(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】医療用固定材および医療用固定具
(51)【国際特許分類】
A61F 5/05 20060101AFI20220324BHJP
A61F 5/01 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
A61F5/05
A61F5/01 Z
(21)【出願番号】P 2020158407
(22)【出願日】2020-09-23
(62)【分割の表示】P 2015181649の分割
【原出願日】2015-09-15
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000222141
【氏名又は名称】東洋アルミエコープロダクツ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】松井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】諸富 公昭
(72)【発明者】
【氏名】井内 友美
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-060672(JP,A)
【文献】特表平09-500030(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0203450(US,A1)
【文献】特開2005-261972(JP,A)
【文献】特開平02-060642(JP,A)
【文献】特表2012-520099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/05
A61F 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と当該熱可塑性樹脂単体の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する熱伝導粉末とを少なくとも含有し、20℃における熱伝導率が0.170W/m・K以上である、医療用固定材から形成された、鼻部の外科的治療に用いられる医療用固定具であって、
平板状であり、鼻部に装着可能な少なくとも一つの台形状の片が切り取り可能なようにその表面に罫線が形成されており、
前記罫線は、一対の合同な等脚台形をその台形の上底同士で対向させた形状に形成されており、
それぞれ鼻部に装着可能な、等脚台形の二つの片として切り取ることも、
額部から鼻部にかけて装着可能な、一対の等脚台形が一体となった一つの片として切り取ることも可能な、医療用固定具。
【請求項2】
前記熱伝導粉末がアルミニウム粉末である、
請求項1に記載の医療用固定具。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂の融解温度範囲が40℃以上90℃以下の間である、
請求項1または2に記載の医療用固定具。
【請求項4】
90℃の温水中に3秒間保持した後、180度折り曲げたときに折り曲げ部に割れが発生しない、
請求項1から3のいずれかに記載の医療用固定具。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂に対する前記熱伝導粉末の含有重量比が、5/95以上70/30以下である、
請求項1から4のいずれかに記載の医療用固定具。
【請求項6】
厚みが1.5mm以上2.5mm以下、幅が50mm以上110mm以下、長さ50mm以上110mm以下であり、
厚み方向に貫通する直径が0.5mm以上2.5mm以下の複数の微細孔が形成されている
請求項1から5のいずれかに記載の医療用固定具。
【請求項7】
前記複数の微細孔は、隣り合う微細孔の間隔が5mm以上の間隔で配置されている、
請求項6に記載の医療用固定具。
【請求項8】
表面に、種々の大きさの鼻部に対応した複数の前記罫線が形成されている
