(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】火災検知システム
(51)【国際特許分類】
G08B 17/00 20060101AFI20220324BHJP
G08B 29/14 20060101ALI20220324BHJP
G08B 29/04 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
G08B17/00 D
G08B29/14
G08B29/04
G08B17/00 K
(21)【出願番号】P 2018009001
(22)【出願日】2018-01-23
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(74)【代理人】
【識別番号】100194939
【氏名又は名称】別所 公博
(74)【代理人】
【識別番号】100206782
【氏名又は名称】佐藤 彰洋
(72)【発明者】
【氏名】脇野 陽介
【審査官】西巻 正臣
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-065545(JP,A)
【文献】特開平06-325271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B17/00-17/12
23/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災検知器と、検知器テスタと、を備えた火災検知システムであって、
前記火災検知器は、
設置環境における光信号を受信する受光手段と、
前記受光手段で受信された前記光信号が、あらかじめ設定された火災検出範囲に含まれていることで、火災が発生したと判断する
火災検出処理を実行する制御部と、
前記制御部により実行された前記火災検出処理の実行結果を表示する出力表示部と、
当該火災検知器の故障を予兆するための状態情報を記憶する記憶部と、
を備え、
前記検知器テスタは、保守点検時において、前記火災検知器に火災を検出させるための模擬火災信号、および当該火災検知器の故障を予兆するための状態情報を前記火災検知器から抽出するためのデータ抽出信号の何れかを必要に応じて出力する信号出力部を備え、
前記制御部は、
火災を監視する実運転中に相当する火災監視時に前記受光手段で受信された前記光信号をサンプリングし、サンプリングした前記光信号が、前記火災検出範囲とは異なる信号レベルとして規定されているプレ故障範囲に含まれるごとに、前記記憶部内に前記状態情報として記憶されている故障予兆カウント値を1増加させる更新を実行し、
前記受光手段を介して前記検知器テスタの前記信号出力部から出力された前記模擬火災信号を受信した場合には、前記模擬火災信号に応じて火災監視時と同様の前記火災検出処理を実行し、前記実行結果を前記出力表示部に表示させ、
前記受光手段を介して
前記検知器テスタの前記信号出力部から出力された前記データ抽出信号を受信した場合には、前記記憶部から前記
故障予兆カウント値を抽出し
、前記故障予兆カウント値を識別できる情報を前記出力表示部に表示させる
火災検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネル内に設置され、火災発生を検知する火災検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル内の防災システムは、複数の火災検知器と防災受信盤とによって構成され、複数の火災検知器と防災受信盤との間で、火災信号等の各種信号の送受信が行われる。
【0003】
また、防災システムにおいては、火災検知器が正常に作動するか否かを確認するための動作試験を行うように構成されているのが一般的である。動作試験は、模擬的な光源を発光させて、火災検知器が火災判定を正常に行うことができるか否かを試験するものである。
【0004】
このような動作試験の機能を備えた防災システムの一例として、センサチェックの履歴を確実に防災受信盤側に通知し、センサの故障の予兆を見逃すことをなくす火災検知器がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1は、以下のような構成を備えている。
・センサの出力値を常時収集して、センサ出力値に異常がないかどうかをチェックするセンサチェック手段
・センサチェック時のセンサ状態を記憶する現在センサ状態記憶部
・センサ状態に異常があったときに異常の履歴を記憶するセンサ異常履歴記憶部
【0006】
そして、センサチェック手段は、センサチェック時のセンサ状態を現在センサ状態記憶部に記憶し、センサチェック時のセンサ状態が異常であった場合には、センサ異常履歴記憶部に異常情報を記憶する。
【0007】
