(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
C08L 23/18 20060101AFI20220323BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20220323BHJP
C08F 10/08 20060101ALI20220323BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C08L23/18
C08L23/04
C08F10/08
B32B27/32 Z
(21)【出願番号】P 2018007340
(22)【出願日】2018-01-19
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】田中 真哉
(72)【発明者】
【氏名】奥 達也
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 七央
(72)【発明者】
【氏名】野田 公憲
(72)【発明者】
【氏名】江川 真
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-146343(JP,A)
【文献】特開平01-301719(JP,A)
【文献】特開2011-046953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00 - 23/36
C08F 10/00 - 10/14
C08F 110/00 - 110/14
C08F 210/00 - 210/18
B32B 27/00 - 27/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a-1)、(a-2)および(a-3)を満たすブテン系重合体(A)を5~
14質量%、ならびに高圧法低密度ポリエチレン、エチレン・α-オレフィン共重合体およびエチレン・酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる1種以上であるエチレン系重合体(B)を95~
86質量%含有する樹脂組成物。
(a-1):GPC法による測定によって得られた積分分子量分布曲線から求められる分子量が10,000以下の成分割合が、2%以上である。
(a-2):示差走査熱量計により測定される融点が100~130℃である。
(a-3):メルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が0.3~10g/10分である。
【請求項2】
前記ブテン系重合体(A)がさらに以下の(a-4)を満たす請求項1に記載の樹脂組成物。
(a-4):GPC法により測定される重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比であるMw/Mnが5~20である。
【請求項3】
前記ブテン系重合体(A)のメルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が0.3~1.5g/10分である請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン系重合体(B)が高圧法低密度ポリエチレンを含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記エチレン系重合体(B)がエチレン・α-オレフィン共重合体を含む請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記高圧法低密度ポリエチレンを90~40質量%、および前記エチレン・α-オレフィン共重合体を10~60質量%(ただし、前記エチレン系重合体(B)の量を100質量%とする。)含む請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記エチレン系重合体(B)がエチレン・酢酸ビニル共重合体を含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記高圧法低密度ポリエチレン、前記エチレン・α-オレフィン共重合体および前記エチレン・酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(ASTM D1238、190℃、2.16kg荷重)が、いずれも0.2~2.0g/10分である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項10】
請求項
9に記載のフィルムと他の層とが積層されてなる積層フィルム。
【請求項11】
シーラント層と基材層とが積層されてなり、前記シーラント層が請求項
9のフィルムからなる請求項
10に記載の積層フィルム。
【請求項12】
シーラント層と中間層と基材層とがこの順序で積層されてなり、前記シーラント層がエチレン系重合体からなり、前記中間層が請求項
9のフィルムからなる請求項
10に記載の積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物およびその用途に関し、より詳細にはシーラントフィルムの原料として適した樹脂組成物、ならびにシーラントフィルムおよびこのシーラントフィルムを用いた積層フィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
容器包装材に使用される易剥離性(イージーピール性)を有するシーラントフィルムには、密封性と易剥離性という、相反する性能を同時に満足することが要求されている。その内、密封性に関しては、常に内容物を保護可能にする程度以上のヒートシール強度を有すること、および多種多様な基材に対応するためにヒートシール強度の温度依存性が小さいことが求められている。一方、イージーピール性に関しては、手による剥離が容易な程度にヒートシールされていることが要求されている。
【0003】
シーラントフィルム用の樹脂としては、これまでに多くの材料が開発されている。このような材料としてはポリエチレン樹脂にポリブテン樹脂を配合してなる樹脂組成物が挙げられ、たとえば、特許文献1には、エチレン・酢酸ビニル共重合体50~90およびポリブチレンを含む樹脂混合物が記載されている。
【0004】
特許文献2には、MFRPEが0.2~30g/10分、密度が0.900~0.940g/cm3のエチレン重合体60~95重量%、およびMFRPBが0.1~25g/10分、1-ブテン単位含量が60~100モル%の1-ブテン重合体5~40重量%とからなる樹脂組成物であって、MFRPE/MFRPBが1以上であるシーラント樹脂組成物が記載されている。
【0005】
特許文献3には、第1のシーラント層および第2のシーラント層を含むパッケージであって、第1のシーラント層は約70~95重量%の低密度ポリエチレンと約5~30重量%の第1の混入物質(ブテン/エチレン共重合体など)を含み、第2のシーラント層は約70~90重量%のポリエチレン(低密度ポリエチレン、エチレン・α-オレフィン共重合体など)と約10~30重量%の第2の混入物質(ブテン/エチレン共重合体など)を含むパッケージが記載されている。
