(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】基板の接合方法、透明基板積層体及び基板積層体を備えるデバイス
(51)【国際特許分類】
B32B 37/26 20060101AFI20220324BHJP
B29C 65/02 20060101ALI20220324BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220324BHJP
C03C 27/10 20060101ALI20220324BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20220324BHJP
C23C 14/46 20060101ALI20220324BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20220324BHJP
H05B 33/04 20060101ALI20220324BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
B32B37/26
B29C65/02
B32B9/00 A
C03C27/10 B
C23C14/08 A
C23C14/46 A
C23C16/455
H05B33/04
H05B33/10
(21)【出願番号】P 2017254137
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】511027622
【氏名又は名称】ランテクニカルサービス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503177074
【氏名又は名称】須賀 唯知
(74)【代理人】
【識別番号】100174252
【氏名又は名称】赤津 豪
(72)【発明者】
【氏名】松本 好家
(72)【発明者】
【氏名】須賀 唯知
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-123514(JP,A)
【文献】特開2015-111596(JP,A)
【文献】特開2015-207615(JP,A)
【文献】特開2017-157611(JP,A)
【文献】国際公開第2013/187500(WO,A1)
【文献】特開2004-337927(JP,A)
【文献】特開2009-199902(JP,A)
【文献】特開2008-207221(JP,A)
【文献】国際公開第2013/154107(WO,A1)
【文献】Room-temerature Bonding of Oxide Wafers by Ar-beam Sirface Activation,ECS Transactions,Volume 16, Issue 8,米国,The Electrochemical Society,2008年10月03日,p.531-537,https://iopscience.iop.org/article/10.1149/1.2982908/pdf,[2021年7月27日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 65/00-65/82
C03C 27/00-29/00
C23C 14/00-16/56
H01L 27/32
H05B 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透明基板である一対の基板の両
方の接合表面に
対して、エネルギー粒子を照射することと、
前記エネルギー粒子が照射された前記接合表面に、金属酸化物の薄膜を形成することと、
前記金属酸化物の薄膜の表面に対して、実質的に不活性ガスと酸素ガスとからなる混合ガスのエネルギー粒子を照射することと、
前記金属酸化物の薄膜を介して、前記一対の基板の
前記接合面を互いに接触させること
、
を備え
る、基板の接合方法。
【請求項2】
前記接合表面に前記金属酸化物の薄膜を形成することは、金属をターゲットとし、実質的に不活性ガスと酸素とからなる混合ガスで行うイオンビームスパッタ法により成膜することを含む、請求項1に記載の基板の接合方法。
【請求項3】
少なくとも、前記金属酸化物の薄膜を形成することから、
前記接合面を
互いに接触させることまでを真空中で行う、請求項1
又は2に記載の基板の接合方法。
【請求項4】
前記
一対の基板の前記接合面を互いに接触させることの後に、加熱処理を行うことを更に備える、請求項1から
3のいずれか一項に記載の基板の接合方法。
【請求項5】
前記加熱処理は200℃以下で行う、請求項
4に記載の基板の接合方法。
【請求項6】
前記透明
基板はガラス基板である、請求項1から
5のいずれか一項に記載の基板の接合方法。
【請求項7】
前記接合される基板の一方の基板は透明なガラス基板であり、他方の基板は光学素子を含む基板である、請求項1から
6のいずれか一項に記載の基板の接合方法。
【請求項8】
前記接合される基板の少なくとも一方の接合面が実質的に高分子材料からなる、請求項1から
7のいずれか一項に記載の基板の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板を接合する方法に関する。より詳細には、透明基板の積層体を、当該積層基板自体が有する光透過性を実質的に享受できるように形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の接合手法として、基板表面をエネルギー粒子照射によりその表面を活性化させて貼り合わせる手法が知られている。常温接合と呼ばれる手法もその一つである。このような表面活性化処理を用いた基板接合技術は、現在では多種多様な応用用途で用いられている。非限定的な一例として、接合過程の全体又は一部で、高温でのプロセスに適さない又は避けたい積層体形成において用いられることがある。例えば、異なる材料の基板の接合や、高温下以外では原子拡散が起きにくい材料の基板の接合などに用いられることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本開示は、基板を接合する方法であって、少なくとも一方が透明基板である一対の基板の両方又はいずれか一方の接合表面に金属酸化物の薄膜を形成することと、金属酸化物の薄膜を介して、基板の接合面を互いに接触させて、貼り合わせることを備える方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】一つの実施形態に係る積層体の形成方法の各工程を装置構成とともに示す図である。