、請求項1から7のいずれかに記載の医療用固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用固定材および医療用固定具に関し、特に鼻骨骨折の術後に保護及び固定目的に装着し、術後の腫れによる熱を放熱しやすくするものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨折による患部の保護と固定を行う目的で、医療用固定材、いわゆるギプス材として、石膏が用いられていた。しかし、石膏によるギプス材は、鼻部のような複雑な三次元形態を有する顔面へ使用する場合に、患部にうまく固定できないなど、使い勝手がよくない。また、耐久性にも問題があり、皮脂などによる汚染時にギプス材を洗浄することも困難である。そこで、鼻部を保護及び固定するため、様々な方法が提案されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、軟質ウレタンフォームである柔軟性な弾性緩衝体層の上面に、適度の可撓性と強い弾性を有するポリエチレンフォームからなる支持体層を備え、前記緩衝体層の下方に粘着剤層を設けた医療用貼付材が開示されている。また、同特許文献1の第8
図A、Bには、鼻への使用例が提案されている。
【0004】
特許文献1の医療用貼付材は、粘着剤層が形成されていることから、石膏によるギプス材等とは異なり、顔など固定しにくいところには便利で手軽である。
しかし、その粘着剤層が全面に形成されているため、皮膚が蒸れて、かゆみやかぶれ等の炎症を起こしてしまう。また、罫線や折り目が形成されているが、これらの幅が広いため鼻の微妙な曲線とマッチせず粘着力によって皮膚を持ち上げ、本来の鼻の形状と異なって矯正してしまう可能性がある。
【0005】
また、特許文献2には、容易に折り曲げられ、かつ折り曲げ後は機械的強度が強く鼻を確実に保護できる鼻保護部材として、180度及び90度に折曲げて1分間保持した後解放し、解放後5分経過した時の折り曲げ戻り角度θが共に20度以下である形状保持性を有する延伸ポリオレフィン系樹脂シートよりなるものが提案されている。
【0006】
しかし、特許文献2の鼻保護部材は、容易に折り曲げることはできるものの、その折り曲げ角度が20度以下である場合には、折り曲げがほとんど無い状態に戻ってしまい、鼻の微妙な形状に沿わせて形状を固定させることができない欠点がある。
【0007】
さらに、市販品で販売されている商品として、非特許文献1および2のような、商品名「デンバースプリント」がある。
これは、鼻の患部の表面を清拭し十分乾燥した後に紙テープを患部に貼り付け、その上から鼻背にそってスポンジパッドを貼り付けた後、これらの上に面ファスナー部が外側を向くように貼り付け、その上にアルミニウム板を鼻部の形に折り曲げて鼻に装着する固定具である。
【0008】
しかし、「デンバースプリント」のアルミニウム板を、鼻の微妙な三次元形態にピッタリと合致するように形づくることは難しい。また、アルミニウム板自体は熱伝導性に優れるが、鼻部とアルミニウム板との間には紙テープ、スポンジパッド、面ファスナー部が介在するため、全体としては熱伝導に優れておらず、腫れた術後の鼻全体を冷やすことが困難であった。
【0009】
その他、市販品で販売されているギプス材料としては、非特許文献3のような、商品名「レナサーム」がある。
これはポリエステルなどのプラスチック製の熱可塑性のギプスで包帯のように使用したい分だけ患部に巻いて使用でき、繊維状となっているので通気性もある材料として、外科的治療に使用されている。
【0010】
しかし、「レナサーム」は、1層の厚みが薄く、1層だけでは強度が不足し鼻の保護にはならない。一方、2層、3層と重ねるようにして折り曲げると厚みが増し保護できるので強度は高くなるが、2次元に曲げた後に3次元方向には曲がらず、微妙な鼻の形状に適合しないことから、鼻からの浮きが発生し、使用しにくかった。また、メッシュ構造であるため、皮脂などによる汚れに対し、清潔に保つことが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開昭59-183751号公報
【文献】特開2009-153701号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】株式会社名優ホームページ中、デンバースプリントの紹介ページ(URL:http://www.meilleur.co.jp/products/79/)(検索日 平成27年7月27日)
【文献】株式会社高研ホームページ中、アドヒーシブデンバースプリントの紹介ページ(URL:http://www.kokenmpc.co.jp/products/medical_plastics/surgery/denver/)(検索日 平成27年7月27日)
