(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】フッ化物イオンをドープした安定化非晶質リン酸カルシウムおよびその製造プロセス
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20220323BHJP
A61K 6/20 20200101ALI20220323BHJP
A61K 6/17 20200101ALI20220323BHJP
C01B 25/455 20060101ALI20220323BHJP
C01B 25/34 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C01B25/32 V
A61K6/20
A61K6/17
C01B25/455
C01B25/34
C01B25/32 Y
C01B25/32 W
(21)【出願番号】P 2020572498
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 EP2019067188
(87)【国際公開番号】W WO2020002517
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】102018000006753
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】520503463
【氏名又は名称】クラセプト エー.ディー.エス. エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】イアフィスコ ミケーレ
(72)【発明者】
【氏名】タンピエリ アンナ
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-522385(JP,A)
【文献】特表2018-505211(JP,A)
【文献】JOSE MANUEL DELGADO-LOPEZ,CRYSTALLIZATION OF BIOINSPIRED CITRATE-FUNCTIONALIZED NANOAPATITE WITH TAILORED CARBONATE CONTENT,ACTA BIOMATERIALIA,2012年05月08日,VOL:8, NR:9,PAGE(S):3491 - 3499,http://dx.doi.org/10.1016/j.actbio.2012.04.046
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00
A61K 6/00
A61K 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸塩で被覆された非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子の調製プロセスであって、
1)クエン酸イオン対カルシウムイオンのモル比が1~2の範囲であるカルシウムの塩およびクエン酸塩の第一の溶液を提供し、こうして、透明な第一の溶液を得るステップと、
2)リン酸アニオンおよび炭酸塩を与えることができる塩の第二の溶液の提供するステップと、
3)透明な前記第一の溶液と前記第二の溶液とをpH8~11の範囲で一緒に混合するステップと、
4)ナノ粒子を沈殿させるステップと、
5)ステップ4)から得られた前記ナノ粒子を乾燥させるステップと、を含む、調製プロセス。
【請求項2】
前記カルシウムの塩が、塩化物、硝酸塩、水酸化物、酢酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩からなる群から選択されるアニオンからなり、好ましくは前記アニオンが塩化物である、請求項1に記載の調製プロセス。
【請求項3】
前記クエン酸塩が、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択されるカチオンからなり、好ましくは前記カチオンがナトリウムである、請求項1または2に記載の調製プロセス。
【請求項4】
前記クエン酸イオン対カルシウムイオンのモル比が約2である、請求項1~3のいずれか一項に記載の調製プロセス。
【請求項5】
ステップ1)の前記第一の溶液が、ストロンチウム塩およびマグネシウム塩の群から選択される少なくとも1つのさらなる塩を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の調製プロセス。
【請求項6】
リン酸アニオンを与えることができる前記塩は、リン酸、リン酸水素またはリン酸水素の塩であり、好ましくは、ナトリウム、カリウム、およびアンモニウムからなる群から選択されるカチオンからなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の調製プロセス。
【請求項7】
ステップ3)の前記pHが8.5~10.7の範囲である、請求項1~6のいずれか一項に記載の調製プロセス。
【請求項8】
前記混合させるステップ3)において、前記第二の溶液を透明な前記第一の溶液に添加する、請求項1~7のいずれか一項に記載の調製プロセス。
【請求項9】
ステップ4)において、上澄みを遠心分離除去し、沈殿物を回収し、洗浄することによる沈降サイクルを提供することにより、前記沈殿が実行される、請求項1~8のいずれか一項に記載の調製プロセス。
【請求項10】
前記乾燥させるステップ5)が、凍結乾燥、噴霧乾燥、および換気オーブン乾燥から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の調製プロセス。
【請求項11】
ステップ1)において、フッ素化合物が添加される、請求項1~10のいずれか一項に記載の調製プロセス。
【請求項12】
前記フッ素化合物が、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択されるカチオンのフッ化物である、請求項11に記載の調製プロセス。
【請求項13】
ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定した表面積が250m
2g
-1~360m
2g
-1であり、円形形態を有し、透過型電子顕微鏡(TEM)画像で測定した直径が30~80nmの範囲を有することを特徴とする、クエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子。
【請求項14】
ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定した表面積が2m
2g
-1~10m
2g
