(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】プレススリーブ、その使用ならびにプレスロールおよびシュープレス
(51)【国際特許分類】
D21F 3/02 20060101AFI20220323BHJP
C08G 18/12 20060101ALI20220323BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20220323BHJP
C08G 18/44 20060101ALI20220323BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
D21F3/02 Z
C08G18/12
C08G18/42
C08G18/44
C08G18/48
(21)【出願番号】P 2020505192
(86)(22)【出願日】2018-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2018065606
(87)【国際公開番号】W WO2019025065
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-02-19
(31)【優先権主張番号】102017117227.0
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506408818
【氏名又は名称】フォイト パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】VOITH PATENT GmbH
【住所又は居所原語表記】St. Poeltener Str. 43, D-89522 Heidenheim, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】デルフィーヌ デルマ
(72)【発明者】
【氏名】ヘアマン ライヒャート
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ヴォクレク
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ マトゥシュツィック
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-199813(JP,A)
【文献】特開2013-159860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 3/02
C08G 18/12
C08G 18/42
C08G 18/44
C08G 18/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のポリマー層(20.1、20.2)を備えたプレススリーブ(20)、すなわち繊維ウェブと一緒にシュープレスのプレスニップに通されるベルト、チューブまたはスリーブであって、第1ポリマー層(20.1)は、前記プレススリーブ(20)の長手軸(20’)について見た場合にその半径方向で最も外側のポリマー層であり、かつ前記プレススリーブ(20)の半径方向に見た場合に、前記プレススリーブ(20)の総厚の最大60%の厚さを有しており、前記第1ポリマー層(20.1)は、その半径方向で最も外側のスリーブ面に導入された溝または穴を含み、前記プレススリーブ(20)の半径方向に見た場合に、前記溝または穴の深さは、前記第1ポリマー層(20.1)の厚さの
少なくとも50%および最大
で95%に相当する深さを有しており、
前記プレススリーブ(20)は、その長手軸(20’)について見た場合に、その半径方向で最も内側の第2ポリマー層(20.2)を備えており、
前記第1ポリマー層および第2ポリマー層(20.1、20.2)はそれぞれ、ポリウレタンを含むか、またはポリウレタンから製造されており、前記ポリウレタンは、プレポリマーおよび架橋剤から形成されており、前記第1ポリマー層(20.1)のプレポリマーは、
- 1,4-フェニレンジイソシアネート(PPDI)、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート(NDI)もしくは3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート(TODI)と、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリカーボネートポリオールから選択される少なくとも1つのポリオールとの反応生成物、もしくは