【
図2】実施例での実験結果として光透過率と接合強度を示す図である。
【
図3】別の実施形態に係る積層体の形成方法の各工程を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
透明基板を用いたデバイスの一例として、ディスプレイ(表示素子)に代表される光電子デバイスでは、発光素子が、その光の取り出し部品としてのガラスに貼り付けられている構成を有していることが多い。ここで一般には、接着性のフィルムを介して両者が貼り付けられている。本開示を限定することのない一例を挙げるならば、有機エレクトロ・ルミネッセンス(以下、「有機EL」ともいう。)デバイスは、高分子でカバーされた有機EL素子が、保護ガラスに貼り付けられて構成されている。フレキシブル有機ELにおいても、有機EL素子は高分子でカバーされており、また偏光板等も高分子で出来ている。
【0006】
しかし、高分子基板又は高分子フィルムを、有機EL素子などのデバイスを保護する役割を有する保護ガラスに直接貼り付ける技術がない。そこで、光学透過性粘着シート(以下、「OCA」ともいう。)を介して、このデバイスと保護ガラスを間接的に貼り付けている。ここで、OCAという部品がコスト要因となっている。また、OCAを使った製品は、放射線下などの有機物が使えない状況での応用には適していない。
【0007】
ディスプレイ(表示素子)分野だけではなく、光の透過性を損なうことなく、ガラス同士を貼り合わせたいとの需要は多く存在する。通常は有機材料により形成された接着剤を使い、ガラス同士を形成する。しかし、接着剤は光透過性を低下させる一つの原因とされている。さらに、接着剤として有機材料が塗布により形成されるため、接合界面に気泡が生じやすく、接合界面の品質に影響を与える。
【0008】
そこで、常温接合などの直接接合手法を適用して、高い透明性のガラスに高分子でカバーされた発光素子を接合することが考えられてきた。しかしながら、ガラスの主成分であるSiO2は、エネルギー粒子の照射を受けることでは接合することが難しいとされてきた。
【0009】
本開示に含まれる基板を接合する方法は、少なくとも一方が透明基板である一対の基板の両方又はいずれか一方の接合表面に金属酸化物の薄膜を形成することと、金属酸化物の薄膜を介して、一対の基板の接合面を互いに接触させることを備える。金属酸化物は可視光に対して透明であり、かつ例えばスパッタ法などにより形成された金属酸化物は比較的接合力が強い。したがって、透過性と接合性の両方を兼ね備えている。
【0010】
<接合される基板>
「透明基板」とは、可視光を含む光の透過率が高い基板をいう。例えば可視光線透過率が90%以上であってもよい。「透明基板」は、SiO2を含むガラス、強化ガラス、高分子などを基材とし又は含む基板であってもよい。本開示に含まれる基板の接合方法は、多数の利点を有するが、一つの利点として、透過性を損ねる又は大きく低下させえることなく接合することがこれまでできなかったSiO2を含む基板も、高い光透過率を維持しつつ接合できる。
【0011】
透明基板に貼り合わされる基板の一方又は両方は、透明基板であってもよい。貼り合わされる基板は、一対の基板であってもよく、一対の透明基板であっても、一方が透明基板で他方は半透明又は不透明基板であってもよい。
【0012】
接合される一対の基板の両方がガラス基板であってもよく、高分子基板であってもよい。接合される一対の基板の一方がガラス基板で、他方が高分子基板であってもよい。高分子基板は、実質的に高分子材料からなる基板であってもよい。接合される基板の少なくとも一方の接合面が実質的に高分子材料からなっていてもよい。
【0013】
基板を接合する方法は、貼り合わせに用いられる基板又は透明基板と他の基板を提供することを含んでいてもよく、少なくとも一方が透明基板である一対の基板を提供することを含んでいてもよい。
【0014】
接合される基板の一つ又は両方は、主に高分子材料からなる基板、又は高分子基板であってもよい。高分子材料基板は、プラスチック基板であってもよく、フレキシブル基板であってもよい。高分子材料は、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、その他のポリエステル材料、PI(ポリイミド)、COP(シクロオレフィンポリマー)、PC(プリカーボネート)であってもよく、これらに限定されず、その他ポリマー、プラスチック材料であってもよい。基板は、POL(偏向フィルター)を含んでいてもよい。基板は、実質的に高分子材料からなっていてもよく、高分子材料を含んでいてもよく、高分子材料と他の材料又は部材により構成されていてもよい。高分子基板は、透明基板であってもよい。
【0015】
接合される基板は、円形であっても長方形であってもよく、あるいは帯(テープ)状であってもよい。
【0016】
接合される基板の一つは、光学素子を含んでいてもよい。光学素子は、発光素子であっても受光素子であってもこれらを含んでいてもよく、その他の光、光電子又は電子素子、回路、材料を含んでいてもよい。接合される基板は、光学素子の層を含んでいてもよく、光学素子の層と高分子の層とを含んで形成されていてもよい。例えば、基板は、光学素子を含む層又は光学素子層と、高分子材料を含む層又は高分子層とを含んで構成されていてもよい。
【0017】
接合される基板の1つは、光学素子を含む光学素子層と、光学素子層を覆う高分子材料を含む高分子層とを含んで構成されていてもよい。高分子層の表面が接合表面であってもよい。
【0018】
最終製品において、例えば光学素子が発光素子である場合に、発光素子から製品外部に放出される光が通過するすべての基板及び層が、透明であることが好ましく、例えば光学素子が受光素子である場合に、製品外部から入射された光が受光素子に到達するまでに通過するすべての基板及び層が、透明であることが好ましい。光学素子を含む最終製品において、透明とは、発光素子から放出された光のうち、実用的に十分な量の光が外部に取り出される程度、又は外部から入射された光のうち、実用的に十分な量の光が受光素子で検出される程度に透明であることをいう。
