から前記第2制御に切り替えるモータ制御装置。
【請求項2】
モータに対し、要求回転数又はモータにかかるトルク負荷に対して第一の所定時間単位ごとに追従可能な第1制御又は前記要求回転数又は前記トルク負荷に対して第1制御における第一の所定時間単位よりも長時間である第二の所定時間単位ごとに追従可能な第2制御の実施によって要求回転数に応じて前記モータの回転数を制御する制御部と、
前記モータの回転数実測値が予め規定された回転数閾値を上回った場合に、前記第1制御から前記第2制御に切り替える切替判定部と、を備え、
前記切替判定部は、更に、前記回転数実測値が前記回転数閾値以下の場合であって、かつ、当該回転数実測値が前記要求回転数に一致した時点から予め規定された時間が経過した場合には、前記第1制御から前記第2制御に切り替えるモータ制御装置。
【請求項3】
前記切替判定部は、更に、前記要求回転数の変動が、予め規定された変動閾値以上となった場合に、前記第1制御から前記第2制御に切り替える請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータが出力すべきトルクと相関するパラメータを取得するトルク相関パラメータ取得部を更に備え、
前記切替判定部は、取得された前記パラメータに基づいて推定される前記トルクがトルク閾値を上回る場合には、前記第1制御から前記第2制御に切り替える請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記予め規定された時間とは、1秒である請求項1から請求項4に記載の何れか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
モータに対し、高トルク、精密制御が可能な第1制御又は該モータに対し、第1制御よりも高効率な制御が可能な第2制御の実施によって要求回転数に応じて前記モータの回転数を制御するステップと、
前記モータの回転数実測値が予め規定された回転数閾値を上回った場合に、前記第1制御から前記第2制御に切り替えるステップと、を有し、
前記第2制御に切り替えるステップでは、更に、前記回転数実測値が前記回転数閾値以下の場合であって、かつ、当該回転数実測値が要求回転数と一致したまま予め規定された時間が経過した場合には、前記第1制御から前記第2制御に切り替えるモータ制御方法。
【請求項7】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載のモータ制御装置を備える電動圧縮機。
【請求項8】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載のモータ制御装置を備える電動圧縮機を有する移動体用の空気調和機。
【請求項9】
コンピュータに対し、請求項6に記載のモータ制御方法を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及びこれを備えた電動圧縮機、移動体用の空気調和機、モータ制御方法及びモータ制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたカーエアコンの構成要素の一つに電動圧縮機がある。一般に、電動圧縮機のモータは、可変速装置として機能するインバータにより電圧及び周波数が調整された交流の電力により駆動される。従って、電動圧縮機を適切に制御するには、起動時又は起動後の運転要求の変化や、負荷の変動等に応じて適切なインバータ制御を行うことが必要となる。
特許文献1には、磁石回転子の位置推定精度を優先する制御方式と静寂性を優先する制御方式の二種類のモータ制御方法と、その切り替え条件を定義したモータの制御装置について、記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-102193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カーエアコンの使用状況によっては、高トルク負荷状態が長時間に渡ることや、要求回転数が急激に変動することなどを要因として、電動圧縮機のモータが意図せず、指令に反して、停止する場合がある。その一例が脱調であるが、脱調により、例えばスパイク電流が発生し、電動圧縮機の制御回路に異常電流が流れ、回路上の電子部品に影響を及ぼす可能性がある。
しかしながら、上記特許文献1に記載された圧縮機では以下の問題が生じていた。即ち、上記で定義される制御方式及びその切替方式では、上述の脱調を誘発する要因が発生した場合、停止を未然に防止することができない。このことで、運転状況によってはモータの停止が電動圧縮機の制御回路上の電子部品の正常な動作を妨害し、もしくは電子部品自体を損壊することが懸念された。
