(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】信号伝送路、信号伝送路の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/18 20060101AFI20220323BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20220323BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
H01B7/18 D
B60R16/02 620J
H01B7/00 301
H01B7/00 306
(21)【出願番号】P 2018021932
(22)【出願日】2018-02-09
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】池邊 佑太
(72)【発明者】
【氏名】神保 宜孝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋也
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-311082(JP,A)
【文献】実開昭62-082520(JP,U)
【文献】特開平08-077836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/18
B60R 16/02
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号を伝送する複数の伝送電線と、
前記伝送電線の長さ方向の少なくとも一部区間におい
て前記伝送電線に周囲を囲まれて前記伝送電線に沿った状態に配置されるとともに、グランド接続された
複数の編組線と、
を有
し、
複数の前記伝送電線は、前記伝送電線の長さ方向において分岐する複数の伝送電線の群にそれぞれ区分され、
複数の前記伝送電線の群のそれぞれに異なる前記編組線が沿った状態で配置されている
信号伝送路。
【請求項2】
複数の前記伝送電線の群のそれぞれに配置された前記編組線は、
前記伝送電線の群の略中央に配置されている
請求項1に記載の信号伝送路。
【請求項3】
前記長さ方向において複数の前記伝送電線がまとめられている区間を非分岐区間とし、前記長さ方向において複数の前記伝送電線が複数の前記伝送電線の群に分岐している区間を分岐区間とした場合に、
前記非分岐区間内において複数の
前記編組線が前記伝送電線に沿った状態に配置されている
請求項1に記載の信号伝送路。
【請求項4】
前記編組線は平編み線である
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の信号伝送路。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れかに記載の信号伝送路の製造方法であって、
一端が共通のコネクタに接続された複数の
前記伝送電線に対して、その長さ方向の少なくとも一部区間に
複数の前記編組線を沿わせ、
複数の前記伝送電線が前記編組線を囲う状態を維持するように複数の前記伝送電線と前記編組線を束ねるとともに、前記編組線の一部をドレイン線として束ねた状態から取り出された状態とする
信号伝送路の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は信号伝送路、信号伝送路の製造方法に関し、特にノイズシールド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
伝送電線間の容量結合によるノイズ対策として、シールド電線を用いシールドコネクタからグランディングする構造が知られている。
また下記特許文献にはシールド電線を用いた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-076536号公報
【文献】特許第5144319号公報
【文献】特開2017-4861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図8Aは複数のシールド電線110を有するワイヤーハーネス100(以下、ワイヤーハーネスを単に「ハーネス」ともいう)を模式的に示している。また
