(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5377 20060101AFI20220324BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20220324BHJP
A61K 35/765 20150101ALI20220324BHJP
A61K 35/768 20150101ALI20220324BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220324BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220324BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220324BHJP
C12N 7/00 20060101ALN20220324BHJP
【FI】
A61K31/5377
C12N15/115 Z ZNA
A61K35/765
A61K35/768
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P17/00
C12N7/00
(21)【出願番号】P 2017145535
(22)【出願日】2017-07-27
【審査請求日】2020-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(72)【発明者】
【氏名】水野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】伊賀瀬 雅也
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】Endocrine-Related Cancer,2013年,Vol.20,pp.633-647
【文献】第157回日本獣医学会学術集会講演要旨集, 2014, p.481, 演題番号HSO-20の項目
【文献】第157回 日本獣医学会学術集会講演要旨集,2014年,p.481,演題番号HSO-20の項目
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 35/00-35/768
C12N 15/00-15/90
A61P 43/00
A61P 35/00-35/04
A61P 17/00-17/18
C12N 7/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATMキナーゼ阻害剤を有効成分とし、腫瘍溶解性レオウイルスと併用して投与されることを特徴とする腫瘍溶解性レオウイルスの抗腫瘍効果増強剤
であって、前記ATMキナーゼ阻害剤が、(2R,6S-rel)-2,6-ジメチル-N-[5-[6-(4-モルフォリニル)-4-オキソ-4H-ピラン-2-イル]-9H-チオキサンテン-2-イル]-4-モルフォリンアセトミド若しくは2-モルフォリン-4-イル-6-チアントレン-1-イル-ピラン-4-オン、あるいはこれらの薬学的に許容される塩、又は、ATMに結合してATMキナーゼ活性を阻害するアプタマーである、腫瘍溶解性レオウイルスの抗腫瘍効果増強剤。
【請求項2】
腫瘍が、イヌの腫瘍であることを特徴とする請求項
1記載の腫瘍溶解性レオウイルスの抗腫瘍効果増強剤。
【請求項3】
腫瘍が、悪性黒色腫であることを特徴とする請求項1
又は2記載の腫瘍溶解性レオウイルスの抗腫瘍効果増強剤。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか記載の腫瘍溶解性レオウイルスの抗腫瘍効果増強剤と腫瘍溶解性レオウイルスとを含む悪性腫瘍の予防又は治療のためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍溶解性ウイルスと併用して投与される、腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療においては、腫瘍癌細胞に感染して腫瘍癌細胞を死に至らしめる腫瘍溶解性ウイルスを用いた療法についての研究が進んでいる。例えば細胞表面分子に特異的な単鎖可変フラグメント(scFv)と、腫瘍抗原に特異的なscFvとを含む二部分分子をコードする、腫瘍溶解性ウイルスを用いた癌の治療方法(特許文献1参照)が開示されている。
【0003】
また、腫瘍溶解性ウイルスの治療効果を高めるための研究も進んでいる。たとえば、(a)固形腫瘍細胞を選択的に殺すことが可能である腫瘍溶解性ウイルスを有効量、固形腫瘍内若しくはその近傍に導入する工程、ならびに(b)固形腫瘍部位でのもしくはその近傍での局所的な免疫反応を抑制する工程を含む、対象の固形腫瘍を治療しまたは改善させる方法(特許文献2参照)が開示されている。さらに、ヒトの多発性骨髄腫に対して、レオウイルスとヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤とを併用する方法(特許文献3、非特許文献1参照)や、ヒトの胃癌に対して、レオウイルスとHER2タンパク質に結合する抗体医薬トラスツマブとを併用する方法(非特許文献2参照)が開示されている。
【0004】
上記腫瘍溶解性ウイルスを用いた治療法は、医療・獣医療ともに、いくつかの腫瘍に対しては一定の抗腫瘍効果を示すものの、完治に至らず、相乗効果を示す併用薬の探索が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-512199号公報
【文献】特開2009-525989号公報
【文献】特開2017-515847号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Stiff, A. et al. Histone Deacetylase Inhibitors Enhance theTherapeutic Potential of Reovirus in Multiple Myeloma. Mol. Cancer Ther. 15, 830-841 (2016).
