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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】液体フィルター用ろ材
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
B01D39/16 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017226922
(22)【出願日】2017-11-27
(65)【公開番号】P2019093360
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】能登 愛
(72)【発明者】
【氏名】神山 三枝
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-074246(JP,A)
【文献】特開平05-049825(JP,A)
【文献】特開2013-236986(JP,A)
【文献】特開2010-167384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D39/00-41/04
B01D23/00-35/04
B01D35/08-37/08
D04H1/00-18/04
B01D27/00-27/12;33/00-33/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造を有し、かつ繊維径が1000nm以下のナノファイバーを含む液体フィルター用ろ材であって、全ての層が湿式不織布からなり、多層のうち少なくとも2層において平均孔径が互いに異なり、最上流側の第1層の平均孔径が8.97~12.09μmの範囲内であり、かつ全ての層に、前記ナノファイバーとバインダー繊維が含まれ、液体の流入側から流出側にかけて層の平均孔径が小さくなることを特徴とする液体フィルター用ろ材。
【請求項2】
層数が3~10層の範囲内である、請求項1に記載の液体フィルター用ろ材。
【請求項3】
互いに隣り合う2層の平均孔径の比が1.1~2.5倍の範囲内である、請求項1または請求項2に記載の液体フィルター用ろ材。
【請求項4】
前記ナノファイバーが、ポリエステル繊維またはポリアミド繊維またはポリプロピレン繊維からなる、請求項1~3のいずれかに記載の液体フィルター用ろ材。
【請求項5】
全ての層において、前記ナノファイバーの重量比率が濾過層重量に対して5~90重量%の範囲内であり、かつ前記バインダー重量の重量比率が濾過層重量に対して10~50重量%の範囲内である、請求項1に記載の液体フィルター用ろ材。
【請求項6】
カートリッジ型である、請求項1~5のいずれかに記載の液体フィルター用ろ材。
【請求項7】
ゲル状異物のろ過用である、請求項1~6のいずれかに記載の液体フィルター用ろ材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造を有し、かつ繊維径が1000nm以下のナノファイバーを含む液体フィルター用ろ材であって、ゲル状異物の除去性能に優れ、かつ長寿命である液体フィルター用ろ材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体・エレクトロニクス分野、ケミカル分野などにおいて、ゲル状異物を効果的に除去する方法が求められている。通常、このようなゲルを除去するためのろ材として、有機繊維からなるスパンボンド不織布やメルトブロー不織布が多く用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、昨今では、デバイスの微小化、塗膜やフィルムの薄膜化に伴い、より微小なゲル状異物を取り除く必要がでてきた。
【0004】
しかしながら、従来のろ材では、孔径が大きいため、微小なゲル状異物を取り除けないという問題があった。また、孔径を小さくするため、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布にカレンダー加工を施すことにより圧密化も検討されているが、平均孔径が小さくなっても孔径の均一化につながらず、大きな孔が存在するうえに、密度の上昇により圧力損失が増大するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-185422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、多層構造を有し、かつ繊維径が1000nm以下のナノファイバーを含む液体フィルター用ろ材であって、ゲル状異物の除去性能に優れ、かつ長寿命である液体フィルター用ろ材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、繊維径が1000nm以下のナノファイバーを用いてろ材の構成を巧みに工夫することにより、ゲル状異物の除去性能に優れ、かつ長寿命である液体フィルター用ろ材が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0008】