図8Bは
図8AにおけるA-A’断面の模式図である。
例えば制御信号、データ信号、電源ラインなどの各種信号伝送を行う複数(図の例では10本)の伝送電線がそれぞれシールド電線110として形成されている。
10本の各シールド電線110の一端はコネクタ101に接続されている。そのうち8本のシールド電線110の他端側はコネクタ102に接続され、2本のシールド電線110の他端側はコネクタ103に接続されている。
この場合、コネクタ101はシールド電線対応のコネクタとされており、各シールド電線110のシールド層はコネクタ101内で電気的に接続され、コネクタ101から一括してグランディングされることで、ノイズシールド機能が得られるようにしている。
特にはシールド電線110を用いることで、各伝送電線からの高周波ノイズ輻射が有効に遮断される。
【0005】
ところがこの構成は、コネクタ101としてシールド電線対応のコネクタを用いることが必要となる。シールド電線には非対応のコネクタを用いる場合、
図8Cのような構成を採ることが考えられる。
図8Cは複数の信号線111を有するハーネス130を模式的に示している。また
図8Dは
図8CにおけるB-B’断面の模式図である。
信号線111は、シールド構造を持たない伝送電線である。例えばビニール皮膜された電線である。
10本の信号線111の一端はシールド電線には非対応のコネクタ105に接続されている。そのうち8本の信号線111の他端側はコネクタ102に接続され、2本の信号線111の他端側はコネクタ103に接続されている。
この場合のノイズシールドとしては、破線で示すように編組120が各信号線111の束の周囲を巻装するようにし、その編組120をグランドに接続する。
【0006】
ところがこの構造の場合、製造の手間がかかり、事実上採用できないこともある。例えば車両内の電気系統の配線などでは、ハーネス130(或いは個別の信号線111)の機器のコネクタに接続しながら車体内で配線を行う。この場合に、例えば回路ユニットボックス外などでシールド構造が存在しない空間や、車体におけるグランド部分(シャーシ等)に沿わない部分などに位置する配線部分のみをシールドしたい場合などがある。
そのような場合に部分的に
図8Cの構造を採用し、チューブ状の編組120に複数の信号線111の束を通すのは、作業の手間を著しく大きくし、車両の生産性、量産性を極度に悪化させてしまう。
さらには車両内の配線では図示したようなコネクタ102側とコネクタ103側で分けられるような途中分岐を設ける場合も多い。そのような途中分岐を有するハーネス130の場合、信号線111の所定の区間を編組120にくぐらせるようなことは非常に困難である。
【0007】
そこで本発明では、シールド電線を使用しない場合において、生産性を悪化させないで、伝送電線間の容量結合を低減するシールド構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る信号伝送路は、電気信号を伝送する複数の伝送電線と、前記伝送電線の長さ方向の少なくとも一部区間において前記伝送電線に周囲を囲まれて前記伝送電線に沿った状態に配置されるとともに、グランド接続された複数の編組線と、を有し、複数の前記伝送電線は、前記伝送電線の長さ方向において分岐する複数の伝送電線の群にそれぞれ区分され、複数の前記伝送電線の群のそれぞれに異なる前記編組線が沿った状態で配置されている。
【0009】
上記した信号伝送路においては、複数の前記伝送電線の群のそれぞれに配置された前記編組線は、前記伝送電線の群の略中央に配置されていることが考えられる。
即ち各伝送電線に周囲を囲まれた状態で略中央に配置されるようにする。
【0010】
上記した信号伝送路においては、前記長さ方向において複数の前記伝送電線がまとめられている区間を非分岐区間とし、前記長さ方向において複数の前記伝送電線が複数の前記伝送電線の群に分岐している区間を分岐区間とした場合に、前記非分岐区間内において複数の前記編組線が前記伝送電線に沿った状態に配置されていることが考えられる。
【0011】
上記した信号伝送路においては、前記編組線は平編み線であることが考えられる。