【文献】Hamano, S. et al. Oncolytic reovirus combined with trastuzumabenhances antitumor efficacy through TRAIL signaling in human HER2-positivegastric cancer cells. Cancer Lett. 356, 846-854 (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、腫瘍溶解性ウイルス療法において、腫瘍溶解性ウイルスによる抗腫瘍効果を増強する物質を探索することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、化学療法基盤支援活動より譲渡された標準阻害剤キットを用いて、イヌ悪性黒色腫細胞株に対する腫瘍溶解性レオウイルスの抗腫瘍効果を増強する薬剤のスクリーニングを実施した。その結果、ATM(Ataxia telangiectasia mutated:血管拡張性失調症変異)キナーゼ阻害剤と腫瘍溶解性レオウイルスを併用することで、腫瘍溶解性レオウイルスにおける抗腫瘍効果が増強することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(6)に示すとおりである。
(1)ATMキナーゼ阻害剤を有効成分とし、腫瘍溶解性ウイルスと併用して投与されることを特徴とする腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤。
(2)ATMキナーゼ阻害剤が、(2R,6S-rel)-2,6-ジメチル-N-[5-[6-(4-モルフォリニル)-4-オキソ-4H-ピラン-2-イル]-9H-チオキサンテン-2-イル]-4-モルフォリンアセトミド若しくは2-モルフォリン-4-イル-6-チアントレン-1-イル-ピラン-4-オン、又はこれらの薬学的に許容される塩であることを特徴とする上記(1)記載の腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤。
(3)腫瘍溶解性ウイルスが、腫瘍溶解性レオウイルスであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤。
(4)腫瘍が、イヌの腫瘍であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載の腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤。
(5)腫瘍が、悪性黒色腫であることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載の腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤。
(6)上記(1)~(5)のいずれか記載の腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤と腫瘍溶解性ウイルスとを含む悪性腫瘍(がん)の予防又は治療のためのキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明の腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤を用いれば、腫瘍溶解性ウイルスと併用することで抗腫瘍効果を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】イヌの悪性黒色腫細胞株4種(CMeC1,KMeC,LMeC,CMGD2)に対して、腫瘍溶解性レオウイルスにATMキナーゼ阻害剤KU60019を併用投与して培養することによる細胞傷害効果の増強について検討した結果である。
【
図2】ヒト腫瘍細胞株(A549)に対して、腫瘍溶解性レオウイルスにATMキナーゼ阻害剤を併用投与して培養することによる細胞傷害効果の増強について検討した結果である。
【
図3】イヌの悪性黒色腫細胞株CMeC1にレオウイルスとATMキナーゼ阻害剤を併用投与して培養した場合の細胞周期の各段階における細胞数を測定した結果を示す図である。
【
図4】イヌ悪性黒色腫細胞株CMeC1又はKMeCにレオウイルス、ATMキナーゼ阻害剤及び/又はPan-caspase阻害剤を投与して培養し、細胞障害におけるカスパーゼの関与を調べた結果を示す図である。
