(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】遺伝子工学菌
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20220323BHJP
C12P 7/22 20060101ALI20220323BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20220323BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20220323BHJP
C12R 1/19 20060101ALN20220323BHJP
【FI】
C12N1/21
C12P7/22
C12N15/53
C12N15/60
C12R1:19
(21)【出願番号】P 2020500711
(86)(22)【出願日】2017-11-10
(86)【国際出願番号】 CN2017110338
(87)【国際公開番号】W WO2019024309
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-02-21
(31)【優先権主張番号】201710659225.1
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514262886
【氏名又は名称】江南大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 1800 Lihu Avenue, Bin Hu District, Wuxi, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】蔡宇傑
(72)【発明者】
【氏名】劉金彬
(72)【発明者】
【氏名】熊天真
(72)【発明者】
【氏名】丁彦蕊
(72)【発明者】
【氏名】白亜軍
(72)【発明者】
【氏名】鄭暁暉
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】GUO, D., et al.,"Metabolic engineering of Escherichia coli for production of 2-Phenylethylacetate from L-phenylalanine.",MICROBIOLOGYOPEN,2017年04月24日,Vol.6,e486(pp.1-5),DOI: 10.1002/mbo3.486
【文献】HOU, Y., et al.,"Production of phenylpyruvic acid from L-phenylalanine using an L-amino acid deaminase from Proteus mirabilis: comparison of enzymatic and whole-cell biotransformation approaches.",APPLIED MICROBIOLOGY AND BIOTECHNOLOGY,2015年06月25日,Vol.99,pp.8391-8402,DOI: 10.1007/s00253-015-6757-0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低コストでフェニルエタノール類化合物が生産できる大腸菌組換え菌であって、
プロテウス ミラビリス(Proteus mirabilis
)ATCC 29906又は
コセンゼア ミクソファシエンス(Cosenzaea myxofaciens
)ATCC
19692のL-アミノ酸酸化酵素、
プロテウス ミラビリス(Proteus mirabilis
)ATCC 29906又は
ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis
)ATCC 19435のα-ケト酸脱炭酸酵素、
エスケリキア コリ(Escherichia coli
)BL21(DE3)のアルコール脱水素酵素、及びギ酸脱水素酵素、グルコース脱水素酵素、又は亜リン酸脱水素酵素であるNAD(P)をNAD(P)Hに還元する酵素の4つの酵素を同時に発現することを特徴とする、大腸菌組換え菌。
【請求項2】
前記NAD(P)をNAD(P)Hに還元する酵素は、
コマガタエラ ファフィ(Komagataella phaffii
)ATCC 76273由来のギ酸脱水素酵素、
バチルス サブチルス(Bacillus subtilis
)ATCC 13952由来のグルコース脱水素酵素、または、
シュードモナス・アビエタニフィラ(Pseudomonas abietaniphila
)ATCC 700689由来の亜リン酸脱水素酵素であることを特徴とする、請求項1に記載の大腸菌組換え菌。
【請求項3】
前記大腸菌組換え菌は、pRSFDuet-1及びpETDuet-1の二重プラスミドを用いて、pRSFDuet-1に組み込んだ
L-アミノ酸酸化酵素の遺伝子、及び、α-ケト酸脱炭酸酵素の遺伝子、pETDuet-1に組み込んだアルコール脱水素酵素の遺伝子、及び、NAD(P)を還元する酵素の遺伝子という4つの酵素をコードする遺伝子を共発現していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の大腸菌組換え菌。
【請求項4】
前記大腸菌組換え菌は、2つの共発現組換えプラスミドを宿主Escherichia coli B21に形質転換して得られることを特徴とする、請求項3に記載の大腸菌組換え菌。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の大腸菌組換え菌を利用することを特徴とする、フェニルエタノール類化合物を生産する方法。
【請求項6】
前記フェニルエタノール類化合物は、2-フェニルエタノール、チロソール、ヒドロキシチロソール中のいずれか1つであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記フェニルエタノール類化合物の生産用の基質は、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-ドーパ中の、いずれか1つまたは複数であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記フェニルエタノール類化合物は、全細胞により変換されて生産されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
