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特許7044952光学フィルタ、その製造方法および光学モジュール
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】光学フィルタ、その製造方法および光学モジュール
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
G02B5/26
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021565707
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2021010414
(87)【国際公開番号】W WO2021187431
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2020045671
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020163410
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【弁理士】
【氏名又は名称】北 倫子
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】沼田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】葛田 真郷
(72)【発明者】
【氏名】松田 祥一
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-058091(JP,A)
【文献】特開2013-065052(JP,A)
【文献】特開2006-165493(JP,A)
【文献】特開2017-062271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SCE方式で測定したLが20以上である光学フィルタであって、
760nm以上2000nm以下の波長範囲内の少なくとも一部の波長の光に対する直線過率が60%以上であり、
加熱によって収縮する温度が85℃以上であって、
前記光学フィルタの可視光の波長領域の透過率曲線は、長波長側から短波長側にかけて直線透過率が単調に減少する曲線部分を有し、前記曲線部分は入射角の増大につれて長波長側にシフトする、光学フィルタ。
【請求項2】
SCE方式で測定したLが20以上である光学フィルタであって、
760nm以上2000nm以下の波長範囲内の少なくとも一部の波長の光に対する直線過率が60%以上であり、
TMAの引張モードによる寸法変化が室温から300℃まで単調増加であって、
前記光学フィルタの可視光の波長領域の透過率曲線は、長波長側から短波長側にかけて直線透過率が単調に減少する曲線部分を有し、前記曲線部分は入射角の増大につれて長波長側にシフトする、光学フィルタ。
【請求項3】
室温から300℃までの寸法変化は5%以下である、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
室温から300℃までの、TMAの引張モードによる寸法変化を表すグラフは、ほぼ直線である、請求項1から3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
波長が950nmの光に対する直線透過率が60%以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
波長が1550nmの光に対する直線透過率が60%以上である、請求項1から5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
標準光をD65光源としたときに呈する色のCIE1931色度図上のx,y座標は、0.25≦x≦0.40、0.25≦y≦0.40である、請求項1から6のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
波長が950nmの光に対する入射角が60°のときの直線透過率は、入射角が0°のときの直線透過率の80%以上である、請求項1から7のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
赤外線透過インクで形成されたプリント層をさらに有する請求項1から8のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
3次元形状を有する、請求項1から9のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項11】
マトリクスと、前記マトリクス中に分散された微粒子とを含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項12】
前記微粒子は、平均粒径が80nm以上300nm以下の範囲内にある、単分散の第1微粒子を含む、請求項11に記載の光学フィルタ。
【請求項13】
前記第1微粒子の平均粒径は150nm以上である、請求項12に記載の光学フィルタ。
【請求項14】
前記フィルタの面方向に対して垂直な断面における前記微粒子の重心間距離の平均値が200nm以上である、請求項11から13のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項15】
前記フィルタの面方向に対して垂直な断面における前記微粒子の重心間距離の平均値の変動係数が10%以上である、請求項11から14のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項16】
前記フィルタの面方向に対して垂直な断面における前記微粒子の重心間距離の平均値の変動係数が45%以下である、請求項11から15のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項17】
前記マトリクスは、架橋構造を有する樹脂を含む、請求項11から16のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項18】
前記微粒子は、少なくともコロイドアモルファス集合体を構成している、請求項11から17のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項19】
前記微粒子の体積分率は6%以上60%以下である、請求項11から18のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項20】
波長が546nmの光に対する前記マトリクスの屈折率をn、前記微粒子の屈折率をnとするとき、|n-n|が0.03以上0.6以下である、請求項11から19のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項21】
前記マトリクスは樹脂で形成されており、前記微粒子は無機材料で形成されている、請求項11から20のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項22】
請求項21に記載の光学フィルタを製造する方法であって、
硬化性樹脂に前記微粒子を分散・混合させた硬化性樹脂組成物を用意する工程と、
前記硬化性樹脂組成物を基材の表面に付与する工程と、
前記表面に付与された前記硬化性樹脂組成物に含まれる前記硬化性樹脂を硬化させる工程と
を包含する、製造方法。
【請求項23】
前記付与工程は、塗布法で行われる、請求項22に記載の製造方法。
【請求項24】
前記付与工程は、ディップコーティング法で行われる、請求項22に記載の製造方法。
【請求項25】
赤外線受光部を備えたデバイスと、
前記デバイスの前記赤外線受光部の前面に配置された、請求項1から21のいずれか1項に記載の光学フィルタと
を有する、光学モジュール。
【請求項26】
前記デバイスは、センシングデバイス、通信デバイス、太陽電池、ヒーター、または給電デバイスである、請求項25に記載の光学モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルタ、その製造方法および光学モジュールに関し、例えば、赤外線の直進透過率が高く、可視光の拡散反射率が高い赤外線フィルタとして好適に用いられる光学フィルタ、その製造方法およびそのような光学フィルタをデバイスが有する赤外線受光部の前面に備える光学モジュールに関する。上記デバイスは例えばセンシングデバイスまたは通信デバイスである。
