(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】C5多型を有する患者における補体媒介性疾患の治療に使用するためのオルニトドロス・モウバタ(Ornithodoros moubata)補体阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20220324BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220324BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20220324BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220324BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220324BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20220324BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20220324BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220324BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220324BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20220324BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20220324BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220324BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220324BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20220324BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20220324BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220324BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220324BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220324BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20220324BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20220324BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P1/18
A61P7/06
A61P9/00
A61P11/00
A61P11/06
A61P13/02
A61P13/12
A61P17/02
A61P17/06
A61P19/00
A61P19/02
A61P25/00
A61P25/02
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
A61P29/00 101
A61P31/16
C07K14/435 ZNA
(21)【出願番号】P 2016571246
(86)(22)【出願日】2015-06-08
(86)【国際出願番号】 EP2015062742
(87)【国際公開番号】W WO2015185760
(87)【国際公開日】2015-12-10
【審査請求日】2018-06-08
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-10
(32)【優先日】2014-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514058533
【氏名又は名称】ヴォリューション イミュノ ファーマシューティカルズ エスエイ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100194618
【氏名又は名称】鶴田 聡子
(72)【発明者】
【氏名】ウェストン-デービス,ウィン エイチ
【合議体】
【審判長】岡崎 美穂
【審判官】冨永 みどり
【審判官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-511632(JP,A)
【文献】特表2012-516694(JP,A)
【文献】NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE,2014年 2月13日,VOL:370, p.632 - 639
【文献】Molecular Immunology,2013年,Vol.56, Issue 3,p.264 CDT 3
【文献】Molecular Immunology,1995年,Vol.32, no.16,p.1183-1195
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K38/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補体C5多型を有することがわかっている対象における補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤であって、
上記薬剤が、
(a) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又はこのタンパク質の機能的等価物、
(b) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸1~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又はこのタンパク質の機能的等価物、あるいは
(c) (a)又は(b)に記載されるタンパク質をコードする核酸分子
を含み、
上記補体C5多型が、野生型C5のArg885残基に
おける単一アミノ酸置換であり、かつエクリズマブの
、C5コンベルターゼによるC5の切断を防止する有効性を低下させるものであり、
(a) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又は(b) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸1~168を含む若しくはそれからなるタンパク質の機能的等価物が、
(c) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168若しくはアミノ酸1~168の配列に対して80%を超える同一性を有する配列を含む若しくはそれからなるホモログ、又は
(d) 配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質の断片、又は配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168若しくはアミノ酸1~168の配列に対して80%を超える同一性を有するホモログの断片
であり、
上記機能的等価物が、補体C5に結合し、C5コンベルターゼによる補体C5の補体C5aと補体C5b-9への切断を防止する能力を保持する、上記薬剤。
【請求項2】
補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法において使用するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤であって、該方法は、
(a) エクリズマブの
、C5コンベルターゼによるC5の切断を防止する有効性を低下させる、野生型C5のArg885残基にある
単一アミノ酸置換である補体C5多型を有する対象を同定するステップ、並びに
(b) 前記薬剤の治療的又は予防的に有効な量を前記対象に投与するステップであって、前記薬剤が、
(i) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又はこのタンパク質の機能的等価物、
(ii) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸1~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又はこのタンパク質の機能的等価物、あるいは
(iii) (i)又は(ii)に記載されるタンパク質をコードする核酸分子
を含む、上記ステップ
を含み、
(a) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又は(b) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸1~168を含む若しくはそれからなるタンパク質の機能的等価物が、
(c) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168若しくはアミノ酸1~168の配列に対して80%を超える同一性を有する配列を含む若しくはそれからなるホモログ、又は
(d) 配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質の断片、又は配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168若しくはアミノ酸1~168の配列に対して80%を超える同一性を有するホモログの断片
であり、
上記機能的等価物が、補体C5に結合し、C5コンベルターゼによる補体C5の補体C5aと補体C5b-9への切断を防止する能力を保持する、薬剤。
【請求項3】
補体媒介性疾患又は障害を治療するための、C5多型を有する対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤であって、該薬剤は対象がC5多型を有すると決定されたことに基づいて対象に投与され、上記薬剤が、
(a) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又はこのタンパク質の機能的等価物、
(b) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸1~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又はこのタンパク質の機能的等価物、あるいは
(c) (a)又は(b)に記載されるタンパク質をコードする核酸分子
を含み、
上記C5多型が、野生型C5のArg885残基に
おける単一アミノ酸置換であり、かつエクリズマブの
、C5コンベルターゼによるC5の切断を防止する有効性を低下させるものであり、
(a) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又は(b) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸1~168を含む若しくはそれからなるタンパク質の機能的等価物が、
(c) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168若しくはアミノ酸1~168の配列に対して80%を超える同一性を有する配列を含む若しくはそれからなるホモログ、又は
(d) 配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質の断片、又は配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168若しくはアミノ酸1~168の配列に対して80%を超える同一性を有するホモログの断片
であり、
上記機能的等価物が、補体C5に結合し、C5コンベルターゼによる補体C5の補体C5aと補体C5b-9への切断を防止する能力を保持する、前記薬剤。
【請求項4】
対象が哺乳動物であり、好ましくはヒトである、請求項1~3のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項5】
補体C5多型を有する対象が、
(a) 補体経路の1つを阻害する薬剤に対する予想外に乏しい臨床応答、及び/又は
(b) 対象における補体活性化を阻害する補体経路の1つを阻害する薬剤の能力の試験、及び/又は
(c) 分子遺伝学的分析
によって同定される、請求項1~4のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項6】
補体C5多型がArg885Cys又はArg885Hisである、請求項1~5のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項7】
補体C5多型が、C5をコードする遺伝子を配列決定することによって又は他の分子遺伝学的分析によって同定又は確認される、請求項1~6のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項8】
(a) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又は
(b) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸1~168を含む若しくはそれからなるタンパク質の機能的等価物が、