【0005】
そこでこの発明は、上述の課題を解決することのできるモータ制御装置、電動圧縮機、移動体用の空気調和機及び電動圧縮機の制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るは、上記課題を解決するため、以下の手段を採用している。即ち、モータに対し、高トルク、精密制御が可能な第1制御又は該モータに対し、第1制御よりも高効率な制御が可能な第2制御の実施によって要求回転数に応じて前記モータの回転数を制御する制御部と、前記モータの回転数実測値が予め規定された回転数閾値を上回った場合に、前記第1制御から前記第2制御に切り替える切替判定部と、を備え、前記切替判定部は、更に、前記回転数実測値が前記回転数閾値以下の場合であって、かつ、当該回転数実測値が前記要求回転数に一致した時点から予め規定された時間が経過した場合には、前記第1制御から前記第2制御に切り替えることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、一例として電動圧縮機のモータの起動時における二種類のモータ制御の切替時での脱調を予防することができる。例えば、高トルクかつ高精度な運転が可能であるが高効率・広範囲の運転を不得手とする制御を第1制御とする。一方、高トルクかつ高精度な運手は不得手であるが高効率・広範囲な運転が可能である制御を第2制御とする。この場合、第1制御から第2制御への切替のタイミングを相対的に早めることができる。つまり、上述のような脱調の要因(高トルク負荷状態の継続や要求回転数の急激な変動など)となる事象が起こりうる状況であっても、モータの回転数実測値が予め規定された回転数閾値を上回るのを待たずにより広範囲運転が可能な第2制御へと移行することができる。また、第1制御中に脱調が起こらずとも、第1から第2への切替時に脱調が起こる場合があったが、これについても要求回転数と実測回転数がすでに所定時間一致している状態にて切替を実行することとなるため、切替時の脱調のリスクを低減することができる。また、起動後の第1制御をより短期間とすることで、外気温が高い時などの比較的高い圧力で冷媒を圧縮しなければならない状況下であっても効率の点で優れた第2制御を優先して行うことができるため、IGBTの過熱を抑制することができる。
【0008】
また、上記のモータ制御装置は、モータに対し、要求回転数又はモータにかかるトルク負荷に対して第一の所定時間単位ごとに追従可能な第1制御又は前記要求回転数又は前記トルク負荷に対して第1制御における第一の所定時間単位よりも長時間である第二の所定時間単位ごとに追従可能な第2制御の実施によって要求回転数に応じて前記モータの回転数を制御する制御部と、前記モータの回転数実測値が予め規定された回転数閾値を上回った場合に、前記第1制御から前記第2制御に切り替える切替判定部と、を備え、前記切替判定部は、更に、前記回転数実測値が前記回転数閾値以下の場合であって、かつ、当該回転数実測値が前記要求回転数に一致した時点から予め規定された時間が経過した場合には、前記第1制御から前記第2制御に切り替えるモータ制御としてもよい。
【0009】
この構成によれば、例えば、要求回転数の変動又はモータにかかるトルク負荷に対してマイクロ秒単位で追従することで高精度な制御が可能な制御が第1制御であり、ミリ秒単位であれば追従可能な制御が第2制御である場合、第1制御から第2制御への切替のタイミングを相対的に早めることができる。つまり、上述のような脱調の要因となる事象が起こりうる状況であっても、モータの回転数実測値が予め規定された回転数閾値を上回るのを待たずにより要求回転数の変動に対して過敏ではない制御へと切り替えることで、脱調などのモータ停止を未然に予防することができる。
【0010】
また、上記のモータ制御装置は、前記切替判定部は、更に、前記要求回転数の変動が、予め規定された変動閾値以上となった場合に、前記第1制御から前記第2制御に切り替えてもよい。
【0011】
この構成によれば、脱調の原因となる要求回転数の変動を直接的に切替の条件とすることとなるため、より確実に脱調を防止することができる。
【0012】
また、上記のモータ制御装置は、前記モータが出力すべきトルクと相関するパラメータを取得するトルク相関パラメータ取得部を更に備え、前記切替判定部は、取得された前記パラメータに基づいて推定される前記トルクがトルク閾値を上回る場合には、前記第1制御から前記第2制御に切り替えてもよい。
