(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】衝撃工具
(51)【国際特許分類】
B25D 17/00 20060101AFI20220324BHJP
B25D 17/24 20060101ALI20220324BHJP
B25D 9/00 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
B25D17/00
B25D17/24
B25D9/00 A
(21)【出願番号】P 2020216976
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2021-03-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236698
【氏名又は名称】不二空機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100044
【氏名又は名称】秋山 重夫
(74)【代理人】
【識別番号】100205888
【氏名又は名称】北川 孝之助
(72)【発明者】
【氏名】三藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン コステ
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 真一
(72)【発明者】
【氏名】西田 勝行
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-160725(JP,U)
【文献】国際公開第2013/054915(WO,A1)
【文献】実公平02-007026(JP,Y2)
【文献】特開2017-217746(JP,A)
【文献】実開平07-020277(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 1/00 - 17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンと、ピストンを前後方向に摺動可能に収容するシリンダとを有する本体部と、
本体部の外周に前後方向に移動可能に取り付けられたハウジングと、本体部とハウジングとの間に介在する弾性体とを有する緩衝機構と、
本体部の先端に取り付けられた先端工具を対象物に押し付けた際にハウジングが前方向に移動することを利用して、押付力が適正であることを認識させるための認識手段と、
を備えており、
弾性体が、ハウジングの前方向への移動により圧縮されるバネと、ハウジングの後方向への移動により圧縮されるゴムとからなる、衝撃工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、緩衝機構を備えた衝撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、緩衝機構を備えた衝撃工具が開示されている。この衝撃工具では、ハウジングの外周に軸方向に移動可能にカバー筒を取り付けるとともに、ハウジングとカバー筒との間に弾性部材を装着することで、カバー筒を握る手に振動を伝え難くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、衝撃工具は、その先端に取り付けた先端工具(針タガネ等)をスラグが付着した溶接個所等の対象物に押し付けて使用するが、押付力は特に規定されておらず、使用者が思い思いの力で押し付けているのが現状である。
【0005】
ただ、出願人は、押付力が適正でない場合、単位時間当たりの削れ量が低下することを見出した。具体的には
図4に示すように、押付力が一定以上になると削れ量が急激に低下する。
【0006】
緩衝機構を備えた衝撃工具の場合、押し付けたときの感触が弱められてしまうため、特に未習熟者に於いては必要以上に押し付けてしまう傾向がある。
【0007】
そこで本願発明は、緩衝機構を備えつつも適正な押付力で作業することができる衝撃工具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の衝撃工具10は、ピストン21と、ピストン21を前後方向に摺動可能に収容するシリンダ22とを有する本体部20と、本体部20の外周に前後方向に移動可能に取り付けられたハウジング31と、本体部20とハウジング31との間に介在する弾性体32とを有する緩衝機構30と、本体部20の先端に取り付けられた先端工具11を対象物に押し付けた際にハウジング31が前方向に移動することを利用して、押付力が適正であることを認識させるための認識手段Mとを備えていることを特徴とする。