【背景技術】
【0002】
赤外線を利用した、センサ技術または通信技術が開発・実用化されている。赤外線を受光する素子は、可視光にも感度を有するので、赤外線だけを選択的に透過させる赤外線透過フィルタが用いられている。赤外線の定義は、技術分野によって異なる。本明細書において、「赤外線」は、センシングまたは通信に用いられる波長が760nm以上2000nm以下の範囲内の光(電磁波)を少なくとも含むものとする。また、「可視光」は400nm以上760nm未満の範囲内の光をいう。
【0003】
従来の赤外線透過フィルタは、可視光を吸収するために黒色を呈するものが主流で、そのため、意匠性が低いという問題があった。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、赤外線を透過させ、かつ可視光を反射および透過させる誘電体多層膜と、梨地状に加工された表面を有する赤外線受発光部が開示されている。また、特許文献2には、透明基材の表面を粗面化することにより形成された微細な凹凸形状によるレイリー散乱を利用して可視光を散乱させて、白色を呈させるとともに、赤外線の透過率を12%以上とした赤外線通信用光学物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-165493号公報(特許第4122010号公報)
【文献】特開2013-65052号公報(特許第5756962号公報)
【文献】特開2010-058091号公報(特許第5274164号公報)
【非特許文献】
【0006】
【文献】M. Iwata et al. "Bio-Inspired Bright Structurally Colored Colloidal Amorphous Array Enhanced by Controlling Thickness and Black Background", Adv. Mater., 2017, 29, 1605050.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の赤外線受発光部は、誘電体多層膜によって反射された可視光のみで外観を彩色するものであり、見る角度によって色が変化する。また、誘電体多層膜は高価であるという問題もある。
【0008】
特許文献1に記載されているような、誘電体多層膜を利用した赤外線通信用フィルムは、本発明者の検討によると、このフィルムを介して赤外線カメラで手の動きを撮影すると、手の輪郭がぼやけてしまい、モーションキャプチャー用途に用いることは難しいことが分かった。これは、赤外線の直線透過率が低いためと考えられる。
【0009】
一方、例えば、特許文献3および非特許文献1には、アモルファス構造を有する微粒子分散体またはコロイドアモルファス集合体が、角度依存性の少ない鮮やかな構造色(例えば青)を発現できることが開示されている。特許文献3には、アモルファス構造を有する微粒子分散体は特定の波長の光を反射する用途(例えば色材や赤外線反射膜等)に特に有用であると記載されている。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、赤外線の直線透過率の高い赤外線透過フィルタを実現することが可能で、概ね白色を呈し、熱安定性に優れた光学フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態によると以下の項目に示す解決手段が提供される。
[項目1]
SCE方式で測定したLが20以上である光学フィルタであって、
760nm以上2000nm以下の波長範囲内の少なくとも一部の波長の光に対する直線過率が60%以上であり、
加熱によって収縮する温度が85℃以上である、光学フィルタ。
[項目2]
SCE方式で測定したLが20以上である光学フィルタであって、
760nm以上2000nm以下の波長範囲内の少なくとも一部の波長の光に対する直線過率が60%以上であり、
TMAの引張モードによる寸法変化が室温から300℃まで単調増加である、光学フィルタ。
[項目3]
室温から300℃までの寸法変化は5%以下である、項目1または2に記載の光学フィルタ。
[項目4]
室温から300℃までの、TMAの引張モードによる寸法変化を表すグラフは、ほぼ直線である、項目1から3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目5]
波長が950nmの光に対する直線透過率が60%以上である、項目1から4のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目6]
波長が1550nmの光に対する直線透過率が60%以上である、項目1から5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目7]
標準光をD65光源としたときに呈する色のCIE1931色度図上のx,y座標は、0.25≦x≦0.40、0.25≦y≦0.40である、項目1から6のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目8]
前記フィルタの可視光の波長領域の透過率曲線は、長波長側から短波長側にかけて直線透過率が単調に減少する曲線部分を有し、前記曲線部分は入射角の増大につれて長波長側にシフトする、項目1から7のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目9]
波長が950nmの光に対する入射角が60°のときの直線透過率は、入射角が0°のときの直線透過率の80%以上である、項目1から8のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目10]
赤外線透過インクで形成されたプリント層をさらに有する項目1から9のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目11]
3次元形状を有する、項目1から10のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目12]
マトリクスと、前記マトリクス中に分散された微粒子とを含む、項目1から11のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目13]
前記微粒子は、平均粒径が80nm以上300nm以下の範囲内にある、単分散の第1微粒子を含む、項目12に記載の光学フィルタ。
[項目14]
前記第1微粒子の平均粒径は150nm以上である、項目13に記載の光学フィルタ。
[項目15]
前記フィルタの面方向に対して垂直な断面における前記微粒子の重心間距離の平均値が200nm以上である、項目12から14のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目16]
前記フィルタの面方向に対して垂直な断面における前記微粒子の重心間距離の平均値の変動係数が10%以上である、項目12から15のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目17]
前記フィルタの面方向に対して垂直な断面における前記微粒子の重心間距離の平均値の変動係数が45%以下である、項目12から16のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目18]
前記マトリクスは、架橋構造を有する樹脂を含む、項目12から17のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目19]
前記微粒子は、少なくともコロイドアモルファス集合体を構成している、項目12から18のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目20]
前記微粒子の体積分率は6%以上60%以下である、項目12から19のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目21]
波長が546nmの光に対する前記マトリクスの屈折率をn、前記微粒子の屈折率をnとするとき、|n-n|が0.03以上0.6以下である、項目12から20のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目22]
