(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】誘導加熱コイル
(51)【国際特許分類】
H05B 6/02 20060101AFI20220324BHJP
H05B 6/36 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
H05B6/02 B
H05B6/36 E
(21)【出願番号】P 2018017746
(22)【出願日】2018-02-04
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】591195994
【氏名又は名称】株式会社ミヤデン
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英司
(72)【発明者】
【氏名】西村 昌訓
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/038488(WO,A1)
【文献】特許第3621685(JP,B2)
【文献】特許第4089822(JP,B2)
【文献】特開昭62-082689(JP,A)
【文献】実開平06-033395(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/02
H05B 6/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の隙間を有して所定回数巻回されたコイル導体び該コイル導体の外周側を覆う有底筒状のコイルカバーを有するコイル部と、該コイル部の開放基端側を支持すると共に前記コイルカバー内に冷却水を供給可能な冷却水供給部を有するコイル支持部
を備えて、前記コイル部を被加熱物の軸孔内に配置した状態で当該被加熱物の軸孔内面を誘導加熱する誘導加熱コイルであって、
前記コイルカバーの外周面と前記被加熱物の軸孔内面間に指向した状態で放射温度センサを前記コイル支持部に一体的に配設し、当該放射温度センサで前記コイル部による前記被加熱物の軸孔内面の誘導加熱時の放射光が受光可能に構成されていることを特徴とする誘導加熱コイル。
【請求項2】
前記コイル支持部は、
前記コイル部を支持すると共に放射光が透過可能な貫通孔がそれぞれ形成されたコイル固定ナット及びコイル固定板と、前記コイル固定ナットとコイル固定板の前記貫通孔に対応した位置に嵌合孔が形成されたセンサ支持板を有し、前記センサ支持板の嵌合孔に前記放射温度センサのプローブが前記嵌合孔の軸方向に手動もしくは自動で移動可能に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱コイル。
【請求項3】
前記
コイル固定板に前記センサ支持板の機能を持たせたことを特徴とする
請求項2に記載の誘導加熱コイル。
【請求項4】
前記
コイル支持部は、絶縁板を介して圧接固定された一対の銅板からなるホルダー部に連結接続され、前記ホルダー部の外面には前記冷却水供給部に冷却水を供給可能な冷却パイプが固定されると共に、前記ホルダー部の基端側に変成器が接続可能な接続部が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の誘導加熱コイル。
【請求項5】
前記コイル導体は、
内部空間を有する導体か内部空間を有さない中実状の導体を巻回することで形成され、
当該コイル導体が前記冷却水供給部から前記コイルカバー内に供給される
冷却水中に浸漬状態で冷却可能に構成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の誘導加熱コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば蒸気タービン室内のフランジを締付けるための大型の金属製ボルト(被加熱物)の軸孔内に挿入されて、軸孔の内面(内径面)を誘導加熱する際に使用される誘導加熱コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被加熱物の内面を誘導加熱する誘導加熱コイルは、例えば特許文献1に開示されている。この誘導加熱コイル(内径面誘導加熱コイル)は、絶縁体で形成され、板状部の中央部位に内径突出部が形成されたベース部材、及び大径の膨出部と細径の外径突出部を備えたカバー部材からなる中空のケースと、このケースの内部に配設された薄板状の導体を所定回数巻回した加熱部材とを備え、加熱部材に高周波電流を供給すると共に加熱部材を配設したケース内に冷却水を供給して、被加熱部材の内径面を誘導加熱するようにしたものである。
【0003】