(c) (a)若しくは(b)に記載のタンパク質に対して90%を超える、95%を超える、98%を超える若しくは99%を超える配列同一性を有するホモログ
である、請求項1~7のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項9】
(i) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又は
(ii) 配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸1~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又は
(iii) (i)若しくは(ii)に記載のタンパク質をコードする核酸分子
を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項10】
補体媒介性疾患又は障害が、急性膵炎、加齢性黄斑変性症(AMD)、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、アレルギー性脳脊髄炎、同種移植、喘息、成人呼吸窮迫症候群、インフルエンザ、熱傷、クローン病、糸球体腎炎、溶血性貧血、血液透析、遺伝性血管浮腫、虚血再灌流傷害、多臓器不全、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋梗塞、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、乾癬、関節リウマチ、敗血症性ショック、全身性エリテマトーデス、卒中、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、外傷性脳損傷、血管リーク症候群、移植拒絶及び移植片対宿主病(GvHD)、末梢神経障害、並びに呼吸器障害から選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項11】
補体媒介性疾患及び/又は障害が、発作性夜間ヘモグロビン尿症、移植片対宿主病、血栓性血小板減少性紫斑病、及び非定型溶血性尿毒症症候群から選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補体C5多型を有する対象における補体媒介性疾患及び障害を治療及び予防する方法に関する。
【0002】
本明細書に記載され、本明細書の最後に列挙された全ての文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
多型は、全ての種において共通であるが、ほとんどの種において最もよく保存されている遺伝子である。ヒトの健康の疾患及び障害に関与する遺伝子における多型の存在は、パーソナライズされた医薬の到来をもたらした。パーソナライズされた医薬は、分子遺伝学分析を含む様々なツールを用いることにより、個人にカスタマイズされたヘルスケアを可能にする。医学的判断、薬剤の選択及び/又は治療レジメンは、個々の患者に合わせて適合させることができる。診断検査及び遺伝子型決定は、特定の薬物に対する対象の個々の応答性に基づいて、適切で最適な治療法を選択するために使用することができる。
【0004】
最近、ヒトC5における特定の遺伝的バリアント、すなわちC5多型は、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する特定の薬剤に対する応答の欠如を引き起こすことが明らかになっている。補体媒介性障害である発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を患っている患者の特定の日本人集団におけるエクリズマブの1臨床試験では、いくつかの患者の応答が不良であった。これらの患者は、C5多型c.2653C>T(p.Arg885Cys)又はc.2654G>A(p.Arg885His)を示した。この種の状況では、従来の手段では治療できない患者のサブ集団を同定することができ、又は、利用可能な代替薬物がない場合若しくは公知の薬物の全てが同じ作用機序によって作用する場合は、おそらく全く治療することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本ケースでは、現在、エクリズマブを用いて治療されている補体媒介性疾患及び障害に対して利用可能な代替治療は存在しない。したがって、それらを現在のところ治療不能にしているC5多型を有する患者のサブ集団を治療する手段を同定する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことに、本発明者らは、補体C5多型を有する対象における補体媒介性疾患及び障害を治療及び予防するために、ダニタンパク質のコバーシン(Coversin) (当該技術分野及び本明細書では、EV576及びOmCIとも呼ばれる[25])を使用することができることを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法を提供し、該方法は、補体C5多型を有し、治療又は予防を必要とする対象に、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する、治療的又は予防的に有効な量の薬剤を投与することを含む。
【0008】
本発明はまた、補体C5多型を有する対象における補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を提供する。
【0009】
本発明はまた、補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法を提供し、該方法は、
(a) C5多型を有する対象を同定するステップ、並びに
(b) 前記対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を同定するステップ、並びに
c) ステップ(b)において同定された前記薬剤の治療的又は予防的に有効な量を前記対象に投与するステップを含む。
【0010】
本発明はまた、補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法において使用するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を提供し、治療又は予防する前記方法は、
(a) C5多型を有する対象を同定するステップ、並びに
(b) 前記対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を同定するステップ、並びに
(c) 工程(b)において同定された前記薬剤の治療的又は予防的に有効な量を前記対象に投与するステップを含む。
【0011】
さらなる実施形態において、本発明は、C5多型を有する対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する第1の薬剤による治療のための、補体媒介性疾患又は障害を有する対象を選択する方法を提供し、該方法は、前記対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する第2の薬剤の有効性を決定することを含み、対象は、第2の薬剤がC5多型を有する対象において減少した有効性を示す場合、第1の治療による治療のために選択される。
【0012】
なおさらなる実施形態において、本発明は、補体媒介性疾患又は障害を治療するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を提供し、前記薬剤は、対象がC5多型を有すると判断されたことに基づいて対象に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】補体活性化の古典的経路及び代替経路の概略図。酵素成分は濃灰色で示し、アナフィラトキシンは星形で囲んで示す。
【
図2】コバーシンの一次配列。シグナル配列に下線を施す。システイン残基を太字で示す。ヌクレオチド番号とアミノ酸番号を右側に示す。
【
図3】実施例2において処置された患者由来のピーク及びトラフ血小板数。
【
図4】可変用量のコバーシン及びエクリズマブと混合された後のCH50アッセイによる、実施例4における患者由来の血清のインビトロ試験(対照のパーセンテージとして表される)。エクリズマブ又はコバーシンの存在下で、対照血清と比較した、実施例4における患者の血清中の補体活性のパーセンテージを示す。凡例: Ecu、エクリズマブと混合された; Cov、コバーシンと混合された; NC3、正常対照血清; R2、患者血清。
【
図5】可変用量のコバーシン及びエクリズマブと混合された後のCH50アッセイによる、実施例4における患者由来の血清のインビトロ試験。エクリズマブ又はコバーシンの存在下で、対照血清と比較した、実施例4における患者の血清中のCH50 Eq/ml単位での補体活性を示す。凡例: Ecu、エクリズマブと混合された; Cov、コバーシンと混合された; NC3、正常対照血清; R2、患者血清。
【
図6】可変用量のコバーシン及びエクリズマブと混合された後のCH50アッセイによる、実施例3における患者由来の血清のインビトロ試験(対照のパーセンテージとして表される)。エクリズマブ又はコバーシンの存在下で、対照血清と比較した、実施例3における患者からの補体活性のパーセンテージを示す。凡例: Ecu、エクリズマブと混合された; Cov、コバーシンと混合された; NC、正常対照血清; BJ1、患者血清を用いた反復1; BJ2、患者血清を用いた反復2。
【
図7】可変用量のコバーシン及びエクリズマブと混合された後のCH50アッセイによる、実施例3における患者由来の血清のインビトロ試験。エクリズマブ又はコバーシンの存在下で、実施例3における患者由来のCH50 Eq/ml単位での補体活性を示す。凡例: Ecu、エクリズマブと混合された; Cov、コバーシンと混合された; BJ1及びBJ2はPat 1a及びPat 1bと呼ばれる。
【
図8】エクリズマブエピトープの位置、及びコバーシンの可能性のある結合部位を示す分子モデル。
【発明を実施するための形態】
【0014】
補体
補体系は、異物の侵入に対する身体の自然防御機構の重要な一部分であり、炎症プロセスにも関係するものである。血清中及び細胞表面の30を超えるタンパク質は、補体系の機能及び調節に関係している。有益なプロセスと病的なプロセスの双方に関連する可能性を有する補体系の約35の公知成分と同様、補体系自体が、血管形成、血小板活性化、糖代謝及び精子形成と同様に多様な機能を有する少なくとも85種の生物学的経路と相互作用することが最近明らかになってきた。
【0015】
補体系は、異種抗原の存在下で活性化される。3つの活性化経路:(1)IgM及びIgG複合体によって、又は炭水化物の認識によって活性化される古典的経路;(2)非自己の表面(特定の調節分子を欠く)によって、及び細菌内毒素によって活性化される代替経路;及び(3)病原体の表面上のマンノース残基へのマンナン結合レクチン(MBL)の結合によって活性化されるレクチン経路、が存在する。この3つの経路には、急性炎症メディエーター(C3a及びC5a)の放出並びに細胞膜傷害複合体(MAC)の形成の原因となる、細胞表面上の類似のC3コンベルターゼ及びC5コンベルターゼの形成による補体活性化の発生の原因となる事象の平行したカスケードがある。古典的経路及び代替経路に関係する平行したカスケードについては、
図1に示す。
【0016】
本明細書では、古典的経路、代替経路及びレクチン補体経路をまとめて補体経路と呼ぶ。
【0017】
補体C5多型
ヒトC5のいくつかの多型が報告されている[1-5]。C5をコードする遺伝子の突然変異は、患者が重度の再発性感染の傾向を示す疾患である補体成分5欠損症を含む様々な病態に関連している。この遺伝子の欠損はまた、肝線維症及び関節リウマチへの罹りやすさに結びついている。ヒトC5における多型には、挿入、欠失、単一アミノ酸置換、フレームシフト、短縮及びこれらの変化の組み合わせが含まれる。
【0018】
特定の多型は、C5と補体経路活性化の阻害剤との相互作用を変化させる。特定の他の多型は、臨床的意義をもってC5活性を変化させる。野生型C5のArg885に影響を及ぼす多型が重要である。特に関心のある2つの多型は、ともにmAbエクリズマブの有効性を低下させるArg885Cys(c.2653C>Tによってコードされる)及びp.Arg885His(c.2654G>Aによってコードされる)である[4]。
【0019】
本明細書において使用される用語「C5多型」は、野生型C5以外のC5の任意のバリアントを意味する。ヒト対象において、野生型C5は、アクセッション番号NP_001726.2、バージョンGI:38016947を有するC5タンパク質である。用語「C5多型」には、C5タンパク質における挿入、欠失、単一又は複数のアミノ酸置換、フレームシフト、短縮及びこれらの変化の組み合わせが含まれる。
【0020】
これらの多型は、ヘテロ接合性又はホモ接合性多型のいずれか、例えば所定の多型についてのヘテロ接合性C5、1つの多型についてのホモ接合性又は異なる多型についてのヘテロ接合性などとして存在し得る。
【0021】
関心のある多型には、エクリズマブのエピトープに近接する又はエクリズマブのエピトープ内にある野生型C5のアミノ酸配列の変化が含まれる(すなわち、879KSSKC883、例えばK879、S880、S881、K882及び/又はC883を含む)。例えば、エクリズマブのエピトープにおいて又はエクリズマブのエピトープのN末端若しくはC末端までの最大10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、1個のアミノ酸の任意の変化があり得る。
【0022】
好ましくは、アミノ酸変化は、C5のコバーシン結合部位内及びその近傍にはない。これは、C5の高度に保存されたCUB-C5d-MG8スーパードメインの遠位末端のC5α上の保存された領域であると考えられている。