【0019】
一方、接合後により形成された透明基板積層体の光の透過率(以下、「接合後光透過率」という)が、最終製品の用途において十分な光透過率を有することが好ましい。例えば、接合後光透過率が、接合前の状態の基板をそのまま重ね合わせた複数の基板のすべてに対する光透過率(以下、「接合前光透過率」という)の90%以上であることが好ましい。接合後光透過率が接合前光透過率の95%以上であってもよい。接合後光透過率が接合前光透過率の97%以上、98%以上、または99%以上であってもよい。
【0020】
<金属酸化物>
金属酸化物の金属は、典型金属のアルカリ金属:Li、Na、K、Rb、Cs又はアルカリ土類金属:Ca、Sr、Ba、Ra、マグネシウム族元素:Be、Mg、Zn、Cd、Hg、アルミニウム族元素:Al、Ga、In、希土類元素:Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、スズ族元素:Ti、Zr、Sn、Hf、Pb、Th、鉄族元素:Fe、Co、Ni、土酸元素:V、Nb、Ta、クロム族元素:Cr、Mo、W、U、マンガン族元素:Mn、Re、貴金属:Cu、Ag、Au、白金族元素:Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptから選択されてもよい。当該金属は一種類の金属からなっていてもよく、複数の金属を含んでいてもよく、合金でもよい。金属は、Siであってもよく、いわゆる金属シリコンであってもよい。金属は、シリコン以外の金属であってもよい。
【0021】
金属酸化物は、ある実施形態では化学量論的組成の金属酸化物であってもよく、別の実施形態では非化学量論的組成であってもよく、例えば金属の量が酸素の量に比して多くてもよく、少なくてもよい。金属酸化物は、金属と酸素の混合物であってもよく、金属と酸素の結合は化学両論的組成の金属酸化物のそれと異なっていてもよく、異なっているものを含んでいてもよい。
【0022】
<金属酸化膜の形成>
金属酸化物の薄膜を基板の接合表面に形成することは、プラズマCVD法、スパッタ法、蒸着法、ALD(原子層堆積)法、(リアクティブイオンエッチ)RIE法によってなされてもよい。しかし、金属酸化物の薄膜を形成すことは、これらの方法に限られず、他の方法を用いて行ってもよい。
【0023】
金属酸化物の薄膜を基板の接合表面に形成することは、スパッタ法で行ってもよく、スパッタ法を含む手法又は工程で行われてもよい。スパッタ法は、イオンビームスパッタ法でもイオンビームアシストスパッタ法でもよい。イオンビームスパッタ法で形成された金属酸化物は、結晶性が比較的低く、結晶欠陥も比較的多く、また原子ベルで露出している表面が比較的多く、いわゆるダングリングボンドを多く有していると考えられる。したがって、比較的活性が高く、その表面が活性化されている状態にあり、接合しやすくなっていると考えられる。ただし、この物理的考察は推論であり、本開示はこのメカニズムはこれに限定されない。
【0024】
ある実施形態では、金属酸化物の薄膜を基板の接合表面に形成することは、イオンビームアシストスパッタ法で行われてもよい。当該手法は、金属をターゲットとし、実質的に不活性ガスと酸素とからなる混合ガスで行うスパッタ法により、金属酸化物を対象基板上に形成することを含んでいてもよい。別の実施形態では、スパッタ法は、金属をターゲットとし、実質的に窒素ガスと酸素とからなる混合ガスで行ってもよい。混合ガスによって金属ターゲットを照射し、金属をスパッタすることで、金属と酸素の混合物又は金属の酸化物、金属酸化物を接合面上に形成することができる。
【0025】
別の実施形態では、金属酸化物の薄膜を基板の接合表面に形成することは、金属をターゲットとし、実質的に不活性ガスにより接合表面方向にスパッタし、他の方向から接合表面に対して酸素ガスを送り込むことを含んでいてもよい。
【0026】
不活性ガスは、希ガスであってもよい。希ガスは、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ラドン(Rn)のいずれか一つであってもよく、これらの内の複数の混合ガスであってもよい。不活性ガスは、特にアルゴン(Ar)であってもよい。
【0027】
スパッタのターゲットに使用する金属は、アルミニウム(Al)であってもよい。アルミニウムターゲットに対して、アルゴンなどの希ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いてスパッタ成膜することにより、Al2O3などの酸化アルミニウムの薄膜を形成することができる。
【0028】
薄膜内のアルミニウムの酸化物は、化学量論的組成のAl2O3であってもよく、非化学量論的組成であってもよく、あるいはこれらの混合物であってもよい。形成された金属酸化物において、アルミニウムと酸素の結合形態は、化学量論的組成のAl2O3のそれと異なってもよく、異なっているものが含まれていてもよい。
【0029】
金属酸化物の薄膜を基板の接合表面に形成することは、金属酸化物をターゲットし、このターゲットをスパッタすることにより、対象基板上に金属酸化物を形成することを含んでいてもよい。非限定な一例を挙げれば、ターゲットとしての金属酸化物は酸化アルミニウム(Al2O3)であってもよい。スパッタに用いるガスは、希ガス又は窒素ガスであってもよく、これらの混合物であってもよく、希ガス又は窒素ガスと他のガスを含むガスよい。
【0030】
スパッタに用いる混合ガスは、実質的にアルゴンガスと酸素ガスからなっていてもよい。混合ガスに含まれる酸素ガスの流量は、混合ガスの流量又は総流量に対して、実質的に、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、若しくは10%、又はいずれかの値以上かそれより大きい値であってもよい。
【0031】