また、被加熱物の外面を誘導加熱する誘導加熱コイルは、例えば特許文献2に開示されている。この誘導加熱コイルは、銅の丸パイプを複数回巻回した複数のコイル部と、このコイル部の両端部を連結するパイプ状の直線状導体を備え、コイル部の内側空間である加熱空間に被加熱物を配置した状態で、コイル部に高周波電流を供給すると共にコイル部のパイプ内に冷却水を循環供給して、被加熱物を誘導加熱するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第543127号公報
【文献】特許第3621685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの誘導加熱コイルにあっては、被加熱物の内面や外面を高精度に誘導加熱するために、非接触式の放射温度センサで被加熱物の加熱部位の温度を測定して、被加熱物に応じて所定温度となった際に、加熱コイルへの通電(誘導加熱)を停止するようにしている。ところが、従来の誘導加熱コイルでは、放射温度センサを加熱コイルとは別体で加熱コイルの外側に配置しており、この構成では内面の温度測定の場合に、加熱コイルが軸孔内に嵌挿されることから、加熱コイルを一旦軸孔から取り外した状態で、被加熱物の軸孔の加熱コイルが挿入される上端部等の端部の温度を測定せざるを得ない。
【0006】
また、外面の温度測定の場合も、加熱コイルの巻回部分に隙間がある場合は、この隙間等を利用して被加熱物の外面の中央部分等の温度測定が可能になるものの、例えば加熱コイルの巻回部分に隙間等がない場合には、温度測定が困難で、前述した軸孔の温度測定と同様に、加熱コイルを一旦被加熱部から取り外した状態で、被加熱物の軸方向の端部等の温度測定をしているのが実情である。
【0007】
ところで、本出願人は、先に、被加熱物の内面を誘導加熱するための誘導加熱コイル(特願2017-121138)と、被加熱物の外面を誘導加熱するための誘導加熱コイル(特願2017-126824)を提案した。そして、その後の鋭意研究により、これらの誘導加熱コイルにおいては、コイル部が流通する冷却水中に浸漬状態で冷却される構造を備えることから、放射温度センサを加熱コイルの外部に単に配設しただけでは、被加熱物の長手方向の中央に近い部分等の内部の加熱温度を精度良く計測することは困難であると共に、温度測定作業が非常に面倒であることが判明し、本発明は、この点を改良したものである。
【0008】
すなわち、本発明の目的は、所定機能を有する放射温度センサを加熱コイルの所定位置に一体的に配設することで、例えばコイル部が流通する冷却水中に浸漬状態で冷却される加熱コイルであっても、誘導加熱中の被加熱物の軸孔内面の加熱温度を加熱状態のままで精度良く簡単に測定して、被加熱物に高精度な加熱状態を容易に得ることが可能な誘導加熱コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、所定の隙間を有して所定回数巻回されたコイル導体び該コイル導体の外周側を覆う有底筒状のコイルカバーを有するコイル部と、該コイル部の開放基端側を支持すると共に前記コイルカバー内に冷却水を供給可能な冷却水供給部を有するコイル支持部を備えて、前記コイル部を被加熱物の軸孔内に配置した状態で当該被加熱物の軸孔内面を誘導加熱する誘導加熱コイルであって、前記コイルカバーの外周面と前記被加熱物の軸孔内面間に指向した状態で放射温度センサを前記コイル支持部に一体的に配設し、当該放射温度センサで前記コイル部による前記被加熱物の軸孔内面の誘導加熱時の放射光が受光可能に構成されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記コイル支持部が、前記コイル部を支持すると共に放射光が透過可能な貫通孔がそれぞれ形成されたコイル固定ナット及びコイル固定板と、前記コイル固定ナットとコイル固定板の前記貫通孔に対応した位置に嵌合孔が形成されたセンサ支持板を有し、前記センサ支持板の嵌合孔に前記放射温度センサのプローブが前記嵌合孔の軸方向に手動もしくは自動で移動可能に配設されていることを特徴とする。