(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】オープンラック式熱交換装置の運転方法、及び、オープンラック式熱交換装置
(51)【国際特許分類】
F28F 27/00 20060101AFI20220324BHJP
F17C 9/02 20060101ALI20220324BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20220324BHJP
F28F 19/06 20060101ALI20220324BHJP
F28F 1/16 20060101ALI20220324BHJP
F28D 3/02 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
F28F27/00 511Z
F17C9/02
C23F13/02 E
C23F13/02 A
F28F19/06 A
F28F1/16 Z
F28D3/02
(21)【出願番号】P 2018053884
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 敏弘
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-138647(JP,A)
【文献】特開2008-240070(JP,A)
【文献】特開平08-029095(JP,A)
【文献】特開2017-150726(JP,A)
【文献】特開2012-132574(JP,A)
【文献】特開2010-096412(JP,A)
【文献】特開2014-157009(JP,A)
【文献】特開2013-148253(JP,A)
【文献】特開2006-002223(JP,A)
【文献】特開2007-120878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 27/00
F17C 9/02
C23F 13/02
F28F 19/06
F28F 1/16
F28D 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液体又は気体を加熱する熱交換部と、熱媒体を前記熱交換部に供給する供給部とを備えたオープンラック式熱交換装置の運転方法であって、
前記熱交換部は、
低温液体又は気体が流れる下部ヘッダー管と、
その下端が前記下部ヘッダー管に接続されると共に、熱媒体がその表面に沿って流下する複数の伝熱管と、
前記伝熱管の上端が接続されると共に、前記伝熱管において加熱された流体が流れる上部ヘッダー管と、を有し、
前記熱交換部は、少なくとも一部の表面に形成された犠牲陽極層を有し、
前記下部ヘッダー管への低温液体の供給量を調整する工程と、
前記熱交換部の表面に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整する工程と、を備え
、
前記熱交換部の表面の氷が所定の厚み以下になると、前記熱交換部の表面に付着する氷が増えるように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を減らすことによって、氷の厚みを所定の厚みに維持するオープンラック式熱交換装置の運転方法。
【請求項2】
請求項1に記載のオープンラック式熱交換装置の運転方法において、
前記下部ヘッダー管の表面に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整するオープンラック式熱交換装置の運転方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のオープンラック式熱交換装置の運転方法において、
前記伝熱管と前記下部ヘッダー管との接続部分に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整するオープンラック式熱交換装置の運転方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のオープンラック式熱交換装置の運転方法において、
前記伝熱管は、管状の本体と、前記本体の外周面から外方に突出する複数の放熱フィンとを有し、
前記放熱フィンと前記放熱フィンとの間の谷部に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整するオープンラック式熱交換装置の運転方法。
【請求項5】
請求項4に記載のオープンラック式熱交換装置の運転方法において、
前記谷部に付着する氷の高さが、前記下部ヘッダー管から300mm以上の高さとなるように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整するオープンラック式熱交換装置の運転方法。
【請求項6】