【0006】
また、特許文献4には、ラミネート樹脂層(A)、接着剤層(B)および基材層(C)の順に3層から構成され、(A)層がポリエチレンおよびポリブテンを含む組成物である易開封性包装材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第4189579号明細書
【文献】特開2002-146343号公報
【文献】国際公開第2015/178927号
【文献】特開2016-175205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポリブテン樹脂は高価であるため、ポリエチレン樹脂に対するポリブテン樹脂の割合を減らしても従来品と同等以上の易開封性(特に易剥離性(イージーピール性))を発現させることのできるシーラントフィルムおよび積層フィルム、ならびにその材料の開発が望まれる。
【0009】
このような課題に鑑み、本発明は、ポリエチレン樹脂に対するポリブテン樹脂の割合が少なくても従来技術と同等以上の易剥離性を発現することのできるシーラントフィルムおよび積層フィルム、ならびにその材料等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究した結果、ポリブテン樹脂に改良を加えることで上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
〔1〕
以下の(a-1)、(a-2)および(a-3)を満たすブテン系重合体(A)を5~30質量%、ならびに高圧法低密度ポリエチレン、エチレン・α-オレフィン共重合体およびエチレン・酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる1種以上であるエチレン系重合体(B)を95~70質量%含有する樹脂組成物。
(a-1):GPC法による測定によって得られた積分分子量分布曲線から求められる分子量が10,000以下の成分割合が、2%以上である。
(a-2):示差走査熱量計により測定される融点が100~130℃である。
(a-3):メルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が0.3~10g/10分である。
【0012】
〔2〕
前記ブテン系重合体(A)がさらに以下の(a-4)を満たす上記〔1〕の樹脂組成物。
(a-4):GPC法により測定される重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比であるMw/Mnが5~20である。
【0013】
〔3〕
前記ブテン系重合体(A)のメルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が0.3~1.5g/10分である上記〔1〕または〔2〕の樹脂組成物。
【0014】
〔4〕
前記エチレン系重合体(B)が高圧法低密度ポリエチレンを含む上記〔1〕の樹脂組成物。
【0015】
〔5〕
前記エチレン系重合体(B)がエチレン・α-オレフィン共重合体を含む上記〔4〕の樹脂組成物。
【0016】
〔6〕
前記高圧法低密度ポリエチレンを90~40質量%、および前記エチレン・α-オレフィン共重合体を10~60質量%(ただし、前記エチレン系重合体(B)の量を100質量%とする。)含む上記〔5〕の樹脂組成物。
【0017】
〔7〕
前記エチレン系重合体(B)がエチレン・酢酸ビニル共重合体を含む上記〔1〕の樹脂組成物。
【0018】
〔8〕
上記〔1〕~〔7〕のいずれかの樹脂組成物からなるフィルム。
【0019】
〔9〕
上記〔8〕のフィルムと他の層とが積層されてなる積層フィルム。
【0020】
〔10〕
シーラント層と基材層とが積層されてなり、前記シーラント層が上記〔8〕のフィルムからなる上記〔9〕の積層フィルム。
【0021】
〔11〕
シーラント層と中間層と基材層とがこの順序で積層されてなり、前記シーラント層がエチレン系重合体からなり、前記中間層が上記〔8〕のフィルムからなる上記〔9〕の積層フィルム。
【発明の効果】
【0022】
本発明の樹脂組成物を用いると、ポリブテン樹脂の割合が少なくても従来技術と同等以上の易剥離性を発現するシーラントフィルムおよび積層フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施例および比較例で使用されたブテン系重合体の微分分子量分布曲線である。
【
図2】
図2は、実施例および比較例で使用されたブテン系重合体の積分分子量分布曲線(一部を拡大したもの)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[樹脂組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、ブテン系重合体(A)を5~30質量%およびエチレン系重合体(B)を95~70質量%(樹脂組成物の量を100質量%とする。)含有している。
【0025】
《ブテン系重合体(A)》
ブテン系重合体(A)の例としては、1-ブテンの単独重合体、および1-ブテンと、1-ブテンを除く炭素数2~10のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0026】
前記α-オレフィンとしては、たとえばエチレン、プロピレン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセンプロピレン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンが挙げられ、好ましくはエチレン、プロピレン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンが挙げられ、より好ましくはエチレン、プロピレンが挙げられる。
【0027】
ブテン系重合体(A)には、必要に応じて、本発明の効果が損なわれない範囲で他のコモノマーが少量共重合されていてもよい。
ブテン系重合体(A)の1-ブテン含量は、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、より好ましくは98~100モル%であり、α-オレフィン含量は、0~10モル%、好ましくは0~5モル%、より好ましくは0~2モル%である(ただし、1-ブテン含量およびα-オレフィン含量の合計を100モル%とする。)。
前記ブテン系重合体(A)は、以下の要件(a-1)~(a-3)を満たす。
【0028】
要件(a-1);
後述する実施例で採用された条件下でゲルパーミエーション(GPC)法による測定によって得られる積分分子量分布曲線において、分子量が10,000以下の成分の割合が2%以上であり、好ましくは2.4%以上である。また、その上限値は、主に要件(a-3)および(a-4)に依存して定まる。
【0029】
前記割合がこの範囲にあるとエチレン系重合体と混練した際の分散性が向上するため、易剥離性が向上する。
