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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】腐食抑制方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C23F 15/00 20060101AFI20220323BHJP
   F23G 5/20 20060101ALI20220323BHJP
   F23G 5/46 20060101ALI20220323BHJP
   F23G 5/50 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C23F15/00
F23G5/20 A
F23G5/46 B
F23G5/50 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018112668
(22)【出願日】2018-06-13
(65)【公開番号】P2019214772
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】成澤 道則
【審査官】長尾 裕貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-279020(JP,A)
【文献】特開平11-257625(JP,A)
【文献】特開2011-237048(JP,A)
【文献】特表2009-500590(JP,A)
【文献】特開平10-026010(JP,A)
【文献】米国特許第05042402(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 15/00
F23G 5/20
F23G 5/46
F23G 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ストーカ式焼却炉のストーカ炉本体の水管へ廃熱ボイラからボイラ水を供給する冷却水供給ラインに設けられた熱交換器と、
前記熱交換器に、前記ボイラ水との熱交換に用いる前記ボイラ水よりも低温の流体を供給する供給ラインと、
前記供給ラインから前記熱交換器へ供給する前記流体の供給量を調節する流量調節部と、
前記回転ストーカ式焼却炉より排出される排ガス中の腐食性成分の濃度の情報を取得する濃度情報取得装置と、
制御器と、を備え、
前記制御器は、
前記濃度情報取得装置より前記排ガス中の腐食性成分の濃度の情報を受け取る機能と、
前記濃度の情報を基に、前記水管へ供給する前記ボイラ水の目標温度を設定する目標温度設定機能と、
設定された前記ボイラ水の前記目標温度を基に、前記流量調節部へ指令を与える機能と、を備えたこと
を特徴とする腐食抑制装置。
【請求項2】
前記制御器は、前記目標温度設定機能として、前記濃度情報取得装置より受け取る前記濃度の情報における前記排ガス中の前記腐食性成分の濃度が低い状態から高くなるにつれて、前記ストーカ炉本体の前記水管へ供給する前記ボイラ水の目標温度を、前記廃熱ボイラのボイラ圧力に応じた飽和水の温度から、順次引き下げた温度に設定する機能を備えた
請求項1に記載の腐食抑制装置。
【請求項3】
前記制御器は、
前記熱交換器を通過した後の前記ボイラ水の温度を、前記目標温度設定機能で設定された前記目標温度に一致させるために必要とされる、前記熱交換器に供給する前記流体の流量を求めて、目標流量として設定する目標流量設定機能と、
前記目標流量設定機能で設定された前記目標流量を、前記流量調節部へ指令として与える機能と、を備えた
請求項1または2に記載の腐食抑制装置。
【請求項4】
前記濃度情報取得装置は、前記排ガス中の前記腐食性成分として、塩化水素の濃度と、硫黄酸化物の濃度の情報を取得する機能を備えた
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の腐食抑制装置。
【請求項5】
前記熱交換器の下流側の前記冷却水供給ラインに、温度計を備え、
前記制御器は、前記温度計より受け取る前記ボイラ水の温度の実測値が、前記目標温度設定機能で設定された前記ボイラ水の前記目標温度に一致するように、前記熱交換器に供給する前記流体の前記目標流量に対するフィードバック制御を行う機能を備えた
請求項3、または、請求項3に従属する請求項4に記載の腐食抑制装置。
【請求項6】
回転ストーカ式焼却炉に、ストーカ炉本体の水管へ廃熱ボイラからボイラ水を供給する冷却水供給ラインと、前記冷却水供給ラインに設けられた熱交換器と、前記熱交換器に前記ボイラ水よりも低温の流体を供給する供給ラインと、前記供給ラインから前記熱交換器へ供給する前記流体の供給量を調節する流量調節部と、を備え、
前記回転ストーカ式焼却炉の排ガス中の腐食性成分の濃度の情報を取得する処理と、
前記排ガス中の腐食性成分の前記濃度の情報を基に、該腐食性成分の濃度が低い状態から高くなるにつれて、前記ストーカ炉本体の前記水管へ供給する前記ボイラ水の目標温度
を、前記廃熱ボイラのボイラ圧力に応じた飽和水の温度から、順次引き下げた温度に設定する処理と、
前記熱交換器を通過した後の前記ボイラ水の温度を、前記目標温度に一致させるために必要とされる、前記熱交換器に供給する前記流体の流量を求めて、目標流量として設定する処理と、
設定された前記目標流量を、前記流量調節部へ指令として与える処理と、を行うこと
を特徴とする腐食抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転ストーカ式焼却炉におけるストーカ炉本体の腐食抑制に用いる腐食抑制方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄物などの処理対象物を焼却処理する焼却炉の一つとして、回転ストーカ式焼却炉がある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
回転ストーカ式焼却炉は、リング状に形成された入口側ヘッダー管および出口側ヘッダー管と、周方向に一定間隔で配置されて各ヘッダー管の間に接続された複数の水管と、各水管の間の隙間に取り付けられたフィンと、各フィンに穿設された空気孔とを備えた構成の円筒状のストーカ炉本体を有している。ストーカ炉本体は、カバーケーシング内に、入口側ヘッダー管よりも出口側ヘッダー管の方が低くなる傾斜姿勢で、回転可能に横置きされている。
