(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】新規な芳香族化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 403/14 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
C07D403/14 CSP
(21)【出願番号】P 2018025341
(22)【出願日】2018-02-15
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼瀬 雅祥
(72)【発明者】
【氏名】宇野 英満
(72)【発明者】
【氏名】沖 光脩
(72)【発明者】
【氏名】石川 真一
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-060382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される芳香族化合物。
【化1】
[式
(1)中、Xは
以下のX-1の構造であり、
【化2】
式(1)におけるNR
1
R
2
が、下記一般式(2)で表され、
(式(2)中、R
5
及びR
6
は、各々独立して、水素原子、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルコキシ基、炭素数6~40の置換若しくは無置換のアリール基、または炭素数5~40の置換若しくは無置換のヘテロアリール基であり、p及びqは1以上の整数である。)
R
3は
、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のアルコキシアルキル基、アセチル基、又はメトキシカルボニル基であり、ピロリジン環との結合は光学活性を有し、oは1~3の整数であり、
R
4は、水素原子
又はカルボニル
基である。
]
【請求項2】
下記式(3)または(4)で表されることを特徴とする、
請求項1に記載の化合物。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意の芳香環にアミノ基及びキラリティー基を有するピロリジン基が置換した新規な芳香族化合物、並びにその誘導体を利用した円偏光発光材料に関するものである。本発明における新規な芳香族化合物は、特異的なキラリティーの性質を有し、例えば、三次元ディスプレイや光通信、セキュリティ分野への応用が期待される。
【背景技術】
【0002】
円偏光発光(CPL)は、高輝度ディスプレイ用の偏向光源やセキュリティ分野などの次世代光情報技術への応用が期待されている。しかしながら現在用いられているCPL光源は、CPL特性を持たない、直線偏光を発する発光材料に円偏光透過フィルターを組み合わせたものであることから、製造工程が複雑かつ高コストであり、エネルギー効率も悪い。そのため、高輝度・高円偏光発光材料の設計指針の確立が重要となる。このような観点から、従来金属イオンを用いた物質が主に開発されているが、安価で環境負荷の少ない元素から構成される材料開発が求められている。
【0003】
例えば、ヘキサフェニルベンゼンのプロペラキラリティー(軸異性体)に着目し、外周部にキラルなアルコキシ基を導入することでキラリティーを制御した例が報告されている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、円偏光発光特性については調べられていない。
【0004】
また、発光体として知られるボロンジピロメテンの外周部をこれと同じフェニル基で置換してキラリティーを誘起し、円偏光発光を観測している例が報告されている(例えば、非特許文献2)。しかしながら観測された発光は、極低温下(-120℃)、メチルシクロヘキサン溶媒中でキラルな配向に色素が二量化することに起因するものである。つまり、単一分子でのプロペラキラリティー制御に基づいた円偏光発光特性ではない。
【0005】
一方、カルバゾール類は発光効率が高く、π平面が大きいのでプロペラキラリティー(軸異性体)を制御する上で上述のフェニル基よりも好ましいと考えられるが、ヘキサカルバゾリルベンゼンの報告例があるのみで、キラリティー制御は行われていない(例えば、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】The Journal of Physical Chemistry Letters,vol.7, 783-788, 2016
【文献】The Journal of Physical Chemistry Letters,vol.8, 42-48, 2017
