(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】流動焙焼炉
(51)【国際特許分類】
F27B 15/04 20060101AFI20220324BHJP
F27B 15/14 20060101ALI20220324BHJP
C22B 1/10 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
F27B15/04
F27B15/14
C22B1/10
(21)【出願番号】P 2018002345
(22)【出願日】2018-01-11
【審査請求日】2020-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
(72)【発明者】
【氏名】合田 幸弘
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-354757(JP,A)
【文献】特開平08-060215(JP,A)
【文献】特開昭57-028982(JP,A)
【文献】特開平08-217423(JP,A)
【文献】特開2004-025061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 15/00 - 15/20
C22B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下側から上側へ向けて流れるガスを用いて被焙焼物が焙焼される筒状炉心部
と、
該筒状炉心部の外周に設けられた電気式ヒータと、が設けられ、
該筒状炉心部は、前記
電気式ヒータが設けられている高さ方向の領域において、炉内断面積が異なる複数の内面鉛直部を有し、
上側に位置する前記内面鉛直部の炉内断面積が、下側に位置する前記内面鉛直部の炉内断面積よりも大きい、
ことを特徴とする流動焙焼炉。
【請求項2】
前記筒状炉心部は、3以上の前記内面鉛直部を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の流動焙焼炉。
【請求項3】
炉内断面積が異なる複数の前記内面鉛直部のうち、2つの前記内面鉛直部の焙焼温度の設定
を前記電気式ヒータにより異ならせることができる、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の流動焙焼炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動焙焼炉に関する。さらに詳しくは、高品位が要求される被焙焼物を焙焼可能な流動焙焼炉に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、流動焙焼炉は、原料単独、もしくは流動媒体を用いてガスを供給しながら焙焼対象の粒状の原料をあたかも流体のように浮遊させることによって媒体との混合状態をつくり上げ、効率的に焙焼する装置である。焙焼対象の原料と流動媒体とを混合させた状態で焙焼することにより原料と流動媒体とが衝突しながら焙焼が進み、また、原料が流動層内に比較的長時間滞留できるため、効率的に焙焼することができる。
【0003】
このような流動焙焼炉を用いて供給した原料に対する焙焼を確実に行うためには、ガスの流速を、原料(以下、本明細書において「被焙焼物」と称することがある)と流動媒体との混合物の空塔速度が、最小流動化速度以上、終末速度未満の範囲となるように正確に制御されなければならない。
【0004】
ここで、「空塔速度」とは、ガス流量/炉内断面積で求められる実速度である。ここで「炉内断面積」は、炉芯の軸心に垂直な平面における炉内の面積をいう。また、「最小流動化速度」とは、粉体(被焙焼物と流動媒体との混合物)が流動を始める最小の速度である。「終末速度」とは、流動層から粉体が上昇して飛び出し始める速度をいう。
【0005】
上記のように速度制御が正確に行われる必要があるのは、以下のような理由のためである。すなわち、供給するガスの流速が、原料と流動媒体との混合物の「最小流動化速度」未満であると、原料が流動化しないために焙焼が均一に進まず、原料の凝集が発生する等の問題が生じる。
【0006】
一方で、ガスの流速がその混合物の「終末速度」以上であると、流速が速すぎて原料または流動媒体がガスと共に流されてしまい、効果的に焙焼を施すことができないという問題、または回収率が大きく低下するという問題が生じる。