-1であり、円形形態を有し、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した直径が2~25μmの範囲を有することを特徴とする、クエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子凝集体。
【請求項15】
ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定した表面積が250m
2g
-1~370m
2g
-1であり、円形形態を有し、透過型電子顕微鏡(TEM)画像で測定した直径が30~80nmの範囲を有することを特徴とする、フッ素ドープクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子。
【請求項16】
ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定した表面積が3m
2g
-1~10m
2g
-1であり、円形形態を有し、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した直径が2~25μmの範囲を有することを特徴とする、クエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子凝集体。
【請求項17】
歯科用途に使用するための生体材料としての、請求項13~16のいずれか一項に記載のナノ粒子またはナノ粒子凝集体。
【請求項18】
前記生体材料が再石灰化剤または象牙質知覚過敏抑制剤として使用される、請求項17に記載の使用のための生体材料としてのナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、好ましくは歯科に使用される生体材料に関する。特に、本発明は、好ましくはフッ化物イオンでドープされたクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムの粒子およびその製造プロセスに関する。本発明はまた、医薬において、好ましくは歯科において、歯の再石灰化および象牙質知覚過敏抑制剤のための生体材料としての、生体材料としての本発明の粒子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
非晶質リン酸カルシウム(ACP)は、生体鉱物化科学においても生物医学材料分野においても最も重要なリン酸カルシウム(CaP)相の1つである。ACPは、多くの生物系、とりわけ、原始生物において、主にCa2+とPO4
3-イオンの貯蔵庫として発生する。ACPは、水酸アパタイト(HA)とリン酸八カルシウム(OCP)よりも表面エネルギが低いため、Ca2+とPO4
3-イオンを含む過飽和水溶液から沈殿する最初の相である。ACPは、結晶性の長距離秩序ではなく、短距離秩序を有する鉱物相である。BettsとPosnerにより提案されたACPの基本構造単位は、化学組成Ca9(PO4)6と一致する平均直径9.5nmの略球状イオンクラスターである。
【0003】
ACPは不安定な物質であり、溶液中でも乾燥状態でも、より熱力学的に安定なCaP相(すなわち、HAおよびOCP)に変化し、大気中の水と反応して、最終的な生体材料として使用される場合、ACPの安定性という問題を明らかに悪化させることが知られている。
【0004】
ACPは、その優れた生物活性、高い細胞接着性、調整可能な生分解性、および良好な骨伝導性のために、いくつかの生体材料を製造するために、現在、研究されている。例えば、金属補綴物の被覆にも、自己硬化性の注射用セメントにも、ポリマーとのハイブリッド複合体にも、調整で使用されている。
【0005】
ACPは、他の結晶性CaP相と比較して、かなりの量のCa2+イオンおよびPO4
3-イオンを放出する能力があるので、エナメル再石灰化剤として歯科で、特に魅力的な材料である。これらの薬剤は、修復材料に添加することも、あるいはエナメル質表面下病変に浸透するように歯の表面に直接塗布することもできる。ACPは、石灰化組織の形成中の必須の前駆体相であることが提案されている。したがって、ACPを使用はすることで、新しい鉱物相を形成する生体鉱物化処理を模倣することによって、生体模倣再石灰化戦略を提供することができる。
【0006】
歯の硬組織(エナメル質および象牙質)の脱灰は、虫歯および象牙質知覚過敏症の主な原因である。これはpHが低い環境によって引き起こされる。pHが低くなるのは、酸性の飲食物の摂取、胃食道逆流症の存在、または病原性の口腔バイオフィルムの酸生成活性という3つの主な原因によるものである。唾液のpH値が5.5未満に低下すると、エナメル質および象牙質でそれぞれ95重量%および75重量%を占める歯の組織の主要な無機成分であるヒドロキシアパタイト(HA)が溶解し始める。
【0007】
損傷した組織が再石灰化に有利な口腔環境に晒される場合、脱灰は、可逆的なプロセスである。例えば、脱灰プロセスによって引き起こされたエナメル質の空洞は、核形成部位として機能する残留結晶のエピタキシャル成長によって自然に再石灰化され、唾液はHAに対して過飽和なCa2+およびPO4
3-イオン環境を提供する。しかしながら、唾液によるエナメル質の再石灰化が完全に達成されることは、めったにない。特に、脱灰/再石灰化段階の期間と程度に不均衡がある場合は、めったに達成されない。脱灰を効率的に逆転させ、再石灰化を促進するには、おそらく結晶病変およびボイドにCa2+イオンとPO4
3-イオンを供給する外部ソースを使用して、HAの過飽和を増加させ、正味のミネラルゲインを生成することが役立つ。したがって、異なる形態のCaP(すなわち、HA、フルオロヒドロキシアパタイト(FHA)、リン酸四カルシウム(TTCP)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)、ACPなど)を含有するいくつかの製剤が、エナメル質脱灰の治癒剤として報告されている。しかしながら、再石灰化を促進するために口腔内に結晶性CaP相を塗布することに伴う主な課題は、特にフッ化物イオンの存在下での溶解度が低いことであり、その結果、Ca2+イオンおよびPO4
3-イオンが利用できないことである。
【0008】
最近、クエン酸塩がHA結晶化において重要な二重の役割、すなわち、非晶質前駆体を介して成長経路を駆動する役割と、非古典的な配向凝集結晶成長メカニズムによってナノ粒子のサイズを制御する役割を果たすことが報告された。
【0009】
さらに、フッ化物は、エナメル質脱灰を減少および予防するために最も広く使用されている予防剤であり、虫歯予防のための最も有効な薬剤として残っている。フッ化物は、以下の2つの異なるメカニズムによって機能すると考えられている。i)新しく形成されたHAのヒドロキシル基の置換により、フッ素アパタイト[FHA、Ca5(PO4)3F]が生成される。これは、HAよりも溶解性が低く、したがって酸の攻撃に対してより耐性がある。ii)歯の組織を脱灰するために有機酸を生成する齲蝕原性バイオフィルム中の微生物の代謝的および生理学的経路を阻害する。