【文献】Chemical Physics Letters,vol.289, 13-18, 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来材料とは異なる骨格を有し、且つ特異的な光学特性を発現する材料を提供することにある。更に詳しくは、特徴的なキラリティーを有し、高い円偏光発光性を有する材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、一般式(1)で表される芳香族化合物が、特徴的なキラリティーを有し、高い円偏光発光性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される芳香族化合物及びその用途に関するものである。
【0009】
【0010】
(式中、Xは1または複数の芳香族環を有する構造である。
R1及びR2は、各々独立して、水素原子、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルコキシ基、炭素数6~40の置換若しくは無置換のアリール基、または炭素数5~40の置換若しくは無置換のヘテロアリール基であり、R1とR2は互いに結合して環を形成してもよく、nはXの炭素原子と結合可能な最大の整数であり、mは1以上の整数である。
R3は、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルコキシ基であり、ヘテロ原子を含んでよく、ピロリジン環との結合は光学活性を有し、oは1~3の整数であり、R4は、水素原子、カルボニル基又は炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルキル基である。)
【0011】
さらに本発明は、前記一般式(1)における芳香族環を有する構造であるXが、以下のX-1~X-6からなる群より選ばれる構造である上記の芳香族化合物に係る。
【0012】
【0013】
さらに本発明は、前記一般式(1)におけるNR1R2が、下記一般式(2)で表される上記の芳香族化合物に係る。
【0014】
【0015】
(式中、R5及びR6は、各々独立して、水素原子、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルコキシ基、炭素数6~40の置換若しくは無置換のアリール基、または炭素数5~40の置換若しくは無置換のヘテロアリール基であり、p及びqは1以上の整数である。)
さらに本発明は、下記式(3)または(4)で表される上記の芳香族化合物に係る。
【0016】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の一般式(1)で表される芳香族化合物は新規化合物である。
上記の一般式(1)において、Xは任意の芳香族環、すなわち1または複数の芳香族環を有する構造である。芳香族環としては、特に限定されるものでは無いが、具体的には例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、フェナントレン環、クリセン環、トリフェニレン環、テトラフェン環、ピレン環、ピセン環、ペンタフェン環、ペリレン環、ヘリセン環、コロネン環、ビフェニル、ターフェニル、テトラフェニル等を挙げることができる。
【0018】
さらに、一般式(1)における芳香族環を有する構造であるXが、以下のX-1~X-6からなる群より選ばれる構造であることが好ましい。
【0019】
【0020】
一般式(1)において、R1及びR2は、各々独立して、水素原子、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルコキシ基、炭素数6~40の置換若しくは無置換のアリール基、または炭素数5~40の置換若しくは無置換のヘテロアリール基であることが好ましい。従ってR1及びR2は、それぞれ、これらの置換基と同一または異なっていても良い。
【0021】
また、一般式(1)において、nはXの炭素原子と結合可能な最大の整数、つまり芳香族環を有する構造であるXが置換基と結合できる最大の数であり、mは1以上の整数である。従って、一般式(1)に示す通り、nとR3とR4とを有する置換基がXと結合する数であるmとの差n-mが、R1とR2とを有する置換基がXと結合する数となる。
【0022】
R1及びR2において、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ステアリル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、1,3-シクロヘキサジエニル基、2-シクロペンテン-1-イル基等を挙げることができる。
【0023】
炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状アルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ステアリルオキシ基、トリフルオロメトキシ基等を挙げることができる。