全細胞変換生産システムにおいて、新鮮な細胞の湿重量が10~200g/Lで、基質の濃度が0.5~20g/Lで、水素供与体の濃度が1~20g/Lで、pHが4.0~8.0で、15~40℃で0.5~48時間反応することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学菌(genetically engineering bacteria)に関し、生物工学技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
フェニルエタノール類化合物(Phenylethanoids)には、主に3つの構造が類似する類縁化合物、すなわち、2-フェニルエタノール(2-Phenylethanol、β-Phenylethanol)、チロソール(p-ヒドロキシフェニルエタノール、Tyrosol、4-hydroxyphenylethanol、2-(4-Hydroxyphenyl)ethanol)、ヒドロキシチロソール(3、4-ジヒドロキシフェニルエタノール、Hydroxytyrosol、3、4-Dihydroxyphenylethanol、2-(3、4-Dihydroxyphenyl)ethanol)があり、いずれもL-α-芳香族アミノ酸誘導体である。2-フェニルアルコールは、淡くて繊細なバラ香りを持つ芳香族アルコールであり、食品、薬品、化粧品、タバコ及び日用品に広く応用されており、全てのバラフレグランスの基本成分だけでなく、また、協力と効果増加の作用を有し、様々なフレグランス処方に必要な成分である。チロソールは、サリドロシド分子の中心で、優れた耐酸化性を有し、重要な医薬品の中間体でもあり、主に心血管系薬品のメトプロスタジル、ベタプロロール等の合成に用いられる。ヒドロキシチロソールは、最も強力な耐酸化剤の一つとして見なされ、体内のフリーラジカルを取り除き、人体の臓腑器官の健康状態を恢復し、脳の老化を防ぎ、老化を遅延することができる。
【0003】
現在、このような化合物は、植物抽出、化学合成、微生物等の方法で生産されている。化学方法では、2-フェニルエタノール、チロソール、ヒドロキシチロソール(中国特許200880002426.3、201310183569.1、200910098983.6)を成功的に合成しているが、これらの化合物は、何れも重要な食品または保健品の原料である。従って、人々は化学合成された製品を好まれない。現在、市場にあるこれらの製品は、主に植物から抽出して得られており、例えば、中国発明特許201510625623.2には、バラの花びらから高純度の2-フェニルエタノールを抽出する方法が開示されており、中国発明特許201410743409.2には、ロディオラクレヌラタ(Rhodiola Crenulata)から高純度のチロソールを製造する方法が開示されており、中国特許201710195462.7には、オリーブの葉からヒドロキシチロソールを抽出する方法が開示されている。植物資源及びその含有量の制限を受け、これらの製品は高価であるため、微生物方法による生産が注目されている。
【0004】
L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-ドーパは、脱アミノ、脱炭酸、アルデヒド基の還元を経て、2-フェニルエタノール、チロソール、ヒドロキシチロソールを生成することができる。これらの代謝原理に基づいて、種々の微生物で生産する方法は開発されている。
【0005】
酵母は、2-フェニルエタノールのデノボ合成の代謝経路を有し、アミノ酸の分解代謝経路により、L-フェニルアラニンを直接に2-フェニルエタノールに変換することもでき、早くも1907年にEhrlichらは、酵母培地にL-フェニルアラニンを添加することによって、2-フェニルエタノールの収量を大幅に向上させた(Ber Dtsch Chem Ges、1907.40:1027-1047)。中国特許02137575.5と、200710066884.0と、200810071807.9と、200910049170.8と、200910049565.8と、201310243384.5と、201410661174.2及び201610256845.6には、何れも酵母を用いてL-フェニルアラニンを変換して2-フェニルエタノールを生産する菌種、及び、方法が開示されている。Romagnoliは、酵母の芳香族アミノ酸トランスアミナーゼを削除し、グルコースを基質として2-フェニルエタノールを生産し、収量が約3mMで、同時に少量のチロソールが生産できることを開発した(Deletion of the Saccharomyces Cerevisiae Aro8 Gene、Encoding an Aromatic Amino Acid Transaminase、Enhances Phenylethanol Production from Glucose、Yeast、2015、32(1):29-45)。酵母は成長が遅く、且つ、変換過程で一部のL-フェニルアラニンを消耗するため、2-フェニルエタノールの収率が低く、コストが高い。
【0006】
他に、エンテロバクター属(Enterobacter sp.)菌(De-Novo Synthesis of 2-Phenylethanol by Enterobacter Sp Cgmcc 5087.BMC Biotechnology、2014、14)を採用、または、Antrodia Camphorataの深層発酵の技術を採用して2-フェニルエタノールを製造する方法(中国特許201410041209.2)もあるが、何れも酵母に比べて他の効率はもっと低い。
【0007】