【0013】
この構成によれば、脱調の原因となるトルク負荷の高まりを直接的に切替の条件とすることとなるため、より確実に脱調を防止することができる。
【0014】
また、上記のモータ制御装置は、前記予め規定された時間とは、1秒であってもよい。
【0015】
この構成によれば、要求回転数又はモータにかかる定常的な高トルク負荷がモータ制御に影響を及ぼすより十分に早く切り替えることができるため、より確実に脱調を防止することができる。
【0016】
本発明に係るモータ制御方法は、モータに対し、高トルク、精密制御が可能な第1制御又は該モータに対し、第1制御よりも高効率な制御が可能な第2制御の実施によって要求回転数に応じて前記モータの回転数を制御するステップと、前記モータの回転数実測値が予め規定された回転数閾値を上回った場合に、前記第1制御から前記第2制御に切り替えるステップと、を有し、前記第2制御に切り替えるステップでは、更に、前記回転数実測値が前記回転数閾値以下の場合であって、かつ、当該回転数実測値が前記要求回転数に一致した時点から予め規定された時間が経過した場合には、前記第1制御から前記第2制御に切り替えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る電動圧縮機は、上記のモータ制御装置を備えていることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る移動体用の空気調和機は、上記の電動圧縮機を備えていることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るモータ制御プログラムは、コンピュータに対し、上記のモータ制御方法を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、モータの脱調を防止することで、モータ制御装置及びこれを備えた電動圧縮機、移動体用の空気調和機の信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第一の実施形態に係るモータ制御装置を有する電動圧縮機を備えた空気調和機を搭載した移動体たる車両の概略ブロック図である。
図2】本発明の第一の実施形態に係るモータ制御装置を有する電動圧縮機の概略ブロック図である。
図3】本発明の第一の実施形態に係るモータ制御の一例を示すフローチャートである。
図4】本発明の第二の実施形態に係るモータ制御の一例を示すフローチャートである。
図5】本発明の第三の実施形態に係るモータ制御装置を有する電動圧縮機の概略ブロック図である。
図6】本発明の第三の実施形態に係るモータ制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第一実施形態]
以下、本発明の第一の実施形態による電動圧縮機のモータ制御方法について、図1図6を参照して説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態に係るモータ制御装置51を有する電動圧縮機11を備えた空気調和機1を搭載した移動体たる車両100の概略ブロック図である。
図1に車両100に搭載されたECU(Electric Control Unit)2と車載用の空気調和機1とを示す。図示するように車両100は、ECU2と空気調和機1とを備えている。また、空気調和機1は、電動圧縮機11を備えている。ECU2は、車両100の電装機器の制御を行う。空気調和機1は、カーエアコンユニットである。電動圧縮機11は、車載用空気調和機に用いられる電動圧縮機である。電動圧縮機11は、インバータ装置41が一体に組み込まれたインバータ一体型電動圧縮機である。ECU2と空気調和機1は、信号線、通信線、電力線等で接続され、空気調和機1は、CAN(Controller Area Network)通信によりECU2の制御信号を受信し、ユーザ所望の動作を行う。例えば、ユーザが、エアコンの運転を開始する操作を行うと、ECU2がその操作に応じた制御信号を空気調和機1へ出力し、空気調和機1はその制御信号に基づいて運転を開始する。また、ユーザが、車内温度を設定すると、ECU1は、その設定温度に応じた制御信号を生成し、空気調和機2の運転状態を制御する。
【0023】
図2は、本発明の第一の実施形態に係るモータ制御装置51を有する電動圧縮機11の概略ブロック図である。電動圧縮機11は、インバータ一体型電動圧縮機であり、インバータ装置41と、モータ12、圧縮部10を有している。