前記割合は、たとえば多段重合プロセスの一工程において低分子量のブテン系重合体を重合する、あるいは低分子量のブテン系重合体を溶融混練することによって増加させることができる。
【0030】
要件(a-2);
示差走査熱量計により、後述する実施例で採用された条件下で測定される融点が100~130℃であり、好ましくは105~130℃であり、さらに好ましくは110~125℃である。
融点がこの範囲にあるとフィルムの耐熱性が向上し、ボイル・レトルト殺菌を行う包装形態へ適応でき、また幅広いシール温度でヒートシールが可能である。
【0031】
要件(a-3);
メルトフローレート(ASTM D-1238、190℃、2.16kg荷重)が、0.3~10g/10分であり、好ましくは0.35~5.0g/10分であり、さらに好ましくは0.45~1.5g/10分である。
メルトフローレートがこの範囲にあると、エチレン系重合体と混練した際の分散性と易剥離性のバランスに優れる。
前記ブテン系重合体(A)は、以下の要件(a-4)~(a-9)のうちの1つ以上を満たしてもよく、好ましくは以下の要件(a-4)を満たす。
【0032】
要件(a-4);
上記条件でゲルパーミエーション(GPC)法により測定される重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比、すなわちMw/Mnが、5~20であり、好ましくは6~18であり、さらに好ましくは10~17である。
Mw/Mnがこの範囲にあるとエチレン系重合体と混練した際の分散性が向上するため、易剥離性が向上する。
【0033】
前記ブテン系重合体(A)は、分子量が10,000以下の成分の割合を所定量含み、特定の融点、メルトフローレートを有することで、エチレン系重合体と混練した際の分散性と易剥離性のバランスに優れる。よって、同量のブテン系重合体を含む従来の樹脂組成物よりも幅広いシール温度で低いヒートシール強度を示し、従来の樹脂組成物よりも少ないブテン系重合体(A)量で、従来の樹脂組成物と同等以上の低ヒートシール強度化を実現できる、と推測される。
【0034】
要件(a-5);
後述する実施例で採用された条件下でゲルパーミエーション(GPC)法による測定によって得られる積分分子量分布曲線において、分子量が1,000以下の成分の割合が、0.1%以上、好ましくは0.2%以上である。
【0035】
要件(a-6);
後述する実施例で採用された条件下で測定される密度が、0.880~0.925kg/m3、好ましくは0.885~0.920kg/m3である。密度がこの範囲にあると、樹脂組成物から形成したフィルム表面の摩擦係数が小さいことから、最終的にフィルムから容器を製造した時に、高い充填速度で内容物を充填することが可能である。
【0036】
要件(a-7);
後述する実施例で採用された条件下で測定されるアイソタクティックペンタッド分率(mmmm分率)が、85%以上、好ましくは90~98%である。mmmm分率がこの範囲にあると、易剥離性に優れたシーラントフィルムを製造することができる。
【0037】
要件(a-8);
135℃、デカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]は、1.8~3.0dl/g、好ましくは2.1~2.5dl/gである。極限粘度[η]がこの範囲にあると、易剥離性に優れる。
【0038】
要件(a-9);
ブテン系重合体には、その製法次第では、製造時に電子供与体として使用されたフタル酸エステル類が残存していることもあるが、本発明に用いられるブテン系重合体(A)は、食品包材に求められる衛生性という観点から、好ましくはフタル酸エステル類を実質的に含まない。
【0039】
ブテン系重合体(A)の製造方法;
ブテン系重合体(A)の製造方法としては、国際公開第2002/002659号などに記載された方法が挙げられる。この特許文献の第32~33頁には、ブテン系共重合体の製造に用いる固体状チタン触媒(A‘)の製造方法の例として、
(1)ハロゲン含有マグネシウム化合物(α)と、ハロゲン含有マグネシウム化合物(α)を溶解し得る可溶化剤(β)とを溶媒(γ)中で接触させて溶液(I)を得、
該溶液(I)に複数の原子を介して存在する2個以上のエーテル結合を有する第1の化合物(δ)を加えて溶液(II)を得、
該溶液(II)に液体状態のチタン化合物(ε)を接触させて溶液(III)を得るか、さらに溶液(III)から固体を分離する方法
(2)ハロゲン含有マグネシウム化合物(α)と、ハロゲン含有マグネシウム化合物(α)を溶解し得る可溶化剤(β)とを溶媒(γ)中で接触させて溶液(I)を得、
該溶液(I)に複数の原子を介して存在する2個以上のエーテル結合を有する第1の化合物(δ)を加えて溶液(II)を得、
該溶液(II)に液体状態のチタン化合物(ε)を接触させて溶液(III)を得、
該溶液(III)に複数の原子を介して存在する2個以上のエーテル結合を有する第2の化合物(δ’)を加えて溶液(IV)を得るか、さらに溶液(IV)から固体を分離する方法
が記載されている。本発明においては分子量が10,000以下の成分の割合が高く、Mw/Mnが大きいブテン系重合体(A)を製造する観点から、好ましくは、(1)の方法(すなわち、溶液(III)に複数の原子を介して存在する2個以上のエーテル結合を有する第2の化合物(δ’)を加えて溶液(IV)を得るか、さらに溶液(IV)から固体を分離する工程を含まない方法)で製造された固体状チタン触媒(A‘)の存在下で1-ブテンが(共)重合され、ブテン系重合体(A)が製造される。
【0040】
また、2種以上のブテン系重合体(ただし、各ブテン系重合体は要件(a-1)~(a-3)のすべてを満たしていてもよく、満たしていなくてもよい。)を準備し、これらを混合して、混合物全体として要件(a-1)~(a-3)が満たされるようにブテン系重合体(A)を調製してもよい。
【0041】
《エチレン系重合体(B)》
前記エチレン系重合体(B)は、高圧法低密度ポリエチレン、エチレン・α-オレフィン共重合体およびエチレン・酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれる1種以上のエチレン系重合体である。
【0042】
高圧法低密度ポリエチレン、エチレン・α-オレフィン共重合体およびエチレン・酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(ASTM D1238、190℃、2.16kg荷重)は、いずれも、好ましくは0.2~30g/10分、より好ましくは0.5~2.5g/10分、さらに好ましくは0.8~2.0g/10分である。メルトフローレートがこの範囲内にあると、既存の成形機を用いて高い成形スピードで本発明の樹脂組成物をフィルム成形することができる。
前記エチレン系重合体(B)DSCで測定した融点は、好ましくは90~130℃、より好ましくは100~125℃である。
【0043】
高圧法低密度ポリエチレン;
前記高圧法低密度ポリエチレンの密度は、通常900~940kg/m3、好ましくは910~930kg/m3である。