【0009】
上記衝撃工具は、本体部20が、先端工具11を押し付けない状態でハウジング31よりも前方に突出し、先端工具11の押し付けに伴ってハウジング31内に収容されていく突出部24a3を有し、認識手段Mが突出部24a3に設けられていることが好ましい。
【0010】
また、弾性体32が、ハウジング31の前方向への移動により圧縮されるバネ32aと、ハウジング31の後方向への移動により圧縮されるゴム32bとからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の衝撃工具は、本体部の先端に取り付けられた先端工具を対象物に押し付けた際にハウジングが前方向に移動することを利用して、押付力が適正であることを認識させるための認識手段を備えているため、使用者は押付力が適正であるかどうかを簡単に把握することができ、緩衝機構を備えているにもかかわらず、適正な押付力で作業することができる。
【0012】
また、上記衝撃工具において、本体部が、先端工具を押し付けない状態でハウジングよりも前方に突出し、先端工具の押し付けに伴ってハウジング内に収容されていく突出部を有し、認識手段が突出部に設けられている場合、主として対象物や先端工具に向けられる視線の近くに認識手段が位置することになり、押付力が適正であるかを作業中に容易に把握することができる。
【0013】
弾性体が、ハウジングの前方向への移動により圧縮されるバネと、ハウジングの後方向への移動により圧縮されるゴムとからなる場合、先端工具を対象物に十分に押し付けた際にはバネだけが押付力に反発する状態となり、押付力とハウジングの前方向への移動距離との関係が単純化される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の一実施形態に係る衝撃工具を示す断面図である。
【
図2】
図2Aはピストンが前進した状態を示す断面図、
図2Bはピストンが後退した状態を示す断面図である。
【
図3】
図3Aは先端工具の押付前を示す一部断面図、
図3Bは先端工具を押し付けた状態を示す一部断面図である。
【
図5】押付力と振動抑制効果の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6Aは先端工具の押付前を示す一部断面図、
図6Bは先端工具を押し付けた状態を示す一部断面図である。
【
図7】
図7Aは先端工具の押付前を示す一部断面図、
図7Bは先端工具を押し付けた状態を示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、この発明の衝撃工具10の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本発明の衝撃工具10は、
図1に示すように、針タガネ等の先端工具11を振動させるための本体部20と、本体部20の振動の持ち手への伝達を抑制する緩衝機構30と、先端工具11の押付力が適正であることの基準となる認識手段Mとを備えている。以下、各部位について詳細に説明する。
【0016】
本体部20は、ピストン21と、ピストン21を前後方向に摺動可能に収容するシリンダ22とを有している。この本体部20は、圧縮空気によってピストン21を往復振動させるいわゆる流体圧駆動である。そのため、本体部20は、外部に設置されたコンプレッサ(図示しない)から供給される圧縮空気を取り入れるためのバルブ本体23を有している。また、先端工具11を取り付けるための取付具24と、ピストン21からの打撃力を先端工具11に伝えるためのアンビル25とをさらに有している。
【0017】
まず、ピストン21について説明する。ピストン21は、略円柱状の基部21aと、基部21aの前方に設けられた先端部21bと、基部21aの後方に設けられた拡径部21cとを備えている。基部21aの外径は、先端部21bの外径より大とされ、拡径部21cの外径より小とされている。後述するようにシリンダ22の後方部22aには縮径部22a1が設けられており、基部21aの外周面は縮径部22a1の内周面に摺動可能に当接している。なお、拡径部21cの外周面は、後述するシリンダ22の後方部22aであって縮径部22a1が設けられていない箇所の内周面に摺動可能に当接している。このピストン21は、ピストン21の後方に貯められた空気を前方に逃がしたり、ピストン21の後方に圧縮空気を供給するための通路Aが設けられている(