インバータ装置41はバッテリ等の電源(図示せず)から供給された直流電力を三相交流に変換し、モータ12へ供給する。電力を得たモータ12は回転し、モータ12と機械的に接続された圧縮部10に回転力を伝達する。回転力を受けた圧縮部10は、空気調和機1が備える冷媒回路(図示せず)へ冷媒を供給する。
【0024】
インバータ装置41は、モータ制御装置51を有している。モータ制御装置51は、制御部61と、切替判定部71を有している。
制御部61は、制御1を実施する第1の制御手段611と制御2を実施する第2の制御手段612を有している。第1の制御手段611は、本実施形態では、高トルクかつ高精度な運転が可能であるが高効率・広範囲の運転を不得手とする制御(制御1とする)を実施する手段である。このため、低速・高トルクでのモータ12駆動に適した制御であり、特に大きな始動トルクが必要な場合に効果的である。そのため、本実施形態に係るモータ制御装置51は、モータ12起動時に制御1を実施する。つまり、ユーザが、エアコンの運転を開始する操作を行うと、ECU1がその操作に応じた制御信号を空気調和機1へ出力するが、この信号を受けて空気調和機1は、第1の制御手段611を用いて制御部61が制御するインバータ制御によりモータ12の駆動が開始されることとなる。
また、本実施形態での制御1における電圧等についての演算はマイクロ秒単位で実施されるため、要求回転数に対して鋭敏に追従可能である。そのため、高精度なモータ運転を可能としている。
【0025】
一方、第2の制御手段612は、本実施形態においては、高トルクかつ高精度な運手は不得手であるが高効率・広範囲な運転が可能である制御(制御2とする)を実施する手段である。また、本実施形態における制御2の演算はミリ秒単位で実施されるため、要求回転数に対して鋭敏に追従し過ぎず、急激な変動に対して強いという利点があるため、高範囲運転を可能としている。そのため、本実施形態に係るモータ制御装置51では、モータ12起動後はまず制御1を実施し、続いて制御2へと切り替える。
【0026】
次に、切替判定部71について詳述する。切替判定部71は回転数実測値演算手段711を有している。
本実施形態における切替判定部71は、制御1から制御2へと切り替えるための判定を行い、条件に適合する場合は切替の信号を制御部61に伝達する。該条件の一つとして、回転数実測値が所定閾値を上回った場合があり、本実施形態における切替判定部71は回転数実測値演算手段711から得られた回転数実測値と所定閾値との比較を行う。一例として、この所定閾値は2000rpmである。この場合は、他の条件に係らず、強制的に制御の切替を行う。つまり、ユーザがエアコンの運転を開始した後、モータ12が所定閾値以上の回転数に到達すると、切替判定部71が制御2への切替を制御部61に指令し、制御部61はこれに従い、制御2により電動圧縮機は駆動される。
上述のように、本実施形態に係るモータ制御装置51は、2つの制御のそれぞれの利点を生かした制御とその切替を行うことで、所望の運転効果を得つつも効率的なモータ駆動により、電動圧縮機を作動させている。
【0027】
ここで、本実施形態に係る切替判定部71は、回転数実測値が上述の所定閾値以下の場合であっても、切替を行う条件を有している。具体的には、モータ12に供給する電力の周波数に対応する回転数である要求回転数と上述の回転数実測値演算手段711から得られた回転数実測値とが、一致した時点から予め規定された時間が経過した場合にも、切替を行う。
上記予め規定された時間とは、例えば1秒である。
【0028】
次に本実施形態に係る電動圧縮機のモータ制御装置51における制御切替の流れについて説明する。
図4は、本発明の一実施形態における電動圧縮機のモータ制御装置51における制御切替の一例を示すフローチャートである。
まず、判定部が回転数実測値演算手段711から得られた回転数実測値と所定閾値との大小を比較し(ステップS13)、回転数実測値が所定閾値を上回っている場合(ステップS13;yes)は、強制的に制御2を実施する(ステップS14)。一方、上回っていない場合(ステップS13;No)は、判定部は次に、回転数実測値が要求回転数と一致しているかを判定する(ステップS15)。一致していない(ステップS15;yes)場合は制御1を実施する(ステップS16)。一致している場合(ステップS15;yes)は、判定部は次に回転数実測値と要求回転数とが一致したままである時間と、所定時間とを比較する(ステップS17)。この比較の結果として、該一致したままである時間が所定時間を上回っていない場合は(ステップS17;No)、引き続き制御1を実施する(ステップS18)。上回る場合は(ステップS17;yes)、制御2を実施する(ステップS19)。
