(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】せん断力試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/24 20060101AFI20220324BHJP
【FI】
G01N3/24
(21)【出願番号】P 2017166282
(22)【出願日】2017-08-30
【審査請求日】2020-08-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年 7月20日 発行の日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)2017年8月 第365-366頁(一般社団法人 日本建築学会) で公開
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(73)【特許権者】
【識別番号】508284850
【氏名又は名称】株式会社トラスト
(74)【代理人】
【識別番号】100129986
【氏名又は名称】森田 拓生
(72)【発明者】
【氏名】小林 克巳
(72)【発明者】
【氏名】谷口 博司
(72)【発明者】
【氏名】河辺 弘三
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-283224(JP,A)
【文献】特開2010-230542(JP,A)
【文献】特開平10-197427(JP,A)
【文献】特開2010-117210(JP,A)
【文献】特開2002-082030(JP,A)
【文献】米国特許第06216531(US,B1)
【文献】米国特許第04995262(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 - 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離間して対向配置した第1のブロック状本体と第2のブロック状本体を、正面視方向にてそれぞれ左右に見たとき、
第1のブロック状本体の正面寄り位置及び背面寄り位置から、一対の第1のサイドパネルが一方向側へ平行突出してなる第1ブロック体と、
第2のブロック状本体の正面寄り位置及び背面寄り位置から、一対の第2のサイドパネルが他方向側へ平行突出してなる第2ブロック体とが、
第1ブロック体、第2ブロック体の各正面寄り位置及び背面寄り位置の夫々にて、前記第1、第2の各サイドパネル同士が正面視左右方向である所定の対向方向へ対向して接触するように組み合わされることで、
各ブロック状本体の間に、
第1のブロック状本体の内側面と、正面寄り位置で対向接触した第1及び第2の各サイドパネルと、第2のブロック状本体の内側面と、背面寄り位置で対向接触した第1及び第2の各サイドパネルとによって囲われた対向空間を形成してなるせん断力試験装置であって、
前記対向空間に配置され、第1ブロック体と第2ブロック体の各ブロック状本体を相互に離反させる方向に加力する離反加力部材と、
前記離反加力部材による加力又は前記加力による反力の大きさを検知し得る検知器と、
第1ブロック体のブロック体の他方向側の外側面、及び、第2ブロック体のブロック体の一方向側の外側面に夫々設けられた、縦方向のアンカー筋を拘束するアンカー筋拘束部とを具備してなり、
第1ブロック体及び第2ブロック体の前記各サイドパネルは、それぞれ上下の接触面同士が互いに面接触して嵌合すると共に、
第1ブロック体と第2ブロック体とが前記離反加力部材によって加力されたとき、上下の接触面同士が互いに面接触して嵌合したまま相互にスライド移動することを特徴とする、せん断力試験装置。
【請求項2】
離間して対向配置した第1のブロック状本体と第2のブロック状本体を、正面視方向にてそれぞれ左右に見たとき、
第1のブロック状本体の正面寄り位置及び背面寄り位置から、一対の第1のサイドパネルが一方向側へ平行突出してなる第1ブロック体と、
第2のブロック状本体の正面寄り位置及び背面寄り位置から、一対の第2のサイドパネルが他方向側へ平行突出してなる第2ブロック体とが、
第1ブロック体、第2ブロック体の各正面寄り位置及び背面寄り位置の夫々にて、前記第1、第2の各サイドパネル同士が正面視左右方向である所定の対向方向へ対向して接触するように組み合わされることで、
各ブロック状本体の間に、
第1のブロック状本体の内側面と、各ブロック状本体の正面寄り位置で組み合わされた第1及び第2の各サイドパネルと、第2のブロック状本体の内側面と、各ブロック状本体の背面寄り位置で組み合わされた第1及び第2の各サイドパネルとによって囲われた対向空間対向空間を形成し、
対向空間内であって前記第1ブロック体又は前記第2ブロック体いずれか一方寄りの固定部に、離反加力部材を前記一方向ないし他方向へ離反加力可能に固定し、
前記対向空間内であって前記固定された離反加力部材の離反加力方向の先側又はその基側の少なくともいずれかに、離反加力部材と第1ブロック体、第2ブロック体のそれぞれとの間に生じる、一方向ないし他方向の挟圧力を検知し得る検知器を固定し、
第1ブロック体の他方向側の外側面、及び、第2ブロック体の一方向側の外側面に夫々、縦方向のアンカー筋を拘束するアンカー筋拘束部を有してなり、
前記第1ブロック体及び前記第2ブロック体を、コンクリート内に埋設固定した一対の縦方向のアンカー筋の間に配置し、
前記第1ブロック体及び前記第2ブロック体夫々の外面のアンカー筋拘束部によって一対のアンカー筋夫々を拘束して、
前記第1ブロック体及び前記第2ブロック体をコンクリート面から所定量だけ浮かせて設置した設置状態とし、
この設置状態で、前記離反加力部材によって前記第1,第2ブロック体をそれぞれ他側方及び一側方へ離反加力し、この離反加力時の離反加力部材と前記第1,第2ブロック体1,2との間に発生する挟圧力を検知することを特徴とする、せん断力試験装置。
【請求項3】
前記第1ブロック体又は前記第2ブロック体のいずれか一方のサイドパネルが、断面視凹状の嵌合凹部を片面に有した板状片からなり、
前記第1ブロック体又は前記第2ブロック体のいずれか他方のサイドパネルが前記嵌合凹部内の少なくとも上下の接触面に摺動接触可能に嵌合収容される嵌合凸片からなり、
前記嵌合凹部内の上下の接触面、並びに嵌合凸片の上下の外周面が、静摩擦力ないし動摩擦力を低減させる摩擦低減加工を施されてなり、当該摩擦低減加工を施された接触面同士が面接触したままスライド滑動する、請求項1又は2に記載のせん断力試験装置。
【請求項4】
前記第1ブロック体及び前記第2ブロック体は、ブロック状本体の手前側及び奥側の位
置から左右のサイドパネルが側方へ並行に突出してなり、さらに、
前記第1ブロック体1の左右のサイドパネル
、又は前記第2ブロック体2の左右のサイドパネル
、のいずれかの組における、各サイドパネルの少なくとも下辺寄りの一又は複数個所には、左右のサイドパネル同士を繋いで左右のパネル間隔を一定の間隔に保つ間隔保持具が固定される、請求項1ないし3のいずれかに記載のせん断力試験装置。
【請求項5】
各ブロック状本体には、水平変位計の接触子或いは測定線を当てることで水平変位を測定可能な変位計当て部が設けられ、
前記設置状態で、各変位計当て部に水平変位計を押し当てることで、前記離反加力したときのブロック状本体の変位量を、前記検知器による検知と共に計測する、請求項1ないし3のいずれか記載のせん断力試験装置。
【請求項6】
前記アンカー筋拘束具は、前記第1ブロック体のブロック状本体、及び、前記第2ブロック体のブロック状本体の各外側面から外方突出した突出ブロックと、前記突出ブロックの突出先に対向してその対向距離を調節可能に取り付けられる拘束板と、から構成され、
前記離反加力部材の加力中心線上であって、かつ、前記突出ブロック及び前記拘束板の各対向面の対応位置には夫々、断面形状の異なる、縦方向の拘束溝が対向して形成され、
前記断面形状の異なる拘束溝が対向し、縦方向のアンカー筋
の一側方及び他側方を挟み込んで拘束する、請求項1ないし5のいずれか記載のせん断力試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断力試験装置に関し、特に、土木工事、建築工事におけるあと施工アンカーの設計、品質管理、施工管理において用いることのできる、あと施工アンカーのせん断力試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
あと施工アンカーの設計、品質管理ないし施工管理のためには、施工現場で対象となる構造物ごとにせん断力伝達を行ってせん断力試験を行うことが望ましい。このようなせん断力試験装置として種々のものが従来から開発・提案されている。
【0003】