【0023】
本発明において特に関心があるのは、野生型C5を有する対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する1つ以上の薬剤の有効性を低下させるC5多型である。「有効性を低下させる」とは、薬剤が、野生型C5タンパク質についての同じ薬剤のIC50よりも少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、100倍、1000倍又はそれを超えて大きい、多型C5タンパク質についてのIC50を有することを意味する。
【0024】
好ましい実施形態において、C5多型は、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する1つ以上の薬剤の有効性を低下させるが、コバーシン又はその機能的等価物の有効性を低下させない。さらに好ましい実施形態において、C5多型は、野生型C5を有する対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する1つ以上の抗C5モノクローナル抗体の有効性を低下させるが、C5コンベルターゼ結合部位をブロックせずにC5に結合することにより古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する他の薬剤の有効性を低下させない。
【0025】
「有効性を低下させない」とは、野生型C5タンパク質について、C5コンベルターゼ結合部位をブロックせずにC5に結合することにより古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害するコバーシン又は他の薬剤のIC50が、多型C5タンパク質についてC5コンベルターゼ結合部位をブロックせずにC5に結合することにより古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害するコバーシン又は他の薬剤のIC50の少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%であることを意味する。「低下させない(しない)」という用語はまた、有効性の向上を包含する。
【0026】
代替の実施形態において、有効性は、対象から採取された血清中の補体活性化を阻害する薬剤の能力を測定することによって測定することができる。例えば、前記対象の血清中の補体活性は、当該技術分野で公知である又は本明細書に記載される任意の手段、例えば、参考文献[6]に記載される溶血アッセイによって測定することができる。
【0027】
薬剤は、薬剤の存在下での補体活性が対照と比較して低減している場合、前記対象における補体活性を阻害すると考えられる。この文脈において「低減した」とは、処置された試料における補体活性が対照と比較して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%低減することを意味する。
【0028】
特定の実施形態において、C5多型は、1つ以上の補体経路の活性化を阻害する際にモノクローナル抗体剤の有効性を低下させる。特定の実施形態において、C5多型は、補体経路の1つ以上の活性化を阻害する際にモノクローナル抗体エクリズマブの有効性を低下させる。さらなる実施形態において、C5多型は、C5コンベルターゼ結合部位をブロックすることによって、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤の有効性を低下させる。さらなる特定の実施形態において、C5多型は位置Arg885にある。この位置での具体的な多型には、Arg885Cys又はArg885Hisが含まれる。
【0029】
エクリズマブ、ペクセリズマブ及び/若しくはN19-8などの公知の抗C5モノクローナル抗体に対するC5の結合親和性、又はARC1905などのペプチド性補体阻害剤の有効性を変化させる多型はまた本発明との関連で興味深い。
【0030】
したがって、特定の実施形態において、本発明は、補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法を提供し、該方法は、補体C5多型を有し、治療又は予防を必要とする対象に、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する、薬剤の治療的又は予防的に有効な量を投与することを含み、補体C5多型は、C5コンベルターゼ結合部位をブロックすることによって、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤の有効性を低下させるが、C5コンベルターゼ結合部位をブロックせずに古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤の有効性を低下させない。
【0031】
したがって、特定の実施形態において、本発明は、補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法を提供し、該方法は、補体C5多型を有し、治療又は予防を必要とする対象に、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する、治療的又は予防的に有効な量の薬剤を投与することを含み、補体C5多型は、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害するモノクローナル抗体の有効性を低下させるが、コバーシン又はこの薬剤の機能的等価物の有効性を低下させない。
【0032】
この特定の実施形態において、本発明はまた、補体C5多型を有する対象における補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する、治療的又は予防的に有効な量の薬剤を提供し、補体C5多型は、C5結合部位をブロックすることによって、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤の有効性を低下させるが、C5結合部位をブロックせずに古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤の有効性を低下させない。
【0033】
この特定の実施形態において、本発明はまた、補体C5多型を有する対象における補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する、治療的又は予防的に有効な量の薬剤を提供し、補体C5多型は、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害するモノクローナル抗体の有効性を低下させるが、コバーシン又はこの薬剤の機能的等価物の有効性を低下させない。
【0034】
したがって、さらなる特定の実施形態において、本発明は、補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法を提供し、該方法は、補体C5多型を有し、治療又は予防を必要とする対象に、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する、治療的又は予防的に有効な量の薬剤を投与することを含み、補体C5多型は位置Arg885にあり、薬剤は、配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又はこのタンパク質の機能的等価物である。
【0035】
この特定の実施形態において、本発明はまた、補体C5多型を有する対象における補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する治療的又は予防的に有効な量の薬剤を提供し、補体C5多型は位置Arg885にあり、薬剤は、配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168を含む若しくはそれからなるタンパク質、又はこのタンパク質の機能的等価物である。
【0036】
治療のための対象の同定
本発明は、補体C5において多型を有する対象において特に有用である。対象は、C5多型を有することが既に知られている又はC5多型を有する疑いがあり得る。対象は、例えば、補体媒介性障害の臨床徴候のため、C5多型の出現を伴う民族起源若しくは血統のため、又は補体経路の1つを阻害する薬剤に対して予想外に乏しい応答及び/若しくは予想外に高い応答のために、C5において多型を有する疑いがあり得る。
【0037】
本発明は、補体経路の1つを阻害する1つ以上の薬剤に対する予想外に乏しい応答を有する対象のサブ集団において有用であり得る。特に、本発明は、1つ以上の補体経路の活性化を阻害する際に、モノクローナル抗体剤の有効性を低下させるC5多型を有する対象のサブ集団において有用である。特定の実施形態において、C5多型は、1つ以上の補体経路の活性化を阻害する際にモノクローナル抗体エクリズマブの有効性を低下させる。
【0038】
例えば、位置Arg885における2つのC5多型(c.2653C>T (p.Arg885Cys) 及びc.2654G>A (p.Arg885His))を有する対象は、エクリズマブに応答しない。しかしながら、コバーシンは、これらの対象においてさえもC5切断及び補体経路の活性化を阻害することができることが示されている。コバーシンは、公知の抗C5 mAbとは異なる様式で補体C5タンパク質と相互作用し、したがって、コバーシンは、公知の抗C5 mAbに応答しない対象のサブ集団、及び他のC5多型を有する対象においても有用であることが期待される。コバーシンはC5に結合し、これはC5の全体的なコンホメーションを安定化させ、C5コンベルターゼ切断部位をブロックしない[7]。対照的に、エクリズマブは、C5コンベルターゼ結合部位をブロックする[8]。
【0039】
多型Arg885Cys及びArg885Hisは、日本人及び漢民族起源の対象において特に高頻度に存在する。したがって、コバーシンは、これらの民族起源を有するサブ集団における薬剤の特に有利な選択肢である。
【0040】
実施例からわかるように、これらの多型は、日本人及び漢民族起源の対象に限定されない。C5多型を有する対象はまた、遺伝子の配列決定を含むC5タンパク質をコードする遺伝子の分子遺伝学的分析[4];本明細書に記載されるように若しくは当該技術分野において公知である他の方法によって、対象における補体活性化を阻害するための様々な薬剤の能力を試験すること;並びに/又は等電点電気泳動法及び機能的検出を含む、対象からのC5タンパク質の生化学的分析[9]、などの他の慣用的な技術によって同定することができる。臨床設定において、C5多型を有する対象は、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤に対する予想外に乏しい応答によって同定される場合がある。
【0041】
また、コバーシンは、補体経路の1つを阻害する他の薬剤に予期しないほど感受性である、対象のサブ集団において有用であることも想定される。例えば、多型が、C5タンパク質に対する、エクリズマブなどの別の薬剤の親和性を増加させる場合、薬剤を正確に投薬することは困難であり得る。補体の活性化は、身体自体の組織への損傷を防ぐために厳密に制御されなければならず、したがって、このシナリオではコバーシンはより魅力的な代替手法となる。
【0042】
C5多型を有する対象が一旦同定されると、前記対象における古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を同定することが可能である。補体経路を阻害する薬剤を同定するために、本明細書で記載されるように、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する様々な薬剤の存在下及び非存在下で、対象の血清中の補体活性が評価される。1つの特定の実施形態において、前記対象における古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤は、コバーシン又はその機能的等価物である。
【0043】
前記対象の血清中の補体活性は、当該技術分野で公知の若しくは本明細書に記載されている任意の手段、例えば、参考文献[10]に記載される溶血アッセイによって及び/又は実施例において言及されるQuidel CH50法を用いて測定することができる。対照と比較したときに、薬剤の存在下で補体活性が減少した場合、薬剤が前記対象における補体活性を阻害すると考えられる。この文脈において「減少した」とは、処置された試料中の補体活性が、対照と比較して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%減少していることを意味する。
【0044】
したがって、本発明は、補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法を提供し、該方法は、
(a) C5多型を有する対象を同定するステップ、並びに
(b) 前記対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を同定するステップ、並びに
(c) ステップ(b)において同定された前記薬剤の治療的又は予防的に有効な量を前記対象に投与するステップを含む。
【0045】
本発明はまた、補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法において使用するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する治療的又は予防的に有効な量の薬剤を提供し、治療又は予防する前記方法は、
(a) C5多型を有する対象を同定するステップ、並びに