図2A、B参照)。この通路Aは、ピストン21の側面と後端面とに開口しており、先端面には開口していない。
【0018】
次にシリンダ22について説明すると、シリンダ22は、主としてピストン21を摺動可能に収容する後方部22aと、後方部22aの後端を閉塞する栓体22bと、後方部22aの前方に位置し、主として先端工具11の後部を収容する前方部22cとから構成されている。
【0019】
後方部22aは略円筒状であって、その内径はピストン21の拡径部21cの外径と略同径とされている。そして、ピストン21の後端面と、後方部22aの内周面と、栓体22bの前面とで部屋イを構成している。後方部22aの前側には、内径を小さくする縮径部22a1が設けられている。なお、ピストン21の基部21aの外径は縮径部22a1の内径と略同径である。そして、後方部22aの内周面と、ピストン21の拡径部21cの前面と、縮径部22a1の後面とで部屋ロを構成している。部屋ロは、縮径部22a1の後方に設けられた連通孔22a2によってシリンダ22外と連通している。連通孔22a2は、後方部22aの外周面に軸方向に沿って設けられた溝と連通している。この溝は、後述するバルブ本体23の収容筒部23bに覆われて通路Bを構成している。
【0020】
前方部22cは、後方部22aと同じく略円筒状であるが、後方部22aに比べて外径、内径ともに大とされており、前方部22cと後方部22aとの間には段部が形成されている。なお、内側の段部22c1は、アンビル25の後方への移動を制限する部位となる。
【0021】
バルブ本体23は、シリンダ22の後方に位置し、圧縮空気のシリンダ22内への供給の有無を切替操作する操作部23aと、操作部23aから前方に向かって延出された収容筒部23bとを備えている。
【0022】
操作部23aには、ホースを接続するための接続口23a1と、接続口23a1と収容筒部23bとを連通する通路Cが設けられている。通路Cにはバルブ23a2が介在しており、操作レバー23a3を操作することで通路Cの開閉ができるようになっている。
【0023】
収容筒部23bは略円筒形であって、前方は開口し、後方は通路Cを除いて操作部23aによって閉塞されている。収容筒部23bの軸方向の長さは、シリンダ22の後方部22aの軸方向の長さとほぼ等しい。そのため、後方部22aはほぼ全体が収容筒部23b内に収容されている。収容筒部23bの外径は、シリンダ22の前方部22cの外径よりも大とされており、段差23b1が生じている。なお、この段差23b1は、後述するハウジング31との間で弾性体32を保持するための部位となる。
【0024】
取付具24は、シリンダ22の先端に取り付けられる先端カバー24aと、先端工具11である針タガネの後端を支持する針受具24bとを備えている。
【0025】
先端カバー24aは略円筒状であって、後方がシリンダ22の前方部22c内に挿入、固定されている。固定方法としては例えばネジによる螺合が好ましい。前方には、シリンダ22の前方部22cの外径よりも大径とされた張り出し部24a1が設けられており、シリンダ22の前方部の外周面との間に段差24a2が形成されている。なお、この段差24a2はハウジング31との間で弾性体32を保持するための部位となる。先端カバー24aの先端は開口しており、この開口から複数の針タガネが本体部20外に突出している。
【0026】
針受具24bは略円柱形であって、前後方向に摺動可能な状態でシリンダ22の前方部22cに収容されている。この針受具24bには、その中心に軸方向(前後方向)に貫通する貫通孔24b1が設けられている。この貫通孔24b1は、針受具24bの前後を連通するための通路となる。また、この貫通孔24b1を囲むようにして、針タガネを挿入するための複数の挿入孔24b2が設けられている。針タガネは、後端に拡大部が設けられており、挿入孔に挿入されることで前後方向は移動可能とされながらも針受具24bからの前方への抜け出しが規制されている。
【0027】
アンビル25はキャップ状であって、針受具24bの後方に位置している。アンビル25も前後方向に摺動可能な状態でシリンダ22の前方部22cに収容されている。ただし、アンビル25の外径はシリンダ22の後方部22aの内径よりも大とされているため、後方部22aには入り込まない。アンビル25には通気孔25aが設けられており、針受具24bの貫通孔24b1と連通している。