【0024】
炭素数6~40の置換若しくは無置換のアリール基としては、具体的には、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-アントリル基、9-アントリル基、2-フルオレニル基、フェナントリル基、ピレニル基、クリセニル基、ペリレニル基、ピセニル基、4-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、2-メチルフェニル基、4-エチルフェニル基、3-エチルフェニル基、2-エチルフェニル基、4-n-プロピルフェニル基、4-イソプロピルフェニル基、2-イソプロピルフェニル基、4-n-ブチルフェニル基、4-イソブチルフェニル基、4-sec-ブチルフェニル基、2-sec-ブチルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、3-tert-ブチルフェニル基、2-tert-ブチルフェニル基、4-n-ペンチルフェニル基、4-イソペンチルフェニル基、2-ネオペンチルフェニル基、4-tert-ペンチルフェニル基、4-n-ヘキシルフェニル基、4-(2’-エチルブチル)フェニル基、4-n-ヘプチルフェニル基、4-n-オクチルフェニル基、4-(2’-エチルヘキシル)フェニル基、4-tert-オクチルフェニル基、4-n-デシルフェニル基、4-n-ドデシルフェニル基、4-n-テトラデシルフェニル基、4-シクロペンチルフェニル基、4-シクロヘキシルフェニル基、4-(4’-メチルシクロヘキシル)フェニル基、4-(4’-tert-ブチルシクロヘキシル)フェニル基、3-シクロヘキシルフェニル基、2-シクロヘキシルフェニル基、4-エチル-1-ナフチル基、6-n-ブチル-2-ナフチル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、2,4-ジエチルフェニル基、2,3,5-トリメチルフェニル基、2,3,6-トリメチルフェニル基、3,4,5-トリメチルフェニル基、2,6-ジエチルフェニル基、2,5-ジイソプロピルフェニル基、2,6-ジイソブチルフェニル基、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル基、2,5-ジ-tert-ブチルフェニル基、4,6-ジ-tert-ブチル-2-メチルフェニル基、5-tert-ブチル-2-メチルフェニル基、4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェニル基、9-メチル-2-フルオレニル基、9-エチル-2-フルオレニル基、9-n-ヘキシル-2-フルオレニル基、9,9-ジメチル-2-フルオレニル基、9,9-ジエチル-2-フルオレニル基、9,9-ジ-n-プロピル-2-フルオレニル基、4-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、2-メトキシフェニル基、4-エトキシフェニル基、3-エトキシフェニル基、2-エトキシフェニル基、4-n-プロポキシフェニル基、3-n-プロポキシフェニル基、4-イソプロポキシフェニル基、2-イソプロポキシフェニル基、4-n-ブトキシフェニル基、4-イソブトキシフェニル基、2-sec-ブトキシフェニル基、4-n-ペンチルオキシフェニル基、4-イソペンチルオキシフェニル基、2-イソペンチルオキシフェニル基、4-ネオペンチルオキシフェニル基、2-ネオペンチルオキシフェニル基、4-n-ヘキシルオキシフェニル基、2-(2’-エチルブチル)オキシフェニル基、4-n-オクチルオキシフェニル基、4-n-デシルオキシフェニル基、4-n-ドデシルオキシフェニル基、4-n-テトラデシルオキシフェニル基、4-シクロヘキシルオキシフェニル基、2-シクロヘキシルオキシフェニル基、2-メトキシ-1-ナフチル基、4-メトキシ-1-ナフチル基、4-n-ブトキシ-1-ナフチル基、5-エトキシ-1-ナフチル基、6-メトキシ-2-ナフチル基、6-エトキシ-2-ナフチル基、6-n-ブトキシ-2-ナフチル基、6-n-ヘキシルオキシ-2-ナフチル基、7-メトキシ-2-ナフチル基、7-n-ブトキシ-2-ナフチル基、2-メチル-4-メトキシフェニル基、2-メチル-5-メトキシフェニル基、3-メチル-4-メトキシフェニル基、3-メチル-5-メトキシフェニル基、3-エチル-5-メトキシフェニル基、2-メトキシ-4-メチルフェニル基、3-メトキシ-4-メチルフェニル基、2,4-ジメトキシフェニル基、2,5-ジメトキシフェニル基、2,6-ジメトキシフェニル基、3,4-ジメトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、3,5-ジエトキシフェニル基、3,5-ジ-n-ブトキシフェニル基、2-メトキシ-4-エトキシフェニル基、2-メトキシ-6-エトキシフェニル基、3,4