【0004】
また、回転ストーカ式焼却炉は、ストーカ炉本体を回転駆動する駆動装置と、ストーカ炉本体の下方から一次燃焼空気を供給する風箱と、投入ホッパ内の廃棄物をストーカ炉本体内へ装入する給じん装置とを備えて、回転するストーカ炉本体の内側が一次燃焼室となる構成とされている。
【0005】
更に、回転ストーカ式焼却炉は、ストーカ炉本体の出口側の下流に、二次燃焼室と、廃熱ボイラとを備えると共に、ストーカ炉本体の出口側ヘッダー管に連結されたロータリージョイントと、ロータリージョイントの冷却水入口と廃熱ボイラとを接続する冷却水供給ラインと、冷却水供給ラインに設けられた循環ポンプと、ロータリージョイントの冷却水出口と廃熱ボイラとを接続する冷却水戻りラインとを備えた構成とされている。
【0006】
これにより、回転ストーカ式焼却炉は、循環ポンプの運転により廃熱ボイラから導かれるボイラ水をストーカ炉本体の水管に循環流通させることにより、ストーカ炉本体の冷却と、熱回収を行う構成とされている。
【0007】
回転ストーカ式焼却炉の廃熱ボイラで発生させる蒸気は、発電機を駆動する蒸気タービンにて動作流体として使用されることが多い。
【0008】
なお、ボイラ水は、ボイラ圧力下での飽和水であり、廃熱ボイラのボイラ圧力が3MPaの場合は、飽和水の温度は約230度となる。
【0009】
回転ストーカ式焼却炉は、焼却処理する処理対象物の質や性状によっては、ストーカ炉本体内に、金属塩化物、硫酸塩などの金属塩が生じる場合があり、更に、ストーカ炉本体内に複数の金属塩が存在する場合は、単体の金属塩よりも低温で溶融する共晶塩が生じることがある。回転ストーカ式焼却炉では、ストーカ炉本体内にこれらの金属塩や共晶塩が溶融状態で存在すると、ストーカ炉本体の水管、フィンなどの金属表面に対する腐食性が高まる。
【0010】
そこで、従来の回転ストーカ式焼却炉では、ストーカ炉本体の水管、フィンの表面の温度が、ストーカ炉本体内で生じると想定される金属塩や共晶塩が溶融する温度領域まで上昇しないように、ストーカ炉本体の水管へ供給されるボイラ水の温度が設定され、更に、そのボイラ水の温度に対応して廃熱ボイラのボイラ圧力が定められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2003-279020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、回転ストーカ式焼却炉は、近年では、蒸気タービンの駆動による発電の効率を向上させることが望まれ、このような発電効率の向上化を目的として、回転ストーカ式焼却炉の廃熱ボイラで発生させる蒸気の高圧化が望まれている。
【0013】
しかし、廃熱ボイラで発生させる蒸気の高圧化を図る場合は、廃熱ボイラよりストーカ炉本体の水管へ循環供給されるボイラ水の温度が、従来よりも上昇する。たとえば、廃熱ボイラのボイラ圧力を4MPaにする場合は、ボイラ水の温度は約250度に上昇する。廃熱ボイラのボイラ圧力をより高める場合は、ボイラ水の温度は更に上昇する。
【0014】
そのため、回転ストーカ式焼却炉は、廃熱ボイラで発生させる蒸気の高圧化を図る場合は、ストーカ炉本体の水管、フィンの表面温度が、従来の腐食を避けた温度領域よりも高い温度領域となる。よって、その温度領域で溶融する金属塩や共晶塩がストーカ炉本体内で生じる場合は、ストーカ炉本体の水管、フィンの金属表面に腐食が生じやすくなる。
【0015】
したがって、回転ストーカ式焼却炉は、廃熱ボイラで発生させる蒸気の高圧化を図る場合には、ストーカ炉本体の腐食を抑制するための対策を施すことが望まれる。
【0016】
そこで、本発明は、回転ストーカ式焼却炉における廃熱ボイラで発生させる蒸気の高圧化を図る場合に、ストーカ炉本体の腐食を抑制することができる腐食抑制方法および装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、前記課題を解決するために、回転ストーカ式焼却炉のストーカ炉本体の水管へ廃熱ボイラからボイラ水を供給する冷却水供給ラインに設けられた熱交換器と、前記熱交換器に、前記ボイラ水との熱交換に用いる前記ボイラ水よりも低温の流体を供給する供給ラインと、前記供給ラインから前記熱交換器へ供給する前記流体の供給量を調節する流量調節部と、前記回転ストーカ式焼却炉より排出される排ガス中の腐食性成分の濃度の情報を取得する濃度情報取得装置と、制御器と、を備え、前記制御器は、前記濃度情報取得装置より前記排ガス中の腐食性成分の濃度の情報を受け取る機能と、前記濃度の情報を基に、前記水管へ供給する前記ボイラ水の目標温度を設定する目標温度設定機能と、設定された前記ボイラ水の前記目標温度を基に、前記流量調節部へ指令を与える機能と、を備えた構成を有する腐食抑制装置とする。
【0018】
前記制御器は、前記目標温度設定機能として、前記濃度情報取得装置より受け取る前記濃度の情報における前記排ガス中の前記腐食性成分の濃度が低い状態から高くなるにつれて、前記ストーカ炉本体の前記水管へ供給する前記ボイラ水の目標温度を、前記廃熱ボイラのボイラ圧力に応じた飽和水の温度から、順次引き下げた温度に設定する機能を備えた構成としてもよい。
【0019】
前記制御器は、前記熱交換器を通過した後の前記ボイラ水の温度を、前記目標温度設定機能で設定された前記目標温度に一致させるために必要とされる、前記熱交換器に供給する前記流体の流量を求めて、目標流量として設定する目標流量設定機能と、前記目標流量設定機能で設定された前記目標流量を、前記流量調節部へ指令として与える機能と、を備えた構成としてもよい。
【0020】
前記濃度情報取得装置は、前記排ガス中の前記腐食性成分として、塩化水素の濃度と、硫黄酸化物の濃度の情報を取得する機能を備えた構成としてもよい。
【0021】
前記熱交換器の下流側の前記冷却水供給ラインに、温度計を備え、前記制御器は、前記温度計より受け取る前記ボイラ水の温度の実測値が、前記目標温度設定機能で設定された前記ボイラ水の前記目標温度に一致するように、前記熱交換器に供給する前記流体の前記目標流量に対するフィードバック制御を行う機能を備えた構成としてもよい。
【0022】
