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特許7044955フルオレン誘導体ならびにその製造方法および用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-22
(45)【発行日】2022-03-30
(54)【発明の名称】フルオレン誘導体ならびにその製造方法および用途
(51)【国際特許分類】
   C07C 237/20 20060101AFI20220323BHJP
   C07C 231/12 20060101ALI20220323BHJP
   C07D 295/195 20060101ALI20220323BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20220323BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220323BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20220323BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C07C237/20 CSP
C07C231/12
C07D295/195
C09K3/00 103Z
C08L101/00
C08L23/00
C08L77/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022503624
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2021006717
(87)【国際公開番号】W WO2021172300
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020034018
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】大内 祐輝
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-108311(JP,A)
【文献】米国特許第2299948(US,A)
【文献】特開2009-139214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
[式中、Rは置換基を示し、kは0~8の整数を示し、
2a、R2b、R2cおよびR2dはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
3aおよびR3bはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
1aおよびX1bはそれぞれ独立して下記式(X1)
【化2】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子もしくは脂肪族炭化水素基(ただし、RおよびRの双方が水素原子である場合を除く。)を示すか、または、RとRとが互いに結合して隣接する窒素原子とともに形成する複素環を示す。)
で表される基を示す。]
で表されるフルオレン誘導体。
【請求項2】
下記式(2)
【化3】
(式中、Rおよびkはそれぞれ前記式(1)に同じ。)
で表される化合物と、下記式(3a)および(3b)
【化4】
(式中、R2a、R2b、R2cおよびR2d、R3aおよびR3b、X1aおよびX1bはそれぞれ前記式(1)に同じ。)
で表される化合物とを反応させる、請求項1記載のフルオレン誘導体の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のフルオレン誘導体と樹脂とを含む樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂が、ポリオレフィン系樹脂およびポリアミド系樹脂から選択された少なくとも1種の樹脂を含む請求項3記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1記載のフルオレン誘導体と前記樹脂との質量割合が、前者/後者=1/99~10/90である請求項3または4記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1記載のフルオレン誘導体を樹脂に添加することを特徴とする、樹脂組成物の流動性向上方法。
【請求項7】
樹脂の流動性を改善するための流動性改善剤であって、請求項1記載のフルオレン誘導体で形成された流動性改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アミド結合(またはアミド基)を有する新規なフルオレン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン誘導体は、その独特な化学構造に基づく優れた特徴を活かし、有機半導体や光学部材などを形成するための材料などとして様々な分野に展開されており、通常、フルオレン誘導体をモノマー成分とした樹脂として利用されることが多い。米国特許第2299948号明細書(特許文献1)には、合成樹脂を調製するための中間体として、下記式で表される9,9-ジ-(β-カルバモイル-エチル)フルオレンが有用であることが記載されている。
【0003】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第2299948号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例では、9,9-ジ-(β-シアノエチル)フルオレンと硫酸とを所定の条件下で反応させて、上記9,9-ジ-(β-カルバモイル-エチル)フルオレンが調製されている。
【0006】
しかし、特許文献1には、アミド基を構成する窒素原子が所定の置換基に置換された化合物については全く記載されていないのみならず、9,9-ジ-(β-カルバモイル-エチル)フルオレンを樹脂の性質を改善するための添加剤として利用することについても何ら記載も示唆もされていない。
【0007】
従って、本開示の目的は、樹脂の性質を改善するための添加剤として有用な新規なフルオレン誘導体ならびにその製造方法および用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の化学構造を有するフルオレン誘導体が、樹脂添加剤(樹脂改質剤)などとして有用なことを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本開示のフルオレン誘導体は、下記式(1)で表される。
【0010】
【化2】
【0011】
[式中、Rは置換基を示し、kは0~8の整数を示し、
2a、R2b、R2cおよびR2dはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
3aおよびR3bはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
1aおよびX1bはそれぞれ独立して下記式(X1)で表される基を示す
【0012】
【化3】
【0013】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子もしくは脂肪族炭化水素基(但し、RおよびRの双方が水素原子である場合を除く。)を示すか、または、RとRとが互いに結合して隣接する窒素原子とともに形成する複素環を示す)]。
【0014】
前記式(1)において、R2aおよびR2bが水素原子または炭化水素基であり、R2cおよびR2dが水素原子であり、
3aおよびR3bが水素原子または炭化水素基であり、
およびRが水素原子またはアルキル基であり、
とRとが互いに結合して形成してもよい複素環が、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子をさらに含んでいてもよい5~7員複素環であってもよい。
【0015】
前記式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子であり、
3aおよびR3bが水素原子またはメチル基であり、
およびRが水素原子またはC1-6アルキル基であり、
とRとが互いに結合して形成してもよい複素環が、ピロリジン環、ピペリジン環、ホモピペリジン環またはモルホリン環であってもよい。
【0016】
本開示は、下記式(2)で表される化合物と、下記式(3a)および(3b)で表される化合物とを反応させて、前記式(1)で表される化合物を製造する方法を包含する。
【0017】
【化4】
【0018】
(式中、Rおよびkはそれぞれ前記式(1)に同じ)。
【0019】
【化5】
【0020】
(式中、R2a、R2b、R2cおよびR2d、R3aおよびR3b、X1aおよびX1bはそれぞれ前記式(1)に同じ)。
【0021】
また、本開示は、前記式(1)で表される化合物と樹脂とを含む樹脂組成物も包含する。前記樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよい。前記樹脂は、ポリオレフィン系樹脂およびポリアミド系樹脂から選択された少なくとも1種の樹脂を含んでいてもよい。前記樹脂組成物において、前記式(1)で表される化合物と前記樹脂との割合は、前者/後者(質量比)=1/99~10/90程度であってもよい。
【0022】
さらに、本開示は、前記式(1)で表される化合物を熱可塑性樹脂などの樹脂に添加して、樹脂組成物(または樹脂)の流動性を向上する方法、および、樹脂の流動性を改善するための流動性改善剤であって、前記式(1)で表される化合物で形成された流動性改善剤を包含する。また、本開示は、前記式(1)で表される化合物の結晶も包含する。
【0023】
なお、本明細書および請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC、C、C10などで示すことがある。例えば、炭素数が1のアルキル基は「Cアルキル」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール」で示す。
【発明の効果】
【0024】
本開示の新規なフルオレン誘導体は、樹脂を改質するための添加剤として有用である。具体的には、樹脂に対する強度向上剤(機械的特性改善剤)、流動性改善剤などとして用いることができる。また、フルオレン誘導体は5%質量減少温度が高く、比較的高温環境下であっても、熱分解を抑制しつつ添加剤として有効に作用できる。フルオレン誘導体は、溶媒溶解性にも優れており、取り扱い易く樹脂などにも容易に分散できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施例1で得られたDEAA-FLのH-NMRスペクトルである。
図2図2は、実施例2で得られたDMAA-FLのH-NMRスペクトルである。
図3図3は、実施例3で得られたNIPAM-FLのH-NMRスペクトルである。
図4図4は、比較例1で得られたAAD-FLのH-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[フルオレン誘導体]
本開示の新規なフルオレン誘導体は、下記式(1)で表される化合物である。
【0027】
【化6】
【0028】
[式中、Rは置換基を示し、kは0~8の整数を示し、
2a、R2b、R2cおよびR2dはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
3aおよびR3bはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
1aおよびX1bはそれぞれ独立して下記式(X1)で表される基を示す
【0029】
【化7】
【0030】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子もしくは脂肪族炭化水素基(ただし、RおよびRの双方が水素原子である場合を除く。)を示すか、または、RとRとが互いに結合して隣接する窒素原子とともに形成する複素環を示す)]。