(b) 前記対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を同定するステップ、並びに
(c) 工程(b)において同定された前記薬剤の治療的又は予防的に有効な量を前記対象に投与するステップを含む。
【0046】
なおさらなる実施形態において、本発明は、補体媒介性疾患又は障害を治療するための、C5多型を有する対象において、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を提供し、前記薬剤は、対象がC5多型を有すると判断されたことに基づいて対象に投与される。
【0047】
さらなる特定の実施形態において、本発明は、対象における補体媒介性疾患又は障害を治療するための、C5多型を有する対象において、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を提供し、
(a) 前記対象由来の生物学的試料を、C5多型の存在又は非存在についてアッセイし、及び
(b) C5多型の存在に基づいて、治療的に有効な量の前記薬剤を個体に選択的に投与する。
【0048】
特定の実施形態において、C5多型を有する対象は、野生型の対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害するモノクローナル抗体に対する応答の欠如によって同定される。この対象のサブ集団は「非応答者」と呼ばれる。非応答者は、血清補体活性が、野生型C5を有する対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害するモノクローナル抗体の存在下で正常血清補体活性の少なくとも60%であることを確認することによって同定することができる。
【0049】
本発明において特に興味深いことは、エクリズマブ、ペクセリズマブ、N19-8及び/又はARC1095に対して非応答者である対象である。
【0050】
さらに特定の実施形態において、特定のC5多型は、C5をコードする遺伝子を配列決定することによって又は他の分子遺伝学的分析によって同定又は確認することができる。
【0051】
さらなる実施形態において、本発明は、C5多型を有する対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する第1の薬剤による治療について、補体媒介性疾患又は障害を有する対象を選択する方法を提供し、該方法は、野生型の対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する第2の薬剤の前記対象における有効性を決定することを含み、対象は、野生型の対象における古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する第2の薬剤が、C5多型を有する対象において減少した有効性を示す場合、治療のために選択される。
【0052】
前記対象における古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路の阻害は、本明細書に記載されるように、対象からの血清中の補体活性化を妨げる薬剤の能力を測定することによって測定することができる。
【0053】
特定の実施形態において、本発明は、補体媒介性疾患又は障害を治療するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を提供し、前記薬剤は、野生型C5を有する対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する抗C5モノクローナル抗体の存在下で正常血清補体活性の少なくとも60%を有すると決定された対象由来の試料に基づいて対象に投与される。
【0054】
さらなる特定の実施形態において、本発明は、対象の補体媒介性疾患又は障害を治療するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を提供し、
(a) 前記対象由来の生物学的試料が、野生型C5を有する対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する抗C5モノクローナル抗体の存在下で正常血清補体活性の少なくとも60%の存在又は非存在についてアッセイされ、並びに
(b) 治療的に有効な量の前記薬剤が、野生型C5を有する対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する抗C5モノクローナル抗体の存在下で正常血清補体活性の少なくとも60%の存在に基づいて、個体に選択的に投与される。
【0055】
「抗C5モノクローナル抗体の存在下で正常血清補体活性の少なくとも60%」とは、対象の血清補体活性が、正常な未処置対照の対象の血清補体活性の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である又はそれを超えることを意味する。対照対象は、野生型C5を有してもよく又は抗C5モノクローナル抗体による処置前の同じ対象であってもよい。
【0056】
いくつかの実施形態において、抗C5モノクローナル抗体は、エクリズマブ、ペクセリズマブ及び/又はN19-8である。
【0057】
これらの方法は、コバーシン及びその機能的等価物による治療に対して感受性のある対象及び対象の集団を同定するために使用することができる。
【0058】
補体媒介性疾患及び障害
補体の活性化は、身体自体の組織への損傷を防ぐために厳密に制御されなければならない。補体活性化の制御の不全が、様々な疾患に役割があることが示されていて、例えば、とりわけ、急性膵炎、加齢性黄斑変性症(AMD)、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、アレルギー性脳脊髄炎、同種移植、喘息、成人呼吸窮迫症候群、インフルエンザ、熱傷、クローン病、糸球体腎炎、溶血性貧血、血液透析、遺伝性血管浮腫、虚血再灌流傷害、多臓器不全、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋梗塞、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、乾癬、関節リウマチ、敗血症性ショック、全身性エリテマトーデス、卒中、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、外傷性脳損傷、血管リーク症候群、移植拒絶及び移植片対宿主病(GvHD)、並びに様々な他の末梢神経障害及び呼吸器障害が挙げられる[11-16]。
【0059】
参考文献15に列挙された末梢神経障害には、感染後脱髄性多発神経障害(ギランバレー症候群)、ミラーフィッシャー症候群、急性炎症性脱髄性多発神経障害(AIDP)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、糖尿病性神経障害、尿毒症性そう痒症、多病巣運動神経障害、パラプロテイン血症性神経障害、抗Hu神経障害、ジフテリア後脱髄性神経障害、多発性硬化症、放射線脊髄障害、巨細胞性動脈炎(横行性動脈炎)、横断性脊髄炎、運動ニューロン疾患、皮膚筋炎が挙げられる。
【0060】
参考文献14に列挙された呼吸器障害には、喘息、例えば、重度の喘息及びステロイド抵抗性喘息、COPD、免疫複合体肺胞炎、例えば、有機粉塵、カビ、風媒アレルゲン、無機粉塵、化学薬品などへの曝露によって引き起こされるもの、が挙げられる。呼吸器障害の定義に含まれるさらなる症状は、農夫肺、ハト又はトリ愛好者肺、納屋熱、製粉工肺、金属加工者肺、加湿器熱、珪肺、塵肺症、アスベスト肺、綿工場熱、ベリリウム症、中皮腫;全身性の又は吸入性の薬物及び化学薬剤(限定されないが、ブレオマイシン、マイトマイシン、ペニシリン、スルホンアミド、セファロスポリン、アスピリン、NSAID、タルトラジン、ACE阻害剤、ヨウ素含有造影剤、非選択性β遮断剤、スキサメトニウム、ヘキサメトニウム、チオペントン、アミオダロン、ニトロフラントイン、パラコート、酸素、細胞傷害性剤、テトラサイクリン、フェニトイン、カルバマゼピン、クロルプロパミド、ヒドララジン、プロカインアミド、イソニアジド、p-アミノサリチル酸など)への曝露によって引き起こされる鼻炎、肺胞炎、又はびまん性線維性肺疾患が挙げられる。さらに、この用語には、物理的肺損傷が含まれ、例えば、限定されないが、挫滅損傷、煙及び高温ガスの吸入、爆発傷、放射線傷害、吸引性肺炎、リポイド肺炎; 臓器移植(例えば、限定されないが、心臓移植、肺移植、骨髄移植)と関連する肺損傷が挙げられる。また、呼吸器障害の定義には、原因不明の繊維形成性肺胞炎、アレルギー性肉芽腫症(チャーグ-ストラウス症候群)、ウェーゲナー肉芽腫症、閉鎖性気管支梢炎、間質肺線維症、嚢胞性線維症が含まれる。さらに、自己免疫及び結合組織疾患の呼吸器症状が含まれ、限定されないが、リウマチ疾患、全身性紅斑性狼瘡、全身性硬化症、結節性多発性動脈炎、多発筋炎、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、強直性脊椎炎、キャプラン症候群、グッドパスチャー症候群、肺胞タンパク症、特発性肺ヘモジデリン症、ヒスチオサイトーシスX、好酸球増多性肺浸潤(PIE)症、例えば、限定されないが、単純性肺好酸球増加症、遷延性肺好酸球増加症、喘息性気管支肺好酸球増加症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、アスペルギルス腫、侵襲性アスペルギルス症、熱帯性肺好酸球増加症、過好酸球増加症候群、寄生虫の体内侵入及びリンパ管平滑筋腫(LAM)が挙げられる。
【0061】
本発明において特に興味深いのは、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、移植片対宿主病(GvHD)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)及び異型溶血性尿毒症症候群(aHUS)である。
【0062】
本発明において使用する薬剤
本発明の一態様において、前記薬剤は、補体C5、例えば補体C5多型を有する対象由来の補体C5に結合し得る。薬剤は、C5コンベルターゼによる補体C5(例えば補体C5多型を有する対象由来の補体C5)の補体C5aと補体C5b-9への切断を防止するように作用し得る。薬剤は、未処置対象と比較して、対象においてC5aレベルを低減するように作用し得る。
【0063】
本発明の一態様において、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤は、C5の全体的なコンホメーションを安定化させるがC5コンベルターゼ切断部位をブロックしないようにC5に結合する。コバーシンのC5への結合は、C5の全体的なコンホメーションの安定化を生じるがコンベルターゼ切断部位をブロックしない。
【0064】
補体C5タンパク質は、本明細書においてはC5とも称し、C5コンベルターゼ酵素(それ自身C3aから生成される)、即ち代替経路の比較的早期の産物によって分解される(
図1)。この分解産物としては、アナフィラトキシンC5a、並びに細胞膜傷害複合体(MAC)としても知られる溶解性複合体C5b-9が含まれる。C5aは、好中球遊走能及び好酸球遊走能、好中球活性化、毛細血管透過性増加、並びに好中球アポトーシスの阻害を含む多くの病理的炎症プロセスに関係する高反応性ペプチドである[17]。
【0065】
MACは、関節リウマチ[18;19]、増殖性糸球体腎炎[20]、特発性膜性腎症[21]、タンパク尿[22]、急性軸索損傷後の脱髄[23]等の他の重要な病理プロセスと関連しており、異種移植後の急性移植片拒絶の原因ともなる[24]。
【0066】
C5と結合して阻害するモノクローナル抗体及び小分子が種々の疾患[12]、特にPNH、乾癬、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、及び移植拒絶の治療用に開発されている。しかし、これらのモノクローナル抗体は、C5多型を有する対象由来の特定のC5タンパク質に結合せず、それゆえこれらの対象では有効ではない[4]。
【0067】
これに対し、コバーシン及びその機能的等価物は、野生型C5を有する対象及びC5多型を有する対象の両方において補体C5の切断を阻害する。
【0068】
C5(例えばC5多型を有する対象由来のC5)に結合する薬剤の能力は、当該技術分野で公知の標準的インビトロアッセイ、例えば標識C5と共にゲル上のタンパク質をインキュベートした後にウエスタンブロット法を行うことによって測定することができる。好ましくは、C5(野生型C5及び/又はC5多型を有する対象由来のC5のいずれか)に結合する本発明の薬剤のIC50は0.2mg/mL未満であり、好ましくは0.1mg/mL未満、好ましくは0.05mg/mL未満、好ましくは0.04mg/mL未満、好ましくは0.03mg/mL未満、好ましくは0.02mg/mL、好ましくは1μg/mL未満、好ましくは100ng/mL未満、好ましくは10ng/mL未満、更により好ましくは1ng/mL未満である。薬剤は、野生型C5及びC5多型を有する対象由来のC5に対して同じ親和性を有する必要はない。野生型C5及びC5多型を有する対象由来のC5に対して高い、低い又は同じ親和性を示すことができる。
【0069】
薬剤が補体活性化を阻害する能力は、血清中で補体活性化を阻害する薬剤の能力を測定することにより決定することができる。例えば、血清中の補体活性は、当該技術分野で公知の又は本明細書に記載の任意の手段により測定することができる。
【0070】
本発明の一実施形態において、C5と結合する薬剤は抗C5モノクローナル抗体ではない。
【0071】