また、回転ストーカ式焼却炉に、ストーカ炉本体の水管へ廃熱ボイラからボイラ水を供給する冷却水供給ラインと、前記冷却水供給ラインに設けられた熱交換器と、前記熱交換器に前記ボイラ水よりも低温の流体を供給する供給ラインと、前記供給ラインから前記熱交換器へ供給する前記流体の供給量を調節する流量調節部と、を備え、前記回転ストーカ式焼却炉の排ガス中の腐食性成分の濃度の情報を取得する処理と、前記排ガス中の腐食性成分の前記濃度の情報を基に、該腐食性成分の濃度が低い状態から高くなるにつれて、前記ストーカ炉本体の前記水管へ供給する前記ボイラ水の目標温度を、前記廃熱ボイラのボイラ圧力に応じた飽和水の温度から、順次引き下げた温度に設定する処理と、前記熱交換器を通過した後の前記ボイラ水の温度を、前記目標温度に一致させるために必要とされる、前記熱交換器に供給する前記流体の流量を求めて、目標流量として設定する処理と、設定された前記目標流量を、前記流量調節部へ指令として与える処理と、を行う腐食抑制方法とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の腐食抑制方法および装置によれば、回転ストーカ式焼却炉における廃熱ボイラで発生させる蒸気の高圧化を図る場合に、ストーカ炉本体の腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】腐食抑制方法の実施に用いる腐食抑制装置の第1実施形態を示す概略図である。
図2】回転ストーカ式焼却炉の基本構成を示す図である。
図3】排ガス中の腐食性成分の濃度と、水管へ供給するボイラ水の目標温度との関係の一例を示す図である。
図4】腐食抑制装置の制御器による処理を示すフロー図である。
図5】腐食抑制装置の第2実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の腐食抑制方法及び装置について、図面を参照して説明する。
【0026】
[第1実施形態]
図1は、本開示の腐食抑制方法の実施に用いる腐食抑制装置の第1実施形態を示す概略図である。図2は、回転ストーカ式焼却炉の基本構成を示すもので、図2(a)は、切断側面図、図2(b)は、図2(a)のA-A方向矢視図、図2(c)は、図2(b)のB部を拡大して示す図である。図3は、排ガス中の腐食性成分の濃度と、水管へ供給するボイラ水の目標温度との関係の一例を示す図である。図4は、腐食抑制装置の制御器による処理を示すフロー図である。
【0027】
本実施形態の腐食抑制装置は、図2(a)(b)(c)に示す如き回転ストーカ式焼却炉1に適用される。
【0028】
ここで、回転ストーカ式焼却炉1の基本的な構成について説明する。
【0029】
回転ストーカ式焼却炉1は、図2(a)(b)(c)に示すように、内部空間が一次燃焼室となる円筒状のストーカ炉本体2を備えている。
【0030】
ストーカ炉本体2は、リング状に形成された入口側ヘッダー管3および出口側ヘッダー管4と、各ヘッダー管3,4の間に周方向に一定間隔で配置されて、両端側が各ヘッダー管3,4に連通接続された複数の水管5と、隣接する水管5同士の間の隙間に取り付けられたフィン6と、フィン6に穿設された空気孔7とを備えた構成とされている。これにより、ストーカ炉本体2は、炉壁が、水管5と空気孔7を備えたフィン6とによって形成されたストーカとなっている。
【0031】
ストーカ炉本体2は、カバーケーシング8内に、入口側ヘッダー管3よりも出口側ヘッダー管4の方が低くなる傾斜姿勢で、回転可能に横置きされている。
【0032】
回転ストーカ式焼却炉1は、更に、ストーカ炉本体2を回転駆動する駆動装置9と、ストーカ炉本体2の下方から一次燃焼空気11を供給する風箱10と、処理対象物としての廃棄物13用の投入ホッパ12と、投入ホッパ12内の廃棄物13をストーカ炉本体2の内側へ装入する給じん装置14とを備えた構成とされている。
【0033】
回転ストーカ式焼却炉1は、ストーカ炉本体2の下流側には、カバーケーシング8に接続された二次燃焼室15と、熱回収を行う廃熱ボイラ16とを備えた構成とされている。二次燃焼室15には、二次燃焼空気18を供給するノズル17が設けられている。
【0034】
これにより、回転ストーカ式焼却炉1は、駆動装置9によりストーカ炉本体2を回転駆動させた状態にて、投入ホッパ12内の廃棄物13を給じん装置14でストーカ炉本体2内へ装入することができ、更に、ストーカ炉本体2内で、廃棄物13を、風箱10からフィン6の空気孔7を通して下方より吹き込まれる一次燃焼空気11により燃焼させることができる。
【0035】
また、回転ストーカ式焼却炉1は、ストーカ炉本体2内における廃棄物13の燃焼時に発生する未燃ガスは、二次燃焼室15に導いて、ノズル17より吹き込む二次燃焼空気18により燃焼させることができ、この燃焼により発生する熱は、二次燃焼室15に連設した廃熱ボイラ16により熱回収するようにしてある。
【0036】
本実施形態では、回転ストーカ式焼却炉1の廃熱ボイラ16の下流側には、図1に示すように、廃熱ボイラ16より排出される排ガス19の流通路20に、減温塔21と、集じん装置22と、誘引送風機23が順に設けられ、流通路20の下流側が煙突24に接続されている。
【0037】
更に、流通路20における集じん装置22の上流側となる位置には、薬剤供給装置25が取り付けられている。薬剤供給装置25は、消石灰などの酸性ガス吸収用の薬剤26を、設定された供給量で、流通路20を流通する排ガス19中に分散させて供給する機能を備えている。これにより、流通路20を流通する排ガス19は、排ガス19中に含まれている塩化水素(HCl)や硫黄酸化物(SOx)などの酸性ガスが、薬剤供給装置25より供給された薬剤26により中和されて除去される。この薬剤26による酸性ガスの中和反応で生じる反応生成物は、流通路20を流通する排ガス19の流れにより集じん装置22へ送られて、集じん装置22における集じん処理により、飛灰や煤塵と共に排ガス19中から分離される。
【0038】
また、回転ストーカ式焼却炉1では、図1図2(a)に示すように、ストーカ炉本体2の出口側ヘッダー管4に、ロータリージョイント27が接続されている。
【0039】
更に、図1に示すように、ロータリージョイント27の冷却水入口27aには、循環ポンプ29を備えた冷却水供給ライン28の下流側端部となる一端側が接続されている。冷却水供給ライン28の上流側端部となる他端側は、廃熱ボイラ16に接続されている。
【0040】
ロータリージョイント27の冷却水出口27bには、冷却水戻りライン30の上流側端部となる一端側が接続されている。冷却水戻りライン30の下流側端部となる他端側は、廃熱ボイラ16に接続されている。
【0041】