,5-トリメトキシフェニル基、4-ビフェニリル基、3-ビフェニリル基、2-ビフェニリル基、4-(4’-メチルフェニル)フェニル基、4-(3’-メチルフェニル)フェニル基、4-(4’-メトキシフェニル)フェニル基、4-(4’-n-ブトキシフェニル)フェニル基、2-(2’-メトキシフェニル)フェニル基、4-(4’-クロロフェニル)フェニル基、3-メチル-4-フェニルフェニル基、3-メトキシ-4-フェニルフェニル基、ターフェニル基、3,5-ジフェニルフェニル基、10-フェニルアントリル基、10-(3,5-ジフェニルフェニル)-9-アントリル基、9-フェニル-2-フルオレニル基、4-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、2-フルオロフェニル基、4-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、2-クロロフェニル基、4-ブロモフェニル基、2-ブロモフェニル基、4-クロロ-1-ナフチル基、4-クロロ-2-ナフチル基、6-ブロモ-2-ナフチル基、2,3-ジフルオロフェニル基、2,4-ジフルオロフェニル基、2,5-ジフルオロフェニル基、2,6-ジフルオロフェニル基、3,4-ジフルオロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基、2,3-ジクロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、2,5-ジクロロフェニル基、3,4-ジクロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、2,5-ジブロモフェニル基、2,4,6-トリクロロフェニル基、2,4-ジクロロ-1-ナフチル基、1,6-ジクロロ-2-ナフチル基、2-フルオロ-4-メチルフェニル基、2-フルオロ-5-メチルフェニル基、3-フルオロ-2-メチルフェニル基、3-フルオロ-4-メチルフェニル基、2-メチル-4-フルオロフェニル基、2-メチル-5-フルオロフェニル基、3-メチル-4-フルオロフェニル基、2-クロロ-4-メチルフェニル基、2-クロロ-5-メチルフェニル基、2-クロロ-6-メチルフェニル基、2-メチル-3-クロロフェニル基、2-メチル-4-クロロフェニル基、3-クロロ-4-メチルフェニル基、3-メチル-4-クロロフェニル基、2-クロロ-4,6-ジメチルフェニル基、2-メトキシ-4-フルオロフェニル基、2-フルオロ-4-メトキシフェニル基、2-フルオロ-4-エトキシフェニル基、2-フルオロ-6-メトキシフェニル基、3-フルオロ-4-エトキシフェニル基、3-クロロ-4-メトキシフェニル基、2-メトキシ-5-クロロフェニル基、3-メトキシ-6-クロロフェニル基、5-クロロ-2,4-ジメトキシフェニル基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
炭素数5~40の置換若しくは無置換のヘテロアリール基としては、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも一つのヘテロ原子を含有する芳香環基であり、例えば、4-キノリル基、4-ピリジル基、3-ピリジル基、2-ピリジル基、3-フリル基、2-フリル基、3-チエニル基、2-チエニル基、2-オキサゾリル基、2-チアゾリル基、2-ベンゾオキサゾリル基、2-ベンゾチアゾリル基、2-ベンゾイミダゾリル基等の複素環基を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
さらに、R1とR2は互いに結合して環を形成しても良い。R1とR2が互いに結合して環を形成した場合の具体例としては、例えば下記(1-1)~(1-4)に示す例を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
【0028】
(式中、R5~R9は、各々独立して、水素原子、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルコキシ基、炭素数6~40の置換若しくは無置換のアリール基、または炭素数5~40の置換若しくは無置換のヘテロアリール基であり、p、q、r、s、tは0若しくは1以上の整数である。)
【0029】
一般式(1)において、R3は、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルコキシ基であり、ヘテロ原子を含んでよく、R3の具体例としては、上述したR1及びR2の具体例に記載された同じ基を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