さらに詳しく説明すると、本発明による繊維径の均一なナノファイバーを用いた不織布シートは、従来のスパンボンド不織布やメルドブロー不織布と比較して、孔径の均一な構造を形成することが可能なため、目付けや厚さが小さいにもかかわらず、微小な孔径を持ち、高いろ過効率を有する。従来の不織布は、孔径を調整するため、カレンダー加工などによる圧密化が行われているが、密度上昇による濾過抵抗の増加や処理量の低下は避けられなかった。一方、本発明の不織布は、圧密化せずとも微小な孔径を有しており、ろ過抵抗が小さく、処理量が大きい。これは、孔径が微小であってもその孔径が均一でかつ、多数存在することによるものと考えられる。
【0009】
また、ゲル状異物を捕集するためには、不織布を構成する繊維間に空間を持たせることが肝要である。ゲル状異物は繊維表面をコーティングするように堆積するため、不織布表面が緻密な構造とすると、表面に膜を形成し、短時間で孔を閉塞させてしまう。そこで繊維と繊維の間に空間を持たせることにより、ゲル状異物がろ材の奥に入りやすくなり、繊維の表面積を多く利用して捕集量を上げることができる。通常、ナノファイバーのみであれば、空隙率が小さくなりすぎてしまうが、太い繊維を任意の割合で混ぜることにより、空隙率が高く、かつ孔径が均一なろ材が得られた。この高空隙率ろ材に含まれるナノファイバーの割合を変化させて、平均孔径の大きさを調整し、互いに隣り合う2層の平均孔径が1.1~2.5倍となるよう下流側から上流側に向かって孔径が大きくなるように配置することにより、ゲル状異物を分級しながら上流から下流までの濾過層全体でゲルを捕集することで、ゲル状異物を高い濾過効率で捕集しながら、長寿命のろ材が得られることがわかった。また、試験後のろ材の重量を測定し、各ろ過層の捕集量を計算した結果、各ろ過層にゲルが分配して捕集されているほど、長寿命の傾向にあった。
【0010】
かくして、本発明によれば「多層構造を有し、かつ繊維径が1000nm以下のナノファイバーを含む液体フィルター用ろ材であって、全ての層が湿式不織布からなり、多層のうち少なくとも2層において平均孔径が互いに異なることを特徴とする液体フィルター用ろ材。」が提供される。
【0011】
その際、層数が3~10層の範囲内であることが好ましい。また、液体の流入側から流出側にかけて層の平均孔径が小さくなることが好ましい。また、互いに隣り合う2層の平均孔径の比が1.1~2.5倍の範囲内であることが好ましい。また、前記ナノファイバーが、ポリエステル繊維またはポリアミド繊維またはポリプロピレン繊維からなることが好ましい。また、全ての層に、前記ナノファイバーとバインダー繊維が含まれることが好ましい。その際、全ての層において、前記ナノファイバーの重量比率が濾過層重量に対して5~90重量%の範囲内であり、かつ前記バインダー重量の重量比率が濾過層重量に対して10~50重量%の範囲内であることが好ましい。
本発明の液体フィルター用ろ材において、ろ材がカートリッジ型であることが好ましい。また、ゲル状異物のろ過用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多層構造を有し、かつ繊維径が1000nm以下のナノファイバーを含む液体フィルター用ろ材であって、ゲル状異物の除去性能に優れ、かつ長寿命である液体フィルター用ろ材が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本発明の液体フィルター用ろ材は、多層構造を有する。層数としては3~10層の範囲内であることが好ましい。
【0014】
また、多層のうち少なくとも2層において平均孔径が互いに異なることが、ゲル状異物の除去性能と長寿命とを両立させる上で肝要である。
【0015】
その際、液体の流入側から流出側にかけて層の平均孔径がしだいに小さくなると、ゲル状異物の除去性能に優れ、かつ長寿命となり好ましい。また、互いに隣り合う2層の平均孔径の比が1.1~2.5倍の範囲内であることが、ゲル状異物の除去性能と長寿命とを両立させる上で好ましい。特に、全ての互いに隣り合う2層において、平均孔径の比が1.1~2.5倍の範囲内であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の液体フィルター用ろ材は、繊維径が1000nm以下のナノファイバーを含む。
【0017】
本発明でいうナノファイバーは1000nm以下(好ましくは200~800nm、より好ましくは400~750nm)の繊維径を有する。該繊維径はナノファイバーの単繊維径である。該繊維径が1000nmよりも大きいとろ過効率が低下するおそれがある。逆に、該繊維径が200nmよりも小さいとナノファイバーの分散性が低下しろ過効率が低下するおそれがある。
【0018】
前記の繊維径は、透過型電子顕微鏡TEMで、倍率30000倍で単繊維断面写真を撮影し測定することができる。その際、測長機能を有するTEMでは、測長機能を活用して測定することができる。また、測長機能の無いTEMでは、撮った写真を拡大コピーして、縮尺を考慮した上で定規にて測定すればよい。
【0019】