- 4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)と、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリカーボネートポリオールから選択される少なくとも1つのポリオールとの反応生成物、または
- これらの混合物
であり、
前記第2ポリマー層(20.2)のプレポリマーは、
- 4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエン-2,4-ジイソシアネート(TDI)もしくはナフタレン-1,5-ジイソシアネート(NDI)と、ポリエーテルポリオールから選択される少なくとも1つのポリオールとの反応生成物、または
- これらの混合物
であり、
前記架橋剤は、1,4-ブタンジオール(BDO)、1,4-ヒドロキノンビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル(HQEE)、4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)(MCDEA)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、ジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)またはそれらの混合物を含み、かつ前記第1ポリマー層および第2ポリマー層(20.1、20.2)が、その硬度の点で1~6ショアA相違しており、前記第2ポリマー層(20.2)の硬度が、前記第1ポリマー層(20.1)の硬度より低いことを特徴とする、プレススリーブ(20)。
【請求項2】
前記第1ポリマー層(20.1)の厚さが、前記プレススリーブ(20)の総厚の少なくとも5%
および最大で55%に相当することを特徴とする、請求項1記載のプレススリーブ(20)。
【請求項3】
前記第1ポリマー層および第2ポリマー層(20.1、20.2)が、半径方向に見て互いに接していることを特徴とする、請求項
1または2記載のプレススリーブ(20)。
【請求項4】
前記第1ポリマー層(20.1)の硬度が、90~98ショアAであることを特徴とする、請求項1から
3までのいずれか1項記載のプレススリーブ(20)。
【請求項5】
前記第2ポリマー層(20.2)の硬度が、90~96ショアAであることを特徴とする、請求項1から
4までのいずれか1項記載のプレススリーブ(20)。
【請求項6】
プレスロール、すなわち繊維ウェブ(24)を処理するためのシュープレス(10)のシュープレスロール(12)であって、請求項1から
5までのいずれか1項記載のプレススリーブ(20)を少なくとも1つ備えることを特徴とする、プレスロール。
【請求項7】
協働してニップ(22)を形成または画定するプレスロール、すなわちシュープレスロール(12)と相手ロール(14)とを備えた、繊維ウェブ(24
)を処理するためのシュープレス(10)であって、前記プレスロールが、回転するプレススリーブを備えているシュープレス(10)において、前記プレススリーブ(20)が、請求項1から
5までのいずれか1項に従って形成されている
か、または前記プレスロールが請求項6に従って形成されていることを特徴とする、シュープレス(10)。
【請求項8】
プレス、すなわち繊維ウェブ(24
)を処理するためのシュープレス(10)への、請求項1から
5までのいずれか1項記載のプレススリーブ(20)
または請求項6記載のプレスロールの使用。
【請求項9】
前記繊維ウェブ(24)が、紙ウェブ、厚紙ウェブ、薄葉紙ウェブまたはパルプウェブであることを特徴とする、請求項8記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレススリーブ、特に繊維ウェブを処理するための、例えば繊維ウェブを平滑化または脱水するためのプレス装置用のプレススリーブを出発点としており、その詳細を従属請求項に記載する。本発明は、プレスロール、シュープレスならびに該プレスロール、シュープレスにおけるプレススリーブの使用にも関し、その詳細を従属請求項に記載する。
【0002】
プレス装置、例えばシュープレスは、長年にわたって現在の抄紙機の構成要素である。これは主に、横方向に延在する固定配置されたシュー(プレスシューとも呼ばれる)と、該固定シューの周りを回転するプレススリーブとを備えている。プレススリーブは変形可能であり、運転時には実質的に管状の形態をとる。シューは、該シューと相手ロールとが協働してプレスニップ(プレスギャップ)を生じるように形成されている。プレスニップは、シューにおける相手ロールの当接面によって定められる。シューは移動可能に設計されており、相手ロールに対して移動可能である。
【0003】