前記高圧法低密度ポリエチレンとしては、市販品であれば、たとえばNUC8160(MFR=2.4g/10分、密度=922kg/m3、(株)NUC製)、F218-0(MFR=1.0g/10分、密度=919kg/m3、住友化学(株)製)が挙げられる。
【0044】
エチレン・α-オレフィン共重合体;
前記エチレン・α-オレフィン共重合体としては、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体が挙げられる。前記α-オレフィンは、炭素原子数が3~20、好ましくは3~10のα-オレフィンであり、その例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ウンデセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセンおよび4,4-ジメチル-1-ヘキセンが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、エチレン・α-オレフィン共重合体は、必要に応じてエチレンおよびα-オレフィン以外の少量のコモノマーがさらに重合されたものであっても良い。
【0045】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体のα-オレフィン含量は、好ましくは0.1~15モル%、より好ましくは、0.5~10モル%である。ただし、エチレン含量およびα-オレフィン含量の合計を100モル%とする。
【0046】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体の密度は、好ましくは900~940kg/m3、より好ましくは905~930kg/m3である。密度が上記範囲にあると、透明性、低温シール性に優れたフィルムを得ることができる。
【0047】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体としては、市販品であれば、たとえばエボリュー SP2320(MFR=1.9g/10分、密度=920kg/m3、(株)プライムポリマー製)、ネオゼックス 2512F(MFR=1.3g/10分、密度=924kg/m3、(株)プライムポリマー製)が挙げられる。
【0048】
エチレン・酢酸ビニル共重合体;
前記エチレン・酢酸ビニル共重合体の密度は、通常930~970kg/m3、好ましくは930~945kg/m3である。
前記エチレン・酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル由来の構成単位の量は、通常5~330質量%、好ましくは10~20質量%である。
【0049】
前記エチレン・酢酸ビニル共重合体としては、市販品であれば、たとえばエバフレックス(登録商標) EV460(密度=940kg/m3、EVA含量=19質量%)、P1403(密度=930kg/m3、EVA含量=14質量%)(三井・デュポンポリケミカル(株)製)が挙げられる。
【0050】
エチレン系重合体の好ましい態様;
前記エチレン系重合体(B)は、好ましくは前記高圧法低密度ポリエチレンおよび前記エチレン・α-オレフィン共重合体を含むか、あるいは前記エチレン・酢酸ビニル共重合体を含み、さらに好ましくは前記高圧法低密度ポリエチレンおよび前記エチレン・α-オレフィン共重合体のみを含むか、あるいは前記エチレン・酢酸ビニル共重合体のみを含む。
【0051】
(i)の場合、本発明の樹脂組成物中の高圧法低密度ポリエチレンの量は、好ましくは90~40質量%、より好ましくは80~50質量%であり、前記エチレン・α-オレフィン共重合体の量は、好ましくは10~60質量%、より好ましくは20~50質量%である(ただし、前記エチレン系重合体(B)の量を100質量%とする。)。
【0052】
前記エチレン系重合体(B)が前記高圧法低密度ポリエチレンおよび前記エチレン・α-オレフィン共重合体を含むと成形性と機械強度、あるいは成形性とホットタック強度のバランスに優れる。
また前記エチレン系重合体(B)が前記エチレン・酢酸ビニル共重合体を含むと、低温でのヒートシール性、ホットタック強度に優れる。
【0053】
《各種添加剤》
本発明に係る樹脂組成物には、シーラント層(「ヒートシール層」ともいう。)および後述する基材層には、任意の添加剤、たとえば酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、滑剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、充填剤等が、本発明の効果を阻害しない範囲において含まれていてもよい。
【0054】
《樹脂組成物》
本発明に係る樹脂組成物は、前記ブテン系重合体(A)を5~30質量%、好ましくは5~20質量%、より好ましくは6~14質量%含有し、かつ前記エチレン系重合体(B)を95~70質量%、好ましくは95~80質量%、より好ましくは94~86質量%(ただし、樹脂組成物の量を100質量%とする。)含有している。
【0055】
前記樹脂組成物は、前記ブテン系重合体(A)および前記エチレン系重合体(B)、ならびに任意に各種添加剤を従来公知の方法で混合することにより、調製することができる。
【0056】
本発明の樹脂組成物を用いると、ポリブテン樹脂の割合が少なくても従来技術と同等以上の易剥離性を発現するシーラントフィルムおよび積層フィルムを製造することができる。ポリブテン樹脂の割合が少なくなることで、製造コストの削減の他に、フィルムおよび積層フィルムの透明性の向上、スリップ性の向上等が可能となる。
【0057】
[フィルムおよび積層フィルム]
本発明に係るフィルムは、上述した本発明に係る樹脂組成物からなり、包装材用のシーラントフィルムとして好ましく用いられる。
【0058】
前記フィルムの厚さは、フィルムの用途に応じて適宜設定され、たとえばシーラントフィルムとして使用される場合は、好ましくは3~100μmである。
本発明に係るフィルムは、本発明に係る樹脂組成物を成形することによって製造することができる。フィルム成形法の例としては、キャスト成形法およびインフレーション成形法が挙げられる。フィルム成形時の溶融樹脂の温度は好ましくは160~260℃である。
【0059】
また本発明に係る積層フィルムは、上述した本発明に係るフィルムと他の層とが積層されてなり、その例としては、(i)シーラント層と基材層とが積層されてなり、前記シーラント層が本発明に係るフィルム(シーラントフィルム)からなる積層フィルム、および(ii)シーラント層と中間層と基材層とがこの順序で積層されてなり、前記シーラント層がエチレン系重合体からなり、前記中間層が本発明に係るフィルムからなる積層フィルムが挙げられる。
【0060】
前記積層フィルムの各層間の接着力が十分でない場合には、これら2つの層の間に接着層を有していてもよい。
前記積層フィルムは、好ましくは包装フィルムないし包装シートとして使用され、容器材料あるいは容器の蓋材料として使用されることもある。
【0061】