その際、単繊維の横断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、繊維径は、単繊維の横断面の外接円の直径を用いるものとする。
【0020】
前記ナノファイバーにおいて繊維長が0.4~1.5mmであることが好ましい。該繊維長が0.4mmよりも小さいと工程性が低下するおそれがある。逆に該繊維長が1.5mmよりも大きいと分散性不良により凝集繊維塊となりろ過効率や強度が低下するおそれがある。また、繊維径Dに対する繊維長Lの比L/Dとしては200~4000(より好ましくは800~2500)の範囲内であることが好ましい。
【0021】
前記ナノファイバーの繊維種類としては特に限定されないが、ポリエステル繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、脂肪族ポリアミド繊維などが例示される。なかでもポリエステル繊維またはポリフェニレンサルファイド繊維またはポリプロピレン繊維が好ましい。
【0022】
ポリエステル繊維を形成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と称することもある。)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、これらを主たる繰返し単位とする、イソフタル酸や5-スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε-カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等との共重合体が好ましい。マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2009-091694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004-270097号公報や特開2004-211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
【0023】
また、前記ポリエステル繊維は延伸糸、未延伸糸、半延伸糸いずれでもよい。また、伸度が60%未満でもよいし60%以上でもよい。なお、ポリエステル延伸糸は通常、伸度が60%未満であり、ポリエステル未延伸糸は通常、伸度が60%以上である。
【0024】
ポリフェニレンスルフィド(PPS)繊維を形成するポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、その構成単位として、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等よりなるものを挙げる事ができる。その中でも、p-フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらにポリ(p-フェニレンスルフィド)がより好ましい。
【0025】
また、前記ポフェニレンスルフィド繊維は延伸糸、未延伸糸、半延伸糸いずれでもよい。また、伸度が60%未満でもよいし60%以上でもよい。なお、ポリフェニレンスルフィド延伸糸は通常、伸度が60%未満であり、ポリフェニレンスルフィド未延伸糸は通常、伸度が60%以上である。
【0026】
前記ナノファイバーの製造方法は特に限定されないが、国際公開第2005/095686号パンフレットや国際公開第2008/130019号パンフレットに開示された方法が好ましい。すなわち、繊維形成性熱可塑性ポリマーからなる島成分と、前記の繊維形成性熱可塑性ポリマーよりもアルカリ水溶液に対して溶解し易いポリマー(以下、「易溶解性ポリマー」ということもある。)からなる海成分とを有する複合繊維にアルカリ減量加工を施し、前記海成分を溶解除去したものであることが好ましい。
【0027】
ここで、海成分を形成するアルカリ水溶液易溶解性ポリマーの、島成分を形成する繊維形成性熱可塑性ポリマーに対する溶解速度比が200以上(好ましくは300~3000)であると、島分離性が良好となり好ましい。
【0028】
海成分を形成する易溶解性ポリマーとしては、特に繊維形成性の良いポリエステル類、脂肪族ポリアミド類、ポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィン類を好ましい例としてあげることができる。さらに具体例をあげれば、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリアルキレングリコール系化合物と5-ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエステルが、アルカリ水溶液に対して溶解しやすく好ましい。ここでアルカリ水溶液とは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム水溶液などをいう。これ以外にも、海成分と、該海成分を溶解する溶液の組合せとしては、ナイロン6やナイロン66等の脂肪族ポリアミドに対するギ酸、ポリスチレンに対するトリクロロエチレン等やポリエチレン(特に高圧法低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン)に対する熱トルエンやキシレン等の炭化水素系溶媒、ポリビニルアルコールやエチレン変性ビニルアルコール系ポリマーに対する熱水を例としてあげることができる。