【0007】
つまり、流動焙焼では、ガス流量を適切な範囲内で制御して、原料を焙焼に足る時間、流動層内で流動化させることが必要となる。
【0008】
特許文献1、2には、上で記載した流動焙焼炉の構成が開示されている。これらの流動焙焼炉は、工業的に生産を行うためにいくつかの問題点が挙げられる。以下に記載した4つは、そのうちの重要と考えられるものである。
【0009】
第1の問題点として、連続処理が困難であるという点である。効率化の観点から、連続処理に際しては、原料を連続的に投入する。この際、焙焼中の原料と焙焼されていない原料とが混ざってしまい、効率的に焙焼を行うことができないと、被焙焼物の品質が低下したことになり好ましくない。
【0010】
上記の問題を解決するために、原料投入口と原料回収口とを離して原料が投入口から回収口へ向かうようにすることも考えられるが、流動焙焼の場合には、粒状の原料が流体の如く流動化しているため、投入直後の焙焼されていない原料と、暫く炉内を浮遊して焙焼が進んだ原料とがすぐに混ざってしまい、焙焼が完了した原料だけを回収することはできず、どうしても焙焼が不十分な原料も混合した状態で回収される。このため、品質的に低いものが回収され、また、焙焼効率も悪くなってしまう。
【0011】
特許文献1には、古砂ダストを流動焙焼炉の焙焼室内に供給し、その焙焼室内に置いて流動焙焼させ、焙焼室内に形成される流動層の上部位置に開口する溢流口からオーバーフローさせて、再生処理ダストとして回収する技術が開示されている。ここで古砂ダストは、鋳物古砂再生用の管乾式再生機で発生したダストを集じんして得たものである。また、流動焙焼炉の底部には、珪砂をベース砂として収容されている。
【0012】
加えて、シュートの投入口部に設けた圧縮空気吹込管で、その先端に形成したノズルから圧縮空気がシュートの出口に向って吹き込まれるようになっていることも開示されている。すなわち、古砂ダストをシュートに向かって圧縮空気を吹き込みながら炉内に供給し、溢流口から古砂ダストをオーバーフローさせて回収している。
【0013】
特許文献1で開示されている流動焙焼炉では、古砂ダストの供給高さ位置と溢流口(回収口)の高さ位置とがほとんど同じであることから、流動化している古砂ダストについて、焙焼されたものだけが確実に溢流口からオーバーフローして回収されることはない。
【0014】
すなわち、流動化し焙焼中の古砂ダストの中に、次々に焙焼前の古砂ダストが供給されるため、溢流口から回収されている古砂ダストには焙焼が不十分な古砂ダストが混在する。そのためこの点で連続処理が困難である。
【0015】
上記第1の問題点に対し、特許文献1に開示の方法で、可能な限り焙焼が進んだ古砂ダストを回収するためには、古砂ダストの供給速度を極力遅くする必要があると考えられる。ただし、この場合流動焙焼炉による処理は、非常に効率の悪いものとなり、やはり連続処理は困難である。
【0016】
第2の問題点としては、焙焼後に焙焼に用いられたガスと焙焼後の被焙焼物とを分離することが困難であるという点である。
【0017】
特許文献2には、金属鉄源を流動焙焼炉で酸化焙焼する工程と、焙焼炉の溢流口より排出された粗粒子の酸化層を剥離する工程と、剥離工程後の酸化鉄と金属鉄粉を流動焙焼炉に循環する工程と、生成した微粉酸化鉄を焙焼ガスと共に流出させて焙焼ガス中より捕捉回収する工程とからなる高品位酸化鉄の製造方法が開示されている。
【0018】
しかしながら特許文献2には、微粉酸化鉄を焙焼ガスと共に流出させて焙焼ガス中より捕捉回収すると記載されているものの、具体的にどのように微粉酸化鉄を焙焼ガスと共に流出させるかについては明確に示されていない。すなわち、微粉酸化鉄と焙焼ガスとをどのように効率的に分離し、微粉酸化鉄を捕捉回収するかについては全く不明である。
【0019】
また、特許文献2には、剥離酸化皮膜を流動焙焼炉排ガスに随伴させて炉外に排出させることも開示されているが、どのような方法で流動焙焼炉排ガスに随伴させ炉外に排出させるのかについても不明確である。
【0020】
第3の問題点は、焙焼を行う被焙焼物によって求められる製品の純度などが異なる点である。流動焙焼炉の原料の具体的な例を挙げて説明する。その原料として、例えば2次電池の材料として多く用いられる酸化ニッケル(NiO)は、純度などの点で非常に厳しい被焙焼物となる。酸化ニッケルは、硫酸ニッケル(NiSO4)を含有する水溶液にアルカリを添加し、中和して水酸化ニッケル(Ni(OH)2)を得て、その水酸化ニッケルを焙焼して製造される。