前記マトリクスは樹脂で形成されており、前記微粒子は無機材料で形成されている、項目12から21のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
[項目23]
項目22に記載の光学フィルタを製造する方法であって、
硬化性樹脂に前記微粒子を分散・混合させた硬化性樹脂組成物を用意する工程と、
前記硬化性樹脂組成物を基材の表面に付与する工程と、
前記表面に付与された前記硬化性樹脂組成物に含まれる前記硬化性樹脂を硬化させる工程と
を包含する、製造方法。
[項目24]
前記付与工程は、塗布法で行われる、項目23に記載の製造方法。
[項目25]
前記付与工程は、ディップコーティング法で行われる、項目23に記載の製造方法。
[項目26]
赤外線受光部を備えたデバイスと、
前記デバイスの前記赤外線受光部の前面に配置された、項目1から22のいずれか1項に記載の光学フィルタと
を有する、光学モジュール。
[項目27]
前記デバイスは、センシングデバイス、通信デバイス、太陽電池、ヒーター、または給電デバイスである、項目26に記載の光学モジュール。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によると、赤外線の直線透過率の高い赤外線透過フィルタを実現することが可能で、概ね白色を呈し、熱安定性に優れた光学フィルタ、その製造方法および光学モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態による光学フィルタ10の模式的な断面図である。
図2】実施例1の光学フィルタ10Aの断面TEM像を示す図である。
図3】比較例1の光学フィルタ20Aの断面TEM像を示す図である。
図4】実施例1の光学フィルタ10Aの断面TEM像から求めた粒子の重心間距離のヒストグラムである。
図5】比較例1の光学フィルタ20Aの断面TEM像から求めた粒子の重心間距離のヒストグラムである。
図6】モーションキャプチャデバイスを用いて取得したカメラ画像の例である。
図7】実施例1の光学フィルタ10Aを介してモーションキャプチャデバイスを用いて取得したカメラ画像の例である。
図8】比較例1の光学フィルタ20Aを介してモーションキャプチャデバイスを用いて取得したカメラ画像の例である。
図9】実施例1の光学フィルタ10Aの光学像を示す図である。
図10】比較例1の光学フィルタ20Aの光学像を示す図である。
図11】本発明の実施形態による光学フィルタ10の光学特性を説明するための模式図である。
図12】光学フィルタの拡散透過率の測定方法を示す模式図である。
図13】光学フィルタの直線透過率の測定方法を示す模式図である。
図14】実施例1の光学フィルタ10Aの直線透過率スペクトルである。
図15】実施例1の光学フィルタ10Aの拡散透過率スペクトルと拡散反射率スペクトルとの差として求められた吸収率スペクトルを示す図である。
図16】比較例1の光学フィルタ20Aの直線透過率スペクトルである。
図17】実施例2の光学フィルタの断面TEM像を示す図である。
図18】実施例2の光学フィルタの断面TEM像から求めた粒子の重心間距離のヒストグラムである。
図19】実施例2の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。
図20】実施例3および4の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。
図21】実施例5の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。
図22】実施例6の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。
図23】実施例7の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。
図24】実施例8の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。
図25】実施例9の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。
図26】実施例10の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。
図27】実施例10の光学フィルタの断面TEM像を示す図である。
図28】実施例10の光学フィルタの断面TEM像から求めた粒子の重心間距離のヒストグラムである。
図29】実施例11の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。
図30】実施例12の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。
図31】実施例13の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。
図32】比較例2の光学フィルタの断面TEM像を示す図である。
図33】比較例2の光学フィルタの断面TEM像から求めた粒子の重心間距離のヒストグラムである。
図34】比較例2の光学フィルタの直線透過率スペクトルである(入射角0°、60°)。
図35】比較例3の光学フィルタの断面TEM像を示す図である。
図36】比較例3の光学フィルタの断面TEM像から求めた粒子の重心間距離のヒストグラムである。
図37】比較例3の光学フィルタの直線透過率スペクトルである
図38】実施例1の光学フィルタ10Aおよび比較例Aの光学フィルタの直線透過率スペクトルの入射角依存性を示す図である。
図39】実施例1の光学フィルタ10Aの直線透過率スペクトルの入射角依存性を示す図である。
図40】比較例Aの光学フィルタの直線透過率スペクトルの入射角依存性を示す図である。
図41】実施例2の光学フィルタの直線透過率スペクトルの入射角依存性を示す図である。
図42】実施例6の光学フィルタの直線透過率スペクトルの入射角依存性を示す図である。
図43】比較例3の光学フィルタの直線透過率スペクトルの入射角依存性を示す図である。
図44A】半球面状に形成された実施例の光学フィルタを示す光学画像(可視光)を示す図である。
図44B図44Aに示した半球面状の実施例の光学フィルタの赤外線画像を示す図である。
図45】実施例6および比較例Aの光学フィルタのサンプルのTMAの引張モードによる室温から300℃までの寸法変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による光学フィルタを説明する。本発明の実施形態による光学フィルタは、以下で例示するものに限定されない。
【0015】
本発明の実施形態による光学フィルタは、マトリクスと、マトリクス中に分散された微粒子とを含む光学フィルタであって、微粒子は、少なくともコロイドアモルファス集合体を構成しており、760nm以上2000nm以下の波長範囲内の少なくとも一部の波長の光に対する直線透過率が60%以上である。例えば、波長が950nmおよび1550nmの光に対する直線透過率が60%以上の光学フィルタを得ることができる。光学フィルタの直線透過率が60%以上である光(近赤外線)の波長範囲は、例えば810nm以上1700nm以下であることが好ましく、840nm以上1650nm以下であることがさらに好ましい。このような光学フィルタは、例えば、InGaAsセンサ、InGaAs/GaAsSbセンサ、CMOSセンサ、NMOSセンサ、CCDセンサに好適に用いられる。ここで、マトリクスおよび微粒子はともに、可視光に対して透明(以下、単に「透明」という。)であることが好ましい。本発明の実施形態による光学フィルタは、白色を呈し得る。
【0016】
本発明の実施形態による光学フィルタは、コロイドアモルファス集合体を含む。コロイドアモルファス集合体とは、コロイド粒子(粒径1nm~1μm)の集合体で、長距離秩序を有さず、ブラッグ反射を起こさない集合体をいう。コロイド粒子が長距離秩序を有するように分布すると、いわゆるコロイド結晶(フォトニック結晶の一種)となり、ブラッグ反射が起きるのと対照的である。すなわち、本発明の実施形態による光学フィルタが有する微粒子(コロイド粒子)は、回折格子を形成しない。
【0017】