【0031】
前記式(1)において、基Rとしては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;アルキル基、アリール基などの炭化水素基などが挙げられる。前記アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。好ましい基Rとしては、シアノ基、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、特にアルキル基である。
【0032】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのC1-12アルキル基、好ましくはC1-8アルキル基、特にメチル基などのC1-4アルキル基が挙げられる。
【0033】
なお、基Rの置換数kが複数(2以上)である場合、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環のうち、同一のベンゼン環に置換する2以上の基Rの種類は、同一または異なっていてもよく、異なるベンゼン環に置換する2以上の基Rの種類は同一または異なっていてもよい。また、基Rの結合位置(置換位置)は、フルオレン環の1~8位である限り特に制限されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2,7位などが挙げられる。
【0034】
置換数kは、例えば0~6程度の整数であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~4、0~3、0~2の整数であり、さらに好ましくは0または1、特に0である。なお、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環において、基Rのそれぞれの置換数は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0035】
2a、R2b、R2cおよびR2dで表される置換基としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基などが挙げられる。
【0036】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基である。
【0037】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が挙げられる。
【0038】
アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。
【0039】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
【0040】
2a、R2b、R2cおよびR2dで表される好ましい置換基としてはアルキル基が挙げられ、好ましいアルキル基としては、以下段階的に、C1-6アルキル基、C1-5アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基であり、さらに好ましくはC1-2アルキル基であり、特にメチル基である。
【0041】
好ましいR2a、R2b、R2c、R2dとしては水素原子または炭化水素基であり、より好ましくは水素原子またはアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子である。なお、少なくともR2cおよびR2dが水素原子であるのが好ましく、このような態様における好ましいR2aおよびR2bは水素原子または炭化水素基であり、さらに好ましくは水素原子またはアルキル基であり、特に水素原子(すなわち、R2a、R2b、R2cおよびR2dがいずれも水素原子)であるのが好ましい。
【0042】
また、R2a、R2b、R2c、R2dの種類は、互いに異なっていてもよいが、R2aおよびR2bが同一であり、かつR2cおよびR2dが同一であるのが好ましい。
【0043】
3aおよびR3bで表される置換基としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基などが挙げられる。これらの炭化水素基としては、前記R2aおよびR2bで表される置換基として例示した炭化水素基と同様の基が挙げられる。
【0044】
3aおよびR3bで表される置換基のうち、好ましい置換基はアルキル基であり、好ましいアルキル基としては、以下段階的に、C1-6アルキル基、C1-5アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基であり、さらに好ましくはC1-2アルキル基であり、特にメチル基である。
【0045】
また、好ましいR3aおよびR3bとしては、水素原子またはアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基であり、特に水素原子が好ましい。
【0046】
1aおよびX1b(または式(X1))において、RおよびRで表される脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、これらを複数組み合わせた基などが挙げられる。
【0047】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-12アルキル基などが挙げられる。
【0048】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基などが挙げられる。
【0049】
およびRで表される脂肪族炭化水素基のうち、好ましくは直鎖状または分岐鎖状アルキル基であり、さらに好ましくは、以下段階的に、直鎖状または分岐鎖状C1-8アルキル基、直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基であり、なかでも、メチル基、エチル基、イソプロピル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基が好ましく、樹脂に対する分散性(または相溶性)がより優れる点からは、直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキル基が好ましく、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキル基である。RおよびRの双方が脂肪族炭化水素基である場合、RおよびRの種類は互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0050】
また、RとRとが互いに結合して隣接する窒素原子とともに形成してもよい複素環(N含有複素環)は、ヘテロ原子として前記窒素原子(すなわち、R、Rおよびカルボニル基と結合してアミド基(カルボン酸アミド)を形成する窒素原子)を含んでいればよく、必要に応じて、前記窒素原子に加えて、さらに1以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。さらに含んでいてもよいヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが挙げられ、これらから選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよく、少なくとも酸素原子を含むのが好ましい。前記複素環を構成するヘテロ原子の数は、例えば1~3個程度であってもよく、好ましくは1~2個であり、さらに好ましくは2個である。前記複素環は、例えば5~7員環(5~7員複素環)であることが多く、好ましくは5または6員環であり、さらに好ましくは6員環である。また、前記複素環は、芳香族性であってもよいが、非芳香族性であるのが好ましい。
【0051】
代表的な複素環としては、例えば、ピロリジン環、ピペリジン環、ホモピペリジン環(アゼパン環、ヘキサヒドロアゼピン環またはヘキサメチレンイミン環)などの1または複数の窒素原子を含む複素環モルホリン環などの窒素原子と異種のヘテロ原子とを含む複素環などが挙げられ、好ましくはモルホリン環などの窒素原子と異種のヘテロ原子、特に酸素原子とを含む非芳香族性の5~7員複素環である。
【0052】
式(X1)において、窒素原子に隣接するRおよびRは、一方が水素原子で他方が脂肪族炭化水素基であってもよく;RおよびRの双方が脂肪族炭化水素基であるか、または互いに結合して複素環を形成してもよい。すなわち、基[-C(=O)-X1a]および/または[-C(=O)-X1b]が、一置換アミド基(またはN-置換アミド基)であってもよく;二置換アミド基(またはN,N-二置換アミド基)であってもよい。樹脂添加剤として利用する場合に流動性、特に溶融流動性を向上しつつ、曲げ強さ、曲げ弾性率、引張強さ、引張弾性率などの機械的特性もバランスよく向上し易い点からは、基[-C(=O)-X1a]および/または[-C(=O)-X1b]が一置換アミド基であるのが好ましく、溶剤溶解性が特に優れ、樹脂添加剤として利用する場合に流動性、特に溶融流動性をより一層向上し易い点からは、基[-C(=O)-X1a]および/または[-C(=O)-X1b]が二置換アミド基であるのが好ましい。なお、二置換アミド基である場合、RおよびRの双方が脂肪族炭化水素基であるのが好ましい。また、X1aおよびX1bの種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0053】
前記式(1)で表される代表的な化合物としては、例えば、式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、RおよびRのうちの一方が水素原子で他方がアルキル基である化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(N-メチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-メチルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-エチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-イソプロピルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-イソプロピルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-ブチルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N-C1-6アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなど;式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、RおよびRがアルキル基である化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(N,N-ジメチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジメチルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジイソプロピルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジブチルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N,N-ジC1-6アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなど;式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、RとRとが互いに結合して、アミド基を構成する窒素原子に加えて、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子をさらに含んでいてもよい5~7員複素環を形成する化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(モルホリン-4-イル-カルボニル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(モルホリン-4-イル-カルボニル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(ピロリジン-1-イル-カルボニル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(ピペリジン-1-イル-カルボニル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(ホモピペリジン-1-イル-カルボニル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N含有複素環-N-イル-カルボニル)C2-3アルキル]フルオレンなどが挙げられる。