【0021】
この酸化ニッケルについては、得られた酸化ニッケルに含まれた不純物の硫黄品位が高く、例えば100ppmを超えると、酸化ニッケルから製造した電池の特性を低下させる等の影響が生じるなど好ましくない。このため、洗浄等の前処理で付着した硫黄を除去するとともに、均一かつ確実に焙焼して硫黄を低減することが欠かせない。すなわち特許文献1等で開示されている流動焙焼炉の構成では、所定の原料に対して焙焼の均一性を十分に上げることができないという問題がある。
【0022】
第4の問題点は、焙焼を行う被焙焼物の特性に関する点である。前述の水酸化ニッケルの流動焙焼に際しては、発生するガスの影響を考慮する必要もある。つまり、水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケルが生成するのと同時に、水酸化ニッケルの分解に伴って水(H2O)、すなわち水蒸気ガスも発生する。この発生した水蒸気ガスの体積によって流動焙焼炉内での流速が急激に上昇し、その結果被焙焼物が不完全な焙焼のまま流出させられ、品質と回収率が低下する問題を生じる。
【0023】
上記の焙焼に伴って発生したガスによる影響は、水酸化ニッケルなどの場合以外でも、例えば銅精鉱を焙焼して砒素を分離しようとする際にも生じる。すなわち、銅精鉱が不活性ガス中で焙焼されると砒素の硫化物が気体となって生成し、銅精鉱が炉外に流し出されてしまう。
【0024】
この第4の問題点に対して、焙焼によってガスが発生する場合、流動焙焼炉から未反応原料の排出を防止するためには、発生するガスの量をあらかじめ予測し、発生ガス量に相当する量の流動化に送気するガス量を減少することが必要となる。しかし上記の水蒸気ガスなどは流動層内で焙焼反応に伴って発生するものであり、流動化のためのガス供給量を一律に減少すると、流動化が生じなくなり反応が進まなくなったり、過剰の流量となって目的とする焙焼が円滑に進まなくなったりする課題が生じる。
【0025】
この第4の問題点に対して、特許文献1では、流動焙焼炉の炉心本体の出口側に炉内断面積を拡大した部分を設置し、流動焙焼炉の炉内を流れてきたガスならびに被焙焼物の流速を断面積の広がりによって低減させて、焙焼が不十分な原料が排出されることを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【文献】特開2000-42515号公報
【文献】特開昭61-236616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
上記第3および第4の問題点に対し、特許文献1に記載の流動焙焼炉の炉心本体の出口側に炉内断面積を拡大した部分が設置された場合、すなわち流動焙焼を行っている流動層より上の部分で、炉内断面積を拡大した部分が設置された場合、流動焙焼が行なわれている流動層が形成されている部分では、炉内断面積が上下で変化しない直筒形状であるので、発生したガスにより、流動層内部で流動用ガスの速度が不均一となりやすく、そのため、被焙焼物が完全に焙焼されずに炉心本体の出口側に向うことが多く、品質と回収率が低下するという問題がある。
【0028】
本発明は上記事情に鑑み、焙焼によりガスが発生する被焙焼物であっても、焙焼後の品質と回収率を高くすることができる流動焙焼炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
第1発明の流動焙焼炉は、下側から上側へ向けて流れるガスを用いて被焙焼物が焙焼される筒状炉心部と、該筒状炉心部の外周に設けられた電気式ヒータと、が設けられ、該筒状炉心部は、前記電気式ヒータが設けられている高さ方向の領域において、炉内断面積が異なる複数の内面鉛直部を有し、上側に位置する前記内面鉛直部の炉内断面積が、下側に位置する前記内面鉛直部の炉内断面積よりも大きいことを特徴とする。
第2発明の流動焙焼炉は、第1発明において、前記筒状炉心部は、3以上の前記内面鉛直部を有することを特徴とする。
第3発明の流動焙焼炉は、第1発明または第2発明において、炉内断面積が異なる複数の前記内面鉛直部のうち、2つの前記内面鉛直部の焙焼温度の設定を前記電気式ヒータにより異ならせることができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