また、一般式(1)において、R3とピロリジン環との結合は光学活性を有し、すなわちR3はピロリジン環に対し、キラリティーを有した状態で結合する。さらに、一般式(1)において、oは1~3の整数であり、R4は、水素原子若しくはカルボニル基若しくは任意の置換基、例えば炭素数1~18の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルキル基、好ましくは炭素数1~6の直鎖若しくは分岐若しくは環状のアルキル基である。
【0031】
より具体的には、例えば下記(2-1)~(2-6)に示す構造式を挙げることができるが、必ずしもこれらに限定されるものでは無い。
【0032】
【0033】
以下にさらに、一般式(1)の具体的構造式を例示するが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
<本発明に係る芳香族化合物の製造方法>
一般式(1)で示される芳香族化合物は、特に限定するものではないが、以下に示す工程から製造することが可能である。すなわち、工程1(前駆体(光学異性体(R)又は(S)体)の合成工程)及び工程2(芳香族化合物の製造工程)によって当該芳香族化合物を製造できる。
【0041】
工程1)前駆体(光学異性体(R)又は(S)体)の合成
反応容器に、(R)-2-(メトキシメチル)ピロリジンなどの前駆体合成の原料をTHF等の溶媒に溶解し、窒素等の不活性ガス雰囲気下で加える。反応温度は目的の芳香族化合物及びその前駆体が得られる条件であれば特に限定されず、また反応時の圧力も加圧下、常圧下、減圧下のいずれも選択できる。反応物が熱で分解され易い場合には低温に、例えば-100℃~0℃に冷却するとよい。これに、塩基としてn-ブチルリチウム等をn-ヘキサン等に溶解した溶液を加えて反応させる。その添加量は反応原料が十分に反応に供しうる量であればよい。反応時間は反応原料の反応性によるが、通常は1分から1日、好ましくは5分~10時間、さらに好ましくは、10分~2時間反応させればよく、撹拌下、あるいは無撹拌で反応させることもできる。
【0042】
上記とは別の反応容器に、ヘキサフルオロベンゼンなどの前駆体合成の原料をTHF等の溶媒と混合し、上記の反応容器に窒素等の不活性ガス雰囲気下あるいは開放系で加える。反応時間は反応原料の反応性によるが、通常は10分から2日、好ましくは1時間~10時間、さらに好ましくは、2時間~5時間反応させればよく、撹拌下、あるいは無撹拌で反応させることもできる。
【0043】
反応終了後、反応生成物が溶解できる溶媒、例えば水を加え、さらに酢酸エチル等の非水溶媒により抽出するとよい。さらに有機層を公知の処方で洗浄、例えば水及び飽和食塩水で洗浄し、その後、硫酸ナトリウム等の乾燥剤により乾燥させ、エバポレーター等の通常用いられる装置により濃縮させて前駆体を得ることができる。
【0044】
得られた前駆体は元素組成、油状等の性状、NMR、質量分析等の、本技術分野で公知の方法による分析して、精製度、構造、物性などを確認できる。
【0045】
工程2)芳香族化合物の製造
還流装置を具備する反応容器に、カルバゾールなどの反応試剤および水素化カルシウムなどの塩基を加え、窒素等の不活性ガス雰囲気とした後、ジメチルアセトアミドなどの溶媒を加え撹拌等をして反応させる。反応温度は目的の芳香族化合物及びその前駆体が得られる条件であれば特に限定されず、また反応時の圧力も加圧下、常圧下、減圧下のいずれも選択できる。反応温度としては、例えば0℃~50℃程度とするとよい。反応時間は反応試剤の反応性によるが、通常は1分から1日、好ましくは5分~10時間、さらに好ましくは、10分~2時間反応させればよく、撹拌下、あるいは無撹拌で反応させることもできる。
【0046】
上記とは別の反応容器に、上記した前駆体をジメチルアセトアミド等の溶媒に溶解し、上記の反応容器に窒素等の不活性ガス雰囲気下あるいは開放系で加える。反応時間は反応原料の反応性によるが、通常は1時間から3日、好ましくは5時間~1日、さらに好ましくは、10時間~1日反応させればよく、撹拌下、あるいは無撹拌で反応させることもできる。反応温度としては、例えば100℃~200℃程度とするとよい。
【0047】
反応終了後、反応容器を冷却し、反応溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の通常用いられる精製手段で、また塩化メチレン/n-ヘキサンといった通常用いられる移動相用の溶媒を用いて、精製するとよい。
得られた目的物である芳香族化合物は元素組成、油状等の性状、NMR、質量分析等の、本技術分野で公知の方法による分析して、精製度、構造、物性などを確認できる。
【発明の効果】
【0048】
本発明による一般式(1)で表される新規な芳香族化合物は、従来材料とは異なる骨格と特徴的なキラリティーを有するため、高い円偏光発光性を発現させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】実施例で示す、CDスペクトル(上:(R)-2と(S)-2))と吸収スペクトル(下:(R)-2)(塩化メチレン溶液、室温)であり、横軸(X軸)は波長(nm)であり、縦軸(Y軸)は、上が円偏光二色性(ellipticity)、下が吸光度(Norm.Abs.)である。
