(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】感温性樹脂および感温性粘着剤
(51)【国際特許分類】
C08F 220/30 20060101AFI20220324BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20220324BHJP
C09J 9/00 20060101ALI20220324BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20220324BHJP
【FI】
C08F220/30
C09J133/04
C09J9/00
C09J7/35
(21)【出願番号】P 2017168307
(22)【出願日】2017-09-01
【審査請求日】2020-05-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【氏名又は名称】深井 敏和
(72)【発明者】
【氏名】山口 聡士
(72)【発明者】
【氏名】南地 実
(72)【発明者】
【氏名】河原 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕人
(72)【発明者】
【氏名】中西 竜
【審査官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-249355(JP,A)
【文献】特開2012-077299(JP,A)
【文献】特開2016-196544(JP,A)
【文献】国際公開第2013/180196(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/188840(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00 - 220/70
C09J 1/00 - 5/10
C09J 9/00 - 201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系モノマーと下記式(II)で表されるメソゲン基を有するモノマーとの共重合体であり、該共重合体を構成しているモノマー成分中に、前記アクリル系モノマーが20~80質量%、前記メソゲン基を有するモノマーが20~80質量%の割合で含まれ、
前記アクリル系モノマーが、(メタ)アクリル酸、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、炭素数1~4のフッ化炭素鎖を含むアクリル酸エステルおよびシロキサン鎖を含むアクリル酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種のアクリル系モノマーであり、
100000~700000の重量平均分子量を有しており、
ガラス転移点未満の温度で弾性の上昇および粘性の低下を生じ、かつガラス転移点以上の温度で流動性を示し、ガラス転移点が0℃以上である、
アクリル系感温性樹脂。
【化1】
式(II)中、Xは水素原子、シアノ基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、フェニル基、フッ素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。Rは水素原子またはメチル基を示す。nは1~20の整数を示す。
【請求項2】
請求項1に記載のアクリル系感温性樹脂を含有し、該樹脂のガラス転移点未満の温度で粘着力が低下する、感温性粘着剤。
【請求項3】
請求項2に記載の感温性粘着剤を含む、感温性粘着シート。
【請求項4】
請求項2に記載の感温性粘着剤を含む粘着剤層が、基材の少なくとも一方の面に積層された、感温性粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温性樹脂および感温性粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に示す感温性を有する感温性樹脂が知られている(例えば、特許文献1)。このような感温性樹脂は粘着剤として使用されることが多い。例えば、「クールオフタイプ」の粘着剤は、高温環境下で固着して低温環境下で剥離することができる。そのため、このような「クールオフタイプ」の粘着剤は、高温環境下での作業に使用されることを考慮すると、「クールオフタイプ」の粘着剤には優れた耐熱性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、優れた耐熱性を有し、高温環境下に曝した後でも冷却すれば容易に剥離することができる感温性樹脂、およびこの感温性樹脂を含有する感温性粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)側鎖としてメソゲン基を含み、100000~700000の重量平均分子量を有しており、ガラス転移点未満の温度で弾性の上昇および粘性の低下を生じ、かつガラス転移点以上の温度で流動性を示すアクリル系感温性樹脂。
(2)メソゲン基が、下記式(I)で表される構造を有している上記(1)に記載のアクリル系感温性樹脂。
【化1】