第1発明によれば、流動焙焼炉を形成する筒状炉心部が、電気式ヒータが設けられている高さ方向の領域で、炉内断面積が異なる複数の内面鉛直部を有し、上側が下側よりも炉内断面積が大きいことから、被焙焼物の焙焼によりガスが発生した場合でも、発生したガスの体積増加分が上側の内面鉛直部で吸収されるため、流動層内部で流動用ガスの速度が均一に維持される。このため焙焼後の被焙焼物の品質と回収率が向上する。
第2発明によれば、筒状炉心部が3以上の内面鉛直部を有しているので、下から上に向けて段階的に炉内断面積を増やすことができるため、流動層内部で流動用ガスの速度がより均一に維持される。
第3発明によれば、2つの内面鉛直部の焙焼温度の設定を異ならせることができることにより、段階的に焙焼を進行させることができ、流動層内部で流動用ガスの速度がさらに均一に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る流動焙焼炉の正面方向からの断面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る流動焙焼炉の正面方向からの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための流動焙焼炉およびその運転方法を例示するものであって、本発明は流動焙焼炉およびその運転方法を以下のものに特定しない。なお、各図面が示す部材の大きさまたは位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0033】
(第1実施形態)
図1には、本発明の第1実施形態に係る流動焙焼炉10の正面方向からの断面図を示す。
図1において黒色の太線矢印は、流動用ガスの流れ方向を示している。本実施形態の流動焙焼炉10には、筒状炉心部11が、軸心を鉛直にした状態で設けられている。この筒状炉心部11の下部には固定層15が設けられている。固定層15は例えば球状のアルミナなどのセラミックスを充填したものを用いることができ、セラミックスはポーラスであってよく、高い充填率のものであってよい。そして被焙焼物が固定層15の下に落ち込まないように固定層15を何層かで構成してもよい。例えば固定層15の下側を球状のアルミナを用い、固定層15の上側をより小さな球状のアルミナを用いてもよい。この固定層15の下面には、筒状炉心部11の下部から流動用ガスを導入するための流動用ガス導入管12が設けられている。この流動用ガス導入管12から太線矢印で示す向きに流動用ガスが供給されることで、固定層15の上に位置している流動媒体31および原料32が流動化して流動層が生じ、この流動層内で原料32が浮遊した状態で焙焼が行なわれる。
【0034】
筒状炉心部11の下部には、流動媒体31等を一定の温度に保持するためのヒータ13が設けられている。なおこのヒータ13は原料32によっては設けられない場合もある。ヒータ13が用いられない場合は、例えば高温の流動用ガスを流して流動焙焼してもよい。
【0035】
筒状炉心部11に供給する原料32は、筒状炉心部11の側部に設けられた原料投入管14により適宜投入される。そして原料投入管14は原料投入後、蓋またはバルブで閉じる。
【0036】
本実施形態の流動焙焼炉10の筒状炉心部11は、炉内断面積が異なる複数の内面鉛直部17を有する。本実施形態では、内面鉛直部17の断面は円形状である。これらの内面鉛直部17は、拡大部16によって互いに連結され一体となることで、筒状炉心部11が形成されている。本実施形態では内面鉛直部17は2つ設けられており、上側に位置する内面鉛直部17bの炉内断面積は、下側に位置する内面鉛直部17aの炉内断面積よりも大きくなっている。そして、被焙焼物が焙焼される流動層は、2つの内面鉛直部17に亘って形成されている。すなわち本実施形態で流動層は、下側の内面鉛直部17の高さ方向の領域の一部と、上側の内面鉛直部17の高さ方向の領域の一部とに亘って形成されている。ただし流動層は、いずれかの内面鉛直部17の高さ方向の全部に亘って形成される場合もある。なお本明細書では、内面鉛直部の全てを意味する場合は符号17とし、断面積が異なるそれぞれの内面鉛直部を意味する場合は符号17a、17bのように表示する。
【0037】