プレススリーブには、その安定性に関して、すなわち表面硬度や、圧力、温度および加水分解に対する耐久性に関して、非常に大きな要求が課せられている。さらに、プレススリーブには、運転中に強度の交互曲げ負荷がかかっている。シュー縁部の入口で、つまりプレススリーブの回転方向に見てプレスニップの手前で、最初に比較的小さな半径で曲げが生じる。この曲げは、プレスニップの通過時に、すぐに逆曲げに変わる。もう一方のシュー縁部の出口で、つまりプレススリーブの回転方向に見てプレスニップの後で、再度逆曲げが生じる。こうした入口および出口でのプレススリーブの変形は、反転ニップとも呼ばれる。機械的応力が高いことにより、プレススリーブの、特にこの箇所での破断傾向が非常に高いことは明らかである。したがって従来技術から、プレススリーブの安定性を高めるための多くの手法が知られている。
【0004】
たとえばプレススリーブは、シューの周囲をガイドできるように十分に可とう性である必要があり、プレス荷重下にニップ内で変形または圧縮しすぎないように十分に剛性である必要があり、十分な耐摩耗性が必要である。したがって、プレススリーブは、単層または多層のポリマー層、好ましくはポリウレタンからなり、その中に配向物(Gelege)または織物の形の補強糸が埋め込まれていてもよい。
【0005】
本発明は、冒頭で述べたこの種の包括的な主題に関する。
【0006】
従来技術から知られている多層プレススリーブは、各ポリマー層のうちの1つが(多くの場合、局所的にのみ)剥離することから、通常の運転時に早い段階で故障が生じやすい。実際には、これによりプレス装置の予定外の停止状態が生じ、その結果、コストのかかるダウンタイムが増大する。
【0007】
相応するプレスリーブは、とりわけ米国特許出願公開第2009/0038770号明細書、独国特許出願公開第102015217941号明細書、および国際公開第2016/163350号から知られている。
【0008】
したがって本発明の課題は、従来技術の欠点を回避するプレススリーブを提供することである。特に、個々のポリマー層の剥離を回避し、そのようなプレススリーブの耐用年数を延長し、かつそのようなプレススリーブを備えたプレス装置のダウンタイムを短縮する必要がある。
【0009】
前記課題は、独立請求項に記載されているとおりの特徴により解決される。本発明の特に好ましくかつ有利な実施形態は、従属請求項に示されている。
【0010】
本発明者らは、個々のポリマー層が互いに正確に適合していれば、個々のポリマー層の剥離を回避できることを見出した。これは、多層プレススリーブの半径方向で最も外側のポリマー層の厚さが、全体で、プレススリーブの総厚に対して、つまり全ポリマー層の厚さを考慮して、少なくとも5%かつ最大で60%、好ましくは最大で55%である場合に該当する。前述の値は、境界値も含む。作用機序を最終的に解明することはできなかったが、本発明者らは、そのような厚さ比である場合に、プレスの運転時の個々のポリマー層の層間剥離傾向が特に低いプレススリーブを提示できることに注目した。この認識はとにかく、プレススリーブに使用される材料とは無関係である。
【0011】
本発明の利点は、プレススリーブ全体に対する半径方向で最も外側のポリマー層の前述の厚さ比に加えて、半径方向で最も外側のポリマー層に溝または穴も設けた場合に、特に十分に満たされる。これは、半径方向で最も外側のポリマー層の厚さに対してこうした溝または穴の深さの特定の比率を選択した場合に特に該当する。したがって、溝または穴の深さは、半径方向で最も外側のポリマー層の厚さの少なくとも35%、好ましくは少なくとも50%かつ最大で95%であってもよい。
【0012】
さらに本発明者らは、層間剥離の厚さ比および深さ比という2つの方策に加えて、第1および第2ポリマー層をそれらの硬度に関して異なるように設計することにより層間剥離を防止できることを見出した。この場合、硬度の差は1~6ショアAで十分であり、これはつまり、第2ポリマー層の硬度が第1ポリマー層の硬度より低くなるように設計した場合に該当する。
【0013】
本発明により厚さまたは深さといった場合、半径方向、すなわちプレススリーブの長手軸に対して垂直に測定された最大の空間的広がりを意味する。総厚とは、プレススリーブの長手軸に対して垂直な断面で見た場合に、スリーブの半径方向で最も外側の面と半径方向で最も内側の面との間の垂直距離であると解釈すべきである。
【0015】
本発明によれば、あるものが、ある材料から製造されているといった場合、それは、そのものが、部分的に、または完全にそのような材料から製造されていることを意味する。
【0016】
