(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】シートロック機構
(51)【国際特許分類】
B60N 2/30 20060101AFI20220324BHJP
【FI】
B60N2/30
(21)【出願番号】P 2017222678
(22)【出願日】2017-11-20
【審査請求日】2020-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391032451
【氏名又は名称】富士シート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 学
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】吉木 哲典
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/070095(WO,A1)
【文献】実開平05-032098(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2005/0082865(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102004021516(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロアに対して移動可能に構成されるシートベースを前記フロアに固定するシートロック機構であって、
前記フロアに不動に設けられるストライカと、
前記シートベースに取り付けられるブラケットと、
前記ブラケットの一面側に回動可能に支持され、前記ストライカに係合する第一ロック部材と、
前記ブラケットの一面側に回動可能に支持され、前記第一ロック部材に係合して第一ロック部材の回動を抑制する第二ロック部材とを備え、
前記ブラケットは、
シートベルトアンカが固定されるアンカ固定部と、
前記ブラケットの一面側から局所的に突出
し、前記第一ロック部材と前記第二ロック部材との係合箇所に近接する押え部とを備え、
前記押え部は、
前記係合箇所に重複
する位置から前記アンカ固定部に向う方向に延設されているシートロック機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車といった車両に備わるシートをフロアに固定するシートロック機構に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に備えられるシートとして、シートバックを前倒しして二つ折りに折り畳み可能な可倒式シートがある。可倒式シートは、フレーム状のシートベース上にスライド可能に取り付けられている。このような可倒式シートには、更に折り畳んだ状態でシートベースごとフロアに起立させたり、フロアの段差部分に収納したり、取外したりできるように構成されているものがある。可倒式シートを着座位置から別の配置位置に変更可能にすることで、車両の乗降性を向上させたり、荷室空間を拡大させたりすることができる。着座位置での可倒式シートの使用時には、可倒式シートのシートベースをフロアの所定の着座位置にロックし、可倒式シートを別の配置位置に変更するときは、フロアに対するシートベースのロックを解除する。
【0003】
上述したシートベースをフロアに固定するシートロック機構として、例えば特許文献1の自動車用シートのロック装置を挙げることができる。特許文献1のロック装置(シートロック機構)は、フロアに不動に設けられるストライカと、シートの下側に備わるフック(第一ロック部材)との係合によってシートを固定している。フックは、シートに取り付けられるブラケットの一面側に回動可能に取り付けられている。当該ブラケットには、ストライカに係合したフックの回動を抑制するようにフックに係合するロックアーム(第二ロック部材)が設けられており、振動程度ではフックとストライカとの係合が解除されないようになっている。シートベースのロックを解除する際は、ロックアームを回動させ、フックを回動可能な状態にする。この特許文献1のロック装置では更に、シートベルトアンカが固定されるアンカ固定部がブラケットに設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のシートロック機構のように、ブラケット上にアンカ固定部が設けられる構成では、車両の急制動時などにシートベルトアンカに大きな張力が作用するとフック(第一ロック部材)に大きな負荷がかかるという問題がある。このような問題に対して、特許文献1ではストライカに係合するフックの先端部を補強する補強材を設けている。
【0006】
しかし、シートベルトアンカに作用する張力の方向によっては、ブラケットが撓む方向にブラケットに応力が作用することがある。この場合、フック(第一ロック部材)とロックアーム(第二ロック部材)とをフックの厚み方向にずらす力が作用し、両部材が不適切な係合状態となる恐れがある。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、簡単な構成で第一ロック部材と第二ロック部材とが不適切な係合状態となることを抑制できるシートロック機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るシートロック機構は、
車両のフロアに対して移動可能に構成されるシートベースを前記フロアに固定するシートロック機構であって、
前記フロアに不動に設けられるストライカと、
前記シートベースに取り付けられるブラケットと、
前記ブラケットの一面側に回動可能に支持され、前記ストライカに係合する第一ロック部材と、