これにより、回転ストーカ式焼却炉1は、循環ポンプ29の運転により、廃熱ボイラ16より冷却水供給ライン28を通して導かれるボイラ水31を、ロータリージョイント27を介してストーカ炉本体2の水管5へ冷却水として循環供給することができる。したがって、回転ストーカ式焼却炉1では、水管5に循環供給されるボイラ水31により、ストーカ炉本体2の炉壁における水管5およびフィン6を冷却することができると共に、熱回収を行うことができる。この水管5での熱回収に供されて昇温したボイラ水31は、ロータリージョイント27および冷却水戻りライン30を経て廃熱ボイラ16へ導かれ、廃熱ボイラ16における蒸気発生用の熱源として利用される。
【0042】
なお、図2(a)(b)(c)における符号32は、回転ストーカ式焼却炉1に備えられた焼却灰の後燃焼装置、符号33は、風箱10から供給される一次燃焼空気11のカバーケーシング8内への吹き抜けを抑制するシール部材である。
【0043】
以上の構成としてある回転ストーカ式焼却炉1に適用する本実施形態の腐食抑制装置は、図1に符号34で示すもので、回転ストーカ式焼却炉1より排出される排ガス19中の腐食性成分の濃度の情報を取得する濃度情報取得装置としての測定器35と、冷却水供給ライン28に設けられた熱交換器36と、ボイラ水31よりも低温の流体37(以下、低温流体37という)を供給する供給部38と、供給部38と熱交換器36を接続する供給ライン39と、供給ライン39に設けられた流量調節部としての流量調節弁40と、制御器41と、を備えた構成とされている。
【0044】
測定器35は、本実施形態では、排ガス19の流通路20における減温塔21よりも下流側で、且つ薬剤供給装置25の取り付け個所よりも上流側となる位置に設けられている。この構成によれば、測定器35は、回転ストーカ式焼却炉1より排出される排ガス19であって、薬剤26による酸性ガスの中和の処理が行われる以前の排ガス19を対象として、排ガス19中の腐食性成分の濃度の測定を行うことができる。なお、測定器35が備える耐熱性能に応じて、測定器35は、流通路20における減温塔21よりも上流側となる位置に設けられていてもよい。
【0045】
ところで、測定器35が測定対象とする排ガス19は、腐食性成分を含んだ状態である。そのため、測定器35としては、排ガス19と非接触で腐食性成分の濃度の測定を行うことが可能な非接触式の測定器35、たとえば、レーザ分析計のような測定器35を用いることが好ましい。
【0046】
本実施形態における測定器35は、たとえば、腐食性成分として、排ガス19中の塩化水素(HCl)の濃度CHCl[ppm]と、硫黄酸化物(SOx)の濃度CSOx[ppm]とを測定する機能を備えている。なお、測定器35が排ガス19中の塩化水素の濃度CHCl、および、硫黄酸化物の濃度CSOxを測定する機能を備えるものとしたのは、ストーカ炉本体2の腐食に関与する金属塩が、主として金属塩化物、硫酸塩、および、それらの共晶塩であるためである。
【0047】
更に、測定器35は、測定結果を、回転ストーカ式焼却炉1より排出される排ガス19中の塩化水素の濃度CHClと、硫黄酸化物の濃度CSOxの情報として、制御器41へ送る機能を備えている。
【0048】
熱交換器36は、本実施形態では、冷却水供給ライン28における循環ポンプ29よりも下流側となる位置に設けられている。
【0049】
熱交換器36は、ボイラ水31の流路42と、低温流体37の流路43とを、伝熱面により仕切られた状態で備えた構成とされている。なお、伝熱面は、伝熱管の管壁や、平板など、任意の形式のものであってよいことは勿論である。
【0050】
流路42は、入口42aに、上流側の冷却水供給ライン28の下流側端部が接続され、出口42bに、下流側の冷却水供給ライン28の上流側端部が接続されている。
【0051】
流路43の入口43aには、供給ライン39の下流側端部が接続されている。この供給ライン39の上流側は、供給部38に接続されている。流路43の出口43bには、低温流体37の回収ライン44の上流側が接続されている。回収ライン44の下流側は、低温流体37の保有する熱を利用する熱利用部45に接続されている。
【0052】
これにより、熱交換器36は、循環ポンプ29の運転により廃熱ボイラ16から冷却水供給ライン28を通して導かれるボイラ水31を流路42に流通させ、且つ供給部38から供給ライン39を通して導かれる低温流体37を流路43に流通させる状態で、ボイラ水31と低温流体37との熱交換を行わせることができる。低温流体37は、廃熱ボイラ16から飽和水として供給されるボイラ水31よりも温度が低い。このため、熱交換器36では、ボイラ水31と低温流体37との熱交換により、ボイラ水31から低温流体37へ熱の移動を行わせることができて、ボイラ水31の温度を低下させることができる。
【0053】
ところで、廃熱ボイラ16から冷却水供給ライン28へ導かれるボイラ水31は、飽和水であるため、廃熱ボイラ16に設定されているボイラ圧力に応じて温度が決まっている。また、ストーカ炉本体2の炉壁における水管5およびフィン6を冷却する必要上、循環ポンプ29の運転によりストーカ炉本体2の水管5に循環供給するボイラ水31の供給量は決まっている。よって、熱交換器36では、流路42を流通するボイラ水31の流量はほぼ一定となっている。
【0054】
本実施形態の腐食抑制装置34は、供給ライン39に、熱交換器36へ供給する低温流体37の供給量を調節する流量調節部として、流量調節弁40を備えているので、流量調節弁40を閉止操作すると、熱交換器36の流路43へ供給される低温流体37の流量はゼロになる。この場合は、流路43内に留まる低温流体37と、流路42を流通するボイラ水31との間での熱の移動が平衡になり、ボイラ水31は、温度低下することなしに熱交換器36を通過するようになる。よって、この場合は、ストーカ炉本体2の水管5に対して、廃熱ボイラ16より冷却水供給ライン28へ導かれるボイラ水31を、温度を低下させずに供給することができる。
【0055】
また、本実施形態の腐食抑制装置34は、流量調節弁40を閉止状態から開方向に操作して、熱交換器36の流路43へ供給される低温流体37の流量を次第に増加させると、熱交換器36では、ボイラ水31から低温流体37への熱の移動を促進することができる。
【0056】
このため、本実施形態の腐食抑制装置34は、流量調節弁40の操作により流路43に流通させる低温流体37の流量の増減に応じて、熱交換器36にて、ボイラ水31から低温流体37への熱の移動量を増減させることができて、熱交換器36を通過する際のボイラ水31の温度の低下量を増減させることができる。