従来技術として、例えば、特許文献1には、アンカーのせん断試験を工事現場で簡便に実施することが可能なアンカー用せん断試験機を提供するために、躯体表面に沿って配設される本体部及びこの本体部から躯体表面に垂直な方向に突設された突出部を有して前記本体部がアンカーの躯体表面から露出した露出部に着脱可能に連結することが可能になっている支圧板と、固定アンカーによって躯体表面に着脱可能に固定される反力台と、反力台上に載置されると共に反力台に反力を取って支圧板の突出部に対して躯体表面に沿った駆動力を付与する駆動源と、駆動源による荷重を測定する荷重測定器とを備えるアンカー用せん断試験機が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、既存コンクリート建造物の補強法として、あと施工アンカーを介して、その柱や壁等に補強体を接合するために、そのアンカーと既設コンクリートとの剪断方向支持能力を合理的に検定する検定機の提供するために、コンクリートにアンカーを埋設固定し、そのアンカーと基準ピースの一端部とを連結部材により連結し且つ、基準ピースの他端部に引張機構を取付ける。そして、引張機構により基準ピースをコンクリート表面と平行な方向に引っ張ったとき、基準ピースの塑性変形とアンカーの固定部のコンクリート破壊状態とを比較することにより、アンカーとコンクリートとの剪断方向の外力支持能力を検定することが開示されている。
【0005】
さらに特許文献3には、被測定軸に取り付ける際にひずみゲージを傷つけてしまうおそれをなくすことができる加圧力検出装置を提供するために、被測定軸に加わる圧力を検出するセンサと、前記センサを前記被測定軸に取り付ける被測定軸取付部材とを有する加圧力検出装置において、前記被測定軸取付部材によって前記センサを前記被測定軸に取り付けたときに、該センサを、前記被測定軸に加わる圧力を検出する測定位置及び前記被測定軸に触れない保護位置のどちらかに配置するセンサ配置部材を備えたことを特徴とする。また本発明は、前記センサ配置部材が、前記センサを前記保護位置に保持するよう付勢する保護位置用弾性部材を備えることを特徴とする。また本発明は、前記センサ配置部材が、前記センサを前記測定位置に保持するボルトと、前記測定位置にある前記センサを所定の圧力で前記被測定軸に押し付ける測定押圧用弾性部材を備えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4430445号公報
【文献】特許第3766915号公報
【文献】特許第5394790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来文献として開示されるせん断力試験機は、反力ブロックをアンカーで固定して反力を発生させるものであり、アンカー頭部の回転変形量が不明瞭であると共に、コンクリート間における実際の変形状態と異なるため、コンクリート境界条件(すなわち、アンカーが施工されているコンクリート境界面を挟む両側のアンカーとコンクリート間の境界条件)が実際と一致せず、一定の精度を確保しながらせん断力試験を行うことができなかった。また、施工現場での設置が容易ではなく、またさらに、コンクリート表面に不陸(凸凹を有し、平らでない状態)があると使用しにくいという課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、せん断力加力時のコンクリート境界条件(すなわち、アンカーが施工されているコンクリート境界面を挟む両側のアンカーとコンクリート間の境界条件)を実際の施工条件とほぼ一致させた状態として一定の精度を確保しながらせん断力試験を行うことができるせん断力試験装置を提供することを目的とする。また、施工現場で簡便に設置することができるせん断力試験装置を提供することを目的とする。さらに、コンクリート表面に不陸(凸凹を有し、平らでない状態)がある場合でも設置できるせん断力試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決すべく、本発明に係るせん断力試験装置は、
ブロック状本体の一方向側にサイドパネルが側方突出した第1ブロック体と、
ブロック状本体の他方向側にサイドパネルが側方突出した第2ブロック体とを、
各サイドパネルが対向して上下の接触面で嵌合接触するように組み合わせることで、各ブロック状本体の間に対向空間を形成してなるせん断力試験装置であって、
前記対向空間に配置され、第1ブロック体と第2ブロック体の各ブロック状本体を相互に離反させる方向に加力する離反加力部材(シリンダ式のジャッキ)と、
前記離反加力部材による加力又は前記加力による反力の大きさを検知し得る検知器と、
第1ブロック体のブロック体の他方向側の外側面、及び、第2ブロック体のブロック体の一方向側の外側面に夫々設けられた、縦方向のアンカー筋を拘束するアンカー筋拘束部とを具備してなり、
第1ブロック体及び第2ブロック体の前記各サイドパネルは、それぞれ上下の接触面同士が互いに面接触して嵌合すると共に、
第1ブロック体と第2ブロック体とが前記離反加力部材によって加力されたとき、上下の接触面同士が互いに面接触して嵌合したまま相互にスライド移動することを特徴とする。
【0010】
本発明のせん断力試験装置は、コンクリート内に下端埋設されると共にコンクリート上に上端突出した縦方向の2本のアンカー筋を備えたコンクリート体を試験体とする。この試験体の2本のアンカー筋それぞれの間に本発明のせん断力試験装置を配置し、各アンカー筋にアンカー筋拘束具によってせん断力試験装置を拘束して設置した設置状態として、各ブロック状本体が離反するように加力し、このときの加力又はこれによる反力を検知することで、2本のアンカー筋のせん断抵抗力(コンクリート体埋設による構造物のせん断方向の拘束力)を検知する。
【0011】
このような試験状態は、上下の構造物(コンクリート、モルタル、無収縮グラウト材等)の間を亘って縦方向に埋設された2本のアンカー筋がせん断力を受けた状態に相当する。上下の構造物の間を亘る2本のアンカー筋は、回転拘束を受けながらせん断力を受けるところ、上方の構造物のみを本発明のせん断力試験装置に置き換えて離反力を生じさせることで、同様のせん断力の伝達状態を再現している。
【0012】
なお、本発明にいう構造物は、コンクリート、モルタル、無収縮グラウト材等の構造体を意味しており、この構造体の実施形態として、後述の実施例ではコンクリート体CBを用いている。
【0013】
また本発明では、サイドパネルの上下面同士が互いに面接触したまま嵌合状態を保って、ブロック状本体同士が平行にスライド移動しながら離反する構造となっている。上下面の面接触を保った嵌合状態のままスライド移動するため、サイドパネルの上下面それぞれで上下方向に発生する曲げ戻しの力を相殺することができる。これにより、ブロック体同士が外方へ回転離反することがなく、アンカー筋の両側で回転拘束をした状態でせん断力試験ができるものとなっている。
【0014】
本発明の第2の発明に係るせん断力試験装置の例として、
一方向側に左右のサイドパネル11が平行突出したブロック状本体からなる第1ブロック体1と、他方向側に左右のサイドパネル21が平行突出したブロック状本体からなる第2ブロック体2とを、左右夫々にてサイドパネル11,21同士が一側方及び他側方へ横向きの凹凸嵌合形状で凹凸嵌合接触するように、正面視左右方向である所定の対向方向へ対向させて組み合わせることで、左右のサイドパネル11,21間に対向空間を形成し、
前記対向空間内であって前記第1ブロック体1又は前記第2ブロック体2いずれか一方寄りの固定部に、離反加力部材(例えば、シリンダ式のジャッキ3)を前記一方向ないし他方向へ(例えば、シリンダ式のジャッキ3のジャッキ伸長によって)離反加力可能に固定し、
前記対向空間内であって前記固定された離反加力部材の離反加力方向の先側又はその逆の基側(例えば、シリンダ式のジャッキ3のシリンダ伸長側又は伸長基部側)の少なくともいずれかに、離反加力部材と第1ブロック体、第2ブロック体のそれぞれとの間に生じる、一方向ないし他方向の挟圧力を検知し得る検知器4を固定し、第1ブロック体1の他方向側の外側面、及び、第2ブロック体2の一方向側の外側面に夫々、縦方向のアンカー筋を拘束するアンカー筋拘束部5を有してなり、
前記第1ブロック体1及び前記第2ブロック体2を、コンクリート内に埋設固定した一対の縦方向のアンカー筋Rの間に配置し、前記第1ブロック体1及び前記第2ブロック体2夫々の外面のアンカー筋拘束部5によって一対のアンカー筋夫々を拘束して、前記第1ブロック体1及び前記第2ブロック体2をコンクリート面から所定量だけ浮かせて設置した設置状態とし、この設置状態で対向空間内の前記離反加力部材(ジャッキ3)によって他側方及び一側方へ離反加力することで、拘束した一対のアンカー筋夫々の両側を回転拘束した状態で点対称形に外変形するように離反加力し、この離反加力時の離反加力部材(シリンダ伸長時のジャッキ3)と前記第1,第2ブロック体1,2との間に発生する挟圧力を検知するものとしてもよい。
【0015】
なお、上記構成及び以降の記載においては、例えば
図5に示すような、サイドパネルの一外面を正視する方向を、正面視方向とする。また、第1ブロック体1及び第2ブロック体2夫々の外面を正視する方向を、左右の側面視方向とする。また、例えば
図4に示すような、試験対象となるコンクリートの上面、及びこの上面から突出するアンカー筋の突出方向を正視する方向を平面視方向とする。
【0016】