大腸菌は成長速度が速くて、遺伝子工学菌の好ましい選択である。中国特許201210276491.3には、L-フェニルアラニン高収量大腸菌で、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ及びアルコール脱水素酵素を過剰発現することにより、2-フェニルエタノールの高収量を実現しているが、過剰発現する2つの酵素は、グルコースからのデノボ合成により成長する大腸菌の代謝を乱すため、2-フェニルエタノールの収量は130mg/Lにしか達していない。中国特許201510650028.4では、大腸菌において、4つの酵素、夫々、芳香族アミノ酸アミノ基転移酵素、及び、外因性のフェニルピルビン酸脱炭酸酵素、フェニルエタノール脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素を共発現することにより、全細胞がL-フェニルアラニンを転化し2-フェニルエタノールを生産することが開示されている。しかし、菌体内のα-ケトグルタル酸は濃度が低いため、充分なアンモニア受容体を提供することが難しい。転化システムにおいて、α-ケトグルタル酸を添加する場合、最高の収量を得ることができ、グルタミン酸を添加しても比較的に収量を大きく向上させることができるが、明らかに、ほかの化合物の添加は転化コストを増加させると共に、転化及び純化操作の複雑性も向上させる。中国特許201610464256.7には、無細胞の生物合成方法が開示されており、単独に発現されるアミノ基転移酵素、フェニルピルビン酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素は、共に固定されるか、または、溶液体積の中でL-フェニルアラニンを転化し2-フェニルエタノールを生産することが開示されている。開示されている文献から当該システムには、充分なアンモニア受容体及びNADHが欠けていることが分かって、よって、当該過程では生産を実現することが難しい。中国特許201710256900.6には、それぞれ、フェニルアラニン脱水素酵素、2-ケト酸脱炭酸酵素及びアルコール脱水素酵素を発現する3種類の大腸菌湿菌体を混合し、補酵素TPP及びNADの添加し、温度及びpHを制御し、L-フェニルアラニンの転化に用いることが開示されている。しかし、当該方法において、NADとTPPは高価で、所定の時間反応した後、分解して失効すると共に、3種類の酵素は夫々培養して得る必要があり、反応コストは大幅に増加し、単独の細胞もNADの細胞の間での往来、補酵素の再生に影響を及ぼすため、当該転化反応は継続しにくい。
【0008】
中国特許201310133238.7には、大腸菌において、サッカロミセス・セレビシエ由来の4-ヒドロキシフェニル基脱炭酸酵素を過剰発現し、且つ、フェニルアセトアルデヒド脱水素酵素の遺伝子をノックアウトすることによって、チロシンまたはグルコースからチロソールを生産する方法が開示されている。しかし、チロシンを基質とする場合、当該菌には有効的な脱アミノシステムが欠けており、グルコースでデノボ合成する場合、チロソールは菌体に対して毒性があり、菌体の成長及び生成物合成に影響を及ぼすため、当該菌ではチロソールの有効的な生産を実現することが難しい。201510242626.8には、大腸菌において、大腸菌由来のモノオキシゲナーゼ遺伝子クラスターHpaBCを過剰発現させ、グルコースでヒドロキシチロソールをデノボ合成することが開示されている。当該案の主な欠点は、ヒドロキシチロソールが菌体に対して毒性があり、HpaBCの発現量が比較的に低いため、ヒドロキシチロソールの生産効率を向上させること難しい。中国発明特許201710091999.9には、サッカロミセス・セレビシエ由来のピルビン酸脱炭酸酵素及び芳香アミノ酸アミノオキシ転移酵素を過剰発現させる大腸菌、且つ、当該菌の全細胞によりL-チロシンに転化しチロソールを生産することが開示されている。明らかに、当該菌にはアミノ基受容体と良好なアルデヒド還元システムが不足しているため、生産効率が比較的に低い。Chungらは、大腸菌において、植物由来の芳香アルデヒド合成酵素(aromatic aldehyde synthases)を過剰発現させることによって、ワンステップでL-チロシンをp-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドに変化させ、再び大腸菌内の還元システムによりチロソールを生成し、また、HpaBCを過剰発現させることによって、ヒドロキシチロソールを実現している。しかし、植物遺伝子の大腸菌内における低発現効率は、全細胞の転化効果に影響を及ぼしている(Production of Three Phenylethanoids、Tyrosol、Hydroxytyrosol、and Salidroside、Using Plant Genes Expressing in Escherichia Coli.Scientific Reports、2017.)。
【0009】
現在、多酵素連鎖の全細胞が簡単な前駆体を触媒することによって、高付加価値の生成物を生成することは、すでに広く応用されており(Constructing Biocatalytic Cascades:In Vitro and in Vivo Approaches to de Novo Multi-Enzyme Pathways、ACS Catal.、2017、7(1)、710-724)、全細胞は安価の基質に対して高効率の転化を実現しており、グルコースでのデノボ合成に比べてより経済的で有効である場合がある。
【0010】
現在の様々な方法の欠点に基づいて、本発明では、多酵素を共発現する大腸菌を構築し、芳香族L-α-アミノ酸に対する全細胞の触媒転化、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-ドーパをそれぞれ触媒し、2-フェニルエタノール、チロソール、ヒドロキシチロソールを生成することを実現した。
【発明の概要】
【0011】
現在の様々な方法の欠点に基づいて、本発明では、低コストでフェニルエタノール類(Phenylethanoids)化合物を生産できる大腸菌組換え菌を提供している。同時に、本発明では、当該菌柱の構築及び応用に関する技術課題を解決しようとする。
【0012】
本発明の第1の目的は、低コストでフェニルエタノール類(Phenylethanoids)化合物を生産できる大腸菌組み換え菌を提供し、前記大腸菌組み換え菌は同時に4種の酵素、それぞれ、L-アミノ酸酸化酵素、α-ケトン酸脱炭酸酵素、アルコール脱水素酵素及びNAD(P)をNAD(P)Hに還元する酵素を発現している。
【0013】
1つの実施形態において、前記L-アミノ酸酸化酵素は、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis) ATCC 29906、または、Cosenzaea myxofaciensATCC 19692由来のものである。
【0014】
1つの実施形態において、前記L-アミノ酸酸化酵素のアミノ酸配列はNCBIのアクセッション番号がWP_004244224.1、OAT30925.1の配列である。
【0015】
1つの実施形態において、前記L-アミノ酸酸化酵素のヌクレオチド配列はNCBIのアクセッション番号がNZ_GG668576REGION:1350390..1351805、LXEN01000066REGION:20563..21963の配列である。