流動焙焼炉10を形成する筒状炉心部11が、流動層が形成される高さ方向の領域で、炉内断面積が異なる複数の内面鉛直部17を有し、上側が下側よりも炉内断面積が大きいことから、被焙焼物の焙焼によりガスが発生した場合でも、発生したガスの体積増加分が上側の内面鉛直部で吸収されるため、流動層内部で流動用ガスの速度が均一に維持される。このため焙焼後の被焙焼物の品質と回収率が向上する。
【0038】
上側の内面鉛直部17bの炉内断面積は、最下段である下側の内面鉛直部17aの炉内断面積の1.2倍以上から10倍以下程度の範囲とする。さらに安定した流動焙焼を継続する点で、上側の内面鉛直部17bの炉内断面積は、最下段である下側の内面鉛直部17aの炉内断面積の1.5倍以上5倍以下の断面積とすることが好ましい。炉内断面積が1.2倍未満の場合、流速の変化が少なく安定性が保ちにくく、一方10倍を超えても効果に差は少なく、設備費または体積が増加するなど好ましくない。
【0039】
なお、断面積の差が生じる部分をつなぐ部分である拡大部16は水平であってもかまわないが、
図1に示すように、炉芯側に向かって下がるように傾斜を設けて連結する構造が好ましい。このような構造とすることで、流動用ガスの流れがない空白部分が生じるのを防ぐことができ、被焙焼物が拡大部16に堆積するのを防止できるからである。
【0040】
また、拡大部16の炉外側にノッカー、バイブレータ、または超音波振動子等の振動を発生する装置を設けたり、外部からガスを吹き込む装置を設けたりして、堆積した被焙焼物を炉芯内に払い落とせる機構を設けることもできる。
【0041】
水酸化ニッケル(Ni(OH)2)は、焙焼温度によって被焙焼物の性状が大きく変化したり、性状の異なるガスが発生したりする。このような原料の場合、焙焼温度が一つの温度帯の中に位置しているとガスが一気に発生したり、被焙焼物の性状が一気に変わって、均一な流動ができなくなったりする。そして、発生したガスによって被焙焼物が、焙焼が不完全な状態で持ち出される場合がある。
【0042】
具体的に、水酸化ニッケルでは、100℃でまず含有水分が揮発し、次に300℃前後で水酸基(OH基)が分解して水蒸気が発生し、さらに700℃前後で含有する硫黄が飛び始める。
【0043】
本実施形態の流動焙焼炉10では、流動焙焼炉10の筒状炉心部11に、複数の内面鉛直部17を持つ構造としたうえで、それぞれの内面鉛直部17ごとに温度を変えて焙焼することもできる。
【0044】
例えば、ヒータ13を内面鉛直部17ごとに設けることで、異なる温度に制御することが可能となる。ヒータ13は電気式であることが好ましい。電気式であると高精度に制御することが可能であるからである。また、ヒータ13の設置密度を内面鉛直部17内の上下で異ならせることが好ましい。この場合、上下方向になだらかに温度変化を生じさせることができる。
【0045】
2つの内面鉛直部17の焙焼温度の設定が異なることにより、段階的に焙焼を進行させることができ、流動層内部で流動用ガスの速度がさらに均一に維持される。よって、ガス発生等の変動による被焙焼物の飛び出しを抑制し、その結果高い回収率で高品質な被焙焼物を得ることができる。
【0046】
(第1実施形態に係る流動焙焼炉10の運転方法)
図1に示すように、流動焙焼炉10には、原料32と一緒に流動層を生じさせるための流動媒体31が装入されている。流動焙焼炉10に流動用ガス導入管12から流動用ガスが導入されるとともに、原料32があらかじめ定められた量だけ投入される。流動用ガスの流速は、原料32と流動媒体31との混合物の「空塔速度」が、「最小流動化速度」以上で「終末速度」未満であるように調整する。
【0047】
流動焙焼炉10はヒータ13により加熱した状態にしておき、原料32を投入して焙焼することが好ましい。原料投入後、加熱すると時間がかかり効率が悪くなるからである。ヒータ13は電気式であることが、制御が容易である点で好ましい。また、図示していないが、ガスバーナなどはコスト面で安く、好ましい。
【0048】
(第2実施形態)
図2には、第2実施形態に係る流動焙焼炉10の正面方向からの断面図を示す。第1実施形態の流動焙焼炉10との相違点は、筒状炉心部11が3つの内面鉛直部17を有している点である。なお本実施形態では内面鉛直部17は3つであるが、4以上あっても問題ない。
【0049】