本発明の実施形態による光学フィルタが含む微粒子は、平均粒径が赤外線の波長の10分の1以上の単分散の微粒子を含む。すなわち、波長が760nm以上2000nm以下の範囲内の赤外線に対して、微粒子の平均粒径は少なくとも80nm以上であることが好ましく、150nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがさらに好ましい。微粒子の平均粒径の上限は例えば300nmである。平均粒径が異なる2以上の単分散の微粒子を含んでもよい。個々の微粒子はほぼ球形であることが好ましい。なお、本明細書において、微粒子(複数)は、微粒子の集合体の意味でも用い、単分散の微粒子とは、変動係数(標準偏差/平均粒径を百分率で表した値)が20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは1~5%のものをいう。本発明の実施形態による光学フィルタは、粒径(粒子直径、体積球相当径)が波長の10分の1以上の粒子を利用することで、赤外線の直線透過率を高くする。特許文献2に記載の光学物品がレイリー散乱を利用しているのと原理が異なる。
【0018】
平均粒径は、ここでは、3次元SEM像に基づいて求めた。具体的には、集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(以下、「FIB-SEM」という。)として、FEI社製の型番Helios G4 UXを用いて、連続断面SEM像を取得し、連続画像位置を補正した後、3次元像を再構築した。詳細には、SEMによる断面反射電子像の取得とFIB(加速電圧:30kV)加工とを50nm間隔で100回繰り返し、3次元像を再構築した。得られた3次元像について、解析ソフト(Thermo Fisher Scientific社製のAVIZO)のSegmention機能を用いて2値化を行い、微粒子の像を抽出した。次に、個々の微粒子を識別するために、Separate object操作を実施した後、各微粒子の体積を算出した。各粒子を球と仮定し、体積球相当径を算出し、微粒子の粒径を平均した値を平均粒径とした。
【0019】
本発明の実施形態による光学フィルタは、微粒子およびマトリクスの屈折率、微粒子の平均粒径、体積分率、分布(非周期性の程度)および厚さのいずれかを調整することによって、760nm以上2000nm以下の波長範囲内の少なくとも一部の波長の光に対する直線透過率を60%以上とする。
【0020】
本発明の実施形態による光学フィルタは、白色を呈し得る。ここで、白色とは、標準光をD65光源としたときのCIE1931色度図上のx、y座標がそれぞれ0.25≦x≦0.40、0.25≦y≦0.40の範囲内にあるものをいう。もちろん、x=0.333、y=0.333に近いほど白色度は高く、好ましくは、0.28≦x≦0.37、0.28≦y≦0.37であり、さらに好ましくは0.30≦x≦0.35、0.30≦y≦0.35である。また、CIE1976色空間上のSCE方式で測定したLは20以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましく、50以上がさらに好ましく、60以上であることが特に好ましい。Lが20以上であれば概ね白色と言える。Lの上限値は例えば100である。直線透過率の測定方法は、実験例(実施例および比較例を含む)において、後述する。
【0021】
図1に本発明の実施形態による光学フィルタ10の模式的な断面図を示す。本発明の実施形態による光学フィルタ10は、可視光に対して透明なマトリクス12と、透明なマトリクス12中に分散された透明な微粒子14とを含む。微粒子14は、少なくともコロイドアモルファス集合体を構成している。微粒子14が構成するコロイドアモルファス集合体を乱さない他の微粒子を含んでもよい。
【0022】
光学フィルタ10は、図1に模式的に示すように、実質的に平坦な表面を有している。ここで、実質的に平坦な表面とは、可視光や赤外線を散乱(回折)または拡散反射させるような大きさの凹凸構造を有しない表面をいう。また、光学フィルタ10は、コレステリック液晶(高分子液晶、低分子液晶、これらの液晶混合物、および、これらの液晶材料に架橋剤を混合し、架橋するなどして固化したもので、コレステリック相を発現するものを広く包含する。)を含まない。なお、光学フィルタ10は、例えば、フィルム状であるが、これに限られない。
【0023】
透明な微粒子14は、例えば、シリカ微粒子である。シリカ微粒子として、例えばストーバー法により合成されたシリカ微粒子を用いることができる。また微粒子として、シリカ微粒子以外の無機微粒子を用いてよく、樹脂微粒子を用いてもよい。樹脂微粒子としては、例えば、ポリスチレンおよびポリメタクリル酸メチルのうちの少なくとも1種からなる微粒子が好ましく、架橋したポリスチレン、架橋したポリメタクリル酸メチルまたは架橋したスチレン-メタクリル酸メチル共重合体からなる微粒子がさらに好ましい。なお、このような微粒子としては、例えば、エマルション重合により合成されたポリスチレン微粒子又はポリメタクリル酸メチル微粒子を適宜用いることができる。また、空気を含んだ中空シリカ微粒子および中空樹脂微粒子を用いることもできる。なお、無機材料で形成されている微粒子は、耐熱性・耐光性に優れるという利点を有する。微粒子の全体(マトリクスおよび微粒子を含む)に対する体積分率は、6%以上60%以下が好ましく、20%以上50%以下がより好ましく、20%以上40%以下がさらに好ましい。透明な微粒子14は光学的等方性を有してもよい。
【0024】
マトリクス12は、例えば、アクリル樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリイミドを挙げられるが、これらに限られない。マトリクス12は、硬化性樹脂(熱硬化性または光硬化性)を用いて形成することが好ましく、量産性の観点から光硬化性樹脂を用いて形成することが好ましい。光硬化性樹脂としては、種々の(メタ)アクリレートを用いることができる。(メタ)アクリレートは、2官能または3官能以上の(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。また、マトリクス12は光学的等方性を有していることが好ましい。多官能モノマーを含む硬化性樹脂を用いると、架橋構造を有するマトリクス12が得られるので、耐熱性および耐光性を向上させることができる。
【0025】
マトリクス12が樹脂材料で形成された光学フィルタ10は、柔軟性を有するフィルム状であり得る。光学フィルタ10の厚さは、例えば、10μm以上10mm以下である。光学フィルタ10の厚さが、例えば、10μm以上1mm以下、さらには10μm以上500μm以下であれば、柔軟性を顕著に発揮することができる。
【0026】
微粒子として、表面が親水性のシリカ微粒子を用いる場合、例えば親水性のモノマーを光硬化することによって形成することが好ましい。親水性モノマーとして、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、あるいは、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートを挙げることができるが、これらに限られない。またこれらのモノマーは1種類を単独で用いてもよいし、または2種類以上を混合して用いてもよい。もちろん、2種類以上のモノマーは、単官能モノマーと多官能モノマーとを含んでもよく、あるいは、2種類以上の多官能モノマーを含んでもよい。
【0027】
これらのモノマーは光重合開始剤を適宜用いて硬化反応させることができる。光重合開始剤としては、例えばベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、アントラキノン、チオキサン、ケタール、アセトフェノン等のカルボニル化合物や、ジスルフィド、ジチオカーバメート等のイオウ化合物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、アゾ化合物、遷移金属錯体、ポリシラン化合物、色素増感剤等が挙げられる。添加量は微粒子とモノマーとの混合物100質量部に対して0.05質量部以上3質量部以下が好ましく、0.05質量部以上1質量部以下がさらに好ましい。
【0028】