【0010】
したがって、本発明の第一の目的は、エナメル質病変におけるCa2+、PO4
3-およびF-の送達であり、再石灰化効果を改善し、同時に象牙質細管の咬合(occlusion)をもたらす。
【0011】
特許文献1には、フッ化物でドープされたクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子を得るプロセスが記載されている。これは、エナメル質と象牙質の再石灰化剤として、医学やうがい薬、練り歯磨き、チューインガムなどの歯科用製品に適用できる。
【0012】
具体的には、同文献に記載されているプロセスは、以下のステップ、すなわち、
・濃度が0.08M~0.12MであるCaCl2溶液、および濃度が0.35M~0.50Mであるクエン酸ナトリウムを、調製するステップと、
・濃度が0.10M~0.15MであるNa2HPO4と、0.2MのNa2CO3およびフッ素化合物とによって形成されている、第二の溶液を調製するステップと、
・先行する段階において調製した2種類の溶液を、1:1(v/v)の比率、8.3~8.7のpH(例えば、HClによって調整されている)、室温にて、2分間未満の期間、攪拌しながら混合するステップと、
・遠心分離、上澄みの除去、および超純水を用いた沈殿物の洗浄による沈殿サイクルを3回連続して行うステップと、
・湿った沈殿物を凍結乾燥させるステップと、を含む。
【0013】
このプロセスにより、骨芽細胞で生物学的応答をもたらすナノ粒子を得ることができる。具体的には、骨芽細胞と接触して完全に生体適合性を保ちながら、様々なナノ粒子濃度で細胞増殖が観察された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1のナノ粒子が、エナメル質の再石灰化に適合した良好な生体材料であったとしても、依然として、効果的で短期間で再石灰化剤として作用することのできる生体材料が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、クエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子の製造プロセスを見出した。このプロセスは、以下のステップ、すなわち、
1)クエン酸イオン対カルシウムイオンのモル比が1~2の範囲であるカルシウムの塩およびクエン酸塩の第一の溶液を提供し、こうして、透明な第一の溶液を得るステップと、
2)リン酸アニオンおよび炭酸塩を与えることができる塩の第二の溶液の提供するステップと、
3)透明な第一の溶液と第二の溶液とをpH8~11の範囲で一緒に混合するステップと、
4)ナノ粒子を沈殿させるステップと、
5)ステップ4)から得られたナノ粒子を乾燥させるステップと、を含む。
【0017】
本発明のプロセスでは、混合するステップを実施する前に、第一の溶液は透明である。「透明な第一の溶液」という表現は、第一の溶液が、いかなる種類の粒子も実質的に含まないことを意味する。
【0018】
有利なことに、ステップ5)は、凍結乾燥させるステップである。
【0019】
別の態様では、本発明は、本発明によるプロセスによって得ることができるクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子に関し、乾燥させるステップ5)は、凍結乾燥させるステップであり、前記ナノ粒子は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定した表面積が250m2g-1~360m2g-1であり、円形形態を有し、透過型電子顕微鏡(TEM)画像で測定した直径が30~80nmの範囲を有することを特徴とする。
【0020】
したがって、第一の実施形態では、ナノ粒子の表面積は、粉末サンプルおよびSorpty1750(Carlo Erba、イタリア国ミラノ)を使用することによるブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定して、250m2g-1~360m2g-1の範囲にあり、前記ナノ粒子は、好ましくは、円形形態を有し、直径が30~80nmの範囲を有する。直径を決定するために使用されるすべての器具は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像を有することができる器具である。
【0021】
有利なことに、ステップ5)は、噴霧乾燥させるステップである。
【0022】
別の態様では、本発明は、本発明によるプロセスによって得ることができるクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子凝集体に関し、乾燥させるステップ5)は、噴霧乾燥させるステップであり、前記ナノ粒子凝集体は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定した表面積が3m2g-1~10m2g-1であり、球形を有し、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した直径が2~25μmの範囲を有することを特徴とする。
【0023】
ステップ5)が噴霧乾燥させるステップからなる場合、以下の実験の部によっても明らかであるように、最終生成物は、2~25μmの範囲の直径を有する微粒子に対応するナノ粒子の凝集体である。
【0024】
したがって、第二の実施形態では、ナノ粒子凝集体の表面積は、粉末サンプルおよびSorpty1750(Carlo Erba、イタリア国ミラノ)を使用することによるブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定して、3m2g-1~10m2g-1の範囲にあり、前記ナノ粒子凝集体は、好ましくは、球形であって、直径が2~25μmの範囲を有する。直径を決定するために使用される器具は、すべて走査型電子顕微鏡(SEM)用の器具である。
【0025】
本発明のさらなる好ましい態様では、ステップ2)の第二の溶液にフッ素化合物を添加することによって、フッ素ドープクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子を得ることができる。
【0026】
したがって、別の好ましい態様では、本発明は、本発明によるプロセスによって得られるフッ素ドープクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子に関し、ステップ2)でフッ素化合物を添加することを含み、乾燥させるステップ5)は、凍結乾燥させるステップであり、前記ナノ粒子は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定した表面積が250m2g-1~360m2g-1であり、円形形態を有し、透過型電子顕微鏡(TEM)画像で測定した直径が30~80nmの範囲を有することを特徴とする。