例えば平編みの編組線の周囲に伝送電線を並べて配置したり、或いは平編みの編組線を丸めてその周囲に伝送線路を配置してもよい。
【0012】
本発明に係る信号伝送路の製造方法は、一端が共通のコネクタに接続された複数の伝送電線に対して、その長さ方向の少なくとも一部区間に編組線を沿わせ、複数の前記伝送電線が前記編組線を囲う状態を維持するように複数の前記伝送電線と前記編組線を束ねるとともに、前記編組線の一部をドレイン線として、束ねた状態から取り出された状態とするものである。
この手順により、複数の伝送電線間の容量結合による高周波ノイズ対策として編組線を設けた信号伝送路を非常に容易に構成できるようにする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シールド電線を用いない信号伝送路において、編組線を用いたノイズシールド構造を容易に実現できる。これにより車両内などにおける信号線接続と必要箇所でのシールド構造の付与を、量産性を損なわずに実現できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態のハーネス構造の説明図である。
【
図2】実施の形態の各種ハーネス構造の説明図である。
【
図3】実施の形態の各種ハーネス構造の説明図である。
【
図4】実施の形態のノイズシールド効果の説明図である。
【
図5】実施の形態のハーネスのグランディングの説明図である。
【
図6】実施の形態のハーネスによる接続状態の説明図である。
【
図7】実施の形態のハーネスの製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施の形態の信号伝送路の構造>
以下、本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態では本発明の信号伝送路として、自動車等の車両内の電気系統で用いられるハーネス(ワイヤーハーネス)1を挙げる。
まず実施の形態のハーネス1としての各種の構造例を説明する。
【0016】
図1Aは実施の形態のハーネス1の第1構造例を模式的に示している。また
図1Bは
図1AにおけるC-C’断面の模式図である。
ハーネス1は、例えば制御信号、データ信号、電源ラインなどの各種信号伝送を行う複数(図の例では10本)の信号線5が、それぞれの少なくとも一端がコネクタ2に接続されて束となっている。
このようにハーネス1は複数の電装電線として信号線5を有するが、各信号線5はシールド電線ではない。例えば各信号線5はビニール皮膜電線である。
図1Bに示すように、各信号線5は、伝送路となる単線又はより線による金属芯線5aの周囲がビニール皮膜5bによって絶縁皮膜されている構造となる。
信号線5はシールド電線ではないので、当然、コネクタ2はシールド電線対応コネクタである必要はない。
【0017】
また複数の信号線5は、例えばビニール皮膜5b同士が一体化されていることで互いに固定されているものでもよいし、或いは、各信号線5はそれぞれ独立したビニール皮膜電線であってもよい。
【0018】
一端がコネクタ2でまとめられた10本の信号線5のうち、8本の信号線5は、他端がコネクタ3に接続される。また2本の信号線5の他端はコネクタ4に接続される。即ちハーネス1は、コネクタ2側でまとめられた10本の信号線5が、コネクタ3側とコネクタ4側に分岐された構造のものとなる。
もちろん信号線5の本数や、分岐により分けられる信号線5の本数は説明上の一例にすぎない。
【0019】
そしてこのハーネス1は、編組線10が、信号線5の長さ方向の一部区間において信号線5に沿う状態に配置されている。この例では、コネクタ2の近傍から分岐点DP(コネクタ3とコネクタ4に分けられる部分)の近傍までの区間において編組線10が配置された例を示している。
なお、以下、コネクタ2の近傍から分岐点DPまでの区間、即ち全信号線5がまとめられている区間を「非分岐区間」と呼ぶ。また分岐点DPからコネクタ3までの区間、及び分岐点DPからコネクタ4までの区間を「分岐区間」と呼ぶ。
【0020】
この編組線10は、
図1Bのように、その周囲を10本の信号線5が囲む状態で配置される。つまり複数の信号線5の略中央に編組線10が配置される。このため各信号線5からは、ほぼ等しい距離で編組線10が配置されていることになる。