【
図5】イヌの悪性黒色腫細胞株CMeC1にレオウイルスとATMキナーゼ阻害剤を併用投与して培養した場合のWestern Blotting法によるウイルス構造蛋白の検出結果を示す図である。
【
図6】イヌの悪性黒色腫細胞株CMeC1にレオウイルスとATMキナーゼ阻害剤を併用投与して培養した場合の培養上清中へのウイルス産生量を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の抗腫瘍効果増強剤は、ATMキナーゼ阻害剤を有効成分とし、腫瘍溶解性ウイルスと併用して投与されるものであれば特に制限されず、ここで、ATMはヒトの場合に染色体11q22.3に、イヌの場合に染色体5番目に位置し、Ataxia telangiectasiaの責任遺伝子である。
【0013】
ATMキナーゼ阻害剤としては、ATMの活性化を阻害する物質であればよく、例えば、配列番号1に示すヒトATMのアミノ酸配列における367番目、1893番目、1981番目のセリン又は配列番号2に示すイヌATMのアミノ酸配列における367番目、1894番目、1985番目のセリンのリン酸化を阻害する物質や、ATM特異的にATPと競合することでキナーゼ活性を阻害する物質を挙げることができる。かかる物質としては、低分子化合物、抗体、抗体断片、核酸、アプタマーでもよいが、低分子化合物であることが好ましく、例えば、以下の式(I)に示す(2R,6S-rel)-2,6-ジメチル-N-[5-[6-(4-モルフォリニル)-4-オキソ-4H-ピラン-2-イル]-9H-チオキサンテン-2-イル]-4-モルフォリンアセトミド((2R,6S-rel)-2,6-Dimethyl-N-[5-[6-(4-morpholinyl)-4-oxo-4H-pyran-2-yl]-9H-thioxanthen-2-yl]-4-morpholineacetamide:CAS No: 925701-46-8、式(II)に示す2-モルフォリン-4-イル-6-チアントレン-1-イル-ピラン-4-オン(2-Morpholin-4-yl-6-thianthren-1-yl-pyran-4-one:CAS No:587871-26-9)、又はこれらの薬学的に許容される塩を好適に挙げることができる。前記低分子化合物は商用的に入手可能であり、式(I)についてはKU60019、式(II)についてはKU55933の商品名で販売されている。
【0014】
【0015】
【0016】
上記(2R,6S-rel)-2,6-ジメチル-N-[5-[6-(4-モルフォリニル)-4-オキソ-4H-ピラン-2-イル]-9H-チオキサンテン-2-イル]-4-モルフォリンアセトミドや2-モルフォリン-4-イル-6-チアントレン-1-イル-ピラン-4-オンの薬理的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩や、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩や、亜鉛塩等の遷移金属塩等を挙げることができる。
【0017】
ATMキナーゼ阻害剤によるヒトATM及びイヌATMのキナーゼ活性阻害は、公知の手法で測定することができ、例えばKimらの方法(Kim, S., Lim, D., Christine, E., Kastan, M. B. & Canman, C. E. Substrate Specificities and Identification of Putative Substrates of ATM Kinase Family Members Substrate Specificities and Identification of Putative Substrates of ATM Kinase Family Members . J. Biol. Chem. 274, 37538-37543 (1999))で測定することができる。
【0018】
本発明における抗腫瘍効果とは、悪性腫瘍細胞を死滅させる作用を意味する。
【0019】