混合ガスは他のアルゴンガスを含んでいてもよく、アルゴンガス以外の希ガスを含んでいてもよい。混合ガスがアルゴンガスと異なるガスを含む場合、又は装置や環境の影響などにより、実質的にスパッタ特性が異なる場合は若しくは顕著に異なる場合には、適切な酸素ガスの流量が選択されてもよい。例えば、当該希ガスのスパッタ率がアルゴンガスのみを用いた場合より小さければ、酸素の流量比率が5%より小さくてもよく、例えば4%、3%以下であってもよい。逆に例えば、当該希ガスのスパッタ率がアルゴンガスのみを用いた場合より大きければ、酸素の流量比率が5%より大きくてもよく、例えば6%、7%以上であってもよい。
【0032】
接合される基板は、ガラス基板とガラス基板、ガラス基板と高分子材料(ポリマー)基板、ポリマー基板とポリマー基板であってもよい。ガラスとガラスの接合面を接合する場合又はポリマーとポリマーの接合面を接合する場合、いずれか一方又は両方に金属酸化膜を形成してもよい。ガラスとポリマーの接合面を接合する場合に、いずれか一方に金属酸化膜を形成する場合には、ポリマー上に金属酸化膜を形成してもよく、これにより接合強度を向上できる場合が多い。
【0033】
形成する金属酸化膜の厚さは、0.1nmから10nm程度であってもよく、0.1nm、0.2nm、0.3nm、0.4nm、0.5nm、1nm、2nm、3nm、4nm、5nm、6nm、7nm、8nm、9nmの値以上またはこれより大きい値であってもよい。形成する金属酸化膜の厚さは、10nm以下であってもよく、9nm、8nm、7nm、6nm、5nm、4nm、3nm、2nm、又は1nmの値以下又は未満であってもよい。接合により形成された基板積層体での金属酸化物の層の厚さは、0.1nmから20nm程度であってもよい。
【0034】
<表面活性化処理>
表面活性化処理は、エネルギー粒子を金属の酸化物の表面に対して照射することを含んでいてもよい。
【0035】
エネルギー粒子は、イオンビーム源又は高速原子ビーム(FAB)源などの粒子ビーム原を用いて、使用されるガス粒子又は原子のイオン又は中性原子あるいはそれらの混合ガスを加速することで生成してもよい。エネルギー粒子の照射は、プラズマ源を用いて行ってもよい。
【0036】
粒子ビーム源を用いて、粒子に所定の運動エネルギーを与えることができる。粒子ビーム源は、例えば圧力が1×10-5Pa(パスカル)以下などの真空中で作動する。比較的高い真空に引くために真空ポンプの作動により、金属領域の表面から除去された物質が効率よく雰囲気外へ排気される。これにより、露出された新生表面への望ましくない物質の付着を抑制することができる。さらに、粒子ビーム源は、比較的高い加速電圧を印加することができるので、高い運動エネルギーを粒子に付与することができる。したがって、効率よく表面層の除去及び新生表面の活性化を行うことができると考えられる。
【0037】
中性原子ビーム源としては、高速原子ビーム源(FAB,Fast Atom Beam)を用いることができる。高速原子ビーム源(FAB)は、典型的には、ガスのプラズマを発生させ、このプラズマに電界を掛けて、プラズマから電離した粒子の陽イオンを摘出し電子雲の中を通過させて中性化する構成を有している。この場合、例えば、希ガスとしてアルゴン(Ar)の場合、高速原子ビーム源(FAB)への供給電力を、1.5kV(キロボルト)、15mA(ミリアンペア)に設定してもよく、あるいは0.1から500W(ワット)の間の値に設定してもよい。たとえば、高速原子ビーム源(FAB)を100W(ワット)から200W(ワット)で稼動してアルゴン(Ar)の高速原子ビームを2分ほど照射すると、接合される表面の上記酸化物、汚染物等(表面層)は除去され、新生表面を露出させることができる。
【0038】
イオンビーム源としては、コールドカソード型イオン源を用いることができる。
【0039】
イオンビーム源は、ライン型のコールドカソード型イオンビーム源であってもよい。ライン型粒子ビーム源とは、ライン型(線状)の又は細長い粒子ビーム放射口を有する粒子ビーム源であり、この放射口からライン型(線状)に粒子ビームを放射することができる。放射口の長さは、粒子ビームが照射される基板の直径より大きいことが好ましい。基板が円形でない場合には、放射口の長さは、粒子ビーム源に対して相対的に移動させられる基板に係る放射口が延びる方向の最大寸法より大きいことが好ましい。
【0040】
ライン型粒子ビーム源から放射された粒子ビームは、表面活性化処理中のある時刻においては、基板上の線状の領域又は細長い領域を照射している。そして、ライン型粒子ビーム源から基板に向けて粒子ビームを放射させつつ、放射口が延びる方向と垂直方向に基板支持体を走査させる。その結果、線状の粒子ビームの照射領域が基板のすべての接合部上を通過する。ライン型の粒子ビーム源が、基板上を通過し終えると、基板全体が、粒子ビームにより実質的に均一に照射され、表面活性化される。
【0041】
ライン型の粒子ビーム源は、比較的面積の大きい基板の表面を、比較的均一に粒子ビームで照射する際に適している。また、ライン型の粒子ビーム源は、基板の様々な形状に対応して、比較的均一に粒子ビームを照射することができる。
【0042】
エネルギー粒子は、実質的に希ガスと酸素ガスとからなる混合ガスであってもよく、同混合ガスであってもよく、その他のガスを含んでいてもよい。酸素ガスを含まずに希ガスだけを用いたエネルギー粒子ビームを照射すると、金属酸化物の表面近傍で酸素が金属に対して欠乏する場合がある。この際に、金属の量が比較的に増加することにより、可視光などの光の透過率が低下する場合がある。これは、この金属を比較的多く含む領域で吸収されるためであろうと推測される。したがって、接合面に対して照射するエネルギー粒子ビームは、酸素を含むことで、この酸素が金属酸化物表面に結合し、酸素の欠乏を回避又は低減させることができると考えられる。これにより、十分な接合された透明基板の積層体の光透過率を得ることが可能になると考えられる。
【0043】
エネルギー粒子は、希ガスであってもよく、希ガスを含んでいてもよい。当該希ガスは、アルゴンであってよく、他の希ガスであってもよい。エネルギー粒子は、中性原子又はイオンでもよく、さらには、ラジカル種でもよく、またさらには、これらが混合した粒子群でもよい。
【0044】
「表面活性化」とは、これなしに接触をさせた場合に実質的な結合又は接合がなされない表面に対して行う処理又は工程であって、当該処理等の後の表面を互いに接触させると所望又は実質的に有効な結合が得られる処理等を意味する。基板が表面活性化処理後に接合されることで形成された積層体は、そのまま加熱や光処理などをされてもよく、またされなくてもよい。