【0057】
したがって、本実施形態の腐食抑制装置34は、循環ポンプ29を運転した状態で、流量調節弁40の操作により熱交換器36の流路43への低温流体37の供給を停止した状態では、廃熱ボイラ16より飽和水の状態で冷却水供給ライン28へボイラ水31を、温度を保持したままストーカ炉本体2の水管5へ供給することができる。よって、この場合は、ストーカ炉本体2では、水管5の温度が、飽和水としてのボイラ水31の温度に応じた温度に冷却される。
【0058】
これに対し、本実施形態の腐食抑制装置34は、循環ポンプ29を運転した状態で、流量調節弁40の操作により熱交換器36の流路43への低温流体37の供給量を増加させると、低温流体37の供給量の増加に従い、熱交換器36の流路42を通過する際に、より低い温度とされるボイラ水31を、ストーカ炉本体2の水管5へ供給することができる。よって、この場合は、ストーカ炉本体2では、水管5の温度が、ボイラ水31の低下した温度に応じた温度に冷却される。
【0059】
なお、このように、ボイラ水31の温度が低下した状態でストーカ炉本体2の水管5に供給される場合であっても、廃熱ボイラ16のボイラ圧力、廃熱ボイラ16からストーカ炉本体2の水管5へボイラ水31を循環供給する経路の圧力の条件は、特に変更する必要はない。
【0060】
本実施形態の腐食抑制装置34では、熱交換器36でボイラ水31との熱交換に供された後の昇温した低温流体37は、回収ライン44を介して熱利用部45に導かれて、この熱利用部45で、低温流体37の保有する熱の利用が図られる。なお、本実施形態の腐食抑制装置34は、前記したように、熱交換器36への低温流体37の供給量を、変化させる場合があり、ゼロとする場合もある。したがって、熱交換器36から回収ライン44を通る低温流体37によって熱利用部45へ送られる熱の量は、状況に応じて変化し、ゼロとなる場合もある。よって、熱利用部45は、低温流体37より受け取る熱の量が変化することや、ゼロとなることにも対応可能な機能、構成を備えるものとすればよい。この種の熱利用部45の例としては、たとえば、バイナリー発電装置がある。
【0061】
次に、制御器41の機能について説明すると共に、本実施形態の腐食抑制装置34により実施する腐食抑制方法について説明する。
【0062】
制御器41は、図1に示すように、測定器35より、排ガス19中の塩化水素の濃度CHCl、および、硫黄酸化物の濃度CSOxの情報を受け取る機能を備えている。
【0063】
更に、制御器41は、目標温度設定機能と、目標流量設定機能と、該目標流量設定機能で設定された目標流量を流量調節弁40へ指令する機能とを備えた構成とされている。
【0064】
ここで、制御器41の前記各機能を実施する際に前提となる条件を説明する。
【0065】
回転ストーカ式焼却炉1は、実機では、ストーカ炉本体2の水管5を含む構成は既知であり、ストーカ炉本体2における熱交換に関する性能は決まっている。よって、回転ストーカ式焼却炉1では、運転中にストーカ炉本体2の水管5を流通させるボイラ水31の温度と、水管5を含むストーカ炉本体2の炉壁の温度との相関性が、設計情報、あるいは、実機を用いた試験などにより既知となっている。
【0066】
また、回転ストーカ式焼却炉1では、前記したように、廃熱ボイラ16に設定されているボイラ圧力に応じて、廃熱ボイラ16から冷却水供給ライン28へ導かれるボイラ水31の温度は、決まっている。更に、循環ポンプ29の運転によりストーカ炉本体2の水管5に循環供給されるボイラ水31の供給量は決まっている。この供給量は、廃熱ボイラ16から冷却水供給ライン28を介して熱交換器36の流路42に供給されるボイラ水31の供給量と同様である。
【0067】
また、熱交換器36は、仕様により、流路42を流通するボイラ水31と、流路43を流通する低温流体37との熱交換に関する性能は決まっている。
【0068】
更に、供給部38から供給ライン39を介して熱交換器36の流路43に供給される低温流体37の温度は、或る一定の温度に保持されているものとする。
【0069】
これにより、熱交換器36では、流路42に供給されるボイラ水31の温度と流量が決まっており、流路43に流通させる低温流体37の温度が決まっているため、ボイラ水31と低温流体37との熱交換量は、流路43に流通する低温流体37の流量と相関性を有するようになる。
【0070】
したがって、熱交換器36では、流路43に供給する低温流体37の流量の変化に応じて、流路42を通過した後に冷却水供給ライン28を介してストーカ炉本体2の水管5へ送られるボイラ水31の温度を変化させることができる。そこで、制御器41は、流路43に供給される低温流体37の流量と、流路42を通過した後に冷却水供給ライン28を介してストーカ炉本体2の水管5へ送られるボイラ水31の温度との関係の情報を、予め記憶している。
【0071】
また、回転ストーカ式焼却炉1では、廃棄物13の一次燃焼室となるストーカ炉本体2の内側に、金属塩化物、硫酸塩のような金属塩が生じる場合があり、更には、複数の金属塩から、より低温で溶融する共晶塩が生じることがある。このように、ストーカ炉本体2の内側で金属塩化物や硫酸塩、および、共晶塩が生じる状況の場合は、回転ストーカ式焼却炉1では、回転ストーカ式焼却炉1より排出される排ガス19中の塩化水素の濃度CHCl、および、硫黄酸化物の濃度CSOxが高まる。
【0072】
そこで、回転ストーカ式焼却炉1については、排ガス19中の塩化水素の濃度CHCl、および、硫黄酸化物の濃度CSOxを基に、次の(1)式で示されるように、塩化水素の濃度CHCl、および、硫黄酸化物の濃度CSOxに重みを与える濃度係数の演算を行うと、ストーカ炉本体2の内側での金属塩、共晶塩の発生量、および、発生する種類を推定することができる。
【0073】
(濃度係数)=η(α×CHCl+β×CSOx) ・・・(1)
【0074】
ここで、α、βおよびηは、金属塩、共晶塩の発生の推定に際して、塩化水素の濃度CHCl、硫黄酸化物の濃度CSOx、および、その双方の濃度に重みを与える定数であり、実験や経験則から定めるようにすればよい。
【0075】
ところで、前記濃度係数からは、ストーカ炉本体2の内側での金属塩、共晶塩の発生量、および、発生する種類を推定することができる。この発生が推定された金属塩や共晶塩がストーカ炉本体2の内側に存在する状況で、ストーカ炉本体2の腐食を抑制するための対策としては、ストーカ炉本体2の温度を、前記金属塩や共晶塩が溶融しない温度領域まで引き下げるようにすればよい。