【0029】
ポリエステル系ポリマーの中でも、5-ナトリウムスルホイソフタル酸6~12モル%と分子量4000~12000のポリエチレングリコールを3~10重量%共重合させた固有粘度が0.4~0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5-ナトリウムスルホイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。また、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加作用があるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性や紡糸安定性の面で問題が生じるおそれがある。また、共重合量が10重量%以上になると、溶融粘度が低下するおそれがある。
【0030】
一方、島成分を形成する難溶解性ポリマーとしては、最終的にナノファイバーを形成するポリマーであり、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリオレフィン類、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などが好適な例としてあげられる。具体的には、機械的強度や耐熱性を要求される用途では、ポリエステル類では、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と称することもある。)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、これらを主たる繰返し単位とする、イソフタル酸や5-スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε-カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等との共重合体が好ましい。また、ポリアミド類では、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族ポリアミド類が好ましい。一方、ポリオレフィン類は酸やアルカリ等に侵され難いことや、比較的低い融点のためにナノファイバーとして取り出した後のバインダー成分として使える等の特徴があり、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、無水マレイン酸などのビニルモノマーのエチレン共重合体等を好ましい例としてあげることができる。特にポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸共重合率が20モル%以下のポリエチレンテレフタレートイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、等のポリエステル類、あるいは、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族ポリアミド類が、高い融点による耐熱性や力学的特性を備えているので、ポリビニルアルコール/ポリアクリロニトリル混合紡糸繊維からなる極細フィブリル化繊維に比べ、耐熱性や強度を要求される用途へ適用でき好ましい。なお、島成分は丸断面に限らず、三角断面や扁平断面などの異型断面であってもよい。
【0031】
前記の海成分を形成するポリマーおよび島成分を形成するポリマーについて、製糸性および抽出後のナノファイバーの物性に影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂等の離型改良剤、等の各種添加剤を含んでいても差しつかえない。
【0032】
前記の海島型複合繊維において、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合重量比率が40%未満と少なくなっても、島同士の接合を防止しやすい。
【0033】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1~2.0、特に1.3~1.5の範囲である。この比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
【0034】
次に島数は、100以上(より好ましくは500~2000)であることが好ましい。また、その海島複合重量比率(海:島)は、20:80~80:20の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分のナノファイバーへの転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が80%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方20%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなるおそれがある。