【0045】
各プラズマ又はビーム源の稼動条件、又は粒子の運動エネルギーに応じて、表面層の除去速度は変化しえる。そこで、表面活性化処理の処理時間を含む各条件を調節する必要がある。例えば、オージェ電子分光法(AES,Auger Electron Spectroscopy)やX線光電子分光法(XPS,X-ray Photo Electron Spectroscopy)などの表面分析法を用いて、表面層に含まれる酸素や炭素の存在が確認できなくなる時間又はそれより長い時間を、表面活性化処理の処理時間として採用してもよい。
【0046】
<貼り合わせ>
貼り合わせは、表面活性化された金属酸化物の薄膜を介して、基板の接合面を互いに接触させることを含んでいてもよい。接触させる際に基板の接合面と反対側又は接合面以外の面から、基板に対して力を加えてもよい。例えば、接合面に垂直方向の力を基板の外側から加えてもよい。ある実施形態では、加圧は、接触した接合面全体に実質的に均等になるように力を加えてもよい。別の実施形態では、加圧は、接触した接合面の異なる面に対してそれぞれのタイミングで行われてもよい。加圧の際の、力の強さは時間的に一定であってもよく、可変であってもよい。加圧は、接合面の各部位に対して異なるタイミングで行ってもよい。接触した基板に対して、加圧装置をスライドさせて動かすことで、接合面に対して順次加圧してもよい。当該加圧装置は、ローラ状の加圧部を有していてもよい。
【0047】
本開示に含まれる基板の接合方法では、基板上に金属の酸化物層を接合表面に形成すること、から、一対の基板を接触させること又は貼り合わせることまでを、一貫して真空中又は低圧力下の雰囲気で行ってもよく、真空又は低圧力雰囲気を破らずに行ってもよい。真空中又は低圧力下の雰囲気とは、気圧が10-16Paまたはそれ以下の雰囲気であってもよい。あるいは、その間、基板を金属酸化物層の形成後に真空から一旦出しても良いが、その際には接合表面にダミー基板を仮接合するなどして、接合表面が大気に暴露されることを回避し、再び真空中に戻された後で、ダミー基板を外して接合表面同士を真空中で接触させてもよい。真空中又は低圧力下の雰囲気とは、このことを含んでいてもよい。これらの工程を真空中で行うことによって、接合表面への不要な物質の付着、吸着又は接合表面の酸化や水酸化を避け、表面の活性化を効率よく行い、活性化された表面の活性度を維持若しくはその低下を極力抑え、接合しない部分が生じることを回避又は低減することができる。
【0048】
<加熱処理>
本開示に含まれる基板の接合方法は、貼り合わせの後に、積層体に対して加熱することを更に含んでいてもよい。加熱の温度は、100℃、200℃であってもよく、100℃以上の値であってもよく、210℃、220℃以下又は未満の値であってもよい。加熱の温度は、100℃又は150℃の温度以上またはこれより高くてもよい。加熱の温度は、400℃、300℃、250℃、225℃、220℃、210℃、200℃、又は150℃の温度以下又は未満であってもよい。加熱の温度は、実質的に100℃、150℃、200℃であってもよい。加熱は、基板全体に対して同時行ってもよく、基板の部分ごとに行ってもよい。
【0049】
金属の酸化物層を接合表面に形成すること、活性化処理をすること、一対の基板を貼り合わせることが、実質的に接合界面温度100℃又は200℃以下で行われる、又は意図的に加熱処理を回避して行われてもよい。
【0050】
<成膜前の基板表面活性化処理>
本開示に含まれる基板の接合方法は、成膜前に基板の接合表面に対してエネルギー粒子を照射することを更に含んでいてもよい。エネルギー粒子の照射により、基板の接合表面を活性化することで、当該接合表面とその上に形成される薄膜との接合強度を上げることができる。
【0051】
<実施例1>
本開示に係る方法を用いて、ガラス基板を接合し、その光透過率と接合強度を評価した。
【0052】
図1(a)に示す接合装置100は、真空容器101と、真空容器101の内部に配置されて、第一基板102と第二基板103とを移動可能に支持する基板支持体104と、表面活性化処理手段として粒子ビーム源105と、金属酸化物の薄膜を形成するための金属ターゲット106と、接合手段として基板支持体104は回転軸104Aと加圧手段(図示せず)を有して構成されている。この構成により、真空中で良質な金属酸化物を基板102、103上に形成し、さらに、真空を破らずに、表面活性化処理と基板接合(貼り合わせ)とを行えるので、強度の高く欠陥の少ない接合界面を形成することができる。
【0053】
図1(a)に示すように、真空容器101には、真空ポンプ(図示せず)が接続され、真空容器101内部の真空度を1×10
-5Pa以下の圧力に維持することができる。また、粒子ビーム源105は、回転軸105A周りに回転可能であり、スパッタターゲット106に向けてアルゴンと酸素の混合ガスの粒子群(107)を加速させて金属材料をスパッタさせてもよい。また、粒子ビーム源105は、基板支持体104の位置に応じて第一基板102又は第二基板103の表面に向けて所定の運動エネルギーを有する粒子による粒子ビーム105Bを放射させて基板表面の表面活性化処理を行うことができるように構成されている。これら基板上の所定の領域又は接合領域のみに金属酸化物膜を形成する場合には、基板上に当該所定の領域を規定するマスクが配置される(図示せず)。
【0054】
また、薄膜107が堆積されている間に、基板支持体104を走査させて、第一基板102又は第二基板103上の堆積条件を均一にすることができる。金属酸化物層の厚さは、所定の粒子ビーム源105の作動条件や、粒子ビーム源105、ターゲット106、及び基板102、103の真空容器101内の所定の配置位置に対して、走査回数により段階的に制御されてもよい。
【0055】
本実施例では、第一基板102及び第二基板103とも、ガラス基板を用い、より詳細には80mm四方の無アルカリガラス(日本電気硝子社製OA10-G)を用いた。ガラス基板112,113を真空容器101内に導入し、同容器内の雰囲気を10