【文献】介護用品・医療用品の通販サイトFEEDメディカルケアウェブサイト中、イワツキ株式会社製レナサームの購入ページ(URL:http://medical-care.feed.jp/product/500120700.html)(検索日 平成27年7月27日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、本来の姿に戻す形成外科の観点からみれば、鼻骨骨折の術後の鼻の微妙な形状にぴったりと適合する柔軟性と鼻をしっかりと保護する強度、鼻の腫れに伴ない生じる熱の放熱性、医療現場などで素早く処理できる簡便性、鼻の回復力に合わせた鼻の形状に適合させる再適合性、がすべて求められるが、特許文献1および2、ならびに非特許文献1~3に見るように、従来はこれらをすべて満たす骨折に用いられる医療用固定材がなかった。
以上の問題は、鼻部を骨折した場合に限られず、手指や足趾など鼻部以外の骨折した患部の保護と固定をする際に等しく妥当する。
【0014】
そこで、本発明の解決すべき課題は、骨折した患部の形状にぴったりと適合する柔軟性と患部を保護する強度を併せ持ち、患部の熱を十分に放熱可能なような熱伝導性に優れ、素早く処理できる簡便性に優れ、患部の回復の度合いに応じた再適合性に優れた、医療用固定材および医療用固定具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上のような課題を解決するため、本発明の医療用固定材を、熱可塑性樹脂と当該熱可塑性樹脂単体の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する熱伝導粉末とを少なくとも含有し、その20℃における熱伝導率が0.170W/m・K以上に構成したのである。
【0016】
医療用固定材の熱伝導率がこの範囲内であれば、患部の熱を効率的に放熱することがで
きる。その結果、患部の回復を従来よりも促進することもできる。また例えば、湯水中に一定時間浸した場合には、熱可塑性樹脂単体からなる医療用固定材と比較して、熱伝導の効果がより高いため、医療用固定材の変形がより短時間におこなえる。
【0017】
また、本発明の医療用固定材においては、その熱伝導粉末がアルミニウム粉末であることが好ましい。アルミニウム粉末であれば、安価で入手が容易でかつ軽量で放熱性が高い。なお、ここでいうアルミニウム粉末には、アルミニウム合金粉末も含まれるものとする。
【0018】
また、本発明の医療用固定材においては、熱可塑性樹脂の融解温度範囲が40℃以上90℃以下の間であることが好ましい。
この範囲内であれば、医療用固定材を湯水中に一定時間浸すだけで、容易に軟化して所望の形状に変形することができるとともに、湯水から上げて常温に戻すと、その所望の形状が維持されたままで強度が高い状態に容易に復帰する。
【0019】
また、本発明の医療用固定材においては、90℃の温水中に3秒間保持した後、当該医療用固定材を180度折り曲げたときに折り曲げ部に割れが発生しないことが好ましい。この場合、通常想定される程度の変形行為では割れがまず発生しないため、患部の形状に応じて医療用固定材(治療箇所に合せて所定の大きさに形成されたような場合には、医療用固定具)を自由に変形させることができる。
【0020】
また、医療用固定材中の熱可塑性樹脂に対する熱伝導粉末の含有重量比が、5/95以上70/30以下であることが好ましい。この範囲内であれば、高い熱伝導性が得られ、かつ医療用固定材が脆弱化することもない。
【0021】
また、本発明の医療用固定材から形成されてなる医療用固定具は、鼻部の外科的治療に用いられ、平板状であり、厚みが1.5mm以上2.5mm以下、幅が50mm以上110mm以下、長さ50mm以上110mm以下であり、厚み方向に貫通する直径が0.5mm以上2.5mm以下の複数の微細孔が形成されている、ことが好ましい。
厚み等の寸法がこれらの範囲内であれば、高い強度と熱伝導性が得られるとともに、所定径の微細孔の形成により通気性も確保できる。
【0022】
また、本発明の医療用固定具においては、複数の微細孔は、隣り合う微細孔の間隔が5mm以上の間隔で配置されていることが好ましい。このように微細孔が一定の距離を保って医療用固定具に万遍なく形成されていると、通気性がより向上する。
【0023】