本発明における腫瘍溶解性ウイルス(oncolytic virus)とは、正常細胞に感染してもほとんど増殖しないが、悪性腫瘍細胞に感染すると増殖し、悪性腫瘍細胞を死滅(悪性腫瘍細胞障害)させる能力を有するウイルスを意味するものとして当技術分野では周知であり、例えばMolecular Therapy、第18巻、第2号、2010年2月、233~234ページに総説されている。かかる腫瘍溶解性ウイルスとしては悪性腫瘍細胞に感染して悪性腫瘍細胞を死滅させる能力を有する限り特に限定されないが、腫瘍溶解性レオウイルス、腫瘍溶解性アデノウイルス、腫瘍溶解性麻疹ウイルス、腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス、腫瘍溶解性ニューカッスル病ウイルス、腫瘍溶解性牛痘ウイルス、腫瘍溶解性ムンプスウイルス、腫瘍溶解性コクサッキーウイルス、腫瘍溶解性ワクシニアウイルス等を挙げることができ、腫瘍溶解性レオウイルスであることが好ましく、腫瘍溶解性3型レオウイルスであることがより好ましい。
【0020】
併用とは、時間的に同時に投与する方法や、ほぼ同時に投与する方法を挙げることができる。前記「ほぼ同時に投与」とは、たとえば互いに24時間以内に、より好ましくは8時間以内に、さらに好ましくは互いに1~4時間以内に投与することを挙げることができる。
【0021】
本発明の抗腫瘍効果増強剤は、腫瘍溶解性ウイルスと併用した投与による、腫瘍溶解性ウイルスによる抗腫瘍効果を増強する旨の添付文書等と共に単独製剤として提供することもできるが、上記添付文書等と共に、本発明の抗腫瘍効果増強剤と腫瘍溶解性ウイルスとの混合製剤とすることもできる。
【0022】
本発明の悪性腫瘍の治療又は予防のためのキットとしては、ATMキナーゼ阻害剤と、腫瘍溶解性ウイルスとをそれぞれ有効成分とする個別の製剤の組合せ(組合せ製剤)として含むキットであれば特に制限されず、上記キットにより悪性腫瘍の治療又は予防を行うための方法を記載した添付文書等を含んでもよく、かかる悪性腫瘍の治療又は予防のためのキットを用いると、腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果を増強することが可能となる。
【0023】
本発明の抗腫瘍効果増強剤、及び本発明の悪性腫瘍の治療又は予防のためのキットの投与対象としては、哺乳動物又は哺乳動物細胞を好適に挙げることができ、かかる哺乳動物の中でも、イヌ、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、サル、チンパンジーをより好適に挙げることができ、イヌ、又はヒトを特に好適に挙げることができる。
【0024】
本発明の抗腫瘍効果増強剤、及び本発明の悪性腫瘍の治療又は予防のためのキットの各組合せ製剤の剤型としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、溶液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤、カプセル剤、坐剤、注射剤等を挙げることができる。これらの製剤は、製剤上の必要に応じて、適宜の薬理的に許容される担体、例えば、溶媒、賦形剤、結合剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、吸着剤、甘味剤、希釈剤等の任意成分を配合することにより製造することができる。
【0025】
本発明の抗腫瘍効果増強剤、及び本発明の悪性腫瘍の治療又は予防のためのキットの各成分の投与方法は、本発明の抗腫瘍効果増強、又は本発明の悪性腫瘍の治療又は予防の増強を有する限り特に制限されないが、経口投与、あるいは直腸内投与、口腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与等の非経口投与を挙げることができ、負担の重い持続注入治療を行う必要がない点で経口投与が好ましい。
【0026】
本発明の抗腫瘍効果増強剤、及び本発明の悪性腫瘍の治療又は予防のためのキットおける抗腫瘍効果増強剤の一日の投与量としては、抗腫瘍効果増強効果や、悪性腫瘍の予防又は治療効果を有する限り特に制限されないが、有効成分であるATMキナーゼ阻害剤で換算して、例えばヒトの成人の場合には、0.01~50mg/kg体重、好ましくは0.1~30mg/kg体重、より好ましくは1~20mg/kg体重を挙げることができ、イヌの成人の場合には、0.01~50mg/kg体重、好ましくは0.1~20mg/kg体重、より好ましくは1~10mg/kg体重を挙げることができる。また、1日に1回投与でも、2回、3回、5回等、複数回に分けて投与してもよい。さらに、投与する本発明の抗腫瘍効果増強剤は、1種でも、2種以上組み合わせてもよい。
