(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】電車線路用架線の可動支持装置及びこれを用いた線路切替工法
(51)【国際特許分類】
B60M 1/20 20060101AFI20220324BHJP
B60M 1/12 20060101ALI20220324BHJP
B60M 1/28 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
B60M1/20 Z
B60M1/12 D
B60M1/28 N
(21)【出願番号】P 2018046092
(22)【出願日】2018-03-14
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078950
【氏名又は名称】大塚 忠
(72)【発明者】
【氏名】米山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】井口 達哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晋也
(72)【発明者】
【氏名】臼井 圭介
(72)【発明者】
【氏名】今井 陽介
(72)【発明者】
【氏名】大竹 由行
(72)【発明者】
【氏名】金谷 雄大
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-011701(JP,A)
【文献】実開平03-104438(JP,U)
【文献】実開平04-101732(JP,U)
【文献】実開平05-046540(JP,U)
【文献】特開平10-205135(JP,A)
【文献】特開2009-061843(JP,A)
【文献】特開2006-062486(JP,A)
【文献】特開2001-277908(JP,A)
【文献】特開平06-144220(JP,A)
【文献】特開昭59-150803(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0940767(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/00 - 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道を移設する軌道作業と架線を移設する架線作業とを含む線路切替工事箇所において、前記軌道作業に支障しない位置で前記
架線を支持すると共に、前記軌道作業の進行中及び又は完了後に前記
架線を適正な移設位置へ移動する装置であって、
前記線路切替工事箇所の上方に、前記軌道をその延長方向左右に横断するように水平に架設されるビームと、
前記ビーム上に水平方向左右及び垂直方向上下に移動自在に支持され、前記
架線を吊支する可動支持部材と、
地上からの遠隔制御で前記可動支持部材を水平方向に移動させる水平駆動手段と、
地上からの遠隔制御で前記可動支持部材を垂直方向に移動させる垂直駆動手段とを具備することを特徴とする電車線路用架線の可動支持装置。
【請求項2】
前記ビーム上に固定される支持フレームと、
前記支持フレーム上に、左右方向に水平に移動自在に支持される水平移動部材と、
前記支持フレーム上に支持され、地上からの遠隔制御で前記水平移動部材を移動させる前記水平駆動手段と、
前記水平移動部材に垂直方向に移動自在に支持される垂直移動部材と、
前記水平移動部材に支持され、地上からの遠隔制御で前記垂直移動部材を移動させる前記垂直駆動手段とを具備し、
前記可動支持部材が、前記垂直移動部材に支持されることを特徴とする請求項1に記載の電車線路用架線の可動支持装置。
【請求項3】
前記支持フレーム上に左右方向に水平に延びるように固定され、地上から遠隔で作動油の送排油が制御される水平油圧シリンダと、
前記水平油圧シリンダのピストンロッドに結合され前記支持フレーム上に左右方向に水平に移動自在に支持される前記水平移動部材と、
上部において前記水平移動部材に固定され、垂直方向に下方へ伸縮自在の垂直伸縮ブームと、
前記水平移動部材に垂直方向に延びるように固定され、ピストンロッドが前記
垂直伸縮ブームの下端部に連結され、地上から遠隔で作動油の送排油が制御される垂直油圧シリンダと、
前記
垂直伸縮ブームの下端部に係止され、当該
垂直伸縮ブームの下方位置において前記
架線のうち吊架線を吊支する吊架線吊支部材と、
基端側が前記
垂直伸縮ブームの下端部の左右いずれかの側面に選択的に結合可能に構成され、前記
垂直伸縮ブームの側方へ水平に延出する水平部と当該水平部の先端から屈曲して垂直下方へ延びる垂直部とを具備する屈曲アームと、
前記屈曲アームの垂直部に係止され、前記吊架線の垂直下方位置において前記
架線のうちトロリ線を把持するトロリ線引き止め部材とを具備することを特徴とする請求項2に記載の電車線路用架線の可動支持装置。
【請求項4】
既設の前記軌道の上方に架設されている前記架線の支持を外す工程と、
支持を外された前記架線を前記可動支持部材に支持する工程と、
前記軌道作業の進行中及び又は完了後、地上の遠隔位置から前記水平駆動手段と前記垂直駆動手段を制御し、前記可動支持部材を上下左右に移動させることによって、当該可動支持部材に支持された前記架線を新設