【0016】
1つの実施形態において、前記α-ケトン酸脱炭酸酵素は、プロテウス・ミラビリスATCC29906、または、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)ATCC19435由来のものである。
【0017】
1つの実施形態において、前記α-ケトン酸脱炭酸酵素のアミノ酸配列はNCBIのアクセッション番号がWP_004247067.1、WP_025016816.1の配列である。
【0018】
1つの実施形態において、前記α-ケトン酸脱炭酸酵素のヌクレオチド配列はNCBIのアクセッション番号がNZ_GG668593REGION:50463..52112、NZ_LKLC01000008REGION:208327..209973の配列である。
【0019】
1つの実施形態において、前記アルコール脱水素酵素は、大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)由来のものである。
【0020】
1つの実施形態において、前記アルコール脱水素酵素のアミノ酸配列はNCBIのアクセッション番号がWP_001318460.1、WP_000692754.1の配列である。
【0021】
1つの実施形態において、前記アルコール脱水素酵素のヌクレオチド配列はNCBIのアクセッション番号がNC_012892REGION:4406777..4407796、NC_012892REGION:312506..313555の配列である。
【0022】
1つの実施形態において、前記NAD(P)をNAD(P)Hに還元する酵素は、ギ酸脱水素酵素、グルコース脱水素酵素、または、亜リン酸脱水素酵素である。
【0023】
1つの実施形態において、前記NAD(P)をNAD(P)Hに還元する酵素は、Komagataella phaffiiATCC76273由来のギ酸脱水素酵素、Bacillus subtilisATCC13952由来のグルコース脱水素酵素、または、Pseudomonas abietaniphilaATCC700689由来の亜リン酸脱水素酵素である。
【0024】
1つの実施形態において、前記NAD(P)を還元する酵素のアミノ酸配列は、NCBIのアクセッション番号がAOA63544.1、WP_013351020.1、または、WP_003118429.1の配列である。
【0025】
1つの実施形態において、NAD(P)を還元する酵素のヌクレオチド配列はNCBIのアクセッション番号がCP014710 REGION:1836993..1838090、NZ_CP009748REGION:386154..38693、NZ_FNCO01000027REGION:29475..30485の配列である。
【0026】
1つの実施形態において、前記大腸菌組換え菌は、pRSFDuet-1及びpETDuet-1の二重プラスミドを採用して、4つの酵素の遺伝子、すなわち、pRSFDuet-1に搭載しているL-アミノ酸酸化酵素の遺伝子、及び、α-ケトン酸脱炭酸酵素の遺伝子、pETDuet-1に搭載しているアルコール脱水素酵素の遺伝子、及び、NAD(P)を還元する酵素の遺伝子を共発現している。
【0027】
1つの実施形態において、前記大腸菌組換え菌は、2つの共発現の組換えプラスミドを宿主大腸菌 B21に形質転換して得られたものである。
【0028】
本発明の第2の目的は、フェニルエタノール類(Phenylethanoids)化合物の生産方法を提供することであり、前記方法は本発明の大腸菌組換え菌を使用している。
【0029】
1つの実施形態において、前記フェニルエタノール類化合物は、2-フェニルエタノール、チロソール、ヒドロキシチロソール中のいずれか1つである。
【0030】
1つの実施形態において、前記フェニルエタノール類化合物生産用の基質は、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-ドーパ中のいずれか1つまたは複数である。
【0031】
1つの実施形態において、前記フェニルエタノール類化合物の生産は、全細胞の変換生産である。
【0032】
1つの実施形態において、前記全細胞の変換生産システムは、新鮮な細胞の湿重量が10~200g/Lで、基質の濃度が0.5~20g/Lで、水素供与体の濃度が1~20g/Lで、pHが4.0~8.0で、15~40℃で0.5~48時間反応させる。
【0033】
1つの実施形態において、前記細胞の獲得方法では、組換え大腸菌をLB発酵培地に接種し、細胞OD600が0.6~0.8に達した後、IPTGを添加して誘導発現し、誘導発現が終了した後、遠心分離し細胞を収集する。
【0034】
1つの実施形態において、構築された3つの酵素が共発現するプラスミドにグルコース脱水素酵素が含まれている場合、水素供与体はグルコースであり、構築された3つの酵素が共発現するプラスミドにギ酸脱水素酵素が含まれている場合、水素供与体はギ酸ナトリウムであり、構築された3つの酵素が共発現するプラスミドに亜リン酸脱水素酵素が含まれている場合、水素供与体は亜リン酸である。
【0035】
[本発明の有益効果]
本発明では、新規の4つの酵素を共発現する大腸菌エンジニアリングバクテリア(工学菌)を構築しており、当該菌は、フェニルエタノール類化合物の生産に応用できる。本発明で選択されたL-アミノ酸酸化酵素、α-ケトン酸脱炭酸酵素、アルコール脱水素酵素は、何れも基質の特異性が劣り、活性が強い特徴を有するため、同一株のエンジニアリングバクテリアに芳香L-α-アミノ酸を採用する場合、多種類のフェニルエタノール類生成物を生産することができ、他のアミノ酸の誘導体化アルコールの生産に用いることができる。当該生産過程は簡単で、且つ、容易に原料を得ることができるため、良好な生産化将来性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の大腸菌の機能は、主に同時に4種の酵素、すなわち、それぞれL-アミノ酸酸化酵素、α-ケトン酸脱炭酸酵素、アルコール脱水素酵素及びNAD(P)をNAD(P)Hに還元する酵素を発現できることである。その原理は、エンジニアリングバクテリアの全細胞内において、L-アミノ酸酸化酵素はL-フェニルアラニン、L-チロシン、L-ドーパを対応するフェニルピルビン酸、p-ヒドロキシフェニルピルビン酸、3、4-ジヒドロキシフェニルピルビン酸に酸化し、その後、α-ケトン酸脱炭酸酵素の作用を経て、フェニルアセトアルデヒド、p-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド、3、4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒドを生成し、アルコール脱水素酵素及びNAD(P)をNAD(P)Hに還元する酵素は、NAD補酵素循環の再生システムを構成し、アルコール脱水素酵素でアルデヒドを還元することによって、全細胞のタンデムの4つの酵素によるワンステップ法でL-フェニルアラニン、L-チロシン、L-ドーパを2-フェニルエタノール、チロソール、ヒドロキシチロソールへの変換を実現することである。