上記構成によれば、第1ブロック体1及び第2ブロック体2夫々の外面のアンカー筋拘束部5によって一対のアンカー筋夫々を拘束して、第1ブロック体1及び第2ブロック体2をコンクリート面から所定量だけ浮かせて設置した設置状態とし、この設置状態で第1ブロック体1及び第2ブロック体2の左右のサイドパネル11,21間に形成される対向空間内のジャッキ3を対向方向へ伸長させて、第1,第2ブロック体1,2でアンカー筋夫々の両側を回転拘束した状態で点対称形に外変形するように離反加力し、この外変形状態のジャッキ3と第1,第2ブロック体1,2との間に発生する挟圧力を検知している。
【0017】
このため、せん断力加力時のコンクリート境界条件を実際の施工条件とほぼ一致させた状態として一定の精度を確保しながらせん断力試験を行うことができる。また、施工現場で簡便に設置することができる。さらに、コンクリート表面に不陸(凸凹を有し、平らでない状態)がある場合でも設置できる。
【0018】
第3の発明に係るせん断力試験装置の例として、上記本発明ないし第2の構成において、前記第1ブロック体1又は前記第2ブロック体2のいずれか一方のサイドパネル11/21が、内部上下面を接触面とした断面視凹状の嵌合凹部11Dを片面に有した板状片からなり、
前記第1ブロック体又は前記第2ブロック体のいずれか他方のサイドパネル21/11が、前記嵌合凹部11D内の少なくとも上下の接触面にて摺動接触可能に嵌合収容される、上下外周面を接触面とした嵌合凸片からなり、前記嵌合凹部11D内の上下の接触各内面、並びに嵌合凸片上下端の上下の接触面が、静摩擦力ないし動摩擦力を低減させる摩擦低減加工を施されてなり、当該摩擦低減加工を施された接触面同士が上下で面接触したまま、サイドパネルの各突出方向(対向する側方向)へスライド滑動することが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、コンクリートに埋設固定された一対の縦方向のアンカー筋間に合わせて、互いに嵌合した第1ブロック体、第2ブロック体の各サイドパネルを、互いに近接ないし離間させる方向へスライド移動させる際に、上下の2つの接触面同士が、摩擦力のほとんどない状態でスライド滑動することとなる。第1ブロック体、第2ブロック体それぞれのサイドパネルの上下の接触面では鉛直方向の曲げ戻し力が発生するところ、嵌合構造の上下の接触面に摩擦低減加工を施すことで、前記曲げ戻し力によるスライド移動への影響を低減することができる。
【0020】
また、摩擦低減加工を施された接触面同士が、嵌合凸片の上下の外周面で平行に面接触したまま対向方向へスライド滑動するので、各ブロック状本体が近接ないし離間する際の摩擦抵抗が大幅に低減され、検知器による離反加力量の検知を確実に行うことができる。
せん断力試験装置の変形を防止して、せん断力加力を確実にアンカー筋へと伝達することができる。このため精度よくせん断力試験を行うことができる。
【0021】
なお、上記第3の発明に係るせん断力試験装置においては、さらに、前記第1ブロック体1又は前記第2ブロック体2のいずれか一方のサイドパネル11/21の片面を覆って嵌合凹部11Dの断面視凹状の開口を塞ぐサイド塞板16を有し、また、
いずれか他方のサイドパネル21/11が前記嵌合凹部11Dの凹部内の接触面及び再度塞板16の内側面に摺動可能に嵌合収容される嵌合凸片からなり、
前記嵌合凹部11D及び前記サイド塞板16の各内面、並びに嵌合凸片の外周面が、面接触する接触面全体に、静摩擦力ないし動摩擦力を低減させる摩擦低減加工を施され、当該摩擦低減加工を施された接触面同士が平行に面接触したまま対向方向へスライド滑動するものとしてもよい。
【0022】
上記構成によれば、第1ブロック体1又は第2ブロック体2のいずれか一方のサイドパネルの片面に断面視凹状の嵌合凹部11Dを有すると共に、当該一方のサイドパネルの片面を覆って嵌合凹部11Dの断面視凹状の開口を塞ぐサイド塞板16を有し、断面視にて凹部の構成面3面とこれを塞ぐサイド塞板の1面とからなる矩形状の4面で、他方の嵌合凸片からなるサイドパネルを嵌合収容することとなる。
【0023】
そして、嵌合凹部11D及びサイド塞板16の各内面、並びに嵌合凸片の外周面が、面接触する接触面全体に、静摩擦力及び動摩擦力を低減するか或いは無くすための摩擦低減加工を施されてなるため、断面矩形の嵌合凸片の外周面全体の4つの接触面同士が面接触したまま各ブロック状本体が近接ないし離間する方向へ滑らかにスライド滑動する。これにより、スライド移動の際の摩擦抵抗が大幅に低減され、検知器による離反加力量の検知を確実に行うことができる。
【0024】
第4の発明に係るせん断力試験装置の例として、上記第1ないし3の発明において、
前記第1ブロック体及び前記第2ブロック体は、ブロック状本体の手前側及び奥側の位置から左右のサイドパネルが側方へ並行に突出してなり、さらに、
前記第1ブロック体1の左右のサイドパネル11、又は前記第2ブロック体2の左右のサイドパネル11,21のいずれかの組における、各サイドパネルの少なくとも下辺寄りの一又は複数個所には、左右のサイドパネル11,21同士を繋いで左右のパネル間隔(対向空間の幅)を一定の間隔(所定間隔)に保つ間隔保持具17が固定されるものとしてもよい。
【0025】
上記構成によれば、左右のサイドパネル11,21同士を繋いで左右のパネル間隔(対向空間の幅)を所定間隔に保つ間隔保持具17が固定されることで、左右のサイドパネル11,21同士の距離を保ったまません断力試験を行うことができ、左右のサイドパネル11,21のパネル間隔の変位によるせん断力試験の精度の低下を防止することができる。結果、精度の高いせん断力試験を行うことができる。
【0026】
なお、上記間隔保持具17は、サイドパネルの上辺端又はその近傍を除く一箇所以上にて固定されていればよい。例えば、サイドパネル内面の上辺寄り及び下辺寄りの複数個所を左右それぞれ棒状体で繋ぐように固定されていてもよい。この場合、左右のサイドパネル間隔の開きを上下位置それぞれで均等に抑制することができる。また他に例えば、サイドパネルの下辺(下面)の複数個所から下方突出してサイドパネル間を跨ぐように固定されていてもよい。この場合、下方の間隔保持具17がサイドパネルの下辺の複数個所から跨いで固定されることで、コンクリート埋設部に近い下辺側における、左右のサイドパネル間隔を一定に保つことができると共に、下辺から突出して跨ぐことで、サイドパネル下辺をコンクリートから所定量だけ浮かせて設置した設置状態を保ちやすいものとなる。
【0027】
第5の発明に係るせん断力試験装置の例として、本発明又は上記第2ないし第4のいずれかの発明において、各アンカー筋拘束具5夫々の外側面の上下端近傍又は中央近傍には、水平変位計の接触子或いは測定線を当てることで水平変位を測定可能な変位計当て部522/523が設けられ、前記設置状態で、各変位計当て部522/523に水平変位計61/62/63の接触子を押し当てるか或いは測定線を当てる(定点照射する)ことで、前記離反加力したときのアンカー筋拘束具5の水平変位量を、各アンカー筋の拘束部それぞれで測定するものとしてもよい。またさらに、前記拘束部それぞれの水平変位量を、検知器4による挟圧力検知の検知量と同期計測するものとしてもよい。
【0028】
上記構成においては例えば、各アンカー筋拘束具5夫々の上下端に取り付けた変位計当て部522に上下の水平変位計61、62それぞれを定的に押し当てるか照射して、第1ブロック体ないし第2ブロック体の各水平変位量を、上下の水平変位計61,62の平均値として算出する。或いは例えば、各アンカー筋拘束具5夫々の高さ方向中央に取り付けた変位計当て部523に中央の水平変位計63を定的に押し当てるか照射して、第1ブロック体ないし第2ブロック体の各水平変位量を計測する。また、離反加力したときの第1ブロック体ないし第2ブロック体の水平変位量を、離反加力したときの検知器4による挟圧力検知の検知量と同期計測することができるよう構成されている。このため、離反加力したときの外変形状態のジャッキ3と第1,第2ブロック体1,2との間に発生する挟圧力に加えて、拘束具5の変位量を検知することができる。
【0029】
第6の発明に係るせん断力試験装置の例として、上記本発明の第1ないし第5のいずれかの発明において、前記アンカー筋拘束具は、前記第1ブロック体のブロック状本体、及び、前記第2ブロック体のブロック状本体の各外側面から外方突出した突出ブロックと、前記突出ブロックの突出先に対向してその対向距離を調節可能に取り付けられる拘束板と、から構成される。また、前記離反加力部材の加力中心線上であって、かつ、前記突出ブロック51及び前記拘束板52の各対向面の対応位置には夫々、断面形状の異なる、縦方向の拘束溝510,520が対向して形成され、
前記断面形状の異なる拘束溝510,520によって、縦方向のアンカー筋Rの一側方及び他側方を挟み込んで拘束するものとしてもよい。
【0030】
ここで、離反加力部材の加力中心線上とは、平面視にて、離反加力部材の加力中心の奥行き方向の位置を仮想したとき、第1ブロック体への加力中心位置と第2ブロック体への加力中心位置とを繋いだ仮想線を言う。上記構成によれば、対向して形成された互いに異なる断面形状の拘束溝によってアンカー筋Rの一側方向及び他側方向を挟んで拘束することで、アンカー筋Rを前記加力中心線上に確実に位置させることができる。つまり、アンカー筋Rを、離反加力部材の水平力の中心線を含む垂直面内に位置するように拘束することができる。