また、本発明の医療用固定具においては、その表面に、種々の大きさの鼻部に対応した複数の罫線が形成されていることが好ましい。これにより、患者の鼻部の大きさに応じてこれらの罫線に沿って切り取りすることが容易となる。
【発明の効果】
【0024】
発明にかかる医療用固定材および医療用固定具を以上のように構成したので、骨折した患部の形状にぴったりと適合する柔軟性と患部を保護する強度を併せ持ち、患部の熱を十分に放熱可能なように熱伝導性に優れ、素早く処理できる簡便性に優れ、患部の回復の度合いに応じた再適合性に優れたものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図3】実施形態の医療用固定具を罫線により切り取った状態を示す正面図
【
図4】実施形態の医療用固定具の患部への使用状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
図1から
図4に示す、実施形態にかかる医療用固定具10は、人体の骨折した患部Nを覆って固定するために用いられ、患部の放熱性および患部への適合性に優れるものであり、実施形態の医療用固定材11から公知の方法により成形されている。
患部Nの部位は特に限定されないが、上述のような特性から、
図4のように、鼻部の治療に用いるのに特に適している。
【0027】
実施形態の医療用固定具10の形状は特に限定されず、種々の形状が採用できるが、取扱いの便宜等から、
図1~
図3に示すように、平板状に成形して、
図4に示すように、患者の患部Nの形状に沿わせて変形させられるものが好ましい。図示では、医療用固定具10は平面視矩形となっているが、これに限定されず、平面視円形、多角形、台形、楕円形等でもよい。例えば、鼻部の治療に用いる場合には、鼻部の形状に添わせやすい台形形状であることが好ましい。
実施形態の医療用固定具10の寸法も特に限定されないが、平板状の場合、厚みが1.5mm以上2.5mm以下、幅が50mm以上110mm以下、長さ50mm以上110mm以下であることが好ましい。幅は90mm以下がさらに好ましく80mm以下がより好ましい。また、長さは90mm以下がより好ましい。
厚みが上記範囲内であれば、患部を保護および固定するのに十分な強度が得られる。厚みが上記範囲を下回る場合、強度が弱すぎる傾向にあり、上回る場合、温水下での変形に時間を要してしまう。
また幅と長さが上記範囲内であれば、患部が鼻部の場合に、これを覆う大きさとして必要十分な大きさとなる。
【0028】
図1~
図4のように、実施形態の医療用固定具10は、厚み方向に貫通する直径0.5mm以上2.5mm以下の複数の微細孔12が形成されていることが好ましい。
これにより、通気性が確保されるので、皮膚が蒸れることによるかゆみやかぶれ等を抑制することができる。なお、複数の微細孔12は、隣り合う微細孔12の間隔が5mm以上の間隔で、医療用固定具10のほぼ全面に万遍なく配置されていることがより好ましい。この場合、通気性がより高くなり、皮膚の蒸れが効果的に抑制できる。
【0029】
また、
図1~
図3のように、実施形態の医療用固定具10の表面には、種々の大きさの患部たる鼻部に対応した複数の罫線13が形成されていてもよい。これらの罫線が、例えば、子供用、女性用、男性用、などのように、患者の鼻部の大きさに応じて形成されていれば、患者の鼻部に応じてこれらの罫線13に沿って切り取りすることで、装着性が容易に向上する。罫線13の形状は鼻部に対応可能な限りにおいて限定されないが、
図1および
図2では、罫線13は、左右一対の合同な等脚台形を、その台形の上底同士で対向させた形状となっている。
これにより、罫線13に沿って切り取ると、それぞれ鼻部に装着可能な2つの等脚台形状の片が切り出されることになる。この等脚台形状の片の1つを鼻部に装着すればよい。また、2つの等脚台形の上底部分は切り取らずにこれら2つの等脚台形を一体とした状態でも使用できる。この場合は、
図2で示す一方の等脚台形状の台形下底部分を上方に向けることで、一方の等脚台形は額に添わせ、他方の等脚台形は鼻部に添わせて変形して装着することができる。この場合、額部分も冷却可能となるとともに、額部分でも切出された片が固定されることになるので装着性がより安定になる。
罫線13が無い場合、鼻の形状に合わせて医療用固定具10をカットすると、切断面にバリが出て、鼻に装着した場合に違和感が出る恐れがあるが、罫線13を入れることで、切断面にバリが発生しにくくなり、違和感なく装着できる。