また、センサチェック手段は、防災受信盤から試験開始信号を受信したときには、センサ異常履歴記憶部に異常情報がある場合には、異常情報を防災受信盤に送信する一方、センサ異常履歴記憶部に異常情報がない場合でも、現在センサ状態記憶部に異常情報がある場合には、異常情報を防災受信盤に送信する。
【0008】
特許文献1は、このような構成を有することで、センサに故障の予兆があった場合を見逃すことなく、センサの状態を正確に把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に係る従来の火災検知器は、検知器側でチェックした結果を履歴データとして蓄積し、防災受信盤から試験開始信号を受信することで、その返答として、履歴データを返送する機能を備えている。この結果、防災受信盤は、センサに故障の予兆があった場合を見逃すことなく、センサの状態を正確に把握することができる。
【0011】
しかしながら、特許文献1は、複数の火災検知器のそれぞれに、チェックした結果を履歴データとして残す機能を持たせるとともに、複数の火災検知器と防災受信盤との間で通信を行うことが必須である。この結果、システム構成が複雑となり、既設の防災システムにおいて、このような構成を実現するためには、大幅な改造が必要であった。
【0012】
さらに、特許文献1に係る火災検知器は、火災検知器単体で、履歴データを報知する機能を備えていない。従って、個々の火災検知器の保守点検を行う際に、故障の予兆を容易に保守員に報知できる検知器が望まれている。
【0013】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、検知器単体で、故障を予兆する状態情報を出力できる機能を備えた火災検知システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る火災検知システムは、火災検知器と、検知器テスタと、を備えた火災検知システムであって、火災検知器は、設置環境における光信号を受信する受光手段と、受光手段で受信された光信号が、あらかじめ設定された火災検出範囲に含まれていることで、火災が発生したと判断する火災検出処理を実行する制御部と、制御部により実行された火災検出処理の実行結果を表示する出力表示部と、当該火災検知器の故障を予兆するための状態情報を記憶する記憶部と、を備え、検知器テスタは、保守点検時において、火災検知器に火災を検出させるための模擬火災信号、および当該火災検知器の故障を予兆するための状態情報を火災検知器から抽出するためのデータ抽出信号の何れかを必要に応じて出力する信号出力部を備え、制御部は、火災を監視する実運転中に相当する火災監視時に受光手段で受信された光信号をサンプリングし、サンプリングした光信号が、火災検出範囲とは異なる信号レベルとして規定されているプレ故障範囲に含まれるごとに、記憶部内に状態情報として記憶されている故障予兆カウント値を1増加させる更新を実行し、受光手段を介して検知器テスタの信号出力部から出力された模擬火災信号を受信した場合には、模擬火災信号に応じて火災監視時と同様の火災検出処理を実行し、実行結果を出力表示部に表示させ、受光手段を介して検知器テスタの信号出力部から出力されたデータ抽出信号を受信した場合には、記憶部から故障予兆カウント値を抽出し、故障予兆カウント値を識別できる情報を出力表示部に表示させるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、火災検知器自身が、故障に至るよりも前の状態(プレ故障状態)の指標となる火災検知器の状態情報を蓄積し、外部からの要求に応じて、記憶部から状態情報を抽出して出力できる構成を備えている。この結果、検知器単体で、故障を予兆する状態情報を出力できる機能を備えた火災検知システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態1における火災検知器と検知器テスタとを備えた火災検知システムの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の火災検知システムの好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。
なお、以下の説明においては、複数の火災検知器がトンネル内に設置されている場合を例に説明する。そして、本発明に係る火災検知器および火災検知システムは、保守員が個々の火災検知器の動作試験を行う際に、火災検知器内に蓄積された故障予兆用の履歴データ内容を容易に確認できることを技術的特徴とするものである。
【0019】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における火災検知器10と検知器テスタ20とを備えた火災検知システムの機能ブロック図である。火災検知器10は、あらかじめ決められた間隔で、トンネル内に複数台設置されているが、