【0031】
特に、前記突出ブロック51及び前記拘束板52夫々の拘束溝510,520は、一方が略円弧状の溝断面からなり、他方が対称な略半多角形状の溝断面からなると共に、各溝面にはアンカー筋Rに係止する複数の凹凸部が溝方向へ連なって連続形成されることが好ましい。
【0032】
上記構成によれば、拘束溝510,520は、一方が略円弧状の溝断面からなり、他方が対称な略半多角形状の溝断面からなることで、左右のアンカー筋Rの伸長方向に施工誤差があった場合でも密着拘束し、左右のアンカー筋Rを、加力部材による加力中心線上の位置に保持拘束することができる。また、各溝面にはアンカー筋Rに係止する複数の凹凸部が縦方向に連続形成されることで、離反加力部材の加力時の、アンカー筋Rの縦方向(伸長方向)のずれを確実に無くすことができる。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、せん断力加力時のコンクリート境界条件を実際の施工条件とほぼ一致させた状態として一定の精度を確保しながらせん断力試験を行うことができるせん断力試験装置を提供することができる。また、施工現場で簡便に設置することができるせん断力試験装置を提供することができる。さらに、コンクリート表面に不陸がある場合でも設置できるせん断力試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】実施形態1に係るせん断力試験装置の、初期状態(S1)における正面上方斜視図である。
【
図2】実施形態1に係るせん断力試験装置のジャッキが伸長した状態(S2)における正面上方斜視図である。
【
図3】実施形態1に係るせん断力試験装置の構造を示す正面上方分解斜視図である。
【
図4】
図1の初期状態(S1)の平面図(a)、及び、
図2のジャッキが伸長した状態(S2)の平面図(b)である。
【
図5】実施形態1に係るせん断力試験装置の設置前の状態を説明する正面図である。
【
図6】実施形態1に係るせん断力試験装置の設置状態を説明する正面図である。
【
図7】
図6の設置状態における各測定点を示す正面図である。
【
図8】
図6の設置状態において第2ブロック体2のサイドパネルに発生するモーメント及び曲げ戻し力P1,P2を説明する正面図である。
【
図9】
図6の設置状態において第1ブロック体1、第2ブロック体2それぞれのサイドパネルに発生する曲げ戻し力P1,P2を説明する説明図である。
【
図11】本発明のせん断力試験装置の対象構造物の、初期状態の概念図(a)及びせん断力加力状態の概念図(b)である。
【
図12】実施形態2に係るせん断力試験装置の正面方向上方斜視図である。
【
図13】実施形態2に係るせん断力試験装置の設置状態を説明する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して実施例に係るせん断力試験装置について説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。また、各構成名称に続けて記載する数字列乃至アルファベット列は、各実施形態の構成の理解のために便宜的に付された符号であり、これによって構成の概念や形状を限定する趣旨ではない。以下に説明する各実施形態に基づき、本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0036】
(実施形態1のせん断力試験装置の構成)
始めに、実施形態1のせん断力試験装置の構成について
図1~
図3を参照して説明する。本発明の実施形態1のせん断力試験装置は、一方向側(
図2の矢印の向き)に左右(一対)のサイドパネル11が平行突出したブロック状本体からなる第1ブロック体1と、他方向側(
図2の矢印と反対の向き)に左右一対のサイドパネル21が平行突出したブロック状本体からなる第2ブロック体2とを備える。
【0037】
第1ブロック体1及び第2ブロック体2は、左右夫々にてサイドパネル11,21同士が一側方及び他側方へ凹凸嵌合するように、正面視左右方向である所定の対向方向へ対向させて組み合わされる。結果、左右のサイドパネル11,21間に対向空間が形成される。そして、この対向空間内には、第1ブロック体1寄りの固定部に、離反加力部材として、油圧シリンダ式のジャッキ3を第2ブロック体2への方向(一方向:
図2の矢印の向き)へジャッキ伸長可能に固定している。なお離反加力部材たるシリンダ式のジャッキ3は、第2ブロック体2寄りの固定部に、第1ブロック体1への方向(他方向:
図2の矢印と反対の向き)へジャッキ伸長可能に固定されるようにしてもよい。また、離反加力部材は、第1ブロック体1及び第2ブロック体2を水平方向に離反させるように加力する離反加力構造体であればよく、例えば、水平方向のスライダー機構を介して離反加力する電動式押圧構造や、モーター式のラックアンドピニオン構造、或いは、油圧式以外のエアージャッキ構造からなるものでもよい。
【0038】
また、対向空間内には、固定された離反加力部材たるジャッキ3のジャッキの伸長側に、第2ブロック体2方向(一方向)の挟圧力を検知し得る検知器4が固定されている。なお他の構成として、対向空間内であって、固定されたジャッキ3のジャッキの固定部側に、第1ブロック体1方向(他方向)の挟圧力を検知し得る検知器4を固定するようにしてもよい。また、その他の構成として、油圧シリンダ式のジャッキ3の油圧管内に連結した油圧センサ等といった、ジャッキ3に内蔵させた内蔵センサを検知器4として、この内蔵センサによって離反加力荷重を計測するものとしてもよい。
【0039】
また、第1ブロック体1の他方向側の外側面、及び、第2ブロック体2の一方向側の外側面には、試験対象である2本のアンカー筋Rを、第1ブロック体1、第2ブロック体2の各外側面にそれぞれ挟んで拘束するアンカー筋拘束部5を有している。但し、試験対象である2本のアンカー筋Rは、試験体として形成されたブロック状のコンクリート体CBの上面に平行に縦配置され、各アンカー筋Rの下部が所定長の埋設部分RBとしてコンクリート体CBに埋設固定される。本発明のせん断力試験装置は、前記試験体として縦方向に平行に埋設固定された2本のアンカー筋Rの間に取り付けて設置する(
図5)。第1ブロック体1、第2ブロック体2はブロック体同士の側方離間距離をスライド調節可能としてなるところ、このブロック体同士の側方離間距離を、試験体として固設された2本のアンカー筋R間の距離に合わせて調節し、各アンカー筋Rを、各ブロック体の外側面にて拘束することで、コンクリート体CBの上面から所定の離間距離だけ浮かせた状態で本発明のせん断力試験装置を設置することができる。
【0040】
また、第1,第2ブロック体1,2の上面10,20には、夫々第1,第2ブロック体1,2を把持するためのハンドル12,22がボルト止めされており、重量を有する第1,第2ブロック体1,2からなるせん断力試験装置を容易に把持できるように構成されている。
【0041】
また、第1ブロック体1の左右のサイドパネル11(一方のサイドパネル)は、外面側に断面視凹状の嵌合凹部11Dを有している。また、第1ブロック体1の左右のサイドパネル11は、嵌合凹部11Dの周囲に複数個(実施例では、8個)のねじ穴が設けられており、左右のサイドパネル11の片面(外面)を覆って嵌合凹部11Dの断面視凹状の開口を塞ぐサイド塞板16がねじ止め可能に構成されている。
【0042】
なお、第1ブロック体1と第2ブロック体2の左右それぞれのサイドパネル11、21には、面接触箇所の表面全体に、静摩擦力及び動摩擦力を低減するか或いは無くすための摩擦低減加工層が形成されてなり、面接触した摩擦低減加工層の層表面同士が平行に面接触したまま対向方向へスライド滑動することが好ましい。このため、第2ブロック体2の左右のサイドパネル21(他方のサイドパネル)は、第1ブロック体1の左右のサイドパネル11の嵌合凹部11Dに摺動可能に嵌合収容される嵌合凸片からなる。そして、第1ブロック体1の左右のサイドパネル11の嵌合凹部11D及びサイド塞板16の各内面(領域161)、並びに嵌合凸片からなる第2ブロック体2の左右のサイドパネル21の外周面が、面接触する接触面全体に、静摩擦力及び動摩擦力を低減するか或いは無くすための摩擦低減加工層(
図3のドット塗り表示領域)を施されており、摩擦低減加工を施された層表面の接触面同士が平行に面接触したまま対向方向へスライド滑動するように構成されている。
【0043】
特に、上下の接触面1CS、2CSは、均質性が高い複数層(例えば3層)で形成され、且つ比較的厚い(例えば30~60μmの範囲内の)層厚さの摩擦低減加工層で形成される。これら上下の接触面1CS、2CSに対し、他の外周面及び内周面(例えば
図6に示す面である正面視方向の外周面とこれに対抗する背面視方向の内周面)は、均質性に比較的もとる2層以内(例えば2層)で形成され、且つ比較的薄い(例えば15~30μmの範囲内の)層厚さの摩擦低減加工層で形成される。