【0054】
これらのフルオレン誘導体のうち、式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、X1aおよびX1b中のRおよびRのうち、一方が水素原子で他方がアルキル基である化合物(N-アルキル置換化合物);式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、X1aおよびX1b中のRおよびRの双方がアルキル基である化合物(N,N-ジアルキル置換化合物)が好ましい。このようなフルオレン誘導体のうち、樹脂添加剤として用いた場合に、流動性、特に溶融流動性を向上しつつ、曲げ強さ、曲げ弾性率、引張強さ、引張弾性率などの機械的特性もバランスよく向上し易い点からは、9,9-ビス[2-(N-C1-4アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなどのN-アルキル置換化合物が好ましく、なかでも、9,9-ビス[2-(N-イソプロピルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N-C2-4アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが好ましい。また、より幅広い溶剤に対して優れた溶解性を示すとともに、樹脂添加剤として用いた場合に流動性、特に溶融流動性をより一層向上し易い観点からは、9,9-ビス[2-(N,N-ジC1-4アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなどのN,N-ジアルキル置換化合物が好ましく、なかでも、9,9-ビス[2-(N,N-ジメチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N,N-ジC1-3アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが好ましく、特に9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)エチル]フルオレンが好ましい。
【0055】
[フルオレン誘導体の製造方法]
前記式(1)で表される化合物の製造方法は特に制限されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物と、下記式(3a)および(3b)で表される化合物とを反応(マイケル付加反応)させることによって調製してもよい。
【0056】
【化8】
【0057】
(式中、Rおよびkは、それぞれ好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0058】
【化9】
【0059】
(式中、R2a、R2b、R2cおよびR2d、R3aおよびR3b、X1aおよびX1bは、それぞれ好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0060】
前記式(2)で表される代表的な化合物としては、9H-フルオレンなどが挙げられる。
【0061】
また、前記式(3a)および(3b)で表される化合物は、R2a、R2b、R2cおよびR2d、R3aおよびR3b、ならびにX1aおよびX1bの種類に応じて、それぞれE体またはZ体のいずれであってもよい。
【0062】
前記式(3a)および(3b)で表される代表的な化合物としては、例えば、前記式(1)で表される化合物として具体的に例示した化合物に対応して、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、RおよびRのうち一方が水素原子で他方がアルキル基である化合物、具体的には、例えば、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN-C1-6アルキル-(メタ)アクリルアミドなど;R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、RおよびRの双方がアルキル基である化合物、具体的には、例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジC1-6アルキル-(メタ)アクリルアミドなど;R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、RおよびRが互いに結合し、アミド基を構成する窒素原子に加えて、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子をさらに含んでいてもよい5~7員複素環を形成する化合物、具体的には、例えば、N-(メタ)アクリロイルモルホリンなどのN-(メタ)アクリロイルN含有複素環などが挙げられる。なお、前記式(3a)および(3b)で表される化合物は、同一の化合物であるのが好ましい。
【0063】
前記式(2)で表される化合物の量と、前記式(3a)および(3b)で表される化合物の合計量との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/2~1/10程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1/2~1/5、1/2.01~1/3、1/2.03~1/2.1である。
【0064】
反応は、塩基の存在下で行ってもよい。塩基としては、例えば、金属水酸化物、金属炭酸塩または炭酸水素塩、金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0065】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられる。
【0066】
金属炭酸塩または炭酸水素塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩または炭酸水素塩などが挙げられる。
【0067】
金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0068】
これらの塩基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの塩基のうち、金属水酸化物が好ましく、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が更に好ましい。塩基の割合は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001~0.1モル程度であってもよく、好ましくは0.01~0.05モルである。
【0069】
反応は、相間移動触媒の存在下または非存在下で行ってもよい。相間移動触媒としては、例えば、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリドなどのテトラアルキルアンモニウムハライドなどが挙げられる。これらの相間移動触媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの相間移動触媒のうち、TBABが好ましい。相間移動触媒の割合は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001~0.1モル程度であってもよく、好ましくは0.01~0.05モルである。
【0070】
反応は、反応に不活性な溶媒の非存在下または存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール類;環状エーテル、鎖状エーテルなどのエーテル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド類;脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類などの炭化水素類などが挙げられる。
【0071】
環状エーテルとしては、例えば、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル、グリコールエーテル類などが挙げられる。前記グリコールエーテル類としては、例えば、メチルセロソルブ、メチルカルビトールなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジメトキシエタンなどの(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0072】
脂肪族炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、ドデカンなどが挙げられる。脂環族炭化水素類としては、シクロヘキサンなどが挙げられる。芳香族炭化水素類としては、例えば、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0073】
これらの溶媒は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒のうち、水と、DMSOなどのスルホキシド類と、トルエンなどの芳香族炭化水素類との混合溶媒が好ましい。なお、水は前述の塩基の水溶液の形態で添加してもよい。溶媒の使用量は反応の進行を妨げない限り特に制限されず、前記式(2)、(3a)および(3b)で表される化合物の総量100gに対して、例えば10~500mL程度であってもよく、好ましくは50~200mLである。
【0074】
反応は、不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気下で行ってもよい。反応温度は、例えば50~200℃、好ましくは80~100℃である。反応時間は特に制限されず、例えば0.5~10時間程度であってもよい。
【0075】
反応終了後、必要に応じて、反応混合物を、慣用の分離精製方法、例えば、中和、洗浄、抽出、ろ過、デカンテーション、濃縮、脱水、乾燥、晶析、クロマトグラフィー、これらを組み合わせた方法などにより分離精製してもよい。
【0076】
例えば、得られたフルオレン誘導体を再結晶により分離精製してもよい。晶析溶媒としては、例えば、低級アルコールなどのアルコール類、好ましくはメタノール、エタノールなどのC1-4アルコールなどを用いてもよい。具体的には、フルオレン誘導体に前記アルコール類を加え、50~100℃程度、好ましくは60~70℃に加熱して溶解した後、10~30℃程度、好ましくは20~25℃程度で静置することで結晶を析出させてもよい。
【0077】
[フルオレン誘導体の特性および用途]
(特性)
上述のようにして得られるフルオレン誘導体は、結晶または非晶の形態であってもよく、結晶の形態である場合、融点は、基[-C(=O)-X1a]および[-C(=O)-X1b]が一置換アミド基である場合、例えば150~300℃程度であってもよく、好ましくは200~270℃、さらに好ましくは220~250℃であり、基[-C(=O)-X1a]および[-C(=O)-X1b]が二置換アミド基である場合、例えば50~200℃程度であってもよく、好ましくは70~180℃、さらに好ましくは80~160℃である。