低温液体又は気体を加熱する熱交換部と、
前記熱交換部に熱媒体を供給する供給部と、を備え、
前記熱交換部は、
低温液体又は気体が流れる下部ヘッダー管と、
その下端が前記下部ヘッダー管に接続されると共に、熱媒体がその表面に沿って流下する複数の伝熱管と、
前記伝熱管の上端が接続されると共に、前記伝熱管において加熱された流体が流れる上部ヘッダー管と、を有し、
前記熱交換部は、少なくとも一部の表面に形成された犠牲陽極層を有し、
前記供給部は、前記熱交換部の表面に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整するよう構成され
、
前記供給部は、前記熱交換部の表面の氷が所定の厚み以下になると、前記熱交換部の表面に付着する氷が増えるように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を減らすことによって、氷の厚みを所定の厚みに維持するオープンラック式熱交換装置。
【請求項7】
請求項6に記載のオープンラック式熱交換装置において、
前記供給部は、前記下部ヘッダー管の表面に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整するオープンラック式熱交換装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のオープンラック式熱交換装置において、
前記供給部は、前記伝熱管と前記下部ヘッダー管との接続部分に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整するオープンラック式熱交換装置。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載のオープンラック式熱交換装置において、
前記伝熱管は、管状の本体と、前記本体の外周面から外方に突出する複数の放熱フィンとを有し、
前記供給部は、前記放熱フィンと前記放熱フィンとの間の谷部に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整するオープンラック式熱交換装置。
【請求項10】
請求項9に記載のオープンラック式熱交換装置において、
前記供給部は、前記谷部に付着する氷の高さが、前記下部ヘッダー管から300mm以上の高さとなるように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整するオープンラック式熱交換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、オープンラック式熱交換装置の運転方法、及び、オープンラック式熱交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、オープンラック式熱交換装置の一つとしてのオープンラック式気化器が記載されている。オープンラック式気化器は、アルミニウム合金により構成された伝熱管を複数並べて熱交換パネルとし、各伝熱管内に液化天然ガスを流すと共に、熱交換パネルの表面に、熱媒体としての海水を流下させる。
【0003】
伝熱管や、伝熱管の下端が接続される下部ヘッダー管の腐食を防止するために、特許文献1のオープンラック式気化器においては、伝熱管の表面や下部ヘッダー管の表面に、伝熱管等よりも卑な金属からなる犠牲陽極層を形成している。犠牲陽極層は、例えば溶射によって形成される。また、犠牲陽極層は、伝熱管の外周を覆うクラッド材によって構成されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、伝熱管や下部ヘッダー管に形成した犠牲陽極層は、オープンラック式熱交換装置を稼働している間に、海水中に含まれる砂や貝等によって機械的に摩耗(エロージョン)する、又は、海水と触れることによって化学的に腐食(コロージョン)することにより損耗してしまう。さらに、エロージョンとコロージョンの複合作用により、犠牲陽極層が激しく損耗することもある。
【0006】
犠牲陽極層が損耗すると、犠牲陽極層は溶射によって補修される。犠牲陽極層が損耗しやすいと犠牲陽極層の補修頻度が高くなるため、オープンラック式熱交換装置のメンテナンス性が悪化してしまう。
【0007】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、オープンラック式熱交換装置において犠牲陽極層の損耗を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、オープンラック式熱交換装置の稼働中に、熱交換部の表面に、熱媒体による氷を付着させると、熱媒体が犠牲陽極層に直接かつ継続的に当たらなくなって、犠牲陽極層の損耗を抑制することができることを見出し、ここに開示する技術を完成させるに至った。
【0009】