そして
図1Aのように、編組線10の端部からはドレイン線11が引き出されてグランディングされる。これによりノイズシールド機能が得られるようにしている。特には編組線10を沿わせることで、各信号線5から輻射される高周波ノイズが有効に吸収される。
ドレイン線11は、後述する
図7Eのように編組線10を構成する細線がまとめられて形成されてもよいし、図示していないが他の電線が編組線10の端部に接続されて形成されたものでもよい。
【0021】
この
図1Aの第1構造例は、信号線5の一部区間に編組線10が配置されるが、これはコネクタ2側から分岐点までの非分岐区間においてノイズ対策が必要な場合に好適な構造例となる。
どの区間に編組線10を配置するかは、実際の車両内等での配線時に位置する空間に応じて決められればよい。
例えば信号線5は、車体のシャーシなどのグランド部分に沿って配設されている区間は、そもそも車両グランドの存在によりノイズ吸収効果が得られる。
一方で、或る程度、車両グランドから離れた場所、空間に位置する区間は、そのようなノイズ吸収効果が得られないので、信号線5間の容量結合によるノイズ対策が必要となる。そこで、そのような区間において編組線10を沿わせるようにすることが想定される。
例えば
図1Aの場合、非分岐区間が、車両グランドとは離れている部分に配置される区間となることで編組線10を配置してノイズ対策をとることが想定される。
そして編組線10を信号線5に併走させることは、信号線5を車体グランドに沿わせる距離を長くすることと同じ効果が得られ、ノイズ対策として有効である。
【0022】
次に、
図1Cは実施の形態のハーネス1の第2構造例を示している。
この例が上記の
図1Aの第1構造例と異なるのは、編組線10がコネクタ2からコネクタ3までの信号線5のほぼ全長にわたって、沿わされている点である。
図示しないが、この場合も編組線10は複数の信号線5の略中央に配置される状態で各信号線5に沿っている。
この第2構造例は、コネクタ2側からコネクタ3側までのほぼ全区間においてノイズ対策が必要な場合に好適な構造例となる。なお、編組線10の延伸長は長いほど対ノイズ効果は高くなるため、その点では編組線10の長さは信号線5の全長に近いほどよい。
【0023】
図2Aは実施の形態のハーネス1の第3構造例を示している。
この例は、編組線10として、2つの編組線10A、10Bを用いている。そして編組線10Aはコネクタ2からコネクタ3までの信号線5のほぼ全長にわたって沿わされている。さらに編組線10Bはコネクタ2からコネクタ4までの信号線5のほぼ全長にわたって沿わされている。
【0024】
図2AにおけるD-D’断面、E-E’断面、F-F’断面の各模式図を、それぞれ
図2B、
図2C、
図2Dに示す。
非分岐区間では、
図2Bのように、中央に2つの編組線10A、10Bが配置され、その周囲を10本の信号線5が囲むようにされている。
コネクタ4側の分岐区間では
図2Cのように編組線10Bの周囲に2本の信号線5が位置する。
コネクタ3側の分岐区間では
図2Dのように中央に編組線10Aが配置され、その周囲に8本の信号線5が囲むようにされている。
【0025】
2つの編組線10A、10Bは、例えばコネクタ2側で共通のドレイン線11にまとめられ、グランディングされる。もちろん、別個のドレイン線11が形成されてもよい。
【0026】
この第3構造例は、コネクタ2側からコネクタ3側までのほぼ全区間、さらにはコネクタ2側からコネクタ4側までのほぼ全区間においてノイズ対策が必要な場合に好適な構造例となる。
なお非分岐区間では2つの編組線10A、10Bが存在するが、このため
図2Aのように10本の信号線5がより編組線10に接近した状態となりやすい。このため非分岐区間の対ノイズ効果は高くなる。また各分岐区間でも、信号線5の本数が減ることで、各信号線5は編組線10(10A又は10B)に接近でき、対ノイズ効果の点で有利となる。
【0027】
次に
図3Aは実施の形態のハーネス1の第4構造例を示している。
この例は、編組線10が、分岐点DPからコネクタ3側の分岐区間に設けられている。この部分の断面の様子は上記
図2Dと同様となる。