【0035】
溶融紡糸に用いられる口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群(ピンレス)を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば、中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面が形成されるといった紡糸口金でもよい。吐出された海島型複合繊維は冷却風により固化され、所定の引き取り速度に設定した回転ローラーあるいはエジェクターにより引き取られ未延伸糸(複屈折率Δnが0.05以下であることが好ましい。)を得る。この引き取り速度は特に限定されないが、200~5000m/分であることが好ましい。200m/分以下では生産性が低下するおそれがある。また、5000m/分以上では紡糸安定性が低下するおそれがある。
【0036】
得られた未延伸糸は、必要に応じてそのままカット工程あるいはその後の抽出工程(アルカリ減量加工)に供してもよいし、延伸工程や熱処理工程を経由して延伸糸とした後、カット工程あるいはその後の抽出工程(アルカリ減量加工)に供してもよい。その際、延伸工程は紡糸と延伸を別ステップで行う別延方式でもよいし、一工程内で紡糸後直ちに延伸を行う直延方式を用いてもよい。カット工程と抽出工程の順番は逆にしてもよい。
【0037】
かかるカットは、未延伸糸または延伸糸をそのまま、または数十本~数百万本単位に束ねたトウにしてギロチンカッターやロータリーカッターなどでカットすることが好ましい。
【0038】
前記の海島型複合繊維にアルカリ減量加工を施してナノファイバーとする際、繊維とアルカリ液の比率(浴比)は0.1~5%であることが好ましく、さらには0.4~3%であることが好ましい。0.1%未満では繊維とアルカリ液の接触は多いものの、排水等の工程性が困難となるおそれがある。一方、5%を越えると繊維量が多過ぎるため、アルカリ減量加工時に繊維同士の絡み合いが発生するおそれがある。なお、浴比は下記式にて定義する。
浴比(%)=(繊維質量(gr)/アルカリ水溶液質量(gr))×100
【0039】
また、アルカリ減量加工の処理時間は5~60分であることが好ましく、さらには10~30分であることが好ましい。5分未満ではアルカリ減量が不十分となるおそれがある。一方、60分を越えると島成分までも減量されるおそれがある。
【0040】
また、アルカリ減量加工において、アルカリ濃度は2%~10%であることが好ましい。2%未満では、アルカリ不足となり、減量速度が極めて遅くなるおそれがある。一方、10%を越えるとアルカリ減量が進みすぎ、島部分まで減量されるおそれがある。
【0041】
アルカリ減量の方法としては、海島型複合繊維をアルカリ液に投入し、所定の条件、時間でアルカリ減量処理した後に一度、脱水工程を経てから、再度、水中に投入し、酢酸、シュウ酸などの有機酸を使用して中和、希釈を進め最終的に脱水する方法や、または、所定の時間アルカリ減量処理した後に、先に中和処理を施し、さらに水を注入し希釈を進めその後脱水をする方法等があげられる。前者では、バッチ式に処理する為、少量での製造(加工)を行えることができるものの、中和処理に時間を要するため少し生産性が悪い。後者は半連続生産が可能であるが、中和処理時に多くの酸系水溶液及び希釈のために多くの水を必要とするという問題点がある。処理設備は何ら制限されるものではないが、脱水時に繊維脱落を防止する観点から、特許第3678511号公報に開示されているような開口率(単位面積当たりの開口部分の面積比率)が10~50%であるメッシュ状物(例えば非アルカリ加水分解性袋など)を使用することが好ましい。該開口率が10%未満では水分の抜けが極めて悪く、50%を超えると、繊維の脱落が発生するおそれがある。
【0042】
さらには、アルカリ減量加工の後、繊維の分散性を高めるために分散剤(例えば、高松油脂(株)製の型式YM-81)を繊維表面に、繊維重量に対して0.1~5.0重量%付着させることが好ましい。
【0043】
本発明の液体フィルター用ろ材において、各層は湿式不織布からなることが肝要である。湿式不織布は、スパンボンド法やメルトブロー法、エレクトロスピニング法等により作製された不織布と比較して、目付け、繊維径、通気度などのフィルター性能に関わる性質のばらつきが小さく、ろ過効率に優れることから好ましい。
【0044】
前記の各層は、ナノファイバーだけでなくバインダー繊維も含むことが好ましい。その際、前記ナノファイバーの重量比率がろ過層重量に対して50~90重量%の範囲内であり、かつ前記バインダー重量の重量比率がろ過層重量に対して10~50重量%の範囲内であることが好ましい。
【0045】
バインダー繊維は熱接着性繊維である。濾過層にバインダー繊維が含まれることにより、不織布の強度やネットワーク構造および収縮による嵩向上などの効果が得られる。バインダー繊維の繊維長は、3~10mmであることが好ましい。
【0046】