本発明の趣意において、プレス装置とは、例えば繊維ウェブの脱水または処理、例えば平滑化のためのシュープレスを意味する。シュープレスは、シュープレスロールおよび相手ロールを備えており、これらのロールが協働して、プレスニップを形成または画定する。シュープレスロールはさらに、回転するプレススリーブと、固定プレス要素、いわゆるプレスシューとを備えている。このプレスシューは、同様に固定式である支持ヨークで、例えば油圧プレス要素を介して支持され、回転するプレススリーブに押しつけられる。プレススリーブは、固定プレスシューおよび固定ヨークに対して回転し、それによりプレスニップにおいて相手ロールに押しつけられる。プレスシューおよびヨークは、プレススリーブの半径方向で内側に配置されている。固定という概念は、プレス要素が、シュープレスロールまたは相手ロールに対しては回転しないが、直進的に、相手ロールに向かっておよび相手ロールから離れて、好ましくはその半径方向に、ひいては相手ロールに対して相対的に移動可能であることと解釈される。繊維ウェブおよびプレススリーブに加えて、周方向に連続的に回転する1つ以上のプレスフェルトおよび/または連続的に回転するさらなる1つ以上のプレスベルトを、シュープレスのプレスニップに通すことができる。そのようなシュープレスは、当然のことながら2つ以上のプレスニップを含み得る。
【0017】
本発明の趣意における繊維ウェブとは、繊維、例えば木質繊維、合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、添加物質、添加物等の配向物または交絡物(Gewirr)と解釈されるべきである。したがって、繊維ウェブは、例えば紙ウェブ、厚紙ウェブまたは薄葉紙ウェブとして形成されていてよい。繊維ウェブは、主に木質繊維を含むことができ、その際、微量の他の繊維、またはさらに添加物質および添加物が存在していてもよい。これは、適用事例に応じて当業者に委ねられている。
【0018】
本発明の趣意におけるプレススリーブとは、図示されているように、繊維ウェブと一緒にシュープレスのプレスニップに通されるベルト、チューブまたはスリーブと解釈されるべきである。繊維ウェブの脱水に際して、規定の運転時に、プレススリーブの半径方向で最も外側の面(ポリマー層)が、脱水すべき繊維ウェブを直に支持するプレスフェルトと接触することができる。プレスユニットの実施形態に応じて、例えば繊維ウェブを平滑化するために、規定の運転時に、プレススリーブが繊維ウェブと直接接触する場合もある。この場合、プレススリーブは、周方向にその長手軸周りに連続するクローズドタイプのスリーブ(チューブ)として設計されている。プレススリーブは、幅方向に見て(長手軸に沿って)その軸端部において、開口している。したがって、プレススリーブは、その軸端部において2枚の側方テンションプレートによって保持されることができ、それによりシュープレスロールが形成される。オープンタイプのシュープレスの場合と同様に、プレススリーブを、2枚の側方テンションプレートによって案内するのではなく、プレスシューおよび複数のガイドロールで案内することができる。プレススリーブをテンションプレートまたはガイドロールのどちらで案内するかに関わらず、プレスシュー(またはガイドロール)は、プレススリーブの半径方向で最も内側の面の一部と(断続的に)接触する。そのようなプレススリーブの半径方向で最も外側の面、つまり例えばその半径方向で最も外側のポリマー層は、溝および/または止り穴を備えていてもよい。
【0019】
プレススリーブは、部分的にポリマーから製造されていてもよいし、完全にポリマーから製造されていてもよい。この場合、ポリマーとして、流延可能であり、硬化性であって、好ましくはエラストマーであるポリマー、例えばポリウレタンを使用することができる。したがって、ポリマーは、流延エラストマーとして設定されていてよい。
【0020】
ポリマー層とは、こうした、流延可能であり、硬化性であって、好ましくはエラストマーであるポリマーを含むか、または完全に該ポリマーから製造されている層を意味する。好ましくは、ポリマー層は、1ピースで成形によって製造された硬化層であってよい。換言すれば、これは、一体成形されており、つまり例えば流延によって製造されている。1ピースという概念には、ポリマーの流延の際に同一の材料の複数の層から1つの層が製造されたケースも含まれる。しかしこれは、硬化後にこれらの層がもはや実質的に視認不可能であり、単一の、好ましくは一体型の層が生じる場合のみに限られる。したがって、完成したプレススリーブについても、同様のことが該当する。
【0021】