【0029】
上記構成のモータ制御装置51では、第1の制御から第2の制御へと切り替える場合、回転数実測値と要求回転数とが一致したまま所定の時間一致している場合は、回転数によって定められた閾値を超えなくとも、第2の制御を実行する。これにより、例えば電動圧縮機のモータ12の起動時における二種類のモータ制御方法の切替時での脱調を予防することができる。本実施形態では、高トルクかつ高精度な運転が可能であるが高効率・広範囲の運転を不得手とする制御1から、高トルクかつ高精度な運手は不得手であるが高効率・広範囲な運転が可能である制御2への切替のタイミングを相対的に早めることができる。つまり、上述のような脱調の要因(トルク負荷の定常的な高まりや、要求回転数の急激な変動など)がある状況であっても、モータ12の回転数実測値が予め規定された回転数閾値を上回るのを待たずに、要求回転数の変動に対して過敏ではないためにより広範囲運転が可能な制御2へと移行することができる。また、制御1実施中に脱調が起こらずとも、制御1から制御2への切替時に脱調が起こる場合があったが、これについても要求回転数と実測回転数がすでに所定時間一致している状態にて切替を実行することとなるため、切替時の脱調のリスクを低減することができる。これにより、スパイク電流の発生などによる制御回路への悪影響は抑制することができる。また、起動後の制御1の実施をより短期間とすることで、外気温が高い時などの比較的高い圧力で冷媒を圧縮しなければならない状況下であっても効率の点で優れた制御2を優先して行うことができるため、IGBTの過熱を抑制することができる。
従って、本実施形態に係るモータ制御装置51及びこれを備えた電動圧縮機11、移動体用の空気調和機1はより高い信頼性を得ることができる。
【0030】
[第二実施形態]
次に第二実施形態について説明する。第二実施形態では第一実施形態と同一の構成要素で異なる処理を行う。以下に、図4を参照して本実施形態に係る電動圧縮機のモータ制御装置52における制御切替の流れについて説明する。
本実施形態では、切替判定部72の行う処理が第一実施形態と異なっている。具体的には、切替判定部72が有する回転数実測値演算手段711を用いる前段階として、要求回転数の変動を追跡し時間当たりの変動幅を所定閾値と比較する(ステップS21)。この結果として要求回転数の変動幅が所定閾値よりも大きい場合は、回転数実測値演算手段711を用いることなく、制御2に切り替える(ステップS21;yes)。一方、所定閾値よりも小さい場合は(ステップS21;No)、回転数実測値演算手段711を用いて、回転数の実測値と所定閾値との比較へと進む(ステップS23)。この手順以降のステップであるステップ23からステップ29に至るまでの流れは、第一の実施形態におけるステップ13からステップ19に至るまでの流れと同一である。本実施形態では一例として、ステップ24、26、28に至った後は、第一の実施形態におけるステップ13に相当するステップ23へと戻されることとしているが、ステップ21へと戻されることとしてもよい。
【0031】
上記構成のモータ制御装置52では、制御1から制御2へと切り替える場合、回転数実測値のいかんにかかわらず、要求回転数が激しく変動する場合、制御2に切り替えることができる。つまり、脱調の原因となる要求回転数の変動を直接的に切替の条件とすることとなる。
例えば、第一実施例と同様に制御1が高トルクかつ高精度な運転が可能であるが高効率・広範囲の運転を不得手とする制御であり、制御2が高トルクかつ高精度な運手は不得手であるが高効率・広範囲な運転が可能である制御である場合、制御1実施中において要求回転数が激しく変動すると、当該要求回転数に対しきめ細やかに追従しようとする結果、脱調が発生する可能性が高まる。そこで、要求回転数が激しく変動したことを検知して、この検知結果に対応して制御2に切り替えることで、脱調の発生を抑制することができる。これにより、モータ12の脱調を未然に防ぐことができる。これにより、スパイク電流の発生などによる制御回路への悪影響を抑制することができる。
従って、本実施形態に係るモータ制御装置52及びこれを備えた電動圧縮機12、移動体用の空気調和機2はより高い信頼性を得ることができる。