可視光に対するマトリクスの屈折率をn、微粒子の屈折率をnとするとき、|n-n|(以下、単に屈折率差ということがある。)が0.01以上であることが好ましく、0.6以下であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.11以下であることがより好ましい。屈折率差が0.03よりも小さいと散乱強度が弱くなり、所望の光学特性が得られにくくなる。また、屈折率差が0.11を超えると、赤外線の直線透過率が低下することがある。また、例えば、ジルコニア微粒子(屈折率2.13)とアクリル樹脂とを用いることで、屈折率差を0.6にした場合は、厚さを小さくすることによって赤外線の直線透過率を調整することができる。このように、赤外線の直線透過率は、例えば、光学フィルタの厚さと屈折率差とを制御することによって、調整することもできる。また、用途に応じて、赤外線を吸収するフィルタと重ねて用いることもできる。なお、可視光に対する屈折率は例えば546nmの光に対する屈折率で代表され得る。ここでは、特に断らない限り、屈折率は546nmの光に対する屈折率をいう。
【0029】
本発明の実施形態による光学フィルタは、例えば、硬化性樹脂に微粒子を分散・混合させた硬化性樹脂組成物を用意する工程と、硬化性樹脂組成物を基材の表面に付与する工程と、表面に付与された硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性樹脂を硬化させる工程とを包含する、製造方法によって、製造され得る。基材は、例えばガラス基板であっても、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、TAC(トリアセチルセルロース)、PI(ポリイミド)のような樹脂フィルムであってよいが、これらに限られない。硬化性樹脂に微粒子を分散・混合させる工程は、ホモミキサ、ホモジナイザ(例えば、超音波ホモジナイザ、高圧ホモジナイザ)などの公知の分散・混合装置を用いて行うことができる。また、付与工程は、例えば、塗布法(例えば、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、ダイコーティング法)や印刷法など、公知の種々の方法で行うことができる。
【0030】
以下、具体的な実験例(実施例および比較例)を示して、本発明の実施形態による光学フィルタの構成と光学特性の特徴を説明する。実施例および比較例の光学フィルタの構成および光学特性を表1に示す。シリカ微粒子と樹脂の種類との組合せ、凝集剤の添加、さらには分散・混合方法の違いによって、表1に示す種々の光学フィルタを作製した。
【0031】
実施例1~13および比較例1~3の光学フィルタは、表1に記載のアクリル樹脂とシリカ微粒子とを用いてフィルムとして形成した。シリカ微粒子としては、ストーバー法で合成された単分散シリカ微粒子((平均粒径110nm、粒径のCV値4.5%)、(平均粒径181nm、粒径のCV値4.7%)、(平均粒径221nm、粒径のCV値4.9%)、および(平均粒径296nm、粒径のCV値6.1%))を用いた。ここでは、シリカ微粒子として、富士化学株式会社製のハウトフォームSibol220を用いた。シリカ微粒子の粒度分布は(株式会社日立ハイテク社製 走査電子顕微鏡SU3800で測定した。
【0032】
アクリルモノマーA~Eにシリカ微粒子を所定の配合で混合・分散し、硬化性樹脂組成物を調製し、アプリケータを用いて、基材の表面に所定の厚さのフィルムが得られるように塗布し、硬化することによって得た。光重合開始剤としてDarocure1173をアクリルモノマー100質量部に対して0.2質量部を配合し、UVランプを照射し光重合によって硬化させた。モノマーの種類によって、屈折率の異なる樹脂(ポリマ)を形成した。
【0033】
アクリルモノマーA~Eを以下に示す。モノマーAおよびEは3官能アクリレートであり、モノマーBおよびCは2官能アクリレートであり、モノマーDは単官能アクリレートである。
A:ペンタエリストールトリアクリレート
B:エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(m+n=10)
C:エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(m+n=3)
D:メトキシポリエチレングリコール#400メタクリレート
E:トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート
【0034】
なお、アクリルモノマーBおよびCは、下記の化学式(化1)で表される。
【化1】
【0035】
得られたフィルムの厚さをdとしたとき、断面方向に対してd/2の位置をミクロトームで切断することによって、シリカ微粒子の平均粒径と同じ厚さの試料片を切り出し、TEM観察用の試料を得た。TEM(株式会社日立ハイテク社製HT7820)を用いて200個以上の粒子の画像を含む断面TEM像から、画像処理ソフトImage Jを用いて、微粒子を自動識別ドロネー図解析を行うことによって、隣接する微粒子の重心間距離の平均値(La)および標準偏差(Ld)を求めた。また、重心間距離の平均値(「平均重心間距離」ともいう。)と標準偏差から、変動係数(距離のCV値)を求めた。ここでは、重心間距離を求めるにあたって、粒径が150nm以上の粒子のみを対象とし、粒径が150nm未満の粒子は対象としなかった。後述するように、これらの値は、シリカ微粒子がコロイドアモルファス集合体を構成しているか否か、およびコロイドアモルファス集合体におけるシリカ微粒子の分布状態の指標となる。Laの下限値は、100nm以上が好ましく、150nm以上がさらに好ましく、175nm以上が一層好ましく、200nm以上が特に好ましい。Laの上限値は、600nm以下が好ましく、500nm以下がさらに好ましい。
【0036】
本発明の実施形態による光学フィルタが有するコロイドアモルファス集合体は、微粒子14の平均重心間距離の変動係数で特徴づけることができる。変動係数が小さい場合は、長距離秩序が大きいことを示し、ブラッグ反射に起因した角度依存性のある反射色が発現する。一方で、変動係数が大きい場合は、Mie散乱の影響が大きくなり光散乱の波長依存性が少なくなる傾向にある。したがって、本発明の実施形態による光学フィルタにおいては、微粒子14の平均重心間距離の変動係数は10%以上であることが好ましく、45%以下が好ましく、15%以上であることがより好ましく、40%以下であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましく、40%以下であることがさらに好ましく、25%以上であることがなおいっそう好ましく、35%以下であることがなおいっそう好ましい。
【0037】
【表1】
【0038】
図2に実施例1の光学フィルタ10Aの断面TEM像を示し、図3に比較例1の光学フィルタ20Aの断面TEM像を示す。図中のTEM像における白い円はシリカ微粒子であり、黒い円はシリカ微粒子が抜け落ちた跡である。画像処理においては、黒い円もシリカ微粒子として扱った。
【0039】
図2に示した光学フィルタ10Aの断面においては、シリカ微粒子がほぼ均一に分散しているのに対し、図3に示した光学フィルタ20Aの断面においては、シリカ微粒子が一部凝集していることがわかる。これは、比較例1の光学フィルタ20Aの作製の際に、アクリルモノマーAに加え、凝集剤としてポリエチレングリコールをアクリルモノマーAに対して0.1質量%加えたためである。
【0040】
次に、図4に、実施例1の光学フィルタ10Aの断面TEM像から求めた粒子の重心間距離のヒストグラムを示し、図5に、比較例1の光学フィルタ20Aの断面TEM像から求めた粒子の重心間距離のヒストグラムを示す。これらから求めた平均重心間距離La(nm)、標準偏差Ld(nm)および変動係数(距離のCV値)を表1に示す。以下では、距離のCV値を単にCV値ということがある。
【0041】
実施例1の光学フィルタ10Aにおけるシリカ微粒子の分布は、比較例1の光学フィルタ20Aにおけるシリカ微粒子の分布に比べて均一性が高いことがわかる。実施例1の光学フィルタ10AのLdが84nm、CV値が27.8%であるのに対し、比較例1の光学フィルタ20AのLdは168nm、CV値は49.3%と大きな値を示している。
【0042】
次に、図6図8を参照して、実施例1の光学フィルタ10Aおよび比較例1の光学フィルタ20Aを赤外線フィルタとしての性能を比較した結果を説明する。図6は、モーションキャプチャデバイスを用いて取得したカメラ画像の例であり、フィルタを用いることなく取得したカメラ画像である。図7は、実施例1の光学フィルタ10Aを介してモーションキャプチャデバイスを用いて取得したカメラ画像の例であり、図8は、比較例1の光学フィルタ20Aを介してモーションキャプチャデバイスを用いて取得したカメラ画像の例である。
【0043】