【0037】
上述の技術的な課題を解決するために、本発明では、以下の技術的な構成を採用している。
【0038】
1.本発明に関する菌株及びプラスミド
アメリカ菌種保存センターからATCCのプロテウス・ミラビリスATCC29906、Cosenzaea myxofaciensATCC19692、ラクトコッカス・ラクティスATCC19435、Komagataella phaffiiATCC76273、Bacillus subtilisATCC13952、及び、Pseudomonas abietaniphilaATCC700689を購入した。Novagen会社からpRSFDuet-1プラスミド、pETDuet-1プラスミド、EscherichiacoliB21(DE3)、EscherichiacoliB21DH5αを購入した。
【0039】
2.酵素の選択
(1)L-アミノ酸酸化酵素の選択
L-アミノ酸酸化酵素は、細菌、真菌、哺乳動物の細胞、蛇毒、昆虫毒素及び藻類に広く存在している(L-amino acid oxidase as biocatalyst:a dream too far?Appl.Microbiol.Biotechnol.2013、97:9323-41)。L-アミノ酸酸化酵素は、αアミノ基及びCα上の水素をFAD上に転移し、ほとんどは分子酸素を利用して直接に還元型FADを酸化し、酸化型FADを再生すると共に、過酸化水素を生成しており、この過程において、過酸化水素酵素を添加して、過酸化水素の毒性を除去しなければならない。また、もう1種類のL-アミノ酸酸化酵素は、細胞膜上の電子伝達鎖に関与しており、電子は呼吸鎖を経てシトクロム酸化酵素に伝達されることにより、分子酸素が過酸化水素を生成せず、水に還元される。このような酵素類は、主にプロテウス属(Proteus sp.)、プロビデンシア属(Providencia sp.)、モルガネラ属(Morganella sp.)等の細菌に存在している(Crystal structure of a membrane-bound 1-amino acid deaminase from Proteus vulgaris.J.Struct.Biol.2016、195:306-15)。本発明では、2種の過酸化水素を生成しないL-アミノ酸酸化酵素を選択し、プロテウス・ミラビリスATCC29906、及び、Cosenzaea myxofaciensATCC19692からそれぞれL-アミノ酸酸化酵素の遺伝子pmaao及びcmaaoをクローンしており、そのヌクレオチド配列のNCBIのアクセッション番号はNZ_GG668576 REGION:1350390..1351805及びLXEN01000066 REGION:20563..21963であり、そのアミノ酸配列は、それぞれWP_004244224.1及びOAT30925.1で示しており、これらの酵素は何れも基質が広くて活性が強いという特徴を有している。
【0040】
(2)α-ケトン酸脱炭酸酵素の選択
文献に基づいて選択された細菌由来の、芳香族ケト酸に対して強い活性を有するα-ケト酸脱炭酸酵素は、他の特許で選択された酵母または植物由来の酵素に比べて、より良く大腸菌で発現する特性を有している。本発明は、それぞれ、プロテウス・ミラビリスATCC29906及びラクトコッカス・ラクティスATCC19435からα-ケトン酸脱炭酸酵素の遺伝子pmkdc及びllkdcをクローンしており、そのアミノ酸配列は、NCBIのアクセッション番号がWP_004247067.1、WP_025016816.1の配列であり、そのヌクレオチド配列はNCBIのアクセッション番号がNZ_GG668593 REGION:50463..52112、NZ_LKLC01000008 REGION:208327..209973の配列である。
【0041】
(3)アルコール脱水素酵素の選択
アルコール脱水素酵素は各種類の細菌に広く存在し、報告によると、大腸菌自体にも多種の基質が広いアルコール脱水素酵素が含まれているため(Production of aromatic compounds by metabolically engineered Escherichia coli with an expanded shikimate pathway、Appl.Environ.Microbiol.2012 78(17)、6203-6216)、直接にEscherichiacoliBL21(DE3)から、2つのアルコール脱水素酵素の遺伝子ecadh1及びecadh2をクローンすることができる。前記アルコール脱水素酵素は、そのアミノ酸配列がNCBIのアクセッション番号WP_001318460.1、WP_000692754.1の配列であり、そのヌクレオチド配列がNCBIのアクセッション番号NC_012892 REGION:4406777..4407796、NC_012892 REGION:312506..313555の配列であり、従って、アルコール脱水素酵素の大腸菌における過剰発現をより有利にする。
【0042】
(4)NDA(P)を還元する酵素の選択
生物の変換反応において、アルコール脱水素酵素はNADH及び/またはNADPHを補酵素とする必要があり、本発明では、Komagataella phaffiiATCC76273からギ酸脱水素酵素の遺伝子kpfdhを得ており、Bacillus subtilisATCC13952からグルコース脱水素酵素の遺伝子bsgdhを得ており、Pseudomonas abietaniphilaATCC700689から亜リン酸脱水素酵素の遺伝子papdhを得ている。そのアミノ酸配列は、NCBIのアクセッション番号がAOA63544.1、WP_013351020.1、または、WP_003118429.1の配列であり、そのヌクレオチド配列は、NCBIのアクセッション番号がCP014710 REGION:1836993..1838090、NZ_CP009748 REGION:386154..38693、NZ_FNCO01000027 REGION:29475..30485の配列である。