-5Pa以下の真空雰囲気にし、同様の排気能力で接合が完了するまで排気を続けた。ターゲット106して金属アルミニウムを設置し、粒子ビーム原105としてライン状コールドカソード型イオンビーム源を用いて、アルゴンガスと酸素ガスの混合ガスを80sccmの供給量で、1.2kV、400mAの条件で駆動した。これにより混合ガスの粒子ビーム105Bをターゲット106に照射し、両方のガラス基板の接合面に向けて、アルミニウムと酸素の混合物を含む粒子群107をスパッタさせた。その結果、ガラス基板102、103の接合面上にアルミニウムの酸化物107,108の薄膜を形成した(
図1(b))。厚さは20nm程度であった。ただし、本開示は、スパッタのメカニズム、ターゲット106から基板102,103までのスパッタ粒子107の状態について、上記記載に限定されない。
【0056】
図1(b)に示すように、その後、表面活性化処理として、粒子ビーム源105を回転軸105A周りに回転させて、第一基板102又は第二基板103に向いた位置で固定して、基板102、103上に形成された酸化アルミニウム膜107、108の表面に対して、同じ粒子ビーム源105を用いて、アルゴンガス70sccmの供給量で、1.3kV400mVで駆動し、エネルギー粒子線105Cを照射した。基板上の所定の領域のみに対して表面活性化処理を行う場合には、基板上に当該所定の領域を規定するマスクが配置される(図示せず)。
【0057】
図1(c)に示すように、基板支持体104は、接合手段として、第一基板102と第二基板103とを支持する箇所の間に設けられた回転軸104Aを有して構成されている。基板支持体104は、この回転軸104A回りに第一基板102と第二基板103とが向かい合うように、折り畳まれるように構成されている。これにより、
図1(c)に示すように、簡略な構成を用いて第一基板102と第二基板103とを、当接させ、互いにほぼ全面積に亘って均等に同じ圧力を加えることができる。接合の際に、第一基板102と第二基板103とを互いに押し付けるように、折り畳まれた基板支持体104の外側から、所定の力を加える加圧手段(図示せず)が配置されてもよい。本実施例では、両基板上に形成され表面活性化処理されたアルミニウムの酸化物の薄膜同士を介して接触させた。接触後、接合面に垂直に5kNの力を5分にわたって加えた。また、接合の際に、第一基板102と第二基板103とを、基板の材料や電子素子の機能を低下させない範囲で所定の温度で加熱する加熱手段(図示せず)が配置されてもよい。
【0058】
接合の際に、第一基板102と第二基板103とを互いに押し付けるように、折り畳まれた基板支持体104の外側から、所定の力を加える加圧手段(図示せず)が配置されてもよい。また、接合の際に、基板102、103、金属酸化物107、108に含まれる材料や電子素子の機能を低下させない範囲で所定の温度で加熱する加熱手段(図示せず)が配置されてもよい。
【0059】
スパッタ成膜として金属アルミニウムのターゲットに対して照射する際に、イオンビーム装置に供給する混合ガスのアルゴンガスと酸素ガスの流量比を変化させた。
図1は、この流量比が、Ar:O
2=80:0(0%)、77:3(3.75%)、76:4(5%)、75:5(6.25%)、74:6(7.5%)、73:7(8.75%)での、光透過率比と界面強度の値を示している。
【0060】
光透過率は、市販の可視光線透過率測定器で測定される可視光線透過率である。一般的に、視光領域または約360nmから約760nm程度の波長領域の光束を透過前後の比率をいう。本開示では、積層体形成方法を実施する前の状態で重ね合わせた基板について測定した光透過率を、接合前光透過率と呼び、基板接合方法を実施した後で積層体について測定した光透過率を接合後光透過率と呼ぶ。そして、本開示では、接合後光透過率を接合前光透過率で割ったものを光透過率比と呼ぶ。本実施例においては、接合前光透過率は91.59%であった。
【0061】
接合界面の強度は、ブレード挿入法により測定した。ブレード挿入法は、接合した二枚の基板の間にブレード(刃)を挿入して基板を剥離させ、レード歯先から剝離箇所までの長さから、界面エネルギーを評価し、これを接合強度とする手法であり、ウェハ接合の接合強度の評価に使われる手法である。
【0062】
金属酸化膜形成時のAlターゲットスパッタのための各Ar:O
2流量比における、光透過率比(黒丸)と接合強度(白丸)の測定値を
図2に示す。
【0063】
Alターゲットスパッタのための各Ar:O2流量比が0%から5%へと増加するに伴い、光透過率が上昇し、同流量比が5%を超えると99.5%から99.9%という測定値が得られた。すなわち、Ar:O2流量比が5%以上では、ほぼ100%という極めて高い光透過率比であった。
【0064】
Ar:O2流量比が0%ということは、実質的にAl100%の薄膜が形成されていることを示している。その場合、基板接合界面にある金属薄膜が、可視光を吸収するために、光透過率が相対的に低いと考えられる。逆に、Ar:O2流量比を増加させると、ターゲットのアルミニウムが、酸素と一緒にスパッタされるので、基板接合面上に形成された薄膜は、アルミニウムと酸素の混合物又はアルミニウム金属の酸化物の薄膜が形成されていると考えられる。酸化アルミニウムは、サファイア又はアルミナのように可視光に対して透明な物質である。したがって、形成されたアルミニウムと酸素の混合物は一部アルミナ(酸化アルミニウム)を含むと考えられる。この酸化アルミニウムの薄膜は、原子レベルでは非化学両論的組成の部分を含んでいてもよい。したがって、Ar:O2流量比を増加させるに伴い、形成された薄膜内での光透明性の高い酸化アルミニウムの割合が増えていくことで、薄膜の透過性が上がると考えられる。そして、Ar:O2流量比5%のときに、薄膜がほぼ酸化アルミニウム又はアルミナからなり酸化度が飽和状態に近づいたと考えられる。あるいは、以下の接合強度の傾向からすると、薄膜自体の組成が化学両論的組成に達していなくても、光透過率としてはほぼ飽和状態に達したとも考えられる。このように、可視光に対してはほぼ100%に到達したのだと考えられる。Ar:O2流量比を増加に伴う光透過度の上昇と飽和のメカニズムは、上記に特定された訳ではなく、他のメカニズムであってもよい。
【0065】