【0032】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について図6を参照して説明する。第二実施形態では第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
第三実施形態は、第一実施形態と比較し、切替判定部73の構成が異なっている。本実施形態においては、切替判定部73は、トルク相関パラメータ取得部をさらに備えている。
トルク相関パラメータ取得部は、モータ12が発生させているトルクと相関関係にあるパラメータを取得する。本実施形態では、例えばモータ12電流の値を取得して、モータ12のトルクの値を推定する。
【0033】
本実施形態でも、第二実施形態と同じく、切替判定部73の行う処理が第一実施形態と異なっている。具体的には、切替判定部73が有する回転数実測値演算手段711を用いる前段階として、上述のトルク相関パラメータ取得部83が算出した推定トルク値が所定閾値を上回った場合制御2に切り替える。
【0034】
以下に、図4を参照して本実施形態に係る電動圧縮機のモータ制御装置53における制御切替の流れについて説明する。
本実施形態では、切替判定部71の行う処理が第一実施形態及び第二実施形態と異なっている。具体的には、切替判定部71が有する回転数実測値演算手段711を用いる前段階として、トルク相関パラメータ取得部が算出した推定トルク値と所定閾値とを比較する(ステップS31)。この結果として推定トルク値が所定閾値よりも大きい場合は、回転数実測値演算手段711を用いることなく、制御2に切り替える(ステップS31;yes)。一方、所定閾値よりも小さい場合は(ステップS31;No)、回転数実測値演算手段711を用いて、回転数の実測値と所定閾値との比較へと進む(ステップS33)。この手順以降の手順は、第一実施形態と同一である。この手順以降のステップであるステップ33からステップ39に至るまでの流れは、第一の実施形態におけるステップ13からステップ19に至るまでの流れと同一である。本実施形態では一例として、ステップ34、36、38に至ったのちは、第一の実施形態におけるステップ13に相当するステップ33へと戻されることとしているが、ステップ31へと戻されることとしてもよい。
【0035】
上記構成のモータ制御装置53では、制御1から制御2へと切り替える場合、回転数実測値のいかんにかかわらず、モータ12が高トルクを出力していると推定される場合は、制御2に切り替えることができる。つまり、脱調の原因となるトルク負荷の高まりを直接的に切替の条件とすることとなる。
例えば、第一実施例と同様に制御1が高トルクかつ高精度な運転が可能であるが高効率・広範囲の運転を不得手とする制御であり、制御2が高トルクかつ高精度な運手は不得手であるが高効率・広範囲な運転が可能である制御である場合は、より広範囲制御が可能な制御2に早期に切り替えることができる。制御1は、制御2に比べて一般には高トルクを出力することが可能な制御である。しかしながら、外気温が異常に高温である状態でのカーエアコンの始動時は高トルクを出力すべき状態が定常的となる場合がある。この場合は、制御1を長期間継続すると脱調が起こることが懸念される。そのため、早期に制御2に切り替えることで、トルク出力は低下するものの、スパイク電流の発生などによる制御回路への悪影響は抑制することができる。
従って、本実施形態に係るモータ制御装置53及びこれを備えた電動圧縮機13、移動体用の空気調和機3はより高い信頼性を得ることができる。
【0036】
上記いずれの実施形態でも、具体的な制御方式はいかなるものであってもよいが、第一制御(制御1)の一例としてはセンサレスベクトル制御が、第二制御(制御2)の一例としてはV/f制御が挙げられる。
電動圧縮機11及び13が、車両100のカーエアコンの一部を構成する場合を例に説明を行ったが、本実施形態のモータ制御装置51及び53、電動圧縮機11及び13は、冷凍・冷蔵車の空気調和機に適用することも可能である。また、本実施形態の制御装置50、電動圧縮機10の適用先の装置は、車両以外にも、船、航空機、鉄道など、各種の移動体に搭載する空気調和機であっても良い。
【符号の説明】
【0037】
2 ECU
1、3 空気調和機
100 車両
11 電動圧縮機
41、43 インバータ装置
10 圧縮部
12 モータ
51、53 モータ制御装置
61 制御部
71、73 切替判定部
611 第一の制御手段
612 第二の制御手段
711 回転数実測値演算手段
83 トルク相関パラメータ取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6