前記基材層の例としては、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィンのフィルム、スチレン系樹脂のフィルム、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート等のポリエステルのフィルム、ナイロン6またはナイロン6,6等のポリアミドのフィルム、ポリオレフィンフィルムとポリアミド樹脂またはエチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂等のガスバリヤー性のある樹脂フィルムとの積層フィルム、アルミニウム等の金属の箔、アルミニウムやシリカ等が蒸着された蒸着フィルム、あるいは紙等が挙げられる。前記基材層は、包装材の使用目的等に応じて適宜選択され、1種単独で使用してもよく、2種以上を積層して使用してもよい。
【0062】
積層フィルムの製造方法の例としては、
シーラント層用の原料樹脂類および基材層用の原料樹脂類ならびに任意に中間層用の原料樹脂類を、それぞれ別の押出機に供給し、それぞれ溶融後に合流させて積層し、Tダイからシート状に押し出す方法(共押出法);
シーラント層用の原料樹脂類を押出機に投入し、予め製造した基材層上、あるいは予め製造した基材層および中間層からなる積層体の中間層上に溶融押出しして積層する方法(溶融ラミネート法);および
シーラント層および基材層ならびに任意に中間層を、それぞれ対応する原料樹脂類から作製し、これらを過熱されたロール群などにより熱圧着する方法(熱ラミネート法)
などが挙げられる。これらのうち、製造に要する時間が短く、かつ層間の接着性が良好であるという点で共押出法が好ましい。
【0063】
本発明のフィルムまたは積層フィルムをヒートシールに供する際に、シール温度は、通常100~180℃であり、ポリブテン樹脂(ブテン系重合体(A))の割合が少なくても従来技術と同等以上の易剥離性を発現するという効果をより顕著に発揮させる観点からは好ましくは140~180℃である。またシール圧力は、通常0.1~0.5MPaである。
【0064】
このシーラントフィルム(シーラント層)同士を重ねてヒートシール操作を加えたり、あるいはこのシーラントフィルム(シーラント層)を他のフィルムに重ねてヒートシール操作を加えたりすると、シーラントフィルム(シーラント層)の持つ接着力によって互いに強固に接合すると共に、また適度な力で相互に引き離すことが可能になるので、本発明のフィルムおよび積層フィルムは、ヒートシール性と易剥離性とを兼ね備えたフィルムとして利用することができる。
【0065】
また本発明に係る積層フィルムが、シーラント層と中間層と基材層とがこの順序で積層されてなり、前記シーラント層がエチレン系重合体からなり、前記中間層が本発明に係るフィルムからなる積層フィルム(ii)である場合、シーラント層の原料の例としてはポリエチレンが挙げられ、このポリエチレンの例としては、高圧法低密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレンとエチレン・α-オレフィン共重合体との混合物が挙げられ、これら2種の樹脂の質量比は、たとえば高圧法低密度ポリエチレン:エチレン・α-オレフィン共重合体=1:0~70:30である。
【0066】
このエチレン・α-オレフィン共重合体の密度は、好ましくは870~920kg/m3、さらに好ましくは880~905kg/m3である。特に低密度のエチレン・α-オレフィン共重合体を配合することで、低温でのヒートシール性が改良され、高速シール適正(生産性)が向上する。また、このエチレン・α-オレフィン共重合体のメルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.5~7.0g/10分、さらに好ましくは1.0~4.0g/10分である。α-オレフィンの例としては、上述したエチレン系重合体(B)として使用されるエチレン・α-オレフィン共重合体に使用されるα-オレフィンの他、市販品であれば、タフマー A-1085S(MFR=1.2g/10分、密度=885kg/m3、三井化学(株)製)が挙げられる。
【0067】
本発明に係る積層フィルムを2枚用意してシーラント層面同士を向かい合わせ、または本発明に係る積層フィルムを折り曲げてシーラント層同士が向かい合うように配置し、あるいは本発明に係る積層フィルムのシーラント層と他のフィルムとを向かい合わせ、その後いずれか一方の外表面側から所望容器形状になるようにその周囲をヒートシールすることによって、密閉された、例えば袋状容器を製造することができる。この袋状容器の成形工程を内容物の充填工程と組み合わせると、すなわち、袋状容器の底部および側部をヒートシールした後内容物を充填し、次いで上部をヒートシールすれば自動的に包装体を完成させることができる。したがって、この積層体フィルムは、スナック菓子等の固形物、粉体、あるいは液体材料の自動包装装置に供給して利用することができる。
【0068】
また、本発明に係る積層フィルムを、または他のフィルムを予め真空成形や深絞り成形等の手段でカップ状容器形状に成形しておき、あるいは通常の射出成形容器を準備し、その容器中に内容物を充填し、その後積層体フィルムまたは他のフィルムを蓋材として被覆し、容器上部側からまたは側部の周囲に沿ってヒートシールすれば内容物の入った包装体が得られる。この場合、本発明に係るシーラントフィルムは、蓋材のシーラント層、容器本体のシーラント層、または両者のいずれにも使用することができる。この容器は、カップラーメン、味噌、ハム、ベーコン、ゼリー、プリン、スナック菓子等の包装に好適に利用することができる。
【0069】
容器の構造や製造方法は、前記した説明に限定されるものではなく、任意に変更することができる。また、本発明に係るフィルムまたは積層フィルムと組み合わせて使用できる他のフィルムないし容器としては、従来使用されているポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン等の樹脂から成形した包装材料をそのまま利用できる。たとえば、そのような材料から開口部に鍔を有する容器状成形体を成形し、その開口部の鍔部にシーラント層面を重ね合わせるようにして積層し、ヒートシールすることによって両面を接合して容器包装体を形成することができる。シーラントフィルムないしシーラント層と前記した包装材料とは十分な接着強度でヒートシール可能であるし、また易剥離性を有しているので容易に開封することができる。したがって、この容器は、密封性があり、かつイージーピール性のある包装容器として、特に食品包装の分野に好適に使用することができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[分子量分布(Mw/Mn)、分子量10,000以下成分の割合、分子量1,000以下成分の割合]