式(I)中、Xは水素原子、シアノ基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、フェニル基、フッ素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。nは1~20の整数を示す。
(3)ガラス転移点が0℃以上である、(1)または(2)に記載のアクリル系感温性樹脂。
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載のアクリル系感温性樹脂を含有し、該樹脂のガラス転移点未満の温度で粘着力が低下する、感温性粘着剤。
(5)ガラス転移点が0℃以上である、上記(4)に記載の感温性粘着剤。
(6)上記(4)または(5)に記載の感温性粘着剤を含む、感温性粘着シート。
(7)上記(4)または(5)に記載の感温性粘着剤を含む粘着剤層が、基材の少なくとも一方の面に積層された、感温性粘着テープ。
【発明の効果】
【0006】
本発明のアクリル系感温性樹脂は、優れた耐熱性を有し、高温環境下に曝した後でも冷却すれば容易に剥離することができる。このようなアクリル系感温性樹脂は、感温性粘着剤、感温性粘着シート、感温性粘着テープなどの原料として好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<感温性樹脂>
本発明の一実施形態に係るアクリル系感温性樹脂について詳細に説明する。一実施形態に係るアクリル系感温性樹脂(以下、単に「感温性樹脂」と記載する場合がある)は、側鎖としてメソゲン基を含む。メソゲン基とは、液晶性発現に寄与する剛直で配向性の高い基を意味する。一実施形態に係る感温性樹脂の側鎖に含まれるメソゲン基は特に限定されず、好ましくは、下記式(I)で表される構造を有するメソゲン基が挙げられる。
【0008】
【0009】
式(I)中、Xは水素原子、シアノ基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、フェニル基、フッ素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基などが挙げられる。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基などが挙げられる。これらの中でも、水素原子またはシアノ基が好ましい。さらに、nは1~20の整数を示し、好ましくはnは4~12の整数を示す。式(I)で表されるメソゲン基を含んでいると、他のメソゲン基の場合に比べて、ラジカル重合によって10万以上の重量平均分子量を有する樹脂を、90%以上の反応率で容易に重合しやすく、かつより優れた耐熱性および高温暴露後の剥離性が発揮される。
【0010】
一実施形態に係る感温性樹脂は、主鎖にアクリル骨格を有していれば特に限定されず、例えば、アクリル系モノマーとメソゲン基を有するモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0011】
アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。本明細書において「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニルなどのような炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸-2,2,2-トリフルオロエチルなどのような炭素数1~4のフッ化炭素鎖を含むアクリル酸エステル、シロキサン鎖を含むアクリル酸エステルが挙げられる。これらの中でも、100℃以上の雰囲気下でより高い粘着力を保持できる点と、250℃以上のような高温雰囲気下での暴露後にもより優れた低温剥離性を発揮し得る点で、アクリル酸メチルまたはアクリル酸が好ましい。これらのアクリル系モノマーは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
メソゲン基を有するモノマーはアクリル系モノマーと共重合し得るモノマーであれば、特に限定されない。このようなメソゲン基を有するモノマーとしては、例えば、分子内にビニル基やアリル基などの重合性官能基とメソゲン基とを含むモノマーが挙げられる。具体的には、下記式(II)で表されるモノマーなどが挙げられる。
【0013】
【0014】
式(II)において、Xおよびnは、上記の式(I)で説明したとおりである。Rは、水素原子またはメチル基を表す。式(II)で表される化合物の一例を、下記式(II)’~(II)’’’に示す。メソゲン基を有するモノマーは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
【0016】
アクリル系モノマーおよびメソゲン基を有するモノマー以外に、これらと共重合可能な他のモノマーを用いてもよい。このような他のモノマーとしては特に限定されず、例えば、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシル基を有するモノマー;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基を有するモノマーなどが挙げられる。
【0017】