ここでは、モーションキャプチャデバイスとして、Leap Motion Controller(登録商標)を用い、約20cm離れた位置にある手のカメラ画像を取得した。なお、このデバイスは波長が850nmの赤外線を用いている。図6図7および図8を比較すると明らかなように、実施例の光学フィルタ10Aを用いた場合(図7)は、フィルタを用いない場合(図6)と同程度に鮮明な画像が得られているのに対し、比較例の光学フィルタ20Aを用いた場合(図9)では、鮮明な画像を取得することができず、手を認識することができなかった。
【0044】
図9に、実施例1の光学フィルタ10Aの光学像を示し、図10に比較例1の光学フィルタ20Aの光学像を示す。実施例1の光学フィルタ10Aおよび比較例1の光学フィルタ20Aは、約5cm×約10cmのフィルムとして、デバイスの前面を覆うように配置した。図9および図10からわかるように、いずれのフィルムも白色を呈している。したがって、実施例1の光学フィルタ10Aは、赤外線透過フィルタとして好適に用いられるとともに、白色を呈するので、高い意匠性を有している。もちろん、実施例1の光学フィルタ10Aの表面に印刷等によって、色や模様を付与することもできる。本発明の実施形態による光学フィルタが有する利点は以下で詳細に説明する。
【0045】
光学フィルタの光学特性は以下のようにして評価することができる。
【0046】
図11に示すように、光学フィルタ10に入射光Iが入射すると、入射光Iの一部は光学フィルタ10を透過し(透過光I)、一部は界面反射し(界面反射光R)、他の一部は散乱される。散乱光には、光学フィルタ10の前方に出射される前方散乱光Sと、後方に出射される後方散乱光Sとがある。後方散乱光Sによって、光学フィルタ10は白色を呈する。入射光Iの一部は、光学フィルタ10によって吸収されるが、ここで用いている樹脂およびシリカ微粒子は、400nm~2000nmの光に対する吸収率は小さい。
【0047】
図12は、光学フィルタの拡散透過率の測定方法を示す模式図であり、図13は、光学フィルタの直線透過率の測定方法を示す模式図である。拡散透過率は、図12に示すように、積分球32の開口部に試料(光学フィルタ10)を配置し、透過光Iおよび前方散乱光Sの合計の強度の入射光Iの強度に対する百分率として求めた。また、直線透過率は、試料(光学フィルタ10)を積分球32の開口部から20cm離した位置に配置して測定した。この時に得られた透過光Iの強度の入射光Iの強度に対する百分率として求めた。開口の直径は1.8cmで、立体角で0.025srに相当する。分光器として、紫外可視近赤外分光光度計UH4150(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いた。表1には760nm、950nmおよび1550nmの赤外線に対する直線透過率の値を示している。また、各試料の直線透過率スペクトルを図14などに示す。直線透過率スペクトルにディンプル(局所的な透過率の低下)が存在するか否かで、ブラッグ反射の有無を判定できる。ブラッグ反射の有無も表1に示した。
【0048】
後方散乱光Sの白色度は、分光測色計CM-2600-D(コニカミノルタジャパン株式会社製)を用いて測定した。SCE(正反射除去)方式のLの値とともに、CIE1931色度図上のx、y座標の値を求めた。Lの値が大きいほど、x、yの値は0.33に近いほど、白色度は高い。これらの値も表1に示した。
【0049】
図14に、実施例1の光学フィルタ10Aの直線透過率スペクトルを示し、図15に実施例1の光学フィルタ10Aの拡散透過率スペクトルと拡散反射率スペクトルとの差として求められた吸収率スペクトルを示す。図14からわかるように、実施例1の光学フィルタ10Aは高い赤外線透過率を有している。特に、900nm以上の波長の赤外線に対する透過率が高い。なお、図15の吸収率スペクトルにみられる1200nm以上の赤外線に対する吸収は、樹脂(有機化合物)の特性吸収によるものであり、わずかである。
【0050】
図16に、比較例1の光学フィルタ20Aの直線透過率スペクトルを示す。図16図15と比較すると明らかなように、比較例1の光学フィルタ20Aの透過率は低い。表1を参照して、実施例1と比較例1とを比較すると、白色度を示すL、CIE色度図上のx、y座標の値は、実施例1と比較例1とで大差はないものの、赤外線の直線透過率は大きく異なっている。これは、CV値が比較例1では49.3%と実施例1の27.8%に比べて大きく、シリカ微粒子が凝集していることが影響していると考えられる。すなわち、CV値は、赤外線の直線透過率を向上させる指標となり得ることがわかる。
【0051】
次に、図17図19を参照して、実施例2の光学フィルタについて説明する。図17は、実施例2の光学フィルタ断面TEM像を示す図であり、図18は、実施例2の光学フィルタの断面TEM像から求めた粒子の重心間距離のヒストグラムである。図19は、実施例2の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。実施例1では、平均粒径が221nmのシリカ微粒子を用いていたのに対し、実施例2では、平均粒径が296nmのシリカ微粒子を用いている。実施例2のCV値は実施例1のCV値とほぼ同じであるが、赤外線直線透過率は実施例2の方が低い。すなわち、シリカ微粒子の平均粒径を制御することによって、赤外線直線透過率を制御できることがわかる。
【0052】
ここで、比較のために、図35図37を参照して、比較例3の光学フィルタについて説明する。図35は、比較例3の光学フィルタの断面TEM像を示す図であり、図36は、比較例3の光学フィルタの断面TEM像から求めた粒子の重心間距離のヒストグラムである。図37は、比較例3の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。比較例3では、平均粒径が110nmのシリカ微粒子を用いた点で、実施例1および2と異なる。図37および表1の結果から明らかなように、比較例3のCV値は、実施例1および実施例2のCV値とほぼ同じであるが、比較例3は760nmの赤外線直線透過率が87%と高く、さらに、可視光の直線透過率も高い。また、比較例3の白色度は、実施例1および2に比べると劣る。このことから、シリカ微粒子の平均粒径を制御することによって、赤外線直線透過率および白色度を制御できることがわかる。実施例1と、実施例2および比較例3との比較から、平均粒径が221nm以上のシリカ微粒子を含むことが好ましいと考えられる。
【0053】
次に、図20を参照し、実施例3および4の光学フィルタについて説明する。図20は、実施例3および4の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。実施例3および4の光学フィルタは、シリカ微粒子の体積分率がそれぞれ34%および38%であり、実施例1の29%よりも大きい。実施例1の結果と比較すると、950nmおよび1550nmにおける赤外線直線透過率およびCIE色度図上のx、y座標に大差はなく、760nmにおける赤外線直線透過率およびLの値が少し向上している。実施例3と実施例4との直線透過率スペクトルを比較すると、シリカ微粒子の体積分率が増大すると、散乱波長が短波長側にシフトし、Lの値が少し向上している。
【0054】
ここで比較のために図25に示す実施例9の光学フィルタの直線透過率スペクトルを参照する。実施例9の光学フィルタはシリカ微粒子の体積分率が6%と低い。実施例1の結果と比較すると、950nmにおける赤外線直線透過率が少し低下し、Lの値が大きく低下している。これは、シリカ微粒子の体積分率の減少による散乱光の強度の低下によると考えられる。
【0055】
このように、シリカ微粒子の体積分率を制御することによって、赤外線直線透過率およびLの値を制御することができる。
【0056】
次に、図21を参照して、実施例5の光学フィルタについて説明する。図21は、実施例5の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。実施例1の光学フィルタの厚さが100μmであるのに対し、実施例5の光学フィルタの厚さは500μmである。実施例5を実施例1と比較すると、赤外線直線透過率の透過率は低下するが、白色度は向上している。光学フィルタの厚さを大きくすることによって、可視光の透過率も低下させることができる。
【0057】