編組線10における分岐点DP側の端部は、まとめられてドレイン線11が形成され、グランディングされる。
この第4構造例は、分岐点DPからコネクタ3までの分岐区間においてノイズ対策が必要な場合に好適な構造例となる。
【0028】
図3Bは実施の形態のハーネス1の第5構造例を示している。
この例は、編組線10Cが、分岐点DPからコネクタ3側の分岐区間に設けられている。この部分の断面の様子は上記
図2Dと同様となる。編組線10Cにおけるコネクタ3側の端部は、まとめられてドレイン線11Cが形成され、グランディングされる。
また編組線10Dが、非分岐区間内の一部区間に設けられている。この部分の断面の様子は上記
図1Bと同様となる。編組線10Dにおけるコネクタ2側の端部は、まとめられてドレイン線11Dが形成され、グランディングされる。
この第5構造例は、信号線5の全長の区間で、複数の区間においてノイズ対策が必要な場合に対応する構造例となる。
【0029】
図3Cは実施の形態のハーネス1の第6構造例を示している。
この例は、ハーネス1に分岐が設けられておらず、例えば10本の信号線5がコネクタ2,3間に接続される構成の場合である。
そして編組線10C、10Dが、それぞれ一部区間に設けられている。各編組線10C、10Dは、それぞれ端部のドレイン線11C、11Dからグランディングされる。
この第6構造例は、分岐のないハーネス1において、複数の区間においてノイズ対策が必要な場合に対応する構造例となる。
【0030】
ここまで各種構造例を説明してきたが、以上の例のように複数の信号線5に周囲を囲まれた状態で各信号線5に沿った編組線10を設けることで、良好なノイズシールド効果が得られる。特には信号線5から輻射される高周波ノイズ対策として有効である。
図4にノイズシールド効果を示す。横軸は周波数(MHz)、縦軸は近電界ノイズレベル(dBμV)である。細線は編組線10を設けていない場合、太線は編組線10を設けた場合の測定値である。
例えば50~60MHzあたりでは5dB程度のノイズ低減効果が得られ、また150MHz近辺の帯域では最大19dBのノイズ低減効果が得られている。
この結果は、例えば先に述べた
図8A、
図8Cのような構造と比較しても十分なノイズシールド効果といえる。
なお
図4に示した測定は、後述する
図6のようなバッテリーボックス80内における充電回路のコネクタ近傍におけるハーネス1からの放射ノイズを、電磁界プローブとスペクトラムアナライザを用いて行った。電磁界プローブはETS-LINDGREN Model7405 904Bを用い、スペクトラムアナライザはKEYSIGHT TECHNOLOGIES N9010Aを用いた。
【0031】
<実施の形態のグランディング手法>
ところで実施の形態のように編組線10を沿わせる場合、グランディング位置の自由度という利点も得られる。
図5Aは、コネクタ2,3間の信号線5のほぼ全長に編組線10を沿わせる場合、
図5Bは、分岐点DPからコネクタ3の分岐区間に編組線10を沿わせる場合をそれぞれ示している。
例えばハーネス1を、例えば電気自動車やハイブリッド自動車の車両内で
図6のようにバッテリーボックス80に併設される制御ユニット81の電装電線接続に用いる場合を想定する。
制御ユニット81には装置筐体82,83があり、これらに分岐区間のコネクタ3、4が接続されるとする。装置筐体82,83とは、例えばバッテリー制御回路、充電回路、或いはファン駆動回路などとしての電気系統を構成するものである。
図6の例では、ハーネス1における複数の信号線5及び編組線10はテープ20によりまとめられているものとしている。
【0032】
ここで制御ユニット81のケース90は車両のグランドとされているとする。またケース90には開口部91が形成され、開口部91により、ハーネス1が制御ユニット81から導出されるとする。この例ではハーネスの分岐区間が制御ユニット81のケース90内で、非分岐区間はケース90外とされて、電気系統の他の部位に接続されているものとしている。
ここで、編組線10のグランドとして例えばケース90を用いるとする。
例えば
図6のように開口部91の近傍でドレイン線11を導出し、ドレイン線11の先端に接続された金属端子31(例えば圧着端子)を用いてケース90の壁面にネジ止めすることでグランディングするとする。