【0076】
なお、或る金属塩や共晶塩が溶融しない温度領域の情報は、該金属塩や共晶塩の融点から既知である。また、前記したように、ストーカ炉本体2の水管5を流通させるボイラ水31の温度と、水管5を含むストーカ炉本体2の炉壁の温度との相関性は、既知である。
【0077】
そこで、本実施形態における制御器41は、図3に示すように、濃度係数と、ストーカ炉本体2の水管5に供給するボイラ水31の目標温度Tsとの関係を定めた情報を、予め記憶している。
【0078】
図3では、一例として、濃度係数の値がy1よりも大となる場合は、ボイラ水31の目標温度Tsを、x1からx2までの温度領域とし、濃度係数の値がy1以下で且つy2よりも大となる場合は、ボイラ水31の目標温度Tsを、x2からx3までの温度領域とし、濃度係数の値がy2以下の場合は、ボイラ水31の目標温度Tsを、x3からx4までの温度領域とする場合を示している。ここで、x1<x2<x3<x4である。なお、図1では、濃度係数と、ボイラ水31の目標温度Tsについて、3つの区分を設定した例を示したが、2区分、あるいは、4区分以上の複数区分を設定してもよいことは勿論である。また、ボイラ水31の目標温度Tsの最も高温側の温度領域は、たとえば、廃熱ボイラ16のボイラ圧力に応じた飽和水としてのボイラ水31の温度に設定してよいことは勿論である。
【0079】
次に、制御器41が実施する処理について、図4を用いて説明する。
【0080】
回転ストーカ式焼却炉1の運転を開始すると、制御器41は処理を開始し、先ず、測定器35より、回転ストーカ式焼却炉1より排出される排ガス19中の塩化水素の濃度CHCl、および、硫黄酸化物の濃度CSOxの情報を受け取る(ステップS1)。
【0081】
次に、制御器41は、受け取った濃度CHCl、および、濃度CSOxの情報を基に、前記(1)式により、濃度係数を演算する(ステップS2)。
【0082】
更に、制御器41は、目標温度設定機能として、前記ステップS2で求めた濃度係数を基に、記憶してある図3の情報を使用して、その濃度係数の区分に応じたボイラ水31の目標温度を求める(ステップS3)。
【0083】
次いで、制御器41は、濃度係数が、同一区分にて、設定された時間、継続したか否かを判断する判断処理を行う(ステップS4)。
【0084】
前記ステップS4の判断処理により、濃度係数が同一区分にて設定された時間継続していないと判断される場合は、制御器41は、前記ステップS1に戻り、ステップS1からの処理を再び実施する。
【0085】
一方、前記ステップS4の判断処理により、濃度係数が同一区分にて設定された時間継続したと判断される場合は、制御器41は、ステップS5に進む。
【0086】
制御器41は、ステップS5では、目標流量設定機能として、記憶している熱交換器36の流路43に供給する低温流体37の流量と、流路42を通過した後のボイラ水31の温度との関係の情報を基に、ボイラ水31の温度を、前記ステップS3で求めたボイラ水31の目標温度に一致させるために必要とされる、熱交換器36の流路43に供給する低温流体37の流量を求めて、流量目標として設定する。
【0087】
その後、制御器41は、前記ステップS5で設定した目標流量を、流量調節弁40へ指令として与える処理を行う(ステップS6)。
【0088】
これにより、本実施形態の腐食抑制装置34では、供給ライン39に備えた流量調節弁40が、制御器41からの指令に応じて操作される。このため、廃熱ボイラ16から熱交換器36の流路42へ供給されたボイラ水31は、流路42を通過する間に、低温流体37との熱交換が行われて、制御器41のステップS3で設定された目標温度Tsに対応する温度とされる。
【0089】
この際、本実施形態の腐食抑制装置34は、図1に示すように、熱交換器36の流路42の出口42bに接続された下流側の冷却水供給ライン28に、熱交換器36を経た後、ストーカ炉本体2の水管5へ供給されるボイラ水31の温度を測定する温度計46を備えた構成として、この温度計46によるボイラ水31の温度の実測値の情報を、制御器41に入力する構成とすることがより好ましい。この構成によれば、制御器41は、温度計46より受け取るボイラ水31の温度の実測値が、前記ステップS3で設定された目標温度Tsに一致するように、熱交換器36の流路43に供給する低温流体37の目標流量に対するフィードバック制御を行うことができる。よって、この構成の場合は、ストーカ炉本体2の水管5へ供給されるボイラ水31の温度を、目標温度Tsに制御する場合の制御性の向上化を図ることができる。
【0090】
したがって、本実施形態の腐食抑制装置34を備えた回転ストーカ式焼却炉1では、ストーカ炉本体2の水管5へ供給されるボイラ水31の温度が、前記目標温度Tsに対応する温度となっているので、ストーカ炉本体2の温度が、その時点でストーカ炉本体2の内側で生じていると推定される金属塩や共晶塩が溶融しない温度領域に制御される。
【0091】
これにより、ストーカ炉本体2は、溶融した金属塩や共晶塩による腐食の発生が抑制される。
【0092】
制御器41は、前記ステップS6の処理が終了すると、前記ステップS1に戻り、ステップS1からの処理を再び実施する。
【0093】
以上の構成としてある本実施形態の腐食抑制装置34は、回転ストーカ式焼却炉1より排出される排ガス19中の腐食性成分としての塩化水素の濃度CHCl、および、硫黄酸化物の濃度CSOxの情報を取得する処理と、その情報を基に、前記(1)式による濃度係数を演算する処理と、得られた濃度係数を基に、ストーカ炉本体2の水管5に供給するボイラ水31の目標温度Tsを求める処理と、冷却水供給ライン28に備えた熱交換器36を通過した後のボイラ水31の温度を、目標温度Tsに一致させるために必要とされる、熱交換器36に供給する低温流体37の流量を求めて、流量目標として設定する処理と、設定された流量目標を、熱交換器36に低温流体37を供給する供給ライン39に備えた流量調節弁40へ、指令として与える処理と、を行う腐食抑制方法を実施することができる。
【0094】
これにより、本実施形態の腐食抑制装置34は、制御器41により、回転ストーカ式焼却炉1について、排ガス19中の塩化水素の濃度CHCl、および、硫黄酸化物の濃度CSOxが低い状態から高くなるにつれて、ストーカ炉本体2の水管5へ供給するボイラ水31の温度を、廃熱ボイラ16のボイラ圧力に応じた飽和水の温度から、順次引き下げた目標温度に設定する制御を行うことができる。