【0044】
なお、第2ブロック体2の左右のサイドパネル21(他方のサイドパネル)の外面側に断面視凹状の嵌合凹部11Dを有し、第1ブロック体1の左右のサイドパネル11(一方のサイドパネル)が第2ブロック体2の左右のサイドパネル21の嵌合凹部11Dに摺動可能に嵌合収容される嵌合凸片からなる構成としてもよい。この場合、第2ブロック体2の左右のサイドパネル21に嵌合凹部11Dの周囲に複数個(実施例では、8個)のねじ穴が設けられ、左右のサイドパネル21の片面(外面)を覆って嵌合凹部11Dの断面視凹状の開口を塞ぐサイド塞板16がねじ止め可能に構成される。
【0045】
また、第1ブロック体1及び第2ブロック体2の左右のサイドパネル11,21の上辺寄り又は下辺寄りの複数個所には、左右のサイドパネル11,21同士を繋いで左右のパネル間隔(対向空間の幅)を所定間隔(一定間隔)に保つ間隔保持具17が固定可能に構成されている。間隔保持具17は、板状の本体部から上に向かって突出する突出片により形成される保持枠部171を端部に有し、この保持枠部171に、第1ブロック体1の左右のサイドパネル11を幅方向にはめ込むことで、左右のサイドパネル11同士のパネル間隔(対向空間の幅)が所定間隔(一定間隔)に保たれるように構成されている。実施形態1ではサイドパネル11の下辺の長さ方向(
図4~
図6の図内左右方向)における左右均等位置に2箇所、保持枠部171が下辺よりも下方に突出するようにして2つの間隔保持具17が設けられる。この間隔保持具17の2箇所の下部固定によって、設置作業時に誤って試験装置を落下させたときに間隔保持具17が各サイドパネルよりも先に接地し、第1ブロック体や第2ブロック体の衝撃変形を保護することができる。
【0046】
また、実施形態1に係るせん断力試験装置は、対向空間内の下部に固定され、ジャッキ3を上面に載置して保持する保持冶具13を有している。この保持冶具13は、上面がジャッキ3の本体に対応した湾曲凹面からなる板体からなり、板体の一側面から側方突出した2本の係合ピン131によって、第1ブロック体1に係合固定される(
図3)。このような保持冶具13によってジャッキ3を載置させることで、取扱いの便宜に優れ、ジャッキを容易に設置ないし取り外しすることができる。なお、他の構成として、ジャッキを第1ブロック体又は第2ブロック体のいずれかのブロック状本体に直接固定するものとしてもよい。
【0047】
アンカー筋拘束具5は、第1ブロック体1及び第2ブロック体2の外側面に夫々設けられている。第1ブロック体1の外側面に設けられたアンカー筋拘束具5は、第1ブロック体1の外側面から第1ブロック体1と一体的に外方突出した突出ブロック51と、突出ブロック51の突出先に対向立設して取り付けられる拘束板52とから構成される。また、第2ブロック体2の外側面に設けられたアンカー筋拘束具5は、第2ブロック体2の外側面から第2ブロック体2と一体的に外方突出した突出ブロック51と、突出ブロック51の突出先に対向立設して取り付けられる拘束板52とから構成される。拘束板52は、拘束ボルト521により突出ブロック51に対向立設して取り付けられる。
【0048】
アンカー筋拘束具5を構成する突出ブロック51及び拘束板52の各対向面の幅方向中央には夫々、縦方向のアンカー筋Rを挟み込んで拘束する、対向した一対の拘束溝510,520が縦方向に形成されている。ここで、対向した一対の拘束溝のうち、突出ブロック51の拘束溝510は、略円弧状の溝断面からなる。また、対向した一対の拘束溝のうち、拘束板52の拘束溝520は、対称な略V字形状の溝断面からなり、V字形状の溝断面中央の溝奥部にはコーナースリット520Dを有する。
【0049】
このコーナースリット520Dは、離反加力部材(ジャッキ3)による離反加力中心の仮想線上に位置する。円弧状の溝断面の拘束溝と、対称な略V字形状の溝断面(対称な多角形の溝断面の一態様)の拘束溝とを対向させてアンカー筋を挟み込んで拘束することで、アンカー筋の中心軸と溝中央のコーナースリット520Dとの位置を合わせた状態に維持することができる。
【0050】
本せん断力試験装置においては、コンクリート体CBに予め埋設する左右のアンカー筋Rが、せん断力試験装置の中止運線を含む同一平面上にあることが必要であるものの、実際のアンカー筋Rの施工の際には僅かな誤差が生じる場合もあり得る。また特に、アンカー筋Rとして、
図5,6に示すような、横節を有する異形鉄筋を用いる場合には、一対のアンカー筋Rが、厳密にせん断力試験装置の中心線を含む同一平面上にあるようにすることは困難である。しかしながら、このようなアンカー筋Rの施工の誤差があった場合でも、対向した一対の拘束溝のうち、一方(拘束溝510)を略円弧状の溝断面からなるものとし、他方(拘束溝520)を対称な略多角形状(例えばV字形状)の溝断面からなるものとすることで、アンカー筋Rを密着して挟み込み、拘束することができる。
【0051】
また、略V字形状の溝断面の溝奥位置、及び当該位置のコーナースリット520Dを、離反加力部材(ジャッキ3)による水平の加力中心線の先に配置することで、当該加力中心線を含む垂直面内に中心軸が来るように、アンカー筋Rを拘束することができる。
【0052】
さらに、突出ブロック51及び拘束板52の各溝面にはアンカー筋Rに係止する複数の凹凸部が縦方向に連続形成されている。なお、突出ブロック51の拘束溝510を対称な略多角形状の溝断面とし、拘束板52の拘束溝520を略円弧状の溝断面としてもよい。
【0053】
さらに、各アンカー筋拘束具5夫々の外側面の上下端近傍には、上下の水平変位計61/62の接触子を押し当て可能な変位計当て部522が設けられている。このため、せん断力試験装置を設置した状態(設置状態)で、各アンカー筋拘束具5夫々の変位計当て部522に上下の水平変位計61/62を接触させて押し当てるか或いは測定線を当てることで、離反加力したときの拘束具5の変位測定量の平均値を、第1ブロック体乃至第2ブロック体の水平変位量として得ることができる。また、各アンカー筋拘束具5夫々の外側面の中央近傍には、中央の水平変位計63の接触子を押し当て可能な変位計当て部523が設けられている。せん断力試験装置を設置した状態(設置状態)で、前記上下の水平変位計61/62に代えて、或いは上下の水平変位計61/62に加えて、中央の水平変位計63を接触させて押し当てるか或いは測定線を当てることで、離反加力したときの第1ブロック体乃至第2ブロック体の水平変位量を、各水平変位計の測定値に基づいて計測ないし算出することができる。そして、前記いずれかによって計測ないし算出した第1ブロック体乃至第2ブロック体の水平変位量を、検知器4による挟圧力検知の検知量と同期計測することができる。
【0054】
なお、後述の実施例の変位計当て部522/523/812は、接触子を有する接触式水平変位計61/62/63/81を定方向に押し当て可能な構造としているが、上記の接触式水平変位計61/62/63/81を使用する代わりに、レーザー変位計などの非接触式の水平変位計を使用してもよい。この場合、変位計当て部522/523/812は、非接触式の水平変位計の測定線を当てる定的な変位測定位置として機能する。
【0055】
(せん断力試験装置の設置)
次に、本実施形態のせん断力試験装置の設置方法について
図4~
図6を参照して説明する。
図4(a)は、せん断力試験装置のジャッキ3を縮めた初期状態(S1)の平面図であり、この状態から
図4(b)に示すように、拘束ボルト521を緩めて、突出ブロック51と拘束板52との隙間にアンカー筋が挿通可能な状態とする。また、
図4(b)では、せん断力試験装置のジャッキ3が伸長した状態(S2)となっており、第1ブロック体1のサイドパネル11の嵌合凹部11Dと、第2ブロック体2の嵌合凸片からなるサイドパネル21との間に隙間110が形成されている。
【0056】
なお、せん断力試験装置を設置する際に、
図4(b)に示すようにジャッキ3が伸長した状態(S2)とするか否かは、突出ブロック51と拘束板52とにより拘束されるアンカー筋間の距離に起因する。すなわち、アンカー筋間の距離が長い場合には、せん断力試験装置を設置する際に、
図4(b)に示すようにジャッキ3が伸長した状態(S2)とする必要が生じる場合がある。
【0057】
次いで、
図5に示すように、一対のアンカー筋Rが埋設されたコンクリート体CBを用意する。一対のアンカー筋Rは、夫々アンカー筋埋設部RBがコンクリート体CBに埋設されている。次いで、ハンドル12,22を把持して、せん断力試験装置を上記一対のアンカー筋R上まで持ち上げたのち、一対のアンカー筋Rが突出ブロック51と拘束板52との隙間に挿通するように下降させる。
【0058】
次いで、
図6のように、一対のアンカー筋Rを突出ブロック51と拘束板52との隙間に挿通させ、次いで、拘束ボルト521を締め込んで、一対のアンカー筋Rを第1ブロック体1及び第2ブロック体2の突出ブロック51と拘束板52との間に収容するとともに拘束して、せん断力試験装置を設置した状態とする。このとき、第1ブロック体1及び第2ブロック体2(ブロック状本体及びサイドパネル)、並びに、左右のサイドパネル11の下辺寄り同士を繋ぐ間隔保持具17のそれぞれを、コンクリート体CBの表面から所定量の離間高さ(17A)だけ浮かせた設置状態とし、水平方向の離反加力がコンクリート体CBに伝わらないようにしている(