【
図2】実施例で示す、CPLスペクトル(上:(R)-2と(S)-2))と発光スペクトル(下:(R)-2)(塩化メチレン溶液(1.16×10
-4M)、室温。励起光:290nm)であり、横軸(X軸)は波長(nm)であり、縦軸(Y軸)は、上がCPL(Intensity)、下が発光強度(Intensity)である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
なお、本実施例で用いた分析機器及び測定方法を以下に列記する。
[元素分析]
元素分析計:Jサイエンスラボ製 MICRO CORDER JM10T
[質量分析]
質量分析装置:日本電子製 JMS-700V型(FAB-MS分析)
島津製作所製 GC-2010(DI-MS分析)
[NMR測定] 測定装置:日本電子製 JNM-AL400S
[CD測定] 測定装置:日本分光製 J-820
[CPL測定] 測定装置:日本分光製 CPL-200
[吸収スペクトル測定] 測定装置:日本分光製 V-570
[発光スペクトル測定] 測定装置:日立製 F-7000
【0052】
合成例1 (R)-1の合成
【0053】
【0054】
100 mLの3つ口反応容器に(R)-2-(メトキシメチル)ピロリジン0.53 mL (4.32 mmol) 及びTHF 20 mLを窒素雰囲気下で加え、この反応溶液を-70 oCまで冷却した。冷却後、n-ブチルリチウム / n-ヘキサン溶液3.10 mL (n -BuLi含有量4.96 mmol) を滴下し、そのまま20分間攪拌した。
【0055】
別の反応容器にヘキサフルオロベンゼン2.20 mL (19.0 mmol)とTHF 10 mLの混合溶液を調製し、この混合溶液を-70 oCに冷却した反応溶液に滴下し、4時間攪拌した。攪拌終了後、水を加え酢酸エチルで抽出し、有機層を水及び飽和食塩水で洗浄した。その後、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、エバポレーターで濃縮することにより (R)-1 を872 mg (3.10 mmol、(R)-2-(メトキシメチル)ピロリジンからの収率72 mol%) を得た。
【0056】
分析結果は以下の通りであった。
Mol. Form.: C12H12F5NO (Exact Mass: 281.08, Mol. Wt.: 281.23)
Appearance: Oil
1H NMR (CDCl3) δ 4.04-3.96 (m, 1H), 3.66-3.38 (m, 1H), 3.33-3.14 (m, 3H), 3.24 (s, 3H), 2.18-2.09 (m, 1H), 2.02-1.83 (m, 2H), 1.82-1.72 (m, 1H)
MS (DI-MS): 236.10 (M-45+)
【0057】
実施例1 (R)-2の合成
【0058】
【0059】
還流装置を取り付けた100 mLの3つ口反応容器にカルバゾール1.610 g (9.63 mmol) 及び水素化カルシウム1.232 g (29.3 mmol) を加え、窒素置換した後、ジメチルアセトアミド60 mLを加えて室温で20分間攪拌した。
【0060】
別の反応容器に 、合成例1と同様の方法により調製した(R)-1 270 mg (0.960 mmol) のジメチルアセトアミド溶液 (20 mL) を調製し、この溶液を反応容器に加え160 oCで19時間攪拌した。室温まで冷却した後、溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (塩化メチレン/n-ヘキサン) により精製し、(R)-2 491 mg (0.483 mmol、(R)-1からの収率50 mol%) を得た。
【0061】
分析結果は以下の通りであった。
Mol. Form.: C72H52N6O (Exact Mass: 1016.42, Mol. Wt.: 1017.25)
Appearance: White solid
1H NMR (CDCl3) δ 7.84 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 7.60-7.53 (m, 4H), 7.32-7.14 (m, 14H), 6.87-6.48 (m, 20H), 3.38 (dd, J = 8.4, 7.0 Hz, 1H), 3.01-2.96 (m, 1H), 2.80 (t, J = 8.4 Hz, 1H), 2.17-2.08 (m, 1H), 1.56-1.48 (m, 1H), 1.13-1.04 (m, 1H), 0.97-0.77 (m, 2H), 0.57-0.44 (m, 1H)