また本発明は、補体C5多型を有する対象において補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法であって、エイコサノイド活性を阻害する薬剤の治療的又は予防的に有効な量をそれを必要とする対象に投与することを含む方法も提供する。
【0072】
また本発明は、補体C5多型を有する対象において補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防するための、エイコサノイド活性を阻害する、治療的又は予防的に有効な量の薬剤も提供する。
【0073】
本発明のこの態様に係る薬剤はロイコトリエンB4(LTB4)活性を阻害することができる。特に、本発明のこの態様に係る薬剤はLTB4結合することができる。薬剤がLTB4と結合する能力は、当該技術分野で公知の標準的なインビトロアッセイ、例えば、ゲル上の該タンパク質を標識LTB4と共にインキュベートした後のウェスタンブロッティングによって求めることができる。本発明に係る薬剤がLTB4と結合する際のIC50は0.2mg/ml未満であり、好ましくは0.1mg/ml未満、好ましくは0.05mg/ml未満、好ましくは0.04mg/ml未満、好ましくは0.03mg/ml未満、好ましくは0.02mg/ml、好ましくは1μg/ml未満、好ましくは100ng/ml未満、好ましくは10ng/ml未満、さらにより好ましくは1ng/ml未満である。
【0074】
一態様において、本発明は、補体C5多型を有する対象において補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法であって、
(a)古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤、並びに/又は
(b)エイコサノイド活性を阻害する薬剤
の治療的又は予防的に有効な量をそれを必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
【0075】
また本発明は、補体C5多型を有する対象において補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防するための、
(a)古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路、並びに/又は
(b)エイコサノイド活性
を阻害する薬剤も提供する。
【0076】
本発明のこの態様の一実施形態において、薬剤は、C5、C5多型を有する対象由来のC5及びLTB4の全てと結合する。従って、この実施形態に係る薬剤を作用させて、補体C5がC5コンベルターゼによって補体C5aと補体C5b-9(MAC)へ切断されることを防止すると共に、LTB4活性を阻害することができる。C5及びLTB4の両方に結合する薬剤の使用が特に有利である。C5及びエイコサノイド経路はいずれも、多くの補体媒介性疾患及び障害で観察される病理に寄与すると考えられる。したがって、補体媒介性疾患及び障害の炎症作用に関与する複数の経路を阻害する単一の薬剤を使用することにより、補体媒介性疾患及び障害の炎症作用に関与する単一経路のみを阻害する薬剤を使用した場合と比較して、効果の増強を達成することができる。さらに、単一分子の投与に関連する実用的な利点がある。
【0077】
好ましくは、本発明の薬剤は、吸血性節足動物に由来する。「吸血性節足動物」という用語には、昆虫、マダニ、シラミ、ノミ及びコダニ等、それぞれに適合した宿主から血粉を取る全ての節足動物が包含される。好ましくは、前記薬剤はマダニに由来し、好ましくはマダニのオルニトドロス・モウバタ(Ornithodoros moubata)に由来する。
【0078】
本発明の一実施態様において、薬剤は、
図2(配列番号2)のアミノ酸配列のアミノ酸19~168を含むタンパク質であるか又はこのタンパク質の機能的等価物である。薬剤は、
図2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168からなるタンパク質であるか又はこのタンパク質の機能的等価物であることができる。
【0079】
別の一実施態様においては、本発明の本実施態様で用いられるタンパク質は、
図2(配列番号2)のアミノ酸配列のアミノ酸1~168を含む若しくはそれからなるか、又はその機能的等価物とすることができる。
図2に示すタンパク質の配列の最初の18アミノ酸は、C5に対する結合又はLTB4に対する結合活性には必要ないシグナル配列を形成することから、例えば組換えタンパク質産生の効率性のために、任意的にこれを省くことができる。
【0080】
図2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質は、本明細書においてコバーシンタンパク質とも称されるが、マダニのオルニトドロス・モウバタ(Ornithodoros moubata)の唾液腺から単離された。コバーシンは、リポカリンファミリーの中でも遠縁のメンバーであり、補体活性化を阻害することが明らかにされた最初のリポカリンファミリーのメンバーである。コバーシンタンパク質はC5に結合することによりC5コンベルターゼによるC5の補体C5aと補体C5b-9への切断を防止し、C5aペプチド及びMACの双方の作用を阻害することにより、補体代替経路、補体古典的経路及び補体レクチン経路を阻害する。コバーシンタンパク質はLTB4にも結合する。本明細書で用いられる「コバーシンタンパク質」という用語は、シグナル配列の有無に拘わらず
図2に示される配列を意味する。
【0081】
コバーシンタンパク質、及び補体の活性化を阻害するこのタンパク質の能力については[25]に開示されており、そこではコバーシンタンパク質は、「OmCIタンパク質」と呼ばれた。コバーシンタンパク質はまた、重症筋無力症[13]、呼吸器障害[14]及び末梢神経障害[15]の治療に有効であることも示されている。コバーシンタンパク質がエイコサノイド(LTB4等)と結合する能力、及びロイコトリエンやヒドロキシエイコサノイドにより媒介される疾患の治療における該タンパク質の使用は[26]に示唆されている。C5多型を有する対象における補体媒介性障害の治療又は予防にコバーシンタンパク質が有用となり得ることは、これらの開示のいずれにも示唆されていない。
【0082】
コバーシンタンパク質が、予想外にもC5多型を有する対象における補体媒介性障害の治療及び予防に有効であることがこのたび明らかになった。本明細書に提示するデータは、Arg885His多型を有する対象において、in vitroでの補体活性の阻害が、エクリズマブに対して抵抗性であるが(最良でも30%又は30~80%の補体阻害)、コバーシンに対して完全に感受性であった(試験したすべての濃度において100%阻害)ことを実証している。
【0083】
したがって、エクリズマブは、Arg885His多型を有する患者由来の血清において補体活性を完全に阻害せず、これらの患者はエクリズマブによる治療的処置からは何らの臨床的利益も受けなかった。これらのデータは、エクリズマブによる補体関連障害の治療(例えばPNH治療)における補体阻害が、臨床的利益を観察するには不十分であることを示す。これに対し、コバーシンは、この多型を有する患者由来の血清において補体活性の低減に正常な有効性を保持し、事例研究(実施例2、3及び4参照)において有効性を示すことが示された。このことは、例えばコバーシンによって観察される補体の阻害が臨床的利益を上昇させ、例えば、補体阻害がコバーシンにより達成され得るレベルにあるときに臨床的利益が観察され得ることを示唆している。
【0084】
本発明の更なる実施態様において、前記薬剤は、コバーシンタンパク質をコードする核酸分子又はその機能的等価物であってよい。例えば、遺伝子治療を用いて、インビボ又はエクスビボのいずれにおいても対象中の関連細胞によるコバーシンタンパク質の体内産生を生じさせることができる。他の方法は、治療遺伝子が血流内又は筋組織内に直接注射される、「裸の(naked)DNA」を投与することである。
【0085】
そのような核酸分子は、
図2(配列番号1)のヌクレオチド配列の塩基55~507を含むか又はそれからなることが好ましい。このヌクレオチド配列は、
図2のコバーシンタンパク質をシグナル配列なしにコードする。
図2のヌクレオチド配列の最初の54塩基は、補体阻害活性又はLTB4結合活性に必要ないシグナル配列をコードする。あるいは、核酸分子は、シグナル配列を有するタンパク質をコードする、
図2の核酸配列の塩基1~507を含むか又はそれからなることができる。
【0086】
コバーシンタンパク質はラット、マウス及びヒトの血清中においてC5と結合してC5コンベルターゼによる切断を防止し、そのIC50は約0.02mg/mLであることが示されている。C5に対する結合能を有するコバーシンタンパク質の機能的等価物としてはIC50が0.2mg/mL未満であるものが好ましく、好ましくは0.1mg/mL未満、好ましくは0.05mg/mL未満、好ましくは0.02mg/mL未満、好ましくは1μg/mL未満、好ましくは100ng/mL未満、好ましくは10ng/mL未満、更により好ましくは1ng/mL未満である。
【0087】
コバーシンタンパク質はまたLTB4に結合することが実証されている。コバーシンタンパク質の機能的等価物もまた、コバーシンタンパク質と同様の親和性でLTB4と結合する能力を保持する。
【0088】
一態様において、本明細書で用いられる「機能的等価物」という用語は、(a)C5(野生型C5若しくはC5多型を有する対象由来のC5のいずれか)に結合し、C5コンベルターゼによる補体C5の補体C5aと補体C5b-9への切断を防止する能力を保持する;及び/又は(b)LTB4に結合する能力を保持する、コバーシンタンパク質のホモログ及び断片を説明する。
【0089】
「機能的等価物」という用語はまた、コバーシンタンパク質と構造的類似性を有する分子、あるいはコバーシンタンパク質と類似若しくは同一の三次構造、特にC5(野生型C5若しくはC5多型を有する対象由来のC5のいずれか)及び/又はLTB4と結合するコバーシンタンパク質の1箇所以上の活性部位の環境において類似若しくは同一の三次構造、を含む、合成分子等の分子、を意味する。コバーシンにおいてLTB4結合に必要と考えられるアミノ酸 は[26]に記載されている。
【0090】
「ホモログ」という用語は、
図2において明示的に特定されるコバーシン配列のパラログ及びオーソログに対する参照が包含されるものとするが、例えばその配列としては、リピケファルス-アッペンジクラタス(Rhipicephalus appendiculatus)、クリイロコイタマダニ(R.sanguineus)、R.ブルサ(R.bursa)、アメリカアムブリオマ(A.americanum)、A.カジェンネンセ(A.cajennense)、ヘブライキララマダニ(A.hebraeum)、オウシマダニ(Boophilus microplus)、ウシマダニ(B.annulatus)、B.デコラタス(B.decoloratus)、アミメカクマダニ(Dermacentor reticulatus)、アンダーソン・カクマダニ(D.andersoni)、D.マルギナタス(D.marginatus)、アメリカイヌカクマダニ(D.variabilis)、ヘマフィサリス・イネルミス(Haemaphysalis inermis)、Ha.レアチイ(Ha.leachii)、点状ダニ(Ha.punctata)、ヒアロンマ・アナトリカム アナトリカム(Hyalomma anatolicum anatolicum)、Hy.ドロメダリイ(Hy.dromedarii)、Hy.マルギナタム マルギナタム(Hy.marginatum marginatum)、イクソデス・リシナス(Ixodes ricinus)、シュルツェマダニ(I.persulcatus)、I.スカプラリス(I.scapularis)、I.ヘキサゴナス(I.hexagonus)、ペルシャダニ(Argas persicus)、ハトヒラタダニ(A.reflexus)、オルニトドロス・エラティカス(Ornithodoros erraticus)、O.モウバタ モウバタ(O.moubata moubata)、O.m.ポルシナス(O.m.porcinus)及びO.サビグニイ(O.savignyi)等の他のマダニ種由来のコバーシンタンパク質配列が挙げられる。また、「ホモログ」という用語には、イエカ属(Culex)、ハマダラカ属(Anopheles)及びヤブカ属(Aedes)等の蚊種、特にクレックス・キンケファシアタス(Culex quinquefasciatus)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)及びアノフェレス・ガンビエ(Anopheles gambiae);クテノセファリです・フェリス(Ctenocephalides felis)(ネコノミ)等のノミ種;ウマバエ;チョウバエ;ブユ;ツェツェバエ;シラミ;コダニ;ヒル;及び扁虫由来の同等のコバーシンタンパク質配列も包含されるものとする。ネイティブコバーシンタンパク質は、18kDa付近の別の3形態でO.モウバタ(O.moubata)の中に存在すると考えられ、「ホモログ」という用語には、コバーシンのこれらの他の形態が包含されるものとする。
【0091】