また、請求項3に記載の発明は、前記コイル固定板に前記センサ支持板の機能を持たせたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、前記コイル支持部が、絶縁板を介して圧接固定された一対の銅板からなるホルダー部に連結接続され、前記ホルダー部の外面には前記冷却水供給部に冷却水を供給可能な冷却パイプが固定されると共に、前記ホルダー部の基端側に変成器が接続可能な接続部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、前記コイル導体が、内部空間を有する導体か内部空間を有さない中実状の導体を巻回することで形成され、当該コイル導体が前記冷却水供給部から前記コイルカバー内に供給される冷却水中に浸漬状態で冷却可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、コイル導体がコイルカバーで覆われたコイル部と、コイル部を支持すると共にコイルカバー内に冷却水を供給可能な冷却水供給部を有するコイル支持部と、コイル支持部に一体的に配設されて被加熱物の内径面に指向した放射温度センサを備えるため、コイルカバー内を流通する冷却水中にそのコイル導体が浸漬状態で冷却される加熱コイルであっても、放射温度センサで誘導加熱中の被加熱物の軸孔内面の加熱温度を精度良く、かつ加熱状態のままで簡単に温度測定ができて、被加熱物に高精度な加熱状態を容易に得ることが可能になる。
【0014】
また、請求項2、3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、放射温度センサのプローブがコイル支持板に設けられた嵌合孔に軸方向に移動調整可能に配設されているため、誘導加熱時の被加熱物の内径面の温度をより精度良く測定することができる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明によれば、請求項1ないし3に記載の発明の効果に加え、コイル支持部が、外面に冷却水供給部に冷却水を供給可能な冷却パイプが固定されたホルダー部の先端側に連結接続され、ホルダー部の基端側に変成器が接続可能な接続部が設けられているため、加熱コイルを変成器の出力端子に確実かつ容易に接続できて、例えばタービン室内のフランジの移動不可能なボルトの軸孔であっても、加熱コイルと変成器をボルト近傍に配置して誘導加熱でき、使い勝手に優れた加熱コイルを得ることができる。
【0016】
また、請求項5に記載の発明によれば、請求項1ないし4に記載の発明の効果に加え、コイル部のコイル導体が、扁平銅パイプや中実状導体を巻回することで形成され、これらが、冷却水供給部からコイルカバー内に供給される冷却水により浸漬状態で冷却可能に構成されているため、冷却水中に浸漬状態で効果的に冷却可能なコイル導体により、加熱コイルの加熱効率を十分に高めることができると共に、各種形態のコイル導体を使用できる等、使い勝手に優れた加熱コイルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係わる誘導加熱コイルの
一実施形態を示す斜視図
【
図5】本発明に係わる誘導加熱コイルの
参考例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1~
図4は、本発明に係わる誘導加熱コイルの
一実施形態である内面加熱用の加熱コイルを示している。
図1~
図3に示すように、誘導加熱コイル1(加熱コイル1という)は、コイル部2と、このコイル部2の基端側を支持するコイル支持部3と、このコイル支持部3に連結されたホルダー部4等を備えている。
【0019】
前記コイル部2は、
図4に示すように、扁平パイプを所定回数コイル状に巻回したコイル導体2aと、このコイル導体2aの外周側と先端側とを覆うベーク材等の絶縁体で形成された有底筒状のコイルカバー2bを有している。このとき、コイル導体2aは、導体である丸銅パイプを直径(断面)方向に潰すことで、内部に扁平な隙間を有した潰し銅パイプが使用され、この潰し銅パイプを直線状の軸芯に沿って所定回数巻回することでコイル状に形成されている。
【0020】
また、コイル導体2aの両端部となる基端側端部と先端部には、一対の丸形銅パイプ2c、2dの先端がそれぞれロー付け固着され、この銅パイプ2c、2dは、
図1及び
図2に示すように、その基端部が上方に所定寸法延設されて、前記コイル支持部3上に突出している。このとき、
図4に示すように、一方の銅パイプ2cは、コイルカバー2bの開放側に下方に開口した状態で配設されると共に、その下端側面とコイル導体2aとが連通孔で連通状態とされている。また、他方の銅パイプ2dは、コイル導体2aの軸芯位置に挿通され、その下端側面とコイル導体2aとが連通孔で連通状態とされている。
【0021】
この銅パイプ2c、2dを介して、コイル導体2aに後述する如く高周波電流が供給されると共に、コイル導体2a内の隙間とコイルカバー2b内に冷却水が循環供給されるようになっている。また、コイル支持部3に支持される銅パイプ2c、2dにより、本実施形態の冷却水供給部が形成されている。なお、コイル導体2aとしては、内部に隙間を有する前記潰し銅パイプに限らず、例えば銅の薄板等の内部に隙間を有さない中実状の適宜導体を使用することもでき、この場合は、銅パイプ2c、2dから供給される冷却水は、コイルカバー2b内にのみ循環供給されるように構成される。