本実施形態では、内面鉛直部17の断面は円形状である。3つの内面鉛直部17は、それらの間に存する、2つの拡大部16によって互いに連結され一体となることで、筒状炉心部11が形成されている。本実施形態では、上側に位置する2つの内面鉛直部17b、17cの炉内断面積は、最下段に位置する内面鉛直部17aの炉内断面積よりも大きくなっている。また、最上段に位置する内面鉛直部17cの炉内断面積は、中段に位置する内面鉛直部17bの炉内断面積よりも大きくなっている。そして、被焙焼物が焙焼される流動層は、3つの内面鉛直部17に亘って形成されている。すなわち本実施形態で流動層は、最下段の内面鉛直部17aの高さ方向の領域の一部から、最上段の内面鉛直部17cの高さ方向の領域の一部に亘って形成されている。ただし流動層は、最上段または最下段の内面鉛直部17の高さ方向の領域の全部に亘って形成される場合もある。
【0050】
最下段より上側に位置する内面鉛直部17b、17cの炉内断面積は、最下段の内面鉛直部17aの炉内断面積の1.2倍以上から10倍以下程度の範囲とする。さらに安定した流動焙焼を継続する点で、最下段より上側に位置する内面鉛直部17b、17cの炉内断面積は、最下段である下側の内面鉛直部17aの炉内断面積の1.5倍以上5倍以下の断面積とすることが好ましい。炉内断面積が1.2倍未満の場合、流速の変化が少なく安定性が保ちにくく、一方10倍を超えても効果に差は少なく、設備費または体積が増加するなど好ましくない。
【0051】
筒状炉心部11が3以上の内面鉛直部17を有しているので、下から上に向けて段階的に炉内断面積を増やすことができるため、流動層内部で流動用ガスの速度がより均一に維持される。なお、流動焙焼炉10の運転方法は、第1実施形態と同じである。
【実施例】
【0052】
以下、本発明に関連する実験を行い、本発明の各実施形態の実施例を示して説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
(実験1)(複数の内面鉛直部の検証、原料:水酸化ニッケル)
<原料>
焙焼対象の原料(被焙焼物)32として、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)を準備した。水酸化ニッケルは、平均粒径が22.3~24.3μmのものであり、あらかじめ真空中で175℃、3時間の真空加熱処理が行われ、含有水分が実質的に除去された。分析すると硫黄分が2.1~2.3重量%の割合で含まれていた。その他の不純物成分は、実質的に無視できる程度だった。
【0054】
なお、以下の各実験においては、バッチ処理を行った。すなわち各原料32は所定量を流動焙焼炉10に装入し、次に空気を流動用ガスとして炉内下部から送り込んで流動化するとともに所定の温度に昇温し維持して流動焙焼を行い、焙焼後の流動用ガスは上部から排出するようにした。
【0055】
<流動焙焼処理>
実験1では
図1に示す第1実施形態に係る流動焙焼炉10と、
図2に示す第2実施形態に係る流動焙焼炉10と、内面鉛直部17が1種類の、直筒の焙焼炉と、が用いられた。これらの焙焼炉により、原料の水酸化ニッケルが焙焼され、焙焼物である酸化ニッケル(NiO)が回収された。
【0056】
具体的に、第1実施形態の流動焙焼炉10は、最下段の炉内断面積に対する上側の炉内断面積の比を表1に示すように変更して用いられた。また第2実施形態の流動焙焼炉10は、最下段の炉内断面積に対する中段の炉内断面積の比を1.6とし、最下段の炉内断面積に対する最上段の炉内断面積の比を表1に示すように変更して用いられた。第1実施形態の流動焙焼炉10で焙焼されたものが実施例1~5、第2実施形態の流動焙焼炉で焙焼されたものが実施例6~10、段のない焙焼炉で焙焼されたものが比較例1である。
【0057】
表では、最下段の内面鉛直部17aを1段目、1段目の内面鉛直部17aの次の上側に位置する内面鉛直部17bを2段目、2段目の内面鉛直部17bの次の上側に位置する内面鉛直部17cを3段目として表示した。
【0058】
投入原料の重量は、全て同一とし、焙焼条件は全て同一条件とした。具体的には焙焼温度は900℃、焙焼時間は20分、流動用ガスには空気が用いられた。所定の焙焼後炉を冷却し、炉内の被焙焼物を回収した。
【0059】
<評価>
実施例1~10、比較例1のそれぞれの処理において、焙焼により得られた試料の回収率(すなわち実収率)、回収した試料中における酸化ニッケルの含有量、および、回収した試料中における硫黄の含有量が評価された。表1に、測定結果を示す。なお、評価方法は以下の通りである。