【0078】
また、フルオレン誘導体の5%質量減少温度は、例えば200~350℃程度であってもよく、好ましくは、以下段階的に、230~330℃、240~320℃、250~310℃、270~305℃、290~300℃である。このように、フルオレン誘導体は高い耐熱性を備えている。そのため、高温環境下であっても、樹脂添加剤などとして有効に利用できる。
【0079】
また、フルオレン誘導体は、溶剤に対する溶解性に優れており、特に、前記式(1)において、基[-C(=O)-X1a]および/または[-C(=O)-X1b]が二置換アミド基である化合物であると、より多種の溶剤に対して溶解し易いようである。
【0080】
なお、本明細書および請求の範囲において、融点、5%質量減少温度および溶剤溶解性は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0081】
(用途)
前記式(1)で表されるフルオレン誘導体は、樹脂に添加して特性を改善するための樹脂添加剤、例えば、流動性、特に溶融流動性を向上するための流動性改善剤、曲げ強さ、曲げ弾性率、引張強さ、引張弾性率などの機械的特性を向上するための強度向上剤などとして有効に利用できる。なお、フルオレン誘導体は、単独でまたは2種以上組み合わせて添加することもできる。
【0082】
樹脂としては、硬化性樹脂(熱または光硬化性樹脂)であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。
【0083】
硬化性樹脂としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂などのフェノール樹脂;ユリア樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂などのアミノ樹脂;フラン樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ジアリルフタレート樹脂;ビニルエステル樹脂(またはエポキシ(メタ)アクリレート樹脂);多官能(メタ)アクリレート系樹脂;エポキシ樹脂;ウレタン樹脂;ビスマレイミド系樹脂などのポリイミド樹脂;シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0084】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂(PC)、ポリアミド系樹脂(PA)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリエーテルケトン系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリスルホン系樹脂、セルロース誘導体、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)などが挙げられる。
【0085】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などの鎖状オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂などが挙げられる。
【0086】
スチレン系樹脂としては、例えば、一般用ポリスチレン(GPPS)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)などのポリスチレン(PS)、スチレン系共重合体などが挙げられる。スチレン系共重合体としては、例えば、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ゴム成分含有スチレン系樹脂またはゴムグラフトスチレン系共重合体などが挙げられる。ゴム成分含有スチレン系樹脂またはゴムグラフトスチレン系共重合体としては、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、AXS樹脂、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)などが挙げられる。AXS樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS樹脂)、アクリロニトリル-(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)-スチレン共重合体(AES樹脂)などが挙げられる。
【0087】
(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの(メタ)アクリル系単量体の単独または共重合体などが挙げられる。
【0088】
酢酸ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタールなどが挙げられる。ポリビニルアセタールとしては、例えば、ポリビニルホルマール(PVF)、ポリビニルブチラール(PVB)などが挙げられる。
【0089】
塩化ビニル系樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂などが挙げられる。塩化ビニル樹脂としては、例えば、塩化ビニル単独重合体(PVC);塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などの塩化ビニル共重合体などが挙げられる。塩化ビニリデン樹脂としては、例えば、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体などの塩化ビニリデン共重合体などが挙げられる。
【0090】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられる。
【0091】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステル(LCP)などが挙げられる。ポリアルキレンアリレート系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ1,4-シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。
【0092】
ポリカーボネート系樹脂(PC)としては、例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂などのビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。
【0093】
ポリアミド系樹脂(PA)としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド樹脂、ポリm-フェニレンイソフタルアミド、ポリp-フェニレンテレフタルアミドなどの芳香族ポリアミド樹脂またはアラミド樹脂などが挙げられる。
【0094】
ポリエーテルケトン系樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)などが挙げられる。
【0095】
ポリケトン樹脂としては、例えば、脂肪族ポリケトン樹脂などが挙げられる。
【0096】
ポリスルホン系樹脂としては、例えば、ポリスルホン樹脂(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)などが挙げられる。
【0097】
セルロース誘導体としては、例えば、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル、エチルセルロースなどのセルロースエーテルなどが挙げられる。
【0098】
熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミドなどが挙げられる。
【0099】
熱可塑性エラストマー(TPE)としては、例えば、ポリスチレン系TPE、ポリオレフィン系TPE(TPO)、ポリジエン系TPE、塩素系TPE、フッ素系TPE、ポリウレタン系TPE(TPU)、ポリエステル系TPE(TPEE)、ポリアミド系TPE(TPA)などが挙げられる。
【0100】
これらの樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいてもよい。これらの樹脂のうち、熱可塑性樹脂が好ましく、樹脂の特性を有効に向上できる点から、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0101】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、α-オレフィンを主要な重合成分とする鎖状オレフィン系樹脂、環状オレフィン類を重合成分として含む環状オレフィン系樹脂などが挙げられる。環状オレフィン系樹脂としては、エチレン-ノルボルネン共重合体などの環状オレフィン共重合体(COC)、ポリノルボルネン、ポリジシクロベンタジエン、ポリシクロペンタジエンもしくはこれらの水添物などの環状オレフィン類の付加もしくは開環重合体またはその水添物などが挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリオレフィン系樹脂のうち、鎖状オレフィン系樹脂が好ましい。
【0102】
鎖状オレフィン系樹脂の重合成分であるα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、1-オクテン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどのα-C2-20オレフィンなどが挙げられ、好ましくはα-C2-10オレフィン、さらに好ましくはエチレン、プロピレンなどのα-C2-6オレフィンである。
【0103】
鎖状オレフィン系樹脂は、前記α-オレフィンの単独重合体(ホモポリマー)であってもよく、共重合体(コポリマー)であってもよい。共重合体における重合成分は、2種以上のα-オレフィンを含んでいてもよく、α-オレフィンとは異なる共重合性単量体を含んでいてもよい。なお、共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などであってもよい。
【0104】
前記α-オレフィンとは異なる共重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル系単量体、不飽和カルボン酸またはその酸無水物、カルボン酸ビニルエステル、ジエンなどが挙げられる。
【0105】
(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、N置換(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられ、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステルなどが挙げられる。また、前記N置換(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのモノまたはジアルキル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0106】
不飽和カルボン酸またはその酸無水物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸またはこれらの無水物(無水マレイン酸など)などが挙げられる。
【0107】
カルボン酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの飽和カルボン酸ビニルエステルなどが挙げられる。
【0108】
ジエンとしては、例えば、1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエンなどの非共役アルカジエン、ブタジエン、イソプレンなどの共役アルカジエンなどが挙げられる。
【0109】