次に、図22を参照して、実施例6の光学フィルタについて説明する。図22は、実施例6の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。実施例6は、実施例1~5と異なるモノマーを用いて、屈折率が1.52のポリマをマトリクスとして有している。実施例1~5のマトリクスの屈折率が1.49であり、シリカ微粒子の屈折率1.43との差が、0.06であったのに対し、実施例6では、屈折率差が0.09と大きい。実施例1と比較すると、760nm、950nmおよび1550nmのいずれの赤外線直線透過率およびLの値も向上している。
【0058】
次に、図23を参照して、実施例7の光学フィルタについて説明する。図23は、実施例7の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。実施例6の光学フィルタがガラス基板上に形成されたのに対し、実施例7の光学フィルタはPETフィルム上に形成された点で異なる。図23図22との比較および表1の結果を比較すると、基材の影響は少ないと考えられる。
【0059】
次に、図24を参照して、実施例8の光学フィルタについて説明する。図24は、実施例8の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。実施例7の光学フィルタの厚さが100μmであるのに対し、実施例8の光学フィルタの厚さは500μmである。実施例8を実施例7と比較すると、赤外線直線透過率の透過率は低下するが、Lは向上している。光学フィルタの厚さを大きくすることによって、可視光の透過率も低下させることができる。
【0060】
次に、図26~28を参照して、実施例10の光学フィルタについて説明する。図26は、実施例10の光学フィルタの直線透過率スペクトルであり、図27は、実施例10の光学フィルタの断面TEM像を示す図である。図28は、実施例10の光学フィルタの断面TEM像から求めた粒子の重心間距離のヒストグラムである。実施例10は、屈折率が1.54のポリマをマトリクスとして有しており、シリカ微粒子との屈折率差は0.11と、実施例6における屈折率差よりもさらに大きい。実施例1、6と比較すると、赤外線直線透過率が低下し、Lの値が向上する。
【0061】
次に、図29を参照して、実施例11の光学フィルタについて説明する。図29は、実施例11の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。実施例11は、屈折率が1.46のポリマをマトリクスとして有している。実施例11では、屈折率差が0.03と小さい。実施例1と比較すると、1550nmにおける赤外線直線透過率が低下し、可視光領域の透過率が上昇し、白色度が低下していることがわかる。
【0062】
次に、図30を参照して、実施例12の光学フィルタについて説明する。図30は、実施例12の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。実施例12の光学フィルタは、シリカ微粒子として、平均粒径が110nmの微粒子と、平均粒径が221nmの微粒子とを含む。体積比(110nm:221nm)は、1:1である。実施例1と比較すると、赤外線直線透過率および白色度ともに低下している(表1参照)。これは平均粒径110nmのシリカ微粒子を混合した影響と考えられる(比較例3、図37参照)。
【0063】
次に、図31を参照して、実施例13の光学フィルタについて説明する。図31は、実施例13の光学フィルタの直線透過率スペクトルである。実施例13の光学フィルタは、平均粒径が181nmのシリカ微粒子を用いている点で、実施例6の光学フィルタと異なる。図31図22と比較すると、実施例13の方が、直線透過率が上昇する波長が実施例6よりも短波長側にシフトしている。すなわち、実施例13の光学フィルタの可視光領域における直線透過率が実施例6よりも少し高く、その結果、Lの値および白色度が実施例6よりも少し低いが、赤外線の直線透過率は高い値を有しており、平均粒径が181nmのシリカ微粒子が好適に用いられることがわかる。なお、白色度の観点からは、平均粒径が200nm以上のシリカ微粒子を含むことが好ましく、221nm以上のシリカ微粒子を含むことがさらに好ましい。
【0064】
次に、図32図34を参照して、比較例2の光学フィルタについて説明する。図32は、比較例2の光学フィルタの断面TEM像を示す図である。図33は、比較例2の光学フィルタの断面TEM像から求めた粒子の重心間距離のヒストグラムである。図34は、比較例2の光学フィルタの直線透過率スペクトルであり、入射角が0°と入射角が60°の結果を示している。入射角0°は光学フィルタの表面の法線方向である。比較例2はアクリルモノマーEを用いて形成された、屈折率が1.48のマトリクスを有している。マトリクスの屈折率は実施例1と0.01しか変わらない。なお、直線透過率の入射角依存性は、紫外可視近赤外線分光光度計UH4150(日立ハイテクサイエンス社製)に付属の自動角度可変システムを用いて、入射光に対する試料の表面の角度(図11中の光学フィルタ10の角度)を変化させて測定した。
【0065】
図32および図33からわかるように、比較例2の光学フィルタにおけるシリカ微粒子の集合体は長距離秩序を有している。その結果、表1のCV値は9.4%と小さい値となっている。また、図34に示した直線透過率スペクトルの可視光領域に急峻なディンプル(局所的な透過率の低下)が見られている。この急峻なディンプルは、ブラッグ反射によるものであり、比較例2の光学フィルタにおけるシリカ微粒子の集合体は、コロイドアモルファス集合体ではなく、長距離秩序を有するコロイド結晶またはコロイド結晶に近い構造を有している。また、可視光領域の急峻なディンプルは、入射角によってシフトしているので、比較例2の光学フィルタは見る角度によって色が変わって見える。したがって、可視光領域におけるブラッグ反射を抑制するためには、CV値は10%以上が好ましいと考えられる。また、上述の比較例1の結果から、シリカ微粒子の凝集を抑制するために、CV値は49%以下が好ましいと考えられる。
【0066】
実施例1~13の光学フィルタは、直線透過率スペクトルにおいて急峻なディンプルが見られず、シリカ微粒子がコロイドアモルファス集合体を構成している。また、760nm以上2000nm以下の波長範囲内の少なくとも一部の波長の光に対する直線透過率が60%以上を示している。さらに、標準光をD65光源としたときの白色のCIE1931色度図上のx、y座標は、0.25≦x≦0.40、0.25≦y≦0.40の範囲内にある。また、見る角度による色の変化も抑制される。
【0067】
上述したことから明らかなように、本発明の実施形態による光学フィルタは、微粒子およびマトリクスの屈折率、微粒子の平均粒径、体積分率、分布(非周期性の程度)および厚さを調整することによって、所望の光学特性(例えば、赤外線直線透過率および白色度)を得ることができるとともに、見る角度による色の変化も抑制される。また、異なる光学特性を有する光学フィルタを重ねて用いることもできる。また、用途に応じて、例えば、赤外線を吸収するフィルタと重ねて用いることができる。図9から理解されるように、例えば、黒色やその他色を呈するフィルタと重ねて用いても、本発明の実施形態による光学フィルタは白色を呈するので、意匠性を高めることができる。
【0068】
本発明の実施形態による光学フィルタは、直線透過率スペクトルの入射角依存性にも特徴を有する。
【0069】
図38図40を参照して、実施例1の光学フィルタ10Aおよび比較例Aの光学フィルタの直線透過率スペクトルの入射角依存性(入射角0°、15°、30°、45°、60°)を説明する。比較例Aの光学フィルタは、赤外線透過フィルタとして市販されている、東海光学株式会社製のホワイトIRウインドウ(https://www.tokaioptical.com/jp/product14/)である。比較例Aのフィルタは、特許文献2に記載の光学物品に相当し、誘電体多層膜とPETフィルムから構成されており、梨地状表面を有する。比較例Aのフィルタは白色を呈し、厚さは120μmであった。
【0070】
図38は、実施例1の光学フィルタ10Aおよび比較例Aの光学フィルタの直線透過率スペクトルの入射角依存性を示す図である。図39および図40は、それぞれのグラフを最大透過率で規格化したグラフであり、図39は、実施例1の光学フィルタ10Aの直線透過率スペクトルの入射角依存性を示す図であり、図40は、比較例Aの光学フィルタの直線透過率スペクトルの入射角依存性を示す図である。
【0071】