具体的に、ここに開示する技術は、低温液体又は気体を加熱する熱交換部と、熱媒体を前記熱交換部に供給する供給部とを備えたオープンラック式熱交換装置の運転方法に係る。
【0010】
前記熱交換部は、低温液体又は気体が流れる下部ヘッダー管と、その下端が前記下部ヘッダー管に接続されると共に、熱媒体がその表面に沿って流下する複数の伝熱管と、前記伝熱管の上端が接続されると共に、前記伝熱管において加熱された流体が流れる上部ヘッダー管と、を有し、前記熱交換部は、少なくとも一部の表面に形成された犠牲陽極層を有する。
【0011】
そして、オープンラック式熱交換装置の運転方法は、前記下部ヘッダー管への低温液体の供給量を調整する工程と、前記熱交換部の表面に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整する工程と、を備えている。
【0012】
ここで、オープンラック式熱交換装置は、低温液体を加熱して気体にする気化器であってもよいし、低温液体又は気体を昇温する昇温器であってもよい。また、犠牲陽極層は、熱交換部の全体に形成されていてもよいし、少なくとも熱媒体に触れる、又は、触れる可能性のある箇所に形成されていてもよい。
【0013】
熱交換部の表面に氷が付着していると、犠牲陽極層の上に氷があるため、伝熱管に沿って流下する熱媒体(例えば海水)は氷の表面に当たるが、下部ヘッダー管の表面や伝熱管の表面に形成した犠牲陽極層には、熱媒体が直接、当たり難くなる。オープンラック式熱交換装置の稼働中に、熱交換部の表面に氷が付着していると、エロージョン若しくはコロージョン、又は、エロージョンとコロージョンの複合作用により、犠牲陽極層が損耗してしまうことが抑制される。
【0014】
熱交換部の表面に付着させる氷の厚みは、一例として、0.5mm以上としてもよい。本願発明者の検討によると、氷の厚みが0.5mm以上あれば、犠牲陽極層を、効果的に保護することができる。
【0015】
熱交換部の表面に氷が付着するように熱交換部へ供給する熱媒体の供給量を調整すると、犠牲陽極層の損耗が抑制されるため、犠牲陽極層の補修頻度が低くなり、オープンラック式熱交換装置のメンテナンス性が良好になる。
【0016】
前記のオープンラック式熱交換装置の運転方法において、前記熱交換部の表面の氷が所定の厚み以下になると、前記熱交換部の表面に付着する氷が増えるように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を減らすことによって、氷の厚みを所定の厚みに維持する。
【0017】
従来においては、熱交換部の表面に氷が付着すると伝熱面積が低下し熱交換部の伝熱性能が低下するという理由により、熱交換部の表面に付着した氷がなくなる方向に熱交換部への熱媒体の供給量を調整、具体的には、熱交換部への熱媒体の供給量を増やしていた。
【0018】
これとは逆に、本構成は、熱交換部の表面の氷が所定の厚み以下になると、熱交換部への熱媒体の供給量を減らす。「所定の厚み」は、例えばゼロとしてもよい。また、「所定の厚み」は、前述した0.5mmとしてもよい。熱交換部の表面に氷が無い、又は、氷の厚みが所定厚み以下になると、熱交換部への熱媒体の供給量を減らすことにより、熱交換部への入熱量が減って熱交換部の温度が下がる。その結果、熱交換部の表面に氷を付着させることができる、又は、表面に付着した氷を厚くすることができる。オープンラック式熱交換装置の稼働中に、熱交換部の表面に氷が付着している状態を維持することにより、犠牲陽極層が損耗してしまうことを、効果的に抑制することができる。
【0019】
尚、「前記熱交換部の表面に付着する氷が増えるように」することには、前記熱交換部の表面に氷が付着していないときに、氷を付着させること、及び、表面に氷が付着しているときに、その氷を厚くすること、の両方を含んでいる。
【0020】
前記のオープンラック式熱交換装置の運転方法において、前記下部ヘッダー管の表面に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整する、としてもよい。
【0021】
伝熱管の下端が接続される下部ヘッダー管の表面には、伝熱管を流下する熱媒体が勢いよく衝突するため、犠牲陽極層が損耗しやすい。下部ヘッダー管の表面に氷が付着していると、下部ヘッダー管の表面に設けた犠牲陽極層の損耗を、効果的に抑制することができる。
【0022】
より詳細には、下部ヘッダー管の上部の表面に氷が付着するように、熱交換部への熱媒体の供給量を調整してもよい。下部ヘッダー管の上部は、例えば下部ヘッダー管の横断面において上側の半円部としてもよい。下部ヘッダー管の上部は、下部ヘッダー管の下部と比較して、熱媒体が直接当たりやすいから、下部よりも犠牲陽極層が損耗しやすい。下部ヘッダー管の上部の表面に氷を付着させることにより、下部ヘッダー管において犠牲陽極層が損耗しやすい箇所を効果的に保護することができる。