東ソー(株)製ゲル浸透クロマトグラフHLC-8321 GPC/HT型を用い、以下のようにして測定した。分離カラムは、TSKgel GMH6-HTが2本およびTSKgel GMH6-HTLが2本であり、カラムサイズはいずれも内径7.5mm、長さ300mmであり、カラム温度は140℃とし、移動相にはオルトジクロロベンゼン(和光純薬工業(株)製)および酸化防止剤としてBHT(和光純薬工業(株)製)0.025重量%を用い、流速を1.0mL/分とし、試料濃度を30mg/20mLとし、試料注入量を0.4mLとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準試料として、東ソー(株)製TSK標準ポリスチレン16点を用いた。分子量計算には、データ処理ソフトWaters社製Empower3を用い、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分布(Mw/Mn)、分子量10,000以下成分の割合、および、分子量1,000以下成分の割合を算出した。
【0071】
[ブテン・エチレン共重合体中のエチレン含量の測定]
ブルカー・バイオスピン(株)製AVANCEIII500(CryoProbe)型NMR測定装置を用いて、下記のように測定した。
【0072】
内径5mmのNMRチューブに試料60mgとオルトジクロロベンゼン0.5mlを装入し、加熱溶解させた。この溶液に重水素化ベンゼン0.1mlを加え、120℃で13C-NMR測定を行った。積算回数は、128回以上とした。得られた13C-NMRスペクトルにより、1-ブテンおよびエチレンの組成を定量化した。
【0073】
[アイソタクティックペンタッド分率(mmmm分率)]
オルトジクロロベンゼン溶液(ブテン側鎖メチレンシグナル:27.5ppmを基準)で13C-NMRスペクトルを測定し、以下の式を用いてmmmmピーク面積の割合(%)を求めた。
mmmm分率(%)=(S1/S2)×100
〔式中、S1(mmmmピーク面積)
=(27.39~27.80ppmのピーク面積)/0.995
S2(ブテン5連子の全ピーク面積)
=(26.24~27.80ppmのピーク面積)-CH(EBB)×2-CH(EBE)-(2×γγ+γδ)
である。〕
CH(EBB),CH(EBE),γγ+γδ等のピークの帰属については、J.C.Randall, JMS-Rev.Macromol.Chem.Phys., C29, 201(1989)を参照した。
【0074】
[融点(Tm-I)]
1-ブテン由来の構成単位を含む重合体を使用し、以下の条件で作成した1mm厚のプレスシートを10日間室温で保管したものを使用し、示差走査熱量計(DSC)により以下に記載の測定方法で融点(Tm-I)を測定した。
<プレス成形条件>
プレス機:関西ロール株式会社製(型番:PEWE-70/50 35)
加熱時間:5分
加熱温度:200℃
加熱時圧力:5MPa
冷却速度:40℃/分以上(30℃に設定した別のプレス機で5MPaで4分間加圧し室温まで冷却)
<DSC測定条件>
パーキンエルマー社製DSCPyris1またはDSC7を用い、窒素雰囲気下(20ml/分)、約5mgの試料を10℃/分で室温から200℃まで昇温させた時の結晶溶融ピークのうち、最も大きいピークを融点(Tm-I)とした。
【0075】
[密度]
1-ブテン由来の構成単位を含む重合体を使用し、以下の条件で作成した1mm厚のプレスシートを10日間室温で保管したものを使用し、ASTM D1505-68に準拠した測定方法で密度を測定した。
<プレス成形条件>
プレス機:関西ロール株式会社製(型番:PEWE-70/50 35)
加熱時間:5分
加熱温度:200℃
加熱時圧力:5MPa
冷却速度:40℃/分以上(30℃に設定した別のプレス機で5MPaで4分間加圧し室温まで冷却)
【0076】
[メルトフローレート(MFR)]
ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重下にて測定を行った。
【0077】
[極限粘度[η]]
1-ブテン由来の構成単位を含む重合体の極限粘度[η]は、デカリン溶媒を用いて、135℃で測定される値である。すなわち、1-ブテン由来の構成単位を含む重合体の造粒ペレット(約20mg)をデカリン溶媒(15mL)に溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒(5mL)を追加して希釈した後、前記と同様に比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、1-ブテン由来の構成単位を含む重合体の濃度(C)を0に外挿したときのηsp/Cの値を1-ブテン由来の構成単位を含む重合体の極限粘度[η]とした。
【0078】
[フタル酸エステル類の含有量]
1-ブテン由来の構成単位を含む重合体をソックスレー抽出(溶媒:アセトン/ヘキサン=50/50VOL%、6時間)し、抽出液を濃縮後、親水性PTFEフィルターでろ過したのち、GC/MSで測定を行いフタル酸ジ-iso-ブチル(DiBP)、フタル酸ジ-n-ブチル(DnBP)、フタル酸ベンジルブチル(BBP)、フタル酸ジ-(2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ジ-n-オクチル(DnOP)、フタル酸ジ-iso-ノニル(DiNP)、フタル酸ジ-iso-デシル(DiDP)の定量を行った。
【0079】
〔調製例1〕-固体チタン触媒成分(c-1)の調製-
無水塩化マグネシウム6.0kg(63モル)、デカン26.6Lおよび2-エチルヘキシルアルコール29.2L(189モル)を、140℃で3.5時間加熱反応させ、均一溶液とした。その後、溶液に2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン1.59kg(7.88モル)を添加し、110℃でさらに1.5時間攪拌混合した。得られた均一溶液を室温まで冷却した後、-24℃に保持された四塩化チタン120L(1080モル)に、7時間にわたって、前記の方法で得た溶液37.0kgを滴下した。その後、得られた溶液の温度を6時間かけて昇温し、110℃に到達した後、さらに、溶液を110℃で2時間攪拌し、反応させた。その後、反応混合物から熱濾過にて固体部を採取し、132Lの四塩化チタンに入れ、再スラリー化した後、再びスラリーを110℃で2時間、加熱し、反応させた。
【0080】
以上の操作により得られた反応混合物から熱濾過にて固体部を採取し、90℃のデカンおよびヘキサンを用いて洗浄した。洗浄液中にチタン化合物が検出されなくなった時点で洗浄を止め、固体チタン触媒成分(c-1)を得た。固体チタン触媒成分(c-1)のヘキサンスラリーの一部を採取して乾燥させ、乾燥物を分析した。固体チタン触媒成分(c-1)の質量組成は、チタン3.9%、マグネシウム17%および2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン15%であった。
【0081】
〔調製例2〕-ブテン系重合体(BER-1)の調製-
内容積200Lの連続式重合器に、ヘキサンを毎時114L、1-ブテンを毎時21.4kg、エチレンを毎時0.032kg、水素を毎時23.2NL、前記固体チタン触媒成分(c-1)をチタン原子に換算して毎時0.97ミリモル、トリエチルアルミニウムを毎時48.5ミリモルおよびシクロヘキシルメチルジメトキシシランを毎時2.4ミリモル供給しながら、1-ブテンとエチレンの共重合を行い、毎時4.2kgの重合体BER-1を得た。重合温度は60℃、平均滞留時間は40分、全圧は5×10