これらのモノマーを用いて一実施形態に係る感温性樹脂を合成する場合、各モノマーの割合は特に限定されない。アクリル系モノマーは、モノマー成分中に、好ましくは20~80質量%、より好ましくは25~75質量%の割合で含まれる。メソゲン基を有するモノマーは、モノマー成分中に、好ましくは20~80質量%、より好ましくは25~75質量%の割合で含まれる。その他のモノマーは、モノマー成分中に、好ましくは1~20質量%程度となるように、必要に応じて添加すればよい。
【0018】
モノマー成分の重合方法としては特に限定されず、例えば溶液重合法、塊状重合法、縣濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。例えば、溶液重合法を採用する場合、モノマー成分と溶媒とを混合し、必要に応じて重合開始剤や連鎖移動剤を添加して、撹拌しながら40~90℃程度で1~24時間程度反応させればよい。
【0019】
一実施形態に係る感温性樹脂は、100000~700000の重量平均分子量を有している。「重量平均分子量」は、感温性樹脂をゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。重量平均分子量が100000未満の場合、80℃を超えるような雰囲気下において凝集破壊が生じ、容易に剥離することができない。さらに、100℃以上のような高温雰囲気下では、粘着力が乏しくなる。一方、重量平均分子量が700000を超える場合、重合により得られた樹脂が分子間での物理架橋によってゲル化してしまい、工業的にハンドリングが難しくなる。一実施形態に係る感温性樹脂は、好ましくは100000~600000、より好ましくは200000~500000の重量平均分子量を有する。
【0020】
一実施形態に係る感温性樹脂は、ガラス転移に関連してガラス転移点を有する。「ガラス状態」とは、非晶質固体を加熱した際に、低温では流動性がなく結晶並みに硬かった固体が、急速に流動性が増す温度範囲を意味し、示差熱走査熱量計(DSC)によって、10℃/分の条件で測定して得られる変曲点の値を意味する。一実施形態に係る感温性樹脂は、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上のガラス転移点を有し、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下のガラス転移点を有する。
【0021】
一実施形態に係る感温性樹脂は、ガラス転移点の温度未満で弾性の上昇および粘性の低下を生じ、かつガラス転移点以上で流動性を示す。すなわち、一実施形態に係る感温性樹脂は、温度変化に対応してガラス状態と流動状態とを可逆的に示す感温性を有する。
【0022】
<感温性粘着剤>
次に、本発明の一実施形態に係る感温性粘着剤について詳細に説明する。一実施形態に係る感温性粘着剤は、上述の一実施形態に係る感温性樹脂を含有し、感温性樹脂のガラス転移点未満の温度で粘着力が低下する。そのため、被着体から感温性粘着剤を剥離する場合、感温性粘着剤を感温性樹脂のガラス転移点未満の温度に冷却すると、感温性樹脂がガラス状態になって粘着力が低下する。一方、感温性粘着剤を感温性樹脂のガラス転移点以上の温度に加温すると、感温性樹脂が流動性を示すことによって粘着力が回復する。その結果、一実施形態に係る感温性粘着剤は繰り返し使用することができる。
【0023】
一実施形態に係る感温性粘着剤は、例えば、被着体に直接塗布してもよく、基材レスのシート状の形態で使用してもよく、使用形態は特に限定されない。例えば、一実施形態に係る感温性粘着剤を感温性粘着シートとして使用する場合、感温性粘着シートの厚みは、好ましくは10~500μm、より好ましくは10~200μmである。
【0024】
一実施形態に係る感温性粘着剤は、テープ状の形態で使用してもよい。一実施形態に係る感温性粘着剤を感温性粘着テープとして使用する場合、一実施形態に係る感温性粘着剤を含む粘着剤層が、基材の少なくとも一方の面に積層される。基材は好ましくはフィルム状であり、フィルム状にはシート状も包含される。
【0025】
基材の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルエーテルケトンなどの合成樹脂が挙げられる。
【0026】
基材は単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。基材は、通常5~500μm程度の厚みを有する。さらに、基材には、粘着剤層に対する密着性を高める目的で、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理、シリコーン処理などの表面処理が施されていてもよい。
【0027】
基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を積層する方法は、特に限定されない。例えば、感温性粘着剤に溶剤を加えた塗布液を、コーターなどのアプリケーターを用いて基材の片面または両面に塗布して乾燥する方法などが挙げられる。コーターとしては、例えば、ナイフコーター、ロールコーター、カレンダーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ロッドコーターなどが挙げられる。
【0028】
