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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】オリゴアミノマレイミド
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20220324BHJP
   C07D 207/452 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
C08G73/10
C07D207/452
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021133683
(22)【出願日】2021-08-18
(62)【分割の表示】P 2017119656の分割
【原出願日】2017-06-19
(65)【公開番号】P2021191859
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2021-08-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐己
(72)【発明者】
【氏名】森北 達弥
(72)【発明者】
【氏名】吉田 猛
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-106455(JP,A)
【文献】特開平11-106454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/00-73/26
C07D207/452
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマレイミドにジアミン(ただし、ジアミノシロキサンおよび脂肪族エーテルジアミンを除く。)がマイケル付加したオリゴアミノビスマレイミドであって、前記ビスマレイミドがダイマジアミン成分を含むビスマレイミドであり、190℃で3時間圧縮成形して得た厚さ800μmの硬化物からなるフィルムの、JIS-C2138:2007(共振法)に基づき周波数1GHzで測定した比誘電率が、2.5以下、誘電損失(誘電正接)が、0.0025以下であることを特徴とするオリゴアミノビスマレイミド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルブルプリント配線板、リジッドプリント配線板、およびこれらを用いた多層配線板の製造において有用なビスマレイミド系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
多層配線板は、携帯電話、スマートフォン等のモバイル通信機器、サーバー、ルーター等のネットワーク関連電子機器、大型コンピュータ等の製品で広範囲に用いられている。多層配線板を製造する際に用いられる接着剤として、特許文献1~4には、耐熱性および接着性に優れたオリゴアミノビスマレイミド(以下、「ABMI」と略記することがある)を用いた組成物が提案されている。
【0003】
一方、前記したような製品においては、大容量の情報を高速で伝送するため、多層配線板も伝送損失を低減させる必要がある。そのため、前記したABMIにおいても、誘電特性に優れた、すなわち低誘電率、低誘電損失(低誘電正接)の材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-179756号公報
【文献】特開平7-278258号公報
【文献】特開2006-241300号公報
【文献】特開2016-47811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、公知のABMIは、誘電特性に改善すべき点があった。
【0006】
そこで本発明は、前記課題を解決するものであって、耐熱性、接着性に優れ、かつ誘電特性に優れたABMIの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の化学構造としたABMIとすることにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、下記を趣旨とするものである。
【0009】
ビスマレイミドにジアミンがマイケル付加したオリゴアミノビスマレイミドであって、前記ビスマレイミドがダイマジアミン(炭素数24~48のダイマ酸から誘導される脂肪族ジアミンであり、以下、「DDA」と略記することがある)成分を含むビスマレイミド(以下、「D-BMI」と略記することがある)であることを特徴とするオリゴアミノビスマレイミド(以下、「D-ABMI」と略記することがある)。
【発明の効果】
【0010】
本発明のD-ABMIは、良好な誘電特性を有するので、例えば、多層配線基板製造の際の接着剤を構成する成分として、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明で用いられるD-BMIは、DDAのアミノ基がマレイミド化されたBMIである。ここで、「DDAのアミノ基がマレイミド化された」とは、ダイマ―ジアミンのアミノ基の少なくとも一つがマレイミド化されたBMIを意味する。
【0012】
DDA成分を含むD-BMIは、例えば、溶媒中、50~200℃の温度で、DDAと、DDAに対し略等当量の無水マレイン酸とを反応させてビスマレアミック酸とした後、これを酸触媒下、脱水閉環してマレイミド化することにより得ることができる。 DDA成分を含むD-BMIは、DDAと、DDAに対し略等当量の無水マレイン酸およびテトラカルボン酸二無水物からなる混合物とを反応させてビスマレアミック酸とした後、これを酸触媒下、脱水閉環してマレイミド化することにより得ることもできる。ここで用いられるテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4′-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、PMDAおよびODPAが好ましい。また、ここで用いられる溶媒としては、トルエン、キシレン(o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン)、エチルベンゼン、メシチレン、ソルベントナフサ等の炭化水素系溶媒、DMF、DMAc、NMP等のアミド系溶媒、炭化水素系溶媒とアミド系溶媒との混合溶媒等が好ましい。また、用いられる酸触媒しては、硫酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、マレイン酸等を挙げることができことができ、マレイン酸が好ましい。脱水閉環する際は、マレイミド化により生成する水を、共沸等により反応系外に除去することが好ましい。なお、これらD-BMI製造方法については、例えば、米国法定発明登録H424、特開2012-117070号公報、特開2017-48391号公報等の記載を参照することができる。
【0013】
D-ABMIは、D-BMIに、ジアミンがマイケル付加した化合物である。ここで用いられるジアミンとしては、脂肪族、脂環族、芳香族等のジアミンを用いることができる。このように、D-BMIを用いたD-ABMIとすることにより、優れた誘電特性を確保することができる。
【0014】
脂肪族ジアミンの具体例としては、例えば、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、DDA等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
脂環族ジアミンの具体例としては、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4′-メチレンビスシクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