の前記軌道上の適正位置に配置する工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の架線支持装置を用いた線路切替工事方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道の線路切替工事の際に用いられる架線の可動支持装置と、これを用いた線路切替工事の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道の線路切替工事においては、既設軌道を撤去してその側方に新たな軌道を設置する軌道作業と、既設軌道上の吊架線及びトロリ線等の架線を撤去し、新設軌道上へ架線を張り渡す架線作業とが含まれる。これらの作業は、短い列車間合いでの作業となるので、作業時間の短縮が求められる。しかしながら、架線作業は軌道に、架線作業用の軌陸車等を載線して行うため、軌道作業中にその上方での架線作業を同時に行うことができない。例えば、既存軌道上の架線の支持を外して地上へ降ろした後、既存軌道の撤去作業等を行い、新設軌道の設置工事が完了した後、新設軌道上への架線の張り渡しや、その位置決め作業を行う。このため、新設軌道の設置工事が完了するまで架線の張り渡しや位置決め作業が開始できないことから、所定の夜間の作業間合いでは作業が完了せず、列車の運休などよる間合いの拡大などの対応を要することがあるという課題があった。
既存軌道上の可動ブラケット等の支持設備から取り外した架線をそれの隣接位置で別の架線支持装置に移し替え、軌道作業に支障しない遠隔位置からの操作によって、上下、左右に移動させ、新設軌道上の適正位置に配置できれば、既存軌道の撤去作業、新設軌道の設置作業の完了前に、架線の位置決め作業ができるため、間合いの拡大をせず、所定の夜間の作業間合い内で作業が完了できる。しかし、従来、そのような架線支持設備はなかった。
一方、既設線路区域の片側に隣接して、土木工事を行う際、工事の妨げとならないように既設線路区域の架線を反対側へ退避させる架線の側方退避装置が特許文献1に記載されている。この装置は、既設線路区域とそれに隣接する工事区域とを横断して上方空間に配置され両端を柱に支持されたビームと、ビーム下面へ平行に固着され柱附近から所要の長さ伸長するレールと、柱の下部に定置されたウインチと、ウインチのプーリから立上がりレールの両端のプーリに掛け回されたエンドレスワイヤと、レールに沿い進退可能でエンドレスワイヤの一部に係止された移送車と、碍子を介し移送車から懸垂された架線とから成る。
また、車高の異なる2種以上の電車を同じ軌道上で、牽引車両なしで走行させることができるように、車高に合わせて架線を上下の異なる高さ位置で支持する電車線支持装置が特許文献2に記載されている。この装置は、垂直に立設された支柱と、この支柱に昇降自在に係合し支持部材を介して架線を支持する昇降部材と、この昇降部材を昇降させる駆動手段とを具備する。昇降部材で、高さの異なる所定の上下位置において架線を支持する。昇降部材は、支柱に沿って上下方向に伸びるように設けられたガイドレールに昇降自在に係合しており、そこから軌道側へ張り出す可動ブラケットや、これに支持される曲引き金具等の支持部材を介して架線を支持する。支柱に取り付けられたモータと、このモータと昇降部材とをつなぐチェーン伝動機構により昇降部材が昇降する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公平3-104438号公報
【文献】特開2003-11701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載された装置は、それぞれ架線を上下方向又は左右方向のいずれか一方に移動させる単機能のものである。特許文献1に記載された装置は、単に架線を退避位置へ引き止めるものであるから、退避位置で架線を利用に供することを想定していない。したがって、いずれの装置も、線路切替工事の際の架線の支持や移動、移動位置での架線の使用を可能とする構造のものではない。
したがって、本発明は、既存軌道上から取り外した架線を容易に移し替えることができ、この架線を適時に、軌道作業に支障しない遠隔位置からの操作で上下、左右に移動させ、使用に耐える適正位置へ配置できる架線支持装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、添付図面の符号を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、本発明の架線支持装置は、軌道を移設するための軌道作業と、それの上方に架設される吊架線M、トロリ線T等の架線を移設する架線作業とを含む線路切替工事箇所に設置されるもので、既設軌道R1上から取り外した架線M,Tを支持すると共に、軌道作業の進行中、あるいはその完了後の適時に、架線M,Tを所望の位置へ移動する装置である。この架線支持装置は、線路切替工事箇所の上方に、軌道R1,R2をその延長方向左右に横断するように水平に架設されるビームBと、ビームB上に水平方向左右及び垂直方向上下に移動自在に支持される垂直伸縮ブーム7、屈曲アーム11のような可動支持部材13とを具備する。可動支持部材13は、架線M,Tを吊支し、油圧シリンダ4のような水平駆動手段と油圧シリンダ8のような垂直駆動手段により、地上からの遠隔制御で水平方向、垂直方向に移動し、架線M,Tを新設軌道R2上の適正位置に配置して支持する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の架線の可動支持装置によれば、既設軌道R1上から外した架線M,Tを予めこれに支持しておくことにより、地上で行われる軌道作業の進捗にかかわらず、これに支障しない遠隔位置からの操作で架線M,Tを新設軌道R2上の適正位置にまで移動させ、そのまま使用に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係る架線支持装置の概略的正面図である。