【0023】
また、オープンラック式熱交換装置では、低温液体は、熱交換部における伝熱管において加熱されればよく、下部ヘッダー管は、低温液体の加熱には大きく寄与しない。従って、下部ヘッダー管の表面に氷を付着させることは、オープンラック式熱交換装置の性能にはほとんど影響を及ぼさない。つまり、オープンラック式熱交換装置において、下部ヘッダー管の表面に氷が付着することは、許容することができる。
【0024】
前記のオープンラック式熱交換装置の運転方法において、前記伝熱管と前記下部ヘッダー管との接続部分に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整する、としてもよい。
【0025】
伝熱管と下部ヘッダー管との接続部分には、伝熱管の表面に沿って流下する熱媒体が集まりやすく、流れが乱れることにより犠牲陽極層が損耗しやすい。当該接続部分に氷を付着させることにより、この接続部分に設けた犠牲陽極層の損耗を、効果的に抑制することができる。
【0026】
また、伝熱管と下部ヘッダー管との接続部分も低温液体の加熱には大きく寄与しないため、オープンラック式熱交換装置において、接続部分に氷が付着することは許容することができる。
【0027】
尚、前記構成のオープンラック式熱交換装置は、下部ヘッダー管において低温液体が流れ、上部ヘッダー管において加熱された流体が流れるため、熱交換部の下部は相対的に温度が低く、熱交換部の上部は相対的に温度が高い。下部ヘッダー管及び/又は伝熱管と下部ヘッダー管との接続部分は、氷が付着しやすい。前記構成のオープンラック式熱交換装置は、犠牲陽極層が損耗しやすい箇所を、表面に付着した氷によって保護を防止する上で、有利である。
【0028】
前記伝熱管は、管状の本体と、前記本体の外周面から外方に突出する複数の放熱フィンとを有し、前記オープンラック式熱交換装置の運転方法において、前記放熱フィンと前記放熱フィンとの間の谷部に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整する、としてもよい。
【0029】
複数の放熱フィンを有する伝熱管において、放熱フィンと放熱フィンとの間の谷部には、伝熱管の表面に沿って流下する熱媒体が集まりやすく、流れが乱れる結果、犠牲陽極層が損耗しやすい。
【0030】
そこで、伝熱管の谷部に氷を付着させることによって、谷部における犠牲陽極層の損耗を抑制することができる。
【0031】
前記オープンラック式熱交換装置において、前記谷部に付着する氷の高さが前記下部ヘッダー管から300mm以上の高さとなるように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整する、としてもよい。
【0032】
熱交換部における下部の方が、上部よりも、熱媒体が勢いよく当たるため、犠牲陽極層は、熱交換部における下部の方が上部よりも損耗しやすい。少なくとも、下部ヘッダー管から300mmの高さまで、谷部に氷を付着させると、谷部に設けた犠牲陽極層の損耗を、効果的に抑制することができる。
【0033】
前述したように、熱交換部の下部は相対的に温度が低く、熱交換部の上部は相対的に温度が高いため、伝熱管の谷部においても下部の方が、氷が付着しやすい。よって、効率的に、谷部に設けた犠牲陽極層の損耗を抑制することができる。
【0034】
ここに開示するオープンラック式熱交換装置は、低温液体又は気体を加熱する熱交換部と、前記熱交換部に熱媒体を供給する供給部と、を備える。
【0035】
そして、前記熱交換部は、低温液体又は気体が流れる下部ヘッダー管と、その下端が前記下部ヘッダー管に接続されると共に、熱媒体がその表面に沿って流下する複数の伝熱管と、前記伝熱管の上端が接続されると共に、前記伝熱管において加熱された流体が流れる上部ヘッダー管と、を有し、前記熱交換部は、少なくとも一部の表面に形成された犠牲陽極層を有し、前記供給部は、前記熱交換部の表面に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整するよう構成されている。
【0036】
この構成によると、前記と同様に、熱交換部の表面に付着した氷が、犠牲陽極層を保護することにより、犠牲陽極層が損耗してしまうことを抑制することができる。
【0037】
前記供給部は、前記熱交換部の表面の氷が所定の厚み以下になると、前記熱交換部の表面に付着する氷が増えるように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を減らすことによって、氷の厚みを所定の厚みに維持する。
【0038】
前記供給部は、前記下部ヘッダー管の表面に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整する、としてもよい。
【0039】