前記ブラケットの一面側に回動可能に支持され、前記第一ロック部材に係合して第一ロック部材の回動を抑制する第二ロック部材とを備え、
前記ブラケットは、
シートベルトアンカが固定されるアンカ固定部と、
前記ブラケットの一面側から局所的に突出する押え部とを備え、
前記押え部は、前記第一ロック部材と前記第二ロック部材との係合箇所に重複し、前記アンカ固定部に向う方向に延設されている。
【発明の効果】
【0009】
シートロック機構のブラケットに押え部を形成し、その押え部を第一ロック部材と第二ロック部材との係合箇所に重複するように配置することで、両ロック部材が厚み方向にずれることを抑制できる。ブラケットが撓んだときに、押え部が係合箇所を押えるように係合箇所に当接するからである。特に、シートベルトの張力が作用するアンカ固定部に向って押え部が延設されているため、ブラケットが撓んだ時にブラケットと同じように押え部が撓み易く、押え部により両ロック部材がほぼ均等に押圧され、両ロック部材が厚み方向にずれ難い。
【0010】
上記シートロック機構では、ブラケットを厚くしてブラケットを撓み難くするのではなく、ブラケットの撓みを許容した上で、両ロック部材の厚み方向のずれを抑制している。そのため、ブラケット全体を厚くすることによる車両重量の増加や、材料コストの増加を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1に示すシートロック機構の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のシートロック機構を
図1~3に基づいて説明する。図中、同一符号は同一名称物を示す。
【0013】
<実施形態1>
≪全体構成≫
図1~
図3を参照して、実施形態1のシートロック機構1を説明する。
図1~3では、矢印で示すFR側が車両前方側、RR側が車両後方側である。
図1には、シートロック機構1によって、シートベース2がフロア9にロックされた状態が示されている。シートベース2の上には、例えば二点鎖線で示すスライド機構を介して図示しない可倒式シートが設けられる。可倒式シートは、シートバック(背もたれ)がシートクッション(座面部)に向って倒れるように構成されている。シートロック機構1は、フロア9側に設けられるストライカ3と、シートベース2側に設けられるブラケット4、第一ロック部材5、及び第二ロック部材6とで構成されている。以下、シートロック機構1の各構成部材を詳細に説明する。
【0014】
≪ストライカ≫
ストライカ3は、フロア9に不動に設けられる剛性部材である。本例のストライカ3は、フロア9から突設され、車幅方向(紙面奥行き方向)に離隔する一対の縦片30と、両縦片30の上端同士を繋ぐ横片31と、で構成される逆U字形状を備える。このストライカ3の横片31に、後述する第一ロック部材5が係合する。ストライカ3の形状や向きは特に限定されない。例えば、本例と同じ逆U字形状のストライカ3が、逆U字の開口を車幅方向に向けて配置されていても構わない。
【0015】
≪ブラケット≫
ブラケット4は、シートベース2に下垂するように設けられる平板状の部材である。このブラケット4には、第一ロック部材5を回転可能に取り付けるための取付孔45、及び第二ロック部材6を回転可能に取り付けるための取付孔46が設けられている。その他、ブラケット4には、円弧窓40や、押え部41、アンカ固定部47が設けられている。ブラケット4に備わるこれらの構成については、その構成に関連する部材を説明する際に詳述する。特に、押え部41は、実施形態のシートロック機構1における重要な特徴の一つであり、後段で項目を設けて改めて説明を行なう。
【0016】
≪シートベルト≫
ブラケット4に取り付けられる部材のうち、シートロック機構1の機能に関連する部材ではないが、シートロック機構1の構成に影響を与えるシートベルト7の構成を最初に説明する。シートベルト7は、その端部にシートベルトアンカ70を備え、そのシートベルトアンカ70は、ブラケット4のアンカ固定部47に固定されている。シートベルトアンカ70は平板状の部材であって、本例のアンカ固定部47は締付軸で構成されている。
【0017】
シートベルトアンカ70は、シートベルト7の使用時にシートベルト7の延伸方向(白抜き矢印の方向)に引っ張られる。本例では、シートベルト7の延伸方向は、シートベルトアンカ70から離れるに従って紙面奥側に傾斜する方向になっている。そのため、シートベルトアンカ70が固定されるブラケット4には、紙面奥側に撓む方向に力が作用している(
図3の白抜き矢印を合わせて参照)。
【0018】
≪第一ロック部材≫
第一ロック部材5は、ブラケット4の取付孔45に挿入される回転軸50を介してブラケット4の一面側に回転可能に支持される板状部材である。第一ロック部材5が設けられるブラケット4の一面は、シートベルト7によるブラケット4の撓み方向側の面である。この第一ロック部材5におけるブラケット4と反対側には、第一ロック部材5と後述する第二ロック部材6とを一体に扱うための支持板4B(
図3参照)が設けられている。ブラケット4に第一ロック部材5を取り付ける場合、支持板4Bとブラケット4との間に第一ロック部材5が挟み込まれるようにして、支持板4Bごと第一ロック部材5をブラケット4に取り付ける。
【0019】
第一ロック部材5は、ストライカ3の横片31に係合するストライカ係合凹部51を備える(特に
図2を参照)。このストライカ係合凹部51がストライカ3に係合することで、シートベース2がフロア9に固定される。この第一ロック部材5は、図示しない引っ張りバネによって後述する第二ロック部材6と連結されており、回転軸50を中心に紙面上の反時計回り方向(
図2の白抜き矢印方向)に付勢されている。第一ロック部材5が反時計回りに回転すれば、第一ロック部材5とストライカ3との係合は解除され、シートベース2がフロア9に対して移動可能になる。