【0060】
[焙焼により得られた試料の回収率]
焙焼により得られた試料の回収率は、下記の数1により算出した。
【0061】
[数1]
R=W1/(W2-S)×100
【0062】
R:回収率[%]
W1:回収した試料の重量
W2:投入した原料32(今回はNi(OH)2)が全て焙焼された(今回はNiO)ときの重量
S:投入した原料32に含まれている硫黄の重量
【0063】
[回収した試料中における酸化ニッケルの含有量の割合]
回収した試料中における酸化ニッケルの含有量の割合は、回収した試料中に含まれる酸化ニッケル(NiO)と水酸化ニッケル(Ni(OH)2)の含有量をそれぞれ算出し、それぞれの含有量の合計値に対するNiO含有量の割合(重量%)として算出した。
【0064】
[回収した試料中における硫黄の含有量]
回収した試料中における硫黄の含有量は、硫黄分析装置(三菱化学株式会社製,型式:TOX-100)を用いて測定した。
【0065】
【0066】
表1に示すように、第1実施形態または第2実施形態の流動焙焼炉10を用いた実施例1~10は、良好な結果が得られた。すなわち、回収率(実収率)は全て99%以上の高い値を示し、その回収物中における酸化ニッケルの含有割合も全て99%以上でNiOに焙焼できた。また、ほとんどが酸化ニッケルである回収物中の硫黄品位も低く、高品質な酸化ニッケルを得ることができた。
【0067】
一方、直筒の焙焼炉が用いられた比較例1では、実施例に比較して、回収率は低く、回収物中における硫黄品位も高くなった。
【0068】
(実験2)(複数の内面鉛直部の検証、原料:銅精鉱)
<原料>
焙焼対象の原料(被焙焼物)32として、表2に示した砒素、硫黄品位の銅精鉱を用いた。
【0069】
【0070】
<流動焙焼処理>
実験2では実験1と同様、
図1に示す第1実施形態に係る流動焙焼炉10と、
図2に示す第2実施形態に係る流動焙焼炉10と、内面鉛直部17が1種類の、直筒の焙焼炉と、が用いられた。これらの焙焼炉により、原料の銅精鉱が焙焼された。
【0071】
具体的に、第1実施形態の流動焙焼炉10は、最下段の炉内断面積に対する上側の炉内断面積の比を表3に示すように変更して用いられた。また第2実施形態の流動焙焼炉10は、最下段の炉内断面積に対する中段の炉内断面積の比を1.6とし、最下段の炉内断面積に対する最上段の炉内断面積の比を表3に示すように変更して用いられた。第1実施形態の流動焙焼炉10で焙焼されたものが実施例11~15、第2実施形態の流動焙焼炉で焙焼されたものが実施例16~20、段のない焙焼炉で焙焼されたものが比較例2である。表での内面鉛直部17の表記は実験1と同じである。
【0072】
投入原料の重量は、全て同一とし、焙焼条件は全て同一条件とした。具体的には焙焼温度は900℃、焙焼時間は4.0時間とし、流動用ガスには窒素が用いられた。所定の焙焼後炉を冷却し、炉内の被焙焼物を回収した。
【0073】
<評価>
実施例11~20、比較例2のそれぞれの処理において、フィルターでの試料の回収率(飛散率)、及び、銅精鉱中の砒素含有量について以下の方法で評価した。表3に、測定結果を示す。なお、評価方法は以下の通りである。
【0074】
[フィルターでの試料の回収率]
焙焼後、排気ガスとともに流し出された試料をバグフィルターで回収し、その回収量から下式によって回収率(飛散率)を算出した。なお、本来銅精鉱がフィルターで捕集されるのはロスになり好ましくなくこの回収率(飛散率)は低い方が好ましい。
【0075】
[数2]
R2=W3/W4×100
【0076】
R2:フィルターでの回収率[%]
W3:回収した試料の重量
W4:投入した原料(今回は銅精鉱)の重量
【0077】
[実験前後の試料中の砒素含有量]
実験前後の試料については、ICP発光分光分析装置を用いて砒素と硫黄を分析した。
【0078】
【0079】
表3に示すように、第1実施形態または第2実施形態の流動焙焼炉10を用いた実施例11~20は、良好な結果が得られた。すなわち、実施例において砒素は0.1重量%未満であり、精鉱中の砒素と硫黄の含有量が大きく減少した。銅精鉱中の砒素、硫黄が減少したため、銅精鉱中の銅含有量が流動焙焼によって10%以上増加し銅を濃縮できた。
【0080】