【0027】
したがって、第一の実施形態では、フッ素ドープクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子の表面積は、粉末サンプルおよびSorpty1750(Carlo Erba、イタリア国ミラノ)を使用することによるブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定して、250m2g-1~370m2g-1の範囲にあり、前記ナノ粒子は、好ましくは、球形であって、直径が30~80μmの範囲を有する。直径を決定するために使用されるすべての器具は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像を有することができる器具である。
【0028】
別の好ましい態様では、本発明は、本発明によるプロセスによって得ることができるフッ素ドープクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子凝集体に関し、ステップ2)でフッ素化合物を添加することを含み、乾燥させるステップ5)は、噴霧乾燥させるステップであり、前記ナノ粒子凝集体は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定した表面積が3m2g-1~10m2g-1であり、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した直径が2~25μmの範囲を有することを特徴とする。
【0029】
表面積は、粉末サンプルおよびSorpty1750(Carlo Erba、イタリア国ミラノ)を用いて、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定する。
【0030】
さらなる態様において、本発明は、一般に歯科における口腔の処置で、生体材料としての本発明のナノ粒子またはナノ粒子凝集体の使用に関する。好ましくは、生体材料は、再石灰化剤として、好ましくは歯の硬組織の再石灰化のために、または象牙質知覚過敏抑制剤として使用され、後者の場合、その作用は、好ましくは象牙質細管を充填し、閉塞することである。
【0031】
具体的には、生体材料は、再石灰化剤であり、好ましくは、アブフラクション、酸蝕症、歯腔、摩耗症、白斑、および低石灰化の場合である。
【0032】
さらに別の態様では、本発明は、整形外科用途における生体材料としての本発明の粒子の利用に関する。
【発明の効果】
【0033】
驚くべきことに、本発明のクエン酸塩安定化ナノ粒子およびフッ素ドープクエン酸塩安定化ナノ粒子は、大きな表面積を有し、その結果、Ca2+およびF1-イオンを非常に速く送達できるようになった。これは、特許文献1に記載されているような従来技術のナノ粒子よりも確かに高速である。
【0034】
いかなる特定の理論にも束縛されることなく、実験の部でより詳細に説明されるように、本発明者らは、Ca2+イオンおよびF1-イオンを非常に速い方法で送達する驚くべき特性は、このプロセス、すなわち、クエン酸イオン対カルシウムイオンのモル比が1~2であることに起因すると考える。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1A】実施例1で調製したACP
4のTEM顕微鏡写真を示す。(挿入図:対応するSAEDパターン)。
【
図1B】実施例1で調製したACP
4のXRDパターンを示す。
【
図1C】実施例1で調製したACP
4のFT-IRスペクトルを示している。
【
図2A】実施例1で調製したF-ACP
4のTEM顕微鏡写真を示す。(挿入図:対応するSAEDパターン)。
【
図2B】実施例1で調製したF-ACP
4のXRDパターンを示す。
【
図2C】実施例1で調製したF-ACP
4のFT-IRスペクトルを示している。
【
図3A】実施例2で調製したACP
1のTEM顕微鏡写真を示す。(挿入図:対応するSAEDパターン)。
【
図3B】実施例2で調製したACP
2、ACP
1、F-ACP
1、F-ACP
2のXRDパターンを示す。
【
図3C】実施例2で調製したACP
2、ACP
1、F-ACP
1、F-ACP
2のFT-IRスペクトルを示す。
【
図4A】実施例1および実施例2で調製したACPサンプルからの累積Ca
2+放出を報告する。データは、平均±標準偏差(n=5)として表される。
【
図4B】実施例1および実施例2で調製したF-ACPサンプルからの累積Ca
2+放出を報告する。データは、平均±標準偏差(n=5)として表される。
【
図4C】実施例1および実施例2で調製したF-ACPサンプルからの累積F
-を報告する。データは平均±標準偏差(n=5)として表される。
【
図5】実施例8の噴霧乾燥したF-ACP
1のXRDパターンを示す。
【
図6】実施例8の噴霧乾燥したF-ACP
1の異なる倍率でのSEM顕微鏡写真を示す。
【
図7】実施例2で調製し、合成後1年間、実施例9の室温で保存したACP
2、ACP
1、F-ACP
2、F-ACP
1のXRDパターンを示す。
【
図8】実施例2の2で調製したSrF-ACP
2、MgF-ACP
2、SrMgF-ACP
2、SrF-ACP
1、MgF-ACP
1、SrMgF-ACP
1のXRDパターンを示す。
【
図9】実施例2の2で調製したSrF-ACP
2,MgF-ACP
2,SrMgF-ACP
2,SrF-ACP
1,MgF-ACP
1,SrMgF-ACP
1のFT-IRスペクトルを示す。
【
図10A】実施例2の2で調製したSrF-ACP
2、MgF-ACP
2、SrMgF-ACP
2、SrF-ACP
1、MgF-ACP
1、SrMgF-ACP
1サンプルからの累積Ca
2+放出を報告する。データは平均±標準偏差(n=5)で表される。
【
図10B】実施例2の2で調製したSrF-ACP
2、MgF-ACP
2、SrMgF-ACP
2、SrF-ACP
1、MgF-ACP
1、SrMgF-ACP
1からの累積F
-放出を報告する。データは平均±標準偏差(n=5)で表される。
【発明を実施するための形態】
【0036】
したがって、本発明は、クエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子の製造プロセスに関し、このプロセスは、以下のステップ、すなわち、
1)クエン酸イオン対カルシウムイオンのモル比が1~2の範囲であるカルシウムの塩およびクエン酸塩の第一の溶液を提供し、こうして、透明な第一の溶液を得るステップと、
2)リン酸アニオンおよび炭酸塩を与えることができる塩の第二の溶液の提供するステップと、
3)透明な第一の溶液と第二の溶液とをpH8~11の範囲で一緒に混合するステップと、