複数のポリマー層が設けられる場合、これらは、半径方向に見て、プレススリーブの幅にわたって少なくとも区画ごとに重ねて配置されていてよい。プレススリーブの幅にわたって少なくとも区画ごとに、とは、プレススリーブが、例えばその軸端部では単層であるのに対して、各軸端部の間では2層または多層に形成されていることを意味する。しかし、複数のポリマー層がプレススリーブの幅全体に延在することも可能である。また、プレススリーブの厚さ、したがって個々のポリマー層の厚さは、その長手軸を通る断面において、区画ごとに長手軸に沿って変化してもよい。例えば、プレススリーブの幅縁領域にある半径方向で最も外側のポリマー層は、プレススリーブの中央より薄くてもよい。換言すれば、幅縁領域において、半径方向で最も外側のポリマー層は、半径方向で内側または半径方向で最も内側のポリマー層ほどの厚みを有していない場合がある。好ましくは、正確に2つ、または正確に3つのポリマー層が設けられる。これらは、それらのポリマーの点で同一となるように設計されていてもよいし、それらのプレポリマーの硬度または化学量論の点で異なっていてもよい。その長手軸を通る断面における完成したプレススリーブの総厚は、半径方向で測定して、5~10mm、好ましくは5~7mm、特に好ましくは5~6mmであってよい。本発明によれば、単層が設けられる場合には、この単層が上述の厚さを有するように、プレススリーブは、1つの流延品のみから、すなわち一体型に製造されていてよい。
【0022】
本発明の趣意における完成したプレススリーブとは、その複数のポリマー層が硬化され、場合により最終的に処理された、すなわち、冒頭で述べた目的で、例えばシュープレスにおいて使用できる状態にあるものをいう。同様に、完成したポリマー層とは、硬化した層を意味する。
【0023】
原則的には、プレススリーブは、補強構造物を有すると考えられる。本発明の趣意における補強構造物という概念は、ポリマーを含むか、またはポリマーからなる少なくとも1つの層、つまりポリマー層の補強物を意味する。この場合、補強構造物は、完全にポリマー層に埋め込まれていてよく、したがって、補強構造物はポリマー層の境界を超えない。換言すれば、ポリマー層は、補強構造物を取り囲むマトリックスの役割を担い、補強構造物は、接着力または凝集力の結果としてマトリックスに結合する。そのような補強構造物は、例えばヤーンもしくは撚糸などのテキスタイル線状構造物、および/または例えば織物、経編物、緯編物、組物もしくは配向物などのテキスタイル平面構造物を含むことができ、相応する出発材料から、例えばワインディングにより製造することができる。出発材料とは、本発明により完成したプレススリーブの補強構造物の製造に用いる材料または半製品であると解釈される。
【0024】
「最大」という概念は、0超から最高の値として示された値(最高値)までの間のすべての値を包含する、右側が閉じた間隔を指す。例えば「最大5」といった場合、これは、0.01(限界値を含むか、または含まない)と5(限界値を含むか、または含まない)との間の間隔を意味する。
【0025】
本発明は、プレスロール、例えば繊維ウェブを脱水するためのシュープレスのシュープレスロールであって、前記プレスロールは、本発明によるプレススリーブを少なくとも1つ備えるプレスロールにも関する。
【0026】
本発明はまた、協働してニップを形成または画定するプレスロール、すなわちシュープレスロールと相手ロールとを備えた、繊維ウェブ、好ましくは紙ウェブ、厚紙ウェブ、薄葉紙ウェブまたはパルプウェブを脱水するためのシュープレスであって、前記プレスロールは、本発明により形成されている回転するプレススリーブを備えている、シュープレスにも関する。
【0027】
最後に本発明は、プレス、すなわち繊維ウェブ、好ましくは紙ウェブ、厚紙ウェブ、薄葉紙ウェブまたはパルプウェブを脱水するためのシュープレスへの、本発明によるプレススリーブの使用に関する。
【0028】
以下では、一般性を制限することなく図面を参照しながら本発明を詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施例によるプレススリーブを備えたシュープレスの部分断面図としての概略側面図である。
【
図2a】長手軸を通る断面で見た場合のプレススリーブの実施形態を示す図である。
【
図2b】長手軸を通る断面で見た場合のプレススリーブの実施形態を示す図である。
【
図3】プレススリーブ製造装置を顕著に概略化して側面図で示した図である。
【0030】
図1に、シュープレス10の部分断面図としての概略側面図を示す。ここで、シュープレス10は、本発明によるプレスロール、
すなわちシュープレスロール12と、相手ロール14とを備えている。シュープレスロール12と相手ロール14とは、その長手軸に関して互いに平行に配置されている。これらのロールが協働して、ニップ22を形成または画定している。
【0031】