前記供給部は、前記伝熱管と前記下部ヘッダー管との接続部分に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整する、としてもよい。
【0040】
前記伝熱管は、管状の本体と、前記本体の外周面から外方に突出する複数の放熱フィンとを有し、前記供給部は、前記放熱フィンと前記放熱フィンとの間の谷部に氷が付着するように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整する、としてもよい。
【0041】
前記供給部は、前記谷部に付着する氷の高さが、前記下部ヘッダー管から300mm以上の高さとなるように、前記熱交換部への熱媒体の供給量を調整する、としてもよい。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように、前記のオープンラック式熱交換装置の運転方法、及び、オープンラック式熱交換装置によると、犠牲陽極層の損耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、オープンラック式熱交換装置の構成を、簡略的に示す図である。
【
図2】
図2は、熱交換パネルの構成を例示する、
図1のII-II線端面図である。
【
図3】
図3は、伝熱管と下部ヘッダー管との接続部分の構成を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、ここに開示するオープンラック式熱交換装置及びオープンラック式熱交換装置の運転方法について、図面を参照しながら詳細に説明をする。尚、以下の説明は例示である。
【0045】
(オープンラック式熱交換装置の構成)
図1は、オープンラック式熱交換装置の一つとしてのオープンラック式気化器(Open Rack Vaporizer:以下、ORV)1の全体構成を示している。このORV1は、低温液体である液化天然ガス(LNG)を、熱媒体としての海水によって加熱して気化する装置である。
図1は、ORV1の要部を構成する熱交換パネル3とそれに付帯する設備とを示している。ORV1は、上下方向に伸びる伝熱管2を、水平方向に複数本、並設してパネル状にした熱交換パネル3を備えている。図示は省略するが、ORV1は、熱交換パネル3を、仕様に応じて、複数、並列に配置して構成される。
【0046】
熱交換パネル3の上側には、水平に伸びる上部ヘッダー管4が配設されている。熱交換パネル3の下側には、上部ヘッダー管4に平行となるように、水平に伸びる下部ヘッダー管5が配設されている。各伝熱管2は、その上端が上部ヘッダー管4に接続され、その下端が下部ヘッダー管5に接続されている。伝熱管2は、上部ヘッダー管4と下部ヘッダー管5とを互いに連通させる。
【0047】
上部ヘッダー管4は、上部マニホールド6に連通している。下部ヘッダー管5は、下部マニホールド7に連通している。
【0048】
熱交換パネル3の上部には、水平方向に伸びるトラフ8が、伝熱管2に隣接して配設されている。トラフ8には、配水管81が接続されている。配水管81に接続されたポンプ91が運転することによって、トラフ8に海水が供給される。トラフ8からあふれ出た海水は、熱交換パネル3(つまり、伝熱管2)の表面に沿って流れ落ちる。
【0049】
LNGは、下部マニホールド7を経て下部ヘッダー管5に供給され、伝熱管2内に流入する。伝熱管2内に流入したLNGは、熱交換パネル3の表面に沿って流れ落ちる海水と熱交換することによって気化し、NGとなって、伝熱管2の上端部から上部ヘッダー管4に流出する。上部ヘッダー管4に流出したNGは、上部マニホールド6を通じて外部に送り出される。
【0050】
伝熱管2は、
図2に例示するように、円管状の本体21と、本体21の外周面から径方向の外方に向かって、放射状に広がる複数の放熱フィン22とを含んで構成されている。各放熱フィン22は、本体21の外周面に対して、直交している。各放熱フィン22は、上下方向に延びている。尚、放熱フィン22は、
図3に示すように、伝熱管2の下端部には設けられていない。同様に、放熱フィン22は、図示は省略するが、伝熱管2の上端部にも設けられていない。水平方向に隣り合う伝熱管2は、互いに接している。
【0051】
図3は、下部ヘッダー管5の横断面を例示している。下部ヘッダー管5は、図例では円管状に構成されている。尚、下部ヘッダー管5は、円管状に限らない。下部ヘッダー管5は、横断面が、例えば楕円状の管としてもよい。下部ヘッダー管5は、例えばアルミニウム合金から構成されている。
【0052】
上部ヘッダー管4、下部ヘッダー管5、及び、伝熱管2によって、低温液体を加熱する熱交換部11が構成されている。
【0053】