【0028】
次に緩衝機構30について説明する。緩衝機構30は、本体部20の外周に前後方向に移動可能に取り付けられたハウジング31と、本体部20とハウジング31との間に介在する弾性体32とを備えている。
【0029】
ハウジング31は略円筒状であって、本体部20のほぼ全体を収容している。ただ、先端工具11を押し付けていない非押付状態では、先端カバー24aの先端側は収容されておらず、ハウジングから前方に突出している。以下、この突出している部分を突出部24a3という。また、操作部23aのバルブ23a2と操作レバー23a3については、常にハウジング31外に位置している。
【0030】
ハウジング31を、先端カバー24aを覆う前筒部31aと、シリンダ22の前方部22cを覆う中筒部31bと、バルブ本体23を覆う後筒部31cとに呼び分けた場合、前筒部31aの内径は、先端カバー24aの張り出し部24a1の外径と略同一とされ、中筒部31bの内径は、シリンダ22の前方部22cの外径と略同一とされ、後筒部31cの内径は、収容筒部23bの外径と略同一とされている。そして中筒部31bの内径は、前筒部31aや後筒部31cの内径よりも小とされている。従って、前筒部31aと中筒部31b、中筒部31bと後筒部31cとの境界にはそれぞれ段部31d、31eが形成されている。そして、前側の段部31dと先端カバー24aの張り出し部24a1の後面(段差24a2)との間で弾性体32を保持する部屋ハが形成され、後ろ側の段部31eと収容筒部23bの先端面(段差23b1)との間で弾性体32を保持する部屋ニが形成されている。
【0031】
弾性体32は、ハウジング31の前方向への移動により圧縮される前弾性体32aと、ハウジング31の後方向への移動により圧縮される後弾性体32bとからなる。前弾性体32aはバネ、具体的には金属製のコイルばねであって、シリンダ22の前方部22cの外周に位置している。なお、前弾性体32aとしてはバネに限らず、ゴムであってもよい。後弾性体32bはゴム、具体的には合成ゴムを環状に成形したものであって、収容筒部23bの前端に位置している。前弾性体32aは圧縮された状態で部屋ハに位置している。従って非押付状態において、後弾性体32bは前弾性体32aからの圧縮力を常に受けている。この状態は、ハウジング31の後方向への移動が後弾性体32bによって制限されているとも言える。後弾性体32bはハウジング31と連結されていない。従って、ハウジング31が前方向に移動すると、ハウジング31との当接状態は解消される。また、後弾性体32bは径方向においてハウジング31と接しないことが好ましい。ハウジング31の前後方向の摺動の抵抗になるためである。
【0032】
認識手段Mは、非押付状態でハウジング31から前方に突出している突出部24a3に設けられている。具体的には、先端カバー24aの張り出し部24a1の前側の角部を認識手段Mとしている。先端工具11を対象物に押し付けていくと、前弾性体32aが収縮し、ハウジング31はその押付力の増加に伴って徐々に前方向に移動して突出部24a3を収容していくが、適正な押付力であるときに認識手段Mにハウジング31が差し掛かるよう、認識手段Mの前後の位置が調整されている。なお、この状態は、ハウジング31が認識手段Mに差し掛かったときに適正な押付力が得られているよう、前弾性体32aが設計されているとも言える。
【0033】
認識手段Mとしては角部に限らず、凹部や凸部、目盛り、切欠等、視認可能なもの(目印となるもの)であればよい。また、ハウジング31が所定の位置まで移動すると発光する、または消灯する、または点灯から点滅に、点滅から点灯に変化する等、光り方が変化する発光体であってもよい。この場合、認識手段Mは突出部24a3に設ける他、例えばハウジング31等、突出部24a3以外の視認可能な場所に設けることができる。発光に電力が必要な場合は、別途、発電機や電源を備える。発電機としては、ピストン21に磁石を設け、シリンダ22にコイルを設ける等、公知の種々の方法を採用し得る。ハウジング31が所定の位置まで移動したことは、移動先に設けられたセンサやスイッチによって感知する。また、適正な押付力の下限を示すものや、上限を示すもの、最適値を示すもの、過小な押付力となっていることを示すもの、過大な押付力となっていることを示すものであってもよい。さらに、前後方向にある程度の幅があってもよい。この場合、下限と上限の両方を示すものであってもよい。