芳香族ジアミンの具体例としては、例えば、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、2′-メトキシ-4,4′-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2′-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2′-ジメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、3,3′-ジヒドロキシ-4,4′-ジアミノビフェニル、4,4′-ジアミノベンズアニリド、ビスアニリンフルオレン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4′-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4′-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4′-メチレンジ-o-トルイジン、4,4′-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4′-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4′-ジアミノジフェニルプロパン、3,3′-ジアミノジフェニルプロパン、4,4′-ジアミノジフェニルエタン、3,3′-ジアミノジフェニルエタン、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,3′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、3,3′-ジアミノジフェニルスルホン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3′-ジアミノビフェニル、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、3,3′-ジメトキシベンジジン、4,4″-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3″-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4′-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
これらジアミンの中では、誘電特性に優れたABMIを得る観点から、DDAを用いることが好ましい。DDAは、「プリアミン1074、同1075」(クローダジャパン社製の商品名)、「バーサミン551、同552」(コグニスジャパン社製の商品名)等の市販品を用いることができる。
【0018】
D-ABMIは、例えば、以下のような方法で得ることができる。すなわち、D-BMIとジアミンとを、溶媒中、無触媒で、攪拌下、70~110℃、好ましくは、80~100℃で反応させることにより、D-ABMIを含む溶液を得ることができる。ここで、ジアミンは、D-BMI製造時に用いた無水マレイン酸1モルに対し、0.05モル以上、1.0モル以下用いることが好ましく、0.1モル以上、0.5モル以下用いることがより好ましい。この反応においては、実質的に無触媒で加熱することが好ましい。この反応で用いる溶媒に制限はないが、前記した炭化水素系溶媒が好ましく、これらの中で、トルエンおよびキシレンが特に好ましい。 反応の際のD-BMI濃度は、20~90質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。この加熱反応により、D-BMIの活性基であるマレイミド基に、ジアミンがマイケル付加して本発明のD-ABMIとすることができる。この溶液は、D-ABMI溶液として、このまま使用することができる。また、溶媒を揮発させることにより単品として単離することができる。なお、マイケル付加反応が起こっているかどうかは、NMR、GPC等により確認することができる。
【0019】
このようにして得られたD-ABMI溶液を、硬化触媒の存在下、または非存在化下、加熱もしくは紫外線照射することにより、D-BMIが硬化したフィルム等の成形体を得ることができる。この成形体の比誘電率は、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。 また、誘電損失(誘電正接)は、0.0030以下であることが好ましく、0.0025以下であることがより好ましい。これらの誘電特性は、JIS-C2138:2007(共振法)に基づき、周波数1GHzで測定することにより確認することができる。
【0020】
D-ABMI溶液は、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂、フェノー
ル樹脂等他の熱硬化性を配合して用いることができる。
【0021】
D-ABMI溶液は、絶縁性または導電性のフィラーを配合して用いることもできる。
【実施例
【0022】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお本発明は実施例により限定されるものではない。
【0023】
<実施例1>
水分離器付き還流冷却器、攪拌機、温度計を備えたガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、DDA(クローダジャパン株式会社製「プリアミン1075」、分子量:549):1.0モル、p-キシレンとNMPとからなる混合溶媒(質量比:p-キシレン/NMP=80/20)を投入して攪拌した。得られた溶液に、室温(20℃)で、PMDA:0.66モル、続いて無水マレイン酸:0.68モルを加え、室温で1時間攪拌して、末端がマレアミック酸変性されたオリゴアミック酸溶液(固形分濃度:40質量%)を得た。次に、この溶液に、脱水触媒であるマレイン酸2.0モルを加え、得られた溶液を、攪拌しながら昇温して内容物を加熱還流させた。反応により生成する水を共沸分離しながら6時間還流を続けたのち、冷却して、橙黄色溶液を得た。その後、得られた溶液を、水系溶媒およびメタノールで洗浄してマレイン酸等を除去することにより、重量平均分子量(Mw)が5650であるD-BMIからなるp-キシレン溶液を得た。この溶液に、0.1モルのDDAのp-キシレン溶液を加えて、均一溶液とし、約80℃で2時間反応させて、重量平均分子量(Mw)が8760のD-ABMI(A-1)溶液を得た。
ここで、重量平均分子量(Mw)は、下記の条件で、GPCを測定することにより、確認した。
【0024】
<GPC測定条件>
カラム:昭和電工社製 Shodex(R) GPC KF‐803×1本, GPC KF‐804×2本 (3本連結)
溶離液:THF
温度:40℃
流量:1.0mL/分
検出器:UV検出器
【0025】
A-1溶液を成形型に流し込み、100℃で減圧乾燥して溶媒を除去後、190℃で3時間圧縮成形することにより、厚みが約800μmのA-1の硬化物からなるフィルムを得た。このフィルムの誘電特性をJIS-C2138:2007(共振法)に基づき、周波数1GHzで測定した結果を表1に示した。
【0026】
<実施例2>
D-BMIのp-キシレン溶液へのダイマジアミンの添加量を0.25モルとしたこと以外は、実施例1と同様に行い、重量平均分子量(Mw)が9700のD-ABMI溶液(A-2)を得た。A-2溶液を実施例1と同様にして成形し、A-2の硬化物からなるフィルムを得た。このフィルムの誘電特性を測定した結果を表1に示した。
【0027】
<比較例1>
BMIとして4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド1.0モル、ジアミンとして4,4′-ジアミノジフェニルメタン0.4モルを、ジオキサン中、80℃で2時間反応させて、固形分濃度が40質量%のABMI溶液(B-1)を得た。B-1溶液を実施例1と同様にして成形し、B-1の硬化物からなるフィルムを得た。このフィルムの誘電特性を測定した結果を表1に示した。
【0028】
<比較例2>
ジアミンとして4,4′-メチレンビスシクロヘキシルアミン0.4モルを用いたこと以外は、比較例1と同様に行い、固形分濃度が40質量%のABMI溶液(B-2)を得た。B-2溶液を実施例1と同様にして成形し、B-2の硬化物からなるフィルムを得た。このフィルムの誘電特性を測定した結果を表1に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
表1から、本発明のABMIからなる硬化物は、良好な誘電特性を有していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のD-ABMIは、良好な誘電特性を有するので、例えば、多層配線基板製造の際の接着剤を構成する成分として、好適に用いることができる。