これらの共重合性単量体は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。鎖状オレフィン系樹脂が共重合性単量体を含む場合、構成単位全体に対する共重合性単量体の割合は、例えば90モル%程度以下であってもよく、好ましくは、以下段階的に、70モル%以下、50モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下である。また、前記割合は、例えば0.01~30モル%、好ましくは、以下段階的に、0.1~20モル%、1~10モル%である。
【0110】
代表的な鎖状オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ1-ブテン系樹脂、ポリ4-メチル-1-ペンテン系樹脂などのポリα-C2-6オレフィン系樹脂などが挙げられ、これらのポリオレフィン系樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのポリオレフィン系樹脂のなかでも、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0111】
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、エチレン-(α-C3-10オレフィン)共重合体、変性ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、アイオノマーなどが挙げられる。エチレン-(α-C3-10オレフィン)共重合体としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-(1-ブテン)共重合体、エチレン-プロピレン-(1-ブテン)共重合体、エチレン-(4-メチル-1-ペンテン)共重合体などが挙げられる。変性ポリエチレンとしては、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレンなどが挙げられる。
【0112】
なお、ポリエチレン系樹脂は、チーグラー触媒などのマルチサイト型の触媒、またはメタロセン触媒などのシングルサイト型の触媒により調製されていてもよく、メタロセン触媒により調製されたポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0113】
これらのポリエチレン系樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのポリエチレン系樹脂のうち、エチレン-(α-C3-10オレフィン)共重合体が好ましく、メタロセン触媒により調製されたエチレン-(α-C3-10オレフィン)共重合体が更に好ましい。
【0114】
ポリエチレン系樹脂の密度は、例えば0.87~1g/cm程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.88~0.98g/cm、0.885~0.95g/cm、0.895~0.92g/cm、0.9~0.91g/cmである。なお、本明細書および請求の範囲において、前記密度は、JIS K 7122に準じて測定できる。
【0115】
ポリエチレン系樹脂の重量平均分子量Mwは、例えば10000~10000000程度の範囲から選択してもよい。また、数平均分子量Mnは、例えば10000~1000000程度の範囲から選択してもよい。分子量分布(Mw/Mn)は、例えば1~50程度の範囲から選択してもよい。なお、本明細書および請求の範囲において、重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布は、GPCにより標準ポリスチレン換算で測定できる。
【0116】
ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(単位:g/10分)は、例えば1~50程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、2~30、3~25、4~20、5~18、6~15、8~12である。なお、本明細書および請求の範囲において、ポリエチレン系樹脂のMFRは、JIS K6922-2に準じて測定できる。
【0117】
ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン(またはプロピレンホモポリマー(単独重合体))であってもよく、プロピレンと他の共重合性単量体との共重合体または変性ポリプロピレンであってもよい。プロピレンと他の共重合性単量体との共重合体または変性ポリプロピレンとしては、例えば、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-(1-ブテン)共重合体、プロピレン-エチレン-(1-ブテン)共重合体などのプロピレンと他のα-C2-10オレフィンとの共重合体;無水マレイン酸変性ポリプロピレン;塩素化ポリプロピレンなどが挙げられる。なお、プロピレンと他の共重合性単量体との共重合体または変性ポリプロピレンは、ランダム共重合体、ブロック共重合体またはグラフト共重合体であってもよい。また、プロピレンと他のα-C2-10オレフィンとの共重合体において、プロピレン(またはプロピレン単位)の割合は、モノマー全体に対して、例えば70モル%以上、好ましい範囲としては、以下段階的に、80モル%以上、90モル%以上である。また、前記割合は、例えば75~99.5モル%、好ましい範囲としては、以下段階的に、85~99モル%、94~98モル%である。
【0118】
また、ポリプロピレン系樹脂としては、結晶化度の観点から、高密度ポリプロピレン(高結晶ポリプロピレン(HCPP))、中密度ポリプロピレン、低密度ポリプロピレン(低結晶ポリプロピレン(LCPP))、超低密度ポリプロピレン(超低結晶ポリプロピレン(VLCPP))などが挙げられる。ポリプロピレン系樹脂は、立体規則性の観点から、アイソタクチックポリプロピレン(IPP)、シンジオタクチックポリプロピレン(SPP)などの立体規則性を有するポリプロピレン系樹脂であってもよく、アタクチックポリプロピレン(APP)のように立体規則性を有しないポリプロピレン系樹脂であってもよい。なお、立体規則性を有するポリプロピレン系樹脂は、メタロセン触媒を用いて得られる分子量分布の狭いポリプロピレン系樹脂であってもよい。
【0119】
これらのポリプロピレン系樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリプロピレン系樹脂のうち、ポリプロピレン(プロピレンホモポリマー)が好ましい。
【0120】
ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量Mwは、例えば、10000~10000000程度の範囲から選択してもよい。また、数平均分子量Mnは、例えば10000~1000000程度の範囲から選択してもよい。分子量分布(Mw/Mn)は、例えば1~50程度の範囲から選択してもよい。なお、本明細書および請求の範囲において、重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布は、GPCにより標準ポリスチレン換算で測定できる。なお、本明細書および請求の範囲において、重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布は、GPCにより標準ポリスチレン換算で測定できる。
【0121】
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(単位:g/10分)は、例えば0.5~55程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~50、2~40、3~30、4~20、5~15、6~12、8~10である。なお、本明細書および請求の範囲において、ポリエチレン系樹脂のMFRは、JIS K7210に準じて試験条件230℃で測定できる。
【0122】
ポリアミド系樹脂(PA)は、慣用のポリアミド系樹脂が使用でき、例えば、脂肪族モノマー成分、脂環族モノマー成分および/または芳香族モノマー成分などで形成してもよい。
【0123】
なお、本明細書および請求の範囲において、後述するジカルボン酸などのカルボキシル基を有するモノマー成分は、アミド形成性誘導体、例えば、酸クロリドなどの酸ハライド、酸無水物などであってもよい。
【0124】
脂肪族モノマー成分としては、例えば、脂肪族ジアミン成分、脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族アミノカルボン酸成分、ラクタム成分などが挙げられる。
【0125】
脂肪族ジアミン成分としては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンなどの直鎖状または分岐鎖状C2-20アルキレンジアミンなどが挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C4-16アルキレンジアミン、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C6-12アルキレンジアミンである。
【0126】
脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、飽和脂肪族ジカルボン酸(直鎖状または分岐鎖状アルカンジカルボン酸)、不飽和脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0127】
直鎖状または分岐鎖状アルカンジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸などの直鎖状または分岐鎖状C1-20アルカン-ジカルボン酸などが挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-16アルカン-ジカルボン酸、さらに好ましくはアジピン酸、セバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸などの直鎖状または分岐鎖状C4-12アルカン-ジカルボン酸である。
【0128】
不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのC2-10アルケン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0129】
脂肪族アミノカルボン酸成分としては、例えば、6-アミノヘキサン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などのアミノC2-20アルキル-カルボン酸などが挙げられ、好ましくはアミノC3-16アルキル-カルボン酸、さらに好ましくはアミノC5-11アルキル-カルボン酸である。
【0130】
ラクタム成分としては、前記脂肪族アミノカルボン酸に対応するラクタムであってもよく、例えば、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどの4~13員環のラクタムなどが挙げられ、好ましくは7~13員環のラクタムが挙げられる。
【0131】
脂環族モノマー成分は、脂環骨格(または脂肪族炭化水素環骨格)を有していればよく、例えば、脂環族ジアミン成分、脂環族ジカルボン酸成分、脂環族アミノカルボン酸成分などが挙げられる。
【0132】
脂環族ジアミン成分としては、例えば、ジアミノシクロアルカン、ビス(アミノアルキル)シクロアルカン、ビス(アミノシクロヘキシル)アルカンなどが挙げられる。
【0133】
ジアミノシクロアルカンとしては、例えば、ジアミノシクロヘキサンなどのジアミノC5-10シクロアルカンなどが挙げられる。
【0134】
ビス(アミノアルキル)シクロアルカンとしては、例えば、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどのビス(アミノC1-4アルキル)C5-10シクロアルカンなどが挙げられる。
【0135】