【0034】
続いて、衝撃工具10の動作を
図2に基づいて説明する。
【0035】
図2Aに示すように、操作レバー23a3をハウジング31に近づけていくとバルブ23a2が開き、圧縮空気が、接続口23a1から通路C、通路Bを経て部屋ロに供給され、ピストン21を勢い良く後退させる。ピストン21の後方の部屋イに溜まった空気は、通路A、アンビル25の通気孔25a、針受具24bの貫通孔24b1、先端カバー24aの開口を介して外部へと排出される。
【0036】
ある程度ピストン21が後退すると、
図2Bに示すように、通路Aが部屋ロと連通し、部屋イに圧縮空気が供給され、ピストン21が勢い良く前方に押し出される。そして、アンビル25の後端と衝突する。アンビル25は針タガネの後端に接触し、針タガネが振動する。
【0037】
圧縮空気が供給され続ける限り、
図2Aと
図2Bとに示す状態を繰り返し、ピストン21は前後方向へ往復振動し、アンビル25を打撃し続け、先端工具11は振動し続ける。衝撃工具10はハウジング31を片手で握って使用するが、部屋ハ、部屋ニにそれぞれ弾性体32が配置されているため、本体部20で生じた前後方向の振動は、ハウジング31にそのまま伝わるのではなく適宜減衰されてハウジング31に伝達する。そのため、振動による使用者の疲労を低減することができる。
【0038】
また、先端工具11を対象物に押し付けると、ハウジング31が前方向に移動する(
図3A、
図3B参照)。移動量は前弾性体32aの収縮量と同じであるから、移動量と押付力とは所定の関係(例えば比例関係)にある。そして、衝撃工具10には、どれだけハウジング31を移動させれば良いかの目安となる認識手段M、すなわち押付力の目安となる認識手段Mが設けられているため、現状の押付力がどの程度であるかを一目で把握することができ、結果、効率良く作業を行うことができる。特に認識手段Mが衝撃工具10の先端側に位置しているため、作業中に確認し易い。なお、ハウジング31は認識手段Mを超えて前方向に移動可能とされている。
【0039】
[認識手段Mの位置選定(バネの選定)]
図4は、押付力と削れ量との関係性を表したグラフである。具体的には、衝撃工具をレンガに押し付けた際の削れ量を評価している。衝撃工具は、不二空機社製のニードルスケーラ(ピストン径16mm、空気消費量0.16m
3/分)であって、
図1に示す衝撃工具と同様の構成の緩衝機構(但し、ゴム32bは省略)を取り付けた。押付力は、2kg、3kg、4kg、5kg、7kg、10kgの6段階とした。なお、試験者が衝撃工具を保持した状態で体重計に乗り、衝撃工具を真下に向けてレンガに押し付けたときの体重減少分を押付力としている。押付時間は10秒とした。削れ量は10回の平均値である。
【0040】
図4に示すように、押付力が3kgでの削れ量が1.92gであるのに対して、押付力が4kgの削れ量が1.53gとなっており、20.3%といった大幅な減少が見られる。従って、ピストン径16mm、空気消費量0.16m
3/分の衝撃工具の場合、認識手段Mを、押付力が3kgのときのハウジング31の位置に合わせて配置すればよいこと、換言すれば、3kgのときにハウジング31が認識手段Mに位置するよう、前弾性体32aを設計すればよいことが分かる。なお、押付力が2kgのときの削れ量は、3kgのときよりも大となっているが、後述する
図5に示すように、押付力が過少である場合、振動が大きくなる傾向にあるため、振動を抑える観点からも3kgとすることが好ましい。
【0041】
図5は、押付力と振動抑制効果との関係性を示したグラフである。なお、ハッチングの無い棒グラフは本体部(すなわち、緩衝機構による緩衝効果を受けない緩衝機構無し部)を保持したときの3軸合成値(周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値)を、ハッチングの有る棒グラフはハウジング(すなわち、緩衝機構による緩衝効果を受ける緩衝機構有り部)を保持したときの3軸合成値を示している。また、各値は2回の平均値である。
【0042】