【0043】
3.4つの酵素の共発現システムの構築
上記で選択されたL-アミノ酸酸化酵素、α-ケトン酸脱炭酸酵素、アルコール脱水素酵素、NDA(P)を還元する酵素中の、各々の種類で何れか1つの酵素を選択し、4つの酵素を組合せて共発現させる。現在、大腸菌の多遺伝子の共発現には、様々な方法(大腸菌多遺伝子の共発現策略、中国生物工学雑誌、2012、32(4):117-122)があり、本発明では、pRSFDuet-1及びpETDuet-1の二重プラスミドを採用してpRSFDuet-1に組み込んだL-アミノ酸酸化酵素の遺伝子、及び、α-ケトン酸脱炭酸酵素の遺伝子、pETDuet-1に組み込んだアルコール脱水素酵素の遺伝子、及びNAD(P)を還元する酵素の遺伝子という4つの遺伝子を共発現させている。
共発現組換えプラスミドを得た後、2種のプラスミドを大腸菌Escherichia coliB21に形質転換し、アンピシリン(Ampicllin)及びカナマイシン(kanamycin)添加シャーレによるスクリーニングにより陽性形質転換体(transformant)を得、即ち、組換え大腸菌を得る。
【0044】
4.全細胞によるフェニルエタノール類の変換
細胞の準備:典型的な組換え大腸菌の培養、及び、誘導発現の方法に応じて、組換え大腸菌を体積比で2%の量でLB発酵培地(ペプトン10g/L、酵母粉5g/L、NaCl10g/L)に導入し、細胞のOD600が0.6~0.8に達した後、最後の濃度が0.4mMになるようにIPTGを添加し、20℃で8h誘導発現の培養を行う。誘導発現が終了した後、20℃、8000rpm、20分、遠心分離し細胞を収集する。
全細胞の変換システム:異なる基質の溶解性に応じて、基質の濃度を0.5~20g/Lに制御し、且つ、構築された異なるプラスミドの性質に応じて、濃度が1~20g/Lになるように水素供与体を添加し、pHは4.0~8.0の間に調整し、新鮮な湿菌体の量は10~200g/Lである。その後、15~40℃で、0.5~48時間変換を行う。変換が終了した後、液体クロマトグラフィーにより収量と光学活性を測定する。構築された4つの酵素の共発現プラスミドに、グルコース脱水素酵素が含まれている場合、水素供与体はグルコースである。構築された4つの酵素の共発現プラスミドに、ギ酸脱水素酵素が含まれている場合、水素供与体はギ酸ナトリウムである。構築された4つの酵素の共発現プラスミドに、亜リン酸脱水素酵素が含まれている場合、水素供与体は亜リン酸である。
全細胞の変換システムにおける基質は以下、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-ドーパ中の1つである。
これらの基質は、相応する全細胞の変換を経て、対応的に2-フェニルエタノール、チロソール、ヒドロキシチロソールを生成することができる。
【0045】
5.サンプルの検出分析
定量分析:変換液はPerkinElmer Series200高速液体クロマトグラフを用いて検出分析し、クロマトグラフ条件は、移動相がメタノール-0.1%ギ酸水(40:60)であり、漢邦MegresC18クロマトカラム(4.6×250mm、5μm)を採用し、流速が1ml/min、カラム温度が30℃、注入量が20μl、検出波長が210nmである。
【0046】
本発明が解決しようとする技術的な課題、技術的な構成及び有益効果をより明確に分かるために、以下、実施例により本発明に対して詳細に説明する。なお、ここで説明する具体的な実施例は、本発明の解釈のみに用いられ、決して本発明を限定しない。
【0047】
実施例1
4つの遺伝子の共発現システムの構築。
(1)プライマー設計
PCR増幅に用いられるプライマーを設計する。
(2)PCR増幅
メーカーが提供した取扱説明書に従って、Genomic DNAPurification Kit(Takara)を用いて対数増殖期にある菌株のゲノムDNAを抽出し、表1のプライマーを用いて、各々に対応する菌株からPCR増幅を行う。増幅システムは、PrimeSTARHS DNA ポリメラーゼ(2.55U/μL)0.5μL、10×Prime STAR Buffer 10μL、dNTP Mixture(各2.5mM)4μL、テンプレートDNA1μL、上流プライマー(20μM)1μL、下流プライマー(20μM)1μL、50μLになるまでddH2Oを補足する。増幅プログラムは、94℃で10分、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で2分、合計30回循環し、72℃で10分間置く。PCRの生成物は華大に送って遺伝子配列を測定した。
後に、それぞれ、プロテウス・ミラビリスATCC29906、Cosenzaea myxofaciensATCCからL-アミノ酸酸化酵素の遺伝子pmaao、cmaaoをクローンしており、プロテウス・ミラビリスATCC29906、ラクトコッカス・ラクティスATCC19435からそれぞれα-ケトン酸脱炭酸酵素の遺伝子pmkdc、llkdcを得ており、Escherichiacoli菌株BL21からアルコール脱水素酵素の遺伝子ecadh1、ecadh2を得ており、Komagataella phaffiiATCC7627、Bacillus subtilisATCC13952、Pseudomonas abietaniphila ATCC 70068から、それぞれNAD(P)を還元する酵素の遺伝子kpfdh、bsgdh、papdhを得た。
(3)pRSFDuet-1及びpETDuet-1シングル遺伝子プラスミドの構築
pRSFDuet-1及びpETDuet-1ベクタープラスミド及びステップ(2)のcmaao、pmaao、ecadh1、ecadh2のPCR生成物は、37℃の水浴で1時間制限酵素で二重消化した。消化システムは、10×cut buffer5μL、DNA10μL、制限酵素SacI及び制限酵素HindIIIはそれぞれ1μL、無菌水33μLであった。
その後、酵素により消化された生成物をそれぞれ回収し、16℃の水浴で12~16時間ライゲーションさせ、pRSFDuet-1は、それぞれcmaao、pmaaoにライゲーションし、pETDuet-1は、それぞれecadh-1、ecadh2にライゲーションした。ライゲーションシステムは、10×DNA ligase buffer 2.5μL、DNA断片 8μL、キャリア DNA 2μL、T4DNA ligase 1μL、無菌水11.5μL、合計25μLであった。