【0022】
前記コイル支持部3は、
図1~
図3に示すように、それぞれ絶縁材で形成された、
コイル固定ナット3a、コイル固定板3b、センサ支持板3c及び分割状態のコイルクランプ3d等を有している。そして、
コイル固定ナット3aやコイル固定板3bにより、前記コイル部2の基端部が銅パイプ2c、2d等を介して支持されている。この銅パイプ2c、2dの基端部に、前記ホルダー部4が連結固定されている。
【0023】
このホルダー部4は、絶縁板4bを介して圧接固定された一対の銅板4aを有し、各銅板4aの基端部には、図示しない出力変成器に電気的及び機械的に接続可能な接続部としての端子部4cがそれぞれ設けられている。また、各銅板4aの外面には、銅板4a自体を冷却可能な角銅パイプからなる冷却パイプ4dがそれぞれロー付け固着され、この冷却パイプ4dの先端部が前記銅パイプ2c、2dに連通状態でそれぞれロー付け固着されると共に、各冷却パイプ4dの基端部にはホースジョイント4eがそれぞれロー付け固着されている。
【0024】
また、前記センサ支持板3cには、放射温度センサ6が
図2の上下方向に指向して取り付けられている。この放射温度センサ6は、円筒形状の筐体の先端部に円板形状の透明なサフアィア窓が封止構造で接合されて内部に光伝送路を有するプローブ6aと、光検出部を含む制御部6b等を有している。そして、円筒形状のプローブ6aが、センサ支持板3cの上下方向の嵌合孔に嵌合されることで、放射温度センサ6がセンサ支持板3cで支持されている。
【0025】
また、センサ支持板3cの嵌合孔に対応して下方に位置するコイル固定板3b及び
コイル固定ナット3aには、上下方向に貫通して放射光が透過(通過)可能な貫通孔(もしくは外周面に形成された貫通凹部)がそれぞれ設けられている。なお、放射温度センサ6は、センサ支持板3cの嵌合孔やコイル固定板3b等の貫通孔に対して、手動もしくは自動で
前記上下方向、すなわち図1及び図2のコイルカバー2bの外周面とボルトWの軸孔Wa内面間の隙間方向に移動可能配設されており、放射温度センサ6の放射光の
前記上下方向における受光位置が所定値に設定可能となっている。また、放射温度センサ6は、以上説明した構成に限定されず、放射光を検知して温度を測定可能な適宜構成のセンサを使用することができる。
【0026】
そして、センサ支持板3cの上面には、前記一対のコイルクランプ4dが着脱可能に固定され、放射温度センサ6や前記銅パイプ2c、2dの基端部が支持されている。なお、コイル支持部3の構成は、以上の例に限定されず、コイル固定板3bにセンサ支持板3cの機能を持たせる等、コイル部2や放射温度センサ6及びホルダー部4を支持可能な適宜の構成を採用することができる。
【0027】
このように構成された前記加熱コイル1は、
図1及び
図2に示すように、ホルダー部4の一対の端子部4dを図示しない出力変成器の二次側端子に接続すると共に、コイル部2を金属製ボルトW(被加熱物で、以下ボルトWという)の軸孔Waに上方から嵌挿させて使用される。また、放射温度センサ6は、そのプローブ6aがボルトWの軸孔Wa内面方向に指向すると共に、プローブ6aでボルトWの軸孔Wa内部からの放射光を的確に受光できる位置に設定される。
【0028】
そして、出力変成器は、その一次側が図示しない可撓性の接続ケーブルを介して高周波誘導加熱装置のトランジスタインバータに電気的に接続されると共に、加熱コイル1のホルダー部4の一対のホースジョイント4eが、適宜のホースを介して例えば同誘導加熱装置内に配設した冷却水供給器にそれぞれ接続される。この状態で、トランジスタインバータと冷却水供給器を作動させると、トランジスタインバータから高周波電流が出力ケーブル、出力変成器、ホルダー部4及び銅パイプ2c、2dを介してコイル導体2に供給(給電)される。
【0029】
コイル導体2に高周波電流が供給されると、ボルトWの軸孔Wa内面に渦電流が誘起されて当該内面7aが誘導加熱される。このとき、コイル導体2が扁平銅パイプであることから、軸孔Wa内面に対向する導体の表面積を例えば単なる丸銅パイプ等に比較して大きく、すなわちコイル導体2から軸孔Wa内面に向けて照射される磁力線の数を増大できて、効率的な誘導加熱状態が得られることになる。
【0030】
この誘導加熱による軸孔Wa内面の加熱温度は、放射温度センサ6で逐次測定され、その信号が高周波誘導加熱装置の制御部(図示せず)に入力される。そして、測定温度が制御部に予め設定してある設定温度となった時点で、例えばトランジスタインバータの作動を停止させることで設定温度となるように維持される。これにより、ボルトWの軸孔Wa内面が所定温度で誘導加熱されることになる。