【0020】
本例のロック部材5はさらに、後述する第二ロック部材6と係合する凹状の相互係合部55を備える。相互係合部55は、第一ロック部材5におけるストライカ係合凹部51よりも時計回り側(第一ロック部材5の付勢方向と反対側)に設けられている。
【0021】
≪第二ロック部材≫
第二ロック部材6は、
図1に示すように、ブラケット4の取付孔46に挿入される回転軸60を介してブラケット4の一面側に回転可能に支持される板状部材である。既に述べたように、この第二ロック部材6は、支持板4B(
図3)によって第一ロック部材5と一体に扱われ、支持板4Bごとブラケット4に取り付けられる。
【0022】
第二ロック部材6は、既に述べたように、引っ張りバネを介して第一ロック部材5と連結されている。そのため、
図2に示すように、第二ロック部材6は、回転軸60を中心に紙面上の時計回り方向(白抜き矢印方向)に付勢されている。この第二ロック部材6には、第一ロック部材5の凹状の相互係合部55に係合する凸状の相互係合部65が形成されている。第二ロック部材6の相互係合部65が第一ロック部材5の相互係合部55に係合することで、第一ロック部材5の回転が防止され、フロア9へのシートベース2の固定が維持される。
【0023】
第二ロック部材6は更に、第二ロック部材6をその付勢方向と反対方向(紙面上、反時計回り)に回転させるロック解除部材(本例ではワイヤ10)が取り付けられている。ワイヤ10が取り付けられる第二ロック部材6の取付部69は、ブラケット4側に突出してブラケット4の円弧窓40を貫通している。そのため、ワイヤ10は、ブラケット4よりも紙面手前側に配置される。また、円弧窓40は、回転軸60を中心とする円弧形状であり、第二ロック部材6が回動しても、取付部69が円弧窓40に引っ掛かることはない。このワイヤ10が引っ張られることで、第二ロック部材6が反時計回りに回転し、相互係合部55,56の係合が解除される。その結果、第一ロック部材5が反時計回りに回転し、第一ロック部材5がストライカ3から外れる。ワイヤ10は、乗員が操作するレバーに繋がっていても良いし、シートバックの前傾に連動して引かれるように構成しても良い。
【0024】
≪押え部≫
以上説明した構成に加えて、本例のシートロック機構1は、ブラケット4の一面から局所的に突出する押え部41を備える。この押え部41は、第一ロック部材5の相互係合部55と第二ロック部材6の相互係合部65との係合箇所に重複するように設けられている。さらに、この押え部41は、アンカ固定部47に向う方向(
図2の太線矢印参照)に延設されている。押え部41のアンカ固定部47側の端部を仮想的に延伸したときに、アンカ固定部47を貫通するようにすることが好ましい。例えば本例における押え部41の端部を延伸した仮想線は、相互係合部55の内接円の中心からアンカ固定部47の中心に向う
図2の太線矢印に一致している。仮想線は太線矢印に対して多少ずれていてもかまわず、例えば仮想線は太線矢印に対して±10°程度ずれていることが挙げられる。
【0025】
ブラケット4に上記押え部41を形成することで、第一ロック部材5と第二ロック部材6とが厚み方向にずれることを抑制できる。両ロック部材5,6のずれを抑制できるのは、
図3に示すように、シートベルト7(
図1)に引っ張られてブラケット4が撓んだときに、両ロック部材5,6の係合箇所に重複する押え部41が両ロック部材5,6をほぼ均等に押圧するからである。特に、本例ではシートベルト7の張力が作用するアンカ固定部47に向って押え部41が延設されているため、ブラケット4が撓んだ時にブラケット4と同じように押え部41が撓み易く、押え部41により両ロック部材5,6がほぼ均等に押圧されるようになっている。そのため、両ロック部材5,6が厚み方向にずれ難く、ロック部材5,6が不適切な係合状態となることを抑制できる。
【0026】
ここで、
図1に示すように、シートベルトアンカ70が固定されるアンカ固定部47に近いほどブラケット4の撓み量が大きくなる。そのため、押え部41の突出高さは、アンカ固定部47に向うに従って低くなるように形成することが好ましい。そうすることで、押え部41により両ロック部材5,6の押圧量を揃え易く、両ロック部材5,6のずれを抑制し易い。
【0027】
押え部41は、例えば、ブラケット4に一体の構造としたり、ブラケット4に後付けしても構わない。前者の例として、例えば、板材をプレス成形してブラケット4を作製する際の金型によって、ブラケット4に押え部41を形成することが挙げられる。後者の例として、例えば突条を溶接で接合することで押え部41を形成することや、溶接ビードによって押え部41を形成することが挙げられる。溶接ビードであれば、既存のブラケット4に押え部41を形成できる。また、押え部41の延伸方向の突出高さを変化させることも容易である。
【0028】
以上説明したように、本例のシートロック機構1では、ブラケット4を厚くしてブラケット4を撓み難くするのではなく、ブラケット4の撓みを許容した上で、両ロック部材5,6の厚み方向のずれを押え部41で抑制している。そのため、ブラケット4全体を厚くすることによる車両重量の増加、材料の使用量の増加に伴うコストの増加やハンドリング性の低下を抑制できる。
【符号の説明】
【0029】
1 シートロック機構
2 シートベース
3 ストライカ 30 縦片 31 横片
4 ブラケット 4B 支持板
40 円弧窓 41 押え部 45,46 取付孔 47 アンカ固定部
5 第一ロック部材 50 回転軸 51 ストライカ係合凹部 55 相互係合部
6 第二ロック部材 60 回転軸 65 相互係合部 69 取付部
7 シートベルト 70 シートベルトアンカ
9 フロア
10 ワイヤ