【0027】
一方、腫瘍溶解性ウイルスの1日の投与量としては特に制限されないが、例えばヒトの成人の場合には、1×102~1×1015pfu/kg体重、好ましくは1×103~1×1013pfu/kg体重であり、イヌの場合には、1×102~1×1015pfu/kg体重、好ましくは1×102~1×1015pfu/kg体重であることが好ましい。また、1日に1回投与でも、2回、3回、5回等、複数回に分けて投与してもよい。さらに、投与する腫瘍溶解性ウイルスは、1種でも、2種以上組み合わせてもよい。
【0028】
本発明の抗腫瘍効果増強剤、及び本発明の悪性腫瘍の治療又は予防のためのキットにおける腫瘍としては、悪性黒色腫、リンパ腫、肥満細胞腫、乳腺腫瘍、骨肉腫、肺癌、膀胱癌、頭頸部癌等を挙げることができ、悪性黒色腫を好適に挙げることができる。
【0029】
本発明の抗腫瘍効果増強剤の他の態様としては、1)腫瘍溶解性ウイルスと併用して、ATMキナーゼ阻害剤を対象に投与することを特徴とする腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強方法や、2)腫瘍溶解性ウイルスと併用して投与され、腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤として使用するための、ATMキナーゼ阻害剤や、3)ATMキナーゼ阻害剤の、腫瘍溶解性ウイルスと併用して、ATMキナーゼ阻害剤を対象に投与する腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果増強剤の調製における使用を挙げることができる。
【0030】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの
例示に限定されるものではない。
【0031】
<スクリーニング>
本発明者らは、化学療法基盤支援活動(文部科学省)より譲渡された標準阻害剤キットを用いて、イヌ悪性黒色腫細胞株に対する腫瘍溶解性レオウイルスの細胞障害を増強する薬剤のスクリーニングを以下の方法で実施した。
【0032】
イヌ悪性黒色腫細胞株CMeC1をRPMI-1640増殖培地に5×103個播種して2日間、37℃で培養した。次に、腫瘍溶解性レオウイルス3型Dearing株GMP grade Reolysin(登録商標)(ONCOLYTICS BIOTECH社より入手)及び標準阻害剤キットに含まれている285個の阻害剤をそれぞれ濃度がMOI(multiplicity of infection:細胞1個に対するウイルスの数)100及び10μMとなるように加えて2日間、37℃で培養した。培養後の細胞数をCell counting kit-8(同仁化学研究所製)を用いて測定した。285個の阻害剤の中から、阻害剤のみでは細胞傷害活性が低く、腫瘍溶解性レオウイルスと併用することで、腫瘍溶解性レオウイルス単剤と比較して細胞傷害活性が増強されるものを基準として、ATM(Ataxia telangiectasia mutated)キナーゼ阻害剤KU55933を選択した。標準阻害剤キットに含まれているATMキナーゼ阻害剤はKU55933であったが、後発薬剤として、より特異性の高いKU60019が販売されていたため、スクリーニング以降の実験では、KU60019を用いて実施した。
【0033】
<細胞傷害増強効果>
イヌの悪性黒色腫細胞株4種(CMeC1,KMeC,LMeC,CMGD2)及びヒト腫瘍細胞株(A549)に対するATMキナーゼ阻害剤の腫瘍溶解性レオウイルスの細胞傷害効果の増強について検討した。イヌ悪性黒色腫細胞株をRPMI-1640増殖培地に5×10
3個播種して2日間、37℃で培養した。次に、上記腫瘍溶解性レオウイルス(ONCOLYTICS BIOTECH社より入手)をMOI100(A549とCMGD2はMOI10)及びATMキナーゼ阻害剤KU60019を濃度が0、1.25、2.5μMとなるように加えて2日間、37℃で培養した。培養後の細胞数をCell counting kit-8(同仁化学研究所製)を用いて測定した。結果を
図1、2に示す。