ハッチングの無い棒グラフから分かるように、押付力が増加すると3軸合成値は低下する。これは押付力の増加に伴って先端工具が後退し、ピストンの可動域々に狭くなるためであると考えられる。ただ、ハッチングの有る棒グラフと比較した際、全ての押付力において値が上回っており、緩衝機構によって振動抑制効果が得られていることが分かる。従って、低振動に重点を置く場合には、あえて認識手段Mの位置を前方向にずらし、押付力を大きくすることも考えられる。また、低振動化による1日当たりの作業可能時間の増加と、単位時間当たりの削れ量との関係から、作業効率の向上(1日当たりの総削れ量の増加)を図ることができるよう、認識手段Mの位置を定めてもよい。
【0043】
以上に、この発明の実施形態について説明したが、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば、認識手段Mとしては、ハウジング31が前方向に移動したときにハウジング31と接触するものであってもよい。具体的には、
図6Aに示すように、ハウジング31が前方向に所定量移動できるようクリアランスを確保した上で、先端カバー24aの外径を一部、ハウジング31の内径より大としてもよい。換言すれば突起を設けてもよい。この場合、
図6Bに示すように、認識手段Mにハウジング31が接触すると、接触前とは異なる作動音が生じる。また、本体部20の振動が直接ハウジング31に伝わるため、ハウジング31を持つ手に接触前とは異なる振動が加わることになり、ある所定の押付力(例えば過剰な押付力)となっていることを使用者に認識させることができる。なお、視覚ではなく触覚や聴覚によって押付力を認識させる場合、認識手段Mを必ずしも視認可能な位置(例えば突出部24a3)に設ける必要は無く、必要に応じて種々場所を変更することができる。
【0044】
また、本体部20が、先端工具11を押し付けない状態でハウジング31内に収容され、先端工具11の押し付けに伴ってハウジング31外に露出する露出部40を有し、認識手段Mが露出部40に設けられていてもよい。具体的には、
図7Bに示すように、先端工具11を押し付けると、バルブ本体23の操作部23aがハウジング31外に押し出されるようにし、この操作部23aの外周面(露出部40)に認識手段Mとして角部を設けてもよい。この場合、見えなかったものが突然現れるといった変化になるため、使用者が変化に気付きやすく、認識し易いといった効果がある。なお、突出部24a3と露出部40の両方に認識手段Mを設けてもよい。
【0045】
また、例えば、本体部は、圧縮空気で駆動する流体圧駆動の他に、電気モータ等を利用した電動機駆動であってもよい。また、片手で操作レバーとハウジングとを一緒に握って使用するものであれば、ニードルスケーラに限らず、チッパやハンマ、サンドランマ、ヤスリ、ノコ等、種々の可搬型衝撃工具に採用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 衝撃工具
11 先端工具
20 本体部
21 ピストン
21a 基部
21b 先端部
21c 拡径部
22 シリンダ
22a 後方部
22a1 縮径部
22a2 連通孔
22b 栓体
22c 前方部
22c1 段部
23 バルブ本体
23a 操作部
23a1 接続口
23a2 バルブ
23a3 操作レバー
23b 収容筒部
23b1 段差
24 取付具
24a 先端カバー
24a1 張り出し部
24a2 段差
24a3 突出部
24b 針受具
24b1 貫通孔
24b2 挿入孔
25 アンビル
25a 通気孔
30 緩衝機構
31 ハウジング
31a 前筒部
31b 中筒部
31c 後筒部
31d 段差
31e 段差
32 弾性体
32a 前弾性体(バネ)
32b 後弾性体(ゴム)
40 露出部
M 認識手段
A ピストンの部材内通路
B シリンダと収容筒部との間の通路
C 操作部の部材内通路
イ ピストン後方の部屋
ロ 縮径部とピストン拡径部との間の部屋
ハ 先端カバーとハウジングとの間の部屋
ニ ハウジングと収容筒部との間の部屋
【要約】
【課題】緩衝機構を備えつつも適正な押付力で作業することができる衝撃工具を提供する。
【解決手段】ピストン21と、ピストン21を前後方向に摺動可能に収容するシリンダ22とを有する本体部20と、本体部20の外周に前後方向に移動可能に取り付けられたハウジング31と、本体部20とハウジング31との間に介在する弾性体32とを有する緩衝機構30と、本体部20の先端に取り付けられた先端工具11を対象物に押し付けた際にハウジング31が前方向に移動することを利用して、押付力が適正であることを認識させるための認識手段Mとを備える。
【選択図】
図1