【0031】
このとき、放射光を受光する放射温度センサ6が、加熱コイル1のコイル支持部3に一体的に配設されると共に、放射光の指向方向がコイルカバー2bの外周側とボルトWの軸孔Wa内面(内部)間に指向し、かつ軸孔Wa内部からの放射光が的確に受光できるように設定されていることから、加熱コイル1をセットしたまま(加熱状態のまま)で軸孔Wa内部の所望位置(例えば軸方向の中央に近い位置)の加熱温度を精度良く逐次に測定できて、軸孔Wa内面の略全域を所望温度で略均一に加熱できることになる。
【0032】
一方、トランジスタインバータと例えば略同時に冷却水供給器が作動すると、冷却水が前記一方のホースジョイント4e、一方の冷却パイプ4d、銅パイプ2cを介してコイルカバー2b内に供給され、該カバー2b内を流通してコイル導体2aを冷却する。またこの冷却水は、銅パイプ2d、他方の冷却パイプ4d、他方のホースジョイント4e等を介して冷却水供給器に戻される。また、銅パイプ2cを介して供給される冷却水の一部は、銅パイプ2c、2dの前記連通孔を介してコイル導体2aの隙間内にも流通して、コイル導体2aが内部からも冷却される。
【0033】
これにより、加熱コイル1のコイル導体2a内に冷却水が流通する流路と、コイルカバー2b内に冷却水が流通する流路の二系統の冷却水流路が形成されることになる。このとき、冷却水はコイルカバー2b内を流通してコイル導体2aを冷却することから、コイル導体2aが冷却水中に浸漬状態で冷却されると共に、扁平な内部と表面に冷却水が確実に接触しつつ冷却され、コイル導体2aの発熱が効率的に抑制されることになる。なお、コイル導体2aとして、前述したような内部に隙間を有さない薄板銅板等を使用した場合の冷却水の流路は、コイルカバー2b内にのみに流通する一系統となり、この流路の冷却水がコイル導体2aの外周面全域が接触して冷却されることになる。
【0034】
そして、このようにして加熱コイル1で軸孔Wa内面が加熱されたボルトWは、軸孔Waの軸方向全域が抜き取り作業に適した加熱温度に略均等に加熱されることから、ボルトの抜き取り作業を簡単に行うことがてきる。また、ボルトWの抜き取り時に、加熱コイル1が小型で持ち運び等が容易な出力変成器の出力端子に直接固定されていることから、複数設置された隣接するボルトW間の移動や設置及び作業開始や作業終了時の移動等が簡単となり、例えば多数のボルトWで固定されている蒸気タービン室内のフランジから、ボルトWが短時間かつ簡単に抜き取りできることになる。
【0035】
このように、前記加熱コイル1によれば、コイル導体2aがコイルカバー2b内に内蔵されたコイル部2を支持するコイル支持部3に、放射光を受光する放射温度センサ6のプローブ6aが、ボルトの軸孔Wa内部に指向した状態で一体的に配設されているため、例えばコイルカバー2b内を流通する冷却水中にそのコイル導体2aが浸漬状態で冷却される加熱コイル1であっても、誘導加熱中のボルトWの軸孔Wa内面内部の加熱温度を加熱状態のままで精度良く、かつ加熱コイル1を軸孔Waから取り外すことなく簡単に温度測定できて、ボルトWに高精度な加熱状態を容易に得ることが可能になる。
【0036】
特に、放射温度センサ6がコイル導体2aやボルトWに対して前述した上下方向に移動調整可能に配設されているため、ボルトWの軸孔Wa内部の所定部位の温度をより精度良く測定することができ、一層高精度な加熱状態が得られると共に、各種ボルトWやその他ワークの軸孔に対応できて、加熱コイル1の汎用性を向上させることができる。
【0037】
さらに、コイル支持部3が、外面に冷却水循環用の冷却パイプ4dを有するホルダー部4の先端側に連結接続され、ホルダー部4の基端側に出力変成器が接続可能な端子部4cが設けられているため、加熱コイル1を出力変成器の出力端子に電気的及び機械的に容易に接続できて、例えばタービン室内のフランジの移動不可能なボルトWの軸孔Waであっても、加熱コイル1と出力変成器を各ボルトW近傍に配置して誘導加熱でき、使い勝手に優れた加熱コイル1を得ることができる。
【0038】
また、前記実施形態の加熱コイル1のコイル部2の構成により、次のような作用効果を得ることができる。すなわち、コイル部2をボルトWの軸孔Wa内に挿入配置した状態で、コイル導体2aにトランジスタインバータから高周波電流を供給すると共に、冷却水供給器からコイルカバー2b内とコイル導体2aの隙間内に冷却水を供給して、ボルトWの軸孔Wa内面を誘導加熱するため、コイル導体2aの外周面の全域と隙間内面を冷却水で冷却できて、コイル導体2aの通電時の発熱を効果的に抑制しその加熱効率を高めることができる。
【0039】