図2に示すコバーシン配列のホモログの同定方法は当業者に明らかである。例えば、ホモログは、公的及び民間のどちらの配列データベースによっても、そのホモロジー検索によって同定することができる。公的に利用可能なデータベースを使用するのが便利である。但し、特に民間のあるいは商業的に利用可能なデータベースが公的なデータベースにないデータを含む場合、民間のあるいは商業的に利用可能なデータベースも同様に有用である。一次データベースは、一次ヌクレオチド又はアミノ酸の配列データが蓄積される場所であり、公的に又は商業的に利用可能となっている。公的に利用可能な一次データベースの例としては、GenBankデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、EMBLデータベース(http://www.ebi.ac.uk/)、DDBJデータベース(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)、SWISS-PROTタンパク質データベース(http://expasy.hcuge.ch/)、PIR(http://pir.georgetown.edu/)、TrEMBL(http://www.ebi.ac.uk/)、TIGRデータベース(http://www.tigr.org/tdb/index.htmlを参照すること)、NRL-3Dデータベース(http://www.nbrfa.georgetown.edu)、Protein Data Base(http://www.rcsb.org/pdb)、NRDBデータベース(ftp://ncbi.nlm.nih.gov/pub/nrdb/README)、OWLデータベース(http://www.biochem.ucl.ac.uk/bsm/dbbrowser/OWL/)等が挙げられ、並びに二次データベースとしては、PROSITE(http://expasy.hcuge.ch/sprot/prosite.html)、PRINTS(http://iupab.leeds.ac.uk/bmb5dp/prints.html)、Profiles(http://ulrec3.unil.ch/software/PFSCAN_form.html)、Pfam(http://www.sanger.ac.uk/software/pfam)、Identify(http://dna.stanford.edu/identify/)及びBlocks(http://www.blocks.fhcrc.org)データベース等が挙げられる。商業的に利用可能なデータベース又は民間のデータベースの例としては、PathoGenome(ゲノム・セラピューティックス社)及びPathoSeq(以前のインサイト・ファーマシューティカルズ社)等が挙げられる。
【0092】
典型的には、2種のポリペプチド間(好ましくは、活性部位等の特定領域上)の同一性が30%を超える場合、これは機能的等価性を示していると判断され、従って2種のタンパク質が相同的であることが示される。好ましくは、ホモログであるタンパク質は、
図2(配列番号2)に示すコバーシンタンパク質配列との配列同一性の程度が60%を超えるものである。より好ましいホモログは、
図2(配列番号2)に示すコバーシンタンパク質配列との同一性の程度が、それぞれ70%、80%、90%、95%、98%又は99%を超えるものである。本明細書においては、パーセント同一性とは、NCBI(国立バイオテクノロジー情報センター;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)が指定しているデフォルトパラメータを用いるBLASTバージョン2.1.3を用いて決定されるものである[Blosum62マトリックス;ギャップ・オープン・ペナルティ=11及びギャップ・エクステンション・ペナルティ=1]。
【0093】
図2に示すコバーシンタンパク質配列の機能的等価物としては、野生型配列から、例えば1、2、3、4、5、7、10又はそれ以上のアミノ酸のアミノ酸置換、挿入又は欠失を含む変異体が挙げられるが、これは、これら変異体が野生型C5及び/又はC5多型を有する対象由来のC5に結合する能力を有する場合に限る。従って、変異体としては、有害な方法でタンパク質の機能又は活性に影響を与えることのない保存的アミノ酸置換を含むタンパク質が含まれる。この用語はまた、天然の生物学的変異体(例えばコバーシンタンパク質が由来する種の範囲内の対立遺伝子変異体又は地理的変異体)を含むものとする。野生型C5及び/又はC5多型を有する対象由来のC5及び/又はLTB4に結合する能力が改善した変異体は、タンパク質配列内の特定の残基の計画的な又は誘導された変異によって設計することもできる。
【0094】
コバーシンタンパク質の断片、並びにコバーシンタンパク質のホモログの断片は、その断片が野生型C5及び/又はC5多型を有する対象由来のC5及び/又はLTB4に結合する能力を有しているならば、「機能的等価物」の用語に包含される。断片としては、150未満のアミノ酸、125未満のアミノ酸、100未満のアミノ酸、75未満のアミノ酸、50未満のアミノ酸、あるいは更に25以下のアミノ酸であるコバーシンタンパク質配列に由来するポリペプチドを挙げることができるが、それは、これらの断片が野生型補体C5及び/又はC5多型を有する対象由来のC5及び/又はLTB4と結合する能力を有している場合に限る。断片としては、150未満のアミノ酸、125未満のアミノ酸、100未満のアミノ酸、75未満のアミノ酸、50未満のアミノ酸、あるいは更に25以下のアミノ酸であるコバーシンタンパク質配列に由来するポリペプチドを挙げることができるが、それは、これらの断片が野生型補体C5及び/又はC5多型を有する対象由来のC5及び/又はLTB4と結合する能力を有している場合に限る。
【0095】
機能的等価物又はその断片はいずれも、コバーシンに見出されるシステイン残基のパターンを保持することが好ましい。例えば、該機能的等価物は、
図2(配列番号2)におけるアミノ酸配列のアミノ酸1~168に係る配列のアミノ末端からカルボキシル末端に配置されるように、互いに32アミノ酸離れた、62アミノ酸離れた、28アミノ酸離れた、1アミノ酸離れた、及び21アミノ酸離れた距離で互いに間隔を空けて6つのシステイン残基を含む。コバーシンタンパク質の断片の例を、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14に開示する。対応する断片をコードするDNAは、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13に開示する。
【0096】
このような断片としては、上述のように、
図2において本明細書で明示的に同定されているO.モウバタ(O.moubata)のコバーシンタンパク質の断片だけでなく、このタンパク質のホモログの断片も含まれる。ホモログのこのような断片は、一般に
図2のコバーシンタンパク質配列の断片との同一性が60%を超えるものである。但し、より好ましくは、ホモログの断片は、
図2のコバーシンタンパク質配列の断片との同一性の程度がそれぞれ70%、80%、90%、95%、98%又は99%超を示すものである。勿論、改善された断片は、野生型配列の計画的な変異又は断片化の後、適切な活性アッセイによって合理的に設計することができる。断片は、コバーシンと比べてC5(野生型若しくはC5の多型バリアント又はその両方)及び/又はLTB4に対する親和性が同等以上で示し得る。
【0097】
本発明に従って用いられる機能的等価物は融合タンパク質であってよく、それは、例えば異種タンパク質配列のためのコード配列にコバーシンタンパク質をフレームを合わせてコードするポリヌクレオチドのクローニングによって得られる。「異種」という用語は、本明細書において用いられる場合、コバーシンタンパク質又はその機能的等価物以外の全てのポリペプチドを示すものとする。N末端又はC末端のいずれかの可溶性融合タンパク質に含まれ得る異種配列の例としては:膜結合型タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常領域(Fc領域)、多量体化ドメイン、細胞外タンパク質のドメイン、シグナル配列、エクスポート配列、又はアフィニティクロマトグラフィーによる精製を可能にする配列等が挙げられる。これらの配列は、それらに融合するタンパク質の特異的生物活性を大きく低下させることなく追加の特性を付与するために融合タンパク質に一般的に含まれることから、これらの異種配列の多くは、発現プラスミド中に商業的に入手可能である[27]。このような追加の特性の例としては、体液内でより長く続く半減期、細胞外局所化、あるいはヒスチジン、GST、FLAG、アビジン又はHAタグ等のタグによって可能となるより簡単な精製方法等が挙げられる。
【0098】
コバーシンタンパク質及びその機能的等価物は、宿主細胞における発現によって組換え形態で調製することができる。このような発現方法は、当業者によく知られており、[28]や[29]に詳述されている。コバーシンタンパク質及びその機能的等価物の組換え形態は、好ましくは非グリコシル化される。
【0099】
本発明のタンパク質及び断片は、タンパク質化学の慣用的方法を用いて調製することもできる。例えばタンパク質断片は、化学合成によって調製することができる。融合タンパク質の生成方法は、本技術分野において標準的なものであり当業者によく知られている。例えば、一般的な分子生物学的、微生物学的組換えDNA技術及び免疫学的技法の多くは、[28]や[30]に見ることができる。
【0100】
投与方法
コバーシン及びその機能的等価物は、実施する投与のために医療専門家は必要ではなく、これらの分子は迅速に吸収される。多くの組換え抗体は非常に緩慢に吸収され、その結果、長期間にわたり注入(例えば静脈内に)する必要がある。したがって、このような分子の投与には医療専門家が必要である。それゆえ、C5多型を有する対象における補体経路の活性化の阻害においてより有効であるという利点があるだけではなく、コバーシンは、エクリズマブのような抗体等の他の薬剤よりも投与が容易であるという利点も有する。
【0101】
本発明の実施において薬剤を投与する対象は哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることが好ましい。対象は、成人、小児又は乳児とすることができる。また、薬剤を投与する対象は、補体媒介性疾患又は障害に罹患しているものとすることができる。特に、対象は、補体C5多型を有することがわかっている又は有することが疑われる対象であってよい。
【0102】
薬剤は治療的又は予防的に有効な量で投与する。用語「治療的に有効な量」とは、本明細書の他で定義するような、補体媒介性疾患又は障害を治療するのに必要な薬剤の量を意味する。本明細書で使用する用語「予防的に有効な量」とは、本明細書の他で定義するような、補体媒介性疾患又は障害を予防するのに必要な薬剤の量を意味する。薬剤の用量は、対象内で可能な限り多くの利用可能なC5(より好ましくは利用可能なC5全て)と結合するのに十分であることが好ましい。あるいは、薬剤の用量は、対象内で可能な限り多くの利用可能なLTB4(より好ましくは利用可能なLTB4全て)と結合するのに十分なものであってもよい。いくつかの態様においては、薬剤の用量は、可能な限り多くの利用可能なC5及びLTB4(例えば、利用可能なC5及びLTB4の全て)と結合するのに十分である。供給する薬剤の用量は、対象内で利用可能なC5及び/又はLTB4の全てと結合するのに必要なモル用量の少なくとも2倍である。供給する薬剤の用量は、対象内で利用可能なC5及び/又はLTB4の全てと結合するのに必要なモル用量の2.5倍、3倍又は4倍とすることができる。用量は0.0001mg/kg(患者の質量に対する薬剤の質量)~20mg/kgであることが好ましく、好ましくは0.001mg/kg~10mg/kg、好ましくは0.01mg/kg~2mg/kg、好ましくは0.1mg/kg~1mg/kg;あるいは0.2mg/kg~0.8mg/kg;あるいは0.3mg/kg~0.7mg/kg;あるいは0.4mg/kg~0.6mg/kg;例えば0.14mg/kg又は0.57mg/kgである。治療的又は予防的に有効な量はさらに、終末補体の阻害の点で定義することもでき、例えば、終末補体活性が、処置を行わない終末補体活性と比較して少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、91、92 ,93、94、95、96、97、98、99、100%低減することを意味する量である。用量及び頻度は、所望のレベルにおける終末補体活性を維持するように調整することができ、所望のレベルは例えば、処置を行わない終末補体活性と比較して10%又はそれ未満、例として9、8、7、6、5、4、3、2、1%又はそれ未満である。
【0103】
その用量を投与するために必要な頻度は、関係する薬剤の半減期によって決まる。前記薬剤がコバーシンタンパク質又はその機能的等価物である場合、その用量は、持続注入やボーラス投与、あるいは1日1回、1日2回、あるいは2日、3日、4日、5日、6日、7日、10日、15日又は20日以上毎に1回で投与することができる。他で述べたように、コバーシンタンパク質及びその機能的等価物の具体的な利点は、投与することができる相対的容易性及び迅速性であり、投与に医療専門家が必要ないという事実である。
【0104】
単回又は複数用量を投与することができる。例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、又は8用量を投与することができる。単回用量が一実施形態である。正確な用量及び投与頻度は、投与時の患者の状態によって決定し得る。用量を決定する際に考慮し得る要素としては、治療又は予防の必要性、患者の疾病状態の重症度、患者の健康状態、年齢、体重、性別、食事、投与期間及び投与頻度、薬物の併用、反応感度、及び治療に対する患者の忍容性又は反応が挙げられる。正確な量は、慣用的試験で決定することができるが、最終的には臨床医に判断する責任がある。
【0105】
投与レジメンはまた、最初の「負荷用量」の後に1つ以上の続く「維持用量」の形態をとることができる。一般的に、負荷用量は維持用量よりも大きい。負荷用量は、維持用量よりも2倍、5倍、10倍又はそれを超えて大きい場合がある。負荷用量は、単回用量として又は特定の時間枠内の1つ以上の用量として投与されてもよい。典型的には、負荷用量は、24時間の一期間に投与される1回、2回、3回、4回又は5回用量である。維持用量は、典型的には、3、4、6、8、12、24又は48時間ごとなどの規則的な間隔で繰り返されるより低い用量である。正確なレジメンは、慣用的な実験によって決定することができるが、最終的には臨床医の判断に委ねられてもよい。