-1MPa・Gであった。重合体BER-1の物性(MFR、密度、極限粘度[η]、融点Tm-I、エチレン含有量、アイソタクティックペンタッド分率、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分布Mw/Mn、分子量10,000以下の成分の割合、分子量1,000以下の成分の割合、フタル酸エステル類の含有量)を表1に示す。またGPC測定結果を
図1に示す。
【0082】
〔調製例3〕-ブテン系重合体(PB-1)の調製-
内容積200Lの連続式重合器に、ヘキサンを毎時114L、1-ブテンを毎時21.4kg、水素を毎時10.0NL、前記固体チタン触媒成分(c-1)をチタン原子に換算して毎時0.97ミリモル、トリエチルアルミニウムを毎時48.5ミリモルおよびシクロヘキシルメチルジメトキシシランを毎時2.4ミリモル供給しながら、1-ブテンの重合を行い、毎時4.2kgの重合体PB-1を得た。重合温度は60℃、平均滞留時間は40分、全圧は5×10
-1MPa・Gであった。重合体PB-1の物性(MFR、密度、極限粘度[η]、融点Tm-I、エチレン含有量、アイソタクティックペンタッド分率、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分布Mw/Mn、分子量10,000以下の割合、分子量1,000以下の割合、フタル酸エステル類の含有量)を表1に示す。またGPC測定結果を
図1に示す。
【0083】
〔調製例4〕-ブテン系重合体ブレンド(BER-2)の調製-
内容積200Lの連続式重合器に、ヘキサンを毎時114L、1-ブテンを毎時21.4kg、エチレンを毎時0.032kg、水素を毎時97.2NL、前記固体チタン触媒成分(c-1)をチタン原子に換算して毎時0.97ミリモル、トリエチルアルミニウムを毎時48.5ミリモルおよびシクロヘキシルメチルジメトキシシランを毎時2.4ミリモル供給しながら、1-ブテンとエチレンの共重合を行い、毎時4.2kgの重合体BER-2aを得た。重合温度は60℃、平均滞留時間は40分、全圧は5×10-1MPa・Gであった。重合体BER-2aのMFRは41g/10分、融点Tm-Iは115℃であった。
【0084】
調製例3で得られた重合体PB-1と、ここで得られた重合体BER-2aとをPB-1/BER-2a=85/15の重量比で一軸押出機に供給して200℃で溶融混練し、得られたブテン系重合体BER-2をペレット化した。重合体BER-2の物性(MFR、密度、極限粘度[η]、融点Tm-I、エチレン含有量、アイソタクティックペンタッド分率、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分布Mw/Mn、分子量10,000以下の割合、分子量1,000以下の割合、フタル酸エステル類の含有量)を表1に示す。またGPC測定結果を
図1に示す。
【0085】
〔調製例5〕-ブテン系重合体ブレンド(BER-3)の調製-
内容積200Lの連続式重合器に、ヘキサンを毎時114L、1-ブテンを毎時21.4kg、エチレンを毎時0.046kg、水素を毎時25.1NL、前記固体チタン触媒成分(c-1)をチタン原子に換算して毎時0.97ミリモル、トリエチルアルミニウムを毎時48.5ミリモルおよびシクロヘキシルメチルジメトキシシランを毎時2.4ミリモル供給しながら、1-ブテンとエチレンの共重合を行い、毎時4.2kgの重合体BER-3aを得た。重合温度は60℃、平均滞留時間は40分、全圧は5×10-1MPa・Gであった。得られた重合体BER-3aのMFRは1.2g/10分、融点Tm-Iは113℃であった。
【0086】
ここで得られた重合体BER-3aと、調製例3で得られた重合体PB-1とをBER-3a/PB-1=70/30の重量比で一軸押出機に供給して200℃で溶融混練し、得られたブテン系重合体BER-3をペレット化した。重合体BER-3の物性(MFR、密度、極限粘度[η]、融点Tm-I、エチレン含有量、アイソタクティックペンタッド分率、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分布Mw/Mn、分子量10,000以下の割合、分子量1,000以下の割合、フタル酸エステル類の含有量)を表1に示す。またGPC測定結果を
図1に示す。
【0087】
〔調製例6〕
特開昭59-206416号公報に記載の製造方法により、ブテン・エチレン共重合体を重合した。物性(MFR、密度、極限粘度[η]、融点Tm-I、エチレン含有量、アイソタクティックペンタッド分率、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分布Mw/Mn、分子量10,000以下の割合、分子量1,000以下の割合、フタル酸エステル類の含有量)を表1に示す。またGPC測定結果を
図1に示す。
【0088】
【0089】
実施例等では、調製例2~6で得られた重合体以外の原材料成分として、次に示す市販品をそのまま使用した。
・mLLDPE-1:
Evolue SP2320((株)プライムポリマー製)、MFR(190℃、2.16kg荷重)=1.9g/10分、密度920kg/m3)
・mLLDPE-2:
Evolue SP1520((株)プライムポリマー製)、MFR(190℃、2.16kg荷重)=2.0g/10分、密度913kg/m3)
・LDPE-1:
NUC8160((株)NUC製)、MFR(190℃、2.16kg荷重)=2.4g/10分、密度922kg/m3)
・EVA-1:
EV460(三井デュポンポリケミカル(株)製)、MFR(190℃、2.16kg荷重)=2.5g/10分、酢酸ビニル含量19重量%)
・AB剤-1(アンチブロッキング剤):
EAZ-20((株)プライムポリマー製、合成ゼオライト20質量%および低密度ポリエチレンを80質量%配合した組成物)
・EBR-1:
A-1085S(三井化学(株))MFR(190℃、2.16kg荷重)=1.2g/10分、密度885kg/m3
【0090】
〔実施例1〕
(積層フィルムの製造)
以下に示すヒートシール層用の樹脂組成物、および基材層用の樹脂組成物をそれぞれの押出機に供給し、インフレーション成形ダイ(ダイス径200mmφ、リップギャップ3.5mm)を使用し、樹脂温度が190℃に、ヒートシール層および基材層の厚さがそれぞれ20μmおよび50μmになるように各押出機の押出し量を設定し、共押出成形により厚さ70μmの積層フィルムを得た。成形速度は20m/分であった。
・ヒートシール層用の樹脂組成物;
mLLDPE-1、LDPE-1、BER-1およびAB剤-1を、それぞれ42/50/8/1の重量比でブレンドして得られる樹脂組成物。
・基材層用の樹脂組成物;
mLLDPE-1およびLDPE-1を、それぞれ50/50の重量比でブレンドして得られる樹脂組成物。
【0091】
(被着フィルムの製造)