【0033】
この場合において、編組線10を信号線5のほぼ全長にわたって沿わせる場合は、
図5Aのように、編組線10を折り返すことが考えられる。編組線10の折り返し部分10Wを設けることで、ハーネス1の長さ方向の任意の箇所に編組線10の端部を持ってくることができる。従ってその端部をまとめてドレイン線11を形成し、グランディングすることができる。つまり、グランディングに適した箇所からドレイン線11を導出でき、容易かつ適切にグランディングできる。
【0034】
また分岐点DPからコネクタ3までの分岐区間において編組線10を沿わせる場合は、
図5Bのように、ケース90の壁面に近い編組線10の端部からドレイン線11を導出するようにすればよい。これにより
図5Aの場合と同様、容易かつ適切にグランディングできる。
【0035】
即ち本実施の形態では、編組線10を信号線5に沿わせる構造であることで、配線先の空間の都合に合わせて、適切な箇所でシールド機能を発揮させ、都合のよい箇所でグランディングできるという利点がある。
【0036】
<信号伝送路(ハーネス)の製造方法>
図7により、本実施の形態のハーネス1の製造方法を説明する。
図7Aは、一端がコネクタ3に接続された多数の信号線5を模式的に示している。信号線5の他端側は図示していないが、他端側の1つのコネクタ、又は分岐して複数のコネクタに接続されたり、或いはコネクタ未接続の状態である場合もある。
図7Bは、編組線10を示している。編組線10は例えば平編み線とする。
【0037】
図7Aの各信号線5における必要な区間に、平編み線である編組線10を沿わせる。この状態の断面図を
図7Cに示している。
例えばこのように沿わせた状態で、編組線10が中央となるように信号線5をまとめる。例えば
図7Dのように複数の信号線5を、編組線10を中心に丸めていくようにする。
【0038】
そしてまとめた状態で固定する。例えば
図7Eに示すように、結束バンド21を用いてまとめたり、或いは
図7Fのようにテープ20を巻装してまとめる。なお
図7E、
図7Fでは編組線10が図示されるように信号線5を一部切断して示している。
編組線10の端部からはドレイン線11が導出されるようにし、その先端に金属端子31を取り付ける。例えば編組線10の端部をドレイン線11として利用し、その先端を圧着端子で圧着固定する。これによりネジ32を用いて車両グランドにグランディングできるようにする。
この状態で、上述したように編組線10を略中心として周囲に信号線5が配置される本実施の形態のハーネス1が形成されることになる。
【0039】
<まとめ及び変形例>
以上実施の形態について説明してきたが、実施の形態では次のような効果が得られる。
実施の形態の構造例1~構造例6のハーネス1は、電気信号を伝送する複数の信号線5(伝送電線)と、信号線5の長さ方向の少なくとも一部区間において複数の信号線5に周囲を囲まれて信号線5に沿った状態に配置されるとともに、グランド接続された編組線10を有する。
即ちグランド接続された編組線10が信号線5の長さ方向の一部又は全部の区間において、複数の束になった信号線5に編組線10を這わせ、グランディングできる構造としている。
これにより各信号線5間の容量結合による高周波ノイズ対策として編組線10を用いたグランディングが可能となる。即ちシールド電線を使用しないで、信号線5間の容量結合によるノイズ対策としてのノイズシールド構造が実現できる。
またこれにより、シールド電線対応コネクタを使用しなくともよく、コネクタタイプの自由度も増す。
さらに、信号線5の周囲に編組線10を巻くような
図8Cの構造の場合よりも製造が容易で量産性を確保でき、またコスト的に有利なハーネス1を提供できる。
また、複数の信号線5が途中で分岐する場合も、一部区間に編組線10を這わせる構造であることで生産性は低下せず、従来のシールド構造に比較して著しく有利である。
【0040】
実施の形態の構造例1~構造例6のハーネス1は、編組線10が複数の信号線5の略中央に配置されている。
これにより複数のそれぞれの信号線5に対して略等距離で編組線10が位置することになり、複数の信号線5についての高周波ノイズシールド効果が適切に発揮される。