4)ナノ粒子を沈殿させるステップと、
5)ステップ4)から得られたナノ粒子を乾燥させるステップと、を含む。
【0037】
このプロセスのステップ1)は、カルシウムの塩およびクエン酸塩からなる第一の溶液を提供することからなり、ここで、クエン酸イオン対カルシウムイオンのモル比は、1~2の範囲である。こうして得られた第一の溶液は、透明である。
【0038】
カルシウムの塩は、好ましくは、塩化物、硝酸塩、水酸化物、酢酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩からなる群から選択されるアニオンからなり、より好ましくは、アニオンは塩化物である。
【0039】
クエン酸塩は、好ましくは、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択されるカチオンからなり、より好ましくは、カチオンはナトリウムである。
【0040】
より好ましくは、クエン酸イオン対カルシウムイオンのモル比は、約1である。
【0041】
さらにより好ましくは、クエン酸イオン対カルシウムイオンのモル比は、約2であり、好ましい実施形態において、本発明によるプロセスのステップ1)の第一の溶液は、ストロンチウム塩およびマグネシウム塩の群から選択される少なくとも1つのさらなる塩を含む。
【0042】
ストロンチウム塩は、好ましくは、塩化物、硝酸塩、水酸化物、酢酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩からなる群から選択されるアニオンからなり、より好ましくは、アニオンは塩化物である。
【0043】
マグネシウム塩は、好ましくは、塩化物、硝酸塩、水酸化物、酢酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩からなる群から選択されるアニオンからなり、より好ましくは、アニオンは塩化物である。
【0044】
ステップ2)は、リン酸アニオンおよび炭酸塩を与えることができる塩の第二の溶液を提供することからなる。
【0045】
好ましくは、炭酸アニオンとリン酸塩との比は、1~1.66の範囲である。
【0046】
好ましくは、リン酸アニオンを与えることができる塩は、リン酸、リン酸水素、またはリン酸水素の塩である。リン酸アニオンを与えることができる塩は、好ましくは、ナトリウム、カリウム、およびアンモニウムからなる群から選択されるカチオンからなり、より好ましくは、カチオンはナトリウムである。
【0047】
ステップ3)は、第一の溶液と第二の溶液とを、pH8~11の範囲で、好ましくは8.5~10.7の範囲で、一緒に混合することからなる。
【0048】
有利な態様では、第一の溶液と第二の溶液との比は、1:1~1:1.5の範囲である。
【0049】
本発明によれば、混合するステップ3)は、第一の溶液が透明になった後に実施される。好ましくは、第二の溶液は、混合するステップのために、透明な第一の溶液に添加される。
【0050】
ステップ4)は、ナノ粒子を沈殿させることからなる。
【0051】
沈殿させるステップは、有利なことに、遠心分離による沈降サイクルを提供することによって実施することができ、その後、周知の方法に従って、上澄みの除去を実施することができる。沈殿物を収集すると、すぐに、好ましくは、超純水で洗浄することができる。次いで、湿った沈殿物を、当技術分野で公知の乾燥方法に従って乾燥させる。
【0052】
ステップ5)は、本発明の沈殿したナノ粒子を乾燥させることからなる。
【0053】
乾燥させるステップは、当技術分野で公知の任意の適切な手段を用いて実施することができる。好ましくは、乾燥させるステップは、凍結乾燥、噴霧乾燥、および換気オーブン乾燥から選択することができる。この換気オーブン乾燥は、好ましくは、エタノールで洗浄した後、約40℃の温度で行う。
【0054】
好ましい態様では、乾燥させるステップ5)は、凍結乾燥させるステップである。
【0055】
別の態様では、本発明は、本発明によるプロセスによって得ることができるクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子に関し、乾燥させるステップ5)は、凍結乾燥させるステップであり、前記ナノ粒子は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定して、250m2g-1~360m2g-1であり、好ましくは、270m2g-1~360m2g-1であり、円形形態を有し、透過型電子顕微鏡(TEM)画像で測定した直径が30~80nmの範囲を有する。
【0056】
したがって、第一の実施形態では、ナノ粒子の表面積は、粉末サンプルおよびSorpty1750(Carlo Erba、イタリア国ミラノ)を使用することによるブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定して、250m2g-1~360m2g-1の範囲にあり、好ましくは、270m2g-1~360m2g-1の範囲にあり、前記ナノ粒子は、好ましくは、球形を有し、直径が30~80nmの範囲を有する。直径を決定するために使用されるすべての器具は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像を有することができる器具である。
【0057】
さらなる有利な態様では、乾燥させるステップ5)は、噴霧乾燥させるステップである。
【0058】
別の態様では、本発明は、本発明によるプロセスによって得ることができるクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子凝集体に関する。乾燥させるステップ5)は、噴霧乾燥させるステップであり、前記ナノ粒子凝集体は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定した表面積が3m2g-1~10m2g-1であり、円形形態を有し、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した直径が2~25μmの範囲を有することを特徴とする。
【0059】
したがって、第一の実施形態では、ナノ粒子凝集体の表面積は、粉末サンプルおよびSorpty1750(Carlo Erba、イタリア国ミラノ)を使用することによるブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定して、3m2g-1~10m2g-1の範囲にあり、前記ナノ粒子凝集体は、好ましくは、球形であって、直径が2~25μmの範囲を有する。直径を決定するために使用される器具は、すべて走査型電子顕微鏡(SEM)用の器具である。
【0060】