以下に示す被着フィルムのヒートシール層用樹脂と基材層用の樹脂組成物をそれぞれの押出機に供給し、インフレーション成形ダイ(ダイス径10mmφ、リップギャップ2.5mm)を使用し、樹脂温度が190℃に、ヒートシール層および基材層の厚さが、それぞれ20μmおよび80μmになるように各押出機の押出し量を設定し、共押出成形により厚さ100μmの被着フィルムを得た。成形速度は8m/分であった。
・ヒートシール層用の樹脂;
mLLDPE-2
・基材層用の樹脂組成物;
mLLDPE-1およびLDPE-1を、それぞれ50/50の重量比でブレンドして得られる樹脂組成物
【0092】
(ヒートシール強度の測定)
次に、実施例1で成形した積層フィルムのヒートシール層と上述の被着フィルムのヒートシール層とをMD方向が揃うようにして重ね、重ねたフィルムの両面を厚さ50μmのテフロン(登録商標)シートで挟んだ試験体を作製した。次いで、ヒートシールテスター(テスター産業(株)製 TB-701B型)のヒートシールバーを幅5mm×長さ300mmに設置し、下シールバーを70℃に設定した。上ヒートシールバーを所定の温度に設定し、該試験体(テフロンシート/積層フィルム/被着フィルム/テフロンシート)をシールバーで挟み、0.2MPaの圧力で1.0秒間ヒートシールを行った。テフロンシートを外し、ヒートシールされたフィルム部分を約23℃で1日間放置した。フィルムのヒートシール部分を含むように15mm幅のスリットを入れ、シールされていない部分を引張試験機(「INTESCO社製 IM-20ST」)にチャックした。300mm/分の速度でフィルムの剥離強度を測定した。上記操作を5回行い、その平均値をヒートシール強度とした。剥離強度としては最大剥離強度を採用した。表2に各物性値を示す。
【0093】
〔実施例2~実施例7、比較例1〕
ヒートシール層用の樹脂組成物として、表2に記載の樹脂組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを製造し、実施例1と同様の評価方法でヒートシール強度を測定した。表2に結果を示す。
【0094】
〔比較例1~比較例9〕
ヒートシール層用の樹脂組成物として、表2に記載の樹脂組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして延伸積層フィルムを製造し、実施例1と同様の評価方法でヒートシール強度およびホットタック強度を測定した。表3に結果を示す。
【0095】
〔実施例8〕
(積層フィルムの製造)
以下に示すヒートシール層用の樹脂組成物と基材層用の樹脂組成物をそれぞれの押出機に供給し、インフレーション成形ダイ(ダイス径200mmφ、リップギャップ3.5mm)を使用し、樹脂温度が190℃に、ヒートシール層および基材層の厚さがそれぞれ20μmおよび50μmになるように各押出機の押出し量を設定し、共押出成形により厚さ70μmの積層フィルムを得た。成形速度は20m/分であった。
・ヒートシール層用の樹脂組成物;
EVA、BER-1およびAB剤-1を、それぞれ90/10/2の重量比でブレンドして得られる樹脂組成物。
・基材層用の樹脂組成物;
mLLDPE-1およびLDPE-1を、それぞれ50/50の重量比でブレンドして得られる樹脂組成物。
【0096】
(ヒートシール強度の測定)
次に、実施例8で成形した積層フィルムのヒートシール層同士をMD方向が揃うように重ね、重ねたフィルムの両面を厚さ50μmのテフロンシートで挟んだ試験体を作製した。次いで、ヒートシールテスター(テスター産業(株)製 TB-701B型)のヒートシールバーを幅5mm×長さ300mmに設置し、下シールバーを70℃に設定した。上ヒートシールバーを所定の温度に設定し、該試験体(テフロンシート/積層フィルム/積層フィルム/テフロンシート)をシールバーで挟み、0.2MPaの圧力で1.0秒間ヒートシールを行った。テフロンシートを外し、ヒートシールされたフィルム部分を約23℃の室温下で1日間放置した。フィルムのヒートシール部分を含むように15mm幅のスリットを入れ、シールされていない部分を引張試験機(「INTESCO社製 IM-20ST」)にチャックした。300mm/分の速度でフィルムの剥離強度を測定した。上記操作を5回行い、その平均値をヒートシール強度とした。剥離強度としては最大剥離強度を採用した。表3に各物性値を示す。
【0097】
〔実施例9~11、比較例2~3〕
ヒートシール層用の樹脂組成物として、表3に記載の樹脂組成物を用いた以外は、実施例8と同様にして積層フィルムを製造し、実施例8と同様な評価方法でヒートシール強度を測定した。表3に結果を示す。
【0098】
〔実施例12〕
(積層フィルムの製造)
以下に示すヒートシール層用の樹脂(組成物)、中間層用の樹脂組成物、基材層用の樹脂組成物をそれぞれの押出機に供給し、インフレーション成形ダイ(ダイス径10mmφ、リップギャップ2.5mm)を使用し、樹脂温度が190℃に、ヒートシール層、中間層、および基材層の厚さがこの順に10μm/20μm/30μmになるように各押出機の押出し量を設定し、共押出成形により厚み60μmの多層フィルムを得た。成形速度は15m/分であった。
・ヒートシール層用の樹脂;
LDPE-1
・中間層用の樹脂組成物;
mLLDPE-1、LDPE-1およびBER-1を、それぞれ42/50/8の重量比でブレンドして得られる樹脂組成物
・基材層用の樹脂組成物;
mLLDPE-1およびLDPE-1を、それぞれ50/50の重量比でブレンドして得られる樹脂組成物
【0099】
(ヒートシール強度の測定)
次に、実施例12で成形したフィルムを使用し、実施例8と同様の方法によりヒートシール強度の測定を行った。剥離強度としては最大剥離強度を採用した。表4に各物性値を示す。
【0100】
〔実施例13~実施例16、比較例4〕
中間層、ヒートシール層用の樹脂組成物として、表4に記載の樹脂組成物を用いた以外は、実施例12と同様にして積層フィルムを製造し、実施例12と同様な評価方法でヒートシール強度を測定した。表4に結果を示す。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
表2に示されるように、実施例1~4の積層フィルムは、ヒートシール層に同量のブテン系重合体を含む比較例1の積層フィルムよりも低いヒートシール強度を示した。また、実施例5~7の積層フィルムは、比較例1の積層フィルムよりもヒートシール層中のブテン系重合体の量が少ないにもかかわらず、比較例1の積層フィルムと同程度のヒートシール強度を示した。
【0105】
表3に示されるように、比較例2の積層フィルムでは、ヒートシール温度によるヒートシール強度の変化が大きかったのに対して、実施例8~11の積層フィルムは、ヒートシール層に同量のブテン系重合体を含む比較例2の積層フィルムと比べて、広いヒートシート温度範囲に渡って安定して低いヒートシール強度を示した。
【0106】
表4に示されるように、実施例12、13、15および16の積層フィルムは、ヒートシート温度が高い場合であっても、中間層に同量のブテン系重合体を含む比較例4の積層フィルムと比べて低いヒートシール強度を示した。実施例14ではヒートシール層として高圧法低密度ポリエチレンにエチレン・α-オレフィン共重合体を配合することで実施例13と比較して低温でのヒートシール性が改良された。