一方、接合強度は、Alターゲットスパッタのための各Ar:O2流量比が増加するに伴い下がる傾向が観察された。金属であるアルミニウムは、酸化物である酸化アルミニウムに比べて電子の授受がされやすく、かつ原子レベルで変形しやすいため、互いに結合しやすいと考えられる。そのため、薄膜表面での金属の割合が下がるにつれ、又は薄膜表面での酸化物の割合が上がるにつれ、接合強度が下がると考えられる。本実験では接合強度が7.5%以上ではほぼ一定の値になった。これは、薄膜表面での酸化物の割合がほぼ飽和し、あるいは接合強度に与える影響としてはある割合に達したためであると考えられる。光透過率と接合強度との間で、ほぼ一定値になるAr:O2流量比が異なるのは、薄膜内の酸化物の割合に敏感でなくなる点が異なるからであると考えられる。例えば、本実験で、Ar:O2流量比が5%の時点では、薄膜の酸化物の割合が限度に達しておらず、金属アルミニウム成分がある程度存在しているが、それが光学的特性に影響を及ぼさない、あるいはその影響が少なくとも本測定技術では無視できる程度であったと考えられる。本開示では、上記のメカニズムに関する考察は一つの推論であって、上記に特定された訳ではなく、他のメカニズムであってもよい。
【0066】
接合強度は、金属酸化膜の表面粗さにも影響される。一般的に、金属酸化膜の表面粗さが大きいと、接合強度も低くなる。したがって、本実験結果の絶対値は、一つの実測値であり、傾向は相対的なものであると解することができる。
【0067】
<実施例2>
本開示に係る方法を用いて、高分子基板を接合した。
【0068】
基板として、PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルム(帝人社製テオネックス®)、PI(ポリイミド)フィルム(デュポン社製カプトン®)を用いた。各種フィルムは、金属酸化膜形成前に脱水処理として70℃から150℃の温度で、1時間から4時間の間、加熱した。PEN同士、PI同士、PENとガラス基板、PIとガラス基板をそれぞれ接合した。いずれのPENまたはPI上に、実施例1と同様に酸化アルミニウム膜を形成した。ただし、イオンビーム装に供給する混合ガスのアルゴンガスと酸素ガスの流量比をこの流量比が、Ar:O2=76:4で行った。ガラス基板上には酸化アルミニウム膜を形成しなかった。貼り合わされる面に対して、実施例1と同様の表面活性化処理を行い、その後基板同士を接触させ、5kN又は10kNの力を5分間加えた。
【0069】
接合後光透過率を接合前光透過率で割ったものを光透過率比は、97%以上であり、極めて高かった。
【0070】
本開示内の実験結果からも分かるように、本開示の基板接合方法により、基板積層体を形成することができる。本基板積層体は、透明基板積層体であってもよい。
【0071】
本開示の基板積層体は、第一の基板と、第二の基板と、第一の基板と第二の基板との間に実質的に金属酸化物からなる層とを備えており、この基板積層体の光透過率が、第一の基板と第二の基板とを重ね合わせた場合の光透過率の97%以上である透明基板積層体であってもよい。別の実施形態では、基板積層体の光透過率が、第一の基板と第二の基板とを重ね合わせた場合の光透過率の98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、又は99.5%以上であってもよい。
【0072】
本開示の基板積層体は、第一の基板と、第二の基板と、第一の基板と第二の基板との間に実質的に金属酸化物からなる層とを備えており、この基板積層体の光透過率比が97%以上である透明基板積層体であってもよい。別の実施形態では、光透過率が98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、又は99.5%以上であってもよい。
【0073】
ガラス基板などの透明基板と有機EL素子など発光素子を含む基板とを重ねせた場合に、発光素子から取り出される光のガラス基板からの光透過率に比して、積層体において発光素子から取り出される光のガラス基板からの光透過率が、97%以上、98以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、又は99.5%以上であってもよい。
【0074】
本開示に含まれる基板積層体は、その接合強度又は界面エネルギーが、0.3J/m2以上、0.4J/m2以上、0.5J/m2以上、1J/m2以上、1.5J/m2以上、又は2J/m2以上であってもよい。
【0075】
接合強度は、前述のとおり、接合界面のエネルギーに換算されうる。接合強度は、接合界面の破壊強度として測定されてもよく、接合界面の破壊強度としてもよい。ブレード挿入法は、接合基板は半導体ウェハやガラス基板など、ある程度固く塑性変形しにくい材料でできた基板の場合に適用されやすい。一方、高分子材料でできた基板の場合、接合強度は、ピール試験で測定されてもよい。ピール試験で破壊強度を測定して、接合強度を評価してもよい。ピール法で、接合強度は0.5N/cm以上であってもよい。
【0076】
本開示に含まれる透明基板積層体は、OCAなどの有機材料を含まず、無機材料のみで構成されていることから、有機材料が好まれない状況の使用が前提となる応用範囲又はデバイスに適用することができる。本開示に含まれる透明基板積層体は、例えばアルファ線など放射線に対する耐性が必要とされる宇宙空間で使用される透明パネルに使用されてもよい。本開示は、透明基板積層体を有する光電子デバイス、太陽電池、宇宙用太陽電池、耐放射線太陽電池、耐放射線光電子デバイスを含む。また、本開示は、そのような透明基板積層体を備える、航空機、人工衛星、ロケット、宇宙ステーションなど宇宙航空装置又は機体、建築に用いられる窓素材又は窓、耐圧ガラス、を含む。
【0077】
<加熱処理>
上記のように、基板が貼り合わされてできた基板積層体を、更に100℃、150℃又は200℃で加熱した。加熱後の接合強度は、加熱なしの接合強度に比べ一般に上昇することが確認された。加熱処理での雰囲気は、大気であってもよく、窒素やアルゴンなどの不活性ガスであってもよい。
【0078】