本発明のさらなる好ましい態様では、ステップ2)の第二の溶液中にフッ素化合物を添加することによって、フッ素ドープクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子を得ることができる。
【0061】
好ましくは、フッ素化合物は、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択されるカチオンのフッ化物である。
【0062】
したがって、別の好ましい態様では、本発明によるプロセスによって得ることができるフッ素ドープクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子に関し、ステップ2)においてフッ素化合物を添加することを含み、乾燥させるステップ5)は、凍結乾燥させるステップであり、前記ナノ粒子は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定した表面積が250m2g-1~370m2g-1であり、好ましくは、270m2g-1~370m2g-1であり、円形形態を有し、透過型電子顕微鏡(TEM)画像で測定した直径が30~80nmの範囲を有することを特徴とする。
【0063】
したがって、第一の実施形態では、フッ素ドープクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子の表面積は、粉末サンプルおよびSorpty1750(Carlo Erba、イタリア国ミラノ)を使用することによるブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定して、250m2g-1~370m2g-1の範囲にあり、好ましくは、270m2g-1~370m2g-1の範囲にあり、前記ナノ粒子は、好ましくは、球形を有し、直径が30~80nmの範囲を有する。直径を決定するために使用されるすべての器具は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像を有することができる器具である。
【0064】
別の好ましい態様では、本発明は、本発明によるプロセスによって得ることができ、ステップ2)においてフッ素化合物を添加することを含み、フッ素ドープクエン酸塩被覆非晶質リン酸カルシウムのナノ粒子凝集体に関し、乾燥させるステップ5)は、噴霧乾燥させるステップであり、前記ナノ粒子凝集体は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定した表面積が3m2g-1~10m2g-1であり、円形形状を有し、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した直径が2~25μmの範囲を有することを特徴とする。
【0065】
表面積は、粉末サンプルおよびSorpty1750(Carlo Erba、イタリア国ミラノ)を用いて、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で測定する。
【0066】
さらなる態様では、本発明は、歯科用途で使用するための生体材料としての本発明の粒子の使用に関する。好ましくは、生体材料は、歯の硬組織の再石灰化のために、または象牙質知覚過敏抑制剤として使用され、この後者の場合、その作用は、好ましくは象牙質細管を充填し、閉塞することである。
【0067】
さらに別の態様では、本発明は、整形外科用途における生体材料としての本発明の粒子の利用に関する。
【0068】
(実験の部)
(材料)
塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O、純度99.0%以上)、クエン酸三ナトリウム二水和物(Na3(C6H5O7)・2H2O、純度99.0%以上)、リン酸ナトリウム二塩基性二水和物(以下、Na3(Cit)と称する)、リン酸ナトリウム二水和物(Na2HPO4・2H2O、純度99.0%以上)、塩化ストロンチウム六水和物(SrCl2・6H2O、純度99.0%以上)、塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O、純度99.0%以上)、炭酸ナトリウム一水和物(Na2CO3・2H2O、純度99.0%以上)、フッ化ナトリウム(NaF、純度99.0%以上)、塩化カリウム(KCl、純度99.0%以上)、チオシアン酸カリウム(KSCN、純度98.0%以上)、炭酸ナトリウム一塩基性(NaHCO3、純度99.7%以上)および乳酸(C3H6O3、純度90.0%以上)は、Sigma Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス)から購入した。全ての溶液を超純水(0.22μS、25℃、MilliQ(登録商標)、Millipore)で調製した。
【0069】
(評価の手段および方法)
表1に報告したサンプルのX線回折(XRD)パターンを、40kVおよび40mAで生成したCu Kα放射線(λ=1.54178Å)を用いたLynx-eye位置有感検出器を備えたD8 Advance回折計(Bruker、ドイツ国カールスルーヘ)に記録した。スペクトルは、10~60°の2θ範囲にて、0.021のステップサイズ(2θ)および0.5秒の計数時間で記録した。
【0070】
フーリエ変換赤外(FT-IR)分光分析は、KBrペレット法を用いて、2cm-1の分解能を有するNicolet5700分光計(Thermo Fisher Scientific Inc.、米国マサチューセッツ州ウォルサム)で4000~400cm-1の範囲をカバーする64回のスキャンの蓄積により行った。
【0071】
透過型電子顕微鏡(TEM)および選択視野電子回折(SAED)による評価は、120 kVで動作するTecnai F20顕微鏡(Fei Corp.、米国オレゴン州ヒルズボロ)で行った。粉末サンプルを超純水中に超音波で分散させ、次いで、スラリーの数滴を、薄い非晶質炭素フィルムで覆われた200メッシュの銅TEMグリッド上に堆積させ、数分間インキュベートした。
【0072】
CaおよびP、MgおよびSrの定量は、誘導結合プラズマ原子発光(ICP-OES)分光計(Agilent Technologies 5100 ICP-OES、米国カリフォルニア州サンタクララ)で行い、Fは、フッ化物イオン電極(Intellical(商標)ISEF121、Hach Lange、米国コロラド州ラブランド)によって定量した。サンプルは、粉末のアリコートを1重量%HNO3溶液に溶解して調製した。
【0073】
熱重量分析(TGA)は、STA 449 Jupiter(Netzsch GmbH、ドイツ国ゼルプ)装置を用いて行った。約10mgのサンプルを白金るつぼ中で秤量し、10℃/分の加熱速度で、空気流下で室温から1200℃まで加熱した。
【0074】