バインダー繊維のうち、未延伸糸としては、紡糸速度が600~1500m/分で紡糸された未延伸ポリエステル繊維が好ましい。ポリエステルとは、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレタレート、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。好ましくは生産性、水への分散性などの理由から、ポリエチレンテレフタレートやそれを主成分とする共重合ポリエステルが好ましい。
【0047】
また、バインダー繊維のうち、複合繊維としては、抄紙時のドライヤー温度により融着接着効果を発現するポリマー成分、たとえば非結晶性共重合ポリエステルが鞘部に配置され、これらのポリマーより融点が20℃以上高い他のポリマーが芯部に配置された芯鞘型複合繊維が好ましい。また、偏心芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維などの形態も使用できる。
【0048】
ここで、上記の非結晶性共重合ポリエステルは、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコールおよびジエチレングリコールを主成分として用いることがコスト面からも好ましい。
【0049】
さらに、ナノファイバーの分散を助けるとともに、空隙率の向上に寄与する非バインダー繊維でありナノファイバーよりも太繊度の繊維がろ過層に含まれていてもよい。ナノファイバーよりも太繊度の繊維としては、繊維径が均一で分散性のよい前記のようなポリエステル繊維が好ましい。また、少量および目的に応じて、種々の紙用繊維素材が使用可能であり、たとえば、木材パルプ、天然パルプ、アラミドやポリエチレンを主成分とする合成パルプ、ナイロン、アクリル、ビニロン、レーヨン等の成分を含む合成繊維または半合成繊維を混合、添加してもよい。
【0050】
湿式不織布を製造する方法としては、通常の長網抄紙機、短網抄紙機、丸網抄紙機などを用いて抄紙した後、熱処理することにより、バインダー繊維でナノファイバーを熱接着することが好ましい。その際、熱処理工程としては、抄紙工程後、ヤンキードライヤー、エアースルードライヤーのどちらでも可能である。また、熱処理の後、金属/金属ローラー、金属/ペーパーローラー、金属/弾性ローラーなどのカレンダー/エンボスを施しても良い。
ここで、各層は1層ごとに湿式抄紙した後、積層してもよいし、多層抄きしてもよい。
【0051】
かくして得られた液体フィルター用ろ材において、各層の密度は0.05~0.7g/cmの範囲内であることが好ましい。該密度が0.05g/cmより小さいと、取扱い性が悪くなるおそれがある。逆に、該密度が0.7g/cmより大きいと、高い水処理量が得られなくなるおそれがある。
【0052】
本発明の液体フィルター用ろ材は前記の構成を有するので、ゲル状異物の除去性能に優れ、かつ長寿命である。
【0053】
また、液体フィルター用ろ材の形状としてはカートリッジ型であることが好ましい。例えば、ろ材を円筒状とし、最内層のコア材と最外層のプロテクターとの間に、前記の液体フィルター用ろ材をプリーツ状に配することが好ましい。
【0054】
その際、プリーツの折りピッチ(山と谷との距離)としては、5~30mmの範囲内であることが好ましい。また、コア材の径としては、10~200mmの範囲内であることが好ましい。
【0055】
本発明の液体フィルター用ろ材はゲル状異物のろ過用(デプスフィルター)に特に好適に使用されるが、食品・飲料・製薬・エレクトロニクス等工業製品の製造プロセスなどにも用いてもよい。
【実施例
【0056】
(1)繊維径
透過型電子顕微鏡TEM(測長機能付)を使用し、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影し測定した。ただし、繊維径は、単繊維横断面におけるその外接円の直径を用いた(n数5の平均値)。
(2)繊維長
走査型電子顕微鏡(SEM)により、海成分溶解除去前の極細短繊維(短繊維A)を基盤上に寝かせた状態とし、20~500倍で繊維長Lを測定した(n数5の平均値)。その際、SEMの測長機能を活用して繊維長Lを測定した。
(3)目付け
JIS P8124(紙のメートル坪量測定方法)に基づいて目付を測定した。
(4)厚さ
JIS P8118(紙及び板紙の厚さと密度の測定方法)に基づいて厚みを測定した。測定荷重は75g/cmにて、n=5で測定し、平均値を求めた。
(5)溶融粘度
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのデータをもとに、せん断速度-溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000sec-1の時の溶融粘度を読み取った。
(6)平均孔径
PMI社製パームポロメーターにより測定した。
(7)初期の圧力損失
140cmの面積のろ材に5cm/minの流速で水を全量濾過した際の圧力損失を初期の圧力損失(kPa)とした。
(8)1μm初期捕集率
ゲル状異物を含むろ過液として、メチルセルロース水溶液0.15wt%を作製し、140cmのろ材に5cm/minの流速で全量濾過した。2分後の濾過前後の1μm粒子個数の差から、1μm粒子の捕集率(%)を求めた。