【0041】
実施の形態の構造例3,構造例5,構造例6のハーネス1は、複数の編組線10が信号線5に沿った状態に配置されている。
例えば
図2Aの第3構造例のように複数の編組線10A、10Bを用いることで分岐のあるハーネス1において、各分岐部分に対応したシールド構造を実現できる。
またこの場合、非分岐部分では
図2Bのように編組線10A、10Bの周囲に信号線5が囲むようになるが、編組線10が複数あることで、どの信号線5にも近い位置に編組線10(10A又は10B)が位置する状態となりやすい。これにより複数のそれぞれの伝送電線に対して略等距離で編組線が位置することになる。従って複数の信号線5についての高周波ノイズ効果が適切に発揮される。
また
図3Bの第5構造例や
図3Cの第6構造例のように、ハーネス1の複数の一部区間に編組線10C、10Dを設けるような構造によれば、高周波ノイズ対策が必要な区間のみに編組線10を配置するといった構造も可能である。この場合、編組線10が不要な部分では編組線10を配置しないことでハーネスサイズや径を小さくできる場合もある。
なお3本以上の編組線10が配置される例も考えられる。
【0042】
実施の形態では
図7Bのように編組線10は平編み線である例を述べた。
これにより
図7で説明した手順で、周囲を信号線5に囲まれた編組線10を配置する構造を容易に実現できる。
また
図5Aのように平編みの編組線10を長さ方向に折り返すことで、ハーネス1の長さ方向の所望の位置で編組線10(ドレイン線11)を取り出すことが容易で、車体やバッテリーボックスなどの車両グランドへのグランディングの容易性を得ることができる。
【0043】
図7の手順の製造方法は、一端が共通のコネクタ3に接続された複数の信号線5に対して、その長さ方向の少なくとも一部区間に編組線10を沿わせ、複数の信号線5が編組線10を囲う状態を維持するように複数の信号線5と編組線10を束ねるとともに、編組線10の一部をドレイン線11として束ねた状態から取り出された状態とするものである。
この手順により、必要な区間に編組線10を配置して信号線5をまき付け、結束すればよいため、複数の信号線5の容量結合による高周波ノイズ対策として編組線10を設けたハーネス1を非常に容易に構成でき、量産性が確保されるとともに、コスト的にも有利なものとなる。
そしてそのような手順の工程は、ハーネス1の途中区間などの任意の箇所でも容易に実行できる。特に車両内でのハーネス1による電気的結線では、その配置位置に応じてノイズ対策が必要となる区間に編組線10を配置するが、上記手順により、必要な区間で容易に編組線10を配置できる。もちろん途中で分岐があるハーネスにおいて、その分岐前や分岐後の区間にノイズ対策を施したい場合も容易に実現できる。
【0044】
なお
図7の手順は、予めハーネス製造メーカー側で行って、所定区間に編組線10を配置したハーネス1を製造し、それを車両メーカーなど当該ハーネスを使用する側に提供してもよいし、車両メーカー側で車内での配線作業時に
図7の手順を行うことで、配線の際に必要箇所に編組線10を組み込んだハーネス1を製造するようにしてもよい。
また、ハーネス1が少なくとも一端側に、複数の信号線5の端子を構成するコネクタ3が接続されている状態で提供されることで、取扱いが容易で、また配線長の自由度が増し、さらに
図7の手順がより容易となる。
もちろんハーネス1の両端がコネクタ接続された状態で、配線作業に提供されてもよい。製造するハーネス長が決まっていたり、規格に沿った長さのものとする場合、両端がコネクタ接続されていることで、実際の配線作業は容易となる。
【0045】
グランディングについては、圧着端子を用いる例を挙げたが、例えば1又は複数の編組線10をまとめてカシメ止めをするなどの手法をとってもよい。
【0046】
編組線10は信号線5の略中心位置となるようにしたが、必ずしも正確に中心位置である必要はない。また、中心でなくとも各信号線5についてのある程度のノイズシールド効果は得られる。
【符号の説明】
【0047】
1…ハーネス、2,3,4…コネクタ、5…信号線、10…編組線、11…ドレイン線、20…テープ、21…結束バンド、80…バッテリーボックス、81…制御ユニット、82…装置筐体、83…装置筐体