【0030】
なお、放熱性を損なわない限度で、医療用固定具10の患部と接する側の面に粘着テープなどの固定補助手段を設けてもよい。これにより装着性がより向上する。
また、さらに放熱性を高めるために、医療用固定具10の患部と接しない側の表面に、シート状の冷却ジェルを貼り付けてもよい。
【0031】
実施形態の医療用固定材11は、熱可塑性樹脂と当該熱可塑性樹脂単体の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する熱伝導粉末とを少なくとも含有する。
実施形態の医療用固定材11の製造方法は、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂と熱伝導粉末単体あるいは熱伝導粉末を含むマスターバッチとを所定量配合して加熱混合することにより得ることができる。
【0032】
また、実施形態の医療用固定材11は、20℃における熱伝導率が0.170W/m・K以上に構成されている。このような熱伝導率は、熱伝導粉末および熱可塑性樹脂の種類の選択、配合の割合を適宜調整することで実現可能である。
術後の患部の腫れに対し、装着材料の通気性以外に熱伝導性が高くなければ、熱がこもってしまい回復が遅れるが、医療用固定材11の20℃における熱伝導率が0.170W/m・K以上であれば、実施形態の医療用固定具10において、患部たる鼻部の熱を効率的に放熱することができる。また熱伝導率をこのように設定すれば、湯水中に医療用固定具10を一定時間浸した場合には、熱可塑性樹脂のみからなる場合よりも熱が伝わりやすいため、患部の形状に合わせた変形がより短時間に可能であり、簡便性に優れる。
医療用固定材11の20℃における熱伝導率は、0.200W/m・K以上であることが好ましく、さらには0.250W/m・K以上であることがより好ましい。熱伝導率の上限は、高い分には特段の問題は生じないが、生産コストや変形時の取扱い性を考慮すると、1.000W/m・K程度であると思われる。
【0033】
また、医療用固定材11は、90℃の温水中に3秒間保持した後、180度折り曲げたときに折り曲げ部に割れが発生しないことが好ましい。この場合、患部の形状に合わせて自由な形状に容易に変形させることができ、患部への適合性および患部の治癒に伴なう形状変化に対する再適合性が一層高いものとなる。
【0034】
実施形態の医療用固定材11中の熱伝導粉末は、熱伝導性を向上させるために含有される。
熱伝導粉末は、医療用固定材11に含有する熱可塑性樹脂よりも高い熱伝導率を有する熱伝導粉末であればよく、その種類は特に限定されない。例えば、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、鉄、ステンレスなどの金属粉末、炭化ケイ素、窒化アルミ、アルミナ、炭素などの無機粉末などが挙げられる。また、樹脂粉末のように熱伝導性の低い粉末の表面に、めっき等の化学的処理を施すことで金属被膜や無機化合物被膜が表面に形成した熱伝導性の高い粉末も使用することができる。
【0035】
実施形態の医療用固定材11全体の熱伝導性を高めるために、熱伝導粉末は、20℃における熱伝導率が100W/m・K以上である熱伝導粉末であることが好ましく、20℃における熱伝導率が200W/m・K以上である熱伝導粉末であることがより好ましい。
この種の熱伝導粉末の中でも、安価で入手が容易でかつ軽量で高い放熱性を有するアルミニウム粉末(アルミニウムの合金を含む)がよい。この場合、医療用固定材11の重量やコストの増加を抑えることができる。
【0036】
また、これらの熱伝導粉末は、医療用固定材11に含有する熱可塑性樹脂よりも高い熱伝導率を有する熱伝導粉末となるのであれば、その表面を樹脂などで表面処理されていてもよい。
このような表面処理がなされている場合、皮膚と直接接触する部分への汗などの水分付着による金属粉末の腐食やそれによる熱可塑性樹脂の変質を抑制することができる。また、患者が金属アレルギーを有している場合には、そのような表面処理がなされていれば皮膚と金属粉末との直接的な接触を防ぐことができ、金属アレルギーの発症を抑制することが可能となる。なお、金属アレルギー対策としては、金属粉末以外の無機粉末からなる熱伝導性粉末を使用することで対処できる。