(9)寿命
前記メチルセルロース水溶液0.15wt%を用いて、140cmのろ材に5cm/minの流速で全量ろ過し、圧力が200kPaに達するまでの時間を寿命(分)とした。
【0057】
[実施例1]
島成分に285℃での溶融粘度が120Pa・secのポリエチレンテレフタレート、海成分に285℃での溶融粘度が135Pa・secである平均分子量4000のポリエチレングリコールを4重量%、5-ナトリウムスルホイソフタル酸を9mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを使用し、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸糸を、紡糸温度290℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸倍率4.0倍でローラー延伸し、次いで180℃で熱セットし、海島型複合延伸糸として巻き取った。これを0.5mmにカットしてアルカリ減量することにより、繊維径700nmのナノファイバーAを得た。
【0058】
次いで、該ナノファイバーAと、非バインダー繊維である繊度1.7dtex×繊維長5mmのポリエチレンテレフタレート繊維Bと、バインダー繊維である繊度1.7dtex×繊維長5mmの低融点ポリエチレンテレフタレート繊維CをA:B:C=10:60:30の割合で配合し、分散剤・消泡剤を適量添加して、分散させたスラリーを円網で湿式抄紙し、ニップローラーでの脱水後、巻き取った。引き続いて、ベルト式乾燥機に巻出しながら導入し、加熱収縮によりバインダー間のネットワークを形成して構造固定したのち、一定の張力にて巻き取った。これを第1層(流入側)とした。
【0059】
次いで、ナノファイバーAと非バインダー繊維Bとバインダー繊維Cの割合を、15:55:30としたものを第2層、30:40:30としたものを第3層、40:30:30としたものを第4層とした。
【0060】
さらに、非バインダー繊維Bを0.1dtex×繊維長3mmに変更し、バインダー繊維Cを0.2dtex×繊維長3mmに変更し、ナノファイバーAと非バインダー繊維Bとバインダー繊維Cの割合を30:40:30としたものを第5層(流出側)とした。これらを重ねて得られたろ材の目付けは、180g/mであり、厚さは0.8mmであった。評価結果を表1に示す。
【0061】
[実施例2]
実施例1における第1層のナノファイバー(700nm×繊維長0.5mm)Aと非バインダー繊維(1.7dtex×繊維長5mmのポリエチレンテレフタレート繊維)Bとバインダー繊維(1.7dtex×繊維長5mmのポリエチレンテレフタレート繊維)Cの割合を7:63:30に変更し、第2層のナノファイバーAと非バインダー繊維Bとバインダー繊維Cの割合を20:50:30に変更した以外は、実施例1と同様とした。これらを重ねて得られたろ材の目付は、210g/mであり、厚さは0.9mmであった。評価結果を表1に示す。
【0062】
[比較例1]
平均孔径が異なる市販のメルトブロー不織布を積層して、ろ材を得た。得られたろ材の目付は350g/mであり、厚みは1.7mmであった。評価結果を表1に示す。評価結果を表1に示す。
【0063】
[比較例2]
第1層のナノファイバー(700nm×繊維長0.5mm)Aとバインダー繊維(0.2dtex×繊維長5mmのポリエチレンテレフタレート繊維)Cの割合を50:50としたものを2枚重ねて、第1層と第2層とした。得られたろ材の目付は42g/mであり、厚さは0.08mmであった。評価結果を表1に示す。
【0064】
[比較例3]
市販のメルトブロー不織布を2枚積層して、ろ材を得た。得られたろ材の目付は194g/mであり、厚さは0.56mmであった。評価結果を表1に示す。
【0065】
以下、結果を説明する。実施例1、2は1μm捕集率90%以上という高い捕集率を有しながら、初期圧損、寿命ともに良好な結果であった。比較例1は実施例と同様に平均孔径に傾斜をつけた構造であるが、メルトブロー不織布であるがゆえに、初期圧損が高い。
【0066】
また、実施例1、2と比べると寿命が半分程度であった。試験後のサンプル重量から、各層の捕集割合を計算したところ、実施例1、2は第1層:第2層:第3層:第4層:第5層=74:8:7:6:5の割合で捕集されていたのに対し、比較例1は、ゲルの捕集割合が第1層:第2層:第3層:第4層:第5層=93:7:0:0:0の割合で捕集されていることがわかった。これにより、ろ材全体を有効に使って捕集した方が寿命が長いことがわかった。
【0067】
比較例2、3は比較例1と比べてさらに短寿命であった。ゲルの捕集割合は第1層:第2層=100:0であり、また観察の結果、ゲルはろ材の内部に入らず表面に膜をつくることで、初期に閉塞してしまったことがわかった。
【0068】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、多層構造を有し、かつ繊維径が1000nm以下のナノファイバーを含む液体フィルター用ろ材であって、ゲル状異物の除去性能に優れ、かつ長寿命である液体フィルター用ろ材が提供され、その工業的価値は極めて大である。