ここで、相手ロール14は、その長手軸の周りを回転する円筒形ロールからなり、一方でシュープレスロール12は、シュー16と、それを支持する固定ヨーク18と、プレススリーブ20とから構成されている。シュー16およびヨーク18は、相手ロール14またはプレススリーブ20に対して固定配置されている。これは、それらが回転しないことを意味する。この場合、シュー16は、ヨーク18によって支持されており、かつ図示されていない油圧プレス要素によって、これに対して回転するプレススリーブ20の半径方向で最も内側の面に押しつけられる。この場合、周方向にシュー16およびヨーク18を取り囲むプレススリーブ20は、相手ロール14と反対の回転方向にその長手軸の周りを回転する。相手ロール14に面する側のシュー16が凹状形態を有することから、比較的長いニップ22が生じる。
【0032】
シュープレス10は、繊維ウェブ24の脱水に特に適している。シュープレスの運転時に、繊維ウェブ24は、1つまたは2つのプレスフェルト26、26’と一緒にプレスニップ22に通される。この場合、正確に2つのプレスフェルト26、26’が存在し、それらの間に繊維ウェブ24が収容される。ニップ22を通過する際に、ニップ22においてプレスフェルト26、26’によって繊維ウェブ24に圧力が間接的に加えられる。これは、一方では相手ロール14の半径方向で最も外側の面およびプレススリーブ20の半径方向で最も外側の面が、相応するプレスフェルト26、26’と直接接触することによって達成される。繊維ウェブ24から漏出する液体は、プレスフェルト26、26’および場合によりプレススリーブ表面に設けられた窪み(図示せず)によって一時的に吸収される。ニップ22を出た後、プレススリーブ20の窪みに吸収された液体は廃棄され、その後、プレススリーブ20がプレスギャップ22に再び入る。さらに、プレスフェルト26、26’に吸収された水を、プレスギャップ22を出た後に吸引要素により除去することができる。
【0033】
図面に示されていない本発明のさらなる実施形態において、プレスフェルト26、26’を省くことができる。そのような場合、繊維ウェブ24は、一方でプレススリーブ20と直接接触し、他方で相手ロール14と直接接触し、これらが協働してプレスニップを形成する。相手ロール14は、加熱乾燥シリンダとして設計されていてもよい。
【0034】
図1に示されるプレススリーブは、以下の図に示されるように、本発明に従って設計されていてよい。
【0035】
図2aおよび
図2bに、本発明の異なる実施形態を、完成したプレススリーブ20の長手軸20’を通る、正確な縮尺ではない部分的に図示した断面で示す。長手軸20’からプレススリーブ20の相応するポリマー層の半径方向で最も内側の面までの距離も、縮尺通りには示されていない。
【0036】
図2aによれば、正確に2つのポリマー層、すなわち第1ポリマー層20.1および第2ポリマー層20.2が設けられる。この場合、第1ポリマー層20.1は、プレススリーブ20の半径方向で最も外側のポリマー層でもある。一方、第2ポリマー層20.2は、プレススリーブ20の半径方向で最も内側のポリマー層でもある。両ポリマー層20.1、20.2は、半径方向に見て互いに直に接しており、つまり、それらの間に中間層は存在しない。
【0037】
図示されているように、第2ポリマー層20.2において、補強構造物20’’が設けられていてよい。ここでは、唯一のポリマー層20.1に、補強構造物20’’が埋め込まれている。これは斜線部の円で示され、テキスタイル平面構造物であってもよいし、繊維のようなテキスタイル線状構造物であってもよい。補強構造物20’’は、完全に第2ポリマー層20.2に埋め込まれている。これは、補強構造物20’’がポリマー層20.2の境界を超えていないことを意味する。
【0038】
この場合、第1ポリマー層20.1および第2ポリマー層20.2は、ポリウレタンから製造されている。これは、プレポリマーおよび架橋剤から得ることができる。
【0039】
本発明によれば、半径方向に見た第1ポリマー層20.1の厚さdは、プレススリーブ20全体の総厚Dの、つまり考慮されるすべてのポリマー層20.1、20.2をまとめたものの厚さの半分未満である。
【0040】
図2bに、
図2aの変化形態で、3層プレススリーブを示す。これは、ここでは半径方向で最も外側の第1ポリマー層20.1と、半径方向で最も内側の第3ポリマー層20.3と、これら2つの間に挟んで配置された第2ポリマー層20.2とを含む。この構成は、
図2aにも示すように、その半径方向に見たプレススリーブ20の長手軸20’に基づく。この場合、第2ポリマー層20.2にのみ(単一の)補強構造物20’’が設けられている。当然のことながら、これは別の様式であってもよく、これとは異なって、またはこれに加えて、そのような補強構造物20’’が、第1ポリマー層20.1および/または第3ポリマー層20.3に配置されていてもよい。ここでも、第1ポリマー層20.1および第2ポリマー層20.2はそれぞれ、ポリウレタンから製造されているか、またはポリウレタンを含む。これは、