また同時に、新たな冷却水の流路の構成により、コイル支持部3の外径を従来例のように大きくする必要がないため、コイル支持部3の小型化を図って加熱コイル1の運搬や設置が容易に行えたり、加熱コイル1の使用範囲を広めることができて、各種設置状態のボルトW等の軸孔Waの誘導加熱に簡単に利用できる等、加熱コイル1の汎用性を大幅に向上させることが可能になる。
【0040】
また、コイル導体2aを、丸(円形)銅パイプを扁平状に潰した潰し銅パイプか、もしくは断面長方形状の角銅パイプ等で形成すれば、丸銅パイプを潰して巻回したり、あるいは断面長方形状(扁平形状)の角銅パイプを巻回することでコイル状導体2aを容易に形成することができて、加熱コイル1のコストアップを抑えることが可能になる。また、コイル導体2aとして薄板銅板等の忠実状の導体を使用すれば、加熱効率を一層高めることができると共に、各種形態の導体を使用できる等、使い勝手に優れた加熱コイル1を得ることができる。
【0041】
また、コイル導体2aが、その基端側に銅パイプ2c、2dの先端が電気的及び機械的に接続され、その先端側に当該コイル導体2aの軸芯位置に配置された銅パイプ2dの先端が電気的及び機械的に接続されて、両銅パイプ2c、2dに冷却水の流路が形成されるため、銅パイプ2c、2dの先端部にコイル導体2aの両端部を電気的に接続しつつ機械的に安定支持することができると共に、銅パイプ2c、2dを介して冷却水を良好に流通させることができて、加熱コイル1に安定した加熱状態を得ることができる。
【0042】
さらに、銅パイプ2c、2dとコイル導体2aとの接続部に、各銅パイプ2c、2dの内部空間とコイル導体2aの隙間とを連通する連通孔を設けることで、銅パイプ2c、2dとコイル導体2a間に冷却水を流通できて、冷却水をコイルカバー2b内でより効率的に供給循環させて、コイル導体2aの冷却効果を一層高めることができる。
【0043】
また、冷却水供給器からの冷却水が、コイル導体2aの隙間及び又はコイルカバー2bの内部空間に供給可能であるため、コイルカバー2b内に冷却水を二系統で供給することができて、ボルトWの形態等に応じて冷却系統を設定でき、コイル導体2aの冷却効果をより一層高めることができる。このとき、コイル導体2aの隙間やコイルカバー2b内への冷却水の供給を、コイルカバー2b内の冷却水の温度に基づいて制御するように構成すれば、コイル導体2aの冷却状態に応じた最適条件での冷却が可能となる。
【0044】
図5~
図7は、本発明に係わる誘導加熱コイルの
参考例を示し、被加熱物の外面(外径面)を誘導加熱するための加熱コイルである。以下、これについて説明する。この誘導加熱コイル21(加熱コイル21という)は、所定外径で所定有効長さのコイル部22と、このコイル部22の外周側を覆う二重円筒形状のコイルカバー23と、このコイルカバー23に設けられた電極カバー24と、冷却水供給部25及び放射温度センサ26等を備えている。
【0045】
前記コイル部22は、
図6及び
図7に示すように、所定板厚(例えば1~5mm程度)の銅板を所定回数軸方向に沿って一定ピッチで巻回したコイル導体22aを有している。このとき、コイル導体22aは、巻回端部が軸方向の略中央位置まで延び、該位置から略90度外側に折り曲げられて外周方向に直線的に引き出されることで、その両端部に一対の引出部22bが形成され、この引出部22bが前記電極カバー24に後述する如く支持されている。
【0046】
前記コイルカバー23は、それぞれ絶縁材で形成された、内側カバー23aと外側カバー23b及び軸方向両側面の一対の側面カバー23c、23dを有している。内側カバー23aは、その板厚が比較的薄い円筒形状に形成され、外側カバー23bは、内側カバー23aより大きい板厚の円筒形状に形成されると共に、その外周面の軸(長手)方向の中央位置には、内外に連通して前記電極カバー24を取り付けるための電極取付孔が形成されている。
【0047】
また、前記一対の側面カバー23c、23dは、左右対称形状の所定板厚の板体で円環形状に形成され、その中心位置には、被加熱物(図示せず)を挿入配置するための開口が形成されると共に、この開口の内面部分には前記内側カバー23aの両端部が当接する段差状の凹部が円環状に形成されている。この両側面カバー23c、23dと内側カバー23a両端部との当接面には、Oリング(オーリング)が嵌装されている。
【0048】
また、一対の側面カバー23c、23dの外周縁の内面には、前記外側カバー23bの両端部が当接する段差状の凹部が円環状に形成され、当接状態の両側面カバー23c、23dと外側カバー23bの両端部とが、円周方向に例えば8箇所でボルトにより固定されている。この両側面カバー23c、23dと外側カバー23bの両端部の当接面にも、Oリングが嵌装されている。