その後、ライゲーションシステムに100μLのDH5αコンピテント細菌を添加し、軽くブレンディングし、30分間氷浴した。予熱した42℃の水浴に入れ、90秒間置いて熱ショック処理を行った。直ちに2分間の氷浴した。抗生物質を含まないLB培養液1mLを添加し、菌体が回復するように37℃で1時間培養した。最後に、pRSFDuet-1が、それぞれcmaao、pmaaoにライゲーションされた菌体はカナマイシンを含むLBプレートへ均一に塗布し、pETDuet-1が、それぞれecadh1、ecadh2にライゲーションされた菌体はアンピシリンを含むLBプレートへ均一に塗布した。シングルコロニーをピックアップして12時間培養し、その後、プラスミドを抽出し、制限酵素で二重消化しその正確性を検証し、同時にDNAシークエンシングを行い、その正確性を保証し、最後に正確な形質転換体を保存し、以下のプラスミド、L-アミノ酸酸化酵素の遺伝子を含むpRSFDuet-cmaao、pRSFDuet-pmaao、アルコール脱水素酵素の遺伝子を含むpETDuet-ecadh1、pETDuet-ecadh2を得た。
(4)L-アミノ酸酸化酵素の遺伝子、α-ケトン酸脱炭酸酵素の遺伝子pRSFDuet-1共発現プラスミド、及び、アルコール脱水素酵素の遺伝子、NAD(P)を還元する酵素の遺伝子pETDuet-1共発現プラスミドの構築。
消化システムは、10×cut Buffer 5μL、DNA10μL、制限酵素1及び制限酵素2それぞれ1μL、無菌水33μLであった。ステップ(3)で構築された単遺伝子プラスミド、及び、ステップ(2)におけるpmkdc、llkdc、kpfdh、bsgdh、papdhのPCR生成物を37℃の水浴で1時間制限酵素で二重消化した。
各々遺伝子の制限酵素の切断位置が異なるため、以下のような2種の情況がある。
pRSFDuet-cmaao、pRSFDuet-pmaao、pmkdc、llkdcは、EcoRV及びKpnIを用いて二重消化した。
pETDuet-ecadh1、pETDuet-ecadh2、kpfdh、bsgdh、papdhは、BglII及びXhoIを用いて二重消化した。
その後、上述の2種情況で消化された生成物をそれぞれ回収し、16℃の水浴で12~16時間ライゲーションさせ、pRSFDuet-cmaao、pRSFDuet-pmaaoは、それぞれpmkdc、llkdcにライゲーションさせ、pETDuet-ecadh1、pETDuet-ecadh2は、それぞれkpfdh、bsgdh、papdhにライゲーションさせた。ライゲーションシステムは、10×DNAligase buffer2.5μL、DNA断片8μL、キャリアDNA 2μL、T4 DNAligase 1μL、無菌水11.5μL、合計25μLであった。
その後、ライゲーションシステムに100μLの大腸菌DH5αコンピテント細菌を添加し、軽くブレンディングし、30分間氷浴した。予熱した42℃の水浴に入れ、90秒間置いて熱ショック処理を行った。直ちに2分間氷浴した。抗生物質を含まないLB培養液1mLを添加し、菌体が回復するように37℃で1時間培養した。最後に、pRSFDuet-cmaao、pRSFDuet-pmaaoが、それぞれpmkdc、llkdcにライゲーションされた菌体はカナマイシンを含むLBプレート上に均一に塗布し、pETDuet-ecadh1、pETDuet-ecadh2が、それぞれkpfdh、bsgdh、papdhにライゲーションされた菌体はアンピシリンを含むLBプレート上に均一に塗布し、シングルコロニーをピックアップして12時間培養し、その後、DNAシークエンシングを行い、その正確性を保証し、最後に正確な形質転換体を保存し、以下のプラスミド、すなわち、L-アミノ酸酸化酵素の遺伝子、α-ケトン酸脱炭酸酵素の遺伝子を含む、pRSFDuet-cmaao-pmkdc、pRSFDuet-cmaao-llkdc、pRSFDuet-pmaao-pmkdc、pRSFDuet-pmaao-llkdcと、
アルコール脱水素酵素の遺伝子、NAD(P)を還元する酵素の遺伝子を含む、pETDuet-ecadh1-kpfdh、pETDuet-ecadh1-bsgdh、pETDuet-ecadh1-papdh、pETDuet-ecadh2-kpfdh、pETDuet-ecadh2-bsgdh、pETDuet-ecadh2-papdhとを得た。
(5)pRSFDuet-1及び、pETDuet-1の二重プラスミドの4つ遺伝子の共発現システムの構築。
メーカーが提供した取扱説明書に従って、TaKaRa MiniBEST Plasmid Purification Kit Ver.4.0を用いて、ステップ(4)で得たpRSFDuet-cmaao-pmkdc、pRSFDuet-cmaao-llkdc、pRSFDuet-pmaao-pmkdc、pRSFDuet-pmaao-llkdcプラスミドDNA1、及び、pETDuet-ecadh1-kpfdh、pETDuet-ecadh1-bsgdh、pETDuet-ecadh1-papdh、pETDuet-ecadh2-kpfdh、pETDuet-ecadh2-bsgdh、pETDuet-ecadh2-papdhプラスミドDNA2を抽出し、その後、上述のプラスミドDNA1及びプラスミドDNA2をそれぞれ1μL取って、100μLのE. coli(BL21)コンピテント細菌を添加し、軽くブレンディングし、30分間氷浴させた。予熱した42℃の水浴に入れ、90秒間置いて熱ショック処理を行う。直ちに2分間氷浴した。抗生物質を含まないLB培養液1mLを添加し、菌体が回復するように37℃で1時間培養した。最後に、菌体をアンピシリンとカナマイシンを含むLBプレート上に均一に塗布し、シングルコロニーをピックアップして12時間培養し、その後、さらにPCRで4つの遺伝子が成功的にE. coli(BL21)へ形質転換されたことを検証すると共に、DNAシークエンシングを行い、その正確性を保証し、菌株を保存した。
本実施例では、最終的に以下の8株のエンジニアリングバクテリア、E. coliBL21(pRSFDuet-cmaao-pmkdc、pETDuet-bsgdh-ecadh1)、E. coliBL21(pRSFDuet-pmaao-llkdc、pETDuet-bsgdh-ecadh2)、E. coliBL21(pRSFDuet-cmaao-pmkdc、pETDuet-bsgdh-ecadh2)、E. coliBL21(pRSFDuet-pmaao-pmkdc、pETDuet-papdh-ecadh1)、E. coliBL21(pRSFDuet-pmaao-pmkdc、pETDuet-kpfdh-ecadh2)、E. coliBL21(pRSFDuet-cmaao-llkdc、pETDuet-bsgdh-ecadh1)、E. coliBL21(pRSFDuet-cmaao-llkdc、pETDuet-kpfdh-ecadh2)、E. coliBL21(pRSFDuet-pmaao-llkdc、pETDuet-papdh-ecadh1)を構築し、それぞれ組換え菌の番号はA、B、C、D、E、F、G、Hである。