【
図3】
図1の架線支持装置の他の一部の正面図である。
【
図5】
図1の架線支持装置の移動後の一部の正面図である。
【
図6】
図1の架線支持装置の移動後の一部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、既存軌道R1の工事箇所と新設軌道R2の工事箇所とを軌道の延長方向左右に横切ってビームBが水平に配置され、その両端は支柱Pに支えられている。吊架線(き電吊架線を含む)M及びトロリ線Tは、それぞれ軌道R1、R2の上方をビームBと直角に伸長する。軌道R1上の吊架線M及びトロリ線Tは、ビームB上の支持フレーム1に支持された、水平方向左右及び垂直方向上下に移動自在の可動支持部材13に支持される。
【0009】
支持フレーム1は、ビームBの側面に、取り付け金具2を介して固着される。支持フレーム1は、
図2、
図4に示すように、ビームBの延長方向に長い直方体かご状の部材であり、鋼材を組んでなる。
【0010】
図2に示すように、支持フレーム1上に、ブラケット3を介して、左右方向に水平に延びるように水平油圧シリンダ4が枢支される。水平油圧シリンダ4は、テレスコピック式のピストンロッド4aを具備する。
図1に示すように、水平油圧シリンダ4は、地上の油圧ポンプユニット5からの作動油の送排油により遠隔で制御される。
【0011】
図2、
図4に示すように、支持フレーム1上に、左右方向に水平に移動自在に水平移動部材6が支持される。水平移動部材6は、支持フレーム1を構成する下部の一対のレール材1aに係合し、これに沿って転動する車輪6aを有する。
【0012】
図2、
図4において、水平移動部材6の右端は、垂直伸縮ブーム7に結合される。垂直伸縮ブーム7は、上部の基本ブーム7aと、その内側にテレスコピック式に順次組み込まれる2段ブーム7b、3段ブーム7cとを具備し、垂直方向下方へ伸縮自在である。基本ブーム7a、2段ブーム7b、3段ブーム7cのいずれも四角筒状である。上部の基本ブーム7aの左側面に、ブラケット7dを介してピストンロッド4aが枢着される。したがって、水平移動部材6と垂直伸縮ブーム7とは一体に水平方向左右に移動する(
図2、
図5)。
【0013】
基本ブーム7aの反対側の側面に、ブラケット7eを介して垂直油圧シリンダ8が枢支される。
図1に示すように、垂直油圧シリンダ8は、地上の油圧ポンプユニット5からの作動油の送排油による遠隔制御でピストンロッド8aを垂直上下方向へ伸縮させる(
図2、
図5)。
図3に示すように、ピストンロッド8aは、3段ブーム7cの下端部の側面に直角方向に突出するように結合された接続部材9の上部に枢支される。
【0014】
3段ブーム7cの下端部の引き手7fには、吊架線支持部材10が枢支される。吊架線支持部材10に、垂直伸縮ブーム7の下方位置において、2本のき電吊架線Mが吊支される。
【0015】
3段ブーム7cの下端部には、接続部材9を介して屈曲アーム11の基端が結合される。屈曲アーム11は、架線の引き止め方向に応じて、垂直伸縮ブーム7の下端部の左右いずれかの側面に選択的に結合され、側方へ水平に延出する水平部11aと、それの先端から屈曲して垂直下方へ延びる垂直部11bとを具備する。
【0016】
屈曲アーム11の垂直部11bに、トロリ線引き止め部材12が枢支される。トロリ線引き止め部材12は、先端側が吊架線支持部材10の垂直下方位置まで延出して、吊架線Mの下方位置においてトロリ線Tを把持する。
【0017】
以上のように構成された架線の可動支持装置を用いて線路切替工事を行う場合には、垂直伸縮ブーム7の下端の位置を上下、左右に調整して、吊架線支持部材10、トロリ線引き止め部材12を既設軌道R1の上方に架設されている吊架線M及びトロリ線Tの近傍位置に配置する。例えば、切替日の前日の列車間合いに、既設軌道R1の上の吊架線M及びトロリ線Tの支持を外し、この可動支持装置の吊架線支持部材10、トロリ線引き止め部材12に引き止めておき、翌日の電車への給電を可能とする。次の列車間合いに行われる線路切替工事においては、軌道作業に支障しない地上の油圧ポンプユニット5からの遠隔操作で、水平油圧シリンダ4、垂直油圧シリンダ8を動作させ、吊架線M及びトロリ線Tを適時に所望位置へ移動させる。最終的に、吊架線M及びトロリ線Tを新設軌道R2上の適正位置に配置し、翌日走行する電車への給電を可能とする。この可動支持装置により新設軌道R2上に配置された吊架線M及びトロリ線Tは、例えば翌日の列車間合いにおいて、当該軌道R2上で作業車両を走行させて、新たに設置された架線支持設備へ移し替えることができる。この間、列車の運休などよる間合いの拡大を必要としない。
以上、単一の架線支持装置に注目して説明したが、線路切替工事箇所の延線方向の距離に応じて、この架線支持装置を延線方向に所定間隔を置いて複数設置して工事を行うことができる。
【符号の説明】
【0018】
1 支持フレーム
1a レール材
2 取り付け金具
3 ブラケット
4 水平油圧シリンダ
4a ピストンロッド
5 油圧ポンプユニット
6 水平移動部材
7 垂直伸縮ブーム
7a 基本ブーム
7b 第2ブーム
7c 第3ブーム
7d ブラケット
7e ブラケット
7f 引き手
8 垂直油圧シリンダ
8a ピストンロッド
8 垂直油圧シリンダ
9 接続部材
10 吊架線支持部材
11 屈曲アーム
11a 水平部
11b 垂直部
12 トロリ線引き止め部材
13 可動支持部材
B ビーム
P 柱
R1 既設軌道
R2 新設軌道
M 吊架線(き電吊架線)
T トロリ線