図2aにも同様に該当する。ここでも、プレススリーブ20の総厚Dに対する第1ポリマー層20.1の厚さdの本発明による厚さ比が選択されることによって、個々のポリマー層の互いの剥離が回避されるプレススリーブが得られる。
【0041】
図3に、本発明によるプレススリーブ20の製造装置を、著しく概略化した側面図で示す。この場合、該装置は、正確に1つの円筒状の巻回マンドレル4を備え、ここで、その半径方向で最も外側のスリーブ面に、例えば出発材料20’’’が螺旋状に施与される。出発材料20’’’は、ポリマーへの埋め込み後に、本発明による完成したプレススリーブ20の補強構造物20’’を形成する。
【0042】
本図は、製造方法の初期段階を示している。この場合、出発材料20’’’の一端は、巻回マンドレル4の外周に配置されたポリマーに固定される。示された概略図とは異なり、出発材料20’’’と巻回マンドレル4との間に最初にポリマーを設けずに、出発材料20’’’の一端を、巻回マンドレル4に直に、すなわち直接載せるか、または施与することも可能である。この場合、出発材料20’’’は、テキスタイル平面構造物であってもよいし、テキスタイル線状構造物であってもよい。
【0043】
巻回マンドレル4は、製造すべきプレススリーブの長手軸に相応するその長手軸20’の周りに回転可能に取り付けられている。この場合、長手軸20’は、作図平面に対して垂直に延在する。ライン5を通じて、流延可能な硬化性エラストマーポリマー、例えばポリウレタンなどの流延材料が、流延ノズル6を通して上方から巻回マンドレル4の半径方向で最も外側のスリーブ面または出発材料20’’’に供給される。このような流延材料は、例えばそのポットライフおよび粘度に関して、流延時に巻回マンドレル4から該流延材料が滴下しないように選択することができる。一方、巻回マンドレル4は、その長手軸の周りを矢印の方向に回転する。この回転と同時に、流延ノズル6は、
図3には図示されていない適切なガイドによって、巻回マンドレル4に対して長手軸20’に沿ってこの軸に平行に案内される。流延材料の流延と同時に出発材料20’’’が巻き取られ、回転する巻回マンドレル4に巻かれて巻回物が形成される。この場合、流延材料は、出発材料20’’’を通って巻回マンドレル4に到達することができる。本例では、硬化ステップの後に、ポリマーが、半径方向で最も内側の、好ましくはエラストマーのポリマー層を形成し、これは、
図2aのプレススリーブのポリマー層20.2に相当し、これについて、
図3に一部のみ示す。
【0044】
流延ノズル6から出てくる流延材料は、プレポリマーと架橋剤との混合物である。プレポリマーは、図示されていないプレポリマー容器から提供され、該容器では、プレポリマーの保管または混合が行われる。プレポリマーは、本発明によるイソシアネートおよびポリオールを含むことができる。プレポリマー容器内で、これは、例えば上記の物質で構成されるプレポリマーの形で存在することができる。
【0045】
架橋剤は、架橋剤容器内で準備することができる。架橋剤は、本発明に従って設計されている。
【0046】
プレポリマー容器および架橋剤容器は、プレススリーブ20の製造装置に属する。これらは、同様に図示されていないラインを通じて、流れが導かれるように、流れ方向に見て流延ノズル6の上流の混合チャンバ(図示せず)に接続されている。したがって、プレポリマー-架橋剤混合物は、流延ノズル6の上流かつ外部で製造され、すなわち、混合チャンバ内で混合される。混合物の製造とは無関係に、次いで、それを巻回マンドレル4の表面に施与することで、プレススリーブ20の少なくとも1つのポリマー層が形成される。
【0047】
したがって、回転流延としても知られるそのような連続流延プロセスにより、その長手軸20’の周りで閉じた、かつその内周が巻回マンドレル4の外周に実質的に一致する連続円筒管状プレススリーブ20が、巻回マンドレル4の幅にわたって徐々に生成される。
【0048】
原則的に、
図3に示す1つよりも多くの巻回マンドレル4に出発材料20’’’を巻き付けることが考えられる。例えば、2本の巻回マンドレルが設けられており、これらを、それらの長手軸に対して平行に、互いに間隔を開けて配置することができる。あるいは、例えばスピン法により、ポリマーを巻回マンドレル4の半径方向に内側のスリーブ面にも施与することも考えられる。上述の実施形態に関わらず、完成したプレススリーブ20は、少なくとも1本の巻回マンドレル4から最終的に取り外される。
【0049】
図3に示すように、プレススリーブ20は、本発明に従って設計されている。
【0050】
図面には示されていないが、少なくとも1つのポリマー層20.1、20.2の補強構造物20’’は、半径方向に重ねて置かれ、かつプレススリーブ20の長手軸方向および周方向に延在する複数の出発材料20’’’から構成されていてもよい。