図7)。
【0059】
なお、前記設置状態とするに当たり、下部の間隔保持材17の外面に、コンクリート体CBの上面に接地する高さ調整螺子19を取り付けることができる(
図1、
図2)。例えば
図3に示すように、2つの下部の間隔保持材17の各外面に合計4つの高さ調整螺子19を設けることができる。高さ調整螺子19は、内螺子付きの保持枠を有する保持枠部191と、保持枠部191の保持枠内を上下方向に螺進する調整ボルト192とから構成することができる。保持枠部191は間隔保持材17の外面の取付け穴に取り付けられ、保持枠の内螺子に調整ボルト192を上下に螺進させて、調整ボルト192の下端が下方へ突出した状態(SA)、ないし、調整ボルト192の下端が下方へ突出しない非突出状態(SB)のいずれかに状態遷移させることができる。本せん断力試験装置の取付け前には、
図5に示すように調整ボルト192を所定の離間高さ17Aだけ突出させた突出状態(SA)としておき、この突出状態(SA)としたまません断力試験装置をコンクリート体CBの上面に接地させて第一の設置状態とする。具体的には、調整ボルト192を突出状態(SA)としたまま、一対のアンカー筋Rが突出ブロック51と拘束板52との隙間に挿通するように、せん断力試験装置をコンクリート体CB上に下降させ(
図5)、調整ボルト192の下端をコンクリート体CBの上面に接地させる。次いで、アンカー筋Rを挿通させて拘束ボルト521を締め込み、一対のアンカー筋Rを第1ブロック体1及び第2ブロック体2の突出ブロック51と拘束板52との間に拘束してから、接地した全ての高さ調整螺子19の調整ボルト192をコンクリート体から離れるように上方へ螺進させることで、せん断力試験装置をコンクリート体CBから浮かせた
図6の設置状態とする。
【0060】
なお他に、前記設置状態とするに当たり、ブロック状本体10/20、サイドパネル11/21、ないし間隔保持材17の各下面とコンクリート体CBとの間に、図示しない低摩擦ブロック材(ポリスチレンフォーム、スチロール等からなるブロック材)を挟んで、当該低摩擦ブロック材の所定量(δ)の厚さ分だけコンクリート体CBから浮いた設置状態とすることもできる(図示せず)。
【0061】
次いで、ジャッキ3のコネクタ31に油圧ホース33を接続し、シリンダロッド32が伸長可能な状態とする。また、検知器4のコネクタ41に伝送線43を接続し、検知器4による外変形状態のジャッキ3と第1,第2ブロック体1,2との間に発生する挟圧力が検知可能な状態とする。
【0062】
次いで、各アンカー筋拘束具5夫々の変位計当て部522に、ホルダ60により固定した水平変位計61,62の接触子を押し当て、離反加力したときの各アンカー筋拘束具5の変位量をそれぞれ計測可能な状態とする(
図6)。
【0063】
なお、水平変位計61,62の固定方法として、
図10に示すような、一対の長側枠71の中央位置のみで2点接地する、方形枠状の保持枠7を使用することができる。この保持枠7は本発明のせん断力試験装置の四方周囲を長側枠71と短側枠72とで方形枠状に囲う枠体からなり、各長側枠71の中央から下方に先尖突出した接地尖部材73にて2点接地すると共に、各短側枠72の中央から上下方方向に形成した保持板74によって、水平変位計61,62の保持棒60を保持する。この場合、コンクリート体CBとの接地点(
図10における幅方向中央位置)が水平変位計の不動点RSMとなる。
【0064】
なお、他の形態例として、
図13に示すように、水平変位計を保持可能な保持棒60を、方形枠状の保持枠7(
図10に示すものと同様の、長側枠71、短側枠72からなるもの)の各短側枠72の中央外面に固着し、保持棒60に高さ方向中央位置の水平変位計63を取り付けたものとしてもよい。この保持枠7の一対の長側枠71の長さ中央位置には、コンクリート体CB上面に螺入埋設される不動螺子75を貫通させており、方形枠7は一対の不動螺子75によってコンクリート体CBに固定される。この場合、不動螺子75が水平変位計63の変位測定基準の不動点RSMとなる。
【0065】
なお、ジャッキ3のコネクタ31への油圧ホース33の接続、検知器4のコネクタ41への伝送線43の接続、各アンカー筋拘束具5夫々の変位計当て部522への水平変位計61,62の取り付けの順序は問わない。
【0066】
(せん断力試験装置の基本的な考え方)
次に、本発明のせん断力試験装置を得るに至った経緯について、
図5~
図9を参照して説明する。本発明のせん断力試験装置は、上部及び下部のコンクリート境界面に鉛直埋設されたアンカー筋Rが、せん断力F1を受けてせん断変形する状態を再現できる装置を得ることを目的としたものである。
【0067】
本発明のせん断力試験装置は、せん断力試験の基本的な考えとして、面で接する上部及び下部のコンクリート間を繋いで、各コンクリートの内部に複数のアンカー筋Rが垂直埋設された構造物(
図11)にかかるせん断力を想定したものである。
図11(A)における上部のコンクリートを本発明のせん断力試験装置に置き換えて
図6の設置状態とし、第1ブロック体と第2ブロック体を離反加力させることで、2本のアンカー筋それぞれにせん断力を加えた
図7の状態とする。この
図7の状態は、
図11(B)のように上部の2つのコンクリートが離間する方向にせん断力F1を受けた状態に相当する。せん断力F1を加えるためには反力F2を取るものが必要なところ、発明者らは、
図5のようにアンカー筋Rを2本埋設したコンクリート体CBを用意し、
図9のように互いのアンカー筋Rで反力F2を取れば、せん断力F1の反力F2を取ると同時に2本のアンカー筋の試験を行うことができることに着目して本発明のせん断力試験装置の発明に至った。
【0068】
ここで、単純に水平方向のせん断力F1を加えると、
図8における第2ブロック体側のQ(H+h)のモーメントによって、第2ブロック体側のアンカー筋はアンカー埋設部RBの埋設境界を中心に回転変形してしまう。発明者らは、この回転変形を防いで理想的なせん断変形状態とするため、アンカー筋Rに、
図8ないし
図9で示すような、凹部品(嵌合凹部11Dに相当)を有する第1ブロック体と、凸部品(嵌合凸片からなるサイドパネル21に相当)を有する第2ブロック体を嵌合させて組み合わせ、第2ブロック体のサイドパネル21に作用する嵌合部の曲げ戻し力P1,P2で曲げ戻すこととした。このとき、第1ブロック体側のアンカー筋の回転変形を防ぐための曲げ戻し力P1,P2は、第1ブロック体のサイドパネル11に作用する。この曲げ戻し力P1,P2は、第2ブロック体のサイドパネル21に作用する曲げ戻し力P1,P2と逆方向になる。但し、本発明にいう曲げ戻し力P1,P2は、面接触している部分に分布して生じる力の合力を表している(実際には面接触部に分布して生じている)。
【0069】
具体的には、発明者らは、本発明のせん断力試験装置を、一側方を開口方向とした横向きの嵌合凹部11Dを有するサイドパネル11と、これに嵌合する、他側方を向いた横向きの嵌合凸片からなるサイドパネル21とを嵌合させて組み合わせ、この嵌合方向(一側方及び他側方)に沿って各部品が側方へスライド移動可能とした。このとき、凹部品たる嵌合凹部11Dと、凸部品たる嵌合凸片からなるサイドパネル21とは、上下の側面全体が均等に面接触して嵌合することで、
図9に示すように、凹部品と凸部品の曲げ戻し力P1、並びに、凹部品と凸部品の曲げ戻し力P2が、夫々互いに作用・反作用となって曲げ戻し力を確保している。
【0070】
また、第1ブロック体1の各サイドパネル11、並びに、サイドパネル11に取り付けられた間隔保持材17は、
図6、
図7、
図8、ないし
図13に示すように、サイドパネル11、間隔保持材17の各下面側を、コンクリート体CBの表面から所定の離間高さ(11A、17A)だけ浮かせた設置状態となっている。これにより、水平方向の余分な力を抑制して、離反加力部材たるジャッキ3による離反方向の力を、アンカー筋のせん断力として作用させ、理想的な加力状態に近い状態を得ることができるように構成した。
【0071】
なお、前記設置状態とするに当たり、サイドパネル11ないし間隔保持材17の下部の複数個所に、コンクリート体CBの上面に接地ないし離間可能な高さ調整螺子19を取り付けておき、当該高さ調整螺子19を一旦、接地可能な突出状態(SA)としたまま、拘束ボルト521を締め込んで一対のアンカー筋Rを拘束し、次いで、接地した全ての高さ調整螺子19の調整ボルト192をコンクリート体から離れるように上方へ螺進させることで非突出状態(SB)とすることで、せん断力試験装置をコンクリート体CBから浮かせた
図6の設置状態とする。
【0072】
なお他に、左右のサイドパネルの各下面とコンクリート体CBとの間に、図示しない低摩擦ブロック材(ポリスチレンフォーム、スチロール等からなるブロック材)を挟んで、当該低摩擦ブロック材の所定量δの厚さ分だけコンクリート体CBから浮いた状態とすることもできる。
【0073】