【0095】
回転ストーカ式焼却炉1は、廃熱ボイラ16で発生させる蒸気の高圧化を図る場合、廃熱ボイラ16より冷却水供給ライン28へ導かれる飽和水としてのボイラ水31は高温化する。これに対し、本実施形態の腐食抑制方法および装置は、排ガス19中の腐食性成分である塩化水素の濃度CHCl、および、硫黄酸化物の濃度CSOxが低い状態から高くなるにつれて、すなわち、ストーカ炉本体2の内側で、金属塩化物や硫酸塩などの金属塩や、共晶塩の発生が推定される場合は、ストーカ炉本体2の水管5へ供給するボイラ水31の温度を、予め、熱交換器36にて、廃熱ボイラ16のボイラ圧力に応じた飽和水の温度から順次引き下げることができる。よって、本実施形態の腐食抑制方法および装置は、ストーカ炉本体2の水管5とフィン6とを備える炉壁の温度を、ストーカ炉本体2の内側で発生していると推定される金属塩や共晶塩が溶融しない温度領域に制御することができるため、ストーカ炉本体2の炉壁に腐食が発生する虞を抑制することができる。
【0096】
本実施形態の腐食抑制装置34は、従来と同様の形式の回転ストーカ式焼却炉1に対しては、冷却水供給ライン28における循環ポンプ29の下流側に、熱交換器36を備え、廃熱ボイラ16よりも下流側の排ガス19の流通路20に、排ガス19中の腐食性成分の濃度を測定する測定器35を接続する点以外は、特に構造変更を要することはない。よって、本実施形態の腐食抑制装置34は、従来と同様の形式の回転ストーカ式焼却炉1に、容易に適用することができる。
【0097】
[第2実施形態]
図5は腐食抑制装置の第2実施形態を示す概略図である。
【0098】
なお、図5において、第1実施形態と同一のものには同一符号を付して、その説明を省略する。
【0099】
本実施形態の腐食抑制装置34は、第1実施形態と同様の構成において、排ガス19の流通路20における薬剤供給装置25の取り付け個所よりも上流側に測定器35を設けた構成に代えて、回転ストーカ式焼却炉1より排出される排ガス19中の腐食性成分の濃度の情報を取得する濃度情報取得装置が、排ガス19の流通路20における集じん装置22よりも下流側となる位置に設けられた測定器47と、計算装置48とを備える構成としたものである。
【0100】
測定器47は、本実施形態では、排ガス19の流通路20における誘引送風機23の下流側となる位置に設けられている。この構成によれば、測定器47は、集じん装置22を通過した後の排ガス19を対象として、腐食性成分の濃度の測定を行うことができる。したがって、この構成では、回転ストーカ式焼却炉1(図2(a)(b)(c)参照)より排出される排ガス19中に含まれている飛灰や煤塵が、測定器47に付着したり、測定器47におけるガスの通路に詰まったりして、測定器47の測定結果に影響を及ぼす虞を抑制することができる。
【0101】
測定器47は、第1実施形態における測定器35と同様に、腐食性成分として、排ガス19中の塩化水素の濃度CHCl[ppm]と、硫黄酸化物の濃度CSOx[ppm]とを測定する機能を備えている。
【0102】
また、測定器47は、流通路20を流通する排ガス19の流量Qg[mN/h]を測定する機能も備えている。
【0103】
更に、測定器47は、前記各機能による測定結果を、計算装置48へ送る機能を備えている。
【0104】
ところで、測定器47の測定結果として得られる排ガス19中の塩化水素の濃度CHClと、硫黄酸化物の濃度CSOxは、薬剤供給装置25より供給された薬剤26によって処理された後の排ガス19中に残る塩化水素と硫黄酸化物に関する濃度である。
【0105】
なお、排ガス19の処理に用いられる薬剤26については、薬剤26の単位重量当たりの塩化水素除去反応による塩化水素の除去量δHCl[mN/kg]と、薬剤26の単位重量当たりの硫黄酸化物除去反応による硫黄酸化物の除去量δSOx[mN/kg]は、既存の回転ストーカ式焼却炉や、その他の形式の焼却炉の排ガス処理などで得られた過去の実績データから、求めることができる。なお、便宜上、以下の説明では、δHClは、薬剤26の単位重量当たりの塩化水素除去量といい、δSOxは、薬剤26の単位重量当たりの硫黄酸化物除去量という。
【0106】
具体的には、薬剤供給装置25より排ガス19の流通路20へ供給される薬剤26のうち、塩化水素の除去反応に寄与する割合、および、硫黄酸化物の除去反応に寄与する割合は、過去の実績データから求まる。これを、薬剤26の塩化水素除去反応の寄与率εHCl[%]、硫黄酸化物除去反応の寄与率εSOx[%]とする。
【0107】
また、薬剤26については、分子量Mは公知であり、薬剤26による塩化水素の中和反応の反応式、および、薬剤26による硫黄酸化物の中和反応の反応式も公知である。この分子量Mと反応式からは、1molの薬剤26と反応する塩化水素の体積MHCl[mN]、および、1molの薬剤26と反応する硫黄酸化物の体積MSOx[mN]を、求めることができる。
【0108】
よって、薬剤26の単位重量当たりの塩化水素除去量δHCl[mN/kg]の値は、MHCl÷M×εHCl÷100の計算で算出することができる。
【0109】
同様に、薬剤26の単位重量当たりの硫黄酸化物除去量δSOx[mN/kg]の値は、MSOx÷M×εSOx÷100の計算で算出することができる。
【0110】
そこで、計算装置48は、測定器47より濃度CHCl、濃度CSOx、および、排ガス19の流量Qgの測定結果を受け取る機能と、薬剤26の単位重量当たりの塩化水素除去量δHCl[mN/kg]および硫黄酸化物除去量δSOx[mN/kg]の情報を記憶する機能と、薬剤供給装置25より薬剤供給量Wの情報を受け取る機能とを備え、更に、以下の(2)式および(3)式を用いた計算により、薬剤26と反応した塩化水素の流量QRHCl[mN/h]と、薬剤26と反応した硫黄酸化物の流量QRSOx[mN/h]とを算出する機能を備えている。
RHCl[mN/h]=δHCl[mN/kg]×W[kg/h]・・・(2)
RSOx[mN/h]=δSOx[mN/kg]×W[kg/h]・・・(3)
【0111】