MS (FAB-MS): 1018 (MH+), 972 (MH-45+)
Anal. Calcd. for C72H52N6O: C, 85.01; H, 5.15; N, 8.26
Found; C, 85.04; H, 5.39; N, 8.30
【0062】
合成例2 (S)-1の合成
【0063】
【0064】
50 mLの2つ口反応容器に (S)-2-(メトキシメチル)ピロリジン0.21 mL (1.69 mmol) 及びTHF 5 mLを窒素雰囲気下で加え、この反応溶液を-70 oCまで冷却した。冷却後、n-ブチルリチウム / n-ヘキサン溶液1.16 mL(n-BuLi含有量1.86 mmol) を滴下し、そのまま20分間攪拌した。
【0065】
別の反応容器にヘキサフルオロベンゼン0.78 mL (6.76 mmol) とTHF 7 mLの混合溶液を調製し、この混合溶液を-70 oCに冷却した反応溶液に滴下し、4時間攪拌した。攪拌終了後、水を加え酢酸エチルで抽出し、有機層を水及び飽和食塩水で洗浄した。その後、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、エバポレーターで濃縮することにより (S)-1 264 mg (0.939 mmol、(S)-2-(メトキシメチル)ピロリジンからの収率56 mol%)を得た。
【0066】
分析結果は以下の通りであった。
Mol. Form.: C12H12F5NO (Exact Mass: 281.08, Mol. Wt.: 281.23)
Appearance: Oil
1H NMR (CDCl3) δ 4.04-3.96 (m, 1H), 3.66-3.58 (m, 1H), 3.34-3.12 (m, 3H), 3.25 (s, 3H), 2.18-2.08 (m, 1H), 2.01-1.84 (m, 2H), 1.82-1.71 (m, 1H)
MS (DI-MS): 236.10 (M-45+)
【0067】
実施例2 (S)-2の合成
【0068】
【0069】
還流装置を取り付けた100 mLの3つ口反応容器にカルバゾール1.193 g (7.13 mmol) 及び水素化カルシウム0.934 g (22.2 mmol)を加え、窒素置換した後、ジメチルアセトアミド 40 mLを加えて90 oCで20分間攪拌した。
【0070】
別の反応容器に、合成例2と同様の方法により調製した (S)-1 201 mg (0.715 mmol) のジメチルアセトアミド溶液 (20 mL) を調製し、この溶液を反応容器に加え160 oCで14時間攪拌した。室温まで冷却した後、溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (塩化メチレン/n-ヘキサン) により精製し、(S)-2 455 mg (0.447 mmol、(S)-1からの収率63 mol%) を得た。
【0071】
分析結果は以下の通りであった。
Mol. Form.: C72H52N6O (Exact Mass: 1016.42, Mol. Wt.: 1017.25)
Appearance: White solid
1H NMR (CDCl3) δ 7.84 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 7.60-7.54 (m, 4H), 7.32-7.13 (m, 14H), 6.87-6.48 (m, 20H), 3.39 (dd, J = 8.4, 7.0 Hz, 1H), 3.02-2.96 (m, 1H), 2.80 (t, J = 8.4 Hz, 1H), 2.17-2.07 (m, 1H), 1.55-1.46 (m, 1H), 1.13-1.04 (m, 1H), 0.98-0.75 (m, 2H), 0.56-0.44 (m, 1H)
MS (FAB-MS): 1018 (MH+), 972 (MH-45+)
Anal. Calcd. for C72H52N6O: C, 85.01; H, 5.15; N, 8.26
Found; C, 85.03; H, 5.42; N, 8.28
【0072】
図1及び
図2から、光学活性なプロリン誘導体のプロリン誘導体のキラリティーを変えることで((R)-2と(S)-2))、室温、塩化メチレン溶液において符号の異なる円偏光発光を観測し、その異方性因子(glum)は、2x10
―3であった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の芳香族化合物によれば、例えば、特異的なキラリティーの性質を有し、例えば、三次元ディスプレイや光通信、セキュリティ分野への応用が期待でき、産業上の利用が可能である。