ビス(アミノシクロヘキシル)アルカンとしては、例えば、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパンなどのビス(アミノシクロヘキシル)C1-6アルカン;ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)プロパンなどのビス(アミノ-モノないしトリC1-6アルキル-C5-10シクロアルキル)C1-6アルカンなどが挙げられる。
【0136】
脂環族ジカルボン酸成分としては、例えば、シクロアルカンジカルボン酸、架橋環式シクロアルカンジカルボン酸、シクロアルケンジカルボン酸、架橋環式シクロアルケンジカルボン酸などが挙げられる。
【0137】
シクロアルカンジカルボン酸としては、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などのC5-10シクロアルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0138】
架橋環式シクロアルカンジカルボン酸としては、例えば、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸などのビまたはトリシクロアルカンジカルボン酸などが挙げられる。
【0139】
シクロアルケンジカルボン酸としては、例えば、シクロヘキセンジカルボン酸などのC5-10シクロアルケン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0140】
架橋環式シクロアルケンジカルボン酸としては、例えば、ノルボルネンジカルボン酸などのビまたはトリシクロアルケンジカルボン酸などが挙げられる。
【0141】
脂環族アミノカルボン酸成分としては、例えば、アミノシクロアルカンカルボン酸などが挙げられ、具体的には、アミノシクロヘキサンカルボン酸などのアミノC5-10シクロアルカン-カルボン酸などが挙げられる。
【0142】
芳香族モノマー成分は、芳香環骨格を有していればよく、例えば、芳香族(または芳香脂肪族)ジアミン成分、芳香族(または芳香脂肪族)ジカルボン酸成分、芳香族(または芳香脂肪族)アミノカルボン酸成分などが例示できる。
【0143】
芳香族(または芳香脂肪族)ジアミン成分としては、例えば、ジアミノアレーン、ビス(アミノアルキル)アレーンなどが挙げられる。ジアミノアレーンとしては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミンなどの、m-キシリレンジアミンなどのジアミノC6-14アレーンなどが挙げられ、ビス(アミノアルキル)アレーンとしては、例えば、m-キシリレンジアミンなどのビス(アミノC1-4アルキル)アレーンなどが挙げられる。
【0144】
芳香族(または芳香脂肪族)ジカルボン酸成分としては、例えば、ベンゼンジカルボン酸、アルキルベンゼンジカルボン酸、多環式アレーンジカルボン酸、ジアリールアルカンジカルボン酸、ジアリールケトンジカルボン酸、ジアリールエーテルジカルボン酸、ジアリールスルフィドジカルボン酸、ジアリールスルホンジカルボン酸などが挙げられる。
【0145】
ベンゼンジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。アルキルベンゼンジカルボン酸としては、例えば、4-メチルイソフタル酸、5-メチルイソフタル酸などのC1-4アルキル-ベンゼンジカルボン酸などが挙げられる。
【0146】
多環式アレーンジカルボン酸としては、例えば、縮合多環式アレーンジカルボン酸、環集合アレーンジカルボン酸などが挙げられる。
【0147】
縮合多環式アレーンジカルボン酸としては、例えば、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸;アントラセンジカルボン酸;フェナントレンジカルボン酸などの縮合多環式C10-24アレーン-ジカルボン酸が挙げられ、好ましくは縮合多環式C10-14アレーン-ジカルボン酸が挙げられる。
【0148】
環集合アレーンジカルボン酸としては、例えば、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸などのビC6-10アレーン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0149】
ジアリールアルカンジカルボン酸としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸などのジC6-10アリールC1-6アルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0150】
ジアリールケトンジカルボン酸としては、例えば、4.4’-ジフェニルケトンジカルボン酸などのジ(C6-10アリール)ケトン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0151】
ジアリールエーテルジカルボン酸としては、例えば、4.4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸などのジ(C6-10アリール)エーテル-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0152】
ジアリールスルフィドジカルボン酸としては、例えば、4.4’-ジフェニルスルフィドジカルボン酸などのジ(C6-10アリール)スルフィド-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0153】
ジアリールスルホンジカルボン酸としては、例えば、4.4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸などのジ(C6-10アリール)スルホン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0154】
芳香族アミノカルボン酸成分としては、例えば、アミノアレーンカルボン酸などが挙げられる。アミノアレーンカルボン酸としては、例えば、アミノ安息香酸などのアミノC6-12アレーンカルボン酸などが挙げられる。
【0155】
ポリアミド系樹脂は、これらのモノマー成分を単独でまたは2種以上組み合わせて形成でき、例えば、ジアミン成分およびジカルボン酸成分の重合、アミノカルボン酸成分および/またはラクタム成分の重合、ジアミン成分およびジカルボン酸成分とアミノカルボン酸成分および/またはラクタム成分との重合などにより形成してもよい。また、ポリアミド系樹脂は、単一のモノマー成分(単一のジアミン成分およびジカルボン酸成分、単一のアミノカルボン酸成分、または単一のラクタム成分)で形成されたホモポリアミドであってもよく、複数のモノマー成分が共重合したコポリアミドであってもよい。代表的なポリアミド系樹脂としては、例えば、脂肪族ポリアミド樹脂、脂環族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0156】
脂肪族ポリアミド樹脂は、脂肪族モノマー成分に由来する脂肪族モノマー単位で形成されていればよく、例えば、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などの脂肪族ジアミン成分と脂肪族ジカルボン酸成分とのホモポリアミド;ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12などの脂肪族アミノカルボン酸成分および/または対応するラクタム成分のホモポリアミド;コポリアミド6/66、コポリアミド6/11、コポリアミド66/12などの複数の脂肪族モノマー成分の共重合体(コポリアミド)などが挙げられる。
【0157】
脂環族ポリアミド樹脂は、脂環族モノマー成分に由来する脂環族モノマー単位を有していればよく、脂肪族モノマー成分と脂環族モノマー成分とを組み合わせて形成されていてもよい。代表的な脂環族ポリアミド樹脂は、例えば、ジアミノメチルシクロヘキサンとアジピン酸との重合体などの脂環族ジアミン成分と脂肪族ジカルボン酸成分とのホモポリアミドなどが挙げられる。
【0158】
芳香族ポリアミド樹脂は、芳香族モノマー成分に由来する芳香族モノマー単位を少なくとも有していればよく、例えば、芳香族モノマー成分と、脂肪族または脂環族モノマー成分とから形成される半芳香族ポリアミド樹脂;芳香族モノマー成分で形成され、脂肪族または脂環族モノマー成分を含まない全芳香族ポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0159】
半芳香族ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミドMXD6(m-キシリレンジアミンとアジピン酸との重合体)など芳香族(または芳香脂肪族)ジアミン成分と脂肪族ジカルボン酸成分とのホモポリアミド;ポリアミド6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)、ポリアミド9T(ノナメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)、ポリアミド10T(デカメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)、ポリアミド12T(ドデカメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)、ポリアミドM5T(2-メチルペンタメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)、ポリアミドM8T(2-メチルオクタメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)、ポリアミド6I(ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との重合体)、トリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体などの脂肪族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分とのホモポリアミド;コポリアミド6T/66、コポリアミド6T/M5T、コポリアミド6T/6I、コポリアミド6T/6I/6、コポリアミド6T/6I/66などの脂肪族ジアミン成分および芳香族ジカルボン酸成分を少なくとも含む共重合体などが挙げられる。
【0160】
全芳香族ポリアミド樹脂としては、例えば、m-フェニレンジアミンとイソフタル酸との重合体、p-フェニレンジアミンとテレフタル酸との重合体などの芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分とのホモポリアミドなどが挙げられる。
【0161】
なお、本明細書および請求の範囲において、コポリアミドにおける「/」は、前後に記載されたモノマー(単位)を共重合成分(共重合単位)としてコポリアミドが形成されることを意味する。すなわち、コポリアミド6/66は、ポリアミド6を形成する単位と、ポリアミド66を形成する単位とを有する共重合体であることを意味する。
【0162】
ポリアミド樹脂は、N-アルコキシメチル基を有するポリアミド、不飽和高級脂肪酸の二量体であるダイマー酸を重合成分とする重合脂肪酸系ポリアミド樹脂などであってもよい。また、ポリアミド樹脂は、結晶性または非晶性であってもよく、透明性ポリアミド樹脂(非晶性透明ポリアミド樹脂)であってもよく、成形品の機械的特性の観点から、結晶性樹脂が好ましい。
【0163】
これらのポリアミド系樹脂は単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらのポリアミド系樹脂のうち、脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、なかでも、炭素数が4~12程度、好ましくは6~11、さらに好ましくは6~9、特に少なくとも6のアルキレン基を有する脂肪族モノマー成分を含む脂肪族ポリアミド樹脂が好ましい。代表的な好ましい脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などの脂肪族ジアミン成分と脂肪族ジカルボン酸成分とのホモポリアミドである。