更に、計算装置48は、以下の(4)式に示すように、前記(2)式で求めた流量QRHClを排ガス流量Qgで割ることにより、薬剤26と反応した塩化水素の濃度を算出し、その濃度に、測定器47より受け取った濃度CHCl[ppm]の測定結果の値を足すことで、回転ストーカ式焼却炉1より排出される排ガス19であって、薬剤26による処理が行われる以前の排ガス19中の塩化水素の濃度CHCl[ppm]の情報を取得する機能を備えている。
CiHCl[ppm]=QRHCl÷Qg+CoHCl ・・・(4)
ここで、前記(4)式では、薬剤処理の前後の濃度を識別するために、CiHCl:薬剤処理前の塩化水素の濃度、CoHCl:薬剤処理後の塩化水素の濃度としている。
【0112】
また、計算装置48は、以下の(5)式に示すように、前記(3)式で求めた流量QRSOxを排ガス流量Qgで割ることにより、薬剤26と反応した硫黄酸化物の濃度を算出し、その濃度に、測定器47より受け取った濃度CSOx[ppm]の測定結果の値を足すことで、回転ストーカ式焼却炉1より排出される排ガス19であって、薬剤26による処理が行われる以前の排ガス19中の硫黄酸化物の濃度CSOx[ppm]の情報を取得する機能を備えている。
CiSOx[ppm]=QRSOx÷Qg+CoSOx ・・・(5)
ここで、前記(5)式では、薬剤処理の前後の濃度を識別するために、CiSOx:薬剤処理前の硫黄酸化物の濃度、CoSOx:薬剤処理後の硫黄酸化物の濃度としている。
【0113】
なお、前記(4)式および(5)式では、最終的に算出するCiHClとCiSOxの濃度の単位がppmである点を考慮して、簡略化した計算手法を示している。
【0114】
よって、回転ストーカ式焼却炉1より排出される排ガス19であって、薬剤26による処理が行われる以前の排ガス19中の塩化水素の濃度CHCl、および、硫黄酸化物の濃度CSOxの情報を、より正確に取得する場合は、計算装置48は、以下の計算手法を実施するようにしてもよい。
【0115】
すなわち、計算装置48は、測定器47より受け取る濃度CHClと濃度CSOx、及び、排ガス流量Qgの測定結果を基に、薬剤処理後の塩化水素の濃度と硫黄酸化物の濃度を流量に換算する計算を行い、その計算結果を、薬剤処理前の塩化水素の流量と、硫黄酸化物の流量にそれぞれ足し、次いで、その合計を排ガス流量で割ることで、薬剤26による処理が行われる以前の排ガス19中の塩化水素の濃度CHCl、および、硫黄酸化物の濃度CSOxの情報を取得する。
【0116】
計算装置48は、前記(4)式で算出されたCiHClの値と、前記(5)式で算出されたCiSOxの値を、回転ストーカ式焼却炉1より排出される排ガス19中の塩化水素の濃度CHClと、硫黄酸化物の濃度CSOxの情報として、制御器41へ送る機能を備えている。
【0117】
したがって、制御器41は、計算装置48から受け取る情報を基に、第1実施形態における制御器41と同様に、図4に示した処理を行うことができる。
【0118】
よって、本実施形態の腐食抑制装置34によっても、第1実施形態と同様の腐食抑制方法を実施することができて、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0119】
なお、本開示の腐食抑制方法および装置は、前記各実施形態にのみ限定されるものではない。
【0120】
図1図5に示した各機器のサイズや配置は、図示するための便宜上のもので、実際の機器の配置やサイズを反映したものではない。
【0121】
制御器41は、図4に示したステップS2の処理に続いて、ステップS4の判断処理を行い、この判断処理により、濃度係数が同一区分にて設定された時間継続したと判断される場合に、ステップS3の処理を行い、その後、ステップS5の処理に進むようにしてもよい。
【0122】
前記各実施形態は、熱交換器36の流路43へ供給する低温流体37の流量の調節は、流量調節弁40の操作によって行う例を示した。これに対し、本開示の腐食抑制装置は、たとえば、低温流体37の供給部として、ポンプの運転の制御により低温流体37の送出量を可変とする形式の供給部を備えた構成として、この供給部のポンプの運転を、制御器41からの指令で制御することで、熱交換器36の流路43へ供給する低温流体37の流量の調節を行うようにしてもよい。この構成では、前記供給部が、熱交換器36へ供給する低温流体37の供給量を調節する流量調節部として機能する。この構成によっても、本開示の腐食抑制装置は、前記各実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0123】
本開示の腐食抑制方法および装置は、廃熱ボイラのボイラ水をストーカ炉本体の水管に冷却水として供給する形式の回転ストーカ式焼却炉であれば、従来、実施されているか、または、提案されている、いかなる形式の回転ストーカ式焼却炉に適用してもよい。
【0124】
本開示の腐食抑制方法および装置を適用する回転ストーカ式焼却炉は、廃棄物13以外の処理対象物を焼却処理するものであってもよい。
【0125】
回転ストーカ式焼却炉1で焼却処理する処理対象物の性状に応じて、ストーカ炉本体2の内側で、金属塩化物、硫酸塩以外の別の金属塩が生じることが想定される場合は、本開示の腐食抑制装置は、測定器を、前記別の金属塩に関連する排ガス中の塩化水素および硫黄酸化物以外の腐食性成分の濃度を測定する機能を備えるものとし、更に、制御器は、前記別の金属塩も溶融しない温度領域に、ストーカ炉本体の温度を制御する機能を備えるものとしてもよい。
【0126】
第2実施形態では、測定器47が、排ガス19中の腐食性成分である塩化水素の濃度CHCl[ppm]、硫黄酸化物の濃度CSOx[ppm]を測定する機能と、流通路20を流通する排ガス19の流量Qg[mN/h]を測定する機能とを備えるものとしたが、腐食性成分の濃度測定機能を備えた測定器と、排ガス19の流量測定機能を備えた測定器とを別々に備える構成としてもよい。
【0127】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0128】
1 回転ストーカ式焼却炉
2 ストーカ炉本体
5 水管
16 廃熱ボイラ
19 排ガス
28 冷却水供給ライン
31 ボイラ水
35 測定器(濃度情報取得装置)
36 熱交換器
37 低温流体(流体)
39 供給ライン
40 流量調節弁(流量調節部)
41 制御器
46 温度計
47 測定器(濃度情報取得装置)
48 計算装置(濃度情報取得装置)
HCl 塩化水素の濃度(腐食性成分の濃度)
SOx 硫黄酸化物の濃度(腐食性成分の濃度)
Ts 目標温度
図1
図2
図3
図4
図5