図1、2中、横軸はATMキナーゼ阻害剤KU60019の濃度、縦軸が細胞の生存率(Mockでの阻害剤なしの場合を100%とした場合の割合)、Mockは腫瘍溶解性レオウイルス添加無しの場合を示している。
【0034】
図1、2に示すとおり、いずれの細胞株においても、ATMキナーゼ阻害剤KU60019単独では、細胞傷害効果を有しないこと、ATMキナーゼ阻害剤KU60019と腫瘍溶解性レオウイルスを併用することで、腫瘍溶解性レオウイルスによる細胞傷害効果が増強することが明らかとなった。
【0035】
<細胞傷害の増強メカニズムの解析~細胞周期>
ATMキナーゼ阻害剤と腫瘍溶解性レオウイルスの併用による細胞障害の増強メカニズムを解明するために、細胞周期との関係を調べた。イヌの悪性黒色腫細胞株CMeC1をMOI100の上記腫瘍溶解性レオウイルス(ONCOLYTICS BIOTECH社より入手)及び2.5μMのATMキナーゼ阻害剤KU60019上で36時間又は48時間、37℃で培養した。CMeC1株が接着したプレートにトリプシンEDTAを加えて37℃で5分間培養し、チューブに回収後、PBSで洗浄し、PI染色を行い、フローサイトメトリーにより細胞周期の各段階における細胞数を測定した。結果を
図3に示す。
【0036】
図3に示すように、ATMキナーゼ阻害を加えることでG0期とG2/M期の細胞数が増加していた。このとこから、腫瘍溶解性レオウイルスにATMキナーゼ阻害剤の併用することで認められた細胞傷害の増強が、細胞死と細胞周期停止(G2/M期の細胞数増加)によるものであることが明らかとなった。
【0037】
<細胞傷害の増強メカニズムの解析~カスパーゼ依存>
ATMキナーゼ阻害剤と腫瘍溶解性レオウイルスの併用による細胞障害の増強メカニズムを解明するために、アポトーシスに関与するカスパーゼとの関係を調べた。イヌ悪性黒色腫細胞株CMeC1又はKMeCをDMSO(vehicle)又は50μMのPan-caspase阻害剤であるZ-VAD-FMK(Calbiochem社製)で1時間、37℃で前処理した。次に、(1)DMSO、(2)2.5μMのATMキナーゼ阻害剤KU60019、(3)MOI100の上記腫瘍溶解性レオウイルス(ONCOLYTICS BIOTECH社より入手)、(4)2.5μMのATMキナーゼ阻害剤KU60019+MOI100の腫瘍溶解性レオウイルスを加えて2日間、37℃で培養した。培養後の細胞数をトリパンブルー染色(ナカライテスク社製)を用いて測定し、Vehcle+DMSOの場合を100とした場合の相対値を算出した。結果を
図4に示す。
【0038】
図4に示すように、Pan-caspase阻害剤Z-VAD-FMKを、ATMキナーゼ阻害剤及び腫瘍溶解性レオウイルスと併用することで、細胞死が完全に抑制された。したがって、ATMキナーゼ阻害剤と腫瘍溶解性レオウイルスとの併用による細胞死は、カスパーゼ依存的な細胞死であることが明らかとなった。
【0039】
<細胞傷害の増強メカニズムの解析~ウイルスの増殖>
ATMキナーゼ阻害剤と腫瘍溶解性レオウイルスの併用による細胞障害の増強メカニズムを解明するために、ウイルス増殖との関係を調べた。イヌの悪性黒色腫細胞株CMeC1をRPMI-1640増殖培地上で2日間、37℃で培養した。次に腫瘍溶解性レオウイルスをMOI100、及びATMキナーゼ阻害剤KU60019を2.5枚μMとなるように加えて24時間又は48時間、37℃で培養した。その後タンパク抽出処理し、Western Blotting法によるウイルス構造蛋白を検出すると共に、48時間後の培養上清についてL929細胞を用いたTCID50(Tissue Culture Infectious Dose)法により培養上清中へのウイルス産生量を調べた。Western Blotting法によるウイルス構造蛋白の検出結果を
図5に、培養上清中へのウイルス産生量を調べた結果を
図6に示す。
図6中、縦軸は添加前のウイルス量を1とした時のウイルス増加量を示す。
図5、6に示すように、ATMキナーゼ阻害剤KU60019と腫瘍溶解性レオウイルスを併用することで、腫瘍溶解性レオウイルスの増殖・産生が増加することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、腫瘍溶解性レオウイルス療法の抗腫瘍効果を増強する併用治療法として、腫瘍の治療において利用可能であり、腫瘍溶解性レオウイルス療法を実施する際には、標準的に利用することができる。
【配列表】