図38からわかるように、実施例1の光学フィルタ10Aの直線透過率は、比較例Aの光学フィルタに比べて大きい。また、入射角の増大による赤外線直線透過率の低下は、実施例1の光学フィルタ10Aの方が比較例Aの光学フィルタよりも小さい。例えば、950nmの赤外線直線透過率は、入射角が0°のとき88%であるのに対し、入射角が60°のとき80%であり、入射角が0°のときの透過率の90%以上である。これに対し、比較例Aでは、950nmの赤外線に対する直線透過率は、入射角が0°のとき30%であるのに対し、入射角が60°のとき9%であり、入射角が0°のときの直線透過率の30%まで低下している。このように、本発明の実施形態による光学フィルタの赤外線直線透過率は入射角依存性が小さく、例えば950nmの赤外線に対して、入射角が60°のときの直線透過率は入射角が0°のときの直線透過率の80%以上、さらには85%以上、さらには90%以上を得ることができる。
【0072】
図39に示した、実施例1の光学フィルタ10Aの透過率曲線を見ると、可視光から赤外線にかけて直線透過率が単調に上昇する曲線部分が、入射角の増大につれて長波長側にシフト(約50nm)している。この特徴的な入射角依存性は、図41図42および図43に示した実施例2、実施例6および比較例3の光学フィルタの直線透過率スペクトルの入射角依存性にも見られる。すなわち、可視光から赤外線にかけて直線透過率が単調に上昇する曲線部分が、入射角の増大につれて長波長側にシフトするという特徴的な入射角依存性は、光学フィルムに含まれるシリカ微粒子がコロイドアモルファス集合体を構成していることに起因すると考えられる。これに対し、図40に示した比較例Aの光学フィルタの透過率曲線では、可視光から赤外線にかけて直線透過率が単調に上昇する曲線部分が、入射角の増大につれて短波長側にシフト(約100nm)している。すなわち、まったく逆の傾向になっている。
【0073】
比較例Aの光学フィルタでは、可視光から赤外線にかけて直線透過率が単調に上昇する曲線部分が、入射角の増大につれて短波長側にシフトするので、斜め入射光に対して、本来遮断したい短波長側の光を透過してしまう(光漏れ)おそれが生じる。これに対し、シリカ微粒子がコロイドアモルファス集合体を構成している光学フィルタでは、入射角の増大に伴って、より短波長側の光に対する透過率が低下するので、比較例Aの光学フィルタのように光漏れが生じるおそれがない。
【0074】
また、コロイドアモルファスシリカ微粒子がコロイドアモルファス集合体を構成している光学フィルタにおいて、入射角の増大に伴って、より短波長側の光に対する透過率が低下するのは、可視光(特に長波長側)の散乱光の強度が増大することによる。したがって、本発明による実施形態の光学フィルタを斜めから見ると、拡散反射光(後方散乱光)の強度が増大するので、白輝度が上昇し得る。
【0075】
本発明の実施形態による光学フィルタは、上述したように白色を呈し得るので、赤外線透過インクを用いて、例えば、文字、絵、写真を光学フィルタの表面に印刷することによって、豊かな色彩を有する意匠性に富んだ光学フィルタを得ることができる。すなわち、本発明の実施形態による光学フィルタは、マトリクスと微粒子とを含む光学フィルタ層と、光学フィルタ層上に配置された、赤外線透過インクで形成されたプリント層とを有してもよい。プリント層は、光学フィルタ層の表面に直接形成されてもよいし、透明なフィルムの表面にプリント層を形成したものを、光学フィルタ層上に配置してもよい。赤外線透過インクとしては、用途または透過すべき赤外線の波長に応じて、公知の赤外線透過インクを選択すればよい。
【0076】
また、本発明の実施形態による光学フィルタは、斜めから見たときに拡散反射光の強度が増大するので、白輝度が上昇し、意匠の見映え(意匠の視認性)が向上する。
【0077】
実施形態による光学フィルタは例示したような平面状のフィルムであり得るが、これに限られず様々な形態をとり得る。実施形態による光学フィルタは、三次元形状を有し得る。例えば、三次元形状を有するフィルム状であり得る。具体的には、例えば、三次元形状を有する物体の表面に、塗布法を用いて、光学フィルタを形成してもよい。物体の表面は、球面の一部または全部、任意形状の曲面、多面体の表面の一部または全部など、任意の形状を有してよい。ただし、物体の表面は、光散乱を起こさないことが好ましい。
【0078】
例えば、図44Aおよび図44Bに示すように、半球面状に形成された光学フィルタを得ることができる。図44Aは、半球面状に形成された実施例の光学フィルタを示す光学画像(可視光)を示す図であり、図44Bは、図44Aに示した半球面状の実施例の光学フィルタの赤外線画像を示す図である。図44Aおよび図44Bに示した画像は、株式会社ケンコー・トキナー社製のフルハイビジョンデジタルムービーカメラDVSA10FHDIRを用いて撮影した。図44Aは、白色LED照明下で、可視光モードで撮影した画像であり、図44Bは、暗室内で、上記カメラの赤外線LEDの光のみで撮像した画像である。
【0079】
図44Aおよび図44Bに示した光学フィルタは、半径が2cm、厚さが1mmのアクリル樹脂(PMMA)製の半球の表面に、ディップコーティングにより実施例6と同じ材料を付与することによって形成された、厚さが300μmの光学フィルタである。図44Aに示すように、半球面状の白色のフィルタが得られた。また、図44Bに示すように、このフィルタは赤外線を透過している。
【0080】
本発明の実施形態による光学フィルタは、例示したセンシングデバイス(例えば赤外線カメラ)や通信デバイスに限られず、種々の用途に用いられる。例えば、太陽電池、赤外線を用いたヒーター、赤外線を用いた光給電デバイスに好適に用いられる。
【0081】
光学フィルタの用途によっては、耐熱性が求められる。そこで、耐熱性を評価した結果を以下に説明する。耐熱性は、TMAの引張モードによる室温から300℃までの寸法変化を測定することによって行った。TMAの測定条件等は以下の通りである。
装置:Discovery TMA450 (TA Instrument社製)
サンプル:巾4mm×長さ約16mm
測定モード:引張モード
測定荷重:2gf
雰囲気ガス:N
【0082】
実施例6のサンプルは、上述のように作製した実施例6の光学フィルタのアクリル樹脂およびシリカ微粒子で形成されたフィルムをガラス基板から剥離することによって得た。実施例6のサンプルは、白色を呈し、厚さは120μmであった。
【0083】
図45に、TMAの引張モードによる室温から300℃までの寸法変化を表すグラフを示す。
【0084】
図45からわかるように、実施例6のフィルムは、TMAの引張モードによる寸法変化が室温(25℃)から約390℃まで単調増加(狭義単調増加)である。また、寸法変化を表すグラフは室温から約350℃までほぼ直線である。また、約390℃で寸法が減少するまでの寸法変化は約3.9%である。
【0085】
なお、寸法変化が、単調増加(狭義単調増加)か否かの評価は、寸法変化が滑らかに変化する曲線(関数)で表されるとして行う。
【0086】
これ対し、比較例Aは、85℃で寸法が減少する。その後、300℃に至る前に、寸法が急激に増大する。なお、寸法が減少するとは、図45に示した寸法変化が滑らかに変化する曲線の一次微分が負であることに対応する。
【0087】
実施例6のサンプルの寸法が高温まで安定しているのは、マトリクスを構成する樹脂が架橋構造を有しているからと考えられる。
【0088】
光学フィルタに求められる耐熱性は用途によって異なるが、本発明の実施形態によると、TMAの引張モードによる寸法変化が室温から300℃まで単調増加である光学フィルタを得ることができる。また、このとき、室温から300℃までの寸法変化は5%以下であり得る。さらに、本発明の実施形態による光学フィルタの室温から300℃までの、TMAの引張モードによる寸法変化を表すグラフは、390℃付近までほぼ直線であり、塑性変形を伴わない。
【0089】
なお、上述のような熱機械特性は、フィルムの厚さが概ね100μmから500μmの範囲であれば、同様の結果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の実施形態による光学フィルタは、例えば、センサ技術または通信技術などに用いられる赤外線透過フィルタとして用いることができる。
【符号の説明】
【0091】
10、10A、20A :光学フィルタ
12 :マトリクス
14 :微粒子
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