透明基板の接合方法として、透明基板の接合面に金属の薄膜を形成して、この金属薄膜を介して基板を貼り合わせ、基板に挟まれた金属薄膜に対してレーザを照射することで基板に金属を吸収させ、その結果、比較的透明度の高い基板積層体を得る技術が知られている。しかしこの手法では、金属が完全に基板に吸収されない場合があり、光透過率に問題が生じ得る。また、スマートフォンを初めとする電子ディスプレイデバイスでは、透明基板に有機EL素子などを備える高分子フィルムを貼り合わせる場合が多い。しかし、高分子フィルムのような比較的耐性の低い材料や部材に対しては、レーザ加熱は適さない。一方、本開示の積層体を形成する方法は、接合界面に高いエネルギーを注入する必要はないので、高分子フィルムの接合にも適している。さらに、OCAを介在させる必要もなくなり、透明性が高く、かつ接着力が高く透明性が高い積層体を形成することができる。
【0079】
接合される基板は、平坦又は平板状であってもよく、非平坦形状であってもよい。接合される基板は、曲面状の強化ガラス基板であってもよく、曲面を有する強化ガラスを含んでいてもよい。接合される基板や積層体は、断面L字型、断面コ字型、又は断面円弧状であってもよい。これらの基板や積層体は、曲面又は横にディスプレイ又は光学素子を有する、3次元形状のスマートフォンやタブレットなどのような電子ディスプレイデバイスに用いられてもよい。
【0080】
接合される他方の基板又は第二の基板は、フレキシブル基板であってもよく、フレキシブル基板を含んでいても良い。フレキシブル基板は光学素子を含んでいてもよい。
【0081】
OCAが曲げに弱い又は曲率の大きい基板に用いることは難しい。本開示の基板を接合する方法は、OCAの使用を回避でき、直接カバーガラスと偏向膜などの機能膜とを金属酸化膜を介して貼り合わせるので、上記欠点を解決しつつかつ透明性の高い積層体を形成することが可能になる。
【0082】
また別の実施形態では、接合される一対の基板の両方がガラス基板であって、その一方の基板又は第一の基板はガラス基板で、第二の基板は第一の基板より小さい接合面積を有するガラス基板であってもよい。また更なる実施形態では、第二基板は、第一の基板の縁に沿った枠形状又はフレーム形状を有するガラス基板であってもよい。また第二の基板は、第一の基板の縁の一部に接合されてもよい。例えば、第一の基板は概長方形の平面ガラス基板であり、第二の基板は第一の基板の対抗する一対の辺に沿って貼り合わされてもよい。この場合、第二の基板は複数の基板を含んでいてもよい。本開示でのすべてのガラス基板は、強化ガラスからなっていてもよく、強化ガラスを含む基板でもよい。
【0083】
本開示に含まれる基板の接合方法は、第一の基板がガラス基板である又はガラス基板を含む基板であり、第二の基板が第一の基板の縁の一部又は全体に接合される接合面を有する基板であり、第一の基板と第二の基板とを貼り合わせた後に、貼り合わされた第一の基板と第二の基板とを機械加工して曲面ガラス基板を形成することを更に含んでいてもよい。
【0084】
あるいは、本開示に含まれる基板の接合方法は、貼り合わされた第一の基板と第二の基板に対して機械加工を施して、少なくともその一部に曲面を形成することとを含んでいてもよい。この機械加工は、研削加工と研磨加工との少なくとも一つを含んでいてもよい。機械加工は、曲げ加工を回避する方法で行われてもよい。一般の強化ガラスは、曲げ加工に弱く、その曲げ加工が困難であるため、曲げ加工された強化ガラスは高価になるという問題がある。これに対し、上記方法により、この問題を解決して、曲げ加工をせずとも又は高温での変形加工を行うことなく、所望の曲面形状を有する曲面ガラス基板又は曲面強化ガラス基板を形成することができる。
【0085】
さらなる実施形態では、基板の接合方法は、第一の基板202の接合面と第二の基板203の第一接合面に第一の金属酸化物の薄膜207、208を形成することと、第一の基板202の接合面と第二の基板の第一接合面203の第一の金属酸化物の薄膜207、208の表面に対して、第一の活性化処理を行うことと、金属酸化物の薄膜207、208を介して、第一の基板202の接合面と第二の基板203の第一接合面とを互いに接触させて、第一の基板202と第二の基板203とを貼り合わせること、第二の基板203の第二接合面と第三の基板209の接合面に第二の金属酸化物の薄膜210,211を形成することと、第二の基板203の第二接合面と第三の基板209の接合面の第二の金属酸化物の薄膜210,211の表面に対して、第二の活性化処理を行うことと、第二の金属酸化物の薄膜210,211を介して、第二の基板202の第二接合面と第三の基板209の接合面とを互いに接触させて、第二の基板203と第三の基板209とを貼り合わせることを含む。(
図3)
【0086】
基板の接合方法は、第三の基板209を第一の基板202に接合してもよい。また、第三の基板209を、第一の基板202と第二の基板203とに接合してもよい。すなわち、3第一の基板202の第二の接合面と第二の基板202の第二接合面とに対して、第三の基板209の接合面を接触させて、第一の基板201及び第二の基板203と第三の基板209とを貼り合わせることを含んでいてもよい。
【0087】
第一の基板202と第二の基板203とは、透明な基板であってもよく、強化ガラスの基板であってもよく、強化ガラスを含む基板であってもよい。更なる別の実施形態では、第三の基板はフレキシブル基板であってもよい。上記のとおり、平面の強化ガラスを曲げる加工は困難、あるいは曲げ加工された強化ガラスは高価である。したがって、より安価で光の取り出し効率の高い電子ディスプレイデバイスを作成することができる。
【0088】
本開示はまた、本出願で開示されたいずれかの基板接合方法を含む方法で製造された電子又は光電子又は光デバイスを含み、一般にデバイスを含む。ある実施形態では、デバイスは、本開示のいずれかの基板接合方法を含む方法で製造された積層体を含んでいてもよい。更なる実施形態ではデバイスは、有機EL素子を含んでいても良い。また更なる実施形態ではデバイスは、スマートフォン、ディスプレイデバイス、太陽電池、SAWフィルターデバイスであってもよく、窓、耐圧ガラスなどの建築資材であってもよい。
【0089】
以上、本願発明の幾つかの実施形態及び実施例について説明したが、これらの実施形態及び実施例は、本願発明を例示的に説明するものである。特許請求の範囲は、本願発明の技術的思想から逸脱することのない範囲で、実施の形態に対する多数の変形形態を包括するものである。したがって、本明細書に開示された実施形態及び実施例は、例示のために示されたものであり、本願発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。