図1では、その1台のみを示している。個々の火災検知器10は、火災を検知する本来の機能とは別に、あらかじめ決められた期間で、故障予兆のための検知データを逐次収集し、故障予兆用の履歴データとして記憶する機能を備えている。
【0020】
一方、検知器テスタ20は、保守点検時において、個々の火災検知器10の動作試験を行うために、保守員が携帯する機器である。そして、保守員は、検知器テスタ20を操作して、火災検知器に特定の信号を送信することで、火災検知器10が正常に機能するかを検証できるとともに、火災検知器10内に蓄積された故障予兆用の履歴データに故障を予兆するデータが含まれていないかを容易に確認することができる。
【0021】
そこで、以上のような動作を実現するための詳細な構成を、
図1に基づいて説明する。本実施の形態1に係る火災検知器10は、受光部11、制御部12、記憶部13、および出力表示部14を備えて構成されている。ここで、受光手段に相当する受光部11は、火災を検出するための光信号を得る受光素子である。一例として、この受光部11は、焦電素子とフォトダイオードの2種類の受光素子を組み合わせて、2種類の検出信号を個別に出力できる構成を採用することができる。
【0022】
制御部12は、通常の火災監視時において受光部11によって受光された検出信号が、あらかじめ設定された火災検出範囲内にある場合には、火災が発生したと判定する。受光部11が、焦電素子とフォトダイオードの2種類の受光素子で構成されている場合には、制御部12は、それぞれの受光素子に応じてあらかじめ設定された個別の火災検出範囲を用い、個々の判定結果の論理積あるいは論理和から、最終的に火災が発生したか否かを判定する。
【0023】
また、制御部12は、通常の火災監視時とは別に、動作試験を行う際に、動作検証用としての模擬火災信号を、受光部11を介して検知器テスタ20から強制的に受信することで、模擬火災信号に応じて通常の火災監視時と同様の火災検出処理を実行し、その検出結果を、出力表示部14を介して表示させる。従って、保守員は、保守点検時に、容易に火災検知器の動作確認を実行することができる。
【0024】
さらに、本実施の形態1に係る制御部12は、通常の火災監視時において、あらかじめ決められた期間ごとに、故障予兆のための試験データとして、受光部11によって受光された検出信号をサンプリングし、逐次収集する。そして、制御部12は、故障に近づいている状態を事前に検知するための範囲としてあらかじめ設定された故障予兆用の範囲(プレ故障範囲)内に検出信号が含まれている場合には、記憶部13に記憶されている故障予兆カウント値を1増加(+1インクリメント)して更新する。
【0025】
すなわち、本実施の形態1に係る火災検知器10は、通常の火災監視時において定期的に収集した検出信号が、故障予兆用の範囲内に含まれている回数を記憶部13内に記憶させておくことができる。換言すると、受光部11は、寿命が近づくことで、火災を検出してしまうレベルに近い検出信号を出力する頻度が高くなるので、本実施の形態1に係る火災検知器10は、故障予兆用の範囲内に含まれる検出信号が取得された回数をカウントできる機能を有し、故障予兆の定量的な指標を算出することを可能としている。
【0026】
そして、制御部12は、記憶部13内の故障予兆カウント値を読み出すためのデータ抽出信号S4を、受光部11を介して検知器テスタ20から受信することで、記憶部13内に記憶されている故障予兆カウント値を識別できる情報を、出力表示部14を介して表示させる。なお、記憶部13内に記憶される故障予兆用の履歴データ、および故障予兆カウント値は、火災検知器の故障を予兆するための状態情報に相当する。
【0027】
なお、火災検知器10は、タイマー機能を備えることで、記憶部13内の故障予兆カウント値を24時間でクリアする(0に戻す)ようにしても良い。そうすることで、故障予兆カウント値を読み出すときに、日ごとの故障予兆カウント値が分かるので、その日の火災検知器10の状態を認識することができる。
【0028】
ここで、データ抽出信号S4は、模擬火災信号S3と識別可能な信号レベルとして、あらかじめ規定されている。従って、制御部12は、検知器テスタ20から送信されるデータ抽出信号S4と模擬火災信号S3との識別が可能であり、データ抽出信号S4を受信したと判断した場合には、故障予兆カウント値の出力表示処理を実行し、模擬火災信号S3を受信したと判断した場合には、火災検知器の動作確認処理を実行することができる。
【0029】
なお、受光部11は、火災検知器10に標準装備され、火災検出を行うための受光部を、模擬火災信号S3を受信するために使用する一方で、標準装備された受光部とは別に、データ抽出信号S4を受信するための受光部を別途設けるように構成することも可能である。
【0030】
また、出力表示部14としては、故障予兆カウント値を識別できる情報を表示させることができればよく、火災検知器10に標準装備されたLED表示器を採用することも可能である。