粘着剤層は、好ましくは1~100μm、より好ましくは5~80μm、さらに好ましくは10~60μmの厚みを有する。基材の両面に粘着剤層を積層させる場合、粘着剤層の厚みは同じでもよく、異なっていてもよく、粘着剤層を形成している感温性粘着剤の組成も同じでもよく、異なっていてもよい。
【0029】
さらに、基材の一方の面に一実施形態に係る感温性粘着剤を含む粘着剤が積層されていれば、他方の面には、別の粘着剤層が積層されていてもよい。例えば、感圧性接着剤を含む接着剤層が他方の面に積層されていてもよい。感圧性接着剤は、粘着性を有するポリマーを含む。このような粘着性を有するポリマーとしては、例えば、天然ゴム接着剤、合成ゴム接着剤、スチレン/ブタジエンラテックスベース接着剤、アクリル系接着剤などが挙げられる。
【0030】
本実施形態の感温性粘着シートおよび感温性粘着テープの表面には、離型フィルムを積層するのが好ましい。離型フィルムとしては、例えば、フロロシリコーンのような離型剤が表面に塗布されたポリエチレンテレフタレート製フィルム(PET製フィルム)などが挙げられる。
【0031】
以上のように、一実施形態に係る感温性樹脂は、優れた耐熱性を有し、高温環境下に曝した後でも冷却すれば容易に剥離することができる。一実施形態に係る感温性樹脂は、例えば、高温環境下の作業が必要な分野において、例えば固定して何らかの作業を行う場合の仮固定用粘着剤などとして好適に使用される。
【実施例】
【0032】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
(合成例1:メソゲン基含有モノマーの合成)
下記式(III)に示すように、4-シアノ-4’-ヒドロキシビフェニル(a)を10g(0.0512mol)、11-ブロモ-1-ウンデカノール(b)を15.48g(0.0614mol)、炭酸カリウムを14.15g(0.1024mol)、および300mLの乾燥させたジメチルホルムアミド(dryDMF)を500mLのナスフラスコに添加した。ナスフラスコに塩化カルシウム管を取り付け、85℃で48時間撹拌した。撹拌後、6000mLの純水に反応混合物を添加し、白色沈殿物を吸引ろ過によって回収した。得られた白色沈殿物を一晩風乾して三角フラスコに添加し、400mLのメタノールを添加して再結晶によって精製した。析出物を吸引ろ過によって回収し、70℃で3時間加熱減圧乾燥を行い、13.1gの化合物(c)を得た。
【0034】
【0035】
次いで、下記式(IV)に示すように、式(III)で得られた化合物(c)を13g(0.0356mol)秤量して4つ口フラスコに入れ、フラスコ内をアルゴンで置換した。次いで、200mLの乾燥させたジメチルホルムアミド(dryDMF)を添加して化合物(c)を溶解させ、トリエチルアミン(TEA)を3.962g(0.0392mol)添加した。フラスコを氷浴で冷却しながら、水素化ナトリウム(NaH、60% in oil)を1.566g(0.0392mol)添加すると、溶液が無色透明から黄色に変化した。その後、3.869g(0.0427mol)の塩化アクリル(d)を20mLのdryDMFで希釈し、10分かけてフラスコ内に滴下した。溶液は薄いオレンジ色に変化していた。フラスコを氷浴から取り出し、室温で24時間撹拌した。撹拌後、吸引ろ過によってトリエチルアミン塩酸塩を除去した。4000mLの純水にろ液を添加し、析出した沈殿物を吸引ろ過によって回収した。100℃で3時間加熱減圧乾燥を行い、10.4gの化合物(e)を得た。
【0036】
【0037】
(実施例1)
セパラブルフラスコに、合成例1で得られた化合物(e)4g(45質量%)と、アクリル酸メチル4.44g(50質量%)と、アクリル酸0.44g(5質量%)と、クロロベンゼン17.73gを添加し、撹拌して溶解させた。フラスコに、窒素導入管、ジムロート冷却器および温度計を取り付けた。フラスコ内の温度が60℃となるようにオイルバスで加熱して、30分程度窒素バブリングを行った。次いで、0.089gのアゾイソブチロニトリル(AIBN)を3gのクロロベンゼンに溶解させて、フラスコに添加し重合を開始した。1時間程度重合させると、反応混合物の粘度が上昇していることを確認できた。GPCによって、重合開始から20時間後に反応率が90%を超えていることが確認できたため重合を終了した。反応混合物をエタノールに添加して、析出物をデカンテーションによって回収した。回収した析出物をエタノールで数回洗浄して、70℃で3時間加熱減圧乾燥を行い、6.05gの感温性樹脂を得た。GPCで測定すると、得られた感温性樹脂は、250000の重量平均分子量を有していた。DSCで測定したガラス転移点は、約30℃だった。
【0038】
得られた感温性樹脂100質量部に対して、架橋剤としてアルミニウムアセチルアセトネートを1質量部の割合で添加して混合物を得た。得られた混合物をクロロベンゼンに溶解させて、樹脂溶液を調製した。樹脂溶液中の固形分は30質量%であった。得られた樹脂溶液を、シリコーン処理PET上にアプリケーターを用いて均一に塗布した。塗布後、130℃で20分間乾燥させて、感温性粘着テープを得た。得られた感温性粘着テープは25μmの厚みを有していた。
【0039】
(実施例2)