また、熱伝導粉末の形状も特に限定されず、球状、粒状、板状、フレーク状のものが例示できる。
【0037】
熱伝導粉末を熱可塑性樹脂に混合させる際には、熱伝導粉末単体で混合させてもよいし、取扱いを容易にするため、キャリア樹脂中に含有させてマスターバッチ化したものを混合させてもよい。キャリア樹脂の種類は特に限定されないが、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリエチレンワックスなどが例示できる。マスターバッチ中の熱伝導粉末の含有量は特に限定されないが、60~80重量%の含有量が例示できる。
【0038】
医療用固定材11中の熱伝導粉末の含有量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂に対する熱伝導粉末の含有重量比(熱伝導粉末/熱可塑性樹脂)が、5/95以上70/30以下であることが好ましい。10/90以上50/50以下がより好ましく、さらには、30/70以下であることがより好ましい。この範囲内であれば、使用上問題の無い範囲内で成形性、熱伝導性、柔軟性の全ての点を程よく満足することが可能となる。熱伝導粉末の含有量が上記範囲を下回ると、医療用固定材11として用いたときに重量が増加し、また医療用固定材11が脆くなって患部に沿わせた際に割れや折れが生じやすくなるからである。
【0039】
熱伝導粉末の平均粒径は特に限定されないが、メジアン径(D50)で5~100μmの範囲内が好ましい。この範囲を下回ると、熱伝導粉末の取扱いが容易ではなくなるからであり、この範囲を上回ると、医療用固定材中に均等に分散されにくくなり、医療用固定材に均一な熱伝導性を与えにくくなるからである。なお、熱伝導粉末の平均粒径は、レーザー回折法などの公知の粒度分布測定法により測定できる。
【0040】
実施形態の医療用固定材11に含有される熱可塑性樹脂の種類は特に限定されない。熱可塑性樹脂であれば、熱を加えることで人体の患部に沿わせて変形させることが容易であり、かつ固化した後にはその形状が維持されやすいため、柔軟性、強度、適合性および再適合性が良好であり、扱いやすくなる。
【0041】
熱可塑性樹脂として、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系樹脂が例示できる。これらの樹脂が混合したものであってもよい。熱可塑性樹脂の含有量は前述のとおりなので繰り返さないが、この範囲を下回ると、医療用固定材が脆くなって患部に沿わせた際に割れや折れが生じやすくなる。また、この範囲を上回ると、熱伝導粉末をさらに多く配合しても、医療用固定材の熱伝導性の向上があまり望めなくなる。
なお熱可塑性樹脂の熱伝導率は、特に限定されないが、通常は0.1~0.5W/m・Kである。
【0042】
熱可塑性樹脂の融解温度範囲は特に限定されないが、40℃以上90℃以下であることが好ましい。この範囲内であれば、温水により軟化し、取扱いが容易となる。
なかでも、ポリカプロラクトンが、融解温度範囲が58~60℃であり、50~80℃程度の温水で簡単に熱変形しかつ固化後の形状記憶性が良好であるため、特に好ましい。
ポリカプロラクトンを用いる場合、Perstorp社製の熱可塑性ポリカプロラクト
ンである、グレード名CapaTM6100、同6200、同6250、同6400、同6430、同6500、同6500C、同6506、同6800が好適に使用できる。これらのポリカプロラクトンは、約60℃以上のお湯に漬けるだけで(最適温度と時間は90℃約3秒)容易に変形させることができるため、2次元に折り曲げた後、3次元に形作る(特に鼻の鼻根から鼻尖上部にかけてのラインにぴったりと沿わす)ことが容易であり、鼻の微妙な曲線部に沿わせることができる。したがって、粘着剤を用いることなく医療用固定具10を患部に固定することが可能であり、低刺激である。なお、前述の熱伝導粉末を含むマスターバッチを用いる場合、医療用固定材にマスターバッチ中のキャリア樹脂が含まれることになるが、キャリア樹脂自身も熱可塑性樹脂である場合や医療用固定材を構成するキャリア樹脂を含めた樹脂成分全体として前述した熱可塑性樹脂と同様の特性を示す場合は、本発明の医療用固定材を構成する熱可塑性樹脂とみなすことができる。
なお、本発明の効果を阻害しない限り、他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例および比較例を示し、本発明を一層明確にする。