ブルナウアー・エメット・テラー(BET)気体吸着法で、Sorpty1750(Carlo Erba、イタリア国ミラノ)を用いて、粉末サンプルの比表面積(SSA)を測定した。
【0075】
走査型電子顕微鏡(SEM)評価は、Sigma NTS Gmbh(Carl Zeiss、ドイツ国オーバーコッヘン)を用いて行った。粉末サンプルを、カーボンテープを用いてアルミニウムスタブ上にマウントし、分析前に、スパッタリング電流30mA、10-3mbarのアルゴン下で4分間にわたって、Sputter Coater E5100(Polaron Equipment、英国ハートフォードシャー州ワトフォード)中で、金でスパッタ被覆した。
【0076】
(実施例1)従来技術(特許文献1)のナノ粒子の調製
乾燥粉末ACP(非晶質リン酸カルシウム)は、(i)100mM CaCl2+400mM Na3(Cit)および(ii)120mM Na2HPO4+200mM Na2CO3の2つの溶液(1:1(v/v)、総量200mL)を室温で混合することによって合成した。HCl溶液でpHを8.5に調整した。混合物が乳状になったとき、粒子を、4℃でサーモスタットをかけて、5000rpmで15分間遠心分離することによって超純水で3回洗浄し、次いで、3mbarの真空下で、-50℃で一晩凍結乾燥した。
【0077】
F-ACPサンプルをACPと同様に調製したが、その一方で、50mM NaF2を溶液(ii)に添加した。
【0078】
(実施例2)本発明のナノ粒子の調製
実施例1と同じ調製に続いて、初期Cit/Caモル比を2および1に減少させて、ACPおよびF-ACP(50mM NaF2を用いてドープした)のサンプルも調製した(以下、それぞれACP2、F-ACP2およびACP1、F-ACP1とコード化)。
【0079】
(実施例2の2)MgおよびSrを用いた本発明のナノ粒子の調製
実施例2の調製に続いて、SrF-ACP、MgF-ACPおよびSrMgF-ACPのサンプルもF-ACPと同様に調製し、その一方で、5mM SrCl2もしくは40mM MgCl2またはその両方を溶液(i)に添加した。初期モルCit/Ca比2および1(以下、それぞれSrF-ACP2、MgF-ACP2、SrMgF-ACP2およびSrF-ACP1、MgF-ACP1、SrMgF-ACP1とコード化)を使用した。
【0080】
実施例1および実施例2の調製に使用したサンプルのコードおよび化学反応物の濃度を以下の表1に報告する。
【表1】
【0081】
従来技術のサンプルは、クエン酸塩とカルシウムとのモル比が4であるのに対し、本発明のサンプルは、モル比が1~2の範囲で調製された。
【0082】
(実施例3:実施例1で調製したACP4粒子の物理的特性および組成の評価)
実施例1で調製した乾燥粉末ACP4を、上記に報告した装置を用いて物性について評価した。
【0083】
図1Aでは、ACP
4のTEM顕微鏡写真が報告されており、結晶性CaPに典型的なファセットの角張った形状ではなく、20~50nmの範囲のサイズを有する丸い形状のナノ粒子が明確になっている。そのようなナノ粒子について収集されたSAEDパターン(
図1Aの右上の挿入図)は、スポットではなく拡散翼が存在することから、非晶質性を示す。
【0084】
ACP
4のXRDパターン(
図1B)は、長距離周期性のない相に典型的な約30°(2θ)の広いバンドを示し、ACP
4の非結晶組織を確認し、HAおよび他のCaP結晶相の存在を排除している。FT-IRスペクトル(
図1C)は、非晶質構造を有するCaPに特徴的な広い未分解のバンドを示す。特に、約560cm
-1および約1050cm
-1の吸着バンドは、それぞれ、リン酸基の曲げおよび伸張モードに関連しており、約870cm
-1および約1400~1500cm
-1のバンドは、炭酸イオンに起因するのに対し、約1605cm
-1のバンドは、吸着水およびクエン酸塩COO
-の伸縮に割り当てられた。
【0085】
したがって、
図1A、
図1B、
図1Cは、非晶質リン酸カルシウムからなるナノ粒子が球形であることを確認した。
【0086】
(実施例4:実施例1で調製したF-ACP粒子の物理的特性および組成の評価)
実施例1を参考に、第一のステップは、ACP4の調製に用いられるプロトコルに関して、試薬濃度とCit/Ca比を一定に保ち、一方、ドープACP4(以下、F-ACP4と呼ぶ)にNaFを添加した。
【0087】
F-ACP
4(
図2A)のTEM画像は、ACP
4と同様のサイズと形態を有する丸い形状の粒子を示す。そのようなナノ粒子について収集されたSAEDパターン(
図2Aの右上の挿入図)は、スポットではなく拡散翼が存在することから、非晶質性を示す。F-ACP
4のXRDパターン(
図2B)は、ACP
4で記録されたのと同じ約30°(2β)で広範な回折ピークを示し、これは、F
-イオンの存在が、フッ化物塩または他の結晶性CaP相の沈殿を引き起こさなかったことを示している。F-ACP
4のFT-IRスペクトルも、ACP
4のFT-IRスペクトルで報告されているものと同様の広い未分解のバンドを示している(
図2C)。
【0088】
(実施例5:実施例2で調製したACPおよびF-ACPの粒子の物理的特性および組成の評価)
上記のように、先行技術によれば4に設定されていた本発明による試薬の公称Cit/Ca比を、本発明に従って2または1(以下、それぞれACP2およびACP1と呼ぶ)に変更して、2つのACPサンプルを調製した。その理由は、これらの非晶質材料の化学的物理的特徴に対するモル比Cit/Caの影響を評価するためである。さらに、F-ACP4の合成に使用したのと同じ量のNaFを使用して、ACP2とACP1をドープし、これらのサンプルをそれぞれF-ACP2とF-ACP1と呼んだ。
【0089】
ACP
2(図示せず)およびACP
1(
図3A)のTEM画像は、ACP
4と同程度のサイズおよび形状を有する丸い形状の粒子を示す。ACP
1(
図3Aの右上の挿入図)について収集されたSAEDパターンは、スポットではなく拡散翼の存在によるそれらの非晶質性を示す。また、この場合、F-の添加は、ドープされていない対応物と比較して、サイズと形態の変化を引き起こさなかった。ACP
2、ACP
1、F-ACP
2、F-ACP
1(
図3B)のXRDパターンは、純粋な非晶質相と同じ広い回折バンド特性を示した。ACP
2、ACP
1、F-ACP
2およびF-ACP
1のFT-IRスペクトル(
図3C)も、他のFT-IRスペクトルで報告されているものと同様の広い未分解のバンドを示している。
【0090】
したがって、本発明によるACPまたはF-ACPの粒子は、円形であり、従来技術のものと同様の寸法を有していた。
【0091】
(実施例5の2)
SrF-ACP
2,MgF-ACP
2,SrMgF-ACP
2,SrF-ACP
1,MgF-ACP
1,SrMgF-ACP
1(
図8)のXRDパターンは、純粋な非晶質相と同じ広い回折バンド特性を示した。SrF-ACP