【0106】
負荷用量は0.0001mg/kg(患者の体重と比較した薬物の質量)から20mg/kgであってもよく、維持用量は0.0001mg/kgから20mg/kgの間であってもよく、あるいは負荷用量は0.001mg/kgから10mg/kgであり、維持用量は0.001mg/kgから10mg/kgであり、あるいは負荷用量は0.01mg/kgから2mg/kgであり、維持用量は0.01mg/kgから2mg/kgであり、あるいは負荷用量は0.1mg/kgから1mg/kgであり、維持用量は0.1mg/kgから1mg/kgであり、あるいは負荷用量は0.1mg/kgから1mg/kgであり、維持用量は0.05mg/kgから0.5mg/kgであり、あるいは負荷用量は0.2mg/kgから0.8mg/kgであり、維持用量は0.1mg/kgから0.4mg/kgであり、あるいは負荷用量は0.3mg/kgから0.7mg/kgであり、維持用量は0.1mg/kgから0.3mg/kgであり、あるいは負荷用量は0.4mg/kgから0.6mg/kgであり、維持用量は0.1mg/kgから0.2mg/kgであり、例えば、負荷用量が0.57mg/kgであり、維持用量が0.14mg/kgである場合である。
【0107】
負荷用量は0.0001mg/kg(患者の体重と比較した薬物の質量)から20mg/kgであってもよく、維持用量は0.0001mg/kgから20mg/kgであってもよく、あるいは維持用量は0.001mg/kgから10mg/kgであってもよく、あるいは維持用量は0.01mg/kgから2mg/kgであってもよく、あるいは維持用量は0.1mg/kgから1mg/kgであってもよく、あるいは維持用量は0.1mg/kgから0.8mg/kgであってもよく、あるいは維持用量は0.1mg/kgから0.6mg/kgであってもよく、あるいは維持用量は0.1mg/kgから0.4mg/kgであってもよく、あるいは維持用量は0.1mg/kgから0.2mg/kgであってもよい。
【0108】
負荷用量は0.0001mg/kg(患者の体重と比較した薬物の質量)から20mg/kgであってもよく、維持用量は0.0001mg/kgから20mg/kgであってもよく、あるいは負荷用量は0.001mg/kgから10mg/kgであってもよく、あるいは負荷用量は0.01mg/kgから2mg/kgであってもよく、あるいは負荷用量は0.1mg/kgから1mg/kgであってもよく、あるいは負荷用量は0.1mg/kgから1mg/kgであってもよく、あるいは負荷用量は0.2mg/kgから0.8mg/kgであってもよく、あるいは負荷用量は0.3mg/kgから0.6mg/kgであってもよく、あるいは負荷用量は0.4mg/kgから0.6mg/kgであってもよい。薬剤は通常、薬学的に許容し得る担体と共に投与する。本明細書で使用する用語「薬学的に許容し得る担体」としては、担体自身が、毒性作用を誘発せず、また、医薬組成物を投与する個体に対して有害な抗体の産生を引き起こすことがないのであれば、遺伝子、ポリペプチド、抗体、リポソーム、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、不活性ウイルス粒子が挙げられ、実際には他の如何なる剤も挙げられる。薬学的に許容し得る担体は更に、水、生理食塩水、グリセロール、エタノール等の液体、又は湿潤剤若しくは乳化剤等の補助物質、pH緩衝物質等を含むことができる。従って、用いる薬学的担体は投与経路によって変わる。医薬組成物は担体によって、患者の摂取を助ける錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤に製剤化することができる。薬学的に許容し得る担体に関する詳細な考察は[31]で得られる。
【0109】
薬剤は公知の如何なる投与経路によっても送達することができる。薬剤は、局所又は全身送達することができる。薬剤は非経口経路(例えば、皮下、腹腔内、静脈内若しくは筋肉内における注射、又は組織の間質腔への送達)によって送達することができる。また、組成物は病変部に投与することもできる。その他の投与形態としては、経口及び肺内投与、坐剤、経皮性又は経皮的塗布、針、ハイポスプレーを挙げることができる。
【0110】
好ましくは、薬剤は皮下注射によって送達される。いくつかの実施形態において、これは、例えば、0.0001mg/kg(患者の体重と比較した薬物の質量)から20mg/kgの間の初期負荷用量、続いて0.0001mg/kgから20mg/kgの間の1日1回の維持用量、又は本明細書の他の箇所に開示されている他の用量で、1日1回の皮下注射を介して行われる。あるいは、薬剤は、隔日で皮下注射によって送達されてもよい。
【0111】
好ましい実施形態において、薬剤は、0.4mg/kg~0.6mg/kg(例えば、0.57mg/kg)の初期負荷用量での1日1回の皮下注射、続いて0.1mg/kg~0.2mg/kg(例えば、0.14mgl/kg)の1日1回の維持用量を介して送達される。
【0112】
薬剤は、単独で、又は補体媒介性疾患若しくは障害を有する患者の治療において現在使用されている他の薬剤の投与も伴う治療レジメンの一部として、投与されてもよい。
【0113】
薬剤は、他の薬剤(複数可)と同時に、逐次的に又は別々に投与することができる。例えば、薬剤は、他の薬剤(複数可)の投与前又は投与後に投与することができる。特に、薬剤は、先行する薬剤が補体媒介性疾患又は障害に脅威を与えなかった後に投与することができる。特定の実施形態において、薬剤は、抗C5モノクローナル抗体の後に投与することができる。
【0114】
特定の実施形態において:
(i) 補体媒介性疾患は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)である、
(ii) 補体C5多型が残基Arg885にある、
(iii) 治療用の薬剤は、コバーシンタンパク質又はコバーシンタンパク質の断片若しくはホモログであり、このような断片は、野生型C5及び/又はC5多型を有する対象由来のC5に結合する能力を保持する、
(iv) 薬剤が皮下に送達される。
【0115】
特定の実施形態において、皮下注射は、0.4mg/kg~0.6mg/kg(患者の体重と比較した薬物の質量)の初期負荷用量で1日1回、続いて0.1mg/kg~0.2mg/kgの1日1回の維持用量、より好ましくは0.57mg/kg(患者の体重と比較した薬物の質量)の初期負荷用量、続いて0.14mg/kgの1日1回の維持用量である。
【0116】
特定の実施形態において:
(i) 補体媒介性疾患は、移植片対宿主病(GvHD)である、
(ii) 補体C5多型が残基Arg885にある、
(iii) 治療用の薬剤は、コバーシンタンパク質又はコバーシンタンパク質の断片若しくはホモログであり、このような断片は、野生型C5及び/又はC5多型を有する対象由来のC5に結合する能力を保持する、
(iv) 薬剤が皮下に送達される。
【0117】
特定の実施形態において、皮下注射は、0.4mg/kg~0.6mg/kg(患者の体重と比較した薬物の質量)の初期負荷用量で1日1回、続いて0.1mg/kg~0.2mg/kgの1日1回の維持用量、より好ましくは0.57mg/kg(患者の体重と比較した薬物の質量)の初期負荷用量、続いて0.14mg/kgの1日1回の維持用量である。
【0118】
特定の実施形態において:
(i) 補体媒介性疾患は、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)である、
(ii) 補体C5多型が残基Arg885にある、
(iii) 治療用の薬剤は、コバーシンタンパク質又はコバーシンタンパク質の断片若しくはホモログであり、このような断片は、野生型C5及び/又はC5多型を有する対象由来のC5に結合する能力を保持する、
(iv) 薬剤が皮下に送達される。
【0119】
特定の実施形態において、皮下注射は、0.4mg/kg~0.6mg/kg(患者の体重と比較した薬物の質量)の初期負荷用量で1日1回、続いて0.1mg/kg~0.2mg/kgの1日1回の維持用量、より好ましくは0.57mg/kg(患者の体重と比較した薬物の質量)の初期負荷用量、続いて0.14mg/kgの1日1回の維持用量である。
【0120】
特定の実施形態において:
(i) 補体媒介性疾患は、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)である、
(ii) 補体C5多型が残基Arg885にある、
(iii) 治療用の薬剤は、コバーシンタンパク質又はコバーシンタンパク質の断片若しくはホモログであり、このような断片は、野生型C5及び/又はC5多型を有する対象由来のC5に結合する能力を保持する、
(iv) 薬剤が皮下に送達される。
【0121】
特定の実施形態において、皮下注射は、0.4mg/kg~0.6mg/kg(患者の体重と比較した薬物の質量)の初期負荷用量で1日1回、続いて0.1mg/kg~0.2mg/kgの1日1回の維持用量、より好ましくは0.57mg/kg(患者の体重と比較した薬物の質量)の初期負荷用量、続いて0.14mg/kgの1日1回の維持用量である。
【0122】
本発明は以下の実施形態を包含する:
1.補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法であって、補体C5多型を有し、治療又は予防を必要とする対象に、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤の治療的又は予防的に有効な量を投与するステップを含む方法。
2.補体C5多型を有する対象における補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤。
3.補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法であって、
(a) C5多型を有する対象を同定するステップ、並びに
(b) 前記対象における古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を同定するステップ、並びに
(c) ステップ(b)において同定された前記薬剤の治療的又は予防的に有効な量を前記対象に投与するステップ
を含む、方法。
4.補体媒介性疾患及び/又は障害を治療又は予防する方法において使用するための、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤であって、該方法は、
(a) C5多型を有する対象を同定するステップ、並びに
(b) 前記対象における古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤を同定するステップ、並びに
(c) ステップ(b)において同定された前記薬剤の治療的又は予防的に有効な量を前記対象に投与するステップ
を含む、薬剤。
5.補体媒介性疾患又は障害を治療するための、C5多型を有する対象において古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害する薬剤であって、該薬剤は対象がC5多型を有すると決定されたことに基づいて対象に投与される、前記薬剤。
6.薬剤がC5に結合するが、C5コンベルターゼ結合部位をブロックしない、実施形態1~5のいずれかに記載の方法又は薬剤。
7.薬剤が、配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸19~168を含む若しくはそれからなるタンパク質である、又はこのタンパク質の機能的等価物である、実施形態1~6のいずれかに記載の方法又は薬剤。
8.薬剤が、配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸1~168を含む若しくはそれからなるタンパク質である、又はこのタンパク質の機能的等価物である、実施形態1~7のいずれかに記載の方法又は薬剤。
9.薬剤が、実施形態7又は8に記載されるタンパク質をコードする核酸分子である、実施形態1~8のいずれかに記載の方法又は薬剤。
10.対象が哺乳動物であり、好ましくはヒトである、実施形態1~9のいずれかに記載の方法又は薬剤。
11.対象が、古典的補体経路、代替補体経路及びレクチン補体経路を阻害するモノクローナル抗体剤の有効性を低下させる補体C5多型を有する、実施形態1~10のいずれかに記載の方法又は薬剤。
12.対象が、エクリズマブの有効性を低下させる補体C5多型を有する、実施形態1~11のいずれかに記載の方法又は薬剤。
13.対象が、実施形態6~8のいずれかに記載される薬剤の有効性を低下させない補体C5多型を有する、実施形態1~12のいずれかに記載の方法又は薬剤。
14.対象が抗C5モノクローナル抗体に対して非応答者である、実施形態1~13のいずれかに記載の方法又は薬剤。
15.補体C5多型がArg885Cys又はArg885Hisである、実施形態1~14のいずれかに記載の方法又は薬剤。
以下、実施例によって本発明の種々の態様及び実施形態をより詳細に説明する。本発明の範囲から逸脱することなく細部を変更することができることは理解されよう。
【実施例】
【0123】
[実施例1]
C5活性のインビトロ阻害
Quidel CH50溶血アッセイにより補体C5をコードする遺伝子において稀な遺伝子多型(c.2654G>A(p.Arg885His))を有することが判明した4歳男児の白人患者由来の血清中における終末補体活性(terminal complement activity)を測定した。
【0124】