【0048】
実施例2
実施例1で獲得した遺伝子工学菌の誘導発現。
構築された遺伝子工学菌のコロニーをピックアップして10mLのLB培地(0.1g/Lのアンピシリンを含む)に接種し、37℃で12時間培養し、2%の体積割合でLB培地(1000mLの振動フラスコに200mLの培地を含み、0.1g/Lのアンピシリンを含む)に接種し、37℃で2.5時間培養し、細菌対数増殖期(OD600が0.6~0.8に達する)になると、濃度が0.4mMになるまでIPTGを添加し、20℃、200rmp条件下で8時間培養した。誘導発現が終了した後、20℃、8000rpm、20分間遠心分離し、細胞を収集した。変換に必要な菌体量に応じて、振動フラスコの数量を増加することによって、充分な菌体を獲得することができる。
【0049】
実施例3
実施例2に記載の誘導発現方法に応じて、実施例1で得られた番号がA、B、C、D、E、F、G、Hの組換え菌は、それぞれ誘導発現が終了した後、菌体が収集され、100mlの反応体積の中で、異なる基質をそれぞれ全細胞に混合した後の変換情況を観察した。基質の最終の濃度は0.5g/Lで、グルコース濃度は10g/Lで、pHは8.0に調節し、重量が20g(湿重量)の新鮮な全細胞を添加し、30℃の温度で、24時間変換させた後、結果を検出したところ、各種類の基質の反応情況は、以下の表に示す通りである。
基質は、それぞれL-フェニルアラニン、L-チロシン、L-ドーパで、それぞれに対応する生成物は、2-フェニルエタノール、チロソール、ヒドロキシチロソールである。
【0050】
実施例5
実施例2に記載の誘導発現方法に応じて、実施例1で得られたE. coliBL21(pRSFDuet-cmaao-pmkdc、pETDuet-bsgdh-ecadh2)の誘導発現が終了した後、菌体を収集し、100mlの反応体積の中で、L-フェニルアラニンの濃度は20g/Lで、グルコースの濃度は20g/Lで、pHは8.0に調節し、重量が20g(湿重量)の新鮮な全細胞を添加し、20℃の温度で、48時間変化した後、結果を検出したところ、濃度が18g/Lの2-フェニルエタノールが生成された。
【0051】
実施例6
実施例2に記載の誘導発現方法に応じて、実施例1で得られたE. coliBL21(pRSFDuet-pmaao-pmkdc、pETDuet-papdh-ecadh1)の誘導発現が終了した後、菌体を収集し、100mlの反応体積の中で、L-ドーパの濃度は1g/Lで、亜リン酸の濃度は1g/Lで、pHは4.0に調節し、重量が10g(湿重量)の新鮮な全細胞を添加し、35℃の温度で、0.5時間変換した後、結果を検出したところ、濃度が52mg/Lのヒドロキシチロソールが生成された。
【0052】
実施例7
実施例2に記載の誘導発現方法に応じて、実施例1で得られたE. coliBL21(pRSFDuet-pmaao-pmkdc、pETDuet-kpfdh-ecadh2)の誘導発現が終了した後、菌体を収集し、100mlの反応体積の中で、L-チロシンの濃度は0.5g/Lで、ギ酸ナトリウムの濃度は20g/Lで、pHは6.0に調節し、重量が1g(湿重量)の新鮮な全細胞を添加し、30℃の温度で、12時間変換した後、結果を検出したところ、濃度が104mg/Lのチロソールが生成された。
【0053】
実施例8
実施例2に記載の誘導発現方法に応じて、実施例1で得られたE. coliBL21(pRSFDuet-pmaao-pmkdc、pETDuet-kpfdh-ecadh2)の誘導発現が終了した後、菌体を収集し、100mlの反応体積の中で、L-ロイシンの濃度は0.5g/Lで、ギ酸ナトリウムの濃度は1g/Lで、pHは7.0に調節し、重量が20g(湿重量)の新鮮な全細胞を添加し、30℃の温度で、48時間変換した後、結果を検出したところ、濃度が320mg/Lのイソアミルアルコールが生成された。
【0054】
実施例9
実施例2に記載の誘導発現方法に応じて、実施例1で得られたE. coliBL21(pRSFDuet-cmaao-llkdc、pETDuet-bsgdh-ecadh1)の誘導発現が終了した後、菌体を収集し、100mlの反応体積の中で、L-フェニルアラニンの濃度は0.5g/Lで、グルコースの濃度は1g/Lで、pHは8.0に調節し、重量が1g(湿重量)の新鮮な全細胞を添加し、40℃の温度で、36時間変換した後、結果を検出したところ、濃度が155mg/Lの2-フェニルエタノールが生成された。
【0055】
実施例10
実施例2に記載の誘導発現方法に応じて、実施例1で得られたE. coliBL21(pRSFDuet-cmaao-llkdc、pETDuet-kpfdh-ecadh2)の誘導発現が終了した後、菌体を収集し、100mlの反応体積の中で、L-チロシンの濃度で0.5g/L、ギ酸ナトリウムの濃度は20g/Lで、pHは5.0に調節し、重量が15g(湿重量)の新鮮な全細胞を添加し、30℃の温度で、48時間変換した後、結果を検出したところ、濃度が398mg/Lのチロソールが生成された。
【0056】
実施例11
実施例2に記載の誘導発現方法に応じて、実施例1で得られたE. coliBL21(pRSFDuet-pmaao-llkdc、pETDuet-papdh-ecadh1)の誘導発現が終了した後、菌体を収集し、100mlの反応体積の中で、L-チロシンの濃度は0.5g/Lで、亜リン酸の濃度は5g/Lで、pHは7.0に調節し、重量が5g(湿重量)の新鮮な全細胞を添加し、25℃の温度で、6時間変換した後、結果を検出したところ、濃度が210mg/Lのチロソールが生成された。
【0057】
以上に記載のL-アミノ酸酸化酵素、α-ケトン酸脱炭酸酵素、アルコール脱水素酵素、NAD(P)を還元する酵素、及び、その共発現する遺伝子工学菌の構築、菌体の培地組成、及び、培養方法と全細胞の生物変換は、本発明の好ましい実施形態のみであり、決して本発明を限定しない。本発明の原則及び精神に基づいて、なされるいかなる修正、同等の置換および改良は、何れも本発明の保護範囲内に含まれる。