図示は省略するが、伝熱管2の表面、及び、下部ヘッダー管5の表面には、犠牲陽極層が形成されている。犠牲陽極層は、例えば溶射によって伝熱管2の表面、及び、下部ヘッダー管5の表面に形成されていてもよい。また、伝熱管2の表面、及び、下部ヘッダー管5の表面にクラッド材を設けることによって、犠牲陽極層を形成してもよい。さらに、溶射により形成する犠牲陽極層と、クラッド材による犠牲陽極層とを、熱交換部11の部位毎に、適宜選択してもよい。
【0054】
図1に示すように、ORV1は、ポンプ91の運転を制御するコントローラ92を備えている。コントローラ92は、詳細は後述するが、センサ93からの信号に基づいて、例えばポンプ91の回転数を変更することにより熱交換部11への海水の供給量を調整する。トラフ8と、配水管81と、ポンプ91と、コントローラ92とによって、海水を熱交換部11に供給する供給部12が構成されている。
【0055】
センサ93は、熱交換部11の表面に対する氷の付着状態を検出するセンサである。センサ93は、例えば熱交換部11の温度分布を検知する赤外線センサとしてもよい。コントローラ92は、熱交換部11の温度に基づいて、熱交換部11の表面に氷が付着しているか否かを推定することができる。また、センサ93は、熱交換パネル3の表面を撮像する画像センサとしてもよい。コントローラ92は、センサ93からの画像情報に基づいて、熱交換部11の表面に氷が付着しているか否かを推定してもよい。また、熱交換部11の表面に、温度の高低に応じて色が変化する塗料を塗っておき、熱交換部11の表面を撮像した画像に基づいて、コントローラ92は、熱交換部11の温度状態を把握して、表面に氷が付着しているか否かを推定するようにしてもよい。
【0056】
(オープンラック式熱交換装置の運転)
このORV1の運転は、熱交換部11の表面における氷の状態を検出し(検出手段)、熱交換部11の表面に氷が付着するように、熱交換部11へ海水を供給する供給手段の供給量を調整する(制御手段)ことを特徴とする。つまり、ORV1の稼働中は、天然ガスの要求量(需要量)に応じて、下部ヘッダー管5へのLNGの供給量が調整される。そして、コントローラ92は、ORV1の稼働中に、熱交換部11の表面に氷が付着するように、ポンプ91を通じて、熱交換部11への海水の供給量を調整する。
【0057】
より詳細に、コントローラ92は、熱交換部11の表面の氷が所定の厚み以下になると、熱交換部11への海水の供給量を減らす。こうすることで、熱交換部11への入熱量が減るから、熱交換部11の表面に氷が付着するようになる、又は、熱交換部11の表面に付着した氷が厚くなる。例えば夏場は、海水の温度が相対的に高いため、熱交換部11への海水の供給量を、冬場と同程度に設定すると、熱交換部11の表面に氷が付着しない、又は、付着した氷が薄くなる。その場合に、熱交換部11への海水の供給量を減らすことにより、熱交換部11の表面に氷が付着するようになる、又は、熱交換部11の表面に付着した氷が厚くなる。
【0058】
ORV1の稼働中に、熱交換部11の表面に氷を付着させることによって、犠牲陽極層の上に氷が存在する。熱交換パネル3の表面を流下する海水が、伝熱管2や下部ヘッダー管5の犠牲陽極層に直接当たることが防止される。ORV1の稼働中に、熱交換部11の表面に氷が付着した状態を維持すると、伝熱管2や下部ヘッダー管5に形成した犠牲陽極層の損耗を抑制することができる。犠牲陽極層が損耗したときには、例えば溶射によって犠牲陽極層を補修しなければならないが、犠牲陽極層の損耗を抑制することにより、補修頻度を低くすることができる。ORV1のメンテナンス性を向上させることができる。
【0059】
ここで、コントローラ92は特に、ORV1の稼働中に、下部ヘッダー管5の表面に氷が付着するように、熱交換部11への海水の供給量を調整してもよい。下部ヘッダー管5の表面には、熱交換パネル3の表面を流下する海水が勢いよく衝突するため、下部ヘッダー管5の表面に形成した犠牲陽極層は損耗しやすい。下部ヘッダー管5の表面に氷が付着するように、コントローラ92が熱交換部11への海水の供給量を調整することにより、犠牲陽極層の損耗を効果的に抑制することができる。下部ヘッダー管5の表面のうちでも特に、下部ヘッダー管5の上部に氷が付着するようにしてもよい。下部ヘッダー管5の上部は、下部よりも犠牲陽極層が損耗しやすいためである。尚、ここで言う「上部」は、
図3にθで示す、下部ヘッダー管5の横断面において、上側の半円部(つまり、θ=180°)としてもよい。
【0060】
下部ヘッダー管5は、LNGの加熱には大きく寄与しない部位である。下部ヘッダー管5の表面に氷が付着していても、ORV1の性能には、ほとんど影響を及ぼさない。
【0061】
コントローラ92はまた、ORV1の稼働中に、伝熱管2と下部ヘッダー管5との接続部分24に氷が付着するように、熱交換部11への海水の供給量を調整してもよい。伝熱管2と下部ヘッダー管5との接続部分24は、