合成例1で得られた化合物(e)の代わりに、4-[(6-アクリロイロキシ)ヘキシロキシ]-4’-シアノビフェニルを用いた以外は、基本的に実施例1と同様の手順で感温性樹脂を得た。重合については8時間で終了した。各成分の使用量については、実施例1と同様である。GPCで測定すると、得られた感温性樹脂は、410000の重量平均分子量を有していた。DSCで測定したガラス転移点は、約35℃だった。4-[(6-アクリロイロキシ)ヘキシロキシ]-4’-シアノビフェニルは、11-ブロモ-1-ウンデカノール(b)の代わりに、6-ブロモ-1-ヘキサノールを用いれば、基本的に合成例1と同様の手順で得ることができる。
【0040】
得られた感温性樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の手順で感温性粘着テープを得た。得られた感温性粘着テープは25μmの厚みを有していた。
【0041】
(比較例1)
4-[(6-アクリロイロキシ)ヘキシロキシ]-4’-シアノビフェニルを1.5g(45質量%)、アクリル酸メチル1.67g(50質量%)と、アクリル酸0.167g(5質量%)と、クロロベンゼン10.35gを添加し、撹拌して溶解させた。フラスコに、窒素導入管、ジムロート冷却器および温度計を取り付けた。フラスコ内の温度が80℃となるようにオイルバスで加熱して、30分程度窒素バブリングを行った。次いで、0.034gのAIBNを3gのクロロベンゼンに溶解させて、フラスコに添加し重合を開始した。8時間で重合を終了した。反応混合物をエタノールに添加して、析出物をデカンテーションによって回収した。回収した析出物をエタノールで数回洗浄して、70℃で3時間加熱減圧乾燥を行い、2.30gの感温性樹脂を得た。GPCで測定すると、得られた感温性樹脂は、30000の重量平均分子量を有していた。DSCで測定したガラス転移点は、約32℃だった。
【0042】
得られた樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の手順で感温性粘着テープを得た。得られた感温性粘着テープは25μmの厚みを有していた。
【0043】
(比較例2)
実施例1で得られた感温性樹脂の代わりに、アクリル骨格含有感温性樹脂からなる感温性樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の手順で感温性粘着テープを得た。得られた感温性粘着テープは25μmの厚みを有していた。アクリル骨格含有感温性樹脂のモノマー組成、融点および重量平均分子量は、下記のとおりである。
モノマー組成:ベヘニルアクリレート/メチルアクリレート/アクリル酸=45質量部/50質量部/5質量部
融点:約55℃
重量平均分子量:540000
【0044】
実施例1および2で得られた感温性粘着テープならびに比較例1および2で得られた感温性粘着テープを用いて剥離試験を行った。具体的には、ポリイミドに対する180°剥離強度をJIS Z0237に準拠し、感温性粘着テープを無アルカリガラスに貼着した後、ロードセルを用いて300mm/分の速度で180°剥離することによって測定した。結果を表1に示す。
【0045】
(80℃)
80℃雰囲気下で感温性粘着テープを無アルカリガラスに貼着して、PETフィルムを剥離した。その後、短冊状ポリイミドフィルム(厚み25μmおよび幅25mm)を貼着して80℃で15分間静置し、180°剥離した。
【0046】
(150℃)
80℃雰囲気下で感温性粘着テープを無アルカリガラスに貼着して、PETフィルムを剥離した。その後、短冊状ポリイミドフィルムを貼着して150℃で15分間静置し、180°剥離した。
【0047】
(200℃)
80℃雰囲気下で感温性粘着テープを無アルカリガラスに貼着して、PETフィルムを剥離した。その後、短冊状ポリイミドフィルムを貼着して200℃で15分間静置し、180°剥離した。
【0048】
(250℃)
80℃雰囲気下で感温性粘着テープを無アルカリガラスに貼着して、PETフィルムを剥離した。その後、短冊状ポリイミドフィルムを貼着して250℃で15分間静置し、180°剥離した。
【0049】
(250℃→23℃)
80℃雰囲気下で感温性粘着テープを無アルカリガラスに貼着して、PETフィルムを剥離した。その後、短冊状ポリイミドフィルムを貼着して250℃で2時間静置した。次いで、23℃まで冷却して20分間静置した後、180°剥離した。
【0050】
【0051】
表1に示すように、実施例1および2で得られた感温性粘着テープは、100℃以上の雰囲気下でも十分な粘着力を発揮していることがわかる。さらに、実施例1および2で得られた感温性粘着テープは、250℃の高温環境下に曝した後であっても、室温まで冷却すると0.5N/25mm以下の弱い力でも容易に剥離することができた。いずれの温度においても、凝集破壊は生じず、界面剥離によって剥離することができた。
【0052】
一方、比較例1で得られた感温性粘着テープは、いずれの温度においても凝集破壊が生じ、容易に剥離することができなかった。さらに、100℃以上の雰囲気下では粘着力が乏しかった。比較例2で得られた感温性粘着テープは、250℃で静置した後に23℃まで冷却して剥離すると、ジッピングを伴った。さらに、剥離強度のピーク値も1N/25mmを超え、容易に剥離することができなかった。