一方、直筒の焙焼炉が用いられた比較例2は好ましくない結果となった。すなわち、砒素品位が0.2重量%あり、フィルターでの回収量は10%以上とロスが大幅に増加した。
【0081】
(実験3)(複数の焙焼温度設定の検証、原料:水酸化ニッケル)
<原料>
焙焼対象の原料(被焙焼物)32として、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)を準備した。水酸化ニッケルは、平均粒径が22.5~24.5μmのものであり、あらかじめ真空中で175℃、3時間の真空加熱処理が行われ、含有水分が実質的に除去された。分析すると、水酸化ニッケルの硫黄品位は2.0~2.2重量%だった。その他の不純物成分は実質的に無視できる程度だった。
【0082】
<流動焙焼処理>
実験3では
図1に示す第1実施形態に係る流動焙焼炉10が用いられた。この焙焼炉により、原料の水酸化ニッケルが焙焼され、焙焼物である酸化ニッケル(NiO)が回収された。
【0083】
具体的に、第1実施形態の流動焙焼炉10は、最下段の炉内断面積に対する上側の炉内断面積の比を表4に示すように変更して用いられた。なお表4では、最下段の内面鉛直部17aを1段目、1段目の内面鉛直部17aの次の上側に位置する内面鉛直部17bを2段目として表示した。実施例21~25では、1段目の内面鉛直部17aでの焙焼温度は400℃、2段目の内面鉛直部17bでの焙焼温度は900℃である。実施例26~30では、1段目、2段目の内面鉛直部17a、17bでの焙焼温度はどちらとも900℃である。
【0084】
投入原料の重量は、全て同一とし、焙焼温度以外の焙焼条件は全て同一条件とした。具体的には、焙焼時間は20分とし、流動用ガスには空気が用いられた。所定の焙焼後炉を冷却し、炉内の被焙焼物を回収した。
【0085】
<評価>
実施例21~30のそれぞれの処理において、焙焼により得られた試料の回収率(すなわち実収率)、回収した試料中における酸化ニッケルの含有量、および、回収した試料中における硫黄の含有量が評価された。表4に、測定結果を示す。なお、評価方法は実験1と同じである。
【0086】
【0087】
表4に示すように、1段目の焙焼温度を低くした実施例21~25は、同じ焙焼温度であった実施例26~30と比較して、良好な結果が得られた。すなわち、実施例21~25では、同じ断面積比である実施例で比較すると、回収率は全て高い値を示し、その回収物中における酸化ニッケルの含有割合もすべて高い割合を示した。また、同じ断面積比で比較すると硫黄品位も実施例21~25は低い値を示した。
【0088】
(実験4)(複数の焙焼温度設定の検証、原料:銅精鉱)
<原料>
焙焼対象の原料(被焙焼物)32として、上記実験2の表2に示した組成の銅精鉱を原料に用いた。
【0089】
<流動焙焼処理>
実験4では
図1に示す第1実施形態に係る流動焙焼炉10が用いられた。この焙焼炉により、原料の銅精鉱が焙焼された。
【0090】
具体的に、第1実施形態の流動焙焼炉10は、最下段の炉内断面積に対する上側の炉内断面積の比を表5に示すように変更して用いられた。なお表5では、最下段の内面鉛直部17aを1段目、1段目の内面鉛直部17aの次の上側に位置する内面鉛直部17bを2段目として表示した。実施例31~35では、1段目の内面鉛直部17aでの焙焼温度は200℃、2段目の内面鉛直部17bでの焙焼温度は900℃である。実施例36~40では、1段目、2段目の内面鉛直部17a、17bでの焙焼温度はどちらとも900℃である。
【0091】
投入原料の重量は、全て同一とし、焙焼温度以外の焙焼条件は全て同一条件とした。具体的には焙焼時間は4.0時間とし、流動用ガスには窒素が用いられた。焙焼終了後、炉を冷却し炉内の試料を回収した。
【0092】
<評価>
実施例31~40のそれぞれの処理において、フィルターで捕集された試料の回収率(飛散率)と銅精鉱中の砒素含有量について評価された。表5に、測定結果を示す。なお、評価方法は実験2と同じである。
【0093】
【0094】
表5に示すように、1段目の焙焼温度を低くした実施例31~36は、同じ焙焼温度であった実施例36~40と比較して、良好な結果が得られた。すなわち、実施例31~35では、同じ断面積比である実施例で比較すると、フィルターでの回収率は低い値を示した。
【符号の説明】
【0095】
10 流動焙焼炉
11 筒状炉心部
17 内面鉛直部