(せん断力試験装置の動作確認試験)
次に、実施例に係るせん断力試験装置の動作確認試験について説明する。発明者らは、動作確認試験として、
図6に示すように、一対のアンカー筋Rを第1ブロック体1及び第2ブロック体2の突出ブロック51と拘束板52との間に収容するとともに各アンカー筋Rを締付け拘束して、せん断力試験装置を設置状態とした。この設置状態においては、せん断力試験装置の第1ブロック体1及び第2ブロック体2を凹凸嵌合させたまま、下側面をコンクリート体CBの表面から所定の離間高さ(11A)だけ離間させている。この離間高さはアンカー筋Rの外径と同一にした。
【0074】
また、発明者らは、油圧式のジャッキ3のコネクタ31に油圧ホース33を接続し、シリンダロッド32が伸長可能な状態とするとともに、起歪体を有するひずみゲージからなる電気式の検知器4のコネクタ41に伝送線43を接続し、検知器4による外変形状態のジャッキ3と第1,第2ブロック体1,2との間に発生する挟圧力が検知可能な状態とした。また、発明者らは、各アンカー筋拘束具5夫々の変位計当て部522に水平変位計61,62を取り付け、離反加力したときの拘束具5の変位量を計測可能な状態とした。
【0075】
発明者らは、
図10に示すような長側枠71中央の2点で接地した方形状の保持枠7を用いて水平変位計61,62を保持固定することで、上下部それぞれの水平変位計61,62による変位測定値δ1,δ2を測定した。この変位測定値δ1,δ2は、コンクリート体CBに鉛直埋設した2本のアンカー筋Rの埋設間隔RS1の中央点を不動点RSMとして、この不動点RSMからの左右それぞれの水平変位量となる。具体的には、アンカー筋拘束具5の拘束板52の上下端部の変位計当て部522にそれぞれ、上下部の水平変位計61,62の接触子を押し当てて、上下部それぞれの変位測定値δ1,δ2を左右それぞれで測定し、上下部の変位測定値δ1,δ2の平均値である左右の水平変位δを算出した。また、発明者らは、変位測定値δ1,δ2の差値を水平変位測定点間の高さh0で除して、左右の回転変位θを算出した。なお、
図7および
図8において、RS2は埋設間隔RS1の半分の距離である。
【0076】
なお上記のように上下部2つの水平変位計61,62を用いる代わりに、高さ方向中央部の変位計当て部523のみに、1つの水平変位計の接触子を押し当てて、中央位置の変位測定値δ3を測定してもよい(例えば、実施形態2の
図13と同じ測定状態)。
【0077】
一対のアンカー筋としてD13の異形鉄筋を用い、荷重を0.0KNから15KNまで徐々に連続増加させた試験の結果、水平変位δの変位量は、2本のアンカー筋Rのいずれにおいても、1.1KN~7.0KNの範囲の荷重増加に対して、一定の傾きで比例増加した。また回転変位θの変位量は、1.1KN~14.0KNの範囲の荷重増加に対して、0.001ラジアン以下の変位しか発生しなかった。
【0078】
上記動作確認試験の結果は、上下のコンクリート間に施工したアンカー筋の一面せん断試験の結果と比較しても大きな挙動の変化はなかった。このため、本発明のせん断試験装置は一定の有効性を確保していると考えられる。
【0079】
(凸部品と凹部品の嵌合による曲げ戻し)
第1ブロック体のサイドパネル11と第2ブロック体のサイドパネル21は嵌合による上下の接触面で面接触するところ、その間の分布力を合力化した曲げ戻し力P1,P2を想定する。このとき、せん断力F1を加えたときの曲げモーメント図は、
図8の二点鎖線枠のように仮定される。アンカー筋Rが弾性範囲内で変形するものと仮定すると、
図9のP73で示す凸部品の上側面基部における縁歪δ3は、
δ3=3Q(H+h)/(b・D
2・E)となる。ここでb及びDは、夫々、サイドパネル21の断面の幅(
図8における奥行き方向の長さ)、及び、サイドパネル21の高さ(
図8における上下方向の長さ)、Eはサイドパネル21のヤング係数である。ここで、Hはブロック体(第1,第2ブロック体1,2)高さの半分量であり、hは離間高さの2倍量である。
【0080】
なお
図9においては、凸部品であるサイドパネル21の上の接触面2CSの基端部を、符号P73として黒丸で示す。この位置P73を歪計測センサ取付け部712として、歪計測センサ取付け部712に歪計測センサを取付けることで、凸部品の上側面基部における縁歪δ3を確認することができる。
【0081】
アンカー筋Rの離間高さをアンカー筋径と一致させ、
図8の図示hの部分をアンカー筋径の2倍に設定した場合の計算値と実験による測定値とを比較したところ、せん断力F1と縁歪δ3の関係はほぼ同じ正比例の挙動を示して一致した。このことから、曲げ戻しのメカニズムは実験装置で機能していることが確認された。
【0082】
(実施形態2のせん断力試験装置の構成)
次に、実施形態2のせん断力試験装置の構成について
図12、
図13を参照して説明する。本発明の実施形態2のせん断力試験装置は、実施形態1と比較して、上下部の水平変位計61,62の接触子を押し当てる上下部の変位計当て部522を有さず、左右それぞれの拘束板5の高さ方向中央且つ幅方向中央にのみ、板状の変位計当て部523が左右一つずつ取り付けられる。水平変位δの算出の際は、この左右1つずつの水平変位計の接触子を各変位計当て部523に押し当てて、中央位置の変位測定値δ3を測定する。
【0083】
また、実施形態2のせん断力試験装置では、実施形態1の形態に加えて、第1ブロック体1と第2ブロック体2それぞれの水平方向のスライド離間量を測定する水平スライド変位計81を備える(
図12,
図13)。この水平スライド変位計81は自動伸長式の接触子を有する接触式の変位計であり、第1ブロック体1の左右いずれか片側のサイドパネル11の外面に取り付けられたサイド塞板16の外面に、水平に取り付けられる。この取り付けられた状態で、スライド変位計81の接触子が第2ブロック体2のブロック状本体側へ水平突出する。一方、第2ブロック体2のブロック状本体の正面側(
図12、
図13における手前側)の側部には、L字板からなる変位計当て部812が取り付けられる。この変位計当て部812のL字状の板の一片面が、前記スライド変位計81の接触子の先側に対向接触するように取り付けられる。
図13に示す設置状態では、スライド変位計81の接触子が変位計当て部812の当該一片面に押し当てられ、サイドパネル11,21のスライド滑動に伴って接触子が伸長することで、水平方向のスライド量を同期計測する。
【0084】
また、実施形態2のせん断力試験装置では、左右のサイドパネル11,21同士を繋いで左右のパネル間隔(対向空間の幅)を所定間隔(一定間隔)に保つ間隔保持具17が、サイドパネルの下端の複数個所と上端寄りの一ヵ所とに設けられる。前記実施形態1では第1ブロック体1の左右のサイドパネル11の下端の2箇所のみに間隔保持具17が設けられるのに対し、実施形態2では、下辺の2箇所の間隔保持具17の固定箇所の間であってサイドパネル11の上部寄りの内面にも、両端を屈曲させた、断面コ字状の比較的短い間隔保持具17が設けられる。水平方向のスライド離間量を測定する水平スライド変位計81を備える(
図12)。
【0085】
上下部それぞれの変位測定値δ1,δ2を左右それぞれで測定し、上下部の変位測定値δ1,δ2の平均値である左右の水平変位δを算出した一方向側(
図2の矢印の向き)に左右(一対)のサイドパネル11が平行突出したブロック状本体からなる第1ブロック体1と、他方向側(
図2の矢印と反対の向き)に左右(一対)のサイドパネル21が平行突出したブロック状本体からなる第2ブロック体2とを備える。
【0086】
また、
図13に示すように、水平変位計を保持可能な保持棒60を、方形枠状の保持枠7(
図10に示すものと同様の、長側枠71、短側枠72からなるもの)の各短側枠72の中央外面に固着し、保持棒60に高さ方向中央位置の水平変位計63を取り付けてなる。この保持枠7の一対の長側枠71の長さ中央位置に、コンクリート体CB上面に螺入埋設される不動螺子75を貫通させており、方形枠7は一対の不動螺子75によってコンクリート体CBに固定される。この場合、ホルダ60を固定したコンクリート体CBの上面中央の不動螺子75の螺入埋設位置が各水平変位計の不動点SRMとなる。
【0087】
以上のように、実施例に係るせん断力試験装置は、一方向側に左右のサイドパネル11が平行突出したブロック状本体からなる第1ブロック体1と、他方向側に左右のサイドパネル21が平行突出したブロック状本体からなる第2ブロック体2とを、左右夫々にてサイドパネル11,21同士が一側方及び他側方へ凹凸嵌合するように、正面視左右方向である所定の対向方向へ対向させて組み合わせることで、左右のサイドパネル11,21間に対向空間を形成し、対向空間内であって第1ブロック体1又は第2ブロック体2いずれか一方寄りの固定部に、シリンダ式のジャッキ3を一方向ないし他方向へジャッキ伸長可能に固定し、対向空間内であって固定されたジャッキ3のジャッキの伸長側又は固定部側の少なくともいずれかに、一方向ないし他方向の挟圧力を検知し得る検知器4を固定し、第1ブロック体1の他方向側の外側面、及び、第2ブロック体2の一方向側の外側面に夫々、縦方向のアンカー筋を拘束するアンカー筋拘束部5を有してなり、第1ブロック体1及び第2ブロック体2を、コンクリート内に埋設固定した一対の縦方向のアンカー筋の間に配置し、第1ブロック体1及び第2ブロック体2夫々の外面のアンカー筋拘束部5によって一対のアンカー筋夫々を拘束して、第1ブロック体1及び第2ブロック体2をコンクリート面から所定量だけ浮かせて設置した設置状態とし、この設置状態で対向空間内のジャッキ3を対向方向へ伸長させて、第1,第2ブロック体1,2でアンカー筋夫々の両側を回転拘束した状態で点対称形に外変形するように離反加力し、この外変形状態のジャッキ3と第1,第2ブロック体1,2との間に発生する挟圧力を検知するよう構成されている。