図3に示すように、伝熱管2において放熱フィン22を形成していない下端部と、伝熱管2と下部ヘッダー管5との接続箇所とを含む部位としてもよい。伝熱管2と下部ヘッダー管5との接続部分24にも、熱交換パネル3を流下する海水が集まり流れが乱れるため、犠牲陽極層が海水の乱流により損耗しやすいが、当該接続部分24に氷を付着させることにより、この接続部分24に設けた犠牲陽極層の損耗を、効果的に抑制することができる。
【0062】
また、この接続部分24もLNGの加熱には大きく寄与しないため、接続部分24に氷が付着することは許容することができる。
【0063】
図1に示す構成のORV1では、下部ヘッダー管5内を低温のLNGが流れるため、熱交換部11の下部の方が低温で、熱交換部11の上部の方が高温になる。そのため、熱交換部11における下部の方、つまり、下部ヘッダー管5や伝熱管2と下部ヘッダー管5との接続部分24は、氷が付着しやすい。ORV1は、表面に付着した氷によって犠牲陽極層の損耗を防止する上で有利な構成を有している。
【0064】
コントローラ92はまた、ORV1の稼働中に、伝熱管2における放熱フィン22と放熱フィン22との間の谷部23(
図2参照)に氷が付着するように、熱交換部11への海水の供給量を調整してもよい。尚、
図2においては、一部の谷部23について符号を省略している。
【0065】
放熱フィン22と放熱フィン22との間の谷部23には、熱交換パネル3の表面に沿って流下する海水が集まりやすく、海水の流れが乱れる結果、犠牲陽極層が損耗しやすい。伝熱管2の谷部23に氷を付着させることによって、谷部23において犠牲陽極層が損耗することを抑制することができる。
【0066】
コントローラ92は、谷部23に付着する氷の高さH(
図1参照)が、下部ヘッダー管5から300mm以上の高さとなるように、熱交換部への海水の供給量を調整してもよい。尚、「下部ヘッダー管5から」とは、下部ヘッダー管5と伝熱管との接続位置から、としてもよい。
【0067】
熱交換部11における下部の方が、上部よりも、海水が勢いよく当たるため、犠牲陽極層は、熱交換部11における下部の方が上部よりも損耗しやすい。少なくとも、下部ヘッダー管5から300mmの高さまで、谷部23に氷を付着させると、谷部23に設けた犠牲陽極層の損耗を、効果的に抑制することができる。また、前述の通り、熱交換部11の下部の方が氷が付着しやすいため、谷部23においても、犠牲陽極層が損耗しやすい下部を氷によって効果的に保護することができる。
【0068】
ここで、熱交換部11の表面に付着させる氷の厚みは、一例として、0.5mm以上としてもよい。本願発明者の検討によると、氷の厚みが0.5mm以上あれば、犠牲陽極層を、効果的に保護することができる。また、谷部23に設ける氷の厚みは、厚すぎると伝熱管2の表面積を小さくしてしまうため、伝熱性能を低下させてしまう。谷部23に設ける氷の厚みは、所定の厚み以下に制限するようにしてもよい。
【0069】
検出手段は、例えば下部ヘッダー管5から300mmの高さ位置において、熱交換部11の氷の状態(つまり、氷の厚み、又は、氷の有無)を検出してもよい。また、検出手段は、例えば伝熱管2において放熱フィン22を形成していない下端部において、熱交換部11の氷の状態を検出してもよい。
【0070】
尚、コントローラ92は、ポンプ91の運転(つまり、回転数)を制御することによって、熱交換部11に対する海水の供給量を調整しているが、海水の供給量を調整する構成は、この構成に限らない。例えば、ポンプ91と熱交換部11との間にバルブを介設し、コントローラ92は、バルブの制御によって、熱交換部11に対する海水の供給量を調整してもよい。具体的には、ポンプ91と熱交換部11との間に開度調整バルブを介設し、コントローラ92は、当該開度調整バルブの開度を制御することによって、熱交換部11に対する海水の供給量を調整してもよい。また、ポンプ91と熱交換部11との間に、熱交換部11をバイパスするバイパス管を接続し、コントローラ92は、熱交換部11側とバイパス側との間における海水の供給割合をバルブの制御によって調整することで、熱交換部11に対する海水の供給量を調整してもよい。
【0071】
さらに、前記の構成では、センサ93からの信号に基づいてコントローラ92が、熱交換部11に対する海水の供給量を調整しているが、例えば、オペレータが、熱交換部11の表面に対する氷の付着状態を確認して、熱交換部11に対する海水の供給量を調整してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 オープンラック式気化器(オープンラック式熱交換装置)
11 熱交換部
12 供給部
2 伝熱管(熱交換部)
21 本体
22 放熱フィン
23 谷部
24 接続部分
4 上部ヘッダー管(熱交換部)
5 下部ヘッダー管(熱交換部)
8 トラフ(供給部)
81 配水管(供給部)
91 ポンプ(供給部)
92 コントローラ(供給部)