2、MgF-ACP
2、SrMgF-ACP
2、SrF-ACP
1、MgF-ACP
1、SrMgF-ACP
1(
図9)のFT-IRスペクトルも、他のFT-IRスペクトルで報告されているものと同じ広い未分解のバンド特性を示した。
【0092】
(実施例6:実施例1および実施例2ならびに実施例2の2で調製したサンプルの化学組成)
実施例2で調製したサンプルの化学組成を表2にまとめる。
【表2】
【0093】
実施例1で調製した従来技術のサンプルについてもSSABETを測定した。
【0094】
以下の値が得られた:
ACP4 200±20m2g-1
F-ACP4 213±21m2g-1
【0095】
SSABETの値は、従来技術のステップと本発明のステップで得られたACPとF-ACPを区別する特徴となった。
【0096】
本発明によるサンプルのTGA曲線は、主に、吸着水(室温~150℃)、構造水(150~350℃)、クエン酸塩(350~700℃)および炭酸塩(700~1000℃)に起因し得る4つの重量損失を示す。これらの損失に従って、クエン酸塩および炭酸塩の含有率を推定し、表2に報告した。
【0097】
ACP2のカルシウム/リン酸塩比は、ACP1と同様であったが、F-ACP2,F-ACP1は、ドープされていない対応物よりもカルシウム含有量が高く、Ca/P比が高い。F-ACP2のCa/リン酸塩の比は、F-ACP1と同様であった。
【0098】
SrF-ACP2、MgF-ACP2、SrMgF-ACP2、SrF-ACP1、MgF-ACP1、SrMgF-ACP1のカルシウム+マグネシウム/リン酸塩の比は、サンプルF-ACP2、F-ACP1に対して計算した値と同様であった。クエン酸塩および炭酸塩の含有量は、SrおよびMgをドープしたサンプル間で変化せず、サンプルF-ACP2およびF-ACP1について計算した値と同様であった。興味深いことに、Mgを単独で、またはSrと組み合わせて調製すると、フッ化物の量が増加することが分かった。
【0099】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、本発明者らは、より高い表面積は、クエン酸イオン対カルシウムイオンのモル比が1~2の範囲である本発明のプロセスによるものであると考えている。
【0100】
上記のデータは、本発明の処理によって得られたクエン酸塩被覆粒子およびフッ素ドープクエン酸塩被覆粒子が、特許文献1のフッ素ドープクエン酸塩被覆粒子とは異なり、したがって新規であることを実証する。
【0101】
(実施例7:実施例1および実施例2で調製したサンプルの人工唾液中のイオン放出)
歯の治療製品におけるACPの適用は、エナメル質の再石灰化を引き起こすための局所過飽和を生じさせるために、カルシウムイオンおよびリン酸イオンを放出するという原理に基づいている。したがって、この効果は、インビトロで試験されている。酸性人工唾液(高分子成分を含まない、食後のヒトの唾液を模倣する溶液)中で、インビトロでイオン放出を試験した。
【0102】
実施例1および実施例2で調製したACPまたはF-ACP粉末200mgを、KCl 20mM、KSCN 5.3mM、Na2HPO4 1.4mM、NaHCO3 15mM、および乳酸10mMを含む改変Tani-Zucchi溶液として調製した人工唾液10mLの中に分散させた。懸濁液を振盪しながら、37℃に維持した。予定された時間に、8mLの上澄み(5000rpmで15分間の遠心分離によって固相から十分に分離された)を、それぞれICP-OESおよびフッ化物イオン電極によるCa2+およびF-定量のために除去した。その後、サンプルを8mLの新鮮な人工唾液ですすぎ、懸濁液を振盪下37℃に維持し、次の時点で前述のように処理した。
【0103】
実施例1と実施例2のすべてのサンプルは、最初の2時間でCa
2+イオンとF
-イオンが持続的に放出されていることを示す(
図4)。本発明によるCit/Ca比を有するサンプルは、驚くほど高いイオン放出速度を示し、したがって、従来技術に対して改善された有利な生成物であることが明らかになった。
【0104】
いかなる理論にも束縛されることなく、本発明者らは、この驚くべき効果は、おそらく、ナノ粒子を製造するためのプロセスにおいて使用される特定のモル比のために、より高い表面積を有する本発明の粒子の特有の特徴によるものであると考える。
【0105】
(実施例7の2)
実施例2の2に従って調製したSrF-ACP2、MgF-ACP2、SrMgF-ACP2、SrF-ACP1、MgF-ACP1、SrMgF-ACP1の酸性人工唾液中でのインビトロでイオン放出を、実施例7と同じ条件で試験した。
【0106】
実施例2の2のサンプルは、実施例1よび実施例2のサンプルと同様に、最初の2時間でCa
2+イオンとF
-イオンが持続的に放出されていることを示す(
図10Aおよび
図10B)。本発明による実施例2の2のサンプルは、実施例2のサンプルに匹敵するイオン放出速度を示し、したがって、それ自体が従来技術に関して改善された有利な生成物であることが明らかになった。
【0107】
(実施例8:微粒子に凝集した本発明のナノ粒子の調製(本発明のナノ粒子凝集体))
実施例2のサンプルを、その非晶質の特徴に影響を及ぼすことなく、噴霧乾燥機によって乾燥させる可能性を評価するために、洗浄後、実施例2で得られたACP
2、ACP
1、F-ACP
2およびF-ACP
1を、3.5%w/vで水の中で再懸濁し、噴霧乾燥(Mini Spray Dryer B-290,Buchi Labortechnik AG、スイス)により、ノズル直径0.7mm、供給速度3mL/min、アルゴン流量450Lh
-1、入口温度120°C、吸引器速度70%という条件下で、乾燥した。噴霧乾燥したF-ACP
1粉末のXRDパターン(
図5)は、約30°(2θ)で広いバンドのみを示し、非晶質相が保存されていることを裏付ける。噴霧乾燥したF-ACP
1粉末のSEM顕微鏡写真(
図6)は、サンプルが、Cit/Ca比とも、フッ化物の存在とも関係なしに、凝集したナノ粒子から構成される直径約2~25μmの球状粒子からなることを明らかにした。乾燥粉末のSSA
BETは、Cit/Ca比とも、フッ化物の存在とも関係なしに、3~10m
2g
-1の範囲であった。
【0108】
(実施例9:実施例2で調製したサンプルの乾燥粉末の安定性)
ACPはCaPの結晶多形よりも不安定であるため、大気中の水と反応する乾燥状態であっても結晶相に転化する。したがって、安定な材料が開発されない限り、その使用および取り扱いは困難である。室温で保存されたACP
2、ACP
1、F-ACP
2、F-ACP
1粉末の安定性を、最大1年間のXRDを収集して解析した(
図7)。興味深いことに、XRDパターンは変化しないで留まり、全てのサンプルの非晶質性がこの期間中保存されることが確立された。