Quidel Microvue CH50 Eq酵素イムノアッセイ(cat#A018)は、ヒト血清中の全古典的経路活性のインビトロ測定のために使用した。http://www.quidel.com/sites/quidel.com/files/product/documents/a018_microvue_ch50_eq_english_1.pdf。
【0125】
このキットは、標準的な条件下での終末補体複合体(TCC)形成の直接的な尺度を提供する。キットを使用してCH50を測定するには、3つのステップがある。
1. TCCの形成をもたらす、未希釈の血清中の古典的補体経路の活性化。
2. 血清の希釈、及びTCCを捕捉する抗体で被覆されたマイクロアッセイウェルへの添加。
3. 抗TCC西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗体を用いた捕捉TCCの定量化。
【0126】
基質添加時の色強度は、各反応に存在するTCCの濃度に比例する。キット標準曲線(各アッセイ中に決定される)を使用して、アッセイ結果をミリリットルあたりのCH50単位当量(CH50 U Eq/ml)で表す。
【0127】
キットの直線範囲は30~310U Eq/mlである。
【0128】
製造業者に従って、234個の個々のヒト試料から決定された正規性についてのカットオフは70 CH50 U Eq/mlである。
【0129】
エクリズマブによる治療後、患者は、野生型C5を有する正常対照の血清中の補体活性と比較して、70%の補体活性を保持した。
【0130】
エクリズマブを投与した後に採取された血清を30、60及び120μg/mlのコバーシンと混ぜると、検出できないレベルの補体活性が生じた。
【0131】
したがって、エクリズマブに対する非応答者において、コバーシンは通常の有効性を保持した。
【0132】
[実施例2]
事例研究
体重13.6kgの4歳男児の白人患者は、慢性肉芽腫性疾患の一次診断を受け、2013年10月に造血幹細胞移植を受けた。その後、患者は、血小板減少症による多量の胃腸管出血が発生し、現在、毎日の血小板輸血を受けている。診断は、移植片対宿主病(GvHD)又は血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)のいずれかである。
【0133】
エクリズマブ、インフリキシマブ及びリツキシマブによる治療は成功していない。
【0134】
この患者は、以前では日本人又は漢民族起源の人々のみにおいて報告されていた、補体C5をコードする遺伝子における希少な遺伝子多型(c.2654G>A (p.Arg885His))を有することが判明した。
【0135】
上記のような血清補体活性のインビトロアッセイは、補体活性の結果が、エクリズマブでの処置後の正常対照と比較して約70%の溶血活性であることを示した。対照的に、30、60及び120μg/mlのコバーシンを血清に添加(spiking)すると、溶血活性が検出不可能なレベルまで低下した。
【0136】
コバーシンによる補体経路の阻害に対する感受性の同定後、以下の治療が開始された:
コバーシン、以下のスケジュールに従う皮下注射による:
初期負荷用量: 0.57mg/kg = 7.8mg (0.7ml)
その後の24時間ごとの維持用量:0.14mg/kg = 1.9mg (0.2ml)
【0137】
血清は、補体活性のために毎日採取し、用量及び/又は頻度は、正常対照血清と比較して10%以下で終末補体活性を維持するために調整される。
【0138】
以下の結果もまたモニターする:
a) トラフ血小板数の変化
b) 血清LDHの変化
c) Quidel CH50溶血アッセイによって測定された終末補体活性
【0139】
[実施例3]
事例研究の結果
実施例2の患者をコバーシンで約6週間治療した。治療の最初の日に、患者は、循環C5(0.57mg/kg)を除去するために計算された用量を投与され、その後、2週間目の終わりまでこの用量の50%を投与された。以降、患者は2週間にわたって同じ用量を1日おきに投与され、その後、さらに2週間、その用量の半分を投与された。3週間目以降の用量は、終末補体活性を完全に制御するには不十分であった可能性があることに留意すべきである。
【0140】
臨床的には、患者は、完全用量を投与された期間中に安定した。血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)であると推定された患者の病気の主な結果は、血小板数の著しい減少であり、そのため毎日2単位の血小板を数カ月間投与されていた。コバーシン治療の7日後、トラフ血小板数(血小板輸血後約12時間)は、14日目までに98,000に上昇し始め、これは、患者の病気全体を通して記録された最高値であった。
【0141】
血小板輸血に対する患者の要求は、その時点で1日1単位に減少した(
図3参照)。
【0142】
3週目の開始時に用量を減少し、トラフ血小板数が50,000未満に減少し、患者の病気の残りの部分では回復しなかった。トラフ血小板数の増加と血小板輸血の必要性の減少は、医療従事者がコバーシンに対する肯定的応答の明確な指標とみなした。用量低下後の増悪により、これが確認されるようである。
【0143】
コバーシンの最終用量は6週間後に与え、患者は急速に悪化し、さらに2週間後に空腸の穿孔により死亡した。
【0144】
[実施例4]
事例研究
40歳代半ばの男性患者はPNHと診断され、不十分な臨床応答で約1年間エクリズマブを用いて治療された。遺伝学的分析により、c.2654位置でヘテロ接合性のC5多型が確認されたが、これはpArg885Hisではないことが知られているものの、どのアミノ酸シフトを生じさせるかはわかっていない。
【0145】
[実施例5]
患者由来の血清中の終末補体活性
試薬及び試料
試料調製: 血液をプレーングラス又はSSTバキュテナーチューブ(又は同等物)に回収し、1時間凝固させた後、1500gで10分間遠心分離して血清を調製した。血清を直ちに分離し(任意の血液細胞による汚染を避ける)、スクリューキャップのクライオチューブ(約0.5mlアリコート)中で-70℃で保存した。
【0146】
コバーシン: -70℃で10.9mg/ml溶液を凍結する。90μL正常対照又は患者血清中で10μLを希釈して、1.09mg/mLの最終濃度を得る。90μL自己血清中で10μLを希釈して、最終濃度を109μg/mLにする。自己血清中で2倍に希釈して、0.4~54.5μg/mlの最終濃度範囲を達成する。
【0147】
エクリズマブ: 10mg/mlの凍結溶液。90μL正常対照又は患者の血清中で10μLを希釈して、1mg/mLの最終濃度を得る。90μL自己血清中で10μLを希釈して、100μg/mlの最終濃度を得る。自己血清中で2倍に希釈して、0.4~50μg/mlの最終濃度範囲を達成する。
【0148】
緩衝液: リン酸緩衝生理食塩水(0.01Mリン酸緩衝液、0.0027M塩化カリウム、0.137M塩化ナトリウム、pH7.4)。
【0149】
方法
コバーシン、エクリズマブ又は緩衝液(対照)を上記の手順に従って血清中で混合(spike)し、ある範囲の最終濃度を達成する。次に、これらを、二連のウェルを用いて、Quidel CH50キットを使用してCH50等価活性についてアッセイする。
【0150】
結果
キットで与えられる検量線からCH50値を算出する。C5阻害剤濃度に対する生CH50値として結果をプロットする。
【0151】
関連する緩衝液対照のCH50濃度のパーセンテージとして各C5阻害剤濃度でのCH50結果を算出する。阻害剤濃度に対するCH50パーセンテージの結果をプロットする。
【0152】
別々の日に実験を繰り返し、各患者及び単一の正常対照において3回の測定を得る。これは、実験間の変動性の推定値を与える。
【0153】
6つの異なる正常対照について単一実験で別の日に実験を繰り返す。これは、対象の応答性間の推定値を与える(及び未知のC5突然変異体又は多型を有する可能性がある単一の対象を使用するリスクを回避する)。
【0154】
全血清に対する各薬剤の最大用量を添加し、次に、全血清中で2倍連続希釈を行った。1回の反復を各薬物の用量に使用した。
【0155】
エクリズマブの最大用量は50μg/mlであり、次に25、12.5、6.3、3.2、1.6、0.8、0.4及び0μg/mlであった。コバーシンの最大用量は54.5μg/mlであり、次に27.3、13.1、6.6、3.3、1.7、0.9及び0μg/mlであった。
【0156】
連続希釈後、血清を活性化し、Quidel CH50キットの指示に従ってアッセイした。
【0157】
CH50 U Eq/mlをキット標準と比較して算出し、3つの血清試料及び2つの薬物処置のそれぞれについて薬物濃度に対してプロットした。これらはまた、関連する緩衝液のみの対照のCH50値のパーセンテージとしてプロットした。
【0158】
事例研究における正常ヒト血清及び患者由来の血清は、上記のようにエクリズマブ及びコバーシンの存在下で終末補体活性について試験した。
【0159】
図6及び7に示されるように、いずれの薬物も存在しない場合、正常ヒト血清の基準CH50値(平均78.1 CH50 U Eq/ml)と、実施例2及び3の事例研究に記載された患者由来の2つの患者血清試料の基準CH50値(平均82.4及び60.6 CH50 U Eq/ml)は、>70 CH50 U Eq/mlの正常ヒト範囲内であるか(正常対照及びBJ 2)又はわずかに下回った(BJ 1)。
【0160】
コバーシンは正常なヒト血清とp.Arg885His多型を有する患者由来の血清の両方を等しく十分に阻害した。約15μg/mlのコバーシン濃度で5%未満の基準CH50(U Eq/ml)が観察された。
【0161】
エクリズマブは、予想される用量で正常ヒト血清を阻害し、5%未満の基準CH50(U Eq/ml)は約45μg/mlの濃度で観察された。25μg/mlを超える用量では、エクリズマブは、正常ヒト血清とp.Arg885His多型を有する患者由来の血清において同様に、Quidel CH50キットを用いて測定される補体活性を阻害した。しかしながら、それは、患者由来の血清を完全に阻害せず、試験したエクリズマブの最大用量(60μg/ml)で約20%の基準CH50がそのままであった。
【0162】
実施例4に記載される患者由来の血清はまた、正常ヒト血清と並行して試験した。
図4及び
図5に示されるように、いずれの薬物も存在しない場合、正常ヒト血清及び患者の血清試料由来の血清の基準CH50値は、>70 CH 50 U Eq/mlの正常ヒト範囲内であった。
【0163】
コバーシンは、正常なヒト血清及びArg885でのアミノ酸置換を有する患者由来の血清の両方を等しく十分に阻害した。約15μg/mlのコバーシン濃度で、5%未満の基準CH50(U Eq/ml)が観察された。
【0164】
エクリズマブは、予想される用量で正常ヒト血清を阻害し、5%未満の基準CH50(U Eq/ml)が達成された。実施例2の患者血清と同様に、25μg/mlを超える用量では、エクリズマブは、正常ヒト血清及び実施例4の患者由来の血清において同様に補体活性を阻害したが、実施例4の患者由来の血清を完全に阻害せず、試験したエクリズマブの最大用量(50μg/ml)で約10%の基準CH50がそのままであった。
【0165】
エクリズマブは、エクリズマブによる治療処置の利益を受けなかった患者(実施例2と実施例4)の両方からの血清中の補体活性を完全には阻害しない。これは、PNH治療における補体阻害が、治療利益を見るためにはこれより高い必要があるという仮説を支持する。
【0166】
組換え発現を用いて、Nishimuraら(2014)は、実施例2の患者に見られるC5 p.Arg885His多型がC5へのエクリズマブの結合を完全に消失させることを示した。現在の研究(
図6及び7)に示されるエクリズマブによる、実施例2の患者の補体血清の部分的阻害は、実施例2の患者及びこれまで同定された多型を有する他の全ての個体がC5の正常なコピーとp.Arg885His C5のコピーを有するヘテロ接合体であるため理解し得る。両方のコピーが完全に発現される場合、エクリズマブは、これらの個体に存在するC5タンパク質の50%を完全に阻害する。わずか20%の残留CH50活性しか観察されなかったという事実は、実施例2の患者が新鮮な血液製剤を毎日投与されていることを反映している可能性があり、これにより正常なC5とp.Arg885His C5の比が増加する可能性があり、したがってエクリズマブによって阻害されないC5p.Arg885Hの相対量が減少した。
【0167】
エクリズマブは、実施例2の患者の血清よりも実施例4の患者の血清をより大きな程度で阻害するようであるが、最大用量のエクリズマブでさえ、いくらかの残留補体活性が残る。考えられる説明は、Arg885のアミノ酸変化が、p.Arg885Hisよりもエクリズマブ結合に対してあまり重大な影響を及ぼさない保存的な変化であるということである。
【0168】
対照的に、コバーシンは、正常なヒト血清、及びエクリズマブによって完全に阻害されない2人の患者由来の血清の同等に有効な阻害剤である。コバーシンによる完全な阻害は、おそらくエクリズマブとは異なるC5の部位に結合するためであると理解し得る。さらに、コバーシンは、ヒト、カニクイザル、ブタ、ラット、マウス、ウサギ及びモルモットを含む広範囲の哺乳動物種においてC5の同等に有効な阻害剤であることが示されている。これは、コバーシンのC5への結合が、C5のアミノ酸配列の差異に対して、ヒトC5のみを阻害することができるエクリズマブよりもはるかに寛容であることを示す。C5阻害から利益を受けるが、エクリズマブとC5の間の結合相互作用の親和性を妨げる又は低減するC5の多型に起因して、エクリズマブの投与から治療処置をほとんど又はまったく受けない患者の治療にコバーシンを考慮すべきである。
【0169】
【配列表】