【0164】
ポリアミド系樹脂の数平均分子量Mnは、例えば7000~1000000、好ましい範囲としては、以下段階的に、10000~750000、20000~500000、30000~500000、50000~500000である。分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)などの慣用の方法を利用して測定でき、ポリスチレン換算の分子量として評価してもよい。
【0165】
これらの樹脂に対して、添加剤として前記式(1)で表されるフルオレン誘導体を添加して樹脂組成物を形成することにより、樹脂組成物の流動性および/または機械的特性を向上でき、なかでも、溶融流動性をより有効に向上できる点から、ポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物が好ましい。
【0166】
樹脂組成物において、前記式(1)で表される化合物(フルオレン誘導体)と樹脂との割合は、例えば、前者/後者(質量比)=0.01/99.99~50/50程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.1/99.9~30/70、0.5/99.5~20/80、1/99~15/85、1/99~10/90、2/98~8/92、3/97~7/93、4/96~6/94である。前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合が多すぎると、機械的特性が大きく低下するおそれがあり、少なすぎると、流動性、特に溶融流動性や機械的特性を改善できないおそれがある。しかし、本開示では、前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合が比較的少なくても、樹脂の特性を有効に改善でき、特に、ポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物であると、機械的特性を大きく低下させることなく、または機械的特性を向上しつつ、溶融流動性をより一層有効に向上できる。
【0167】
また、樹脂組成物は、必要に応じて、各種添加剤、例えば、充填剤または補強剤、染顔料などの着色剤、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤、炭素材、硬化剤、硬化促進剤などを含んでいてもよい。前記安定剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。これらの添加剤は単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。
【0168】
樹脂組成物は、フルオレン誘導体(流動性改善剤)と樹脂と、必要に応じて添加剤などの他の成分とを、乾式混合、溶融混練などの慣用の方法で混合することにより調製でき、樹脂組成物はペレットなどの形態であってもよい。
【0169】
樹脂組成物の曲げ強さは、前記式(1)で表されるフルオレン誘導体を添加しない樹脂単独(以下、単にブランクともいう)の曲げ強さを100としたとき、例えば90~150程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、95~130、100~125、110~120である。特に、ポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物の曲げ強さは、ブランクを100としたとき、90~110程度であってもよく、好ましくは95~105である。なお、ブランクの曲げ強さは、例えば1~300MPa程度であってもよく、樹脂がポリエチレン系樹脂を含む場合、例えば1~10MPa、好ましくは3~7MPaであり、樹脂がポリプロピレン系樹脂を含む場合、例えば10~100MPa、好ましくは40~50MPaであり、樹脂がポリアミド系樹脂を含む場合、例えば50~200MPa、好ましくは、以下段階的に、80~180MPa、100~150MPa、110~130MPaである。
【0170】
樹脂組成物のたわみは、ブランクのたわみを100としたとき、例えば80~120程度であってもよく、好ましくは85~115である。特に、ポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物のたわみは、ブランクを100としたとき、90~110程度であってもよく、好ましくは95~105である。なお、ブランクのたわみは、例えば3~30mm、好ましくは5~20mmであり、樹脂がポリエチレン系樹脂を含む場合、例えば10~20mm、好ましくは14~18mmであり、樹脂がポリプロピレン系樹脂を含む場合、例えば8~18mm、好ましくは10~15mmであり、樹脂がポリアミド系樹脂を含む場合、例えば5~15mm、好ましくは8~13mmである。
【0171】
樹脂組成物の曲げ弾性率は、ブランクの曲げ弾性率を100としたとき、例えば90~150程度であってもよく、好ましくは100~140、さらに好ましくは110~135である。特に、ポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物の曲げ弾性率は、ブランクを100としたとき、95~115程度であってもよく、好ましくは100~110である。なお、ブランクの曲げ弾性率は、例えば50~5000MPa程度であってもよく、樹脂がポリエチレン系樹脂を含む場合、例えば50~200MPa、好ましくは70~100MPaであり、樹脂がポリプロピレン系樹脂を含む場合、例えば1000~2000MPa、好ましくは1300~1700MPaであり、樹脂がポリアミド系樹脂を含む場合、例えば1000~5000MPa、好ましくは、以下段階的に、2000~4000MPa、2500~3500MPa、2700~3200MPa、2800~3000MPaである。
【0172】
樹脂組成物の引張強さ(最大引張強さ)は、ブランクの引張強さを100としたとき、例えば80~130程度であってもよく、好ましくは90~120、さらに好ましくは95~110である。特に、ポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物の引張強さは、ブランクを100としたとき、90~115程度であってもよく、好ましくは95~110である。なお、ブランクの引張強さ(最大引張強さ)は、例えば1~200MPa程度であってもよく、樹脂がポリエチレン系樹脂を含む場合、例えば5~50MPa、好ましくは10~20MPaであり、樹脂がポリプロピレン系樹脂を含む場合、例えば10~100MPa、好ましくは30~40MPaであり、樹脂がポリアミド系樹脂を含む場合、例えば50~150MPa、好ましくは、以下段階的に、60~120MPa、70~100MPa、80~90MPaである。
【0173】
樹脂組成物の引張強さ時(最大引張強さ時)ひずみまたは呼びひずみ(以下、単にひずみともいう)は、ブランクのひずみを100としたとき、例えば70~150程度であってもよく、好ましくは80~130、さらに好ましくは90~120である。特に、樹脂組成物がポリエチレン系樹脂を含むと、引張強さや引張弾性率を保持または向上しつつ、意外にもひずみ(または伸び)を大きくできるようであるため、ポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物のひずみは、ブランクを100としたとき、100~150程度であってもよく、好ましくは105~130、さらに好ましくは110~120である。また、ポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物のひずみは、ブランクを100としたとき、85~105程度であってもよく、好ましくは90~100である。なお、ブランクのひずみは、例えば0.1~1000%程度であってもよく、樹脂がポリエチレン系樹脂を含む場合におけるブランクの引張強さ時(最大引張強さ時)呼びひずみは、例えば100~1000%、好ましくは300~700%、さらに好ましくは400~600%であり、樹脂がポリプロピレン系樹脂を含む場合におけるブランクの引張強さ時(最大引張強さ時)ひずみは、例えば1~20%、好ましくは5~12%であり、樹脂がポリアミド系樹脂を含む場合におけるブランクの引張強さ時(最大引張強さ時)ひずみは、例えば1~10%、好ましくは、以下段階的に、2~8%、3~7%、3.5~6%、4~5%である。
【0174】
樹脂組成物の引張弾性率は、ブランクの引張弾性率を100としたとき、例えば90~150程度であってもよく、好ましくは100~140、さらに好ましくは110~135である。特に、ポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物の引張弾性率は、ブランクを100としたとき、95~115程度であってもよく、好ましくは100~110である。なお、ブランクの引張弾性率は、例えば50~5000MPa程度であってもよく、樹脂がポリエチレン系樹脂を含む場合、例えば50~200MPa、好ましくは70~100MPaであり、樹脂がポリプロピレン系樹脂を含む場合、例えば1000~2500MPa、好ましくは1500~2000MPaであり、樹脂がポリアミド系樹脂を含む場合、例えば1000~5000MPa、好ましくは、以下段階的に、2000~4000MPa、2500~3500MPa、2800~3200MPa、2900~3100MPaである。
【0175】
樹脂組成物のアイゾット衝撃強さは、ブランクのアイゾット衝撃強さを100としたとき、例えば70~120程度であってもよく、好ましくは80~110、さらに好ましくは90~100である。特に、ポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物のアイゾット衝撃強さは、ブランクを100としたとき、70~90程度であってもよく、好ましくは75~85である。なお、ブランクのアイゾット衝撃強さは、例えば1~10kJ/m程度であってもよく、樹脂がポリプロピレン系樹脂を含む場合、例えば1~5kJ/m、好ましくは2~4kJ/mであり、樹脂がポリアミド系樹脂を含む場合、例えば4~7kJ/m、好ましくは、以下段階的に、4.5~6.5kJ/m、5~6kJ/mである。
【0176】
樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、ブランクのMFRを100としたとき、例えば110~300程度であってもよく、好ましくは120~200、さらに好ましくは130~180である。特に、ポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物のMFRは、ブランクを100としたとき、140~200程度であってもよく、好ましくは150~190、さらに好ましくは160~180である。なお、ブランクのMFRは、例えば10~100g/分、好ましくは、以下段階的に、20~60g/分、25~50g/分、30~40g/分である。
【0177】
なお、本明細書および請求の範囲において、曲げ強さを、たわみ、曲げ弾性率、引張強さ(最大引張強さ)、引張強さ時の(呼び)ひずみ、引張弾性率、アイゾット衝撃強さおよびMFRは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0178】
樹脂組成物は流動性や機械的特性に優れるため、高い成形性(または生産性)で機械的特性に優れた成形体を形成できる。成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて選択でき、例えば、線状、糸状などの一次元的構造、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造、ブロック状、棒状、管状またはチューブ状などの中空状などの三次元的構造などであってもよい。