【0031】
次に、検知器テスタ20の構成について、詳細に説明する。本実施の形態1に係る検知器テスタ20は、操作部21、制御部22、模擬火災信号生成部23、データ抽出信号生成部24、および光信号出力部25を備えて構成されている。
【0032】
操作部21は、保守員による操作入力を受け付けるマンマシンインターフェースに相当する。保守員は、火災検知器10の動作確認処理を実行したい場合には、操作部21を介して、模擬火災信号S3を生成させるための操作入力を行う。一方、保守員は、故障予兆カウント値の出力表示処理を実行したい場合には、操作部21を介して、データ抽出信号S4を生成させるための操作入力を行う。
【0033】
制御部22は、模擬火災信号S3を生成させるための操作入力に対応する信号を、操作部21を介して受信した場合には、模擬火災信号生成部23に対して、模擬火災信号S3を生成させるための第1指令S1を出力する。一方、制御部22は、データ抽出信号S4を生成させるための操作入力に対応する信号を、操作部21を介して受信した場合には、データ抽出信号生成部24に対して、データ抽出信号S4を生成させるための第2指令S2を出力する。
【0034】
模擬火災信号生成部23は、制御部22から第1指令S1を受信することで、模擬火災信号S3を生成し、光信号出力部25を介して模擬火災信号S3を出力させる。一方、データ抽出信号生成部24は、制御部22から第2指令S2を受信することで、データ抽出信号S4を生成し、光信号出力部25を介してデータ抽出信号S4を出力させる。
【0035】
保守員が、本実施の形態1に係る検知器テスタ20を火災検知器10上に向けて、所望の操作入力を行うことで、火災検知器10内の受光部11は、検知器テスタ20から出力される模擬火災信号S3およびデータ抽出信号S4のそれぞれを、受信することができる。すなわち、受光部11は、設置環境における光信号を受信することができ、模擬火災信号S3を受信できるとともに、データ抽出信号S4を受信(第2受光部に相当)できる機能も兼ねている。この結果、火災検知器10は、模擬火災信号S3を受信した場合には、火災検知器の動作確認処理を実行し、データ抽出信号S4を受信した場合には、故障予兆カウント値の出力表示処理を実行することができる。
【0036】
なお、上述した実施の形態1では、火災検知器の動作確認処理を行うための検知器テスタ20に、故障予兆カウント値の出力表示処理を実行させるためのデータ抽出信号S4を出力させる機能を付加した場合について説明した。しかしながら、検知器テスタ20とは別の機器として、データ抽出信号S4を出力することができる専用機器を使用することも可能である。
【0037】
また、上述した実施の形態1では、火災検知器内で蓄積された故障予兆カウント値を、火災検知器自身で表示する場合について説明したが、必要に応じて、端末試験を用いた特殊伝送よって、故障予兆カウント値を読み出す構成を採用することも可能である。
【0038】
以上のように、実施の形態1によれば、火災検知器自身が、故障に至るよりも前の状態(プレ故障状態)の指標となる故障予兆カウント値を、履歴データとして蓄積し、外部からの要求に応じて、故障予兆カウント値を表示できる構成を備えている。また、火災検知器単体を入れ替えることで、システム内に、順次、プレ故障の監視を行うことのできる火災検知器を適用していくことができる。この結果、火災検知器の保守点検の際に、実運転中に蓄積された故障予兆カウント値から、現状の火災検知器の状態を正確に知ることが可能となる。
【0039】
さらに、保守点検時に火災検知器の動作試験を行うために用いられる検知器テスタに対して、故障予兆カウント値を火災検知器から読み出すためのデータ抽出信号を生成できる機能を付加することが可能である。この結果、保守員は、検知器テスタを用いて、通常の火災監視時と同様の火災検出処理と、履歴データとして火災検知器内に蓄積された故障予兆カウント値の読み出し処理とを、容易に切り換えて実施することが可能となる。
【0040】
より具体的には、火災検知器10の受光部11が、2種類の受光素子を有し、検知器テスタ20の光信号出力部が2種類の発光素子を有する火災検知システムでは、次のような条件により、検知器テスタ20から、模擬火災信号S3とデータ抽出信号S4を個別に出力することができる。
(条件1) 検知器テスタ20は、2種類の発光素子を両方発光させることで、模擬火災信号S3を出力する。
(条件2) 検知器テスタ20は、2種類の発光素子のいずれか一方を発光させるか、または2種類の発光素子の発光パターンあるいは発光周期を、模擬火災信号S3とは異なる発光パターンあるいは発光周期に変更することで、データ抽出信号S4を出力する。
【符号の説明】
【0041】
10 火災検知器、11 受光部、12 制御部、13 記憶部、14 出力表示部、20 検知器テスタ、21 操作部、22 制御部、23 模擬火災信号生成部。