【0049】
前記電極カバー24は、
図5及び
図7に示すように、外側カバー23b側が開口し反外側カバー23b側が底壁24aで閉塞された有底円筒形状に形成され、端子として機能する一対の電極24b、24cと、コイルクランプ24d等を有している。一対の電極24b、24cは、電極カバー24の底壁24aに設けた一対の貫通孔を貫通して電極カバー24外にそれぞれ所定寸法突出すると共に、電極カバー24の内部において、前記コイル部22の引出部22bの先端と加締め端子等により電気的及び機械的に接続されている。
【0050】
なお、電極カバー24は、その開口側に設けた鍔部が、外側カバー23bの前記電極取付孔に設けた段差状の凹部上に当接し、この当接状態で鍔部と外側カバー23bとが複数個のボルトにより固定されている。また、電極カバー24の開口側の周面と外側カバー23bの電極取付孔の内周面間には、Oリングが嵌装されると共に、底壁24aの前記電極24c、24dが貫通する電極貫通孔の開口端部にもOリングが嵌装されている。
【0051】
これらのOリング等により、組み立てられたコイルカバー23のコイル部22の周囲に気密性を有する冷却空間としての内部空間30が形成されると共に、前記電極貫通孔の開口端部に嵌装されるOリングにより、内部空間30内の冷却水の、電極カバー24内部から電極24b、24cの外周面に沿った漏洩が防止されるようになっている。
【0052】
また、電極カバー24の底壁24a外側に突出する銅パイプや銅棒等からなる前記一対の電極24b、24cは、電極カバー24の底壁24a外面に固定した前記コイルクランプ24dで電極カバー24に支持されている。そして、この一対の電極24b、24cに、例えば図示しない可撓性のケーブルや必要に応じて配置された出力変成器等を介してトランジスタインバータの出力端子に電気的に接続されるようになっている。これらにより、内側カバー23aと外側カバー23b及び両側面カバー23c、23dで構成されたコイルカバー23の前記内部空間30内にコイル部22が収容(内蔵)配置された状態となっている。
【0053】
前記冷却水供給部25は、前記コイルカバー23の両側面カバー23c、23dに、それぞれ対向した状態で設けられた例えば合計4個のホースジョイント25a~25dを有している。このホースジョイント25a~25dは、その取付側が前記コイルカバー3の内部空間30に対応した位置の両側面カバー23c、23dの取付孔にそれぞれ取り付けられ、そのジョイント部が両側面カバー23c、23dの外面側に突出状態とされている。この各ホースジョイント25a~25dが、図示しないホース等を介して前記トランジスタインバータに併設して設けられる冷却水供給器の冷却タンク等に接続されている。
【0054】
また、前記放射温度センサ
26は、前記放射温度センサ6と同様に、プローブ26aや制御部26bを有して、前記コイルカバー23の軸方向(長手方向)の略中央位置の外周面に、前記電極カバー24と90度の角度を有して配設されている。このとき、コイルカバー23の外周面には
図5に示す凹部32が形成され、この凹部32にセンサ支持板33を介して放射温度センサ26が支持されている。
【0055】
また、放射温度センサ26のプローブ26aは、コイルカバー23の内部空間30に貫通状態で配置されると共に、プローブ26aの先端が内側カバー23aに設けた開口から加熱空間31内に気密状態で露出配置されている。これにより、加熱空間31内に貫通配置された被加熱物の軸方向の例えば略中央部分からの放射光がプローブ26aで受光され、外側ケース23bの外面側の制御部26bで加熱温度として測定される。
【0056】
この加熱コイル21は、次のようにして使用される。すなわち、加熱コイル21の前記一対の電極24b、24cには、例えば銅板からなる端子板が固定され、この端子板が前記トランジスタインバータの出力端子に接続された出力変成器の出力端子等が接続される。また、加熱コイル21の前記ホースジョイント25a~2dは、前記冷却水供給器にホース等により接続される。
【0057】
このとき、加熱コイル21の側面カバー23c及び側面カバー23dに設けた一方の上下一対のホースジョイント25a、25bが、冷却水の供給(給水)用として使用され、側面カバー23d及び側面カバー23dに設けた他方の上下一対のホースジョイント25c、25dが、冷却水の排出(排水)用として使用される。これにより、容積の大きな内部空間30内に冷却水の比較的緩やかな流れが生成され、この冷却水の流れによりコイル導体22aの外周面が冷却される。
【0058】