【0179】
成形体は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などの慣用の成形法を利用して製造することができる。
【実施例
【0180】
以下に、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、評価方法、用いた試薬の詳細などについて示す。
【0181】
[評価方法]
(HPLC)
HPLC(高性能または高速液体クロマトグラフ)装置として(株)島津製作所製「LCMS―2020」を用い、カラムとして(株)島津製作所製「KINTEX XB-C18」を用いて、移動相:アセトニトリル/水(体積比)=50/50から95/5まで10分間かけて変化させ、その後95/5で5分保持の条件で測定した。
【0182】
H-NMR)
試料を、内部標準物質としてテトラメチルシランを含む重溶媒(CDCl)に溶解し、核磁気共鳴装置(BRUKER社製「AVANCE III HD」)を用いて、H-NMRスペクトルを測定した。
【0183】
(融点)
BUCHI社製「Melting point M-565」を使用して、温度50℃から昇温速度0.5℃/分の条件で測定した。
【0184】
(5%質量減少温度)
熱重量測定-示差熱分析装置(TG-DTA)(パーキンエルマー社製「TGA-4000」)を使用して、窒素雰囲気下、測定温度範囲50~400℃、昇温速度10℃/分の条件下で、試料の質量が5質量%減少した温度を測定した。
【0185】
(溶剤溶解性試験)
試料と後述する表1に記載の溶剤とを、各溶剤ごとに濃度が3質量%となるようそれぞれ混合し、手で10分程度振とうし、その後、室温下(温度15~25℃)で一晩静置した。撹拌終了後における試料の溶解性を確認して、以下の基準で評価した。
【0186】
○:溶けた
△:溶けるが、溶け残りが目視で確認できた
×:溶けなかった。
【0187】
(曲げ試験)
JIS K 7171に準じて、曲げ強さ、たわみおよび曲げ弾性率を測定した。なお、曲げ弾性率は接線法により算出した。
【0188】
(引張試験)
JIS K 7161-1,-2に準じて、試験速度5mm/分の条件で、引張強さ(最大引張強さ)、引張強さ時ひずみ(または引張強さ時呼びひずみ)および引張弾性率測定した。なお、引張弾性率は接線法により算出した。
【0189】
(アイゾット衝撃試験(ノッチ付き))
JIS K7110に準じて、アイゾット衝撃強さを測定した。
【0190】
(MFR)
JIS K 7210-1 B法に準じて、保持時間を5分、温度280℃、試験荷重1.2kgの条件で測定した。
【0191】
[試薬など]
(原料)
N,N-ジエチルアクリルアミド:KJケミカルズ(株)製「DEAA(登録商標)」
N,N-ジメチルアクリルアミド:KJケミカルズ(株)製「DMAA(登録商標)」
N-イソプロピルアクリルアミド:KJケミカルズ(株)製「NIPAM(登録商標)」
N-アクリロイルモルホリン:KJケミカルズ(株)製「ACMO(登録商標)」
アクリルアミド:富士フイルム和光純薬(株)製
(その他)
DMSO:ジメチルスルホキシド、関東化学(株)製
トルエン:関東化学(株)製
TBAB:テトラブチルアンモニウムブロミド、東京化成工業(株)製
KOH:水酸化カリウム、関東化学(株)製
イソプロパノール:関東化学(株)製。
【0192】
[実施例1]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N,N-ジエチルアクリルアミド(30.5g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。そこに、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加えて攪拌して中和処理した後、トルエン(18.1g)、および飽和食塩水(36.1g×3回)を加えて抽出操作を行った。得られた抽出液を0℃まで冷却しながら一晩静置したところ、白色の結晶物が析出したため、結晶物を濾別し、イオン交換水(37.3mL)、およびイソプロパノール(10mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-1)で表される目的物(DEAA-FL、30.2g;
収率61.4%)が得られた。
【0193】
得られたDEAA-FLの融点は87~89℃であり、5%質量減少温度は294℃であった。また、得られたDEAA-FLのH-NMRの結果を以下および図1に示す。
【0194】
【化10】
【0195】
H-NMR(CDCl、300MHz):δ(ppm)=7.69-7.72(2H、m)、7.27-7.43(6H、m)、3.18(4H、q)、2.79(4H、q)、2.42-2.48(4H、m)、1.47-1.53(4H、m)、0.96(6H、t)、0.76(6H、t)。
【0196】
[実施例2]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N,N-ジメチルアクリルアミド(23.8g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。そこに、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、攪拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-2)で表される目的物(DMAA-FL、30.0g;収率82.4%)が得られた。
【0197】
得られたDMAA-FLの融点は158~159℃であり、5%質量減少温度は318℃であった。また、得られたDMAA-FLのH-NMRの結果を以下および図2に示す。
【0198】
【化11】
【0199】
H-NMR(CDCl、300MHz):δ(ppm)=7.70-7.71(2H、m)、7.27-7.41(6H、m)、2.74(6H、s)、2.51(6H、s)、2.42-2.47(4H、m)、1.48-1.54(4H、m)。
【0200】
[実施例3]
(実施例3A)
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N-イソプロピルアクリルアミド(27.2g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。そこに、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、攪拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-3)で表される目的物(NIPAM-FL、32.8g;収率71.4%)が得られた。
【0201】
得られたNIPAM-FLの融点は235~237℃であり、5%質量減少温度は257℃であった。また、得られたNIPAM-FLのH-NMRの結果を以下および図3に示す。
【0202】
【化12】
【0203】
H-NMR(CDCl、300MHz):δ(ppm)=7.68-7.71(2H、m)、7.32-7.42(6H、m)、4.73(2H、m)3.84(2H、m)、2.42(4H、m)、1.33(4H、m)、0.97(12H、d)。
【0204】
(実施例3B)
上記実施例3Aと同様にして、NIPAM-FLを合成した。得られたNIPAM-FLに対して、濃度が10質量%となるようメタノールを加え、密栓後に65℃に昇温して溶解し、65℃を保持して2時間撹拌した後、室温(20~25℃程度)で一晩静置した。析出した結晶を吸引ろ過で回収し、NIPAM-FLの結晶を得た。得られたNIPAM-FLの結晶の融点は、実施例3Aと同様であった。
【0205】
[比較例1]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、アクリルアミド(17.0g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。そこに、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、攪拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式で表される目的物(AAD-FL、31.8g;収率88.4%)が得られた。
【0206】
得られたAAD-FLの融点は254~259℃であり、5%質量減少温度は320℃であった。また、得られたAAD-FLのH-NMRの結果を以下および図4に示す。
【0207】
【化13】
【0208】
H-NMR(DMSO-d、300MHz):δ(ppm)=7.82-7.84(2H、m)、7.47-7.49(2H、m)、7.35-7.40(4H、m)、6.97(2H、s)、6.52(2H、s)、2.24(4H、m)、1.26(4H、m)。
【0209】
[実施例4]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N-アクリロイルモルホリン(33.8g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。そこに、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、攪拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-4)で表される目的物(ACMO-FL)が得られた。
【0210】
【化14】
【0211】
[溶解性の評価]
実施例1~3、比較例1で得られたフルオレン誘導体の溶解性試験の結果を表1に示す。なお、表1中、IPAはイソプロパノール、MEKはメチルエチルケトン、MIBKはメチルイソブチルケトン、ジオキサンは1,4-ジオキサン、THFはテトラヒドロフランをそれぞれ示す。なお、NIPAM-FLは実施例3Aで調製したものを用いた。
【0212】
【表1】
【0213】
表1の結果から明らかなように、実施例で得られたフルオレン誘導体は、比較例1に比べて優れた溶剤溶解性を示した。
【0214】
[実施例5~11、比較例2~4]樹脂組成物の調製および評価
表2に記載の割合で、樹脂と添加剤とを(比較例では添加剤を用いることなく)2軸押出機(サーモフィッシャー製「Process11 Twin Screw Extruder」、L/D=40)を用いて溶融混練し、樹脂組成物を調製した。なお、PE、PPを樹脂として用いた例では、260℃で溶融混練し、PA66を用いた例では、280℃で溶融混練した。
【0215】
また、樹脂組成物を糸状に押し出したサンプルを目視で確認したところ、実施例5、9~11および比較例2~4では白濁しておらず、樹脂と添加剤とが相溶していた。
【0216】
得られた樹脂組成物の曲げ試験、引張試験、アイゾット衝撃試験およびMFRを測定した。得られた結果を表2に示す。また、樹脂組成物の調製に用いた樹脂を以下に示す。なお、NIPAM-FLは実施例3Aで調製したものを用いた。
【0217】
PE:ポリエチレン樹脂、三菱ケミカル(株)製「カーネル(登録商標) KC570S」
PP:ポリプロピレン樹脂、(株)プライムポリマー製「プライムポリプロ(登録商標) J105G」
PA66:ポリアミド66、東レ(株)製「アミラン(登録商標) CM3001」。
【0218】
なお、表2中の引張ひずみについて、呼びひずみとして算出したものは括弧書きで示した。
【0219】
【表2】
【0220】
表2から明らかなように、実施例の樹脂組成物では、比較例に比べて、曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引張弾性率などの機械的強度、および/またはMFRを向上できた。
【産業上の利用可能性】
【0221】
本開示のフルオレン誘導体は、樹脂の機械的強度および/または流動性(溶融流動性または成形性)を向上するための添加剤(または樹脂改質剤)、例えば、強度向上剤、流動性改善剤などとして有効に利用できる。
図1
図2
図3
図4