【0044】
実施例の医療用固定材に用いる熱伝導粉末として、アルミニウム粉末(20℃における熱伝導率が204W/m・K)を含有するマスターバッチである東洋アルミニウム株式会社製の商品名「METAX NEO(メタックスネオ)」品番「NME010T6」を準備した。
マスターバッチに含有するアルミニウム粉末の平均粒径は10μmであり、キャリア樹脂は低密度ポリエチレンとポリエチレンワックスの混合物であり、マスターバッチ中のアルミニウム粉末の含有量は、70重量%であった。
また、実施例および比較例の医療用固定材に用いる熱可塑性樹脂として、Perstorp社製の熱可塑性ポリカプロラクトン「Capa
TM6500」(数平均分子量50000g/mol、メルトフローインデックス(MFI)が160℃で7dg/min、融解温度範囲58~60℃)を準備した。
これらポリカプロラクトンとメタックスネオを重量比で60:40の割合に配合(すなわち、アルミニウム粉末と熱可塑性樹脂との重量比(アルミニウム粉末/熱可塑性樹脂)は28/72)し、加熱溶融して均一に混合したうえで、射出温度180℃で
図1および2に示すような形状に射出成型を行い、実施例の医療用固定具を作製した。
同様に、ポリカプロラクトンを加熱溶融して射出温度180℃で
図1および2に示すような形状に射出成型を行い、比較例の医療用固定具を作製した。
なお、これらの医療用固定具の寸法は同一であり、厚みが2mm、幅が100mm、縦(長さ)100mmであり、微細孔の直径が2mm、隣り合う微細孔同士の間隔が幅7~10mm(中心部分から左右の幅方向に向かって順番に、10mm、9mm、9mm、8.5mm、7.5mm、7mm)、縦9mmであった。ただし、
図2に示すように、罫線と重なる部分には微細孔は形成されておらず、隣り合う微細孔同士の間隔が10mm超となるものも含んでいる。
さらに参考例として、イワツキ株式会社製の「レナサーム」を準備し、実施例および比較例と同じ幅および長さに切り出して、医療用固定具を作製した。
【0045】
(熱伝導性試験)
以上の実施例、比較例および参考例について、以下の条件で熱伝導性試験をおこなった。
・試験内容
サーモラボIIB型精密迅速熱物性測定装置(装置型番KES-F7、カトーテック株式会社製、以下、「熱伝導測定装置」と称す。)を用いて、測定環境として温度20℃、相対湿度65±10%にて、熱伝導性試験(定常熱伝導測定)を行った。
まず、熱伝導測定装置の冷却ベースの温度を20℃、B.T.Box(熱源台)の温度を
30℃に設定した。
次いで、熱伝導性試験の対象である、実施例の医療用固定具を5cm×5cmの大きさの試験片に切出し、切出した試験片を冷却ベースに載せ、試験片の上から熱源台を重ねた。
次いで、熱源台の消費熱量が一定になった後、熱源台の熱流量を測定し、この時の冷却ベースおよび熱源台の温度ならびに熱源台の平均熱流量から下記に示す式により熱伝導率を算出した。
熱伝導率(W/mk)=(〔熱源台の熱流量(W)〕×〔試験片の厚み(cm)〕)÷(〔熱源台の面積(cm2)〕×〔熱源台の温度(℃)-冷却ベースの温度(℃)〕)
このようにして同一試験片にて3回熱伝導率を測定した後、平均値を算出した。同様にして、比較例と参考例の各試験片の熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。表中各数値は、熱伝導率(W/mk)を表す。
同表から、実施例が比較例に比べて約200%、参考例に比べて約390%熱を伝えやすいことが理解できる。
【0046】
【0047】
(折り曲げ試験)
実施例、比較例および参考例の医療用固定具を90℃の温水中に3秒間保持後、すぐに医療用固定具の両端を手で保持して中心部分を折り曲げ起点にして180度に折り曲げる試験を行った。
折り曲げ試験後の医療用固定具の折り曲げた部分に割れが発生しなかったものを合格(○)とし、割れが発生したものを不合格(×)とした。結果を表2に示す。
同表から、実施例の医療用固定具が、比較例および参考例の医療用固定具と比較して、遜色のない折り曲げ性能を有していることが理解できる。
【0048】
【0049】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
10 医療用固定具
11 医療用固定材
12 微細孔
13 罫線
N 患部