【0088】
上記構成によれば、せん断力加力時のコンクリート境界条件を実際の施工条件とほぼ一致させた状態として一定の精度を確保しながらせん断力試験を行うことができる。また、施工現場で簡便に設置することができる。さらに、コンクリート表面に不陸(凸凹を有し、平らでない状態)がある場合でも設置できる。
【0089】
また、実施例に係るせん断力試験装置は、第1ブロック体1又は第2ブロック体2のいずれか一方のサイドパネルの片面に断面視凹状の嵌合凹部11Dを有すると共に、当該一方のサイドパネルの片面を覆って嵌合凹部11Dの断面視凹状の開口を塞ぐサイド塞板16を有し、いずれか他方のサイドパネルが嵌合凹部11Dに摺動可能に嵌合収容される嵌合凸片からなり、嵌合凹部11D及びサイド塞板16の各内面、並びに嵌合凸片の外周面が、面接触する接触面全体に、静摩擦力及び動摩擦力を低減するか或いは無くすための摩擦低減加工を施され、摩擦低減加工を施された接触面同士が平行に面接触したまま、摩擦力(静摩擦力及び動摩擦力)が低減された状態で対向方向へスライド滑動するよう構成されている。摩擦低減加工を施した面は
図3、
図7、
図8、
図9の各図において網点で表されるが、これら各面のうち、嵌合凹部11Dと嵌合凸片(サイドパネル21)の上下の接触面1CS、2CSの摩擦低減加工は、他の面よりも均質性を高く且つ比較的厚い塗付厚さで形成される。
【0090】
なお、本発明にいう摩擦低減加工とは、接触対向する面同士の静摩擦力ないし動摩擦力の少なくともいずれかを低減するか無くすための加工ないし構造を意味する。摩擦低減加工の例としては、フッ素樹脂加工、ないしセラミック加工といった滑動材層の被膜を表面形成するか、或いは磨き加工によって面上に存在する微細な凹凸部の平均高さを小さくすることによる、滑り加工としてもよい。層の形成や再生加工の容易さの観点からは、摩擦低減加工層として、フッ素樹脂などの滑動樹脂材層の複数層(例えば3層)からなる被膜を、例えば30~60μmの範囲内の層厚さで表面形成する滑り加工が好ましい。或いは、ベアリング等の転動体や軸受構造を摩擦低減材として対象面の表面部に設けてこれら転動体や軸受構造の表面にて間歇接触させることによる、転動構造を設けたものとしてもよい(図示せず)。
【0091】
上記構成によれば、コンクリートに埋設固定された一対の縦方向のアンカー筋間に合わせて容易に第1ブロック体1又は第2ブロック体2間の距離を調整することができる。また、摩擦低減加工を施された接触面同士が平行に面接触したまま対向方向へスライド滑動するので、せん断力試験装置の回転変形を防止して、せん断力加力を確実にアンカー筋へと伝達することができる。このため精度よくせん断力試験を行うことができる。
【0092】
また、実施形態1に係るせん断力試験装置は、第1ブロック体1の左右のサイドパネル11の下辺寄りの複数個所(2箇所)に、左右のサイドパネル11同士を繋いで左右のパネル間隔(対向空間の幅)を所定間隔に保つ、計2つの間隔保持具17が固定されている。実施形態2に係るせん断力試験装置は、第1ブロック体1の左右のサイドパネル11の上辺寄りの1箇所及び下辺寄りの2個所に、左右のサイドパネル11同士を繋いで左右のパネル間隔(対向空間の幅)を所定間隔に保つ、計3つの間隔保持具17が固定されている。
【0093】
上記構成によれば、左右のサイドパネル11同士の距離を保ったまません断力試験を行うことができ、左右のサイドパネル11の変形によるせん断力試験の精度の低下を防止することができる。結果、精度の高いせん断力試験を行うことができる。
【0094】
また、実施形態1に係るせん断力試験装置において、各アンカー筋拘束具5夫々の外側面の上下端近傍には、水平変位計61/62の接触子を押し当て可能な変位計当て部522が設けられ、設置状態で、各アンカー筋拘束具5夫々の変位計当て部522に上下の水平変位計61,62を接触させて押し当てることで、離反加力したときの拘束具5の水平変位量を、上下の水平変位計61,62の測定値平均として算出し、この算出した水平変位量を、検知器4による挟圧力検知の検知量と同期計測するよう構成されている。一方、実施形態1、2に係るせん断力試験装置において、各アンカー筋拘束具5夫々の外側面の面中央(高さ方向中央及び幅方向中央)には、中央の水平変位計63の接触子を押し当て可能な変位計当て部523が設けられ、設置状態で、各アンカー筋拘束具5夫々の変位計当て部523に中央の水平変位計63を接触させて押し当てることで、離反加力したときの拘束具5の中央の水平変位量を、検知器4による挟圧力検知の検知量と同期計測するよう構成されている。
【0095】
上記構成によれば、離反加力したときの外変形状態のジャッキ3と第1,第2ブロック体1,2との間に発生する挟圧力に加えて、拘束具5の水平変位量を検知することができる。なお、水平変位量の測定に当たり、方形枠体を貫通する接地尖部材73又は不動螺子75で埋設固定された保持枠7を設け、この保持枠7で各水平変位計を保持するものとしている。このコンクリート体CBへの接地尖部材73又は不動螺子75の埋設固定点は、水平変位測定の基準となる不動点RSMとなる。なお、各実施形態では、コンクリート体CBに埋設設置した2本のアンカー筋R同士を繋ぐ仮想線の中央位置から直交した、中央直交仮想線上(
図6、
図7、
図8の正面視における左右方向の中央位置)に位置するように設定している。
【0096】
さらに、実施例に係るせん断力試験装置は、アンカー筋拘束具5は、第1ブロック体1又は第2ブロック体2の外側面の中央部から一体的に(すなわち平面視凸形状となるよう)外方突出した突出ブロック51と、突出ブロック51の突出先に対向立設して取り付けられる拘束板52と、から構成される。また、突出ブロック51及び拘束板52の各対向面の幅方向中央には夫々、縦方向のアンカー筋Rを収容して挟み込み拘束する拘束溝510,520が形成され、突出ブロック51及び拘束板52夫々の拘束溝510,520は、一方が略円弧状の溝断面からなり、他方が対称な略多角形状の溝断面からなると共に、各溝面にはアンカー筋Rをジャッキ3による離反加力の中心に係止させるべく、複数の凹凸部が縦方向に連続形成される。
【0097】
上記構成によれば、左右のアンカー筋Rの伸長方向に施工誤差があった場合でも、左右のアンカー筋Rをアンカー筋拘束具5によって密着固定することで、各アンカー筋Rを、加力部材による加力中心線上の位置に保持することができる。これにより、縦方向のアンカー筋Rを離反加力の仮想中心線上線に確実に拘束した状態で、一定の精度を確保しながらせん断力試験を行うことができる。
【0098】
以上のように、実施例に係るせん断力試験装置によれば、せん断力加力時のコンクリート境界条件を実際の施工条件とほぼ一致させた状態として一定の精度を確保しながらせん断力試験を行うことができる。また、施工現場で簡便に設置することができる。さらに、コンクリート表面に不陸がある場合でも設置することができる。
【0099】
(産業上の利用可能性)
本発明の試験装置は現場で簡便に設置でき、かつ、一定の精度をもってせん断試験を行うことができることから、既存の構造物を含む補強対象の構造物ごとに、実際の埋設状態のあと施工アンカーのせん断力評価を行うことが可能である。具体的には、せん断試験装置によるせん断力-水平変位の試験値を使用して、あと施工アンカーの原位置(かつ現位置)における伝達せん断力の評価が可能となる。
【符号の説明】
【0100】
1 第1ブロック体
11 サイドパネル
12 ハンドル
13 保持冶具
131 係合ピン
110 嵌合内空間
11D 嵌合凹部
16 サイド塞板
17 間隔保持具
171 保持枠部
2 第2ブロック体
21 サイドパネル(嵌合凸片)
22 ハンドル
3 ジャッキ
31 コネクタ
32 シリンダロッド
33 油圧ホース
4 検知器
41 コネクタ
43 伝送線
5 アンカー筋拘束部
500拘束空間
51 突出ブロック
52 拘束板
521 拘束ボルト
510,520 拘束溝
520D コーナースリット
60,70 ホルダ
62水平変位計
522 変位計当て部
R アンカー筋
RB アンカー筋埋設部
CB コンクリート体
摩擦低減加工(ドット塗り表示)
F1 せん断力
F2 反力
P1,P2 曲げ戻し力
RS1 埋設間隔
RS2 埋設間隔の半分量
RSM 不動点
δ1,δ2 水平変位計による変位測定値
δ3 縁歪
h0 水平変位測定点間の高さ
H ブロック体高さの半分量
h 離間高さの2倍量