このコイル導体22aの冷却状態で、前記トランジスタインバータから出力変成器等を介して電極24b、24cに高周波電流が供給されると、加熱コイル21の前記加熱空間31内に配置された例えば円筒形状の被加熱物の外周面に渦電流が誘起されて被加熱物が誘導加熱される。この誘導加熱時に、コイル部22のコイル導体22aが内側カバー23aに近接して、該コイル導体22aの表裏面から放射される磁力線を被加熱物の外周面に効率的に照射できることと、コイル導体22aの発熱自体が効果的に抑制されることから、被加熱物の誘導加熱効率が十分に高められる。
【0059】
また、加熱コイル21による誘導加熱時に、被加熱物の外面の加熱温度は、放射温度センサ26で逐次測定され、その信号が高周波誘導加熱装置の制御部に入力される。そして、測定温度が制御部に予め設定してある設定温度となった時点で、例えばトランジスタインバータの作動を停止させる。これにより、被加熱物の外面が所定温度で加熱される。
【0060】
このとき、この加熱コイル21の場合、誘導加熱時に放射温度センサ26が、加熱コイル21のコイルカバー23の外面にセンサ支持部33を介して一体的に配設されると共に、被加熱物からの放射光を加熱空間31内に露出状態のプローブ26aの先端で受光することができ、被加熱物の外周面の軸方向の中心部分の温度を精度良く逐次に測定できて、被加熱物の外面を所望温度で加熱できることになる。なお、放射温度センサ26のプローブ26aは、コイルカバー23内のコイル導体22a等に干渉しない状態で配設されることは言うまでもない。
【0061】
この参考例の加熱コイル21によれば、コイル導体22aが巻回されたコイル部22の内側と外側及び両側面を気密性を有して覆うと共に内周側に被加熱物を配置可能な加熱空間31を有するコイルカバー23の内部空間30内に冷却水を循環供給し、コイル導体22aを冷却水で冷却しつつ、コイルカバー23の軸方向の所定位置に配設され、加熱空間31内に挿入配設された被加熱物からの放射光を受光するプローブ26aが被加熱物の外周面に指向した放射温度センサ26と備えるため、例えばコイルカバー23内を流通する冷却水中にそのコイル部22が浸漬状態で冷却される加熱コイル21であっても、放射温度センサ26のプローブ26aで、誘導加熱中の被加熱物の外面所定位置の加熱温度を加熱状態のままで精度良く測定して、被加熱物に高精度な加熱状態を容易に得ることが可能になる。
【0062】
また、コイル部22のコイル導体22aを板状導体等で形成でき、これらがコイルカバー23内に供給される冷却水中に浸漬状態で冷却可能に構成されているため、コイル導体22aを効果的に冷却できて、加熱コイル21の加熱効率を十分に高めることができると共に、使い勝手に優れた加熱コイル21を得ることができる。さらに、この加熱コイル21においても、コイル導体22aを冷却水に浸漬状態で冷却したり、コイル導体22aとして板体や扁平パイプを使用できることから、前記実施形態の加熱コイル1と略同様の作用効果を得ることができる。
【0063】
なお、前記実施形態における、各部の構成は一例であって、例えばコイル導体2a、22aの巻数を軸方向に一定(均一)ではなく、軸方向中央部分の巻数を密とし両側部分の巻数の粗とする等、軸方向に巻数を異ならせて、軸孔の軸方向内面をより均一に加熱できる構成としたり、被加熱物の形態に応じたコイル導体2a、22aとして、内部隙間を有する導体や内部隙間を有さない適宜の導体を使用する等、同等の作用効果が得られかつ本発明に係わる各発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、蒸気タービン室のフランジ締付け用の金属製ボルトへの適用に限らず、中心位置の軸孔に誘導加熱が必要な全ての金属製品に利用できる。
【符号の説明】
【0065】
1・・・誘導加熱コイル、2・・・コイル部、2a・・・コイル導体、2b・・・コイルカバー、2c、2d・・・銅パイプ、3・・・コイル支持部、3a・・・コイル固定ナット、3b・・・コイル固定板、3c・・・センサ支持板、3d・・・コイルクランプ、4・・・ホルダー部、4a・・・銅板、4c・・・端子部、4d・・・冷却パイプ、4e・・・ホースジョイント、6・・・放射温度センサ、6a・・・プローブ、6b・・・制御部、21・・・誘導加熱コイル、22・・・コイル部、22a・・・コイル導体、23・・・コイルカバー、23a・・・内側カバー、23b・・・外側カバー、23c、23d・・・側面カバー、24・・・電極カバー、24a、24b・・・電極、25・・・冷却水供給部、25a~25d・・・ホースジョイント、26・・・放射温度センサ、26a・・・プローブ、26b・・・制御部、30・・・内部空間、31・・・加熱空間、33・・・センサ支持板、W・・・金属製ボルト、Wa・・・軸孔、